(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103286
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】密封装置の装着構造
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240725BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240725BHJP
F16J 15/3264 20160101ALI20240725BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20240725BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20240725BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16J15/3264
F16C33/80
F16J15/447
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007542
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 正稚
(72)【発明者】
【氏名】藤元 直人
【テーマコード(参考)】
3J042
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J042AA03
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA01
3J042CA07
3J042CA11
3J042CA21
3J042DA20
3J043AA17
3J043BA02
3J043BA06
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA01
3J043DA06
3J043DA07
3J043HA01
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC33
3J216CC41
3J216CC52
3J216CC68
3J216DA01
3J216EA03
3J216EA05
3J216GA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701BA78
3J701EA31
3J701EA49
3J701FA13
3J701FA60
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB40
(57)【要約】
【課題】密封装置の排出性能を向上させることができる、密封装置の装着構造を提供する。
【解決手段】密封装置10は、第1部材20は、外側部材2の内周面2aに固定される第1円筒部21を備え、第2部材30は、内側部材3の外周面3cに固定される第2円筒部31と、第2円筒部31の外側に配された第3円筒部32とを備え、第1円筒部21と第3円筒部32との間に環状の隙間40が形成されるように、第1部材20と第2部材30とが被シール空間6に装着される装着構造とされており、回転軸Lから内側部材3の外周面3cまでの距離を周方向に沿って異ならせることで、回転軸Lから第3円筒部32の外周面32aまでの距離を周方向に沿って異ならせている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置が前記被シール空間に装着される、密封装置の装着構造において、
前記第1部材は、前記外側部材の内周面に固定される第1円筒部を備え、
前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外側に配された第3円筒部とを備え、
前記第1円筒部と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、
回転軸から前記内側部材の外周面までの距離を周方向に沿って異ならせることで、回転軸から前記第3円筒部の外周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする、密封装置の装着構造。
【請求項2】
外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置が前記被シール空間に装着される、密封装置の装着構造において、
前記第1部材は、前記外側部材の内周面に固定される第1円筒部を備え、
前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外側に配された第3円筒部とを備え、
前記第1円筒部と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、
回転軸から前記外側部材の内周面までの距離を周方向に沿って異ならせることで、回転軸から前記第1円筒部の内周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする、密封装置の装着構造。
【請求項3】
外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置が前記被シール空間に装着される、密封装置の装着構造において、
前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外周側に配された第3円筒部とを備え、
前記外側部材と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、
回転軸から前記内側部材の外周面までの距離を周方向に沿って異ならせることで、回転軸から前記第3円筒部の内周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする、密封装置の装着構造。
【請求項4】
外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置が前記被シール空間に装着される、密封装置の装着構造において、
前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外側に配された第3円筒部とを備え、
前記外側部材と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、
回転軸から前記外側部材の外周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする、密封装置の装着構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項において、
前記密封装置は、前記被シール空間に装着された状態において、回転軸に対して同心度が0.02~0.1としたことを特徴とする、密封装置の装着構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外側部材と、外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する密封装置の装着構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来には、第1円筒部を有する第1部材(芯金を含む部材)と、回転軸から距離の相異なる位置に断面倒U字形状をなす第2、第3円筒部を有する第2部材(スリンガを含む部材)とを有する密封装置が多く提案されている(例えば、特許文献1参照)。この種の密封装置によれば、第3円筒部を有しない断面L字形状の第2部材を備えたものにくらべ、被シール空間への汚水等の浸入阻止効果を高められるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、被シール空間に入り込んだ汚水等を効率よく排出することも密封装置にとって必要な機能とされ、特許文献1などでも例示されているように、種々の手段により汚水等の排出性能を高めることが提案され、本発明者らによっても、簡易な構造により汚水等の排出性能を向上させることの研究が進められている。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮して提案されたもので、密封装置の汚水等の排出性能を簡易な構造により向上させることができる、密封装置の装着構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の密封装置の装着構造は、外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置が前記被シール空間に装着される、密封装置の装着構造において、前記第1部材は、前記外側部材の内周面に固定される第1円筒部を備え、前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外側に配された第3円筒部とを備え、前記第1円筒部と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、回転軸から前記内側部材の外周面までの距離を周方向に沿って異ならせることで、回転軸から前記第3円筒部の外周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする。
【0007】
また他の本発明は、外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置が前記被シール空間に装着される、密封装置の装着構造において、前記第1部材は、前記外側部材の内周面に固定される第1円筒部を備え、前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外側に配された第3円筒部とを備え、前記第1円筒部と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、回転軸から前記外側部材の内周面までの距離を周方向に沿って異ならせることで、回転軸から前記第1円筒部の内周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする。
【0008】
さらに他の本発明は、外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置が前記被シール空間に装着される、密封装置の装着構造において、前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外周側に配された第3円筒部とを備え、前記外側部材と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、回転軸から前記内側部材の外周面までの距離を周方向に沿って異ならせることで、回転軸から前記第3円筒部の内周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする。
【0009】
また、さらに他の本発明は、外側部材と、該外側部材に対して相対的に回転する内側部材との間の被シール空間を密封する、前記外側部材の内側に嵌合する第1部材と、前記内側部材の外側に嵌合する第2部材とを備えた密封装置が前記被シール空間に装着される、密封装置の装着構造において、前記第2部材は、前記内側部材の外周面に固定される第2円筒部と、該第2円筒部の外側に配された第3円筒部とを備え、前記外側部材と前記第3円筒部との間に環状の隙間が形成されるように、前記第1部材と前記第2部材とが前記被シール空間に装着される装着構造とされ、回転軸から前記外側部材の外周面までの距離を周方向に沿って異ならせたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の密封装置の装着構造は前述した構成とされているため、汚水等の排出性能を簡易な構造により向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1~第4実施形態に係る密封装置の装着構造を有する軸受装置の縦断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る密封装置の装着構造の説明図であり、
図1のX部を模式的に図示した一部省略拡大図である。
【
図3】同密封装置の装着構造の模式的平面図である。
【
図4】第2実施形態に係る密封装置の装着構造を説明図であり、
図1のX部を模式的に図示した一部省略拡大図である。
【
図5】同密封装置の装着構造の模式的平面図である。
【
図6】第3実施形態に係る密封装置の装着構造を説明図であり、
図1のX部を模式的に図示した一部省略拡大図である。
【
図7】第4実施形態に係る密封装置の装着構造を説明図であり、
図1のX部を模式的に図示した一部省略拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。以下に説明する第1、第2実施形態に係る密封装置の装着構造は、密封装置10、11、10A、11Aの装着対象とされる軸受装置1が相異なるものであるが、概略的には同様であるため、図面としては
図1に共通図面を示した。
【0013】
まず、
図1にもとづいて軸受装置1の概略構成について説明する。なお
図1に示すように、回転軸L方向に沿って車輪(不図示)に向く側(
図1において左側を向く側)を車輪側、車体(不図示)に向く側(同右側を向く側)を車体側という。
【0014】
図1の軸受装置1は、車体(不図示)に固定される外側部材(外輪部材)2の内側に配された2列の転動体7、7…を介して、ハブ輪3bおよび内輪3aが軸心回りに回動自在に支持されている。ハブ輪3bは、ハブフランジ3eを有しており、そのハブフランジ3eに、駆動輪(不図示)がボルト3dによって取りつけられる。
【0015】
また、ハブ輪3bにはドライブシャフト4が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト4は等速ジョイント5を介して駆動源(不図示)に連結される。ドライブシャフト4はナット4aによって、ハブ輪3bと一体化され、ハブ輪3bのドライブシャフト4からの抜脱が防止されている。
【0016】
ハブ輪3bと内輪3aとにより内側部材(内輪部材)3が構成されており、この内輪部材3は、外輪部材2に対して、回転軸L回りに相対回転が可能とされる。この内輪部材3と外輪部材2との間に、転動体7、7…がリテーナ7aに保持された状態で介装されている。こうして、外輪部材2と内輪部材3とにより相対的に回転する2部材が構成され、それら2部材間に、転動体7、7…の介装部分を含む空間部分である環状空間が形成される。この環状空間が軸受空間であり被シール空間6とされる。
【0017】
被シール空間6の回転軸L方向における車体側の端部には、密封装置10、10Aが装着されている(
図1のX部参照)。また、被シール空間6の車輪側の端部には、他の密封装置11が装着されている。両方の端部のそれぞれに密封装置10、11、10A、11Aを装着することで、被シール空間6の回転軸L方向に沿った両端部が密封される。
【0018】
被シール空間6にはグリースなどの潤滑剤(不図示)が充填され、これにより、転動体7、7…の転動が円滑になされる。密封装置10、11、10A、11Aは、この潤滑剤の外部漏出を防止するとともに、被シール空間6への外部からの泥水や塵埃等の浸入を防止する機能と、浸入してきた泥水等を排出する機能とを有する。
【0019】
また、車体側に装着される密封装置10の車体側の面には、後述する環状の磁気エンコーダ(環状磁石)36(
図2参照)が配されてもよく、環状磁石36に対向する位置の車体には磁気センサ15が設置される。
【0020】
環状磁石36は、後述するスリンガ34に一体に成形された、ゴム材に磁性粉を混練してなる環状磁石36であり、その周方向に沿って多数のN極およびS極を交互に着磁したものである。磁気センサ15は環状磁石36の回転に伴う磁気変化を検出する。つまり、この磁気センサ15と環状磁石36とにより、車輪(内輪部材3)の回転検出機構が構成され、アンチブレーキシステムが構成される。
【0021】
以下に詳述する密封装置10、11、10A、11Aはいずれも、外輪部材2に内嵌される円筒体よりなる第1部材20と、内輪部材3に外嵌される円筒体よりなる第2部材30とが組み合わさって構成されている。
【0022】
第1部材20は外輪部材2に組み付けられ、第2部材30は内輪部材3に組み付けられるから、その状態で外輪部材2と内輪部材3とが相対回転をすれば、第1部材20と第2部材30とは、後述する第1部材20のリップ部を介して相互に摺接しながら相対回転をする。なお、
図1の軸受装置1においては、内輪部材3が回転側の部材とされる。
以下、密封装置10、11、10A、11Aに関する装着構造について説明する。
【0023】
<第1実施形態>
まず、被シール空間6の車体側に装着される密封装置10の装着構造に関する第1実施形態について、
図1~
図3を参照しながら説明する。この実施形態に係る密封装置の装着構造はつぎに示す基本構成とされる。
【0024】
この装着構造に用いられる密封装置10は、外側部材2と、外側部材2に対して相対的に回転する内側部材3との間の被シール空間6を密封する、外側部材2の内側に嵌合する第1部材20と、内側部材3の外側に嵌合する第2部材30とを備えている。
【0025】
第1部材20は、外側部材2の内周面2aに固定される第1円筒部21を備え、第2部材30は、内側部材3の外周面3cに固定される第2円筒部31と、第2円筒部31の外側に配された第3円筒部32とを備えている。
【0026】
この密封装置10は、第1円筒部21と第3円筒部32との間に環状の隙間40が形成されるように、第1部材20と第2部材30とが被シール空間6に装着される装着構造とされる。
【0027】
本実施形態に係る密封装置の装着構造では、回転軸Lから内側部材3の外周面3cまでの距離を周方向に沿って異ならせることで、回転軸Lから第3円筒部32の外周面32aまでの距離を周方向に沿って異ならせている。
ついで、本実施形態に係る密封装置の装着構造の詳細について説明する。
【0028】
図2は、本実施形態に係る密封装置10の、
図1のX部の模式的拡大断面図である。
図3は、密封装置10の被シール空間6への装着構造を模式的に示した平面図である。
【0029】
第1部材20は、外輪部材2に内嵌される芯金23と、芯金23に固着された弾性材製のシール部25とを備えている。さらに具体的には、芯金23は、外輪部材2の内周面2aに内嵌される芯金円筒部23aと、芯金円筒部23aの被シール空間6の奥側の端部から内側に延びる芯金円板部23bとを備えてなり、断面形状が略L字形状をなす。
【0030】
またシール部25は、ゴム材や合成樹脂材などの弾性材料からなり、芯金23への加硫成形により固着一体とされたシール基部25aと、シール基部25aから延出された複数のリップ部、つまり1個のサイドリップ26aおよび1個のラジアルリップ26bとを備えている。
図2において、サイドリップ26aおよびラジアルリップ26bの2点鎖線部は、弾性変形前の原形状を示す。
【0031】
シール基部25aは、芯金円板部23bの被シール空間6の奥側の面の中途から内周縁部23cを回り込み、反対側の面の全面を覆い、さらに芯金円筒部23aの内周面の全面を覆い、さらに車体側の端部23dを回り込んで芯金円筒部23aの外周面にいたるように芯金23に固着一体とされている。
【0032】
被シール空間6の奥側に位置するシール基部25aの始端部には、奥側に向けてさらに突出した環状突部25dが形成されている。また、芯金円筒部23aの外周面側に位置するシール基部25aの終端部には、外輪部材2側に突出した突条部25cが形成されている。
【0033】
環状突部25dは、密封装置10を軸受装置1に装着する前に重ねて運搬する際に、その密封装置10に重ねられた別の密封装置10に弾接し、当該密封装置10の芯金23と別の密封装置10の環状磁石36とが磁力で吸着し合うことを防ぐための突出部である。突条部25cは、密封装置10を被シール空間6に嵌合した際に、芯金23を外輪部材2に圧接させるための突出部である。
【0034】
以上のように、芯金23とシール部25とは一体とされ、外輪部材2の内側に嵌合する第1部材20を構成する。また、芯金円筒部23aと、シール基部25aの一部であるシール円筒部25bとにより第1円筒部21が構成されている。
【0035】
第2部材30は、内輪部材3に外嵌される、断面倒U字形状をなす2重円筒形のスリンガ34と、スリンガ34に固着された環状磁石36とを備えている。
【0036】
スリンガ34は、内輪部材3の内輪3aの外周面3cに外嵌される、第2円筒部31をなす内周側円筒部34cと、内周側円筒部34cの車体側の端部から外側に延びるスリンガ円板部34aと、スリンガ円板部34aの外周縁部から回転軸L方向に沿って被シール空間6の奥側に延びる、第3円筒部32を構成する外周側円筒部34bとを備えている。この外周側円筒部34bは、被シール空間6の奥側の端面が、第1部材20の芯金円板部23bと対向するように配される。
【0037】
環状磁石36は、スリンガ円板部34aの車体側の面を覆うエンコーダ本体36aを有している。なお環状磁石36は、外周側円筒部34bの外周面を覆うように形成された被覆部を有するものであってもよい。
【0038】
以上のように、スリンガ34と環状磁石36とは一体とされ、内輪部材3の外側に嵌合する第2部材30を構成する。
【0039】
ついで、第1部材20および第2部材30の被シール空間6への装着状態における位置関係について、特に両部材により形成されるラビリンス構造、および第1部材20の複数のリップ部と第2部材30との関係について説明する。
【0040】
スリンガ34の外周側円筒部34bと、第1部材20との間にラビリンス構造部rが形成されている。このラビリンス構造部rは、回転軸L方向に略平行な第1ラビリンス部r1と、第1ラビリンス部r1に連続する径方向に略平行な第2ラビリンス部r2とにより構成されている。
【0041】
第1ラビリンス部r1は、第3円筒部32の外周面32aと、これに対向する第1部材20の第1円筒部21の内周面21aとの間に形成される。第1ラビリンス部r1の経路中には、泥水等の排出を阻害するリップ部などは配されていない。シール円筒部25bの内周面は、車体側から回転軸L方向に沿って被シール空間6の奥側に次第に隙間40が狭まるように若干傾斜して形成されており、浸入してきた泥水等を排出しやすい構成となっている。
【0042】
また、第2ラビリンス部r2は、第3円筒部32の被シール空間6の奥側(車輪側)の端面と、これに対向する部分の車体側の面との間に径方向に沿って形成される。この第2ラビリンス部r2の経路中にもリップ部等、泥水等の排出を阻害する部材は配されていない。
【0043】
第1部材20のサイドリップ26aは、スリンガ円板部34aの被シール空間6の奥側の面に弾接する。サイドリップ26aが摺接するスリンガ円板部34aの面には、グリース(不図示)が塗布されている。なお、サイドリップ26aの個数、形状等は図例のものに限定されない。
【0044】
ラジアルリップ26bは、シール基部25aから延びて形成されており、スリンガ34における内周側円筒部34cの外周面に弾接する。ラジアルリップ26bは、被シール空間6の奥側に向くように傾斜形成されており、被シール空間6に充填されているグリースが密封装置10の外部へ漏れないように配されている。また、ラジアルリップ26bが摺接する第2円筒部31(内周側円筒部34c)の外周面にはグリースが塗布されている。なお、ラジアルリップ26bの個数、形状等は図例のものに限定されない。
【0045】
本実施形態では、第1ラビリンス部r1である隙間40の幅寸法C、C´が
図2、
図3に示すように周方向に沿って異なっている。このように隙間40の幅寸法C、C´が部位によって異なるのは、
図2に示すように、回転軸Lから内輪部材3の外周面3cまでの距離寸法d1、d1´を周方向に沿って異ならせることで、回転軸Lから第3円筒部32の外周面32aまでの距離寸法B、B´を周方向に沿って異ならせたことによる。
【0046】
図2、
図3に示した例では、内輪部材3の外周面3cの平面形状は円(真円)とされるが、その中心Mは、
図3に示すように回転軸Lからは偏心している。なお、隙間40の幅寸法C、C´は
図2に示すように、隙間40の開口側の幅寸法を表している。第2実施形態についても同様である。
【0047】
ここで、外輪部材2の内周面2a、第1部材20の第1円筒部21(シール円筒部25b)の内周面21aのそれぞれの平面形状は、回転軸Lを中心とした円とされる。また、第2部材30の第2円筒部31の内周面、第3円筒部32の外周面32aのそれぞれの平面形状はたがいに同一中心とする円とされる。
【0048】
ようするに、
図2、
図3に示すように、回転軸Lから外輪部材2の内周面2aまでの寸法d2、第2部材30(スリンガ34)の第2円筒部31(内周側円筒部34c)の内周面から第3円筒部32(外周側円筒部34b)の外周面32aまでの寸法Aはそれぞれ周方向に沿って一定であるが、回転軸Lから内輪部材3の外周面3cまでの距離寸法d1、d1´が周方向に沿って異なるため、それにより回転軸Lから第3円筒部32の外周面32aまでの寸法B、B´は周方向に沿って異なり、それにより隙間40の幅寸法C、C´も周方向に沿って異なる。
【0049】
つまり、内輪部材3に外嵌する第2部材30は円形状であるが、内輪部材3が偏心回転するように構成されているため、それにともない第2部材30も偏心回転するように取り付けられ、それにより隙間40の寸法C、C´は周方向に沿って異なる。なお、内輪部材3を楕円形状とし、第2部材30を内輪部材3に外嵌する楕円形状としてもよい。
【0050】
また、このように内輪部材3が回転軸Lから偏心し、かつ外輪部材2が回転軸Lを中心としているため、
図2に示すように、サイドリップ26aが摺接するスリンガ円板部34aの径方向の位置は回転により変動し、かつラジアルリップ26bが内周側円筒部34cに対して摺接している際の形状は回転により変動する。
【0051】
本実施形態に係る密封装置の装着構造によれば、隙間40の幅寸法C、C´が周方向に沿って異なること、つまり密封装置10の汚水等の出入り口の大きさのアンバランス化により、被シール空間6に入り込んだ汚水等を効率よく広い隙間40から多く排出させることができる。換言すれば、隙間40の幅寸法C、C´を周方向に沿って異ならせたことによりポンピング作用が働き、ラビリンス構造部rを含む密封装置10内の空間において、内部に入り込んだ汚水等の周方向の勢いのよい流れが形成され、汚水等が排出されやすくなる。
【0052】
また、本実施形態では軸受装置1の内輪部材3が回転するため、回転軸Lに近い箇所、例えば第2円筒部31の近傍に入り込んだ汚水等を、回転軸Lから第2部材30の外周面32aまで寸法B、B´の小さい方に対応する隙間40、つまり幅寸法の大きな隙間40から汚水を遠心力により排出させやすくできる。
【0053】
このように本密封装置の装着構造では汚水等の排出性能が向上する。また、本例の密封装置の装着構造は、内輪部材3が偏心回転する装着構造であるも外周面3cの平面形状は円であるため、第2部材30は従来の円形状のものをそのまま利用することができる。
【0054】
また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bは水に接触しにくくなり、シール部25の高寿命化を図ることができる。また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bをそれぞれ複数設けなくてもよく、材料コストを抑えることもできる。
【0055】
なお前述したように、本実施形態では第1部材20と第2部材30の相対回転によりリップ部の摺接態様は変化するが、同心度(偏心度)を0.02~0.1mm程度とするならば、その摺接態様の変化は無視できる程度であり、リップ部の劣化を早めるようなものとはならない。
図2はデフォルメした図であり、前記のような同心度であれば実際には図示したような大きな形状変化は起こらない。
【0056】
本実施形態の密封装置の装着構造は、車輪側の密封装置11についても適用が可能であり、同様の効果が奏されることはいうまでもない。
【0057】
<第2実施形態>
つぎに、被シール空間6の車体側に装着される密封装置10の装着構造に関する第2実施形態について、
図1、
図4および
図5を参照しながら説明する。この実施形態に係る密封装置の装着構造はつぎに示す基本構成とされる。
【0058】
この装着構造に用いられる密封装置10は、
図2の密封装置10と同様であり、外側部材2と、外側部材2に対して相対的に回転する内側部材3との間の被シール空間6を密封する、外側部材2の内側に嵌合する第1部材20と、内側部材3の外側に嵌合する第2部材30とを備えている。
【0059】
第1部材20は、外側部材2の内周面2aに固定される第1円筒部21を備え、第2部材30は、内側部材3の外周面3cに固定される第2円筒部31と、第2円筒部31の外側に配された第3円筒部32とを備えている。
【0060】
第1円筒部21と第3円筒部32との間に環状の隙間40が形成されるように、第1部材20と第2部材30とが被シール空間6に装着される装着構造とされる。
【0061】
本実施形態に係る密封装置の装着構造では、回転軸Lから外側部材2の内周面2aまでの距離を周方向に沿って異ならせることで、回転軸Lから第1円筒部21の内周面21aまでの距離を周方向に沿って異ならせている。
ついで、本実施形態に係る密封装置の装着構造の詳細について説明する。
【0062】
図4は、本実施形態に係る密封装置10の、
図1のX部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
図5は密封装置10の被シール空間6への装着構造を模式的に示した平面図である。
【0063】
本実施形態に用いられる密封装置10は第1実施形態で用いられるものと同様であるため、密封装置10を構成する第1部材20、第2部材30の各構成部、両部材により形成されるラビリンス構造および第1部材20の複数のリップ部と第2部材30との関係については、
図4に同一の符号を付してその説明は省略する。
【0064】
図4、
図5に示した例では、外輪部材2の内周面2aの平面形状は円(真円)とされるが、その中心Nは、
図5に示すように回転軸Lからは偏心している。
【0065】
ここで、内輪部材3の外周面3c、第3円筒部32(外周側円筒部34b)の外周面32aのそれぞれの平面形状は、回転軸Lを中心とした円とされる。また、第1部材20の第1円筒部21の外周面の平面形状は円とされる。
【0066】
ようするに、
図4、
図5に示すように、回転軸Lから内輪部材3の外周面3cまでの寸法d1、第2部材30(スリンガ34)の第2円筒部31(内周側円筒部34c)の内周面から第3円筒部32(外周側円筒部34b)の外周面32aまでの寸法Aはそれぞれ周方向に沿って一定であるが、回転軸Lから外輪部材2の内周面2aまでの距離寸法d2、d2´が周方向に沿って異なるため、それにより回転軸Lから第1円筒部21の内周面21aまでの寸法は周方向に沿って異なり、それにより隙間40の幅寸法C、C´も周方向に沿って異なる。
【0067】
つまり、外輪部材2に内嵌する第1部材20は円形状であるが、外輪部材2が偏心回転するように構成されているため、それにともない第1部材20も偏心回転するように取り付けられ、それにより隙間40の寸法C、C´は周方向に沿って異なる。なお、外輪部材2を楕円形状とし、第1部材20を外輪部材2に内嵌する楕円形状としてもよい。
【0068】
また、このように外輪部材2が回転軸Lから偏心し、かつ内輪部材3が回転軸Lを中心としているため、
図4に示すように、サイドリップ26aが摺接するスリンガ円板部34aの径方向の位置は回転により変動し、ラジアルリップ26bが内周側円筒部34cに対して摺接している際の形状も回転により変動する。
【0069】
本実施形態に係る密封装置の装着構造によれば、隙間40の幅寸法C、C´が周方向に沿って異なること、つまり密封装置10の汚水等の出入り口の大きさのアンバランス化により、被シール空間6に入り込んだ汚水等を効率よく広い隙間40から多く排出させることができる。換言すれば、隙間40の幅寸法C、C´を周方向に沿って異ならせたことによりポンピング作用が働き、ラビリンス構造部rを含む密封装置10内の空間において、内部に入り込んだ汚水等の周方向の勢いのよい流れが形成され、汚水等が排出されやすくなる。
【0070】
このように本密封装置の装着構造では汚水等の排出性能が向上する。また、本例の密封装置の装着構造は、外輪部材2が偏心回転する装着構造であるも内周面2aの平面形状は円であるため、第1部材20は従来の円形状のものをそのまま利用することができる。
【0071】
また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bは水に接触しにくくなり、シール部25の高寿命化を図ることができる。また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bをそれぞれ複数設けなくてもよく、材料コストを抑えることもできる。
【0072】
なお前述したように、本実施形態では相対回転によりリップ部の摺接態様は変化するが、同心度(偏心度)を0.02~0.1mm程度とするならば、その摺接態様の変化は無視できる程度であり、リップ部の劣化を早めるようなものとはならない。
図2はデフォルメした図であり、前記のような同心度であれば実際には図示したような大きな形状変化は起こらない。
【0073】
本実施形態の密封装置の装着構造は、車輪側の密封装置11についても適用が可能であり、同様の効果が奏されることはいうまでもない。
【0074】
以上に説明した密封装置の装着構造はいずれも、密封装置10、11の第2部材30が第3円筒部32を備えて断面倒U字の2重円筒形状をなし、それにより密封装置10、11内にラビリンス構造が形成され、その結果、汚水等の浸入阻止効果が高められている。
【0075】
密封装置10、11がこのようなラビリンス構造を有すれば汚水等の排出性能が低下するおそれがあるが、以上に示した密封装置10、11によれば、前述したように周方向に沿った隙間40の大きさのアンバランス化により、汚水等の排出性能の向上も期待することができる。
【0076】
<第3実施形態>
つぎに、被シール空間6の車体側に装着される密封装置10Aの装着構造に関する第3実施形態について、
図1、
図6を参照しながら説明する。この実施形態に係る密封装置の装着構造はつぎに示す基本構成とされる。
【0077】
この装着構造に用いられる密封装置10Aは、外側部材2と、外側部材2に対して相対的に回転する内側部材3との間の被シール空間6を密封する、外側部材2の内側に嵌合する第1部材20と、内側部材3の外側に嵌合する第2部材30とを備えている。
【0078】
第2部材30は、内側部材3の外周面3cに固定される第2円筒部31と、第2円筒部31の外側に配された第3円筒部32とを備えている。
【0079】
外側部材2と第3円筒部32との間に環状の隙間41が形成されるように、第1部材20と第2部材30とが被シール空間6に装着される装着構造とされる。
【0080】
本実施形態に係る密封装置の装着構造では、回転軸Lから内側部材3の外周面3cまでの距離を周方向に沿って異ならせることで、回転軸Lから第3円筒部32の内周面32bまでの距離を周方向に沿って異ならせている。
ついで、本実施形態に係る密封装置の装着構造の詳細について説明する。
【0081】
図6は、本実施形態に係る密封装置10Aの、
図1のX部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
【0082】
第1部材20は、外輪部材2に内嵌される芯金23と、芯金23に固着された弾性材製のシール部25とを備えている。さらに具体的には、芯金23は、外輪部材2の内周面2aに内嵌される芯金円筒部23aと、芯金円筒部23aの被シール空間6の奥側の端部から内側に延びる芯金円板部23bとを備えてなり、断面形状が略L字形状をなす。
【0083】
またシール部25は、ゴム材や合成樹脂材などの弾性材料からなり、芯金23への加硫成形により固着一体とされたシール基部25aと、シール基部25aから延出された複数のリップ部、つまり1個のサイドリップ26aおよび1個のラジアルリップ26bとを備えている。
図6において、サイドリップ26aおよびラジアルリップ26bの2点鎖線部は、弾性変形前の原形状を示す。
【0084】
シール基部25aは、芯金円板部23bの被シール空間6の奥側の面の中途から内周縁部23cを回り込み、反対側の面の全面を覆い、さらに芯金円筒部23aの内周面の全面を覆い、さらに車体側の端部23dを回り込んで芯金円筒部23aの外周面にいたるように芯金23に固着一体とされている。
【0085】
被シール空間6の奥側に位置するシール基部25aの始端部には、奥側に向けてさらに突出した環状突部25dが形成されている。また、芯金円筒部23aの外周面側に位置するシール基部25aの終端部には、外輪部材2側に突出した突条部25cが形成されている。
【0086】
突条部25cは、密封装置10を被シール空間6に嵌合した際に、芯金23を外輪部材2に圧接させるための突出部である。
【0087】
以上のように、芯金23とシール部25とは一体とされ、外輪部材2の内側に嵌合する第1部材20を構成する。また、芯金円筒部23aと、シール基部25aの一部であるシール円筒部25bとにより第1円筒部21が構成されている。
【0088】
第2部材30は、内輪部材3に外嵌される、断面倒U字形状をなす2重円筒形のスリンガ34を備えている。
【0089】
スリンガ34は、内輪部材3のハブ輪3bの外周面3cに外嵌される、第2円筒部31をなす内周側円筒部34cと、内周側円筒部34cの車体側の端部から外側に延びるスリンガ円板部34aと、スリンガ円板部34aの外周縁部から回転軸L方向に沿って車輪側に延びる外周側円筒部34bとを備えている。この外周側円筒部34bは外輪部材2の外側に配される。
【0090】
なお本図例では、第2部材30は、環状磁石36(
図2参照)を有していないが、スリンガ円板部34aの外側に環状磁石36を有するものであってもよい。
【0091】
ついで、第1部材20および第2部材30の被シール空間6への装着状態における位置関係について、特に両部材により形成されるラビリンス構造、および第1部材20の複数のリップ部と第2部材30との関係について説明する。
【0092】
スリンガ34の外周側円筒部34bと、外輪部材2との間にラビリンス構造部rAが形成されている。このラビリンス構造部rAは、回転軸L方向に略平行な第1ラビリンス部rA1と、第1ラビリンス部rA1に連続する径方向に略平行な第2ラビリンス部rA2とにより構成されている。
【0093】
第1ラビリンス部rA1は、第3円筒部32の内周面32aと、これに対向する外輪部材2の外周面との間に形成される。第1ラビリンス部rA1の経路中には、泥水等の排出を阻害するリップ部などは配されていない。
【0094】
また、第2ラビリンス部rA2は、外輪部材2の車体側の端面と、これに対向するスリンガ円板部34aの面との間に径方向に沿って形成される。この第2ラビリンス部rA2の経路中にもリップ部等、泥水等の排出を阻害する部材は配されていない。
【0095】
第1部材20のサイドリップ26aは、スリンガ円板部34aの被シール空間6の奥側の面に弾接する。サイドリップ26aが摺接するスリンガ円板部34aの面には、グリース(不図示)が塗布されている。なお、サイドリップ26aの個数、形状等は図例に限定されない。
【0096】
ラジアルリップ26bは、シール基部25aから延びて形成されており、スリンガ34における内周側円筒部34cの外周面に弾接する。ラジアルリップ26bは、被シール空間6の奥側に向くように傾斜形成されており、被シール空間6に充填されているグリースが密封装置10を経て外部へ漏れないように配されている。また、ラジアルリップ26bが摺接する第2円筒部31(内周側円筒部34c)の外周面にはグリースが塗布されている。なお、ラジアルリップ26bの個数、形状等は図例に限定されない。
【0097】
本実施形態では、第1ラビリンス部rA1である隙間41の幅寸法C、C´が
図6に示すように周方向に沿って異なっている(
図6参照)。このように隙間41の幅寸法C、C´が部位によって異なるのは、
図6に示すように、回転軸Lから内輪部材3の外周面3cまでの距離寸法d1、d1´を周方向に沿って異ならせることで、回転軸Lから第3円筒部32の内周面32bまでの距離寸法E、E´を周方向に沿って異ならせたことによる。
【0098】
図6に示した例では、内輪部材3の外周面3cの平面形状は円(真円)とされるが、その中心は、回転軸Lからは偏心している。なお、隙間41の幅寸法C、C´は
図6に示すように、隙間41の開口側の幅寸法を表している。第4実施形態についても同様である。
【0099】
ここで、外輪部材2の内周面2a、外周面2b、第1部材20の第1円筒部21の外周面のそれぞれの平面形状は、回転軸Lを中心とした円とされる。また、第2部材30の第2円筒部31の内周面、第3円筒部32の外周面32aのそれぞれの平面形状はたがいに同一中心とする円とされるが、内輪部材3に装着されているため、回転軸Lからは偏心している。
【0100】
ようするに、
図6に示すように、回転軸Lから外輪部材2の外周面2bまでの寸法d3、第2部材30(スリンガ34)の第2円筒部31(内周側円筒部34c)の内周面から第3円筒部32(外周側円筒部34b)の内周面までの寸法Dはそれぞれ周方向に沿って一定であるが、回転軸Lから内輪部材3の外周面3cまでの距離寸法d1、d1´が周方向に沿って異なるため、それにより回転軸Lから第3円筒部32の内周面32bまでの寸法E、E´は周方向に沿って異なり、それにより隙間41の幅寸法C、C´も周方向に沿って異なる。
【0101】
つまり、内輪部材3に外嵌する第2部材30は円形状であるが、内輪部材3が偏心回転するように構成されているため、それにともない第2部材30も偏心回転するように取り付けられ、それにより隙間41の寸法C、C´は周方向に沿って異なる。なお、内輪部材3を楕円形状とし、第2部材30を内輪部材3に外嵌する楕円形状としてもよい。
【0102】
また、このように内輪部材3が回転軸Lから偏心し、かつ外輪部材2が回転軸Lを中心としているため、
図6に示すように、サイドリップ26aが摺接するスリンガ円板部34aの径方向の位置は回転により変動し、かつラジアルリップ26bが内周側円筒部34cに対して摺接している際の形状は回転により変動する。
【0103】
本実施形態に係る密封装置の装着構造によれば、隙間41の幅寸法C、C´が周方向に沿って異なること、つまり密封装置10Aの汚水等の出入り口の大きさのアンバランス化により、被シール空間6に入り込んだ汚水等を効率よく広い隙間41から多く排出させることができる。換言すれば、隙間41の幅寸法C、C´を周方向に沿って異ならせたことによりポンピング作用が働き、ラビリンス構造部rAを含む密封装置10A内の空間において、内部に入り込んだ汚水等の周方向の勢いのよい流れが形成され、汚水等が排出されやすくなる。
【0104】
また、本実施形態では軸受装置1の内輪部材3が回転するため、回転軸Lに近い箇所、例えば第2円筒部31の近傍に入り込んだ汚水等を、回転軸Lから第2部材30の外周面32aまで寸法B、B´の小さい方に対応する隙間41、つまり幅寸法の大きな隙間41から汚水を遠心力により排出させやすくできる。
【0105】
このように本密封装置の装着構造では汚水等の排出性能が向上する。また、本例の密封装置の装着構造は、内輪部材3が偏心回転する装着構造であるも外周面3cの平面形状は円であるため、第2部材30は従来の円形状のものをそのまま利用することができる。
【0106】
また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bは水に接触しにくくなり、シール部25の高寿命化を図ることができる。また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bをそれぞれ複数設けなくてもよく、材料コストを抑えることもできる。
【0107】
なお前述したように、本実施形態では第1部材20と第2部材30の相対回転によりリップ部の摺接態様は変化するが、同心度(偏心度)を0.02~0.1mm程度とするならば、その摺接態様の変化は無視できる程度であり、リップ部の劣化を早めるようなものとはならない。
図6はデフォルメした図であり、前記のような同心度であれば実際には図示したような大きな形状変化は起こらない。
【0108】
本実施形態の密封装置の装着構造は、車輪側の密封装置11Aについても適用が可能であり、同様の効果が奏されることはいうまでもない。
【0109】
<第4実施形態>
つぎに、被シール空間6の車体側に装着される密封装置10Aの装着構造に関する第4実施形態について、
図1、
図7を参照しながら説明する。この実施形態に係る密封装置の装着構造はつぎに示す基本構成とされる。
【0110】
この装着構造に用いられる密封装置10Aは、
図6の密封装置10Aと同様であり、外側部材2と、外側部材2に対して相対的に回転する内側部材3との間の被シール空間6を密封する、外側部材2の内側に嵌合する第1部材20と、内側部材3の外側に嵌合する第2部材30とを備えている。
【0111】
第2部材20は、内側部材3の外周面3cに固定される第2円筒部31と、第2円筒部31の外側に配された第3円筒部32とを備えている。
【0112】
外側部材2と第3円筒部32との間に環状の隙間41が形成されるように、第1部材20と第2部材30とが被シール空間6に装着される装着構造とされる。
【0113】
本実施形態に係る密封装置の装着構造では、回転軸Lから外側部材2の外周面2bまでの距離を周方向に沿って異ならせている。
ついで、本実施形態に係る密封装置の装着構造の詳細について説明する。
【0114】
図7は、本実施形態に係る密封装置10Aの、
図1のX部を対比的に図示した模式的拡大断面図である。
【0115】
本実施形態に用いられる密封装置10Aは第3実施形態で用いられるものと同様であるため、密封装置10Aを構成する第1部材20、第2部材30の各構成部、両部材により形成されるラビリンス構造および第1部材20の複数のリップ部と第2部材30との関係については、
図6に同一の符号を付してその説明は省略する。
【0116】
本実施形態では、第1ラビリンス部rA1である隙間41の幅寸法C、C´が周方向に沿って異なっている(
図7参照)。このように隙間41の幅寸法C、C´が部位によって異なるのは、
図7に示すように、回転軸Lから外輪部材2の外周面2bまでの距離寸法d3、d3´を周方向に沿って異ならせたことによる。
【0117】
図7に示した例では、外輪部材2の外周面2bの平面形状は円(真円)とされるが、その中心は、回転軸Lからは偏心している。
【0118】
ここで、内輪部材3の外周面3cの平面形状は、回転軸Lを中心とした円とされる。また、第1部材20の第1円筒部21の外周面の平面形状は円とされるが、外輪部材2に装着されているため、回転軸Lからは偏心している。
【0119】
ようするに、
図7に示すように、回転軸Lから内輪部材3の外周面までの寸法d1、第2部材30(スリンガ34)の第2円筒部31(内周側円筒部34c)の内周面から第3円筒部32(外周側円筒部34b)の内周面までの寸法Dはそれぞれ周方向に沿って一定であるが、回転軸Lから外輪部材2の外周面2bまでの距離寸法d3、d3´が周方向に沿って異なるため、それにより隙間41の幅寸法C、C´も周方向に沿って異なる。
【0120】
つまり、外輪部材2が偏心回転するように構成されているため、それにより隙間41の寸法C、C´は周方向に沿って異なる。
【0121】
また、このように外輪部材2が回転軸Lから偏心し、かつ内輪部材3が回転軸Lを中心としているため、
図7に示すように、サイドリップ26aが摺接するスリンガ円板部34aの径方向の位置は回転により変動し、かつラジアルリップ26bが内周側円筒部34cに対して摺接している際の形状は回転により変動する。
【0122】
本実施形態に係る密封装置の装着構造によれば、隙間41の幅寸法C、C´が周方向に沿って異なること、つまり密封装置10Aの汚水等の出入り口の大きさのアンバランス化により、被シール空間6に入り込んだ汚水等を効率よく広い隙間41から多く排出させることができる。換言すれば、隙間41の幅寸法C、C´を周方向に沿って異ならせたことによりポンピング作用が働き、ラビリンス構造部rAを含む密封装置10A内の空間において、内部に入り込んだ汚水等の周方向の勢いのよい流れが形成され、汚水等が排出されやすくなる。
【0123】
このように本密封装置の装着構造では汚水等の排出性能が向上する。また、本例の密封装置の装着構造は、外輪部材2が偏心回転する装着構造であるも内周面2aの平面形状は円であるため、第1部材20は従来の円形状のものをそのまま利用することができる。
【0124】
また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bは水に接触しにくくなり、シール部25の高寿命化を図ることができる。また、汚水等が溜まりにくい構造であるため、サイドリップ26a、ラジアルリップ26bをそれぞれ複数設けなくてもよく、材料コストを抑えることもできる。
【0125】
なお前述したように、本実施形態では第1部材20と第2部材30の相対回転によりリップ部の摺接態様は変化するが、同心度(偏心度)を0.02~0.1mm程度とするならば、その摺接態様の変化は無視できる程度であり、リップ部の劣化を早めるようなものとはならない。
図7はデフォルメした図であり、前記のような同心度であれば実際には図示したような大きな形状変化は起こらない。
【0126】
本実施形態の密封装置の装着構造は、車輪側の密封装置11Aについても適用が可能であり、同様の効果が奏されることはいうまでもない。
【0127】
以上に説明した密封装置10、10A、11、11Aはいずれも、第2部材30が第3円筒部32を備えて断面倒U字の2重円筒形状をなし、それにより装置内にラビリンス構造が形成され、その結果、汚水等の浸入阻止効果が高められている。
【0128】
また、密封装置10、10A、11、11Aがこのようなラビリンス構造を有すれば汚水等の排出性能についても期待でき、特に第3円筒部32の軸方向の長さを大きくしたものは排出効果を生み出す部分の面積が大きくなるため、周方向に沿った隙間40、41の大きさのアンバランス化とあいまって、汚水等の排出性能を格段に向上させることができる。
【0129】
なお、以上に説明した複数の実施形態に係る密封装置10、11および軸受装置1は構成、形状一例にすぎず、各図例以外の構成、形状に適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0130】
1 軸受装置
2 外側部材(外輪部材)
2a 内周面
2b 外周面
3 内側部材(内輪部材)
3c 外周面
6 被シール空間
10、10A (車体側に設置される)密封装置
11、11A (車輪側に設置される)密封装置
20 第1部材
21 第1円筒部
21a 内周面
23 芯金
25 シール部
30 第2部材
31 第2円筒部
32 第3円筒部
32a 外周面
32b 内周面
34 スリンガ
40、41 隙間
L 回転軸