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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103310
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ナノワイヤ構造体
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/00 20230101AFI20240725BHJP
   H10N 60/83 20230101ALI20240725BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240725BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20240725BHJP
   B82Y 10/00 20110101ALI20240725BHJP
【FI】
H10N60/00 Z
H10N60/83 ZAA
C23C14/06 F
H01L29/06 601L
H01L29/06 601N
B82Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007578
(22)【出願日】2023-01-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.電気通信回線を通じた公開(発表要旨のウェブサイトへの掲載) 集会名:令和3年度 京都大学大学院理学研究科 修士論文発表会、掲載日:令和4年1月21日、掲載アドレス http://www.scphys.kyoto-u.ac.jp/education/2022_3/R3_M2_abstract.pdf 2.集会での発表による公開 集会名:令和3年度 京都大学大学院理学研究科 修士論文発表会、発表日:令和4年1月31日 3.電気通信回線を通じた公開(学会発表要旨のウェブサイトへの掲載) 学会名:一般社団法人日本物理学会 第77回年次大会(2022年)、掲載日:令和4年3月1日、掲載アドレス:https://jps2022s.gakkai-web.net/data/pdf/15pGB32-08.pdf 4.電気通信回線を通じた公開(学会発表要旨のウェブサイトへの掲載) 学会名:一般社団法人日本物理学会 第77回年次大会(2022年)、掲載日:令和4年3月1日、掲載アドレス:https://jps2022s.gakkai-web.net/data/pdf/16aGE11-05.pdf 5.集会(学会)での発表による公開 学会名:一般社団法人日本物理学会 第77回年次大会(2022年)、発表日:令和4年3月15日 6.集会(学会)での発表による公開 学会名:一般社団法人日本物理学会 第77回年次大会(2022年)、発表日:令和4年3月16日 7.電気通信回線を通じた公開(発表要旨のウェブサイトへの掲載) 集会名:東京大学物性研究所 ISSP workshop/物性研究所短期研究会“Frontier of scanning probe microscopy and related nano science”「機能的走査プローブ顕微鏡の新展開」、掲載日:令和4年3月22日、掲載アドレス:https://hasegawa.issp.u-tokyo.ac.jp/workshop2022
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 8.集会での発表による公開 集会名:東京大学物性研究所 ISSP workshop/物性研究所短期研究会“Frontier of scanning probe microscopy and related nano science”「機能的走査プローブ顕微鏡の新展開」、発表日:令和4年3月31日 9.電気通信回線を通じた公開(学会発表要旨のウェブサイトへの掲載) 学会名:一般社団法人日本物理学会 2022年秋季大会(物性)、掲載日:令和4年9月1日、掲載アドレス:https://jps2022a.gakkai-web.net/data/pdf/13pW541-07.pdf 10.集会(学会)での発表による公開 学会名:一般社団法人日本物理学会 2022年秋季大会(物性)、発表日:令和4年9月13日 11.集会での発表による公開 集会名:Pan-Pacific Workshop on Topology and Correlation in Exotic Materials、発表日:令和4年10月25日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、チーム型研究(CREST)「量子スピン液体におけるトポロジカル準粒子の解明と直接検出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】浅場 智也
(72)【発明者】
【氏名】松田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】佐々 真一
【テーマコード(参考)】
4K029
4M113
【Fターム(参考)】
4K029AA04
4K029AA24
4K029BA34
4K029BD01
4K029CA01
4K029DB20
4M113AC45
4M113AC50
4M113AD36
4M113BA04
4M113BA28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新規なナノワイヤ構造体を提供する。
【解決手段】ナノワイヤ構造体1は、基板2と、基板上に配置されたナノワイヤ層3と、を備える。ナノワイヤ層は、厚さ方向に単層であると共に、接合、ループ、スパイラル及び配列からなる群から選択される少なくとも1つのナノワイヤ構造を有する。接合において接合点から延びるナノワイヤ並びにループ及びスパイラルを構成するナノワイヤは、15nm以下の幅を有する。配列は、少なくとも50nm×50nmの第1の領域を有し、第1の領域では、3以上のナノワイヤが互いに離間して延びており、隣接するナノワイヤの平均間隔Apは30nm以下であり、隣接するナノワイヤの間隔の変動は、平均間隔Apに対する最大間隔と最小間隔との差Dpの比Dp/Apにより表して0.3以下、及び前記差Dpにより表して1nm以下、から選ばれる少なくとも1つの状態にある。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に配置されたナノワイヤ層と、を備え、
前記ナノワイヤ層は、
厚さ方向に単層であると共に、
接合、ループ、スパイラル及び配列からなる群から選択される少なくとも1つのナノワイヤ構造を有しており、
前記接合において接合点から延びるナノワイヤ、並びに、前記ループ及び前記スパイラルを構成するナノワイヤは、15nm以下の幅を有し、
前記配列は、少なくとも50nm×50nmの第1の領域を有し、前記第1の領域では、
3以上のナノワイヤが互いに離間して延びており、
隣接する前記ナノワイヤの平均間隔Apは30nm以下であり、
隣接する前記ナノワイヤの間隔の変動は、
(I)前記平均間隔Apに対する最大間隔と最小間隔との差Dpの比Dp/Apにより表して0.3以下、及び、
(II)前記差Dpにより表して1nm以下、
からなる群から選択される少なくとも1つの状態にある、
ナノワイヤ構造体。
【請求項2】
前記ループは分岐を有さない、請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項3】
前記接合点から延びる少なくとも1つの前記ナノワイヤ、並びに、前記ループ及び前記スパイラルを構成する前記ナノワイヤの長さは1μm以上である、請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項4】
前記配列に含まれる前記3以上のナノワイヤの幅は15nm以下である、請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項5】
前記配列に含まれる少なくとも1つの前記ナノワイヤの長さは1μm以上である、請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項6】
前記配列は、長さ100nm以上にわたって互いに離間して延びる前記3以上のナノワイヤを含む、請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項7】
前記少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤは単結晶構造を有する、請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項8】
前記少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤの幅の方向と、前記単結晶構造の単位格子が有する結晶軸が延びる方向とが一致しており、
前記ナノワイヤは、前記結晶軸の長さの整数倍の幅を有する、請求項7に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項9】
前記ナノワイヤ層は、前記少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤの側面に接するベース部を有し、
前記ベース部は、前記ナノワイヤに含まれる第1の材料と同じ組成を有するが相の状態が異なる第2の材料を含む、請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項10】
前記少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤは、一次元結晶構造を有する遷移金属化合物を含む、請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項11】
前記少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤは、遷移金属のハロゲン化物を含む、請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項12】
前記ハロゲン化物がハロゲン化ルテニウムである、請求項11に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項13】
前記基板における前記ナノワイヤ層の配置面はグラフェン層を含む、請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項14】
基板と、前記基板上に配置されたナノワイヤ層と、を備え、
前記ナノワイヤ層は、
厚さ方向に単層であると共に、
長さ1μm以上及び幅15nm以下のナノワイヤを含み、
前記ナノワイヤの幅の変動は、
(i)長さ50nmの区間を観察したときの平均幅Awに対する最大幅と最小幅との差Dwの比Dw/Awにより表して0.3以下、及び
(ii)前記差Dwにより表して1nm以下、
からなる群から選択される少なくとも1つの状態にある、
ナノワイヤ構造体。
【請求項15】
前記ナノワイヤは単結晶構造を有する、請求項14に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項16】
前記ナノワイヤの幅の方向と、前記単結晶構造の単位格子が有する結晶軸が延びる方向とが一致しており、
前記ナノワイヤは、前記結晶軸の長さの整数倍の幅を有する、請求項15に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項17】
前記ナノワイヤ層は、前記ナノワイヤの側面に接するベース部を有し、
前記ベース部は、前記ナノワイヤに含まれる第1の材料と同じ組成を有するが相の状態が異なる第2の材料を含む、請求項14に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項18】
前記ナノワイヤは、一次元結晶構造を有する遷移金属化合物を含む、請求項14に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項19】
前記ナノワイヤは、遷移金属のハロゲン化物を含む、請求項14に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項20】
前記ハロゲン化物がハロゲン化ルテニウムである、請求項19に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項21】
前記基板における前記ナノワイヤ層の配置面はグラフェン層を含む、請求項14に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか1項に記載のナノワイヤ構造体を備えるナノ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノワイヤ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な幅を有する線状体としてナノワイヤが知られている。ナノワイヤは、微小な幅及び高い形状異方性等の特徴に着目した種々の用途への応用が期待されている。近年、基板上へのナノワイヤの形成が試みられている。ナノワイヤによるナノパターンを基板上に形成することが可能になれば、形成されるナノパターンによっては、例えば、量子コンピューティング等の情報処理技術への応用も考えられる。基板上にナノワイヤを形成する手法として、トップダウン法及びボトムアップ法が知られている。特許文献1及び特許文献2には、ボトムアップ法によるナノワイヤの形成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-59004号公報
【特許文献2】特開2011-138769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トップダウン法では、基板上の前駆層を微細加工してナノワイヤを形成する。しかし、代表的なトップダウン法であるナノリソグラフィ法は、数十nm以下の幅を有するナノワイヤを形成できるほどには解像度が高くない。幅1μm未満の線状体をナノワイヤと称することは可能であるものの、ナノワイヤの応用、特に情報処理技術へのナノパターンの応用、を考慮した場合には、数十nm以下の幅を有するナノワイヤの形成が望まれる。
【0005】
一方、基板上でナノワイヤを成長させるボトムアップ法では、均一な幅を持つナノワイヤの形成が難しい。また、ナノワイヤの凝集や堆積が生じやすいことから、ボトムアップ法によるナノパターンの形成は困難であった。実際、特許文献1ではサファイア基板上へのVO2ナノワイヤの成長が試みられているが、幅の変動が大きなナノワイヤが乱雑に形成されるに留まっている。また、特許文献2ではステンレス基板上へのSnSナノ構造体の成長が試みられているが、ナノワイヤは形成されず、シート(プレート)状のナノ凝集体が形成されるに留まっている。
【0006】
本発明は、ナノワイヤが基板上に形成されたナノワイヤ構造体であって、新規なナノワイヤ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
基板と、前記基板上に配置されたナノワイヤ層と、を備え、
前記ナノワイヤ層は、
厚さ方向に単層であると共に、
接合、ループ、スパイラル及び配列からなる群から選択される少なくとも1つのナノワイヤ構造を有しており、
前記接合において接合点から延びるナノワイヤ、並びに、前記ループ及び前記スパイラルを構成するナノワイヤは、15nm以下の幅を有し、
前記配列は、少なくとも50nm×50nmの第1の領域を有し、前記第1の領域では、
3以上のナノワイヤが互いに離間して延びており、
隣接する前記ナノワイヤの平均間隔Apは30nm以下であり、
隣接する前記ナノワイヤの間隔の変動は、
(I)前記平均間隔Apに対する最大間隔と最小間隔との差Dpの比Dp/Apにより表して0.3以下、及び
(II)前記差Dpにより表して1nm以下、
からなる群から選択される少なくとも1つの状態にある、
ナノワイヤ構造体、
を提供する。
【0008】
別の側面から見て、本発明は、
基板と、前記基板上に配置されたナノワイヤ層と、を備え、
前記ナノワイヤ層は、
厚さ方向に単層であると共に、
長さ1μm以上及び幅15nm以下のナノワイヤを含み、
前記ナノワイヤの幅の変動は、
(i)長さ50nmの区間を観察したときの平均幅Awに対する最大幅と最小幅との差Dwの比Dw/Awにより表して0.3以下、及び
(ii)前記差Dwにより表して1nm以下、
からなる群から選択される少なくとも1つの状態にある、
ナノワイヤ構造体、
を提供する。
【0009】
別の側面から見て、本発明は、
上記本発明のナノワイヤ構造体を備えるナノ回路、
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規なナノワイヤ構造体が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、本発明のナノワイヤ構造体の一例を模式的に示す斜視図である。
図1B図1Bは、図1Aのナノワイヤ構造体をナノワイヤ層の側から見た平面図である。
図2A図2Aは、ナノワイヤ層が有しうる接合の一例を模式的に示す平面図である。
図2B図2Bは、ナノワイヤ層が有しうる接合の一例を模式的に示す平面図である。
図3図3は、ナノワイヤ層が有しうるループの一例を模式的に示す平面図である。
図4図4は、ナノワイヤ層が有しうるスパイラルの一例を模式的に示す平面図である。
図5図5は、ナノワイヤ層が有しうる配列の一例を模式的に示す平面図である。
図6図6は、ナノワイヤ層が有しうる配列の一例を模式的に示す平面図である。
図7図7は、変曲点の前後におけるナノワイヤの延びる方向の変化の指標となる角度θを説明するための模式図である。
図8A図8Aは、本発明のナノワイヤ構造体が備えうるナノワイヤ層の一例を模式的に示す平面図及び部分拡大図である。
図8B図8Bは、図8Aの部分拡大図における断面7B-7Bを示す断面図である。
図9図9は、β-RuCl3の結晶構造を示す模式図である。
図10図10は、本発明のナノワイヤ構造体の製法を説明するための模式図である。
図11図11は、本発明のナノワイヤ構造体の製法を説明するための模式図である。
図12A図12Aは、本発明のナノワイヤ構造体の一例を模式的に示す斜視図である。
図12B図12Bは、図12Aのナノワイヤ構造体をナノワイヤ層の側から見た平面図である。
図13図13は、本発明のナノワイヤ構造体の用途の一例を説明するための模式図である。
図14図14は、本発明のナノワイヤ構造体の用途の一例を説明するための模式図である。
図15A図15Aは、実施例において作製したナノワイヤ構造体の一例におけるナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像である。
図15B図15Bは、実施例において作製したナノワイヤ構造体の一例におけるナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像である。
図15C図15Cは、図15Bのナノワイヤ層におけるベース部の拡大像である。
図16図16は、実施例において作製したナノワイヤ構造体の一例におけるナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像である。
図17A図17Aは、実施例において作製したナノワイヤ構造体の一例におけるナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像である。
図17B図17Bは、実施例において作製したナノワイヤ構造体の一例におけるナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像である。
図17C図17Cは、実施例において作製したナノワイヤ構造体の一例におけるナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像である。
図17D図17Dは、実施例において作製したナノワイヤ構造体の一例におけるナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像である。
図18図18は、実施例において作製したナノワイヤ構造体の一例におけるナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像である。
図19図19は、図18に示すナノワイヤ層の接合における高さ方向のプロファイルである。
図20図20は、実施例において作製したナノワイヤ構造体の一例におけるナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1態様にかかるナノワイヤ構造体は、
基板と、前記基板上に配置されたナノワイヤ層と、を備え、
前記ナノワイヤ層は、
厚さ方向に単層であると共に、
接合、ループ、スパイラル及び配列からなる群から選択される少なくとも1つのナノワイヤ構造を有しており、
前記接合において接合点から延びるナノワイヤ、並びに、前記ループ及び前記スパイラルを構成するナノワイヤは、15nm以下の幅を有し、
前記配列は、少なくとも50nm×50nmの第1の領域を有し、前記第1の領域では、
3以上のナノワイヤが互いに離間して延びており、
隣接する前記ナノワイヤの平均間隔Apは30nm以下であり、
隣接する前記ナノワイヤの間隔の変動は、
(I)前記平均間隔Apに対する最大間隔と最小間隔との差Dpの比Dp/Apにより表して0.3以下、及び
(II)前記差Dpにより表して1nm以下、
からなる群から選択される少なくとも1つの状態にある。
【0013】
本発明の第2態様において、例えば、第1態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記ループは分岐を有さない。
【0014】
本発明の第3態様において、例えば、第1又は第2態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記接合点から延びる少なくとも1つの前記ナノワイヤ、並びに、前記ループ及び前記スパイラルを構成する前記ナノワイヤの長さは1μm以上である。
【0015】
本発明の第4態様において、例えば、第1から第3態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記配列に含まれる前記3以上のナノワイヤの幅は15nm以下である。
【0016】
本発明の第5態様において、例えば、第1から第4態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記配列に含まれる少なくとも1つの前記ナノワイヤの長さは1μm以上である。
【0017】
本発明の第6態様において、例えば、第1から第5態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記配列は、長さ100nm以上にわたって互いに離間して延びる前記3以上のナノワイヤを含む。
【0018】
本発明の第7態様において、例えば、第1から第6態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤは単結晶構造を有する。
【0019】
本発明の第8態様において、例えば、第7態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤの幅の方向と、前記単結晶構造の単位格子が有する結晶軸が延びる方向とが一致しており、前記ナノワイヤは、前記結晶軸の長さの整数倍の幅を有する。
【0020】
本発明の第9態様において、例えば、第1から第8態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記ナノワイヤ層は、前記少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤの側面に接するベース部を有し、前記ベース部は、前記ナノワイヤに含まれる第1の材料と同じ組成を有するが相の状態が異なる第2の材料を含む。
【0021】
本発明の第10態様において、例えば、第1から第9態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤは、一次元結晶構造を有する遷移金属化合物を含む。
【0022】
本発明の第11態様において、例えば、第1から第10態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤは、遷移金属のハロゲン化物を含む。
【0023】
本発明の第12態様において、例えば、第11態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記ハロゲン化物がハロゲン化ルテニウムである。
【0024】
本発明の第13態様において、例えば、第1から第12態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記基板における前記ナノワイヤ層の配置面はグラフェン層を含む。
【0025】
本発明の第14態様にかかるナノワイヤ構造体は、
基板と、前記基板上に配置されたナノワイヤ層と、を備え、
前記ナノワイヤ層は、
厚さ方向に単層であると共に、
長さ1μm以上及び幅15nm以下のナノワイヤを含み、
前記ナノワイヤの幅の変動は、
(i)長さ50nmの区間を観察したときの平均幅Awに対する最大幅と最小幅との差Dwの比Dw/Awにより表して0.3以下、及び
(ii)前記差Dwにより表して1nm以下、
からなる群から選択される少なくとも1つの状態にある。
【0026】
本発明の第15態様において、例えば、第14態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記ナノワイヤは単結晶構造を有する。
【0027】
本発明の第16態様において、例えば、第15態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記ナノワイヤの幅の方向と、前記単結晶構造の単位格子が有する結晶軸が延びる方向とが一致しており、前記ナノワイヤは、前記結晶軸の長さの整数倍の幅を有する。
【0028】
本発明の第17態様において、例えば、第14から第16態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記ナノワイヤ層は、前記ナノワイヤの側面に接するベース部を有し、前記ベース部は、前記ナノワイヤに含まれる第1の材料と同じ組成を有するが相の状態が異なる第2の材料を含む。
【0029】
本発明の第18態様において、例えば、第14から第17態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記ナノワイヤは、一次元結晶構造を有する遷移金属化合物を含む。
【0030】
本発明の第19態様において、例えば、第14から第18態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記ナノワイヤは、遷移金属のハロゲン化物を含む。
【0031】
本発明の第20態様において、例えば、第19態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記ハロゲン化物がハロゲン化ルテニウムである。
【0032】
本発明の第21態様において、例えば、第14から第20態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体では、前記基板における前記ナノワイヤ層の配置面はグラフェン層を含む。
【0033】
本発明の第22態様にかかるナノ回路は、第1から第21態様のいずれか1つの態様にかかるナノワイヤ構造体を備える。
【0034】
[ナノワイヤ構造体]
(実施形態1)
本実施形態のナノワイヤ構造体の一例を図1A及び図1Bに示す。図1A及び図1Bのナノワイヤ構造体1(1A)は、基板2と、基板2上に形成されたナノワイヤ層3とを備える。図1Bは、ナノワイヤ層3の側からナノワイヤ構造体1を見た平面図である。なお、図1A及び図1Bでは、個々のナノワイヤの図示を省略している。ナノワイヤ層3は、1又は2以上のナノワイヤを含む層である。ナノワイヤ層3は、厚さ方向に単層である。厚さ方向に単層とは、厚さ方向にはナノワイヤが単層として配置されていること意味する。換言すれば、ナノワイヤ層3では、その厚さ方向に2以上のナノワイヤが重なり合っていない。厚さ方向は、通常、基板2におけるナノワイヤ層3の配置面8に垂直な方向である。なお、本明細書では、厚さ方向にナノワイヤ層3を観察することについて、「ナノワイヤ層3を平面視する」と表現することがある。
【0035】
本明細書においてナノワイヤとは、50nm以下の幅を有する線状体を意味する。ナノワイヤの幅は、40nm以下、30nm以下、25nm以下、20nm以下、15nm以下、12nm以下、10nm以下、7nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2.5nm以下、2nm以下、1.5nm以下、1.2nm以下、さらには1nm以下であってもよい。幅の下限は、例えば、0.2nm以上であり、0.3nm以上であってもよい。ナノワイヤの幅に対する長さの比(アスペクト比)は、例えば50以上であり、100以上、200以上、300以上、400以上、500以上、750以上、さらには1000以上であってもよい。アスペクト比の上限は、例えば10万以下であり、5万以下、さらには1万以下であってもよい。ナノワイヤの長さは、一方の末端から他方の末端までの長さとして特定できる。1又は2以上の接合点をナノワイヤが有する場合は、各接合点から延びる全てのナノワイヤを含めてとりうる末端間の長さのうち最大の長さをナノワイヤの長さとして特定できる。
【0036】
ナノワイヤ層3は、接合(junction)、ループ(loop)、スパイラル(spiral)及び配列(arrangement)からなる群から選択される少なくとも1つのナノワイヤ構造を有している。ナノワイヤ構造は、1又は2以上のナノワイヤを含む構造である。
【0037】
接合は、1つの接合点と、接合点から延びる3以上のナノワイヤとを備える構造を意味する。接合点から延びるナノワイヤの数は、3、4、5又は6であってもよい。ナノワイヤの数は、3以上の奇数でありうる。接合の一例を図2Aに示す。図2A及び後述の図2Bには、ナノワイヤ層3を平面視したときの接合の一例が示されている。図2Aの接合11(11A)では、3つのナノワイヤ4(4A,4B,4C)が接合点5から延びている。接合11Aは、観察される形状に基づき、3分岐接合(three-branched junction)又はY接合(Y-junction)と称することも可能である。接合の別の一例を図2Bに示す。図2Bの接合11(11B)では、4つのナノワイヤ4(4A,4B,4C,4D)が接合点から延びている。接合11Bは、観察される形状に基づき、4分岐接合(four-branched junction)又はX接合(X-junction)と称することも可能である。なお、接合点5では、2以上のナノワイヤ4が厚さ方向に重なりあっているわけではない。厚さ方向に1つのナノワイヤ4について当該ナノワイヤ4の分岐点が接合点5として観察される。ただし、接合点5の厚さは、接合点5から延びているナノワイヤ4の厚さとは相違しうる。
【0038】
本実施形態の接合11では、接合点5から延びる全てのナノワイヤ4は15nm以下の幅を有している。幅は、12nm以下、10nm以下、7nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2.5nm以下、2nm以下、1.5nm以下、1.2nm以下、さらには1nm以下であってもよい。幅の下限は、例えば0.2nm以上であり、0.3nm以上であってもよい。接合点5から延びる少なくとも1つのナノワイヤ4の長さ、好ましくは全てのナノワイヤ4の長さは、50nm以上、100nm以上、150nm以上、200nm以上、250nm以上、500nm以上、750nm以上、1μm以上、1.25μm、1.5μm以上、1.75μm以上、2μm以上、2.5μm以上、さらには3μm以上であってもよい。長さの上限は、例えば10μm以下である。なお、接合点5から延びるナノワイヤ4の長さは、接合点5からナノワイヤ4の末端までの長さとして特定できる。末端に至るまでに別の接合点がある場合は、接合点5から別の接合点までの長さとして特定すればよい。
【0039】
ループは、環状のナノワイヤを含む構造を意味する。ループの一例を図3に示す。図3には、ナノワイヤ層3を平面視したときのループの一例が示されている。図3のループ12は、環状のナノワイヤ4のみからなる。換言すれば、ループ12は分岐を有さなくてもよい。ループ12を構成するナノワイヤ4は、15nm以下の幅を有する。幅は、12nm以下、10nm以下、7nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2.5nm以下、2nm以下、1.5nm以下、1.2nm以下、さらには1nm以下であってもよい。幅の下限は、例えば0.2nm以上であり、0.3nm以上であってもよい。ループ12の環状部を構成するナノワイヤ4の長さは、50nm以上、100nm以上、150nm以上、200nm以上、250nm以上、500nm以上、750nm以上、1μm以上、1.25μm、1.5μm以上、1.75μm以上、2μm以上、2.5μm以上、さらには3μm以上であってもよい。長さの上限は、例えば10μm以下である。図3のループ12の形状は、丸みを帯びた角を持つ三角形である。ただし、ループ12の形状は上記例に限定されず、略円を含む円、略楕円を含む楕円、三角形及び四角形等の多角形、あるいは不定形であってもよい。多角形の角は、丸みを帯びていてもよく、より具体的には、鋭角である頂点を有しなくてもよい。
【0040】
スパイラルの一例を図4に示す。図4には、ナノワイヤ層3を平面視したときのスパイラルの一例が示されている。図4のスパイラル13は、1つのナノワイヤ4から構成される。ただし、スパイラル13の構成は上記例に限定されない。スパイラル13を構成するナノワイヤ4は、15nm以下の幅を有する。幅は、12nm以下、10nm以下、7nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2.5nm以下、2nm以下、1.5nm以下、1.2nm以下、さらには1nm以下であってもよい。幅の下限は、例えば0.2nm以上であり、0.3nm以上であってもよい。スパイラル13を構成するナノワイヤ4の長さは、50nm以上であってもよく、100nm以上、150nm以上、200nm以上、250nm以上、500nm以上、750nm以上、1μm以上、1.25μm、1.5μm以上、1.75μm以上、2μm以上、2.5μm以上、さらには3μm以上であってもよい。長さの上限は、例えば10μm以下である。
【0041】
配列の一例を図5に示す。図5には、ナノワイヤ層3を平面視したときの配列の一例が示されている。図5の配列14では、50nm×50nmの第1の領域Aにおいて5つのナノワイヤ4が互いに離間して延びている。第1の領域Aは、ナノワイヤ層3を平面視したときに正方形の形状を有する。第1の領域Aのサイズは、少なくとも100nm×100nm、少なくとも150nm×150nm、少なくとも200nm×200nm、少なくとも300nm×300nm、少なくとも400nm×400nm、さらには、少なくとも500nm×500nmであってもよい。第1の領域Aにおいて互いに離間して延びるナノワイヤ4の数は、3以上であれば限定されない。50nm×50nmの第1の領域Aにおいて互いに離間して延びるナノワイヤ4の数は、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上又は9以上であってもよい。当該数の上限は、例えば15以下である。図5の配列14では、一つの方向にナノワイヤ4が延びている。ただし、延びる方向は一定でなくてもよい。図6に示す配列14の例では、第1の領域Aにおいて互いに離間して延びる3つのナノワイヤ4は屈曲部7を有している。屈曲部7の前後において各々のナノワイヤ4の延びる方向は変化する。延びる方向の変化の程度は、屈曲点10を経る前にナノワイヤ4が延びる方向D1と屈曲点10を経た後にナノワイヤ4が延びる方向D2とが成す角度θ(図6、及び、屈曲の例(a),(b)を示す図7を参照)により表示して、例えば10~80度であり、30~70度、さらには45~65度であってもよい。また、図6に示すように、屈曲部7に含まれる各ナノワイヤ4の屈曲点10は、ナノワイヤ層3を平面視したときに1つの仮想の直線L上に位置していてもよい。
【0042】
第1の領域Aにおいて、隣接するナノワイヤ4の平均間隔Apは30nm以下である。平均間隔Apは、25nm以下、20nm以下、15nm以下、10nm以下、8nm以下、6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、さらには2nm以下であってもよい。平均間隔Apの下限は、例えば0.5nm以上である。
【0043】
第1の領域Aにおいて、隣接するナノワイヤ4の間隔の変動は、(I)平均間隔Apに対する最大間隔と最小間隔との差Dpの比Dp/Apにより表して0.3以下、及び、(II)上記差Dpにより表して1nm以下、からなる群から選択される少なくとも1つの状態にある。比Dp/Apは、0.25以下、0.2以下、0.15以下、0.1以下、0.08以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下、さらには0.01以下であってもよい。比Dp/Apの下限は、例えば0.001以上である。差Dpは、0.9nm以下、0.8nm以下、0.7nm以下、0.6nm以下、さらには0.5nm以下であってもよい。差Dpの下限は、例えば0nm以上であり、0.05nm以上、さらには0.1nm以上であってもよい。
【0044】
配列14に含まれる3以上のナノワイヤ4の幅は15nm以下であってもよく、12nm以下、10nm以下、7nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2.5nm以下、2nm以下、1.5nm以下、1.2nm以下、さらには1nm以下であってもよい。幅の下限は、例えば、0.2nm以上であり、0.3nm以上であってもよい。
【0045】
配列14に含まれる少なくとも1つのナノワイヤ4の長さは、100nm以上であってもよく、150nm以上、200nm以上、250nm以上、500nm以上、750nm以上、1μm以上、1.25μm、1.5μm以上、1.75μm以上、2μm以上、2.5μm以上、さらには3μm以上であってもよい。長さの上限は、例えば10μm以下である。配列14に含まれる全てのナノワイヤ4の長さが上記の各範囲にあってもよい。配列14に含まれるナノワイヤ4は、上記の幅及び長さを共に有しうる。
【0046】
配列14は、長さ100nm以上、好ましくは200nm以上、より好ましくは300nm以上、さらに好ましくは500nm以上、特に好ましくは700nm以上、にわたって互いに離間して延びる3以上のナノワイヤ4を含んでいてもよい。
【0047】
第1の領域Aは、ナノワイヤ構造として配列14のみを有していてもよい。
【0048】
接合11、ループ12、スパイラル13及び配列14から選ばれる少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤ4の幅の変動は、(i)長さ50nmの区間を観察したときの平均幅Awに対する最大幅と最小幅との差Dwの比Dw/Awにより表して0.3以下、及び、(ii)上記差Dwにより表して1nm以下、からなる群から選択される少なくとも1つの状態にあってもよい。比Dw/Awは、0.25以下、0.2以下、0.15以下、0.1以下、0.08以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下、さらには0.01以下であってもよい。比Dw/Awの下限は、例えば0.001以上である。差Dwは、0.9nm以下、0.8nm以下、0.7nm以下、0.6nm以下、さらには0.5nm以下であってもよい。差Dwの下限は、例えば0nm以上であり、0.05nm以上、さらには0.1nm以上であってもよい。
【0049】
スパイラル13において、巻回されているナノワイヤ4の間の平均間隔Apは30nm以下であってもよく、25nm以下、20nm以下、15nm以下、10nm以下、8nm以下、6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、さらには2nm以下であってもよい。平均間隔Apの下限は、例えば0.5nm以上である。
【0050】
スパイラル13において、巻回されているナノワイヤ4の間の間隔の変動は、(I)平均間隔Apに対する最大間隔と最小間隔との差Dpの比Dp/Apにより表して0.3以下、及び、(II)上記差Dpにより表して1nm以下、からなる群から選択される少なくとも1つの状態にあってもよい。比Dp/Apは、0.25以下、0.2以下、0.15以下、0.1以下、0.08以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下、さらには0.01以下であってもよい。比Dp/Apの下限は、例えば0.001以上である。差Dpは、0.9nm以下、0.8nm以下、0.7nm以下、0.6nm以下、さらには0.5nm以下であってもよい。差Dpの下限は、例えば0nm以上であり、0.05nm以上、さらには0.1nm以上であってもよい。
【0051】
上記少なくとも1つのナノワイヤ構造は、ナノワイヤ層3の拡大観察によって確認できる。観察は、ナノワイヤ層3を平面視するように実施してもよい。観察には、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡、走査型トンネル顕微鏡(STM)等の公知の拡大観察装置を利用できる。特にSTMは、ナノワイヤ層3に対する高解像度の解析、及び、ナノワイヤ層3の断面の解析に適している。ナノワイヤ4の長さ及び幅、並びに隣接するナノワイヤ4の間隔の評価は、10万倍~40万倍、好ましくは20万倍~25万倍の倍率による観察が適している。ナノワイヤ4の長さ及び幅、並びに隣接するナノワイヤ4の間隔は、拡大観察像を画像処理することで評価してもよい。
【0052】
隣接するナノワイヤ4の平均間隔Apは、以下の手順に従って評価できる。(1)取得した拡大観察像上の評価領域、例えば第1の領域A、に含まれる少なくとも3つのナノワイヤ4について、各々、3以上の評価ポイントを選定する。ただし、1つのナノワイヤ4について選定する各評価ポイントは、当該ナノワイヤ4の経路上を互いに10nm離れるようにする。(2)選定した評価ポイントにおいて当該ナノワイヤ4に最近接しているナノワイヤ4までの距離を測定する。測定する距離は、中心線間距離とする。(3)測定した距離の平均値を平均間隔Apとして定める。なお、隣接するナノワイヤ4の最大間隔及び最小間隔は、それぞれ、取得した拡大観察像上の評価領域、例えば第1の領域A、に含まれる全ての隣接するナノワイヤ4の間隔(中心線間距離)のうち、最大の間隔と最小の間隔として定めることができる。
【0053】
ナノワイヤ4の平均幅Awは、取得した拡大観察像に含まれる評価対象のナノワイヤ4について6つの評価ポイントを選定し、選定した評価ポイントにおける幅の平均値として定めることができる。ただし、選定する評価ポイントは、当該ナノワイヤ4の経路上を互いに10nm離れるようにする。また、最大幅及び最小幅は、選定した6つの評価ポイントのうち、ナノワイヤ4の経路上を互いに最も離れた評価ポイント間の区間におけるナノワイヤ4の最大幅及び最小幅として定めることができる。
【0054】
ナノワイヤ4は、結晶構造を有していてもよく、単結晶構造を有していてもよい。単結晶構造を有するナノワイヤ4の内部では、ファンデルワールス力によって原子が結合した状態にある。これに対して、単結晶構造を有するナノワイヤ4とその外部との間、及び、単結晶構造を有する一つのナノワイヤ4とこれに接する別のナノワイヤとの間では、通常、ファンデルワールス力による原子の結合は生じていない。
【0055】
単結晶構造を有するナノワイヤ4の幅の方向と、単結晶構造の単位格子が有するいずれかの結晶軸が延びる方向が一致していてもよい。また、このとき、ナノワイヤ4は、上記結晶軸の長さの整数倍の幅を有していてもよい。整数倍の例は、1倍、2倍、3倍、4倍又は5倍である。
【0056】
ナノワイヤ4の高さは、例えば5nm以下であり、4nm以下、3nm以下、2.5nm以下、2nm以下、1.5nm以下、1.2nm以下、1nm以下、0.9nm以下、0.8nm以下、0.7nm以下、0.6nm以下、さらには0.5nm以下であってもよい。高さの下限は、例えば0.1nm以上であり、0.15nm以上、さらには0.2nm以上であってもよい。ナノワイヤ4及び後述のベース部6の高さは、基板2におけるナノワイヤ層3の配置面8を基準面として特定できる。なお、ナノワイヤ4及びベース部6の高さは、それぞれ、ナノワイヤ4及びベース部6の厚さと言い換えることもできる。接合11について、接合点5におけるナノワイヤ4の高さは、接合点5から延びるナノワイヤ4の高さの1.1倍以上2.5倍以下であってもよい。下限は、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、さらには1.5倍以上でありうる。上限は、2.2倍以下、2倍以下、1.7倍以下、さらには1.5倍以下でありうる。ナノワイヤ4及びベース部6の高さは、例えば、STMを用いたナノワイヤ層3の断面解析により評価できる。
【0057】
単結晶構造を有するナノワイヤ4の高さは、当該結晶の単位格子における高さ方向の長さを1ユニットとして、3ユニット以下であってもよく、2.5ユニット以下、2ユニット以下、1.5ユニット以下、さらには1ユニット以下であってもよい。単位格子における高さ方向は、単位格子が有するいずれかの結晶軸の方向であってもよい。
【0058】
ナノワイヤ層3の厚さは、ナノワイヤ層3に含まれるナノワイヤ4の最大高さとして定めることができる。ナノワイヤ層3の厚さは、例えば5nm以下であり、4nm以下、3nm以下、2.5nm以下、2nm以下、1.5nm以下、1.2nm以下、1nm以下、0.9nm以下、0.8nm以下、0.7nm以下、0.6nm以下、さらには0.5nm以下であってもよい。厚さの下限は、例えば0.1nm以上であり、0.15nm以上、さらには0.2nm以上であってもよい。
【0059】
ナノワイヤ層3は、上記少なくとも1つのナノワイヤ構造に含まれるナノワイヤ4の側面に接するベース部を有していてもよい。図8Aは、配列14を有するナノワイヤ層3の一例を示す平面図及び部分拡大図である。図8Bには、図8Aの部分拡大図における断面8B-8Bが示されている。図8A及び図8Bのナノワイヤ層3は、複数のナノワイヤ4と、各々のナノワイヤ4の側面9が接するベース部6(部分拡大図においては斜線にて表記)を有している。ベース部6は、隣接するナノワイヤ4の間の空間を占めている。ベース部6は、ナノワイヤ4に含まれる第1の材料と同じ組成を有するが相の状態が異なる第2の材料を含んでいてもよい。相の状態は、例えば、結晶の状態である。ナノワイヤ4が結晶構造を有しており、ベース部6が非結晶構造、例えばアモルファス構造、を有していてもよい。
【0060】
ベース部6の高さは、例えば0.5nm以下であり、0.4nm以下、0.3nm以下、さらには0.2nm以下であってもよい。高さの下限は、例えば0.1nm以上である。ベース部6の高さは、ナノワイヤ4の高さに比べて低くてもよい。ベース部6の高さは、ナノワイヤ4の高さを基準としたときに、例えば80%以下であってもよく、70%以下、60%以下、50%以下、さらには40%以下であってもよい。
【0061】
ナノワイヤ層3は、一辺100nm以上の正方形状を有すると共に、接合11が観察されない第2の領域を有していてもよい。第2の領域は、ループ12、スパイラル13及び配列14からなる群から選択される少なくとも1つのナノワイヤ構造を有していてもよく、配列14を有していてもよい。第2の領域の一辺は、200nm以上、300nm以上、400nm以上、さらには500nm以上であってもよい。第1の領域Aと第2の領域とは重複していてもよい。
【0062】
ナノワイヤ層3は、一辺100nm以上の正方形状を有すると共に、ナノワイヤ4が観察されない第3の領域を有さなくてもよい。第3の領域の一辺は、200nm以上、300nm以上、400nm以上、さらには500nm以上であってもよい。
【0063】
ナノワイヤ4は、一次元結晶構造を有する遷移金属化合物を含んでいてもよい。一次元結晶構造とは、特定の一方向に特異的に延びた結晶構造を意味する。例えば、後述のハロゲン化ルテニウムは、c軸の方向に特異的に延びた結晶構造をとりうる。
【0064】
ナノワイヤ4は、一次元結晶から構成されていてもよい。ナノワイヤ4を構成しうる一次元結晶は、一次元単結晶であってもよい。
【0065】
ナノワイヤ4は、遷移金属のハロゲン化物(以下、TMXと記載)又はカルコゲン化合物を含んでいてもよい。TMXに含まれる遷移金属の例は、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Tc,Ru,Pd,Ta,W,Re,Os及びPtである。遷移金属は、V,Cr,Mn,Fe,Ni,Mo,Tc,Ru,Pd,Ta,Re及びPtからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、V,Fe,Ni,Tc,Ru,Pd,Ta,及びPtからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、V,Ni及びRuからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。TMXに含まれるハロゲンの例は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素である。ハロゲンは、フッ素及び塩素からなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、塩素であってもよい。TMXは、一次元結晶構造をとりうる化合物であってもよい。例えば、ハロゲン化ルテニウムは、一次元結晶構造をとりうる。カルコゲン化合物に含まれる遷移金属の例は、TMXに含まれる例と同じである。カルコゲン化合物に含まれるカルコゲンの例は、酸素、硫黄、セレン、テルル及びポロニウムであり、硫黄、セレン及びテルルからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0066】
TMXは、ハロゲン化ルテニウムであってもよい。ハロゲン化ルテニウムは、フッ化ルテニウム、塩化ルテニウム及び臭素化ルテニウムからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、フッ化ルテニウム及び塩化ルテニウムからなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、塩化ルテニウム(RuCl3)であってもよい。塩化ルテニウムを含むナノワイヤ4は、塩化ルテニウムの一次元結晶(以下、β-RuCl3と記載)を含んでいてもよい。また、このとき、ベース部6は、塩化ルテニウムのアモルファス(以下、a-RuCl3と記載)を含んでいてもよい。β-RuCl3の結晶構造を図9に示す。図9に示すように、β-RuCl3の結晶構造はc軸方向に特異的に延びている。なお、塩化ルテニウムは、電子-電子相互作用によってギャップが開くモット絶縁体であると共に、ワイドギャップ半導体に匹敵するバンドギャップを有している。
【0067】
ナノワイヤ4は、強磁性体又は反強磁性体を含んでいてもよい。強磁性体又は反磁性体は、遷移金属のハロゲン化物であってもよい。
【0068】
本実施形態の基板2におけるナノワイヤ層3の配置面8はグラフェン層を含む。配置面8がグラフェン層を含む基板2の例は、グラファイト基板である。グラファイト基板の一例は、高配向性グラファイト(HOPG)基板である。炭化ケイ素(SiC)等の他の材料の層とグラフェン層とを含み、配置面8がグラフェン層により構成される基板2であってもよい。ただし、ナノワイヤ層3を配置しうる限り、基板2は上記例に限定されない。基板2は、例えば、チタン酸化物基板、サファイア等のアルミナ基板、SiO2等の酸化ケイ素基板であってもよい。
【0069】
基板2の配置面8は導電性を有していてもよい。導電性を有する配置面8は、例えば1.0×103Ω/□以下、好ましくは5.0×102Ω/□以下、より好ましくは1.0×102Ω/□以下、特に好ましくは50Ω/□以下の表面抵抗率を有する面として特定できる。表面抵抗率は4端子法により評価できる。
【0070】
ナノワイヤ構造体1は、基板2及びナノワイヤ層3以外のさらなる層を備えていてもよい。さらなる層の例は、保護層である。保護層は、例えば、ナノワイヤ層3上に配置されて、外部環境からナノワイヤ層3を保護する機能を有する。保護層の材質は、例えば、アルミナやSiO2等の無機酸化物である。保護層は絶縁層であってもよい。さらなる層及び保護層は、上記例に限定されない。
【0071】
ナノワイヤ構造体1は、例えば、ナノワイヤ4に含まれる材料を基板2の配置面8に対してパルスレーザー堆積法(PLD)により堆積させることで製造できる。ナノワイヤ4に含まれうる材料は、上述のとおりである。レーザーを照射するターゲットは、ナノワイヤ4に含まれる材料の結晶体であってもよく、単結晶体であってもよい。PLDの実施前に配置面8を前処理してもよい。前処理の例は、不純物を配置面8から除去するための熱処理である。熱処理の条件は、例えば、温度350~450℃及び時間5~60分である。前処理は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下、又は、圧力1×10-3Pa以下の真空雰囲気下で実施してもよい。PLDは、チャンバーに収容した基板2に対して実施できる。堆積中のチャンバーは、圧力1×10-3Pa以下、例えば1×10-3~1×10-7Pa程度、の真空雰囲気に維持することができる。レーザーには、パルスレーザーを使用できる。パルスレーザーは、ナノ秒レーザーが好ましい。レーザーの例は、近赤外レーザー、可視光レーザー及び紫外レーザーである。PLDを実施する基板の温度(以下、基板温度と記載)は、例えば300~500℃であり、350~450℃、さらには350~400℃であってもよい。
【0072】
ナノワイヤ構造体1が形成される過程の一例(図10参照)では、PLDによる上記材料の堆積が進行するにしたがって、基板2の上に上記材料のアモルファスの薄膜21が形成される。その後、堆積をさらに進行させると、薄膜21の一部が結晶化することでナノワイヤ4が形成される。薄膜21において結晶化しなかった部分は、ベース部6として残留しうる。本発明者らの検討によれば、形成されるナノワイヤ4の形態は、堆積条件によって変化しうる。ナノワイヤ4の形態を変化させる堆積条件の例は、堆積の程度及び基板温度である。堆積の程度は、例えば、レーザーの照射パルス数及び出力によって制御できる。照射パルス数を制御した一例を図11に示す。図11の例では、照射パルス数を増加させるにしたがって、形成されるナノワイヤ4の数が増えると共に、隣接するナノワイヤ4の間隔及び間隔の変動は小さくなる。レーザーの出力を変化させた場合も同様である。基板の温度を変化させた場合は、例えば、ナノワイヤ4の幅が変化する。PLDによるナノワイヤ4及びナノワイヤ層3の形成には、自己組織化プロセスの1種であるチューリング機構(チューリング不安定性)が関与している可能性がある。チューリング機構は、反応拡散過程の1種である。
【0073】
ナノワイヤ構造体1の製法は、上記例に限定されない。
【0074】
(実施形態2)
本実施形態のナノワイヤ構造体の一例を図12A及び図12Bに示す。図12A及び図12Bのナノワイヤ構造体1(1B)は、基板2と、基板2上に形成されたナノワイヤ層3とを備える。図12Bは、ナノワイヤ層3の側からナノワイヤ構造体1Bを見た平面図、及び、ナノワイヤ層3の部分拡大図である。ナノワイヤ層3は、厚さ方向に単層である。また、ナノワイヤ層3は、長さ1μm以上及び幅15nm以下のナノワイヤ4(4E)を含む。ナノワイヤ4Eの幅の変動は、(i)長さ50nmの区間を観察したときの平均幅Awに対する最大幅と最小幅との差Dwの比Dw/Awにより表して0.3以下、及び、(ii)上記差Dwにより表して1nm以下、からなる群から選択される少なくとも1つの状態にある。図12Bのナノワイヤ4Eは、屈曲点10を有する。ナノワイヤ4Eの長さは、1.25μm、1.5μm以上、1.75μm以上、2μm以上、2.5μm以上、さらには3μm以上であってもよい。長さの上限は、例えば10μm以下である。ナノワイヤ4Eの幅は、12nm以下、10nm以下、7nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2.5nm以下、2nm以下、1.5nm以下、1.2nm以下、さらには1nm以下であってもよい。幅の下限は、例えば0.2nm以上であり、0.3nm以上であってもよい。ナノワイヤ4Eの比Dw/Awは、0.25以下、0.2以下、0.15以下、0.1以下、0.08以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下、さらには0.01以下であってもよい。比Dw/Awの下限は、例えば0.001以上である。ナノワイヤ4Eの差Dwは、0.9nm以下、0.8nm以下、0.7nm以下、0.6nm以下、さらには0.5nm以下であってもよい。差Dwの下限は、例えば0nm以上であり、0.05nm以上、さらには0.1nm以上であってもよい。
【0075】
ナノワイヤ4Eは、ナノワイヤ層3が有しうるナノワイヤ構造である接合11、ループ12、スパイラル13及び配列14からなる群から選択される少なくとも1つ、例えば配列14、に含まれていてもよい。上記少なくとも1つのナノワイヤ構造については、実施形態1で説明したとおりである。
【0076】
本実施形態のナノワイヤ層3は、ナノワイヤ4Eを含む限り、実施形態1で述べたナノワイヤ層3と同様の構成を有しうる。例えば、ナノワイヤ層3は、ナノワイヤ4Eの側面9に接するベース部6を有し、ベース部6は、ナノワイヤ4Eに含まれる第1の材料と同じ組成を有するが相の状態が異なる第2の材料を含んでいてもよい。
【0077】
本実施形態のナノワイヤ4Eは、上記長さ、幅及び幅の変動が満たされる限り、実施形態1で述べたナノワイヤ4と同様の構成を有しうる。例えば、ナノワイヤ4Eは単結晶構造を有していてもよい。また、単結晶構造を有するナノワイヤ4Eでは、ナノワイヤ4Eの幅の方向と単結晶構造の単位格子が有するいずれかの結晶軸が延びる方向とが一致しており、ナノワイヤ4Eは上記結晶軸の長さの整数倍の幅を有していてもよい。また、例えば、ナノワイヤ4Eは、一次元結晶構造を有する遷移金属化合物を含んでいてもよいし、遷移金属のハロゲン化物、例えばハロゲン化ルテニウム、を含んでいてもよい。
【0078】
本実施形態の基板2は、実施形態1で述べた基板2と同様の構成を有しうる。例えば、基板2におけるナノワイヤ層3の配置面8は、グラフェン層を含んでいてもよい。
【0079】
本実施形態のナノワイヤ構造体1Bは、実施形態1で述べた方法により製造できる。なお、配列11が形成される条件において、ナノワイヤ4Eは形成されやすい傾向にある。ただし、ナノワイヤ構造体1Bの製法は、上記方法に限定されない。
【0080】
[用途]
ナノワイヤ構造体1は、例えば、以下の用途に使用できる。ただし、ナノワイヤ構造体1の用途は、下記の例に限定されない。
【0081】
ナノワイヤ4には、半導体量子効果及び結晶量子効果等の量子効果が発現する可能性がある。これに着目すると、ナノワイヤ構造体1を量子効果デバイス(Quantum Effect Device)又はその構成部材として使用することが考えられる。換言すると、ナノワイヤ構造体1は、量子効果デバイス又はその構成部材に含まれうる。量子効果デバイスの一例は、量子コンピュータである。構成部材の一例は、量子計算チップ及びその内部回路である。量子効果デバイス又はその構成部材として使用しうるナノワイヤ構造体1の一例を図13に示す。図13のナノワイヤ構造体1は、基板2と、基板2上に形成されたナノワイヤ構造として接合11とを備えている。図13の接合11は、3分岐接合である。接合11は、4分岐接合であってもよい。接合11の接合点5から延びる各ナノワイヤ4の幅は15nm以下であり、実施形態1で述べた好ましい範囲にあってもよく、長さは、例えば3~100nmである。図13の接合11では、接合点5における電子の励起状態をマヨラナ粒子(Majorana particle)として記述できる可能性がある。同様に、基板2上に形成されたナノワイヤ構造としてループ12やスパイラル13を備える場合においても、量子効果デバイス又はその構成部材としての使用が考えられる。量子効果デバイス又はその構成部材としての使用においては、ナノワイヤ4が強磁性体又は反強磁性体を含むことが好ましい。強磁性体はイジング強磁性体であってもよい。
【0082】
ナノワイヤ4は、15nm以下の幅を有しうる。これに着目し、微細加工のマスクとしてナノワイヤ4を利用することが考えられる。例えば、ナノワイヤ4をマスクとして基板2をエッチング加工することにより、ナノワイヤ4の形状に対応する形状を有する基板2の微細加工体を得ることができる(図14参照)。図14の例は、さらなる別の基板31と、基板31上に配置されたグラフェンナノ構造体32とを含む積層体である。グラフェンナノ構造体32は、ナノワイヤ4をマスクに使用したグラフェン基板の微細加工により形成できる。基板31の例は、超電導基板である。グラフェン基板の微細加工にはエッチング、例えばアルゴンエッチング、を利用できる。グラフェンナノ構造体32についても、量子効果デバイス又はその構成部材としての使用が考えられる。グラフェンナノ構造体32をマスクとするさらなる微細加工によって、イジング磁性体等の強磁性体又は反強磁性体の微細加工体を得ることも可能である。換言すれば、ナノワイヤ4及びナノワイヤ構造体1は、グラフェン、強磁性体及び反強磁性体を含む各種の材料のナノ構造体の製造に利用できる。製造されるナノ構造体は、接合、ループ、スパイラル及び配列からなる群から選択される少なくとも1種のナノ構造を有しうる。
【0083】
[ナノ回路]
本実施形態のナノ回路は、例えば、実施形態1及び/又は実施形態2のナノワイヤ構造体1を備える。本明細書においてナノ回路とは、ナノメートルサイズ及びそれよりもやや大きい幅、具体的には15nm以下の幅、を有する配線を有する回路を意味する。ナノ回路における配線間の平均間隔は、例えば30nm以下であり、20nm以下、10mm以下、さらには5nm以下であってもよい。ナノ回路の一例が備えるナノワイヤ層3は、ナノワイヤ構造として配列14を有する。ナノ回路が含みうる配列14では、例えば、10以上30以下程度のナノワイヤ4が50nm×50nmの領域に互いに離間して延びている。配列14に含まれるナノワイヤ4は、互いに電気的に絶縁されていてもよい。ただし、ナノ回路は、上記例に限定されない。接合11を有するナノワイヤ層3を含むナノ回路であってもよく、当該ナノ回路は、例えば、分配回路としての使用が考えられる。ナノ回路は、所望の回路構造を有する領域をナノワイヤ構造体1上に確定し、当該領域の微細加工、例えば切り出し加工、により形成できる。ただし、ナノ回路の形成方法は、この例に限定されない。
【実施例0084】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す具体的な態様に限定されない。
【0085】
本実施例では、PLDによってナノワイヤ構造体を作製した。基板には、HOPG基板、及び、単層のグラフェン層を表面に有する炭化ケイ素(SiC)基板を準備した。HOPG基板については、PLDを実施する前に、劈開によって新たな表面を露出させると共に400℃及び15分の熱処理を実施した。SiC基板のグラフェン層は、熱分解法により形成した。PLDのターゲットには、化学気相輸送法により合成したRuCl3単結晶を使用した。PLDは、チャンバーの内部を圧力1×10-5Paの真空雰囲気に保持した状態で実施した。レーザーには、波長1064nm及び出力81mJのナノ秒パルスレーザー(周期16-18ナノ秒)を使用した。ターゲットに照射するレーザーの強度は、アッテネーターにより調整した。PLDを実施する際の基板温度は350~400℃とした。なお、同じ条件のPLDにより形成した厚膜がRuCl3結晶から構成されることを、X線回折分析により別途確認した。
【0086】
上記手法により作製したナノワイヤ構造体におけるナノワイヤ層の表面は、STMのトポグラフィー像により観察した。STMには、ユニソク社製超高真空STMを使用し、観察は温度78Kで実施した。STMのチップには、電気化学的にエッチングしたタングステンワイヤーを使用した。タングステンワイヤーには、電子ビーム加熱により洗浄し、Si(111)面上に蒸着させたAg(111)面上でコンディショニングしたものを用いた。2Vのバイアス電圧は、ナノワイヤ構造体の基板に印加した。トポグラフィー像は、全て定電流モードで撮影した。電流値は、30pA又は50pAとした。差動コンダクタンスは、変調電圧を20mVとする973Hzでの標準的なロックイン法により測定した。
【0087】
(観察結果)
図15A及び図15Bに、HOPG基板を用い、基板温度を400℃として作製したナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像を示す。なお、図15A及び図15Bは、拡大倍率が異なる。図15Aに示すように、作製したナノワイヤ層に含まれるナノワイヤは、周期的に並んだ原子により構成される単結晶構造を有していた。また、ナノワイヤの結晶構造は、幅方向に4列のRuCl3単位格子が並ぶと共に、当該単位格子のc軸方向に特異的に延びた一次元結晶構造であった。ナノワイヤの幅は、RuCl3単位格子のa軸の長さの4倍であった。なお、基板温度を380℃とした場合には、幅方向に2列のRuCl3単位格子が並んだ一次元結晶構造を有するナノワイヤが形成された(図15Aの右下枠内を参照)。このとき、ナノワイヤの幅は、RuCl3単位格子のa軸の長さの2倍であった。ナノワイヤはナノワイヤ層の厚さ方向には堆積及び凝集しておらず、すなわち、作製されたナノワイヤ層は単層であった。
【0088】
図15Bに示すように、ナノワイヤ構造として接合及び配列がナノワイヤ層に観察された。接合としては、3分岐接合及び4分岐接合が観察された(円により囲まれた部分を参照)。また、配列には屈曲部が観察された(矢印を参照)。図15Bにおいて観察される全てのナノワイヤは3nm以下の幅を有しており、全てのナノワイヤの幅の変動は比Dw/Awにより表して0.1以下であった。また、10のナノワイヤが互いに離間して延びており、隣接するナノワイヤの間隔は5nm以下であり、間隔の変動が比Dp/Apにより表して0.1以下である、50nm×50nmの第1の領域が観察された(正方形により囲まれた部分を参照)。長さ250nm以上にわたって互いに離間して延びる3以上のナノワイヤを含む第1の領域も観察された。
【0089】
図15Bのナノワイヤ層では、ナノワイヤの側面に接するベース部が観察された。図15Bにおける淡色の部分がナノワイヤに、濃色の部分がベース部に対応する。ベース部をさらに拡大しても周期的な格子構造は見られず(図15C参照)、すなわち、ベース部はRuCl3のアモルファス(a-RuCl3)により構成されることが確認された。
【0090】
図14Dに、グラフェン層を有するSiC基板を用い、基板温度を400℃として作製したナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像を示す。図14Dに示すように、グラフェン層の表面には凹部が存在していたが、凹部の表面に沿うようにナノワイヤが延びていることが確認された。凹部の表面に沿うようにナノワイヤが延びていること、及び、RuCl3の単位格子におけるc軸方向の長さと、炭素原子のハニカム格子における格子定数及びその整数倍とが一致しないことから、ナノワイヤの形成にとってHOPGやグラフェン層とのエピタキシャルな結合が必須ではないことが確認された。なお、配置面がHOPGであるかグラフェン層であるかによることなく、同じPLDの条件では、同程度の幅、幅の変動及び間隔の変動を有するナノワイヤが形成された。
【0091】
STMを用いたナノワイヤ層の断面解析によれば、ナノワイヤの高さは0.5nmであり、作製したナノワイヤ層の全体にわたってほぼ一定であった。この高さは、RuCl3の単位格子におけるb軸方向の長さとほぼ一致していた。一方、ベース部の高さは、作製したナノワイヤ層の全体にわたって0.2nmであった。
【0092】
図16に、作製した別のナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像を示す。基板はHOPG基板、基板温度は400℃であった。図16のナノワイヤ層は、厚さ方向に単層であると共に、以下の特徴を有していた。
・およそ1μm×0.7μmの範囲にわたって、ナノワイヤが充填された構造が観察された。
・観察される全てのナノワイヤは3nm以下の幅を有していた。
・10のナノワイヤが互いに離間して延びており、隣接するナノワイヤの間隔は5nm以下であり、間隔の変動が比Dp/Apにより表して0.1以下である、100nm×100nmの第1の領域が観察された。
・第1の領域は、長さ350nm以上にわたって互いに離間して延びる3以上のナノワイヤを含んでいた。
・3μm以上の長さを有すると共に、長さ50nmの区間を観察したときの比Dw/Awにより表して0.1以下の幅の変動を有するナノワイヤを含んでいた(図16の太線部を参照)。
・一辺100nm以上の正方形状を有すると共に、接合が観察されない第2の領域を有していた。
・一辺100nm以上の正方形状を有すると共に、ナノワイヤが観察されない第3の領域は有していなかった。
【0093】
図17A図17Dに、作製した別のナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像を示す。基板はHOPG基板、基板温度は400℃であった。図17A図17Dに示す各ナノワイヤ層では、PLDにおいて照射したレーザーの出力及び照射パルス数が異なる。出力及び照射パルス数から算出した照射強度が少ない順に、図17A図17B図17C及び図17Dである。図17A図17Dに示すように、PLDの条件によって隣接するナノワイヤの間隔を制御できることが確認された。具体的には、照射パルス数の制御によって、25nm(図17A)から1.5nm(図17D)まで間隔が変化した。なお、隣接するナノワイヤの間隔が大きくなる条件ほど、ループ及び接合が形成される傾向にあった。
【0094】
図18に、作製した別のナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像を示す。基板はHOPG基板、基板温度は400℃であった。図18のナノワイヤ層では、分岐を有さないループ、3分岐接合及び4分岐接合が観察された(円により囲まれた部分及び正方形により囲まれた部分を参照)。図18において観察される全てのナノワイヤの幅は3nm以下、幅の変動は、長さ50nmの区間を観察したときの比Dw/Awにより表して0.1以下であった。図19に、図18のナノワイヤ層において観察された4分岐接合の高さ方向のプロファイルを示す。図19における符号1~3は、図18の右上に示された4分岐接合の拡大図における断面1~3に対応する。図19に示すように、接合点におけるナノワイヤの高さは、接合点から延びるナノワイヤの高さの1.4倍であった。また、接合点においても単結晶構造が維持されていた。
【0095】
図20に、作製した別のナノワイヤ層のSTMトポグラフィー像を示す。基板はHOPG基板、基板温度は400℃であった。図20のナノワイヤ層は、スパイラルを有していた。スパイラルを構成するナノワイヤの幅は3nm以下、幅の変動は、長さ50nmの区間を観察したときの比Dw/Awにより表して0.1以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のナノワイヤ構造体は、例えば、ナノワイヤ特有の微細な形状に基づく用途に使用できる。考えられる用途の例は、量子効果デバイス又はその構成部材、及び、微細加工用のマスク、並びにナノ回路である。
【符号の説明】
【0097】
1、1A、1B ナノワイヤ構造体
2 基板
3 ナノワイヤ層
4、4A、4B、4C、4D、4E ナノワイヤ
5 接合点
6 ベース部
7 屈曲部
8 配置面
9 側面
11 接合
12 ループ
13 スパイラル
14 配列
A 第1の領域
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16
図17A
図17B
図17C
図17D
図18
図19
図20