(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103329
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02B 19/16 20060101AFI20240725BHJP
F02B 19/18 20060101ALI20240725BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240725BHJP
F02M 61/14 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
F02B19/16 H
F02B19/18 Z
F02B19/18 B
F02M21/02 G
F02M21/02 301R
F02M61/14 310U
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007603
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】宮本 世界
【テーマコード(参考)】
3G023
3G066
【Fターム(参考)】
3G023AA02
3G023AA05
3G023AB03
3G023AC05
3G023AC07
3G023AD27
3G023AD28
3G066AA02
3G066AD13
3G066BA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】拡散燃焼を実現できる副室式の内燃機関について、燃料噴射弁の仕様変更に柔軟に対応することが容易な構成を提供する。
【解決手段】内側に主燃焼室(3)を形成するシリンダ(5)と、シリンダ(5)内を往復するピストン(7)と、主燃焼室(3)に燃料(F1)を噴射する燃料噴射弁(9)と、主燃焼室(3)に隣接して設けられた副室(13)と、を備える内燃機関(1)において、副室(13)は、主燃焼室(3)において、噴孔(33)を介して噴射するトーチ火炎(TF)により、燃料噴射弁(9)から噴射された主燃料(F1)に着火するように配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に主燃焼室を形成するシリンダと、
前記シリンダ内を往復するピストンと、
前記主燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記主燃焼室に隣接して設けられ、前記主燃焼室において、噴孔を介して噴射するトーチ火炎により、前記燃料噴射弁から噴射された前記燃料に着火するように配置された副室と、
を備える、内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関において、
前記燃料噴射弁が円筒状に形成されており、前記燃料噴射弁が、当該燃料噴射弁の周方向に複数配置された燃料噴射孔を有しており、
前記副室は、前記副室からのトーチ火炎が、複数の前記燃料噴射孔の各燃料噴射孔から噴射された前記燃料に着火するように配置されている、
内燃機関。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関において、
複数の前記燃料噴射孔が、前記周方向に等間隔に配置されている、
内燃機関。
【請求項4】
請求項2または3に記載の内燃機関において、
前記副室が、前記燃料噴射孔よりも少数の前記噴孔を有しており、
少なくとも1つの前記噴孔が、当該少なくとも1つの前記噴孔を介して噴射されるトーチ火炎が複数の前記燃料噴射孔から噴射された燃料に着火するように配置されている、
内燃機関。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関において、
前記少なくとも1つの噴孔が、
当該噴孔の軸心と、複数の前記燃料噴射孔のうちの当該噴孔に近い第1の燃料噴射孔の軸心との距離をL1とし、前記第1の燃料噴射孔よりも遠くに位置する第2の燃料噴射孔の軸心との距離をL2とした場合、L1>L2となるように配置されている、
内燃機関。
【請求項6】
請求項2または3に記載の内燃機関において、
前記副室が、前記燃料噴射弁側に位置する第1の噴孔と、前記燃料噴射弁と反対側に位置する第2の噴孔とを有しており、
前記第1の噴孔の孔径が、前記第2の噴孔の孔径よりも大きい、
内燃機関。
【請求項7】
請求項1または2に記載の内燃機関において、
前記燃料が、水素含有ガスである、
内燃機関。
【請求項8】
請求項1または2に記載の内燃機関において、
前記副室は、前記副室の前記噴孔の周壁面を前記主燃焼室側に延長した仮想内周面によって画される第1の空間が、前記燃料噴射弁の前記燃料噴射孔の周壁面を前記主燃焼室側に延長した仮想内周面によって画される第2の空間の少なくとも一部と重複するように配置されている、
内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、副室式の内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば水素ガスのような反応速度の大きい燃料ガスを内燃機関の主燃料として用いる場合、燃焼形態として、効率や窒素酸化物の排出量等の観点から、拡散燃焼が適していることが知られている。拡散燃焼を実現するため、例えば特許文献1では、拡散燃焼用の燃料噴射弁から噴射した燃料ガスに、点火プラグによって着火する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、点火プラグを用いて着火する場合、点火プラグを燃料噴射弁の近傍に配置する必要があり、かつ、1箇所の燃料噴射孔に対して1個の点火プラグが必要になる。したがって、例えば内燃機関の大型化に伴って燃料噴射弁に複数の燃料噴射孔を設ける場合や、燃料噴射弁の設置箇所を狭いスペースに変更する場合など、燃料噴射弁の仕様変更に柔軟に対応することが難しい。
【0005】
そこで、本開示の目的は、上記の課題を解決するために、拡散燃焼を実現できる内燃機関について、燃料噴射弁の仕様変更に柔軟に対応することが容易な構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示に係る内燃機関は、
内側に主燃焼室を形成するシリンダと、
前記シリンダ内を往復するピストンと、
前記主燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記主燃焼室に隣接して設けられ、前記主燃焼室において、噴孔を介して噴射するトーチ火炎により、前記燃料噴射弁から噴射された前記燃料に着火するように配置された副室と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る内燃機関によれば、拡散燃焼を実現できる内燃機関について、燃料噴射弁の仕様変更に柔軟に対応することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係る内燃機関の概略構成を模式的に示す縦断面図である。
【
図2】
図1の内燃機関において、燃料噴射弁から燃料が噴射されている状態を模式的に示す横断面図である。
【
図3】
図1の内燃機関において、副室からトーチ火炎が噴射されている状態を模式的に示す縦断面図である。
【
図4】
図1の内燃機関における燃料噴射孔と噴孔の位置関係の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図1の内燃機関において、燃料の噴流に着火するように副室からトーチ火炎が噴射されている状態の一例を模式的に示す横断面図である。
【
図6】共用噴孔の軸心に対する第1燃料噴射孔の軸心の距離と、共用噴孔の軸心に対する第2の燃料噴射孔の軸心の距離との大小関係を模式的に示す斜視図である。
【
図7A】
図1の実施形態に係る内燃機関において、燃料噴射弁および副室の配置を変更した一変形例を模式的に示す縦断面図である。
【
図7B】
図7Aの内燃機関において、燃料噴射弁から燃料の噴流が放射されている状態を模式的に示す横断面図である。
【
図8】本開示に係る内燃機関において、燃料噴射弁および副室の配置を変更した他の変形例を模式的に示す横断面図である。
【
図9A】本開示に係る内燃機関において、燃料噴射弁および副室の配置を変更した他の変形例を模式的に示す縦断面図である。
【
図9B】
図9Aの内燃機関において、燃料噴射弁および副室の配置を変更した他の変形例を模式的に示す横断面図である。
【
図10】本開示に係る内燃機関において、燃料噴射弁および副室の配置を変更した他の変形例を模式的に示す横断面図である。
【
図11】本開示に係る内燃機関において、燃料噴射弁および副室の配置を変更した他の変形例を模式的に示す横断面図である。
【
図12】本開示に係る内燃機関において、燃料噴射弁および副室の配置を変更した他の変形例を模式的に示す横断面図である。
【
図13】本開示に係る内燃機関において、燃料噴射弁および副室の配置を変更した他の変形例を模式的に示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る実施形態を図面に従って説明するが、本開示は本実施形態に限定されるものではない。
【0010】
図1に、本開示の一実施形態に係る副室式の内燃機関1を示す。この内燃機関1は、内側に主燃焼室3を形成するシリンダ5と、シリンダ5内を往復するピストン7と、主燃焼室3に燃料F1を噴射する燃料噴射弁9と、主燃焼室3に隣接して設けられた副室13とを備える。以下、主燃焼室3に噴射される燃料F1を「主燃料F1」という。
【0011】
主燃料F1は、気体燃料である。本実施形態では、主燃料F1として水素含有ガスを使用する。ここでの「水素含有ガス」には、一部が水素ガスである燃料のみならず、全部が水素ガスである燃料も含まれる。例えば、主燃料F1は、天然ガスと水素を混合した燃料であってもよい。
【0012】
ピストン7は、シリンダ5内を往復することにより、コネクティングロッド15を介して図示しないクランク軸を駆動する。内燃機関1のシリンダ5の上方に位置するシリンダヘッド17には、主燃焼室3に開口する吸気ポート19および排気ポート21が形成されている。主燃焼室3は、シリンダ5の内周面5a、ピストン7の冠面、およびシリンダヘッド17の下面によって画されている。シリンダヘッド17には、吸気ポート19の主燃焼室3に開口する部分を開閉する吸気弁23と、排気ポート21の主燃焼室3に開口する部分を開閉する排気弁25が設けられている。
【0013】
本実施形態において、燃料噴射弁9は、シリンダヘッド17に取り付けられている。燃料噴射弁9は、拡散燃焼用の燃料噴射弁として形成されている。具体的には、
図2に示すように、燃料噴射弁9には、複数、この例では8個の燃料噴射孔31が設けられている。燃料噴射弁9は、円筒状に形成されており、燃料噴射孔31は、燃料噴射弁9の周方向に複数配置されている。図示の例では、複数の燃料噴射孔31は、燃料噴射弁9の周方向に等間隔に配置されている。円筒状の燃料噴射弁9の周方向に複数の燃料噴射孔31が設けられていることにより、主燃料F1を、主燃焼室3内に分散するように噴射することができ、効率のよい燃焼を実現できる。特に複数の燃料噴射孔31が等間隔に配置されていることにより、主燃料F1をより均一に分散させることができ、極めて効率のよい燃焼を実現できる。なお、燃料噴射弁の形状は円筒状に限定されない。
【0014】
本実施形態では、内燃機関1は拡散燃焼タイプとして構成されており、主燃焼室3に主燃料F1を噴射する燃料噴射弁9のみが設けられ、吸気ポート29に燃料を噴射する燃料噴射弁は設けられていない。もっとも、内燃機関1において、主燃焼室3に主燃料F1を噴射する燃料噴射弁9のほかに、さらなる燃料噴射弁を吸気ポート29に設け、例えば天然ガスまたはガソリン、あるいは主燃料F1よりも少量の水素含有ガスといった、主燃料F1とは種類または量が異なる燃料を噴射する構成としてもよい。
【0015】
図1に示すように、この例では、副室13は、主燃焼室3に隣接してシリンダヘッド17に設けられている。
図3に示すように、副室13は、噴孔33を介して主燃焼室3にトーチ火炎TFを噴射する。具体的には、副室13は、その内部に、副室燃料F2を噴射する副燃料噴射弁35と、副燃料噴射弁35から噴射された副室燃料F2に着火する点火プラグ37とを備えている。副燃料噴射弁35により副室13に副室燃料F2を供給し、点火プラグ37により副室13内の副室燃料F2に点火して燃焼させる。これにより、噴孔33から主燃焼室3へ向けたトーチ火炎TFが形成される。
【0016】
副室13は、主燃焼室3において、噴孔33を介して噴射するトーチ火炎TFにより、燃料噴射弁9から噴射された主燃料F1に着火するように配置されている。副室が、「主燃焼室において、噴孔を介して噴射するトーチ火炎により、燃料噴射弁から噴射された主燃料に着火するように配置されている」とは、具体的には、例えば、
図4に示すように、副室13の噴孔33の周壁面33aを主燃焼室3側に延長した仮想内周面V1によって画される第1の空間S1が、燃料噴射弁9の燃料噴射孔31の周壁面31aを主燃焼室3側に延長した仮想内周面V2によって画される第2の空間S2の少なくとも一部と重複するように副室13が配置されることによって、より確実に実現される。なお、
図4では、噴孔33の周壁面33aおよび燃料噴射孔31の周壁面31aを円すい形状としているが、これらの周壁面の形状は円すい形状に限定されず、円筒形状、角筒形状、または角すい形状であってよい。また、副室が、「主燃焼室において、噴孔を介して噴射するトーチ火炎により、燃料噴射弁から噴射された主燃料に着火するように配置されている」構成は、この例に限定されない。
【0017】
本実施形態では、
図5に示すように、副室13が、燃料噴射孔31よりも少数、この例では6個の噴孔33を有しており、少なくとも1つの噴孔33が、当該少なくとも1つの噴孔33を介して噴射されるトーチ火炎TFが複数の燃料噴射孔31から噴射された主燃料F1に着火するように配置されている。以下の説明では、複数の燃料噴射孔31から噴射された主燃料F1に着火する噴孔33を「共用噴孔33X」と呼ぶ場合がある。図示の例では、副室13は、燃料噴射弁9側に位置する噴孔33と、燃料噴射弁9と反対側に位置する噴孔33とを有している。以下の説明では、燃料噴射弁9側に位置する噴孔33を「第1の噴孔33A」と呼び、燃料噴射弁9と反対側に位置する噴孔33を「第2の噴孔33B」と呼ぶ場合がある。この例では、第1の噴孔33Aは複数設けられており、これら複数の第1の噴孔33Aの両端に位置する噴孔が、それぞれ、2つの燃料噴射孔31から噴射された燃料に着火する共用噴孔33Xとして構成されている。このような構成とすることにより、主燃焼室3内において主燃料F1の噴流に効率よく着火し、確実に拡散燃焼を実現できる。
【0018】
もっとも、副室の噴孔の数は、意図する燃料噴射孔からの燃料に着火することができれば、上記の例に限定されず、適宜設定してよい。
【0019】
本実施形態では、さらに、共用噴孔33Xが、当該噴孔33の軸心C1と、複数の燃料噴射孔31のうちの当該噴孔33に近い第1の燃料噴射孔31Aの軸心C2との距離をL1とし、第1の燃料噴射孔31Aよりも遠くに位置する第2の燃料噴射孔31Bの軸心C3との距離をL2とした場合、L1>L2となるように配置されている。すなわち、
図6に示すように、共用噴孔33Xの軸心C1は、第1の燃料噴射孔31Aの軸心C2とは交差せずに、第1の燃料噴射孔31Aの軸心C2よりも、第2の燃料噴射孔31の軸心C3近くを通る。これにより、
図5に示す共用噴孔33Xから噴射されるトーチ火炎TFは、第1の燃料噴射孔31Aから噴射される主燃料F1の噴流の中心からオフセットした位置を通ることができ、当該トーチ火炎の一部のみが主燃料F1の噴流に接触し着火させることができる。さらに、当該トーチ火炎が、第1の燃料噴射孔31Aから噴射される主燃料F1の噴流から比較的遠い位置を通過することにより、噴射のエネルギーを維持しつつ、当該トーチ火炎の残りの部分が、より遠い位置にある第2の燃料噴射孔31から噴射される主燃料F1の噴流まで到達し、この主燃料F1の噴流にも着火できる。
【0020】
図5に示したように、本実施形態では、副室13が、燃料噴射弁9側に位置する第1の噴孔33Aと、燃料噴射弁9と反対側に位置する第2の噴孔33Bとを有している。この例では、第1の噴孔33Aの孔径が、第2の噴孔33Bの孔径よりも大きく形成されている。この構成によると、燃料噴射弁9側に位置する第1の噴孔33Aの孔径が、燃料噴射弁9と反対側に位置する第2の噴孔33Bの孔径よりも大きいことにより、第1の噴孔33Aから噴射されるトーチ火炎の速度が、第2の噴孔33Bから噴射されるトーチ火炎の速度よりも大きくなる。ここで、第1の噴孔33Aから噴射されるトーチ火炎は、燃料噴射弁9から噴射される主燃料F1の噴流のうち、燃料噴射弁9に対して副室13とは反対の側へと噴射される主燃料F1の噴流に着火するように構成されており、第2の噴孔33Bから噴射されるトーチ火炎は、燃料噴射弁9から副室13の側へと噴射される主燃料F1の噴流に着火するように構成されている。第1の噴孔33Aからのトーチ火炎の速度を大きくすることで、より遠くに位置する主燃料F1の噴流の着火と、第2の噴孔33Bからのトーチ火炎による、より近くに位置する主燃料F1の噴流の着火とのタイミングを合わせることができる。これにより、主燃焼室内において、より均一な燃焼が実現できる。
【0021】
上述したように、本実施形態に係る内燃機関1において、主燃料F1は水素含有ガスである。この構成によれば、内燃機関1から排出される二酸化炭素の量を低減することができる。また、水素含有ガスのような反応速度の大きい燃料ガスは、拡散燃焼方式を用いることにより燃焼効率を高めることができ、かつ窒素酸化物の生成を抑えることができるので、上述した構成を有する内燃機関1に用いることのメリットが大きい。もっとも、主燃料は、水素含有ガスに限定されず、一般的に内燃機関に用いられる燃料ガス、例えば、ノルマルヘプタン、天然ガス、アンモニア、メタノールやエタノールといったアルコール、ガソリン、重油、軽油等を使用することができる。
【0022】
本実施形態では、副室燃料F2として、主燃料F1と同じ種類の燃料を用いている。しかし、副室燃料F2としては、主燃料F1よりも着火性の高い燃料、例えば軽油、重油、バイオディーゼル燃料等のディーゼル燃料を使用することができる。着火性の高い燃料を副室燃料として用いることにより、着火の安定性を高めることができる。
【0023】
内燃機関1は、例えば船舶や発電装置等に用いられる大型の内燃機関である。大型の内燃機関においては、
図3に示したように、複数の燃料噴射孔31から主燃料F1を噴射することが均一的な燃焼の観点から有利であるので、上述した構成を有する内燃機関1を用いることのメリットが大きい。しかし、本開示の内容は、車両等に用いられる小型の内燃機関にも適用可能である。
【0024】
上記の実施形態では、1つの燃料噴射弁9および1つの副室13がシリンダヘッド17に設けられている例を説明した。もっとも、燃料噴射弁9および副室13の数および配置は、上記の例に限定されず、副室13からのトーチ火炎TFによって燃料噴射弁9から噴射された主燃料F1に着火できる限り、任意に設定してよい。燃料噴射弁9および副室13の他の配置としては、例えば以下に変形例として示すものが考えられる。
【0025】
図7Aに示すように、副室13を燃料噴射弁9に隣接させることなく、燃料噴射弁9および副室13の一方をシリンダヘッド17に設け、燃料噴射弁9および副室13の他方をシリンダ5の側部またはシリンダヘッド17の側部に設けてもよい。
図7Aに示す変形例では、副室13がシリンダヘッド17に設けられており、燃料噴射弁9がシリンダ5の側部に設けられている。また、
図5に示した例では、副室13が燃料噴射孔31よりも少数の噴孔33を有していたが、
図7Bに示すように、噴孔33の数は、燃料噴射孔31の数よりも多くてもよい。この例では、副室13が8つの噴孔33を有しており、燃料噴射弁9が3つの燃料噴射孔31を有している。この場合には、燃料噴射孔31から噴射された主燃料F1の各噴流の着火に、副室13の噴孔33から噴射された複数のトーチ火炎TFが寄与している。なお、主燃料F1の噴流の着火に直接寄与しないトーチ火炎があってもよい。
【0026】
図8に示す変形例では、燃料噴射弁9がシリンダヘッド17に設けられ、副室13がシリンダ5の側部に設けられている。具体的には、この例では、8つの燃料噴射孔31を有する燃料噴射弁9がシリンダヘッド17に設けられており、3つの噴孔33を有する副室13がシリンダ5の側部に設けられている。副室13の各噴孔33から噴射される火炎トーチTFは、それぞれ複数の主燃料F1の噴流に着火する。
【0027】
また、燃料噴射弁9を複数設けてもよいし、副室13を複数設けてもよい。例えば、
図9Aに示す変形例では、1つの副室13がシリンダヘッド17に設けられており、2つの燃料噴射弁9がシリンダ5の側部に設けられている。
図9Bに示すように、副室13は、8つの噴孔33を有し、2つの燃料噴射弁9は、それぞれ3つの燃料噴射孔31を有する。副室13の噴孔33から噴射される各トーチ火炎TFは、1つ以上の主燃料F1の噴流の着火に寄与し得る。ただし、この場合にも、主燃料F1の噴流の着火に直接寄与しないトーチ火炎があってもよい。また、不図示のさらなる変形例として、1つの副室13をシリンダヘッド17に設け、2つの燃料噴射弁9をシリンダヘッド17の側部に設けてもよい。
【0028】
図10に示す変形例では、1つの燃料噴射弁9がシリンダヘッド17に設けられており、複数、この例では2つの副室13がシリンダ5の側部に設けられている。各副室13の噴孔33から噴射される各トーチ火炎TFは、1つ以上の主燃料F1の噴流の着火に寄与し得る。ただし、この場合にも、主燃料F1の噴流の着火に直接寄与しないトーチ火炎があってもよい。また、不図示のさらなる変形例として、1つの燃料噴射弁9をシリンダヘッド17に設け、2つの副室13をシリンダヘッド17の側部に設けてもよい。
【0029】
また、燃料噴射弁9および副室13の両方をシリンダ5の側部またはシリンダヘッド17の側部に設けてもよい。燃料噴射弁9および副室13は、
図11に示すように隣合って配置されていてもよく、
図12に示すように対向するように配置されていてもよい。また、
図13に示すように、例えば、燃料噴射弁9および副室13の一方の中心軸の延長線と、燃料噴射弁9および副室13の他方の中心軸の延長線とが90°をなすような配置としてもよい。
【0030】
なお、上記の各例では、燃料噴射弁9が複数の燃料噴射孔31を有する例を示したが、燃料噴射弁が燃料噴射孔31を1つのみ有していてもよい。例えば、
図7Aに示したように、燃料噴射弁9がシリンダ5の周壁に設けられる場合には、燃料噴射弁9に1つの燃料噴射孔31を設けることができる。
【0031】
これらの変形例に示したように、燃料噴射弁9と着火源である副室13とを必ずしも隣接させる必要はない。これにより、既存の副室式の内燃機関の構造において、例えば、燃料噴射弁9をシリンダ5の側部またはシリンダヘッド17の側部に設けることで、拡散燃焼を実現可能な内燃機関とすることが容易に行える。このように、拡散燃焼の着火源として副室13を利用することにより、燃料噴射弁9、副室13の個数や配置といった設計の自由度が高まる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の第1態様に係る内燃機関1は、内側に主燃焼室3を形成するシリンダ5と、シリンダ5内を往復するピストン7と、主燃焼室3に燃料F1を噴射する燃料噴射弁9と、主燃焼室3に隣接して設けられ、主燃焼室3において、噴孔33を介して噴射するトーチ火炎TFにより、燃料噴射弁9から噴射された燃料F1に着火するように配置された副室13とを備える。この構成によれば、拡散燃焼を実現できる内燃機関について、燃料噴射弁13の仕様変更に柔軟に対応することが容易となる。
【0033】
本実施形態の第2態様に係る内燃機関1は、第1態様において、燃料噴射弁9が円筒状に形成されており、燃料噴射弁9が、当該燃料噴射弁9の周方向に複数配置された燃料噴射孔31を有しており、副室13は、副室13からのトーチ火炎TFが、複数の燃料噴射孔31の各燃料噴射孔31から噴射された燃料F1に着火するように配置されていてもよい。この構成によれば、主燃料F1を、主燃焼室3内に分散するように噴射することができ、効率のよい燃焼を実現できる。
【0034】
本実施形態の第3態様に係る内燃機関1は、第1または第2態様において、複数の燃料噴射孔31が、周方向に等間隔に配置されていてもよい。この構成によれば、主燃焼室3内において、主燃料F1をより均一に分散させることができ、効率のよい燃焼を実現できる。
【0035】
本実施形態の第4態様に係る内燃機関1は、第1から第3態様のいずれかにおいて、副室13が、燃料噴射孔31よりも少数の噴孔33を有しており、少なくとも1つの噴孔33が、当該少なくとも1つの噴孔33を介して噴射されるトーチ火炎TFが複数の燃料噴射孔31から噴射された燃料に着火するように配置されていてもよい。この構成によれば、主燃焼室3内において燃料噴流に効率よく着火し、確実に拡散燃焼を実現できる。
【0036】
本実施形態の第5態様に係る内燃機関1は、第1から第4態様のいずれかにおいて、少なくとも1つの噴孔33が、当該噴孔33の軸心C1と、複数の燃料噴射孔31のうちの当該噴孔33に近い第1の燃料噴射孔31Aの軸心C2との距離をL1とし、第1の燃料噴射孔31Aよりも遠くに位置する第2の燃料噴射孔31の軸心C3との距離をL2とした場合、L1>L2となるように配置されていてもよい。この構成によれば、1つの噴孔33からのトーチ火炎TFによって、確実に複数の燃料噴射孔31からの主燃料F1に着火することができる。
【0037】
本実施形態の第6態様に係る内燃機関1は、第1から第5態様のいずれかにおいて、副室13が、燃料噴射弁9側に位置する第1の噴孔33Aと、燃料噴射弁9と反対側に位置する第2の噴孔33Bとを有しており、第1の噴孔33Aの孔径が、第2の噴孔33Bの孔径よりも大きくてもよい。この構成によれば、各燃料噴流の着火のタイミングを合わせて、主燃焼室3内において、より均一な燃焼が実現できる。
【0038】
本実施形態の第7態様に係る内燃機関1は、第1から第6態様のいずれかにおいて、燃料F1は水素含有ガスであってよい。この構成によれば、内燃機関1から排出される二酸化炭素の量を低減することができる。
【0039】
本実施形態の第8態様に係る内燃機関1は、第1から第7態様のいずれかにおいて、副室13は、副室13の噴孔33の周壁面33aを主燃焼室3側に延長した仮想内周面V1によって画される第1の空間S1が、燃料噴射弁9の燃料噴射孔31の周壁面31aを主燃焼室3側に延長した仮想内周面V2によって画される第2の空間S2の少なくとも一部と重複するように配置されていてもよい。この構成によれば、主燃焼室3内において、副室13から噴孔33を介して噴射されたトーチ火炎TFによって、より確実に燃料噴射弁9から噴射された主燃料F1に着火することができる。
【0040】
以上のとおり、図面を参照しながら本開示の好適な実施形態を説明したが、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本開示の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1 内燃機関
3 主燃焼室
5 シリンダ
7 ピストン
9 燃料噴射弁
13 副室
31 燃料噴射孔
31A 第1の燃料噴射孔
31B 第2の燃料噴射孔
33 噴孔
33A 第1の噴孔
33B 第2の噴孔
33X 共用噴孔
35 副燃料噴射弁
37 点火プラグ
C1 共用噴孔の軸心
C2 第1の燃料噴射孔の軸心
C3 第2の燃料噴射孔の軸心
F1 主燃料(燃料)
L1 共用噴孔の軸心から第1の燃料噴射孔の軸心までの距離
L2 共用噴孔の軸心から第2の燃料噴射孔の軸心までの距離
S1 第1の空間
S2 第2の空間
TF トーチ火炎