(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103335
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】刺激情報から予測対象の人間関係における推定精度を予測する予測装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20240725BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007612
(22)【出願日】2023-01-20
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】小林 直
(72)【発明者】
【氏名】中島 加惠
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 康
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC11
5L050CC11
(57)【要約】
【課題】複数のユーザに与えられる刺激情報に対して、予測対象の人間関係における推定精度を予測することができる予測装置、プログラム及び方法を提供する。
【解決手段】人間関係毎に、刺激情報における刺激特徴量を説明変数とし、当該人間関係における推定精度を目的変数として対応付けた第1の教師データを事前に用意し、予測対象の刺激情報から、刺激特徴量を抽出する刺激特徴量抽出手段と、第1の教師データによって事前に訓練した上で、予測対象の人間関係について、抽出された刺激特徴量から、推定精度を予測する推定精度予測エンジンとを有する。刺激情報は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚からなる五感のいずれか又はそれらの組み合わせに基づく時系列の情報である。類似度は、複数のユーザそれぞれの生体信号の位相差同期度(PLV(Single-trial Phase Locking Value))である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のユーザに与えられる刺激情報から、任意の人間関係における推定精度を予測する予測装置であって、
人間関係毎に、刺激情報における刺激特徴量を説明変数とし、当該人間関係における推定精度を目的変数として対応付けた第1の教師データを事前に用意し、
予測対象の刺激情報から、刺激特徴量を抽出する刺激特徴量抽出手段と、
第1の教師データによって事前に訓練した上で、予測対象の人間関係について、抽出された刺激特徴量から、推定精度を予測する推定精度予測エンジンと
を有することを特徴とする予測装置。
【請求項2】
予測対象の刺激情報を、複数の刺激情報に分割する刺激情報分割手段と、
推定精度予測エンジンを用いて、予測対象の人間関係について、複数の刺激情報から得られた複数の推定精度の中で、最も高い推定精度となる刺激情報を選択する刺激情報選択手段と
を有することを特徴とする請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
複数のユーザに刺激情報を与えることによって計測された各ユーザの生体信号から、任意の人間関係における推定精度を決定するために、
第1のユーザにおける第1の位置の第1の生体信号を取得する第1の生体信号取得手段と、
第2のユーザにおける第2の位置の第2の生体信号を取得する第2の生体信号取得手段と
を有すると共に、
予め計測された複数の生体信号における時系列同期の類似度を説明変数とし、当該複数の生体信号に係るユーザ間の正解の人間関係を目的変数として対応付けた第2の教師データを事前に用意し、
第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する類似度算出手段と、
第2の教師データによって事前に訓練した上で、抽出された複数のユーザの類似度から、人間関係を予測する人間関係予測エンジンと、
複数のユーザに与えられる刺激情報毎に、正解の人間関係と、人間関係予測エンジンによって予測された人間関係とが一致した割合を、第1の教師データにおける当該刺激情報の推定精度として算出する推定精度算出手段と
を有することを特徴とする請求項1に記載の予測装置。
【請求項4】
第1の教師データは、説明変数として、複数のユーザそれぞれの個人属性を更に加え、
推定精度予測エンジンは、予測対象の人間関係について、抽出された刺激特徴量と、予測対象の複数のユーザの個人属性とから、推定精度を予測する
ことを特徴とする請求項1に記載の予測装置。
【請求項5】
複数のユーザに刺激情報を与えることによって計測された各ユーザの生体信号から、任意の人間関係における推定精度を決定するために、
第1のユーザにおける第1の位置の第1の生体信号を取得する第1の生体信号取得手段と、
第2のユーザにおける第2の位置の第2の生体信号を取得する第2の生体信号取得手段と
を有すると共に、
予め計測された複数の生体信号における時系列同期の類似度を説明変数とし、当該複数の生体信号に係るユーザ間の正解の人間関係を目的変数として対応付けた第2の教師データを事前に用意し、
第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する類似度算出手段と、
第2の教師データによって事前に訓練した上で、抽出された複数のユーザの類似度及び各個人属性から、人間関係を予測する人間関係予測エンジンと、
複数のユーザに与えられる刺激情報毎に、正解の人間関係と、人間関係予測エンジンによって予測された人間関係とが一致した割合を、第1の教師データにおける当該刺激情報の推定精度として算出する推定精度算出手段と
を有することを特徴とする請求項4に記載の予測装置。
【請求項6】
推定精度算出手段は、人間関係予測エンジンにおける予測した人間関係の推定確率を、推定精度とする
ことを特徴とする請求項3又は5に記載の予測装置。
【請求項7】
第2の教師データは、目的変数となる正解の人間関係として、人間関係自体の項目、又は、所定の人間関係の適合度を対応付けており、
人間関係予測エンジンは、人間関係自体の項目、又は、所定の人間関係の適合度を予測し、
推定精度算出手段は、正解の人間関係自体の項目と、人間関係予測エンジンによって予測された人間関係自体の項目とが一致した割合、又は、正解の人間関係の適合度と、人間関係予測エンジンによって予測された人間関係の適合度とが近いほど高くなる割合を、第1の教師データにおける当該刺激情報の推定精度として算出する
ことを特徴とする請求項3又は5に記載の予測装置。
【請求項8】
生体信号は、ユーザそれぞれに装着されるスマートウォッチ、スマートグラス及び/又はスマートリングに配置されたセンサによって計測された信号であり、心拍数、血中酸素濃度、皮膚温、血圧、発汗量、活動量、ストレスレベルのいずれか又はそれらの組み合わせである
ことを特徴とする請求項3又は5に記載の予測装置。
【請求項9】
生体信号は、ユーザそれぞれの頭部に装着されるヘッドセット、スマートグラス、イヤホン又はゴーグルに配置されたEEG(ElectroEncephaloGraphy)センサによって計測された脳波信号である
ことを特徴とする請求項3又は5に記載の予測装置。
【請求項10】
類似度算出手段は、複数のユーザそれぞれの生体信号における時系列同期の類似度を算出する
ことを特徴とする請求項3又は5に記載の予測装置。
【請求項11】
類似度算出手段は、複数のユーザそれぞれの生体信号の位相差同期度(PLV(Single-trial Phase Locking Value))を、類似度として算出する
ことを特徴とする請求項10に記載の予測装置。
【請求項12】
刺激情報は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚からなる五感のいずれか又はそれらの組み合わせに基づく時系列の情報である
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の予測装置。
【請求項13】
複数のユーザに与えられる刺激情報から、任意の人間関係における推定精度を予測する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
人間関係毎に、刺激情報における刺激特徴量を説明変数とし、当該人間関係における推定精度を目的変数として対応付けた第1の教師データを事前に用意し、
予測対象の刺激情報から、刺激特徴量を抽出する刺激特徴量抽出手段と、
第1の教師データによって事前に訓練した上で、予測対象の人間関係について、抽出された刺激特徴量から、推定精度を予測する推定精度予測エンジンと
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項14】
複数のユーザに与えられる刺激情報から、任意の人間関係における推定精度を予測する装置の予測方法であって、
装置は、
人間関係毎に、刺激情報における刺激特徴量を説明変数とし、当該人間関係における推定精度を目的変数として対応付けた第1の教師データを事前に用意し、
予測対象の刺激情報から、刺激特徴量を抽出する第1のステップと、
機械学習エンジンを用いて、第1の教師データによって事前に訓練した上で、予測対象の人間関係について、抽出された刺激特徴量から、推定精度を予測する第2のステップと
を実行することを特徴とする予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のユーザに、同一の刺激情報を与えた際に得られる生体信号から、それらユーザ間の人間関係を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば婚活サービスについて、男女を対象に、結婚するか否か、結婚した場合に幸福を感じるか否か、などを予測する技術がある(例えば非特許文献1参照)。
また、例えば電話営業について、企業側オペレータと顧客とのペアを対象に、営業の成否を予測する技術もある(例えば非特許文献2参照)。
更に、例えば企業、学校、軍隊などにおけるチーム決めについて、チームのパフォーマンスを予測する技術もある(例えば非特許文献3及び4参照)。
【0003】
これら非特許文献1~4によれば、複数のユーザにおける性格や価値観、知能指数などの様々な生体特性を、テストによって予め収集し、その結果から判定するものである。例えば非特許文献1によれば、婚活サービスの事業者が、予め用意した心理テストを利用者に回答させ、その結果の類似度からマッチングする男女の候補を選定している。心理テストでは、性格や価値観のみならず、知能指数など様々な生体特性を測定することができる。
【0004】
一方で、心理テストには、以下のような課題があった。
第1に、心理テストの回答には、意識又は無意識を問わず、様々なバイアスが含まれる。例えば、無意識に自分を良く見せようとする「社会適応性バイアス」や、自分の力を誇示したがる「名声バイアス」などがある。即ち、このようなバイアスによって、期待した予測精度が得られないという課題があった。
また、第2に、心理テストにおける質問文が多かったり、長文であったりする場合、複数のユーザにおける回答の質が劣化することがある。心理テストでは、ユーザ自ら質問文を読み、複数の選択肢を検討する必要があり、認知負荷が高いといえる。即ち、ユーザの認知力に応じて、期待した予測精度が得られないという課題があった。
【0005】
これに対し、対象となる複数のユーザに同一の刺激を与え、その際に得られた各ユーザの生体信号から、ユーザ間の友人関係を予測する技術がある(例えば非特許文献5参照)。この技術によれば、複数のユーザに動画像の刺激情報を与えて、磁気共鳴画像法(MRI:Magnetic Resonance Imaging)によって「脳活動量」(神経反応)を計測する。脳活動量を生体信号として、ユーザ間の友人関係を予測する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】SAITAMA出会いサポートセンター運営協議会 「恋たま」、[online]、[令和4年12月15日検索]、インターネット<URL:https://koitama.jp/>
【非特許文献2】Akihiro Kobayashi, Yuichi Ishikawa, and Roberto Sebastian Legaspi. 2021. Psychographic Matching between a Call Center Agent and a Customer. In Proceedings of the 29th ACM Conference on User Modeling, Adaptation and Personalization (UMAP '21). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 229-234.、[online]、[令和4年12月15日検索]、インターネット<URL:https://doi.org/10.1145/3450613.3456815>
【非特許文献3】Halfhill, T., Sundstrom, E., Lahner, J., Calderone, W., & Nielsen, T. M. (2005). Group personality composition and group effectiveness: An integrative review of empirical research. Small group research, 36(1), 83-105.、[online]、[令和4年12月15日検索]、インターネット<URL:https://www.researchgate.net/publication/237439485_Group_Personality_Composition_and_Group_Effectiveness_An_Integrative_Review_of_Empirical_Research>
【非特許文献4】Peeters, M. A., Van Tuijl, H. F., Rutte, C. G., & Reymen, I. M. (2006). Personality and team performance: a meta‐analysis. European journal of personality, 20(5), 377-396.、[online]、[令和4年12月15日検索]、インターネット<URL:https://research.utwente.nl/en/publications/personality-and-team-performance-a-meta-analysis>
【非特許文献5】Parkinson, Carolyn, Adam M. Kleinbaum, and Thalia Wheatley. "Similar neural responses predict friendship." Nature communications 9.1 (2018): 1-14.、[online]、[令和4年12月15日検索]、インターネット<URL:https://www.nature.com/articles/s41467-017-02722-7>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した非特許文献1~4のような人間関係の相性を推定する際に、非特許文献5のように脳活動量を計測することも想定される。しかし、脳活動量を計測するために、MRIのような高コストな設備が必要となるだけなく、制約された計測環境からユーザによっては性格的に計測できない場合もある。
【0008】
一方で、例えばスマートウォッチやスマートリングのようなウェアラブルデバイスでは、脳活動量以外の一般的な生体信号を比較的容易に計測することができる。生体信号の中でも例えば脳波信号の場合、ユーザの頭部にEEG(ElectroEncephaloGram)センサを接触させることによって、容易に計測することができる。
【0009】
ここで、生体信号から、人間関係の相性を推定することを想定する。その場合、複数のユーザへ、例えば五感に訴える刺激情報を与えて、その生体信号を計測するとする。「同じシーンで、同じ位置から計測された生体信号が、同じような信号形態である場合」、一般的に、人間関係の相性が良いと判定される。例えば脳波信号の場合、ユーザの頭部の同じ位置から計測された信号は、同じ五感系に基づくものと想定される。
【0010】
これに対し、本願の発明者らは、複数のユーザに与える刺激情報のコンテンツに応じて、人間関係の推定精度も異なるのではないか、と考えた。即ち、ユーザに与えるコンテンツ(刺激情報)の選定が重要となる、と考えた。
刺激情報のコンテンツとして、例えば多数のユーザが興味を持てない映画を選定した場合、多数のユーザから同じような反応となる生体信号しか得られないであろう。そのような生体信号は、人間関係の予測に寄与しないと考えられる。
逆に、ユーザの感情が強く喚起されると共に、その感情がシーン毎に異なるような映画であれば、人間関係の予測に大きく寄与すると考えられる。即ち、ユーザの感情が強く喚起されるような刺激情報を選定することができれば、人間関係の予測に貢献すると考えられる。
【0011】
そこで、本発明は、複数のユーザに与えられる刺激情報から、予測対象の人間関係における推定精度を予測する予測装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、複数のユーザに与えられる刺激情報から、任意の人間関係における推定精度を予測する予測装置であって、
人間関係毎に、刺激情報における刺激特徴量を説明変数とし、当該人間関係における推定精度を目的変数として対応付けた第1の教師データを事前に用意し、
予測対象の刺激情報から、刺激特徴量を抽出する刺激特徴量抽出手段と、
第1の教師データによって事前に訓練した上で、予測対象の人間関係について、抽出された刺激特徴量から、推定精度を予測する推定精度予測エンジンと
を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
予測対象の刺激情報を、複数の刺激情報に分割する刺激情報分割手段と、
推定精度予測エンジンを用いて、予測対象の人間関係について、複数の刺激情報から得られた複数の推定精度の中で、最も高い推定精度となる刺激情報を選択する刺激情報選択手段と
を有することも好ましい。
【0014】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
複数のユーザに刺激情報を与えることによって計測された各ユーザの生体信号から、任意の人間関係における推定精度を決定するために、
第1のユーザにおける第1の位置の第1の生体信号を取得する第1の生体信号取得手段と、
第2のユーザにおける第2の位置の第2の生体信号を取得する第2の生体信号取得手段と
を有すると共に、
予め計測された複数の生体信号における時系列同期の類似度を説明変数とし、当該複数の生体信号に係るユーザ間の正解の人間関係を目的変数として対応付けた第2の教師データを事前に用意し、
第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する類似度算出手段と、
第2の教師データによって事前に訓練した上で、抽出された複数のユーザの類似度から、人間関係を予測する人間関係予測エンジンと、
複数のユーザに与えられる刺激情報毎に、正解の人間関係と、人間関係予測エンジンによって予測された人間関係とが一致した割合を、第1の教師データにおける当該刺激情報の推定精度として算出する推定精度算出手段と
を有することも好ましい。
【0015】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
第1の教師データは、説明変数として、複数のユーザそれぞれの個人属性を更に加え、
推定精度予測エンジンは、予測対象の人間関係について、抽出された刺激特徴量と、予測対象の複数のユーザの個人属性とから、推定精度を予測する
ことも好ましい。
【0016】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
複数のユーザに刺激情報を与えることによって計測された各ユーザの生体信号から、任意の人間関係における推定精度を決定するために、
第1のユーザにおける第1の位置の第1の生体信号を取得する第1の生体信号取得手段と、
第2のユーザにおける第2の位置の第2の生体信号を取得する第2の生体信号取得手段と
を有すると共に、
予め計測された複数の生体信号における時系列同期の類似度を説明変数とし、当該複数の生体信号に係るユーザ間の正解の人間関係を目的変数として対応付けた第2の教師データを事前に用意し、
第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する類似度算出手段と、
第2の教師データによって事前に訓練した上で、抽出された複数のユーザの類似度及び各個人属性から、人間関係を予測する人間関係予測エンジンと、
複数のユーザに与えられる刺激情報毎に、正解の人間関係と、人間関係予測エンジンによって予測された人間関係とが一致した割合を、第1の教師データにおける当該刺激情報の推定精度として算出する推定精度算出手段と
を有することも好ましい。
【0017】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
推定精度算出手段は、人間関係予測エンジンにおける予測した人間関係の推定確率を、推定精度とする
ことも好ましい。
【0018】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
第2の教師データは、目的変数となる正解の人間関係として、人間関係自体の項目、又は、所定の人間関係の適合度を対応付けており、
人間関係予測エンジンは、人間関係自体の項目、又は、所定の人間関係の適合度を予測し、
推定精度算出手段は、正解の人間関係自体の項目と、人間関係予測エンジンによって予測された人間関係自体の項目とが一致した割合、又は、正解の人間関係の適合度と、人間関係予測エンジンによって予測された人間関係の適合度とが近いほど高くなる割合を、第1の教師データにおける当該刺激情報の推定精度として算出する
ことも好ましい。
【0019】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
生体信号は、ユーザそれぞれに装着されるスマートウォッチ、スマートグラス及び/又はスマートリングに配置されたセンサによって計測された信号であり、心拍数、血中酸素濃度、皮膚温、血圧、発汗量、活動量、ストレスレベルのいずれか又はそれらの組み合わせである
ことも好ましい。
【0020】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
生体信号は、ユーザそれぞれの頭部に装着されるヘッドセット、スマートグラス、イヤホン又はゴーグルに配置されたEEG(ElectroEncephaloGraphy)センサによって計測された脳波信号である
ことも好ましい。
【0021】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
類似度算出手段は、複数のユーザそれぞれの生体信号における時系列同期の類似度を算出する
ことも好ましい。
【0022】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
類似度算出手段は、複数のユーザそれぞれの生体信号の位相差同期度(PLV(Single-trial Phase Locking Value))を、類似度として算出する
ことも好ましい。
【0023】
本発明の予測装置における他の実施形態によれば、
刺激情報は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚からなる五感のいずれか又はそれらの組み合わせに基づく時系列の情報である
ことも好ましい。
【0024】
本発明によれば、複数のユーザに与えられる刺激情報から、任意の人間関係における推定精度を予測する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
人間関係毎に、刺激情報における刺激特徴量を説明変数とし、当該人間関係における推定精度を目的変数として対応付けた第1の教師データを事前に用意し、
予測対象の刺激情報から、刺激特徴量を抽出する刺激特徴量抽出手段と、
第1の教師データによって事前に訓練した上で、予測対象の人間関係について、抽出された刺激特徴量から、推定精度を予測する推定精度予測エンジンと
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、複数のユーザに与えられる刺激情報から、任意の人間関係における推定精度を予測する装置の予測方法であって、
装置は、
人間関係毎に、刺激情報における刺激特徴量を説明変数とし、当該人間関係における推定精度を目的変数として対応付けた第1の教師データを事前に用意し、
予測対象の刺激情報から、刺激特徴量を抽出する第1のステップと、
機械学習エンジンを用いて、第1の教師データによって事前に訓練した上で、予測対象の人間関係について、抽出された刺激特徴量から、推定精度を予測する第2のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明における予測装置、プログラム及び方法によれば、複数のユーザに与えられる刺激情報に対して、予測対象の人間関係における推定精度を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明における第1のシステム構成図である。
【
図2】本発明における第2のシステム構成図である。
【
図3】本発明の推定精度予測エンジンの運用段階について、人間関係の推定精度を予測する予測装置の構成図である。
【
図4】
図3について、刺激情報分割部及び刺激情報選択部を更に有する予測装置の構成図である。
【
図5】本発明の推定精度予測エンジンの訓練段階について、人間関係の推定精度を算出する予測装置の構成図である。
【
図6】
図5における人間関係予測エンジン及び推定精度予測エンジンの処理を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明における第1のシステム構成図である。
【0030】
図1のシステムによれば、ネットワークに配置されたサーバとしての予測装置1と、複数のユーザの生体信号を計測可能なウェアラブルデバイス2とを有する。ウェアラブルデバイス2は、予測対象となるユーザそれぞれに装着される。また、ウェアラブルデバイス2によって計測された生体信号は、予測装置1へ送信される。
【0031】
図1によれば、複数のユーザに、同一の刺激情報(コンテンツ)が与えられているとする。具体的には、複数のユーザは、例えば映画を視聴しているとする。ウェアラブルデバイス2によって計測される生体信号は、複数のユーザに与えられる時系列の刺激情報と同期して取得される。
【0032】
尚、実施形態の中では、ユーザは2人として説明するが、勿論、3人以上のグループであってもよい。また、同一の刺激情報は、判定対象となる複数のユーザに、必ずしも同時に与えられる必要もない。ユーザ毎に、同一の刺激情報を与えて生体信号を計測できればよい。
【0033】
<ウェアラブルデバイス2>
ウェアラブルデバイス2は、ヒトに接触し、生体信号を計測するデバイスである。
図1によれば、生体信号として脳波信号や脳血流を計測するべく、ユーザはそれぞれ、ウェアラブルデバイス2としてのヘッドセットを頭部に装着している。脳波信号や脳血流を計測する場合、ウェアラブルデバイス2は、例えばヘッドセット、スマートグラス、イヤホン又はゴーグルのようなものとなる。ウェアラブルデバイス2に配置されたEEGセンサが、ヒトの頭部に接触し、脳波信号を計測する。勿論、EEGセンサが接触する位置としては、耳や顔であってもよい。
【0034】
図1によれば、ウェアラブルデバイス2は、例えばbluetooth(登録商標)を介してスマートフォンと接続し、当該スマートフォンへ、計測した生体信号を送信する。
スマートフォンは、ウェアラブルデバイス2から生体信号を常時受信し、それら生体信号を、ネットワークを介して予測装置1へ転送する。また、ウェアラブルデバイス2がネットワークを介した通信機能を有する場合には、生体信号は、スマートフォンを経由させずに、ウェアラブルデバイス2から予測装置1へ直接的に送信されるようにしてもよい。
【0035】
「刺激情報」は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚からなる五感のいずれか又はそれらの組み合わせに基づく時系列の情報である。即ち、連続した一定時間、対象となる複数のユーザに与え続けられる刺激となる。
刺激情報は、具体的には、以下のようなものである。
視覚に対しては、映画やオンライン動画や、絵画、書籍、新聞などがある。
聴覚に対しては、音楽やラジオニュース, 朗読コンテンツなどがある。
嗅覚に対しては、香水やアロマセラピーなどがある。
味覚に対しては、調味料や料理などがある。
触覚に対しては、マッサージチェアによるマッサージなどがある。
これら五感の組み合わせとしては、所定のコースにおける散歩やジョギングなどもある。
【0036】
図2は、本発明における第2のシステム構成図である。
【0037】
図2のシステムによれば、予測装置1の機能が、スマートフォンに、所定のアプリケーションとして組み込まれたものである。これによって、ネットワークを介することなく、ユーザに所持されるスマートフォンのみで処理することができる。
【0038】
図2によれば、ウェアラブルデバイス2は、一般的な生体信号を計測可能な、例えばスマートウォッチやスマートリングのようなものであってもよい。生体信号として、例えば心拍数、血中酸素濃度、皮膚温、血圧、発汗量、活動量、ストレスレベルなどが計測可能となる。
【0039】
「心拍数」は、例えば光学式の場合、LED(Light Emitting Diode)から光を照射し、血流によって反射される散乱光の量を感知し、血中のヘモグロビンの動態変化によって心拍数を計測する。
「血中酸素濃度(SpO2)」は、皮膚に光をあてた動脈血成分の光の減衰から計測する。
「皮膚温」は、皮膚に接触する温度センサによって計測する。
「血圧」は、心拍数と血流量との組み合わせによって計測する。
「発汗量」は、皮膚に接触する湿度センサによって計測する。
「活動量」は、前述した心拍数、血中酸素濃度、皮膚温、血圧、脈拍、発汗量などの一部の組み合わせによって算出される。
【0040】
「ストレスレベル」は、例えば心拍数から算出されるものであってもよい。
一般的に、人体における自律神経系は、血液循環・呼吸・体温調節など、意識の介在なしに制御するシステムであって、「交感神経系」と「副交感神経系」とがある。「交感神経系」は、身体の活動レベルや運動能力を高める方向に働き、「副交感神経系」は、心身の鎮静化・エネルギーの消費抑制と蓄えの方向に働く。心拍数(HRV)は、交感神経と副交感神経の両方に影響を与える。
ここで、以下のようなアルゴリズムで、ストレスレベルを算出することができる。
(S1)単位時間当たりの心拍数から、心拍間の時間(RRI)を計測する。
(S2)線形補間によって、再サンプリングを実行する。
(S3)周波数解析(フーリエ変換)によって、パワースペクトラムに変換する。
(S4)LF(Low Frequency)成分0.05Hz~0.15Hzと、HF(High Frequency)成分0.15Hz~0.40Hzとに区分する。
LF成分は、交感神経又は副交感神経が活性化しているときに増加する。
HF成分は、副交感神経が活性化している場合のみ増加する。
(S5)HF成分に対するLF成分の計測比率(LF/HF)が、高い場合はストレスがあり、低い場合はリラックスしているといえる。即ち、閾値比率を予め設定し、計測比率が閾値以上であれば、そのユーザのストレスが高いと判定することができる。
【0041】
<予測装置1>
予測装置1は、複数のユーザに与えられる刺激情報から、任意の人間関係における推定精度を予測する。
尚、予測装置1の機能は、スマートフォンの所定のアプリケーションとして組み込まれたものであってもよい。
【0042】
図3は、本発明の推定精度予測エンジンの運用段階について、人間関係の推定精度を予測する予測装置の構成図である。
【0043】
図3によれば、予測装置1は、刺激特徴量抽出部111と、第1の教師データによって訓練された推定精度予測エンジン112とを有する。これら機能構成部は、予測装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、これらの機能構成部の処理の流れは、装置の予測方法としても理解できる。
【0044】
[刺激特徴量抽出部111]
刺激特徴量抽出部111は、予測対象の刺激情報から、刺激特徴量を抽出する。
刺激情報が例えば映画である場合、刺激特徴量は、ジャンル、公開年、監督、出演者などのメタ情報や、映像及び音声の特徴量であってもよい。また、字幕テキストから抽出されたテキストの特徴量であってもよい。
尚、刺激情報が時系列のものであれば、その刺激特徴量は、全時間帯の刺激情報から抽出された特徴量であってもよいし、所定時間に分割された刺激情報から抽出された特徴量(又はその特徴量の時系列)であってもよい。
【0045】
[推定精度予測エンジン112]
<第1の教師データ>
事前に用意される第1の教師データは、「人間関係」毎に、刺激情報における「刺激特徴量」を説明変数とし、当該人間関係における「推定精度」を目的変数として対応付けたものである。
【0046】
「人間関係」については、教師データとなる複数のユーザについて、アンケートなどによって予め収集した正解のデータである。
「推定精度」については、教師データとなる複数のユーザについて、同一の刺激情報を与えて計測された生体信号から、人間関係毎に予め算出されたものである。
【0047】
予測対象の人間関係は、以下のように様々関係が想定される。
・夫 -妻 :結婚する/しない、結婚満足度
・上司-部下 :部下の業務パフォーマンスやエンゲージメント
・先生-生徒 :生徒の成績
・医師-患者 :疾患からの回復
・コーチ-アスリート:パフォーマンス
尚、人間関係としては、人間関係自体の項目に限られず、人間関係の心理特性の一致度合いであってもよい。例えば人間関係が「夫-妻」である場合における結婚満足度であってもよい。
【0048】
教師データにおける他の実施形態として、説明変数として、「刺激特徴量」に加えて、予測対象のユーザそれぞれの「個人属性」を更に含むことも好ましい。人間関係(例えば結婚する)の推定精度を予測する場合、同一の刺激情報(コンテンツ)であっても、例えば年齢(年齢差)や学歴などによって、得られる生体信号から算出される推定精度も異なるものとなる場合があるためである。
推定精度予測エンジン112は、予測対象の人間関係について、抽出された刺激特徴量と、予測対象の複数のユーザの個人属性とから、推定精度を予測する。
【0049】
<訓練段階>
推定精度予測エンジン112は、第1の教師データによって事前に訓練される。
例えば目的変数が「結婚する/しない」のような項目である場合、推定精度予測エンジン112は、ロジスティック回帰モデルとして訓練するものであってもよい。
また、例えば目的変数が「結婚満足度」のような度合いである場合、推定精度予測エンジン112は、線形重回帰モデルとして訓練するものであってもよい。
勿論、これらの機械学習アルゴリズムに限られず、多層パーセプトロン(MLP:MultiLayer Perceptron)のようなものであってもよい。
【0050】
<運用段階>
推定精度予測エンジン112は、未知の刺激情報から刺激特徴量抽出部111によって抽出された刺激特徴量を入力する。そして、推定精度予測エンジン112は、予測対象(任意)の人間関係について、抽出された刺激特徴量から、推定精度を予測する。
これによって、オペレータは、複数のユーザに与えるべき刺激情報が、予測対象の人間関係について、どの程度の推定精度か、を認識することができる。
【0051】
図4は、
図3について、刺激情報分割部及び刺激情報選択部を更に有する予測装置の構成図である。
【0052】
[刺激情報分割部110]
刺激情報分割部110は、予測対象の刺激情報を、複数の刺激情報に分割する。
時系列の刺激情報の場合、例えば、所定長(同じ時間長)で等分割するものであってもよいし、スライディングウィンドウをシフトさせながら分割するものであってもよい。
例えば映画のような刺激情報であれば、シーンの切り替わりのタイミングで分割するものであってもよい。また、例えば小説のような刺激情報であれば、章単位に分割するものであってもよい。
このように分割された刺激情報は、刺激特徴量抽出部111へ出力される。
【0053】
複数のユーザに対して長時間及び多数の刺激情報を与えることは、その負担から好ましくない。一方で、ユーザに与える刺激情報のバリエーションが乏しい場合、推定精度予測エンジン112に用いる説明変数に偏りが生じることとなり、汎用性(例えば様々な映画について推定精度を予測する能力)が低下することとなる。
【0054】
分割後の刺激情報は、それぞれ異なる刺激として扱われる。これによって、ユーザに与えられる刺激情報が短時間及び少量であっても、予測される推定精度に対する刺激情報のバリエーションを増加させて、多様性が高まり、予測装置の汎用性低下を抑制することができる。
【0055】
[刺激情報選択部113]
刺激情報選択部113は、予測対象の人間関係について、推定精度予測エンジン112によって、複数の刺激情報から得られた複数の推定精度の中で、最も高い推定精度となる刺激情報を選択する。
最も高い推定精度となる刺激情報によって、複数のユーザから得られた生体信号から、人間関係を推定することができる。
【0056】
図5は、本発明の推定精度予測エンジンの訓練段階について、人間関係の推定精度を算出する予測装置の構成図である。
【0057】
図5によれば、
図3の予測装置1について、複数のユーザに刺激情報を与えることによって計測された複数のユーザの生体信号から、任意の人間関係における推定精度を算出するためのものである。
【0058】
図5の予測装置1は、
図3の予測装置と比較して、第1の生体信号取得部1201、第2の生体信号取得部1202、類似度算出部121、第2の教師データによって訓練された人間関係予測エンジン122と、推定精度算出部123とを更に有する。これら機能構成部も、予測装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、これらの機能構成部の処理の流れは、推定精度予測エンジン112の第1の教師データの作成方法としても理解できる。
【0059】
[第1の生体信号取得部1201、第2の生体信号取得部1202]
第1の生体信号取得部1201は、第1のユーザにおける第1の位置の第1の生体信号を取得する。第1のユーザの第1の生体信号は、類似度算出部121へ出力される。
第2の生体信号取得部1202は、第2のユーザにおける第2の位置の第2の生体信号を取得する。第2のユーザの第2の生体信号は、類似度算出部121へ出力される。
生体信号として、前述したように、例えば脳波信号であってもよいし、心拍数、血中酸素濃度、皮膚温、血圧、発汗量、活動量、ストレスレベルなどであってもよい。
尚、ユーザが3人以上の場合、第n(n≧3)の生体信号取得部を必要とする。
【0060】
[類似度算出部121]
類似度算出部121は、第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する。
類似度算出部121は、第1の生体信号及び第2の生体信号の位相差同期度(PLV(Single-trial Phase Locking Value))を、類似度として算出するものであってもよい。位相差同期度とは、2つ(複数)の生体信号について、計測点間で特定帯域成分の位相差を、時間平均したものである。
【0061】
最初に、生体信号毎に、各周波数成分に分解する。例えば生体信号の周波数成分が、1~40Hzである場合、例えば以下の4つの周波数成分に分解する。
δ波:1~4Hz
θ波:4~8Hz
α波:8~12Hz
β波:12~30Hz
その上で、各周波数成分について、以下のように位相差同期度を算出する。
PLV=|Σn=1
N exp(j(ψ1
f[n]-ψ2
f[n]))/N| (0 ≦ PLV ≦ 1)
ψ1
f[n]:第1のユーザにおける脳波信号fのサンプリングポイントnの瞬時位相
ψ2
f[n]:第2のユーザにおける脳波信号fのサンプリングポイントnの瞬時位相
N :刺激情報の開始から終了までの全サンプリング数
ここで、全サンプリングポイントにおけるψ1
f及びψ2
fの位相差が一定であれば1に近づき、ばらけていれば0に近づく。即ち、PLVが高いほど、脳波信号の類似度は高い、といえる。
【0062】
図6は、
図5における人間関係予測エンジン及び推定精度予測エンジンの処理を表す説明図である。
【0063】
<第2の教師データ>
事前に用意された第2の教師データは、複数のユーザの生体信号から算出された「類似度」(例えば位相差同期度)を説明変数とし、当該複数のユーザ間の正解の「人間関係」を目的変数として対応付けたものである。
教師データとなる複数のユーザを予め集めて、複数の刺激情報を与えて生体信号を取得すると共に、アンケート等によって正解の人間関係を収集しておく。
【0064】
教師データにおける他の実施形態として、目的変数として、「類似度」に加えて、複数のユーザそれぞれの「個人属性」を更に含むことも好ましい。人間関係(例えば結婚する/しない)を予測する場合、同一の刺激情報(コンテンツ)であっても、例えば年齢(年齢差)や学歴などによって、予測される人間関係も異なるものとなる場合があるためである。
【0065】
[人間関係予測エンジン122]
<訓練段階>
人間関係予測エンジン122は、第2の教師データによって事前に訓練する。
例えば目的変数が「結構する/しない」のような項目である場合、人間関係予測エンジン122は、ロジスティック回帰モデルとして訓練するものであってもよい。
また、例えば目的変数が「結婚満足度」のような度合いである場合、人間関係予測エンジン122は、線形重回帰モデルとして訓練するものであってもよい。
勿論、これらの機械学習アルゴリズムに限られず、多層パーセプトロン(MLP:MultiLayer Perceptron)のようなものであってもよい。
【0066】
<運用段階>
人間関係予測エンジン122は、予測対象となる未知の複数のユーザから算出された「類似度」(例えば位相差同期度)から、「人間関係」を予測する。
また、第2の教師データに、個人属性が含まれている場合、人間関係予測エンジン122は、類似度及び各個人属性から、人間関係を予測するものであってもよい。
【0067】
[推定精度算出部123]
推定精度算出部123は、複数のユーザに与えられる刺激情報毎に、「正解の人間関係」と、人間関係予測エンジン122によって「予測された人間関係」とが一致した割合を、第1の教師データにおける当該刺激情報の推定精度として算出する。
【0068】
ここで、推定精度算出部123は、人間関係予測エンジン122における確率を、推定精度として出力するものであってもよい。推定精度の指標としては、ROC-AUC(Receiver operating characteristic-Area under the curve)や、RMSE(Rooted mean squared error)などを用いることができる。
人間関係予測エンジン122がロジスティック回帰の場合、予測された人間関係について、0.0~から1.0の範囲の確率を出力する。ROC曲線は、この範囲で変化させた際の予測結果の変化を曲線として表現したものをいう。閾値を1.0~0.0に変化させた際に、徐々に正例に分類される数は増加していく。全く予測できず、ランダムに予測しているような場合は、ROC曲線は直線となる。
また、人間関係予測エンジン122が回帰モデルの場合、AIC(Akaike Information Criterion)などの情報量基準や調整済み決定係数など、人間関係予測エンジン122の予測モデルのモデルフィットを示す指標を用いてもよい。
【0069】
尚、前述した実施形態としては、第2の教師データは、目的変数となる正解の人間関係として、「人間関係自体の項目」を対応付けている。例えば「夫-妻」のような人間関係自体の項目が含まれる。この第2の教師データによって訓練された人間関係予測エンジン122は、人間関係自体の項目「夫-妻」を予測する。そして、推定精度算出部123は、正解の人間関係自体の項目と、人間関係予測エンジン122によって予測された人間関係自体の項目とが一致した割合を、第1の教師データにおける当該刺激情報の推定精度として算出する。これによって、例えば映画のような刺激情報から、予測対象となる人間関係「夫-妻」について、推定精度を得ることができる。即ち、複数の映画の中から、人間関係「夫-妻」を推定するに適した映画を選択することができる。
【0070】
これに対し、他の実施形態として、第2の教師データは、目的変数となる正解の人間関係として、「所定の人間関係の適合度」を対応付けたものであってもよい。例えば人間関係「夫-妻」における「結婚満足度」が含まれる。この第2の教師データによって訓練された人間関係予測エンジン122は、所定の人間関係「夫-妻」の適合度を予測する。そして、推定精度算出部123は、正解の人間関係の適合度と、人間関係予測エンジン122によって予測された人間関係の適合度とが近いほど高くなる割合を、第1の教師データにおける当該刺激情報の推定精度として算出する。これによって、例えば映画のような刺激情報から、結婚満足度の推定精度を得ることができる。即ち、複数の映画の中から、結婚満足度を推定するに適した映画を選択することができる。
【0071】
以上、詳細に説明したように、本発明における予測装置、プログラム及び方法によれば、複数のユーザに与えられる刺激情報に対して、予測対象の人間関係における推定精度を予測することができる。
これによって、高い推定精度が期待できる刺激情報のみを選択することできる。その後、その刺激情報を複数のユーザに与えて得られた生体信号から、予測対象の人間関係を予測することができる。即ち、人間関係の予測に最適な刺激情報を選択することができ、ユーザ及びオペレータの負担を軽減することができる。
【0072】
このように選択された刺激情報は、人間関係の相性を推定するサービスに利用される。そのようなサービスでは、ユーザに対する心理テストを必要としないために、ユーザの無意識なバイアスが入る余地も少なく、ユーザの認知力に頼ることもない。また、ユーザは、高い推定精度となる映画のようなコンテンツを刺激情報として視聴するだけでよく、脳波信号のような生体信号も、簡易に取得可能となり、ユーザの負担も少ない。
【0073】
このように, 刺激提示時に得られた生体信号がどの程度人間関係の予測に寄与するかは, 提示する刺激によって大きく異なると考えられる. 刺激提示と生体信号の計測はユーザにある程度の負担をかけることになるため, 人間関係の予測に有効な刺激を事前に選定しておくことが重要である.
【0074】
人間関係の相性を推定するサービスによれば、例えば男女の相性や、結婚する/しない及び結婚満足度を予測することもできる。勿論、上司-部下など様々な人間関係の相性を推定することもできる。
また、リアルな人間関係の相性に限られず、オンライン(カスタマーサポート)での人間関係の相性も推定することができる。
更に、人同士に限らず、人とバーチャルヒューマン(会話型AI)との相性を推定することもできる。バーチャルヒューマンが、そのユーザの相性に合わせて、応答文を選択することもできる。
このような効果を奏する本発明によれば、LX(Life Transformation)における利用が可能となる。
【0075】
尚、これにより、例えば「推定精度が高い刺激情報を用いて、ユーザ間の人間関係を予測することができる」ことから、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標8「すべての人々のための包摂的かつ持続可能な経済成長、雇用およびディーセント・ワークを推進する」に貢献することが可能となる。
【0076】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0077】
1 予測装置
110 刺激情報分割部
111 刺激特徴量抽出部
112 推定精度予測エンジン
113 刺激情報選択部
1201 第1の生体信号取得部
1202 第2の生体信号取得部
121 類似度算出部
122 人間関係予測エンジン
123 推定精度算出部
2 ウェアラブルデバイス