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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103342
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】レーンロープ用フロート
(51)【国際特許分類】
   A63K 3/00 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
A63K3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007621
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000010054
【氏名又は名称】岐阜プラスチック工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市原 直樹
(72)【発明者】
【氏名】林 英俊
(72)【発明者】
【氏名】小澤 英郎
(57)【要約】
【課題】水面を伝わる波のエネルギーを早く消費させることができる、優れたレーンロープ用フロートを提供する。
【解決手段】フロート10は、その中央位置にロープ11挿入用の筒状部12を有している。この筒状部12には、外方に延びる6枚の翼板13が形成されている。また、隣接する翼板13には、相互に連結する連結部14が設けられており、6枚の翼板13の外縁には、翼板13を相互に結合させる外壁部15が形成されている。隣接する一対の翼板13、隣接する連結部14、外壁部15等は、フロート10内の全空間を6個の個別空間16に分割する。連結部14には、個別空間16に導入した波を排出可能とする3個の通水口19を備える。個別空間16の容積をA1とし、3個の通水口19の総面積をB1とした場合、A1とB1の比率を、消波に関する基準を基にした下限以上且つ上限以下の許容値内に設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プール水面をレーン用に区画するロープに取り付けられるフロートであって、
前記フロート内の中央位置で前記ロープを挿入可能とするように設けられた中央取付部と、
前記プール水面から伝わる波を外側壁面で遮蔽するとともに、前記プール水面から伝わる波を前記フロート内の空間に導入可能とする開口を形成する外壁部と、
この外壁部と前記中央取付部とを連結するとともに、前記フロート内の空間を複数の空間に分割するように前記ロープが延びる方向に延設された複数の翼板と、
これら複数の翼板を相互に連結するとともに、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を排出可能とする通水口を有する連結部とを備え、
隣接する一対の前記翼板と、前記翼板に隣接する前記外壁部と、前記翼板に隣接する前記連結部で少なくとも仕切られる個別空間の容積をA1とし、この個別空間に関連する前記通水口の面積をB1とした場合、A1とB1の比率を下限以上且つ上限以下の許容値に設定することを特徴とする記載のレーンロープ用フロート。
【請求項2】
隣接する一対の前記翼板と、前記翼板に隣接する前記外壁部と、前記翼板に隣接する前記連結部で少なくとも仕切られる個別空間の容積をA1とし、この個別空間に関連する前記開口の面積をC1とした場合、A1とC1の比率を下限以上且つ上限以下の許容値に設定することを特徴とする請求項1に記載のレーンロープ用フロート。
【請求項3】
前記連結部に、前記開口を介してフロート内空間に導入した波を誘導とする誘導部を設けることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーンロープ用フロート。
【請求項4】
前記誘導部は、前記ロープが延びる方向に突出する突起部を備えることを特徴とする請求項3に記載のレーンロープ用フロート。
【請求項5】
前記誘導部は、テーパ面を一部に有し、このテーパ面が、前記空間内の波を前記通水口に向かって誘導することを特徴とする請求項4に記載のレーンロープ用フロート。
【請求項6】
前記外壁部と前記翼板を接続する接続部において、前記翼板を水面に置いた状況下で、水面に対する鉛直方向で且つ前記ロープが延びる方向に切断した部位の片側に乗越部を設けるとともに反対側に防波部を設け、前記乗越部をプール水面側に且つ前記防波部をプール水中に位置するよう前記ロープに取り付けることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーンロープ用フロート。
【請求項7】
プール水面をレーン用に区画するロープに取り付けられるフロートであって、
前記フロート内の中央位置で前記ロープを挿入可能とするように設けられた中央取付部と、
前記プール水面から伝わる波を外側壁面で遮蔽するとともに、前記プール水面から伝わる波を前記フロート内の空間に導入可能とする開口を形成する外壁部と、
この外壁部と前記中央取付部とを連結するとともに、前記フロート内の空間を複数の空間に分割するように前記ロープが延びる方向に延設された複数の翼板と、
これら複数の翼板を相互に連結するとともに、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を排出可能とする通水口を有する連結部とを備え、
前記連結部に、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を誘導とする誘導部を設けることを特徴とするレーンロープ用フロート。
【請求項8】
プール水面をレーン用に区画するロープに取り付けられるフロートであって、
前記フロート内の中央位置で前記ロープを挿入可能とするように設けられた中央取付部と、
前記プール水面から伝わる波を外側壁面で遮蔽するとともに、前記プール水面から伝わる波を前記フロート内の空間に導入可能とする開口を形成する外壁部と、
この外壁部と前記中央取付部とを連結するとともに、前記フロート内の空間を複数の空間に分割するように前記ロープが延びる方向に延設された複数の翼板と、
これら複数の翼板を相互に連結するとともに、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を排出可能とする通水口を有する連結部とを備え、
前記外壁部と前記翼板を接続する接続部において、前記翼板を水面に置いた状況下で、水面に対する鉛直方向で且つ前記ロープが延びる方向に切断した部位の片側に乗越部を設けるとともに反対側に防波部を設け、前記乗越部をプール水面側に且つ前記防波部をプール水中に位置するよう前記ロープに取り付けることを特徴とするレーンロープ用フロート。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プール内の水表面又は水中(以下総称して「水面」という。)をレーン用に区画するロープに取り付け可能なフロートに関する。
【背景技術】
【0002】
競泳用プールでは、各泳者のレーン用に区画するために、多くのレーン用ロープが張設されており、各ロープには多くのフロートが取り付けられる(特許文献1参照)。これらフロートに関し、近年、泳者が立てた水面を伝わる波を減衰させ小さくさせるため(以下この現象を「消波」という。)、消波機能のレベルアップが求められている。
【0003】
特に、大勢の競技者が参加する水泳競技会では、競技する泳者は、他(隣)のコースから流れてくる水面の波の悪影響が無いよう、波が無くなった穏やかな状況下で、競泳できることを希望する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3039436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の場合、フロートは、その中央位置にロープ挿入用の軸筒を有しており、この軸筒には、外方に延びる複数の翼板が形成され、これら翼板はフロート内の全空間を複数の小空間に分割する。その翼板の外縁には、隣接する翼板を相互に結合させる円周状の外壁が形成されている。外壁には、フロート外のプール水面から伝わる波を遮蔽する環状部を備える一方、この環状部は、プール水面から伝わる波を導入可能とする窓孔を形成している。
【0006】
上記フロートの場合、窓孔内に入った水に伝わった波のエネルギーは、フロートの揺動等でもって消費されるので、泳者が起こした波は次第に消波する。フロートの揺動状況について、本発明者等が詳細に検討した結果、更なる工夫等を施せば、消波をより改善させる可能性があることを発見し、種々の試行錯誤を行った結果、本発明に到達することに至った。
【0007】
本発明の目的とするところは、フロート内の構造を種々工夫することにより、水面を伝わる波のエネルギーを従来技術に比べ早く消費させることができる、優れたフロートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、本発明は以下の手段を有する。即ち、本発明を具体化した一手段によれば、プール水面をレーン用に区画するロープに取り付けられるフロートであって、 前記フロート内の中央位置で前記ロープを挿入可能とするように設けられた中央取付部と、前記プール水面から伝わる波を外側壁面で遮蔽するとともに、前記プール水面から伝わる波を前記フロート内の空間に導入可能とする開口を形成する外壁部と、この外壁部と前記中央取付部とを連結するとともに、前記フロート内の空間を複数の空間に分割するように前記ロープが延びる方向に延設された複数の翼板と、これら複数の翼板を相互に連結するとともに、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を排出可能とする通水口を有する連結部とを備え、隣接する一対の前記翼板と、前記翼板に隣接する前記外壁部と、前記翼板に隣接する前記連結部で少なくとも仕切られる個別空間の容積をA1とし、この個別空間に関連する前記通水口の面積をB1とした場合、A1とB1の比率を下限以上且つ上限以下の許容値に設定することを特徴とする。
【0009】
本発明を具体化した他の手段によれば、プール水面をレーン用に区画するロープに取り付けられるフロートであって、前記フロート内の中央位置で前記ロープを挿入可能とするように設けられた中央取付部と、前記プール水面から伝わる波を外側壁面で遮蔽するとともに、前記プール水面から伝わる波を前記フロート内の空間に導入可能とする開口を形成する外壁部と、この外壁部と前記中央取付部とを連結するとともに、前記フロート内の空間を複数の空間に分割するように前記ロープが延びる方向に延設された複数の翼板と、これら複数の翼板を相互に連結するとともに、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を排出可能とする通水口を有する連結部とを備え、前記連結部に、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を誘導する誘導部を設けることを特徴とする。
【0010】
本発明を具体化した別の手段によれば、プール水面をレーン用に区画するロープに取り付けられるフロートであって、前記フロート内の中央位置で前記ロープを挿入可能とするように設けられた中央取付部と、前記プール水面から伝わる波を外側壁面で遮蔽するとともに、前記プール水面から伝わる波を前記フロート内の空間に導入可能とする開口を形成する外壁部と、この外壁部と前記中央取付部とを連結するとともに、前記フロート内の空間を複数の空間に分割するように前記ロープが延びる方向に延設された複数の翼板と、これら複数の翼板を相互に連結するとともに、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を排出可能とする通水口を有する連結部とを備え、前記外壁部と前記翼板を接続する接続部において、前記翼板を水面に置いた状況下で、水面に対する鉛直方向で且つ前記ロープが延びる方向に切断した部位の片側に乗越部を設けるとともに反対側に防波部を設け、前記乗越部をプール水面側に且つ前記防波部をプール水中に位置するよう前記ロープに取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プールレーンを泳ぐ泳者等によって生じた、水面を伝わる波のエネルギーを早く消費させることで、水面の波を短時間で静めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明を具体化した実施の形態のフロートを示す斜視図である。
図2】前記フロートにおける一個の個別空間を中心に示す部分拡大図である。
図3】前記フロートにおける連結部、通水口及び誘導部等の一部を示す拡大図である。
図4】前記フロートにおける接続部及びその周辺を示す拡大断面図である。
図5】前記フロートにおける個別空間を示す説明図である。
図6】前記フロートにおける外壁部に設けられた開口を示す説明図である。
図7】前記フロートにおける通水口を示す説明図である。
図8】泳者が泳ぐことで水面に波が発生し、その波が消波されていない状況を示す写真。
図9】前記フロートでもって消波され、水面が穏やかになった状況を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を具体化した実施の形態を、図面に従って説明する。図1は本実施の形態のフロート10全体を示している。なお、フロート10は、発泡性の合成樹脂材料を射出成形して一体的に成形したものであり、プールに蓄えられた水の表面側又は水中(以下総称して「水面)という。)を伝わる波を迅速に消すように、水に浮くような材料が使われている。具体例な材料としては、ポリプロピレンやポリエチレン等からなっており、フロート全体の比重が1以下になっている。但し、フロートに浮き等をつける場合は、浮き以外のフロート部の比重が1以上になっていてもよい。
【0014】
フロート10は、図1及び2に示すように、その中央位置にロープ11(仮想的に示す)の挿入用の筒状部12を備えている。筒状部12は、プールに張られたロープ11の延設方向(矢印11A方向)に延びる開口12Aを有しており、開口12Aにロープ11が挿入されることで、フロート10をロープ11に取り付け可能となるので、筒状部12は中央取付部として機能する。ここで、フロート10は、筒状部12内に存在する中心点を基準とする点対称の構造になっているので、便宜的に片側(中心線10Aの左側)の構成について説明して、同じ構成に同じ符号を付し、反対側(中心線10Aの右側)の説明は省略する。
【0015】
筒状部12の外側には、複数(本実施の形態の場合6枚)の翼板13が延設されている。具体的には、各翼板13は、矢印11A方向に所定長さだけ延設されるとともに、筒状部12外側から60度毎に外方に延びている。各翼板13には、相互に連結する連結部14が設けられており、6枚の翼板13の外縁には、翼板13を相互に結合させる円周状の外壁部15が形成されている。この外壁部15、隣接する連結部14、隣接する一対の翼板13及び筒状部12は、フロート10内の全空間をほぼ均等に6分割した小空間(以下小空間を「個別空間」16という。)を形成する。なお、筒状部12と翼板13を連結する箇所を適宜変更することができ、翼板13は筒状部12外側と接触しない形態を採用することができる。この場合、個別空間16は、隣接する一対の翼板13、隣接する連結部14及び隣接する外壁部15でもって形成される。
【0016】
また、外壁部15には、フロート10外のプール水面D1から伝わる波を遮蔽する遮蔽部17を備え、この遮蔽部17には、プール水面D1から伝わる波を個別空間16に導入可能とする開口18が形成されている。具体的には、開口18に面する遮蔽部17は、図2に示すように、外壁部15の外面に沿った曲線となり、更に、翼板13から隣接する翼板13に向かう周面に、プール水面D1から入る水の流入量の大小を形成する。ここで、流入量大となる流入量大部位E1と、流入量小となる流入量小部位E2を有する開口18を形成することで、流入量大部位E1及び流入量小部位E2間の開口18からの水の流入量が、漸近的に変化するように、開口18と接する遮蔽部17外郭が曲線形状をなす。
そして、個別空間16に導入する水の流入量が十分に充足した状況下、個別空間16内の水に伝わる波の運動エネルギーが、一対の翼板13、隣接する連結部14及び隣接する外壁部15に運動エネルギーを与えて、フロート10全体を揺動させる。その際、効率的に揺動するよう、開口18と遮蔽部17の比率を適切に設定することができる。
【0017】
また、翼板13及び外壁部15を連結する連結部14には、同心円状の3個の通水口19が形成され、これら通水口19は、個別空間16に導入した波を通水することができる。この場合、左側の個別空間16内の水が、右側の個別空間16内に通水する他、右側の個別空間16から左側の個別空間16へも通水する。なお、連結部14と通水口19に関する構造としては、連結部14の幅(即ち水を遮蔽する幅)と、3個の通水口19の通水幅を適宜設定することができる。即ち、連結部14の幅、3個の通水口19の通水幅のいずれかを固定し、他方を変化させることで比率を任意に変更できる。例えば、通水口19は、連結部14に対して、20~60%好ましくは25~50%、更に好ましくは30~45%の開口を有している。通水口19は、連結部14に対して開けすぎるとフロート全体の強度が低下して、保管時の梱包・巻取状態で破損・変形することがある。この結果、個別空間16に導入する水の流入量を適切な流入量に調整できる。上記のように連結部14の幅と通水口19の通水幅を適宜変更することで、個別空間16内に導入する水量が異なり、その水を伝わる波の運動エネルギーが異なることで、フロート10の揺動量が変化し、水面を伝わる波の消波の程度が変化する。なお、連結部14の幅及び通水口19の位置及び形態は、この実施の形態以外に適宜変更させても良い。
【0018】
連結部14には、図3に示されるように、前記開口18を介してフロート10内空間に導入した波を誘導とする突起部20が形成されている。突起部20は、個別空間16内の波を誘導する誘導部として機能し、テーパ面20Aを一部(この場合は突起部20の左右の一部分)に形成し、このテーパ面20Aは、個別空間16内に伝わった波を通水口19に向かって誘導することができる。なお、突起部20は、波を誘導する誘導機能を発揮すれば、テーパ面以外の形態に変更してもよい。詳細には、突起部20の形態を定める、突起部20の高さ、位置及びテーパ面の傾き等を変化させることで、突起部20の形態を任意に変形させることができる。
例えば突起部20は連結部14の中央に配置することで、突起部20の表面に沿って流れる水量を均等に分配することができる。それ以外に、例えば突起部20の位置を複数の通水口19内の一方(片)側に近接させても良い。更に、突起部20は、隣接する翼板13同士を連結することや翼板13間の80~100%好ましくは85~95%の長さにすることも可能である。また、突起部20の高さは、消波能力を向上させるため、矢印11A方向の任意の高さに設定することも可能である。
また、翼板13における開口18に対向する位置には、個別空間16内に入った波を反射・誘導させるための、矢印11A方向と平行に延びる突板21が設けられている。この場合、突板21は隣り合う翼板13の対向する位置に設けられ、複数の連結部14内の外周側に位置する突起部20と連結する。このような突起部20及び突板21の構造は、個別空間16内の波を通水口19に導くためのものであり、突板21の厚さは、突起部20の厚さとほぼ同じ程度に設定するのが望ましい。例えば、突板は、肉厚が翼板13と同一または1.5倍以内であり、幅が翼板13と同一の長さである。
【0019】
上記フロート10の場合、遮蔽部17は、フロート10外のプール水面D1から伝わる波を遮蔽すると共にフロート10外へ反射させる。一方、フロート10外から伝わった波は、開口18を介して個別空間16に導入する際、個別空間16内の翼板13及び連結部14、突板21等に当たることで、個別空間16内の水に乱流を起こすことができ、この乱流はロープ11に取り付けられたフロート10を揺動・回動・変移等(以下単に「揺動等」という。)させる。
更に、翼板13及び連結部14等に当たって反射した波は、開口18及び通水口19から、連結部14及び通水口19を共有する隣の個別空間16内に排出する。この結果、その波は、隣の個別空間16内の翼板13、突起部20及び突板21等に当たることで更なる乱流を起こし、この乱流はロープに取り付けられたフロート10を揺動・回動・変移等(以下単に「揺動等」という。)させる。このように個別空間16内に伝わった波のエネルギーは、個別空間16内の水に乱流を起こし、この乱流を起こしたエネルギーは、フロート10内で消費される結果、泳者が起こした波は、フロート10の揺動等により消波する。
また、開口18の面積は、外壁部15の40~70%好ましくは50~60%であり、遮蔽部17は、外壁部15の30~60%好ましくは40~50%ある。開口18の面積が、遮蔽部17より大きいことで、波が乱流して消費しやすくなる。開口18から入った波は、波が開口18から入る波と翼板13に当たって跳ね返った波とが乱流して消波すると共に、遮蔽板17の裏側で乱流して消波するものである。遮蔽板17より開口18の面積が大きいことで水量が多くなり、波が複雑に乱流して消費される。
【0020】
なお、上記突起部20を備えた連結部14においては、個別空間16内に伝わった波を通水口19にスムーズに導くことができるのに対し、仮に突起部20を形成しない場合、伝わった波を通水口19にスムーズに導くことができないことがある。このことから、突起部20は、開口18を介して個別空間16に導入した波を通水口19に誘導する機能を果たす。
【0021】
また、外壁部15と翼板13を接続する接続部15Aにおいて、図4に示されるように、水面D1に対する鉛直方向D2で且つロープが延びる方向(矢印11A方向)に切断した部位において、片側に乗越部(波が乗り越える部分)22、更に、反対側に防波部(波が乗り越えれない部分)23を形成している。具体的には、接続部15Aの付近において、翼板13の片側と反対側を互いに異形とし、乗越部22(この場合は、防波部23と異なり凸状が無い形状である)は、プール水面側D1Aの水面とほぼ面一になって、波が乗り越えやすくなる一方、防波部23は水中に向かって凸状(厚みのある形状)と形成することで、水中の波は、防波部23を乗り越えることができない。
【0022】
この場合、乗越部22外端と防波部23外端の形状は、外壁部15の周方向とほぼ一致しており、防波部23の外端は、外壁部15とほぼ面一となる。また、防波部23の厚さは、軽量化の観点から、外壁部15の厚さより薄くなるように設定しても良い。なお、乗越部22と防波部23における、それらの形状、位置、大きさ、厚さ等は、この形態に限定される訳ではなく、適宜変更することができる。また、波が乗り越える乗越部22の高さは、防波部23の高さに比べて低くなっていれば良い。フロート10をロープに取り付け、ロープの張り具合により、フロート10の乗越部22がプール水面側D1Aより沈んだ状況になりえるが、この状況であっても、同様な効果がある。
【0023】
この結果、翼板13を水面D1に置いた状況下で、乗越部22を水面側D1Aに位置させ、且つ防波部23を水中D1Bに位置させると、フロート10外から伝わった波は、個別空間16に導入する際、乗越部22を乗り越えて個別空間16に入り易くなる一方、防波部23で反射する。このような構成を採用することにより、フロート10外のプール水面D1から伝わる波は、フロート10を揺動等させやすくする。
なお、凸状からなる防波部23の肉厚が増すと、フロート10全体の強度が確保され、フロート10を取り扱う際の破損を防止する。ここで、図1に示す左側及び右側の、通水口19を共有する個別空間16において、左側のフロート10の乗越部22が水面側D1Aになるとともに、防波部23が水中D1B側になるのに対し、右側のフロート10の乗越部22が水中D1B側になるとともに、防波部23が水面側D1Aになるが、これは、フロート10をロープに取り付ける際のフロート10の向きを判別する煩雑さを解消する観点から、このような構造を採用したのである。
ここで、乗越部22が流入量大部位E1側に配設され、且つ、流入量小部位E2側に防波部23が配設されている場合、水面D1を伝わった波は、流入量大部位E1側から乗越部22を乗り越え個別空間16内に、より多く入り易くなる一方、流入量小部位E2側の防波部23で、より多く反射するので、フロート10の揺動等による消波機能が向上する効果がある。
【0024】
上述したように、一方(右側)のフロート10の乗越部22が水中D1B側になり、かつ、防波部23が水面側D1Aになっても、反対(左側)のフロート10の乗越部22が水面側D1Aに、防波部23が水中D1B側になることで、フロート10外のプール水面D1から伝わる波は、フロート10を揺動等させやすくする。上記のような構成を採用する場合、迅速な消波が可能となり、水泳競技会での迅速な運営のため、先の泳者の競技後の短い消波時間の経過後に、次の泳者は競技を開始することができる。
【0025】
図8に示す写真は、レーン内を泳者が泳いだ直後で、プール水面D1に伝わった波が消波されていない状況を示す。一方、図9を示す写真は、レーン内を泳者が泳いだ後、レーンを区画するロープに取り付けられるフロート10でもって波が消波し、水面D1が穏やかになった状況を示す。
発明者等はこれらの水面D1の状況をつぶさに観察し、多くの映像を検討した結果、以下の検証結果に到達することができた。即ち、個別空間16の容積を(図5の色を施こした部分)A1とし、通水口19の総面積(図の色を施こした部分)をB1とし、開口18の総面積(図の色を施こした部分)をC1に着目した。
この場合、個別空間16の容積は、フロート10内の全空間(壁部を除いた)の凡そ6分の1になる。通水口19の総面積B1は、同心円状の3個の通水口19の面積を合計することで算出できる。更に、開口18の総面積C1は、フロート10全外周面積の6分の1から、遮蔽部17の全面積の6分の1の面積を引くことで算出できる。
【0026】
そして、A1(個別空間16の容積)とB1(通水口19の総面積B1)の比率が1000:5以下(下限以下)の場合、個別空間16内で伝わる波の減衰量が少なく、個別空間16内の波の減衰が十分でない事が分かった。また、A1とB1の比率が1000:15以上(上限以上)の場合、個別空間16内で伝わる波の減衰量が少なく、個別空間16内の波の減衰が十分でない事が分かった。
なお、「波の減衰が十分でない」とは、一つの判断基準として、泳者が泳いだ後所定時間(例えば1分30秒)経過するまでに消波しない状況をいう。一方、「波の減衰が十分である状況」とは、泳者が泳いだ後の所定時間(例えば1分30秒)経過するまでに、消波する状況をいう。
この結果、A1とB1の比率の下限(1000:5)以上且つ上限(1000:15)以下の許容値は、消波に関する基準(泳者が泳いだ後の所定時間の経過の有無)を基にした下限以上且つ上限以下の許容値と整合することが分かった。そして、A1とB1の比率が、下限以上且つ上限以下の許容値内にある場合、消波が十分であることに気がついた。この結果、A1とB1の比率等に関し、更なる検証等を施せば、消波をより改善させる可能性があることを発見し、種々の試行錯誤を行った。
例えば、泳者が泳いだ後経過の所定時間は、前記1分30秒以外(消波に関する基準)に、より短い所定時間の例えば1分20秒等に設定しても良く、泳者が泳いだ後の経過時間が短い程、消波する機能(消波機能)が高くなる。
なお、A1とB1の比率は、泳者が泳いだ後の所定時間を、1分20秒と設定した場合、(1000:)以上(下限以上)且つ(1000:10)以下(上限以下)の許容値内にあると、消波が十分であることが分かった。なお、消波に関する基準として、泳者が泳いだ後の所定時間経過の有無以外、別の基準(公的基準や自社基準等)を採用してもよい。
【0027】
また、「波の減衰が十分でない」及び「波の減衰量が適正である」状況の更なる検討として、下記の基準を発見することができた。即ち、上記判断基準と同様、A1(個別空間16の容積)とC1(開口18の総面積)の比率が(1000:15)以下(下限以下)の場合、個別空間16内で伝わる波の減衰量が少なく、個別空間16内の波の減衰が十分でない事が分かった。また、A1とC1比率が(1000:25)以上(上限以上)の場合、個別空間16内で伝わる波の減衰量が少なく、個別空間16内の波の減衰が十分でない事が分かった。
この結果、A1とC1の比率の下限(1000:15)以上且つ上限(1000:25)以下の許容値は、消波に関する基準(泳者が泳いだ後の所定時間経過の有無)を基にした下限以上且つ上限以下の許容値と整合することが分かった。そして、A1とC1の比率が、下限以上且つ上限以下の許容値内にある場合、消波が十分であることに気がついた。この結果、A1とC1の比率等に関し、更なる検証等を施せば、消波をより改善させる可能性があることを発見し、種々の試行錯誤を行った。
例えば、A1とC1の比率は、泳者が泳いだ後の所定時間を1分20秒(消波に関する基準)と設定した場合、1000:17以上(下限以上)且つ1000:23以下(上限以下)の許容値内にあると、消波が十分であることが分かった。なお、消波に関する基準として、泳者が泳いだ後の所定時間経過の有無以外、別の基準(公的基準や自社基準等)を採用してもよい。
以上上述したように、本実施の形態のフロート10によれば、プール用レーンを泳ぐ泳者等によって生じた水面D1上の波のエネルギーを早く消費させることで、水面D1を伝わった波を短時間で消波できる。
【0028】
詳細には、図8及び9の写真に示すように、プール水面をレーン用に区画するロープを張設し、各ロープに、図1に示すフロートを多数取り付けることで、消波機能の高い競泳プールを提供することができる。
なお本発明は、上述した実施の形態に限定される訳ではなく、種々の変更が可能であって、必ずしも6枚の翼板を備える必要はなく、例えば5枚の翼板を備える構成であってもよい。また、連結部に備える通水口は、3個以外の個数であってもよく、また、同心円状の形態以外に、多数の丸孔であってもよい。また、フロートに浮き等を適宜取り付けて、浮いた状態のフロートの位置を調整してもよい。
なお、フロートを多数ロープに取り付ける際、並んだフロート間隔を確保し、フロート相互の滑りをよくするため、フロート間にスペーサーを取り付けてもよい。この場合、スペーサーをフロートの筒状部に近接するように取り付けることで、隣のフロート間のクリアランスを保つことができる。もっとも、隣のレーンの泳者が起こした波がフロート間から伝わらないよう、フロート間クリアランスを適切に設定するのが望ましい。
また、図1のフロートが上述した点対称の構造になっていることで、左右のフロートは、同様な構造になっているが、変形例として、点対称の構造以外の、非対称の構造となっていてもよい。
【0029】
以下、本発明を具体化した手段を付記する。
付記(イ1)によれば、プール水面をレーン用に区画するロープに取り付けられるフロートであって、 前記フロート内の中央位置で前記ロープを挿入可能とするように設けられた中央取付部と、前記プール水面から伝わる波を外側壁面で遮蔽するとともに、前記プール水面から伝わる波を前記フロート内の空間に導入可能とする開口を形成する外壁部と、この外壁部と前記中央取付部とを連結するとともに、前記フロート内の空間を複数の空間に分割するように前記ロープが延びる方向に延設された複数の翼板と、これら複数の翼板を相互に連結するとともに、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を排出可能とする通水口を有する連結部とを備え、隣接する一対の前記翼板と、前記翼板に隣接する前記外壁部と、前記翼板に隣接する前記連結部で少なくとも仕切られる個別空間の容積をA1とし、この個別空間に関連する前記通水口の面積をB1とした場合、A1とB1の比率を消波に関する基準を基にした下限以上且つ上限以下の許容値に設定することを特徴とする。
【0030】
付記(イ2)として、上記付記(イ1)において、隣接する一対の前記翼板と、前記翼板に隣接する前記外壁部と、前記翼板に隣接する前記連結部で少なくとも仕切られる個別空間の容積をA1とし、この個別空間に関連する前記開口の面積をC1とした場合、A1とC1の比率を消波に関する基準を基にした下限以上且つ上限以下の許容値に設定することが望ましい。
付記(イ3)として、上記付記(イ1又はイ2)において、前記連結部に、前記開口を介してフロート内空間に導入した波を誘導とする誘導部を設けることが好ましい。
付記(イ4)として、上記付記(イ3)において、前記誘導部は、前記ロープが延びる方向に突出する突起部を備えることが好ましい。
付記(イ5)として、上記付記(イ4)において、前記誘導部は、テーパ面を一部に有し、このテーパ面が、前記空間内の波を前記通水口に向かって誘導することが好ましい。
付記(イ6)として、上記付記(イ5)において、前記外壁部と前記翼板を接続する接続部において、前記翼板を水面に置いた状況下で、水面に対する鉛直方向で且つ前記ロープが延びる方向に切断した部位の片側に乗越部を設けるとともに反対側に防波部を設け、前記乗越部をプール水面側に且つ前記防波部をプール水中に位置するよう前記ロープに取り付けることが好ましい。
【0031】
付記(ロ1)によれば、プール水面をレーン用に区画するロープに取り付けられるフロートであって、前記フロート内の中央位置で前記ロープを挿入可能とするように設けられた中央取付部と、前記プール水面から伝わる波を外側壁面で遮蔽するとともに、前記プール水面から伝わる波を前記フロート内の空間に導入可能とする開口を形成する外壁部と、この外壁部と前記中央取付部とを連結するとともに、前記フロート内の空間を複数の空間に分割するように前記ロープが延びる方向に延設された複数の翼板と、これら複数の翼板を相互に連結するとともに、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を排出可能とする通水口を有する連結部とを備え、前記連結部に、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を誘導とする誘導部を設けることを特徴とする。
【0032】
付記(ロ2)として、上記付記(ロ1)において、前記誘導部は、前記ロープが延びる方向に突出する突起部を備えることが好ましい。
付記(ロ3)として、上記付記(ロ2)において、前記誘導部は、テーパ面を一部に有し、このテーパ面が、前記空間内の波を前記通水口に向かって誘導することが好ましい。
付記(ロ4)として、上記付記(ロ3)において、隣接する一対の前記翼板と、前記翼板に隣接する前記外壁部と、前記翼板に隣接する前記連結部で少なくとも仕切られる個別空間の容積をA1とし、この個別空間に関連する前記通水口の面積をB1とした場合、A1とB1の比率を消波に関する基準を基にした下限以上且つ上限以下の許容値に設定することを特徴とする。
付記(ロ5)として、上記付記(ロ4)において、隣接する一対の前記翼板と、前記翼板に隣接する前記外壁部と、前記翼板に隣接する前記連結部で少なくとも仕切られる個別空間の容積をA1とし、この個別空間に関連する前記開口の面積をC1とした場合、A1とC1の比率を消波に関する基準を基にした下限以上且つ上限以下の許容値に設定することが望ましい。
【0033】
付記(ハ1)によれば、プール水面をレーン用に区画するロープに取り付けられるフロートであって、前記フロート内の中央位置で前記ロープを挿入可能とするように設けられた中央取付部と、前記プール水面から伝わる波を外側壁面で遮蔽するとともに、前記プール水面から伝わる波を前記フロート内の空間に導入可能とする開口を形成する外壁部と、この外壁部と前記中央取付部とを連結するとともに、前記フロート内の空間を複数の空間に分割するように前記ロープが延びる方向に延設された複数の翼板と、これら複数の翼板を相互に連結するとともに、前記開口を介してフロート内の空間に導入した波を排出可能とする通水口を有する連結部とを備え、前記外壁部と前記翼板を接続する接続部において、前記翼板を水面に置いた状況下で、水面に対する鉛直方向で且つ前記ロープが延びる方向に切断した部位の片側に乗越部と反対側に防波部を設け、前記乗越部をプール水面側に且つ前記防波部をプール水中に位置するよう前記ロープに取り付けることを特徴とする。
【0034】
付記(ハ2)として、上記付記(ハ1)において、前記連結部に、前記開口を介してフロート内空間に導入した波を誘導とする誘導部を設けることが好ましい。
付記(ハ3)として、上記付記(ハ2)において、前記誘導部は、前記ロープが延びる方向に突出する突起部を備えることが好ましい。
付記(ハ4)として、上記付記(ハ3)において、前記誘導部は、テーパ面を一部に有し、このテーパ面が、前記空間内の波を前記通水口に向かって誘導することが好ましい。
付記(ハ5)として、上記付記(ハ4)において、隣接する一対の前記翼板と、前記翼板に隣接する前記外壁部と、前記翼板に隣接する前記連結部で少なくとも仕切られる個別空間の容積をA1とし、この個別空間に関連する前記通水口の面積をB1とした場合、A1とB1の比率を消波に関する基準を基にした下限以上且つ上限以下の許容値に設定することを特徴とする。
付記(ハ6)として、上記付記(ハ5)において、隣接する一対の前記翼板と、前記翼板に隣接する前記外壁部と、前記翼板に隣接する前記連結部で少なくとも仕切られる個別空間の容積をA1とし、この個別空間に関連する前記開口の面積をC1とした場合、A1とC1の比率を消波に関する基準を基にした下限以上且つ上限以下の許容値に設定することが望ましい。
【符号の説明】
【0035】
10 フロート 11A 矢印(ロープが延びる方向)
12 挿入用の筒状部 13 翼板 14 連結部 15 外壁部
16 個別空間 17 遮蔽部 18 開口 19 通水口
20 誘導部(突起部) 20A テ-パ面 D1 水面
A1 個別空間の容積 B1 通水口の面積 C1 開口の面積
21 接続部 D2 水面に対する鉛直方向
22 防波部 23 乗越部
D1A プール水面側 D1B プール水中
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9