(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103350
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】田んぼ堰部材、および田んぼ堰部材の施工方法
(51)【国際特許分類】
A01G 25/00 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
A01G25/00 501A
A01G25/00 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007630
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000505
【氏名又は名称】アロン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】中居 義貴
(72)【発明者】
【氏名】大石 幸徳
(57)【要約】
【課題】一対の壁面の間隔が異なる様々なサイズの排水ます体に、容易に取り付けできる田んぼ堰部材を提案する。
【解決手段】排水ます体31の流域38を流れる排水を堰き止める本体部2と、該排水ます体31の一対の壁面34a,34aに当接される一対の当接側部3,3と、該当接側部3,3を変位させる当接側部変位手段とを備え、該当接側部3,3を変位させて一対の壁面34a,34aの間に内嵌させることによって該排水ます体31に取り付けられるものである。かかる構成では、当接側部3,3の相対位置を壁面34a,34aの間隔に応じて変えることができるから、該間隔の異なる様々な排水ます体に容易に取り付けできる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田の縁に設置されて、該水田から流入した排水を下流へ排出する排水ます体に取り付けられ、該排水ます体の内部に形成された流域を流れる排水を堰き止める田んぼ堰部材において、
前記流域に臨むように前記排水ます体に対向状に設けられた一対の壁面の間に配置されて、前記排水を堰き止める本体部と、
前記本体部に設けられ、該本体部が前記一対の壁面の間に配置された状態で各壁面にそれぞれ当接する一対の当接側部と、
前記当接側部を、前記壁面の対向方向に変位させることが可能な当接側部変位手段と
を備え、
前記当接側部変位手段により前記当接側部を変位させて前記一対の壁面の間に内嵌させることで、前記排水ます体に取り付けられることを特徴とする田んぼ堰部材。
【請求項2】
一対の当接側部が、本体部の両側縁にそれぞれ隣接するように設けられたものであって、
前記本体部は、弾性板材により形成され、前記両側縁の間に、上流側または下流側へ凸状に湾曲された湾曲部を備えており、
前記湾曲部により当接側部変位手段が構成されていることを特徴とする請求項1に記載の田んぼ堰部材。
【請求項3】
排水ます体が、排水を下流へ排出する排出口部を備えたものであって、
本体部は、
前記排水ます体の排出口部に比して開口面積が小さい通水孔部を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の田んぼ堰部材。
【請求項4】
本体部は、
通水孔部よりも上方に、排水を通過可能な上部通水部が設けられたものであることを特徴とする請求項3に記載の田んぼ堰部材。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の田んぼ堰部材の施工方法であって、
当接側部変位手段により当接側部を変位させて、一対の当接側部を、排水ます体の一対の壁面の間に嵌入可能な状態とする第一ステップと、
前記一対の当接側部を、前記一対の壁面の間に嵌入させて、各壁面に当接させることにより、前記田んぼ堰部材を各壁面の間に内嵌させて前記排水ます体に取り付ける第二ステップと
を含むことを特徴とする田んぼ堰部材の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田の縁に設置される排水ます体に取り付けられる田んぼ堰部材、および田んぼ堰部材の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水田では、田植えから収穫までの間で稲の生育に合わせて水位を調整する水管理が重要である。この水管理を行うために、水田の縁に、該水田から排水路へ排水させる排水ます体が設置される。排水ます体は、前記排水路に連通する排出口部が設けられた後壁部と、該後壁部の左右両側に設けられた左右の側壁部とを有し、両側壁部に上下方向の縦溝が夫々設けられている。この左右の縦溝に水位調整板を嵌めることで、該水位調整板の高さまで水田に水を貯めることができるため、高さの異なる水位調整板を選択的に用いることによって、水田の水位を調整できる。
【0003】
一方、近年、豪雨により発生する洪水災害を防止・軽減する取り組みとして、水田に一時的に雨水を貯留することで河川の急激な増水を抑制できる所謂「田んぼダム」が提案されている。そして、前記排水ます体を利用する田んぼダムが知られている。例えば特許文献1には、排水ます体の左右の縦溝に嵌めて取り付ける堰板が提案されている。かかる堰板は、排水ます体の縦溝に差し込まれる左右のフランジと、該フランジから後側へ突出する錐体状の立体形成面と、該立体形成面に開口された孔とを有する構成である。この堰板が水位調整板の後側で前記縦溝に嵌めて取り付けられた状態では、水田の水位が該水位調整板の高さを超えた場合に、当該堰板と水位調整板との間の領域に流れ込んだ水が当該堰板の孔を介して排水ます体の排出口に流れる。この場合には、堰板の孔が排出口に比して小径であることから、排出口から排水される水量を抑えることができ、急激な増水による洪水災害の発生を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した排水ます体は、一般的に、設置される地域や自治体などで異なるサイズのものが用いられており、左右の側壁部の間隔が異なるものもある。そのため、前述した堰板にあっては、左右方向の幅寸法を前記間隔に合わせたものが必要となっていた。前述した特許文献1に記載された従来の堰板は、左右のフランジを切断して幅寸法を短くすることによって、左右の側壁部の間隔に合わせることができる構成となっている。しかし、かかる従来構成は、左右のフランジを切断する作業が必要であることから、施工に手間がかかる。例えば、施工現場で前記フランジを切断する場合には、施工作業が繁雑化すると共に作業時間が増えるという問題を生ずる。さらに、この切断により生じた切断片が廃棄物になるという問題もある。また、短くできる幅寸法はフランジの幅以内に制限されることから、堰板の幅を短くできる範囲が狭く、この範囲で対応できるサイズの排水ます体にしか取り付けできない。そのため、様々なサイズの排水ます体に対応させるには、全幅の異なる複数種類の堰板が必要となっていた。
【0006】
本発明は、施工時に切断等の加工を要せず、施工作業を容易に行い得ると共に、様々なサイズの排水ます体に取り付け可能な田んぼ堰部材、および該田んぼ堰部材の施工方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一は、水田の縁に設置されて、該水田から流入した排水を下流へ排出する排水ます体に取り付けられ、該排水ます体の内部に形成された流域を流れる排水を堰き止める田んぼ堰部材において、前記流域に臨むように前記排水ます体に対向状に設けられた一対の壁面の間に配置されて、前記排水を堰き止める本体部と、前記本体部に設けられ、該本体部が前記一対の壁面の間に配置された状態で各壁面にそれぞれ当接する一対の当接側部と、前記当接側部を、前記壁面の対向方向に変位させることが可能な当接側部変位手段とを備え、前記当接側部変位手段により前記当接側部を変位させて前記一対の壁面の間に内嵌させることで、前記排水ます体に取り付けられることを特徴とする田んぼ堰部材である。
【0008】
かかる構成にあっては、当接側部変位手段により当接側部を変位させることで、対向方向における一対の当接側部の相対位置を、一対の壁面の間隔に応じて変えることができるから、該間隔の異なる一対の壁面に内嵌できる。そして、本発明の構成は、このように当接側部を変位させることにより取り付けできるから、前述した従来構成に比して、排水ます体に取り付ける作業を容易に行い得る。さらに、排水ます体に取り付ける作業では、従来構成のような廃棄物を生じないという優れた利点もある。したがって、本発明の構成は、一対の壁面の間隔が異なる様々な排水ます体に容易に取り付けることができ、該排水ます体の流域で排水を堰き止める所望の作用効果を、適正かつ安定して発揮できる。
【0009】
前述した本発明の田んぼ堰部材であって、一対の当接側部が、本体部の両側縁にそれぞれ隣接するように設けられたものであって、前記本体部は、弾性板材により形成され、前記両側縁の間に、上流側または下流側へ凸状に湾曲された湾曲部を備えており、前記湾曲部により当接側部変位手段が構成されているものが提案される。
【0010】
かかる構成にあっては、湾曲部を弾性変形させることによって、当接側部を対向方向へ変位でき、一対の壁面に内嵌させることができる。このように本構成によれば、排水ます体に一層容易に取り付けできる。また、本構成は、本体部が排水ます体の流域を流れる排水から受ける水圧を、湾曲部の湾曲形状と弾性変形とによって軽減でき、該水圧による破損を抑制できる。特に、湾曲部が上流側へ凸状に湾曲された構成では、前記水圧を効果的に分散できることから、破損の発生を抑止する作用効果が一層向上する。尚、このように水圧を軽減できることにより、薄肉化でき、これに伴って軽量化できるという優れた利点も有する。
【0011】
前述した本発明の田んぼ堰部材にあって、排水ます体が、排水を下流へ排出する排出口部を備えたものであって、本体部は、前記排水ます体の排出口部に比して開口面積が小さい通水孔部を備えている構成が提案される。
【0012】
かかる構成にあっては、排水ます体に取り付けることによって、該排水ます体を前述の田んぼダムとして利用できるようにしたものである。本構成によれば、前述したように一対の壁面の間隔が異なる様々な排水ます体に容易に取り付けでき、こうした様々な排水ます体を田んぼダムとして利用できる。
【0013】
前述した本発明の田んぼ堰部材にあって、本体部は、通水孔部よりも上方に、排水を通過可能な上部通水部が設けられたものである構成が提案される。ここで、上部通水部は、排水ます体の排出孔部に比して、排水の通水面積を小さくした構成が好適である。
【0014】
かかる構成にあっては、本体部によって堰き止めた排水を、通水孔部で流すことができると共に、排水の貯留量が増えると、該排水を通水孔部と上部通水部との両方で流すことができる。このように排水ます体の流域における排水の貯留量に応じて、排出口部へ流す量を変えることができるから、前述した田んぼダムによる治水効果を高めることができる。
【0015】
本発明の第二は、前述した田んぼ堰部材の施工方法であって、当接側部変位手段により当接側部を変位させて、一対の当接側部を、排水ます体の一対の壁面の間に嵌入可能な状態とする第一ステップと、前記一対の当接側部を、前記一対の壁面の間に嵌入させて、各壁面に当接させることにより、前記田んぼ堰部材を各壁面の間に内嵌させて前記排水ます体に取り付ける第二ステップとを含むことを特徴とする施工方法である。
【0016】
かかる施工方法にあっては、前述した田んぼ堰部材を、水田の縁に設置する排水ます体に取り付ける方法であり、一対の壁面の間隔が異なる様々な排水ます体に容易に取り付けできる。これにより、田んぼ堰部材の施工に要する手間、時間、およびコストを抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の田んぼ堰部材は、前述したように、一対の壁面の間隔が異なる様々な形態の排水ます体に容易に取り付けることができると共に、取り付け作業の際(施工時)に、前述した従来構成のような廃棄物を生じない。
【0018】
本発明の田んぼ堰部材の施工方法は、前述した本発明の田んぼ堰部材を、水田の縁に設置された様々な形態の排水ます体に容易に取り付けでき、該田んぼ堰部材の施工に要する手間、時間、およびコストを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明にかかる田んぼ堰部材1の、(A)平面図と、(B)正面図と、(C)側面図である。
【
図2】排水ます体31の、(A)平面図と、(B)正面図と、(C)縦断面図である。
【
図3】田んぼ堰部材1を排水ます体31に取り付けた状態を示す、(A)平面図と、(B)斜視図である。
【
図4】排水ます体31、田んぼ堰部材1、および水位調整板40を分解して示す斜視図である。
【
図5】田んぼ堰部材1を、壁面間隔の異なる排水ます体31に取り付けた状態を示す、(A)平面図と、(B)斜視図である。
【
図6】排水ます体31に取り付けた田んぼ堰部材1による作用説明
図1である。
【
図7】排水ます体31に取り付けた田んぼ堰部材1による作用説明
図2である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明にかかる田んぼ堰部材を具体化した実施例を、以下で詳細に説明する。本実施例の田んぼ堰部材1は、水田の縁に設置された排水ます体31に取り付けられて、該排水ます体31と共に所謂田んぼダムを構成するものである。
【0021】
本実施例の排水ます体31は、コンクリート製のものである。この排水ます体31は、
図2に示すように、矩形状の底部32と、該底部32の後側縁から起立する後壁部33と、該底部32の左右の側縁から夫々起立する左右一対の側壁部34,34とから構成されており、上方および前方に開放された開口部35を有する。そして、左右の側壁部34,34は、左右方向に所定間隔tをおいて対向状に設けられている。後壁部33の下部には、円形の排出口部36が開口形成されていると共に、左右の側壁部34,34には、夫々の前側縁寄りに、上下方向に亘って挿通溝部37,37が対向状に設けられている。
【0022】
こうした排水ます体31は、左右の側壁部34,34との間に形成された流域38を介して、前記開口部35と排出口部36とを連通させたものであり、後述する水田101から開口部35を介して流入した水が、この流域38を通過して排出口部36から排出される(
図6,7参照)。ここで、側壁部34,34の内壁面34a,34aが、流域38に面しており、本発明にかかる壁面に相当する。
【0023】
尚、排水ます体31は、地域や自治体などによって高さ寸法や幅寸法の異なるサイズのものが使用される。例えば、
図3,5のように、左右の幅寸法と前記間隔tとが相互に異なるものがある。
【0024】
排水ます体31は、
図6に示すように、水田101の縁に設置される。具体的には、排水ます体31は、水田101と畦畔102との境界に、該畦畔102に埋設された排水管105の上流端に排出口部36を接続し且つ該水田101に開口部35が臨むようにして設置される。ここで、排水管105は、畦畔102に隣接する排水路(図示せず)に連通していることから、水田101と該排水路とは、排水ます体31と排水管105とを介して連通する。このように排水ます体31が設置された状態で、水田101の水が、開口部35から排水ます体31の流域38に流入して排出口部36から排水管105へ排出される。そして、排水管105を介して、畦畔102に隣接する排水路(図示せず)へ排出される。
【0025】
本実施例では、排水ます体31を設置した状態を基準として、前後左右の各方向を規定して説明する。すなわち、排水ます体31に対して水田101側を前方、畦畔102側(後壁部33側)を後方として、前後方向を規定し、一対の側壁部34,34が対向する横方向を左右方向として規定する。すなわち、左右方向が、本発明の対向方向に相当する。また、排水ます体31と前記排水管105とを介して、水田101から排水路へ水が流れることから、水田101側を上流、排水路側を下流とする。
【0026】
また、前述した排水ます体31には、
図3,4に示すように、平板状の水位調整板40が取り付けられる。水位調整板40は、その左右の側縁が、排水ます体31の挿通溝部37,37に夫々挿通されて、該排水ます体31の底部32上に載置される。このように水位調整板40が取り付けられた状態では、排水ます体31の開口部35が該水位調整板40の高さまで閉鎖され、水田101から該排水ます体31の流域38への排水の流入が該水位調整板40により堰き止められる。これにより、水田101では、排水ます体31に取り付けられた水位調整板40の高さまで水が貯まり、水位が該水位調整板40の高さを越えると、開口部35から排水ます体31の流域38へ水が流入する。そして、異なる高さの水位調整板40を選択的に取り付けることによって、水田101の水位sを調整することができる。
【0027】
次に本発明の要部について説明する。
図1に、本実施例の田んぼ堰部材1を示す。田んぼ堰部材1は、平面視で略半楕円形を成す湾曲板状の本体部2と、該本体部2の左右の側縁から後方へ延出された当接側部3,3とを備えてなり、該本体部2と左右の当接側部3,3とが一体的に設けられたものである。本実施例の田んぼ堰部材1は、塩化ビニル樹脂やポリプロピレン樹脂などの汎用樹脂からなるプラスチック材料により形成されている。
【0028】
本体部2の下部中央には、アーチ状に開口された通水孔部5が形成されている。この通水孔部5は、その開口面積が、前記排水ます体31の排出口部36の開口面積に比して小さい。
【0029】
田んぼ堰部材1は、その高さ寸法が、前記排水ます体31(側壁部34)に比して低く且つ前記水位調整板40に比して高く設定されている。そして、常態(外部応力が作用しない状態)で、左右方向の幅寸法が、前記排水ます体31の側壁部34,34の間隔tに比して長くなっている。
【0030】
この田んぼ堰部材1は、前述のようにプラスチック材料製であることから、湾曲板状の本体部2を、その曲率が大きく又は小さくなるように弾性変形させることができる。このように弾性変形させることによって、左右の当接側部3,3を互いに接近させる方向や離間させる方向へ変位させることができる。本実施例にあっては、本体部2によって、本発明の湾曲部が構成されている。
【0031】
こうした田んぼ堰部材1は、
図3,4に示すように、前記した排水ます体31に取り付けられる。本実施例にあっては、田んぼ堰部材1を、その本体部2が前方へ凸する状態で、排水ます体31の左右の側壁部34,34間に内嵌されることによって、該排水ます体31に取り付けられる。このように取り付けられた状態では、本体部2によって、排水ます体31の流域38が前後に区画されて、前方から該流域38に流入する水を堰き止める。
【0032】
田んぼ堰部材1を排水ます体31に取り付ける作業は、主に二つのステップにより行う。すなわち、第一ステップでは、田んぼ堰部材1の本体部2に力を加えて(外部応力を作用させて)、該本体部2の曲率半径を小さくするように該本体部2を弾性変形させ、前記常態に比して左右の当接側部3,3を互いに接近させる。これにより、左右の当接側部3,3の幅を、排水ます体31の左右の側壁部34,34の間隔tよりも小さくする。
【0033】
次の第二ステップでは、田んぼ堰部材1を、前記第一ステップで弾性変形させた状態を保ちながら、左右の側壁部34,34間に嵌入させる。この後に、本体部2に加えた力を解除することによって、左右の当接側部3,3が左右の側壁部34,34の内壁面34a,34aに夫々弾接される。これにより、田んぼ堰部材1は、その下縁が排水ます体31の底部32上に載置され且つ左右の当接側部3,3が左右の側壁部34,34の内壁面34a,34aに夫々当接された状態で取り付けられる。
【0034】
このように田んぼ堰部材1を、水田101の縁に設置された排水ます体31に取り付けることによって、田んぼダムが設けられる。さらに、この排水ます体31には、前述した水位調整板40が取り付けられる。排水ます体31は、田んぼ堰部材1と水位調整板40とが取り付けられた状態で、流域38に、田んぼ堰部材1と水位調整板40との間の前側流域38aと、田んぼ堰部材1の後側の後側流域38bとが形成される。尚ここで、田んぼ堰部材1は、排水ます体31に取り付けられた状態で、左右の挿通溝部37,37よりも後方に配置される。これにより、排水ます体31には、田んぼ堰部材1と水位調整板40との両方を取り付けできる。
【0035】
一方、排水ます体31には、前述したように、側壁部34,34の間隔tが異なるサイズのものもある。このように間隔tの異なる排水ます体31にも、本実施例の田んぼ堰部材1は取り付けできる。例えば、狭い間隔tの側壁部34,34を有する排水ます体31には、
図5に示すように、本体部2の曲率半径を一層小さく弾性変形させることによって、田んぼ堰部材1を取り付けできる。
【0036】
次に、田んぼ堰部材1と水位調整板40とを取り付けた排水ます体31による田んぼダムについて説明する。
図6(A)に示すように、水田101の水位sが水位調整板40よりも低い状態では、排水ます体31の流域38に、該水田101から水が流入できない。降雨により水田101の水位sが増えて、水位調整板40を超えると、
図6(B)に示すように、該水田101の水が排水ます体31の前側流域38aに流入する。そして、前側流域38aに流入した水は、田んぼ堰部材1の通水孔部5を通過して、後側流域38bに流れ、排水ます体31の排出口部36から流出される。このように、水田101から前側流域38aに流入した水は、排出口部36から排水管105に流れて、前記排水路に排出される。
【0037】
ここで、田んぼ堰部材1の通水孔部5は、その開口面積が排出口部36に比して小さいことから、水田101から排水する排水量を抑制する所謂オリフィスとして機能する。これにより、降雨により水田101の水位sが水位調整板40を超えた場合に、排水路に排出する排水量を抑制できる。
【0038】
一方、豪雨により水田101の水位sが増加しても、
図7(A)に示すように、該水位sが田んぼ堰部材1の高さ以下であれば、該水田101の水は、排水ます体31の前側流域38aに流入して、田んぼ堰部材1の通水孔部5を通過する。そして、排水ます体31の排出口部36から流出される。このように、水田101の水位sが水位調整板40より高く且つ田んぼ堰部材1の高さ以下の場合には、前述したように、排水路に排出する排水量を抑制できる。
【0039】
さらに、水田101の水位sが増加して田んぼ堰部材1を超えると、
図7(B)に示すように、水田101の水が排水ます体31の後側流域38bに直接的に流入する。この状態では、田んぼ堰部材1を超えた水と通水孔部5を通過した水とが後側流域38bに流入して、排出口部36から排出される。これにより、水位sが田んぼ堰部材1よりも低い状態に比して、排出口部36から排出する排水量が増えることから、水田101の水位sが上昇することを抑制できる。
【0040】
このように田んぼ堰部材1を排水ます体31に取り付けることによって、水田101の水位sが該田んぼ堰部材1を超えるまで、排出口部36から排出する排水量を抑制できる。これにより、豪雨の際に、下流の河川へ流れる水量を抑制して、下流域での洪水災害を防止・軽減することができる。さらに、本実施例は、前述したように、排水管105へ排出される排水量が、水田101の水位sが上昇するにつれて、該田んぼ堰部材1の通水孔部5のみを通過する水量、排出口部36から排出可能な最大水量の順に段階的に増加する。これにより、豪雨の際に排水路への排水量を段階的に増加できるため、下流の河川における急激な増水を抑えつつ、水田101の水位sが急激に増加することを抑制できる。
【0041】
本実施例の田んぼ堰部材1は、前述したように、本体部2を弾性変形させて左右の当接側部3,3を近接する方向に変位させることによって、排水ます体31の側壁部34,34間に嵌入でき、該嵌入後に左右の当接側部3,3を側壁部34,34に弾接させることによって、該排水ます体31に取り付けできる。このように本体部2の弾性変形により排水ます体31に取り付け可能であることから、左右の側壁部34,34の間隔tが異なる様々なサイズの排水ます体31に取り付けできる。一般的に、排水ます体31は、地域や自治体などによって前記間隔tが異なるが、本実施例の構成によれば、こうした間隔tの異なる排水ます体31に容易に取り付けできる。
【0042】
そして、田んぼ堰部材1は、その本体部2を排水ます体31の前方に向かって凸するように取り付けられることから、排水ます体31の前側流域38aに流入した水の圧力を左右方向へ分散し易く、該圧力に抗する耐力が高い。これにより、本体部2の板厚を薄肉化でき、総じて田んぼ堰部材1を軽量化できるという優れた利点もある。尚、本実施例の田んぼ堰部材1は、本体部2を排水ます体31の後方に向かって凸するように取り付けることも可能である。
【0043】
本実施例の田んぼ堰部材1が排水ます体31に取り付けられることにより、該排水ます体31が設置された水田101を、所謂田んぼダムとして利用できる。これにより、前述したように、豪雨の際に、下流の河川における急激な増水を抑制でき、下流域での洪水災害を防止・軽減することができる。さらに、本実施例では、水田101の水位sの上昇に従って排水量を段階的に増加することから、排水量の急激な増加を抑えつつ、該水田101の水位sの急激な上昇も抑制できるという優れた利点がある。
【0044】
また、田んぼ堰部材1は、通水孔部5がアーチ状に形成されていることから、該通水孔部5に溜まった泥やゴミ等を取り除く作業を行い易いという利点もある。
【0045】
本発明は、前述した実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更することが可能である。例えば、前述の実施例における各部の寸法形状は、適宜変更することができる。
【0046】
前述した実施例の田んぼ堰部材は、塩化ビニル樹脂等のプラスチック材料により形成されたものであるが、これに限らず、ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスチック材料により形成されたものであっても良い。さらには、弾性変形可能であれば、金属材料により形成されたものであっても良い。尚ここで、金属材料には、弾性係数の低い材料(例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金など)製の板材が好適に用いられる。
【0047】
前述した実施例の田んぼ堰部材は、通水孔部をアーチ状とした構成であるが、該通水孔部の形状は適宜変更可能である。例えば、半円形、半楕円形、円形、楕円形、および多角形(三角形や矩形など)の通水孔部を設けた構成とすることができる。
【0048】
前述した実施例の田んぼ堰部材は、湾曲板状の本体部を備えた構成であるが、これに限らず、本体部の形状は適宜変更できる。例えば、湾曲板状の中央部と該中央部の左右側縁から夫々延出された側板部とからなる本体部を備えた構成、平板状の中央部と該中央部の左右側縁から夫々延出された湾曲板状の湾曲側部とからなる本体部を備えた構成などとすることもできる。
【0049】
前述した実施例の田んぼ堰部材は、湾曲板状の本体部と左右の当接側部とを一体形成された構成であるが、これに限らず、適宜変更可能である。例えば、本体部と、該本体部に対して左右方向へ進退移動可能な一対の当接側部とが連結された構成であっても良い。具体的には、左右の当接側部を左右方向へ移動でき且つ所定位置で位置決めできる操作手段を備えた構成や、左右方向へ夫々移動可能な左右の当接側部がバネなどの付勢手段により左右側方へ付勢された構成などが適用できる。ここで、前者の構成では、当接側部を左右方向へ移動可能な構造と位置決めする操作手段とが、本発明にかかる当接側部変位手段に相当する一方、後者の構成は、当接側部を左右方向へ移動可能な構造と付勢手段とが、本発明にかかる当接側部変位手段に相当する。
【0050】
前述した実施例の田んぼ堰部材にあって、本体部の上部(通水孔部の上方の部位)に上部通水部を備えた構成とすることもできる。具体例としては、本体部の上部中央に、略V形状に切欠きされた上部通水部が形成されており、該上部通水部が、本構成の田んぼ堰部材を排水ます体に取り付けた状態で、水位調整板よりも上方に位置するように該本体部に形成されている。そして、この上部通水部は、その開口面積が前記通水孔部5の開口面積に比して小さく、且つ通水孔部の開口面積と該上部通水部の開口面積とを合計した合計開口面積が排水ます体の排出口部の開口面積に比して小さく形成される。かかる構成にあっては、豪雨により水田の水位が増加して上部通水部の高さに達すると、通水孔部と上部通水部との両方から後側流域に水が流入する。そのため、通水孔部のみから流入する状態(
図6(B)および
図7(A)の状態)に比して、後側流域に流入する水量が増えるから、排出口部36からの排水量も増える。この場合には、通水孔部と上部通水部とがオリフィスとして機能するため、排出口部から排出される排水量が増えるものの、該排出口部から排出される排水量を抑制できる。こうした構成によれば、水田の水位上昇に伴って、排水口部からの排水量を段階的に増加できるため、下流の河川における急激な増水を抑制する効果が向上する。また、仮に該通水孔部が泥やゴミなどによって通水し難くなった場合にも、上部通水部を通じて排水できるため、田んぼダムとして機能が保たれるという優れた利点もある。尚、こうした上部通水部の形状は適宜変更可能であると共に、該上部通水部の形成位置も適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 田んぼ堰部材
2 本体部
3 当接側部
5 通水孔部
31 排水ます体
34a 内壁面(壁面)
36 排出口部
38 流域
101 水田