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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103355
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】拡張製管工法用帯状部材
(51)【国際特許分類】
   B29C 63/32 20060101AFI20240725BHJP
   F16L 11/24 20060101ALI20240725BHJP
   F16L 1/00 20060101ALN20240725BHJP
【FI】
B29C63/32
F16L11/24
F16L1/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007639
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003340
【氏名又は名称】弁理士法人湧泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 貴大
(72)【発明者】
【氏名】近藤 陸太
【テーマコード(参考)】
3H111
4F211
【Fターム(参考)】
3H111BA15
3H111CA03
3H111CA05
3H111DA26
3H111DB05
3H111EA17
4F211AC03
4F211AD03
4F211AG05
4F211AG08
4F211AH43
4F211AR12
4F211SA05
4F211SC03
4F211SD06
4F211SJ11
4F211SP20
(57)【要約】
【課題】老朽化した既設管の更生等のための螺旋管を拡張製管工法によって構築する際、ワイヤの引き取り時に糸状剥離屑及び擦傷痕が出来るのを抑制できる拡張製管工法用帯状部材を提供する。
【解決手段】拡張製管工法用帯状部材10は、螺旋管3の内周側の管壁となる帯板部11と、帯板部11の幅方向の第1側の端部から外周側へ斜めに延び出る傾斜接続部20と、傾斜接続部20と連なるとともに複数の嵌合溝33,34を有する第1嵌合部30と、帯板部11の幅方向の第2側の端部から外周側へ突出された複数の嵌合凸条41,42を含む第2嵌合部40を備えている。傾斜接続部20は傾斜接続面21を有している。帯板部11の第2側の端部は、傾斜端面12eとなっている。製管されたとき、傾斜接続面21と傾斜端面14との間にワイヤ引き抜き間隙72が形成される。ワイヤ引き抜き間隙72の最狭部における大きさD72は、ワイヤ9の直径φ以上である。
【選択図】図3(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状に巻回されるとともに一周違いの隣接する縁部分どうしがワイヤを挟んで凹凸嵌合されることによって螺旋管に製管された後、前記ワイヤが引き抜かれて前記螺旋管の周長が拡張される拡張製管工法に用いられる、一定断面の帯状部材であって、
前記螺旋管の内周側の管壁となる帯板部と、
前記帯板部の幅方向の第1側の端部から外周側かつ前記第1側へ斜めに延び出る傾斜接続部と、
前記傾斜接続部を介して前記帯板部に連なり、かつ前記内周側へ開口する複数の嵌合溝を有して前記外周側へ隆起された第1嵌合部と、
前記帯板部の幅方向の第2側の端部から前記外周側へ突出され、前記製管時に前記複数の嵌合溝とそれぞれ嵌合される複数の嵌合凸条を含む第2嵌合部と、を備え、
前記傾斜接続部が、前記内周側へ向かって前記第2側へ傾いて前記第1嵌合部の内周側面と前記帯板部の内周側面とを連ねる傾斜接続面を有し、
前記帯板部の前記第2側の端部が、前記内周側へ向かって前記第2側へ傾く傾斜端面を有し、
前記製管されたとき、前記傾斜接続面と前記傾斜端面との間にワイヤ引き抜き間隙が形成され、
前記ワイヤ引き抜き間隙の最狭部における大きさが、前記ワイヤの直径以上であることを特徴とする拡張製管工法用帯状部材。
【請求項2】
前記傾斜接続面が、前記内周側へ向かうにしたがって前記帯板部の内周側面に対する傾斜が緩やかになって前記帯板部の内周側面と滑らかに連なる湾曲面部を有し、前記湾曲面部が前記傾斜接続面の5分の1以上を占める請求項1に記載の拡張製管工法用帯状部材。
【請求項3】
前記湾曲面部の曲率が1/5mm-1以下である請求項2に記載の拡張製管工法用帯状部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば老朽化した既設管を更生するための螺旋管となる帯状部材(プロファイル)に関し、特に、螺旋管に製管された後、周長が拡張される拡張(エキスパンド)製管工法に用いられる帯状部材に関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化した下水道管等の既設管内に更生管を設置することによって既設管を更生することは公知である。更生管として、螺旋状に巻回した帯状部材の一周違いの隣接する縁部分どうしを凹凸嵌合してなる螺旋管が知られている(特許文献1、2等参照)。
【0003】
特許文献1、2には、拡張製管工法による更生方法が開示されている。拡張製管工法においては、更生管(螺旋管)を既設管より小径に製管する。製管の際、前記隣接する縁部分どうしの間にワイヤを挟む。製管後、ウィンチによってワイヤを引き取り、更生管を捩じって周長を拡張させる。これによって、既設管の内周面に更生管が張り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-176089号公報
【特許文献2】特開平01-280510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の拡張製管工法においては、ワイヤの引き取り時に、帯状部材の一部がワイヤと強く接触して剥離され、細い糸状(ヒゲ状)の剥離屑が発生することがある。螺旋管には数mm幅の擦傷痕が形成されることがある。特に帯状部材が厚肉で剛性が高くワイヤ引き取り時の負荷が大きい場合に糸状剥離屑や擦傷痕が出来やすい。このような糸状剥離屑及び擦傷痕は、管内の外観を損ねるだけでなく、流下阻害(粗度係数の悪化)や管剛性低下を招くことが懸念される。
本発明は、かかる事情に鑑み、老朽化した既設管の更生等のための螺旋管を拡張製管工法によって構築する際、ワイヤ引き取り時に糸状剥離屑及び擦傷痕が出来るのを抑制できる拡張製管工法用帯状部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る帯状部材は、螺旋状に巻回されるとともに一周違いの隣接する縁部分どうしがワイヤを挟んで凹凸嵌合されることによって螺旋管に製管された後、前記ワイヤが引き抜かれて前記螺旋管の周長が拡張される拡張製管工法に用いられる、一定断面の帯状部材であって、
前記螺旋管の内周側の管壁となる帯板部と、
前記帯板部の幅方向の第1側の端部から外周側かつ前記第1側へ斜めに延び出る傾斜接続部と、
前記傾斜接続部を介して前記帯板部に連なり、かつ前記内周側へ開口する複数の嵌合溝を有して前記外周側へ隆起された第1嵌合部と、
前記帯板部の幅方向の第2側の端部から前記外周側へ突出され、前記製管時に前記複数の嵌合溝とそれぞれ嵌合される複数の嵌合凸条を含む第2嵌合部と、を備え、
前記傾斜接続部が、前記内周側へ向かって前記第2側へ傾いて前記第1嵌合部の内周側面と前記帯板部の内周側面とを連ねる傾斜接続面を有し、
前記帯板部の前記第2側の端部が、前記内周側へ向かって前記第2側へ傾く傾斜端面を有し、
前記製管されたとき、前記傾斜接続面と前記傾斜端面との間にワイヤ引き抜き間隙が形成され、
前記ワイヤ引き抜き間隙の最狭部における大きさが、前記ワイヤの直径以上であることを第1の特徴とする。
本発明に係る帯状部材アッセンブリは、前記第1の特徴を有する帯状部材及び前記ワイヤを備えたことを特徴とする。
【0007】
前記第1嵌合部は、帯状部材の第1側の縁部分を構成する。前記第2嵌合部を含む帯板部の第2側の端部は、帯状部材の第2側の縁部分を構成する。製管によって、前記第1嵌合部の内周側面と前記帯板部の前記第2側の端部の外周側面との間に前記ワイヤが挟まれる。
拡張時には、前記ワイヤが、ワイヤ引き抜き間隙を通って螺旋管の管内へ引き抜かれ、ウィンチに引き取られる。
前記ワイヤ引き抜き間隙の最狭部における大きさを前記ワイヤの直径以上とすることによって、ワイヤ引き取り時に帯状部材とワイヤとの間に生じる接触摩擦が低減される。これによって、帯状部材の一部が削れて剥離されるのを抑制でき、糸状剥離屑が発生したり擦傷痕が形成されたりするのを抑制できる。この結果、糸状剥離屑や擦傷痕による流下阻害や管強度の低下を防止できる。また、ワイヤの引き抜き抵抗を低減できる。
前記ワイヤ引き抜き間隙の最狭部における大きさの上限は、製造容易性、螺旋管の剛性、流下性能への影響等を考慮して実用的な範囲内で適宜設定される。好ましくは、前記ワイヤ引き抜き間隙の最狭部における大きさが、前記ワイヤの直径の3倍以下である。
【0008】
前記第1の特徴において、前記傾斜接続面が、前記内周側へ向かうにしたがって前記帯板部の内周側面に対する傾斜が緩やかになって前記帯板部の内周側面と滑らかに連なる湾曲面部を有し、前記湾曲面部が前記傾斜接続面の3分の1以上を占めることが好ましい。
本発明に係る帯状部材は、螺旋状に巻回されるとともに一周違いの隣接する縁部分どうしがワイヤを挟んで凹凸嵌合されることによって螺旋管に製管された後、前記ワイヤが引き抜かれて前記螺旋管の周長が拡張される拡張製管工法に用いられる、一定断面の帯状部材であって、
前記螺旋管の内周側の管壁となる帯板部と、
前記帯板部の幅方向の第1側の端部から外周側かつ前記第1側へ斜めに延び出る傾斜接続部と、
前記傾斜接続部を介して前記帯板部に連なり、かつ前記内周側へ開口する複数の嵌合溝を有して前記外周側へ隆起された第1嵌合部と、
前記帯板部の幅方向の第2側の端部から前記外周側へ突出され、前記製管時に前記複数の嵌合溝とそれぞれ嵌合される複数の嵌合凸条を含む第2嵌合部と、を備え、
前記傾斜接続部が、前記内周側へ向かって前記第2側へ傾いて前記第1嵌合部の内周側面と前記帯板部の内周側面とを連ねる傾斜接続面を有し、
前記帯板部の前記第2側の端部が、前記内周側へ向かって前記第2側へ傾く傾斜端面を有し、
前記製管されたとき、前記傾斜接続面と前記傾斜端面との間にワイヤ引き抜き間隙が形成され、
前記傾斜接続面が、前記内周側へ向かうにしたがって前記帯板部の内周側面に対する傾斜が緩やかになって前記帯板部の内周側面と滑らかに連なる湾曲面部を有し、前記湾曲面部が前記傾斜接続面の3分の1以上を占めることを第2の特徴とする。
好ましくは、前記湾曲面部の曲率が1/5mm-1以下である。
これによって、帯板部の内周側面と傾斜接続面との角部(連続部分)をなだらかにできる。ないしは角部を取ることができる。したがって、引き抜き時のワイヤによって前記角部が削れて剥離されるのを抑制又は防止でき、前記角部から糸状剥離屑が発生したり、前記角部に擦傷痕が形成されたりするのを抑制又は防止できる。また、ワイヤの引き抜き抵抗を一層小さくできる。
前記曲率の下限は、製造容易性、螺旋管の剛性、流下性能への影響等を考慮して実用的な範囲内で適宜設定される。好ましくは、前記曲率の下限は、1/100mm-1である。
好ましくは、前記帯板部には、外周側へ突出する中空断面のリブが形成されている。これによって、帯状部材の剛性ひいては螺旋管の剛性が高まり、自立管としての強度を確保できる。帯状部材の剛性が高くても、前記ワイヤ引き抜き間隙の最狭部における大きさをワイヤの直径以上とすることによって、糸状剥離屑及び擦傷痕が出来るのを抑制できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、拡張製管工法におけるワイヤの引き取り時に帯状部材から糸状剥離屑が発生したり帯状部材に擦傷痕が形成されたりするのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る拡張製管工法用帯状部材による既設管の更生施工を、前記拡張製管工法用帯状部材から製管された螺旋管状の更生管の拡張工程にて示す側面断面図である。
図2(a)】図2(a)は、前記拡張製管工法用帯状部材を示す、図1のIIa-IIa線に沿う断面図である。
図2(b)】図2(b)は、前記更生管の一部分を示す、図1の円部IIbの拡大断面図である。
図3(a)】図3(a)は、前記更生管における隣接する縁部分どうしの接合構造を製管後拡張前の状態で示す、図2(b)の円部IIIaの拡大断面図である。
図3(b)】図3(b)は、前記更生管の前記接合構造をワイヤ引き抜き時で示す、図1の円部IIIbにおける拡大断面図である。
図4図4は、前記既設管の更生施工を順次示した側面断面図であり、図4(a)は前記更生管の製管工程の途中段階、図4(b)は前記製管工程の完了段階、図4(c)は前記更生施工の完了段階をそれぞれ示す。
図5図5は、実施例3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図4(c)に示すように、老朽化した既設管1の内周に更生管3がライニングされることによって、既設管1が更生されている。更生対象の既設管1は、例えば地中に埋設された下水道管であるが、本発明は、これに限定されず、上水道管、農業用水管、ガス管、水力発電導水管、トンネルなどであってもよい。
【0012】
図1に示すように、更生管3は拡張製管工法によって構築される。図1及び図2(b)に示すように、更生管3は、拡張製管工法用の帯状部材10(プロファイル)を螺旋状に巻回してなる螺旋管である。帯状部材10は、ポリ塩化ビニル(PVC)などの合成樹脂からなり、一定の断面形状に形成されている。
【0013】
詳しくは、図2(a)に示すように、帯状部材10は、帯板部11と、傾斜接続部20と、第1嵌合部30と、第2嵌合部40と、複数のリブ51,52,53を備えている。帯板部11は、一定の厚み及び幅の平坦な帯状になっている。帯板部11の幅w11は、好ましくはw11=30mm~150mm程度である。帯板部11の厚みt11は、好ましくはt11=1mm~10mm程度である。
【0014】
図2(b)に示すように、帯板部11は、更生管3の内周側(図3において下側)の管壁3aとなる。帯板部11の平坦な内周側面12(巻回されたとき内周側を向く面)は、更生管3の内周面を構成する。
【0015】
図2(a)に示すように、帯板部11の外周側面13(巻回されたとき外周側を向く面)には、複数(ここでは3つ)のリブ51,52,53が形成されている。リブ51,52,53は、中空断面に形成され、帯板部11から外周側(図2(a)において上側)へ突出されている。最も第1側(図2において左側)のリブ51は、傾斜接続部20に被さることで、概略三角形ないしは台形の中空断面になっている。それ以外のリブ52,53は、概略長方形又は正方形(四角形)の中空断面になっている。
なお、リブ51,52,53の断面形状は、多角形の中空断面に限らず、円形の中空断面でもよく、さらに中空断面に限らず、T字状断面、逆L字状断面、I字状断面等であってもよい。
【0016】
図2(a)に示すように、帯板部11の幅方向の第1側(図2(a)において左側)の端部には、傾斜接続部20が設けられている。傾斜接続部20は、帯板部11から外周側(図2(a)において上側)かつ幅方向の第1側(図2(a)において左側)へ斜めに延び出ている。傾斜接続部20の内周側面は、傾斜接続面21となっている。傾斜接続面21は、内周側(図2(a)において下側)へ向かって第2側(図2(a)において右側)へ傾く斜面になっている。該傾斜接続面21が、帯板部11の内周側面12と連なっている。
【0017】
しかも、傾斜接続面21は、湾曲面部22を有している。湾曲面部22は、内周側(図2(a)において下側)へ向かうにしたがって帯板部11の内周側面12に対する傾斜が緩やかになって内周側面12と滑らかに連なっている。すなわち、傾斜接続面21と帯板部11の内周側面12との連続部分23は、角の無いなだらかな凸曲面となっている。
【0018】
好ましくは、湾曲面部22は、傾斜接続面21の5分の1以上を占めている。つまり、帯状部材10の厚み方向(図2(a)において上下方向)に沿う、湾曲面部22の高さH22は、傾斜接続面21の全体高さH21の3分の1以上に及んでいる((1/3)×H21≦H22≦H21)。より好ましくは、湾曲面部22は、傾斜接続面21の半分以上、さらには5分の3以上ないしは大半を占めている。図2(a)に示すように、一層好ましくは、湾曲面部22は、傾斜接続面21のほぼ全域を占めている(H22≒H21)。
【0019】
湾曲面部22の曲率は、1/5mm-1以下であり、好ましくは1/100mm-1以上1/5mm-1以下であり、より好ましくは1/20mm-1程度である。言い換えると、湾曲面部22の曲率半径R22は、好ましくはR22=5mm~100mmであり、より好ましくはR22=20mm程度である。
【0020】
なお、傾斜接続面21が、湾曲面部22の外周側(図2(a)において上側)に連なる平面部を有していてもよい。湾曲面部22の曲率は一定である必要はなく、連続部分23に向かうにつれて変化してもよく、一様に増減する変化でもよく、細かく波打つ変化でもよい。
【0021】
図2(a)に示すように、傾斜接続部20の帯板部11側とは反対の外周側の端部に、第1嵌合部30が連なっている。言い換えると、傾斜接続部20を介して帯板部11と第1嵌合部30とが接続されている。第1嵌合部30は、傾斜接続部20ひいては帯板部11から幅方向の第1側へ延び出ている。第1嵌合部30によって、帯状部材10の第1側の縁部分10aが構成されている。第1嵌合部30の内周側面30aは、帯板部11の内周側面12よりも外周側(図2(a)において上側)かつ第1側(図2(a)において左側)に配置されている。傾斜接続面21によって、帯板部11の内周側面12と第1嵌合部30の内周側面30aとが連ねられている。
【0022】
第1嵌合部30は、外周側へ隆起する2つ(複数)の隆起部31,32を有している。これら隆起部31,32が幅方向(図2(a)において左右)に並んでいる。傾斜接続部20に近い側の隆起部32が、傾斜接続部20と一体に連なっている。隆起部32の天板部36が、リブ51の天板部54と一体に連なっている。
【0023】
隆起部31,32には嵌合溝33,34がそれぞれ形成されている。2つ(複数)の嵌合溝33,34が互いに幅方向(図2(a)において左右)に並んでいる。各嵌合溝33,34は、第1嵌合部30の内周側面30aへ開口されている。第1嵌合部30の内周側面30aにおける、2つの嵌合溝33,34の開口どうし間には、ワイヤ収容凹溝35が形成されている。
【0024】
図2(a)に示すように、帯板部11の第2側(図2(a)において右側)の端部には、第2嵌合部40が設けられている。第2嵌合部40は、2つ(複数)の嵌合凸条41,42を含む。2つの嵌合凸条41,42が、互いに幅方向に並んでいる。各嵌合凸条41,42は、概略矢印状の断面に形成され、帯板部11から外周側(図2(a)において上側)へ突出されている。幅方向の第2側(右側)に配置された嵌合凸条42は、他の嵌合凸条41より幅細である。嵌合凸条42の根元部の両側面には、くびれ溝42bが形成されている。
【0025】
第2嵌合部40を有する帯板部11の第2側の端部は、帯状部材10の第2側の縁部分10bを構成している。帯板部11の第2側の端面(図2において右端面)は、内周側(図2(a)において下側)へ向かって、第2側(図2(a)において右側)へ傾く傾斜端面14となっている。図3(a)に示すように、傾斜端面14の内側側面12に対する角度θ14は、好ましくはθ14=10°~60°程度である。
平坦な傾斜端面14と内側面12との角部15は、R面取りされている。角部15の曲率半径R15は、好ましくはR15=0.2mm~3.0mm程度である。
【0026】
図2(b)に示すように、帯状部材10からなる螺旋管状の更生管3においては、螺旋状に巻回された帯状部材10の一周違いの隣接する縁部分10a,10bどうしが凹凸嵌合にて接合されている。詳しくは、図3(a)に示すように、嵌合溝33に遅乾性の接着剤61が充填されるとともに嵌合凸条41が嵌め込まれている。嵌合溝34にホットメルト接着剤62が充填されるとともに嵌合凸条42が嵌め込まれている。
なお、施工完了後の更生管3においては、嵌合凸条42は、根元部から切断されている。
【0027】
図3(a)に示すように、第1嵌合部30の内周側面30aと帯板部11の第2側の端部の外周側面13との間には、ワイヤ9を挟み付けるための間隙71が形成されている。
傾斜接続面21と傾斜端面14との間には、ワイヤ引き抜き間隙72が形成されている。ワイヤ引き抜き間隙72の内周側の端部(図3(a)において下端部)は、更生管3の管内空間3bに連なる開口73となっている。ワイヤ引き抜き間隙72の大きさは、開口73において最も広く、開口73とは反対側(外周側)の奥端部(図3(a)において上端部)において最も狭くなっている。ワイヤ引き抜き間隙72の最狭部における大きさD72は、ワイヤ9の直径φ以上である(D72≧φ)。好ましくは、ワイヤ引き抜き間隙72の大きさD72は、ワイヤ直径φの1倍以上3倍以下である(1×φ≦D72≦3×φ)。ここで、ワイヤ9の直径φとは、ワイヤ9の外接円の直径をいう。
なお、ワイヤ引き抜き間隙72の最狭部は、ワイヤ引き抜き間隙72の奥端部に限らず、ワイヤ引き抜き間隙72の中間部に配置されていてもよく、開口73の近くに配置されていてもよい。
【0028】
前記帯状部材10から次のような拡張製管工法によって更生管3が構築されることによって、既設管1が更生される。
<製管工程>
図1及び図4(a)に示すように、既設管1の発進側管口1dに連なる発進人孔4の底部には、元押し式製管機5が設置される。地上2のドラム7から帯状部材10が繰り出されて、元押し式製管機5に導入される。元押し式製管機5によって、帯状部材10が螺旋状に巻回されるとともに隣接する縁部分10a,10bの嵌合溝33,34及び嵌合凸条41,42どうしが凹凸嵌合されることによって、螺旋管状の更生管3が製管される(図2(b))。製管時の更生管3は、既設管1の内径より小径に形成される。
【0029】
図3(a)に示すように、前記凹凸嵌合の際に、ワイヤ9が、縁部分10a,10bのワイヤ挟み付け間隙71に挟み込まれる。好ましくは、ワイヤ9は、凹溝35に入り込む。
【0030】
製管された更生管3は、元押し製管機5から発進側管口1dへ向けて順次押し出されて、既設管1内へ押し込まれる。更生管3を小径にしておくことで、既設管1内に障害物や曲がり部が有っても、更生管3をスムーズに押し込むことができる。
図4(b)に示すように、更生管3の押し込み方向の先端部(同図において右端)が、既設管1の到達側管口1eに連なる到達人孔4Bに達するまで、元押し製管を行なう。
【0031】
<拡張工程>
製管後、更生管3の前記先端部を治具6によって回り止めしたうえで、更生管3の周長を拡張させる。
図1に示すように、拡張時には、引き取りウィンチ8によって、ワイヤ9が、ワイヤ挟み付け間隙71からワイヤ引き抜き間隙72を通過して、更生管3の管内へ引き抜かれる。このとき、図3(b)に示すように、ワイヤ9によって、嵌合凸条42が根元部において切断される。更に、ワイヤ9は、更生管3の管内空間3bを経て、引き取りウィンチ8に引き取られる。
【0032】
ワイヤ引き抜き間隙72の大きさD722がワイヤ直径φ以上であるため、ワイヤ引き抜き間隙72をあまり押し広げなくても、ワイヤ9を引き抜くことができる。したがって、帯状部材10を大きく弾性変形させる必要は無く、帯状部材10の剛性が高くても、ワイヤ9の引き抜き抵抗を十分に低減できる。これによって、引き取りウィンチ8の負荷を軽減できる。また、引き取り時のワイヤ9と帯状部材10の傾斜接続部20との間に生じる接触摩擦を低減できる。特に、帯板部11の内周側面12と傾斜接続面21との連続部分23が角の無い滑らかな湾曲面になっているため、ワイヤ引き取り時のワイヤ9の角度が変化しても連続部分23への応力集中を緩和できる。したがって、帯状部材10の一部(特に連続部分23)が削れて剥離されるのを抑制できる。これによって、剥離による糸状剥離屑が発生するのを抑制できる。また、帯状部材10の特に連続部分23に擦傷痕が形成されるのを抑制できる。この結果、糸状剥離屑及び擦傷痕による流下阻害(粗度係数の悪化)や更生管3の強度低下を防止できる。また、更生管3内の美観が損なわれるのを防止できる。
【0033】
図1に示すように、ワイヤ9は、更生管3の先端側(図1において右側)から元押し側(同図において左側)へ向けて、巻回方向に沿って順次引き抜かれる。
ワイヤ9の引き抜きによる嵌合凸条42の切断によって、縁部分10a,10bどうしの拘束力が弱化され、更生管3の巻回方向に沿って縁部分10a,10bどうしが相対スライド可能になる。
【0034】
これと併行して、元押し製管機5(拡張用製管機)を駆動することで、未製管の帯状部材10を更に製管して更生管3に送り込む。これによって、更生管3の元押し側の端部(図1において右端部)が捩じられ、前記拘束力が弱化された部分が拡径(拡張)される。
【0035】
このようにして、図4(c)に示すように、更生管3の全域を拡張させて、既設管1の内周面に張り付ける。その後、更生管3の両側の端面処理を行なう。
帯状部材10は、中空断面リブ51,52,53等を有し、高剛性であるから、更生管3の自立管としての強度を確保できる。
【0036】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、ワイヤ9の引き抜き抵抗の軽減よりも、帯板部11の内周側面12と傾斜接続面21との連続部分23における応力集中の緩和を優先してもよく、その観点からは、帯状部材10が湾曲面部22を有していればよく、必ずしもワイヤ引き抜き間隙72の大きさD72がワイヤ直径φより大きくなくてもよい。
【実施例0037】
実施例を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
図2と同様の帯板部11、嵌合部30,40及び中空断面リブ51,52,53を有する帯状部材サンプルを用意した。
帯板部11の厚みt11、傾斜端面14の角度θ14、湾曲面部12の曲率半径R22、湾曲面部22の高さH22及び傾斜接続面21の全体高さH21は、それぞれ表1の通りであった。
前記帯状部材によって螺旋管を形成した。
螺旋管の内径は、450mmであった。
ワイヤ引き抜き間隙の大きさD72は、2.0mmであった。
螺旋管の製管時に縁部分10a,10bどうし間にワイヤを挟んだ。
ワイヤとして、19本のステンレス線材を撚って1つの束にしたものを用いた。ワイヤの直径は、φ=1.5mmであった。したがって、D72≧φwであった。
ワイヤを引き取って嵌合凸条42を切断するとともに、引き取り時の負荷を測定した。引き取り後、糸状剥離屑の発生の有無及び擦傷痕の幅を調べた。
結果は、表1の通り、引き取り負荷は、0.74kNであった。糸状剥離屑の発生は確認されなかった。擦傷痕の幅は1.5mmであった。
【実施例0038】
実施例2では、ワイヤ引き抜き間隙の大きさD72が1.6mmとなる帯状部材サンプルを用いた。ワイヤ直径φは1.5mmであり、D72<φであった。
実施例2における帯板部11の厚みt11、傾斜端面14の角度θ14、湾曲面部12の曲率半径R22、湾曲面部22の高さH22、傾斜接続面21の全体高さH21及び螺旋管内径は、それぞれ表1の通りであった。
実施例1と同様に、ワイヤ引き取り時の負荷を測定するとともに、糸状剥離屑の発生の有無及び擦傷痕の幅を調べた。
結果は、表1の通り、引き取り負荷は、1.1kNであった。糸状剥離屑の発生は確認されなかった。擦傷痕の幅は2mmであった。
【0039】
[比較例1]
比較例1として、ワイヤ引き抜き間隙の大きさD72が1.4mmとなる帯状部材サンプルを用いた。ワイヤ直径φは1.5mmであり、D72<φであった。
比較例1における帯板部11の厚みt11、傾斜端面14の角度θ14、湾曲面部12の曲率半径R12、湾曲面部22の高さH22、傾斜接続面21の全体高さH21及び螺旋管内径は、それぞれ表1の通りであった。
実施例1と同様に、ワイヤ引き取り時の負荷を測定するとともに、糸状剥離屑の発生の有無及び擦傷痕の幅を調べた。
結果は、表1の通り、引き取り負荷は、1.6kNであった。糸状剥離屑が発生していた。擦傷痕の幅は4mmであった。
【0040】
【表1】
【0041】
比較例1の帯状部材サンプルについて、ワイヤ径をφ=1.2mmとして同様の引き取り試験をしたところ、糸状剥離屑及び擦傷痕の改善は見られなかった。
また、ワイヤとして、各々7本の極細ステンレス線材からなる撚り線を7本集めて1つの束になるように撚った径φ=1.5mmのワイヤを用いて、比較例1の帯状部材サンプルについて同様の引き取り試験をしたところ、糸状剥離屑及び擦傷痕の改善は見られなかった。
ワイヤとして、7本の太めのステンレス線材を撚って1つの束にした径φ=1.5mmのワイヤを用いて、比較例1の帯状部材サンプルについて同様の引き取り試験をしたところ、糸状剥離屑及び擦傷痕の改善は見られなかった。
ワイヤとして、径φ=1.5mmのピアノ線を用いて、比較例1の帯状部材サンプルについて同様の引き取り試験をしたところ、糸状剥離屑及び擦傷痕の改善は見られなかった。
ワイヤとして、径φ=1.2mmのピアノ線を用いて、比較例1の帯状部材サンプルについて同様の引き抜き試験をしたところ、糸状剥離屑及び擦傷痕の改善は見られなかった。
これらの結果から、糸状剥離屑及び擦傷痕の形成の有無に対するワイヤの断面構造の影響は小さいと考えられる。
【実施例0042】
実施例3では、CAEシステムによって、図3(a)と同様の帯板部11、嵌合部30,40及び中空断面リブ51,52,53を有する帯状部材からなる螺旋管のモデルを作成した。
各螺旋管モデルの帯板部11の厚みt11は、t11=5mmとした。
傾斜接続面21の湾曲面部22の曲率半径R22は、R22=1mm、5mm、10mm、15mm、20mmの5通りとした。
各螺旋管モデルの内径は、450mmとした。
ワイヤ引き抜き間隙72から引き抜かれようとするワイヤが、湾曲面部22に沿って曲げられた状態をCAE上でシミュレーションし、湾曲面部22及びその周辺部に加えられる応力分布を解析した。
解析の結果、何れのモデルでも、内周側面12と傾斜接続面21との角部(連続部分23)において歪みが最大となった。
図5の棒グラフに示すように、その最大歪みは、湾曲面部22の曲率半径が大きくなるのにしたがって減少した。湾曲面部22の曲率を1/5mm-1以下とすることによって、引き取り時のワイヤ9から連続部分23に加えられる応力を低減できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、例えば老朽化した下水道管の更生施工技術に適用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 既設管
3 更生管
3a 内周側の管壁
3b 管内空間
5 元押し式製管機
8 引き取りウィンチ
9 ワイヤ
10 拡張製管工法用帯状部材(プロファイル)
10b 帯状部材の第2側の縁部分
10a 帯状部材の第1側の縁部分
11 帯板部
12 帯板部11の内周側面
13 帯板部11の外周側面
14 傾斜端面
20 傾斜接続部
21 傾斜接続面
22 湾曲面部
30 第1嵌合部
30a 第1嵌合部の内周側面
31 隆起部
33 嵌合溝
34 嵌合溝
40 第2嵌合部
41 嵌合凸条
42 幅方向の第2側(右側)に配置された嵌合凸条
51,52,53 リブ
71 ワイヤ挟み付け間隙
72 ワイヤ引き抜き間隙
73 開口
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5