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特開2024-103382測位装置、測位方法、測位プログラム、および分類モデルの生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103382
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】測位装置、測位方法、測位プログラム、および分類モデルの生成方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20240725BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G01C21/28
A61B5/11 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007672
(22)【出願日】2023-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】519210295
【氏名又は名称】株式会社NSD先端技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ソロビヨフ・イワン
(72)【発明者】
【氏名】前川 廣太郎
【テーマコード(参考)】
2F129
4C038
【Fターム(参考)】
2F129AA02
2F129BB33
2F129BB37
2F129BB38
2F129BB39
2F129BB40
2F129FF12
2F129FF20
2F129FF57
2F129FF71
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB29
(57)【要約】
【課題】位置の推定結果のずれを抑える。
【解決手段】測位装置(1)は、測位対象者が所持するセンサにて計測された計測データを取得するデータ取得部(101)と、測位対象者の行動を分類可能な分類モデルであって、歩行開始から定常歩行状態になるまでの初動期間に計測された計測データの分類結果が歩行行動となるように学習された分類モデル(111)を用いて、取得された上記計測データに基づいて測位対象者の行動を分類する分類部(103)と、分類部(103)の分類結果に基づいて測位対象者の位置を推定する位置推定部(106)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位対象者が所持するセンサにて計測された、当該測位対象者の位置を推定するための計測データを取得するデータ取得部と、
前記測位対象者の行動を分類可能な分類モデルであって、歩行開始から定常歩行状態になるまでの初動期間に計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習された分類モデルを用いて、前記データ取得部が取得する計測データに基づいて前記測位対象者の行動を分類する分類部と、
前記分類部の分類結果に基づいて前記測位対象者の位置を推定する位置推定部と、を備える測位装置。
【請求項2】
前記分類モデルは、前記測位対象者の行動を、歩行行動とそれ以外の行動とに分類するモデルである、請求項1に記載の測位装置。
【請求項3】
前記分類モデルは、前記初動期間に計測された計測データについての分類ラベルと、定常歩行状態である期間に計測された計測データについての分類ラベルとをそれぞれ異なるものとして学習されたモデルである、請求項1に記載の測位装置。
【請求項4】
前記分類モデルは、歩行以外の所定の行動が行われた期間に計測された計測データについての分類結果が当該所定の行動となるように学習されたモデルである、請求項3に記載の測位装置。
【請求項5】
1または複数の情報処理装置により実行される測位方法であって、
測位対象者が所持するセンサにて計測された、当該測位対象者の位置を推定するための計測データを取得するデータ取得ステップと、
前記測位対象者の行動を分類可能な分類モデルであって、歩行開始から定常歩行状態になるまでの初動期間に計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習された分類モデルを用いて、前記データ取得ステップで取得された計測データに基づいて前記測位対象者の行動を分類する分類ステップと、
前記分類ステップの分類結果に基づいて前記測位対象者の位置を推定する位置推定ステップと、を含む測位方法。
【請求項6】
請求項1に記載の測位装置としてコンピュータを機能させるための測位プログラムであって、前記データ取得部、前記分類部、および前記位置推定部としてコンピュータを機能させるための測位プログラム。
【請求項7】
1または複数の情報処理装置により実行される分類モデルの生成方法であって、
1または複数の対象者が歩行を開始してから定常歩行状態になるまでの初動期間に当該対象者が所持するセンサにより計測された計測データと、他の期間に計測された計測データとを用いて生成された学習用データセットを取得するデータ取得ステップと、
前記学習用データセットを用いた学習により、測位対象者の行動を分類するための分類モデルであって、前記測位対象者の歩行の初動期間に当該測位対象者が所持するセンサにより計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習された分類モデルを生成する学習ステップと、を含む、分類モデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位対象者が所持するセンサにて計測された計測データを用いて当該測位対象者の位置を推定する測位装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
測位対象者が所持するセンサにて計測された計測データを用いて当該測位対象者の位置(正確には基準点に対する相対位置)を推定する技術が従来から知られている。特に歩行者を対象とした当該技術は歩行者デッドレコニング(PDR:Pedestrian Dead Reckoning)と呼ばれ、その測位精度の向上等を目指す研究が進められている。例えば、下記の特許文献1には、加速度センサ等により検知された状態変化情報に基づいて推定した位置を、送信ノードからの受信電波の強度に基づいて補正することにより測位精度を向上させる位置推定システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-40503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、測位対象者が移動するエリアに送信ノードが配置されていることを前提としており、送信ノードが配置されていないエリアにおける測位に利用することはできない。このため、送信ノードの有無にかかわらず測位精度を高めることが可能な技術が求められる。
【0005】
ここで、PDRにおいては、加速度センサにより計測された計測データを基に測位対象者が歩行状態であるか停止状態であるかを判定し、その判定結果が歩行状態であれば測位対象者の位置を更新する。このため、停止状態から歩行状態に遷移するタイミングを正確に判定することは、測位精度を向上させるという観点から重要である。
【0006】
しかしながら、歩行開始から定常的な歩行状態(以下、定常歩行状態と呼ぶ)となるまでの初動期間に計測される加速度の値は不安定であるため、一般的には定常的な歩行状態となったタイミングで歩行状態に遷移したと判定される。このため、歩行状態に遷移したと判定されるタイミングが実際の歩行動作の開始タイミングよりも遅くなり、その結果、位置の推定結果が測位対象者の実際の位置からずれてしまうという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、位置の推定結果における上記のようなずれの発生を抑えることが可能な測位装置等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る測位装置は、測位対象者が所持するセンサにて計測された、当該測位対象者の位置を推定するための計測データを取得するデータ取得部と、前記測位対象者の行動を分類可能な分類モデルであって、歩行開始から定常歩行状態になるまでの初動期間に計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習された分類モデルを用いて、前記データ取得部が取得する計測データに基づいて前記測位対象者の行動を分類する分類部と、前記分類部の分類結果に基づいて前記測位対象者の位置を推定する位置推定部と、を備える。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る測位方法は、1または複数の情報処理装置により実行される測位方法であって、測位対象者が所持するセンサにて計測された、当該測位対象者の位置を推定するための計測データを取得するデータ取得ステップと、前記測位対象者の行動を分類可能な分類モデルであって、歩行開始から定常歩行状態になるまでの初動期間に計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習された分類モデルを用いて、前記データ取得ステップで取得された計測データに基づいて前記測位対象者の行動を分類する分類ステップと、前記分類ステップの分類結果に基づいて前記測位対象者の位置を推定する位置推定ステップと、を含む。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る分類モデルの生成方法は、1または複数の情報処理装置により実行される分類モデルの生成方法であって、1または複数の対象者が歩行を開始してから定常歩行状態になるまでの初動期間に当該対象者が所持するセンサにより計測された計測データと、他の期間に計測された計測データとを用いて生成された学習用データセットを取得するデータ取得ステップと、前記学習用データセットを用いた学習により、測位対象者の行動を分類するための分類モデルであって、前記測位対象者の歩行の初動期間に当該測位対象者が所持するセンサにより計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習された分類モデルを生成する学習ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、停止状態から歩行行動に遷移したことを検知するタイミングが遅れることを防ぎ、位置の推定結果のずれの発生を抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態1に係る測位装置を説明する図である。
図2】本発明の実施形態1に係る学習装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図3】学習用データセットの生成に利用可能な計測データの分割例を示す図である。
図4】分類モデルによる分類を説明する図である。
図5】本発明の実施形態1に係る分類モデルの生成方法の一例を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施形態1に係る測位方法の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態2に係る測位システムの構成例を示す図である。
図8】学習用データセットの生成に利用可能な計測データの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
(測位装置の構成)
図1に基づいて本実施形態に係る測位装置1の構成を説明する。図1は、測位装置1を説明する図である。測位装置1は、測位対象者の位置を推定する機能を備えた装置である。測位装置1は、測位機能を主たる機能とする装置であってもよいし、例えばスマートフォンのような汎用的な装置を測位装置1として利用することもできる。図1には、測位対象者の腰部に測位装置1をベルトで固定した例を記載している。なお、測位装置1は、測位に用いる計測データを計測できるような態様で保持されればよく、この例に限られない。
【0014】
また、図1には測位装置1の要部構成を示すブロックを示している。図示のように、測位装置1は、測位装置1の各部を統括して制御する制御部10と、測位装置1が使用する各種データを記憶する記憶部11を備えている。また、測位装置1は、加速度センサ12、測位装置1に対する入力を受け付ける入力部13、測位装置1が各種データを出力するための出力部14、および測位装置1が他の装置と通信するための通信部15を備えている。
【0015】
また、制御部10には、データ取得部101、特徴量抽出部102、分類部103、速度特定部104、進行方向特定部105、および位置推定部106が含まれている。そして、記憶部11には、分類モデル111が記憶されている。
【0016】
データ取得部101は、測位対象者が所持するセンサにて計測された、当該測位対象者の位置を推定するための計測データを取得する。具体的には、データ取得部101は、加速度センサ12により計測された計測データを取得する。計測データは、例えば、互いに直交する3軸方向のそれぞれについて計測された加速度データであってもよい。また、計測データには、例えばセンサ座標系の方向ベクトルや角加速度成分が含まれていてもよい。
【0017】
なお、計測データは、測位対象者の測位に利用可能なものであればよく、加速度センサ12により計測されたものに限られない。例えば、計測データには、電子コンパスなどの磁気センサで計測された磁気データ、ジャイロセンサで計測された角速度データ、および気圧センサで計測された気圧データ等が含まれていてもよい。計測データの計測に用いられるセンサは測位装置1が備えていてもよいし、測位装置1の外部のセンサにより計測された計測データを取得してもよい。
【0018】
特徴量抽出部102は、データ取得部101が取得する計測データから、測位対象者の行動に関する特徴量を抽出する。例えば、特徴量抽出部102は、計測データの平均値、分散、歪度、尖度、最小値、最大値、中央値、二乗平均平方根、動的特徴量、パワーバンド、周波数領域エントロピー、および信号強度の少なくとも1つを特徴量として抽出してもよい。
【0019】
なお、歪度は値の分布が正規分布に対して歪んでいる程度を示す値であり、尖度は値の分布が正規分布に対して尖っている程度を示す値である。また、二乗平均平方根は計測データあるいは確率変数を二乗した値の算術平均の平方根であり、動的特徴量は計測データが右肩上がりか右肩下がりかを示す特徴量である。そして、パワーバンドは、パワースペクトルにおける各周波数領域のパワーの総和を示す特徴量である。また、周波数領域エントロピーは周波数領域における状態の複雑さを表す特徴量である。
【0020】
分類部103は、データ取得部101が取得する計測データに基づいて測位対象者の行動を分類する。この分類には分類モデル111が用いられる。分類モデル111は、測位対象者の行動を分類可能な分類モデルであって、歩行開始から定常歩行状態になるまでの初動期間に計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習されたものである。
【0021】
詳細は後述するが、分類モデル111は、測位対象者の行動を、歩行行動とそれ以外の行動とに分類するモデルである。このように、測位装置1は、測位対象者の行動を歩行行動とそれ以外の行動とに分類するというシンプルな分類モデル111を用いるので、行動分類に要する計算量を抑えて、位置推定が完了するまでの所要時間を短く抑えることが可能である。
【0022】
速度特定部104は、分類部103が測位対象者の行動を歩行に分類している期間において、当該測位対象者の移動速度を特定する。また、進行方向特定部105は、データ取得部101が取得する計測データに基づいて測位対象者の進行方向を特定する。移動速度および進行方向の特定方法としては、周知の技術を適用することができる。
【0023】
位置推定部106は、速度特定部104が特定する移動速度と、進行方向特定部105が特定する進行方向とに基づいて測位対象者の位置を推定する。上述のように、速度特定部104は、分類部103が測位対象者の行動を歩行に分類している期間において当該測位対象者の移動速度を特定するから、位置推定部106は、分類部103の分類結果に基づいて測位対象者の位置を推定することになる。
【0024】
以上のように、測位装置1は、測位対象者が所持するセンサ(例えば加速度センサ12)にて計測された、当該測位対象者の位置を推定するための計測データを取得するデータ取得部101と、測位対象者の行動を分類可能な分類モデルであって、歩行開始から定常歩行状態になるまでの初動期間に計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習された分類モデル111を用いて、データ取得部101が取得する計測データに基づいて測位対象者の行動を分類する分類部103と、分類部103の分類結果に基づいて測位対象者の位置を推定する位置推定部106と、を備える。
【0025】
上記の構成によれば、歩行の初動期間における測位対象者の行動を歩行行動に分類することができる。したがって、上記の構成によれば、停止状態から歩行行動に遷移したことを検知するタイミングが遅れることを防ぎ、位置の推定結果のずれの発生を抑えることが可能になる。
【0026】
(学習装置の構成)
図2に基づいて本実施形態に係る学習装置2の構成を説明する。図2は、学習装置2の要部構成の一例を示すブロック図である。学習装置2は、上述した分類モデル111を生成する装置である。
【0027】
図示のように、学習装置2は、学習装置2の各部を統括して制御する制御部20と、学習装置2が使用する各種データを記憶する記憶部21を備えている。また、学習装置2は、学習装置2が他の装置と通信するための通信部22、学習装置2に対する入力を受け付ける入力部23、および学習装置2が各種データを出力するための出力部24を備えている。
【0028】
また、制御部20には、データ取得部201、データ分割部202、特徴量抽出部203、学習用データ生成部204、および学習部205が含まれている。そして、記憶部21には、学習用データセット211および分類モデル111が記憶されている。
【0029】
データ取得部201は、学習装置2が分類モデル111を生成するために必要な各種データを取得する。具体的には、データ取得部201は、分類モデル111を生成するための学習用データの元になる計測データを取得する。学習用データの元になる計測データは、任意の対象者にセンサを所持させて計測したものである。対象者は1名であってもよいし、複数名であってもよく、対象者の中に測位対象者が含まれていてもよい。
【0030】
また、データ取得部201は、計測データを用いて生成された学習用データからなる学習用データセット211を取得する。詳細は後述するが、上記の学習用データは、1または複数の対象者が歩行を開始してから定常歩行状態になるまでの初動期間に当該対象者が所持するセンサにより計測された計測データと、他の期間に計測された計測データとを用いて生成されたデータである。
【0031】
データ分割部202は、データ取得部201が取得する時系列の計測データを所定の分割単位で分割する。なお、計測データが複数種類取得された場合、データ分割部202は、各種類の計測データをそれぞれ分割する。例えば、加速度の計測データと角速度の計測データが取得された場合、データ分割部202は、各計測データをそれぞれ分割する。計測データの分割の詳細は後述する。
【0032】
特徴量抽出部203は、特徴量抽出部102と同様に、データ取得部201が取得する計測データから、対象者の行動に関する特徴量を抽出する。例えば、特徴量抽出部102が加速度の計測データの平均値を特徴量として抽出する場合、特徴量抽出部203も加速度の計測データの平均値を特徴量として抽出する。
【0033】
学習用データ生成部204は、分類モデル111の学習に用いる学習用データを生成する。具体的には、学習用データ生成部204は、データ分割部202による分割で生成された複数の計測データのそれぞれについて、当該計測データから算出された各特徴量を対応付けて学習用データとする。例えば、データ分割部202による分割で生成された計測データから特徴量抽出部203が2種類の特徴量を抽出した場合、学習用データ生成部204は、それらの特徴量を対応付けて学習用データとする。学習用データ生成部204により生成された各学習用データは、学習用データセット211として記憶部21に記憶される。
【0034】
学習部205は、学習用データセット211を用いた学習により分類モデル111を生成する。詳細は後述するが、この分類モデル111は、測位対象者の行動を分類するための分類モデルであって、測位対象者の歩行の初動期間に当該測位対象者が所持するセンサにより計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習されたものである。
【0035】
(計測データの分割について)
図3に基づいてデータ分割部202による計測データの分割について説明する。図3は、学習用データセット211の生成に利用可能な計測データの分割例を示す図である。図3に示すグラフAは、加速度の計測値の時系列変化を示している。グラフAから、対象者が停止している停止期間には計測値に大きな変動がなく、歩行動作の開始直後の初動期間から計測値の変動は大きくなり、定常歩行している定常歩行期間には一定の周期で計測値が変動していることがわかる。そして、定常歩行状態から停止状態に遷移する制動期間には定常歩行期間とは異なるパターンで計測値が変動し、完全に停止状態に遷移すると計測値に大きな変動はなくなることがわかる。
【0036】
このように、対象者の状態は時間の経過に伴って変化し得る。このため、データ分割部202は、そのような変化を適時に検出でき、歩行の周期に適合し、かつ、分割により生成されたデータから対象者の行動を適切に分類可能な程度の長さで計測データを分割することが好ましい。図3における分割の単位はt秒である。tは例えば1程度としてもよい。
【0037】
なお、測位装置1のデータ取得部101は、データ分割部202の分割単位に従って計測データを取得する。例えば、上述のようにデータ分割部202がt秒単位で計測データを分割する場合、データ取得部101は、t秒ごとにその直前t秒間の計測データを取得する。
【0038】
ここで、上述のように、分類モデル111は、測位対象者の歩行の初動期間に当該測位対象者が所持するセンサ(例えば加速度センサ12)により計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習されたものである。したがって、分類モデル111を用いて、図3のグラフAに示される初動期間の計測データを分類した場合、分類結果は歩行行動となる。そして、これにより、停止状態から歩行行動に遷移したことを検知するタイミングが遅れることを防ぎ、位置の推定結果のずれの発生を抑えることが可能になる。
【0039】
また、分類モデル111は、定常歩行状態から停止状態に遷移するまでの制動期間に測位対象者が所持するセンサ(例えば加速度センサ12)により計測された計測データについての分類結果についても歩行行動となるように学習されたものとしてもよい。この場合、分類モデル111を用いて、図3のグラフAに示される制動期間の計測データを分類すると、分類結果は歩行行動となる。そして、これにより、歩行状態から停止状態に遷移したことを検知するタイミングが遅れることを防ぎ、位置の推定結果のずれの発生を抑えることが可能になる。
【0040】
これに対し、従来の一般的なPDRでは、周期的な振動パターンが発生した場合のみを歩行状態と認識している。このため、初動期間や制動期間は歩行状態とは認識されず、それゆえ状態遷移の検知タイミングが遅れ、位置の推定結果にずれが生じてしまう。
【0041】
(分類モデルの詳細)
図4に基づいて分類モデル111の詳細について説明する。図4は、分類モデル111による分類を説明する図である。より詳細には、図4には、第1の特徴量と第2の特徴量という2つの特徴量を用いて、分類モデル111により測位対象者の行動を分類した例を示している。なお、分類に用いる特徴量の数は任意であり、1つの特徴量で分類してもよいし、3つ以上の特徴量で分類してもよい。上述したような様々な特徴量を対象とした分析を行うことにより、高精度な分類が可能な1または複数の特徴量を特定することが可能である。
【0042】
図4では第1の特徴量と第2の特徴量の組を座標平面上にプロットしている。これらのプロットの一部は歩行行動に分類され、残りのプロットはその他の行動に分類されている。分類モデル111を用いることにより、図4の例のように、第1の特徴量と第2の特徴量の組を歩行行動またはその他の行動に分類することができる。言い換えれば、分類モデル111は、第1の特徴量と第2の特徴量の組を、歩行行動またはその他の行動に分類することができるように学習することにより生成される。
【0043】
図4に示すような分類を行う場合、学習用データセット211として、対象者が歩行行動を行っているときの計測データから抽出された第1の特徴量と第2の特徴量の組からなる学習用データを含むものを用いる。
【0044】
そして、学習部205は、上述のような学習用データセット211を用いて学習を行う。これにより、第1の特徴量と第2の特徴量の組が入力されたことに応じて分類結果を出力する分類モデル111を生成することができる。
【0045】
図4のような分類を行う場合、学習用データセット211には、初動期間の計測データから抽出された第1の特徴量と第2の特徴量の組からなる学習用データと、定常歩行期間(他の期間)の計測データから抽出された第1の特徴量と第2の特徴量の組からなる学習用データとを含めておく。これにより、学習部205は、測位対象者の初動期間および制動期間の各動作を歩行行動に分類することが可能な分類モデル111を生成することができる。
【0046】
また、学習用データセット211には、制動期間の計測データから抽出された第1の特徴量と第2の特徴量の組からなる学習用データを含めておいてもよい。これにより、学習部205は、測位対象者の制動期間の動作を歩行行動に分類することが可能な分類モデル111を生成することができる。
【0047】
なお、学習のアルゴリズムは特に限定されない。例えば、学習部205は、OCSVM(One Class Support Vector Machine)による教師なし学習により分類モデル111を生成してもよい。
【0048】
(分類モデルの生成方法)
図5に基づいて本実施形態に係る分類モデルの生成方法について説明する。図5は、分類モデルの生成方法の一例を示すフローチャートである。なお、図5におけるS5およびS6が分類モデルの生成方法であり、S1~S4は学習用データの生成方法である。S1~S4の処理は、必ずしもS5およびS6の処理の直前に行う必要はない。
【0049】
S1では、データ取得部201が、学習用データの元になる時系列の計測データを取得する。この計測データには初動期間と他の期間の計測データが含まれていればよく、例えば、データ分割部202は、初動期間から制動期間までの計測データを取得してもよい。
【0050】
計測データの取得方法は任意であり、例えば、データ取得部201は、学習装置2の操作者が入力部23を介して入力する計測データを取得してもよい。なお、学習用データの元になる計測データは、任意の対象者にセンサを所持させて計測したものである。上述のように、対象者は1名であってもよいし、複数名であってもよく、対象者の中に測位対象者が含まれていてもよい。
【0051】
S2では、データ分割部202は、S1で取得された時系列の計測データを所定の分割単位で分割する。続いてS3では、特徴量抽出部203が、S2で分割された各計測データから対象者の行動に関する特徴量を抽出する。そして、S4では、学習用データ生成部204が、S3で抽出された特徴量を分割単位ごとに対応付けて学習用データとし、それらを学習用データセット211として記憶部21に記憶させる。
【0052】
S5では、データ取得部201が、記憶部21から学習用データセット211を取得する。上述のように、学習用データセット211は、1または複数の対象者が歩行を開始してから定常歩行状態になるまでの初動期間に当該対象者が所持するセンサにより計測された計測データと、定常歩行状態である期間(他の期間)に計測された計測データとを用いて生成されたものである。なお、学習用データセット211を他の装置に生成させてもよい。その場合、データ取得部201は、例えば入力部23または通信部25を介して学習用データセット211を取得してもよい。
【0053】
S6では、学習部205が、学習用データセット211を用いた学習により分類モデル111を生成する。この学習により生成される分類モデル111は、測位対象者の行動を分類するための分類モデルであって、測位対象者の歩行の初動期間に当該測位対象者が所持するセンサにより計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるモデルである。この後、学習部205は、生成した分類モデル111を記憶部21に記憶させ、図5の処理は終了となる。なお、学習部205は、生成した分類モデル111を測位装置1に送信してもよい。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る分類モデルの生成方法は、1または複数の対象者が歩行を開始してから定常歩行状態になるまでの初動期間に当該対象者が所持するセンサにより計測された計測データと、他の期間に計測された計測データとを用いて生成された学習用データセット211を取得するデータ取得ステップ(S5)と、学習用データセット211を用いた学習により、測位対象者の行動を分類するための分類モデルであって、測位対象者の歩行の初動期間に当該測位対象者が所持するセンサにより計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習された分類モデル111を生成する学習ステップ(S6)と、を含む。
【0055】
上記の構成によれば、歩行の初動期間における測位対象者の行動を歩行行動に分類することが可能な分類モデル111を生成することができる。そして、測位対象者の位置推定において、この分類モデル111を用いることにより、停止状態から歩行行動に遷移したことを検知するタイミングが遅れることを防ぎ、位置の推定結果のずれの発生を抑えることが可能になる。
【0056】
(測位方法)
図6に基づいて本実施形態に係る測位方法について説明する。図6は、測位方法の一例を示すフローチャートである。
【0057】
S11では、データ取得部101は、測位対象者が所持するセンサにて計測された、当該測位対象者の位置を推定するための計測データを取得する。計測データには、加速度センサ12で計測された加速度等のデータが含まれていてもよい。ここでは、データ取得部101は、データ分割部202の分割単位に従って計測データを取得する。例えば、データ分割部202がt秒単位で計測データを分割する場合、データ取得部101は、直近t秒間の計測データを取得する。
【0058】
S12では、特徴量抽出部102が、S11で取得された計測データから、測位対象者の行動に関する特徴量を抽出する。抽出する特徴量は、分類モデル111の生成に用いた特徴量と同じである。例えば、分類モデル111の生成に加速度データの平均値を特徴量として用いていた場合、特徴量抽出部102も加速度データの平均値を特徴量として抽出する。
【0059】
S13では、分類部103が、S11で取得された計測データに基づいて測位対象者の行動を分類する。より詳細には、分類部103は、S11で取得された計測データからS12で抽出された特徴量を分類モデル111に入力することによって得られた出力値から測位対象者の行動を分類する。
【0060】
S14では、速度特定部104が、S13の分類結果が、測位対象者が歩行中であることを示しているか否かを判定する。S14でYESと判定された場合にはS15に進み、S14でNOと判定された場合にはS11に戻る。
【0061】
S15では、測位対象者の移動速度と進行方向が特定される。具体的には、速度特定部104がS11で取得された計測データを用いて測位対象者の移動速度を特定し、進行方向特定部105がS11で取得された計測データを用いて測位対象者の進行方向を特定する。
【0062】
S16では、位置推定部106が測位対象者の位置を推定する。具体的には、位置推定部106は、直近の測位対象者の位置から、S15で特定された進行方向に、同じくS15で特定された移動速度でt秒間移動した位置を測位対象者の位置と推定する。この後処理はS11に戻る。
【0063】
以上のように、本実施形態に係る測位方法は、測位対象者が所持するセンサにて計測された、当該測位対象者の位置を推定するための計測データを取得するデータ取得ステップ(S11)と、測位対象者の行動を分類可能な分類モデルであって、歩行開始から定常歩行状態になるまでの初動期間に計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習された分類モデル111を用いて、S11で取得された計測データに基づいて測位対象者の行動を分類する分類ステップ(S13)と、S13の分類結果に基づいて測位対象者の位置を推定する位置推定ステップ(S16)と、を含む。これにより、停止状態から歩行行動に遷移したことを検知するタイミングが遅れることを防ぎ、位置の推定結果のずれの発生を抑えることが可能になる。
【0064】
〔実施形態2〕
(測位システムの構成)
図7に基づいて本実施形態に係る測位システム3の構成を説明する。図7は、測位システム3の構成例を示す図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0065】
測位システム3は、測位対象者の位置を推定するシステムである。図示のように、測位システム3は、端末装置4と測位装置5とを含む。測位システム3では、測位対象者が所持する端末装置4により計測した計測データを測位装置5が取得して測位対象者の測位を行い、その測位結果を端末装置4に返す構成となっている。なお、図7には測位対象者を一人のみ示しているが、1台の測位装置5により、複数の測位対象者のそれぞれについて測位を行うことも可能である。
【0066】
端末装置4は、測位対象者が所持する携帯型の端末装置であり、実施形態1の測位装置1と同様に、測位対象者の位置を推定するための計測データを計測するセンサを備えている。また、端末装置4は、ネットワーク経由で測位装置5と通信する機能を備えている。例えばスマートフォンのような汎用的な装置を端末装置4として利用することもできる。なお、端末装置4とは別のセンサにより計測データを計測してもよい。
【0067】
測位装置5は、上述のように測位対象者の位置を推定する機能を備えた装置である。測位装置5は、測位装置5の各部を統括して制御する制御部50と、測位装置5が使用する各種データを記憶する記憶部51を備えている。また、測位装置5は、測位装置5が他の装置と通信するための通信部52、測位装置5に対する入力を受け付ける入力部53、および測位装置5が各種データを出力するための出力部54を備えている。
【0068】
また、制御部50には、データ取得部501、特徴量抽出部102、分類部503、速度特定部104、進行方向特定部105、位置推定部106、および学習部507が含まれている。そして、記憶部51には、学習用データセット511および分類モデル512が記憶されている。なお、学習部507および学習用データセット511については後述する。
【0069】
データ取得部501は、測位対象者が所持するセンサ(例えば端末装置4が備えるセンサ)にて計測された、当該測位対象者の位置を推定するための計測データを取得する。上記センサは測位対象者の測位に利用可能な計測データを計測可能なものであればよく、例えば加速度センサ等であってもよい。この場合、データ取得部501は、通信部52を介して端末装置4から加速度データを取得する。
【0070】
分類部503は、データ取得部501が取得する計測データに基づいて測位対象者の行動を分類する。分類部503は、分類モデル512を用いて分類を行うという点で、実施形態1の分類部103と相違している。
【0071】
分類モデル512は、歩行の初動期間に計測された計測データについての分類ラベルと、定常歩行状態である期間に計測された計測データについての分類ラベルとをそれぞれ異なるものとして学習されたモデルである。
【0072】
歩行の初動期間に計測された計測データのパターンと、定常歩行状態の期間に計測された計測データのパターンとは一般に異なるものとなる。このため、これらの計測データについての分類ラベルをそれぞれ異なるものとして学習した分類モデル512を用いることにより、分類の精度を高めることができる。そして、分類の精度を高めることにより、当該分類の結果に基づく位置の推定精度も高めることができる。
【0073】
(分類モデルの生成について)
分類モデル512は、予め生成されたものを記憶部51に記憶させておいてもよい。また、記憶部51に予め学習用データセット511を記憶させておき、学習用データセット511を用いた学習を学習部507に行わせて分類モデル512を生成することも可能である。
【0074】
学習用データセット511は、1または複数の対象者が歩行を開始してから定常歩行状態になるまでの初動期間に当該対象者が所持するセンサにより計測された計測データと、他の期間に計測された計測データとを用いて生成されたものである。学習用データセット511は、実施形態1の学習用データセット211と比べて、各学習用データに分類ラベルが含まれている点で相違している。
【0075】
また、学習部507は、学習用データセット511を用いて学習済みの分類モデル512の再学習を行い、分類モデル512を更新することも可能である。例えば、測位対象者の計測データを用いて生成された学習用データセット511により分類モデル512を更新することで、測位対象者の行動の分類に適した分類モデル512とすることができる。このように分類モデル512をパーソナライズする場合、例えば測位対象者を識別する識別情報と共に分類モデル512を記憶させておき、当該識別情報が入力された場合に、当該分類モデル512を適用すればよい。
【0076】
同様に、所定の現場や、所定の用途で測位が行われる場合、各現場や各用途で計測された計測データを用いて生成された学習用データセット511により分類モデル512を更新することで、現場や用途ごとに最適化した分類モデル512を生成することもできる。また、測位対象者、現場、あるいは用途等に応じて分類ラベルや分類の際に用いる閾値を異ならせてもよい。
【0077】
以上のように、学習部507は、分類モデル512の用途に応じた学習用データセット511を用いて分類モデル512の再学習を行うことにより、分類モデル512を当該用途向きに調整することができる。そして、分類部503は、用途に応じた分類モデル512を使用して分類を行うことにより、高精度な分類を行うことが可能になる。
【0078】
実施形態1の分類モデル111も同様であり、用途に応じた学習用データセット511を用いて分類モデル111を再学習して分類モデル111を当該用途向きに調整することができる。
【0079】
(学習用データセットの生成方法)
図8に基づいて学習用データセット511の生成方法について説明する。図8は、学習用データセット511の生成に利用可能な計測データの例を示す図である。図8に示すグラフBは、対象者が所持する加速度センサにより計測された加速度の計測値の時系列変化を示している。
【0080】
グラフBには、計測値に大きな変動がある期間と、計測値がほぼ一定となる期間とが交互に現れている。計測値に大きな変動がある期間は、対象者が所定の行動を行っている期間であり、計測値がほぼ一定となる期間は、対象者が直立して動いていない期間である。対象者に所定の行動を繰り返し行ってもらうことにより、このような計測データを計測することができる。
【0081】
上記所定の行動は、学習の対象とする行動である。図8には、グラフBの一部を拡大した部分拡大図B1を示している。部分拡大図B1に示されているように、図8において学習の対象とする行動は歩行であり、より詳細には、初動期間の歩行行動と、定常歩行状態の歩行行動と、制動期間の歩行行動の計3つの動作が学習の対象となる行動である。
【0082】
実施形態1の学習用データの生成と同様に、時系列の計測データを時間方向に所定の単位で分割し、分割された各計測データに対応する行動をラベル付けすることにより、分類モデル512を生成するための学習用データを生成することができる。つまり、初動期間の計測データには初動期間の歩行行動であることを示すラベルを対応付けることにより、初動期間の歩行行動を学習するための学習用データを生成することができる。また、同様にして、定常歩行期間の歩行行動を学習するための学習用データと、制動期間の歩行行動を学習するための学習用データとを生成することができる。
【0083】
以上のようにして、初動期間に計測された計測データについての分類ラベルと、定常歩行状態である期間に計測された計測データについての分類ラベルとがそれぞれ異なる学習用データセット511を生成することができる。なお、再学習に用いる学習用データセット511は、測位対象者が各分類ラベルに対応する行動を実行しているときに計測された計測データに、当該行動に応じたラベルを対応付けることにより生成することができる。
【0084】
また、学習用データセット511では、制動期間に計測された計測データについて、初動期間および定常歩行状態である期間の何れとも異なる分類ラベルが付与されていてもよい。これにより、初動期間の歩行行動と、定常歩行状態の歩行行動と、制動期間の歩行行動とをそれぞれ区別して検出することが可能になる。
【0085】
ここで、例えば数時間以上にわたって測位を行う場合等には、測位対象者が歩くという行動や立ち止まるという行動以外の様々な行動をとり得る。そして、測位対象者が移動を伴わない行動をとったときに、その行動を歩行と誤認してしまうと、測位結果に誤差が生じてしまう。
【0086】
そこで、分類モデル512として、歩行以外の所定の行動が行われた期間に計測された計測データについての分類結果が当該所定の行動となるように学習されたモデルを用いてもよい。この構成によれば、移動を伴わない行動を歩行と誤認することにより測位結果に誤差が生じる可能性を低減し、位置の推定精度を高めることができる。
【0087】
歩行以外の所定の行動としては、例えば、座る、立ち上がる、屈伸、立ち止まって腕を動かす(回す、振る、上下あるいは左右に動かす等)、その場でジャンプする、その場で回転する、等が挙げられる。センサを所持した対象者にこのような行動を繰り返し行ってもらい、その際に計測された計測データに対し、対応する行動を示す分類ラベルを付与することにより、このような各種行動を学習する学習用データを生成することができる。そして、このような学習用データを用いた機械学習により、歩行以外の所定の行動が行われた期間に計測された計測データについての分類結果が当該所定の行動となる分類モデル512を生成することができる。
【0088】
(分類モデルの生成方法)
本実施形態に係る分類モデル512の生成方法(以下、本生成方法と呼ぶ)について説明する。なお、再学習における処理の流れも同様である。本生成方法では、まず、データ取得部501が、1または複数の対象者が歩行を開始してから定常歩行状態になるまでの初動期間に当該対象者が所持するセンサにより計測された計測データと、他の期間に計測された計測データとを用いて生成された学習用データセット511を取得する(データ取得ステップ)。
【0089】
他の期間に計測された計測データには、定常歩行期間に計測された計測データの他、制動期間に計測された計測データや、歩行以外の所定の行動が行われた期間に計測された計測データが含まれていてもよい。なお、異なる行動が行われた期間に計測された計測データにはそれぞれ異なるラベルを対応付けておく。
【0090】
次に、学習部507が、上記データ取得ステップで取得された学習用データセット511を用いた学習により、測位対象者の行動を分類するための分類モデルであって、測位対象者の歩行の初動期間に当該測位対象者が所持するセンサにより計測された計測データについての分類結果が歩行行動となるように学習された分類モデル512を生成する(学習ステップ)。
【0091】
より詳細には、学習ステップでは、初動期間に計測された計測データについての分類結果は初動期間の歩行行動となり、定常歩行期間に計測された計測データについての分類結果は定常歩行期間の歩行行動となるように学習が行われる。また、制動期間に計測された計測データについての分類結果は初動期間の歩行行動となり、歩行以外の所定の行動が行われた期間に計測された計測データについての分類結果は当該所定の行動となるように学習が行われてもよい。
【0092】
なお、学習は、複数の分類ラベルを学習できるような教師あり学習のアルゴリズムにより行えばよい。例えば、学習部507は、ニューラルネットワークの分類モデル512を生成してもよいし、Light GBM(Light Gradient Boosting Machine)等により木モデルである分類モデル512を生成してもよい。
【0093】
(測位方法)
本実施形態に係る測位方法(以下、本測位方法と呼ぶ)について説明する。本測位方法は図6と同様であるから、再び図6を参照して本測位方法を説明する。
【0094】
S11では、データ取得部501が、測位対象者が所持するセンサ(例えば加速度センサ12)にて計測された、当該測位対象者の位置を推定するための計測データを取得する。続いて、S12では、特徴量抽出部102が、S11で取得された計測データから、測位対象者の行動に関する特徴量を抽出する。抽出する特徴量は、分類モデル512の生成に用いた特徴量と同じである。
【0095】
S13では、分類部503が、S11で取得された計測データに基づいて測位対象者の行動を分類する。より詳細には、分類部503は、S11で取得された計測データからS12で抽出された特徴量を分類モデル512に入力することによって得られた出力値から測位対象者の行動を分類する。例えば、分類モデル512の出力値が、各分類ラベルの分類に該当する確率値を示すものである場合、分類部503は、最も確率値の高い分類ラベルに対応する分類を適用してもよい。
【0096】
S14では、速度特定部104が、S13の分類結果が、測位対象者が歩行中であることを示しているか否かを判定する。具体的には、速度特定部104は、S13の分類結果が初動期間の歩行行動、定常歩行期間の歩行行動、および制動期間の歩行行動の何れかであれば歩行中であると判定し、それ以外の行動であれば歩行中ではないと判定する。S14でYESと判定された場合にはS15に進み、S14でNOと判定された場合にはS11に戻る。
【0097】
S15では、測位対象者の移動速度と進行方向が特定される。具体的には、速度特定部104がS11で取得された計測データを用いて測位対象者の移動速度を特定し、進行方向特定部105がS11で取得された計測データを用いて測位対象者の進行方向を特定する。
【0098】
S16では、位置推定部106が測位対象者の位置を推定する。具体的には、位置推定部106は、直近の測位対象者の位置から、S15で特定された進行方向に、同じくS15で特定された移動速度で移動した位置を測位対象者の位置と推定する。この後処理はS11に戻る。
【0099】
〔変形例〕
上述の実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。つまり、相互に通信可能な複数の情報処理装置(プロセッサということもできる)により、測位装置1、学習装置2、および測位装置5の各機能を実現することができる。例えば、図5および図6のフローチャートに記載されている各処理を複数の情報処理装置に分担で実行させることもできる。つまり、上述の実施形態における各処理の実行主体は、1つの情報処理装置であってもよいし、複数の情報処理装置であってもよい。
【0100】
〔ソフトウェアによる実現例〕
測位装置1、学習装置2、および測位装置5(以下、「装置」と総称する)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部10、20、50に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラム(測位プログラム/学習プログラム)により実現することができる。
【0101】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0102】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0103】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0104】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0105】
1 測位装置
101 データ取得部
103 分類部
106 位置推定部
111 分類モデル
211 学習用データセット
5 測位装置
501 データ取得部
503 分類部
106 位置推定部
511 学習用データセット
512 分類モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8