(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103388
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】磁性コア及びノイズフィルタ
(51)【国際特許分類】
H01F 27/245 20060101AFI20240725BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20240725BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
H01F27/245
H01F17/06 F
H01F1/153 133
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007679
(22)【出願日】2023-01-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】石原 大資
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041BD03
5E041NN11
5E070AB03
5E070BA15
(57)【要約】
【課題】高温時においても性能を維持することができる、磁性コア及びノイズフィルタを提供する。
【解決手段】磁性コア1は、複数の磁性積層片2を備える。磁性積層片2は、複数の軟磁性薄帯部材3が接着部4を介して積み重ねられることによってなる。磁性積層片2は、不連続部分Cを形成する2つの長手方向積層端面5と、2つの長手方向積層端面5のそれぞれに連なっているともに積層方向に湾曲させた湾曲部分6とを備える。磁性積層片2は、隣り合う磁性積層片2の不連続部分Cが重ならないように、短手方向に互いに当接させることによって、組み合わされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁性積層片を備えており、前記複数の磁性積層片を組み合わせてなる磁性コアであって、
前記磁性積層片は、複数の軟磁性薄帯部材が接着部を介して積み重ねられることによってなり、かつ、
前記磁性積層片は、不連続部分を形成する2つの長手方向積層端面と、前記2つの長手方向積層端面のそれぞれに連なっているともに積層方向に湾曲させた湾曲部分とを備えており、
前記複数の磁性積層片は、隣り合う磁性積層片の前記不連続部分が重ならないように、短手方向に互いに当接させることによって、組み合わされている、磁性コア。
【請求項2】
前記磁性積層片のそれぞれは、前記不連続部分を有する環形状の磁性積層片である、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項3】
前記磁性積層片のそれぞれは、前記不連続部分を有するU字形状の磁性積層片である、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項4】
前記薄帯部材として、鉄基ナノ結晶材及び鉄基アモルファス材のうちの、少なくとも1つ以上を用いた、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項5】
25°C、100kHzにおけるインピーダンス比透磁率が2000以上である、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項6】
前記複数の磁性積層片のそれぞれの、互いに当接する当接面の算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzが、Ra≦0.7μm、及びRz≦10μmを満たす、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項7】
前記複数の磁性積層片のそれぞれの、互いに当接する当接面の平面度FLが、FL≦20μmを満たす、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項8】
前記複数の磁性積層片のうちの隣り合う当該磁性積層片のうちの一方における前記不連続部分の間の中心位置と、当該磁性積層片のうちの一方と隣り合う他方の磁性積層片における前記不連続部分の間の中心位置とがなす角度が90°以上270°以下である、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項9】
25°C、100kHzにおけるインピーダンスに対する、85°C、100kHzにおけるインピーダンスの割合ΔZ(25-85)100kが、80%以上である、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項10】
25°C、100kHzにおけるインピーダンスに対する、125°C、100kHzにおけるインピーダンスの割合ΔZ(25-125)100kが、70%以上である、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載された磁性コアを備える、ノイズフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性コア及びノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の磁性コアとしては、例えば、高周波トランス、チョークコイル等の磁心として、分割された円環状磁性体の断面同士を当接させる構造のカットコアが知られている(例えば、「特許文献1」参照。)。特許文献1には、分割されたカットコアの断面を研磨し、さらにエッジング処理することが好ましいことが開示されている。
【0003】
また、他の従来の磁性コアとしては、ノイズフィルタ向けとして、複数のナノ結晶合金箔の巻回コアを切断したのち樹脂を含浸させて固化した積層コアが知られている(例えば、「特許文献2」参照。)。引用文献2には、ナノ結晶合金箔の厚さに対する樹脂層の厚さを規定することで、切断後でもインピーダンスが低下しにくいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09-027412号公報
【特許文献2】特開2021-163772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の磁性コアはいずれも、使用中に高温となると、室温(常温)時と比べて、当該磁性コアのインピーダンス及び透磁率が低下してしまい、期待した性能を発揮できないことがある。
【0006】
本発明の目的は、高温時においても性能を維持することができる、磁性コア及びノイズフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る、磁性コアは、複数の磁性積層片を備えており、前記複数の磁性積層片を組み合わせてなる磁性コアであって、前記磁性積層片は、複数の軟磁性薄帯部材が接着部を介して積み重ねられることによってなり、かつ、前記磁性積層片は、不連続部分を形成する2つの長手方向積層端面と、前記2つの長手方向積層端面のそれぞれに連なっているともに積層方向に湾曲させた湾曲部分とを備えており、前記複数の磁性積層片は、隣り合う磁性積層片の前記不連続部分が重ならないように、短手方向に互いに当接させることによって、組み合わされている。
【0008】
(2)上記(1)の磁性コアにおいて、前記磁性積層片のそれぞれは、前記不連続部分を有する環形状の磁性積層片であるものとすることができる。
【0009】
(3)上記(1)の磁性コアにおいて、前記磁性積層片のそれぞれは、前記不連続部分を有するU字形状の磁性積層片であるものとすることができる。
【0010】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つの磁性コアは、前記薄帯部材として、鉄基ナノ結晶材及び鉄基アモルファス材のうちの、少なくとも1つ以上を用いることができる。
【0011】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つの磁性コアは、25°C、100kHzにおけるインピーダンス比透磁率が2000以上であることが好ましい。
【0012】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つの磁性コアは、前記複数の磁性積層片のそれぞれの、互いに当接する当接面の算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzが、Ra≦0.7μm、及びRz≦10μmを満たすことが好ましい。
【0013】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つの磁性コアは、前記複数の磁性積層片のそれぞれの、互いに当接する当接面の平面度FLが、FL≦20μmを満たすことが好ましい。
【0014】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つの磁性コアにおいて、前記複数の磁性積層片のうちの隣り合う当該磁性積層片のうちの一方における前記不連続部分の間の中心位置と、当該磁性積層片のうちの一方と隣り合う他方の磁性積層片における前記不連続部分の間の中心位置とがなす角度が90°以上270°以下であることが好ましい。
【0015】
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つの磁性コアにおいて、25°C、100kHzにおけるインピーダンスに対する、85°C、100kHzにおけるインピーダンスの割合ΔZ(25-85)100kが、80%以上であることが好ましい。
【0016】
(10)上記(1)~(9)のいずれか1つの磁性コアにおいて、25°C、100kHzにおけるインピーダンスに対する、125°C、100kHzにおけるインピーダンスの割合ΔZ(25-125)100kが、70%以上であることが好ましい。
【0017】
(11)本発明に係る、ノイズフィルタは、上記(1)~(10)のいずれか1つの磁性コアを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高温時においても性能を維持することができる、磁性コア及びノイズフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る、磁性コアを概略的に示す斜視図である。
【
図2】
図1の磁性コアを概略的に示す平面図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る、磁性コアを概略的に示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施例1-1及び1―2と、当該実施例1-1及び1―2に対する比較例1-1及び1―2とにおいて、測定温度25°CにおけるインピーダンスZ-25を基準としたときの、当該インピーダンスZ-25に対する各測定温度におけるインピーダンスZの割合を示すグラフである。
【
図5】従来の磁性コアを概略的に示す斜視図である。
【
図6】
図1の磁性コアにおける、2つの磁性積層片のうちの一方の2つの長手方向積層端面の間の中心位置と、当該2つの磁性積層片のうちの他方の2つの長手方向積層端面の間の中心位置とがなす角度θを、0°から360°までずらしたときの、インピーダンス最大値Zmaxに対する、各インピーダンスZの割合Z/Zmaxを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の例示的な実施形態に係る、磁性コア及びノイズフィルタについて、説明をする。
【0021】
図1には、本発明の第1の実施形態に係る、磁性コア1Aが概略的かつ斜視的に示されている。
【0022】
磁性コア1Aは、複数の磁性積層片2を備えている。磁性コア1Aは、複数の磁性積層片2を組み合わせてなる。磁性積層片2は、複数の軟磁性薄帯部材3(以下、単に、「薄帯部材3」ともいう。)が接着部4を介して積み重ねられることによってなる。
【0023】
さらに、磁性積層片2は、不連続部分Cを形成する2つの長手方向積層端面5と、2つの長手方向積層端面5のそれぞれに連なっているともに積層方向に湾曲させた湾曲部分6とを備えている。複数の磁性積層片2は、隣り合う磁性積層片2の不連続部分Cが重ならないように、短手方向に互いに当接させることによって、組み合わされている。
【0024】
ここで、本実施形態において、「長手方向」とは、薄帯部材3の長手方向(長さ方向)をいう。図中、長手方向は、符号Lで示されている。また、本実施形態において、「短手方向」とは、薄帯部材3の短手方向(幅方向)をいう。図中、短手方向は、符号Wで示されている。さらに、本実施形態において、「積層方向」とは、薄帯部材3が積み重ねられている方向(薄帯部材3の厚さ方向)をいう。図中、積層方向は、符号Dで示されている。
【0025】
磁性コア1に使用される薄帯部材3は、保磁力が小さく透磁率が大きい軟磁性材料からなる軟磁性金属薄帯部材であることが好ましい。軟磁性材料としては、例えば、Fe-Ni系合金(パーマロイ)、Fe-Si系合金(珪素鋼)等の軟磁性金属、Co基アモルファス合金、Fe基アモルファス合金等のアモルファス合金、Fe基ナノ結晶合金等を用いることができる。実用的には、磁性コア1は、薄帯部材3として、鉄基ナノ結晶材及び鉄基アモルファス材のうちの、少なくとも1つ以上を用いるとよい。
【0026】
軟磁性金属薄帯部材としてFe基ナノ結晶合金を用いる場合、例えば、一般式:(Fe1-aMa)100-x-y-z-b-c-dAxM’yM”zXbSicBd(原子%)(式中、MはCo,Niから選ばれた少なくとも1種の元素を、AはCu,Auから選ばれた少なくとも1種の元素、M’はTi,V,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta及びWから選ばれた少なくとも1種の元素、M”はCr,Mn,Sn,Zn,Ag,In,白金属元素,Mg,N及びSから選ばれた少なくとも1種の元素、XはC,Ge,Ga,Al及びPから選ばれた少なくとも1種の元素を示し、a,x,y,z,b,c及びdはそれぞれ0≦a≦0.1,0.1≦x≦3,1≦y≦10,0≦z≦10,0≦b≦10,11≦c≦17,3≦d≦10,及び65≦100-x-y-z-b-c-d≦85を満たす。)により表される組成の合金を使用することができる。また、Fe基ナノ結晶合金の成分組成は特に限定されないが、原子%で、Cu:0.5~2.0%、Nb:1.0~5.0%、Si:11.0~15.0%、B:5.0~10.0%であり、残部が実質的にFeからなる成分組成とすることが好ましい。
【0027】
ただし、磁性コア1に使用される材料は、軟磁性の特性を満足するものであれば、この限りではない。
【0028】
磁性積層片2を形成するための磁性積層体は、薄帯部材3の原料としての金属箔を所定のサイズ、形状にしたものを束ねることによって作製することができる。あるいは、前記磁性積層体は、薄帯部材3の原料となる金属箔を所定のサイズ、形状にしたものをロール状に巻き取ることによって作製することができる。
【0029】
金属箔の充填率(磁性積層片2に占める薄帯部材(磁性体)6の割合)は、金属箔を束ねるときの拘束力や巻き取るときの張力により調整することができる。金属箔の充填率は、例えば、65vol%から85vol%までの範囲で調整することができる。充填率が少ない場合、磁性体の割合が少ないため、透磁率が低下する。このため、充填率が少ない場合、磁性積層片2の体積を大きくする必要がある。反対に、充填率が多い場合、薄帯層(薄帯部材3)の間の距離が短いことから、樹脂などの接着剤が奥まで十分に浸透しなくなる。このため、充填率が多い場合、薄帯部材3と樹脂とを用いた磁性積層コアの固化成型ができなくなる。
【0030】
薄帯部材3として積層した金属箔は、成型時の歪みを取り除くために熱処理を行う。また、アモルファス合金は、熱処理を行うことによって、内部にナノ結晶を析出させることができる。熱処理を行うときの温度としては、例えば、350°Cから700°Cの間の温度が挙げられる。また、熱処理が行われる雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気、大気が挙げられる。
【0031】
熱処理した磁性積層コアの薄帯層(薄帯部材3)の間には、接着部4が介材している。これによって、互いに隣り合う薄帯部材3を固定させ、磁性積層体の形状を維持させることができる。接着部4は、薄帯部材3の間に接着剤を挿入することによって形成することができる。前記接着剤は、有機系接着剤と、無機系接着剤とのいずれも使用することができる。有機系接着剤としては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、シリコーン系エラストマーなどが挙げられる。無機系接着剤としては、例えば、水ガラス、ベントナイト系溶剤、アルミナ系溶剤、シリカ系溶剤などが挙げられる。接着剤の粘度は、例えば、2000mPa・s以下とすることが好ましい。接着剤の粘度が高い場合、当該接着剤を薄帯部材3の間に満遍なく浸透(挿入)させるためには、例えば、樹脂の温度を調整することによって若しくは有機溶剤などの希釈剤を添加するによって粘度を調整し、又は、接着剤を塗布するときに減圧を行うことができる。また、複数の薄帯部材3を、接着部4を介して積み重ねる場合、薄帯部材3の間に接着剤を挿入するのではなく、当該薄帯部材3を積層する前に当該薄帯部材3の表面に接着剤を塗布することもできる。
【0032】
上述のように、接着剤を浸透させた磁性積層体は、必要に応じて接着剤を硬化させるために熱処理を行う。熱処理温度又は時間は使用する接着剤に合わせて適切な条件で行う必要がある。例えば、硬化のための熱硬化処理は、例えば、50~500°Cの熱処理温度で、0.5時間~10時間の時間をかけて行う。前記熱硬化処理は、低温から複数回に分けて段階的に行うこともできる。
【0033】
磁性積層片2は、接着固化した磁性積層コアに切り欠き部を設けることによって作製することができる。この場合、切り欠き部は、不連続部分Cを構成する。前記切り欠き部は、例えば、切断加工を行うことによって設けることができる。前記切断は、切断砥石を用いた湿式の外周スライサなどで行われる。前記切断砥石には、例えば、レジノイド結合剤を使用したGC砥石が適している。前記切断砥石において、結合度はK~P、粒度は80~150の範囲で、砥石の厚さは0.5~1.5mm程度の範囲のものが適している。
【0034】
磁性積層片2は、当該磁性積層片2の側面のうち、少なくとも他の磁性積層片2と当接する面(以下、「当接面」ともいう。)に、研磨加工を行うことが好ましい。
【0035】
ここで、磁性積層片2の側面とは、当該磁性積層片2の短手方向一方側側面F1又は当該磁性積層片2の短手方向他方側側面F2をいう。言い換えれば、磁性積層片2の側面とは、当該磁性積層片2の長手方向積層端面5、当該磁性積層片2の積層方向一方側側面F3及び当該磁性積層片2の積層方向他方側側面F4以外の面をいう。
【0036】
研磨面(当接面)の算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzはそれぞれ、Ra≦0.7μm、及びRz≦10μmが好ましい。これより粗い場合、当接面同士の間に生じた空間が、磁束の流れを妨げるため、透磁率が低下してしまう。算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzのそれぞれの下限値は、加工可能な範囲であれば、特に限定されないが、量産工法で可能な範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは、Ra≦0.35μm、及びRz≦5μmである。
【0037】
研磨面(当接面)の平面度FLはFL≦20μmが好ましい。平面度FLが20μmより大きい場合、当接面同士の間に生じた空間が、磁束の流れを妨げるため、透磁率が低下してしまう。さらに、当接面の平面度FLは、FL≦10μmを満たすことが好ましい。平面度FLの下限値は、加工可能な範囲であれば、特に限定されないが、量産工法で可能な範囲とすることが好ましい。
【0038】
磁性コア1Aは、2つの磁性積層片2を備えている。本実施形態において、2つの磁性積層片2は、2つの磁性積層片2のうちの一方の磁性積層片2における短手方向一方側側面F1と、2つの磁性積層片2のうちの他方の磁性積層片2における短手方向他方側側面F2とを重ね合わせに当接させることによって組み合わされている。
【0039】
詳細には、本実施形態において、2つの磁性積層片2は、当該2つの磁性積層片2の一方の磁性積層片(図面上側に位置する磁性積層片)2の短手方向他方側側面(図面下側に位置する下面)F2と、当該2つの磁性積層片2の他方の磁性積層片(図面下側に位置する磁性積層片)2の短手方向一方側側面(図面上側に位置する上面)F1と、を当接させている。
【0040】
図2には、磁性コア1Aが積層方向から平面的に示されている。
【0041】
磁性コア1Aにおいて、2つの磁性積層片2は、
図2に示すように、平面視において、一方の不連続部分Cが他方の不連続部分Cと重ならないように組み合わされている。また、
図2には、磁性積層片2における2つの長手方向積層端面5の間の中心位置が符号Pで示されている。中心位置Pは、2つの長手方向積層端面5の間の中間に位置している。磁性コア1Aでは、中心位置Pは、当該磁性コア1Aの中心軸線Оの周りの周方向の中間位置である。
【0042】
本発明によれば、複数の磁性積層片2のうちの隣り合う当該磁性積層片2のうちの一方における不連続部分Cの間の中心位置P1と、当該磁性積層片2うちの一方と隣り合う他方の磁性積層片2における不連続部分Cの間の中心位置P2とがなす角度θは、90°以上270°以下であることが好ましい。
【0043】
図2を参照すれば、角度θは、平面視において、磁性コア1Aの中心軸線Оと一方の磁性積層片(図面手前側に位置する磁性積層片)2の中心位置P1とを通る直線L1と、磁性コア1Aの中心軸線Оと他方の磁性積層片(図面奥側に位置する磁性積層片)2の中心位置P2とを通る直線L2と、がなす角度である。角度θが90°以上270°以下の範囲を超えると、磁束が流れる有効断面積が減少し、インピーダンス又は透磁率が大きく減少する。角度θはさらに好ましくは、120°以上300°以下である。
【0044】
図2を参照すれば、磁性コア1Aにおいて、一方の磁性積層片(図面手前側に位置する磁性積層片)2の中心位置P1と、他方の磁性積層片(図面奥側に位置する磁性積層片)2の中心位置P2と、がなす角度θは、180°である。
【0045】
磁性コア1Aは、ケースに収納して使用することができる。これによって、磁性コア1Aは、例えば、ノイズフィルタとして使用することができる。
【0046】
前記ケースの材質としては、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、ASA(アクリロニトリルスチレンアクリルゴム)、シリコーン系樹脂、シリコーン系エラストマー等を用いることができる。
【0047】
前記ケースは、例えば、重ね合わせが可能な2つの半割り部分と、当該2つの半割り部分を開閉可能に連結したヒンジとを備えるヒンジケースとすることができる。各積層片は、2つの半割り部分の間に入れ込んだのち、当該2つの半割り部分を固定することによって、それぞれの側面を互いに当接させるようにすることができる。
【0048】
前記ケースには、各磁性積層片2の側面がより確実に当接されるように、当該ケースの内部及び外部の少なくとも1つから、当該磁性積層片2同士を押し付ける加重機構を備えることが好ましい。前記加重機構には、樹脂又は金属の板バネ又は突起物、バンドなどが用いることができる。ただし、前記加重機構は、各磁性積層片2の側面同士の当接が維持できるものであればその限りではない。
【0049】
前記加重機構によって積層片の側面に加わる荷重は、各磁性積層片2の質量の5倍~100倍が好ましい。磁性積層片2の側面に加わる荷重が小さい場合、当該磁性積層片2の側面(当接面)は、使用時の振動又は衝撃によって離れる可能性がある。磁性積層片2の側面が離れた場合、磁性コア全体のインピーダンス及び透磁率が急激に低下してしまう。それに対して、磁性積層片2の側面に加わる荷重が大きい場合、各磁性積層片2に過大な歪みが生じてしまう虞がある。各磁性積層片2に過大な歪みが生じた場合、磁性コア全体のインピーダンス及び透磁率の低下につながる可能性がある。前記加重機構によって磁性積層片2の側面に加わる荷重を、各磁性積層片2の質量の5倍~100倍とすれば、上述のような、各磁性積層片2の側面(当接面)の離れ又は当該磁性積層片2に生じる過大な歪みに起因する、磁性コア全体のインピーダンス及び透磁率の低下を抑制することができる。
【0050】
ただし、各磁性積層片2は、当該磁性積層片2それぞれの当接状態を維持することができるのであれば、必ずしもケースに収納する必要はない。例えば、各磁性積層片2は、ビニールテープ又は結束バンドなどを巻き付けることによって一体化させることもできる。これらの場合もまた、テープ又はバンド等で一体化された磁性コアは、ノイズフィルタ等として使用することができる。
【0051】
磁性積層片2は、不連続部分Cを有する環形状の磁性積層片とすることができる。例えば、
図2を参照すれば、磁性コア1Aにおいて、磁性積層片2は、不連続部分Cを有する円環形状の磁性積層片2Aである。詳細には、磁性積層片2Aは、2つの長手方向積層端面5と半円状の湾曲部分6とに加えて、2つの長手方向積層端面5と半円状の湾曲部分6とに連なる円弧状の湾曲部分7を備えている。2つの湾曲部分7は、2つの長手方向積層端面5と半円状の湾曲部分6とに連なる円弧状の湾曲部分7を備えている。2つの湾曲部分7は、
図2に示すように、平面視において、互いに向かい合うように円弧状に湾曲している。本実施形態において、磁性積層片2Aは、
図2に示すように、平面視において、C字形状の磁性積層片である。
【0052】
磁性積層片2Aは、互いの不連続部分Cが重ならないように組み合わされることによって、磁性コア1Aの内部には、磁性コア1Aの中心軸線Оに沿って延在する貫通孔が形成される。
【0053】
ただし、「環形状」とは、多角形形状を有した角環状を含む。すなわち、磁性積層片2Aには、中空の多角形形状の一部を切り欠いて不連続部分Cが設けられた形状のものが含まれる。ただし、磁性積層片2は、円環状又は多角形状の一部を切り欠いたものに限定されるものではない。
【0054】
図3には、本発明の第2の実施形態に係る、磁性コア1Bが概略的かつ斜視的に示されている。
【0055】
本実施形態において、磁性積層片2は、
図3に示すように、不連続部分Cを有するU字形状の磁性積層片2Bである。磁性積層片2Bもまた、
図1及び2の磁性積層片2と同様に、2つの長手方向積層端面5と、半円状の湾曲部分6とを備えている。さらに、磁性積層片2Bは、長手方向積層端面5と半円状の湾曲部分6とに連なる長手部分8を備えている。2つの長手部分8は、それぞれ、互いに平行に直線的に延在している。すなわち、2つの長手方向積層端面5は、互いに向かい合うことなく、同一の方向に向いている。
【0056】
磁性積層片2Bもまた、互いの不連続部分Cが重ならないように組み合わされることによって、磁性コア1Bの内部には、磁性コア1Bの中心軸線Оに沿って延在する貫通孔が形成される。
【0057】
上述のとおり、磁性積層片2の形状は、複数の磁性積層片2を組み合わせることによって、磁性コア1の内部に貫通孔を形成することができるもの、つまり、磁性コア1全体として中心軸線Оの周りを周方向に周回する閉回路を形成することができるものであれば、限定されない。ここで、「周回する」とは、中心軸線Оの周りを1周することを意味する。また、ここで、「周回する」とは、中心軸線Оの周りを無端状に環状に1周する場合を含む意味である。
【0058】
磁性積層片2における短手方向一方側側面F1と、短手方向他方側側面F2と、積層方向一方側側面F3と、積層方向他方側側面F4と、長手方向積層端面5とが、それぞれがなす角度は任意の角度を選択できる。
【0059】
[実施例1-1]
実施例1-1として、
図1に示すような環形状の一部に切り欠き部を設けた磁性積層片(2A)を2つ使用することによって、磁性コア(1A)を作製した。
【0060】
磁性積層片(2A)を作製するにあたってはまず始めに、薄帯部材(3)として、主成分が原子%で、Cu:1%、Nb:3%、Si:13.5%、B:9%であり、残部が実質的にFeからなる合金溶湯を単ロール法により急冷して、幅10mm厚さ20μmの薄帯状のFe基アモルファス合金を得た。
【0061】
次いで、上記Fe基アモルファス合金を巻回して、外径ОD(=28.5mm)、内径ID(=18.0mm)、高さW(=10mm)の円筒状とした。その後、円筒状のFe基アモルファス合金を、アルゴン雰囲気下にて490℃に保った熱処理炉に挿入し、10分間熱処理を施した。これによって、Fe基ナノ結晶合金からなる、積層磁性体を作製した。次いで、得られた積層磁性体を、三菱ケミカル製エポキシ樹脂801N、及び硬化剤ST12を規定量比で混合した溶液の中に浸し、-0.1MPaGまで真空引きを行ったのち、その真空状態を10分保持した。その後、真空状態を大気圧中に開放することによって、積層磁性体に樹脂を含浸させた。樹脂を含浸させた積層磁性体はさらに、室温にて24時間放置し、その後大気中80°Cで3時間保持して、環状磁性体に含浸させた樹脂を硬化させた。
【0062】
磁性積層片(2A)は、樹脂含浸後の積層磁性コアを、
図1で示すように切断して切り欠き部(不連続部分C)を形成することによって作製した。積層磁性コアの切断は、平和テクニカ社製ファインカットHS-100型の高速精密切断機を用い、砥石は平和テクニカ社製のトクウストイシステンB(外径φ205mm、内径φ25.4mm、厚さ0.7mm)を用いて手動で行い、これによって、幅10mmの不連続部分(C)を作製した。
【0063】
磁性積層片(2A)の側面には、研磨を行った。研磨装置には、Struers製のTegramin-25を用いた。前記研磨装置は、公転100rpm、自転50rpmで同方向に回転させ、荷重は15Nに設定した。研磨紙番手は、#320から順に#500、#800、#1200、#2000、#2500と細かくしていった。
【0064】
上述の一連の作業によって、実施例1-1の磁性コアに用いられる磁性積層片(2A)を得た。
【0065】
磁性積層片(2A)の側面に施された研磨面の算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzは、東京精密社製 SURFCOM1400Gの表面粗さ測定機を用い、JIS B 0601:2001に準拠して測定した。測定箇所は、不連続部分(C)の中心位置Pから90°、180°、270°の3か所で、測定面の中心付近を積層方向に内周側から外周側へ向かって測定し、平均値を算出した。このとき測定された磁性積層片2Aは、算術平均粗さRaが0.1μm、最大高さ粗さRzは2.0μmの、側面(当接面)を有していた。
【0066】
また、磁性積層片(2A)の側面に施された研磨面の平面度FLは、JIS B 0601:2001に準拠して測定した研磨面の断面曲線の最大値及び最小値の絶対値の和を指す。研磨面の平面度FLは、表面粗さ測定と同様に東京精密社製 SURFCOM1400Gの表面粗さ測定機を用いた。測定箇所は不連続部分(C)の中心位置Pから90°、180°、270°の3か所で、積層方向に内周側から外周側へ向かって測定し、測定距離は測定方向の両端10%を除いた積層方向厚さの80%とし、3か所の平均値を算出した。このとき測定された磁性積層片2Aの平面度FLは、1.5μmであった。
【0067】
実施例1-1では、上記2つの磁性積層片(2A)を使用し、
図2のように各不連続部分(C)の中心位置(P1,P2)がなす角度θが180°になるように、2つの磁性積層片(2A)のそれぞれの側面を互いに当接させたのち、耐熱テープを用いて、2つの磁性積層片(2A)の側面(当接面)同士を固定した。
【0068】
周波数100kHzにおけるインピーダンスZの測定には、キーサイト製4294Aインピーダンスアナライザーを用いた。日星電気製の耐熱リード線FN-2-0.3SQを磁性コアに1ターン通し、リード線用フィクスチャ(キーサイト製16047E)を用いて測定した。測定時には、2つの磁性積層片(2A)を上下に重ね、当該磁性積層片(2A)の側面(F1,F2)には100gのウエイトを載せて荷重をかけた。測定する磁性コア(1A)は、エスペック製小型環境試験機SH-222に入れ、25°Cから125°Cまでの各温度でインピーダンスZを測定した。測定温度25°CにおけるインピーダンスZをインピーダンスZ25とし、当該インピーダンスZ25に対する、各測定温度のインピーダンスZの割合をΔZ=Z/Z25とした。
【0069】
以下の表1には、インピーダンスZの測定結果と、ΔZの算出結果とが示されている。さらに、
図4には、実施例1-1のΔZの結果が示されている。
【0070】
【0071】
[実施例1-2]
薄帯部材(3)として、主成分が原子%で、Si:13.5%、B:9%であり、残部が実質的にFeからなる合金溶湯を単ロール法により急冷して、幅10mm厚さ20μmの薄帯状のFe基アモルファス合金を得た。次いで、上記Fe基アモルファス合金を巻回して、外径ОD(=28.5mm)、内径ID(=18.0mm)、高さW(=10mm)の円筒状とした。その後、円筒状のFe基アモルファス合金を、アルゴン雰囲気下にて550℃に保った熱処理炉に挿入し、10分間熱処理を施し、歪み取りを行なった。これによって、Fe基アモルファス合金からなる、積層磁性体を作製した。その後の樹脂含浸および切断、研磨は実施例1-1と同様に行なった。測定方法も実施例1-1と同様に行なった。
【0072】
以下の表2には、インピーダンスZの測定結果と、ΔZの算出結果とが示されている。さらに、
図4には、実施例1-2のΔZの結果が示されている。
【0073】
【0074】
ここで、
図5には、従来の磁性コア10が概略的かつ斜視的に示されている。
【0075】
(比較例1-1)
比較例1-1の磁性コアは、
図5の磁性コア10を基本としている。比較例1-1もまた、実施例1-1と同様に、Fe基アモルファス合金を巻回して含浸樹脂の硬化まで行うことによって、樹脂含浸後の磁性積層コアを得た。ただし、比較例1-1において、磁性積層片(20)は、樹脂含浸後の磁性積層コアを、
図5に示すように径方向に沿って半割することによって作製した。磁性積層片(20)の切断面(11)には、実施例1-1と同様に#2500まで研磨仕上げを行った。比較例1-1は、磁性積層片(20)の切断面(研磨面)11同士を当接させたのち、耐熱テープで固定することによって作製した。比較例1全体のインピーダンスZの測定は実施例1と同様である。ただし、磁性積層片(20)の切断面(11)に加えたウエイトは、2kgとし、磁性積層片(20)の切断面11に対して垂直方向に荷重がかかるようにウエイトを載せた。
【0076】
以下の表3には、インピーダンスZの測定結果と、ΔZの算出結果とが示されている。さらに、
図4には、比較例1-1のΔZの結果が示されている。
【0077】
【0078】
(比較例1-2)
比較例1-2の磁性コアは、比較例1-1と同様に作製した磁性積層片(20)の切断面(研磨面)11同士を当接させ、耐熱テープで固定した。磁性積層片(20)の切断面(11)に加えたウエイトは、10kgとし、磁性積層片(20)の切断面11に対して垂直方向に荷重がかかるようにウエイトを載せた。
【0079】
以下の表4には、インピーダンスZの測定結果と、ΔZの算出結果とが示されている。さらに、
図4には、比較例1-2のΔZの結果が示されている。
【0080】
【0081】
ここで、表1を参照すれば、実施例1-1は、測定温度が上昇してもインピーダンスZは減少することはなく、測定温度125°CにおけるインピーダンスZは、測定温度25°CにおけるインピーダンスZのΔZ=102%となった。また、表2を参照すれば、実施例1-2も同様に高温でも安定しており、測定温度125°CにおけるインピーダンスZは、測定温度25°CにおけるインピーダンスZのΔZ=98%となった。
【0082】
その一方で、比較例1-1は、表3に示すように、測定温度が上昇するとともにΔZは減少していき、測定温度125°CにおけるインピーダンスZは、測定温度25°CにおけるインピーダンスZのΔZ=14%となった。比較例1-2もまた、表4に示すように、測定温度が上昇するとともにΔZは減少していき、測定温度125°CにおけるインピーダンスZは、測定温度25°CにおけるインピーダンスZのΔZ=68%となった。
【0083】
比較例1-1及び比較例1-2のような、従来と同じ構成の磁性コアの場合、磁性積層片(20)の切断面(11)に加えたウエイトを10kgよりも大きくしても、測定温度85°CにおけるインピーダンスZは、表4に示したのと同様に、測定温度25°CにおけるインピーダンスZに対してΔZ=80%を超えることがなかった。そして、測定温度125°CにおけるインピーダンスZもまた、表4に示したのと同様に、測定温度25°CにおけるインピーダンスZに対してΔZ=70%を超えることがなかった。
【0084】
これに対し、実施例1-1及び実施例1-2のような、本発明に係る構成の磁性コアの場合、2つの磁性積層片(2A)の側面(当接面)同士を、10kgを超える荷重で固定しなくとも、耐熱テープを用いて固定するだけで、測定温度85°CにおけるインピーダンスZは、表1に示すように、測定温度25°CにおけるインピーダンスZに対してΔZ=80%以上となっている。測定温度125°CにおけるインピーダンスZもまた、表2に示すように、測定温度25°CにおけるインピーダンスZに対してΔZ=70%以上となっている。
【0085】
図4には、実施例1-1及び1―2並びに比較例1-1及び1―2のそれぞれの、測定温度25°CにおけるインピーダンスZ25を基準としたときの、当該インピーダンスZ25に対する各測定温度におけるインピーダンスZの割合を示すグラフが示されている。
図4を参照すれば、実施例1-1および1-2は、比較例1-1及び1―2に比べて、高温でも安定した性能を維持していることが明らかである。
【0086】
[実施例2]
実施例2の磁性コアは、
図1及び2の磁性コア1Aを基本としている。磁性積層片(2A)もまた、実施例1-1および1-2と同様に含浸樹脂の硬化まで行ったのち、切り欠き部を形成することによって得た。ただし、磁性積層片(2A)の不連続部分(切り欠き部)Cは幅1mmとした。磁性積層片(2A)の側面にもまた、実施例1-1および1-2と同様に研磨を行った。
【0087】
周波数100kHzにおけるインピーダンスZの測定は、幅1mmの不連続部分(C)が設けられた、2つの磁性積層片(2A)を使用して行った。実施例2では、各磁性積層片(2A)の不連続部分(C)の中心位置(P1,P2)がなす角度θが所定の角度になるように各磁性積層片(2A)の側面を当接させたのち、耐熱テープを用いて磁性積層片(2A)の側面を互いに固定し、さらに、磁性積層片(2A)の側面に100gのウエイトを載せてインピーダンスZを測定した。各不連続部分(C)の中心位置Pがなす角度θを0°から360°までずらしたときに測定されるインピーダンスZの最大値をZmaxとし、当該インピーダンスZの最大値Zmaxに対する、各角度θで測定されるインピーダンスZの割合Z/Zmaxを
図6に示す。
【0088】
図6に示すように、実施例2のインピーダンスZは、角度θが180°のときに、最大値になることが分かる。また、実施例2のインピーダンスZは、
図6に示すように、角度θが小さくなるのにしたがって急激に減少する。言い換えれば、実施例2のインピーダンスZは、θ=0°に近づくにしたがって急激に減少する。また、実施例2のインピーダンスZは、角度θが大きくなるのにしたがって急激に減少する。言い換えれば、実施例2のインピーダンスZは、θ=360°に近づくにしたがって急激に減少する。
図6の測定結果中で、角度θが90°から270°の範囲の、インピーダンスZは、インピーダンスZの最大値Zmaxの80%以上となり、高いインピーダンスを維持できることが分かる。
【0089】
[実施例3]
実施例3の磁性コアもまた、
図1及び2の磁性コア1Aを基本としている。磁性積層片(2A)は、実施例1-1と同様に幅10mmの不連続部分(切り欠き部)Cの作製まで行った。積層磁性片(2A)の側面の研磨は、#800、#1200、#2000、#2500、1μmアルミナフィルム、0.5μmアルミナフィルムの各研磨紙番手とし、実施例3の磁性積層片(2A)を作製した。
【0090】
磁性積層片(2A)の当接面(研磨面)の算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzと、当該当接面の平面度FLとを、それぞれ、実施例1-1と同様に測定した。実施例3のインピーダンスZの測定もまた、実施例1-1と同様の、各測定温度で測定した。
【0091】
インピーダンスZからインピーダンス比透磁率μrzへの換算は、以下の式(1)によって行った。
【0092】
【0093】
ここで、μ0は真空の透磁率、Lmは平均磁路長、fは測定周波数、Aeは有効断面積である。
【0094】
図1に示すように、磁性コアの外径をOD、当該磁性コアの内径をID、当該磁性コアの組合せ後の厚さをHTとしたとき、平均磁路長Lm及び有効断面積Aeはそれぞれ、以下の式(2)、(3)によって算出される。
【0095】
【0096】
【0097】
ただし、式(3)において、drは、磁性体(薄帯部材)の充填率である。今回の充填率は、0.75であった。
【0098】
各サンプルの測定結果を表5に示す。
【0099】
【0100】
(比較例3)
比較例3の磁性コアもまた、
図1及び2の磁性コア1Aを基本としている。磁性積層片(2A)は、実施例1と同様に幅10mmの不連続部分(切り欠き部)Cの作製まで行った。磁性積層片(2A)の側面の研磨は、#320、#500の各研磨紙番手とし、比較例3の磁性積層片を作製した。比較例3は、各測定は実施例3と同様である。各サンプルの測定結果を表5に示す。
【0101】
表5より、実施例3-1から実施例3-12までを見ると、研磨の仕上げ番手が細かいほどインピーダンス比透磁率μrzが高くなり、このときの表面粗さと平面度とは良好である。
【0102】
その一方で、比較例3-1から比較例3-4までを見ると、表面粗さ(Ra、Rz)と平面度(FL)とが悪化し、インピーダンス比透磁率μrzが低下している。100kHzの25°CにおけるインピーダンスZ-25に対する、各測定温度のインピーダンスZの割合ΔZは、実施例3-1から実施例3-12までを見ると、85°Cでは80%以上を125°Cでは70%以上を維持し、高温でも安定した性能を維持していることが分かる。
【0103】
[実施例4]
実施例4の磁性コアは、
図3の磁性コア1Bを基本としている。実施例4は、磁性積層片(2B)を2つ使用することによって作製した。
【0104】
磁性積層片(2B)を作製するにあたってはまず始めに、薄帯部材(3)として、主成分が原子%で、Cu:1%、Nb:3%、Si:13.5%、B:9%であり、残部が実質的にFeからなる合金溶湯を単ロール法により急冷して、幅10mm厚さ20μmの薄帯状のFe基アモルファス合金を得た。
【0105】
次いで、上記Fe基アモルファス合金を、縦10mm、横110mm、幅10mm、長手方向端部R5mmの芯に巻回して、長手外径130mm、短手外径30mm、高さ10mmの扁平状巻回磁性体を作製した。これを芯材ごとアルゴン雰囲気下にて490°Cに保った熱処理炉に挿入し、10分間熱処理を施した。その後、扁平状巻回コアから芯材を取り除き、樹脂含浸から硬化までは実施例1と同様に行った。樹脂含浸後の扁平状磁性積層コアの切断も、実施例1と同様に行った。ただし、切断位置は、長手方向の中心位置で扁平状磁性積層コアを半割にすることによって、U字形状の積層磁性片(2B)を得た。U字形状の積層磁性片(2B)の研磨は、実施例1と同様に、積層磁性片(2B)の側面を研磨した。実施例4には、2つの磁性積層片(2B)を使用した。実施例4の磁性コアは、
図3のように、それぞれの磁性積層片(2B)の不連続部分(C)の中心位置がなす角度が180°になるように、当該磁性積層片(2B)の側面(研磨面)同士を当接させたのち、耐熱テープで固定することによって作製した。
【0106】
図3の磁性コア1Bは、特に、フラットケーブル、バスバー等の横幅方向に広い通電要素を挿入させることによって、ノイズ対策用コアとして使用することができる。磁性コア1Bによれば、縦幅方向(中心軸線Оに対して直交する2つの方向のうちの一方の方向)の寸法を縮小させつつ、横幅方向(中心軸線Оに対して直交する2つの方向のうちの他方の方向)に広い通電要素に適用することができる。加えて、磁性コア1Bによれば、互いに組み合わされた2つの磁性積層片2Bは、互いに長手部分8に沿って横幅方向に分けることができる。このため、磁性コア1Bによれば、当該磁性コア1Bを電力変換用のトランスとして使用する場合、2つの磁性積層片2Bが横方向に分かれるため、予め巻線しておいたコイルを挿入しやすくなる。その結果、磁性コア1Bによれば、ケーブルへの取り付け及び磁性コア1Bに対する巻線時の自動化が容易になり、作業性も向上する。
【0107】
ところで、
図5に示すような、従来の磁性コア10は、その使用中に高温となると、室温(常温)時と比べてインピーダンス及び透磁率が低下してしまい、期待した性能を発揮できないことがある。この原因の1つは、従来の磁性コア10は、薄帯部材3を巻回した環状の積層磁性体を二つ割りに切断し、当該切断面同士を当接させるためである。
【0108】
具体的には、磁性コア10が使用中に高温となる場合、磁性積層片20の切断面同士の当接状態は、熱による磁性積層片20の変形によって悪化する。この当接状態の悪化が、室温時と比べてインピーダンス及び透磁率を低下させる原因の1つとなる。
【0109】
これに対し、磁性コア1は、不連続部分Cを形成する2つの長手方向積層端面5と、2つの長手方向積層端面5の間に積層方向に湾曲させた湾曲部分6とを備えた、複数の磁性積層片2を備えており、これらの磁性積層片2は、互いの不連続部分Cが重ならないように、当該磁性積層片2の側面において、互いに当接している。
【0110】
長手方向積層端面5以外の表面、すなわち、磁性積層片2の側面は、長手方向積層端面5に比べて、温度変化による、面としての変形が小さい。
【0111】
その一方で、不連続部分Cを有する磁性積層片2は、従来と同様に、当該磁性積層片2単独では閉磁路を形成できない。しかしながら、複数の磁性積層片2のそれぞれを、互いの不連続部分Cが重ならないように、当該磁性積層片2の側面において当接させれば、磁性コア1全体としては閉磁路を形成することができる。その結果、磁性コア1は、従来と同様に、磁性コアとしての機能することができる。
【0112】
したがって、磁性コア1によれば、当該磁性コア1の側面同士を当接させることによって閉磁路を形成することで、高温時においても、インピーダンス及び透磁率が変化しにくい磁性コアを得ることができる。
【0113】
ところで、
図5の磁性コア10の場合、磁性積層片20の切断面同士を固定するために、金属バネ又は金属バンドなどを用いることによって、切断面同士に大きな荷重を加えることがある。しかしながら、こうした大きな荷重は、磁性積層片20の歪みの増加につながることから、好ましくない。また、磁性積層片20の温度を下げるために冷却機構を追加することも考えられる。しかしながら、冷却機構の追加は、磁性コアの構造を複雑する。また、冷却機構の追加は、磁性コア全体の体積・重量の増加、コストの増加につながる。このため、冷却機構の追加もまた、好ましくない。
【0114】
これに対し、磁性コアは、磁性積層片2に大きな荷重を加えることなく、インピーダンス及び透磁率が変化しにくい磁性コアを得ることができる。加えて、磁性コア1は、高温時においても、インピーダンス及び透磁率が変化しにくいため、冷却機構の追加も不要となる。
【0115】
また、磁性コア1は、従来の磁性コア10と同様に、複数に分割された磁性積層片2を備えることから、円環状の1つの磁性積層体を用いた場合に比べて、ケーブルへの取り付け及び磁性コアに対する巻線時の自動化が容易であり、良好な作業性も維持される。
【0116】
上述のように、本発明によれば、磁性積層片2に高透磁率の軟磁性薄帯部材3を用いることで、高いインピーダンス及び透磁率を有する磁性コアを得ることができ、かつ、磁性積層片2の一部に不連続部分Cがあるため、ケーブルへの取り付け及び磁性コアに対する巻線時の作業性に優れ、かつ高温環境となる場所でも安定して使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本磁性コアは、自動車、発電・電源設備、通信機器、OA/FA機器等の電子機器の電源ケーブルに装着され、これらの電子機器内で発生し、または、外部で発生してケーブル内を伝播するノイズを抑制するノイズ対策コア(ノイズフィルタ)として使用できる。また、磁性コアに導線を1次巻線することで、電子基板上に実装され、ノイズを抑制するコモンモードチョークコイルとして使用できる。さらに、磁性コアに導線を1次巻線、2次巻線することで、電力変換用のトランスとしても使用できる。
【0118】
上述したところは、本発明に係る、例示的な実施形態を示したにすぎず、特許請求の範囲に従えば、様々な変更が可能となる。例えば、各実施形態及び各実施例に用いられる構成(事項)は、互いに付加し、置き換えることができる。
【符号の説明】
【0119】
1:磁性コア, 1A:磁性コア(第1実施形態), 1B:磁性コア(第2実施形態),2:磁性積層片, 2A:磁性積層片(C字形状), 2B:磁性積層片(U字形状), 3:薄帯部材, 4:接着部, 5:長手方向積層端面, 6:半円状の湾曲部分, 7:円弧状の湾曲部分, 8:長手部分, 10:磁性コア(従来), 11:切断面, 20;磁性積層片(従来) F1:磁性積層片2の短手方向一方側側面(磁性積層片の側面), F2:磁性積層片2の短手方向他方側側面(磁性積層片の側面)
【手続補正書】
【提出日】2024-05-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁性積層片を備えており、前記複数の磁性積層片を組み合わせてなる磁性コアであって、
前記磁性積層片は、複数の軟磁性薄帯部材が接着部を介して積み重ねられることによってなり、かつ、
前記磁性積層片は、不連続部分を形成する2つの長手方向積層端面と、前記2つの長手方向積層端面のそれぞれに連なっているともに積層方向に湾曲させた湾曲部分とを備えており、
前記複数の磁性積層片は、隣り合う磁性積層片の前記不連続部分が重ならないように、短手方向に互いに当接させることによって、組み合わされており、さらに、
25°C、100kHzにおけるインピーダンス比透磁率が2000以上である、磁性コア。
【請求項2】
前記磁性積層片のそれぞれは、前記不連続部分を有する環形状の磁性積層片である、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項3】
前記磁性積層片のそれぞれは、前記不連続部分を有するU字形状の磁性積層片である、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項4】
前記薄帯部材として、鉄基ナノ結晶材及び鉄基アモルファス材のうちの、少なくとも1つ以上を用いた、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項5】
前記複数の磁性積層片のそれぞれの、互いに当接する当接面の算術平均粗さRa及び最大高さ粗さRzが、Ra≦0.7μm、及びRz≦10μmを満たす、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項6】
前記複数の磁性積層片のそれぞれの、互いに当接する当接面の平面度FLが、FL≦20μmを満たす、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項7】
前記複数の磁性積層片のうちの隣り合う当該磁性積層片のうちの一方における前記不連続部分の間の中心位置と、当該磁性積層片のうちの一方と隣り合う他方の磁性積層片における前記不連続部分の間の中心位置とがなす角度が90°以上270°以下である、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項8】
25°C、100kHzにおけるインピーダンスに対する、85°C、100kHzにおけるインピーダンスの割合ΔZ(25-85)100kが、80%以上である、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項9】
25°C、100kHzにおけるインピーダンスに対する、125°C、100kHzにおけるインピーダンスの割合ΔZ(25-125)100kが、70%以上である、請求項1に記載された磁性コア。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載された磁性コアを備える、ノイズフィルタ。