(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103423
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】バイオマスの半炭化処理によるバイオマス燃料の製造方法、および製造装置
(51)【国際特許分類】
C10L 5/44 20060101AFI20240725BHJP
H05B 6/80 20060101ALI20240725BHJP
H05B 6/74 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C10L5/44
H05B6/80
H05B6/74 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023016437
(22)【出願日】2023-01-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】522271812
【氏名又は名称】白川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】白川 裕之
【テーマコード(参考)】
3K090
4H015
【Fターム(参考)】
3K090AA01
3K090AB09
3K090BB01
4H015AA12
4H015AB01
4H015BA01
4H015BA08
4H015BB03
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】環境負荷が小さく、製造工程を省力化して設備を縮小でき、被加熱物を内部および外部から同時に加熱することによって均一に加熱されたバイオマス燃料を得られる方法および装置を提供する。
【解決手段】加熱炉にバイオマスを収納する工程と、前記加熱炉内にマイクロ波を照射する工程と、照射したマイクロ波により前記バイオマスを半炭化処理する処理工程と、を少なくとも含み、前記加熱炉の炉壁が、内側からマイクロ波透過層とマイクロ波反射層を備え、さらに前記マイクロ波透過層の内面の全部あるいは一部にマイクロ波吸収層を有することによって、前記処理工程において、マイクロ波照射による前記バイオマスの内部加熱と、マイクロ波照射に伴い発熱した前記マイクロ波吸収層からの伝熱による前記バイオマスの外部加熱を行い、バイオマスを内部と外部から同時に加熱することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスの半炭化処理によるバイオマス燃料の製造方法であって、
加熱炉にバイオマスを収納する工程と、
前記加熱炉内にマイクロ波を照射する工程と、
照射したマイクロ波により前記バイオマスを半炭化処理する処理工程と、を少なくとも含み、
前記加熱炉の炉壁が、内側からマイクロ波透過層とマイクロ波反射層を備え、さらに前記マイクロ波透過層の内面の全部あるいは一部にマイクロ波吸収層を有することによって、前記処理工程において、マイクロ波照射による前記バイオマスの内部加熱と、マイクロ波照射に伴い発熱した前記マイクロ波吸収層からの伝熱による前記バイオマスの外部加熱を行い、バイオマスを内部と外部から同時に加熱することを特徴とするバイオマス燃料の製造方法。
【請求項2】
前記処理工程において、前記加熱炉で発生する発生ガスを炉外へ排出し、前記発生ガスを木ガス、木タール、木酢液等に分離することを特徴とする請求項1に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項3】
前記木ガスを前記加熱炉へ供給することを特徴とする請求項2に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項4】
前記処理工程において、バイオマスの質量を測定し、半炭化処理の継続あるいは終了の判断を半炭化処理にともなう質量の減少率により管理することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項5】
バイオマスの半炭化処理によるバイオマス燃料の製造装置であって、
炉壁が、内側からマイクロ波透過層とマイクロ波反射層を備え、さらに前記マイクロ波透過層の内面の全部あるいは一部にマイクロ波吸収層を有する加熱炉と、
マイクロ波発振器と、
マイクロ波発振器から燃焼室へマイクロ波を供給する導波管と、を備えることを特徴とするバイオマス燃料の製造装置。
【請求項6】
前記加熱炉において、バイオマスから発生した発生ガスを炉外へ排出する排出装置と、
前記発生ガスを木ガス、木タール、木酢液等に分離する分離装置と、を備えること特徴とする請求項5に記載のバイオマス燃料の製造装置。
【請求項7】
前記木ガスを前記加熱炉へ供給する供給装置を備えること特徴とする請求項6に記載のバイオマス燃料の製造装置。
【請求項8】
前記加熱炉において、半炭化処理の継続あるいは終了の判断に必要な質量減少率を算出する質量測定器を備えることを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載のバイオマス燃料の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスの半炭化処理によるバイオマス燃料の製造方法、および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
広範に賦存するバイオマスを再生可能な優れたエネルギー源に変換する方法として半炭化技術(特許文献1を参照)が提案されており、特に木材を半炭化処理して製造したバイオマス燃料は、木材に比べて発熱量、疎水性、破砕性等が向上し、石炭火力発電所における石炭の代替燃料としての活用も期待されている。
【0003】
この技術が提案されて以降、半炭化処理のための加熱方法が種々提案されており、それらは大きく2つに分類される。1つは、被加熱物を外部から加熱する方法であって、燃焼排ガスによる加熱(例えば特許文献2)や、過熱水蒸気による加熱(例えば特許文献3)、ヒーターによる加熱(例えば特許文献4)などがある。もう1つは、被加熱物を内部から加熱する方法であって、マイクロ波による加熱(例えば特許文献5)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3837490号公報
【特許文献2】特許第5584647号公報
【特許文献3】特許第6124494号公報
【特許文献4】特許第6962695号公報
【特許文献5】特許第6344988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被加熱物を外部から加熱する方法では内部の加熱が難しいため特許文献2や特許文献3では乾燥処理が必要であり、特許文献4ではペレット状に成型するため粉砕処理が必要であり、工程が煩雑で設備が過剰になる課題がある。さらに、加熱のための熱源を得るにあたって燃料を燃焼する場合には製造過程で余計な二酸化炭素が発生するという課題がある。
【0006】
マイクロ波を利用して被加熱物を内部から加熱する場合には、水分子を加熱させることで乾燥処理の工程を省略できる利点があるが、被加熱物の表面部から周囲への損熱によって被加熱物の内側と外側との温度差が生じ加熱ムラの発生が課題である。また、特許文献5はペレット状に成形するため乾燥・粉砕工程や発熱材料としての粉炭の混入といった処理が必要であり工程が煩雑である。
【0007】
そこで、これまでの技術よりも、環境負荷が小さく、製造工程を省力化して設備を縮小でき、被加熱物を内部および外部から同時に加熱することによって均一に加熱されたバイオマス燃料を得られる方法および装置が求められている。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、バイオマスの半炭化処理によるバイオマス燃料の製造方法、および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るバイオマスの半炭化処理によるバイオマス燃料の製造方法は、加熱炉にバイオマスを収納する工程と、前記加熱炉内にマイクロ波を照射する工程と、照射したマイクロ波により前記バイオマスを半炭化処理する処理工程と、を少なくとも含み、前記加熱炉の炉壁が、内側からマイクロ波透過層とマイクロ波反射層を備え、さらに前記マイクロ波透過層の内面の全部あるいは一部にマイクロ波吸収層を有することによって、前記処理工程において、マイクロ波照射による前記バイオマスの内部加熱と、マイクロ波照射に伴い発熱した前記マイクロ波吸収層からの伝熱による前記バイオマスの外部加熱を行い、バイオマスを内部と外部から同時に加熱することを特徴とする。
【0010】
前記処理工程において、収納したバイオマスから加熱によって発生するガスは、冷却されると加熱炉内に固着する恐れがあるため、前記ガスを炉外へ排出することが好ましい。前記ガスは、木ガス、木タール、木酢液等の成分を含んでいるため、冷却等により分離することで、資源を有効利用することができる。
【0011】
前記木ガスは、加熱炉内へ供給することで前記処理工程に必要な加熱炉内の酸素欠乏雰囲気の形成に利用することができる。あるいは燃焼用ガスとして活用することもできる。
【0012】
前記処理工程における半炭化処理の継続あるいは終了の判断は、半炭化処理にともなう前記バイオマスの質量減少率により管理することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るバイオマスの半炭化処理によるバイオマス燃料の製造装置は、炉壁が、内側からマイクロ波透過層とマイクロ波反射層を備え、さらに前記マイクロ波透過層の内面の全部あるいは一部にマイクロ波吸収層を有する加熱炉と、マイクロ波発振器と、マイクロ波発振器から加熱炉へマイクロ波を供給する導波管と、を備えることを特徴とする。
【0014】
前記加熱炉において、収納したバイオマスから加熱によって発生するガスは、冷却されると加熱炉内に固着する恐れがあるため、炉外へ排出する排出装置を備えることが好ましい。
【0015】
前記ガスは、木ガス、木タール、木酢液等の成分を含んでいるため、冷却等により分離する分離装置を備えることが好ましい。
【0016】
前記木ガスは、半炭化処理を行う工程で必要な加熱炉内の酸素欠乏雰囲気の形成に利用するため、分離装置から加熱炉へ供給する供給装置を備えることが好ましい。
【0017】
前記加熱炉には、半炭化処理の継続あるいは終了を判断するために、半炭化処理にともなうバイオマスの質量減少率を測定する質量測定装置を備えることが好ましい。
【0018】
原料は、木質系のバイオマスが好ましく、未利用間伐材や製材工場等残材、あるいはバイオマス燃料を製造するために伐り出した木材などがある。
【0019】
マイクロ波の周波数は、産業用に解放され利便性に優れているISMバンドが好ましく、2.45±0.25GHzなどがある。
【0020】
マイクロ波吸収層は、吸収特性に優れ高温になる材料が好ましく、カーボンマイクロコイルや炭化ケイ素などがある。
【0021】
マイクロ波透過層は、透過性に優れるだけでなく、マイクロ波の吸収によって発熱し高温になったマイクロ波吸収層からマイクロ波反射層を保護するために融点が高く、熱伝導性が低い材質が好ましく、アルミナ・シリカ系断熱材などがある。
【0022】
マイクロ波反射層は、金属等の導体が好ましく、電子レンジに使用されるステンレス等がある。
【0023】
本発明で製造されるバイオマス燃料は貯蔵可能であるため、製造に使用するエネルギーは貯蔵することができない再生可能エネルギーを用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、環境負荷が小さく、製造工程を省力化して設備を縮小でき、被加熱物を内部および外部から同時に加熱することによって均一に加熱されたバイオマス燃料を得ることができる。また、太陽光発電は電力需要が増大する季節に発電効率が低下し、電力需要が低下する季節に発電効率が向上する傾向があるため、発電効率が向上する季節に本発明によるバイオマス燃料を製造しておき、電力需要が増大する季節にエネルギー源として利用することで、電力の需給バランスの調整と、製造過程での二酸化炭素の排出抑制が可能である。さらに、石炭火力発電所での石炭の代替燃料として利用する場合には、既存の石炭火力発電所の設備をそのまま活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るバイオマス燃料の製造装置(マルチモード)の構成を示す概念図
【
図2】本発明の第二実施形態に係るバイオマス燃料の製造装置(シングルモード)の構成を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0027】
[第一実施形態]
図1は、本発明に係るバイオマス燃料の製造装置(マルチモード)の構成を示す概念図である。
【0028】
製造装置100は、加熱炉10、マイクロ波発振器20、導波管30、排出装置40、排出管41,分離装置50、分離管51、供給装置60、供給管61,質量測定装置70から構成されている。
【0029】
加熱炉10は、炉壁が内側からマイクロ波吸収層11、マイクロ波透過層12、マイクロ波反射層13を備え、バイオマス1を収納し半炭化処理を行う空間が確保されている。また、バイオマス1が加熱炉底面に接触しないように底面にスペーサー15を設置する。
【0030】
半炭化処理前の準備として、加熱炉10にバイオマス1を収納し、半炭化処理に必要な低炭素雰囲気を形成するために、窒素等の不活性ガスあるいは前製造過程で発生した木ガス等を炉内に供給する。
【0031】
半炭化処理の継続あるいは終了を、半炭化処理にともなう質量の減少率で判定するため、処理前のバイオマス1の質量を質量測定装置70で測定する。
【0032】
準備完了後、マイクロ波発振器20から導波管30を経由して加熱炉10へマイクロ波を照射し、スターラーファン14でマイクロ波を撹拌しながら、バイオマス1とマイクロ波反射層13を加熱させてバイオマス1の半炭化処理を行う。
【0033】
半炭化処理で発生したガスは、排出装置40と排出管41で炉外へ排出する。
【0034】
排出したガスは、分離管51を経由して分離装置50へ送り、木ガス、木タール、木酢液等に分離し、資源の有効利用を図る。
【0035】
分離した木ガスは、炉内の低炭素雰囲気の形成のために供給装置60で供給管61を経由して炉内へ供給する。あるいは次の製造過程で利用する。
【0036】
マイクロ波の照射終了はバイオマスの質量減少率で管理するため、終了時の質量減少率を事前に設定しておき、設定した値になり次第、マイクロ波の照射を終了する。マイクロ波の照射終了後も、マイクロ波吸収層の余熱でバイオマス1の加熱を継続することもできる。
【0037】
バイオマス1が半炭化処理されたと判断される質量減少率は事前に設定しておき、設定した値になり次第、バイオマス燃料を加熱炉から取り出す。
【0038】
なお、加熱炉内のスペーサー15を車輪状に変更することで、バイオマス1を紙面直交方向へ送り出しすることも可能である。
【0039】
[第二実施形態]
図2は、本発明に係るバイオマス燃料の製造装置(シングルモード)の構成を示す概念図である。
【0040】
製造装置200は、加熱炉10、マイクロ波発振器20、導波管30、排出装置40、排出管41,分離装置50、分離管51、供給装置60、供給管61,質量測定装置70から構成されている。
【0041】
加熱炉10は、内側からマイクロ波吸収層11、マイクロ波透過層12、マイクロ波反射層13を有する炉壁と、アイリス16、可変短絡板17を備え、バイオマス1を収納し半炭化処理を行う空間が確保されている。また、バイオマス1が加熱炉底面に接触しないように底面にスペーサー15を設置する。
【0042】
導波管30は、アイソレータ、パワーモニター、整合器を接続するとよい。
【0043】
半炭化処理前の準備として、加熱炉10にバイオマス1を収納し、半炭化処理に必要な低炭素雰囲気を形成するために、窒素等の不活性ガスあるいは前製造過程で発生する木ガス等を炉内に供給する。
【0044】
また、半炭化処理の継続あるいは終了を、半炭化処理にともなう質量の減少率で判定するため、処理前のバイオマス1の質量を質量測定装置70で測定する。
【0045】
準備完了後、マイクロ波発振器20から導波管30を経由して加熱炉10へマイクロ波を照射し、バイオマス1とマイクロ波反射層13を加熱させてバイオマス1の半炭化処理を行う。
【0046】
半炭化処理で発生したガスは、排出装置40と排出管41で炉外へ排出する。
【0047】
排出したガスは、分離管51を経由して分離装置50へ送り、木ガス、木タール、木酢液等に分離し、資源の有効利用を図る。
【0048】
分離した木ガスは、炉内の低炭素雰囲気の形成のために供給装置60で供給管61を経由して炉内へ供給する。あるいは次の製造過程で利用する。
【0049】
マイクロ波の照射終了はバイオマスの質量減少率で管理するため終了時の質量減少率を事前に設定しておき、設定した値になり次第、マイクロ波の照射を終了する。マイクロ波の照射終了後も、マイクロ波吸収層の余熱でバイオマス1の加熱を継続することもできる。
【0050】
バイオマス1が半炭化処理されたと判断される質量減少率は事前に設定しておき、設定した値になり次第、バイオマス燃料を加熱炉から取り出す。
【0051】
なお、可変短絡板17はバイオマス1の収納扉とすることができ、加熱炉内のスペーサー15を車輪状に変更することで、バイオマス1を送り出しすることも可能である。
【実施例0052】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0053】
実施例では、市販されている杉の薪を小片にした試料(約36g)を用いて、試料の側面をマイクロ波吸収層で囲い、その外側からさらに側面と上・下面をマイクロ波透過層で囲ったものを、電子レンジに収納し、200Wで11分加熱した。
使用したものは以下の通りである。
マイクロ波吸収層:炭化ケイ素
マイクロ波透過層:アルミナファイバー
電子レンジ:YAMAZEN YRT-S177(W)5
【0054】
図3に、左から実施後の試料、マイクロ波吸収層とマイクロ波透過層を使用せずに電子レンジで200W11分加熱した試料、全く加熱していない試料の順に掲載する。写真の通り、マイクロ波吸収層とマイクロ波透過層を使用せずに電子レンジで200W11分加熱した試料は加熱ムラが生じている一方で、実施例では加熱が均一に促進されることを確認できた。