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特開2024-10344糖吸収阻害剤、および糖組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010344
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】糖吸収阻害剤、および糖組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 3/06 20060101AFI20240117BHJP
   A61K 36/20 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/702 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240117BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20240117BHJP
【FI】
C07H3/06 CSP
A61K36/20
A61K31/702
A61P43/00 111
A61P3/10
A23L33/125
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111632
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】595148981
【氏名又は名称】株式会社メープルファームズジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(72)【発明者】
【氏名】多賀 淳
【テーマコード(参考)】
4B018
4C057
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD31
4B018MD48
4B018ME01
4B018ME03
4B018MF04
4B018MF07
4C057BB04
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086EA01
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZC20
4C086ZC35
4C088AB12
4C088AC06
4C088BA06
4C088CA01
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZC20
4C088ZC35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】樹液中に含まれる糖のうち、優れた糖吸収阻害機能を有するものを提供する。
【解決手段】糖吸収阻害剤は、フルクトシルオリゴ糖誘導体を有効成分として含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造式で表される化合物(I)を有効成分として含有する糖吸収阻害剤。
【化1】
【請求項2】
カエデ科カエデ属樹木の樹液から得られた請求項1に記載の糖吸収阻害剤。
【請求項3】
上記カエデ科カエデ属樹木が、サトウカエデ、イタヤカエデ、クロカエデ、アメリカハナノキ、ギンカエデ、シロスジカエデ、アメリカヤマモミジ、およびノルウェーカエデからなる群より選択される少なくとも一種である請求項2に記載の糖吸収阻害剤。
【請求項4】
ショ糖及び果糖を含む混合物を加熱して、下記の構造式で表される化合物(I)を糖吸収阻害剤として含む糖組成物を生成する糖組成物の製造方法。
【化1】
【請求項5】
ショ糖及び果糖を含む混合物を120℃以上160℃以下の範囲内で加熱する請求項4に記載の糖組成物の製造方法。
【請求項6】
ショ糖及び果糖を含む混合物を20分間以上であって、当該混合物中のショ糖が完全に溶融される時間の範囲内で加熱する請求項5に記載の糖組成物の製造方法。
【請求項7】
ショ糖及び果糖を含む混合物を大気圧以上に加圧した状態で加熱する請求項4から6のいずれかに記載の糖組成物の製造方法。
【請求項8】
ショ糖及び果糖を含む混合物において、果糖よりショ糖の混合比を多くする請求項4から6のいずれかに記載の糖組成物の製造方法。
【請求項9】
ショ糖及び果糖を含む混合物において、ショ糖の結晶を最大長が300μm未満に微細化する請求項4から6のいずれかに記載の糖組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小腸における糖吸収を阻害する糖吸収阻害剤に関する。また、本発明は、糖組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α-グルコシダーゼは、小腸上皮上に局在する糖タンパク質プロセシング及びグリコーゲン分解に関与する糖類分解酵素である。α-グルコシダーゼを特異的に阻害するα-グルコシダーゼ阻害剤は、経口で摂取することにより糖質吸収を直接阻害することができる(特許文献1)。
【0003】
インベルターゼは、小腸壁に存在する消化酵素であって、ショ糖を加水分解する酵素である。ヒトが摂取し小腸に取り込まれたショ糖は、インベルターゼによりグルコース(ブドウ糖)及びフルクトース(果糖)に加水分解される。グルコース及びフルクトースは、小腸上皮細胞から血管へと吸収され、血管を通じて体内の各器官へ運ばれる。インベルターゼ阻害剤は、経口で摂取することによりショ糖およびその他フルクトシル糖の吸収を直接阻害することができる(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-51916号公報
【特許文献2】特開2016-153399号公報
【特許文献3】特開2021-31487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3には、カエデ科カエデ属樹木から得られた樹液に含まれる二糖にα-グルコシダーゼを阻害する機能があることが開示されている。しかし、樹液中には多くの糖が含まれており、その他の糖の機能性については開示されていない。
【0006】
本発明は、優れた糖吸収阻害機能を有するものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の構造の三糖類が、優れた糖吸収阻害機能を有することを見出し、これをさらに研究を重ねて本発明を完成した。すなわち、本発明は、下記の糖吸収阻害剤を提供する。
【0008】
下記の構造式で表される化合物を有効成分として含有する糖吸収阻害剤。
【化1】
【0009】
上記糖吸収阻害剤が、カエデ科カエデ属樹木の樹液から得られてもよい。
【0010】
上記カエデ科カエデ属樹木が、サトウカエデ、イタヤカエデ、クロカエデ、アメリカハナノキ、ギンカエデ、シロスジカエデ、アメリカヤマモミジ、およびノルウェーカエデからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0011】
また、化合物(I)を含む糖組成物は、ショ糖及び果糖を含む混合物を加熱して生成されてもよい。化合物(I)の収量を向上させる観点からは、ショ糖と果糖との混合比は、同等であることが好ましい。生成された糖組成物にショ糖を多く残存させて甘味料として使用するには、ショ糖と果糖との混合比は、果糖に対してショ糖が多いことが好ましく、例えば質量比で9:1~7:3の範囲内であり、更に好ましくは、8:2である。ショ糖の融点は、果糖の融点より高いので、ショ糖及び果糖の糖組成物が加熱されることにより、糖組成物において先に果糖が溶融する。これにより、溶融していない粉末状のショ糖の周囲に、溶融した液状の果糖が存在する状態となり、化合物(I)が生成されやすくなると推測される。
【0012】
ショ糖及び果糖を含む混合物の加熱は、例えば、オイルバスやオーブン、オートクレーブなどを用いて行う。加熱する温度範囲は、好ましくは、120℃以上160℃以下の範囲内であり、更に好ましくは120℃以上140℃以下の範囲内であり、特に好ましくは130℃である。加熱温度が低いと果糖が充分に溶融せずにショ糖と接触し難くなって化合物(I)の生成率が低下する。加熱温度が高いと、製造される糖組成物に着色が濃くなる。また、オートクレーブ等を用いて、ショ糖及び果糖を含む混合物を大気圧以上に加圧した状態で加熱してもよい。なお、ショ糖の周囲に溶融した果糖を接触させるために、加熱中において攪拌を行ってもよい。また、ショ糖を凍結乾燥したり細粉化したりして、表面積を大きくしてもよい。細粉化したショ糖は、外形の最大長が300μm未満であることが好ましく、更に好ましくは250μm以下であり、特に好ましくは200μm以下である。
【0013】
糖組成物における化合物(I)の収量を向上させる観点からは、加熱時間は、好ましくは、20分間以上であってショ糖が完全に溶融するまでの時間内であり、更に好ましくは40分間である。加熱時間が短いとショ糖と果糖とが充分に反応せずに化合物(I)の生成率が低下する。他方、生成された糖組成物が糖吸収阻害機能を有する甘味料として使用される観点からは、加熱時間が長くショ糖が完全に溶融すると、ショ糖のグルコシド結合が切断されて単糖類に変化するので、好ましくない。
【0014】
また、製造される糖組成物を甘味料としてそのまま使用する場合には、糖組成物は、少なくともショ糖及び化合物(I)を含む。糖組成物におけるショ糖、果糖、及び化合物(I)の比率は特に限定されないが、化合物(I)の収量を向上させる観点からは、すなわち糖組成物から化合物(I)を単離する目的からは、化合物(I)の比率ができるだけ大きいことことが好ましい。他方、糖組成物を甘味料としてそのまま使用し、糖組成物に含まれるショ糖の吸収に対して化合物(I)の機能を発揮させる観点からは、化合物(I)は、糖組成物に残存するショ糖に対して糖吸収阻害機能を発揮する範囲内で含まれることが好ましい。
【0015】
また、製造される糖組成物は、粉末や結晶体などの個体であっても、シロップなどの液状や液体であってもよい。また、製造される糖組成物は、そのまま甘味料として用いることも可能であるが、エキス状や粉末状として用いられてもよい。また、製造される糖組成物は、経口的に摂取するために、食品などに添加されてもよい。食品としては、例えば、飲料や菓子類、調理食品、調味料などが挙げられる。化合物(I)は、糖吸収阻害剤として機能し得る。
【0016】
製造される糖組成物に含まれるショ糖及び果糖は、例えば、ガスクロマトグラフィーや陰イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析できる。また、化合物(I)は、コロナ荷電化粒子検出高速液体クロマトグラフィー(HPLC-CAD)によって確認できる。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明に係る糖吸収阻害剤は、カエデ科カエデ属樹木の樹液から得られてもよい。また、本発明に係る糖吸収阻害剤は、前述されたように、ショ糖及び果糖を含む混合物を加熱することにより得らてもよい。樹液が取得されるカエデ科カエデ属樹木としては、サトウカエデ、イタヤカエデ、クロカエデ、アメリカハナノキ、ギンカエデ、シロスジカエデ、アメリカヤマモミジ、およびノルウェーカエデが好ましく、サトウカエデがさらに好ましい。サトウカエデの樹液は、カエデ科カエデ属樹木の樹液の中では特に品質もよく且つ大量に入手しやすい。
【0019】
樹液は、樹木からの採取時期に応じて、含有成分比、色、香り等が異なるが、いずれの時期に採取したものであっても用いることができる。樹液には、保存料が含有されてもよい。保存料としては、1,3-ブタンジオール( 1,3-buthanediol)、4‐ヒドロキシ安息香酸メチル(methyl 4-hydroxybenzoate)等が挙げられる。カエデ科カエデ属樹木の樹液が、約40倍に加熱濃縮することによりメープルシロップが製造される。さらに、メープルシロップから水分を完全に除去することによりメープルシュガーが製造される。
【0020】
カエデ科カエデ属樹木の樹液の採取は既知の工程によって行われる。すなわち、カエデ科カエデ属樹木の幹に穴を開け、溢出する樹液(以下、「樹液」、「サップ」または「メープルサップ」と称する場合がある。)を採取して得られる。メープルシロップは、得られた樹液を濃縮したものである。樹液の濃縮方法としては任意の適切な方法が採用され得る。例えば、加熱濃縮や非加熱濃縮方法(減圧濃縮、凍結濃縮、膜濃縮等)や、それらの組み合わせにより濃縮される。
【0021】
メープルシロップ及びメープルシュガーの主成分はショ糖であり、他に、数パーセントのグルコースと、微量の単糖類及びオリゴ糖を含む。メープルシロップ及びメープルシュガーに含まれる主要な糖類、すなわちグルコース、フルクトース、スクロースは、例えば、ガスクロマトグラフィーや陰イオン交換クロマトグラフィーによって分析できる。また、メープルシロップ及びメープルシュガーに含まれる還元糖のうちアルドース類は、PMP(1-フェニル-3-メチル-5-ピラゾロン)誘導体化を行ったのちキャピラリー電気泳動によって分析できる。しかしながら、PMP誘導体化は還元末端にアルデヒド基を有しないフルクトシル糖を分析するには適さない。したがって、メープルシロップ及びメープルシュガーに含まれる希少な糖及び還元末端にアルデヒド基をもたない糖は未だ十分に研究されていなかった。
【0022】
本発明者らは、予め限外ろ過により高分子画分の除去を行ったメープルシロップ又はメープルシュガーをHPLC-CADにより分析し、単離されたフルクトシルオリゴ糖の中に糖吸収阻害を有する糖類、すなわち本発明に係る化合物(I)を見出した。
【0023】
単離されたフルクトシルオリゴ糖の構造を確認するために、核磁気共鳴(NMR)装置により構造を解析した。NMRシグナルであるスペクトルデータを図2に示す。これらのケミカルシフトから、精製されたフルクトシルオリゴ糖(化合物(I))の構造は、以下のとおりであった。
【化1】
【0024】
上記化合物(I)は、そのまま糖吸収阻害剤として用いることが可能であるが、適宜濃縮又は溶媒を除去して、エキス状や粉末状として用いることもできる。上記化合物(I)は、具体的には、糖尿病、肥満等の治療剤または予防剤として有用である。化合物(I)は、人体または動物に対して、注射、経直腸、非経口投与、経口投与等のために製薬上許容しうる媒体とともに組成物として処方されてもよい。また、上記化合物(I)は、経口的に摂取するために、食品に添加されてもよい。食品としては、例えば、飲料や菓子類、調理食品、調味料などが挙げられる。また、上記化合物(I)は、スクロースなどの他の糖を含む糖組成物とされてもよい。糖組成物としては、例えば上記化合物(I)が添加された砂糖、甘味料、メープルシロップ、メープルシュガーなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る化合物は、優れた糖吸収阻害作用を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、化合物(I)の精製物の分析結果である。
図2図2は、精製した化合物(I)のNMR分析結果である。
図3図3は、化合物(I)によるインベルターゼ阻害結果である。
図4図4は、化合物(I)による消化酵素群阻害結果である。
図5図5は、メープルシロップを人口胃液と混合させた経過時間ごとの分析結果である。
図6図6(A)は、STZラットへスクロース単独及びスクロースと化合物(I)を経口同時投与したときの、血漿グルコース濃度の経時変化を示すグラフであり、図6(B)は、そのAUCを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[実施例]
以下、本発明が実施例を用いて詳細に説明されるが、本発明は下記の実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0028】
[α-グルコシダーゼ阻害]
以下、化合物(I)について糖吸収阻害の効果を評価した。
【0029】
[化合物(I)の精製]
化合物(I)は、カエデ科カエデ属樹木の樹液及びメープルシロップ(BASCOM MAPLE FARMS INC.:以下、単に「樹液等」とも称する。)から得た。具体的には、樹液等を10kDaフィルター(ミリポア株式会社製)で限外濾過して高分子量画分を除去し、得られた濾液を更に分子量分画するためにゲル濾過した。長さ1000mm×内径25mmのセファデックスG-15(バイオラッド社製)を用いて水を移動相としてゲル濾過を行い、得られた画分を、長さ250mm×内径10mmのNH2P-50 10Eカラム(昭和電工社製)を用いて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した。分析装置として島津製作所社製LC-10ADpump及びDGU-12Aを用い、検出器にThermo Fisher Scientific社製のCorona Veo detectorを用いた。分析カラムに長さ250mm×内径4.6mmのAsahipak NH2P-% 4E columnを用いた。移動相に水及びアセトニトリルを用いて、0-10分間で75%のアセトニトリルのアイソクラティック溶出を行い、続いて10-30分間でアセトニトリルのグラジエント溶出を流速1mL/minで行った。カラム温度は室温で、試料注入量20μLで行った。その結果、図1に示されるように純度95%以上のオリゴ糖が得られた。
【0030】
[化合物(I)の構造解析]
800MHz及び200MHzのJNM-ECA800装置を用いてオリゴ糖の構造解析を行い、H及び13C-NMRを得た。図2に示されるケミカルシフトはδスケール(ppm)で示され、カップリング定数J,H,HはHzで示される。図2のスペクトルデータから、化合物(I)はネオケストースと呼ばれる三糖であると解される。
【0031】
[化合物(I)の酵素阻害性]
pH4.5の100mmol/L酢酸アンモニウム緩衝液に2U/mLインベルターゼを加えた酵素溶液50μL、スクロース20mg/mL水溶液50μL、化合物(I)1,10,100μgを混合して、37℃で30分間インキュベートした後、10μLの反応混合物を沸騰水浴中で10分間加熱して酵素を失活させ蒸発乾固させた後、400μLにメスアップして10kDaで限外ろ過した、その後、全量を蒸発乾燥して、1mLの75%アセトニトリルで100μg/mLに再溶解した。阻害剤を添加せずに同条件で酵素反応を行ったものをブランクとした。化合物(I)の阻害率は、以下の式を用いて計算した。その結果を図3に示す。
阻害率(%)=[D1-(D2-D3)/1]×100 ・・・(式1)
D1:ブランク試料のグルコースピーク面積
D2:酵素反応後の各試料のグルコースピーク面積
D3:阻害剤に不純物として含まれるグルコースピーク面積
化合物(I)を100μg添加してもインベルターゼに対する阻害率は10.0%であった、
【0032】
pH6.0の100mmol/L酢酸アンモニウム緩衝液にラット肝パウダーの混合酵素を10mg/mLとなるように加えた酵素溶液50μL、スクロース20mg/mL、マルトース20mg/mL、イソマルトース20mg/mLの水溶液50μL、化合物(I)100μgを混合して、37℃で30分間インキュベートした後、前述と同様に分析して阻害率を計算した。その結果を図4に示す。各酵素に対する阻害率は見られなかった。
【0033】
[化合物(I)の胃酸消化]
ペプシンを省いた人口胃液を調製した。80mg/mLメープルシロップ水溶液2.5mLに同容の人口胃液を加えて、37℃で240分間インキュベートした。各インキュベート時間におけるメープルシロップをHPLCにより分析した。その結果を図5に示す。化合物(I)のピークが時間が進行するにつれて低くなり、化合物(II)のピークが時間が進行するにつれて高くなっていることが確認された。化合物(I)は、スクロースのグルコースの6位の炭素にフルクトースの2位の炭素がグリコシド結合した構造であるが、スクロースにおけるグルコースとフルクトースとの結合が人口胃液で切断されて、グルコースの6位の炭素にフルクトースの2位の炭素がβ-グリコシド結合した化合物(II)が生成されたものと推測される。
【化2】
【0034】
[ショ糖を用いた経口ブドウ糖負荷試験(OGTテスト)]
化合物(I)を用いてWistar系ラットをSTZによりI型糖尿病を発症させて糖負荷実験を行った。なお、14時間絶食後に糖負荷を行い、これらのラット尾静脈から採血した血液の各種検査を行った。
【0035】
スクロース750mg/mlの水溶液(以下、「A液」とも称する。)と、スクロース750mg/mlおよび化合物(I)5.5464mg/mlを含む水溶液(以下、「B液」とも称する。)とを調製した。ラットの体重に対してスクロースが1.5g/kgとなる量のA液を7匹に経口投与した。同様に、B液を15匹に経口投与した。投与後30分、60分、90分、120分、180分においてラットの尾静脈から採血を行い、遠心分離して血漿を得た。得られた血漿について、グルコースを定量した。その結果を図6に示す。グルコース値の上昇は、化合物(I)が投与されたラットが、化合物(I)が投与されなかったラットよりも有意に低かった。
【0036】
[加熱縮合による化合物(I)の製造]
表1に示す割合の全量が0.2gのショ糖及び果糖を栓付きの遠心分離管に入れ、オイルバスを用いて表1に示す温度及び時間で加熱して実施例1~10とした。また、表2及び表3に示す割合の全量が20gのショ糖及び果糖をポリプロピレン製の栓付き広口瓶に入れ、オートクレーブ(TOMY BS-325、168.9kPa)を用いて、表2及び表3に示す温度及び時間で加熱して実施例11~25とした。また、表3に示す割合の全量が20gのショ糖及び果糖のうち、ショ糖を粉砕または凍結乾燥したもの、更に粉砕したショ糖を表3に示す大きさ(μm)のふるいにかけたものをポリプロピレン製の栓付き広口瓶に入れ、オートクレーブ(TOMY BS-325、168.9kPa)を用いて、表3に示す温度及び時間で加熱して実施例26~31とした。
【0037】
HPLCの結果から確認できる全ピークの面積の合計に対する化合物(I)のピーク面積を、相対面積比(%)として算出した。その結果を表1から表3に示す。各実施例における化合物(I)の濃度は、HPLCに用いた試料のピーク面積から下記の検量線を用いて求めた濃度を50倍して算出した。
【0038】
[検量線の作成]
化合物(I)の標準品が入入できないため、ショ糖の検量線を使用した。ショ糖を脱イオン水に溶解した水溶液を脱イオン水で500μg/mL、100μg/m L、50μg/m L、10μg/m L、5μg/m L、1μg/m L、0.5μg/m Lに段階希釈したものを標準溶液とした。各標準液20μLをHPLCで測定し、標準溶液濃度に対するピーク面積から得られた回帰二次曲線を検量線とした。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
[評価]
表1に示されるように、実施例1~10において化合物(I)の生成が確認された。また、加熱温度が120~140℃の範囲である実施例1~3において化合物(I)の生成量が多くなる傾向にあり、特に、加熱温度が130,140℃において化合物(I)の生成量が多かった。他方、加熱温度が150℃である実施例4、及び加熱温度が160℃である実施例5では、実施例1よりも化合物(I)の生成量が少なくなる傾向であった。このことから、化合物(I)の収率を向上させる観点からは、加熱温度は130℃から140℃の範囲内が好適であると考えられる。また、加熱時間が360分間である実施例6、及び加熱時間が105分間である実施例7は、いずれも同じ加熱温度で加熱時間が60分間の実施例2、3よりも化合物(I)の生成量が少なくなる傾向にあった。ショ糖と果糖との混合比は、9:1~7:3の範囲内である実施例8~10で、他の条件が同等である実施例2と同程度の化合物(I)の生成が確認され、特に混合比が8:2の実施例9において化合物(I)の生成量が多かった。
【0043】
オートクレーブを用いて、加熱において大気圧より加圧し、さらに全量を20gとしてショ糖と果糖との混合比を10:10~18:2の範囲内とした実施例11~15では、加圧していない実施例2と同じ加熱温度であって短い加熱時間であるが、化合物(I)の生成量が全量の比率以上に多くなった。特に、ショ糖と果糖との混合比が16:4である実施例14において化合物(I)の生成量が多かった。また、ショ糖と果糖との混合比を16:4として、加熱時間を40分間から240分間とした実施例16から20では、加熱時間が長くなるほど化合物(I)の生成量が少なくなる傾向にあった。ショ糖と果糖との混合比を18:2として、加熱時間を40分間から240分間とした実施例21から25でも、加熱時間が長くなるほど化合物(I)の生成量が少なくなる傾向にあった。
【0044】
ショ糖を粉砕した実施例26、及びショ糖を凍結乾燥した実施例27では、その他の条件が同じ実施例14よりも化合物(I)の生成量が多かった。さらに、粉砕したショ糖をふるいにかけることにより、ショ糖粒子の外形の最大長を、>300μm、250~300μm、150~250μm、100~150μmとした実施例28~31では、ショ糖の大きさが小さくなるほど、化合物(I)の生成量が多くなる傾向にあった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6