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特開2024-103454情報処理装置の動作方法、情報処理装置、及びプログラム
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  • 特開-情報処理装置の動作方法、情報処理装置、及びプログラム 図1
  • 特開-情報処理装置の動作方法、情報処理装置、及びプログラム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103454
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】情報処理装置の動作方法、情報処理装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 99/00 20190101AFI20240725BHJP
【FI】
G06N99/00 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023222809
(22)【出願日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2023007689
(32)【優先日】2023-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 隆慶
(72)【発明者】
【氏名】帯金 駿
(72)【発明者】
【氏名】吉川 健太郎
(57)【要約】
【課題】多成分組成物の設計における処理効率向上を可能にする。
【解決手段】情報処理装置の動作方法は、化粧料の複数の原料それぞれの特性値の情報を演算装置に取得させる第1の工程と、各原料に所定の配合比率を対応付けるか否かを決定する二値の決定変数の値を、前記所定の配合比率が対応付けられる前記原料の前記特性値と目標との差分を含む目的関数の二次制約なし二値最適化により決定する第2の工程が、前記演算装置にて実行され、決定された前記決定変数に対応する前記原料の第1の係数を所定のステップ幅で変化させて目標に近似する第2の係数を導出する第3の工程と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置の動作方法であって、
化粧料の複数の原料それぞれの特性値の情報を演算装置に取得させる第1の工程と、
各原料に所定の配合比率を対応付けるか否かを決定する二値の決定変数の値を、前記所定の配合比率が対応付けられる前記原料の前記特性値と目標との差分を含む目的関数の二次制約なし二値最適化により決定する第2の工程が、前記演算装置にて実行され、決定された前記決定変数に対応する前記原料の第1の係数を所定のステップ幅で変化させて目標に近似する第2の係数を導出する第3の工程と、
を有する
動作方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2の工程を実行する回数を取得する工程をさらに有し、
前記第2の工程が前記回数実行されて得られる複数の前記第2の係数に関する情報を出力する第4の工程をさらに有する、
動作方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記第4の工程では、前記複数の第2の係数に対応する特性値の前記目標に近似する順序の情報が出力される、
動作方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記所定のステップ幅は、前記配合比率に対応するステップ幅の最小値より小さい、
動作方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記第3の工程では、前記第1の係数が上限値を超えないように変化させられる、
動作方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記特性値は溶解度パラメータである、
動作方法。
【請求項7】
演算装置と通信する通信部と、
制御部とを有し、
前記制御部は、化粧料の複数の原料それぞれの特性値の情報を前記演算装置に取得させ、各原料に所定の配合比率を対応付けるか否かを決定する二値の決定変数の値を、前記所定の配合比率が対応付けられる前記原料の前記特性値と目標との差分を含む目的関数の二次制約なし二値最適化により決定されると、決定された前記決定変数に対応する前記原料の第1の係数を所定のステップ幅で変化させて目標に近似する第2の係数を導出する、
情報処理装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記制御部は、前記決定変数の値の決定のための工程を実行する回数を取得し、当該工程が前記回数実行されて得られる複数の前記第2の係数に関する情報を出力する、
情報処理装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記制御部は、前記複数の第2の係数に対応する特性値の前記目標に近似する順序の情報を更に出力する、
情報処理装置。
【請求項10】
請求項7において、
前記所定のステップ幅は、前記配合比率に対応するステップ幅の最小値より小さい、
情報処理装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記制御部は、前記第1の係数が上限値を超えないように変化させる、
情報処理装置。
【請求項12】
請求項7において、
前記特性値は溶解度パラメータである、
情報処理装置。
【請求項13】
情報処理装置により実行されることにより、当該情報処理装置が、
化粧料の複数の原料それぞれの特性値の情報を演算装置に取得させる第1の工程と、
各原料に所定の配合比率を対応付けるか否かを決定する二値の決定変数の値を、前記所定の配合比率が対応付けられる前記原料の前記特性値と目標との差分を含む目的関数の二次制約なし二値最適化により決定する第2の工程が、前記演算装置にて実行され、決定された前記決定変数に対応する前記原料の第1の係数を所定のステップ幅で変化させて目標に近似する第2の係数を導出する第3の工程と、
を実行する、
プログラム。
【請求項14】
請求項13において、
前記第2の工程を実行する回数を取得する工程と、
前記第2の工程が前記回数実行されて得られる複数の前記第2の係数に関する情報を出力する第4の工程とを、
さらに前記情報処理装置に実行させる、プログラム。
【請求項15】
請求項14において、
前記第4の工程では、前記複数の第2の係数に対応する特性値の前記目標に近似する順序の情報が出力される、
プログラム。
【請求項16】
請求項13において、
前記所定のステップ幅は、前記配合比率に対応するステップ幅の最小値より小さい、
プログラム。
【請求項17】
請求項16において、
前記第3の工程では、前記第1の係数が上限値を超えないように変化させられる、
プログラム。
【請求項18】
請求項13において、
前記特性値は溶解度パラメータである、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置の動作方法、情報処理装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料などの多成分組成物の原料の種類及び配合比率を設計する際、原料の組合せは多岐に亘り、その中から所望の組合せを特定するためには膨大な情報処理が必要となる。かかる組合せの最適化を支援する技術が種々提案されている。例えば特許文献1には、離散二値によって定義される目的関数の最適化問題を、量子アニーリングマシンを用いて解く技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-117977号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多成分組成物の設計のための情報処理に量子アニーリング等を用いる場合、処理効率の改善の余地がある。
【0005】
上記に鑑み、以下では、多成分組成物の設計における処理効率向上を可能にする、情報処理装置の動作方法等を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本開示における情報処理装置の動作方法は、化粧料の複数の原料それぞれの特性値の情報を演算装置に取得させる第1の工程と、各原料に所定の配合比率を対応付けるか否かを決定する二値の決定変数の値を、前記所定の配合比率が対応付けられる前記原料の前記特性値と目標との差分を含む目的関数の二次制約なし二値最適化により決定する第2の工程が、前記演算装置にて実行され、決定された前記決定変数に対応する前記原料の第1の係数を所定のステップ幅で変化させて目標に近似する第2の係数を導出する第3の工程と、を有する。
【0007】
また、本開示における情報処理装置は、演算装置と通信する通信部と、制御部とを有し、前記制御部は、化粧料の複数の原料それぞれの特性値の情報を前記演算装置に取得させ、各原料に所定の配合比率を対応付けるか否かを決定する二値の決定変数の値を、前記所定の配合比率が対応付けられる前記原料の前記特性値と目標との差分を含む目的関数の二次制約なし二値最適化により決定されると、決定された前記決定変数に対応する前記原料の第1の係数を所定のステップ幅で変化させて目標に近似する第2の係数を導出する。
【0008】
さらに、本開示におけるプログラムは、情報処理装置により実行されることにより、当該情報処理装置が、化粧料の複数の原料それぞれの特性値の情報を演算装置に取得させる第1の工程と、各原料に所定の配合比率を対応付けるか否かを決定する二値の決定変数の値を、前記所定の配合比率が対応付けられる前記原料の前記特性値と目標との差分を含む目的関数の二次制約なし二値最適化により決定する第2の工程が、前記演算装置にて実行され、決定された前記決定変数に対応する前記原料の第1の係数を所定のステップ幅で変化させて目標に近似する第2の係数を導出する第3の工程とを実行する。
【発明の効果】
【0009】
本開示における情報処理装置の動作方法等によれば、多成分組成物の設計における処理効率向上が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】情報処理システムの構成例を示す図である。
図2】情報処理システムの動作手順例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
[システム概要]
図1は、本発明の一実施形態の構成例を示す図である。情報処理システム1は、ネットワーク11を介して互いに情報通信可能に接続される演算装置10と端末装置12とを有する。ここで、端末装置12が本実施形態における「情報処理装置」に対応する。情報処理システム1では、演算装置10と端末装置12が協働して多成分組成物の設計に関する情報処理を行う。演算装置10は、例えば、量子アニーリングマシン又はデジタルアニーリングマシンを含む一以上のコンピュータである。演算装置10が単一のコンピュータであってもよいし、本実施形態における動作を連係して実行しクラウドサービスを提供する複数のコンピュータであってもよい。端末装置12は、例えば、一以上のパーソナルコンピュータ、タブレット端末装置等の情報処理装置である。情報処理装置はスマートフォン等を含んでもよい。ネットワーク11は、例えば、LAN(Local Area Network)、インターネット、アドホックネットワーク、MAN(Metropolitan Area Network)、移動体通信網もしくは他のネットワーク又はこれらいずれかの組合せである。
【0013】
端末装置12は、オペレータが特定する多成分組成物の原料に関する情報を演算装置10へ渡し、多成分組成物の設計のための演算処理を演算装置10に実行させる。また、端末装置12は、演算装置10による演算結果を受け、更なる情報処理を実行して、情報処理の結果をオペレータに向けて出力する。ここで、多成分組成物とは、二以上の原料から構成される組成物である。多成分組成物は、例えば、化粧料、皮膚外用剤、医薬品、食品、塗料、洗剤等の用途が挙げられる。多成分組成物は、前記用途の製剤だけでなく、前記用途に用いる中間組成物、前処理物、仕掛品等を包含する。化粧料は、例えば化粧水、乳液、美容液、パック、オールインワンジェル、クリーム、ボディミルク、洗顔料、オイルクレンジング、クレンジングクリーム、クレンジングリキッド、日焼け止め、制汗剤等の基礎化粧料、シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアトリートメント、スタイリングウォーター、ヘアワックス、染毛剤、育毛剤等の頭髪用化粧料、マスカラ、リップグロス、口紅、アイシャドウ、アイライナー、ファンデーション、フェイスカラー、コンシーラー、化粧下地、メイクキープミスト等のメイクアップ化粧料等である。また、原料は、例えば粉体、水性成分、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、シリコーン油、炭化水素油、エーテル油、エステル油、グリセライド油、天然動植物油剤および半合成油剤、エモリエント剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、リン脂質、ゲル化剤及び増粘剤、褪色防止剤、酸化防止剤、消泡剤、美容成分(美白剤、細胞賦活剤、抗炎症剤、血行促進剤、皮膚収斂剤、抗脂漏剤等)、防腐剤、抗菌剤、香料、ビタミン類、アミノ酸類、核酸、ホルモン等である。
【0014】
本実施形態において、端末装置12は、化粧料の複数の原料それぞれの特性値の情報を演算装置10に取得させる工程を実行する。すると、演算装置10は、各原料に所定の配合比率を対応付けるか否かを決定する二値の決定変数の値を、所定の配合比率が対応付けられる原料の特性値と目標との差分を含む目的関数の二次制約なし二値最適化により決定する工程を実行する。そして、端末装置12は、決定された決定変数に対応する配合比率を所定のステップ幅で変化させて、特性値が目標により近似するような配合比率を導出する工程を実行する。
【0015】
かかる動作により、端末装置12は、所望の特性値を得るための原料候補の選定に係る膨大な情報処理を、量子アニーリングマシンを含む演算装置10に実行させ、その結果を用いて目標により近似する特性値が得られるような原料の配合比率を導出する。すなわち、探索すべき原料の対象を段階的に絞ることで、処理効率向上が可能になる。
【0016】
次いで、演算装置10及び端末装置12の構成について説明する。
【0017】
演算装置10は、通信部101、記憶部102、制御部103、及び演算部107を有する。これらの構成は、演算装置10が二以上のコンピュータで構成される場合には、二以上のコンピュータに適宜に配置される。
【0018】
通信部101は、一以上の通信用インタフェースを含む。通信用インタフェースは、例えば、LANインタフェースである。通信部101は、演算装置10の動作に用いられる情報を受信し、また演算装置10の動作によって得られる情報を送信する。演算装置10は、通信部101によりネットワーク11に接続され、ネットワーク11経由で端末装置12と情報通信を行う。
【0019】
記憶部102は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する一以上の半導体メモリ、一以上の磁気メモリ、一以上の光メモリ、又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせを含む。半導体メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)である。RAMは、例えば、SRAM(Static RAM)又はDRAM(Dynamic RAM)である。ROMは、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)である。記憶部102は、制御部103、演算部107の動作に用いられる情報と、制御部103、演算部107の動作によって得られた情報とを格納する。
【0020】
制御部103は、一以上のプロセッサ、一以上の専用回路、又はこれらの組み合わせを含む。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)などの汎用プロセッサ、又は、GPU(Graphics Processing Unit)等の特定の処理に特化した専用プロセッサを含む。専用回路は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を含む。
【0021】
演算部107は、例えば、量子アニーリング方式により組合せ最適化問題を解くためのQPU(Quantum Processing Unit)を含む。あるいは、演算部107は、半導体を用いたデジタルアニーリング方式により組合せ最適化問題を解くためのCPU、GPU、FPGA等を含んでもよい。
【0022】
演算装置10の機能は、制御部103のプロセッサが制御プログラムに従って演算部107を動作させることにより実現される。制御部103は、例えば、演算部107に対するパルス制御、演算結果の観測等を行う。制御プログラムは、プロセッサを制御部103として機能させるためのプログラムである。
【0023】
端末装置12は、通信部121、記憶部122、制御部123、入力部125及び出力部126を有する。
【0024】
通信部121は、有線又は無線LAN規格に対応する通信モジュール、LTE、4G、5G等の移動体通信規格に対応するモジュール等を有する。端末装置12は、通信部121により、近傍のルータ装置又は移動体通信の基地局を介してネットワーク11に接続され、ネットワーク11経由で演算装置10と情報通信を行う。
【0025】
記憶部122は一以上の半導体メモリ、一以上の磁気メモリ、一以上の光メモリ、又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせを含む。半導体メモリは、例えば、RAM又はROMである。RAMは、例えば、SRAM又はDRAMである。ROMは、例えば、EEPROMである。記憶部122は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部122は、制御部123の動作に用いられる情報と、制御部123の動作によって得られた情報とを格納する。
【0026】
制御部123は、例えば、CPU、MPU(Micro Processing Unit)等の一以上の汎用プロセッサ、又は特定の処理に特化したGPU等の一以上の専用プロセッサを有する。あるいは、制御部123は、一以上の、FPGA、ASIC等の専用回路を有してもよい。制御部123は、制御・処理プログラムに従って動作したり、あるいは、回路として実装された動作手順に従って動作したりすることで、端末装置12の動作を統括的に制御する。そして、制御部123は、通信部121を介して演算装置10等と各種情報を送受し、本実施形態にかかる動作を実行する。
【0027】
端末装置12の機能は、制御部123に含まれるプロセッサが制御プログラムを実行することにより実現される。制御プログラムは、プロセッサを制御部123として機能させるためのプログラムである。また、端末装置12の一部又は全ての機能が、制御部123に含まれる専用回路により実現されてもよい。また、制御プログラムは、制御部123に読取り可能な非一過性の記録・記憶媒体に格納され、制御部123が媒体から読み取ってもよい。
【0028】
入力部125は、一以上の入力用インタフェースを含む。入力用インタフェースは、例えば、物理キー、静電容量キー、ポインティングデバイス、およびディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーンを含む。また、入力用インタフェースは、音声入力を受け付けるマイクロフォン、及び撮像画像を取り込むカメラを含む。更に、入力用インタフェースは、画像コードをスキャンするスキャナ又はカメラ、ICカードリーダを含んでもよい。入力部125は、制御部123の動作に用いられる情報を入力する操作を受け付け、入力される情報を制御部123に送る。また、入力部125は、カメラによる撮像画像を制御部123に送る。
【0029】
出力部126は、一以上の出力用インタフェースを含む。出力用インタフェースは、例えば、ディスプレイ、及びスピーカを含む。ディスプレイは、例えば、LCD又は有機ELディスプレイである。出力部126は、制御部123の動作によって得られる情報を出力する。
【0030】
[情報処理装置の動作]
図2は、演算装置10と端末装置12が協働して行う動作例を説明するためのフローチャート図である。図2の手順は、例えば、オペレータによる端末装置12の入力部125への操作に応答して、端末装置12及び演算装置10の協働により実行される。端末装置12の制御部123と演算装置10の制御部103は、各種情報をそれぞれ通信部121、101により互いに送受する。
【0031】
ステップS20において、演算装置10の制御部103は、多成分組成物を得るための原料の探索条件を取得する。探索条件は、多成分組成物の特性値における目標値、原料候補情報、探索の試行回数を含む。目標値が設定される特性値は、例えば、溶解度パラメータがあり、溶解度パラメータのなかには、3次元のハンセン溶解度パラメータ(以下、HSP値という)がある。以下、HSP値を例に説明する。HSP値は、分散力項(δD)、双極子間力項(δP)、水素結合項(δH)である。HSP値は、原料のHSP値の各項を成分とするベクトルを規定したとき、複数の原料からなる組成物のHSP値のベクトルは、各原料のHSP値のベクトルの線形結合に対応するという性質を持つ。オペレータは、目標とするHSP値を示す項目δD、δP、δHの値を端末装置12に入力する。また、原料候補情報は、多成分組成物を得るための2以上の原料の種類と各原料のHSP値とを含む。原料候補情報は、端末装置12の記憶部112又は演算装置10の記憶部102に予め格納されており、演算装置10の制御部103にて取得される。オペレータが所望の原料候補の情報を端末装置12へ入力したり、端末装置12の出力部126により表示される原料候補のリストから所望の原料候補を選択したりしてもよい。
【0032】
ステップS21において、端末装置12の制御部123は、探索すべき原料数をランダムに設定する。原料数は、2以上の自然数である。原料数の情報は、通信部101から演算装置10へ送られ、演算装置10の制御部123が通信部121により原料数の情報を受ける。あるいは、演算装置10の制御部103が探索すべき原料数を設定してもよい。
【0033】
ステップS22において、演算装置10の制御部103は、演算部107にて二次制約なし二値最適化(QUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization))により求解するための、下記の式1のような目的関数Fを設定する。演算部107は、目的関数Fの値を最小化するための量子アニーリングを実行するように構成される。
【0034】
目的関数Fの第1項fは、目標値とするHSP値(δD, δP, δH)と原料候補の組合せによるHSP値(δD´, δP´, δH´)との差分に対応し、下記の式2のように規定される。
ここで、α、β、γは適宜設定される重みであって、例えば、それぞれ4、1、1である。
【0035】
また、目的関数Fの第1項fにおけるHSP値(δD´, δP´, δH´)は、下記の式3~式6のように規定される。
【0036】
【0037】
行列Xは、m(mは2以上の自然数)組の原料候補のHSP値(δDi、δPi、δHi)(i=1,2,3…,m)を要素とする行列である。
【0038】
行列Qの要素qij(i=1,2,…,n(nは2以上の自然数)、j=1,2,…,m)は0又は1であって、原料候補の所定の配合比率を対応付けるか否かを決定する二値の決定変数に対応する。よって、qijの値に応じて第1項fの値が変化する。
【0039】
行列Wの要素wi(i=1,2,…,n)は、0、0.1、0.2、0.3、…といった1未満で原材料がとり得る配合比率としての体積比率の値である。
【0040】
上記式2~式6により規定されるHSP値(δD´, δP´, δH´)は、行列Xに含まれる各原料候補のHSP値の線形結合として規定される。その場合、線形結合の係数は、行列Qの決定変数により特定される行列Wの要素(0、0.1、0.2、0.3、…)のいずれかが適用される。
【0041】
また、評価関数Fの第2項
は、各原料が必ず0を含む1つの配合比率を有することを制約する条件として機能する。ここで、μ1は任意のパラメータであり、例えば10である。
【0042】
また、評価関数Fの第3項
は、配合比率の和が1となることを制約する条件として機能する。ここで、μ2は任意のパラメータであり、例えば10である。
【0043】
さらに、評価関数Fの第4項
は、m種類の原料のうち、組合せの対象の数をステップS21で設定された探索される原料数L(L<m、Lは2以上の自然数)とすることを制約する条件として機能する。ここで、μ3は任意のパラメータであり、例えば10である。
【0044】
ステップS23において、演算装置10の制御部103は、演算部107に目的関数Fを求解させる。演算部107は、目的関数Fの値を最小化するような決定変数、つまり行列Qの要素qijを量子アニーリングにより導出する。導出された結果は、演算装置10から端末装置12へ送られる。ステップS22は、ステップS20で設定される試行回数分、実行される。
【0045】
ステップS24において、端末装置12の制御部123は、演算装置10から送られる試行毎の演算結果について局所探索を実行する。制御部123は、予め記憶部122に格納される原料毎の重量の情報を用いて、配合割合を重量割合に変換する。次いで、制御部103は試行毎の決定された決定変数に対応する線形結合の係数を局所探索用のステップ幅で変化させる。局所探索用のステップ幅は、行列Wの要素(0、0.1、0.2、0.3、…)の最小値に対応する重量割合より小さい、例えば、1~2重量パーセントの任意の値である。制御部123は、ユーザが入力する局所探索用のステップ幅を用いて局所探索を行ってもよい。制御部103は、係数を局所探索用のステップ幅で順次変化させ、HSP値が目標に最接近するときの係数を試行毎に決定する。このとき、制御部123は、各係数が予め原料毎に設定される上限を超えないように制御する。かかる上限は、予め原料候補情報に紐づけて記憶部112又は102に格納される。上限とは、例えば、化粧料としての多成分組成物の安全性を担保するためや、薬事規制、マーケティング戦略等の理由から任意に選ばれる原料毎の上限である。
【0046】
ステップS25において、制御部123は、探索結果を出力する。制御部123は、例えば、試行毎の原料の組合せ、特性値、及び各原料の重量割合を、目標に近い順にソートして出力部126に表示させる。これによりオペレータは、探索結果を確認することができる。
【0047】
本実施形態によれば、演算装置10が、探索すべき原料の組合せの膨大な情報処理を量子アニーリングにより実行することで、多成分組成物の設計における処理効率向上が可能になる。
【0048】
上述においては、3次元のHSP値を原料及び多成分組成物の特性値の例として説明した。しかしながら、HSP値は適宜次元の圧縮や拡張を行ってもよく、2次元あるいは4次元以上であってもよい。また、特性値は、HSP値に限られず、ヒルデブランドの溶解度パラメータδやフローリー・ハギンスのχパラメータ、有機性・無機性値など、多成分組成物の特性値が原料の特性値のベクトル成分の線形結合で表すことができれば、他の特性値であってもよい。
【0049】
上述の実施形態において、端末装置12の動作を規定する処理・制御プログラムは、ネットワーク11経由でサーバ装置等から端末装置12にダウンロードされてもよいし、コンピュータに読取り可能な非一過性の記録・記憶媒体に格納され、端末装置12が媒体から読み取ってもよい。
【0050】
上述において、実施形態を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段、ステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
10:演算装置
11:ネットワーク
12:端末装置
101、121:通信部
102、122:記憶部
103、123:制御部
107:演算部
125:入力部
126:出力部
図1
図2