(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103461
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】発泡用樹脂組成物、発泡シートの製造方法及び発泡用樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20240725BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CFD
B32B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005490
(22)【出願日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2023007405
(32)【優先日】2023-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田井 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】田積 皓平
【テーマコード(参考)】
4F074
4F100
【Fターム(参考)】
4F074AA66
4F074AB02
4F074AB03
4F074AB05
4F074BA32
4F074BB02
4F074BC12
4F074CA22
4F074DA02
4F074DA04
4F074DA08
4F074DA32
4F074DA33
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK41C
4F100AL05B
4F100BA03
4F100BA06
4F100DJ01B
4F100EH17
4F100EJ02
4F100GB16
4F100JA07B
4F100JK07B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】
脂肪族ポリエステル系樹脂を含みながらも見掛け密度の低いかつ低坪量の発泡製品を製造するのに適した発泡用樹脂組成物を提供し、ひいては、見掛け密度が低いかつ低坪量の発泡シートを製造容易にすること。
【解決手段】
1種類以上の脂肪族ポリエステル系樹脂を含み、発泡させて用いられる発泡用樹脂組成物であって、
JIS K 7210に規定の方法で測定される190℃におけるメルトマスフローレイト(MFR)が0.1g/10min以上5.0g/10min以下で、
レオメータと伸長粘度測定器とを用いて測定される190℃における溶融張力が30cN以上100cN以下であり、
クロロホルムを用いて測定されるゲル分率が40質量%以下である発泡用樹脂組成物、を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の脂肪族ポリエステル系樹脂を含み、発泡させて用いられる発泡用樹脂組成物であって、
JIS K 7210に規定の方法で測定される190℃におけるメルトマスフローレイト(MFR)が0.1g/10min以上5.0g/10min以下で、
レオメータと伸長粘度測定器とを用いて測定される190℃における溶融張力が30cN以上100cN以下であり、
クロロホルムを用いて測定されるゲル分率が40質量%以下である発泡用樹脂組成物。
【請求項2】
下記条件で動的粘弾性を測定して求められる貯蔵弾性率(G’)は、
横軸が周波数(Hz)、縦軸が貯蔵弾性率(G’)の両対数軸のグラフで表した際に、
周波数0.01Hzから0.1Hzまでの範囲において直線的に変化し、
前記グラフの周波数0.01Hzから0.1Hzまでの範囲を直線近似した際の該直線の傾きが0.35以上1.50以下である請求項1記載の発泡用樹脂組成物。
<測定条件>
歪み:5%
周波数:0.01~100(Hz)(低周波数(0.01Hz)から測定を開始)
測定点数:21(5点/桁)
測定温度:190℃
雰囲気ガス:窒素
【請求項3】
下記条件で動的粘弾性を測定して求められる複素粘度(η*)が、
周波数0.01Hzにおいて10000Pa・s以上150000Pa・s以下である請求項1記載の発泡用樹脂組成物。
<測定条件>
歪み:5%
周波数:0.01~100(Hz)(低周波数(0.01Hz)から測定を開始)
測定点数:21(5点/桁)
測定温度:190℃
雰囲気ガス:窒素
【請求項4】
前記脂肪族ポリエステル系樹脂は、ポリブチレンサクシネート及び/又はポリブチレンサクシネートアジペートである請求項1記載の発泡用樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪族ポリエステル系樹脂は、少なくとも一部が植物由来のポリブチレンサクシネート及び/又は少なくとも一部が植物由来のポリブチレンサクシネートアジペートである請求項1記載の発泡用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の発泡用樹脂組成物を押出発泡して発泡シートを製造する発泡シートの製造方法。
【請求項7】
1種類以上の脂肪族ポリエステル系樹脂を含み且つ発泡させて用いられる発泡用樹脂組成物を製造する発泡用樹脂組成物の製造方法であって、
前記脂肪族ポリエステル系樹脂100質量部に対して有機過酸化物を0.02~0.45質量部の割合で溶融混練し、クロロホルムを用いて測定されるゲル分率が40質量%以下の前記発泡用樹脂組成物を製造する発泡用樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
JIS K 7210に規定の方法で測定される前記脂肪族ポリエステル系樹脂のメルトマスフローレイト(MFR)が、8g/10min以上40g/10min以下である請求項7記載の発泡用樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記脂肪族ポリエステル系樹脂のZ平均分子量(Mz)が100000以上300000以下である請求項7記載の発泡用樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記脂肪族ポリエステル系樹脂は、ポリブチレンサクシネート及び/又はポリブチレンサクシネートアジペートである請求項7記載の発泡用樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記脂肪族ポリエステル系樹脂は、少なくとも一部が植物由来のポリブチレンサクシネート及び/又は少なくとも一部が植物由来のポリブチレンサクシネートアジペートである請求項7記載の発泡用樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡用樹脂組成物と、発泡シートの製造方法と、発泡用樹脂組成物の製造方法とに関し、より詳しくは、脂肪族ポリエステル系樹脂を含む発泡用樹脂組成物と、該発泡用樹脂組成物を用いた発泡シートの製造方法と、脂肪族ポリエステル系樹脂を含む発泡用樹脂組成物の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発泡状態の樹脂組成物で構成された発泡製品が広く用いられている。該発泡製品は、軽量でありながら強度に優れ、緩衝性や断熱性に優れる。この種の発泡製品としては、非発泡な樹脂シートや樹脂ビーズにアセトンやブタンなどの発泡剤を含浸させた後に加熱して発泡させることによって得られる発泡シートや発泡ビーズ、並びに、これらを成形型で3次元形状に加工するなどして作製される発泡成形体などが知られている。そして、発泡シートについては、発泡用の樹脂組成物と発泡剤とを押出機中で溶融混練し、得られた溶融混練物を押出機の先端に装着したシーティングダイ(フラットダイやサーキュラーダイ)よりシート状に押し出すとともに発泡させる方法(押出発泡法)で得られる押出発泡シートが知られている。
【0003】
この種の押出発泡シートは、シート状のままで緩衝シートとして利用されたり、袋状にされて包装材などに用いられたりしている。また、この種の押出発泡シートは、熱成形によって発泡成形体を作製するための原反シートとして用いられ、食品用トレーやカップなどの発泡成形体の構成部材としても広く用いられている。さらに、押出発泡シートは、そのもの自体で上記のような用途に用いられる以外にも片面又は両面にフィルム層(非発泡層)が積層された積層発泡シートの形態でも広く用いられている。
【0004】
ところで、近年、自然環境下で分解可能な生分解性の樹脂製品が求められており、発泡シートや発泡ビーズの原材料となる発泡用樹脂組成物として脂肪族ポリエステル系樹脂をベース樹脂とした樹脂組成物が用いられるようになってきている。発泡シートなどの発泡製品には緩衝性などの観点から低い見掛け密度を有することが求められるが脂肪族ポリエステル系樹脂は、一般的に発泡性に劣る。そのため、脂肪族ポリエステル系樹脂を含む発泡製品を作製する場合には、脂肪族ポリエステル系樹脂の分子構造中に架橋構造や長鎖分岐構造を持たせたり、高分子量化させたりして発泡適性を付与することが従来から検討されている。例えば、特許文献1には、脂肪族ポリエステル系樹脂を改質することが記載されており、下記特許文献2には、質量平均分子量15万~40万の生分解性ポリエステル系樹脂を含む発泡層を有する発泡シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-158613号公報
【特許文献2】特開2020-164686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脂肪族ポリエステル系樹脂を含む発泡シートやその成形品などの発泡製品については、緩衝性や省資源などの観点から軽量性に優れる(低密度かつ低坪量である)ことが求められている。しかしながら、脂肪族ポリエステル系樹脂を含む発泡製品については、低密度でありながら低坪量であるものを得る方法が十分に確立されておらず、上記のような要望は満たされるに至っていない。そこで、本発明は、脂肪族ポリエステル系樹脂を含みながらも見掛け密度の低いかつ低坪量の発泡製品を製造するのに適した発泡用樹脂組成物を提供し、ひいては、そのような発泡製品を製造容易にすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明は、
1種類以上の脂肪族ポリエステル系樹脂を含み、発泡させて用いられる発泡用樹脂組成物であって、
JIS K 7210に規定の方法で測定される190℃におけるメルトマスフローレイト(MFR)が0.1g/10min以上5.0g/10min以下で、
レオメータと伸長粘度測定器とを用いて測定される190℃における溶融張力が30cN以上100cN以下であり、
クロロホルムを用いて測定されるゲル分率が40質量%以下である発泡用樹脂組成物、を提供する。
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明は、
上記のような発泡用樹脂組成物を押出発泡して発泡シートを製造する発泡シートの製造方法、を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、
1種類以上の脂肪族ポリエステル系樹脂を含み且つ発泡させて用いられる発泡用樹脂組成物を製造する発泡用樹脂組成物の製造方法であって、
前記脂肪族ポリエステル系樹脂100質量部に対して有機過酸化物を0.02~0.45質量部の割合で溶融混練し、クロロホルムを用いて測定されるゲル分率が40質量%以下の前記発泡用樹脂組成物を製造する発泡用樹脂組成物の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脂肪族ポリエステル系樹脂を含みながらも見掛け密度の低いかつ低坪量の発泡製品を製造するのに適した発泡用樹脂組成物が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】厚さ方向に平行な平面で一実施形態の発泡シートを切断した際の断面の様子を示した概略断面図。
【
図2】厚さ方向に平行な平面で積層発泡シートを切断した際の断面を示した概略断面図。
【
図3】比較例1の発泡用樹脂組成物を用いて作製された発泡シートに対して示差走査熱量測定(DSC)を実施した結果(DSC曲線)を示す図。
【
図4】実施例1の発泡用樹脂組成物を用いて作製された発泡シートに対して示差走査熱量測定(DSC)を実施した結果(DSC曲線)を示す図。
【
図5】実施例1の発泡用樹脂組成物の動的粘弾性測定での周波数と貯蔵弾性率(G’)との関係を両対数軸のグラフで表して周波数0.01Hz~0.1Hzの範囲で直線近似した図。
【
図6】実施例1の発泡用樹脂組成物の複素粘度(η
*)の測定結果を示す図。
【
図7】比較例1の発泡用樹脂組成物の動的粘弾性測定での周波数と貯蔵弾性率(G’)との関係を両対数軸のグラフで表して周波数0.01Hz~0.1Hzの範囲で直線近似した図。
【
図8】比較例1の発泡用樹脂組成物の複素粘度(η
*)の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に発泡用樹脂組成物が発泡シートの形成に用いられる場合を例に本発明の一実施形態について説明する。そして、以下においては、
図1に示すように、発泡シート1が単一の発泡層10のみを備えた単層構造である場合を主たる例にして本発明の実施の形態について説明する。本実施形態の発泡シート1は、
図2に示すように発泡層10の片面又は両面に非発泡層20の積層された積層発泡シート2における発泡層10を構成するものであってもよい。また、以下においては、発泡シート1が押出発泡法によって得られた押出発泡シートである場合を例に本発明の実施の形態について説明するが、本実施形態の発泡用樹脂組成物は、押出発泡シートに限定されることなく、押出発泡シート以外の各種の発泡製品の原材料としても用いられ得る。
【0013】
本実施形態の発泡シート1や積層発泡シート2については、特にその用途が限定されるわけではないが、例えば、熱成形によって発泡成形体を作製する際の原反シートとして用いられ得る。また、発泡シート1や積層発泡シート2については、平坦なシート状のまま用いられてもよく、折箱、緩衝シート、包装袋、育苗シート、断熱材などの形成材料としても用いられ得る。本実施形態の発泡シート1や積層発泡シート2は、このような用途以外にも広く用いられ得る。本実施形態においては、発泡シート1(発泡層10)が低密度であることで、当該発泡シートが軽量性や緩衝性に優れるだけでなく、発泡成形体などの発泡製品に対しても優れた軽量性と緩衝性とを発揮させ得る。また、本実施形態においては、発泡シート1(発泡層10)が、耐熱変形性を有することから発泡製品に対しても耐熱変形性を発揮させることができ、発泡製品に対して高い寸法安定性を発揮させ得る。前記発泡成形体は、果物や野菜などの農産物及び化粧容器などの産業資材の包装・緩衝トレー、育苗トレー、食品容器、断熱材などに用いられ得る。
【0014】
本実施形態の発泡シート1は、ポリ乳酸(PLA)やポリブチレンサクシネート(PBS)などの脂肪族ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物(脂肪族ポリエステル系樹脂組成物)で構成されている。本実施形態の発泡シート1の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、0.5mm以上とすることができる。発泡シート1の厚さは、1mm以上であってもよく、1.5mm以上であってもよい。発泡シート1の厚さは、例えば、8mm以下とすることができる。発泡シート1の厚さは、6mm以下であってもよく、4mm以下であってもよい。
【0015】
本実施形態の発泡シート1が、積層発泡シート2の発泡層10を構成する場合、その表面に積層される非発泡層20の厚さは、例えば、1μm以上とすることができる。非発泡層20の厚さは、5μm以上であってもよく10μm以上であってもよい。非発泡層20の厚さは、例えば、500μm以下とすることができる。非発泡層20の厚さは、400μm以下であってもよく、300μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。積層発泡シート2が発泡層10の両面に非発泡層20を有する場合、発泡層10の一面側に積層された第1の非発泡層20(第1非発泡層21)と他面側に積層された第2の非発泡層20(第2非発泡層22)とのそれぞれは、同じ厚さを有する必要はなく、異なる厚さを有していてもよい。
【0016】
発泡シート1の厚さは、定圧厚み測定機、例えば、(株)尾崎製作所製「ピーコックデジタルリニアゲージ PDN25」を用いて測定することができる。具体的には、発泡シート1の厚さは、直径35.7mmの円形状の治具で100gの荷重を発泡シートにかけたときの厚さを定圧厚み測定機にて測定して求めることができる。尚、発泡シート1の厚さは、例えば、押出方向(MD)と直交する幅方向(TD)の両端20mmを除き、幅方向(TD)に5cmごとに10点以上測定し、その測定値の相加平均値として求めることができる。また、発泡シート1の幅が狭く10点分の測定箇所を確保出来ない場合には、可能な限りの測定点数を確保した上で全ての測定値の相加平均値を発泡シート1の厚さとすることができる。
【0017】
積層発泡シート2での非発泡層20の厚さは、非発泡層20の断面(発泡シート1の平面方向に直交する平面での断面)の顕微鏡写真を撮影し、該写真において無作為に選択した複数箇所(例えば、10箇所)において非発泡層20の厚さを測定して得られた測定値の相加平均値を計算することで求めることができる。発泡層10の厚さは発泡シート1の厚さから非発泡層20の厚さを減じることで求めることができる。
【0018】
本実施形態の発泡シート1(発泡層10)は、見掛け密度が30kg/m3以上である。発泡製品に高い強度を発揮させる上において見掛け密度は一定以上である方が有利である。見掛け密度は、40kg/m3以上であってもよく、50kg/m3以上であってもよい。一方で軽量性と緩衝性とをより確実に発揮させる上において見掛け密度は一定以下であることが望ましい。本実施形態の発泡シート1(発泡層10)の見掛け密度は、100kg/m3以下である。見掛け密度は、90kg/m3以下であってもよく、80kg/m3以下であってもよい。
【0019】
見掛け密度(kg/m3)は、単位面積当たりの発泡シート1(発泡層10)の質量(坪量:g/m2)を発泡シート1(発泡層10)の厚さ(mm)で除して求めることができる。坪量は、発泡シートから切り出した複数の試料について測定した値を相加平均して求めることができる。発泡シートの坪量は、発泡シート1の幅方向(TD)の両端20mmを除き、幅方向に等間隔に、10cm×10cmの切片6個を切り出し、各切片の質量(g)を測定して求めることができる。坪量は、各切片の質量(g)の平均値を1m2当たりの質量に換算して求めることができる。
見掛け密度(kg/m3)=坪量(g/m2)÷厚さ(mm)
積層発泡シート2での発泡層10の見掛け密度は、全体の見掛け密度と非発泡層20の密度とを測定して算出することができる。非発泡層20の密度は水中置換法(アルキメデス法)などによって求めることができる。
【0020】
本実施形態の発泡シート1(発泡層10)は、クロロホルムを用いて測定されるゲル分率が25質量%以下である。発泡シート1(発泡層10)を構成している樹脂組成物は、ゲル分率が低いことで押出発泡時において良好な発泡性と熱成形性を示し、上記のような好ましい見掛け密度の発泡シート1(発泡層10)や発泡成形体を作製するのを容易にする。ゲル分率は、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよい。ゲル分率は、例えば、0.1質量%以上であってもよく、0.2質量%以上であってもよく、0.3質量%以上であってもよい。
【0021】
ゲル分率は、発泡シート1(発泡層10)から約0.5gの試料を複数個(例えば、5個)採取して、それぞれの試料でのゲル分率を相加平均して求めることができる。試料のゲル分率は、例えば、次の手順で測定することができる。
・試料の初期質量(Mo)を精秤する。
・試料を溶解させた溶解液をろ過するための80メッシュ金網(線径φ0.12mm)を用意し、この金網の初期の質量(Ms)も精秤する。
・ビーカー(容量:100cc)に試料とクロロホルム50ccとスターラーバーとを入れ、アルミニウム箔で蓋をし、スターラーにセットして2時間攪拌を行い、常温にて試料を溶解させる。
・2時間後、蓋を外し、ビーカー内の溶解物を前記金網でろ過し、樹脂不溶物を前記金網上に採取する。
・樹脂不溶物をろ過後の金網ごとドラフトチャンバー内で自然乾燥させクロロホルムを蒸発させる。
・樹脂不溶物をろ過後の金網ごと恒温乾燥器を使って120℃の温度で2時間乾燥し、乾燥後はデシケーター内で放冷させる。
・放冷後の樹脂不溶物と金網との合計質量(Mx)を測定する。
・下記式によりゲル分率(質量%)を計算する。
ゲル分率(質量%)=(Mx-Ms)/Mo×100
【0022】
本実施形態の発泡シート1(発泡層10)は、加熱速度10℃/分での熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)によって求められる1回目の昇温過程で観察される発熱量が5.0J/g以下である。熱流束示差走査熱量測定で観察される発熱量とは、脂肪族ポリエステル系樹脂の結晶化に伴って発生する熱量であり、通常、DSC曲線において65℃~130℃の間に頂点を有する発熱ピークとなって観察される。
【0023】
ポリエステル系樹脂は、結晶性樹脂の中でもポリオレフィン系樹脂などと比べると比較的結晶化速度が遅いことが知られている。発泡シート1(発泡層10)が十分に結晶化していない状態であると、高温の保管環境下では、反り・うねりなどを伴う形状変化が起きて寸法精度が損なわれかねない。また、発泡シート1(発泡層10)に結晶化が可能な状態で脂肪族ポリエステル系樹脂が含まれていると上記のような温度において結晶化が生じ、それに伴って発泡シート1に同様の形状変化が起きて寸法精度が損なわれかねない。さらに、熱成形などに際しては、発泡シートの両端をクランプと称される治具で保持して当該発泡シートを加熱して成形型に供給するようなことが行われるが、そのような場合においては発泡シートが変形するとクランプから外れてしまうようなトラブルが生じかねない。
【0024】
押出発泡法で低密度の発泡シートを製造する場合は、特に発泡層の気泡膜が薄くなるので、発泡時の破泡を抑制するために押出直後に冷却風が発泡シートに当てられて空冷が行われる。そのため、特に低密度の発泡シートにおいては発熱量が大きな(いまだに結晶化できていない成分を多く含んだ)発泡シートが出来てしまう可能性がある。そこで、後述するように本実施形態では、空冷の温度や風量を調節したりして押出後の発泡シートの冷却状況を緩和して脂肪族ポリエステル系樹脂を十分に結晶化させることが望ましい。
【0025】
ポリ乳酸では、溶融状態からの冷却過程で、120℃以上の温度においてα晶が形成され、90℃以下になるとα’晶が形成されることが知られており、α’晶に比べてα晶の方が耐熱性に優れることが知られている。また、ポリブチレンサクシネートについては、加熱によってβ晶がα晶に変化することが知られている。したがって、発泡シート1(発泡層10)は、製造過程での冷却を緩慢にして含有される結晶をα晶とすることで熱変形を起こし難くなり得る。α晶が存在することは、広角X線回折(WAXD)によって確認することができる。そして、発泡シート1(発泡層)に含まれる結晶が概ねα晶になっていることは、α晶が形成される温度条件で発泡シートを加熱し、加熱前後で広角X線回折を行ってα晶に由来のピークの強度を比較することで確かめられる。例えば、発泡シート1がポリブチレンサクシネートを含む樹脂組成物で構成されている場合、広角X線回折では、2θが13°となる付近にα晶の(020)面に由来のピークが現れるため、当該発泡シート1を一定条件(例えば、100℃×20分)で加熱し、加熱前後の13°付近のピーク強度の変化(加熱後強度/加熱前強度)が、例えば、1.2倍以下程度であれば当該発泡シート1の結晶が十分にα晶化されていると判断することができる。発泡シート1は、該強度変化が1.1倍以下となるように作製されることが好ましく、強度変化が観察されない(加熱後強度/加熱前強度≒1.0)となるように作製されることが好ましい。
【0026】
熱流束示差走査熱量測定(熱流束DSC)によって求められる1回目の昇温過程で観察される発熱量は、4J/g以下であってもよく、3J/g以下であってもよく、2J/g以下であってもよく、1J/g以下であってもよい。
【0027】
本実施形態の発泡シート1(発泡層10)は、前記熱流束示差走査熱量測定での前記昇温過程で吸熱ピークが観察され、該昇温過程で観察される吸熱量の絶対値と前記発熱量との差が30J/g以上90J/g以下であることが好ましい。熱流束示差走査熱量測定で観察される吸熱量とは、脂肪族ポリエステル系樹脂の結晶の融解に伴って発生する熱量であり、DSC曲線において結晶化による発熱ピークよりも数十度高い温度に頂点を有する吸熱ピークとなって観察される。
【0028】
発泡シート1(発泡層10)が適度な量で脂肪族ポリエステル系樹脂の結晶を含むことで発泡製品に耐熱変形性と成形性とがバランス良く付与され得る。吸熱量の絶対値と発熱量との差は、40J/g以上であってもよく、50J/g以上であってもよい。吸熱量の絶対値と発熱量との差は、80J/g以下であってもよく、70J/g以下であってもよい。
【0029】
該吸熱量や前記発熱量については、例えば、以下の要領で測定することができる。
吸熱量(a)(融解熱量)及び発熱量(b)(結晶化熱量)はJIS K7122:1987、JIS K7122:2012に記載されている方法で測定できる。但し、サンプリング方法及び温度条件に関しては以下の通りとする。
・発泡シート1(発泡層10)から切り出した試料をアルミニウム製測定容器の底に、すきまのないように5.5±0.5mg充填後、アルミニウム製の蓋をする。
・示差走査熱量計(例えば、(株)日立ハイテクサイエンス製、「DSC7000X、AS-3」)を用い、示差走査熱量分析を実施する。
・示差走査熱量分析では、窒素ガス流量20mL/分のもと、以下のステップ1~2で試料の加熱及び冷却を施して、DSC曲線を得る。
(ステップ1)速度10℃/分で30℃から-40℃まで降温。
(ステップ2)速度10℃/分で-40℃から200℃まで昇温(1回目昇温過程)。
尚、この時の基準物質にはアルミナを用いる。
・吸熱量(a)及び発熱量(b)は、装置付属の解析ソフトを用いて算出することができる。具体的には、
図3に示すように、吸熱量(a)は、低温側のベースラインからDSC曲線が離れる点と、そのDSC曲線が再び高温側のベースラインへ戻る点とを結ぶ直線と、DSC曲線に囲まれる部分の面積から算出する。発熱量(b)は、低温側のベースラインからDSC曲線が離れる点と、そのDSC曲線が再び高温側へ戻る点とを結ぶ直線と、DSC曲線に囲まれる部分の面積から算出する。
・
図4に示すように1回目昇温過程に結晶化(発熱)ピークが観察されない場合は、発熱量(b)は0J/gとする。吸熱量(a)についても同じ。但し、複数の融解(吸熱)ピークや結晶化(発熱)ピークが観察される場合は、各ピークの熱量の合計を吸熱量(a)及び発熱量(b)とする。
【0030】
本実施形態の発泡シート1(発泡層10)は、過大な二次発泡性を有すると、熱成形時に結晶化とは別の理由から熱変形を示してしまい成形性が損なわれる可能性がある。本実施形態の発泡シート1(発泡層10)の二次発泡倍率は、0.9倍以上1.5倍以下であることが好ましい。二次発泡倍率は、1.4倍以下であってもよく、1.3倍以下であってもよく、1.2倍以下であってもよい。
【0031】
発泡シート1(発泡層10)の二次発泡倍率は、押出直後(例えば、24時間以内)の発泡シート1や積層発泡シート2に下記のような測定を実施した場合に上記のような倍率となることが好ましい。
【0032】
発泡シート1(発泡層10)の二次発泡倍率は、次のようにして求めることができる。
・発泡シートから、縦100mm×横100mmの試験片を3枚切り出す。
・JIS K 7100:1999の記号「23/50」(温度23±2℃、相対湿度50±5%)、2級の標準雰囲気下で168時間かけて試験片を状態調整し、加熱前の各試験片の中央部の厚さ(T1)(mm)を測定する。加熱前の各試験片の中央部の厚さ(T1)は発泡シート1の厚さを求める場合と同様にして測定できる。
・試験片を70℃に設定した湿度調整無しのオーブン中の平台に静置して、150秒間加熱した後、オーブンから取り出して室温にて30分間冷却し、加熱後の各試験片の中央部の厚さ(T2)(mm)を測定する。加熱後の各試験片の中央部の厚さ(T2)は発泡シート1の厚さを求める場合と同様にして測定できる。
・下記式により3つの試験片の二次発泡倍率(倍)をそれぞれ計算し、その相加平均値を発泡シートの二次発泡倍率(倍)とする。
二次発泡倍率(倍)=T2/T1
・積層発泡シート2の状態において発泡層10の二次発泡倍率を求める場合は、上記と同様に加熱前後の積層発泡シートの厚さを測定し、それぞれから非発泡層20の厚さを差し引くことで加熱前の発泡層の厚さ(T1)と加熱後の発泡層の厚さ(T2)とを求めて二次発泡倍率を算出することができる。
【0033】
本実施形態の発泡シート1(発泡層10)は、加熱減量が0.1質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。加熱減量は、1.3質量%以下であってもよく、1.1質量%以下であってもよく、0.9質量%以下であってもよく、0.7質量%以下であってもよい。
【0034】
発泡シート1(発泡層10)の加熱減量は、押出直後(例えば、24時間以内)の発泡シート1や積層発泡シート2に下記のような測定を実施した場合に上記のような値となることが好ましい。
【0035】
発泡シート1(発泡層10)の加熱減量は、次のようにして求めることができる。
・発泡シート1(発泡層10)から、1つの試料の質量が約10gとなるように3つの試料を切り出す。
・JIS K 7100:1999の記号「23/50」(温度23±2℃、相対湿度50±5%)、2級の標準雰囲気下で168時間かけて各試料を状態調整する。
・状態調整後の各試料をアルミニウム箔で包み、加熱前の各試料の質量(W1)(g)を測定する。
・各試料を180℃に設定した湿度調整無しのオーブン中の平台に静置して30分間加熱する。
・加熱後の各試料をオーブンから取り出してJIS K 7100:1999の記号「23/50」(温度23±2℃、相対湿度50±5%)、2級の標準雰囲気下で30分間放冷し、加熱後の各試料の質量(W2)(g)を測定する。
・下記式により3つの試料の加熱減量(質量%)をそれぞれ計算し、その相加平均値を発泡シートの加熱減量(質量%)とする。
加熱減量(質量%)=(W1-W2)/W1×100
・加熱後の試料がアルミニウム箔に付着して正確な測定が困難となる場合、予めアルミニウム箔の質量を精秤しておいて、加熱前後の質量をアルミニウム箔ごと測定し、それぞれの測定値からアルミニウム箔の質量を減じて加熱前の各試料の質量(W1)と加熱後の各試料の質量(W2)とを求めるようにしてもよい。
【0036】
本実施形態の発泡シート1は、発泡層10の連続気泡率が一定以下である方が優れた成形性を発揮させる上で有利となり得る。本実施形態の発泡シート1(発泡層10)は、連続気泡率が60%以下であることが好ましい。該連続気泡率は、50%以下であってもよく、40%以下であってもよい。本実施形態の発泡シート1は、発泡層10の連続気泡率が一定以上である方が優れた緩衝性や過度な二次発泡を抑制して優れた寸法安定性を発揮させる上で有利となり得る。前記連続気泡率は、10%以上であってもよく、15%以上であってもよく、20%以上であってもよい。
【0037】
発泡シート1(発泡層10)の連続気泡率は、次のようにして求めることができる。
・発泡シートから、縦25mm×横25mmのシート状サンプル2枚以上を切り出し、切り出したサンプルを空間があかないよう重ね合わせて厚さ約25mmの試験片を5つ作製する。
・得られた試験片の縦と横の寸法は、ノギス(例えば、(株)ミツトヨ製「デジマチックキャリパ」)を用いて測定する。厚みの寸法は、定圧厚み測定機(例えば、(株)尾崎製作所製「ピーコックデジタルリニアゲージ PDN25」)を用いて発泡シート1の厚さを求める場合と同様にして測定できる。測定した寸法から見掛け上の体積(V1:cm3)を求める。
・空気比較式比重計(例えば、東京サイエンス製(株)「1000型」)を用いて、1-1/2-1気圧法により試験片の体積(V2:cm3)を求める。
・下記式により連続気泡率(%)を計算し、5つの試験片の連続気泡率の相加平均値を求める。尚、試験片は予め、JIS K 7100:1999の記号「23/50」(温度23±2℃、相対湿度50±5%)、2級の標準雰囲気下で24時間以上かけて状態調整する。また、測定は、同じ標準雰囲気下にて実施する。さらに、空気比較式比重計は、標準球(大28.96cm3、小8.58cm3)にて補正を行った上で用いる。
連続気泡率(%)=(V1-V2)/V1×100
(V1:見掛け上の体積、V2:空気比較式比重計で測定される体積)
【0038】
本実施形態の発泡シート1は、上記のような特性を発揮する上で、発泡層10の形成に用いる樹脂組成物(発泡用樹脂組成物)に所定の溶融特性を有していることが好ましい。以下に発泡層10を構成する樹脂組成物について説明する。
【0039】
本実施形態での樹脂組成物には1種又は複数種の脂肪族ポリエステル系樹脂が含まれ得る。発泡用樹脂組成物は、発泡シートなどの発泡製品を製造する際に良好な発泡性を発揮し、得られる発泡製品に対して緩衝性などの特性を発揮させる上で特性値が一定の範囲内となるように調製されることが好ましい。
【0040】
発泡用樹脂組成物は、良好な発泡性を発現する上で加熱時に適度な流動性を示すことが好ましい。具体的には、本実施形態において発泡シート1(発泡層10)の形成に用いられる前の段階での発泡用樹脂組成物の190℃におけるメルトマスフローレイト(MFR)は、例えば、0.1g/10min以上5.0g/10min以下とすることができる。樹脂組成物のMFRは、例えば、0.2g/10min以上であってもよく、0.3g/10min以上であってもよく、0.4g/10min以上であってもよい。樹脂組成物のMFRは、例えば、0.5g/10min以上であってもよく、0.6g/10min以上であってもよく、0.8g/10min以上であってもよく、0.9g/10min以上であってもよい。樹脂組成物のMFRは、例えば、4.5g/10min以下であってもよく、4.0g/10min以下であってもよく、3.5g/10min以下であってもよく、3.0g/10min以下であってもよい。
【0041】
本実施形態では、発泡シート1(発泡層10)を構成している状態での樹脂組成物(以下「発泡後樹脂組成物」ともいう)においてもMFRが上記のような値であることが好ましい。
【0042】
発泡シート1(発泡層10)を形成する前の段階での発泡用樹脂組成物や発泡シート1(発泡層10)を構成している状態での発泡後樹脂組成物のメルトマスフローレイト(MFR)は、次のようにして測定することができる。
・樹脂組成物のメルトマスフローレイト(MFR)は、市販の測定器(例えば、(株)安田精機製作所製「メルトフローインデックステスター(自動)120-SAS」)を用いて測定することができる。
・MFRは、JIS K 7210:1999に準拠し、以下の測定条件で測定することができる。尚、測定用の試料は70℃、5時間以上真空乾燥し、乾燥後は測定直前まで真空パック用のナイロンポリ袋に入れて真空包装した上でデシケーターに保存した上で測定に用いる。
【0043】
(測定条件)
試料:3~8g
予熱1:200秒
予熱2:30秒
試験温度:190℃
試験荷重:21.18N
ピストン移動距離(インターバル):25mm
試験回数:3回
各試験で得られた測定値の相加平均をMFR(g/10min)の値とする。
【0044】
発泡用樹脂組成物は、良好な発泡性を発現する上で加熱時に適度な溶融張力を示すことが好ましい。本実施形態において用いられる樹脂組成物の190℃における溶融張力は、例えば、30cN以上100cN以下とすることができる。該溶融張力は、35cN以上であってもよく、40cN以上であってもよい。該溶融張力は、95cN以下であってもよく、90cN以下であってもよい。該溶融張力は、80cN以下であってもよく、70cN以下であってもよく、60cN以下であってもよい。該溶融張力は、55cN以下であってもよく、50cN以下であってもよい。発泡後樹脂組成物についても上記のような溶融張力を有することが好ましい。
【0045】
樹脂組成物(発泡用樹脂組成物、発泡後樹脂組成物)の溶融張力は、次のようにして測定することができる。
・溶融張力は、市販のレオメータと伸長粘度測定器(例えば、株式会社東洋精機製作所製「キャピログラフ1D」(加熱炉特殊仕様)キャピラリーレオメータ、及び、Goettfert社製「Rheotens71.97」)を用いて測定することができる。溶融張力の測定は、下記条件で実施することができる。
・試料は事前に70℃の温度で5時間以上真空乾燥し、乾燥後は測定直前まで真空パック用のナイロンポリ袋に入れて真空包装した上でデシケーターに保存する。
・「Rheotens71.97」を「キャピログラフ1D」のダイ出口から測定部までの距離が80mmとなるよう設置する(尚、そのままでは干渉してしまい80mmまでレオテンスを接近させることができない場合は、干渉を回避する策を講じて所定の場所にレオテンスをセットする)。
・まず、試験温度190℃に加熱されたバレルに試料を充填後、5分間予熱する。尚、測定時間についてはバレルに試料を充填してから予熱時間を含めて10分を超えないようにする。
・次に、バレルの上部からピストンを挿入し溶融樹脂を紐状に押出す。このとき、ピストン降下速度(20mm/min)を一定に保持し、押出された紐状物をレオテンスのホイールに通して引取る。その後、その引取速度を徐々に増加させて試料の溶融張力を測定する。
【0046】
測定結果については、紐状物が破断した点の直前の張力の極大値と極小値の平均を試料の溶融張力とする。尚、張力チャートに極大点が1個しかない場合はその極大値を溶融張力とする。また、当紐状物が細くなり、巻取りが空回り状態になった場合は、その時点を破断点と捉えて、直前の張力の極大値と極小値の平均を試料の溶融張力とする。
【0047】
(キャピログラフ1Dの測定条件)
ダイ:直径2.095mm、長さ8mm、流入角度90度(コニカル)
バレル径:9.55mm
ピストンスピード:20mm/min
測定温度:190℃
【0048】
(レオテンスの測定条件)
ホイール間隔:上0.6mm、下1.0mm
加速度:10mm/s2
引取スピード:初速 6.92mm/s
【0049】
本実施形態での発泡シート1(発泡層10)は、前記のようにクロロホルムを用いて測定されるゲル分率が25質量%以下である。樹脂組成物を用いて発泡シート1を製造する際には、樹脂組成物にせん断力が加わる。そのため、発泡シート1の製造に用いる前の段階での発泡用樹脂組成物に25質量%を超えるゲルが含まれていたとしても、発泡シート1(発泡層10)でのゲル分率(発泡後樹脂組成物のゲル分率)は、25質量%以下となり得る。発泡後樹脂組成物のゲル分率を25質量%以下にする上で発泡用樹脂組成物のゲル分率は一定以下であることが好ましい。
【0050】
本実施形態での発泡用樹脂組成物のクロロホルムを用いて測定されるゲル分率は、押出シート作製時に良好な伸びを発揮し低坪量の発泡シートを得る上で、例えば、40質量%以下とすることができる。発泡用樹脂組成物のゲル分率は、例えば、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよい。発泡用樹脂組成物のゲル分率は、発泡シート1(発泡層10)でのゲル分率(発泡後樹脂組成物のゲル分率)と同じ方法で測定することができる。
【0051】
発泡用樹脂組成物は、良好な発泡性を発揮し低密度な発泡シートを得る上で、動的粘弾性測定で周波数0.01Hzにおいて観察される複素粘度(η*)が、例えば、10000Pa・s以上150000Pa・s以下となるように調製され得る。また、発泡用樹脂組成物は、動的粘弾性測定における周波数0.01Hz~0.1Hzの範囲における貯蔵弾性率(G’)の傾きが0.35~1.5となるように調製され得る。
【0052】
前記複素粘度(η*)は、15000Pa・s以上であってもよく、20000Pa・s以上であってもよく、25000Pa・s以上であってもよい。該複素粘度(η*)は、120000Pa・s以下であってもよく、100000Pa・s以下であってもよく、80000Pa・s以下であってもよく、60000Pa・s以下であってもよい。
【0053】
発泡用樹脂組成物は、良好な発泡性を発揮し、低密度な発泡シートを得る上で、動的粘弾性測定で周波数0.01Hz~0.1Hzにおける貯蔵弾性率(G’)の傾きは、0.37以上であってもよく、0.40以上であってもよく、0.45以上であってもよい。貯蔵弾性率(G’)の傾きは、1.4以下であってもよく、1.3以下であってもよく、1.2以下であってもよく、1.1以下であってもよい。尚、本実施形態での「貯蔵弾性率(G’)の傾き」とは、周波数を変えて動的粘弾性測定を実施し、各周波数での貯蔵弾性率(G’)を測定し、該貯蔵弾性率(G’)の測定結果を横軸が周波数(Hz)、縦軸が貯蔵弾性率(G’)(Pa)となっている両対数軸のグラフで表し、周波数0.01Hz~0.1Hzの範囲において前記グラフを直線近似した際の当該直線の傾きを意味する。
【0054】
発泡用樹脂組成物の貯蔵弾性率(G’)の傾きや前記複素粘度(η*)は、上記の通り動的粘弾性測定より求めることができる。より詳しくは、動的粘弾性測定は、市販の粘弾性測定装置(例えば、Anton Paar社製、商品名「PHYSICA MCR301」)及び温度制御システム(例えば、Anton Paar社製、商品名「CTD450」)にて以下のような手順で測定することができる。
・試料は事前に70℃の温度で5時間以上真空乾燥し、乾燥後は測定直前まで真空パック用のナイロンポリ袋に入れて真空包装した上でデシケーターに保存する。
・試料を190℃に加熱した粘弾性測定装置の直径50mmのパラレルプレート(下側)上にセットし窒素雰囲気下にて5分間に亘って加熱し溶融させる。
・溶融させた試料を、直径25mmのパラレルプレート(上側)にて該パラレルプレートの間隔が2mmとなるまで押しつぶし、プレートからはみ出した樹脂を取り除き、さらに測定温度±1℃に達してから5分間加熱後、動的粘弾性測定を行う。
・測定条件は次の通りとする。
(測定条件)
歪み:5%
周波数:0.01~100(Hz)(低周波数(0.01Hz)から測定を開始)
測定点数:21(5点/桁)
測定温度:190℃
雰囲気ガス:窒素
【0055】
貯蔵弾性率(G’)の傾きは、動的粘弾性測定の結果から求め、周波数に対する貯蔵弾性率(G’)の変化曲線から求める。具体的には、
図5、
図7に示すように、貯蔵弾性率(G’)における各測定点について、周波数(x軸)に対する貯蔵弾性率(G’)(y軸)の値を両対数軸のグラフとしてプロットし、周波数0.01Hz~0.1Hzにおける測定点について累乗近似式(y=bx
a)にて直線を描く。ここで、aは前記直線の傾きであり、bは定数となる。即ち、累乗近似式のべき指数(a)の値を貯蔵弾性率(G’)の傾きとする。また、複素粘度(η
*)の値は、動的粘弾性測定の結果から、周波数0.01Hzにおける数値を読み取って求めることができる。
【0056】
上記のような発泡用樹脂組成物における各種の特性値は、使用する脂肪族ポリエステル系樹脂の種類を選択したり、該脂肪族ポリエステル系樹脂を改質して所望の分子構造を付与したりすることで調整可能である。なかでも発泡用樹脂組成物の溶融特性やゲル分率などは、改質された脂肪族ポリエステル系樹脂(以下「改質脂肪族ポリエステル系樹脂」ともいう)を利用することで調整容易となる。
【0057】
発泡用樹脂組成物は、1又は2以上の脂肪族ポリエステル系樹脂のみで構成されてもよく、脂肪族ポリエステル系樹脂以外の樹脂を含むことも可能である。尚、脂肪族ポリエステル系樹脂以外の樹脂の含有量は、発泡用樹脂組成物に含まれる全ての樹脂に占める割合が20質量%未満であることが好ましい。即ち、発泡用樹脂組成物に含まれる全ての樹脂に占める脂肪族ポリエステル系樹脂の割合は、80質量%以上であることが好ましい。脂肪族ポリエステル系樹脂の割合は、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。
【0058】
脂肪族ポリエステル系樹脂以外の樹脂は、例えば、粘着付与剤(タッキファイヤー)や高分子型帯電防止剤などとして発泡用樹脂組成物に導入され得る。
【0059】
発泡用樹脂組成物に含有される脂肪族ポリエステル系樹脂は、ヒドロキシ酸重縮合物、ラクトンの開環重合物、及び、多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との重縮合体などであってもよい。ヒドロキシ酸重縮合物としては、例えば、ポリ乳酸、ヒドロキシ酪酸の重縮合物などが挙げられる。ラクトンの開環重合物としては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトンなどが挙げられる。多価アルコール成分と多価カルボン酸成分との重縮合体としては、例えば、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレートなどが挙げられる。なかでも発泡用樹脂組成物に含有される脂肪族ポリエステル系樹脂は、ポリブチレンサクシネート(PBS)又はポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)のいずれかであることが好ましい。発泡用樹脂組成物は、改質されているポリブチレンサクシネート(以下「改質ポリブチレンサクシネート」ともいう)や改質されたポリブチレンサクシネートアジペート(以下「改質ポリブチレンサクシネートアジペート」ともいう)を含むことが好ましい。
【0060】
改質脂肪族ポリエステル系樹脂の出発材料となる改質前の脂肪族ポリエステル系樹脂(以下、「非改質脂肪族ポリエステル系樹脂」ともいう)は、その構成単位であるジオールやジカルボンが植物由来であることが好ましい。即ち、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)などの非改質脂肪族ポリエステル系樹脂は、その少なくとも一部が植物由来であることが好ましい。
【0061】
非改質脂肪族ポリエステル系樹脂は、ASTM D 6866(2004)によって測定されるバイオマス度が20%以上であることが好ましい。非改質脂肪族ポリエステル系樹脂のバイオマス度は30%以上であってもよく40%以上であってもよい。
【0062】
非改質脂肪族ポリエステル系樹脂は、190℃におけるメルトマスフローレイト(MFR)が、8g/10min以上40g/10min以下であることが好ましい。非改質脂肪族ポリエステル系樹脂のMFRは、10g/10min以上であってもよく、12g/10min以上であってもよく、15g/10min以上であってもよく、20g/10min以上であってもよい。非改質脂肪族ポリエステル系樹脂のMFRは、35g/10min以下であってもよく、30g/10min以下であってもよい。
【0063】
非改質脂肪族ポリエステル系樹脂のMFRは、樹脂組成物のMFRと同じ方法によって測定することができる。
【0064】
非改質脂肪族ポリエステル系樹脂は、数平均分子量(Mn)が20000以上60000以下であることが好ましい。非改質脂肪族ポリエステル系樹脂の数平均分子量(Mn)は、25000以上であってもよく、30000以上であってもよく、35000以上であってもよい。非改質脂肪族ポリエステル系樹脂の数平均分子量(Mn)は、55000以下であってもよく、50000以下であってもよく、45000以下であってもよく、40000以下であってもよい。
【0065】
非改質脂肪族ポリエステル系樹脂は、質量平均分子量(Mw)が100000以上200000以下であることが好ましい。非改質脂肪族ポリエステル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は、110000以上であってもよく、120000以上であってもよい。非改質脂肪族ポリエステル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は、190000以下であってもよく、180000以下であってもよく、170000以下であってもよく、160000以下であってもよい。
【0066】
非改質脂肪族ポリエステル系樹脂は、数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率である分散度(Mw/Mn)が、2.2以上5.0以下であることが好ましい。分散度(Mw/Mn)は、2.5以上であってもよく、2.8以上であってもよく、3.1以上であってもよく、3.4以上であってもよい。分散度(Mw/Mn)は、4.8以下であってもよく、4.5以下であってもよく、4.2以下であってもよく、3.9以下であってもよい。
【0067】
非改質脂肪族ポリエステル系樹脂は、Z平均分子量(Mz)が100000以上500000以下であることが好ましい。非改質脂肪族ポリエステル系樹脂のZ平均分子量(Mz)は、140000以上であってもよく、180000以上であってもよく、220000以上であってもよい。非改質脂肪族ポリエステル系樹脂のZ平均分子量(Mz)は、450000以下であってもよく、400000以下であってもよく、350000以下であってもよく、300000以下であってもよい。なかでもZ平均重量分子量(Mz)は100000以上300000以下であることが好ましい。
【0068】
非改質脂肪族ポリエステル系樹脂の平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて標準ポリスチレン(PS)換算平均分子量として、以下方法で測定することができる。
・非改質脂肪族ポリエステル系樹脂15mgをクロロホルム6mLに溶解する(浸透時間:6.0±1.0時間(完全溶解))。
・クロロホルム溶液をフィルター(非水系0.45μmシリンジフィルター、島津ジーエルシー社製)でろ過して測定サンプルとする。
・標準ポリスチレンを以下の測定条件により分析し、標準ポリスチレン検量線を作成する。
・非改質脂肪族ポリエステル系樹脂を以下の条件にて測定し、予め作成しておいた標準ポリスチレン検量線により、平均分子量を算出する。
【0069】
(測定条件)
測定装置:ゲル浸透クロマトグラフ(RI検出器・UV検出器内蔵)(HLC-8320GPC EcoSEC、東ソー社製)
カラム構成:サンプル側 ガードカラム TSKgel guardcolumn HXL-H(東ソー社製;6.0mmI.D.×4cm)×1本 測定カラム TSKgel GMHXL(7.8mmI.D.×30cm)×2本直列 リファレンス側 抵抗管(内径0.1mm×2m)×2本直列
カラム温度:40℃
移動相:クロロホルム
移動相流量:サンプル側 1.0mL/分 リファレンス側 0.5mL/分
検出器:示差屈折率(RI)検出器
標準試料:検量線用標準ポリスチレン
試料注入量:50μL
測定時間:26分
サンプリングピッチ:500m秒
【0070】
検量線用標準ポリスチレン試料は、STANDARD SM-105(昭和電工社製)及びSTANDARD SH-75(昭和電工社製)で、質量平均分子量(Mw)が5620000、3120000、1250000、442000、151000、53500、17000、7660、2900、1320のポリスチレン(PS)を用いる。
【0071】
以下の方法によって検量線を作成する。
・検量線用標準ポリスチレンを、Aグループ(Mw=5620000のPS、Mw=1250000のPS、Mw=151000のPS、Mw=17000のPS、Mw=2900のPS)とBグループ(Mw=3120000のPS、Mw=442000のPS、Mw=53500のPS、Mw=7660のPS、Mw=1320のPS)にグループ分けする。
・Aグループから、Mw=5620000のPSを2mg、Mw=1250000のPSを3mg、Mw=151000のPSを4mg、Mw=17000のPSを4mg、Mw=2900のPSを4mg、それぞれ秤量し、クロロホルム30mLに全量を溶解する。
・Bグループから、Mw=3120000のPSを3mg、Mw=442000のPSを4mg、Mw=53500のPSを4mg、Mw=7660のPSを4mg、Mw=1320のPSを4mg、それぞれ秤量し、クロロホルム30mLに全量を溶解する。
・標準ポリスチレン検量線は、Aグループ及びBグループの溶解液を50μL注入して測定後に得られた保持時間から校正曲線(3次式)を作成することにより得る。
【0072】
このような非改質ポリエステル系樹脂の改質方法としては、有機過酸化物によって架橋(部分架橋)を施す方法が挙げられる。
【0073】
前記有機過酸化物としては、例えば、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシケタール、及び、ケトンパーオキサイド等が挙げられる。
【0074】
前記パーオキシエステルとしては、例えば、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシアセテート、2,5-ジメチル2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、及び、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等が挙げられる。
【0075】
前記ハイドロパーオキサイドとしては、例えば、パーメタンハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、及び、t-ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0076】
前記ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、及び、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3等が挙げられる。
【0077】
前記ジアシルパーオキサイドとしては、例えば、ジベンゾイルパーキサイド、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、及び、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド等が挙げられる。
【0078】
前記パーオキシジカーボネートとしては、例えば、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0079】
前記パーオキシケタールとしては、例えば、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ブタン、n-ブチル4,4-ジ-(t-ブチルパーオキシ)バレレート、及び、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。
【0080】
前記ケトンパーオキサイドとしては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等が挙げられる。
【0081】
本実施形態では、反応性が緩やかな有機過酸化物を用いることが好ましく、半減期温度が高い有機過酸化物を用いることが好ましい。有機過酸化物の1分間半減期温度は、150℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0082】
前記1分間半減期温度は、ベンゼンを溶媒とした0.1mol/Lの溶液を用いて測定することができる。有機過酸化物の希薄な溶液での分解反応は一次反応としてみなすことができるため、有機過酸化物の初期濃度をC、分解量をΔC、分解速度定数をk、時間をtとすると、分解反応については下記の式(1)、(2)のようにあらわすことができる。
式(1): dx/dt=k(C-ΔC)
式(2): ln C/(C-ΔC)=kt
半減期時間をt1/2とすると(C-ΔC)がC/2となるので上記式は以下のようになる。
式(3): k・t1/2=ln2
したがって、ある一定温度(T)で有機過酸化物を熱分解させて時間(t)と「ln C/(C-ΔC)」との関係をグラフでプロットすればその近似直線の傾きから分解速度定数(k)が求まり、その温度での半減期時間(t1/2)が求まる。
そして、分解速度定数kは、アレニウスの式より下記のようにしてあらわされる。
式(4): k=Aexp(-ΔE/RT)
式(5): lnk=lnA-ΔE/RT
(A:頻度因子、ΔE:活性化エネルギー、R:気体定数、T:絶対温度)
数点の温度で各温度における分解速度定数kを算出し、「lnk」と「1/T」とをプロットして得られた直線の傾きから活性化エネルギーΔEが求まる。求めた活性化エネルギーΔEを用いて「lnk」の代わりに「lnt1/2」と「1/T」との関係をプロットして得られた近似直線から1分間半減期温度を求めることができる。
【0083】
上記のような半減期温度を有する有機過酸化物としては、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(1分間半減期温度:158.8℃)が好ましい。
【0084】
有機過酸化物は、改質を行う非改質脂肪族ポリエステル系樹脂の量を100質量部としたときに0.02質量部以上0.45質量部以下となるように用いられることが好ましい。有機過酸化物の量は、0.05質量部以上であってもよく、0.08質量部以上であってもよい。有機過酸化物の量は、0.4質量部以下であってもよく、0.3質量部以下であってもよい。
【0085】
本実施形態の発泡用樹脂組成物は、上記のような改質が施された改質脂肪族ポリエステル系樹脂を1種単独で含んでいても2種以上含んでいてもよい。例えば、本実施形態の発泡用樹脂組成物は、改質ポリブチレンサクシネートと改質ポリブチレンサクシネートアジペートとを含んでいてもよい。また、本実施形態の発泡用樹脂組成物は、1種類以上の改質脂肪族ポリエステル系樹脂と1種類以上の非改質脂肪族ポリエステル系樹脂とを含んでいてもよい。
【0086】
本実施形態の発泡用樹脂組成物は、当該発泡用樹脂組成物を発泡させるための成分とともに押出機で溶融混練して押出されることで良好な発泡性を示す。発泡用樹脂組成物とともに押出機に供給される発泡のための前記成分としては、気泡調整剤や発泡剤などが挙げられる。押出発泡に際しては、それら以外に各種の添加剤が発泡用樹脂組成物に添加されてもよい。該添加剤としては、充填剤、着色剤、難燃剤、抗菌剤、耐候剤、界面活性剤などが挙げられる。本実施形態の発泡用樹脂組成物での樹脂以外の添加剤の割合は、通常、10質量%以下とされる。添加剤の割合は、8質量%以下であってもよく、6質量%以下であってもよい。
【0087】
本実施形態での発泡シート1は、脂肪族ポリエステル系樹脂と有機過酸化物とを溶融混練して改質脂肪族ポリエステル系樹脂を得る改質工程と、前記改質脂肪族ポリエステル系樹脂を含む樹脂組成物を発泡剤とともにシート状に押出して発泡シートを作製するシート作製工程とを実施して作製することができる。発泡用樹脂組成物は、改質工程で得られる改質脂肪族ポリエステル系樹脂のみによって調製されてもよく、2種類以上の改質脂肪族ポリエステル系樹脂をブレンドしたり、1種類以上の改質脂肪族ポリエステル系樹脂と1種類以上の非改質脂肪族ポリエステル系樹脂とをブレンドしたりすることで調製されてもよい。
【0088】
本実施形態では、前記改質工程と、改質脂肪族ポリエステル系樹脂を含む発泡用樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、該樹脂組成物調製工程で得られた発泡用樹脂組成物によるシート作製工程とをそれぞれ回分式(バッチ式)で実施してもよく、これらを連続的に実施してもよい。また、本実施形態では、発泡シートの片面又は両面に非発泡層を積層する積層工程をシート作製工程の後に実施して積層発泡シートを作製することもできる。この積層工程も回分式(バッチ式)で実施してもよく、連続的に実施してもよい。
【0089】
上記のような工程を連続的に実施する場合、全ての工程を1つの押出ラインで実施してもよい。例えば、材料の移動方向上流側に設けた第1押出機と、該第1押出機の下流側に接続された第2押出機とを備え、該第2押出機の先端にシーティングダイ(フラットダイ、サーキュラーダイ)が装着されているタンデムラインを用いて上記工程を連続的に実施することができる。その場合、例えば、改質工程は、第1押出機に非改質脂肪族ポリエステル系樹脂と有機過酸化物とを供給するとともに該第1押出機で非改質脂肪族ポリエステル系樹脂と有機過酸化物とを溶融混練するような方法で実施することができる。このとき非改質脂肪族ポリエステル系樹脂と有機過酸化物とを前述の比率(例えば、非改質脂肪族ポリエステル系樹脂100:有機過酸化物0.02~0.45(質量比))とすることでゲルの含有量が少なく(ゲル分率40質量%以下)、発泡に適した改質脂肪族ポリエステル系樹脂を得ることができ、良好な発泡状態の発泡製品を作製するのに好適な発泡用樹脂組成物が得られ易くなる。
【0090】
前述のようにこの発泡用樹脂組成物は、クロロホルムを用いて測定されるゲル分率が40質量%以下となるように調製されることで発泡性が良好で低密度かつ低坪量の発泡シートを得る上で好適なものとなり得る。また、発泡用樹脂組成物は、190℃におけるメルトマスフローレイト(MFR)や溶融張力が所定の値となるように調製されることで発泡性が良好で低密度かつ低坪量の発泡シートを得る上でより好適なものとなり得る。さらに発泡用樹脂組成物は、動的粘弾性測定で周波数0.01Hz~0.1Hzの範囲において貯蔵弾性率(G’)が所定の傾きとなり、周波数0.01Hzにおける複素粘度(η*)が所定の値となることで発泡性が良好で低密度かつ低坪量の発泡シートを得る上で特に好適なものとなり得る。
【0091】
このような発泡用樹脂組成物を得るための前記樹脂組成物調製工程は、第1押出機で実施してもよく、第2押出機で実施してもよい。樹脂組成物調製工程は、例えば、気泡調整剤などの他の成分を非改質脂肪族ポリエステル系樹脂などともに第1押出機の途中から供給して改質工程と並行されるように実施してもよい。前記発泡剤についても第1押出機の途中や第2押出機において供給することができる。前記積層工程は、非発泡層を形成するための樹脂組成物(以下「非発泡層用樹脂組成物」ともいう)を共押出法によって前記シーティングダイから押出して実施することができ、シート作製工程と並行して実施することができる。該積層工程は、一旦作製された発泡シートに対して非発泡層用樹脂組成物を押出ラミネートしたりドライラミネートしたりする方法によって実施してもよい。また、このような方法に限らず発泡シートや積層発泡シートについては従来公知の方法によって作製することができる。
【0092】
非発泡層の形成材料は、発泡製品のマテリアルリサイクル性、生分解性などを考慮すると、非発泡層も脂肪族ポリエステル系樹脂組成物で構成されることが好ましい。その場合、非発泡層に含まれる脂肪族ポリエステル系樹脂と発泡層に含まれる脂肪族ポリエステル系樹脂とは同じものであってもよく、異なっていてもよい。
【0093】
熱変形が生じ難い発泡シートを得る上では、発泡シートに残留し難く二次発泡を生じさせ難い発泡剤を用いることが好ましい。本実施形態で用いる発泡剤としては二酸化炭素が好ましい。本実施形態では、該二酸化炭素に加えて、又は、二酸化炭素に代えて、炭化水素や窒素ガスなどを発泡剤として用いてもよい。これらの発泡剤は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。前記気泡調整剤としては、タルクなどの一般的なものを用いることができる。
【0094】
前記シート作製工程では、前述の通り押出直後の発泡シートに対する冷却を従来よりも緩慢なものにして発泡シートを十分に結晶化させることが望ましい。発泡シート(発泡層)の冷却を緩慢にさせるという点において、積層発泡シートを作製する場合は、共押出法を採用する方が有利であると言える。
【0095】
このようにして作製される発泡シートは、見掛け密度が30kg/m3以上100kg/m3以下で、クロロホルムを用いて測定されるゲル分率が25質量%以下であり、加熱速度10℃/分での熱流束示差走査熱量測定によって求められる1回目の昇温過程で観察される発熱量が5.0J/g以下となるように作製されることで、軽量性、緩衝性、及び、寸法精度に優れたものとなる。また、該発泡シートは、熱成形などによって発泡成形体(熱成形体)を作製するための原反シートとして好適なものとなり得る。熱成形体を得るための熱成形の方法としては、真空成形、圧空成形、真空圧空成形などの従来公知の方法を採用することができる。軽量性、緩衝性、及び、寸法精度に優れた発泡成形体は、本実施形態の発泡シートを用いることで作製することが容易となり得る。
【0096】
尚、本実施形態においては、上記のような例示を行っているが、本発明は上記例示に何等限定されるものではない。上記のように本実施形態においては、下記のような発明を開示している。
【0097】
(1)
1種類以上の脂肪族ポリエステル系樹脂を含み、発泡させて用いられる発泡用樹脂組成物であって、
JIS K 7210に規定の方法で測定される190℃におけるメルトマスフローレイト(MFR)が0.1g/10min以上5.0g/10min以下で、
レオメータと伸長粘度測定器とを用いて測定される190℃における溶融張力が30cN以上100cN以下であり、
クロロホルムを用いて測定されるゲル分率が40質量%以下である発泡用樹脂組成物。
【0098】
(2)
下記条件で動的粘弾性を測定して求められる貯蔵弾性率(G’)は、
横軸が周波数(Hz)、縦軸が貯蔵弾性率(G’)の両対数軸のグラフで表した際に、
周波数0.01Hzから0.1Hzまでの範囲において直線的に変化し、
前記グラフの周波数0.01Hzから0.1Hzまでの範囲を直線近似した際の該直線の傾きが0.35以上1.50以下である(1)記載の発泡用樹脂組成物。
<測定条件>
歪み:5%
周波数:0.01~100(Hz)(低周波数(0.01Hz)から測定を開始)
測定点数:21(5点/桁)
測定温度:190℃
雰囲気ガス:窒素
【0099】
(3)
下記条件で動的粘弾性を測定して求められる複素粘度(η*)が、
周波数0.01Hzにおいて10000Pa・s以上150000Pa・s以下である(1)又は(2)記載の発泡用樹脂組成物。
<測定条件>
歪み:5%
周波数:0.01~100(Hz)(低周波数(0.01Hz)から測定を開始)
測定点数:21(5点/桁)
測定温度:190℃
雰囲気ガス:窒素
【0100】
(4)
前記脂肪族ポリエステル系樹脂は、ポリブチレンサクシネート及び/又はポリブチレンサクシネートアジペートである(1)~(3)の何れか1つに記載の発泡用樹脂組成物。
【0101】
(5)
前記脂肪族ポリエステル系樹脂は、少なくとも一部が植物由来のポリブチレンサクシネート及び/又は少なくとも一部が植物由来のポリブチレンサクシネートアジペートである(1)~(4)の何れか1つに記載の発泡用樹脂組成物。
【0102】
(6)
(1)~(5)の何れか1つに記載の発泡用樹脂組成物を押出発泡して発泡シートを製造する発泡シートの製造方法。
【0103】
(7)
1種類以上の脂肪族ポリエステル系樹脂を含み且つ発泡させて用いられる発泡用樹脂組成物を製造する発泡用樹脂組成物の製造方法であって、
前記脂肪族ポリエステル系樹脂100質量部に対して有機過酸化物を0.02~0.45質量部の割合で溶融混練し、クロロホルムを用いて測定されるゲル分率が40質量%以下の前記発泡用樹脂組成物を製造する発泡用樹脂組成物の製造方法。
【0104】
(8)
JIS K 7210に規定の方法で測定される前記脂肪族ポリエステル系樹脂のメルトマスフローレイト(MFR)が、8g/10min以上40g/10min以下である
【0105】
(9)
前記脂肪族ポリエステル系樹脂のZ平均分子量(Mz)が100000以上300000以下である(7)又は(8)記載の発泡用樹脂組成物の製造方法。
【0106】
(10)
前記脂肪族ポリエステル系樹脂は、ポリブチレンサクシネート及び/又はポリブチレンサクシネートアジペートである(7)~(9)の何れか1つに記載の発泡用樹脂組成物の製造方法。
【0107】
(11)
前記脂肪族ポリエステル系樹脂は、少なくとも一部が植物由来のポリブチレンサクシネート及び/又は少なくとも一部が植物由来のポリブチレンサクシネートアジペートである(7)~(10)の何れか1つに記載の発泡用樹脂組成物の製造方法。
【実施例0108】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の例示にも限定されるものではない。
【0109】
実施例、比較例の発泡シートを作製するために脂肪族ポリエステル系樹脂として以下のものを用意した。
<脂肪族ポリエステル系樹脂>
・脂肪族ポリエステル系樹脂(A):PTT MCC BIOCHEM社製、商品名「BioPBS FZ71PM」、樹脂の一部が植物由来のPBS。
・脂肪族ポリエステル系樹脂(B):PTT MCC BIOCHEM社製、商品名「BioPBS FZ91PM」、樹脂の一部が植物由来のPBS。
・脂肪族ポリエステル系樹脂(C):PTT MCC BIOCHEM社製、商品名「BioPBS FD92PM」、樹脂の一部が植物由来のPBSA。
上記の脂肪族ポリエステル系樹脂の物性を表1に示す。
【0110】
【0111】
上記脂肪族ポリエステル系樹脂を改質するための有機過酸化物としては、以下のものを用いた。また、発泡シートを作製する際の気泡調整剤と発泡剤とは下記のものを使用した。
<有機過酸化物>
・有機過酸化物(a):化薬ヌーリオン社製、商品名「Trigonox BPIC-C75」、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1分間半減期温度156℃
・有機過酸化物(b):日油社製、商品名「パーブチルP」、α,α’-ジ-t-ブチルパーオキシジイソプロピルベンゼン、1分間半減期温度175℃
<気泡調整剤>
・タルク:松村産業社製、商品名「クラウンタルクPP」
<発泡剤>
・二酸化炭素
【0112】
発泡用樹脂組成物の物性については次のように評価した。
【0113】
(発泡用樹脂組成物の物性の評価方法)
<メルトマスフローレイト(MFR)>
脂肪族ポリエステル系樹脂や脂肪族ポリエステル系樹脂組成物のメルトマスフローレイト(MFR)は、(株)安田精機製作所製「メルトフローインデックステスター(自動)120-SAS」を用いて測定した。MFRは、JIS K 7210:1999に準拠し、以下の測定条件で測定した。尚、測定用の試料は70℃、5時間以上真空乾燥し、乾燥後は測定直前まで真空パック用のナイロンポリ袋に入れて真空包装した上でデシケーターに保存した。
【0114】
(測定条件)
試料:3~8g
予熱1:200秒
予熱2:30秒
試験温度:190℃
試験荷重:2.16kg(21.18N)
ピストン移動距離(インターバル):25mm
試験回数:3回
各試験で得られた測定値の相加平均をMFR(g/10min)の値とした。
【0115】
<溶融張力>
脂肪族ポリエステル系樹脂や脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の溶融張力は、株式会社東洋精機製作所製「キャピログラフ1D」(加熱炉特殊仕様)キャピラリーレオメータ、及びGoettfert社製「Rheotens71.97」を用いて測定した。溶融張力の測定は、下記の条件にて実施した。
試料は事前に70℃×5時間以上真空乾燥し、乾燥後は測定直前まで真空パック用のナイロンポリ袋に入れて真空包装した上でデシケーターに保存した。
Rheotens71.97は、キャピログラフ1Dのダイ出口から測定部までの距離が80mmとなるよう設置した。(尚、そのままでは干渉してしまい80mmまでレオテンスを接近させることができない場合は、干渉を回避する策を講じて所定の場所にレオテンスをセットする。)
まず、試験温度190℃に加熱されたバレルに試料を充填後、5分間予熱した。
尚、測定時間についてはバレルに充填してから予熱時間を含めて10分を超えないようにした。
次に、バレルの上部からピストンを挿入し溶融樹脂を紐状に押し出した。
このとき、ピストン降下速度(20mm/min)を一定に保持し、押出された紐状物をレオテンスのホイールに通過させた。その後、その引取速度を徐々に増加させて試料の溶融張力を測定した。
【0116】
測定結果について、紐状物が破断した点の直前の張力の極大値と極小値の平均を試料の溶融張力とした。
尚、張力チャートに極大点が1個しかない場合はその極大値を溶融張力とした。
また、当紐状物が細くなり、巻取りが空回り状態になった場合は、その時点を破断点と捉えて、直前の張力の極大値と極小値の平均を試料の溶融張力とした。
【0117】
(キャピログラフ1Dの測定条件)
ダイ:直径2.095mm、長さ8mm、流入角度90度(コニカル)
バレル径:9.55mm
ピストンスピード:20mm/min
測定温度:190℃
【0118】
(レオテンスの測定条件)
ホイール間隔:上0.6mm、下1.0mm
加速度:10mm/s2
引取スピード:初速 6.92mm/s
【0119】
<ゲル分率>
各例の樹脂組成物から約0.5gの試料を用意し、試料の初期質量(Mo)を精秤した。また、試料を溶解させた溶解液をろ過するための80メッシュ金網(線径φ0.12mm)を用意し、この金網の初期の質量(Ms)も精秤した。ビーカー(容量:100cc)に試料とクロロホルム50ccとスターラーバーを入れ、アルミニウム箔で蓋をし、スターラーにセットし2時間攪拌行い、常温にて試料を溶解させた。2時間後、蓋を外し、ビーカー内の溶解物を前記金網でろ過し、樹脂不溶物を前記金網上に採取した。樹脂不溶物をろ過後の金網ごとドラフトチャンバー内で自然乾燥させクロロホルムを蒸発させた。次いで、ろ過後の金網ごと恒温乾燥器を使って樹脂不溶物を120℃の温度で2時間乾燥し、乾燥後はデシケーター内で放冷させた。放冷後の樹脂不溶物と金網との合計質量(Mx)を測定した。
下記(s5)式によりゲル分率(質量%)を計算した。
ゲル分率(質量%)=(Mx-Ms)/Mo×100・・・(s5)
【0120】
<貯蔵弾性率(G’)の傾き、複素粘度(η*)>
各例の樹脂組成物の貯蔵弾性率(G’)の傾き及び複素粘度(η*)については、樹脂組成物の動的粘弾性測定より求めた。動的粘弾性測定はAnton Paar社製、商品名「PHYSICA MCR301」粘弾性測定装置及び「CTD450」温度制御システムにて測定した。
試料は事前に70℃×5時間以上真空乾燥し、乾燥後は測定直前まで真空パック用のナイロンポリ袋に入れて真空包装した上でデシケーターに保存した。試料を190℃に加熱した粘弾性測定装置の直径50mmのパラレルプレート(下側)上にセットし窒素雰囲気下にて5分間に亘って加熱し溶融させた。その後、直径25mmのパラレルプレート(上側)にて該パラレルプレートの間隔が2mmとなるまで押しつぶし、プレートからはみ出した樹脂を取り除いた。さらに測定温度±1℃に達してから5分間加熱後、動的粘弾性測定を行った。
(測定条件)
歪み:5%
周波数:0.01~100(Hz)(低周波数(0.01Hz)から測定を開始した。)
測定点数:21(5点/桁)
測定温度:190℃
雰囲気ガス:窒素
【0121】
動的粘弾性測定の結果から、貯蔵弾性率(G’)の傾きは、周波数に対する貯蔵弾性率(G’)の変化曲線から求めた。具体的には、
図5、
図7に示すように、貯蔵弾性率(G’)における各測定点について、周波数(x軸)に対する貯蔵弾性率(G’)(y軸)を両対数プロットし、周波数0.01Hz~0.1Hzにおける測定点について累乗近似式(y=bx
a)にて直線描いた。(ここで、aは前記直線の傾きであり、bは定数となる。)累乗近似式のべき指数aの値を貯蔵弾性率(G’)の傾きとした。
この時の動的粘弾性測定の結果から、周波数0.01Hzにおける複素粘度(η
*)の値を読み取った。
【0122】
<融点、結晶化温度、結晶化熱量>
融点、結晶化温度及び結晶化熱量は、JIS K7121:1987、JIS K7121:2012及びJIS K7122:1987、JIS K7122:2012に記載されている方法で測定した。但し、サンプリング方法及び温度条件に関しては以下の通りとした。
各例の樹脂組成物から採取した試料をアルミニウム製測定容器の底に、すきまのないように5.5±0.5mg充填後、アルミニウム製の蓋をした。次いで(株)日立ハイテクサイエンス製「DSC7000X、AS-3」示差走査熱量計を用い、示差走査熱量分析を実施した。窒素ガス流量20mL/分のもと、以下のステップ1~4で試料の加熱と冷却とを施して、DSC曲線を得た。
(ステップ1)10℃/分の速度で30℃から-40℃まで降温。
(ステップ2)10℃/分の速度で-40℃から200℃まで昇温し(1回目昇温過程)、10分間保持。
(ステップ3)10℃/分の速度で200℃から-40℃まで降温し(冷却過程)、10分間保持。
(ステップ4)10℃/分の速度で-40℃から200℃まで昇温(2回目昇温過程)。
この時の基準物質にはアルミナを用いた。装置付属の解析ソフトを用いて、
図3、
図4に示すように2回目昇温過程にみられる融解ピークのトップの温度を読みとって融点とし、冷却過程における結晶化ピークのトップの温度を読みとって結晶化温度とした。但し、複数の融解ピークや結晶化ピークが観察される場合は、温度が高い方を融点及び結晶化温度した。
また、前記結晶化ピークにおける発熱量を結晶化熱量とした。具体的には、
図3に示すように、結晶化熱量は冷却過程において高温側のベースラインからDSC曲線が離れる点と、そのDSC曲線が再び低温側へ戻る点とを結ぶ直線と、DSC曲線に囲まれる部分の面積から算出した。但し、複数の結晶化(発熱)ピークが観察される場合は、各ピークの熱量の合計を結晶化熱量とした。
【0123】
発泡シートの特性については次のように評価した。
(発泡シートの物性の評価方法)
<坪量>
各例の発泡シートの幅方向(TD)の両端20mmを除き、幅方向に等間隔に、10cm×10cmの切片6個を切り出し、各切片の質量(g)を測定した。各切片の質量(g)の平均値を1m2当たりの質量に換算した値を、発泡シートの坪量(g/m2)とした。
【0124】
<見掛け密度>
始めに発泡シートの厚さを定圧厚み測定機((株)尾崎製作所製「ピーコックデジタルリニアゲージ PDN25」)を用いて測定した。
具体的には、直径35.7mmの円形状の治具で100gの荷重を発泡シートにかけたときの厚みを定圧厚み測定機にて測定して求めた。尚、発泡シートの厚さは、発泡シートの押出方向(MD)に直交する幅方向(TD)の両端20mmを除き、幅方向(TD)に5cmごとに10点以上測定し、その測定値の相加平均値とした。また、発泡シートの幅が狭く10点分の測定箇所を確保出来ない場合には、可能な限りの測定点数を確保した上で全ての測定値の相加平均値を発泡シートの厚さとした。
各例の発泡シートの坪量と厚さから、下記(s1)式にて算出した。
見掛け密度(kg/m3)=坪量(g/m2)÷厚さ(mm) ・・・(s1)
【0125】
≪坪量の評価基準≫
各坪量の発泡シートの作製における作製可否の結果から、以下の基準で評価した。
◎:全ての坪量の発泡シートの作製可否が全て「可」である。
〇:坪量65g/m2以上の発泡シートの作製可否が「可」である。
×:坪量100g/m2の発泡シートのみ作製可否が「可」である。
【0126】
≪見掛け密度の評価基準≫
作製した坪量100g/m2の発泡シートの見掛け密度を以下の基準で評価した。
◎:見掛け密度が60kg/m3未満である。
〇:見掛け密度が60kg/m3以上200kg/m3未満である。
×:見掛け密度が200kg/m3以上である。
【0127】
≪発泡シートの総合評価≫
各例の発泡シートの坪量及び見掛け密度の評価より、以下の基準で総合評価を行った。
◎:坪量及び見掛け密度の評価で「◎」のみであった。
〇:坪量及び見掛け密度の評価で「◎」と「〇」が1つずつであった。
△:坪量及び見掛け密度の評価で「○」のみであった。
×:坪量及び見掛け密度の評価のいずれかが「×」であった。
【0128】
(実施例1)
<樹脂組成物の作製>
表2の配合に従い、前もって80℃で4時間除湿乾燥した脂肪族ポリエステル系樹脂と有機過酸化物をドライブレンドして混合ペレットを得た。
次に、前記混合ペレットを二軸押出機(口径57mm、L/D=32)のホッパーに供給し、表2に示した押出条件となるように溶融混練し、二軸押出機先端に装着されたストランドダイより改質脂肪族ポリエステル系樹脂のストランドを押出し、水槽で冷却して、ペレタイザーでペレット状に裁断することで発泡用樹脂組成物のペレットを得た。発泡用樹脂組成物の物性を表2に示す。
【0129】
【0130】
<発泡シートの作製>
前もって80℃で4時間除湿乾燥した発泡用樹脂組成物100質量部と気泡調整剤としてタルク(松村産業社製、商品名「クラウンタルクPP」)0.5質量部とをドライブレンドして配合物とした。
2台の押出機が接続されたタンデム押出機(上流側の第1押出機は単軸押出機(口径55mm)、下流側の第2押出機は単軸押出機(口径65mm))の第1押出機のホッパーに配合物を供給し、第1押出機内で溶融混練しつつ第1押出機の途中で発泡剤として二酸化炭素4.3質量部を圧入し溶融混練物を得た。
該溶融混練物を第2押出機に移送して溶融混練物を樹脂温度が140℃となるように冷却し、第2押出機の先端に装着されたサーキュラーダイ(口径60mm)から吐出量30kg/hにて押出発泡して発泡シートで構成された円筒体を形成した。
円筒状の発泡シートの内方側及び外方側に冷却空気を吹きつけ、ついで所定のマンドレルの外周面に円筒体の内面を摺接させ、円筒体の内面から冷却した。その後、円筒体の1箇所を押出方向に沿って連続的に切断し長尺帯状の発泡シートを得、ロール状に巻取りを行った。
巻取機の引取速度を変えて、坪量100g/m2、坪量65g/m2、坪量40g/m2の発泡シートをそれぞれ作製した。得られた発泡シートの評価結果を表2に示す。
【0131】
(実施例2)
表2の配合と押出条件に従い、実施例1と同様にして発泡シートを作製した。得られた発泡用樹脂組成物の物性及び発泡シートの評価結果を表2に示す。
【0132】
(実施例3~6)
表2の配合と押出条件に従い、実施例1と同様にして発泡シートを作製した。巻取機の引取速度を変えて、坪量100g/m2、坪量65g/m2の発泡シートは作製できたが(表2中の作製可否は「可」)、さらに巻取機の引取速度を上げて発泡シート作製しようとすると、樹脂の伸びが悪く発泡シートが切断し、坪量40g/m2の発泡シートは作製できなかった(表2中の作製可否は「不可」)。得られた発泡シートの評価結果を表2に示す。
【0133】
(実施例7~10)
口径51mm、L/D=48の二軸押出機を用いて表2の配合と押出条件に従って発泡用樹脂組成物を作製したこと以外は、実施例1と同様にして発泡シートを作製した。得られた発泡用樹脂組成物の物性及び発泡シートの評価結果を表2に示す。
【0134】
(比較例1)
発泡用樹脂組成物として改質脂肪族ポリエステル系樹脂の代わりに改質していない脂肪族ポリエステル系樹脂(B)(非改質脂肪族ポリエステル系樹脂)を用い、表2の配合に従い、押出条件と引取機の引取速度を調整した以外は、実施例1と同様にして発泡シートを作製した。発泡用樹脂組成物の物性及び得られた発泡シートの評価結果を表2に示す。
【0135】
(比較例2、3)
表2の配合と押出条件に従い、実施例1と同様にして発泡シートを作製した。巻取機の引取速度を変えて、坪量100g/m2、発泡シートは作製できたが(表2中の作製可否は「可」)、さらに巻取機の引取速度を上げて発泡シート作製しようとすると、樹脂の伸びが悪く発泡シートが切断し、坪量65g/m2及び坪量40g/m2の発泡シートは作製できなかった(表2中の作製可否は「不可」)。得られた発泡用樹脂組成物の物性及び発泡シートの評価結果を表2に示す。
【0136】
尚、比較例1の発泡用樹脂組成物を用いて得られた発泡シートの示差走査熱量分析の結果を
図3に、実施例1の発泡用樹脂組成物を用いて得られた発泡シートの示差走査熱量分析の結果を
図4に示す。また、実施例1の発泡用樹脂組成物の動的粘弾性測定での周波数と貯蔵弾性率との関係を両対数軸のグラフで表して周波数0.01Hz~0.1Hzの範囲で直線近似した様子を
図5に示し、実施例1の発泡用樹脂組成物の複素粘度(η
*)の測定結果を
図6に示す。さらに比較例1の発泡用樹脂組成物の動的粘弾性測定での周波数と貯蔵弾性率との関係を両対数軸のグラフで表して周波数0.01Hz~0.1Hzの範囲で直線近似した様子を
図7に示し、比較例1の発泡用樹脂組成物の複素粘度(η
*)の測定結果を
図8に示す。
【0137】
本発明を適用した実施例1~10の総合評価は、「△」~「◎」であった。一方、比較例1~3の評価項目のいずれかに「×」があり、総合評価はいずれも「×」であった。
以上の結果から、本発明を適用した発泡用樹脂組成物は、発泡性に優れ、軽量性(低密度、低坪量)に優れた発泡シートを得られることが確認された。