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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103469
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】水不溶性担体及びカラム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20240725BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20240725BHJP
   B01D 63/10 20060101ALI20240725BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
A61M1/36 165
B01D71/82 500
B01D63/10
B01D69/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024006460
(22)【出願日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2023007006
(32)【優先日】2023-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】韓 愛善
(72)【発明者】
【氏名】上野 良之
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
【Fターム(参考)】
4C077BB03
4C077MM03
4C077PP13
4C077PP15
4D006GA06
4D006HA03
4D006HA19
4D006HA61
4D006JA07Z
4D006JA14Z
4D006JA18Z
4D006JA19Z
4D006JA25Z
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA04
4D006MA40
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC24
4D006MC30
4D006MC37
4D006MC39
4D006MC54
4D006MC55
4D006MC73
4D006MC74
4D006MC75
4D006MC77
4D006MC78
4D006PA01
4D006PB09
4D006PB46
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】本発明は、血小板等の血球成分の付着を抑制した水不溶性担体及び該水不溶性担体を内蔵したカラムを提供することを目的とする。
【解決手段】リガンドが結合し、表面の算術平均粗さが0.01μm以上1.0μm以下であり、かつ、表面の最大高さ粗さが0.025μm以上10.0μm以下である、水不溶性担体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リガンドが結合し、
表面の算術平均粗さが0.01μm以上1.0μm以下であり、かつ、表面の最大高さ粗さが0.025μm以上10.0μm以下である、水不溶性担体。
【請求項2】
長手方向に対し垂直な断面の凸度が、0.90以上1.00以下である、請求項1記載の水不溶性担体。
【請求項3】
海島複合中実繊維である、請求項1又は2記載の繊維。
【請求項4】
前記リガンドが、カルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基、イミダゾール基、活性ハロゲン基、エポキシ基及び酸無水物基からなる群から選択される官能基を含む、請求項1又は2記載の水不溶性担体。
【請求項5】
血球成分の付着を抑制する、請求項1又は2記載の水不溶性担体。
【請求項6】
前記血球成分が血小板である、請求項5記載の水不溶性担体。
【請求項7】
請求項1又は2記載の水不溶性担体を内蔵するカラム。
【請求項8】
血液浄化用である、請求項7記載のカラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板等の血球成分の付着を抑制した水不溶性担体及びカラムに関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の処理液を体外に取り出し、処理液中の病因物質等の有害物質を吸着カラムによって吸着除去し、浄化してから再び体内に戻す治療としては、アフェレシスと呼ばれる血液浄化療法が普及している。アフェレシス療法としては主に単純血漿交換療法、二重濾過血漿交換療法、血液から血漿を分離した後で血漿の有害物質を除去する血漿吸着療法及び全血のまま有害物質を除去する血液吸着療法がある。
【0003】
血漿吸着療法や血液吸着療法は、吸着カラムに内蔵されたビーズや繊維等の吸着担体で血液を浄化する治療方法である。吸着担体がビーズの場合、吸着カラム内に均一に内蔵できるため、血液流れの偏りが少なく、カラム設計をし易い利点がある。しかし、カラム内でのビーズ間の隙間が狭く、圧力損失が増加して血液が詰まり易くなる懸念がある。一方、吸着担体が繊維の場合、カラム設計はビーズと比較して容易ではないものの、圧力損失の増大を防ぐことが可能である。
【0004】
有害物質の吸着性能を向上させる方法としては、吸着担体の表面形状又は内部の細孔径を制御する試みや、特定の有害物質と特異的に相互作用する化合物を吸着担体に結合させる試みが行われてきた。特に、特定の有害物質と特異的に相互作用する化合物による吸着は吸着選択性が高く、有害物質の効率的な吸着除去に好適である(特許文献1)。
【0005】
上記吸着材料は血液や血漿等と直接接触するため、高い吸着性能に加えて高度な血液適合性が要求される。すなわち、血小板や白血球の付着、活性化を抑制することが求められる。吸着材料の血液適合性を高める試みとしては、過去に、ヘパリン等の抗血栓性物質を材料表面に結合させる方法(特許文献2)や、表面を平滑化し、タンパク質の吸着を抑制した血液浄化膜が報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/049962号
【特許文献2】特開2019-177061号公報
【特許文献3】特開2005-224604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の吸着材料では、繊維に結合した、特定の有害物質と特異的に相互作用する化合物により、有害物質を効率的に吸着除去しているが、特定の有害物質と特異的に相互作用する化合物を結合させる過程で繊維表面に凹凸が生じるため、血小板等の血球成分も同時に吸着除去される問題があった。特許文献2の抗血栓性材料では、吸着担体表面に抗血栓性物質が結合しているために、有害物質を吸着するための化合物をさらに結合させることが困難であった。特許文献3の血液浄化膜は、血液浄化膜表面の凹凸を制御し、タンパク質吸着を抑制することで分離膜の分離性能を維持するものであり、リガンドを有していないため、有害物質の効率的な吸着除去は困難であった。また、リガンドを有する材料における表面の状態についても開示されていない。
【0008】
そこで本発明は、血小板等の血球成分の付着を抑制した水不溶性担体及び該水不溶性担体を内蔵したカラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、水不溶性担体にリガンドを結合させ、かつ、水不溶性担体表面の算術平均粗さ及び最大高さ粗さを所定の範囲とすることにより、血小板等の血球成分の付着を抑制可能であることを見出した。すなわち、上記課題を解決する本発明は、以下の構成からなる。
(1)リガンドが結合し、表面の算術平均粗さが0.01μm以上1.0μm以下であり、かつ、表面の最大高さ粗さが0.025μm以上10.0μm以下である、水不溶性担体
(2)長手方向に対し垂直な断面の凸度が0.90以上1.00以下である、上記(1)に記載の水不溶性担体
(3)海島複合中実繊維である、上記(1)又は(2)記載の水不溶性担体
(4)上記リガンドが、カルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基、イミダゾール基、活性ハロゲン基、エポキシ基及び酸無水物基からなる群から選択される官能基を含む、上記(1)~(3)のいずれか記載の水不溶性担体
(5)血球成分の付着を抑制する、上記(1)~(4)のいずれか記載の水不溶性担体
(6)上記血球成分が血小板である、上記(5)に記載の水不溶性担体
(7)上記(1)~(6)のいずれかに記載の水不溶性担体を内蔵するカラム
(8)血液浄化用である、上記(7)に記載のカラム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、血小板等の血球成分の付着を抑制する水不溶性担体を提供することができる。さらに本発明の一実施形態によれば、血液中の特定の有害物質と特異的に相互作用する任意の化合物が該水不溶性担体に結合しているため、任意の有害物質を効率的に吸着除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ラジアルフロー型の細胞吸着カラムの一例の縦断面図である。
図2】繊維の長手方向に対し垂直な断面における凸度の解析の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、リガンドが結合し、表面の算術平均粗さが0.01μm以上1.0μm以下であり、かつ、表面の最大高さ粗さが0.025μm以上10.0μm以下である、水不溶性担体である。
【0013】
「リガンド」とは、対象となる標的物質と選択的に相互作用することにより、標的物質を吸着することが可能であり、水不溶性担体に結合した化合物を意味する。「水不溶性担体に結合した」とは、水不溶性担体のいずれかの部分に結合していることを意味する。また、「繊維に結合した」とは、繊維のいずれかの部分に結合していることを意味する。
【0014】
例えば、水不溶性担体の表面に結合していてもよく、水不溶性担体の内部に貫通孔を有する場合は、貫通孔の外層部分に結合していてもよい。なかでも、標的とする有害物質と相互作用する観点から、有害物質を含む被処理液と接触する表面に結合していることが好ましい。
【0015】
本発明の水不溶性担体に結合しているリガンドは、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。リガンドとしては、反応性官能基を有する化合物でもよく、有害物質と相互作用することが可能な低分子化合物、高分子化合物、ペプチド、核酸又は抗体のいずれでもよい。
【0016】
有害物質と相互作用することが可能な低分子化合物、高分子化合物、ペプチド、核酸又は抗体は、水不溶性担体に直接結合していてもよく、水不溶性担体に結合した反応性官能基を有する化合物を介して結合していてもよい。
【0017】
中でも、標的とする有害物質に応じて、該有害物質と特異的に相互作用する任意の化合物を後から導入できる観点から、リガンドは反応性官能基を有する化合物であることが好ましい。
【0018】
反応性官能基としては、例えば、カルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基、イミダゾール基、ハロメチル基、ハロアセチル基、ハロアセトアミドメチル基若しくはハロゲン化アルキル基等の活性ハロゲン基、エポキシ基又は酸無水物基等が挙げられる。これらの中でも、活性ハロゲン基(特にハロアセチル基)は、製造が容易であり、反応性が適度に高く、さらに別の有害物質と特異的に相互作用する化合物を化学的に安定的に結合できる点で、好ましい。
【0019】
「カルボキシル基」とは、カルボン酸を部分構造として一つ以上含む構造を意味し、例えば、ぎ酸、酢酸若しくはアクリル酸等の脂肪族カルボン酸、安息香酸、フタル酸又は2-ピリジンカルボン酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
【0020】
「硫酸基」とは、硫酸を部分構造として一つ以上含む構造を意味し、例えば、ヘパリン、コンドロイチン硫酸又はデキストラン硫酸等の硫酸化多糖等が挙げられる。
【0021】
「スルホン酸基」とは、スルホン酸を部分構造として一つ以上含む構造を意味し、例えば、スルホン酸若しくはメタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、2-メチルベンゼンスルホン酸若しくは4-メチルベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸又はフルオロスルホン酸若しくはクロロスルホン酸等のハロスルホン酸等が挙げられる。
【0022】
「リン酸基」とは、リン酸を部分構造として一つ以上含む構造を意味し、例えば、リン酸トリメチル若しくはリン酸水素ジメチル等の脂肪族リン酸又はリン酸ジベンジル若しくはリン酸トリフェニル等の芳香族リン酸等が挙げられる。
【0023】
「アミノ基」とは、アミンを部分構造として一つ以上含む構造を意味し、例えば、アンモニア由来のアミノ基、アミノメタン、アミノエタン若しくはアミノプロパン等の1級アミン由来のアミノ基、ジメチルアミン、ジエチルアミン、フェニルエチルアミン若しくは3-アミノ-1-プロペン等の2級アミン由来のアミノ基、トリエチルアミン、フェニルジエチルアミン若しくはアミノジフェニルメタン等の3級アミン由来のアミノ基又はエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ポリエチレンイミン(重量平均分子量500~100000)若しくはN-メチル-2,2’-ジアミノジエチルアミン等のアミノ基を複数有する化合物由来のアミノ基が挙げられる。
【0024】
「アミド基」とは、アミドを部分構造として一つ以上含む構造を意味し、例えば、アセトアミド、トリメチルアセトアミド若しくはスクシンアミド等の脂肪族アミド又はベンズアミド、о-アミノベンズアミド若しくはニコチンアミド等の芳香族アミド等が挙げられる。
【0025】
「イミダゾール基」とは、イミダゾールを部分構造として一つ以上含む構造を意味し、例えば、1-メチルイミダゾール、N-アセチルイミダゾール若しくは5(4)-アミノ-4(5)-アミノカルボニルイミダゾール等の脂肪族イミダゾール又は2-アミノベンズイミダゾール若しくは5,6-ジメチルベンズイミダゾール等の芳香族イミダゾール等が挙げられる。
【0026】
「活性ハロゲン基」とは、ハロゲンを部分構造として一つ以上含む構造を意味し、例えば、ハロメチル基、ハロアセチル基、ハロアセトアミドメチル基又はハロゲン化アルキル基等が挙げられる。
【0027】
「エポキシ基」とは、エポキシを部分構造として一つ以上含む構造を意味し、例えば、エピクロロヒドリン、プロピレンオキサイド又は1,2-ブチレンオキサイド等が挙げられる。
【0028】
「酸無水物基」とは、2つのカルボン酸が脱水縮合した構造を部分構造として一つ以上含む構造を意味し、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸又は無水フタル酸等が挙げられる。
【0029】
水不溶性担体に結合した反応性官能基を有する化合物を介して後から結合させる有害物質と特異的に相互作用する任意の化合物としては、有害物質と相互作用することが可能であればよく、低分子化合物、高分子化合物、ペプチド、核酸又は抗体等が挙げられる。
【0030】
水不溶性担体にリガンドとして反応性官能基を有する化合物を導入する方法としては、反応性官能基を有する化合物と水不溶性担体とを予め反応させる方法が挙げられる。例えば、水不溶性担体がポリスチレンであり、反応性官能基を有する化合物がクロルアセトアミドメチル基である場合は、ポリスチレンとN-メチロール-α-クロルアセトアミド(以下「NMCA」という)を反応させることで、クロルアセトアミドメチル基を付加したポリスチレンを得ることができる。
【0031】
本発明の水不溶性担体は、表面の算術平均粗さが0.01μm以上1.0μm以下である。
【0032】
「算術平均粗さ」とは、水不溶性担体の長手方向の粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLのみを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にx軸を、縦倍率の方向にy軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表した時に、下記式(1)で求められる値であり、JIS B 0601-2001に準拠した算術平均粗さ(Ra)を意味する。具体的には後述する「算術平均粗さの測定」に記載の方法で算出できる。なお粗さ曲線は、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK-9700、キーエンス社製)等で測定できる。
【0033】
【数1】
【0034】
水不溶性担体の表面の算術平均粗さを0.01μm以上とすることで、水不溶性担体の表面積が大きくなり、水不溶性担体の表面に結合可能なリガンド量が増加するため、標的とする有害物質の十分な吸着性能を得ることができる。一方、水不溶性担体の表面の算術平均粗さを1.0μm以下とすることで、血小板等の吸着を抑制できる。また、血小板の吸着が増加すると、血小板を介して白血球も水不溶性担体に吸着し易くなる。上記の理由から、水不溶性担体の表面の算術平均粗さは、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.2μm以上であり、さらに好ましくは0.3μm以上であり、さらにより好ましくは0.4μm以上である。一方で、好ましくは0.8μm以下であり、より好ましくは0.7μm以下である。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
【0035】
本発明の水不溶性担体は、さらに表面の最大高さ粗さが0.025μm以上10.0μm以下である。
【0036】
「最大高さ粗さ」とは、粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLのみを抜き取り、この抜き取り部分の平均線から山頂線までの距離と、平均線から谷底線までの距離を足し合わせることで求められる値であり、JIS B 0601-2001準拠の最大高さ粗さ(Rz)を意味する。具体的には後述する「最大高さ粗さの測定」に記載の方法で算出できる。
【0037】
水不溶性担体の表面の最大高さ粗さを0.025μm以上とすることで、水不溶性担体表面に十分な量のリガンドを結合することができ、標的とする有害物質の十分な吸着性能を得ることができる。一方、水不溶性担体の表面の最大高さ粗さを10.0μm以下とすることで、水不溶性担体の表面の凹凸による血小板や白血球の吸着を抑制できる。
【0038】
上記の理由から、水不溶性担体の表面の最大高さ粗さは、好ましくは2.5μm以上であり、より好ましくは3.0μm以上であり、さらに好ましくは3.5μm以上であり、さらにより好ましくは4.0μm以上である。一方で、好ましくは8.0μm以下であり、より好ましくは7.0μm以下であり、さらに好ましくは6.0μm以下である。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
【0039】
上記のようにリガンドが結合した水不溶性担体において、算術平均粗さ及び最大高さ粗さを同時に所定の範囲とすることで、血小板の吸着を抑制することができる。
【0040】
なお、水不溶性担体の表面の算術平均粗さ及び最大高さ粗さは、水不溶性担体の材質若しくは重量平均分子量、水不溶担体へリガンドを結合する際の反応溶媒の種類等により制御できる。また、水不溶担体が繊維の場合であれば、繊維の島数又は海島比率によっても制御できる。例えば、反応溶媒中における水不溶性担体の膨潤を促進する溶媒の質量比率が低いほど、水不溶性担体表面の算術平均粗さ及び最大高さ粗さは小さくなる。
【0041】
本発明の水不溶性担体の長手方向に対し垂直な断面の凸度は、0.90以上1.00以下であることが好ましい。
【0042】
「凸度」とは、対象の形体である、水不溶性担体の長手方向に対し垂直な断面における凹みの少なさを表す指標を意味し、0.00以上1.00以下の値をとる。すなわち上限は1.00であり、1.00に近い値であるほど、対象の形体の凹みが少ないことを意味する。凸度は、水不溶性担体の断面の画像を画像解析ソフトウェアで解析することで算出できる。具体的には後述する「凸度の測定」に記載の方法で算出できる。水不溶性担体表面の凹みを少なくすることにより、血小板等の血球成分への水不溶性担体表面による刺激が低減し、血小板の付着を抑制できることから、水不溶性担体の長手方向に対し垂直な断面の凸度は、より好ましくは0.95以上であり、さらに好ましくは0.97以上である。
【0043】
凸度は、リガンドを水不溶性担体に結合する際の反応溶媒の種類等により制御でき、水不溶性担体が繊維の場合であれば、繊維の島の配置等でも制御できる。例えば、反応溶媒中における水不溶性担体の膨潤を促進する溶媒の質量比率が低く、水不溶性担体が繊維の場合は、表面から島までの距離が短いほど、凸度は大きくなる。
【0044】
水不溶性担体とは、水に不溶の物質を指し、構成する成分として、水に不溶であればよく、例えば、ポリスチレンに代表されるポリ芳香族ビニル化合物、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド又はポリフェニレンサルファイド等の高分子材料が挙げられ、市販されているもの又は公知の方法若しくはそれに準じた方法により製造したものを用いることができる。これらの高分子材料は、血液と接触した際に補体を活性化し易いとされている水酸基を実質的に有しない材料である。
【0045】
水不溶性担体を構成する成分として、これらの高分子材料を、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも単位質量当たりの芳香環の数が多いほど、リガンドを結合させ易いことから、水不溶性担体を構成する成分は、ポリ芳香族ビニル化合物、例えば、ポリスチレンを含む高分子材料であることが好ましい。また、ポリスチレン部分にリガンドを導入し易い点、ポリオレフィン部分により強度が補強され扱い易い点及び耐薬品性が高い点から、高分子材料としては、ポリスチレンとポリオレフィンの共重合体、例えば、ポリスチレンとポリエチレンの共重合体又はポリスチレンとポリプロピレンの共重合体が好ましい。また、高分子材料は、ブレンド又はアロイ化したものでもよく、特に、ポリスチレンとポリオレフィンのポリマーアロイ、例えば、ポリスチレンとポリエチレンのポリマーアロイ又はポリスチレンとポリプロピレンのポリマーアロイは、耐薬品性を有し、物理形状を保持し易い観点から、好ましい。その中でも、血液浄化療法で使用実績のあるポリスチレンとポリプロピレンのポリマーアロイがより好ましい。
【0046】
本発明の水不溶性担体の形状としては、繊維状、ビーズ状、フィルム状及び中空糸状等が挙げられる。しかしながら、水不溶性担体の形状は特に問わず、用途に応じて、適宜、使い分けることが可能である。中でも、血液通液時に血小板の付着を誘発する圧力損失の増大を抑制できる点で繊維又は中空糸が好ましく、繊維であれば、編み地が好ましい。
【0047】
また、材料としての強度を保つ観点から、複合繊維であることが好ましく、海島複合中実繊維であることがより好ましい。中でも、島部が補強材となる成分であり、海部が水不溶性高分子と島部の成分とのアロイである海島複合中実繊維がさらに好ましい。
【0048】
島部の成分としては、例えば、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリメチルメタクリレート又はポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。これらの高分子は、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。中でも、耐薬品性が高く、熱可塑性にも優れていることから、ポリプロピレンが好ましい。すなわち、海島複合中実繊維としては島部がポリプロピレンであり、海部が水不溶性高分子とポリプロピレンのアロイである海島複合中実繊維であることが好ましい。ポリプロピレンとの相溶性の観点やリガンドを結合させ易いことから、島部がポリプロピレンであり、海部はポリスチレンとポリプロピレンのポリマーアロイである海島複合中実繊維であることがより好ましい。
【0049】
島部がポリプロピレンであり、海部がポリスチレンとポリプロピレンのポリマーアロイである海島複合中実繊維にリガンドを結合させる際の反応溶媒としては、例えば、ニトロベンゼンと硫酸を用いることができる。このとき、ニトロベンゼンは繊維に浸透し膨潤させることから、ニトロベンゼンの比率を下げることで、繊維の表面の算術平均粗さ及び最大高さ粗さを適切な範囲とすることができる。上記の理由から、ニトロベンゼンと硫酸の質量比率(ニトロベンゼン:硫酸)は、好ましくは45.0:55.0であり、より好ましくは37.5:62.5である。
【0050】
本発明の水不溶性担体は、血球成分の付着を抑制する用途に好適に用いられる。また、血球成分の中でも、特に血小板の付着を抑制する用途に好適に用いられる。
【0051】
本発明において、「血球成分の付着を抑制する」とは、水不溶性担体における赤血球、白血球、又は血小板付着率が65%以下であることを意味する。本発明の水不溶性担体における血小板付着率は、好ましくは60%以下であり、より好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは40%以下である。血小板付着率の試験系としては、例えば、ヒト血液を用いた通液式血小板付着試験(本実施例参照)が挙げられる。また、評価系としては、例えば、自動血球分析装置による分析(本実施例参照)が挙げられる。
【0052】
本発明のカラムについて、繊維を内蔵したカラム内部の構成の一例を、図1に沿って説明する。図1において、1は容器本体であり、その長手方向の前端と後端とに流入口2と流出口3とを有する。流入口2の内側には、フィルター4と円板状の仕切板5が設けられ、また、流出口3の内側には、フィルター6と円板状の仕切板7が設けられている。
【0053】
2枚の仕切板5、7のうち、前側(流入口側)の仕切板5には中心部に開口5aが設けられ、また、後側の仕切板7の中心部には支持突起7aが設けられている。また、仕切板7の外周には、多数の透孔7bが周方向に間欠的に設けられている。さらに仕切板5の開口5aと仕切板7の支持突起7aとの間に、1本のパイプ8が掛け渡されている。
【0054】
パイプ8は血液を誘導する流路9を内側に形成し、かつ周壁に多数の貫通孔10を有する。また、パイプ8は、その前端で仕切板5の開口5aに連通しており、また、その後端は仕切板7の支持突起7aにより閉止されている。このパイプ8の外周に、複数の繊維11を合糸して作成した編み地が何重にも複数層に巻き付けられている。
【0055】
この繊維を内蔵したカラムを循環法に使用するときは、流入口2と流出口3に、血液プールとの間に循環回路を形成したチューブを連結し、その血液プールから取り出される血液を流入口2に供給し、内部の繊維11で病因タンパク質等の有害物質、すなわち対象吸着物質を吸着除去して流出口3から流出し、再び血液プールに戻すように循環させる。
【0056】
カラム内では、流入口2からフィルター4を経て流路9に侵入した血液は、流路9を移動しながら貫通孔10から順次繊維11に浸入する。そして、半径方向のいずれかへ移動する血液中の対象吸着物質を吸着する。対象吸着物質が吸着除去された血液は、仕切板7の外周の多数の透孔7bから流出し、フィルター6を経て流出口3から流出する。上記の例では血液が開口5aからパイプ8内の流路9を流動しながら貫通孔10から流出するが、繊維を内蔵したカラムにおける血液の移動方向は、上記とは逆にして、流出口3から血液を供給し、流入口2から流出させるようにしてもよい。
【0057】
血小板等の血球成分の付着は、カラム内の血液線速度によっても発生する。すなわち、血液線速度が速い場合、血小板等の血球成分の活性化を惹起し、水不溶性担体の表面に付着し易くなる可能性がある。一方、血液線速度が遅い場合、血小板等の血球成分と水不溶性担体との接触時間が増えることにより、水不溶性担体の表面に付着する血小板等の血球成分の数が増える可能性がある。したがって、カラム入口の流速Sinが50cm/分のときの繊維内の血液線速度の最大値は、好ましくは50cm/分以下であり、より好ましくは25cm/分以下である。また、カラム入口の流速が50cm/分であるときの繊維内の血液線速度の最小値は、好ましくは0.1cm/分以上であり、より好ましくは0.5cm/分以上である。
【0058】
ここで、血液線速度は、計算によって求められるものであり、例えば、下記のラジアルフロー型のカラムの場合、繊維内の血液線速度の最大値(Vmax)は、中心パイプの側面に空いた開口部の合計面積(S)とカラム入口の流速Sin(50cm/分)から、下記式(2)により算出される。
max(cm/分)=Sin(cm/分)/S(cm) ・・・式(2)
【0059】
また、最小値(Vmin)は中心パイプに巻き付けた繊維の最外周面の面積(S)とカラム入口の流速Sin(50cm/分)から、下記式(3)により算出される。
min(cm/分)=Sin(cm/分)/S(cm) ・・・式(3)
【0060】
さらには、本発明のカラムとしては、供給された血液を流出するために設けられた貫通孔を長手方向の側面に備える中心パイプと、上記中心パイプの周りに繊維が内蔵されており、流入する上記血液が、上記中心パイプの中を通るように上記中心パイプの上流端に連通され、上記血液が上記中心パイプを通過せずに繊維と接触するのを防ぐように配置されたプレートAと、上記中心パイプの下流端を封鎖し、繊維を上記中心パイプの周りの空間に固定するように配置されたプレートBと、を備えるラジアルフロー型のカラムが好ましい。
【0061】
これは、血液が繊維を均一に流れるようにするためである。なお、上記中心パイプの貫通孔の開口率が低い場合、この部分で圧力損失が生じ易くなるために、血小板等の血球成分が活性化し、これらが繊維に付着し易くなる可能性がある。また、開口率が高い場合は、パイプの強度が低下すること、血液入口部付近の貫通孔でショートパスを起こし易くなる等の課題が出てくる可能性がある。したがって、貫通孔の開口率は、好ましくは20%以上80%以下であり、より好ましくは30%以上60%以下である。
【0062】
「ラジアルフロー型」とは、カラム内部の血液の流れ方をいう。カラムの入口と出口に血液が垂直方向に流した場合、カラム内部で、水平方向の血液流れが存在する場合に、ラジアルフロー型と呼ぶ。
【0063】
「貫通孔の開口率」とは、下記式(4)で求められる値を意味する。
貫通孔の開口率(%)=パイプの長手方向の側面に形成された貫通孔の面積の和/パイプの側面の面積×100 ・・・式(4)
【0064】
本発明のカラムは、血液浄化用途に用いることができる。本発明のカラムを血液浄化用カラムとして使用することで、血小板等の血球成分の付着を抑制しつつ、血液中から病因タンパク質等の有害物質を吸着除去できる。例えば、血液を体外循環させて、本発明のカラムに通すことにより、血液中から血小板等の血球成分の付着を抑制しつつ、血液中から病因タンパク質等の有害物質を吸着除去できる。より具体的には、本発明のカラムは、妊婦や小児等、体内の血液動態を安定させながら治療を行う必要がある場合に好適に用いることができる。
【実施例0065】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0066】
<算術平均粗さの測定>
真空乾燥機で3時間以上乾燥させた繊維又はビーズの表面を、下記条件で撮影し、粗さ曲線を測定した。
【0067】
測定装置:カラー3Dレーザー顕微鏡 VK-9700(キーエンス社製)
対物レンズ倍率:100倍
Z軸方向測定ピッチ:0.01μm
明るさ:1360
カメラゲイン:12dB
【0068】
得られた粗さ曲線において、その平均線の方向に基準長さLのみを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にx軸を、縦倍率の方向にy軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表し、下記式(1)により算術平均粗さを算出した(JIS B 0601-2001準拠)。基準長さLを2μmとし、上記繊維1本、又はビーズ1個につき5カ所を測定範囲として選択した。さらに、別の繊維10本、又はビーズ10個においても同様に測定範囲を選択し、合計50カ所の測定範囲で測定した値の平均値を、繊維又はビーズの表面の算術平均粗さとした。
【0069】
【数2】
なお、平均値は小数点第2位を四捨五入した値を用いた。
【0070】
<最大高さ粗さの測定>
「算術平均粗さの測定」で得られた粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLのみを抜き取り、この抜き取り部分の平均線から山頂線までの距離と、平均線から谷底線までの距離を足し合わせることで、最大高さ粗さを算出した(JIS B 0601-2001準拠)。「算術平均粗さの測定」と同様の方法で、合計50カ所の測定範囲で測定した値の平均値を、繊維又はビーズの表面の最大高さ粗さとした。なお、平均値は小数点第2位を四捨五入した値を用いた。
【0071】
<凸度の測定>
真空乾燥機で3時間以上乾燥させた繊維又はビーズを樹脂包埋し、ウルトラミクロトームを用いて、繊維又はビーズの長手方向に対して垂直な断面を作製した。上記の繊維又はビーズの断面を撮影し、得られた対象の形体である繊維又はビーズの断面の画像Xについて、画像解析ソフトウェアのImageJを使用し、解析を行った。
【0072】
その一例を図2に示した。画像X中の繊維又はビーズの長手方向に対し垂直な断面の外周21を囲い、該繊維の断面積及び繊維の長手方向に対し垂直な断面の外周に対する凸包22の面積を求め、下記式(5)より凸度を算出し、小数点第3位を四捨五入した値を用いた。
凸度=S(μm)/S(μm) ・・・式(5)
式(5)中、Sは繊維又はビーズの長手方向に対して垂直な断面の断面積、Sは繊維又はビーズの長手方向に対して垂直な断面の外周に対する凸包22の面積である。なお「凸包」とは、与えられた点をすべて包含する最小の凸多角形を意味する。
【0073】
<血小板付着率の測定>
円筒状のカラム(直径10mm、高さ14mm)に乾燥質量0.3gの繊維又はビーズ及び生理食塩水を充填し、高圧蒸気滅菌(117℃、105分)を行った。その後、カラムに対し、終濃度50単位/mLのヘパリン添加生理食塩水を1.54mL/分で2.5分間通液した。次に、ヒト健常者から採血した血液(終濃度50単位/mLのヘパリンを添加)を0.31mL/分で通液し、10分後のカラム出口側の血液を採取した。カラム入口側の血液についても10分後に採取した。採取した血液を自動血球分析装置XN-1000V(シスメックス社製)で分析し、血小板数を算出した。
【0074】
血小板付着率は、下記式(6)により算出した。
血小板吸着率(%)=(1-カラム出口側の血液中の血小板数(個/μL)/カラム入口側の血液中の血小板数(個/μL))×100 ・・・式(6)
なお、小数点第1位を四捨五入した値を用いた。
【0075】
<海島複合中実繊維及び原編み地の作製>
ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製;J105WT)からなる島成分を264島有し、ポリスチレン(重量平均分子量:181,000)90質量%及びポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製;J105WT)10質量%からなる海成分を有し、島と海の比率(質量比)が50:50である、海島複合中実繊維(繊維の直径:20μm)を紡糸した。得られた繊維36本を合糸して編み地を作製した(以下「原編み地」という)。
【0076】
[実施例1]
ニトロベンゼン(90g)と硫酸(150g)の混合溶液にPFA(0.26g)を氷浴中で溶解した。さらに、NMCA(18.1g)を加えて氷浴中で2時間撹拌し、溶解した。この溶液に原編み地(10g)を浸漬し、氷浴中で2時間反応させた。反応後、編み地を取り出し、ニトロベンゼンとメタノールの混合溶液に浸漬して洗浄した。さらに、メタノールで置換、洗浄し、イオン交換水で洗浄して、編み地E1を得た。
【0077】
[実施例2]
ニトロベンゼン(108g)と硫酸(132g)の混合溶液とした以外は実施例1と同様の操作を行い、編み地E2を得た。
【0078】
[実施例3]
原編み地の代わりにポリスチレンビーズ(Polyscience社)を浸漬した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ビーズE3を得た。
【0079】
[比較例1]
ニトロベンゼン(126g)と硫酸(114g)の混合溶液とした以外は実施例1と同様の操作を行い、編み地C1を得た。
【0080】
[比較例2]
ニトロベンゼン(120g)と硫酸(120g)の混合溶液とした以外は実施例1と同様の操作を行い、編み地C2を得た。
【0081】
編み地(E1、E2、C1、C2)又はビーズ(E3)について、水不溶性担体の形状、水不溶性担体に結合しているリガンド、反応溶媒中のニトロベンゼンと硫酸の質量比率及び繊維に含有されている島成分の本数と、上述の方法により測定された、表面の算術平均粗さ、最大高さ粗さ、長手方向に対し垂直な断面の凸度、血小板付着率を測定した結果を表1に示した。
【0082】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の水不溶性担体及び水不溶性担体を内蔵したカラムは、血小板等の血球成分の付着を抑制することができ、特定の有害物質と特異的に相互作用をする任意の化合物を導入することで血中の有害物質を効率的に吸着除去できる。そのため、小児や妊婦等、体内の血球動態の変化を可能な限り防ぐべき患者の治療への適用が期待される。
【符号の説明】
【0084】
1 容器本体
2 流入口
3 流出口
4 フィルター
5 仕切板
5a 仕切板の開口
6 フィルター
7 仕切板
7a 仕切板の支持突起
7b 仕切板の透孔
8 パイプ
9 流路
10 貫通孔
11 繊維
Q 血液流れ
21 繊維の長手方向に対し垂直な断面の外周
22 繊維の長手方向に対し垂直な断面の外周に対する凸包
図1
図2