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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103557
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】デブリ回収方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/30 20060101AFI20240725BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
G21F9/30 535A
G21F9/30 531M
G21F9/28 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024085228
(22)【出願日】2024-05-25
(62)【分割の表示】P 2022120932の分割
【原出願日】2014-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】504385339
【氏名又は名称】山本 和浩
(72)【発明者】
【氏名】山本 和浩
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和明
(57)【要約】
【課題】原子力発電所の事故により破壊され複雑な構造となった原子炉内の底部に堆積した核燃料デブリを回収することができる核燃料デブリの回収方法を提供する。
【解決手段】本願発明に係る核燃料デブリの回収方法は、原子炉格納容器2または原子炉圧力容器4内に堆積した核燃料デブリ6の回収方法であって、第1の圧力が維持されるように制御された原子炉格納容器2または原子炉圧力容器4内に核燃料デブリ6が浸漬するように炭酸水8を注入する、または、原子炉格納容器2内または原子炉圧力容器4内に既に存在する液体を炭酸水8とする物質を投入する液体注入工程と、液体注入工程後に炭酸水8を発泡させる発泡工程と、発泡工程後に炭酸水8中に生じた気泡が付着して浮上した核燃料デブリ6を回収する回収工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉内に堆積した燃料デブリの回収方法であって、
第1の圧力が維持されるように制御された前記原子炉内に、前記燃料デブリが浸漬するように、気体が溶存した液体である気体溶存液体を注入する、または前記原子炉内に既に存在する液体を前記気体溶存液体とする物質を投入する液体注入工程と、
前記液体注入工程後に、前記気体溶存液体を発泡させる発泡工程と、
前記発泡工程後に、前記気体溶存液体中に生じ前記気体を含んだ気泡が付着して浮上した前記燃料デブリを回収する回収工程と、を有することを特徴とする燃料デブリの回収方法。
【請求項2】
前記液体注入工程後であって前記回収工程前、または前記発泡工程と同時に、前記燃料デブリを破砕する破砕工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の燃料デブリの回収方法。
【請求項3】
前記第1の圧力は、大気圧によりも低い圧力であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料デブリの回収方法。
【請求項4】
前記発泡工程では、前記原子炉内を前記第1の圧力から第2の圧力に減圧して、前記気体溶存液体を発泡させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料デブリの回収方法。
【請求項5】
前記第1の圧力は、0.500気圧以上0.999気圧以下の範囲内であり、
前記第2の圧力は、前記第1の圧力より低い圧力であることを特徴とする請求項4に記載の燃料デブリの回収方法。
【請求項6】
前記発泡工程では、前記気体溶存液体を昇温して、前記気体溶存液体を発泡させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料デブリの回収方法。
【請求項7】
前記発泡工程では、前記燃料デブリを破砕して燃料デブリ砕片を生成し、生成した前記燃料デブリ砕片を核として、前記気体溶存液体を発泡させることを特徴とする請求項1に記載の燃料デブリの回収方法。
【請求項8】
前記第1の圧力は、大気圧によりも低い圧力であることを特徴とする請求項7に記載の燃料デブリの回収方法。
【請求項9】
前記気体溶存液体は、飽和量の前記気体が溶存した気体溶存液体であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の燃料デブリの回収方法。
【請求項10】
前記気体は、二酸化炭素、水素、アンモニア、窒素、酸素、アルゴンからなる群から選択される1種以上の気体であり、
前記気体が溶存する液体は、水、イオン液体、不活性液体からなる群から選択される1種以上の液体であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の燃料デブリの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料デブリの回収方法に関し、特に原子力発電所の事故で生じた核燃料デブリを原子炉内から回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥処理の技術分野では、処理排水中に空気等を気泡として供給し、その気泡の界面に上記処理排水中に含まれる処理対象物(例えば、懸濁粒子等)を付着させて浮上分離する処理方法(分離方法)が既に知られている。この技術としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-351375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、福島第一原子力発電所の事故で生じた燃料デブリを原子炉内から回収する(取り出す)には、作業者の被ばくを最小限に抑えるため、原子炉内を冠水させた状態で上記燃料デブリを回収する必要がある。冠水させない状態で燃料デブリの回収作業を行なうと、破砕した燃料デブリ(例えば、ウラン)等が粉塵となって空気中に舞い、作業者が被ばくするおそれがある。
この回収すべき燃料デブリは、事故により破壊され複雑な構造となった原子炉内の底部に堆積していることが予想されている。このため、上記燃料デブリの回収に、特許文献1に記載の方法を用いた場合には、供給した空気等の気泡が燃料デブリに到達しにくく、燃料デブリを回収するのは困難であると予想される。換言すると、破壊された原子炉内は複雑な構造となっており、特許文献1に記載の方法では燃料デブリに気泡を確実に届けることは難しいといった課題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、事故により破壊され複雑な構造となった原子炉内の底部に堆積した燃料デブリを回収することができる燃料デブリの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、原子炉内に堆積した燃料デブリの回収方法であって、第1の圧力が維持されるように制御された前記原子炉内に、前記燃料デブリが浸漬するように、気体が溶存した液体である気体溶存液体を注入する、または前記原子炉内に既に存在する液体を前記気体溶存液体とする物質を投入する液体注入工程と、前記液体注入工程後に、前記気体溶存液体を発泡させる発泡工程と、前記発泡工程後に、前記気体溶存液体中に生じ前記気体を含んだ気泡が付着して浮上した前記燃料デブリを回収する回収工程と、を有することを特徴とする燃料デブリの回収方法である。
【0007】
ここで、上記「気体溶存液体を発泡させる」とは、気体溶存液体に溶存していた気体を当該気体溶存液体中に発生させることをいい、外部から気体溶存液体中に気体を供給して気泡を生じさせることではない。
また、この燃料デブリの回収方法では、前記液体注入工程後であって前記回収工程前、または前記発泡工程と同時に、前記燃料デブリを破砕する破砕工程をさらに有することとしてもよい。
また、この燃料デブリの回収方法では、前記第1の圧力は、大気圧によりも低い圧力であることとしてもよい。
【0008】
また、この燃料デブリの回収方法では、前記発泡工程では、前記原子炉内を前記第1の圧力から第2の圧力に減圧して、前記気体溶存液体を発泡させることとしてもよい。
また、この燃料デブリの回収方法では、前記第1の圧力は、0.500気圧以上0.999気圧以下の範囲内であり、前記第2の圧力は、前記第1の圧力より低い圧力であることとしてもよい。
また、この燃料デブリの回収方法では、前記発泡工程では、前記気体溶存液体を昇温して、前記気体溶存液体を発泡させることとしてもよい。
【0009】
また、この燃料デブリの回収方法では、前記発泡工程では、前記燃料デブリを破砕して燃料デブリ砕片を生成し、生成した前記燃料デブリ砕片を核として、前記気体溶存液体を発泡させることとしてもよい。
ここで、上記「核」とは、気体溶存液体を発泡させる際の、いわゆるシード(種)を意味するものである。
また、この燃料デブリの回収方法では、前記第1の圧力は、大気圧によりも低い圧力であることとしてもよい。
【0010】
また、この燃料デブリの回収方法では、前記気体溶存液体は、飽和量の前記気体が溶存した気体溶存液体であることとしてもよい。
ここで、上記「飽和量の気体が溶存した気体溶存液体」とは、気体を最大量溶存させた液体を意味するものである。
また、この燃料デブリの回収方法では、前記気体は、二酸化炭素、水素、アンモニア、窒素、酸素、アルゴンからなる群から選択される1種以上の気体であり、前記気体が溶存する液体は、水、イオン液体、不活性液体からなる群から選択される1種以上の液体であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る燃料デブリの回収方法によれば、事故により破壊され複雑な構造となった原子炉内の底部に堆積した燃料デブリを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る核燃料デブリの回収装置の構成を示す概念図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る核燃料デブリの回収方法のフローを示すフロー図である。
図3】核燃料デブリに気泡が付着した状態を示す概念図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る核燃料デブリの回収方法のフローを示すフロー図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る核燃料デブリの回収方法のフローを示すフロー図である。
図6】原子炉の周囲に複数のガンマ線検出器を並べた状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る核燃料デブリの回収装置の構成を示す概念図である。以下、図1を参照しつつ、本発明の実施形態に係る核燃料デブリの回収装置の構成について説明する。
<構成>
図1には、原子炉格納容器2、原子炉圧力容器4、飽和炭酸水8、破砕装置10、浮上物回収装置14、炭酸水循環補給装置16、パイプ18a、18b、18c、18d、核燃料デブリ砕片濾過回収装置20、圧力制御装置22がそれぞれ示されている。これらについて、以下説明する。
【0014】
原子炉格納容器2は、一般に「マークI型」と呼ばれる原子炉格納容器である。この原子炉格納容器2は、「球部2a」と呼ばれる格納部分と、その上部(図面上側)に配置された「円筒部2b」と呼ばれる格納部分とを備えている。この原子炉格納容器2の内部の略中心部には、円筒形状をした原子炉圧力容器4が格納されている。この原子炉圧力容器4内の底部には、事故により生じた塊状の原子炉圧力容器内核燃料デブリ(以下、単に「核燃料デブリ」ともいう。)6aが堆積している。また、原子炉格納容器2内の底部にも、原子炉圧力容器4から漏れ出した塊状の原子炉格納容器内核燃料デブリ(以下、単に「核燃料デブリ」ともいう。)6bが堆積している。以下、原子炉圧力容器内核燃料デブリ6aと原子炉格納容器内核燃料デブリ6bとを総称して、「核燃料デブリ6」という。ここで、「核燃料デブリ」とは、破壊された炉心の堆積物を意味し、具体的には、炉心が溶融固化してできた、ウランやジルコニウムの酸化物と、溶融した金属(例えば、鉄等)との混合物をいう。なお、この原子炉格納容器2は、いわゆる原子炉建屋1内に格納されている。
【0015】
原子炉格納容器2及び原子炉圧力容器4の内部は、飽和量の気体が溶存した気体溶存液体で満たされている。以下の実施形態では、上記気体溶存液体として、飽和量の二酸化炭素(CO)が溶存した水(HO)(以下、単に「炭酸水」ともいう。)8を用いた場合について説明する。ここで、「飽和量の気体(CO)が溶存した」とは、液体に気体を飽和量まで(限界量まで)溶解させたことを意味する。なお、図1に示すように、核燃料デブリ6は、炭酸水8に浸漬した状態にある。
原子炉格納容器2の球部2a内であって原子炉圧力容器4の外側には、破砕装置10が配置されている。この破砕装置10は、塊状の核燃料デブリ6を微細小片状に粉砕して核燃料デブリ砕片6cを生成するための装置であって、例えば、衝撃波によって核燃料デブリ6を破砕する衝撃波発生装置(図示せず)と、衝撃波の焦点を調節(制御)する焦点制御装置(図示せず)とを備えている。また、破砕装置10は、図面上下方向及び図面左右方向に移動可能な移動機構を備えている。このため、目的とする位置にある核燃料デブリ6を破砕して、核燃料デブリ砕片6cを生成することができる。衝撃波を用いた破砕装置10としては、例えば、火薬方式、燃焼ガス方式、放電方式等の既存技術を用いることができる。なお、この破砕装置10は、原子炉圧力容器4の内部に配置されていてもよい。破砕装置10を、原子炉圧力容器4の内部に配置することで、原子炉圧力容器4内の核燃料デブリ6を破砕することが可能となる。また、破砕装置10を原子炉圧力容器4内にある核燃料デブリ6aに向けて、破砕装置10で発生させた衝撃波を用いて核燃料デブリ6aを破砕してもよい。
【0016】
原子炉格納容器2の円筒部2b内には、炭酸水8の液面と接するように、浮上物回収装置(以下、単に「回収装置」ともいう。)14が配置されている。この回収装置14は、原子炉格納容器2または原子炉圧力容器4の底部から気泡(CO)8aとともに浮上した核燃料デブリ砕片6cを、炭酸水8とともに回収する機能を有している。この回収装置14は、図面上下方向及び図面左右方向に移動可能な移動機構を備えている。このため、原子炉格納容器2または原子炉圧力容器4を満たす炭酸水8の液面位置が変化(図面上下方向に移動)した場合であっても、核燃料デブリ砕片6cを炭酸水8とともに回収することができる。なお、この回収装置14は、浮上した核燃料デブリ砕片6cを回収可能な装置であればよい。回収装置14としては、例えば、浮上した核燃料デブリ砕片6cを金属メッシュ等ですくい取って回収するタイプの回収装置が好ましいが、浮上した核燃料デブリ砕片6cを吸引器等で吸引して回収するタイプの回収装置であってもよい。
【0017】
原子炉格納容器2の外側(または原子炉建屋1の外側)には、炭酸水循環補給装置(以下、単に「循環補給装置」ともいう。)16が配置されている。この循環補給装置16は、原子炉格納容器2内を満たす炭酸水8を循環し補給する機能を有しており、例えば、炭酸水8を循環するためのサーキュレータ(図示せず)と、炭酸水8を補給・生成するための炭酸水生成装置(図示せず)とを備えた装置である。また、この循環補給装置16は、炭酸水8を冷却するための冷却装置及び炭酸水8を昇温するための昇温装置を備えていてもよい。この場合には、低温(例えば、0~20℃程度)の炭酸水8や高温(例えば、20~60℃程度)の炭酸水8を原子炉格納容器2内に供給することができる。なお、循環補給装置16は、原子炉格納容器2と、2本のパイプ18a、18bを介して繋がっている。
【0018】
原子炉格納容器2の外側(または原子炉建屋1の外側)には、核燃料デブリ砕片濾過回収装置(以下、単に「濾過装置」ともいう。)20が配置されている。この濾過装置20は、核燃料デブリ砕片6cと炭酸水8とを分離する機能を有しており、例えば、炭酸水8が通過可能で、核燃料デブリ砕片6cの大きさよりも小さな開口径を有するフィルタを備えた装置である。このため、不純物(例えば、微小金属片等)が少ない炭酸水8を原子炉格納容器2(循環補給装置16)内に供給することができる。なお、この濾過装置20は、回収装置14及び循環補給装置16とパイプ18c、18dを介してそれぞれ繋がっている。また、パイプ18a、18b、18c、18dにそれぞれ示された矢印は、核燃料デブリ砕片6cまたは炭酸水8の移動方向を示すものである。
【0019】
原子炉格納容器2の上部には、原子炉格納容器2内の圧力を制御する圧力制御装置22が配置されている。この圧力制御装置22は、例えば、加圧・減圧用のポンプと、開閉可能なバルブとを備えた装置である。なお、この圧力制御装置22は、原子炉格納容器2内の圧力を制御するだけでなく、原子炉建屋内全体の圧力を制御する装置であってもよい。
【0020】
<回収方法>
(第1実施形態)
図2は、本発明の第1実施形態に係る核燃料デブリの回収方法のフローを示すフロー図である。図3は、核燃料デブリに気泡が付着した状態を示す概念図である。以下、図2及び図3を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る核燃料デブリの回収方法について説明する。
【0021】
まず、原子炉格納容器2内を、圧力制御装置22を用いて予め設定した圧力(以下、「第1の圧力」ともいう。)に維持する(S11)。第1の圧力は、大気圧以上の圧力であってもよいが、大気圧よりも低い圧力(例えば、0.500~0.999気圧)であるのが好ましい。第1の圧力が大気圧よりも低い圧力(つまり、原子炉格納容器2内が陰圧)であれば、原子炉格納容器2の外部に放射性物質が飛散するのを効果的に防止することができる。
次に、上記圧力が維持されるように圧力制御装置22を稼働させている状態で、少なくとも核燃料デブリ6及び破砕装置10が浸漬するまで、炭酸水8を原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に注入する(S12)。この際、循環補給装置16で生成した炭酸水8を、パイプ18bを通して注入する。本実施形態では、回収装置14に炭酸水8の液面が達するまで、炭酸水8を注入している。
【0022】
続いて、破砕装置10を用いて核燃料デブリ6を破砕し、核燃料デブリ砕片6cを生成する(S13)。より詳しくは、破砕装置10に備わる焦点制御装置を用いて、核燃料デブリ6の目的とする位置に焦点を合わせる。その後、破砕装置10に備わる衝撃波発生装置から衝撃波を発生させて、目的とする位置に衝撃波を局所的に集中させることで核燃料デブリ6を破砕し、核燃料デブリ砕片6cを生成する。なお、この破砕は、炭酸水8中にて実施する。
続いて、核燃料デブリ6の破砕後に、原子炉格納容器2内の圧力を、予め設定した圧力(以下、「第2の圧力」ともいう。)まで減圧する(S14)。この際、圧力制御装置22を用いて減圧する。例えば、炭酸水8を注入する際の圧力(つまり、第1の圧力)を0.99気圧とした場合には、第2の圧力を0.98気圧とする。また、この減圧に要する時間は、数ミリ秒~数秒程度とする。上記減圧により、炭酸水8を発泡させることができる。以下、減圧に起因する液体の発泡について、簡単に説明する。
【0023】
気体の溶解度(つまり、液体に対する気体の溶解の度合い)は、「圧力」が変数の1つとなっている。より詳しくは、加圧されると気体の溶解度は高くなり、減圧されると気体の溶解度は低くなる。このため、減圧した場合には、それまで液体に溶存していた気体は、溶存しきれなくなり、気泡8aとなって液体に存在することになる。
また、減圧に起因して発生する気泡8aは、炭酸水8全体に平均して発生する。このため、従来技術では気泡が到達しにくかった位置にある核燃料デブリ砕片6c(核燃料デブリ6)の近傍においても気泡8aは発生する。こうして発生した気泡8aは、核燃料デブリ砕片6cに付着し、核燃料デブリ砕片6cを浮上させる。なお、図3は、炭酸水8中に発生し、核燃料デブリ砕片6cに付着した気泡8aの状態を模式的に示している。
【0024】
次に、浮上した核燃料デブリ砕片6cを炭酸水8とともに、回収装置14で回収する(S15)。
以上の工程を経ることで、原子力発電所の事故により破壊され複雑な構造となった原子炉格納容器2内または原子炉圧力容器4内の底部に堆積した核燃料デブリ6(核燃料デブリ砕片6c)を回収することができる。なお、上記の工程は、核燃料デブリ6(核燃料デブリ砕片6c)の回収が終了するまで、繰り返して実行される。
回収装置14で炭酸水8とともに回収された核燃料デブリ砕片6cは、パイプ18cを通り、濾過装置20で炭酸水8と分離させる。その後、核燃料デブリ砕片6cは、核燃料廃棄処理施設で処理される。また、濾過装置20を通過した炭酸水8は、パイプ18dを通り、循環補給装置16に供給される。供給された炭酸水8は、パイプ18bを通り、原子炉格納容器2内に供給される。
【0025】
(変形例)
上述の各実施形態では、減圧する工程を1回のみ実施した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、0.99気圧と0.98気圧との間で、加圧・減圧の工程を複数回繰り返して実施してもよい。加圧・減圧を繰り返して実施することで、炭酸水8の発泡を促し、炭酸水8に生じる気泡8aの量・大きさを増大させることができる。このため、核燃料デブリ6に付着する気泡8aの量・大きさを増大させることができ、確実性を高めて核燃料デブリ6を浮上させることができる。
【0026】
また、上述の各実施形態では、核燃料デブリ6を破砕した後に、炭酸水8を発泡させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、核燃料デブリ6を破砕すると同時に、原子炉格納容器2内を減圧して炭酸水8を発泡させてもよい。また、核燃料デブリ6を破砕する前に、原子炉格納容器2内を減圧して炭酸水8を発泡させてもよい。この場合であっても、本実施形態における作用効果を得ることができる。
また、上述の実施形態では、炭酸水8(COが溶存した水)を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に注入する液体を、水、イオン液体、不活性液体からなる群から選択される1種以上の液体として、その液体に溶存する気体を、二酸化炭素、水素、アンモニア、窒素、酸素、アルゴンからなる群から選択される1種以上の気体としてもよい。なお、イオン液体とは、液体で存在する塩であって、イオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される塩をいう。このイオン液体には、COが非常によく溶けることが知られている。また、不活性液体とは、化学的、物理的に安定な液体のことであり、例えば他物質と接触しても化学反応を起こさない等の安定性を持つ液体を意味する。本実施形態では、不活性液体として、例えば、フッ素系不活性液体やハイドロフルオロエーテルを用いることができる。上記物質から選択される液体と気体の組み合わせであれば、本実施形態における作用効果を得ることができる。
【0027】
また、上述の実施形態では、第1の圧力が維持されるように制御された原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に、核燃料デブリ6が浸漬するように、炭酸水8を注入する工程について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。上記工程に代えて、例えば、原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に既に存在する水等の液体を、炭酸水8とする物質を投入する工程としてもよい。この場合、投入する物質は、例えば、フマル酸と重曹である。フマル酸と重曹とを投入することで、フマル酸ナトリウムと水とCOが生成され、炭酸水8を生成することができる。
【0028】
また、上述の実施形態では、炭酸水8に含まれる水は軽水(HO)を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、軽水に代えて、重水(DO)を用いてもよい。この場合であれば、軽水を用いた炭酸水8と比較して、浮力が増すため、核燃料デブリ6をより容易に浮上させることができる。
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態に係る核燃料デブリの回収方法について、図4を参照しつつ説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係る核燃料デブリの回収方法のフローを示すフロー図である。
【0029】
まず、原子炉格納容器2内を、圧力制御装置22を用いて予め設定した圧力(以下、「第1の圧力」ともいう。)に維持する(S21)。第1の圧力は、大気圧以上の圧力であってもよいが、大気圧よりも低い圧力(例えば、0.99気圧)であるのが好ましい。第1の圧力が陰圧であれば、原子炉格納容器2の外部に放射性物質が飛散するのを効果的に防止することができる。
次に、上記圧力が維持されるように圧力制御装置22を稼働させている状態で、少なくとも核燃料デブリ6及び破砕装置10が浸漬するまで、炭酸水8を原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に注入する(S22)。この際、循環補給装置16で生成した炭酸水8を、パイプ18bを通して注入する。本実施形態では、回収装置14に炭酸水8の液面が達するまで、炭酸水8を注入している。注入する炭酸水8の温度は、例えば、0~20℃程度である。
【0030】
続いて、破砕装置10を用いて核燃料デブリ6を破砕し、核燃料デブリ砕片6cを生成する(S23)。より詳しくは、破砕装置10に備わる焦点制御装置を用いて、核燃料デブリ6の目的とする位置に焦点を合わせる。その後、破砕装置10に備わる衝撃波発生装置から衝撃波を発生させて、目的とする位置に衝撃波を局所的に集中させることで核燃料デブリ6を破砕し、核燃料デブリ砕片6cを生成する。なお、この破砕は、炭酸水8中にて実施する。
この核燃料デブリ6の破砕前もしくは破砕後または破砕と同時に、原子炉格納容器2内に注入した炭酸水8の温度を上昇させる(S24)。この際、例えば、ヒータを用いて炭酸水8の温度を上昇させる。具体的には、昇温前の炭酸水8の温度を0~20℃程度とした場合には、昇温後の炭酸水8の温度を20~60℃程度とする。この昇温に要する時間は、数秒~数十秒程度とする。上記昇温により、炭酸水8を発泡させることができる。以下、昇温に起因する液体の発泡について、簡単に説明する。
【0031】
気体の溶存量は、「液体の温度」が変数の1つとなっている。より詳しくは、液体の温度が低いと気体の溶存量は増加し、液体の温度が高いと気体の溶存量は低下する。このため、炭酸水8の温度を上昇させた場合には、それまで液体に溶存していた気体は、溶存しきれなくなり、気泡8aとなって液体に存在することになる。
また、昇温に起因して発生する気泡8aは、炭酸水8全体に平均して発生する。このため、従来技術では気泡8aが到達しにくかった位置にある核燃料デブリ砕片6c(核燃料デブリ6)の近傍においても気泡8aは発生する。こうして発生した気泡8aは、核燃料デブリ砕片6cに付着し、核燃料デブリ砕片6cを浮上させる。なお、炭酸水8の昇温時、圧力制御装置22は開放されていてもよい。
【0032】
次に、浮上した核燃料デブリ砕片6cを炭酸水8とともに、回収装置14で回収する(S25)。
以上の工程を経ることで、原子力発電所の事故により破壊され複雑な構造となった原子炉格納容器2内または原子炉圧力容器4内の底部に堆積した核燃料デブリ6(核燃料デブリ砕片6c)を回収することができる。なお、上記の工程は、核燃料デブリ6(核燃料デブリ砕片6c)の回収が終了するまで、繰り返して実行される。
核燃料デブリ砕片6cを回収装置14で回収した後の工程は、第1実施形態で説明した工程と同じであるため、その説明は省略する。
【0033】
(変形例)
上述の実施形態では、ヒータを用いて炭酸水8の温度を上昇させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、核燃料デブリ6の破砕前もしくは破砕後または破砕と同時に、循環補給装置16で温度を上昇させた炭酸水8を原子炉格納容器2内に注入してもよい。この場合であっても、発生した気泡を核燃料デブリ砕片6cに付着させ、その核燃料デブリ砕片6cを浮上させることができる。
【0034】
また、核燃料デブリ砕片6c(核燃料デブリ6)は発熱しているので、核燃料デブリ砕片6cと接触させただけで炭酸水8の温度を上昇させることができる。このため、核燃料デブリ砕片6cに接触した炭酸水8は発泡する。つまり、核燃料デブリ砕片6cに炭酸水8を接触させただけで、核燃料デブリ砕片6cに気泡を付着させることができ、その核燃料デブリ砕片6cを浮上させることができる。
また、上述の実施形態では、第1実施形態と同様に、原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に注入する液体を、水、イオン液体、不活性液体からなる群から選択される1種以上の液体として、その液体に溶存する気体を、二酸化炭素、水素、アンモニア、窒素、酸素、アルゴンからなる群から選択される1種以上の気体としてもよい。上記物質から選択される液体と気体の組み合わせであれば、本実施形態における作用効果を得ることができる。
【0035】
また、上述の実施形態では、第1実施形態と同様に、炭酸水8に含まれる水を軽水に代えて重水(DO)としてもよい。この場合であっても、本実施形態における作用効果を得ることができる。
また、上述の実施形態では、第1実施形態と同様に、炭酸水8を注入する工程に代えて、原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に既に存在する水等の液体を、炭酸水8とする物質を投入する工程としてもよい。この場合であっても、本実施形態における作用効果を得ることができる。
【0036】
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態に係る核燃料デブリの回収方法について、図5を参照しつつ説明する。図5は、本発明の第3実施形態に係る核燃料デブリの回収方法のフローを示すフロー図である。
まず、原子炉格納容器2内を、圧力制御装置22を用いて予め設定した圧力(以下、「第1の圧力」ともいう。)に維持する(S31)。第1の圧力は、大気圧以上の圧力であってもよいが、大気圧よりも低い圧力(例えば、0.99気圧)であるのが好ましい。第1の圧力が陰圧であれば、原子炉格納容器2の外部に放射性物質が飛散するのを効果的に防止することができる。
次に、上記圧力が維持されるように圧力制御装置22を稼働させている状態で、少なくとも核燃料デブリ6及び破砕装置10が浸漬するまで、炭酸水8を原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に注入する(S32)。この際、循環補給装置16で生成した炭酸水8を、パイプ18bを通して注入する。本実施形態では、回収装置14に炭酸水8の液面が達するまで、炭酸水8を注入している。
【0037】
続いて、破砕装置10を用いて核燃料デブリ6を破砕し、核燃料デブリ砕片6cを生成する(S33)。より詳しくは、破砕装置10に備わる焦点制御装置を用いて、核燃料デブリ6の目的とする位置に焦点を合わせる。その後、破砕装置10に備わる衝撃波発生装置から衝撃波を発生させて、目的とする位置に衝撃波を局所的に集中させることで核燃料デブリ6を破砕し、核燃料デブリ砕片6cを生成する。なお、この破砕は、炭酸水8中にて実施する。また、この破砕を実施する際には、圧力制御装置22は開放されていてもよい。
【0038】
上記核燃料デブリ砕片6cの破砕により、炭酸水8を発泡させることができる。以下、破砕に起因する液体の発泡について、簡単に説明する。
気体が溶存した液体中に固体(本実施形態では、核燃料デブリ砕片6c)が生成する(投入される)と、その固体が気泡成長の核(いわゆる、シード、種)となり、その固体周囲には気泡が発生する。
このため、炭酸水8中で核燃料デブリ砕片6cを生成することで、従来技術では気泡8aが到達しにくかった位置にある核燃料デブリ砕片6c(核燃料デブリ6)の近傍においても気泡8aを発生させることができる。こうして発生した気泡8aは、核燃料デブリ砕片6cに付着し、核燃料デブリ砕片6cを浮上させる。
【0039】
次に、浮上した核燃料デブリ砕片6cを炭酸水8とともに、回収装置14で回収する(S34)。
以上の工程を経ることで、原子力発電所の事故により破壊され複雑な構造となった原子炉格納容器2内または原子炉圧力容器4内の底部に堆積した核燃料デブリ6(核燃料デブリ砕片6c)を回収することができる。なお、上記の工程は、核燃料デブリ6(核燃料デブリ砕片6c)の回収が終了するまで、繰り返して実行される。
核燃料デブリ砕片6cを回収装置14で回収した後の工程は、第1実施形態で説明した工程と同じであるため、その説明は省略する。
【0040】
(変形例)
上述の実施形態では、第1実施形態と同様に、原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に注入する液体を、水、イオン液体、不活性液体からなる群から選択される1種以上の液体として、その液体に溶存する気体を、二酸化炭素、水素、アンモニア、窒素、酸素、アルゴンからなる群から選択される1種以上の気体としてもよい。上記物質から選択される液体と気体の組み合わせであれば、本実施形態における作用効果を得ることができる。
【0041】
また、上述の実施形態では、第1実施形態と同様に、炭酸水8に含まれる水を軽水に代えて重水(DO)としてもよい。この場合であっても、本実施形態における作用効果を得ることができる。
また、上述の実施形態では、第1実施形態と同様に、炭酸水8を注入する工程に代えて、原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に既に存在する水等の液体を、炭酸水8とする物質を投入する工程としてもよい。この場合であっても、本実施形態における作用効果を得ることができる。
【0042】
(その他の実施形態)
炭酸水8を原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に注入した後、炭酸水8に超音波振動を与えて、炭酸水8を発泡させてもよい。炭酸水8に超音波振動を与えると、炭酸水8中に圧力差が生じ、それに起因する微小な気泡(いわゆるキャビテーション気泡)が生じる。このキャビテーション気泡が集合して、より大きな気泡が形成される。
【0043】
このため、本実施形態であっても、上述の各実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、炭酸水8を原子炉格納容器2内及び原子炉圧力容器4内に注入した後、炭酸水8に酸を加えて、炭酸水8を発泡させてもよい。
また、炭酸水8に発生させた発泡に代えて、ミセル、逆ミセル、コロイド、ナノバブルを用いた場合であっても、上述の各実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0044】
(応用例1)
水中の構造物(例えば、ガレキ等)の内部からは、気泡は発生しない。したがって、衝撃波を使わなくても水面に浮上した気泡のビットマップを作成し、分布を解析することにより、水中の構造物の形を類推することができる。また、水中の焦点位置を変えながら衝撃波を加えることにより、気泡が発生する箇所を3次元に制御することができる。
こうすることで、衝撃波の焦点位置を3次元にスキャンさせて気泡が発生する箇所の分布を作成すれば、水中の構造物の形がわかる。
【0045】
(応用例2)
上述の各実施形態及び応用例1では、COを溶解させた水(つまり、炭酸水)を用いた場合について説明したが、上記COに代えてアルゴン(Ar)を水に溶解させてもよい。Arは、1気圧・20℃の環境下で水(HO)に0.0336ml/ml溶解する
不活性気体である。また、存在度99.6%の天然元素である質量数40のAr(以下、「Ar40」とも表記する)は、熱中性子捕獲断面積が特異的に高い気体である。
【0046】
核燃料デブリ中に存在するウラン、プルトニウムから放出された中性子は、水によって容易に減速され熱中性子となり、その熱中性子がAr40に衝突することでAr41が生成される。このAr41は、半減期1.82時間のベータ崩壊核種であり、1ベクレル当たり1.29MeVのガンマ線が99.1%、1.677MeVのガンマ線が弱量、発生する。これらのガンマ線は物質透過能が高く、ガンマ線検出器で同定・定量することが容易であり、ガンマ線の放出源であるAr41の空間分布やその時間的変化をレントゲン写真のように可視化して測定することができる。水中の構造物(例えば、ガレキ等)の内部には、特別の意図をもって封入した場合などを除き、通常、Arは存在しない。このため、原子炉の周囲に複数のガンマ線検出器を並べ、検出ガンマ線の量の差の測定をすることで、水中の構造物の様子がCT(Computed Tomography)のような立体画像として判別できる。図6は、原子炉の周囲に複数のガンマ線検出器を並べた状態を示す概念図である。
【0047】
ガンマ線の放出源の空間分布が時間的に定常と見做せる場合には、測定時間を長くすることにより、画像の解像度(空間分解能)を上げることもできる。
なお、原子炉内に存在する天然ナトリウム(Na)が放射化して生成される放射性ナトリウムが発するガンマ線が上記測定において、ノイズとなる場合がある。より詳しくは、質量数23のNa(Na23)は、中性子により放射化して質量数24のNa(Na24)となる。このNa24は、半減期15時間で1.369MeVのガンマ線を壊変あたりの放出率100%で、また、2.754MeVのガンマ線を99.8%の放出率で発生する。つまり、原子炉内に存在するNa24から発生する1.369MeVのガンマ線は、Ar41の1.29MeVのガンマ線とエネルギー値が近いため、測定したガンマ線がAr41に起因するものであるか、Na24に起因するものであるかを区別(判別)するのが難しい。そこで、Na24から同時に発生する2.754MeVのガンマ線を測定し、その測定強度を用いて寄与の弁別を行うことが可能となり、Ar41に起因するガンマ線のみを選択的に検出することができる。
【0048】
(応用例3)
さらに、気体状のArと、水に溶解したArとでは、単位体積当たりの中性子捕捉率が異なり、従って放出するガンマ線量も異なる。この性質の応用例としては、上述の各実施形態で説明したように原子炉内の圧力を変化させてArを含んだ気泡を発生させると、ガレキなどの構造物が蓋状(凹を逆立ちさせた形状)なっていて上昇したArの気泡を閉じ込めてしまった空間の存在および形状を検知できる。また、衝撃波発生装置から出た衝撃波は、途中のガレキ等の影響によるマルチパスにより焦点位置がずれるが、このずれを補正するために衝撃波の焦点の位置を測定する必要があり、これに応用できる。つまり、衝撃波の焦点にArの気泡が集中して発生するので、衝撃波の焦点の位置を測定できる。
【0049】
(応用例4)
応用例1~3に記載した方法により発生し水面に浮き上がってきた(核燃料デブリにより放射化した)Arガスを集めて、その放射能の総量を測り、その「比放射能」を測定すれば核燃料デブリが発している中性子の量に係る情報を取得できる。核燃料デブリ内で起きている核反応の状態を知る事が出来る。Arの同位体比でも核燃料デブリ内で起きている核反応がわかる。
【0050】
さらに、核燃料デブリの局所に非放射性のArガスを気体または水に溶けた状態で吹き付ければ、核燃料デブリ内のウラン、プルトニウム、鉄などの組成分布がわかる。つまり核燃料デブリに含まれる核燃料物質量の空間分布に係る情報を得ることができる。吹き付ける方法以外に、気中または水中のAr濃度を局所的に高くしてもよい。Arを含まないダミーの固形物を配置して、擬似的に、その場所のAr濃度を下げる方法もある。
<検証実験及びその結果>
本実施形態に係る核燃料デブリの回収方法について、検証実験を行った。以下、その詳細について説明する。
【0051】
本検証実験では、炭酸水として、高さ21cmの500mlのペットボトルに入った炭酸水(市販品)を用いた。また、溶融ウラン燃料(核燃料デブリ)を模した物質として、ほぼ同等の比重を有する純金(比重:19.30g/cm)をケシ粒程度の小片にした金小片を用いた。具体的には、本検証実験では、約2mm×8mm角であって厚さ約0.3mmの金小片を使用した。この金小片を、上述の炭酸水の入ったペットボトルに1個投入し、その挙動を観察した。
炭酸水中を沈下した直後から上記金小片の表面には気泡(COガス泡)が生成して付着し始めた。また、液面から10cm(ボトル底面から5cm)程度のところまで沈下したところで、浮上するに十分な気泡が付着して、金小片は上昇し始めた。金小片が液面まで浮上すると、金小片に付着した気泡は金小片から剥がれ、金小片は再び沈み始めた。
【0052】
なお、金小片を上記炭酸水の入ったペットボトルに入れた後、そのペットボトルのキャップを完全に締めると、ペットボトル内部は加圧状態となり、気泡発生の核(シード)となる物質(本検証実験では金小片)が存在しても気泡は発生しなかった。
気泡の付着具合及び大きさは、金小片の形状に大きく依存した。つまり、同じ重さでも表面積が大きいほうが大きな気泡が剥れずに付着することがわかった。また、窪みがある形状のほうが、大きな気泡が付着することがわかった。
以上のように、本検証実験で、約2mm×8mm角であって厚さ約0.3mm程度の金小片であれば、炭酸水中に生じる気泡で浮上することが確認できた。
【0053】
なお、気泡で浮上させられない大きさの核燃料デブリについては、気泡で浮上させられる程度の大きさになるまで、繰り返して核燃料デブリを破砕すればよい。
また、核燃料デブリを完全に浮上させられなくても、核燃料デブリに気泡が付着していれば、気泡の浮力により核燃料デブリの重量を軽減することができる。このため、炭酸水の循環流を利用して、核燃料デブリを回収することもできる。
また、粉状に破砕された核燃料デブリであっても、微細小片の核燃料デブリと同様に、炭酸水の循環流に乗るので回収することができる。
【0054】
<効果>
(1)本実施形態に係る核燃料デブリ6の回収方法では、炭酸水8を注入した後に、その炭酸水8を発泡させているので、炭酸水8全体に平均して気泡8aを発生させることができる。発生した気泡8aは、その気泡8aの周囲にある核燃料デブリ砕片6cに付着して、核燃料デブリ砕片6cを浮上させるので、本実施形態に係る核燃料デブリ6の回収方法であれば、原子力発電所の事故により破壊され複雑な構造となった原子炉格納容器2内の底部に堆積した核燃料デブリ6(核燃料デブリ砕片6c)であっても、気泡8aとともに浮上させて回収することができる。
【0055】
(2)また、本実施形態に係る核燃料デブリ6の回収方法では、塊状の核燃料デブリ6を破砕して核燃料デブリ砕片6cを生成している。このため、浮上させる核燃料デブリ砕片6cを軽量にすることができ、炭酸水8に生じた気泡8aを用いて容易にその核燃料デブリ砕片6cを浮上させることができる。
(3)また、本実施形態に係る核燃料デブリ6の回収方法では、原子炉格納容器2内の圧力を大気圧によりも低い圧力に維持している。このため、放射能物質が原子炉格納容器2の外部に飛散するのを効果的に防止することができる。
【0056】
(4)また、本実施形態に係る核燃料デブリ6の回収方法では、炭酸水8の昇温している。このため、炭酸水8の発泡を容易に実現することができる。
(5)また、本実施形態に係る核燃料デブリ6の回収方法では、飽和量のCOが溶解した炭酸水8を原子炉格納容器2内に注入している。このため、炭酸水8から生じる気泡8aの量を最大限にすることができる。したがって、核燃料デブリ6の回収効率をより高めることができる。
【0057】
(6)また、本実施形態に係る核燃料デブリ6の回収方法では、原子炉格納容器2内を冠水状態にしている。このため、作業者の被曝量を最小限に抑えることができる。
(7)また、本実施形態に係る核燃料デブリ6の回収方法では、炭酸水8を使用している。このため、核燃料デブリ6の回収方法を実施している間に、炭酸水8に含まれるCO12Cが13Cに変化した場合であっても、この13Cは安定同位体である。よって、炭酸水8の使用に対する放射線安全対策上の心配はない。
【0058】
(8)また、本実施形態に係る核燃料デブリ6の回収方法で使用する、破砕装置10、浮上物回収装置14、炭酸水循環補給装置16、核燃料デブリ砕片濾過回収装置14、圧力制御装置22、パイプ18a、18b、18c、18dは、既存の装置である。このため、核燃料デブリ6の回収を安定して操業することができる。
(9)また、本実施形態に係る核燃料デブリ6の回収方法使用する、破砕装置10、浮上物回収装置14、炭酸水循環補給装置16、核燃料デブリ砕片濾過回収装置14、圧力制御装置22等は、既存の装置であり、遠隔操作することができる。このため、作業者が被曝する危険性を低減することができる。
【0059】
(10)また、本実施形態に係る核燃料デブリ6の回収方法では、核燃料デブリ砕片6cに気泡8aを付着させることで、核燃料デブリ砕片6cを浮上させている。このため、仮に、核燃料デブリ砕片6cの浮上中に原子炉格納容器2内にある障害物(ガレキ等)に衝突して気泡8aが剥がれ、核燃料デブリ砕片6cが沈下した場合であっても、核燃料デブリ砕片6cが5cm~100cm程度沈下すると、再度核燃料デブリ砕片6cに気泡8aが付着して核燃料デブリ砕片6cは浮上し始める。したがって、この浮上沈下のサイクル間に炭酸水8の流れ(循環流)の影響を受け、図面左右方向(水平方向)に移動し得るので、上記浮上沈下を複数回繰り返すうちに、障害物を避けて、浮上した核燃料デブリ砕片6cを回収することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 原子炉建屋
2 原子炉格納容器
2a 球部
2b 円筒部
4 原子炉圧力容器
6 核燃料デブリ
6a 原子炉圧力容器内核燃料デブリ
6b 原子炉格納容器内核燃料デブリ
6c 核燃料デブリ砕片
8 飽和炭酸水
8a 気泡
10 破砕装置
14 浮上物回収装置
16 炭酸水循環補給装置
18a、18b、18c、18d パイプ
20 核燃料デブリ砕片濾過回収装置
22 圧力制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6