IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社晃紳の特許一覧

<>
  • 特開-乳牛排泄物処理システム 図1
  • 特開-乳牛排泄物処理システム 図2
  • 特開-乳牛排泄物処理システム 図3
  • 特開-乳牛排泄物処理システム 図4
  • 特開-乳牛排泄物処理システム 図5
  • 特開-乳牛排泄物処理システム 図6
  • 特開-乳牛排泄物処理システム 図7
  • 特開-乳牛排泄物処理システム 図8
  • 特開-乳牛排泄物処理システム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103588
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】乳牛排泄物処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/30 20230101AFI20240725BHJP
   C02F 11/127 20190101ALI20240725BHJP
【FI】
C02F3/30
C02F11/127 ZAB
C02F11/127
C02F3/30 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024086609
(22)【出願日】2024-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】322011380
【氏名又は名称】株式会社晃紳
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦晃
(57)【要約】
【課題】乳牛の消化液は膨大な量であり、液肥としての利用には限界がある。また、敷料等に使用されるおが粉の再利用も課題である。
【解決手段】物理処理としておが粉が回収され、更に遠心分離されて固形分(固形堆肥)が除去された遠心分離液に対して、バイオガスと硫化物を生成する嫌気性発酵処理槽(UASB処理槽)と、発酵処理槽から処理水を受取り、窒素分を硝化させて硝酸態窒素等を生成する硝化処理槽(DHS・AUF処理槽)と、硝化処理槽からの処理水に含まれる硝酸態窒素及び/または亜硝酸態窒素を前記硫化物を利用して脱窒させる脱窒処理槽(UAF処理槽)を生物処理部として備える。硝化処理槽と脱窒処理槽が循環構成になっており、発酵処理槽からの処理水が必要なタイミングで必要な量だけ液肥として取出され、残りは河川放流可能に浄化される。また、バイオガスの脱硫装置が硝化処理槽の処理水を洗浄水として使用し、洗浄廃水が脱窒処理槽に硫化物利用の目的で戻される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理処理として遠心分離されて固形分が除去された乳牛排泄物の遠心分離液に対して、バイオガスと硫化物を生成する嫌気性発酵処理槽と、前記発酵処理槽から処理水を受取り、有機物除去及び含まれるアンモニア態窒素を硝化させて硝酸態窒素及び/または亜硝酸態窒素を生成する好気処理槽と、前記好気処理槽からの処理水に含まれる硝酸態窒素及び/または亜硝酸態窒素を前記硫化物を利用して脱窒させる脱窒処理槽を生物処理部として備え、前記好気処理槽と前記脱窒処理槽が循環構成になっており、前記発酵処理槽からの処理水が液肥として取出され、前記好気処理槽からの処理水が河川放流可能に浄化されることを特徴とする乳牛排泄物処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載した乳牛排泄物処理システムにおいて、
バイオガスの脱硫装置が好気処理槽の処理水を洗浄水として使用し、洗浄廃水が脱窒処理槽に硫化物利用の目的で戻されることを特徴とする乳牛排泄物処理システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載した乳牛排泄物処理システムにおいて、
好気処理槽は、前段のDHS処理槽と、後段のAUF処理槽とで構成されており、前記DHS処理槽に設けられた沈殿部でリンを含む汚泥が回収されることを特徴とする乳牛排泄物処理システム。
【請求項4】
請求項3に記載した乳牛排泄物処理システムにおいて、
発酵処理槽がUASB処理槽で構成され、脱窒槽がUAF処理槽で構成されていることを特徴とする乳牛排泄物処理システム。
【請求項5】
請求項3に記載した乳牛排泄物処理システムにおいて、
UASB処理槽とUAF処理槽との間に受槽を設けて、前記受槽から液肥と灰分が回収されることを特徴とする乳牛排泄物処理システム。
【請求項6】
請求項5に記載した乳牛排泄物処理システムにおいて、
スクリーン処理部と遠心分離部を物理処理部として備え、おが粉を含む乳牛排泄物を含む原料水に対して、前段の前記スクリーン処理部でおが粉が分離回収され、後段の前記遠心分離部で灰分が分離回収された上で、残りの遠心分離液が生物処理部に送られることを特徴とする乳牛排泄物処理システム。
【請求項7】
請求項6に記載した乳牛排泄物処理システムにおいて、
バイオガスをスクリーン処理部で分離回収されたおが粉の乾燥の熱源とすると共に、その排熱をUASB処理槽に導入する遠心分離液の加温に利用することを特徴とする乳牛排泄物処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳牛の排泄物の物理処理と生物処理を組み合わせた処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、家畜排せつ物処理法の一つとして北海道を中心に、特許文献1に記載のメタン発酵(嫌気発酵)処理法が導入されている。この処理法では、家畜排せつ物(有機系廃棄物)からメタンガス(バイオガス)が生成されており、このメタンガスは再生可能なエネルギーとして発電やボイラー等の熱源として利用される。また、メタン発酵後の残渣(消化液)は、ほとんどが水であるが、窒素・リン・カリ等の肥料成分を多く含んでおり、液肥として利用される。
このように、メタン発酵処理法では、一般的な堆肥化処理法に比べ環境負荷(GHG排出)の少ない循環型農業を実現できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-192193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乳牛の消化液は膨大な量であり、これを全て液肥利用するには「年間3回(北海道では年間2回)散布するのに十分な広さの圃場(牧草地など)が必要」、「4か月~6か月分の消化液を貯留する設備が必要」、「自治体・地域住民の理解が得られるか」などの制約も多い。
また、余剰な消化液の浄化排水処理には多大な初期投資及びランニングコストが掛かる。
更に、酪農業に於いて敷料及び固形堆肥製造用水分調整副素材として使用される「おが粉」の再利用も課題である。
【0005】
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、工場排水や下水処理施設などで利用されている物理処理や生物処理などこれまで畜産農業の分野ではあまり利用されてこなかった技術を組み合わせることで、余剰処理水の河川放流を可能する排水基準以下まで浄化することを実現することで、消化液の液肥貯留槽サイズを最小化できる、新規且つ有用な乳牛排泄物処理システムを提供することを、その目的とする。
また、本発明は、「おが粉」が敷料として使用されて乳牛の排泄物に不可避的に含まれてしまっている場合には、その「おが粉」の回収・再生によりおが粉の購入費用も削減できる、新規且つ有用な乳牛排泄物処理システムを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、物理処理として遠心分離されて固形分が除去された乳牛排泄物の遠心分離液に対して、バイオガスと硫化物を生成する嫌気性発酵処理槽と、前記発酵処理槽から処理水を受取り、有機物除去及び含まれるアンモニア態窒素を硝化させて硝酸態窒素及び/または亜硝酸態窒素を生成する好気処理槽と、前記好気処理槽からの処理水に含まれる硝酸態窒素及び/または亜硝酸態窒素を前記硫化物を利用して脱窒させる脱窒処理槽を生物処理部として備え、前記好気処理槽と前記脱膣処理槽が循環構成になっており、前記発酵処理槽からの処理水が液肥として取出され、前記好気処理槽からの処理水が河川放流可能に浄化されることを特徴とする乳牛排泄物処理システムである。
【0007】
好ましくは、バイオガスの脱硫装置が好気処理槽の処理水を洗浄水として使用し、洗浄廃水が脱窒処理槽に硫化物利用の目的で戻される。
好ましくは、好気処理槽は、前段のDHS処理槽と、後段のAUF処理槽とで構成されており、前記DHS処理槽に設けられた沈殿部でリンを含む汚泥が回収される。
好ましくは、発酵処理槽がUASB処理槽で構成され、脱窒槽がUAF処理槽で構成されている。
好ましくは、UASB処理槽とUAF処理槽との間に受槽を設けて、前記受槽から液肥と灰分が回収される。
好ましくは、スクリーン処理部と遠心分離部を物理処理部として備え、おが粉を含む乳牛排泄物を含む原料水に対して、前段の前記スクリーン処理部でおが粉が分離回収され、後段の前記遠心分離部で灰分が分離回収された上で、残りの遠心分離液が生物処理部に送られる。
好ましくは、バイオガスをスクリーン処理部で分離回収されたおが粉の乾燥の熱源とすると共に、その排熱をUASB処理槽に導入する遠心分離液の加温に利用する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乳牛排泄物処理システムによれば、余剰処理水の河川放流を可能とする排水基準以下まで浄化することを実現でき、液肥の液肥貯留槽サイズを最小化できる。
また、おが粉を回収・再生させて、その購入費用を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る乳牛排泄物処理システムの構成図である。
図2図1の濃度調整槽の構造のイメージ図である。
図3図1のUASB処理槽の構造のイメージ図である。
図4図1のUAF処理槽の構造のイメージ図である。
図5図1のDHS処理槽の構造のイメージ図である。
図6図1のAUF処理槽の構造のイメージ図である。
図7図1の脱硫装置の構造のイメージ図である。
図8】再生した乾燥後のおが粉の写真である。
図9】遠心分離機により分離した固形分(固形堆肥)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態に係る乳牛排泄物処理システム1を、図1にしたがって説明する。
この乳牛排泄物処理システム1は、乳牛の排泄物(ふん、尿)と敷料として使用されたおが粉が混合された有機性原料を被処理物としたものであり、生物処理部の前段に物理処理部を設けて 、発酵不適なおが粉、夾雑物、SS等(浮遊物、主に灰分)をできるだけ除去することで、後段の生物処理を実効性のあるものとしている。
有機性原料は、原料槽3に投入され、撹拌されながら加水されて3~4倍に希釈される。従って、含水率は82~83%程度から、94~95%程度まで高められて、有機性原料はスラリー状になる。希釈水は、後段のAUF処理水が使用される。
【0011】
物理処理部は、スクリーン部5と、遠心分離部7を備えて構成されている。
スクリーン部5は、ドラム式ウエッジワイヤースクリーン、例えば、株式会社安藤スクリーン製作所製で構成されており、そのスクリーンの目開きはおが粉(その他、夾雑物を含む)の分離に適した1mm程度に設定されている。
遠心分離部7は、スクリューデカンタ形遠心分離機、例えば、株式会社IHI回転機械エンジニアリング製で構成されており、SS等(浮遊物、特に灰分)の分離に適した1,500~2,500G程度に設定されている。
【0012】
希釈されスラリー状になった有機性原料は、スクリーン部5に送られ、固液分離されて、おが粉(その他、夾雑物を含む)は固形分として分離・回収される。更に、夾雑物が除かれた後に、脱水機(図示省略)で脱水される。おが粉の回収率は約80%程度で、脱水後の含水率は約70%程度である。脱水されたおが粉は、乾燥機9に送られ殺菌・乾燥されて再生される。固液分離のための希釈水は、後段のAUF処理水が使用される。
一方、スクリーン分離液と上記の脱水で出た脱水脱離液は、中間受槽11を介して、遠心分離部7に送られる。ここで、比重分離されてSS等(浮遊物、特に灰分)は、固形分として可能な限り分離・回収される。この回収されたSS等は、含水率は70%以下であり、堆肥舎に運ばれ極少量の水分調整用副素材が添加されて固形堆肥の原料となる。
【0013】
遠心分離液は、濃度調整槽13に送られる。ここで、撹拌されながら加水され希釈されて、濃度が調整される。
図2に示すように、槽本体13aの内部は、内側面に加温装置13bが取付けられ、撹拌機13cの撹拌子が上方から差し入れられている。槽本体13a上部側の一方の開口から遠心分離液、すなわち原水が導入され、対向する他方の開口からは希釈水が導入されており、開口の下側で液面が形成されている。また、下部側の開口から調整水が排出され、後段のUASB処理槽15に送られるようになっている。
【0014】
乳牛排泄物の特徴として灰分が多く含まれており、後段のUASB処理槽15でも有機物の分解により灰分が溶出する。この灰分が後段のUASB処理槽15に蓄積されると、UASB処理槽15内での処理が阻害される。従って、遠心分離液の性状分析値に基づいて、後段のAUF処理水を希釈水として適量加えることで、後段のUASB処理槽15でのCODcr容積負荷及びCODcr濃度を最適化する。
【0015】
また、温度も中温発酵温度である35~37℃程度に調整する。
このような前処理により、後段のUASB処理槽15では高いCODcr容積負荷での処理が可能になっている。
【0016】
濃度調整液は、UASB処理槽15に送られる。
UASB処理槽15は、UASB(=Up-flow Anaerobic Sludge Blanket:上向流式嫌気性汚泥床)法に従ったものであり、図3に示すように、槽本体15aの内部は、嫌気性微生物(主にメタン生成菌や酸発酵菌の集塊作用が利用されて活性の高い菌体が沈降性に優れた粒状のグラニュール汚泥として槽内に沈殿した状態で大量に保持されている。また、グラニュール汚泥の上側にはセトラ(固気分離装置)15bが取付けられている。槽内では、嫌気性雰囲気のメタン発酵優先環境で処理が進行する。
【0017】
濃度調整液、すなわち原水はこのUASB処理槽15の槽本体15aの底部から導入され、グラニュール汚泥内で拡散される。そして、酸発酵菌・メタン生成菌の働きにより、高速高負荷運転下で、有機物が分解されてバイオガス(メタンガスと二酸化炭素)が生成される。
生成されたバイオガスは液中を浮上し、セトラ15により分離され、槽外に排出される。バイオガスには、数千ppmを超える硫化水素が含まれているので、脱硫装置17に通され、そこで、弱アルカリ性のAUF処理水が洗浄水として使用され洗浄されて脱硫される。
【0018】
脱硫装置17は、図7に示すように、長筒体17aの内部にプラスチック製の籠状フィルター17bが多数充填されており、長筒体の上部より散水機を使って、AUF処理水を流下させ、下部から注入されて浮上してきたバイオガスと接触させてそこに含まれていた硫化水素をAUF処理水に溶解させる。洗浄されたバイオガスは、上部口から回収される。バイオガスからは更に二酸化炭素ガスの一部が除去されて、残りのバイオガスが一般的にはガスホルダーで一時貯留され燃料として使用される。この乳牛排泄物処理システム1では、上記した乾燥機9に備えられたガスバーナーの燃料として利用される。また、乾燥機9によるおが粉の殺菌・乾燥により発生した排熱は、上記した濃度調整槽13の加温に利用される。
一方、硫化水素が溶解した洗浄廃水は下部口から排出され、後段のUAF処理槽23に送られ、回収除去された硫化水素が脱窒に利用される。
【0019】
遠心分離部7の性状から、UASB処理槽15に送られる遠心分離液に含まれる有機物には難分解性有機物の割合が多く、それらには多くの灰分が含まれているが、これらは有機物の分解により溶出して、SS濃度(主に、灰分)が上昇する。また、全窒素濃度も高く、有機態窒素分解菌の働きにより、一部がアンモニア転換されて、アンモニア態窒素の濃度が上昇する。
更に、硫酸塩還元細菌の働きによっても有機物が分解される。硫化物(主に、硫化水素及びその化合物)が生成されて、バイオガスに取り込まれると共に、液中に溶存する。
【0020】
UASB処理水は、UASB処理槽15の上部開口から流出する。
UASB処理水は、受槽19に送られ、その下部で灰分は収集され、更に中間受槽11に返送されて、遠心分離部7で処理されるルートと合流する。従って、この段階で回収された灰分も、固形堆肥として再生される。
また、UASB処理水は、原料に含まれる肥料成分の窒素、リン、カリウムがほぼ全量移行したメタン発酵消化液であり、勿論液肥として利用できるが、後段の処理により河川に放流可能な程度まで浄化できるので、液肥として利用したい量をその利用の数週間前から、液肥貯留槽21に貯留を始めることで、利用のタイミングに合わせて必要かつ十分な量を確保することができ、液肥貯留槽21のサイズを最小化できる。
液肥として利用されない分は、UAF処理槽23に送られる。
【0021】
UAF処理槽23は、UAF(=Up-flow Anaerobic Filter:上向流嫌気性濾床)法に従ったものであり、図4に示すように、槽本体23aの内部は、セパレータ(メッシュ)23bで上下に仕切られている。下部には生物膜が形成されたポリウレタン製のスポンジ担体23c(例えば、積水化成品工業株式会社が販売)が多数充填され、上部には、上記したスポンジ担体23cがプラスチック製の籠状フィルター17bを籠23dとして利用してその内部に収容されており、この籠23dにも生物膜が形成されている。
槽内では、嫌気性雰囲気で処理が進行する。
【0022】
底部からUASB処理水が流入し、セパレータ23bの直ぐ上からは後段のAUF処理水が循環水として還流比2~4で流入する。
下部では、流入してきたUASB処理水に含まれている残存有機物が硫酸塩還元細菌の働きにより分解されて、硫化物が生成される。そして、UASB処理水や脱硫装置17から排出されてきた洗浄廃水に含まれている硫化物と共に上部に向かって上昇する。
上部では硫黄酸化細菌の働きにより、硫化物が酸化されて硫黄が生成される。
この硫黄が利用されて、上部では、還流してきたAUF処理水に含まれる硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素が硫黄酸化脱窒細菌の働きにより還元されることで、脱窒されて窒素ガスが生成される。
【0023】
上記のように乳牛排泄物処理システム1内での処理により生成された硫化物により、亜硝酸、硝酸の酸素分子が還元されて脱窒されており、システム外から不足する有機物(例えば、エタノールなど)の添加を必要とせず、経済的である。
なお、同時に残存有機物についても、これを栄養源とする脱窒細菌(従属栄養細菌)が共生しているので、その働きにより、脱窒されて窒素ガスが生成される。
生成された窒素ガスはシステム外に放出される。
【0024】
UAF処理水は、受槽25に送られ、更に、DHS処理槽27に送られる。
DHS処理槽27は、DHS(=Down-flow Hanging Sponge:下向流吊下げスポンジ)法に従ったものであり、図5に示すように、槽本体27aの内部では、セパレータ(メッシュ)27bで上下に仕切られている。また、生物膜が形成されたスポンジ担体27cが籠27dに収容されたものが多数充填されている。
担体(27c+27d)は、多段構成でそれぞれの段の間には隙間が設けられており、上記したセパレータ27bが幾つかの隙間の間に配置されている。
セパレータ27bにより仕切られてその上下では担体(27c+27d)どうしが混ざらないようになっている。
また、担体(27c+27d)の自重を受けると、下側の担体(27c+27d)は潰れ易くなるが、上記したように隙間が設けられたことにより重さが分散されて、潰れ難くなっている。更に、隙間は通気にも利用される。
槽内は外部に開放されて通気されており、その結果として、スポンジ外部では有酸素状態の好気的雰囲気、スポンジ内部では無機酸素状態の嫌気的雰囲気が作られている。
【0025】
UAF処理水が上部より滴下されて流入し、各段を通過した後、底部から排出される。
UASB処理槽15での処理により、窒素は、60~70%がアンモニア態窒素として存在し、残りは有機態窒素として存在しており、これらはUAF処理槽23を介して、DHS処理槽27に導入される。
DHS処理槽27では、有機物を分解して除去する汚泥菌(従属栄養細菌)と、硝化に関与する硝化菌(独立栄養細菌)がスポンジ担体表面に生物膜を形成し、汚泥菌の働きにより有機物が除去され、硝化菌の働きによりアンモニア態窒素の酸化が行われて、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素に転換される。
【0026】
更に、汚泥菌は有機性原料に含まれて生物処理部に運ばれてきたリンを生物膜内に蓄えるので、汚泥菌はリンが濃縮された状態で最下部に設けられて沈殿部29に沈殿して、最終的には余剰汚泥として回収される。この余剰汚泥は、中間受槽11に返送されて、遠心分離部7で処理されるルートと合流する。従って、この段階で回収されたリンを含む汚泥も、固形堆肥の原料となる。
また、スポンジ内部では、脱窒細菌の働きにより、若干であるが脱窒も行われる。
【0027】
DHS処理水は、受槽31に送られ、更に、AUF処理槽33に送られる。
AUF処理槽33は、AUF(=Aerobic Up-flow Filter:好気性上向流濾床)法に従ったものであり、DHS処理槽27の補てん的な役割を果たす。図6に示すように、槽本体33aはセパレータ(メッシュ)33bで上下に仕切られており、下部には生物膜が形成されたプラスチック製の籠33cが多数充填されている。
槽内は上方が開口すると共に、下部側で散気されて、曝気槽になっている。
【0028】
DHS処理水は、このAUF処理槽33の底部から供給され、最上部からオーバーフローして流出するようになっており、残存する有機物の除去と残存するアンモニア態窒素の硝化が行われる。AUF処理槽33はDHS処理槽27での処理を補完させるために設けられており、このAUF処理槽33を通すことで、更に生物的に浄化されて、河川に放流したり、乳牛の飲用水として利用できる程度まで、確実に浄化できる。
AUF処理水のpHは弱アルカリ性(pH=8.2~8.5)になっている。このAUF処理水が上記したようにUAF処理槽23との間で循環する。併せて、上記したように、脱硫装置17に供給されバイオガス中の硫化水素の脱硫に利用される。
【0029】
乳牛排泄物の生物処理では、灰分の回収・除去と、アンモニア態窒素の除去が課題になっているが、灰分は物理処理により分離可能なものはその段階で除去されており、アンモニア態窒素は、最終的に窒素ガスに転換されている。
AUF処理水の性状は、環境省の定める一律排出基準値、特に、畜産排水で問題になっている硝酸態窒素等(健康項目)及び窒素含有量(環境項目)の基準値を十分に下回っており、河川への放流できる。従って、必要なタイミングで必要な量だけ液肥としてシステム外に取出すことが可能になっている。
なお、全国的には、湖沼及び閉鎖水域などへの排水や上乗せ排水基準を設けている地域などがあり、一律排水基準より厳しい排水基準への対応が必要になる場合もあるが、この乳牛排泄物処理システム1では、各生物処理槽の負荷(具体的には、CODcr容積負荷、BOD容積負荷及びNO-N容積負荷など)を最適化することでこれらの排水基準にも十分に対応可能である。
【0030】
また、乳牛排泄物処理システム1内で生成される硫化物は脱窒処理に利用されている。更に、バイオガスの洗浄やその他希釈にも乳牛排泄物処理システム1内で生成される処理水が利用されている。
以下の表は、この乳牛排泄物処理システム1により処理された最終処理水(AUF処理水)の分析結果を示す。
【0031】
【表1】
【0032】
このように、乳牛排泄物処理システム1では、化学薬品(凝集剤や脱硫薬剤)などは一切使用せず、原料である乳牛排泄物に含まれる物質のみを利用して全て処理されており、極めて環境負荷の低いプロセスになっている。
図8は、乾燥後のおが粉を示す。また、図9は固形堆肥を示す。
【0033】
AUF処理水は、乳牛の飲用水とするような施設内利用も考えられる。乳牛は、一日に約100L/頭と大量に飲用するので、飲料水に回すことで、河川への放流をゼロにできる。
【0034】
最終処理水として河川に放流したり施設内利用したりする場合には、排水基準管理項目ではないが色度が問題となる場合がある。その場合には色度除去濾過槽39で色度を除去する処理を行えばよい。
一般的には活性炭やオゾン水が利用されるが、経済性の問題で畜産農業の分野での利用は難しいが、この乳牛排泄物処理システム1では、一例として、遊離塩素を触媒としてヒドロキシラジカルを発生させる特殊なセラミック(例えば、日本原料株式会社の製品・ニューカラーカッターライト)を使用した色度除去処理が実施されている。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、物理処理や生物処理に用いられる装置や処理槽の構成は、本発明で想定される効果が期待される限りにおいて、変更可能になっている。
【符号の説明】
【0036】
1…乳牛排泄物処理システム 5…スクリーン部
7…遠心分離部 9…乾燥機
11…中間受槽 13…濃度調整槽
15…UASB処理槽 17…脱硫装置
21…液肥貯留槽 23…UAF処理槽
27…DHS処理槽 29…沈殿部
33…AUF処理槽
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9