(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010363
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/329 20060101AFI20240117BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20240117BHJP
H01L 21/268 20060101ALI20240117BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
H01L29/91 A
H01L29/91 F
H01L29/91 C
H01L21/268 F
H01L21/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111660
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】冨田 恵津子
【テーマコード(参考)】
5F152
【Fターム(参考)】
5F152LM09
5F152LN03
5F152LN21
5F152MM02
5F152MM04
5F152MM07
5F152NN05
5F152NN27
5F152NQ02
(57)【要約】
【課題】積層欠陥の拡大を防止することができ、半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することができるSiCエピタキシャル基板の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素の基板上にエピタキシャル層を成長させる工程(S1)と、エピタキシャル層に光を照射して、基板からエピタキシャル層へ伝播した基底面転位を起点とする積層欠陥をエピタキシャル層内に拡大させる工程(S2)と、積層欠陥が拡大したエピタキシャル層を加熱して、積層欠陥を縮小させる工程(S6)と、を含み、積層欠陥を拡大させる工程(S2)は、積層欠陥同士がエピタキシャル層の膜厚方向で互いに重なる前に、光の照射を停止する。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素の基板上にエピタキシャル層を成長させる工程と、
前記エピタキシャル層に光を照射して、前記基板から前記エピタキシャル層へ伝播した基底面転位を起点とする積層欠陥を前記エピタキシャル層内に拡大させる工程と、
前記積層欠陥が拡大したエピタキシャル層を加熱して、前記積層欠陥を縮小させる工程と、
を含み、
前記積層欠陥を拡大させる工程は、前記積層欠陥同士が前記エピタキシャル層の膜厚方向で互いに重なる前に、前記光の照射を停止することを特徴とする炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項2】
前記積層欠陥は、前記基板と前記エピタキシャル層との界面の境界領域における前記基底面転位を前記起点とすることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項3】
前記積層欠陥を拡大させる工程は、前記積層欠陥の前記起点から延びる2辺の端部が前記エピタキシャル層の表面まで到達する前に、前記光の照射を停止することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項4】
前記積層欠陥を拡大させる工程は、前記積層欠陥の前記起点の間隔に基づき、前記光の照射時間を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項5】
前記光の照射エネルギー密度が、1000J/cm2以上、5000J/cm2以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項6】
前記光が、前記エピタキシャル層の表面に一括照射されることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項7】
前記光が、前記エピタキシャル層の表面積よりも小さな照射面積で前記エピタキシャル層の表面を走査しながら照射されることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項8】
前記光が、レーザ光であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項9】
前記光が、炭化珪素の吸収端波長以下の波長を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項10】
前記積層欠陥を縮小させる工程は、前記エピタキシャル層を400℃以上、1000℃以下の温度で加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項11】
前記積層欠陥を拡大させる工程と、前記積層欠陥を縮小させる工程との間に、前記積層欠陥を検出する工程を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項12】
前記積層欠陥を縮小させる工程は、前記積層欠陥の検出結果に応じて、前記エピタキシャル層の加熱条件を調整することを特徴とする請求項11に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項13】
前記基板が、4H、6H、及び3Cのいずれかの多形結晶であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項14】
炭化珪素の基板上に第1導電型の走行層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記走行層に光を照射して、前記基板から前記走行層へ伝播した基底面転位を起点とする積層欠陥を前記走行層内に拡大させる工程と、
前記積層欠陥が拡大した走行層を加熱して、前記積層欠陥を縮小させる工程と、
前記走行層の上部に第2導電型の注入領域を形成する工程と、
を含み、
前記積層欠陥を拡大させる工程は、前記積層欠陥同士が前記走行層の膜厚方向で互いに重なる前に、前記光の照射を停止することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(SiC)エピタキシャル基板の製造方法及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)エピタキシャル基板を用いたpinダイオードにおいて、順方向抵抗が増加する現象が知られている。この抵抗増加は、n型エピタキシャル層の領域に存在する基底面転位(BPD)を起点として積層欠陥が拡大(拡張)することによって起こると考えられている。具体的には、n型エピタキシャル層内の積層欠陥がつくる電子準位に、p型アノード領域から注入される少数キャリア(n型エピタキシャル層では正孔)が注入されることにより起こる。この電子準位は、4H-SiC結晶の伝導帯の下端から約0.3eV低い位置にあることが知られており、通電又は光励起により発生した伝導帯の電子が積層欠陥の準位で正孔と再結合することで、積層欠陥の拡大が起こると考えられている。基板中のBPDは、基板形成段階の温度の不均一による結晶内部の応力を緩和するために発生し、1枚の基板中に1000個/cm2以上の頻度で存在している。
【0003】
この順方向抵抗が増加する現象は、基板表面に略垂直な貫通刃状転位(TED)を起点としては発生しないことが知られているため、BPDからTEDへの変換率を上げる技術開発が続けられている。例えば、基板上に基板よりも低不純物濃度のn型欠陥変換層を成膜する過程で基板のBPDがTEDに変換することが知られている。更に、n型欠陥変換層の上にn型再結合促進層を設け、p型アノード領域から注入された正孔と電子との再結合を促進することにより、正孔密度を、基板とエピタキシャル層との界面付近のBPDからの積層欠陥の拡大が始まるといわれている1×1015/cm3以下にすることで欠陥拡大を防止することが知られている。また、基板表面にアルゴン(Ar)等の不活性イオンを注入することでBPDからTEDへの変換率が上がることが報告されている。
【0004】
特許文献1は、光照射により積層欠陥をエピタキシャル層内に拡大するステップと、加熱により積層欠陥を縮小するステップとを含む炭化ケイ素エピタキシャル基板の製造方法を開示する。特許文献2は、SiC基板内の積層欠陥を拡大させる工程と、拡大した状態でSiC膜を形成する工程とを含む半導体装置の製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-140184号公報
【特許文献2】特許第7023882号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、SiCエピタキシャル基板を用いたpinダイオードにおいて、通電中の積層欠陥の拡大を防止する手段として、基板上に不純物の濃度や種類を制御した層を形成することで、積層欠陥の拡大の原因となるBPDを無害なTEDに変換する方法が提案されており、積層欠陥の拡大防止に一定の効果がある。
【0007】
しかしながら、ダイオードへの通電量を増大又は通電時間を長くしていくと、エピタキシャル層と基板の界面付近のBPDを起点に積層欠陥が発生し拡大するため、完全な防止とはならない。この原因は、基板とエピタキシャル層の界面において、BPDからTEDに変換された部分に、動き易いシリコン(Si)芯の部分転位が残留していることによる。このSi芯の部分転位は、高不純物濃度のイオン注入がなされている基板中ではイオンの存在により不動な状態になっているが、デバイスとして動作するエピタキシャル層では基板よりも低不純物濃度であるため可動な状態にある。そのため、通電量の増大や長時間通電でSi芯が移動に必要なエネルギーを得ると、Si芯が動いて積層欠陥が拡大すると考えられる。よって、積層欠陥の拡大を十分に防止し、半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することは困難である。
【0008】
本発明は、積層欠陥の拡大を防止することができ、半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することができるSiCエピタキシャル基板の製造方法及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、(a)炭化珪素の基板上にエピタキシャル層を成長させる工程と、エピタキシャル層に光を照射して、基板からエピタキシャル層へ伝播した基底面転位を起点とする積層欠陥をエピタキシャル層内に拡大させる工程と、(b)積層欠陥が拡大したエピタキシャル層を加熱して、積層欠陥を縮小させる工程と、を含み、積層欠陥を拡大させる工程は、積層欠陥同士がエピタキシャル層の膜厚方向で互いに重なる前に、光の照射を停止するSiCエピタキシャル基板の製造方法であることを要旨とする。
【0010】
また、本発明の他の態様は、(a)炭化珪素の基板上に第1導電型の走行層をエピタキシャル成長させる工程と、(b)走行層に光を照射して、基板から走行層へ伝播した基底面転位を起点とする積層欠陥を走行層内に拡大させる工程と、積層欠陥が拡大した走行層を加熱して、積層欠陥を縮小させる工程と、(c)走行層の上部に第2導電型の注入領域を形成する工程と、を含み、積層欠陥を拡大させる工程は、積層欠陥同士が走行層の膜厚方向で互いに重なる前に、光の照射を停止する半導体装置の製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、積層欠陥の拡大を防止することができ、半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することができるSiCエピタキシャル基板の製造方法及び半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る半導体装置の一例を示す断面図である。
【
図2】エピタキシャル基板の一例を示す断面図である。
【
図3】積層欠陥が拡大する様子を示す模式的な図である。
【
図4】
図3に引き続く、積層欠陥が拡大する様子を示す模式的な図である。
【
図5】
図4に引き続く、積層欠陥が拡大する様子を示す模式的な図である。
【
図6】
図5に引き続く、積層欠陥が縮小する様子を示す模式的な図である。
【
図7】
図6に引き続く、積層欠陥が縮小する様子を示す模式的な図である。
【
図8】エピタキシャル基板の一例を示す他の断面図である。
【
図9】積層欠陥が拡大する様子を示す平面図である。
【
図10】
図9に引き続く、積層欠陥が拡大する様子を示す平面図である。
【
図11】
図10に引き続く、積層欠陥が拡大する様子を示す平面図である。
【
図12】
図11に引き続く、積層欠陥が拡大する様子を示す平面図である。
【
図13】積層欠陥が重なり合う場合の平面図である。
【
図14】
図13のH-H方向から見たエピタキシャル基板の断面図である。
【
図16】
図15のI-I方向から見たエピタキシャル基板の断面図である。
【
図17】積層欠陥を完全拡大後のフォトルミネッセンス(PL)像である。
【
図19】実施形態に係る半導体装置の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図20】積層欠陥を途中まで拡大後の平面図である。
【
図21】
図20のJ-J方向から見たエピタキシャル基板の断面図である。
【
図22】積層欠陥が重なり合う場合の他の平面図である。
【
図23】積層欠陥を途中まで拡大後の他の平面図である。
【
図24】光照射エネルギー密度と欠陥再拡大抑制率の関係を示すグラフである。
【
図25】実施例に係る積層欠陥の完全拡大後のPL像である。
【
図26】実施例に係る積層欠陥の縮小後のPL像である。
【
図27】実施例に係る積層欠陥の模擬通電後のPL像である。
【
図28】実施形態の変形例に係る半導体装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は実際のものとは異なる場合がある。また、図面相互間においても寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。
【0014】
また、以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。
【0015】
また、以下の説明では、第1導電型がn型、第2導電型がp型の場合について例示的に説明する。しかし、導電型を逆の関係に選択して、第1導電型をp型、第2導電型をn型としても構わない。また「n」や「p」に付す「+」や「-」は、「+」及び「-」が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物濃度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。ただし、同じ「n」と「n」とが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物濃度が厳密に同じであることを意味するものではない。また、以下の説明では、ミラー指数の表記において、「-」はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に「-」を付けることで負の指数を表している。
【0016】
また、以下の説明では、本発明の半導体装置としてpinダイオードを例示するが、本発明の半導体装置はpinダイオードに限定されない。例えば、pn接合に順方向の電流が通電される絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)、静電誘導サイリスタ(SIサイリスタ)やゲートターンオフサイリスタ(GTO)等のバイポーラデバイスであってもよい。また、基板上にエピタキシャル成長したドレイン領域を有するボディダイオードが寄生する構造のMOS電界効果トランジスタ(FET)、MISFETや静電誘導トランジスタ(SIT)等であってもよい。
【0017】
(実施形態)
<半導体装置>
実施形態に係る半導体装置は、
図1に示すように、第1導電型(n
+型)の排出層1と、排出層1の上面側に設けられ、排出層1よりも低不純物濃度の第1導電型(n型)の走行層2と、走行層2の上部に設けられた第2導電型(p
+型)の注入領域3を備えるpinダイオードである。
【0018】
排出層1、走行層2及び注入領域3は、炭化珪素(SiC)結晶からなる。SiC結晶には結晶多形が存在し、主なものは立方晶の3C、及び六方晶の4H、6Hである。室温における禁制帯幅は3C-SiCでは2.23eV、4H-SiCでは3.26eV、6H-SiCでは3.02eVの値が報告されている。本発明の実施形態では、排出層1、走行層2及び注入領域3が4H-SiCである場合を説明する。
【0019】
排出層1は、SiC基板で構成されている。排出層1は、主電流となるキャリアを排出するカソード領域として機能する。排出層1の表面は、(0001)Si面であり、<0001>(c軸)方向に対して<11-20>方向に0°以上、8°以下程度のオフ角を有する。排出層1の上側の走行層2及び注入領域3も、排出層1と同じオフ角を有する。
【0020】
走行層2は、SiCからなるエピタキシャル層で構成されている。走行層2は、排出層1から排出されるキャリアがドリフト電界で走行するドリフト領域として機能する。走行層2の不純物濃度は真性半導体に近い低不純物濃度であるので「i層」と見なすことが可能であり、p+型の注入領域3、i型の走行層2及びn+型の排出層1で「pinダイオード」を構成している。走行層2のn型不純物は、例えば窒素(N)である。走行層2の不純物濃度は、例えば1×1015cm-3以上、1×1018cm-3以下程度であり、pinダイオードの耐圧仕様に応じて適宜調整される。走行層2の厚さは、例えば1μm以上、数100μm以下程度であり、pinダイオードの耐圧仕様に応じて適宜調整される。
【0021】
注入領域3は、走行層2に少数キャリアを注入するアノード領域として機能する。注入領域3は、走行層2の上部に、走行層2の不純物とは反対導電型の不純物を選択的に添加することにより形成されている。p+型の注入領域3及びn型の走行層2により、キャリア注入を制御する電位障壁を構成するp+n接合が形成されている。
【0022】
注入領域3の上面には、表面電極(アノード電極)4が設けられている。アノード電極4は、コンタクト層、バリアメタル層及び表面電極層等を含んでよい。例えば、コンタクト層がニッケルシリサイド(NiSix)膜、バリアメタル層が窒化チタン(TiN)膜、表面電極層がアルミニウム(Al)膜で構成できる。
【0023】
排出層1の下面には、裏面電極(カソード電極)5が設けられている。カソード電極5は、例えば金(Aμ)からなる単層膜や、Al、ニッケル(Ni)、Aμの順で積層された金属膜が使用可能である。カソード電極5にコンタクト層を含んでもよい。
【0024】
図2は、
図1に示した排出層1、走行層2及び注入領域3となるエピタキシャル基板(1s,2e)の模式的な断面図を示す。エピタキシャル基板(1s,2e)は、基板1s及びエピタキシャル層2eで構成されている。基板1s及びエピタキシャル層2eは、オフ角θ1を有する。
【0025】
pinダイオードの順方向抵抗の増大は、エピタキシャル層2eに存在する基底面転位11を起点として、積層欠陥が拡大することによって起こる。より詳しくは、n型のエピタキシャル層2e内の積層欠陥がつくる電子準位に、
図1に示したp型の注入領域3から少数キャリア(ここでは正孔)が注入されることにより起こる。この積層欠陥の電子準位は、4H-SiC結晶の伝導帯の下端から0.2eV~0.3eV低い位置にあることが知られている。通電又は光励起により生成された伝導帯の電子が積層欠陥の電子準位で正孔と再結合することにより、積層欠陥の拡大が起こる。基板1s中の基底面転位11は、基板製造段階の温度の不均一に起因する結晶内部の応力を緩和するために発生し、基板1s中に1000個/cm
2台で存在している。
【0026】
図2に示すように、基底面転位11は、基板1sからエピタキシャル層2eまで基底面10内を伝播し、エピタキシャル層2eを貫通して表面に至っている。このようなエピタキシャル基板(1s,2e)を用いてpinダイオードを製造する場合、通電により、エピタキシャル層2e中の基底面転位11が積層欠陥の拡大の起点となり得る。即ち、
図1に示したp型の注入領域3から少数キャリアである正孔がエピタキシャル層2eに注入されることにより、基底面転位11が積層欠陥の拡大の起点となり得る。
【0027】
一方、基底面転位12は、基板1sからエピタキシャル層2eへ基底面10内を伝播しているが、エピタキシャル層2e内でSiC結晶のc軸に平行な貫通刃状転位(TED)12xに変換している。貫通刃状転位12xは積層欠陥に拡大しない。しかし、
図1に示した構造において、p型の注入領域3から注入された正孔が排出層1と走行層2との界面付近まで到達すると、積層欠陥の拡大が起こり得る。
図2では、注入された正孔が基板1sとエピタキシャル層2eとの界面付近まで到達すると、基板1sとエピタキシャル層2eとの界面付近の基底面転位12を起点とする積層欠陥の電子準位に正孔が注入される。基底面転位12を起点とする積層欠陥は、基板1sとエピタキシャル層2eとの界面付近の正孔密度が1×10
15cm
-3以上で拡大が始まるといわれている。
【0028】
次に、
図3~
図7を参照して、光照射又は通電によるエネルギー付与により、基板1sとエピタキシャル層2eとの界面の境界領域(界面付近)の基底面転位12を起点として積層欠陥が拡大し、その後の加熱により積層欠陥が縮小する機構について説明する。
【0029】
図3に模式的に示すように、基底面転位12は、Si-Si結合からなるSi芯の部分転位Si(g)(破線で図示)と、C-C結合からなるC芯の部分転位C(g)(実線で図示)の2本に分かれている。なお、「(g)」は、グライド面が転位のすべり面であることを表している。部分転位Si(g)は動き易い可動転位であり、部分転位C(g)は動き難い不動転位である。2本の部分転位Si(g)及び部分転位C(g)の間に積層欠陥21が存在する。基板1sとエピタキシャル層2eの界面付近で、基底面転位12が貫通刃状転位に変換すると、基底面転位12の部分転位Si(g)及び部分転位C(g)が近接し、1本の貫通刃状転位(不図示)となる。この貫通刃状転位への変換点12aにおいて、エピタキシャル層2eと基板1sの界面からエピタキシャル層2e側に部分転位Si(g)が存在する。
【0030】
この状態で、光照射又は通電によるエネルギー付与により、4H-SiCのバンドギャップである3.2eVを超える正孔が注入されると、
図4に示すように、変換点12aの部分転位Si(g)を起点として、動き易い部分転位Si(g)が動き難い部分転位C(g)を伴って移動し、エピタキシャル層2e中で積層欠陥21が拡大する。更に、
図5に示すように、積層欠陥21が完全に拡大して、エピタキシャル層2eの表面側の部分転位Si(g)が消失する。
【0031】
次に、完全に拡大した積層欠陥21を加熱すると、
図6に示すように、部分転位Si(g)が縮小方向に動き、エピタキシャル層2e中の積層欠陥21が縮小し、エピタキシャル層2e中の積層欠陥21と、エピタキシャル層2eと基板1sの界面付近の変換点12bは分離される。変換点12bは部分転位C(g)で閉鎖される。部分転位C(g)は正孔が注入されても動き難いため、この後に基板1sに正孔が注入されても変換点12bを起点としては積層欠陥が拡大し難くなる。更に、
図7に示すように、エピタキシャル層2e中の積層欠陥21が縮小して消失する。
【0032】
図8は、基板1sとエピタキシャル層2eとの界面付近の基底面転位12を起点Aとして拡大した積層欠陥21を示している。起点Aは、基板1sとエピタキシャル層2eとの界面の境界領域(界面付近)の基底面転位12の貫通刃状転位(不図示)への変換点であり、Si芯の部分転位が存在する。Si芯の部分転位のサイズは数100nm程度である。積層欠陥21は、完全に拡大しており、エピタキシャル層2eの表面に到達している。
【0033】
図9~
図12を参照して、
図8に示した積層欠陥21が拡大する様子を説明する。
図9に示すように、光照射により、基底面転位12の起点Aから積層欠陥21が拡大する。積層欠陥21の辺21a,21bはC芯の部分転位である。更に、
図10に示すように、積層欠陥21が拡大し、エピタキシャル層2eの表面に到達する。積層欠陥21の辺21bは、エピタキシャル層2eの表面端となる。更に、
図11に示すように、積層欠陥21が拡大し、平面視において台形となる。更に、
図12に示すように、積層欠陥21が完全に拡大し、平面視において積層欠陥21の射影された形状が三角形となる。
【0034】
積層欠陥21の辺21aは起点Aと頂点Bの線分であり、辺21bは頂点B,Cの線分であり、辺21cは起点Aと頂点Cの線分である。平面視において、辺21a,21bのなす角度は直角であり、辺21a,21cのなす角度は60°であり、辺21b,21cのなす角度は30°である。オフ角θ1が4°、エピタキシャル層2eの膜厚が10μmの場合、辺21aの長さは、<1120>方向に10μm/tan4°=143μmとなり、辺21bの長さは、<1100>方向に√3×10÷sin4°=248.3μmとなる。
【0035】
ここで、
図13及び
図14に示すように、エピタキシャル層2e中の複数の積層欠陥21,22がエピタキシャル層2eの膜厚方向に互いに重なり合う場合がある。
図13は、エピタキシャル層2e中の積層欠陥21,22の平面図であり、
図14は、
図13のH-H方向から見たエピタキシャル基板(1s,2e)の断面図である。
【0036】
図13及び
図14に示すように、積層欠陥21,22は、基板1sとエピタキシャル層2eとの界面付近の基底面転位12,13を起点A,Dとして完全に拡大した欠陥であり、平面視で三角形をなす。積層欠陥21,22の起点A,Dが近接している場合、積層欠陥21,22を完全に拡大させると、エピタキシャル層2e内の膜厚方向で、積層欠陥21,22が重なり合う領域A1が発生する。積層欠陥21,22が重なり合う領域A1は、積層欠陥21,22が重なり合う領域A1以外の領域よりも、エネルギー的に安定状態となる。
【0037】
図15は、
図13及び
図14に示した完全に拡大した積層欠陥21,22を、加熱により縮小させた後の平面図であり、
図16は、
図15のI-I方向から見たエピタキシャル基板(1s,2e)の断面図である。
図15及び
図16に示すように、積層欠陥21,22が重なり合う領域A1以外の領域では、積層欠陥21,22が縮小して消失している。一方、積層欠陥21,22が重なり合う領域A1では、エネルギー的に安定状態であるため、縮小が停止し、積層欠陥21,22が残留している。
【0038】
図16は、光照射により、積層欠陥31~34を完全に拡大後の積層欠陥のPL像を示す。積層欠陥31~34のうち、積層欠陥31,32のそれぞれは、複数の積層欠陥が集合して構成されており、複数の積層欠陥の一部が互いに重なり合う領域を有する。一方、積層欠陥33,34のそれぞれは、1つの積層欠陥で構成されている。
【0039】
図17は、
図16に示した完全に拡大後の積層欠陥31~34を、600℃の加熱により縮小させた後のPL像を示す。
図17に示すように、複数の積層欠陥で構成された積層欠陥31,32は、複数の積層欠陥が重なり合う領域以外の部分が縮小したが、複数の積層欠陥が重なり合う領域の部分が残存している。一方、1つの積層欠陥で構成された積層欠陥33,34は、縮小して略消失している。
【0040】
そこで、実施形態に係る半導体装置の製造方法は、このような積層欠陥の重なりに着目して、加熱による積層欠陥の縮小処理のタクトタイムを犠牲にせずに無害化処理を行うために、積層欠陥の拡大処理において積層欠陥同士が重なり合わないように積層欠陥の拡大を制御するものである。
【0041】
<半導体装置の製造方法>
次に、
図19のフローチャートを参照して、実施形態に係るSiCエピタキシャル基板の製造方法を含む、実施形態に係る半導体装置の製造方法を、pinダイオードの場合を一例に説明する。なお、以下に述べるpinダイオードの製造方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0042】
図19のステップS1において、
図2に示した4H-SiC結晶のn
+型の基板1sを用意する。基板1sは、主面が<11-20>方向に4°オフした(0001)Si面である。そして、基板1sの上に、n型のエピタキシャル層2eをエピタキシャル成長させる。基板1s及びエピタキシャル層2eにより、エピタキシャル基板(1s,2e)が構成される。エピタキシャル層2eは、例えば窒素(N)等のn型不純物が例えば1×10
15cm
-3以上、1×10
18cm
-3以下程度の不純物濃度で添加される。エピタキシャル層2eの厚さは、1μm以上、数100μm以下程度である。以下では、エピタキシャル層2eの厚さを10μmとして説明する。
【0043】
ステップS2において、光照射により、基板1sからエピタキシャル層2eへ伝播した基底面転位を起点とする積層欠陥の拡大処理を行う。拡大処理は、エピタキシャル層2eの表面全体に均一に光を照射して行う。光源のビーム径がエピタキシャル層2eの表面サイズより小さい場合は、照射光を走査して表面全体に均一に光を照射する。
【0044】
照射光は、4H-SiC結晶のバンドギャップエネルギーである吸収端波長388nmよりも短波長の紫外(UV)光である。照射光は、4H-SiC結晶のバンドギャップエネルギー4H-SiCバンドギャップである3.2eV付近(波長換算して305nm付近)のUV光が好ましい。また、照射エネルギー密度は、例えば1000J/cm2以上、且つ5000J/cm2以下程度であることが好ましい。
【0045】
光源として、UVレーザ及びUVランプが用いられる。UVレーザとしては、エキシマレーザ、及びヘリウムカドミニウム(He-Cd)レーザ等が使用可能である。UVレーザとしては、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)又はイットリウム・バナデイト(YVO4)レーザ等の第3又は第4高調波を用いてもよい。UVランプとしては、水銀ランプ、クセノンランプ、メタルハライドランプ、重水素ランプ、ハロゲンランプ等が使用可能である。
【0046】
照射光の光強度(光照射密度)と積層欠陥の拡大速度の関係は、下記式(1)で示される。
【0047】
【0048】
式(1)において、Vは積層欠陥の拡大速度、Voは初速度、ΔEは活性化エネルギー、kはボルツマン定数、Tは温度、Iは光強度であり、Vo及びΔEは材料特有の定数である。式(1)で示すように、光強度Iが高く、温度Tが高いほど、積層欠陥の拡大速度Vは高くなる。但し、4H-SiCの場合には、温度Tが所定値よりも高いと、積層欠陥が縮小しやすい傾向にある。よって、式(1)の温度Tは、積層欠陥の拡大を阻害しない範囲で調整される。光照射時の温度Tは、例えば常温から400℃未満で設定される。
【0049】
光照射による積層欠陥の拡大処理においては、複数の積層欠陥の少なくとも一部同士が重なる前に、光照射を停止し、積層欠陥の拡大処理を停止する。例えば、エピタキシャル基板(1s,2e)のウェハ面内の複数の積層欠陥の起点となり得る位置等に基づいて、光照射時間を、複数の積層欠陥同士が重なるまでの光照射時間よりも短く調整する。或いは、エピタキシャル基板(1s,2e)に形成される複数の積層欠陥の種類及び形状等に基づいて、光照射時間を、複数の積層欠陥が完全に拡大するまでの光照射時間よりも短く調整してもよい。複数の積層欠陥が完全に拡大する前に光照射を停止することで、複数の積層欠陥が完全に拡大する場合と比較して、複数の積層欠陥が重なり合う領域を低減することができる。
【0050】
例えば、PL又はX線トポグラフ等により、エピタキシャル基板(1s,2e)のウェハ面内の積層欠陥の起点となり得る基底面転位の位置、及び積層欠陥の拡大し得る方向を検出する。或いは、エピタキシャル基板(1s,2e)とは別の同じ種類のウェハを用いて、光照射により積層欠陥の拡大処理を行った後に、PL又はX線トポグラフ等により、積層欠陥の起点となる位置、積層欠陥の種類及び形状、積層欠陥の拡大する方向等を検出してもよい。また、式(1)等を用いて、使用する光源の光強度に基づき、エピタキシャル層2eに光照射を行ったときの積層欠陥の拡大速度を算出する。そして、検出した積層欠陥の起点となり得る位置、積層欠陥が拡大し得る方向、算出した積層欠陥の拡大速度等に基づき、起点から拡大した積層欠陥が互いに重なり合うまでの光照射時間よりも短い光照射時間に決定する。決定した光照射時間を用いて、光照射による積層欠陥の拡大処理を行う。
【0051】
光照射による積層欠陥の拡大処理により、複数の積層欠陥は拡大するが、複数の積層欠陥が完全に拡大する前の状態で停止する。なお、複数の積層欠陥のうちのすべての積層欠陥が必ずしも完全に拡大する前の状態でなくてよい。即ち、複数の積層欠陥のうちの一部の積層欠陥が完全に拡大する前の状態であり、残りの一部の積層欠陥が完全に拡大した状態であってもよい。
【0052】
図20は、
図19のステップS2の光照射による積層欠陥の拡大処理により、積層欠陥21,22を拡大した場合の平面図であり、
図21は、
図20のJ-J方向から見たエピタキシャル基板(1s,2e)の断面図を示す。
図20及び
図21に示すように、積層欠陥21,22は、基板1sとエピタキシャル層2eの界面付近の基底面転位12,13を起点A,Dとして拡大している。積層欠陥21,22は距離D1で離間している。
【0053】
積層欠陥21,22は完全には拡大しておらず、平面視で菱形を有している。積層欠陥21の起点Aから延びる辺21a,21cの端部及び積層欠陥22の起点Dから延びる辺22a,22cの端部は、エピタキシャル層2eの表面まで到達しておらず、エピタキシャル層2eの内部に位置する。積層欠陥21の辺21a及び積層欠陥22の辺22aの長さは、
図13に示した積層欠陥21の辺21a及び積層欠陥22の辺22aの長さよりも短い。積層欠陥21の辺21c及び積層欠陥22の辺22cは、
図13に示した完全に拡大した積層欠陥21の辺21c及び積層欠陥22の辺22cの長さよりも短い。
【0054】
図22は、エピタキシャル層2e中の積層欠陥21,22がエピタキシャル層2eの膜厚方向に互いに重なり合う場合の他の例である。積層欠陥21,22は、基板1sとエピタキシャル層2eの界面付近の基底面転位12,13を起点A,Dとして完全に拡大した欠陥であり、平面視で三角形をなす。積層欠陥21,22は平面視で三角形の領域A2で互いに重なり合っている。
【0055】
図23は、
図19のステップS2の光照射による積層欠陥の拡大処理により、
図22に示した積層欠陥21,22が重なり合う前に光照射を停止した状態を示す。積層欠陥21,22は、距離D2で離間している。積層欠陥21,22は完全には拡大しておらず、平面視で台形をなす。積層欠陥21の起点Aから延びる辺21a、及び積層欠陥22の起点Dから延びる辺22aの端部は、エピタキシャル層2eの表面まで到達している。積層欠陥21の起点Aから延びる辺21c、及び積層欠陥22の起点Dから延びる辺22cの端部は、エピタキシャル層2eの表面まで到達しておらず、エピタキシャル層2eの内部に位置する。積層欠陥21の辺21c及び積層欠陥22の辺22cは、
図22に示した完全に拡大した積層欠陥21の辺21c及び積層欠陥22の辺22cの長さよりも短い。
【0056】
図19のステップS3において、PL又はX線トポグラフ等により、エピタキシャル基板(1s,2e)のウェハ面内の積層欠陥の形状、位置、間隔等を検出する。例えば、光照射する過程で、PL像を観察することにより積層欠陥の形状、位置、間隔等を検出することができる。PL像の観察は、積層欠陥の電子準位からの約428nmの発光波長近傍の波長だけを透過する光学フィルタ(バンドパスフィルタ)を用いて行えばよい。或いは、約428nmの波長よりも短波長の光照射で励起することにより、積層欠陥の発光像(PL像)を検出してもよい。
【0057】
ステップS4において、ステップS3で検出した積層欠陥の形状、位置、間隔等に基づき、所定の閾値との比較等により、積層欠陥が互いに重なり合わない範囲で積層欠陥を更に拡大可能であるか否かを判定する。ステップS4で積層欠陥を更に拡大可能であると判定した場合、ステップS2に戻り、光照射を更に行う。一方、ステップS4で積層欠陥を更に拡大可能ではないと判定した場合、ステップS5に移行する。
【0058】
ステップS5において、ステップS3で検出した積層欠陥の形状、位置、間隔等に基づき、ウェハ面内に積層欠陥が重なり合う領域の有無を判定する。ステップS5で積層欠陥が重なり合う領域が無いと判定された場合、ステップS6に移行する。なお、ステップS3~ステップS5を省略し、ステップS2からステップS6に移行してもよい。
【0059】
ステップS6において、加熱により、拡大した積層欠陥の縮小処理を行う。縮小処理を大気の雰囲気で行う場合は、結晶の酸化を防止するためエピタキシャル基板(1s,2e)を例えば400℃以上、800℃以下程度で加熱して行う。加熱は、基板を直接加熱しても雰囲気全体を加熱してもかまわない。例えば、縮小処理を大気で行い、縮小処理温度は例えば430℃で、縮小処理時間は約2時間である。なお、縮小処理を窒素ガス(N2)等の不活性ガス中で行なう場合は、SiC結晶の酸化の恐れがないため、800℃以上、1000℃以下程度の温度に設定できる。縮小処理温度が1000℃より高くなると、C芯も移動可能となるため、好ましくない。
【0060】
縮小処理中に吸収端波長以下の波長を有する光(第2光)をエピタキシャル基板(1s,2e)に照射してもよい。これにより、縮小処理時間を短縮することができる。第2光に求められる条件は、ステップS2の拡大処理の光(第1光)と同じである。第2光として、第1光と同じ光源を用いてもよい。
【0061】
ステップS2の積層欠陥の拡大処理で、積層欠陥が重なり合うことを抑制しているため、ステップS6の積層欠陥の縮小処理においては、積層欠陥が重なり合う領域が残存することなく、積層欠陥を確実に縮小し、消失させることができる。
【0062】
一方、ステップS5で積層欠陥が重なり合う領域が有ると判定された場合、ステップS7に移行する。ステップS7において、ステップS6の加熱条件(第1条件)とは異なる加熱条件(第2条件)で、縮小処理を行う。即ち、ステップS6及びステップS7では、積層欠陥の検出結果に応じて、縮小処理での加熱条件を調整している。
【0063】
例えば、ステップS7の第2条件では、ステップS6の第1条件よりも高温且つ長時間で縮小処理を行う。例えば、ステップS6の第1条件として、加熱温度を400℃以上、800℃以下程度、加熱時間を2時間程度に設定した場合、ステップS7の第2条件として、加熱温度を800℃以上、1000℃以下程度、加熱時間を4時間程度に設定してよい。これにより、第1条件で縮小処理を行う場合よりも、積層欠陥を縮小させることができる。なお、エピタキシャル基板(1s,2e)のウェハ面内において積層欠陥が重なり合う領域が有ると判定された部分を不使用としてもよい。
【0064】
ステップS8において、PL又はX線トポグラフ等により、積層欠陥の形状やサイズを検出し、所定の閾値との比較等により、積層欠陥が十分に縮小したか判定する。積層欠陥の検出は、例えば約428nmの波長よりも短波長の光照射で励起することにより、積層欠陥のPL像を検出してもよい。
【0065】
ステップS9において、フォトリソグラフィによりイオン注入用マスクを形成して、エピタキシャル層2eの上部にAl等のp型不純物をイオン注入する。その後、熱処理により、イオン注入されたp型不純物を活性化させて、エピタキシャル層2eの上部にp型の注入領域3が選択的に形成され、残りのエピタキシャル層2eが走行層2となる。引き続き、化学機械研磨(CMP)等により、基板1sの下面を研磨して厚み調整をして、排出層1をカソード領域としての仕様に仕上げる。更に、スパッタリング又は真空蒸着等により、排出層1の下面にAμ等からなる裏面電極(カソード電極)5を形成する。更に、スパッタリング又は真空蒸着等により、Al等の金属膜を堆積し、表面電極(アノード電極)4を形成する。このようにして、実施形態に係る半導体装置が完成する。
【0066】
実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、光照射による積層欠陥の拡大処理において、基底面転位を起点とする積層欠陥同士がエピタキシャル層2eの膜厚方向で重なる前に光照射を停止する。これにより、積層欠陥の拡大処理に引き続く、加熱による積層欠陥の縮小処理において、積層欠陥の縮小が途中で停止することを防止することができ、積層欠陥をより確実に縮小させることができる。この結果、素子の実通電使用時に初めて顕在化する積層欠陥の拡大を抑制することができ、素子通電中の電気特性劣化を抑制することができる。
【0067】
なお、pinダイオードのi層である走行層2は、pinダイオードの耐圧仕様によって厚さと不純物濃度が相違する。走行層2の厚さは、例えば、耐圧が600V~数10kVの範囲で、約5μm~数100μmである。4H-SiCの吸収端波長以下の波長を有する光は、SiC結晶に吸収されるので、結晶内への侵入深さは限られる。例えば、波長が310nmの光の侵入深さは10μm程度であるが、波長が250nmの光の侵入深さは1μm程度と浅くなる。積層欠陥の起点となる基底面転位は排出層1と走行層2との界面近傍に存在するので、積層欠陥を拡大するためには、侵入深さが走行層2の厚さ程度の波長のUV光を用いることが望ましい。波長が250nmのUV光では侵入深さは1μm程度ではあるが、少数キャリアである正孔の拡散長が10μm程度であるので、積層欠陥の拡大に使用することは可能である。
【0068】
また、走行層2として100μm程度の厚さが必要である設計仕様において、300nm程度、又はそれ以下の波長のUV光を用いて積層欠陥の拡大処理をする場合がある。この場合、一旦UV光の侵入深さ、例えば10μm程度の下地エピタキシャル層を基板1s上に成長させ、積層欠陥の拡大及び縮小処理を行い、積層欠陥を不動化する。その後、下地エピタキシャル層に更に90μm程度の厚さの新たなエピタキシャル層を成長させてエピタキシャル基板(1s,2e)を作製する。下地エピタキシャル層において積層欠陥が不動化されているため、通電や光照射により、積層欠陥が新たなエピタキシャル層に拡大することを防止することが可能である。
【0069】
<実施例>
実施例として、4H-SiC、オフ角4°、エピタキシャル膜厚10μm、基板厚さ350μmのSiCウェハを複数用意し、各SiCウェハに対して、光照射による積層欠陥の拡大処理、加熱による積層欠陥の縮小処理、素子通電電流密度相当の光エネルギーを照射した模擬通電を順次行った。
【0070】
光照射は355nmのUV光レーザを用い、光照射時のSiCウェハの温度は250℃とした。光積層欠陥の拡大処理における光照射条件は、単位面積当たりに与えられる光照射光源パワーを照射面積で割り照射時間を乗算した、照射エネルギー密度(単位J/cm2)で規定し、SiCウェハ毎に、照射エネルギー密度を変化させた。加熱による積層欠陥の縮小処理と、模擬通電の条件は、各SiCウェハで共通とした。加熱による積層欠陥の縮小処理は、700℃、12時間で行った。各SiCウェハについて、光照射による積層欠陥の拡大処理後、加熱による積層欠陥の縮小処理後、模擬通電時のタイミングで積層欠陥の形状を観察すると共に、模擬通電時の観察において、拡大した積層欠陥の位置と個数を識別した。
【0071】
図24は、各ウェハの観察結果より得られた照射エネルギー密度と欠陥再拡大の関係について、すべての積層欠陥数に対する模擬通電時に拡大した欠陥数の比を再拡大抑制率(%)として示す。
図24の領域P1のプロットに対応する1000J/cm
2未満では、再拡大抑制率が50%~75%であり、積層欠陥の拡大処理後には拡大せず、模擬通電時に初めて拡大した積層欠陥が確認された。模擬通電で拡大した積層欠陥は、積層欠陥の拡大処理において、光照射の照射エネルギーが低いため、積層欠陥が拡大できなかった部分であることが分かった。
【0072】
また、
図24の領域P3のプロットに対応する5000J/cm
2を超える温度では、再拡大抑制率が5%~10%であり、積層欠陥の再拡大が観察された。再拡大した積層欠陥は、積層欠陥の拡大処理において積層欠陥が完全に拡大し、積層欠陥の重なり合う領域が発生し、縮小処理により縮小せずに残留した部分であることが分かった。
【0073】
また、
図24の領域P2のプロットに対応する1000J/cm
2以上、5000J/cm
2以下の範囲Tでは、再拡大抑制率が100%、すなわち全ての積層欠陥の再拡大が抑制されていた。これは、積層欠陥の拡大処理において積層欠陥が重なり合わない範囲で拡大され、縮小処理により縮小して不動化したものと考えられる。よって、積層欠陥の拡大処理における照射エネルギー密度は、1000J/cm
2以上、5000J/cm
2以下程度が好ましい。
【0074】
図25は、実施例のSiウェハのうち、5000J/cm
2を超える照射エネルギー密度で光照射により積層欠陥の拡大処理を行ったものの後のPL像である。
図25に示す積層欠陥41~44は完全に拡大している。積層欠陥41~44のうち、積層欠陥41,42は複数の積層欠陥で構成されており、複数の積層欠陥が重なり合う領域を有している。一方、積層欠陥43,44は、1つの積層欠陥で構成されている。
図26は、
図25に示した積層欠陥41~44を加熱により縮小した後のPL像である。
図26に示すように、積層欠陥41,42は、複数の積層欠陥が重なり合う領域が縮小しきれずに残留している。一方、積層欠陥43,44は縮小して消失している。
図27は、
図26に示した積層欠陥41,42に対して模擬通電時のPL像である。
図27に示すように、模擬通電時に、積層欠陥41,42の残留した部分から再拡大している。
【0075】
(変形例)
実施形態の変形例に係る半導体装置は、
図28に示すように、排出層1と走行層2との間に設けられたn
+型のバッファ層6を更に備える点が、
図1に示した実施形態に係る半導体装置と異なる。バッファ層6は、排出層1上に設けられた欠陥変換層6aと、欠陥変換層6a上に設けられた再結合促進層6bを備える。なお、
図25では、バッファ層6が欠陥変換層6aと再結合促進層6bとの多層構造(複合構造)を有する場合を例示するが、バッファ層6は欠陥変換層6aのみを有していてもよく、或いは再結合促進層6bのみを有していてもよい。
【0076】
欠陥変換層6aは、SiCからなるエピタキシャル成長層である。欠陥変換層6aは、例えば95%程度の基底面転位を貫通転位に変換する機能を有する。再結合促進層6bは、SiCからなるエピタキシャル成長層である。再結合促進層6bは、通電によりp+型の注入領域3から注入された正孔を電子と再結合させて、走行層2側から排出層1側に注入される少数キャリアを減少させる機能を有する。
【0077】
実施形態の変形例に係る半導体装置では、排出層1から伝播した基底面転位は、欠陥変換層6a内に存在することになる。欠陥変換層6aは厚いほど、積層欠陥の発生頻度を低減できるが、厚くするとエピタキシャル成長のスループットの低下を招くので、例えば1μm以下程度に薄くするのが好ましい。欠陥変換層6aに存在する基底面転位に注入される正孔密度を減少させるため、欠陥変換層6aは走行層2よりも高不純物濃度のn+型エピタキシャル層を用いることが望ましい。
【0078】
また、再結合促進層6bにより、正孔密度を1×10
15cm
-3台以下に減少させることができる。再結合促進層6bには、n型の主不純物に加えて正孔捕獲準位を形成する副不純物をドーピングする。主不純物の不純物濃度が高いほど、正孔密度を低減できる。副不純物として、Al、ボロン(B)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、鉄(Fe)及びクロム(Cr)等が使用可能である。実施形態の変形例に係る半導体装置の他の構成は、
図1に示した実施形態に係る半導体装置と実質的に同様であるので、重複する記載は省略する。
【0079】
実施形態の変形例に係る半導体装置の製造方法としては、4H-SiC結晶のn+型基板1sの上にn+型バッファ層6及びn型エピタキシャル層2eを連続してエピタキシャル成長させる。基板1sは、主面が<11-20>方向に4°オフした(0001)Si面である。バッファ層6は、例えば窒素(N)等のn型不純物が1×1018cm-3以上、1×1019cm-3以下程度の不純物濃度で添加されている。バッファ層6の厚さは、例えば1μm程度である。基板1s上にバッファ層6をエピタキシャル成長させているため、基板1sから伝播する基底面転位はバッファ層6内で貫通転位に変換される。エピタキシャル層2eは、n型不純物がバッファ層6よりも低不純物濃度で添加されている。エピタキシャル層2eの厚さは、例えば10μm程度である。
【0080】
そして、光照射による積層欠陥の拡大処理において、基板1sとバッファ層6の界面付近の基底面転位を起点として拡大する積層欠陥同士が、バッファ層6の膜厚方向で重なり合う前に光照射を停止する。実施形態の変形例に係る半導体装置の製造方法の他の手順は、実施形態に係る半導体装置の製造方法と実質的に同様であるので、重複した説明を省略する。
【0081】
実施形態の変形例に係る半導体装置の製造方法によれば、光照射による積層欠陥の拡大処理において、基板1sとバッファ層6の界面付近の基底面転位を起点として拡大する積層欠陥同士が、バッファ層6の膜厚方向で重なり合う前に光照射を停止する。これにより、バッファ層6中での積層欠陥の重なり合いを低減することができる。このため、積層欠陥の拡大処理に引き続く積層欠陥の縮小処理において、積層欠陥の縮小が途中で停止することを防止することができ、積層欠陥をより確実に縮小させることができる。
【0082】
更に、バッファ層6はエピタキシャル層2eよりも高不純物濃度のn型の不純物が添加されている。したがって、基板1sとバッファ層6との界面に存在する基底面転位にエピタキシャル層2eから注入される正孔密度を閾値の1×1015cm-3台以下に減少させることができる。その結果、基底面転位が積層欠陥に拡大することを防止することができる。
【0083】
(その他の実施形態)
上記のように、実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0084】
上述のように、実施の形態では、4H-SiC結晶を用いて説明したが、立方晶系の3C-SiC、六方晶系の6H-SiC等の結晶多形を用いてもよい。
【0085】
また、実施の形態では、完全に拡大した形状が平面視で三角形をなす積層欠陥の重なり合いについて説明したが、三角形をなす積層欠陥に限定されない。例えば、完全に拡大した形状が平面視で矩形をなす積層欠陥や、矩形の長辺が鋸歯状をなす積層欠陥等の、他の形状の積層欠陥の重なり合いについても同様に適用できる。
【0086】
また、実施の形態では、基板1sとエピタキシャル層2eの界面付近に分布して存在する基底面転位の貫通刃状転位への変換点を起点とする積層欠陥について主に説明したが、貫通刃状転位へ変換せずにエピタキシャル層2eの表面に至る基底面転位を起点とする積層欠陥の重なり合いについても適用できる。
【0087】
また、実施形態が開示する構成を、矛盾の生じない範囲で適宜組み合わせることができる。このように、上記の実施形態及び各変形例において説明される各構成を任意に応用した構成等、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0088】
1…排出層
1s…基板
2…走行層
2e…エピタキシャル層
3…注入領域
4…アノード電極
5…カソード電極
6…バッファ層
6a…欠陥変換層
6b…再結合促進層
10…基底面
11~13…基底面転位
12x…貫通刃状転位
21,22…積層欠陥
21a,21b,21c,22a,22b,22c…辺
31~34,41~44…積層欠陥
A,D…起点
B,C,E,F…頂点
A1,A2…領域
C(g),Si(g)…部分転位
D1,D2…間隔
T…範囲
P1~P3…領域
θ1…オフ角