(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010368
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】大型平底円筒形極低温タンク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F17C 3/08 20060101AFI20240117BHJP
B65D 90/02 20190101ALI20240117BHJP
【FI】
F17C3/08
B65D90/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】34
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111671
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000110011
【氏名又は名称】トーヨーカネツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003454
【氏名又は名称】弁理士法人友野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大江 知也
(72)【発明者】
【氏名】鳴瀬 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藤極 之徳
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E170AA03
3E170AA08
3E170AB29
3E170NA01
3E170NA03
3E170QA05
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3E172AA06
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3E172AB04
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3E172BD05
3E172CA10
3E172DA03
3E172DA04
3E172DA90
(57)【要約】 (修正有)
【課題】内槽と、内槽の外側に周設された外槽との間に、所要の真空度の真空層及び高断熱・高強度な保冷構造を有する液化水素の貯蔵に適した大型平底円筒形極低温タンクを提供すること、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の大型平底円筒形極低温タンクは、内槽と外槽との間の空間に存在する物質が固体と気体との平衡状態を保持している真空層を具備しており、また、本発明の大型平底円筒形極低温タンクの内槽と外槽との間の底部で、内槽を支えるハニカム状断熱構造体で支持されていることを特徴としている。また、本発明の大型平底円筒形極低温タンクの製造方法は、内槽の外側に、空間部を介して内槽を囲む外槽を形成し、この空間部を真空排気すると共に内槽を冷却して、空間部に存在する物質が固体と気体との平衡状態を保持する真空層を形成することを特徴としている。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内槽と外槽との間に断熱層を備える二重殻構造の平底円筒形極低温タンクであって、
前記断熱層が、
前記内槽の外側に前記内槽と接触することなく前記内槽を包囲する前記外槽を備え、
前記内槽と前記外槽との間に形成されている空間部に残存する物質が固体と気体との平衡状態を保持し、所定の真空度を維持している真空層であることを特徴とする極低温タンク。
【請求項2】
前記外槽の底部以外の前記真空層側に貼設される、多層断熱材(MLI、Multilayer Insulation)と、
前記真空層の前記内槽の底部と前記外槽の底部との間に挿設される、熱輻射シールドを内蔵する断熱構造体と、
前記内槽の底部と前記断熱構造体との間に敷設されている、内槽補強板と、
前記外槽の底部と前記断熱構造体との間に敷設されている、レベリング層と、
を備え、
前記外槽が、前記外槽の底周縁部の基台の前記外槽側表面に一端が露出されるように植設される金属アンカープレートを介して前記基台上に載置され、前記外槽の前記底部周縁部が、前記金属アンカープレートの前記一端と溶接固定されていることを特徴とする請求項1に記載の極低温タンク。
【請求項3】
前記断熱構造体が、三角形、四角形、及び、六角形の中から選択される一種類以上の平面充填可能な形状を水平に切断した中空断面として有する略高さの等しい中空柱体を略鉛直に複数配備し、前記中空柱体の側面を形成する隔壁で囲まれるハニカム構造体であって、前記中空柱体内に、前記中空断面と略合同な一つ以上の熱輻射シールドが、前記中空柱体の長手方向と略垂直で嵌合するように介設又は列設されていることを特徴とする請求項2に記載の極低温タンク。
【請求項4】
前記隔壁には、前記ハニカム構造体の前記中空柱体の内部を形成するセル間を全て連通するように隔壁通気孔が貫設されており、前記熱輻射シールドには、前記セル内を全て連通するようにシールド通気孔が貫設されていることを特徴とする請求項3に記載の極低温タンク。
【請求項5】
前記ハニカム構造体の前記隔壁上部周辺及び/又は下部周辺に、前記中空断面と略相似な開口部が形成されるように、前記ハニカム構造体を補強するリブが付設されていることを特徴とする請求項4に記載の極低温タンク。
【請求項6】
前記熱輻射シールドが、前記ハニカム構造体の前記隔壁の上部周辺に付設されている前記リブに載架される保持部材に固定された吊具に間隔を置いて吊設されることを特徴とする請求項5に記載の極低温タンク。
【請求項7】
前記熱輻射シールドが、前記ハニカム構造体の前記隔壁の下部周辺に付設されている前記リブに載架される支持部材に支持された支柱に間隔を置いて持設されることを特徴とする請求項5に記載の極低温タンク。
【請求項8】
前記熱輻射シールドが、前記ハニカム構造体の前記隔壁の下部周辺に付設されている前記リブに支持された支柱に間隔を置いて持設されることを特徴とする請求項5に記載の極低温タンク。
【請求項9】
前記吊具が、少なくとも2つ以上であることを特徴とする請求項6に記載の極低温タンク。
【請求項10】
前記支柱が、少なくとも2つ以上であることを特徴とする請求項7に記載の極低温タンク。
【請求項11】
前記支柱が、少なくとも2つ以上であることを特徴とする請求項8に記載の極低温タンク。
【請求項12】
前記熱輻射シールドの前記間隔が、スペーサーによって保持されていることを特徴とする請求項6に記載の極低温タンク。
【請求項13】
前記熱輻射シールドの前記間隔が、スペーサーによって保持されていることを特徴とする請求項7に記載の極低温タンク。
【請求項14】
前記熱輻射シールドの前記間隔が、スペーサーによって保持されていることを特徴とする請求項8に記載の極低温タンク。
【請求項15】
前記熱輻射シールドが、多層断熱材が補強部材で支持されている構成であることを特徴とする請求項2~14のいずれか一項に記載の極低温タンク。
【請求項16】
前記ハニカム構造体、前記リブ、前記吊具、前記支柱、及び、前記スペーサーが、繊維強化プラスチック(FRP、Fiber Reinforced Plastics)であることを特徴とする請求項2~14のいずれか一項に記載の極低温タンク。
【請求項17】
前記レベリング層が、前記隔壁に対する作用力及び前記隔壁の位置関係を平準化する機能を有するレベリング材の上に、有孔金属板を敷設した積層体であることを特徴とする請求項2に記載の極低温タンク。
【請求項18】
前記レベリング材が、珪砂であることを特徴とする請求項17に記載の極低温タンク。
【請求項19】
前記レベリング層に、フィルター材が内設されていることを特徴とする請求項18に記載の極低温タンク。
【請求項20】
前記内槽補強板は、繊維強化プラスチック、木材、及び、圧縮木材の中から選択されるいずれか一つ以上の材料のパネル状の補強板を並べて形成されていることを特徴とする請求項2に記載の極低温タンク。
【請求項21】
前記内槽の前記真空層と反対側である内側底周縁部に、前記内槽を加熱可能な内槽加熱手段が配備されていることを特徴とする請求項2に記載の極低温タンク。
【請求項22】
前記外槽の前記真空層と反対側である外側側面周縁部に、前記外槽を加熱可能な外槽加熱手段が配備されていることを特徴とする請求項2に記載の極低温タンク。
【請求項23】
前記内槽加熱手段が、空気加熱機構と加熱空気噴射機構とを少なくとも備えた配管装置であることを特徴とする請求項21に記載の極低温タンク。
【請求項24】
前記外槽加熱手段が、ケーブルヒーターであることを特徴とする請求項22に記載の極低温タンク。
【請求項25】
前記外槽加熱手段の反対方向の大気側に、前記外槽加熱手段を備えた極低温タンク全体を包囲し、前記外槽加熱手段の空気中への放熱を防止する最外殻断熱手段が周設されていることを特徴とする請求項21~24のいずれか一項に記載の極低温タンク。
【請求項26】
前記基台の所定の位置に、前記外槽の底部を加熱可能な外槽底部加熱手段が埋設されていることを特徴とする請求項2に記載の極低温タンク。
【請求項27】
前記基台に埋設されている前記外槽底部加熱手段の前記外槽の底部以外への放熱を防止できるように、前記基台の所定の位置に基台内断熱手段が定設されていることを特徴とする請求項26に記載の極低温タンク。
【請求項28】
前記外槽底部加熱手段が、前記基台の中央上部及び周縁上部に埋設されると共に、前記基台内断熱手段が、前記外槽底部加熱手段を囲むように前記外槽底部加熱手段の下部及び周縁部に画設されていることを特徴とする請求項27に記載の極低温タンク。
【請求項29】
前記外槽底部加熱手段の下部に画設されている前記基台内断熱手段の中央部が発泡ガラスであり、前記基台内断熱手段の周縁部がパーライトコンクリートであることを特徴とする請求項28に記載の極低温タンク。
【請求項30】
液化水素の貯蔵タンクに使用することを特徴とする請求項1~14、17~24、並びに、26~29のいずれか一項に記載の極低温タンク。
【請求項31】
内槽の外側に前記内槽と接触することなく前記内槽を包囲する外槽を備え、前記内槽と前記外槽との間に形成されている空間部が、前記空間部に存在する物質の固体と気体との平衡状態を保持している真空層である極低温タンクの製造方法であって、
前記内槽と前記外槽との間に形成されている前記空間部の気体を除去する排気工程と、
前記内槽を冷却して、前記空間部に存在する物質の飽和蒸気圧を下げながら固体と気体との平衡状態を形成することにより前記空間部を所要の真空度に高める真空層形成工程と、
を含むことを特徴とする請求項1~14、17~24、並びに、26~29のいずれか一項に記載の極低温タンクの製造方法。
【請求項32】
前記真空層形成工程における前記内槽の冷却面温度及び前記空間部の真空度が、それぞれ、-140℃以下及び0.1Pa以下であることを特徴とする請求項31に記載の極低温タンクの製造方法。
【請求項33】
前記真空層形成工程が、所定量の液化窒素及び/又は冷却窒素ガスを前記内槽に注入し、前記液化窒素及び/又は冷却窒素ガスを所定時間滞留させる工程を含むことを特徴とする請求項31に記載の極低温タンクの製造方法。
【請求項34】
前記排気工程前及び/又は前記排気工程中に、前記極低温タンクの固体材料から加熱により放出される気体及び水分を除去する加熱(ベイキング、Baking)工程を更に含むことを特徴とする請求項31に記載の極低温タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化水素等を貯蔵する二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンク及びその製造方法に関し、より詳しくは、内槽と外槽との間に所要の真空度を有する真空層を備える二重殻構造の平底円筒形極低温タンク及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液化天然ガス(LNG、Liquefied Natural Gas)や液化水素等の極低温液を貯留する極低温タンク、特に液化水素を貯留する極低温タンクは、近年の急速な地球温暖化を解決すべく、カーボンニュートラルを実現する水素社会のエネルギー源の貯蔵設備として極めて重要な役割を果たすものと予想されている。これは、LNGが、火力発電において、酸性雨や大気汚染の原因とされるNOx(窒素酸化物)の発生量が少なく、SOx(硫黄酸化物)も発生しない環境特性に優れたエネルギー源であるが、地球温暖化を促進する温室効果ガスであるCO2(二酸化炭素)を石炭の約60%、そして、石油の約70%発生するのに対し、水素をエネルギー源とすれば、CO2の発生がないためである。更に、2021年、日本政府が、2030年に46%~50%の温室効果ガス削減、2050年には温室効果ガスを実質的に0とすることを提言していると共に、産業界における日本の水素・燃料電池関連市場の規模が、2030年に約1兆円、2050年には約8兆円まで拡大すると試算されており、水素の需要が急激に増加すると考えられることに基づくものである(非特許文献1)。
【0003】
しかし、水素は、LNGの零下162℃よりも更に低温の零下253℃で液化して貯蔵される必要があり、LNGの10倍以上も熱の影響を受けやすいため、液化水素の貯蔵タンクは、LNGタンク以上に高断熱・高強度な保冷構造の実現を図る必要があり、極めて高い水準のタンク設計技術及びタンク施工技術が求められる。
【0004】
このような状況にある中で、特許文献及び非特許文献等を顧みると、液化水素の貯蔵タンクに限定されず、LNG等を貯留する極低温タンクとして、内部に極低温液を貯留する内槽と、所定の厚さの保冷層を挟んで内槽全体を取り囲む外槽とから形成される二重殻構造の平底円筒形極低温タンクが広く検討されて来た。
【0005】
例えば、このような極低温タンクとしては、特許文献1の従来技術として記載されている床浮き式タンクのように、球面状の屋根が備えられ、内槽が、地中に埋設された杭を用いて地上より所定の間隔を隔てて設けられたコンクリート製基台の上に配備されるリング状パーライトコンクリート支持台に着座されると共に、外槽が、上記コンクリート製基台上に、内槽全体を覆って所定の厚さの保冷層を介して周設される構成の円筒体状のものがある。そして、この内外槽間の保冷層は、一般的に、リング状パーライトコンクリート支持台内側に充填される泡ガラス等の断熱材と、内槽の側部及び屋根部を取り囲むパーライトの保冷材との双方の内部空間に窒素ガスを充填した構成となっていることが多い。
【0006】
特許文献1は、このような従来技術を鑑み、平底円筒形極低温タンクの内槽支持安定性及び断熱性・保冷性を改善することを目的とした構造の極低温タンクを提案している。すなわち、タンクの底面が球面状の円筒形内槽が、所定の厚さの真空保冷層を挟んで、内槽全体を取り囲む内槽と相似形の外槽とから形成される二重殻構造であって、外槽は、上部形状が外槽底面と合同な球面状である基台に支持され、内槽は、内槽底面外縁部と外槽底面外縁部との空間部に形成される、アルミニウムが表面に蒸着された硬質合成樹脂板材の横断面ハニカム状断熱構造体、円筒状支持部材がその軸心を水平にして仕切り板を介して列設された短い円柱状断熱構造体、又は、球体状支持部材が仕切り板を介して列設された球状断熱構造体の上に伸縮自在に着座され、これらの断熱構造体の中央部に泡ガラス等の断熱材を充填した構成の平底円筒形類似の極低温タンクである。
【0007】
この極低温タンクは、確かに、熱輻射を反射率の高いアルミニウムで反射させることができるハニカム状断熱構造体であるため、断熱効果を向上させることができ、液化温度が零下162℃のLNG及び液化温度が零下196℃の窒素等の貯蔵タンクに対しては有効であると考えられる。しかし、このような技術を、液化温度が零下253℃で、LNGよりも10倍以上の熱の影響を受ける液化水素を貯蔵する二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクに適用するにおいては、更に、断熱性を高める必要がある。
【0008】
第一に、内外槽間に高い真空度の断熱層が必須であるが、単にポンプにより真空引きするだけでは、所要の真空度を確保することができないという問題である。上記特許文献1には、断熱構造体の各ハニカム側面及び仕切り板に設けられた孔部が、内外槽間の空間部を効果的に真空引きして真空保冷層とすることができると記載されているが、この真空保冷層には断熱材が充填されており、真空に対する最大の阻害要因である泡ガラス等の断熱材から放出されるガス量が多く、大きな排気抵抗が生じて真空度を高められないという問題がある。それにもかかわらず、これらの問題に対する解決手段が講じられていない。そのため、大型平底円筒形極低温タンクの内外槽間の高い真空度の断熱層は実現しておらず、断熱性・保冷性という観点から、所要の真空度が確保され、優れた断熱性の保冷層を有する極低温タンクに対する要求は根強いものがある。しかし、例えば、飽和蒸気圧が高い空気の真空ポンプによる排気後に、内外槽間の空間部に存在する壁面や断熱材等の固体表面及び空間に滞留して残存する水蒸気が真空度を低下させる解決困難な問題として存在する。この理由は、水蒸気を処理する必要があるのだが、二重殻構造の1万m3を超える大型平底円筒形極低温タンクでは、内外槽間の容積が極めて大きいため、残存水蒸気量を取り除くことが極めて困難であることに存する。しかも、内外槽間の空間部に存在して真空度に影響を及ぼす気体は、水蒸気だけでなく、空気中の酸素、窒素、及び、二酸化炭素、並びに、構造物に内蔵されている有機化合物等もある。すなわち、大きい内外槽間の空間部を所要の真空度に保持した真空タンクとすることは、実際上困難であると考えられている。
【0009】
第二に、やはり、断熱性を大きく左右し、平底円筒形極低温タンクの支持台として極めて重要な役割を担うハニカム状断熱構造体に生起する損傷の問題である。これは、板同士を溶接することで形設される平底円筒形極低温タンク外槽の底板に生じている、溶接変形による不陸が原因である。つまり、この底板上に複数のハニカム状断熱構造体を隣接させて設置すると、ハニカム状断熱構造体群の上面位置が不均一になり、内槽からの上載荷重が局所的にハニカム状断熱構造体に作用することでハニカム状断熱構造体自体及び内外槽が損傷する。
【0010】
このように、液化水素を貯蔵する大型平底円筒形極低温タンクには上記問題が存在するため、また、液化水素の貯蔵が、少量需要に限定されていたため、従来の液化水素の貯蔵タンクが、表面積が小さい球形又は枕形の内槽を吊持する最も入熱量を抑制できる二重殻構造で、内外槽間の断熱方式がパーライト真空断熱方式又は積層真空断熱方式の単一方式であり、最大容量が3,000m3に止まっていたものと考えられる。特に、真空度の高い積層真空断熱方式では、最大容量が1,000m3にも達していない(非特許文献2)。
【0011】
また、液化温度が零下253℃で、LNGよりも10倍以上の熱の影響を受ける液化水素を貯蔵する大型極低温タンクとして、二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクの開発に着手することによって、上記二つの問題の解決手段に付随する数多くの問題も発生し、総合的な解決手段が求められることも明らかになってきた(特許文献2及び3)。
【0012】
このように、液化水素の大型平底円筒形極低温タンクの開発には、様々な障害をブレークスルーしなければならないが、温室効果ガスが発生しないエネルギー源を存分に活用した水素社会を実現するためには、容量が少なくとも1万m3を超える大型平底極低温タンクに大きな期待が掛けられているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7-139699号公報
【特許文献2】特開2019-183427号公報
【特許文献3】特開2020-29873号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】世界自然保護基金(WWF,World Wide Fund for Nature),「46%、さらに50%の温室効果ガス削減目標(2030年)を実現する 「2030年エネルギーミックス」提案~2050年100%自然エネルギーで賄う社会に向けて~」,2019年9月17日,[on line],[2021年12月22日検索],インターネット<https://https://www.wwf.or.jp/activities/statement/4631.html>
【非特許文献2】一般財団法人エンジニアリング協会地下開発利用研究センター,「平成30年度 水素輸送・貯蔵研究会報告書」,pp.39-44,2019年8月,[on line],[2021年12月22日検索],インターネット<https://www.enaa.or.jp/?fname=2018suiso_honsatsu2019.8.19.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来技術に記載したように、近年の急速な地球温暖化に対し、カーボンニュートラルを実現する水素社会のエネルギー源である液化水素の利用が進められつつあり、その需要の急増が現実味を帯びてきた現在、水素エネルギー社会を実現するLNG同様の大型極低温タンクが早急に求められる局面となってきた。そのため、1万m3を超える二重殻構造の液化水素極低温タンクに対する要求が従来以上に高まっている。特に、内槽を吊持する球形タンクでは困難な容量5万m3以上を可能とする平底円筒形極低温タンクの建設実現が期待されている。
【0016】
しかしながら、背景技術で説明したように、二重殻構造の平底円筒形極低温タンクの内外槽間の空間部の真空度を高めることによって断熱保冷性能を向上させる高性能化、及び、強固で安全な二重殻構造の大容量平底円筒形極低温タンクを構設する大型化には、主として、二つの根本的な課題がある。
【0017】
第一は、二重殻構造の内外槽間の空間部を高真空とするために、真空ポンプにより空気の主成分である飽和蒸気圧が高い窒素及び酸素を排気する必要があり、排気後に内外槽や断熱材等の固体表面及び空間に多量に残存する水蒸気をはじめ、各種気体が真空度を高める阻害要因となるが、大型化においては、市場にある真空ポンプだけで所要の真空度を得ることが困難である。
【0018】
第二は、極低温タンクを基台で支える平底タイプでは、内外槽間に断熱効果を高め、内槽を支持する構造体が必要であり、ハニカム状断熱構造体を採用することが好ましい(特許文献1及び2)が、ハニカム状断熱構造体自体及び内外槽が損傷するという課題である。これは、外槽の底板は、板同士を溶接することで形設されるが、この時の溶接変形により底板に不陸が生じ、この底板上に複数のハニカム状断熱構造体を隣接させて設置すると、ハニカム状断熱構造体群の上面位置が不均一になり、内槽からの上載荷重が局所的にハニカム状断熱構造体に作用することに起因している。
【0019】
そこで、本発明は、これらの課題を解決し、内外槽間の保冷層として所要の真空度を確保した真空層を生成し、ハニカム状断熱構造体の断熱性能を維持しつつ、構造的課題を誘発しない、二重殻構造の平底円筒形極低温タンクの高性能化及び大型化を具現化することを目的としている。特に、重要な目的は、液化水素を安定・安全に貯蔵可能な1万m3を超える二重殻構造の平底円筒形極低温タンクの実現である。
【0020】
更に詳しくは、本発明は、内部に極低温液を貯留する内槽と、所定の厚さの空間部である保冷層を挟んで内槽全体を取り囲む外槽とから形成される二重殻構造の極低温タンクにおいて、この内外槽間の空間部である保冷層が、真の意味で、すなわち、液化温度が零下162℃のLNGよりも10倍以上の熱の影響を受ける液化温度が零下253℃の液化水素の蒸発を抑制して安定して液化水素を貯蔵可能な所要の真空度を保持した真空層であって、構造的課題を誘発することなく断熱性能を一層高めることが可能なハニカム状断熱構造体を備え、液化水素貯蔵タンクの高性能化及び大型化を実現する二重殻構造の平底円筒形極低温タンク及びその製造方法を提供することを目的としている。
【0021】
ここで、本発明が目的とする極低温タンクの「真空層」は、断熱材に窒素ガスを充填したような「保冷層」でないことは言うまでもなく、例えば、特許文献1に記載されているように、従来の真空ポンプで排気処理しただけの「真空保冷層」と呼称されてきた真空度の低い保冷層でもない。本明細書における「真空層」とは、液化水素の蒸発を抑制して安定して液化水素を貯蔵可能な所要の真空度を保持しており、その断熱効果も優れた「所要の真空度を保持している保冷層」と定義されるものであり、従来技術で呼称されている「保冷層」や「真空保冷層」とは完全に区別されるものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、従来は困難であると考えられていた、内部に極低温液を貯留する内槽と所定の厚さの保冷層を挟んで内槽全体を取り囲む外槽とから形成される二重殻構造の平底円筒形極低温タンクの内外槽間の保冷層を高真空化することが、内外槽間の保冷層のポンプによる一定量の排気後に、内外槽間の保冷層に残存する水蒸気等の様々な気体を冷却面に液化及び固化させることによって可能であり、所要の真空度を生成し保持できる真空層が形成されること、また、この真空層の生成のためには、タンク構成部材の固体表面に吸着した気体を脱離する加熱脱ガス処理が効果的であることを見出した。これと並行して、タンク底面の内外槽間に配備される断熱構造体を、排気連通孔を備えた隔壁及び熱輻射シールドを内設したハニカム構造とし、その上面に、内槽底板の補強材を、その下面に、ガス放出量の少ない低圧処理に悪影響を及ぼさず、ハニカム構造を構成する隔壁の局部的な陥没・隆起を防止するレベリング層を併設すること、更には、外槽底板がタンク基台に植設されるアンカープレートとの溶接接合により補強される等の平底円筒形極低温タンクの総合的構造最適化を図ることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0023】
すなわち、本発明は、内槽の外側に内槽と接触することなく内槽を包囲する外槽を備え、内槽と外槽との間に形成されている空間部を備えている極低温タンクであって、その空間部の材料の冷却面において、その空間部に残存する物質が固体と気体との平衡状態を保持している真空層であることを特徴とする極低温タンクである。この平衡状態は、物質の状態図における昇華圧曲線に沿った温度及び圧力の下で保持され、少なくとも水の三重点の圧力(約600Pa)及び温度(約0℃)以下であればよいが、圧力は0.1Pa以下、冷却面の温度は、水蒸気の凝縮確率がほぼ1とみなせる約-140℃以下であることが好ましい。
【0024】
このような本発明の極低温タンクに具備されている真空層は、従来の断熱材に窒素ガスを充填したような保冷層でないことは言うまでもなく、従来真空保冷層と呼称されてきた真空ポンプで排気処理しただけの真空度の低い保冷層でもなく、液化水素の蒸発を抑制して安定して液化水素を貯蔵可能な所要の真空度を保持している。
【0025】
ここで、「所要の真空度」とは、真空断熱に必要な真空で、本発明の真空層の真空度、すなわち、本発明の真空層の圧力は、日本産業規格(JIS、Japanese Industrial Standards)で定義されている10-1~10-5Paの高真空領域の真空度であれば良く、断熱性能を確実に発現することができる10-2~10-4Pa以下の圧力であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の極低温タンクは、内外槽間が真空層であることを特徴としているだけでなく、二重殻構造の平底円筒形極低温タンクの高性能化及び大型化を図るため、様々な構成要素に改良が加えられ、断熱性・保冷性が高められ、構造最適化が施されている。以下、これらについて順不同で説明する。
【0027】
真空層の断熱効果をより高める手段として、多層断熱材(MLI、Multilayer Insulation)が、外槽の底部以外の真空層側に貼設され、真空断熱層とすることが好ましい。この多層断熱材は、低輻射性金属蒸着フィルムの積層体、低輻射性金属蒸着フィルムと不織布との積層体、又は、アルミホイルとガラス繊維紙を積層したシートであることが好ましい。しかし、このようなMLIは、それ単独では自立した強度がなく撓んでしまうため、外槽の底部以外の真空層側に構設される、金属網状体が取付けられた枠組みに装着され、外槽に貼設される必要がある(特許文献2)。なお、MLIを構成する金属蒸着フィルムとしては、ポリエステル(PET)フィルムの片面又は両面にアルミニウム等の金属を蒸着したフィルムやポリイミド(PI)等の高耐熱性樹脂フィルムにアルミニウム等の金属を蒸着したフィルム等が好ましく用いられるが、特に限定されるものではない。
【0028】
また、真空層の断熱効果を高める別の手段として、真空層の内槽の底部と外槽の底部との間に、断熱構造体が具備されていることが好ましい。この断熱構造体としては、内槽を安定して支持でき、断熱性を有すると共に、高真空中で真空を阻害しない、例えば、気体を放出しない材料を用いた保冷構造体であれば限定されるものではない。
【0029】
しかし、高断熱・高強度の保冷構造を実現するためには、断熱構造体が、三角形、四角形、及び、六角形の中から選択される一種類以上の平面充填可能な形状を水平に切断した中空断面として有する略高さの等しい中空柱体を略鉛直に複数配備されるハニカム構造体であって、この中空柱体内に、中空断面と略合同な一つ以上の熱輻射シールドが、中空柱体の長手方向と略垂直で嵌合するように介設又は列設されている構造体であることが好ましい。
【0030】
特に、このようなハニカム構造の中空断面の形状は、平面充填ができる三角形、四角形、及び、六角形の中では、同面積当たりの辺長が最短になり、伝導面積が最小になり、座屈強度に優れる六角形であることがより好ましい(特許文献3)。
【0031】
一方、熱輻射シールドは、断熱効果に優れたMLIを用いることが好ましいが、上述したように、それ単独では自立した強度がなく撓んでしまうため、MLIを水平面で補強部材に張設された構成であるものが好ましい。
【0032】
更に、液化水素の貯蔵を対象として、このようなハニカム構造の断熱構造体を採用する二重殻構造の平底円筒形極低温タンクを検討した結果、次のような構造設計を上記断熱構造体に付加することによって、高断熱・高強度な保冷機能をより確実かつ安定して発現させることができることを見出した。
【0033】
第一に、本発明の断熱構造体は、そのハニカム構造体の中空柱体の側面を形成する隔壁に、ハニカム構造体の中空柱体の内部を形成するセル間を全て連通するように隔壁通気孔が貫設されていると共に、熱輻射シールドに、セル内を全て連通するようにシールド通気孔が貫設されていることを特徴としており、高い断熱性を発現することができる。前者は、内外槽間の空間部の真空ポンプによる排気が滞ることなく行われることによって、また、後者は、内外槽間の空間部に残存する気体の内槽側の冷却面への固化が滞ることなく生起されることによって、真空度を高めることに寄与するためである。
【0034】
特に、通気性という観点からは、1枚の熱輻射シールドに複数のシールド通気孔が貫設されていることが好ましく、複数の熱輻射シールドが装着されている場合には、これら複数のシールド通気孔が、中空柱体の長手方向に並んで貫設されていることが好ましい。しかし、断熱性の観点からは、通気性の抑制が必要であり、1枚の熱輻射シールドに一つのシールド通気孔が貫設されていることが好ましく、複数の熱輻射シールドが装着されている場合には、この一つのシールド通気孔が、中空柱体の長手方向に並ぶことなく、各熱輻射シールド間で可能な限り長い通気行路となるように貫設されていることが好ましい。
【0035】
第二に、本発明のハニカム状断熱構造体は、そのハニカム構造体の隔壁にリブが付設され、ハニカム構造体が補強されていることを特徴としている。リブは、隔壁に対して直角方向に付設される補強部材であれば、特に、その位置及び形状等が限定されるものではないが、隔壁に対して直角方向に上部周辺及び/又は下部周辺に付設される突起状補強部材であり、中空断面と略相似な開口部が形成されるように付設されることが好ましい。ハニカム構造体の補強だけを目的にするならば、開口部を形成するリブである必要はないが、この開口部は、断熱構造体上下に敷設される材料表面から放出される気体等の排気が容易に行われることを考慮している。更に、熱輻射シールドを中空柱体の長手方向と略垂直で嵌合するように介設又は列設するための部材と兼用できることもその目的として挙げられる。
【0036】
なお、以上のハニカム構造の中空柱体を形成する隔壁及び隔壁を補強するリブの素材としては、断熱性に優れるプラスチックを使用することが好ましいが、力学的強度に優れ、真空層形成ための排気工程における放出気体量が少ないFRPであることがより好ましい。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、及び、カーボンナノチューブの中から選択される一つ以上を用いることができる。
【0037】
第三に、本発明の断熱構造体は、熱輻射シールドを構成するMLI自体の強度及び組立てられた熱輻射シールドの構造安定性を補うために設計された、熱輻射シールドが組立てられた構造にも特徴を有している。上記リブが、ハニカム構造体の隔壁、すなわち、セルの強度を高めるのに対し、この特徴は、熱輻射シールド組立体の強度を向上させるものである。
【0038】
その一つは、MLIが、ハニカム構造体の隔壁の上部周辺に付設されているリブに載架される保持部材に固定された吊具に装着されると共に、MLIを水平面で張設可能な補強部材で支持されて吊設されていることを特徴としている。補強部材で支持されたMLIからなる熱輻射シールドが吊具に吊設されている構造と同義である。また、逆に、MLIが、ハニカム構造体の隔壁の下部周辺に付設されているリブに載架される支持部材に支持された支柱に装着されると共に、MLIを水平面で張設可能な補強部材で支持されて持設されている構造も好ましく用いることができる。この場合は、補強部材で支持されたMLIからなる熱輻射シールドが支柱に持設されている構造と同義である。上記吊具及び支柱は、中空柱体であるセルの中心に垂直に一本だけが形設されてもよいが、安定性を高めるために、二本以上形設することが好ましく、三本以上形設することがより好ましい。特に、熱輻射シールド組立体の構造安定性という観点から、支柱をハニカム構造体の隔壁の下部周辺に付設されているリブに支持させることが最も好ましい。この場合、隔壁通気孔を閉塞させない位置に、支柱を支持することを除けば、支柱の本数及び位置は特に限定されるものではない。
【0039】
ここで、MLIは、低輻射性金属蒸着フィルムの積層体、低輻射性金属蒸着フィルムと不織布との積層体、又は、アルミホイルとガラス繊維紙を積層したシートであることが好ましく、補強部材としては、金網等の金属網状体、熱輻射シールドを複数の線上で支える複数の棒状体、及び、熱輻射シールドを面上で支える板状体等が好ましい。特に、鋼板等の板状体が好ましく、中でも、厚さ約0.3~1.5mmのアルミニウム板が好ましく用いられる。また、自立した強度を備える低輻射性の磨いた金属板や低輻射性の金属膜で被覆された樹脂板等を用いることもでき、この場合は補強部材を必要としない。
【0040】
更に、上記MLIが補強された熱輻射シールド及び自立強度を有する熱輻射シールドは、所定の間隔で装着されるように、熱絶縁性の筒状スペーサーに吊具及び支柱を挿通させて、吊具及び支柱だけが熱輻射シールドを貫設されることが好ましい。熱絶縁性のスペーサーの材料は、特に限定されるものではないが、断熱性能を低下させないように、熱伝導性が低く、熱輻射シールドを支持可能な剛性を有し、吊設及び持設が容易で軽量なプラスチックを使用することが好ましく、その中でも、力学的強度に優れ、真空層形成ための排気工程における放出気体量が少ない繊維強化プラスチック(FRP、Fiber Reinforced Plastics)であることがより好ましい。同様の観点から、上記吊具及び支柱もFRPであることが好ましいが、特に限定されるものではない。FRPの強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、及び、カーボンナノチューブの中から選択される一つ以上を用いることができる。
【0041】
第四に、本発明の断熱構造体の載置部は、外槽底板の不陸に起因するハニカム状断熱構造体に作用する内槽荷重の力学的な不均一性の問題を解決するための構成であることに特徴を有している。この構成の特徴は、外槽の底部に着設され、隔壁に対する作用力及び隔壁の位置関係を平準化する機能を有するレベリング材を含むレベリング層上に載置されていることにある。
【0042】
これは、ハニカム構造が、隔壁と隔壁で形成される中空柱体内のセルとから構成されており、パネル状の鋼板からなる外槽底板の溶接変形により生じる不陸の上に設置されると、鉛直方向の隔壁の高さに差異ができて、ハニカム構造に掛かる内槽荷重が不均一になるため、これを平準化する作用を発現するレベリング材で解消しようとするものである。このレベリング材としては、珪砂、金属球、硬質プラスチック球、及び、FRP球等が好ましいが、珪砂が最も好ましい。これは、このような平準化作用を発現する機能上、また、経済上の観点に基づいている。
【0043】
しかし、珪砂等のようなレベリング材だけのレベリング層上にハニカム構造体を載置すると、ハニカム構造体の中空柱体を形成する隔壁が薄い板状であるため局部的に沈み込み、ハニカム構造体に作用する内槽荷重が不均一になり、隔壁が損傷するという問題が生じる。
【0044】
その解決手段として、本発明のレベリング層は、上記レベリング材の上に、貫通孔を形成した有孔金属板を敷設した積層体であることを特徴としている。この有孔金属板は、薄い板状の隔壁からレベリング材に作用する局所的荷重を分散させて沈み込みを解消し、ハニカム構造の隔壁に対する内槽の作用力を平準化することができる。
【0045】
また、レベリング層のレベリング材としては、珪砂のような砂状の素材を用いることが最も好ましいが、レベリング材と有孔金属板とだけからなるレベリング層であると、真空層を形成する内外槽間の空間部の排気における砂塵の巻き上がりが生じるこために、それを吸引した真空ポンプが故障するという問題が発生する。上記有孔金属板は、不均一な内槽荷重が隔壁に作用する問題を解決する有効な手段ではあるが、更に、砂塵巻き上がりの解決手段として、本発明のレベリング層は、フィルター材が内設されていることを特徴としている。特に、フィルター材は、レベリング材と有孔金属板との間、すなわち、有孔金属板と接触するように、有孔金属板直下に内設することが好ましい。
【0046】
有孔金属板は、断熱構造体の隔壁からの作用力による曲折のない剛性が必要であり、約1~5mm程度の金属板を用いることが好ましい。この貫通孔の形状や開口率は、特に限定されるものではないが、柱体であり、同一底面積では最も容積の小さい円柱状であることが、内槽荷重の平準化及び成形加工上好ましく、貫通孔の数によってこれらを制御することができる。
【0047】
フィルター材は、編布、織布、及び、不織布等、シート状又はフィルム状の通気材であれば特に限定されないが、炭化水素系ガス等の物質の放出量が少なく、熱的及び化学的に安定している素材で形成されるフィルター材が好ましい。この素材としては、無機系材料では、ガラスファイバー、金属ファイバー、及び、カーボンファイバーが好ましく、有機系材料では、エンジニアリングプラスチックファイバーが好ましい。特に、取り扱い易さや経済的な観点から、ガラスクロスが好ましい。また、フィルター材の開口率は、使用するレベリング材に応じて適宜選択されるが、珪砂の砂塵の通過を防止するものが汎用的に用いることができて好ましい。
【0048】
第五に、本発明の内槽は、内槽の底部と略相似形の補強板を介して断熱構造体上に載置されていることを特徴としている。これは、断熱構造体がハニカム構造体であるため、内槽の底部に作用する内槽の全荷重を薄い板状のハニカム構造体の隔壁が支持することになり、隔壁間の内槽底板を支持するものが無く、内槽底板に大きな曲げ応力が生じることから、内槽底板を補強する必要があるためである。
【0049】
この補強板としては、FRP、木材、及び、圧縮木材の中から選択されるいずれか一つ以上の材料であることが好ましい。内槽底板の面積が大きいため、パネル状の補強板を並べて形成する方法が合理的である。FRPは、ハニカム構造体と同様であるため、説明を省略する。
【0050】
第六に、本発明の二重殻外槽は、周縁部の外槽底板が、環状に板を溶接接合したアニュラタイプであって、外槽の底周縁部の基台の外槽側表面に一端が露出するように植設された金属アンカープレートを介して基台上に載置され、周縁部の外槽底板が、金属アンカープレートの一端と溶接固定されていることを特徴としている。これは、次に説明する現象を防止するための解決手段である。液化ガスを貯蔵している状態において、内外槽間の空間部が真空層であっても、液化ガス、内槽底板、補強板、及び、断熱構造体の全荷重が、外槽底板に作用する。この作用は、本発明の断熱構造体がハニカム構造体であるため、外槽底板内周部では、ハニカム構造体の中空柱体の隔壁間を支間として上載荷重として働いているので、外槽底板の基台側から作用する大気圧による外槽底板の浮き上がりは大きな問題とはならないが、外槽底板周縁部ではこの上載荷重が働かないため、断熱構造体の最外周部から外槽側板までの支間に基台側から作用する大気圧による外槽底板の浮き上がりが生じ、支間が大きいことから、発生する曲げ応力が問題となる。この外槽底板の浮き上がりを防止するため、外槽の底周縁部の基台に一端が露出するように植設された金属アンカープレートの一端と接触して基台上に外槽底板が載置され、外槽の底周縁部の底板が、金属アンカープレートの一端と溶接固定されるのである。
【0051】
このように、本発明者らは、断熱構造体をハニカム構造とすること、又、内外槽間を真空にすることに起因して発現する保冷機能及び力学的機能の阻害現象を防止する様々な新しい構造を設計し、高断熱・高強度な二重殻構造の平底円筒形極低温タンクの大型化を実現することに成功した。
【0052】
更に、本発明の平底円筒形極低温タンクは、大型化に伴って必要性が高まる、内外槽間の空間部を確固たる高真空の真空断熱層とするための手段及び貯蔵する液化ガスの蒸発を防止するための手段を具備していることを特徴としている。
【0053】
第一に、内槽の真空層と反対側である内側底周縁部に、内槽を加熱可能な内槽加熱手段が配備されていることを特徴としている。この加熱手段は、主として、内外槽間の空間部の高真空形成を目的として、内槽外壁、補強板、及び、断熱構造体等の表面や内部に残存するに付着している水分等を除去するために使用するものである。特に、内外槽間の空間部を早期に高真空とする上で重要な役割を果たす。
【0054】
第二に、本発明の二重殻構造の平底円筒形極低温タンクは、外槽の真空層と反対側である外側側面部に、外槽を加熱可能な外槽加熱手段が配備されていることを特徴としている。この加熱手段は、内外槽間の空間部の高真空形成を目的として、外槽内壁及び外槽内壁に貼設されている断熱材の表面や内部に残存する水分等を除去するために使用するものである。そして、この外槽加熱手段は、大気中への放熱を抑制し、効果的な水分除去が行われるように、外槽加熱手段の大気側に、外槽加熱手段を備えた極低温タンク全体を包囲する断熱手段が周設されていることも特徴としている。この断熱手段は、とくに限定されるものではなく、一般的な断熱材を適用することができる。例えば、グラスウールやロックウール等の無機繊維系、セルロースファイバー等の木質繊維系、羊毛や炭化コルク等の天然素材系、ポリスチレンやウレタン等の発泡プラスチック系等を挙げることができる。
【0055】
上記第一の内槽加熱手段及び第二の外槽加熱手段は、特に限定されるものではなく、抵抗加熱、誘電加熱、ヒートポンプ等を利用した電気的な各種ヒーター、熱流体を流して加熱する各種熱交換器等を用いることができるが、特に、内槽加熱手段は、空気加熱機構と加熱空気噴射機構とを少なくとも備えた配管装置であることが好ましく、外槽加熱手段は、ケーブルヒーターであることが好ましい。
【0056】
第三に、本発明の二重殻構造の平底円筒形極低温タンクは、基台の所定の位置に、外槽の底部を加熱可能な外槽底部加熱手段が埋設されていることを特徴としている。この加熱手段は、内外槽間の空間部の高真空形成を目的として、特に、内外槽間の底部空間部に配備されている断熱構造体及びレベリング層の表面や内部に残存する水分等を除去するために使用するものである。また、レベリング層のレベリング材及びフィルター材等から加熱によって放出される気体を除去することも重要な目的である。
【0057】
この目的を達成するためには、外槽底部加熱手段が、基台の上部にコンクリートで埋設されると共に、外槽底部加熱手段の外槽の底部以外への放熱を防止できるように基台内断熱手段が、所定の位置に定設されていることが好ましい。具体的には、外槽底部加熱手段が、基台の上部に埋設されると共に、基台内断熱手段が、外槽底部加熱手段を囲むように外槽底部加熱手段の下部及び周縁部に画設されていることが好ましい。更に、基台内断熱手段も、特に限定されるものではないが、外槽底部加熱手段の中央部に画設されている基台内断熱手段が発泡ガラスであり、外槽底部加熱手段の周縁部に画設されている基台内断熱手段がパーライトコンクリートであることが好ましい。
【0058】
この加熱手段も、特に限定されるものではないが、抵抗加熱、誘電加熱、マイクロ波加熱、ヒートポンプ等を利用した電気的な各種ヒーター、熱流体を流して加熱する各種熱交換器等を用いることができるが、発熱ケーブル等の抵抗加熱ヒーターを用いることが簡便で好ましい。
【0059】
上記第一~第三の加熱手段を少なくとも一つ以上配備することが好ましく、全て配備することが最も好ましい。このような加熱手段、一般的に、ベイキング(Baking)と呼称される方法が、二重殻構造の平底円筒形極低温タンクの大型化に伴って顕著となる、真空断熱層の迅速な形成及び貯蔵する液化ガスの蒸発という問題を解決することができる。
【0060】
以上、本発明の二重殻構造の平底円筒形極低温タンクの構成を説明したが、次いで、この極低温タンクを具現するための製造方法について説明する。
【0061】
すなわち、本発明の極低温タンクの製造方法は、内槽の外側に内槽と接触することなく内槽を包囲する外槽を備え、内槽と外槽との間に形成されている空間部が、この空間部に残存する物質が固体と気体との平衡状態を保持している真空層である二重殻構造の平底円筒形極低温タンクの製造方法であって、内槽と外槽との間に形成されている空間部の気体を除去する排気工程と、内槽を冷却して、空間部に残存する物質の固体と気体との平衡状態を形成して、飽和蒸気圧を低下させながら、空間部を所要の真空度に高める真空層形成工程とを含むことを特徴としている。なお、この真空層形成工程においては、排気工程における空間部の気体の排気操作を終止しても問題ないが、真空度をより高めるためには、継続することが好ましい。
【0062】
ここで、排気工程は、高真空を実現できる真空ポンプであれば、特に限定されないが、ドライ真空ポンプや油回転真空ポンプを補助ポンプとして備える高排気量の油拡散真空ポンプやターボ分子ポンプを使用することが好ましい。また、真空層形成工程の冷却は、水蒸気の蒸気圧が十分に低下し、水蒸気が氷に固化される温度まで低下させることができれば、特にその方法は限定されない。物質の状態図における昇華圧曲線に沿った温度及び圧力の下で保持され、少なくとも水の三重点の圧力(約600Pa)及び温度(約0℃)以下であればよいが、速やかに高真空を達成するためには、0.1Pa以下の圧力及び約-140℃以下の温度であることが好ましい。その為の、簡便な方法として、例えば、液化窒素及び/又は冷却窒素ガスを内槽に所定量及び所定時間滞留させる方法を採用することができる。
【0063】
更に、本発明の極低温タンクの製造方法は、上記製造方法の排気工程前及び/又は排気工程中に、極低温タンクの固体材料から加熱により放出される気体を除去する加熱(ベイキング、Baking)工程を含むことを特徴としている。この工程を追加することによって、より確実な真空断熱層の形成及び貯蔵する液化ガスの蒸発量を抑制することができる。
【0064】
以上、本発明は、LNGタンク以上に高断熱・高強度な保冷構造の実現をし、今後需要が急拡大すると予想される液化水素の貯蔵、及び、液化水素タンクの大型化に適した二重殻構造の平底円筒形極低温タンク及びその製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0065】
本発明の二重殻構造の平底円筒形極低温タンク及びその製造方法によれば、極めて水準の高い断熱性及び力学特性を有する保冷構造が確保されるので、沸点がLNGの零下162℃よりも更に低温の零下253℃である液化水素を安定かつ安全に貯蔵することができると共に、従来の液化水素タンクでは実現していない1万m3以上の大型平底円筒形極低温タンクを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクの、円筒中心軸を通り鉛直方向に切断した断面模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る、二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクの
図1における内槽及び外槽の側部及び底部の左側接合部分を拡大した断面模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る、断熱構造体の一部を円柱状に切欠した斜視模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る、断熱構造体のハニカム構造を構成する中空六角柱体の一つを取り出した断熱構造体構成単位の斜視模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る、断熱構造体のハニカム構造を構成する中空六角柱体の隔壁に介設されている熱輻射シールド(a)及びリブ(b)の平面模式図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る、断熱構造体のハニカム構造を構成する中空六角柱体の隔壁に列設されている3枚の熱輻射シールドの斜視模式図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る、断熱構造体のハニカム構造を構成する、MLIを水平面で張設可能な棒状補強部材で支持した熱輻射シールドが、保持部材の中央に固定された1本の吊具で吊設されている中空六角柱体を一つ取り出し、
図6の切断線C1の位置で紙面に平行に切断した断面の一部の模式図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る、断熱構造体のハニカム構造を構成する、MLIを水平面で張設可能な棒状補強部材で支持した熱輻射シールドが、支持部材の中央に固定された1本の支柱で持設されている中空六角柱体を一つ取り出し、
図6の切断線C1の位置で紙面に平行に切断した断面の一部の模式図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る、
図8に示す中空六角柱体を切断線C3の位置で紙面に垂直に切断した断面模式図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る、断熱構造体のハニカム構造を構成する、MLIを水平面で張設可能な板状補強部材で支持した熱輻射シールドが、支持部材の中央に固定された1本の支柱で持設されている中空六角柱体を一つ取り出し、
図6の切断線C1の位置で紙面に平行に切断した断面の一部の模式図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る、断熱構造体のハニカム構造を構成する、MLIを水平面で張設可能な板状補強部材で支持した2枚の熱輻射シールドが、リブに等間隔で固定された3本の支柱で持設されている中空六角柱体を一つ取り出した斜視模式図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る、
図11に示す中空六角柱体の平面図(a)、及び、その平面図(a)の切断線C4の位置で紙面に垂直に切断した断面の模式図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る、リブを備えた断熱構造体を
図8における切断線C2の位置で紙面に垂直に切断した断面の一部の平面模式図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る、
図8に示すように構設された熱輻射シールドを備える二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクを、
図13における切断線C5の位置で紙面に垂直に切断した内槽底部から基台に至る断面の一部の模式図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る、レベリング層を構成する有孔金属板の一部の平面模式図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る、
図8に示すように構設された熱輻射シールドを備える二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクを、
図13における切断線C6の位置で紙面に垂直に切断した断熱構造体から基台に至る断面の一部の模式図である。
【
図17】本発明の比較例であり、レベリング層がレベリング材である珪砂単体であること以外は
図16と同一の二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクを、
図13における切断線C6の位置で紙面に垂直に切断した断熱構造体から基台に至る断面の一部の模式図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る、二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクの製造方法を示す図であって、内外槽間の空間部から気体を除去する排気工程を示す、円筒中心軸を通り鉛直方向に切断した本発明の二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクの断面模式図である。
【
図19】本発明の一実施形態に係る、二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクの製造方法を示す図であって、内外槽間の空間部から気体を除去すると共に、内槽を液化窒素で冷却し、空間部に残存する物質を固化し、その固体と気体との平衡状態を保持することによって内外槽間の空間部を所要の真空度に高める真空層形成工程を示す、円筒中心軸を通り鉛直方向に切断した本発明の二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクの断面模式図である。
【
図20】本発明の一実施形態に係る、液化水素を貯蔵した状態の二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクについて、円筒中心軸を通り鉛直方向に切断した断面模式図である。
【
図21】本発明の一実施形態に係る、内槽、外槽、及び、断熱構造体の加熱手段、並びに、加熱手段の断熱手段を配備した二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクの、円筒中心軸を通り鉛直方向に切断した断面模式図である。
【
図22】本発明の一実施形態に係る、内槽及び外槽の加熱手段である加熱水配管、並びに、外槽の加熱手段の断熱手段を示す図であって、
図21の切断線C7の位置で紙面に垂直に切断した断面模式図である。
【
図23】本発明の一実施形態に係る、内槽及び外槽の加熱手段、並びに、外槽の加熱手段の断熱手段を示す図であって、
図21の切断線C7の位置で紙面に垂直に切断した断面模式図である。
【
図24】本発明の一実施形態に係る、断熱構造体の加熱手段及び断熱手段を示す図であって、
図21の切断線C8の位置で紙面に垂直に切断した外槽底部から基台に至る断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、図面に示した実施形態を用い、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想によってのみ限定されるものである。
【0068】
図1は、本発明の一実施形態に係る、二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンク10-1の、円筒中心軸を通り鉛直方向に切断した断面模式図である。この大型平底円筒形極低温タンク10-1に採用されている断熱構造体(1)30-1は、これを構成するハニカム構造が中空六角柱体の集合体であって、
図1では、六角柱体を水平に切断した六角形の中心を通る二つの頂点を結ぶように切断された断面が模式的に示されている。タンク本体10-1を構成する内槽11及び外槽12は、地中に埋設された杭90を用いて地上より所定の間隔を隔てて設けられたコンクリート製基台80の上に載置されている。内槽11及び外槽12は、それぞれ、底板11a、12a、底板周縁部のアニュラ板11b、12b、側板11c、12c、及び、屋根板11d、12dからなり、内槽11が、所定の間隔を持って外槽12により包囲されている。なお、本発明の二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクの内外槽周縁部の底板は、アニュラタイプであり、アニュラ板は底板の一部を構成するが、便宜上、底板を底板11a、12aとアニュラ板11b、12bとに区別して表記している。
【0069】
内外槽間の空間部は、所定の真空度を保持している真空層13であって、真空層13には、その空間部に残存する物質、並びに、空間部と接触する内槽外壁、補強板、外槽内壁、外槽内壁に貼設されている断熱材、及び、断熱構造体等の表面又は内部から高真空下で放出される水分等の物質が、高真空及び低温下で、(図示していない)固体となり、その固体が気体との平衡状態にあり、約10-2~10-3Paの真空圧力を保持している。また、真空層13は、高い断熱性能を実現するため、多層断熱材14が、外槽12の側板12c及び屋根板12dの内面に貼設されている。
【0070】
そして、外槽12を補強するアンカープレート50及び内槽アニュラ板11bの浮き上がりを防止するアンカーストラップ60が設けられている。特に、アンカープレートは、外槽底板12a及び外槽アニュラ板12bの強度を向上させるための重要な要素であり、必要性が高い。
【0071】
更に、保冷構造を構築し強化することを主たる目的として、真空層13には、外槽12の底板12a上に、レベリング層40、断熱構造体30-1、及び、内槽補強板20が下からこの順に載設され、内槽11が内槽補強板20に着設され、支持されている。ここでは、保冷機能を高め保持するための断熱構造体30の一実施形態として、隔壁31で囲まれたハニカム構造の中空六角柱体であるセル33、並びに、そのセル33内に設けられた熱輻射シールド36から構成される断熱構造体(1)30-1が描かれている。また、保冷構造を構築し維持するためのレベリング層40として、レベリング材41、フィルター材43、及び、有孔金属板42が、下からこの順に構成される一実施形態が描かれている。本発明の平底円筒形極低温タンクは、このような構造に限定されるものではないが、貯蔵する液化ガスとして水素も対象とする場合、より好ましい様々な実施形態が存する。以下、このような
図1に示す本発明の一実施形態に係る二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンク10-1を構成する、内槽補強板20、アンカープレート50、断熱構造体30、及び、レベリング層40について、
図2~17を用い、より好ましい実施形態を順次詳しく説明する。
【0072】
まず、
図2及び3を用いて、極低温タンクの保冷構造を強化するための内槽補強板20について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る、二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンク10-1の
図1における内槽11及び外槽12の側部及び底部の左側接合部分を拡大した断面模式図であり、
図3は、本発明の一実施形態に係る、極低温タンク10-1の断熱構造体30に断熱構造体(1)30-1と代替え可能な断熱構造体(2)30-2の一部を円柱状に切欠した斜視模式図である。
【0073】
図2に示す拡大された断熱構造体(1)30-1の断面構造から分かるように、内槽底板11aは、中空柱体の側面である隔壁31で支持されているだけであるため、内槽11の全荷重が内槽底板11aに作用した時、内槽底板11aに大きな曲げ応力が生じる。そのため、作用荷重を分散して内槽底板11aを補強する内槽補強板20を敷設する必要がある。
【0074】
また、
図3に示す断熱構造体(2)30-2には、ハニカム構造を補強する上側リブ34及び下側リブ35が備えられており、
図3のように、上側リブ34が隔壁31の最上面に設けられる場合は、内槽底板11aに負荷される曲げ強度は多少分散されるが、内槽補強板20の敷設による構造安定化が好ましい。
【0075】
このような内槽補強板20は、曲げ剛性が高いものであれば、特に材質を限定するものではないが、例えば、木材に合成樹脂をあらかじめ浸透させておき,これを高い圧力で圧縮して細胞空隙を縮小し,繊維を緻密にして強度を高めた圧縮木材やFRP等が好ましい。
【0076】
次いで、
図2を用いて、外槽底板12a及び外槽アニュラ板12bを補強するアンカープレート50について説明する。本発明の外槽12の底周縁部は、外槽底板12aの外周部と外槽底板12aに周設される外槽アニュラ板12bが隣接して存在する。そして、この外槽12の底周縁部の基台に複数のアンカープレート50が、外槽底板12aの中心の二つの異なる半径の同心円状に、アンカープレート50の一端が露出して植設され、アンカープレート50と外槽12の底周縁部である外槽底板12aの外周部及び/又は外槽アニュラ板12bとが溶接されて外槽底板12a及び外槽アニュラ板12bが補強されている。これは、次に説明する現象を防止するための解決手段である。液化ガスを貯蔵している状態において、内外槽間の空間部が真空層13であっても、(図示していない)液化ガス、内槽底板11a、内槽補強板20、及び、断熱構造体30の全荷重が、外槽底板12aに上載荷重として作用する。これと同時に、外槽底板の大気側から大気圧が作用するため、外槽底板は浮き上がろうとする。外槽底板内周部では、ハニカム構造体の中空柱体の隔壁間を支間として外槽底板12aは浮き上がろうとするが、上載荷重が底板12aに作用するので大きな問題とはならない。しかし、外槽底板周縁部ではこの上載荷重が作用しないため、内槽底板周縁部の内槽アニュラ板11bの内槽補強板20との接地位置から外槽側板11cまでの支間に大きな浮き上がりが生じる。この浮き上がりを防止するため、外槽12の底周縁部の基台にアンカープレート50の一端が露出するように植設され、外槽12の底周縁部が、アンカープレート50と溶接固定されるのである。
【0077】
更に、保冷機能を強化し保持することを主たる目的として、また、保冷構造を構築し強化することを主たる目的として、真空層13に配備される、断熱構造体30について、
図2~12を用いて説明する。
図2~12には、断熱構造体30の実施形態の代表例として、断熱構造体(1)30-1~断熱構造体(7)30-7を示した。
【0078】
図2に示す断熱構造体(1)30-1は、隔壁31、これらで囲まれたハニカム構造の中空六角柱体であるセル33、及び、そのセル33内に設けられた熱輻射シールド36から構成される単純なものである。
図3は、
図2に示す断熱構造体(1)30-1の隔壁31の上下で、隔壁31の直角方向に、上側リブ34及び下側リブ35を定設した断熱構造体(2)30-2を示している。このような上側リブ34及び下側リブ35は、ハニカム構造体の補強を主たる目的にしているが、上側リブ34及び下側リブ35によって形成される上側リブ開口部341及び下側リブ開口部351は、断熱構造体の上下にある材料表面から放出される気体等の排気が容易に行われるために重要な役割を果たしている。
【0079】
図4は、本発明の一実施形態に係る、断熱構造体(3)30-3のハニカム構造を構成する中空六角柱体の一つを取り出した断熱構造体構成単位301の斜視模式図である。
図5は、本発明の一実施形態に係る、断熱構造体(3)30-3のハニカム構造を構成する中空六角柱体の隔壁31に介設されている熱輻射シールド36(a)及び上側リブ34(b)の平面模式図である。そして、
図6は、本発明の一実施形態に係る、断熱構造体(3)30-3のハニカム構造を構成する中空六角柱体の隔壁31に列設されている3枚の熱輻射シールド36の斜視模式図である。なお、本発明を実施する形態では、中空六角柱体の水平に切断した断面形状として、
図5及び9を参照すると明白であるように、正六角形のハニカム構造を代表例として説明している。
【0080】
図4から明らかなように、隔壁31には、上側リブ34及び下側リブ35に加え、ハニカム構造のセル33が全て連通するように隔壁通気孔32が形成されている。これは、真空層13の排気を行うための通気孔であって、その数量、形状、及び、位置等は通気性と隔壁31の強度とのバランスから適宜設定される。また、熱輻射シールド36にも、同様の目的で、シールド通気孔361が各熱輻射シールド36に二つずつ形成されている。このシールド通気孔36は、真空排気のための通気性を確保できるように、その数量、形状、及び、位置等が設定されればよい。しかし、断熱性という観点からは、
図5(a)及び
図6に示すように、一つの熱輻射シールド36に一つのシールド通気孔361が貫設され、しかも、各熱輻射シールド361間のシールド通気孔361同士の距離が可能な限り長くなるように貫設されることが好ましい。
【0081】
断熱構造体30の構造上の更なる特徴を明らかにするため、
図7及び8に、それぞれ、断熱構造体(4)30-4及び断熱構造体(5)30-5を示した。シールド通気孔361については、
図6に示したシールド通気孔361の配置で描かれている。
【0082】
図7は、本発明の一実施形態に係る、断熱構造体(4)30-4のハニカム構造を構成する、熱輻射シールド36が吊設されている中空六角柱体を一つ取り出し、
図6の切断線C1の位置で紙面に平行に切断した断面模式図である。
図8は、本発明の一実施形態に係る、断熱構造体(5)30-5のハニカム構造を構成する、熱輻射シールド36が持設されている中空六角柱体を一つ取り出し、
図6の切断線C1の位置で紙面に平行に切断した断面模式図である。
図7及び8から分かるように、熱輻射シールド36は、低輻射性金属蒸着フィルムの積層体、低輻射性金属蒸着フィルムと不織布との積層体、又は、アルミホイルとガラス繊維紙を積層したシート等のMLIと、金網等の金属網状体、熱輻射シールドを複数の線上で支える複数の棒状体、及び、熱輻射シールドを面上で支える板状体等の補強部材とから構成されている。補強部材としては、特に、鋼板等の板状体が好ましく、中でも、厚さ約0.3~1.5mmのアルミニウム板が好ましく用いられる。
【0083】
図7から分かるように、上側リブ34を利用して、熱輻射シールド36を装着する棒状の吊具371を固定する保持部材37が上側リブ34で支持され、吊具371の最下端は、留具373で熱輻射シールド36を固定している。また、熱輻射シールド36は、MLIであることが好ましいが、自重で屈曲するため、その支持体となる補強部材が必要であり、ここでは棒状補強部材362が設けられて熱輻射シールド36が構成され、各熱輻射シールド36が、断熱性を損なわないように絶縁性スペーサー372で間隔を持って吊具371に装着されると共に、シールド通気孔361が形成されている。吊具371及びスペーサー372は、絶縁性材料であるFRPを用いて成形されることが好ましく、棒状補強部材362の材質は問われないので、支持性能に優れ、重量が小さいアルミニウムやプラスチック等を用いて成形される。
【0084】
図7とは逆に、
図8に示す断熱構造体(5)30-5では、下側リブ35を利用して、熱輻射シールド36を装着する支柱381を固定する支持部材38が下側リブ35で支持され、支柱381の最下端は、固定具383で支柱381を強固に固定している。しかし、構成部材を削減するため、この固定具383を用いる必要はなく、その実施形態は
図10で説明する。その他、これらの構成部材については、
図7と差異がないので、説明を省略する。
【0085】
棒状補強部材362、並びに、スペーサー372及びスペーサー382を挿通する吊具371及び支柱381の構造をより明確にするために、
図8の切断線C3の位置で紙面に垂直に切断した断面模式図を
図9に示す。図から明らかなように、棒状補強部材362は、十字状に形成されて熱輻射シールド36を支持しており、スペーサー382の中心に支柱381が挿通されている。そして、棒状補強部材362にはシールド通気孔361が形成されている。
【0086】
熱輻射シールド36の補強部材として、棒状補強部材362に代わり、板状補強部材363を使用した代表例を
図10に示す。
図10は、本発明の一実施形態に係る、断熱構造体のハニカム構造を構成する、MLIが板状補強部材363で補強された熱輻射シールド36が持設されている中空六角柱体を一つ取り出し、
図6の切断線C1の位置で紙面に平行に切断した断面模式図である。このような板状補強部材363を用いる方が、熱輻射シールド36が平面的に張設され、熱輻射シールドの機能が良好な上、安定性に優れ、施工上の取り扱いも容易である。また、この熱輻射シールドの支持構造は、支柱381の最下端が支持部材38で保持されているものであり、
図8に示す固定具383を用いることなく、構成部品を少なくすることができて好ましい。
【0087】
図7~10において、隔壁31を補強する上側リブ34及び下側リブ35が、熱輻射シールド36を吊設及び持設するために活用された断熱構造体30の一例として、吊具371及び支柱381が、ハニカム構造の中空六角柱体の中心軸に一本だけ配置された構成を示したが、その位置は中心軸である必要はなく、その数も複数であってもよい。また、上側リブ34を隔壁31の最上端ではなく、保持部材37がセル33内に収まる位置に設けることもでき、下側リブ35を隔壁31の最下端ではなく、支持部材38がセル33内に収まる位置に設けることもできる。
【0088】
このような観点から、
図11及び12には、それぞれ、断熱構造体のハニカム構造を構成する、MLIを水平面で張設可能な板状補強部材363で支持した2枚の熱輻射シールド36が、リブに等間隔で支持された3本の支柱で持設されている中空六角柱体を一つ取り出した斜視模式図、並びに、
図11に示す中空六角柱体30-7の平面図(a)及びその平面図(a)の切断線C4の位置で紙面に垂直に切断した断面の模式図(b)を示した。この場合も、シールド通気孔361については、
図6に示したシールド通気孔361の配置で形成されているものを採用しているが、切断線の位置の関係で
図12(b)には図示されていない。同様に、隔壁通気孔32も
図12(b)には図示されていない。
【0089】
このように、上側リブ34及び下側リブ35を、隔壁31の最上端及び最下端ではなく、セル33内に収まる位置に設け、複数の支柱381を下側リブ35で支持し、所定の間隔をスペーサー382で上側リブ34から下側リブ35に亘って確保し、熱輻射シールド36が板状補強部材363で補強された構成とすることができる。このような構成は、断熱構造体を工場で組み立てた後の輸送時に、熱輻射シールド36が安定して水平を保つことができる点で好ましい実施形態の一つである。
【0090】
そして、隔壁31に対する作用力及び隔壁31の位置関係を平準化するためのレベリング層40について、
図13~17を用いて説明する。なお、
図14、16、及び、17では、熱輻射シールドの支持構造として
図8の実施形態を用いているが、これに限定されるものではない。
図13は、本発明の一実施形態に係る、
図8における断熱構造体(5)30-5の切断線C2の位置で紙面に垂直に切断した断面模式図である。
図14は、本発明の一実施形態に係る、二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクを
図13における切断線C5の位置で紙面に垂直に切断した断熱構造体(5)30-5から基台80に至る断面模式図である。
図15は、本発明の一実施形態に係る、レベリング層40を構成する有孔金属板42の平面模式図である。
図16は、本発明の一実施形態に係る、二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクを
図13における切断線C6の位置で紙面に垂直に切断した断熱構造体(5)30-5から基台80に至る断面模式図である。そして、
図17は、本発明の比較例であり、レベリング層がレベリング材である珪砂単体であること以外は
図16と同一の二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクを
図13における切断線C6の位置で紙面に垂直に切断した断熱構造体(5)30-5から基台80に至る断面模式図である。
【0091】
本発明の二重殻構造の平底円筒形極低温タンク10-1の保冷機能を強化する断熱構造体30の一例として示した、熱輻射シールド36を内蔵する中空六角柱体を構成単位301とするハニカム構造は、保冷機能を強化すると共に、保冷構造を強化する能力を有している。しかし、外槽底板12aの溶接変形により外槽底板12aに不陸が発生するため、外槽底板12aの上に断熱構造体30を直接載設すると、断熱構造体30のハニカム構造の隔壁31が局部的に沈み込み、隔壁31が陥没及び隆起することで、平底円筒形極低温タンク10の内槽11の荷重が、断熱構造体30のハニカム構造の隔壁31に不均一に負荷され、隔壁31が破壊するという問題が発生する。そこで、外槽底板12aと断熱構造体30との間に外槽底板12aの不陸を補正するレベリング層40を設けるのである。
【0092】
レベリング層40は、
図13の切断線C5及びC6の位置で紙面に垂直に切断した断面模式
図14及び16に示す一実施形態では、珪砂であるレベリング材41上面に、ガラスクロスであるフィルター材43を敷設した上に、
図15に示した複数の貫通孔421を設けた約3mmの厚さの有孔金属板42を積層した構成である。
【0093】
このような構成とすることによって、第一に、レベリング材41が、断熱構造体30のハニカム構造を構成する中空六角柱体の隔壁31に負荷される荷重を平準化し、内槽11が隔壁31に及ぼす作用力の局在化を解消でき、第二に、有孔金属板42が、隔壁31のレベリング材41への局部的沈み込みを防止し、第三に、フィルター材43が、真空層13を形成するための内外槽間の空間部の排気における砂塵の巻き上がりを抑制することが可能となる。特に、第二の沈み込み防止効果については、本発明のレベリング層40を採用した
図16と、有孔金属板42及びフィルター材43を用いることなくレベリング材41だけのレベリング層を採用した
図17との比較から明らかなように、本発明のレベリング層40は、保冷構造の損傷を防止し、保冷機能を保持することができる。
【0094】
以上、本発明の二重殻構造の平底円筒形極低温タンクの構造について説明したが、このようなタンクの真空層13は、
図18及び19に示す方法によって製造される。まず、
図18に示すように、(図示していない)油回転真空ポンプを備えた油拡散ポンプで排気することにより、内外槽間の空間部から気体を除去する。ここで、油拡散ポンプの能力を最大限に発揮して、約0.1Pa以下の高真空とすることが好ましい。次いで、
図19に示すように、内槽12を液化窒素及び/又は冷却窒素ガスで冷却し、空間部に残存する、又は、空間部と接触する部材から脱離する水蒸気等の物質を冷却面に凝縮、凝固、又は、昇華させて氷等の固体を生成し、飽和蒸気圧を低下させながら、内外槽間の空間部を所要の真空度に高め、固体と気体が平衡状態にある真空層13を形成する。この工程においても、排気を継続して行い、真空層形成を促進することが好ましい。このようにして、真空圧力が10
-2~10
-3Paの真空層13が形成される。
図18及び19は、
図1に示した極低温タンク10-1の断熱構造体(1)30-1の代わりに断熱構造体(7)30-7を用いた極低温タンクについて描かれており、真空層13は、真空断熱層と呼称されるものである。そして、
図20に示すように、液化水素が貯蔵されると、真空層13の空間部に残存する物質が更に凝縮、凝固、又は、昇華されて真空度が高くなり、生成した氷等の固体は保持され、固体と気体との平衡状態にある真空層13が高真空を維持することができる。
【0095】
このようにして、本発明の二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクの内外槽間の空間部に高真空が形成されるが、より真空度を高め維持するため、二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクに
図21に示す加熱設備70を付設して、内槽外壁、外槽内壁、及び、断熱構造体等に吸着又は内在する水分等を除去することが好ましい。
図21には、
図1に示した極低温タンクの断熱構造体30として断熱構造体(7)30-7を用いた極低温タンクに、内槽11、外槽12、及び、断熱構造体30の加熱手段71、72、76、並びに、加熱手段72、76の断熱手段75、77、78を配備した二重殻構造の平底円筒形極低温タンク10-2の円筒中心軸を通り鉛直方向に切断した断面模式図を示した。
【0096】
これらの加熱設備70は、
図22により詳しく示した。
図22は、本発明の一実施形態に係る、内槽11及び外槽12の内槽加熱配管(1)71及び外槽加熱配管72、並びに、外槽12の外槽加熱配管72の外槽配管断熱材75を示す図であって、
図21の切断線C7の位置で紙面に垂直に切断した断面模式図である。内槽加熱配管(1)71及び外槽加熱配管72は、いずれも配管に加熱流体を流す熱交換器であって、内槽加熱配管(1)71は、内槽11の側板11c下部付近を側板11cに沿って、外槽加熱配管72は、外槽12の側板12cから屋根板12dに亘り、外槽12の側板12c及び屋根板12dに沿って円状に配管されていることが好ましい。また、内槽加熱流体配管給排口711及び外槽加熱流体配管給排口721は、加熱流体の供給及び排出のための出入口である。
【0097】
図22は、内槽加熱配管(1)71及び外槽加熱配管72に加熱流体として加熱液体を流す実施例であるが、これに限定されるものではなく、より好ましい加熱設備70の実施形態を
図23に示す。
図23は、内槽加熱配管(2)73に加熱気体、特に、加熱空気を流し、加熱空気噴射孔732から加熱空気を均一に噴射するもので、内槽加熱空気給排口731を備えている。また、
図23では、外槽加熱配管72に代わり、外槽加熱ヒーター74を外槽12の側板12cから屋根板12dに亘り、外槽12の側板12c及び屋根板12dに沿って延設され、電力供給配線741から電力が供給される。このように、加熱空気と加熱ヒーターを用いる方法は、簡便に吸着気体を除去することができてより実用性能が高い加熱設備である。
【0098】
最後に、
図24は、本発明の一実施形態に係る、断熱構造体30の加熱手段である基台内発熱ケーブル76及び発泡ガラスブロックである発熱ケーブル断熱材77及びパーライトコンクリートである断熱コンクリート78を示す図であって、
図21の切断線C8の位置で紙面に垂直に切断した外槽底部から基台80に至る断面模式図である。発熱ケーブル76は、コンクリートで埋設され、効果的に断熱構造体30を加熱するため、発熱ケーブル断熱材77及び断熱コンクリート78に囲まれるように形成されている。特に、外槽底部の加熱手段及び断熱手段は、レベリング層40を構成するレベリング材41として好ましい珪砂が極めて表面積が大きい素材であるため、その固体表面に吸着した水分や気体等を除去するために重要な役割を果たす。
【0099】
このような加熱手段及び断熱手段による加熱設備を付設し、真空排気工程前及び/又は排気工程中に加熱工程を加えることによって、本発明の二重殻構造の大型平底円筒形極低温タンクの内外槽間の空間部の真空層13の真空度をより短時間で高真空にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の二重殻構造の平底円筒形極低温タンクは、高断熱・高強度の保冷構造を備えており、急激な需要が見込まれている液化水素の貯蔵タンクとして、従来の液化水素では実現していない1万m3以上の大容量を達成することができ、極めて産業上の利用可能性が高い。また、本発明の高断熱・高強度の保冷構造を創出した技術は、液化水素に限定されず、LNGをはじめとする各種液化ガスの極低温タンクの大型化、安定化、及び、安全化等を図るために広く利用することができるという意味においても、産業上の利用可能性及び利用価値が高い。
【符号の説明】
【0101】
10 二重殻構造の平底円筒形極低温タンク
10-1 平底円筒形極低温タンク(1)
10-2 加熱設備を付設した平底円筒形極低温タンク(2)
11 内槽
11a 内槽底板
11b 内槽アニュラ板
11c 内槽側板
11d 内槽屋根板
12 外槽
12a 外槽底板
12b 外槽アニュラ板
12c 外槽側板
12d 外槽屋根板
13 真空層
14 多層断熱材(MLI、Multilayer Insulation)
15 真空排気口
20 内槽補強板
30 断熱構造体
30-1 断熱構造体(1)
30-2 断熱構造体(2)
30-3 断熱構造体(3)
30-4 断熱構造体(4)
30-5 断熱構造体(5)
30-6 断熱構造体(6)
30-7 断熱構造体(7)
301 断熱構造体構成単位
31 隔壁
32 隔壁通気孔
33 セル
34 上側リブ
341 上側リブ開口部
35 下側リブ
351 下側リブ開口部
36 熱輻射シールド
361 シールド通気孔
362 棒状補強部材
363 板状補強部材
37 保持部材
371 吊具
372 スペーサー
373 留具
38 支持部材
381 支柱
382 スペーサー
383 固定具
40 レベリング層
41 レベリング材(珪砂)
42 有孔金属板
421 有孔金属板貫通孔
43 フィルター材(ガラスクロス)
50 アンカープレート
60 アンカーストラップ
70 加熱設備
71 内槽加熱配管(1)
711 内槽加熱流体給排口
72 外槽加熱配管
721 外槽加熱流体給排口
73 内槽加熱配管(2)
731 内槽加熱空気給排口
732 加熱空気噴射孔
74 外槽加熱ヒーター
741 電力供給配線
75 外槽配管断熱材
76 基台内発熱ケーブル
77 発熱ケーブル断熱材(発泡ガラスブロック)
78 断熱コンクリート(パーライトコンクリート)
80 基台
81 発熱ケーブル包埋部
90 杭
C1~C8 切断線