(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103681
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】電気化学デバイスに用いるためのフルオロポリマーバインダーコーティング
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240725BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20240725BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M50/426
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024089422
(22)【出願日】2024-05-31
(62)【分割の表示】P 2020545720の分割
【原出願日】2019-03-01
(31)【優先権主張番号】62/637,534
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ラミン・アミン-サナイェイ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン・バクスター
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ファイン
(72)【発明者】
【氏名】ユチエ・リウ
(57)【要約】
【課題】本発明は、例えば電気化学デバイスにおける電極及び/又はセパレーターをコーティングするに当たって用いることができるフルオロポリマーコーティング組成物に関する。
【解決手段】このフルオロポリマーコーティング組成物は、複数のフルオロポリマー相を含有するのが好ましい。コーティングされた電極及び/又はセパレーターは、優れた湿式付着性、優れた乾式付着性及び低い浸出性を共に有する。それぞれのフルオロポリマー相は、共通のフルオロモノマーを少なくとも10重量%有するポリマーを含有し、この共通のフルオロモノマーがこれらのポリマー相を互いに相溶性にし、前記組成物及びこの組成物から形成される乾燥コーティングの全体に前記相が巨視的レベルでかなり均一に分散されるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の異なる相を含むバインダー組成物であって、これらの相が、
a)電解質溶剤中での増加率が50重量%未満である低膨潤性フルオロポリマー相;
b)電解質中での膨潤性が前記低膨潤性フルオロポリマー相の膨潤性より少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%高い高膨潤性フルオロポリマー相:
を含み、
前記低膨潤性フルオロポリマー相及び前記高膨潤性フルオロポリマー相が、共通のフルオロモノマー単位を少なくとも10重量%、好ましくは共通のフルオロモノマー単位を少なくとも25重量%、より一層好ましくは共通のフルオロモノマー単位を50重量%超、特に好ましくは共通のモノマー単位を少なくとも70重量%有する、前記バインダー組成物。
【請求項2】
前記低膨潤性相のフルオロポリマーと前記高膨潤性相のフルオロポリマーとの間で共通のフルオロモノマー単位がフッ化ビニリデンである、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項3】
前記バインダー組成物が、1種以上の低膨潤性フルオロポリマーと1種以上の高膨潤性フルオロポリマーとのブレンドを含むか、又は低膨潤性フルオロポリマーのコアと該コアの外側の高膨潤性フルオロポリマーとを有する単一の多相粒子であるかのいずれかである、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項4】
前記低膨潤性相及び前記高膨潤性相が不均質及び/又は共連続性である、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項5】
前記単一の多相粒子がコア-シェル若しくはラズベリー形態又は勾配組成を有する、請求項3に記載のバインダー組成物。
【請求項6】
前記バインダー組成物が、ポリマーバインダー全体を基準として50~99重量%の無機粒子をさらに含み、前記無機粒子が、
a)アノードのバインダー組成物については、炭素質材料、ナノチチベート(titivate)、グラファイト、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フェノール樹脂、ピッチ、タール及び炭素繊維より成る群から選択される無機粒子;
b)カソードのバインダー組成物については、遷移金属酸化物、硫化物及び水酸化物のリチウム塩;LiCoO2、LiNixCo1-xO2、LiMn2O2、LiNiO2、LiFePO4、LiNixCoyMnzOm、LiNixMnyAlzOm(ここで、x+y+zは1であり、mは電子バランスが取れた分子をもたらすための酸化物中の酸素原子の数を表す);コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、酸化ニッケルリチウム、酸化マンガンリチウムより成る群から選択される無機粒子;
c)セパレーターコーティングについては、電気化学的に安定な無機粒子であって、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb1-xLaxZryO3(0<x<1、0<y<1)、PBMg3Nb2/3)3、PbTiO3、ハフニア(HfO(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、Y2O3、ベーマイト(y-AlO(OH))、Al2O3、TiO2、SiO2、SiC、ZrO2、ホウ素ケイ酸塩、BaSO4、ナノクレー、セラミック又はそれらの混合物より成る群から選択される前記無機粒子:
を含む、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項7】
2つ以上の異なる相を含むポリマーバインダー組成物であって、これらの相が、
a)35重量%又はそれより高い結晶度を有する少なくとも1種のフルオロポリマーを含む、高結晶性フルオロポリマー相;
b)ポリマーバインダー全体を基準として0.1~25重量%の官能基を含む粘着性フルオロポリマー相:
を含み、
前記高結晶性フルオロポリマー相中及び前記粘着性フルオロポリマー相中の異なるフルオロポリマーが、共通のフルオロモノマー単位を少なくとも10重量%、好ましくは共通のフルオロモノマー単位を少なくとも25重量%、より一層好ましくは共通のフルオロモノマー単位を50重量%超、特に好ましくは共通のモノマー単位を少なくとも70重量%有する、前記ポリマーバインダー組成物。
【請求項8】
前記結晶性相のフルオロポリマーと前記粘着性相のフルオロポリマーとの間で共通のフルオロモノマー単位がフッ化ビニリデンである、請求項7に記載のバインダー組成物。
【請求項9】
前記多相ポリマーバインダー組成物が1μm未満、好ましくは500nm未満の平均粒径を有するバラバラのポリマー粒子を含む、請求項7に記載の電気化学デバイス。
【請求項10】
前記バインダー組成物が、1種以上の高結晶性フルオロポリマーと1種以上の粘着性フルオロポリマーとのブレンドを含むか、又は高結晶性フルオロポリマーのコアと該コアの外側の1種以上の粘着性フルオロポリマーとを有する単一の多相粒子であるか、又は単一の多相粒子であり、相が不均質及び/又は共連続性である、請求項7に記載のバインダー組成物。
【請求項11】
前記バインダー組成物が、ポリマーバインダー全体を基準として50~99重量%の無機粒子をさらに含み、前記無機粒子が、
a)アノードのバインダー組成物については、炭素質材料、ナノチチベート(titivate)、グラファイト、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フェノール樹脂、ピッチ、タール及び炭素繊維より成る群から選択される無機粒子;
b)カソードのバインダー組成物については、遷移金属酸化物、硫化物及び水酸化物のリチウム塩;LiCoO2、LiNixCo1-xO2、LiMn2O2、LiNiO2、LiFePO4、LiNixCoyMnzOm、LiNixMnyAlzOm(ここで、x+y+zは1であり、mは電子バランスが取れた分子をもたらすための酸化物中の酸素原子の数を表す);コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、酸化ニッケルリチウム、酸化マンガンリチウムより成る群から選択される無機粒子;
c)セパレーターコーティングについては、電気化学的に安定な無機粒子であって、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb1-xLaxZryO3(0<x<1、0<y<1)、PBMg3Nb2/3)3、PbTiO3、ハフニア(HfO(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、Y2O3、ベーマイト(y-AlO(OH))、Al2O3、TiO2、SiO2、SiC、ZrO2、ケイ酸ホウ素、BaSO4、ナノクレー、セラミック又はそれらの混合物より成る群から選択される前記無機粒子:
を含む、請求項7に記載のバインダー組成物。
【請求項12】
電気化学デバイスの部材であって、
前記部材が、その少なくとも1つの面を乾燥フルオロポリマーバインダー組成物で直接コーティングされ、
このコーティングされた部材がセパレーター、アノード、カソード及びそれらの組合せより成る群から選択され、
前記の乾燥フルオロポリマーバインダー組成物が、次の特性:
a)1m2当たりの欠陥を10個未満にする湿式接着強度;
b)180°剥離強度測定によって測定して10N/m超の乾式接着強度;及び
c)10ミクロンの乾燥フィルムについて測定して10重量%未満、好ましくは5重量%未満の浸出物:
を有する、前記電気化学デバイスの部材。
【請求項13】
前記フルオロポリマーバインダーが低膨潤性相及び柔軟相を有する多相フルオロポリマーを含む、請求項12に記載の電気化学デバイスの部材。
【請求項14】
前記多相ポリマーバインダー組成物が1μm未満、好ましくは500nm未満の平均粒径を有するバラバラのポリマー粒子を含む、請求項13に記載のバインダー組成物。
【請求項15】
前記バインダー組成物が、1種以上の低膨潤性フルオロポリマーと1種以上の高膨潤性フルオロポリマーとのブレンドを含むか、又は低膨潤性フルオロポリマーのコアと該コアの外側の高膨潤性フルオロポリマーとを有する単一の多相粒子であるか、又は単一の多相粒子であり、相が不均質及び/又は共連続性である、請求項12に記載のバインダー組成物。
【請求項16】
前記バインダー組成物が、ポリマーバインダー全体を基準として50~99重量%の無機粒子をさらに含み、前記無機粒子が、
a)アノードのバインダー組成物については、炭素質材料、ナノチチベート(titivate)、グラファイト、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フェノール樹脂、ピッチ、タール及び炭素繊維より成る群から選択される無機粒子;
b)カソードのバインダー組成物については、遷移金属酸化物、硫化物及び水酸化物のリチウム塩;LiCoO2、LiNixCo1-xO2、LiMn2O2、LiNiO2、LiFePO4、LiNixCoyMnzOm、LiNixMnyAlzOm(ここで、x+y+zは1であり、mは電子バランスが取れた分子をもたらすための酸化物中の酸素原子の数を表す);コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、酸化ニッケルリチウム、酸化マンガンリチウムより成る群から選択される無機粒子;
c)セパレーターコーティングについては、電気化学的に安定な無機粒子であって、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb1-xLaxZryO3(0<x<1、0<y<1)、PBMg3Nb2/3)3、PbTiO3、ハフニア(HfO(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、Y2O3、ベーマイト(y-AlO(OH))、Al2O3、TiO2、SiO2、SiC、ZrO2、ケイ酸ホウ素、BaSO4、ナノクレー、セラミック又はそれらの混合物より成る群から選択される前記無機粒子:
を含む、請求項12に記載のバインダー組成物。
【請求項17】
35重量%又はそれより高い結晶度を有する内側フルオロポリマー相と、1個以上の官能基を含む官能性フルオロポリマー外側相とを含み、前記官能基がポリマーバインダー全体を基準として0.1~25重量%を占める、多相ポリマー粒子。
【請求項18】
前記内側相のフルオロポリマーと前記外側相のフルオロポリマーとが、共通のフルオロモノマー単位を少なくとも10重量%、好ましくは共通のフルオロモノマー単位を少なくとも25重量%、より一層好ましくは共通のフルオロモノマー単位を50重量%超、特に好ましくは共通のモノマー単位を少なくとも70重量%有する、請求項17に記載の多相ポリマー粒子。
【請求項19】
コア-シェル又はラズベリー形態を含む、請求項17に記載の多相ポリマーコーティング粒子。
【請求項20】
前記内側フルオロポリマー相がVDFモノマー単位を少なくとも50重量%、より一層好ましくは少なくとも70重量%含む、請求項17に記載の多相ポリマーコーティング粒子。
【請求項21】
内側フルオロポリマー及び外側フルオロポリマーが共にフッ化ビニリデンモノマー単位を少なくとも50重量%含む、請求項17に記載の多相ポリマーバインダー粒子。
【請求項22】
少なくとも1つの相中のフルオロポリマーが、VDF51重量%超、好ましくは70重量%超、80重量%超と、VDF、TFE、CTFE、VF3、VFモノマー及び/又はそれらの組合せより成る群から選択される少なくとも1種のフルオロモノマー1~49重量%、好ましくは30重量%未満、20重量%未満とを含むコポリマーである、請求項17に記載の多相ポリマーバインダー粒子。
【請求項23】
コーティングされたセパレーター又は電極を形成させる方法であって、セパレーター又は電極の少なくとも一方の面を請求項1に記載のコーティング組成物でディップコーティング、スプレーコーティング、マイクログラビアコーティング又はスロットコーティングする工程、次いでこの被コーティングセパレーター又は電極を乾燥させて乾燥被コーティングセパレーター又は電極を形成させる工程を含む、前記方法。
【請求項24】
コーティングされたセパレーター又は電極が、溶剤分散体から形成させた時には1~5μm、水性分散体から形成させた時に15~30μmの厚さを有する、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電気化学デバイスにおける電極及び/又はセパレーターをコーティングするに当たって用いることができるフルオロポリマーバインダー組成物に関する。このフルオロポリマーコーティング組成物は、複数のフルオロポリマー相を含有するのが好ましい。電極上及び/又はセパレーター上のコーティングは、優れた湿式付着性、優れた乾式付着性及び低い浸出性(少ない浸出性物質含有率)を共に有する。これらの特性は、それぞれの相のポリマー特性、例えば結晶性、官能性、架橋度、分岐度及びコモノマーを調整することによって、最適化することができる。優れた湿式付着性を提供する相は、例えば高いレベルの結晶度によって達成できるような低膨潤性を有し、優れた乾式付着性を提供する相は、もっと柔軟であり且つ電解質中における膨潤性がもっと高い。この柔軟性及び高膨潤性は、コモノマー単位及び/又は官能基を加えることによって達成することができる。それぞれのフルオロポリマー相が含有するポリマーは、共通のフルオロモノマーを少なくとも10重量%有し、この共通のフルオロモノマーがこれらのポリマー相を互いに相溶性にし、前記組成物及びこの組成物から形成される乾燥コーティング(乾燥されたコーティング)の全体に前記相が巨視的レベルでかなり均一に分散されるようにする。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属バッテリー、リチウムイオンバッテリー、リチウムポリマーバッテリー及びリチウムイオンポリマーバッテリーを含むリチウムバッテリーは、従来のバッテリー(Ni-MHバッテリー等)より電圧及びエネルギー密度が高いため、用途が増してきている。
【0003】
現時点で入手可能なリチウムイオンバッテリー及びリチウムイオンポリマーバッテリーは、カソードとアノードとの間での短絡を防止するために、ポリオレフィン系セパレーターを使用している。しかしながら、かかるポリオレフィン系セパレーターの融点は140℃又はそれ未満なので、使用時にバッテリーの温度が内的及び/又は外的要因によって上昇した時に、溶融収縮することがあり、これが体積変化をもたらして、短絡を引き起こすことがある。さらに、ポリオレフィン系セパレーターは、高電圧活性材料と接触した時に、酸化を起こしやすい。ポリオレフィンセパレーターの酸化は、サイクルライフを減少させ、ピンホールを発生させ、短絡を引き起こすことがある。短絡は、電気エネルギーの放出によって引き起こされるバッテリーの爆発や火災のような事故につながる恐れがある。従って、高温における熱収縮を蒙ったり高電圧において酸化したりすることのないセパレーターを提供することが必要である。
【0004】
フルオロポリマー、中でもポリフッ化ビニリデンは、電気化学的抵抗に優れ且つ付着性が秀逸であるため、非水性電気分解デバイスのセパレーター、カソード及びアノード用のバインダー又はコーティングとして有用であることがわかっている。米国特許第7662517号、同第7704641号、米国特許出願公開第2010/00330268号、米国特許第9548167号及び米国特許出願公開第2015/0030906号の各明細書(参考のために本明細書に取り入れる)には、有機溶剤中の又は水性分散体状のPVDFコポリマー溶液であって、非水性タイプのバッテリー中に用いられるポリオレフィンセパレーターのコーティング中に粉体状金属酸化物材料又はナノセラミックスと組み合わせて用いられるものが記載されている。前記セパレーターは、バッテリー中のアノードとカソードとの間のバリアを形成する。多孔質有機セパレーター上の結合した無機粒子は、液状電解質が浸透する空間の体積を増大させて、イオン伝導性の改善をもたらすことがわかっている。
【0005】
残念ながら、フルオロポリマーによってもたらされる優れた特性は、それらが利用できる用途もまた制限することがある。例えば、フルオロポリマーを他の材料に付着させることは難しい。従って、コーティング配合物中には、PVDFをベースとするポリマー、多孔質セパレーター又は電極及び随意に添加される粉末粒子の間の良好な付着(不可逆性付着)を提供するために、有機溶剤及び他の有機添加剤が一般的に用いられる。
【0006】
有機溶剤をベースとする溶液/スラリー組成物は、水性系には存在しない安全性、健康上及び環境上の危険性を示す。有機溶剤は一般的に毒性があり、引火性があり、事実上揮発性であり、危険性を軽減したり有機溶媒による環境汚染を減らしたりするためには、特別な製造上の管理を要する。さらに、水性媒体中で形成されたPVDFコポリマーを単離し、PVDFをベースとするポリマーを乾燥させて粉体にし、次いでこの粉体を溶剤中に溶解させるためには、余分な製造工程、コスト、時間、費用及びエネルギーが必要である。従って、水性組成物が好ましい。
【0007】
アクリル類及び/又はカルボキシル化メチルセルロース(CMC)等の有機添加剤は、高電圧において電気化学的攻撃を受けやすく、酸化して分解する。樹脂分解の副生成物、即ち水は、バッテリー性能を劣化させることがある。さらに、ほとんどのアクリル類及びその他の添加剤は、十分な耐溶剤性を持たず、電解質溶剤中で溶解することがあり、安全性ファクター並びにバッテリーサイクルライフを低減させる。
【0008】
他の材料に対する付着性を高め、湿潤性を改善し、展性を提供するために、フルオロポリマーに官能性(官能基)が加えられてきた。官能性は、いくつかの手段によって、例えば、フルオロモノマーの主鎖中への官能性モノマーの直接共重合、及び後重合グラフト化メカニズム、例えば、Arkema社から入手可能なKYNAR(登録商標)ADX樹脂を生成させるために米国特許第7241817号明細書に記載されたように、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー又はコポリマーに無水マレイン酸をグラフトさせることによって、加えられてきた。さらに国際公開WO2013/110740号及び米国特許第7351498号明細書には、モノマーグラフト化又は共重合によるフルオロポリマーの官能化が記載されている。さらに国際公開WO16149238号及び米国特許出願公開第2016/009840号明細書には、重合プロセスにコモノマー又は官能性連鎖移動剤を小割合で加えることによるフルオロポリマーの官能化が開示されている。しかしながら、重合しているポリマー主鎖に官能性モノマー単位を直接、特にランダム態様で加えることは、フッ素含有フリーラジカルの攻撃的な性状のせいで、困難である。
【0009】
電気化学デバイスの電極及び/又はセパレーターに用いられるフルオロポリマーをベースとする組成物は、優れた湿式付着性及び優れた乾式付着性の両方並びに低い抽出分(抽出性物質含有率)を有しているべきである。良好な湿式付着性及び機械的強度は、高結晶度を有するフルオロポリマーを用いることによって、得ることができる。残念ながら、これらの高結晶性フルオロポリマーは、低い乾式付着性を有する。官能性ポリマーは、良好な乾式付着性を有するが、しかし低い結晶度を有し、従ってバインダーの機械的強度が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第7662517号明細書
【特許文献2】米国特許第7704641号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2010/00330268号明細書
【特許文献4】米国特許第9548167号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2015/0030906号明細書
【特許文献6】米国特許第7241817号明細書
【特許文献7】国際公開WO2013/110740号明細書
【特許文献8】米国特許第7351498号明細書
【特許文献9】国際公開WO16149238号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2016/009840号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
驚くべきことに、フルオロポリマー樹脂組成物、特に多相フルオロポリマー樹脂組成物は、良好な湿式付着性及び良好な乾式付着性の両方を低い浸出性と共に提供することができることが、ここにわかった。この多相フルオロポリマー組成物は、剛性であり、低膨潤性であり且つ強い機械的特性を有する少なくとも1つの相を含有し、(このポリマー相の剛性は、例えば、高いレベルの結晶度、架橋度、高いレベルの長鎖分岐度から由来することができる)、又は電解質中でのその溶解性を抑制する別の手段を含有するから由来することができる(湿式付着性)。もう一方の相は、もっと柔軟であり且つもっと粘着性があり、そして膨潤性がもっと高く、良好な乾式付着性を提供し、0.1~25重量%の官能性を有することができる。この柔軟な相は、電解質中で高い溶解性及び膨潤性を有する一方で、乾燥コーティングとしての全体としてのバインダー組成物は、浸出性ポリマー含有率が10%未満である。
【0012】
前記多相バインダー組成物の相は、2つ以上の別々の相溶性ポリマーのブレンドであることもでき、単一の多相粒子の状態で存在することもできる。多相ポリマー粒子の外側に膨潤性が高い官能性の相が集中していてもよく、多相粒子は不均質の共連続ポリマーであることもでき、1つの相が連続的であり、もう一方の相が連続相内に離散していてもよい。前記多相ポリマーバインダーでコーティングされたセパレーター、カソード及びアノードは、良好な機械的強度及び良好な湿式/乾式付着性を有するだけではなく、高温において寸法安定性のセパレーター又は電極をも提供する。
【0013】
従来の製品は、本発明のフルオロポリマーバインダー組成物に見られるような湿式付着性及び乾式付着性の両方のバランス並びに低い浸出性を持たない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の概要
本発明は、低膨潤性のフルオロポリマー相と、もっと柔軟であり且つもっと膨潤性が高いフルオロポリマー相とを有する多相バインダー組成物に関する。本発明はまた、高結晶性の相と、官能性を有するフルオロポリマーを含有する相とを有する多相バインダー組成物に関する。
【0015】
本発明はさらに、非常に良好な湿式付着性、非常に良好な乾式付着性及び低い浸出性を有する乾燥バインダー組成物にも関する。
【0016】
本発明はさらに、高結晶性フルオロポリマーコアと、官能性を有するフルオロポリマーを含有する少なくとも1つの外側相とを有する単一多相フルオロポリマー粒子にも関する。
【0017】
本発明はさらに、高結晶性相と官能性を有するフルオロポリマーを含有する相とを有する単一の多相不均質共連続フルオロポリマー粒子を含むバインダー組成物にも関する。
【0018】
本発明はさらに、低膨潤性フルオロポリマー相と高膨潤性フルオロポリマー相とを有する組成を有する単一の多相不均質共連続フルオロポリマー粒子を含むバインダー組成物にも関する。
【0019】
前記多相フルオロポリマーコーティング組成物は、水性若しくは溶剤分散体又は溶剤溶液であってよく、粒子が加えられていても加えられていなくてもよい。
【0020】
本明細書内では、明瞭且つ簡潔な明細書が書かれるように実施形態を記載するが、本発明から逸脱することなく実施形態を様々に組み合わせたり分離させたりできることが意図され、理解されよう。例えば、本明細書に記載されたすべての好ましい特徴は、本明細書に記載された本発明のすべての局面に適用可能であることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、不均質コポリマー中及びランダムコポリマー中のコモノマー(HEP)含有率の関数としての重量増加率%を示す。
【
図2】
図2は、不均質コポリマー中及びランダムコポリマー中のコモノマー(HEP)含有率の関数としての膨潤比%を示す。
【
図3】
図3は、重量増加率%を示す棒グラフである。
【
図4】
図4は、膨潤比(%)を示す棒グラフである。
【
図5】
図5は、共連続フルオロポリマーのSEMである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本明細書に挙げたすべての文献は、参考のために本明細書に取り入れるものとする。組成物におけるすべての百分率は、別段の定めがない限り、重量%であり、すべての分子量は、別段の定めがない限り、PMMAを標準物質として用いてGPCによって測定した重量平均分子量として与えられる。
【0023】
用語「ポリマー」は、別段の定めがない限り、ホモポリマー、コポリマー及びターポリマー(3種以上のモノマー単位)のすべてを意味するために用いられる。「コポリマー」は、2種以上の異なるモノマー単位を有するポリマーを意味するために用いられる。例えば、本明細書で用いた時、「PVDF」及び「ポリフッ化ビニリデン」とは、別段の定めがない限り、ホモポリマー及びコポリマーの両方を含むために用いられる。
【0024】
用語「相」とは、別々のポリマー領域を示すために用いられる。組成物の各相が共通のモノマー単位を含有するので、これらの相は溶剤コーティング中にかなり均一に相互分散したポリマー鎖として共存し、2つ以上のポリマー相の分散体コーティングブレンド中に比較的均一に分散され、多相粒子を含有するコーティング中で緊密に結合される。各種の相のそれぞれは、複数の方式で記載することができ、本明細書では例えばa)低膨潤性相/柔軟且つ高膨潤性相;b)高結晶性相/官能基含有相、並びにc)湿式付着性良好相/乾式付着性良好相として記載される。
【0025】
用語「バインダー」は、基材上にコーティングすることができるフルオロポリマー組成物を指すために用いられ、これは寸法安定性向上のために随意に粒子を含有し、本発明において基材は主に電気化学デバイス中に見られるアノード、カソード又はセパレーターのいずれかである。本明細書に記載される組成物、特に多相フルオロポリマー粒子は、他のフルオロポリマーコーティング及び樹脂用途に用いることができる。
【0026】
乾式付着性及び湿式付着性:乾式付着性を生じさせるためには、キャスティング及び/又は圧縮工程の際にフルオロポリマーを、電極やセパレーターに付着させるため及びコーティング中の何らかの無機粒子に付着させるのに十分変形させなければならない。一般的には、付着性は高ければ高いほどよい。ポリマーに官能性を加えることによって付着性を高めることができる。湿式付着性は、電解質中で膨潤したフルオロポリマーに関する。電解質は、可塑剤が引き起こすものと同様の態様でフルオロポリマーを軟化させる傾向がある。フルオロポリマーに官能性を加えると、フルオロポリマーが軟化して、脆性が低下して、膨潤性が増大する傾向がある。従って、良好な乾式付着性を生じさせることができる非常に柔軟なバインダーは、電解質によって膨潤した時に過度に柔軟になる恐れがあり、その凝集強度を失い、良好な湿式付着性を生じなくなる。
【0027】
本発明は、良好な湿式付着性及び機械的特性のための低膨潤性で高結晶性のフルオロポリマー相と、良好な乾式付着性のためのもっと柔軟で膨潤性がもっと高い官能性ポリマー相とを有する、多相フルオロポリマー組成物に関する。これらの相は、別々のポリマー粒子又は鎖として存在することもでき、単一の多相粒子の状態で存在することもできる。いずれの多相組成物においても、各相は、同じフルオロモノマー単位を少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも25重量%、より一層好ましくは50重量%超、さらにより一層好ましくは少なくとも70重量%有するフルオロポリマーを含有する。好ましい実施形態において、各ポリマー相中の共通のフルオロモノマー単位は、フッ化ビニリデンモノマー単位である。
【0028】
フルオロポリマー
本発明のフルオロポリマーは、主としてフルオロモノマーから構成される。用語「フルオロモノマー」又は「フッ素化モノマー」という表現は、重合を蒙るアルケンの二重結合に結合した少なくとも1個のフッ素原子、フルオロアルキル基又はフルオロアルコキシ基を含有する重合性アルケンを意味する。用語「フルオロポリマー」とは、少なくとも1種のフルオロモノマーの重合によって生成されるポリマーを意味し、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー及びもっと多元のポリマーであって熱可塑性性状のものを含み、これは、モールド成形や押出成形プロセスにおいて行われるように熱を加えた際に流動することによって有用なピースに成形することができることを意味する。フルオロポリマーは好ましくは1種以上のフルオロモノマーを少なくとも50モル%含有する。
【0029】
本発明の実施に当たって有用なフルオロモノマーには、例えばフッ化ビニリデン(VDF)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(VF3)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、フッ化ビニル (VF)、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、ペンタフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、2-クロロ-1,1-ジフルオロエチレン(R-1122)、3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、2-フルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペン、フッ素化ビニルエーテル、フッ素化アリルエーテル、非フッ素化アリルエーテル、フッ素化ジオキソール及びそれらの組合せがある。
【0030】
特に好ましいポリマーはVDFのホモポリマーであり、本発明の方法によって製造されるコポリマーは、VDFとHFP、TFE又はCTFEとのコポリマーであり、VDFを約50~約99重量%、より一層好ましくは約70~約99重量%含む。
【0031】
特に好ましいターポリマーは、VDFとHFPとTFEとのターポリマー、及びVDFとトリフルオロエタンとTFEとのターポリマーである。特に好ましいターポリマーは、VDFを少なくとも10重量%有し、他のコモノマーは様々な割合で存在していてよいが、しかしそれらは合計でターポリマーの90重量%までを占める。
【0032】
バインダー組成物中に用いるためのPVDFは、高分子量を有するのが好ましい。本明細書において用いた時、高分子量とは、ASTM法D-3835に従って450°Fにおいて100秒-1で測定して、1.0キロポアズ超、好ましくは5キロポアズ超、より一層好ましくは10キロポアズ超、さらにより一層好ましくは20キロポアズ超の溶融粘度を有するPVDFを意味する。
【0033】
本発明のフルオロポリマーは、当技術分野において周知の手段、例えば乳化重合、懸濁重合、溶液重合又は過臨界CO2重合法によって、製造することができる。好ましくは、前記フルオロポリマーは、乳化又は懸濁法によって生成される。
【0034】
前記フルオロポリマーは、フリーラジカル開始剤を用いて重合される。重合に必要な開始剤の量は、その活性及び重合のために採用される温度に関係する。開始剤の総使用量は一般的に用いられる全モノマー重量に対して100~5000重量ppmの範囲である。一般的には、最初に反応を開始させるのに十分な開始剤を加え、次いで重合を手頃な速度に維持するために随意に追加の開始剤を加えてもよい。
【0035】
一般的に、フルオロポリマーエマルション粒子を安定化させるために、界面活性剤が用いられる。好ましい実施形態において、フルオロポリマー分散体は、フルオロ界面活性剤を含まない。「フルオロ界面活性剤を含まない」とは、水性フルオロポリマーを製造するに当たって用いられるすべての界面活性剤がフッ素原子を含有しない(「非フッ素化界面活性剤」である)ことを意味する。この用語は、水性フルオロポリマー分散体を製造して加工するに当たって用いられるすべての界面活性剤、好ましくは本発明の組成物中のすべての界面活性剤を指し、重合プロセスの際に用いられるすべての界面活性剤を含み、前もって加えるものや、重合中に連続的に供給するものや、一部は前もって供給し且つ次いで重合中に供給するものや、重合が開始してしばらく進行した後に供給するものや、その他すべてを含み、好ましくはラテックスの安定性を改善するために重合後に添加されるすべての界面活性剤も含む。PVDF重合において有用な非フッ素化界面活性剤は、イオン性のもの及び非イオン性のもののどちらであってもよく、限定されるわけではないが、以下のものが含まれる:3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸塩、ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸及びそれらの塩、ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコール及びそれらのブロックコポリマー、アルキルホスホネート並びにシロキサン系界面活性剤。
【0036】
PVDF乳化重合は、一般的に10~60重量%、好ましくは10~50重量%の固形分レベルを有し且つ1μm未満、好ましくは1000nm未満、好ましくは800nm未満、より一層好ましくは600nm未満の重量平均粒径を有するラテックスをもたらす。重量平均粒径は一般的に少なくとも20nm、好ましくは少なくとも50nmである。重量平均粒径は、20nm~800nm又は20nm~600nmであることができる。ポリマー粒子は、1~30μm、好ましくは2~10μm又は2~8ミクロンの重量平均粒径を有する凝集体を形成することができる。この凝集体は、配合して基材に適用する際に壊れてバラバラの粒子(離散粒子)になることができる。
【0037】
良好な湿式付着性、良好な乾式付着性及び低い浸出性を有する本発明のフルオロポリマーは単一のポリマーであることができるが、好ましい実施形態において、本発明のフルオロポリマー組成物は、各相が他の相とは異なる特性を有する少なくとも2つの異なる相を含有する。
【0038】
低膨潤性相
多相バインダー組成物の少なくとも1つの相は、低膨潤性を有するフルオロポリマーを含有する。「低膨潤性」とは、純固体状ポリマーフィルムが周囲条件下で電解質溶剤中に長期間浸漬されている間に100重量%未満、好ましくは50重量%未満しか膨潤しないことを意味する。さらに、ASTM法2765-16を参考にされたい。低膨潤性相は、フルオロポリマー結晶度、架橋度、コモノマー、分岐度及びその他のファクターであって電解質中でのフルオロポリマーの膨潤性を低下させることが当技術分野において知られているもの等のファクターを選択的に調節することによって、得ることができる。
【0039】
「高結晶性」とは、ポリマーが、ASTM法D3418に従って示差走査熱量(DSC)分析を用いて測定して少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも35重量%、より一層好ましくは少なくとも40重量%の結晶度を有することを意味する。高結晶性は、腐蝕性が高いバッテリー環境中でバインダーが溶解するのを防ぐ助けをする。高結晶性相のフルオロポリマーは、VDF、TFE、CTFE、VF3、VFモノマー及び/又はそれらの組合せから生成される。この高結晶性フルオロポリマーはまた、HFP、HFO-1234yf、HFO-1233zf、HFO-1225、R-1122、ペルフルオロ(メチルビニル)エーテル(PMVE)、ペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)又は他のフルオロモノマーとのコポリマーであることもでき、ここで、コモノマーは、ポリマーの少量画分であり、一般的に30重量%より下、好ましくは20重量%未満、より一層好ましくは10重量%未満である。高結晶性相がコポリマーである場合には、コモノマーは0.1重量%超、又は0.5重量%超の量であるのが好ましい。コモノマーは、1重量%超、又は2.2重量%超、3重量%超の量であることができる。
【0040】
高結晶性相はまた、官能基又はモノマー単位を10%未満、5%未満、好ましくは3%未満、及び1%未満の低レベルで含有していることもできる。
【0041】
低膨潤性フルオロポリマー相は、架橋や長鎖分岐を含有していてもよく、これらは機械的強度及び湿式付着性をさらに高める。
【0042】
低膨潤性の結晶性相は、1種又はそれより多くの別々の結晶性ポリマーの形にあることもでき、多相ポリマー粒子の一部であることもできる。
【0043】
高膨潤性で柔軟なポリマー相
多相バインダー組成物の少なくとも1つの相は、より高膨潤性でより柔軟なポリマー相を含有する。「高膨潤性」相とは、本明細書で用いた時、電解質中で低膨潤性相より少なくとも5重量%高い、より一層好ましくは少なくとも10%高い膨潤性を有する相を意味する。従って、高膨潤性相は低膨潤性相より柔軟である。
【0044】
「高膨潤性」とは、純固体状ポリマーフィルムが周囲条件下で電解質溶剤中に長期間浸漬されている間に150重量%以上膨潤すること又は加工条件下で変形して粒子間の付着及び相互結合並びに基材への付着を提供することを意味する。良好な乾式付着性を提供するフルオロポリマー相は高い膨潤性を有しており、低膨潤性相より柔軟である。
【0045】
好ましい実施形態において、高膨潤性相は、ポリマーバインダーの総重量を基準として0.1~25重量%、好ましくは2~20重量%の官能基/モノマー単位を含有する。官能基は、セパレーター及び/又は電極(アノード若しくはカソード)に対するポリマーバインダー及び場合により無機又は有機粒子の付着性を促進する。
【0046】
ポリオレフィン及び他の熱可塑性バインダーポリマーと比較してフルオロポリマーの方がバッテリー環境内での耐久性が高いので、本発明の官能基はフルオロポリマーの一部であるのが好ましいが、フルオロポリマーではない官能性ポリマー、例えば官能化アクリルポリマーを用いることもまた、本発明の意図するところである。本発明のコーティングの1つの要件は、電解質溶液中における浸出性が10重量%未満であることである。官能性ポリマーの浸出性を低下させるための1つの手段は、ポリマーを軽度に架橋させることによるものであることができる。
【0047】
本発明の官能化フルオロポリマーは、少なくとも1種の官能性付着促進コモノマー0.2~20重量%、好ましくは0.5~15重量%、より一層好ましくは1~10重量%を用いた共重合によって、製造することができる。この共重合は、1種以上の官能性コモノマーをフルオロポリマー主鎖に加えることができ、また、グラフト化プロセスを追加することができる。官能化フルオロポリマーはまた、1種以上の低分子量ポリマー系官能性連鎖移動剤を0.1~25重量%、好ましくは1.0~15重量%、より一層好ましくは2.2~20重量%用いて、重合させることもできる。低分子量とは、ポリマーが1000以下、好ましくは800未満の重合度を有することを意味する。好ましい実施形態において、ポリマー系連鎖移動剤の重量平均分子量は、GPCによって測定して、20000g/モル又はそれ以下、より一層好ましくは15000g/モル又はそれ以下、より一層好ましくは10000g/モル未満である。1つの実施形態において、この重量平均分子量は、5000g/モル未満である。低分子量官能性連鎖移動剤は、2個以上のモノマー単位、好ましくは3個以上のモノマー単位を有するポリマー又はオリゴマーである。残留ポリマー系連鎖移動剤は、末端に低分子量の官能性ブロックを有するブロックコポリマーを形成する。官能性フルオロポリマーは、官能性コモノマー及び残留官能性ポリマー系連鎖移動剤の両方を有することができる。
【0048】
官能性コポリマーは、コポリマーを基準として0.1~20重量%、好ましくは0.5~15重量%、特に好ましくは1~10重量%の低割合で、1種以上の「付着性」コモノマーを含む。もっと低い割合だと、ホモポリマーを上回る付着性の改善をもたらさない。このコモノマーをもっと高い割合で含むコポリマーは、過度に柔軟且つ粘着性になってしまって、バッテリー環境中で溶解してしまう恐れが高まる。
【0049】
有用なコモノマーは一般的に極性基を含有するか又は高表面エネルギーである。有用なコモノマーの例には、限定されるわけではないが、酢酸ビニル、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、2,3,3-トリフルオロプロペン、ヘキサフルオロプロペン(HFP)及び2-クロロ-1,1-ジフルオロエチレン(R-1122)がある。HFPは良好な付着性を提供するが、低い耐溶剤性を有することがある。また、ホスフェート、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸及びヒドロキシル官能性(メタ)アクリルコモノマーも、コモノマーとして用いることができる。グラフトコポリマーもまた本発明が意図するものである。
【0050】
本発明において用いた時、官能性ポリマー系連鎖移動剤とは、低分子量ポリマー連鎖移動剤が1種又はそれ以上の異なる官能基を含有することを意味する。この連鎖移動剤は、式(CH2-CH-(X)-R)yを有する。ここで、yは2~1000の範囲の整数であり、Xは結合基であり、これには限定されるわけではないが共有結合、イオン結合、アルキル、アルケン、アルキン、置換アルキル、置換アルケン、アリール、エステル、エーテル、ケトン、アミン、アミド、アミド、オルガノシランが含まれ、Rは官能基である。
【0051】
官能基Rは官能性を提供する。この官能基Rは、単独のモノマーとして又はコモノマーとしての官能性モノマーの重合によって提供することができる。官能性はまた、後重合反応又はグラフト化によって加えることもできる。有用な官能基には、限定されるわけではないが、カルボキシル、ヒドロキシル、シロキサン、エーテル、エステル、スルホン酸、リン酸、ホスホン酸、硫酸、アミド及びエポキシ基、又はそれらの混合物が含まれる。
【0052】
多相粒子
本発明の1つの好ましい実施形態においては、低膨潤性高結晶性相ポリマー及び高膨潤性官能基含有相ポリマーを、単一の粒子中に共存させる。1つの実施形態において、多相粒子は、高結晶性相を粒子コアとし、高結晶性コアの外側に官能基を持つのが特に有用であり、付着性のために官能性ポリマー相を用いるのが特に有効である。
【0053】
多相粒子は、コア-シェル形態やラズベリータイプの形態(それぞれ結晶性コアと該コアの外側上の官能性ポリマー相とを有する)を含めて、多くの異なる形態を有することができる。多相ポリマーはまた、結晶性フルオロポリマーを主鎖とし、官能基がこの主鎖の側基となっている櫛型形態又は星型形態を有することもできる。
【0054】
多相ポリマー粒子を合成するための1つの方法は、シェルがコアより高い官能性及び低い結晶度を含有するコア及びシェル構造を製造するための逐次重合によるものである。これは、特に水性配合物の場合に、より高い付着性、より高い展性及びより良好な性能をさらに促進する。
【0055】
コアポリマーは多相粒子の2~99重量%、好ましくは70~95重量%、好ましくは80~95重量%で存在し、外側相の官能性ポリマーは多相粒子の1~98重量%、好ましくは5~30重量%、好ましくは5~20重量%を占めることができる。
【0056】
逐次共重合の場合、ポリマーは、ポリフッ化ビニリデンポリマーを生成させるための当業者に周知の一般的な態様でマトリックスポリマーを合成することによって、生成される。これは、乳化重合、溶液重合又は懸濁重合によることができる。重合において高結晶性相のモノマー(群)の少なくとも50%、好ましくは70%、より一層好ましくは90~100%までを加えた後の時点で、官能性コモノマーを反応器中に導入する。この第2の供給物は、単独のフルオロモノマー、フルオロモノマーの混合物、官能性モノマーであって第1成分のモノマーと共重合することができるものである。第2の供給物もまた、官能化連鎖移動剤を含有していることができる。第2の供給物は、シェル又はラズベリー形態等、ポリマー粒子の外側相上の官能化ポリマーを作り出す。
【0057】
第2のフルオロモノマー供給物としては、TFE、CTFE、VF3、VF、HFP、1234yf、1233ze、PFMV及びPPMEを、コア組成物より高い比でシェル組成物中に用いることによって、柔軟性、可撓性及び展性を提供することができる。
【0058】
第2の官能性非フルオロモノマー供給物として、ビニルスルホン酸、ビニルリン酸、アクリル酸、メタクリル酸及び酢酸ビニルをシェル中に用いることによって、セパレーターの表面及び/又は随意に加えられるナノセラミックとのより高い相互作用を促進することができ、それによって、セパレーターに対するコーティングのより高い付着性、コーティング内でのより良好な相互結合性及びコーティングのより良好な機械的強度をもたらすことができる。
【0059】
前記第2の供給物はまた、低分子量ポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリホスホン酸、、ポリスルホン酸及びポリマレイン酸等の官能性連鎖移動剤を含有していてもよく、これはシェルの重合の際にポリマーの主鎖に適度な官能性を提供するために高い割合で加えることができる。
【0060】
不均質、勾配/先細多相粒子
勾配又は先細多相粒子を、本発明のバインダー組成物中に用いることができる。勾配共重合の場合、ポリフッ化ビニリデンポリマー等のフルオロポリマーを合成するための当業者に周知の一般的な態様によって、重合を開始させる。これは、乳化重合、溶液重合又は懸濁重合によることができる。高結晶性相の重合における所定の時点において、官能性コモノマー流を反応器中に導入する。この第2の供給物は、単独のフルオロモノマー、フルオロモノマーの混合物、官能性モノマーであって第1成分のモノマーと共重合することができるものである。第2のモノマー流対第1のモノマー流の比は、一定とすることができ、又は重合が進行するにつれて増加させる。この第2流は、ポリマー粒子の初めから終わりまで官能化ポリマーの勾配を作り出し、終わりにおいて官能性がより高くなる。
【0061】
本発明において有用な不均質コポリマー粒子は、2つ以上の共連続相を含有する。これらの相は互いに別個であってよく、
図5におけるような走査型電子顕微鏡(SEM)影像に見ることができる。これらの不均質コポリマーは、米国特許出願公開第2018-0044456号明細書に記載されている。米国特許第6187885号明細書にも多相コポリマーが教示されている。
【0062】
本発明の1つの実施形態において、低膨潤性の高結晶性相ポリマーと高膨潤性の官能基含有相ポリマーとは、単一の共連続粒子中に共存する。
【0063】
第1の共連続相はフッ化ビニリデンモノマー単位に富み、フッ化ビニリデンモノマー単位を少なくとも85%、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%含有する。第1の共連続相は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のホモポリマーのようなホモポリマーであることもでき、ポリフッ化ビニリデンモノマーのコポリマーであることもできる。コポリマーの場合、コモノマーは、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニル、ペンタフルオロプロペン、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、ペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)、HFO-l234yf、HFO-l233zf、HFO-1225、R-1122若しくはその他のフルオロモノマー及び/又はそれらの組合せより成る群から選択される1種以上のその他のフルオロモノマーであることができる。第1の(低膨潤性)相中のフルオロコモノマーが第2の(高膨潤性)共連続相中の主要コモノマーと同じである場合、第1の共連続相中に存在させることができるコモノマーは10%以下である。何故ならば、相中のポリマーは、別々の相を形成させるのに十分熱力学的に相違していなければならないからである。1つの実施形態において、第1相のコポリマーと第2相のコポリマーとの間で共通のコモノマーの割合の差は、少なくとも10重量%とすべきである。
【0064】
ある実施形態において、最終コポリマー組成物は、第1の共連続相を40~99重量%、好ましくは50~97重量%、より一層好ましくは60~95重量%含有し、それに対応して第2の共連続相を1~60重量%、好ましくは3~50重量%、より一層好ましくは5~40重量%含有する。好ましくは、多相粒子中の全コモノマーは10%超、好ましくは少なくとも11%、好ましくは少なくとも12%である。
【0065】
第2の共連続相は、固体状態の配合物中の第1の共連続相とは熱力学的に異なるコポリマーを含有する。このコポリマーは、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びペルフルオロアルキルエーテル(PAVE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレンから選択されるコモノマーを有効量で含有し、大部分(50重量%超)がフッ化ビニリデンモノマー単位である。好ましくは、第2の共連続相は、HFPまたはPSVEを少なくとも1重量%含有する。このコポリマーはまた、VDFと共重合可能なその他のコモノマーを含有していてもよい。
【0066】
コモノマーの有効量とは、コポリマーが第1の相のポリマーとは別個の独立した相を形成できるコモノマー割合である。HFPについては、第2の相中のHFPモノマーの有効量は、5~40重量%、好ましくは10~40重量%、より一層好ましくは11~35重量%、12~35重量%又は13~35重量%である。
【0067】
本発明において有用なペルフルオロアルキルエーテルは、CF2=CF-O-Rfの構造を有するものである。ここで、Rfは-CF3、-CF2-CF3及び-CF2CF2CF3から選択される1種以上のペルフルオロアルキル基である。好ましいペルフルオロアルキルビニルエーテルは、ペルフルオロメチルビニルエーテルである。
【0068】
第2の共連続相は、反応器に供給される全モノマーの合計量を基準として、5~40重量%、より一層好ましくは10超~40重量%、より一層好ましくは11~35重量%、12~35重量%、13~35重量%又は15~25重量%のHFP及び/又はPAVEを含有することができる。
【0069】
TFE、CTFE、VF3、VFモノマー及び/又はそれらの組合せをVDFと共に又はVDFの代わりに共連続ポリマー中に用いることができることが理解される。
【0070】
第1の共連続相及び第2の共連続相の両方を一緒に含有するコポリマー組成物は、一般的に、ASTM法D-3835に従って450°Fにおいて100秒-1で測定して1~34キロポアズの溶融粘度を有する。勾配フルオロポリマーは好ましくは、155℃超、好ましくは160℃超、好ましくは165℃又はそれ以上の融点を有する。
【0071】
多相バインダー組成物
本発明の多相バインダー組成物は、少なくとも1つの低膨潤性ポリマー相及び少なくとも1つの高膨潤性ポリマー相を含有する水性若しくは溶剤分散体又はスラリーであることができる。ポリマー粒子は、バラバラ(離散粒子)であるべきであり、良好に分散するため及びセパレーターと電極との間の間隔を小さくするために、できるだけ小さいべきである。多相フルオロポリマーのポリマー粒子は、1μm未満、好ましくは800nm未満、より一層好ましくは600nm未満、より一層好ましくは500nm未満の重量平均粒径を有するのが好ましい。この平均粒径は、少なくとも10nm、好ましくは50nm超である。
【0072】
多相バインダー組成物は、少なくとも1つの低膨潤性ポリマー分散体と少なくとも1つの高膨潤性ポリマー分散体とのブレンドであることができる。このブレンドは、溶剤又は水性分散体であることができる。1つの実施形態においては、少なくとも2つのラテックス(少なくとも1つの低膨潤性ポリマー及び少なくとも1つの高膨潤性ポリマー)をブレンドしてバインダー組成物を形成させる。ブレンド中で、低膨潤性ポリマーはブレンド組成物の2~99重量%、70~99、好ましくは70~95重量%、80~95重量%を占め、高膨潤性ポリマーは1~98、好ましくは30~1重量%、好ましくは5~30重量%又は20~5重量%を占める。
【0073】
多相粒子分散体の好ましい場合において、この分散体は、合成されたままで用いてもよく、別の官能性又は非官能性フルオロポリマー分散体とブレンドしてもよい。多相粒子は、外側に官能性相を有する時、高結晶性ポリマーによって提供される機械的強度を犠牲にすることなく、官能性ポリマーの利用を最大限に伸ばす。多相共連続粒子は、粒子に低い膨潤性を提供する一方で、大きい官能性、例えばPVDFコポリマー中の全コモノマーの10重量%超又は多相粒子中の全コモノマーの11%超若しくは15%超を組み込みながら、100%未満、好ましくは90%未満の許容レベルの膨潤性を依然として維持する。
【0074】
無機粒子
前記バインダー組成物は、随意に無機粒子を含有していてもよく、この無機粒子を含有しているのが好ましく、この無機粒子は、ミクロ孔を形成してセパレーターコーティング中でスペーサーとしての物理的形状を維持する働きをし、そして、アノード及びカソード中で活性成分(例えば粉体状電極材料)としての働きをする。この無機粒子はまた、バッテリー成分の耐熱性の助けにもなる。粉体状電極形成材料の性状は、組成物が正極を形成させるために用いられるか負極を形成させるために用いられるかに依存する。
【0075】
セパレーターコーティングにおいて、前記無機粒子は粉体状の粒状材料であり、これは、電気化学的に安定でなければならない(駆動電圧の範囲において酸化/還元を被らない)。さらに、粉体状無機材料は、高いイオン伝導性を有するのが好ましい。低密度の材料の方が、製造されるバッテリーの重量が低下するので、高密度材料より好ましい。誘電率は5以上であるのが好ましい。本発明において有用な無機粉体材料には、限定されるわけではないが、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb1-xLaxZryO3(0<x<1、0<y<1)、PBMg3Nb2/3)3、PbTiO3、ハフニア(HfO(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、Y2O3、ベーマイト(y-AlO(OH))、Al2O3、TiO2、SiC、ZrO2、ホウ素ケイ酸塩、BaSO4、ナノクレー、セラミック又はそれらの混合物がある。有用な無機ファイバーには、限定されるわけではないが、アラミドフィラー及びファイバー、ポリエーテルエーテルケトン及びポリエーテルケトンケトンファイバー、PTFEファイバー並びにナノファイバーがある。
【0076】
カソードにおいて、活性無機電極材料は、リチウム及び/又は遷移金属(限定されるわけではないが、コバルト、マンガン、アルミニウム、チタン若しくはニッケル)の酸化物、硫化物又は水酸化物、並びにリン酸鉄、リン酸マンガンであることができる。また、リチウムの二重塩又は三重塩も意図されるものである。好ましい正極材料には、限定されるわけではないが、LiCoO2、LiNixCo1-xO2、LiMn2O2、LiNiO2、LiFePO4、LiNixCoyMnzOm、LiNixMnyAlzOm(ここで、x+y+zは1であり、mは電子バランスが取れた分子をもたらすための酸化物中の酸素原子の数を表す);並びにリチウム-金属酸化物、例えばコバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、酸化ニッケルリチウム、酸化マンガンリチウムがある。
【0077】
負極の場合、活性無機材料は一般的に、炭素質材料、ナノチタネート、ケイ素又はその他のマトリックスであってリチウムイオンをドープさせることができるものである。有用な炭素質材料には、限定されるわけではないが、グラファイト、人工グラファイト、カーボン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、フェノール樹脂、ピッチ、タール等、並びにそれらの組合せ、ケイ素又は酸化ケイ素との組合せがある。本発明においては、炭素繊維を用いることもできる。
【0078】
ポリマー固形分と無機材料との比は、ポリマーバインダー固形分0.5~25重量部に対して無機粉体材料75~99.5重量部、好ましくはポリマーバインダー固形分0.5~15重量部に対して粉体状無機材料85~99.5重量部、より一層好ましくはポリマーバインダー固形分1~10重量部に対して粉体状電極材料90~99重量部であり、1つの実施形態においては、ポリマーバインダー固形分0.5~8重量部に対して粉体状無機材料92~99.5重量部である。1つの実施形態において、好ましいバインダーは、PVDFポリマーを含む。それより少ないポリマーを用いた場合には、完全な相互結合が達成できないことがあり、それより多くのポリマーを用いた場合には、導電性が低下し,また、組成物の体積が増えて重量が増加する。組成物の1つの用途は、非常に小さくて軽量のバッテリーのための用途である。
【0079】
その他の添加剤
本発明のバインダー組成物は、ポリマーを基準として0~15重量%、好ましくは0.1~10重量%の添加剤を随意に含むことができ、この添加剤には、限定されるわけではないが、増粘剤、pH調整剤、沈降防止剤、界面活性剤、湿潤剤、フィラー、消泡剤、及び一時的接着促進剤がある。
【0080】
本発明の多相ポリマーバインダーは、優れた乾式付着性を有する。乾式付着性は、アルミニウムホイル上に多相ポリマーの溶液をキャストし、乾燥後に厚さ3ミクロンの固体状非充填ポリマーフィルムを形成させ、剥離強度を計測することによって、測定することができる。剥離強度は、バッテリー産業において共通である180°剥離試験によって55mm/分の剥離速度で測定して、少なくとも10N/m、好ましくは少なくとも15N/mであるべきである。
【0081】
湿式付着性は、アルミニウムホイル上の3ミクロンの固体フィルムを電解質溶液中に60℃において72時間浸漬し、欠損及び剥離を調べることによって、測定することができる。浸出性は、10ミクロンのフィルムを形成させ、このフィルムを電解質中に室温において72時間入れることによって、試験することができる。10%未満の浸出性であるべきである。
【0082】
コーティングされたアノード、カソード及びセパレーターの形成
電極コーティングとしての用途について:バインダー組成物は、電気伝導性基材の少なくとも一方の面、好ましくは両方の表面に、当技術分野において周知の手段、例えばブラシ、ローラー、インクジェット、スキージ、フォームアプリケーター、カーテンコーティング、真空コーティング又はスプレー等によって、適用(塗布)する。電気伝導性基材は一般的に薄く、通常はアルミニウム、銅、リチウム、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又は銀等の金属のホイル、メッシュ又はネットから成る。コーティングされた電気伝導性基材を次いで乾燥させて、密着した複合電極層を形成させ、これを次いでカレンダー加工して、非水性タイプのバッテリー中に利用可能な相互結合した複合電極を提供する。水性電極組成物は、高い付着強度を達成するために随意に高温で焼成することができる。乾燥した電極は、さらに電極付着性を改善するために、随意に高圧高温におけるカレンダー加工に付すことができる。
【0083】
セパレーターコーティングとしての用途について:多孔質セパレーターの少なくとも一方の面が、前記コーティング組成物でコーティングされる。本発明の水性コーティング組成物によってコーティングされるセパレーター基材の選択には、孔を有する多孔質基材である限り、特に制限はない。好ましくは、基材は融点140℃超の耐熱性多孔質基材である。かかる耐熱性多孔質基材は、外的及び/又は内的熱衝撃下でのコーティングされたセパレーターの熱安全性を改善することができる。
【0084】
前記多孔質基材は、膜の形又は繊維質ウェブの形にあってもよい。多孔質基材が繊維質の場合、これはスパンボンド式ウェブ又はメルトブローウェブ等の多孔質ウェブを形成する不織布であることができる。
【0085】
本発明においてセパレーターとして有用な多孔質基材の例には、限定されるわけではないが、以下のものがある:ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレン又はそれらの混合物。その他の耐熱性エンジニアリングプラスチックも、特に制限なく用いることができる。また、天然および合成材料の不織材料も、セパレーターの基材として用いることができる。
【0086】
多孔質基材は、一般的には1ミクロン~50ミクロンの厚さを有し、一般的には不織布のキャスト膜である。多孔質基材は好ましくは5%~95%の多孔度を有する。孔サイズ(直径)は好ましくは0.001~50ミクロンの範囲、より一層好ましくは0.01~10ミクロンの範囲である。孔サイズ及び多孔度がそれぞれ0.01ミクロン未満及び5%未満である場合、多孔質基材は抵抗層としての働きをすることがある。孔サイズ及び多孔度がそれぞれ50ミクロン超及び95%超である場合、機械的特性を維持するのが困難である。
【0087】
従来のリチウムイオンバッテリー及びリチウムイオンポリマーバッテリーには一般的に、ポリオレフィン系セパレーター(単独のもの又は酸化アルミニウム若しくはセラミック粒子でコーティングされたもの)が用いられている。多孔質基材は好ましくは15%~85%の範囲の多孔度を有する。孔サイズ(直径)は好ましくは0.001~0.20ミクロン、より一層好ましくは0.002~0.10ミクロンの範囲である。
【0088】
前記バインダーコーティング組成物は、溶液、溶剤分散体又は水性分散体であることができ、ブラシ、ローラー、インクジェット、浸漬、ナイフ、グラビア、ワイヤーロッド、スキージ、フォームアプリケーター、カーテンコーティング、真空コーティング又はスプレー等の当技術分野において周知の手段によって、多孔質基材の少なくとも1つの面に塗布される。次いで、セパレーター上で室温において、又は高温において、コーティングを乾燥させる。最終的な乾燥コーティングの厚さは、0.5~15ミクロン、好ましくは1~8ミクロン、より一層好ましくは1~5ミクロン厚である。
【0089】
本発明のコーティングされたセパレーター、アノード及びカソードは、当技術分野において周知の手段によって、バッテリー、蓄電器(コンデンサ)、電気二重層蓄電器、燃料電池用の膜電極アセンブリ(MEA)等の電気化学デバイスを形成させるために、用いることができる。非水性タイプのバッテリーは、負極及び正極をコーティングされたセパレーターのいずれかの面上に設置することによって、形成させることができる。
【実施例0090】
実施例
【0091】
乳化法によって、コア-シェルポリマーを生成させる。反応器に、脱イオン水、重合の際に反応成分の混合物を乳化させておくことができる水溶性界面活性剤及び随意としての防汚用パラフィンワックスを装填し、この混合物を撹拌して酸素を除去する。
【0092】
次いでこの反応器に所定量の連鎖移動剤(官能性のもの及び/又は非官能性のもの)を導入し、反応器の温度を所望のレベルまで上昇させ、この反応器中にフッ化ビニリデン(VDF)又はVDFと他のフルオロモノマーとの組合せ物を供給する。初期装填分のモノマー(群)を導入して反応器内の圧力が所望のレベルに達したら、開始剤溶液を導入して重合反応を開始させる。反応温度は用いる開始剤の特徴に応じて変えることができ、当業者であればそのやり方がわかるだろう。一般的には、この温度は約30~130℃、好ましくは約50~110℃であろう。
【0093】
同様に、重合圧力も変えることができるが、一般的には40~50気圧の範囲内であろう。反応を開始させた後に、モノマー(群)を追加の開始剤と共に連続的に供給して所望の圧力を維持する。反応器内で主要成分のモノマーが所望の量(供給される高結晶性相のモノマー(群)の50%超)に達したら、シェル成分を形成させるために反応器供給物に第2流を加える(官能性相を形成)。第2流は、一般的にはモノマー群と同時に連続して装填されるが、シェル形成段階の間にスラグとして加えることもできる。主要相モノマーの供給が完了したら、これらのモノマーすべての重合を促進するために開始剤の供給を一定期間続ける。次いですべての供給を停止する。(未反応モノマーを含有する)残留気体を廃棄し、反応器からラテックスを回収する。次いで、酸凝固、凍結融解又は高剪断等の標準的な方法によって、前記ラテックスからポリマーを単離することができる。
【0094】
1つの好ましい実施形態においては、ポリフッ化ビニリデンホモポリマーが主要相として形成され、その後に、全モノマーの少なくとも50%が、フッ化ビニリデンと官能性フルオロモノマー及び/又は官能性連鎖移動剤とのモノマー混合物の第2流の導入によって、装填されて、シェルが作られる。シェルを作るための第2流の割合は、主要モノマー供給物の30重量%まで、好ましくは20重量%まで、より一層好ましくは10重量%までである。
【0095】
さらに、ポリフッ化ビニリデンホモポリマー合成は、一般的な態様で開始させることができる。VDFモノマーの25重量%を装填した後に、官能性コモノマー流を反応器中に導入する。第2流対VDFモノマー流の比は、一定であってもよく、重合の進行とともに増大させてもよい。勾配構造を作るための第2流の割合は、主要モノマー供給物の30重量%まで、好ましくは20重量%まで、より一層好ましくは10重量%までである。
【0096】
逐次共重合法による形成に加えて、本発明の多相組成物は、ポリフッ化ビニリデンをベースとするポリマーと別のフルオロポリマー(これはホモポリマー、コポリマー又はターポリマーであってよい)とをブレンドすることによって形成させることもできる。2種のポリマーのブレンディングは、対応する2種のポリマーの溶融ブレンディング、溶液ブレンディング又はラテックスブレンディング若しくは水性分散体ブレンディングの形であってよい。溶融ブレンディングは、粉体又はペレットで行うことができるが、これは、均一のブレンドを形成させるために、溶剤中に溶解させなければならない。
【0097】
特定の理論に縛られるものではないが、コアのマトリックスはシェルより結晶性が高く、シェル相は結晶性がはるかに低く、柔軟性、可撓性、より高い付着性及び展性をもたらす。
【0098】
比較例1:コポリマー
以下の比較例は、米国特許第8765890号明細書の教示に基づく。80ガロンのステンレス鋼製反応器に、脱イオン水345ポンド、PLURONIC 31R1(BASF社からの非フッ素化非イオン性界面活性剤)250g及び酢酸エチル0.35ポンドを装填した。排気後に、23rpmで撹拌を開始し、反応器を加熱した。反応器温度が100℃の所望設定点に達した後に、VDF及びHFPモノマーを、全モノマーの13.2重量%のHFP比で、反応器中に導入した。次いで反応器に全モノマー約35ポンドを装填することによって反応器圧力を650psiに上昇させた。反応器圧力が安定した後に、重合を開始させるために、過硫酸カリウム1.0重量%及び酢酸ナトリウム1.0重量%から成る開始剤溶液3.5ポンドを反応器に加えた。開始の際に、供給物中の全モノマーに対してHFP4.4%に到達するように、HFP対VDFの比を調節した。また、開始剤溶液のさらなる追加速度も、最終VDF及びHFP合計重合速度を概ね毎時90ポンドにしてこれを維持するように、調節した。VDF及びHFP共重合を、約160ポンドのモノマー群が反応混合物中に導入されるまで、続けた。HFP供給を停止し、しかしVDF供給は反応器に全モノマー約180ポンドが供給されるまで、続けた。VDF供給を停止し、低下していく圧力において残留モノマーを消費させるために、反応温度においてバッチを放置して反応させ尽くした。40分後に、開始剤供給及び撹拌を停止し、反応器を冷却し、排気し、ラテックスを回収した。回収されたラテックス中の固形分は、重量分析技術によって測定して約32重量%であり、溶融粘度は、ASTM法D-3835に従って450°Fにおいて100秒-1で測定して約38kPだった。樹脂の溶融温度は、ASTM法D-3418に従って測定して、約152℃だった。重量平均粒径は、NICOMPレーザー光散乱装置によって測定して、約160nmだった。
【0099】
比較例2:ホモポリマー
80ガロンのステンレス鋼製反応器に、脱イオン水345ポンド、PLURONIC 31R1(BASF社からの非フッ素化非イオン性界面活性剤)250g及びプロパン0.3ポンドを装填した。排気後に、23rpmで撹拌を開始し、反応器を加熱した。反応器温度が100℃の所望設定点に達した後に、フッ化ビニリデン(VDF)の装填を開始した。次いで反応器にVDF約35ポンドを装填することによって反応器圧力を650psiに上昇させた。反応器圧力が安定した後に、重合を開始させるために、過硫酸カリウム1.0重量%及び酢酸ナトリウム1.0重量%から成る開始剤溶液4.5ポンドを反応器に加えた。開始剤溶液のさらなる追加速度を、最終VDF重合速度を概ね毎時70ポンドにしてこれを維持するように、調節した。VDF単独重合を、約150ポンドのVDFが反応混合物中に導入されるまで、続けた。VDF供給を停止し、低下していく圧力において残留モノマーを消費させるために、反応温度においてバッチを放置して反応させ尽くした。25分後に、撹拌を停止し、反応器を冷却し、排気し、ラテックスを回収した。回収されたラテックス中の固形分は、重量分析技術によって測定して約27重量%であり、溶融粘度は、ASTM法D-3835に従って450°Fにおいて100秒-1で測定して約27kPだった。樹脂の溶融温度は、ASTM法D-3418に従って測定して、約162℃だった。重量平均粒径は、NICOMPレーザー光散乱装置によって測定して、約150nmだった。
【0100】
比較例3:官能性
80ガロンのステンレス鋼製反応器に、脱イオン水345ポンド、PLURONIC 31R1(BASF社からの非フッ素化非イオン性界面活性剤)270gを装填した。排気後に、23rpmで撹拌を開始し、反応器を加熱した。反応器温度が100℃の所望設定点に達した後に、VDF及びHFPモノマーを、全モノマーの22.3重量%のHFP比で、反応器中に導入した。次いで反応器に全モノマー約35ポンドを装填することによって反応器圧力を650psiに上昇させた。反応器圧力が安定した後に、重合を開始させて官能性を誘導するために、過硫酸カリウム1.0重量%及び官能性連鎖移動剤(分子量約3000ダルトンの低分子量PAA)6.0重量%から成る開始剤溶液3.5ポンドを反応器に加えた。開始の際に、供給物中の全モノマーに対してHFP8%に到達するように、HFP対VDFの比を調節した。また、開始剤溶液のさらなる追加速度も、最終VDF及びHFP合計重合速度を概ね毎時60ポンドにしてこれを維持するように、調節した。VDF及びHFP共重合を、約160ポンドのモノマー群が反応混合物中に導入されるまで、続けた。HFP供給を停止し、しかしVDF供給は反応器に全VDFモノマー約180ポンドが供給されるまで、続けた。VDF供給を停止し、低下していく圧力において残留モノマーを消費させるために、反応温度においてバッチを放置して反応させ尽くした。20分後に、開始剤供給及び撹拌を停止し、反応器を冷却し、排気し、ラテックスを回収した。回収されたラテックス中の固形分は、重量分析技術によって測定して約32重量%であり、溶融粘度は、ASTM法D-3835に従って450°Fにおいて100秒-1で測定して約68kPだった。樹脂の溶融温度は、ASTM法D-3418に従って測定して、約138℃だった。重量平均粒径は、NICOMPレーザー光散乱装置によって測定して、約160nmだった。
【0101】
特徴付け:
乾燥後に、上記のそれぞれの樹脂のNMP中8重量%の溶液を調製した。この溶液を15ミクロンのアルミニウムホイル(6×15インチ)上に室温においてドクターブレード又はドローダウン棒を用いてキャストし、次いで120℃のオーブン中に0.5時間入れて、約3ミクロンの固体状フィルムを形成させた。Alホイル上への多相ポリマーの付着性を、Instronを用いて80°剥離試験形態で55mm/分の剥離速度で測定した。
【0102】
湿式付着性は、コーティングしたAlホイルを一般的な電解質溶剤、即ちEC/DEC/DMC中に60℃において72時間入れることによって測定した。コーティングしたAlホイルのブリスター(膨れ)の数及びサイズを測定するために、目視検査を用いた。
【0103】
膨潤性:8重量%NMP溶液からガラス基材上に10ミクロン厚の乾燥フィルムをキャストし、120℃のオーブン中に入れて乾燥させた。前記フィルムを持ち上げ、次いで一般的な電解質溶剤、即ちEC/DEC/DMC中に60℃において72時間入れた。それぞれの相についての乾燥フィルムに対する膨潤フィルムの重量変化を測定することによって、膨潤性を測定した。
%膨潤性=[m(膨潤)/m(初期)]×100
%浸出性=[{m(初期)-m(乾燥)}/m(初期)]×100
【0104】
ここで、m(初期)は初期乾燥ポリマーの重量であり、m(膨潤)は膨潤ポリマーの重量であり、m(乾燥)は溶剤曝露後に乾燥させたポリマーの重量である。
【0105】
適用例:
上記PVDFをベースとするラテックスを次いで無機粒子と共に又は無機粒子なしで配合して水性コーティング組成物にし、ポリオレフィンセパレーターに適用し、高温だが90℃より低い温度で乾燥させ、又は相互結合性及び付着性を改善するために一時的接着促進剤を用いた。一時的接着促進剤は、化学物質、圧力と組み合わされたエネルギー源、又は組合せであり、電極を形成させる際に水性組成物の成分の相互結合を引き起こすのに有効量で用いられる。有用な有機溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル及びテトラエチル尿素である。
【0106】
一時的接着促進剤としてのエネルギーの場合、有用なエネルギー源は、熱、赤外線及び無線周波数(RF)である。
【0107】
また、上記ラテックスの一部をスプレードライして平均粒径1~30ミクロンの微粉末にし、次いで無機粒子と共に又は無機粒子なしで水性媒体中に再分散させて配合し、ポリオレフィンセパレーターに適用し、高温だが90℃より低い温度で乾燥させた。
【0108】
さらに、スプレードライした粉末上記樹脂の一部を無機粒子と共に又は無機粒子なしで配合して非水性コーティング組成物にし、ポリオレフィンセパレーターに適用し、高温だが90℃より低い温度で乾燥させた。
【0109】
VDF及びHFPのランダムコポリマー及び共連続コポリマーであって表に示した様々なHFP重量%のものを、重量増加、膨潤性及び浸出性について試験した。結果を表1に示す。
【0110】
【0111】
電解質混合物は、比約1:1:1のEC(エチレンカーボネート)、DMC(ジメチルカーボネート)及びEMC(エチレンメチルカーボネート)だった。
【0112】
表1中のポリマーは、PVDF/HFPコポリマーである。
【0113】
表1のデータを
図1~4にグラフとして示す。これらのデータは、不均質コポリマーにおいてHFP含有率の関数としての増加速度がランダムコポリマーと比較して比較的緩やか又は直線的であることを示している。ポリマーAからポリマーXまでは、勾配は予期しないほど大きくなり、ポリマーXは電解質中に完全に溶解するのでその重量増加及び膨潤比は計算できない。対照的に、ポリマーCからポリマーBまでは、勾配はランダムコポリマーと比較して緩やかであるように思われる。
【0114】
不均質グレードの中では、HFP含有率が高くなると電解質取込量/膨潤性が増すという傾向は同じであるが、それでも、同様のHFP含有率(特に全コポリマーにおいて10重量%より上のHFP含有率)のランダムコポリマーよりは測れる程に少ない。不均質グレードは付着性及び膨潤性のバランスをとるために用いることができる。