(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010372
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】モータ駆動システム、インダクタンス調整装置及びインダクタンス調整方法
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20240117BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240117BHJP
【FI】
H02P27/08
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111676
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】余 増強
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505BB06
5H505CC05
5H505DD03
5H505EE49
5H505HA03
5H505HB01
5H505JJ26
5H505LL60
5H505MM03
5H770AA17
5H770BA01
5H770CA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770EA01
5H770HA01Z
5H770HA19Z
5H770JA11W
5H770JA13Y
(57)【要約】
【課題】インバータとモータとの間のインタスタンスを部分放電の抑制が可能な値に適切に調整すること。
【解決手段】モータを駆動するインバータと、前記インバータと前記モータとの間に介在する可変リアクトルと、前記モータに発生する部分放電を検出するセンサと、前記センサにより検出される前記部分放電の大きさが減少するように前記可変リアクトルのインダクタンスを上昇させる制御部と、を備える、モータ駆動システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するインバータと、
前記インバータと前記モータとの間に介在する可変リアクトルと、
前記モータに発生する部分放電を検出するセンサと、
前記センサにより検出される前記部分放電の大きさが減少するように前記可変リアクトルのインダクタンスを上昇させる制御部と、を備える、モータ駆動システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記センサにより検出される前記部分放電の大きさが所定値以下になるまで前記インダクタンスを上昇させる、請求項1に記載のモータ駆動システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記センサにより検出される前記部分放電の大きさが所定値以下の下限値に達すると、前記インダクタンスの上昇を停止する、請求項2に記載のモータ駆動システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記モータが停止すると、上昇させた前記インダクタンスをリセットする、請求項1から3のいずれか一項に記載のモータ駆動システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記モータの巻線のインダクタンスの1/50以上1/5以下の範囲内で前記インダクタンスを調整する、請求項1から3のいずれか一項に記載のモータ駆動システム。
【請求項6】
前記センサにより検出された信号にインバータサージによって重畳するノイズを減衰するフィルタを備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のモータ駆動システム。
【請求項7】
インバータとモータとの間に介在する可変リアクトルと、
前記モータに発生する部分放電を検出するセンサと、
前記センサにより検出される前記部分放電の大きさが減少するように前記可変リアクトルのインダクタンスを上昇させる制御部と、を備える、インダクタンス調整装置。
【請求項8】
インバータとモータとの間に介在する可変リアクトルのインダクタンスを調整する方法であって、
制御部は、前記モータに発生する部分放電を検出するセンサにより検出される前記部分放電の大きさが減少するように、前記インダクタンスを上昇させる、インダクタンス調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ駆動システム、インダクタンス調整装置及びインダクタンス調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータとモータとの間でインピーダンスが不整合であると、モータの入力端子に大きなインバータサージ電圧が発生し、モータのコイルの負担電圧が上昇する場合がある。コイルの負担電圧が上昇すると、モータの巻線間で部分放電が発生し、巻線間の絶縁劣化が発生する可能性がある。インバータとモータの間にリアクトルが介在することで、部分放電の発生が低減し、絶縁劣化の改善が可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータの製作上の個体差やインバータとモータとの間の距離などによって、インバータとモータとの間に必要なインダクタンスは異なる。
【0005】
本開示は、インバータとモータとの間のインタスタンスを部分放電の抑制が可能な値に適切に調整することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様では、
モータを駆動するインバータと、
前記インバータと前記モータとの間に介在する可変リアクトルと、
前記モータに発生する部分放電を検出するセンサと、
前記センサにより検出される前記部分放電の大きさが減少するように前記可変リアクトルのインダクタンスを上昇させる制御部と、を備える、モータ駆動システムが提供される。
【0007】
本開示の他の一態様では、
インバータとモータとの間に介在する可変リアクトルと、
前記モータに発生する部分放電を検出するセンサと、
前記センサにより検出される前記部分放電の大きさが減少するように前記可変リアクトルのインダクタンスを上昇させる制御部と、を備える、インダクタンス調整装置が提供される。
【0008】
本開示の他の一態様では、
インバータとモータとの間に介在する可変リアクトルのインダクタンスを調整する方法であって、
制御部は、前記モータに発生する部分放電を検出するセンサにより検出される前記部分放電の大きさが減少するように、前記インダクタンスを上昇させる、インダクタンス調整方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、インバータとモータとの間のインタスタンスを部分放電の抑制が可能な値に適切に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態のモータ駆動システムの構成例を示す図である。
【
図2】可変リアクトルのインダクタンスが零の場合における、モータの各コイルの電圧変化を例示する図である。
【
図3】可変リアクトルのインダクタンスを上昇させた場合における、モータの各コイルの電圧変化を例示する図である。
【
図4】インダクタンス調整方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】各コイルの分担電圧の解析用モデルを示す図である。
【
図6】各コイルの分担電圧の解析用モデルによる計算結果を示す図である。
【
図7】PDIVと湿度との関係を例示する図である。
【
図8】PDIVとコイル絶縁被膜厚さとの関係を例示する図である。
【
図9】リアクトルが介在する場合の、各コイルの分担電圧の解析用モデルを示す図である。
【
図10】第1コイルの分担電圧とリアクトルのインダクタンスとの関係を例示する図である。
【
図11】リアクトルの有無による第1コイルの電圧波形を示す図である。
【
図13】フィルタが無い場合の部分放電信号の電圧波形を示す図である。
【
図14】フィルタにハイパスフィルタを用いた場合の部分放電信号の電圧波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、一実施形態のモータ駆動システムの構成例を示す図である。
図1に示すモータ駆動システム100は、交流電源1から供給される交流電力を用いて、インバータ4によりモータ5を駆動する。モータ駆動システム100は、電力変換装置10、モータ5、配線9及びインダクタンス調整装置11を備える。
【0013】
交流電源1は、例えば、三相の交流電力を供給する電源である。交流電源1の具体例として、周波数が50Hz又は60Hzの交流を供給する商用電源が挙げられる。
【0014】
電力変換装置10は、交流電源1から供給される交流電力を周波数の異なる交流電力に変換する。電力変換装置10は、例えば、整流器2、コンデンサ3及びインバータ4を有する。電力変換装置10は、交流電源1から供給される三相の交流を整流器2でのダイオード整流により直流に変換し、インバータ4により生成される所望の電圧及び周波数の交流を出力することで、モータ5を駆動する。整流器2は、交流電源1から入力される交流を直流に変換するコンバータである。コンデンサ3は、整流器2とインバータ4との間に接続され、整流器2又はインバータ4から供給される直流電圧を平滑化するための容量素子である。インバータ4は、整流器2により生成された直流電力を交流電力に変換し、モータ5に供給する。
【0015】
なお、モータ5をインバータ4により駆動する電力変換装置10の電源は、交流電源に限られず、例えば、蓄電池などの直流電源でもよい。
【0016】
モータ5は、電力変換装置10のインバータ4から配線9を介して供給される交流電力で駆動される。モータ5は、配線9に挿入された可変リアクトル6を介して交流電流が流れる複数の巻線を有する。この例では、モータ5は、U相巻線15u,V相巻線15v及びW相巻線15wを有する三相モータである。
図1は、巻線の結線方式として、Y結線を例示するが、Δ結線でもよい。
【0017】
図1は、各相の巻線が、直列に接続された複数(この例では、3つ)のコイルを含む形態を例示する。U相巻線15uは、U相モータ端子5uと中性点12との間に直列に接続された複数のU相コイルU
1,U
2,U
3を含む。V相巻線15vは、V相モータ端子5vと中性点12との間に直列に接続された複数のV相コイルV
1,V
2,V
3を含む。W相巻線15wは、W相モータ端子5wと中性点12との間に直列に接続された複数のW相コイルW
1,W
2,W
3を含む。
【0018】
直列に接続された複数のコイルのうち、モータ端子に最も近いコイルを第1コイル、2番目に近いコイルを第2コイル、3番目に近いコイルを第3コイルとも称する。この例では、第1コイルは、コイルU1,V1,W1に相当し、第2コイルは、コイルU2,V2,W2に相当し、第3コイルは、コイルU3,V3,W3に相当する。
【0019】
配線9は、インバータ4とモータ5とを接続する。配線9は、この例では、U相の交流電圧をモータ5に供給するためのU相配線9uと、V相の交流電圧をモータ5に供給するためのV相配線9vと、W相の交流電圧をモータ5に供給するためのW相配線9wと、を有する。配線9u,9v,9wの一端は、それぞれ、インバータ4の交流の出力端子4u,4v,4wに接続されている。配線9u,9v,9wの他端は、それぞれ、モータ端子5u,5v,5wに接続されている。
【0020】
モータ駆動システム100は、IGBT又はMOSFETなどの複数の半導体スイッチを含むインバータ4を利用して、コンデンサ3における直流電圧を、立ち上がり時間(例えば、0.05μ秒~2μ秒)の急峻なPWM波形に変換し、モータ5に印加する。しかし、インバータ4とモータ5との間のインピーダンスが不整合であると、PWM電圧波形がモータ5の入力端に反射し、インバータ4のスイッチングによるインバータサージが発生することがある。理論的にインバータサージがPWM電圧波形の2倍まで増幅する。また、伝搬時間の遅延により、インバータサージの立ち上がり時間が短いほど、第1コイルU1,V1,W1の負担する電圧が高くなる傾向がある。特に、第1コイルの最初ターンと最終ターンの電圧差が最も高い。乱巻きコイルでは、第1コイルの最初ターンと最終ターンが接する場合、部分放電が発生する可能性が高くなる。
【0021】
インバータ4とモータ5との間にリアクトルが介在すると、インバータサージの立ち上がり時間が長くなるので、第1コイルU1,V1,W1の負担する電圧は低減する。しかし、モータ5のコイルの製作上の個体差やモータ駆動システム100の運転環境などによって、部分放電が発生する電圧が異なる場合があり、インバータサージの発生時に部分放電が発生しない場合もある。インバータ4とモータ5との間に介在するリアクトルのインダクタンスが過大であると、インバータ4によりモータ5に印加される電圧が低減し、モータ5の出力効率が低下する場合がある。
【0022】
そこで、本実施形態のモータ駆動システム100は、インバータ4とモータ5との間のインタスタンスを、部分放電の抑制が可能な値に適切に調整するためのインダクタンス調整装置11を備える。
【0023】
インダクタンス調整装置11は、インバータ4とモータ5との間のインダクタンスを調整する。インダクタンス調整装置11は、可変リアクトル6、センサ7及び制御部8を備える。
【0024】
可変リアクトル6は、インバータ4とモータ5との間に介在する。可変リアクトル6は、この例では、配線9に直列に挿入され、制御部8からの調整信号により調整可能なリアクタンスを有する。
【0025】
可変リアクトル6は、U相リアクトル6u、V相リアクトル6v,W相リアクトル6wを含む。リアクトル6uは、U相配線9uに直列に挿入され、制御部8からの調整信号により調整可能なリアクタンスを有する。リアクトル6vは、V相配線9vに直列に挿入され、制御部8からの調整信号により調整可能なリアクタンスを有する。リアクトル6wは、W相配線9wに直列に挿入され、制御部8からの調整信号により調整可能なリアクタンスを有する。
【0026】
センサ7は、モータ5に発生する部分放電を検出し、検出した部分放電の大きさに応じた信号(部分放電信号)を制御部8に出力する。センサ7は、コイルターン間、コイルとコイル間又はコイルとコア間で発生する部分放電を検出する。モータ5内で部分放電が発生する箇所は、センサ7によって特定されなくてもよい。
【0027】
制御部8は、センサ7により検出された部分放電の大きさが減少するように可変リアクトル6のインダクタンスを上昇させる調整信号を生成する。制御部8は、各相の可変リアクトル6u,6v,6wのインダクタンスを、一律に又は個別に上昇させる。制御部8は、例えば、センサ7から出力された部分放電信号を検出する検出回路と、可変リアクトル6に供給する調整信号を生成する生成回路と、を有する。
【0028】
制御部8は、例えば、メモリとプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit))を有し、制御部8の各機能は、メモリに記憶されたプログラムによって、プロセッサが動作することにより実現されてもよい。制御部8の各機能は、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)によって実現されてもよい。制御部8は、論理回路を用いて実現されてもよい。
【0029】
制御部8は、センサ7により検出された部分放電の大きさが減少するように可変リアクトル6のインダクタンスを上昇させるので、可変リアクトル6のインダクタンスを部分放電の抑制が可能な値に適切に調整できる。これにより、モータ端子5u,5v,5wに発生するインバータサージ電圧を適切に抑制でき、部分放電が発生する可能性の高い箇所(例えば、コイルターン間、コイルとコイル間、又は、コイルとコア間など)の絶縁劣化を抑制できる。
【0030】
図2は、可変リアクトルのインダクタンスが零の場合における、モータの各コイルの電圧変化を例示する図である。
図3は、可変リアクトルのインダクタンスを上昇させた場合における、モータの各コイルの電圧変化を示す図である。
図2及び
図3は、U相コイルU
1,U
2,U
3の各々が負担する電圧を示す。
【0031】
U相モータ端子5uにおけるサージ電圧の立ち上がり時間が短いほど、直列に接続される複数のコイルU
1,V
1,W
1のうち、U相モータ端子5uに最も近い第1コイルU
1に電圧が集中しやすい。
図2の場合、第1コイルU
1に電圧が集中することで、第1コイルU
1が負担する電圧が増大し、第1コイルU
1に部分放電が発生する。
【0032】
一方、
図3の場合、制御部8は、センサ7により検出される部分放電の大きさが所定値Vth以下になるまで、可変リアクトル6のインダクタンスを上昇させる。これにより、制御部8は、可変リアクトル6のインダクタンスを、部分放電の大きさが所定値Vth以下になる値に適切に調整できる。そして、第1コイルU
1の負担する電圧が低下するので、部分放電が発生する可能性の高い箇所(例えば、コイルターン間、コイルとコイル間、又は、コイルとコア間など)の絶縁劣化を抑制できる。所定値Vthは、零でもよいし、零よりも大きい値でもよい。所定値Vthは、例えば、複数のコイルU
1,V
1,W
1の負担する電圧が、それぞれ、モータ5の部分放電開始電圧よりも低くなるような値に予め設定される。モータ5の部分放電開始電圧とは、モータ5に部分放電が発生し始める電圧をいう。
【0033】
制御部8は、センサ7により検出される部分放電の大きさが所定値Vth以下の下限値Vminに達すると、可変リアクトル6のインダクタンスの上昇を停止する。これにより、可変リアクトル6のインダクタンスが過大になることを防止できるので、インバータ4によりモータ5に印加される電圧の過剰な低減が抑制され、モータ5の出力効率の低下が抑制される。下限値Vminは、所定値Vthと同一値でもよいし、所定値Vthよりも小さい非負値でもよい。
【0034】
なお、制御部8は、各相の可変リアクトル6u,6v,6wのインダクタンスを一律に上昇させるが、可変リアクトル6v,6wのインダクタンスを上昇させずに可変リアクトル6uのみを上昇させてもよい。また、
図2及び
図3は、U相の場合を示すが、V相及びW相の場合についても援用可能である。
【0035】
また、モータ5が停止すると、部分放電が発生する電気的又は環境的な条件がモータ5の動作中から変化し、部分放電の大きさが変化する可能性がある。そのため、制御部8は、モータ5が停止すると、上昇させた可変リアクトル6のインダクタンスを初期状態にリセットしてもよい。これにより、制御部8は、可変リアクトル6のインダクタンスを、モータ5が再び動作する運転状況に応じた適切な値(より詳しくは、モータ5が再び動作する運転状況で発生する部分放電の抑制が可能な値)に調整できる。なお、モータ5の停止とは、モータ5の極低速回転状態を含んでもよい。
【0036】
制御部8は、所定の検出方式でモータ5の停止を検出する。例えば、制御部8は、モータ5の回転を検出可能なセンサによってモータ5の停止を検出する。モータ5の回転を検出可能なセンサは、モータ5の回転を検出するレゾルバ等の回転センサに限られず。モータ5に流れる電流を検出する電流センサ、モータ5の電圧を検出する電圧センサなどでもよい。制御部8は、インバータ4の動作停止を表す信号を検知することで、モータ5の停止を検出してもよい。
【0037】
図4は、制御部8により実行されるインダクタンス調整方法の一例を示すフローチャートである。ステップS10において、制御部8は、センサ7により検出される部分放電の大きさが所定値Vth以下か否かを判断する。制御部8は、部分放電の大きさが所定値Vth以下ではないと判断した場合、可変リアクトル6のインダクタンスを所定の上昇量だけ上昇させる(ステップS20)。制御部8は、部分放電の大きさが所定値Vth以下と判断した場合又は下限値Vminに達したと判断した場合、可変リアクトル6のインダクタンスの上昇を停止する。
【0038】
したがって、
図1に示すインダクタンス調整装置11又は
図4に示すインダクタンス調整方法によれば、インバータ4とモータ5との間のインダクタンスを部分放電の抑制が可能な値に適切に調整できる。
【0039】
図1において、制御部8は、例えば、モータ5の巻線(U相巻線15u,V相巻線15v又はW相巻線15w)のインダクタンスの1/50以上1/5以下の範囲内で、可変リアクトル6(6u,6v,6w)のインダクタンスを調整する。これにより、各相の第1コイルU
1,V
1,W
1の負担する電圧が有意に低下する。U相巻線15uのインダクタンスは、U相コイルU
1,U
2,U
3の各インダクタンスの和に略等しい(V相巻線15v及びW相巻線15wについても同様である)。
【0040】
インダクタンス調整装置11は、センサ7により検出された信号(部分放電信号)にインバータサージによって重畳するノイズを減衰するフィルタ13を備えてもよい。インバータサージには、500MHz以下のノイズ成分が含まれていることがある。この帯域では、センサ7から出力される部分放電信号の検出が困難である。部分放電信号は、UHF帯域(300MHz~3GHz)の成分を含むため、フィルタ13は、500MHz以下の帯域のノイズを減衰させるハイパスフィルタが好適である。フィルタ13は、センサ7、制御部8、又はセンサ7と制御部8との間に備えられる。
【0041】
図5は、各コイルの分担電圧の解析用モデルを示す図である。
図6は、各コイルの分担電圧の解析用モデルによる計算結果を示す図である。
図6は、インバータ4の出力波形及びモータ5(1相分コイル)を模擬する
図5の解析用モデルを用いて、各コイルの分担電圧を計算した結果を示す。PWM波形を生成する電源は、立ち上がり時間が100nsで700Vの矩形波電圧を出力する条件に設定されている。
【0042】
図6の解析結果によれば、インバータ4の出力端で700Vの電圧に対して、モータの入力端の最大電圧が1180Vとなり、電圧レベルが1.69倍である。また、700Vの定常状態では、U相コイルU
1,U
2,U
3の各分担電圧は、約233Vである。しかし、インバータサージの原因で第1コイルU
1の最大電圧は、1026Vである。つまり、通常運転電圧と比べて4.4倍の電圧が第1コイルU
1に印加されている。印加波形の立ち上がり時間が短くなり、または、ケーブル長が長くなると、第1コイルU
1の最大電圧は、さらに上昇する。
【0043】
コイルが乱巻きの低圧モータでは、第1コイルの最初ターンと最終ターンの電圧差が最も大きい。両者が接する場合は、部分放電が発生する可能性が最も高くなる最悪条件である。コイルの製作過程により第1コイルの最初ターンと最終ターン間の離隔距離が大きい場合に、部分放電が発生しにくい。また、最初ターンと最終ターンが接する場合、必ず部分放電が発生するわけではなく、雰囲気湿度、コイルの材料および絶縁厚などによって、部分放電が発生しないこともある。
【0044】
図7は、部分放電開始電圧(PDIV)と湿度との関係を例示する図である。湿度が高い環境下で部分放電が発生しやすく、さらにサージ電圧の抑制が必要となる。
図8は、PDIVとコイル絶縁被膜厚さとの関係を例示する図である。絶縁被膜が厚いほどPDIVが上昇する特徴である。
【0045】
図9は、リアクトルが介在する場合の、各コイルの分担電圧の解析用モデルを示す図である。
図10は、インバータとモータの間にリアクトルが介在する場合、第1コイルの分担電圧の変化を、
図9の解析用モデルを用いて解析した結果を示す。
図10は、第1コイルの分担電圧とリアクトルのインダクタンスとの関係を例示する図である。
図10の横軸は、(リアクトルのインダクタンス)/(モータの巻線のインダクタンス)を表す。
【0046】
図11は、リアクトルの有無による第1コイルの電圧波形を示す図である。
図12は、
図11に示す点線枠の拡大波形を示す図である。
図11及び
図12において、"インダクタンスが1/5のリアクトル"とは、(リアクトルのインダクタンス)/(モータの巻線のインダクタンス)=1/5の場合を示す。
【0047】
図9-12によると、リアクトルのインダクタンスが上昇するほど、第1コイルの分担電圧が低減する傾向にあるが、運転電圧も低下する傾向にあり(インダクタンスが1/5の場合:230Vから218Vに低下)、モータの出力効率が低下する。よって、過剰なリアクトルの投入を防止する必要がある。
【0048】
モータ駆動システム100によれば、過剰なリアクトルが追加されないので、部分放電の発生時に適切なリアクトルのインダクタンスで第1コイルの分担電圧が抑制され、部分放電の発生が抑制される。第2コイル及び第3コイルの分担電圧がほとんど変化しないことは、解析で確認済である。
【0049】
図13は、フィルタ13が無い場合の部分放電信号の電圧波形を示す図である。
図14は、フィルタ13にハイパスフィルタを用いた場合の部分放電信号の電圧波形を示す図である。
図14は、700MHz以下のノイズを減衰するハイパスフィルタと接続したアンテナ(検出帯域700MHz~2.5GHz)を利用するセンサ7によって部分放電が検出される場合を示す。アンテナの感度は、100pC以下であることが望ましい。アンテナから取得した部分放電信号は、制御部8に入力され、制御部8の機械機構により可変リアクトル6のインダクタンスが増加する。制御部8は、部分放電信号が閾値(例えば、環境のノイズの1.5倍以下)以下になるまで可変リアクトル6のインダクタンスを上昇させる。本制御により、可変リアクトル6のインダクタンスが過大にならずに部分放電の抑制が可能となる。
【0050】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
1 交流電源
2 整流器
3 コンデンサ
4 インバータ
4u,4v,4w 出力端子
5 モータ
5u,5v,5w モータ端子
6 可変リアクトル
7 センサ
8 制御部
9,9u,9v,9w 配線
10 電力変換装置
11 インダクタンス調整装置
12 中性点
13 フィルタ
15u,15v,15w 巻線
100 モータ駆動システム