IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-積層コイル部品 図1
  • 特開-積層コイル部品 図2
  • 特開-積層コイル部品 図3
  • 特開-積層コイル部品 図4
  • 特開-積層コイル部品 図5
  • 特開-積層コイル部品 図6
  • 特開-積層コイル部品 図7
  • 特開-積層コイル部品 図8
  • 特開-積層コイル部品 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103725
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】積層コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20240725BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20240725BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/00 D
H01F27/29 123
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090611
(22)【出願日】2024-06-04
(62)【分割の表示】P 2020167762の分割
【原出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】永井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝志
(72)【発明者】
【氏名】海老名 和広
(72)【発明者】
【氏名】川崎 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】安田 渓斗
(72)【発明者】
【氏名】和田 龍一
(72)【発明者】
【氏名】森田 誠
(72)【発明者】
【氏名】工藤 孝潔
(72)【発明者】
【氏名】殿山 恭平
(57)【要約】
【課題】クラックによるコイルの断線を抑制できる積層コイル部品を提供する。
【解決手段】積層コイル部品1では、素体2内の複数の金属磁性粒子M,M間には、樹脂Rによる充填部分V1と、樹脂Rによる充填のない空隙部分V2とが存在し、素体2における主面2bの一方は、外部電子部品に対する実装面Pとなっていると共に、実装面Pには、外部電極4の縁4eが位置しており、素体2内には、空隙部分V2による空隙率が素体2内の他の部分の空隙率よりも高い高空隙領域Fが、実装面Pにおける外部電極4の縁4eから素体2の端面2aに向かって延びている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属磁性粒子を含む素体と、
前記素体内に配置されたコイルと、
前記素体の端面を覆うように配置され、前記コイルと電気的に接続された外部電極と、を備え、
前記素体において、前記複数の金属磁性粒子間には、樹脂による充填部分と、前記樹脂による充填のない空隙部分とが存在し、
前記素体における前記端面を除く一面は、外部電子部品に対する実装面となっていると共に、前記実装面には、前記外部電極の縁が位置しており、
前記素体内には、前記空隙部分による空隙率が前記素体内の他の部分の空隙率よりも高い高空隙領域が、前記実装面における前記外部電極の縁から前記素体の端面に向かって延びており、
前記実装面からの前記高空隙領域の形成深さは、前記外部電極の縁から前記端面に向かうにつれて徐々に小さくなっている積層コイル部品。
【請求項2】
複数の金属磁性粒子を含む素体と、
前記素体内に配置されたコイルと、
前記素体の端面を覆うように配置され、前記コイルと電気的に接続された外部電極と、を備え、
前記素体において、前記複数の金属磁性粒子間には、樹脂による充填部分と、前記樹脂による充填のない空隙部分とが存在し、
前記素体における前記端面を除く一面は、外部電子部品に対する実装面となっていると共に、前記実装面には、前記外部電極の縁が位置しており、
前記素体内には、前記空隙部分による空隙率が前記素体内の他の部分の空隙率よりも高い高空隙領域が、前記実装面における前記外部電極の縁から前記素体の端面に向かって延びており、
前記外部電極の縁が位置する部分の前記実装面からの前記高空隙領域の形成深さは、前記外部電極の縁が位置しない部分の前記実装面からの前記高空隙領域の形成深さよりも大きくなっている積層コイル部品。
【請求項3】
前記外部電極は、焼付電極である請求項1又は2記載の積層コイル部品。
【請求項4】
前記高空隙領域は、前記素体の前記端面まで延びている請求項1~3のいずれか一項記載の積層コイル部品。
【請求項5】
前記高空隙領域は、前記コイルと離間している請求項1~4のいずれか一項記載の積層コイル部品。
【請求項6】
前記高空隙領域は、前記素体における前記端面と反対側の端面に向かって延びる部分を有している請求項1~5のいずれか一項記載の積層コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の積層コイル部品として、例えば特許文献1に記載のコイル部品がある。この従来のコイル部品の素体には、軟磁性合金からなる複数の金属粒子が含まれている。金属粒子の集積により生じた空隙の少なくとも一部には、樹脂材料が充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-238841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層コイル部品は、例えば素体の端部に設けられた外部電極を基板側のランドにはんだ接合することにより、基板に対して実装される。実装後の積層コイル部品には、基板の撓みなどにより応力が生じ得る。過剰な応力が積層コイル部品に付加されると、素体にクラックが生じることがある。素体内部にクラックが進行し、素体内のコイルにクラックが到達すると、コイルが断線してしまうおそれがある。
【0005】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、クラックによるコイルの断線を抑制できる積層コイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る積層コイル部品は、複数の金属磁性粒子を含む素体と、素体内に配置されたコイルと、素体の端面を覆うように配置され、コイルと電気的に接続された外部電極と、を備え、素体において、複数の金属磁性粒子間には、樹脂による充填部分と、樹脂による充填のない空隙部分とが存在し、素体における端面を除く一面は、外部電子部品に対する実装面となっていると共に、実装面には、外部電極の縁が位置しており、素体内には、空隙部分による空隙率が素体内の他の部分の空隙率よりも高い高空隙領域が、実装面における外部電極の縁から素体の端面に向かって延びている。
【0007】
この積層コイル部品では、高空隙領域が実装面における外部電極の縁から素体の端面に向かって延びている。実装面における外部電極の縁は、素体に過剰に応力が生じた際のクラックの起点になり得る箇所である。高空隙領域では、空隙率の高さが素体の他の部分の空隙率よりも高いため、素体の強度が相対的に低くなっている。したがって、素体にクラックが生じた場合、クラックの進行方向は、高空隙領域によって起点から素体の端面に向かってガイドされる。クラックの進行方向を素体の端面に向けてガイドすることで、クラックが素体内のコイルに到達する可能性を下げることが可能となり、クラックによるコイルの断線を抑制できる。
【0008】
外部電極は、焼付電極であってもよい。この場合、クラックの進行方向を素体の端面に向けてより確実にガイドできる。したがって、クラックが素体内のコイルに到達する可能性を一層下げることができる。
【0009】
高空隙領域は、素体の端面まで延びていてもよい。クラックの進行方向を素体の端面に向けてより確実にガイドできる。したがって、クラックが素体内のコイルに到達する可能性を一層下げることができる。
【0010】
高空隙領域は、コイルと離間していてもよい。これにより、クラックが素体内のコイルに到達する可能性を一層下げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、クラックによるコイルの断線を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】積層コイル部品の一実施形態を示す斜視図である。
図2図1に示した積層コイル部品の断面構成を示す図である。
図3】コイルの構成を示す斜視図である。
図4】素体内部の断面構成を拡大して示す概略的な図である。
図5】素体における高空隙領域の配置態様を示す概略的な断面図である。
図6】高空隙領域の断面構成を拡大して示す概略的な図である。
図7】高空隙領域が設けられていない比較例の積層コイル部品におけるクラックの進行の様子を示す概略的な断面図である。
図8】高空隙領域が設けられた実施例の積層コイル部品におけるクラックの進行の様子を示す概略的な断面図である。
図9】変形例に係る積層コイル部品の断面構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る積層コイル部品の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1図3を参照して、本実施形態に係る積層コイル部品1の構成を説明する。図1は、積層コイル部品の一実施形態を示す斜視図である。図2は、図1に示した積層コイル部品の断面構成を示す図である。図3は、コイルの構成を示す斜視図である。
【0015】
図1に示すように、積層コイル部品1は、直方体形状をなす素体2と、一対の外部電極4,4とを備えている。一対の外部電極4,4は、素体2の両端部にそれぞれ配置され、互いに離間している。直方体形状には、角部及び稜線部が面取りされた直方体形状、及び角部及び稜線部が丸められた直方体形状が含まれる。積層コイル部品1は、例えばビーズインダクタ又はパワーインダクタに適用できる。
【0016】
直方体形状をなす素体2は、互いに対向する一対の端面2a,2a、互いに対向する一対の主面2b,2bと、互いに対向する一対の側面2c,2cを有している。端面2a,2aは、一対の主面2b,2bと隣り合うように位置している。端面2a,2aは、一対の側面2c,2cとも隣り合うように位置している。主面2bの一方(図1における底面)は、実装面Pとなっている。実装面Pは、積層コイル部品1を他の電子機器(回路基板、電子部品等)に実装する際に、当該他の電子機器と対向する面である。
【0017】
本実施形態では、一対の端面2a,2aの対向方向(第1方向D1)を素体2の長さ方向とする。一対の主面2b,2bの対向方向(第2方向D2)を素体2の高さ方向とする。一対の側面2c,2cの対向方向(第3方向D3)を素体2の幅方向とする。第1方向D1、第2方向D2、及び第3方向D3は、互いに直交している。
【0018】
第1方向D1における素体2の長さは、第2方向D2及び第3方向D3における素体2の長さよりも大きくなっている。第2方向D2における素体2の長さは、第3方向D3における素体2の長さと同等になっている。すなわち、本実施形態では、一対の端面2a,2aは、正方形状をなし、一対の主面2b,2b及び一対の側面2c,2cは、長方形状をなしている。
【0019】
第1方向D1における素体2の長さは、第2方向D2及び第3方向D3における素体2の長さと同等であってもよい。第2方向D2における素体2の長さは、第3方向D3における素体2の長さと異なっていてもよい。同等とは、等しいことに加えて、予め設定した範囲での微差又は製造誤差などを含む。例えば複数の値が当該複数の値の平均値の±5%の範囲内に含まれているのであれば、これらの値が同等であると見做してよい。
【0020】
一対の端面2a,2aは、一対の主面2b,2bを連結するように第2方向D2に延在している。一対の端面2a,2aは、一対の側面2c,2cを連結するように第3方向D3にも延在している。一対の主面2b,2bは、一対の端面2a,2aを連結するように第1方向D1に延在している。一対の主面2b,2bは、一対の側面2c,2cを連結するように第3方向D3にも延在している。一対の側面2c,2cは、一対の端面2a,2aを連結するように第1方向D1に延在している。一対の側面2c,2cは、一対の主面2b,2bを連結するように第2方向D2にも延在している。
【0021】
素体2は、複数の磁性体層11(図3参照)が積層されることによって構成されている。各磁性体層11は、主面2b,2bの対向方向に積層されている。すなわち、各磁性体層11の積層方向は、主面2b,2bの対向方向と一致している(以下、主面2b,2bの対向方向を「積層方向」と称す)。各磁性体層11は、略矩形状をなしている。実際の素体2では、各磁性体層11は、その層間の境界が視認できない程度に一体化されている。
【0022】
素体2内には、図2及び図3に示すように、コイル15が配置されている。コイル15は、複数のコイル導体16a~16fを含んでいる。複数のコイル導体16a~16fは、導電材(例えばAg又はPdなど)を含んでいる。複数のコイル導体16a~16fは、導電性材料(例えばAg粉末又はPd粉末など)を含む導電性ペーストの焼結体として構成されている。
【0023】
コイル導体16aは、接続導体17を含んでいる。接続導体17は、素体2の一方の端面2a側に配置されていると共に、一方の端面2aに露出する端部を有している。接続導体17の端部は、一方の端面2aにおいて、一方の主面2b寄りの位置に露出し、一方の外部電極4に接続されている。すなわち、コイル15は、接続導体17を介して一方の外部電極4と電気的に接続されている。本実施形態においては、コイル導体16aの導体パターンと接続導体17の導体パターンとは、一体に連続して形成されている。
【0024】
コイル導体16fは、接続導体18を含んでいる。接続導体18は、素体2の他方の端面2a側に配置されていると共に、他方の端面2aに露出する端部を有している。接続導体18の端部は、他方の端面2aにおいて、他方の主面2b寄りの位置に露出し、他方の外部電極4に接続されている。すなわち、コイル15は、接続導体18を介して他方の外部電極4と電気的に接続されている。本実施形態においては、コイル導体16fの導体パターンと接続導体18の導体パターンとは、一体に連続して形成されている。
【0025】
複数のコイル導体16a~16fは、素体2内において磁性体層11の積層方向に形成されている。複数のコイル導体16a~16fは、コイル導体16a、コイル導体16b、コイル導体16c、コイル導体16d、コイル導体16e、コイル導体16fの順に並んでいる。本実施形態では、コイル15は、コイル導体16aにおける接続導体17以外の部分、複数のコイル導体16b~16d、及びコイル導体16fにおける接続導体18以外の部分によって構成されている。
【0026】
コイル導体16a~16fの端部同士は、スルーホール導体19a~19eにより接続されている。スルーホール導体19a~19eにより、コイル導体16a~16fは、相互に電気的に接続されている。コイル15は、複数のコイル導体16a~16fが電気的に接続されて構成されている。各スルーホール導体19a~19eは、導電材(例えばAg又はPdなど)を含んでいる。各スルーホール導体19a~19eは、複数のコイル導体16a~16fと同様に、導電性材料(例えばAg粉末又はPd粉末など)を含む導電性ペーストの焼結体として構成されている。
【0027】
外部電極4は、素体2における端面2a側の端部を覆うように配置されている。外部電極4は、図1に示すように、端面2aを覆う電極部分4a、一対の主面2b,2bに張り出す電極部分4b,4b、及び一対の側面2c,2cに張り出す電極部分4c,4cを有している。すなわち、外部電極4は、電極部分4a,4b,4cによる5つの面で形成されている。
【0028】
電極部分4aは、端面2aに露出した接続導体17,18の端部の全体を覆うように配置されており、接続導体17,18は、外部電極4に対して直接的に接続されている。すなわち、接続導体17,18は、コイル15の端部と電極部分4aとを接続している。これにより、コイル15は、外部電極4に電気的に接続されている。
【0029】
互いに隣り合う電極部分4a,4b,4c同士は、素体2の稜線部において連続し、電気的に接続されている。電極部分4aと電極部分4bとは、端面2aと主面2bとの間の稜線部において接続されている。電極部分4aと電極部分4cとは、端面2aと側面2cとの間の稜線部において接続されている。
【0030】
外部電極4は、導電性材料を含んで構成されている。導電性材料は、例えばAg又はPdである。外部電極4は、焼付電極であり、導電性ペーストの焼結体として構成されている。導電性ペーストは、導電性金属粉末及びガラスフリットを含んでいる。導電性金属粉末は、例えばAg粉末又はPd粉末である。外部電極4の表面には、めっき層が形成されている。めっき層は、例えば電気めっきにより形成される。電気めっきは、例えば電気Niめっき又は電気Snめっきである。
【0031】
次に、上述した素体2の構成について更に詳細に説明する。
【0032】
図4は、素体内部の断面構成を拡大して示す概略的な図である。同図に示すように、素体2は、複数の金属磁性粒子Mを含んでいる。金属磁性粒子Mは、例えば軟磁性合金から構成される。軟磁性合金は、例えばFe-Si系合金である。軟磁性合金がFe-Si系合金である場合、軟磁性合金は、Pを含んでいてもよい。軟磁性合金は、例えばFe-Ni-Si-M系合金であってもよい。「M」は、Co、Cr、Mn、P、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、B、Al、及び希土類元素から選択される一種以上の元素を含む。
【0033】
素体2では、金属磁性粒子M,M同士が結合している。金属磁性粒子M,M同士の結合は、例えば金属磁性粒子Mの表面に形成される酸化膜同士の結合によって実現されている。金属磁性粒子Mの平均粒子径は、例えば0.5μm~15μmとなっている。本実施形態では、金属磁性粒子Mの平均粒子径は、5μmとなっている。「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0034】
素体2は、図4に示すように、樹脂Rを含んでいる。樹脂Rは、複数の金属磁性粒子M,M間に存在している。樹脂Rは、電気絶縁性を有する樹脂である。樹脂Rとしては、例えばシリコーン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が用いられる。樹脂Rは、素体2内における複数の金属磁性粒子M,M間を完全に充填していない。このため、素体2において、複数の金属磁性粒子M,M間には、樹脂Rによる充填部分V1と、樹脂Rによる充填のない空隙部分V2とが存在している。
【0035】
素体2内には、空隙部分V2による空隙率が素体2内の他の部分の空隙率よりも高い高空隙領域Fが設けられている。高空隙領域Fは、図5に示すように、実装面Pにおける外部電極4の縁4eから素体2の端面2aに向かって延びている。外部電極4の縁4eは、一対の主面2b,2bの一方である実装面Pに張り出す電極部分4bの先端である。高空隙領域Fは、実装面Pにおいて外部電極4の縁4eが接触する部分を含み、当該部分から第1方向D1に延び、素体2の端面2aに到達するように延びている。本実施形態では、高空隙領域Fは、実装面Pにおいて外部電極4に接触する部分も含むように延びている。したがって、高空隙領域Fは、端面2aと実装面Pとがなす角部に到達するように延びている。図5では、一方の外部電極4側を拡大して示しているが、他方の外部電極4側においても同様の構成となっている。
【0036】
実装面Pからの高空隙領域Fの形成深さは、実装面Pから最も実装面Pに近いコイル導体16fまでの第2方向D2の距離よりも小さくなっている。これにより、高空隙領域Fは、素体2内のコイル15と離間した状態となっている。実装面Pからの高空隙領域Fの形成深さは、第1方向D1について一定となっていてもよく、外部電極4の縁4eから端面2aに向かうにつれて徐々に小さくなっていてもよい。実装面Pからの高空隙領域Fの形成深さは、外部電極4の縁4eから端面2aに向かうにつれて徐々に大きくなっていてもよい。
【0037】
高空隙領域Fは、図6に示すように、樹脂Rが複数の金属磁性粒子M,M間に存在している点では、素体2の他の部分と同様である。また、複数の金属磁性粒子M,M間の少なくとも一部に空隙部分V2が存在している点も、素体2の他の部分と同様である。一方、素体2の他の部分における空隙率は、例えば10%未満であるのに対し、高空隙領域Fにおける空隙率は、30%前後となっている。空隙率は、例えば素体2の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で3000倍に拡大し、素体2の断面の面積に対する空隙部分V2の面積の比を求めることで算出できる。
【0038】
高空隙領域Fは、素体2にクラックが生じた場合に、クラックの進行方向をガイドする作用を奏する。図7は、高空隙領域が設けられていない比較例の積層コイル部品におけるクラックの進行の様子を示す概略的な断面図である。同図に示すように、比較例に係る積層コイル部品101は、素体102に高空隙領域Fが設けられていない点で実施例に係る積層コイル部品1と異なっている。積層コイル部品101では、素体102の全体にわたって空隙率が10%未満となっている。積層コイル部品1は、基板51側のランド52と外部電極104とをはんだ53によって接合することにより、基板51に実装されている。
【0039】
実装後の積層コイル部品101には、基板51の撓みなどにより応力が生じ得る。過剰な応力が積層コイル部品101に付加されると、素体102にクラックKが生じることがある。このとき、実装面Pにおける外部電極104の縁104eは、素体102に過剰に応力が生じた際のクラックKの起点になり得る。素体102に高空隙領域Fが設けられていない積層コイル部品101では、素体102におけるクラックKの進行方向の予測は困難である。図7に示すように、クラックKが起点から第2方向D2に進行すると、素体102内のコイル15にクラックKが到達し、コイル115が断線してしまうことが考えられる。
【0040】
これに対し、素体2に高空隙領域Fが設けられた積層コイル部品1では、高空隙領域Fにおいて素体2の強度が素体2の他の部分よりも相対的に低くなっている。このため、積層コイル部品1では、素体2にクラックKが生じた場合、図8に示すように、クラックKの進行方向が高空隙領域Fによって起点から素体2の端面2aに向かってガイドされる。クラックKの進行方向を外部電極4が設けられた素体2の端面2aに向けてガイドすることで、クラックKが素体2内のコイル15に到達する可能性を下げることが可能となり、クラックKによるコイルの断線を抑制できる。
【0041】
本実施形態では、外部電極4が焼付電極となっている。これにより、クラックKの進行方向を外部電極4が設けられた素体2の端面2aに向けてより確実にガイドできる。本実施形態では、高空隙領域Fが素体2の端面2aまで延びている。これにより、クラックKの進行方向を素体2の端面2aまでより確実にガイドできる。したがって、クラックKが素体2内のコイル15に到達する可能性を一層下げることができる。本実施形態では、高空隙領域Fがコイル15と離間している。これにより、クラックKの進行方向がコイル15に向いてしまうことを回避でき、クラックKが素体内のコイル15に到達する可能性を一層下げることができる。
【0042】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば高空隙領域Fは、外部電極4の縁4eから素体2の中央側(端面2aの反対側)に向かって第1方向D1に延びる部分を有していてもよい(図5参照)。当該部分での実装面Pからの高空隙領域Fの形成深さは、外部電極4の縁から素体2の端面2aに向かって延びる高空隙領域Fの形成深さと等しくてもよく、外部電極4の縁4eから離れるにしたがって徐々に小さくなっていてもよい。
【0043】
高空隙領域Fは、外部電極4の縁4eから素体2の端面2aに向かって延びている部分を有していればよく、必ずしも端面2aまで延びていなくてもよい。外部電極4は、焼付電極に限られず、樹脂電極であってもよい。樹脂電極は、熱硬化性樹脂に導体粉末及び有機溶媒などを混合することによって構成された電極である。熱硬化性樹脂としては、例えばシリコーン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などが用いられる。導体粉末としては、例えばAg粉末などが用いられる。
【0044】
磁性体層11において、複数の金属磁性粒子M,M間の少なくとも一部に、金属磁性粒子Mよりも小径の非磁性セラミック粒子が存在していてもよい。
【0045】
上記実施形態では、素体2において主面2bが実装面Pとなっており、磁性体層11の積層方向と実装面Pの法線方向とが一致しているが、例えば図9に示すように、磁性体層の積層方向と実装面の法線方向が交差(直交)する態様であってもよい。図9に示す積層コイル部品61では、素体62の端面62a,62aを覆うように外部電極64がそれぞれ設けられており、磁性体層の積層方向は、素体62の端面62a,62aを結ぶ方向と一致している。すなわち、積層コイル部品61では、素体62内のコイル75の形成方向は、素体62の端面62a,62aを結ぶ方向と一致し、実装面Pの法線方向と直交している。このような積層コイル部品61においても、実装面Pにおける外部電極64の縁64eから素体62の端面62aに向かって延びる高空隙領域Fを設けることにより、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。
【符号の説明】
【0046】
1…積層コイル部品、2…素体、2a…端面、4…外部電極、4e…縁、15…コイル、F…高空隙領域、M…金属磁性粒子、P…実装面、V1…充填部分、V2…空隙部分、K…クラック。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9