(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103728
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】メンブレンリアクタ
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20240725BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240725BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240725BHJP
C10L 1/04 20060101ALI20240725BHJP
C10G 2/00 20060101ALI20240725BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D69/10
B01D69/12
C10L1/04
C10G2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090760
(22)【出願日】2024-06-04
(62)【分割の表示】P 2022576843の分割
【原出願日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021095823
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】菅 博史
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 淳史
(72)【発明者】
【氏名】飯田 和希
(57)【要約】
【課題】分離膜のクラックを抑制可能なメンブレンリアクタを提供する。
【解決手段】メンブレンリアクタ1は、触媒層21と、分離膜3と、緩衝層22とを備える。触媒層21は、水素及び酸化炭素を含有する原料ガスから液体燃料への転化反応を進行させる触媒を含む。分離膜3は、転化反応の副生成物である水蒸気を透過させる。緩衝層22は、分離膜3と触媒層21との間に配置され、水蒸気を分離膜3側に通過させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素及び酸化炭素を含有する原料ガスから液体燃料への転化反応を進行させる触媒を含む触媒層と、
前記転化反応の副生成物である水蒸気を透過させる分離膜と、
前記分離膜と前記触媒層との間に配置され、前記水蒸気を前記分離膜側に通過させる緩衝層と、
を備えるメンブレンリアクタ。
【請求項2】
水素及び酸化炭素を含有する原料ガスから液体燃料への転化反応を進行させる触媒を含む触媒層と、
前記液体燃料を透過させる分離膜と、
前記分離膜と前記触媒層との間に配置され、前記液体燃料を前記分離膜側に通過させる緩衝層と、
を備えるメンブレンリアクタ。
【請求項3】
前記緩衝層及び前記触媒層は、前記分離膜の非透過側に配置され、前記分離膜を支持する多孔質基材を構成する、
請求項1又は2に記載のメンブレンリアクタ。
【請求項4】
前記触媒層は、前記触媒と多孔質材料とによって構成され、
前記緩衝層は、多孔質材料によって構成される、
請求項3に記載のメンブレンリアクタ。
【請求項5】
前記分離膜の透過側に配置され、前記分離膜を支持する多孔質基材をさらに備える、
請求項1又は2に記載のメンブレンリアクタ。
【請求項6】
前記触媒層は、前記触媒と前記緩衝層の構成材料とによって構成される、
請求項5に記載のメンブレンリアクタ。
【請求項7】
前記緩衝層は、前記触媒層と接触する接触面を有し、
前記接触面の表面粗さRaは、1μm以上である、
請求項4又は5に記載のメンブレンリアクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンブレンリアクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素及び酸化炭素(一酸化炭素、二酸化炭素など)を含有する原料ガスから液体燃料(メタノールなどの常温常圧で液体状態の燃料)への転化反応において、副生成物である水蒸気を分離することによって転化効率を向上させることのできるメンブレンリアクタが開発されている。
【0003】
特許文献1には、二酸化炭素及び水素を含有する原料ガスからメタノールへの転化反応を進行させる触媒と、転化反応の副生成物である水蒸気を透過させる分離膜とを備えるメンブレンリアクタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のメンブレンリアクタでは、触媒が分離膜と直接接触しているため、触媒が反応熱で加熱すると、触媒との接触点を起点としたクラックが分離膜に生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、分離膜のクラックを抑制可能なメンブレンリアクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るメンブレンリアクタは、触媒層と、分離膜と、緩衝層とを備える。触媒層は、水素及び酸化炭素を含有する原料ガスから液体燃料への転化反応を進行させる触媒を含む。分離膜は、転化反応の副生成物である水蒸気を透過させる。緩衝層は、分離膜と触媒層との間に配置され、水蒸気を分離膜側に通過させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分離膜のクラックを抑制可能なメンブレンリアクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。
【0011】
(メンブレンリアクタ1)
図1は、メンブレンリアクタ1の斜視図である。
図1では、メンブレンリアクタ1の断面構造が部分的に示されている。
【0012】
メンブレンリアクタ1は、原料ガスを液体燃料へ転化させるために用いられる。原料ガスは、水素及び酸化炭素を含有する。酸化炭素としては、例えば一酸化炭素、二酸化炭素、及びこれらの混合物が挙げられる。液体燃料は、常温常圧で液体状態の燃料であればよく、例えばメタノール、エタノール、CnH2(m-2n)(m、nは30未満の整数)で表される液体燃料、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0013】
例えば、一酸化炭素、二酸化炭素および水素を含む原料ガスを触媒存在下で接触水素化することによってメタノールを合成する際の反応式は、次の通りである。
【0014】
CO+2H2 ⇔ CH3OH (1)
CO2+3H2 ⇔ CH3OH+H2O (2)
CO2+H2 ⇔ CO+H2O (3)
【0015】
上記反応はいずれも平衡反応であり、転化率及び反応速度の両方を高めるには高温高圧下(例えば、200℃以上、2MPa以上)で反応させることが好ましい。液体燃料は、合成された時点で気体状態であり、少なくともメンブレンリアクタ1から流出するまでの間は気体状態のまま維持される。メンブレンリアクタ1は、液体燃料の製造条件に応じた耐熱性及び耐圧性を有することが好ましい。
【0016】
本実施形態に係るメンブレンリアクタ1は、原料ガスから液体燃料への転化反応の副生成物である水蒸気を分離することによって、平衡シフト効果を利用して転化効率を更に高めることができる。平衡シフト効果を利用するによって、上記式(1)~(3)の反応平衡を生成物側にシフトさせることができる。
【0017】
メンブレンリアクタ1は、多孔質基材2、分離膜3、第1シール部4及び第2シール部5を有する。
【0018】
多孔質基材2は、長手方向に延びるモノリス形状を有する。モノリス形状とは、長手方向に貫通した複数のセルを有する形状を意味し、ハニカム形状を含む概念である。
【0019】
本実施形態において多孔質基材2は円柱状に形成されているが、多孔質基材2の形状は特に限られない。多孔質基材2のサイズは特に限られないが、例えば長さ150以上2000mm以下、幅30以上220mm以下とすることができる。
【0020】
多孔質基材2は、3列に並んだ非透過側セルC1、7列に並んだ透過側セルC2、3本の供給スリットS1及び3本の排出スリットS2を内部に有する。
【0021】
各非透過側セルC1の長手方向両端は、目封止部2aによって封止されている。各透過側セルC2の長手方向両端は、第1シール部4及び第2シール部5それぞれに開口する。
【0022】
各供給スリットS1は、各列の非透過側セルC1を貫通するように形成される。各供給スリットS1は、長手方向における多孔質基材2の一端部側に配置される。各排出スリットS2は、各列の非透過側セルC1を貫通するように形成される。各排出スリットS2は、長手方向における多孔質基材2の他端部側に配置される。
【0023】
原料ガスは、各供給スリットS1を介して各列の非透過側セルC1に供給される。非透過側セルC1に供給された原料ガスは、後述する触媒層21に含まれる触媒によって液体燃料へ転化される。生成された液体燃料は、各排出スリットS2を介して各列の非透過側セルC1から排出される。
【0024】
分離膜3は、各透過側セルC2の内表面に形成される。分離膜3は、転化反応の副生成物である水蒸気を透過させる。分離膜3は、1000nmol/(s・Pa・m2)以上の水蒸気透過係数を有することが好ましい。水蒸気透過係数が大きいほど、触媒層21において生成された水蒸気を透過側セルC2に移動させられるため、上記式(2),(3)の反応平衡が生成物側にシフトして、より穏やかな製造条件で高い反応効率を得ることができる。水蒸気透過係数は、既知の方法(Ind.Eng.Chem.Res.,40,163-175(2001)参照)で求めることができる。
【0025】
分離膜3は、水蒸気以外の成分(すなわち、水素、酸化炭素及び液体燃料)を透過しないことが好ましい。具体的には、分離膜3は、1000以上の分離係数を有することが好ましい。分離係数が大きいほど、水蒸気を透過しやすく、かつ水蒸気以外の成分を透過させにくい。分離係数は、既知の方法(「Separation and Purification Technology 239 (2020) 116533」のFig.1参照)で求めることができる。
【0026】
分離膜3としては、無機膜を用いることができる。無機膜は、耐熱性、耐圧性、耐水蒸気性を有するため好ましい。無機膜としては、ゼオライト膜、シリカ膜、アルミナ膜、これらの複合膜などが挙げられる。特に、シリコン元素(Si)とアルミニウム元素(Al)とのモル比(Si/Al)が50以下のゼオライト膜は、水蒸気透過性に優れているため好適である。
【0027】
分離膜3を透過して透過側セルC2に流入した水蒸気は、第1シール部4及び第2シール部5それぞれの開口から排出される。或いは、第1シール部4の開口から掃引ガスを供給することによって、水蒸気を掃引ガスとともに第2シール部5の開口から排出してもよい。掃引ガスとしては、例えば、窒素や空気などを用いることができる。
【0028】
第1シール部4及び第2シール部5は、透過側セルC2から排出された水蒸気が多孔質基材2に浸潤しないよう多孔質基材2の両端面を覆う。ただし、第1シール部4及び第2シール部5それぞれは、透過側セルC2の両端を被覆していない。第1シール部4及び第2シール部5は、ガラス、金属、ゴム、樹脂などによって構成することができる。
【0029】
(多孔質基材2)
図2は、
図1のA-A断面図である。
【0030】
多孔質基材2は、分離膜3を支持する。多孔質基材2は、触媒層21及び緩衝層22を有する。本実施形態において、触媒層21及び緩衝層22は、分離膜3の非透過側に配置される。
【0031】
触媒層21は、多孔質材料と、上述した転化反応を進行させる触媒とによって構成される多孔体である。
【0032】
触媒層21の平均細孔径は、5μm以上25μm以下とすることができる。触媒層21の平均細孔径は、水銀圧入法によって測定することができる。触媒層21の気孔率は、25%以上50%以下とすることができる。触媒層21を構成する多孔質材料の平均粒径は、1μm以上100μm以下とすることができる。本実施形態において、平均粒径とは、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いた断面微構造観察によって測定される30個の測定対象粒子(無作為選択)の最大直径の算術平均値である。
【0033】
多孔質材料としては、セラミック材料、金属材料、樹脂材料などを用いることができ、特にセラミック材料が好適である。セラミック材料の骨材としては、アルミナ(Al2O3)、チタニア(TiO2)、ムライト(Al2O3・SiO2)、セルベン及びコージェライト(Mg2Al4Si5O18)などを用いることができ、入手容易性、坏土安定性及び耐食性を考慮するとアルミナが好適である。セラミック材料の無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも一つを用いることができる。ただし、セラミック材料は、無機結合材を含んでいなくてもよい。
【0034】
触媒は、原料ガスから液体燃料への転化反応を進行させる。触媒は、多孔質材料の細孔内に配置される。触媒は、細孔の内表面に担持されていてもよい。或いは、触媒を担持する担体が細孔の内表面に付着していてもよい。
【0035】
触媒は、所望の液体燃料への転化反応に適した既知の触媒を用いればよい。具体的には、金属触媒(銅、パラジウムなど)、酸化物触媒(酸化亜鉛、ジルコニア、酸化ガリウムなど)、及び、これらを複合化した触媒(銅-酸化亜鉛、銅-酸化亜鉛-アルミナ、銅-酸化亜鉛-酸化クロム-アルミナ、銅-コバルト-チタニア、及びこれらにパラジウムを修飾した触媒など)を用いることができる。
【0036】
触媒層21は、非透過側セルC1と透過側セルC2との間に配置される。一方、透過側セルC2同士の間には、支持層21aが配置される。支持層21aは、触媒層21から触媒を取り除いた構成を有する。
【0037】
緩衝層22は、分離膜3と触媒層21との間に配置される。緩衝層22は、触媒層21に含まれる触媒を分離膜3と直接接触させないために設けられている。触媒と分離膜3とを緩衝層22によって物理的に隔離することにより、触媒が反応熱で加熱されたとしても、分離膜3に触媒との接触点を起点としたクラックが生じることを抑制できる。
【0038】
緩衝層22は、分離膜3と触媒層21との間の少なくとも一部に介挿されていればよいが、分離膜3と触媒層21との間の略全体に介挿されていることが好ましい。
【0039】
緩衝層22は、触媒層21の内表面上に配置される。緩衝層22は、筒状に形成される。緩衝層22は、分離膜3の担体(下地層)としても機能する。
【0040】
緩衝層22は、触媒層21と同様の多孔質材料によって構成することができ、特にセラミック材料が好適である。セラミック材料の骨材としては、アルミナ、チタニアの少なくとも一方を用いることが好ましい。緩衝層22は、触媒層21と同様の無機結合材を含んでいてもよい。
【0041】
緩衝層22の平均細孔径は、触媒層21の平均細孔径より小さいことが好ましく、例えば0.001μm以上2μm以下とすることができる。緩衝層22の平均細孔径は、パームポロメーターによって測定することができる。緩衝層22の気孔率は、20%以上60%以下とすることができる。緩衝層22を構成する多孔質材料の平均粒径は、触媒層21を構成する多孔質材料の平均粒径よりも小さいことが好ましく、例えば0.01μm以上20μm以下とすることができる。
【0042】
(メンブレンリアクタ1の製造方法)
まず、押出成形法、プレス成形法あるいは鋳込み成形法などにより、触媒層21に用いられる多孔質材料を成形することによって、モノリス形状の多孔質成形体を形成する。
【0043】
次に、ダイヤモンド切削具(バンドソー、ディスクカッター、ワイヤーソーなど)を用いて、多孔質成形体の両端面それぞれに供給スリットS1用のスリットと排出スリットS2用のスリットとを形成する。
【0044】
次に、形成したスリットに多孔質材料を充填することによって目封止部2aの成形体を形成した後、多孔質成形体を焼成(例えば、500℃~1500℃、0.5時間~80時間)することによって多孔体を形成する。
【0045】
次に、緩衝層22用の多孔質材料に焼結助剤、pH調整剤、界面活性剤などを添加して、緩衝層用スラリーを調製する。
【0046】
次に、多孔体の貫通孔に緩衝層用スラリーを流通させながら、濾過法によって貫通孔の内表面に緩衝層22の成形体を形成する。
【0047】
次に、緩衝層22の成形体を焼成(例えば、500℃~1450℃、0.5時間~80時間)することによって緩衝層22を形成する。
【0048】
次に、例えばガラス原料スラリーを多孔体の両端面に塗布して焼成(例えば、800~1000℃)することによって第1シール部4及び第2シール部5を形成する。
【0049】
次に、触媒層21用の触媒を有機溶媒に混合した触媒含有スラリーを調製して、触媒含有スラリーを供給スリットS1から供給しながら、濾過法によって非透過側セルC1の内表面に触媒含有スラリーを含浸させる。この際、PVA等により粘度を調整して触媒含有スラリーの含浸深さを制御することにより、触媒含有スラリーが緩衝層22まで含浸しないようにする。
【0050】
次に、多孔体に不活性雰囲気下で熱処理(例えば、N2気流中、50℃~200℃、0.5時間~80時間)を施すことによって、触媒を多孔質材料に担持させる。これによって、触媒層21が形成される。
【0051】
次に、緩衝層22の内表面に分離膜3を形成する。分離膜3の形成方法は、分離膜3の種類に応じた方法を適宜採用すればよい。例えば、分離膜3としてゼオライト膜を用いる場合には特開2004-66188号公報に記載の製法を採用でき、分離膜3としてシリカ膜を用いる場合には国際公開第2008/050812号パンフレットに記載の製法を採用できる。
【0052】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
(変形例1)
上記実施形態では、触媒層21が緩衝層22と直接接触することとしたが、触媒層21と緩衝層22との間には1層以上の中間層が介挿されていてもよい。
【0054】
中間層は、触媒層21に用いることのできる多孔質材料によって構成される。中間層の平均細孔径は、触媒層21の平均細孔径より小さいことが好ましく、例えば0.005μm以上5μm以下とすることができる。中間層の平均細孔径は、パームポロメーターによって測定することができる。中間層の気孔率は、例えば20%以上60%以下とすることができる。中間層の厚みは、例えば1μm以上300μm以下とすることができる。
【0055】
(変形例2)
上記実施形態では、メンブレンリアクタ1がモノリス状である場合について説明したが、メンブレンリアクタ1の形状は、例えば、平板状、管状、円筒状、円柱状、多角柱状などであってもよい。
【0056】
(変形例3)
上記実施形態では、多孔質基材2が分離膜3の非透過側に配置される構成について説明したが、これに限られない。
【0057】
例えば、
図3に示すように、多孔質基材6が分離膜3の透過側に配置されるとともに、緩衝層7及び触媒層8が分離膜3の非透過側に配置されてもよい。
【0058】
図3に示す構成では、触媒層8の内側が非透過側セルC1となり、多孔質基材6の内側が透過側セルC2となる。非透過側セルC1に供給される原料は、触媒層8において液体燃料へ転化されるとともに、副生成物である水蒸気が生成される。生成された水蒸気は、分離膜3を透過して透過側セルC2に流入し、スリットS1及びスリットS2から排出される。このように、本変形例における水蒸気流れは、上記実施形態における水蒸気流れとは逆である。
【0059】
多孔質基材6は、支持層61及び表面層62を備える。支持層61は、上記実施形態に係る触媒層21から触媒を取り除いた構成を有する。表面層62は、上記実施形態に係る緩衝層22と同じ構成を有する。
【0060】
緩衝層7は、触媒層8と分離膜3との間に配置される。緩衝層7は、触媒層9に含まれる触媒を分離膜3と直接接触させないために設けられている。触媒と分離膜3とを緩衝層7によって物理的に隔離することにより、触媒が反応熱で加熱されたとしても、分離膜3に触媒との接触点を起点としたクラックが生じることを抑制できる。
【0061】
緩衝層7は、セラミック材料又は有機高分子材料によって構成することができる。セラミック材料としては、シリカ、アルミナ、クロミアなどを用いることができる。有機高分子材料としては、PTFE、PVA、PEGなどを用いることができる。
【0062】
緩衝層7は、触媒層8と接触する接触面(不図示)を有する。接触面の表面粗さRaは、触媒の平均粒径の2倍以上であることが好ましい。これによって、触媒層8と緩衝層7との密着性を向上させることができる。触媒の平均粒径は、SEMを用いた微構造観察によって測定される30個の触媒粒子(無作為選択)の最大直径の算術平均値である。接触面の表面粗さRaの値は特に限られないが、1μm以上20μm以下が好ましい。表面粗さRaを1μm以上とすることによって、触媒層8を構成する触媒が緩衝層7から脱離することを抑制できる。表面粗さRaを20μm以下とすることによって、メンブレンリアクタの性能が低下することを抑制できる。
【0063】
触媒層8は、緩衝層7の構成材料(セラミック材料又は有機高分子材料)と、転化反応を進行させる触媒とを含む。触媒層8が緩衝層7の構成材料を含んでいることによって、触媒層8と緩衝層7との密着性を向上させることができる。ただし、触媒層8は、緩衝層7の構成材料を含んでいなくてもよい。この場合、触媒層8は、触媒のみによって構成される。
【0064】
触媒層8に含まれる触媒としては、上記実施形態に係る触媒層21に含まれる触媒と同じものを用いることができる。
【0065】
図3に示す構成は、上記実施形態にて説明した製法(ただし、触媒含有スラリーを含浸させる工程を除く)に従って分離膜3まで形成した後に、分離膜3の内表面に緩衝層7及び触媒層8を順次形成することで作製される。
【0066】
緩衝層7は、セラミック材料又は有機高分子材料と有機溶媒を混合した緩衝層用スラリーを分離膜3の内側に流通させた後、熱処理を施すことによって形成することができる。
【0067】
触媒層8は、緩衝層7の構成材料(セラミック材料又は有機高分子材料)と触媒と有機溶媒を混合した触媒層用スラリーを緩衝層7の内側に流通させた後、不活性雰囲気下で熱処理を施すことによって形成することができる。
【0068】
[変形例4]
上記実施形態において、分離膜3は、原料ガスから液体燃料への転化反応の副生成物である水蒸気を透過させることとしたが、これに限られない。分離膜3は、原料ガスから液体燃料への転化反応の生成物である液体燃料自体を透過させてもよい。この場合においても、上記式(1),(2)の反応平衡を生成物側にシフトさせることができる。
【0069】
また、分離膜3が液体燃料を透過させる場合には、水蒸気が副成されない反応(例えば、上記式(1)参照)によって液体燃料を生成するときにおいても、反応平衡を生成物側にシフトさせることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 メンブレンリアクタ
2 多孔質基材
21 触媒層
22 緩衝層
3 分離膜
4 第1シール部
5 第2シール部
6 多孔質基材
61 支持層
62 表面層
7 緩衝層
8 触媒層
C1 非透過側セル
C2 透過側セル
S1 供給スリット
S2 排出スリット