(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103729
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】ヒューズ素子
(51)【国際特許分類】
H01H 85/02 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
H01H85/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090766
(22)【出願日】2024-06-04
(62)【分割の表示】P 2021057150の分割
【原出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上木 美里
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 裕
(72)【発明者】
【氏名】高田 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真一朗
(57)【要約】
【課題】異常電流が発生した際に、炭化物の形成を抑制しながら、電気回路を遮断することができるヒューズ素子を提供する。
【解決手段】絶縁性の基材3と、前記基材3の表面に設けられた導体層1と、前記導体層1の表面に設けられた絶縁性の保護層4と、を有し、前記保護層4は、1.1J・g
-1・K
-1以上の比熱と、1.0g・cm
-3以上の比重と、を有している、ヒューズ素子10とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体層としての金属箔の両面に、絶縁性の基材としてのベース層が設けられたフレキシブルプリント基板を用いて構成され、
前記ベース層の一方の表面に設けられ、前記ベース層および接着剤の層の少なくとも一方を介して、前記導体層としての金属箔の表面を被覆している絶縁性の保護層を有し、
前記保護層は、1.1J・g-1・K-1以上の比熱と、1.0g・cm-3以上の比重と、を有している、ヒューズ素子。
【請求項2】
前記ベース層は、ポリエチレンテレフタレートおよびポリイミドの少なくとも一方を含む、請求項1に記載のヒューズ素子。
【請求項3】
前記保護層は、断熱性フィラーを含有している、請求項1または請求項2に記載のヒューズ素子。
【請求項4】
前記保護層は、発泡セルを含んでいる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒューズ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路において、異常電流からの保護を目的として、小型ヒューズが用いられる。小型ヒューズの例としては、チップヒューズが挙げられる。チップヒューズにおいては、絶縁基板に1対の端子電極が設けられ、それら端子電極の間を溶断導体で接続している。異常電流が発生した際には、溶断導体自体の発熱により、あるいは特許文献1に開示されるように、溶断導体とともに端子電極間に設けられた発熱導体膜の発熱により、溶断導体が溶断を起こす。
【0003】
また、フレキシブルプリント基板(FPC)が、小型ヒューズとして使用される場合もある。FPCの構造は、例えば特許文献2に開示されているが、ベース材の表面に回路パターンを構成する導体層が設けられている。1対の電極の間にFPCを配置し、電極間をFPCの導体層によって接続する構造としておけば、異常電流が発生した際に、導体層が発熱し、溶断を起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-50184号公報
【特許文献2】特開2001-339126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チップヒューズや、FPCを用いて構成されるヒューズ(FPCヒューズ)のように、絶縁性の基材の上に設けた導体を溶断させる形態のヒューズ素子においては、溶断時の熱により、導体の近傍に配置された有機ポリマーを含む部材が、炭化物を形成する場合がある。導体の近傍に配置され、導体の溶断時に炭化物を形成する可能性のある部材としては、FPCにおいて、導体層を保護する保護層が挙げられる。その保護層のように、有機化合物を含む層において、導体の溶断に伴って形成される炭化物には、導電性を有する炭化物も含まれる。導電性を有する炭化物は、電極間に導電経路を形成する可能性がある。すると、電極間に異常電流が流れた際に、導体が溶断しても、炭化物によって新たな導電経路が形成されることになり、電気回路を遮断することができない。つまり、ヒューズとしての機能を十分に発揮できなくなる。
【0006】
以上に鑑み、異常電流が発生した際に、炭化物の形成を抑制しながら、電気回路を遮断することができるヒューズ素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のヒューズ素子は、絶縁性の基材と、前記基材の表面に設けられた導体層と、前記導体層の表面に設けられた絶縁性の保護層と、を有し、前記保護層は、1.1J・g-1・K-1以上の比熱と、1.0g・cm-3以上の比重と、を有している。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかるヒューズ素子は、異常電流が発生した際に、炭化物の形成を抑制しながら、電気回路を遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、上記ヒューズ素子の層構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、ヒューズ素子の断面において、保護層とベース層の界面におけるSiの分布を示す元素分布像である。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示のヒューズ素子は、絶縁性の基材と、前記基材の表面に設けられた導体層と、前記導体層の表面に設けられた絶縁性の保護層と、を有し、前記保護層は、1.1J・g-1・K-1以上の比熱と、1.0g・cm-3以上の比重と、を有している。
【0011】
上記ヒューズ素子を、異常電流が発生した際に遮断すべき電気回路の途中に設け、ヒューズ素子の導体層を介して回路電流が流れるように構成しておけば、異常電流が発生して導体層において発熱が起こった際に、導体層が溶断することで、電気回路が遮断される。ここで、導体層の表面に設けられた保護層は、1.1J・g-1・K-1以上の比熱と、1.0g・cm-3以上の比重とを有していることにより、大きな熱容量を有するものとなっている。そのため、導体層が溶断時に発熱しても、保護層の温度が上昇しにくい。保護層の温度上昇が抑えられることで、保護層において炭化物が形成されにくくなり、導電性炭化物を介した導電経路の形成によって回路の遮断が妨げられる事態が、起こりにくい。
【0012】
前記ヒューズ素子は、フレキシブルプリント基板を用いて構成され、前記ヒューズ素子の基材および前記導体層はそれぞれ、前記フレキシブルプリント基板のベース層および金属箔より構成されているとよい。フレキシブルプリント基板を利用することで、小型のヒューズ素子を、簡便に、また安価に形成することができる。この際、所定の比熱および比重を有する材料を用いて保護層を構成することで、金属箔が溶断する際に、保護層における炭化物の形成、およびそれに伴う電気回路の遮断の不備を抑制することができる。
【0013】
前記保護層は、シリコーン樹脂および変性シリコーン樹脂の少なくとも一方を含有しているとよい。シリコーン樹脂および変性シリコーン樹脂は、種々の樹脂材料の中で、比較的大きな比重および比熱を有するものであり、導体層の溶断時に、保護層の温度上昇およびそれに伴う炭化物の形成を抑制する効果に優れる。さらに、保護層がシリコーン樹脂や変性シリコーン樹脂を含有する場合に、導体層の発熱に伴って、保護層と導体層の界面にシリコン酸化物(SiOx)が形成されることにより、保護層における炭化物の形成が、一層抑制される。
【0014】
前記保護層は、断熱性フィラーを含有しているとよい。断熱性フィラーは、保護層の比熱を向上させるものとなり、導体層の溶断時に、保護層の温度上昇およびそれに伴う炭化物の形成の抑制に、高い効果を示す。
【0015】
前記保護層は、発泡セルを含んでいるとよい。発泡セルは、保護層の比熱を向上させるものとなり、導体層の溶断時に、保護層の温度上昇およびそれに伴う炭化物の形成の抑制に、高い効果を示す。発泡セルは、保護層に発泡剤を混合し、加熱することで、容易に形成することができる。
【0016】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかるヒューズ素子について、図面を用いて詳細に説明する。本明細書において、各種物性値は、室温(おおむね20℃から25℃)において、大気中にて計測される値とする。また、ある成分がある材料の主成分であるとは、その成分が材料全体の50質量%以上を占める状態を指す。
【0017】
<FPCヒューズの構造>
まず、本開示にかかるヒューズ素子の一例として、フレキシブル回路基板(FPC)を用いて構成されるFPCヒューズについて説明する。
図1に、本開示の一実施形態にかかるFPCヒューズ10の断面の層構成を示す。FPCヒューズ10は、回路基板の上に設けられた電気回路の途中の箇所において、1対の電極の間を接続して使用される。
【0018】
図1のように、FPCヒューズ10は、複数の層が積層された構造を有している。具体的には、FPCヒューズ10は、ベース層(基材)3と、ベース層3の少なくとも一方の面を被覆する金属箔(導体層)1と、を有している。ベース層3と金属箔1の間は、接着剤層2によって接着されている。金属箔1の表面には、絶縁性の保護層4が設けられている。保護層4は、接着剤の層(図略)を介して金属箔1の表面に固定されていてもよい。このような積層構造は、従来一般の汎用的なFPCにおいて採用されているものである。
【0019】
ベース層3は、絶縁性の基材として構成されている。ベース層3を構成する材料は特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミド(PI)等、一般的なFPCのベース層として用いられる可撓性のポリマー材料を好適に用いることができる。金属箔1としては、一般的なFPCにおいて用いられる材料である銅箔を用いることが好ましい。金属箔1の厚さとしては、十分な導電性を確保する観点から、10μm以上としておくとよい。一方、異常電流が流れた際に、小さい発熱量でも破断しやすくする観点から、金属箔1の厚さは、50μm以下としておくとよい。接着剤層2、および任意に金属箔1と保護層4の間に配置される接着剤の構成材料も特に限定されるものではなく、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系等の接着剤を適用すればよい。
【0020】
保護層4は、金属箔1の表面を被覆して、FPCヒューズ10の最表層として設けられている。保護層は、カバーレイとも称され、FPCにおいて、金属箔の表面を絶縁しながら保護する役割を果たす。後に詳しく説明するように、本実施形態にかかるFPCヒューズ10においては、保護層4が所定の物性を有している。後述するように、本開示のヒューズ素子は、FPCヒューズ10以外の形態で構成することもできるが、FPCヒューズ10とすることで、ヒューズ素子に可撓性を付与できるとともに、安価に大量生産が可能なFPCを利用して、簡便にヒューズ素子を形成することができる。
【0021】
<保護層の構成>
本実施形態にかかるFPCヒューズ10においては、保護層4が、所定の物性を有している。つまり、保護層4は、1.0J・g-1・K-1以上の比熱と、1.0g・cm-3以上の比重の、少なくとも一方を有している。好ましくは、それらの比熱と比重の両方を有している。
【0022】
物質の熱容量は、比熱が大きいほど、また比重が大きいほど、大きくなる。よって、FPCヒューズ10において、保護層4が大きな比熱を有するほど、また大きな比重を有するほど、保護層4を同じ厚さで形成しても、熱容量が大きくなり、保護層4が加熱を受けた際に、保護層4の温度が上昇しにくくなる。
【0023】
ここで、電気回路の中途部において、1対の電極の間にFPCヒューズ10を配置し、保護層4に被覆された金属箔1によって、電極の間を電気的に接続した構成において、電極間に異常電流(異常な大電流)が発生する場合を考える。電気回路の異常電流が金属箔1に流れると、電気抵抗により、金属箔1が発熱する。自らの発熱により、金属箔1の温度が融点または昇華点以上の温度に達すると、金属箔1が溶断する。金属箔1が溶断すると、電気回路において、金属箔1を介した導通が遮断され、電気回路に電流が流れなくなる。これにより、電気回路が異常電流から保護される。
【0024】
異常電流の発生により、上記のように、金属箔1が発熱するが、金属箔1において発生した熱は、隣接する保護層4にも伝達される。すると、保護層4が加熱を受ける。この際、保護層4が高温まで加熱されると、保護層4を構成する有機物から、炭化物が形成される場合がある。形成される炭化物には、導電性を有するものも含まれる。保護層4において、導電性を有する炭化物が形成されると、溶断によって金属箔1の導通が遮断された箇所に、導電性炭化物を介した導電経路が形成される可能性がある。すると、金属箔1の導通が遮断されなくなったり、金属箔1の溶断によって一旦は遮断された導通が再形成されたりする。その結果、金属箔1を溶断させたにもかかわらず、実際には電気回路における導通が遮断できなくなったり、一旦遮断された導通が再度形成されたりするため、電気回路を異常電流から保護できなくなる。
【0025】
しかし、本実施形態にかかるFPCヒューズ10の保護層4は、1.0J・g-1・K-1以上の比熱、および/または1.0g・cm-3以上の比重を有することにより、大きな熱容量を有し、温度が上昇しにくくなっている。そのため、異常電流の発生に伴って、隣接する金属箔1が発熱を起こしても、保護層4において、温度上昇、およびそれに伴う炭化物の形成が起こりにくい。よって、異常電流によって金属箔1が溶断された箇所において、保護層4で形成された導電性炭化物の寄与によって、導通経路が形成されるような事態は起こりにくく、電気回路を異常電流から適切に保護することができる。
【0026】
保護層4の比熱は、1.1J・g-1・K-1以上、また1.3J・g-1・K-1以上であると、さらに好ましい。また、保護層4の比重は、1.1g・cm-3以上、また1.2g・cm-3以上であるとさらに好ましい。特に好ましくは、保護層4は、1.1J・g-1・K-1以上の比熱と、1.0g・cm-3以上の比重とをともに有するものであるとよい。保護層4の比熱および比重に特に上限は設けられないが、金属箔1を保護するための保護層4として実用的に適用しうる材料においては、おおむね、比熱は3.0J・g-1・K-1以下であり、比重は2.0g・cm-3以下である。
【0027】
保護層4の厚さは特に限定されないが、金属箔1に対する保護効果を十分に発揮する観点、また体積の効果によって保護層4の熱容量を高める観点から、30μm以上としておくとよい。一方、FPCヒューズ10の可撓性を高める等の観点から、保護層4の厚さは、1mm以下としておくとよい。
【0028】
保護層4の具体的な構成材料は、上記所定の物性を有する限りにおいて、特に限定されるものではないが、有機ポリマーを主成分としてなることが好ましい。保護層4の構成材料として好適に用いることができる有機ポリマーとして、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリテトラフルオロエチレンをはじめとするフッ素樹脂等を挙げることができる。有機ポリマーとしては、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記に挙げた各種有機ポリマーの中でも、保護層4を構成する有機ポリマーとして、シリコーン樹脂および変性シリコーン樹脂の少なくとも一方を用いることが、特に好ましい。好ましくは、保護層4を構成する有機ポリマーの主成分、さらには全体を、シリコーン樹脂および/または変性シリコーン樹脂とするとよい。変性シリコーン樹脂に含有される変成基としては、アミノ基、カルボキシル基等を例示することができる。
【0030】
シリコーン樹脂および変性シリコーン樹脂(以降、特記しないかぎり、シリコーン樹脂とまとめて称するものとする)は、各種有機ポリマーの中で、比較的高い比熱および比重を有するため、大きな熱容量を与えるものとなり、保護層4の炭化を抑制しやすい。また、シリコーン樹脂を含む保護層4を設けたFPCヒューズ10において、金属箔1が発熱を起こすと、保護層4のうち、金属箔1に面する界面の領域に、シリコン酸化物(SiOx)が形成される。このシリコン酸化物の形成によって、金属箔1の発熱に伴う保護層4での炭化物の形成が、効果的に抑制される。これは、形成されたシリコン酸化物が高い断熱性および融点を有するためであると考えられる。このように、保護層4がシリコーン樹脂を含むことで、大きな熱容量を与えることの効果、および金属箔1側の界面にシリコン酸化物が形成されることの効果の両方によって、金属箔1の発熱に伴う保護層4での炭化物の形成が効果的に抑制される。なお、保護層4の界面に形成されるシリコン酸化物には、SiOxの組成を有する純粋な酸化物のみならず、SiおよびOに加えて、C等、他の元素をOよりも少量含有する化合物も含む。
【0031】
さらに、保護層4は、有機ポリマーに加えて、断熱性フィラーを含有していることが好ましい。断熱性フィラーを含有することで、保護層4の比熱を高めやすいからである。断熱性フィラーとしては、おおむね、熱伝導率が10W/m・K以下のものを用いればよい。具体的な断熱性フィラーの種類は特に限定されるものではないが、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ等の無機粒子、グラスバブル等の中空粒子を挙げることができる。保護層4における断熱性フィラーの含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、比熱向上の効果を高める等の観点から、保護層4全体に占める割合で、5質量%以上としておけばよい。一方、ポリマー材料によって発揮される保護層4の特性を損なわないようにする等の観点から、30質量%以下としておくとよい。
【0032】
保護層4は、比熱を高める観点から、上記断熱性フィラーを含有する代わりに、あるいは断熱性フィラーに加えて、発泡セルを含んでいるとよい。発泡セルは、発泡剤の発泡によって保護層4の内部に形成される気泡であり、保護層4全体としての比熱を高めるものとなる。保護層4に発泡セルを含有させるためには、保護層4を形成する際に、材料中に発泡剤を混合しておき、フィルム状に成形した後に、加熱を行って、発泡剤を発泡させればよい。
【0033】
発泡セルの形成に用いる発泡剤の種類は特に限定されないが、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体よりなる発泡剤を用いることが好適である。これらの化合物は、発泡時に、水(水蒸気)を含まずに窒素ガスを発生することが多く、保護層4の内部に水が残存することで、異常電流発生時に、金属箔1の破断箇所およびその近傍に水が付着して、水を介した導通経路が形成される事態を避けられるからである。アゾ化合物の例としては、アゾジカルボンアミドやバリウムアゾジカルボキシレート等が挙げられる。ニトロソ化合物としては、N,N’-ニトロソペンタメチレンテトラミン等が挙げられ、ヒドラジン誘導体としては、ヒドラゾジカルボンアミド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等が挙げられる。発泡剤は、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。保護層4における発泡剤の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、発泡セルによる比熱向上の効果を高める等の観点から、保護層4全体に占める割合で、5質量%以上としておけばよい。一方、保護層4の機械的強度を高く保つ等の観点から、20質量%以下としておくとよい。
【0034】
<その他の形態>
上記では、本開示の実施形態の一例として、FPCヒューズ10の保護層4を所定の物性を有するものとする形態について説明した。しかし、本開示のヒューズ素子は、そのような形態に限られない。
【0035】
本開示のヒューズ素子は、FPCヒューズに限らず、絶縁性の基材と、基材の表面に設けられた導体層と、導体層の表面に設けられた絶縁性の保護層とを有するものであればよい。そして、保護層を、1.0J・g-1・K-1以上の比熱と、1.0g・cm-3以上の比重と、の少なくとも一方を有するものとしておく。好ましくは、保護層を、1.1J・g-1・K-1以上の比熱と、1.0g・cm-3以上の比重とを有するものとしておくとよい。上記積層構造を構成する基材、導体層、保護層は、それぞれ、FPCヒューズ10では、ベース層3、金属箔1、保護層4に対応する。FPCを用いる形態以外に、上記積層構造を有するヒューズ素子の形態としては、プリント基板上に回路パターンとして設けられるパターンヒューズ、プリント基板上に実装されるチップヒューズ等の構造を有するものを挙げることができる。導体層に直接接触する層が、上記のような比熱および比重を有する保護層より構成されていることが好ましいが、保護層は、別の層を介して導体層の表面に設けられてもよい。例えば、後の実施例で用いている試料のように、保護層が、基材(ベース層)および/または接着剤の層を介して、導体層を被覆するものであってもよい。
【0036】
さらにヒューズ素子においては、保護層のみならず、接着剤層や基材等、保護層と反対側で導体層に隣接する層、あるいは保護層と導体層の間に介在される層も、上記所定の比熱および/または比重を有するものとしておいてもよい。すると、導体層が発熱を起こした際に、保護層のみならず、接着剤層や基材においても、炭化物の形成を抑制することができる。
【実施例0037】
以下に実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0038】
<試料の作製>
銅箔の両面に、接着剤層を介してベース層が設けられ、さらにそれらベース層の一方の表面に保護層が設けられた、FPCヒューズを準備した。このFPCヒューズにおいては、ベース層は厚さ25μmのポリイミド樹脂、接着剤層は厚さ10μmのエポキシ樹脂、導体層は厚さ35μmの銅箔より構成されている。保護層としては、以下の樹脂A~Dを用いて、厚さ50μmの層を作製した。また、別の形態の保護層として、テープA,Bをそれぞれ貼り付けた。
【0039】
保護層の形成に用いた材料の種類は以下のとおりである。
・樹脂A:シリコーン樹脂(Three Bond社製「1537E」)
・樹脂B:シリコーン樹脂(東レDOW社製「CV9204-20」)に、10質量%の炭酸カルシウム(CaCO3)を添加
・樹脂C:エポキシ樹脂(Three Bond社製「2272H」)
・樹脂D:EVA樹脂(ヘンケル社製「LOCTITE ホットメルト接着剤」)
・テープA:PVCテープ(日東電工社製「ワイヤーハーネス用ビニールテープ No.2117TVH」)、厚さ0.07mm
・テープB:フッ素樹脂テープ(中興化成工業社製「AGF-100A」)、厚さ0.13mm
【0040】
<試験方法>
作製したFPCヒューズを直流電源に接続して、2.5Aの電流を60秒間にわたって流し、銅箔を溶断させた。その後、保護層の外観を目視にて観察し、炭化物が形成されているか否かを評価した。また、樹脂Aを用いたFPCヒューズについて、通電による銅箔溶断後の状態の断面に対して、走査型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)を行い、構成元素の空間分布を観察した
【0041】
<結果>
下の表1に、保護層の構成材料と、炭化物形成の有無をまとめる。
【0042】
【0043】
表1によると、樹脂A,BおよびテープBより保護層を構成したFPCヒューズにおいては、銅箔を溶断させた際に、保護層において炭化物が形成されていない。保護層を構成するそれらの材料は、1.1J・g-1・K-1以上の比熱と、1.0g・cm-3以上の比重をともに有している。このことから、ヒューズ素子に設ける保護層として、1.1J・g-1・K-1以上の比熱と、1.0g・cm-3以上の比重を有する材料を用いることで、異常電流が発生した際に、保護層の炭化を避けながら、導体層の溶断によって回路を遮断できることが分かる。
【0044】
図2に、保護層をシリコーン樹脂より構成したFPCヒューズについて、SEM-EDX測定によって得られた、保護層とベース層との界面におけるSiの空間分布を示す。明るい色で表示されている箇所において、Siの濃度が高くなっている。画像中、上方の暗く観測されている層がベース層に対応し、下方のSiが高濃度になった領域が不均一に点在している層が保護層である。それらベース層と保護層の界面においては、保護層側の領域に、画像中に「界面層」と表示しているように、Siが、均一性高く、高濃度で分布した領域が生じている。画像の掲載は省略するが、この界面層の領域には、Oも、均一性高く、高濃度で分布していることが確認された。つまり、保護層がベース層を介して導体層に面する界面において、導体層の溶断時の加熱を経て、シリコン酸化物(SiO
x)が生成していることが示唆される。
【0045】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。