(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103763
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】偏光板、位相差層付偏光板および有機エレクトロルミネセンス表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240725BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240725BHJP
H10K 50/86 20230101ALI20240725BHJP
【FI】
G02B5/30
H10K50/10
H10K50/86
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024091749
(22)【出願日】2024-06-05
(62)【分割の表示】P 2020147532の分割
【原出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】森崎 真由美
(72)【発明者】
【氏名】南川 善則
(72)【発明者】
【氏名】後藤 景亮
(57)【要約】
【課題】有機EL表示装置に適用した場合に脱色が顕著に抑制された偏光板および位相差層付偏光板を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による偏光板は、偏光子と、偏光子の視認側に接着層を介して貼り合わせられた保護層と、を含む。接着層の厚みは0.5μm以下であり、保護層の透湿度は200g/m
2・24h以上であり、単位面積あたりのヨウ素吸着量は0.01mg/cm
2以下である。接着層は、代表的には、ポリビニルアルコール系樹脂を含む水系接着剤で構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と、該偏光子の視認側に接着層を介して貼り合わせられた保護層と、を含み、
該接着層の厚みが0.5μm以下であり、
該保護層の透湿度が200g/m2・24h以上であり、単位面積あたりのヨウ素吸着量が0.01mg/cm2以下である、
偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板、位相差層付偏光板および有機エレクトロルミネセンス(EL)表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型ディスプレイの普及と共に、有機ELパネルを搭載したディスプレイ(有機EL表示装置)が提案されている。有機ELパネルは反射性の高い金属層を有するため、外光反射や背景の映り込み等の問題を生じやすい。そこで、円偏光板を視認側に設けることにより、これらの問題を防ぐことが知られている(例えば、特許文献1~3)。しかし、有機EL表示装置に設けられた円偏光板(実質的には、円偏光板に含まれる偏光板)は脱色しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-311239号公報
【特許文献2】特開2002-372622号公報
【特許文献3】特許第3325560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、有機EL表示装置に適用した場合に脱色が顕著に抑制された偏光板および位相差層付偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による偏光板は、偏光子と、該偏光子の視認側に接着層を介して貼り合わせられた保護層と、を含む。該接着層の厚みは0.5μm以下であり、該保護層の透湿度は200g/m2・24h以上であり、単位面積あたりのヨウ素吸着量は0.01mg/cm2以下である。
1つの実施形態においては、上記偏光子は、波長550nmにおける直交吸光度A550と波長210nmにおける直交吸光度A210との比(A550/A210)が1.4以上であり、波長470nmにおける直交吸光度A470と波長600nmにおける直交吸光度A600との比(A470/A600)が0.7以上であり、かつ、直交b値が-10より大きい。
1つの実施形態においては、上記接着層は水系接着剤で構成されている。1つの実施形態においては、上記水系接着剤はポリビニルアルコール系樹脂を含む。
1つの実施形態においては、上記偏光子のヨウ素濃度は4重量%~10重量%である。
1つの実施形態においては、上記偏光板は、60℃の環境下で2時間アンモニア蒸気に曝露したときの偏光度変化の絶対値|ΔP|が50%以下である。
本発明の別の局面によれば、位相差層付偏光板が提供される。この位相差層付偏光板は、上記偏光板と位相差層とを有する。
本発明のさらに別の局面によれば、有機エレクトロルミネセンス表示装置が提供される。この有機エレクトロルミネセンス表示装置は、上記偏光板または上記位相差層付偏光板を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、偏光子に隣接する接着層の厚みを0.5μm以下とし、かつ、偏光子の視認側の保護層の透湿度を200g/m2・24h以上かつ単位面積あたりのヨウ素吸着量を0.01mg/cm2以下とすることにより、有機EL表示装置に適用した場合に脱色が顕著に抑制された偏光板および位相差層付偏光板を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.偏光板
A-1.偏光板の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。図示例の偏光板100は、偏光子10と、偏光子10の視認側に接着層20を介して貼り合わせられた保護層(視認側保護層)30と、を含む。接着層20は、好ましくは水系接着剤で構成されている。水系接着剤は、好ましくはポリビニルアルコール(PVA)系樹脂を含む。実用的には、偏光子10の視認側と反対側に粘着剤層40が設けられている。代表的には、粘着剤層40を介して、光学機能層が貼り合わせられ得る。光学機能層の代表例としては、別の保護層(内側保護層)、位相差層が挙げられる。内側保護層は、好ましくは省略され得る。光学機能層が位相差層である場合には、位相差層付偏光板が構成される。位相差層付偏光板については、後述のB項で説明する。粘着剤層40を介して、偏光板100が有機ELパネルに貼り合わせられてもよい。
【0010】
本発明の実施形態においては、接着層20の厚みは0.5μm以下であり、ならびに、視認側保護層30の透湿度は200g/m2・24h以上かつ単位面積あたりのヨウ素吸着量は0.01mg/cm2以下である。本発明者らは、偏光板および位相差層付偏光板を有機EL表示装置に適用した場合に、偏光板および位相差層付偏光板が脱色するという新たな課題に直面し、当該課題について鋭意検討した結果、脱色の原因は、有機ELパネルから発生するアンモニア(実質的には、アンモニウムイオン)であることを発見した。さらに、アンモニアによる脱色を抑制する手段について鋭意検討した結果、偏光子に侵入するアンモニウムイオンをできる限り遮断し、かつ、侵入してしまったアンモニウムイオンをできる限り排出することにより、当該脱色を顕著に抑制できることを発見した。このような知見に基づき、偏光子と視認側保護層とを貼り合わせる接着剤の厚みをできる限り薄くし、ならびに、視認側保護層の透湿度を所定値以上かつヨウ素吸着量を所定値以下とすることにより、偏光子に侵入したアンモニウムイオンを排出しやすくできることを見出し、当該新たな課題を解決した。さらに、偏光子に隣接する層(接着層)を薄くすることにより、当該隣接層のヨウ素吸着量が小さくなり、偏光子からのヨウ素の吸着を抑制することができる。その結果、視認側保護層のヨウ素吸着量を所定値以下とすることによる効果との相乗的な効果により、脱色を抑制することができる。また、接着層から排出された(実質的には、視認側保護層に移動した)アンモニウムイオンは、視認側保護層の透湿度が大きいことにより、視認側保護層で捕捉されることなく抜けてゆき、結果として、偏光板の外部に排出される。以上のようにして、有機ELパネルから偏光子に侵入したアンモニウムイオンは、良好に偏光板外部に排出され得る。したがって、偏光板および位相差層付偏光板が有機EL表示装置に適用された場合に、脱色が良好に抑制され得る。なお、偏光子の保護層は偏光子を水分(水蒸気)から保護することを主目的とすることに起因して、外側(視認側)の保護層の透湿度を小さくするよう設計されるところ、本発明の実施形態は、このような当業界の技術常識とは全く逆の技術的思想に基づくものである。
【0011】
接着層の厚みは上記のとおり0.5μm以下であり、好ましくは0.2μm以下であり、より好ましくは0.1μm以下であり、さらに好ましくは0.08μm以下であり、特に好ましくは0.06μm以下である。一方、接着層の厚みは、例えば0.01μm以上であり、また例えば0.02μm以上であり、また例えば0.03μm以上であり得る。接着層の厚みは薄いほど好ましい一方で、厚みが薄すぎると層自体が形成されない場合があり、また、気泡が発生する場合がある。接着層の厚みがこのような範囲であれば、接着層として機能し得る層の形成が可能であり、かつ、アンモニウムイオンを良好に排出することができる。
【0012】
視認側保護層の透湿度は上記のとおり200g/m2・24h以上であり、好ましくは300g/m2・24h以上であり、より好ましくは330g/m2・24h以上であり、さらに好ましくは360g/m2・24h以上であり、特に好ましくは400g/m2・24h以上である。視認側保護層の透湿度の上限は、例えば1000g/m2・24hであり得る。視認側保護層の透湿度がこのような範囲であれば、偏光子の保護とアンモニウムイオンの排出との適切なバランスを実現することができる。なお、透湿度は、JIS Z 0208に準じて測定され得る。
【0013】
視認側保護層の単位面積あたりのヨウ素吸着量は、上記のとおり0.01mg/cm2以下であり、好ましくは0.005mg/cm2以下である。視認側保護層のヨウ素吸着量がこのような範囲であれば、偏光子からのヨウ素吸着を抑制することができ、結果として、脱色を抑制することができる。ヨウ素吸着量は、視認側保護層の構成材料の種類、視認側保護層の厚み等を適切に設定することにより調整され得る。ヨウ素吸着量は、例えば、走査型蛍光X線分析装置により得られたヨウ素検出強度(kcps)から、測定装置の検量線を用いて求められ得る。検量線は既知の検体を測定して作成され得る。より詳細な測定方法は以下のとおりである。所定容量のガラス瓶に所定濃度のヨウ素水溶液を所定量入れる。測定資料(視認側保護層)をガラス瓶の蓋の内側に取り付けて、当該蓋でガラス瓶を密閉し、密閉されたガラス瓶内部で測定資料が吊るされた状態とする。測定資料下端とヨウ素水溶液の液面とは適切な距離(例えば、約数十mm)離間させる。この状態でガラス瓶を所定温度で所定時間加熱する。加熱後、測定資料を取り出し、走査型蛍光X線分析装置(RIGAKU社製、「ZSX Primus IV」)によりヨウ素検出強度(kcps)を測定する。測定装置の検量線を用いてヨウ素吸着量(mg)を求め、当該ヨウ素吸着量を測定資料の体積(cm3)で除して、単位体積あたりのヨウ素吸着量(体積ヨウ素吸着量:単位mg/cm3)を求める。なお、体積ヨウ素吸着量は材料固有の値である。体積ヨウ素吸着量と視認側保護層の厚みから、単位面積あたりのヨウ素吸着量(面積ヨウ素吸着量:単位mg/cm2)を算出する。なお、測定装置の検量線は、例えば下記のとおりである。当該検量線は既知の検体を測定して作成する。
ヨウ素質量(μg)=ヨウ素検出強度(kcps)×13.525
【0014】
偏光板は、60℃の環境下で2時間アンモニア蒸気に曝露したときの偏光度変化の絶対値|ΔP|が、好ましくは50%以下であり、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。|ΔP|は小さいほど好ましく、理想的にはゼロである。本発明の実施形態によれば、上記のような構成を採用することにより、偏光子へのアンモニウムイオンの侵入を良好に抑制し、かつ、偏光子からアンモニウムイオンを良好に排出することができる。その結果、偏光板は、アンモニアに曝露されても偏光度変化(実質的には、偏光度の低下)が顕著に抑制され得る。このような偏光板(結果として、位相差層付偏光板)は、有機EL表示装置に適用された場合に、脱色が良好に抑制され得る。
【0015】
以下、偏光子、接着層、保護層、および粘着剤層について具体的に説明する。
【0016】
A-2.偏光子
偏光子10は、代表的には、二色性物質(代表的には、ヨウ素)を含むPVA系樹脂フィルムで構成される。
【0017】
偏光子は、好ましくは、波長550nmにおける直交吸光度A550と波長210nmにおける直交吸光度A210との比(A550/A210)が1.4以上であり、波長470nmにおける直交吸光度A470と波長600nmにおける直交吸光度A600との比(A470/A600)が0.7以上であり、かつ、直交b値が-10より大きい。本発明の実施形態に用いられる偏光子は、通常の薄型偏光子に比べて当該比(A550/A210)および(A470/A600)が非常に大きい。これは、偏光子におけるPVAと錯体を形成していないヨウ素イオン(210nm付近の紫外領域に吸収を有する)の含有比が非常に小さく、PVA-ヨウ素錯体(可視領域に吸収を有する)の含有比が非常に大きいことを意味する。より詳細には、当該偏光子は、600nm付近に吸収を有するPVA-I5
-錯体の含有比が非常に大きく、かつ、480nm付近に吸収を有するPVA-I3
-錯体の含有比が大幅に減少することなく維持されている。ここで、偏光子の厚みは、光路長の長さを意味するため、単純に偏光子の厚みを薄くした場合、光路長も短くなり、偏光性能も低下してしまう。偏光子に含有できるヨウ素の量にも限りがあるため、高い偏光性能と偏光子の薄型化を両立するためには、偏光子中に含まれるヨウ素を効率的に活用することが必須となる。つまり、紫外に吸光を有し、偏光性能に寄与しないヨウ素イオンを減らし、可視領域に吸光を有するPVA-ヨウ素錯体の比率を向上させることで、高い偏光性能と偏光子の薄型化を両立することが可能になる。言い換えると、比(A550/A210)を大きくすることにより、薄型で高い光学特性を達成することが可能となる。さらに、比(A470/A600)を所定値以上に維持することにより、可視光全域にわたって良好な偏光性能を実現することができる。薄型偏光子におけるヨウ素量が限られている中、従来の技術では、比(A550/A210)および比(A470/A600)の両方を大きくすることは困難であったところ、本発明の実施形態に用いられる偏光子においては、これらの両方を大きくすることができる。比(A550/A210)は、好ましくは1.8以上であり、より好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは2.2以上である。比(A550/A210)の上限は、例えば3.5であり得る。比(A470/A600)は、好ましくは0.75以上であり、より好ましくは0.80以上であり、さらに好ましくは0.85以上である。比(A470/A600)の上限は、例えば2.00であり、好ましくは1.33である。なお、直交吸光度は、後述する偏光度を求める際に測定される直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
直交吸光度=log10(100/Tc)
【0018】
さらに、偏光子の直交b値は、上記のとおり-10より大きく、好ましくは-7以上であり、より好ましくは-5以上である。直交b値の上限は、好ましくは+10以下であり、より好ましくは+5以下である。本願発明によれば、このような範囲の直交b値を実現することができる。直交b値は偏光子(偏光板)を直交状態に配置した場合の色相を示しており、この数値の絶対値が大きいほど、直交色相(画像表示装置における黒表示)が色味がかって見えることを意味する。例えば、直交b値が-10以下のように低い場合は、黒表示が青く色づいて見え、表示性能が低下する。すなわち、本発明の実施形態によれば、黒表示時に優れた色相を実現し得る偏光子を得ることができる。なお、直交b値は、LPF200に代表される分光光度計により測定され得る。
【0019】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、好ましくは46.0%以下であり、より好ましくは45.0%以下である。一方、単体透過率は、好ましくは41.5%以上であり、より好ましくは42.0%以上であり、さらに好ましくは42.5%以上である。偏光子の偏光度は、好ましくは99.990%以上であり、好ましくは99.998%以下である。本発明の実施形態に用いられる偏光子は、高い単体透過率と高い偏光度とを両立し得る。上記単体透過率は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定し、視感度補正を行なったY値である。また、単体透過率は、偏光板の一方の表面の屈折率を1.50、もう一方の表面の屈折率を1.53に換算した時の値である。上記偏光度は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定して視感度補正を行なった平行透過率Tpおよび直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
偏光度(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
【0020】
偏光子の厚みは、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは12μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下であり、特に好ましくは8μm以下である。一方、偏光子の厚みは、例えば1μm以上であり、また例えば2μm以上であり、また例えば3μm以上であり得る。偏光子の厚みがこのような範囲であれば、加熱時のカールを良好に抑制することができ、および、良好な加熱時の外観耐久性が得られる。
【0021】
偏光子のヨウ素濃度は、4重量%~10重量%であり、より好ましくは5重量%~8重量%である。偏光子のヨウ素濃度がこのような範囲であれば、ヨウ素濃度が高く、ポリヨウ素イオン(I3
-、I5
-)とPVAが強く相互作用し、より安定的に存在するため、脱色しにくい効果がある。本明細書において「ヨウ素濃度」とは、偏光子(PVA系樹脂フィルム)中に含まれるすべてのヨウ素の量を意味する。より具体的には、偏光子中においてヨウ素はヨウ素イオン(I-)、ヨウ素分子(I2)、ポリヨウ素イオン(I3
-、I5
-)等の形態で存在するところ、本明細書におけるヨウ素含有量は、これらの形態をすべて包含したヨウ素の量を意味する。ヨウ素濃度は、例えば、蛍光X線分析の検量線法により算出することができる。
【0022】
偏光子のホウ酸濃度は、好ましくは15重量%以上であり、より好ましくは16重量%以上であり、さらに好ましくは16重量%~26重量%である。偏光子のホウ酸濃度がこのような範囲であれば、実用的な光学特性が得られるとともに、アンモニウムイオンの偏光子への侵入を抑制することができる。さらに、貼り合わせ時のカール調整の容易性を良好に維持し、かつ、加熱時のカールを良好に抑制しつつ、加湿時の外観耐久性を改善することができる。ホウ酸濃度は、例えば、フーリエ変換赤外分光測定(FT-IR)を用いて決定され得る。具体的には以下のとおりである。第2のPVA系樹脂層について、フーリエ変換赤外分光光度計(例えば、Perkin Elmer社製、商品名「SPECTRUM2000」)を用いて、偏光を測定光とする全反射減衰分光(ATR)測定によりホウ酸ピーク(665cm-1)の強度および参照ピーク(2941cm-1)の強度を測定する。得られたホウ酸ピーク強度および参照ピーク強度からホウ酸量指数が下記式により算出され、さらに、算出したホウ酸量指数から下記式によりホウ酸濃度が算出され得る。
(ホウ酸量指数)=(ホウ酸ピーク665cm-1の強度)/(参照ピーク2941cm-1の強度)
(ホウ酸濃度)=(ホウ酸量指数)×6.61+0.47
【0023】
偏光子を形成する樹脂フィルムは、単層の樹脂フィルムであってもよく、二層以上の積層体であってもよい。
【0024】
単層の樹脂フィルムから構成される偏光子の具体例としては、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理および延伸処理が施されたもの、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。好ましくは、光学特性に優れることから、PVA系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸して得られた偏光子が用いられる。
【0025】
上記ヨウ素による染色は、例えば、PVA系フィルムをヨウ素水溶液に浸漬することにより行われる。上記一軸延伸の延伸倍率は、好ましくは3~7倍である。延伸は、染色処理後に行ってもよいし、染色しながら行ってもよい。また、延伸してから染色してもよい。必要に応じて、PVA系フィルムに、膨潤処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が施される。例えば、染色の前にPVA系フィルムを水に浸漬して水洗することで、PVA系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、PVA系フィルムを膨潤させて染色ムラなどを防止することができる。
【0026】
積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に積層されたPVA系樹脂層(PVA系樹脂フィルム)との積層体、あるいは、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;により作製され得る。本実施形態においては、好ましくは、樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成する。延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。加えて、本実施形態においては、好ましくは、積層体は、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理に供される。代表的には、本実施形態の製造方法は、積層体に、空中補助延伸処理と染色処理と水中延伸処理と乾燥収縮処理とをこの順に施すことを含む。補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性を向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。得られた樹脂基材/偏光子の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光子の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光子の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。このような偏光子の製造方法の詳細は、例えば特開2012-73580号公報、特許第6470455号に記載されている。これらの公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0027】
A-3.接着層
接着層は、代表的には上記のとおり、水系接着剤で構成されている。水系接着剤は、好ましくは上記のとおり、PVA系樹脂を含む。接着層は、代表的には、PVA系樹脂水溶液を塗布および乾燥することにより形成され得る。水溶液に含まれるPVA系樹脂の平均重合度は、好ましくは100~5000程度、さらに好ましくは1000~4000である。平均ケン化度は、好ましくは85モル%~100モル%程度、さらに好ましくは90モル%~100モル%である。平均重合度および平均ケン化度がこのような範囲であれば、偏光子との接着性に優れ、その結果、偏光子との界面においてアンモニウムイオンの排出に対する悪影響が防止され得る。その結果、偏光板および位相差層付偏光板を有機EL表示装置に適用した場合に、脱色をさらに良好に抑制することができる。
【0028】
PVA系樹脂は、好ましくは、アセトアセチル基を含有する。偏光子と保護層との密着性に優れ、耐久性に優れ得るからである。アセトアセチル基含有PVA系樹脂は、例えば、PVA系樹脂とジケテンとを任意の方法で反応させることにより得られる。アセトアセチル基含有PVA系樹脂のアセトアセチル基変性度は、代表的には0.1モル%以上であり、好ましくは0.1モル%~40モル%程度、さらに好ましくは1モル%~20モル%、特に好ましくは2モル%~7モル%である。なお、アセトアセチル基変性度はNMRにより測定した値である。
【0029】
PVA系樹脂水溶液における樹脂濃度は、好ましくは0.1重量%~15重量%、さらに好ましくは0.5重量%~10重量%である。当該水溶液の粘度は、好ましくは1~50mPa・sである。当該水溶液のpHは、好ましくは2~6、より好ましくは2.5~5、さらに好ましくは3~5、特に好ましくは3.5~4.5である。
【0030】
PVA系樹脂水溶液(結果として、接着層)は、1つの実施形態においては、金属化合物コロイドを含み得る。金属化合物コロイドは、金属化合物微粒子が分散媒中に分散しているものであり、微粒子の同種電荷の相互反発に起因して静電的安定化し、永続的に安定性を有し得るものである。
【0031】
金属化合物コロイドを形成する微粒子の平均粒子径は、透明性、偏光特性等の光学特性に悪影響を及ぼさない限り、任意の適切な値に設定される。好ましくは1nm~100nm、さらに好ましくは1nm~50nmである。微粒子を接着層中に均一に分散させることができるからである。
【0032】
金属化合物としては、任意の適切な化合物が用いられる。例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物;ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、リン酸カルシウム等の金属塩;セライト、タルク、クレイ、カオリン等の鉱物が挙げられる。正電荷を有する金属化合物コロイドが好ましく用いられる。当該金属化合物としては、アルミナ、チタニア等が挙げられ、特に好ましくはアルミナである。
【0033】
A-4.保護層
視認側保護層30および内側保護層(存在する場合)は、それぞれ、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
【0034】
視認側保護層の透湿度は、上記A-1項で説明したとおりである。このような透湿度を有する視認側保護層は、好ましくはTACフィルムで構成され得る。
【0035】
視認側保護層には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。さらに/あるいは、視認側保護層には、必要に応じて、偏光サングラスを介して視認する場合の視認性を改善する処理(代表的には、(楕)円偏光機能を付与すること、超高位相差を付与すること)が施されていてもよい。このような処理を施すことにより、偏光サングラス等の偏光レンズを介して表示画面を視認した場合でも、優れた視認性を実現することができる。したがって、偏光板および位相差層付偏光板は、屋外で用いられ得る画像表示装置にも好適に適用され得る。
【0036】
視認側保護層30の厚みは、好ましくは10μm~60μm、より好ましくは15μm~50μmである。なお、表面処理が施されている場合、視認側保護層30の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0037】
内側保護層(存在する場合)は、1つの実施形態においては、光学的に等方性であることが好ましい。本明細書において「光学的に等方性である」とは、面内位相差Re(550)が0nm~10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が-10nm~+10nmであることをいう。別の保護層の厚みは、好ましくは5μm~80μm、より好ましくは10μm~40μm、さらに好ましくは10μm~30μmである。本発明の実施形態においては、内側保護層は好ましくは省略され得る。
【0038】
A-5.粘着剤層
粘着剤層を構成する粘着剤としては、代表的には、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、およびポリエーテル系粘着剤が挙げられる。粘着剤のベース樹脂を形成するモノマーの種類、数、組み合わせおよび配合比、ならびに、架橋剤の配合量、反応温度、反応時間等を調整することにより、目的に応じた所望の特性を有する粘着剤を調製することができる。粘着剤のベース樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。透明性、加工性および耐久性などの観点から、アクリル系粘着剤(アクリル系粘着剤組成物)が好ましい。アクリル系粘着剤組成物は、代表的には、(メタ)アクリル系ポリマーを主成分として含む。(メタ)アクリル系ポリマーは、粘着剤組成物の固形分中、例えば50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上の割合で粘着剤組成物に含有され得る。(メタ)アクリル系ポリマーは、モノマー単位としてアルキル(メタ)アクリレートを主成分として含有する。なお、(メタ)アクリレートはアクリレートおよび/またはメタクリレートをいう。アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分中、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上の割合で含有され得る。アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基としては、例えば、1個~18個の炭素原子を有する直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。当該アルキル基の平均炭素数は、好ましくは3個~9個であり、より好ましくは3個~6個である。好ましいアルキル(メタ)アクリレートは、ブチルアクリレートである。(メタ)アクリル系ポリマーを構成するモノマー(共重合モノマー)としては、アルキル(メタ)アクリレート以外に、カルボキシル基含有モノマー、ヒドロキシル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、芳香環含有(メタ)アクリレート、複素環含有ビニル系モノマー等が挙げられる。アクリル系粘着剤組成物は、好ましくは、シランカップリング剤および/または架橋剤を含有し得る。シランカップリング剤としては、例えばエポキシ基含有シランカップリング剤が挙げられる。架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、過酸化物系架橋剤が挙げられる。さらに、アクリル系粘着剤組成物は、酸化防止剤および/または導電剤を含有してもよい。粘着剤の詳細は、例えば、特開2006-183022号公報、特開2015-199942号公報、特開2018-053114号公報、特開2016-190996号公報、国際公開第2018/008712号に記載されており、これらの公報の記載は本明細書に参考として援用される。
【0039】
粘着剤は、25℃における貯蔵弾性率が、好ましくは1.0×104Pa~1.0×106Paであり、より好ましくは1.0×104Pa~1.0×105Paである。粘着剤の貯蔵弾性率がこのような範囲であれば、層間のはがれ、または浮きなどを抑制することができ、アンモニウムイオンの排出に対する悪影響を防止することができる。
【0040】
粘着剤は、70℃におけるクリープ量ΔCrが、例えば65μm以下であり、50μm以下、45μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下、25μm以下、20μm以下、さらには15μm以下であってもよい。クリープ量ΔCrの下限は、例えば0.5μmである。クリープ量がこのような範囲であれば、貯蔵弾性率の場合と同様に、層間のはがれ、または浮きなどを抑制することができ、アンモニウムイオンの排出に対する悪影響を防止することができる。なお、クリープ値は、例えば以下の手順で測定され得る:縦20mm×横20mmの接合面にてステンレス製試験板に貼り付けた粘着剤に対して、試験板を固定した状態で500gfの荷重を鉛直下方に加える。荷重を加え始めてから100秒後及び3600秒後の各時点における試験板に対する粘着剤のクリープ量(ずれ量)を測定し、それぞれCr100及びCr3600とする。測定したCr100及びCr3600から、式ΔCr=Cr3600-Cr100によりクリープ量ΔCrが求められ得る。
【0041】
粘着剤層の厚みは、好ましくは2μm~40μmであり、より好ましくは3μm~20μmであり、さらに好ましくは4μm~15μmである。
【0042】
B.位相差層付偏光板
上記A-1項に記載のとおり、本発明の実施形態による偏光板は、粘着剤層40を介して位相差層が貼り合わせられて、位相差層付偏光板を構成してもよい。したがって、位相差層付偏光板もまた、本発明の実施形態に包含され得る。本発明の実施形態による位相差層付偏光板は、有機EL表示装置に適用した場合に脱色が顕著に抑制され得る。位相差層は、代表的には、円偏光機能または楕円偏光機能を有する。位相差層は、代表的には、逆分散波長特性を示し、かつ、λ/4板として機能し得る。位相差層は、樹脂フィルムの延伸フィルムであってもよく、液晶化合物の配向固化層(液晶配向固化層)であってもよい。位相差層は、好ましくは、樹脂フィルムの延伸フィルムである。このような構成であれば、アンモニウムイオンの偏光子への侵入を良好に抑制することができる。樹脂フィルムを構成する樹脂の代表例としては、ポリカーボネート系樹脂またはポリエステルカーボネート系樹脂が挙げられる。
【0043】
C.有機EL表示装置
上記A項に記載の偏光板および上記B項に記載の位相差層付偏光板は、有機EL表示装置に適用され得る。したがって、偏光板または位相差層付偏光板を含む有機EL表示装置もまた、本発明の実施形態に包含される。有機EL表示装置は、代表的には、その視認側に偏光板または位相差層付偏光板を備える。位相差層付偏光板は、位相差層が有機ELセル側となるように(偏光板が視認側となるように)積層されている。1つの実施形態においては、有機EL表示装置は、湾曲した形状(実質的には、湾曲した表示画面)を有し、および/または、屈曲もしくは折り曲げ可能である。上記のとおり、本発明者らは、偏光板および位相差層付偏光板を有機EL表示装置に適用した場合に、有機ELパネルから発生するアンモニア(実質的には、アンモニウムイオン)により偏光板および位相差層付偏光板が脱色するという新たな課題を発見し、上記A項に記載の偏光板および上記B項に記載の位相差層付偏光板により当該課題を解決した。すなわち、有機EL表示装置において、本発明の実施形態による偏光板および位相差層付偏光板の効果が顕著である。
【実施例0044】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
(1)厚み
偏光子の厚みは、干渉膜厚計(大塚電子社製、製品名「MCPD-3000」)を用いて測定した。また、接着層の厚みは、実施例および比較例の偏光板を切削し、偏光板断面を走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製 「JSM7100F」)を用いて観察し、当該顕微鏡画像から測定した。
(2)単体透過率および偏光度
実施例および比較例に用いた偏光板について、紫外可視分光光度計(大塚電子社製「LPF200」)を用いて測定した単体透過率Ts、平行透過率Tp、直交透過率Tcをそれぞれ、偏光子のTs、TpおよびTcとした。これらのTs、TpおよびTcは、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。得られたTpおよびTcから、下記式により偏光度Pを求めた。
偏光度P(%)={(Tp-Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
測定波長210nmの直交透過率Tc210から直交吸光度A210を、および、測定波長550nmの直交透過率Tc550から直交吸光度A550を、それぞれ日立ハイテクノロジーズ社製「U4100」を用いて求めた。また、測定波長470nmの直交透過率Tc470から直交吸光度A470を、および、測定波長600nmの直交透過率Tc600から直交吸光度A600を、それぞれ日本分光社製、製品名「V-7100」を用いて求めた。
(3)透湿度
JIS Z 0208に準じて測定した。具体的には、実施例および比較例で用いた保護層(を構成するフィルム)を10cmΦの円状に切り出し、測定試料とした。この測定試料について、日立製作所社製「MOCON」を用いて、40℃、92%RHの試験条件で透湿度を測定した。
(4)直交b値
実施例および比較例に用いた偏光板を、紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて測定し、クロスニコル状態での色相を求めた。直交b値が低い(負の値で、かつ、絶対値が大きい)偏光板ほど、色相がニュートラルではなく青色になっていることを示している。
(5)アンモニア脱色試験
ガラス瓶(直径30mmおよび深さ50mmの円筒状)に10%アンモニア水溶液1.5mlを入れた。このとき、アンモニア水溶液の液面からガラス瓶の口(上端)までの距離は約30mmであった。実施例および比較例で得られた偏光板を30mm×30mmサイズに切り出し、測定資料とした。この測定資料でガラス瓶の口がすべて覆われるようにして、かつ、蒸気が隙間から漏れないようにして、粘着剤層を介してガラス瓶の口の縁に測定資料を貼り合わせた。測定資料で覆われたガラス瓶を60℃で2時間加熱した。偏光板(実質的には、偏光子)の加熱前の偏光度をP0、加熱後の偏光度をP20として、下記式から偏光度変化の絶対値|ΔP|を算出した。|ΔP|が小さいほど、アンモニアによる脱色が抑制されていることを意味する。
|ΔP|=|P20-P0|
得られたΔPに基づいて、以下の基準で評価した。
A:|ΔP|が10%以下
B:|ΔP|が10%より大きく25%以下
C:|ΔP|が25%より大きく50%以下
D:|ΔP|が50%より大きく75%以下
E:|ΔP|が75%より大きい
【0045】
[実施例1]
1.偏光子の作製
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用い、樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加したものを水に溶かし、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で縦方向(長手方向)に2.4倍に一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が43.0%となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、約90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が約75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに接触させた(乾燥収縮処理)。
このようにして、樹脂基材上に偏光子を形成し、樹脂基材/偏光子の構成を有する積層体を得た。
【0046】
2.偏光板の作製
上記で得られた積層体の偏光子表面に、接着層を介して保護層を貼り合わせた。具体的には以下のとおりである。アセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、固形分濃度4%、三菱化学社製、商品名「ゴーセネックスZ-200」)6.02部、正電荷を有するアルミナコロイド(平均粒子径15nm)を固形分濃度3.2%で含有する水溶液25部、および純水18.98部を混合して水系接着剤を得た。偏光子表面に、樹脂組成物の乾燥後の厚みが0.09μmになるように塗工し、ロール機を使用してHC-TACフィルムを貼り合わせた後、樹脂組成物を乾燥させることにより、接着層を形成するとともに偏光子と保護層とを貼り合わせた。なお、HC-TACフィルムは、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(厚み25μm)にハードコート(HC)層(厚み7μm)が形成されたフィルムであり、TACフィルムが偏光子側となるようにして貼り合わせた。HC-TACフィルムの透湿度は427g/m2・24hであった。次いで、樹脂基材を剥離し、当該剥離面にアクリル系粘着剤(厚み20μm)を配置し、視認側保護層(HC-TACフィルム)/接着層/偏光子/粘着剤層(アクリル系粘着剤)の構成を有する偏光板を得た。得られた偏光板における偏光子の厚みは5μm、単体透過率は43.0%、A550/A210は1.44、A470/A600は0.94、直交b値は-1.58であった。得られた偏光板を上記(5)の評価に供した。結果を表1に示す。
なお、アクリル系粘着剤は以下のようにして調製した。攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた4つ口フラスコに、ブチルアクリレート91部、アクリロイルモルホリン6部、アクリル酸2.7部および4-ヒドロキシブチルアクリレート0.3部を含有するモノマー混合物を仕込んだ。さらに、このモノマー混合物100部に対して、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.1部を酢酸エチル100部と共に仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した後、フラスコ内の液温を55℃付近に保って8時間重合反応を行って、重量平均分子量(Mw)270万、Mw/Mn=3.8のアクリル系ポリマーの溶液を調製した。上記アクリル系ポリマー溶液の固形分100部に対して、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート付加物(東ソー社製、商品名「コロネートL」)0.1部、過酸化物架橋剤(日本油脂社製、商品名「ナイパーBMT」)0.3部およびエポキシ基含有シランカップリング剤(信越化学工業社製、商品名「KBM-403」)0.2部を配合して、アクリル系粘着剤を得た。
【0047】
[実施例2]
接着層の厚みを0.07μmとしたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例3]
接着層の厚みを0.05μmとしたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例4]
TACフィルムの厚みを40μmとしたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。TACフィルムの透湿度は300g/m2・24hであった。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例5]
延伸条件を変更して偏光子の光学特性を変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂基材/偏光子の構成を有する積層体を得た。偏光子の厚みは5μm、単体透過率は43.0%、A550/A210は1.37、A470/A600は0.90、直交b値は-2.62であった。以下の手順は実施例1と同様にして偏光板を得た。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例6]
厚み30μmのポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルム(クラレ製、製品名「PE3000」)の長尺ロールを、ロール延伸機により長手方向に5.9倍になるように長手方向に一軸延伸しながら同時に膨潤、染色、架橋、洗浄処理を施し、最後に乾燥処理を施すことにより厚み12μmの偏光子を作製した。
具体的には、膨潤処理は20℃の純水で処理しながら2.2倍に延伸した。次いで、染色処理は得られる偏光子の単体透過率が43.0%になるようにヨウ素濃度が調整されたヨウ素とヨウ化カリウムの重量比が1:7である30℃の水溶液中において処理しながら1.4倍に延伸した。更に、架橋処理は、2段階の架橋処理を採用し、1段階目の架橋処理は40℃のホウ酸とヨウ化カリウムを溶解した水溶液において処理しながら1.2倍に延伸した。1段階目の架橋処理の水溶液のホウ酸含有量は5.0重量%で、ヨウ化カリウム含有量は3.0重量%とした。2段階目の架橋処理は65℃のホウ酸とヨウ化カリウムを溶解した水溶液において処理しながら1.6倍に延伸した。2段階目の架橋処理の水溶液のホウ酸含有量は4.3重量%で、ヨウ化カリウム含有量は5.0重量%とした。また、洗浄処理は、20℃のヨウ化カリウム水溶液で処理した。洗浄処理の水溶液のヨウ化カリウム含有量は2.6重量%とした。最後に、乾燥処理は70℃で5分間乾燥させて偏光子を得た。
この偏光子を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。偏光子の厚みは12μm、単体透過率は43.0%、A550/A210は2.57、A470/A600は0.84、直交b値は―1.80であった。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例1]
接着層の厚みを1μmとしたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例2]
視認側保護層としてHC-TACフィルムの代わりにHC-COPフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を得た。HC-COPフィルムは、COPフィルム(厚み25μm)にハードコート(HC)層(厚み2μm)が形成されたフィルムであり、その透湿度は35g/m2・24hであった。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
[評価]
表1から明らかなように、本発明の実施例によれば、アンモニアに曝されても偏光度がほとんど変化しない(すなわち、脱色しない)偏光板を得ることができる。すなわち、本発明の実施例によれば、有機EL表示装置に適用した場合に脱色が抑制された偏光板および位相差層付偏光板を実現できることがわかる。一方、比較例の偏光板は偏光機能が大幅に減少している。