IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JCRファーマ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103800
(43)【公開日】2024-08-01
(54)【発明の名称】歯髄由来細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240725BHJP
【FI】
C12N5/0775
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024093271
(22)【出願日】2024-06-07
(62)【分割の表示】P 2020534684の分割
【原出願日】2019-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2018143793
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】今川 究
(72)【発明者】
【氏名】南 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 謙一
(72)【発明者】
【氏名】細田 勇喜
(72)【発明者】
【氏名】渡部 俊介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和聡
(72)【発明者】
【氏名】東口 泰奈
(72)【発明者】
【氏名】串田 尚
(72)【発明者】
【氏名】石割 あゆみ
(57)【要約】
【課題】ヒトに投与することのできる新規な歯髄由来の多能性幹細胞製剤を提供すること。
【解決手段】多能性幹細胞が富化された歯髄由来細胞の製造方法であって,(a)歯髄をプロテアーゼで消化して歯髄の懸濁物を調製するステップと,(b)該懸濁物を培養して,該懸濁物に含まれる多能性幹細胞を増殖させるステップと,(c)該増殖させた多能性幹細胞を,第1の凍結保存液に懸濁させた状態にして凍結させるステップと,(d)該凍結させた多能性幹細胞を解凍させるステップと,(e)該解凍させた多能性幹細胞を,担体粒子の表面に接着させた状態で培養して,該担体粒子の表面で多能性幹細胞を増殖させるステップと,(f)該担体粒子をプロテアーゼと接触させて,該担体粒子の表面に接着した多能性幹細胞を該担体粒子から分離させるステップと,(g)分離させた多能性幹細胞の懸濁物を調製するステップと,を含んでなるものである,製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞が富化された歯髄由来細胞の製造方法であって,
(a)ヒトの永久歯又は乳歯から得られた歯髄をプロテアーゼで消化して歯髄の懸濁物を調製するステップと,
(b)該懸濁物を培養して,該懸濁物に含まれる多能性幹細胞を増殖させるステップと,
(c)該増殖させた多能性幹細胞を,第1の凍結保存液に懸濁させた状態にして凍結させるステップと,
(d)該凍結させた多能性幹細胞を解凍させるステップと,
(e)該解凍させた多能性幹細胞を,担体粒子の表面に接着させた状態で培養して,該担体粒子の表面で多能性幹細胞を増殖させるステップと,
(f)該担体粒子をプロテアーゼと接触させて,該担体粒子の表面に接着した多能性幹細胞を該担体粒子から分離させるステップと,
(g)分離させた多能性幹細胞の懸濁物を調製するステップと,
を含んでなるものであり,該ステップ(c)又は(d)において,該多能性幹細胞の品質検査が行われるものであり,
該品質検査が,該第1の凍結保存液に懸濁させる前の細胞から分取した細胞,該第1の凍結保存液に懸濁させる前の細胞から分取し継代させた細胞,該第1の凍結保存液に懸濁させ分取した凍結前の細胞,分取し凍結させて解凍した直後の細胞,及び/又は分取し凍結させ解凍し更に培養して得られた細胞に対して,行われるものであり、
該品質検査が,下記品質検査a,e,f及びgの2以上について行われるものであり、且つ、該多能性幹細胞がヒトに投与されるものである、製造方法:
品質検査a:光学顕微鏡下で観察したとき,細胞全体に占める略紡錘形の形態を示す細胞数の割合が,99%以上,99.5%以上,99.9%以上,又は99.95%以上であることの検証;
品質検査e:細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,インターフェロンγで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原が陽性となることの検証,又は,
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,インターフェロンγで細胞を刺激したときに,CD40が陰性,CD80が陰性,CD86が陰性,及びMHC-クラスII抗原が陽性であることのうち,少なくとも何れかの検証;
品質検査f:細胞が,プロスタグランジンE及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現し,且つプロスタグランジンEにあっては,細胞をTNFαで刺激することによりその発現量が増加することの検証;
品質検査g:軟骨細胞への分化を誘導する物質を含有する培地で培養したとき,アグリカンの発現量が増加することの検証。
【請求項2】
該品質検査が,該品質検査a,e,f及びgの全てについて行われるものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ステップ(g)において,該懸濁物をろ過膜に負荷し,通過した細胞を回収することを更に含んでなる,請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
該ろ過膜が,20μm~80μmの孔径を有するものである,請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
(h)ステップ(g)で得られた該懸濁物を,第2の凍結保存液に懸濁させた状態にして凍結させるステップ,
を更に含んでなるものである,請求項1乃至4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
ステップ(h)において用いられる第2の凍結保存液が,重炭酸リンゲル液,ヒト血清アルブミン,及びDMSOを含んでなるものである,請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
ステップ(g)において,該多能性幹細胞の品質検査が行われるものである,請求項1乃至4に記載の製造方法。
【請求項8】
ステップ(g)又は(h)において,該多能性幹細胞の品質検査が行われるものである,請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項9】
該品質検査が,該第2の凍結保存液に懸濁させる前の細胞から分取した細胞,該第2の凍結保存液に懸濁させる前の細胞から分取し継代させた細胞,該第2の凍結保存液に懸濁させ分取した凍結前の細胞,分取し凍結させて解凍した直後の細胞,及び/又は分取し凍結させ解凍し更に培養して得られた細胞に対して,行われるものである,請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
該品質検査が,下記品質検査a’~j’の1又は2以上について行われるものである,請求項7又は9に記載の製造方法:
品質検査a’:光学顕微鏡下で観察したときに,細胞全体に占める略紡錘形の形態を示す細胞数の割合が,99%以上,99.5%以上,99.9%以上,又は99.95%以上であることの検証;
品質検査b’:細胞の生存率が,50%以上,60%以上,70%以上,80%以上,90%以上,又は95%以上であることの検証;
品質検査c’:細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105及びCD166が陽性であり,且つCD34及びCD45は陰性であることの検証,又は
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73及びCD90の少なくとも一つが陽性であり,且つCD34が陰性であることの検証;
品質検査d’:細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性であることの検証,又は
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つが陰性であることの検証;
品質検査e’:細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,インターフェロンγで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原が陽性となることの検証,
又は,細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,インターフェロンγで細胞を刺激したときに,CD40が陰性,CD80が陰性,CD86が陰性,及びMHC-クラスII抗原が陽性であることのうち,少なくとも何れかの検証;
品質検査f’:細胞が,プロスタグランジンE及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現し,且つプロスタグランジンEにあっては,細胞をTNFαで刺激することによりその発現量が増加することの検証;
品質検査g’:軟骨細胞への分化を誘導する物質を含有する培地で培養したとき,アグリカンの発現量が増加することの検証;
品質検査h’:骨細胞への分化を誘導する物質を含有する培地で培養したとき,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加することの検証;
品質検査i’:細胞培養プレート上で細胞が,3回以上,4回以上,又は5回以上の細胞分裂能を有することの検証;
品質検査j’:細胞培養プレート上での細胞の平均倍化時間が,該品質検査i’の実施期間において,96時間以内,84時間以内,72時間以内,48時間以内,又は36時間以内であることの検証。
【請求項11】
ステップ(g)又は(h)において品質検査に供される多能性幹細胞におけるCD107bの陽性率が,ステップ(c)又は(d)において品質検査に供される多能性幹細胞における対応する陽性率よりも高いものである,
請求項7乃至10の何れかに記載の製造方法。
【請求項12】
ステップ(g)又は(h)において品質検査に供される多能性幹細胞におけるCD39,CD49a,CD61,CD107a,CD107b,及びCD143のうち少なくとも一つの陽性率が,ステップ(c)又は(d)において品質検査に供される多能性幹細胞における対応する陽性率よりも高く,且つ
ステップ(g)又は(h)において品質検査に供される多能性幹細胞におけるCD146の陽性率が,ステップ(c)又は(d)において品質検査に供される多能性幹細胞における対応する陽性率よりも低いものである,
請求項7乃至11の何れかに記載の製造方法。
【請求項13】
ステップ(g)又は(h)において品質検査に供される多能性幹細胞におけるIL-6,HGF,IGFBP-4,IL-11,TIMP-3,及びTIMP-2の少なくとも一つの発現量が,ステップ(c)又は(d)において品質検査に供される多能性幹細胞における対応する発現量よりも高いものである,請求項7乃至12の何れかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,歯髄から得られる軟骨細胞分化能及び骨細胞分化能を有する多能性幹細胞に関し,例えば,かかる多能性幹細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数系統の細胞への分化能を有する幹細胞(多能性幹細胞)は,種々の組織から得られることが知られている。骨髄から単離される間葉系幹細胞はその一つであり,骨細胞,心筋細胞,軟骨細胞,脂肪細胞等,種々の細胞に分化する能力を有している(特許文献1~4)。この分化能を利用して,種々の組織における再生医療への間葉系幹細胞の応用が試みられている。例えば,心筋梗塞により壊死した心筋を再生させるために,間葉系幹細胞の心筋梗塞患者への投与が試みられ,それにより患者の心機能が改善したとの報告がなされている(非特許文献1)。
【0003】
間葉系幹細胞は,上記のように,骨髄に限らず脂肪組織(特許文献5),胎盤組織及び臍帯組織(特許文献6)等,種々の組織から取得できることが知られている。
【0004】
歯組織からも多能性幹細胞が取得できることは,例えば,多能性幹細胞が,歯髄(特許文献7~11),歯小嚢(特許文献12),歯嚢(特許文献11,13),歯乳頭(特許文献14),歯根膜(特許文献15)等から取得できることが報告されている。歯組織に由来する多能性幹細胞は,一般に脂肪細胞への分化能を有するとされている(非特許文献2~4)。
【0005】
歯髄からの多能性幹細胞の取得は,概ね以下の手順で行われる(特許文献16)。抜歯体を破砕して得られた組織をI型コラゲナーゼとディスパーゼ(登録商標)で処理し,フィルターに通して細胞塊を除去し,細胞の懸濁液を得る。次いで細胞を,20%FBSを含むDMEM培地を用いて細胞培養プレート内で増殖させる。細胞培養プレートの内面に固着して増殖した細胞を,トリプシン処理して剥がし,これを回収する。こうして回収された細胞が歯髄由来の多能性幹細胞であるとされている。なお,ディスパーゼは,Bacillus polymyxa由来の中性プロテアーゼである。
【0006】
歯髄は,歯の歯髄腔を満たす疎線維性結合組織であり,存在部位により冠部歯髄と根部歯髄に区分される。また,歯組織に由来する多能性幹細胞は,一般に脂肪細胞への分化能を有するとされる一方(非特許文献2~4),歯髄由来の幹細胞は,脂肪細胞に分化しないとの報告がある(特許文献8)。すなわち,歯髄から取得される幹細胞には,脂肪細胞への分化能の有無により区別される少なくとも2つのタイプが存在する可能性がある。また,乳歯の歯髄から取得される幹細胞は,永久歯の歯髄から取得されるものと比較して,高い増殖能を有し,FGF2,TGF-β,コラーゲンI及びコラーゲンIIIを高発現する等,永久歯の歯髄に存在する幹細胞とは性状が異なることも報告されている(特許文献16)。その他,歯髄由来の多能性幹細胞は,骨芽細胞への分化誘導に関し,骨髄由来の間葉系幹細胞と性質が異なることを示す報告もある(特許文献11)。
【0007】
歯髄由来の多能性幹細胞は,神経疾患治療剤としての使用等の臨床応用が期待されている(特許文献17)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5486359号
【特許文献2】米国特許第5827740号
【特許文献3】米国特許第6835377号
【特許文献4】米国特許第6387369号
【特許文献5】特開2004-129549
【特許文献6】特開2004-210713
【特許文献7】特開2010-252778
【特許文献8】WO2002/007679
【特許文献9】特表2008-507962
【特許文献10】WO2009/072527
【特許文献11】特開2004-201612
【特許文献12】特表2009-527223
【特許文献13】特表2005-516616
【特許文献14】特開2006-238875
【特許文献15】特開2008-295420
【特許文献16】特開2010-268715
【特許文献17】特開2011-219432
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Katritsis DG.et. al.,Catheter Cardiovasc Interv.65(3):321-9(2005)
【非特許文献2】Gronthos S.et. al.,J Dent Res.81(8):531-5(2002)
【非特許文献3】Tirino V.et. al.,Stem Cell Rev.7(3):608-15(2011)
【非特許文献4】Vishwanath VR et. al.,J Conserv Dent.16(5):423-8(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一目的は,脳梗塞の治療などに有用な,ヒトに投与することのできる新規な歯髄由来の多能性幹細胞製剤を提供することである。本発明の他の目的は,かかる多能性幹細胞を市場に十分な量で安定供給できるよう,歯髄由来の多能性幹細胞を効率よく製造するための方法を提供することである。また本発明の更なる目的は,当該細胞を,流通や保管に適した安定性が維持できる形で製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,鋭意検討を重ねた結果,ヒトの抜歯体から取得した歯髄組織から多能性幹細胞が富化された歯髄由来細胞を効率よく製造する方法を見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を含むものである。
1.多能性幹細胞が富化された歯髄由来細胞の製造方法であって,
(a)歯髄をプロテアーゼで消化して歯髄の懸濁物を調製するステップと,
(b)該懸濁物を培養して,該懸濁物に含まれる多能性幹細胞を増殖させるステップと,
(c)該増殖させた多能性幹細胞を,第1の凍結保存液に懸濁させた状態にして凍結させるステップと,
(d)該凍結させた多能性幹細胞を解凍させるステップと,
(e)該解凍させた多能性幹細胞を,担体粒子の表面に接着させた状態で培養して,該担体粒子の表面で多能性幹細胞を増殖させるステップと,
(f)該担体粒子をプロテアーゼと接触させて,該担体粒子の表面に接着した多能性幹細胞を該担体粒子から分離させるステップと,
(g)分離させた多能性幹細胞の懸濁物を調製するステップと,
を含んでなるものである,製造方法。
2.該ステップ(c)又は(d)において,該多能性幹細胞の品質検査が行われるものである,上記1に記載の製造方法。
3.該品質検査が,該第1の凍結保存液に懸濁させる前の細胞から分取した細胞,該第1の凍結保存液に懸濁させる前の細胞から分取し継代させた細胞,該第1の凍結保存液に懸濁させ分取した凍結前の細胞,分取し凍結させて解凍した直後の細胞,及び/又は分取し凍結させ解凍し更に培養して得られた細胞に対して,行われるものである,上記2に記載の製造方法。
4.該品質検査が,下記品質検査a~jの1又は2以上について行われるものである,上記3に記載の製造方法:
品質検査a:光学顕微鏡下で観察したとき,細胞全体に占める略紡錘形の形態を示す細胞数の割合が,99%以上,99.5%以上,99.9%以上,又は99.95%以上であることの検証;
品質検査b:細胞の生存率が,50%以上,60%以上,70%以上,80%以上,90%以上,又は95%以上であることの検証;
品質検査c:細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34及びCD45が陰性であることの検証,又は
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73及びCD90の少なくとも一つが陽性であり,且つCD34が陰性であることの検証;
品質検査d:細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性であることの検証,又は
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つが陰性であることの検証;
品質検査e:細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,インターフェロンγで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原が陽性となることの検証,又は,
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,インターフェロンγで細胞を刺激したときに,CD40が陰性,CD80が陰性,CD86が陰性,及びMHC-クラスII抗原が陽性であることのうち,少なくとも何れかの検証;
品質検査f:細胞が,プロスタグランジンE及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現し,且つプロスタグランジンEにあっては,細胞をTNFαで刺激することによりその発現量が増加することの検証;
品質検査g:軟骨細胞への分化を誘導する物質を含有する培地で培養したとき,アグリカンの発現量が増加することの検証;
品質検査h:骨細胞への分化を誘導する物質を含有する培地で培養したとき,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加することの検証;
品質検査i:細胞培養プレート上で10回以上,14回以上,又は15回以上の細胞分裂能を有することの検証;
品質検査j:細胞培養プレート上での細胞の平均倍化時間が,該品質検査iの実施期間において,96時間以内,84時間以内,72時間以内,48時間以内,又は36時間以内であることの検証。
5.ステップ(g)において,該懸濁物をろ過膜に負荷し,通過した細胞を回収することを更に含んでなる,上記1乃至4の何れかに記載の製造方法。
6.該ろ過膜が,20μm~80μmの孔径を有するものである,上記5に記載の製造方法。
7.該歯髄がヒトの永久歯又は乳歯から得られたものである,上記1乃至6の何れかに記載の製造方法。
8.ステップ(a)において用いられるプロテアーゼが,セリンプロテアーゼ,メタロプロテアーゼ又はこれらの混合物を含むものである,上記1乃至7の何れかに記載の製造方法。
9.ステップ(a)において用いられるプロテアーゼが,メタロプロテアーゼを含むものである,上記1乃至7の何れかに記載の製造方法。
10.ステップ(a)において用いられるプロテアーゼが,マトリックスメタロプロテアーゼ,中性メタロプロテアーゼ又はこれらの混合物を含むものである,上記1乃至7の何れかに記載の製造方法。
11.ステップ(a)において用いられるプロテアーゼが,コラゲナーゼと中性メタロプロテアーゼを含むものである,上記1乃至7の何れかに記載の製造方法。
12.該コラゲナーゼが,コラゲナーゼI,コラゲナーゼII,又はこれらの混合物を含むものである,上記11に記載の製造方法。
13.該中性メタロプロテアーゼが,テルモリシン,ディスパーゼ,又はこれらの混合物を含むものである,上記10又は11に記載の製造方法。
14.ステップ(c)において用いられる第1の凍結保存液が,重炭酸リンゲル液,ヒト血清アルブミン,及びDMSOを含んでなるものである,上記1乃至13の何れかに記載の製造方法。
15.ステップ(e)において用いられる担体粒子が,膨潤状態において80~300μmの直径を有する略球形の形状を有するものである,上記1乃至14の何れかに記載の製造方法。
16.該担体粒子が,膨潤状態において該担体粒子の表面に開口する孔径3~40μmの孔を有する多孔性のものである,上記15に記載の製造方法。
17.該担体粒子が,ゼラチンを含んでなるものである,上記1乃至16の何れかに記載の製造方法。
18.ステップ(f)において用いられるプロテアーゼが,セリンプロテアーゼ,メタロプロテアーゼ,又はその混合物を含むものである,上記1乃至17の何れかに記載の製造方法。
19.ステップ(f)において用いられるプロテアーゼが,トリプシンを含むものである,上記1乃至17の何れかに記載の製造方法。
20.(h)ステップ(g)で得られた該懸濁物を,第2の凍結保存液に懸濁させた状態にして凍結させるステップ,
を更に含んでなるものである,上記1乃至19の何れかに記載の製造方法。
21.ステップ(h)において用いられる第2の凍結保存液が,重炭酸リンゲル液,ヒト血清アルブミン,及びDMSOを含んでなるものである,上記20に記載の製造方法。
22.ステップ(g)において,該多能性幹細胞の品質検査が行われるものである,上記1乃至19に記載の製造方法。
23.ステップ(g)又は(h)において,該多能性幹細胞の品質検査が行われるものである,上記20又は21に記載の製造方法。
24.該品質検査が,該第2の凍結保存液に懸濁させる前の細胞から分取した細胞,該第2の凍結保存液に懸濁させる前の細胞から分取し継代させた細胞,該第2の凍結保存液に懸濁させ分取した凍結前の細胞,分取し凍結させて解凍した直後の細胞,及び/又は分取し凍結させ解凍し更に培養して得られた細胞に対して,行われるものである,上記22又は23に記載の製造方法。
25.該品質検査が,下記品質検査a’~j’の1又は2以上について行われるものである,上記22又は24に記載の製造方法:
品質検査a’:光学顕微鏡下で観察したときに,細胞全体に占める略紡錘形の形態を示す細胞数の割合が,99%以上,99.5%以上,99.9%以上,又は99.95%以上であることの検証;
品質検査b’:細胞の生存率が,50%以上,60%以上,70%以上,80%以上,90%以上,又は95%以上であることの検証;
品質検査c’:細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105及びCD166が陽性であり,且つCD34及びCD45は陰性であることの検証,又は
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73及びCD90の少なくとも一つが陽性であり,且つCD34が陰性であることの検証;
品質検査d’:細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性であることの検証,又は
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つが陰性であることの検証;
品質検査e’:細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,インターフェロンγで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原が陽性となることの検証,
又は,細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,インターフェロンγで細胞を刺激したときに,CD40が陰性,CD80が陰性,CD86が陰性,及びMHC-クラスII抗原が陽性であることのうち,少なくとも何れかの検証;
品質検査f’:細胞が,プロスタグランジンE及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現し,且つプロスタグランジンEにあっては,細胞をTNFαで刺激することによりその発現量が増加することの検証;
品質検査g’:軟骨細胞への分化を誘導する物質を含有する培地で培養したとき,アグリカンの発現量が増加することの検証;
品質検査h’:骨細胞への分化を誘導する物質を含有する培地で培養したとき,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加することの検証;
品質検査i’:細胞培養プレート上で細胞が,3回以上,4回以上,又は5回以上の細胞分裂能を有することの検証;
品質検査j’:細胞培養プレート上での細胞の平均倍化時間が,該品質検査i’の実施期間において,96時間以内,84時間以内,72時間以内,48時間以内,又は36時間以内であることの検証。
26.ステップ(g)又は(h)において品質検査に供される多能性幹細胞におけるCD107bの陽性率が,ステップ(c)又は(d)において品質検査に供される多能性幹細胞における対応する陽性率よりも高いものである,
上記22乃至25の何れかに記載の製造方法。
27.ステップ(g)又は(h)において品質検査に供される多能性幹細胞におけるCD39,CD49a,CD61,CD107a,CD107b,及びCD143のうち少なくとも一つの陽性率が,ステップ(c)又は(d)において品質検査に供される多能性幹細胞における対応する陽性率よりも高く,且つ
ステップ(g)又は(h)において品質検査に供される多能性幹細胞におけるCD146の陽性率が,ステップ(c)又は(d)において品質検査に供される多能性幹細胞における対応する陽性率よりも低いものである,
上記22乃至26の何れかに記載の製造方法。
28.ステップ(g)又は(h)において品質検査に供される多能性幹細胞におけるIL-6,HGF,IGFBP-4,IL-11,TIMP-3,及びTIMP-2の少なくとも一つの発現量が,ステップ(c)又は(d)において品質検査に供される多能性幹細胞における対応する発現量よりも高いものである,上記22乃至27の何れかに記載の製造方法。
29.上記1乃至28の何れかに記載の製造方法で得られる細胞。
30.CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34及びCD45が陰性である,上記29に記載の細胞。
31.CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である,上記30に記載の細胞。
32.インターフェロンγにより刺激されたときMHC-クラスII抗原が陽性となるものである,上記31に記載の細胞。
33.以下の(1)~(4)の少なくとも一つで示される特徴を有する歯髄由来多能性幹細胞:
(1)CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34,CD40,CD45,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性であり,インターフェロンγにより刺激されたときMHC-クラスII抗原が陽性となるものであり,プロスタグランジンE及び/又は血管内皮増殖因子を発現し,プロスタグランジンEにあっては,TNFαにより刺激されたとき発現量が増加すること;
(2)CD73,CD90,CD105,及びCD166の少なくとも一つが陽性であり,且つCD34及びCD45が陰性であること;
(3)CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つが陽性であり,CD19,CD34,及びCD206の少なくとも一つが陰性であること;
(4)CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つが陽性であり,CD19,CD31,CD33,CD34,CD38,CD45,CD206,CD235a,及びSSEA-1の少なくとも一つが陰性であること。
34.骨細胞及び軟骨細胞への分化能を有する,上記33に記載の細胞。
35.細胞を培地中に浮遊させた状態でのその平均直径が16~20μmである,上記33又は34に記載の細胞。
36.in vitroの環境下で,3回以上の細胞分裂能を有し,且つ,平均倍化時間が96時間以内であるものである,上記33乃至35の何れかに記載の細胞。
37.以下の特徴を有する上記33乃至35の何れかの歯髄由来多能性幹細胞:
in vitroの環境下で,10回以上,15回以上,16回以上,又は17回以上の細胞分裂を経たものであり,且つ,その細胞分裂の平均時間が48時間以内であるものであり;
in vitroの環境下で,10回以上,14回以上,又は15回以上の細胞分裂をする能力を有するものであり,且つ,その細胞分裂の平均時間が,96時間以内,84時間以内,72時間以内,48時間以内,又は36時間以内であること。
38.以下の特徴を有する上記33乃至35の何れかの歯髄由来多能性幹細胞:
in vitroの環境下で,16回以上,21回以上,22回以上,又は23回以上の細胞分裂を経たものであり;
in vitroの環境下で,3回以上,4回以上,又は5回以上の細胞分裂をする能力を有するものであり,且つ,その細胞分裂の平均時間が,96時間以内,84時間以内,72時間以内,48時間以内,又は36時間以内であること。
39.CD19,CD26,CD106,CD117,及びCD271の少なくとも一つが陰性である,上記33乃至38の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
40.CD140b及びHLA-A,B,Cの少なくとも一つが陽性である,上記33乃至39の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
41.CD56及びCD146の少なくとも一つが陰性である,上記33乃至40の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
42.CD49e及びCD95の少なくとも一つが陽性である,上記33乃至41の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
43.CD10,CD46,CD47,CD55,CD58,及びCD59の少なくとも一つが陽性である,上記33乃至42の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
44.MMP-2,IGFBP-4,シスタチンC,IL-6,IL-11,MCP-1,IL-8,HGF,VEGF,TIMP-1,TIMP-2,及びTIMP-3の少なくとも一つを発現するものである,上記33乃至43の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
45.GROα,VCAM-I,及びIP-10の少なくとも一つを発現するものである,上記33乃至44の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
46.IL-6を発現するものであり,且つその発現量がTNF-α刺激,及びインターフェロンγ刺激により増加するものである,上記33乃至45の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
47.IL-11を発現するものであり,且つその発現量がTNF-α刺激,及びインターフェロンγ刺激により増加するものである,上記33乃至46の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
48.IP-10を発現するものであり,且つその発現量がTNF-α刺激,及びインターフェロンγ刺激により増加するものである,上記33乃至47の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
49.MCP-1を発現するものであり,且つその発現量がTNF-α刺激,及びインターフェロンγ刺激により増加するものである,上記33乃至48の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
50.TNF-α刺激によりGM-CSFの発現が誘導されるものである,上記33乃至49の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
51.HGFを発現するものであり,且つその発現量がTNF-α刺激により減少し,及びインターフェロンγ刺激により増加するものである,上記33乃至50の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
52.IL-8を発現するものであり,且つその発現量がTNF-α刺激により増加するものである,上記33乃至51の何れかの歯髄由来多能性幹細胞。
53.該歯髄がヒトの永久歯又は乳歯から得られたものである,上記33乃至52の何れかに記載の歯髄由来多能性幹細胞。
54.ヒト血清アルブミンとジメチルスルホキシドとを含有する重炭酸リンゲル液中に上記33乃至53の何れかの歯髄由来多能性幹細胞が懸濁された状態で含まれるものである,組成物。
55.ナトリウムイオン,カリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン,炭酸水素イオン,クエン酸イオン,ヒト血清アルブミン,及びジメチルスルホキシドを含む溶液中に,上記33乃至53の何れかの歯髄由来多能性幹細胞が懸濁された状態で含まれるものである,組成物。
56.ナトリウムイオンを91~113mM,カリウムイオンを2.52~3.08mM,カルシウムイオンを0.95~1.16mM,マグネシウムイオンを0.315~0.385mM,炭酸水素イオンを15.6~19.2mM,クエン酸イオンを1.04~1.28mM,ヒト血清アルブミンを46~56g/L,及びジメチルスルホキシドを9~11%(v/v)の濃度でそれぞれ含むものである,上記55の組成物。
57.アセチルトリプトファン又はその塩及びカプリル酸又はその塩を更に含むものである,上記54乃至56の何れかの組成物。
58.歯髄由来多能性幹細胞を,5×10~8×10個/mLの密度で含むものである,上記54乃至57の何れかの組成物。
59.容器に1~20mLの量で封入されたものである,上記54乃至58の何れかの組成物。
60.該容器がガラス又はプラスチック製である,上記59の組成物。
61.凍結状態のものである,上記54乃至60の何れかの組成物。
62.上記54乃至61の何れかの組成物を含むものである,医薬組成物。
63.自己免疫疾患,炎症性疾患,間節リウマチ,クローン病,慢性炎症性腸疾患,心筋梗塞,脳梗塞(慢性期脳梗塞,急性期脳梗塞を含む),慢性炎症性脱髄性多発性神経炎,多発性硬化症,全身性エリテマトーデス,肝硬変(非代償性肝硬変を含む),敗血症,骨関節炎,乾癬,及び器官移植片拒絶からなる群より選択される疾患の治療剤である,上記62の医薬組成物。
64.自己免疫疾患,炎症性疾患,間節リウマチ,クローン病,慢性炎症性腸疾患,心筋梗塞,脳梗塞(慢性期脳梗塞,急性期脳梗塞を含む),慢性炎症性脱髄性多発性神経炎,多発性硬化症,全身性エリテマトーデス,肝硬変(非代償性肝硬変を含む),敗血症,骨関節炎,乾癬,及び器官移植片拒絶からなる群より選択される疾患の治療に使用するための,上記62の医薬組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,脳梗塞の治療などに有用な,ヒトに投与することのできる新規な歯髄由来の多能性幹細胞製剤が提供される。また本発明によれば,ヒトに投与し得る,かかる多能性幹細胞が富化された歯髄由来細胞(多能性幹細胞富化歯髄由来細胞)を効率よく製造できるため,これを有効成分として含有してなる医薬品を,需要に応じて安定供給することが可能となる。また安定な形で多能性幹細胞富化歯髄由来細胞を提供できることから,流通や保管での品質劣化のおそれも回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は,実施例7及び実施例16で得られた中間体及び歯髄由来細胞製剤のそれぞれに含まれる歯髄由来細胞(中間体細胞,及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞)における細胞粒子径の測定結果の平均を示すグラフである。縦軸は平均粒子径(μm)を示す。左から順に,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞の平均粒子径を示す。エラーバーは標準偏差を示す(n=3)。
図2図2は,実施例7及び実施例16で得られた歯髄由来細胞の骨細胞分化能試験の結果を示すグラフである。縦軸はカルシウム濃度(μg/mL)を示す。中間体細胞(実施例7)及び歯髄由来細胞製剤中の細胞(実施例16)のそれぞれについて,黒棒は骨細胞分化誘導群,白棒はコントロール群の細胞から遊離したカルシウム濃度を示す。
図3図3は,実施例7及び実施例16で得られた歯髄由来細胞の軟骨細胞分化能試験の結果を示すグラフである。縦軸はアグリカン(ACAN)のCt値を示す。中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤中の細胞のそれぞれについて,黒棒は軟骨細胞分化誘導群,白棒はコントロール群の細胞のアグリカン(ACAN)のCt値を示す。
図4図4は,実施例7及び実施例16で得られた歯髄由来細胞の表面抗原の測定結果を示すグラフである。縦軸は陽性細胞の比率(%)を示す。中間体細胞(黒棒)及び歯髄由来細胞製剤中の細胞(白棒)のそれぞれについて,左から順に,CD34,CD45,CD73,CD90,CD105,及びCD166の陽性細胞の比率を示す。
図5図5は,実施例7で得られた中間体に含まれる歯髄由来細胞(中間体細胞)の表面抗原の測定結果を示すグラフである。縦軸は陽性細胞の比率(%)を示す。左から順に,CD9,CD10,CD13,CD29,CD44,CD46,CD47,CD49b,CD49c,CD49f,CD55,CD58,CD59,CD63,CD73,CD81,CD90,CD98,CD140b,CD147,CD151,CD164,CD166,EGF-R(上皮成長因子受容体),及びHLA-A,B,C(ヒト白血球抗原-A,B,C)の陽性細胞の比率をそれぞれ示す。値には平均値を用い,エラーバーは標準誤差を示す(n=9)。
図6図6は,実施例16で得られた歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞の表面抗原の測定結果を示すグラフである。縦軸は陽性細胞の比率(%)を示す。左から順に,CD9,CD10,CD13,CD29,CD44,CD46,CD47,CD49b,CD49c,CD49e,CD49f,CD55,CD58,CD59,CD63,CD73,CD81,CD90,CD95,CD98,CD140b,CD147,CD151,CD164,CD166,EGF-R,及びHLA-A,B,Cの陽性細胞の比率を示す。値には平均値を用い,エラーバーは標準誤差を示す(n=7)。
図7図7は,実施例7及び実施例16で得られた中間体と製剤との間で,それらに含まれる歯髄由来細胞における陽性率の差が10%以上であった表面抗原につき,それらの差(製剤での陽性率(%)-中間体での陽性率(%))を示すグラフである。左から順に,CD39,CD49a,CD61,CD107a,CD107b,CD143,及びCD146での結果を示す。値は平均値であり,エラーバーは標準誤差を示す(n=7)。
図8図8は,実施例7及び実施例16で得られた中間体及び製剤中の歯髄由来細胞のVEGF分泌能試験の結果を示すグラフである。縦軸は血管内皮増殖因子(VEGF)の分泌量(pg/1×10細胞)を示す。
図9図9は,実施例7及び実施例16で得られた中間体及び製剤中の歯髄由来細胞のプロスタグランジンE(PGE)分泌能試験の結果を示すグラフである。縦軸はPGEの分泌量(pg/1×10細胞)を示す。黒棒はTNFα(腫瘍壊死因子α)刺激群,白棒はTNFα無刺激群での結果をそれぞれ示す。
図10図10は,実施例7及び実施例16で得られた歯髄由来細胞のキヌレニン分泌能試験の結果を示すグラフである。縦軸は中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤中の細胞のそれぞれについてキヌレニンの分泌量(ng/1×10細胞)を示す。
図11A図11Aは,実施例7で得られた中間体歯髄由来細胞の低免疫原性試験の結果を示すグラフである。縦軸は陽性細胞の比率(%)を示す。黒棒はIFNγ(インターフェロンγ)無刺激群,白棒はIFNγ刺激群での結果を示す。左から順に,MHC(主要組織適合性)クラスI抗原,MHC(主要組織適合性)クラスII抗原,CD40,CD80,及びCD86の陽性細胞の比率を示す。
図11B図11Bは,実施例16で得られた製剤中の歯髄由来細胞の低免疫原性試験の結果を示すグラフである。縦軸は陽性細胞の比率(%)を示す。黒棒はIFNγ無刺激群,白棒はIFNγ刺激群での結果を示す。左から順に,MHC-クラスI抗原,MHC-クラスII抗原,CD40,CD80,及びCD86の陽性細胞の比率を示す。
図12図12は,実施例7及び実施例16で得られた中間体及び製剤のそれぞれに含まれる歯髄由来細胞の無刺激時における,培養上清中のサイトカイン等の各種因子の濃度の測定結果を示すグラフである。縦軸は各種因子の濃度(pg/1×10細胞)を示す。中間体細胞(黒棒)及び歯髄由来細胞製剤中の細胞(白棒)のそれぞれについて,左から順に,MMP-2(マトリックスメタロプロテアーゼ-2),IGFBP-4(インスリン様成長因子結合タンパク質-4),及びシスタチンC(cystatin C)の濃度を示す。値は平均値であり,エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
図13図13は,実施例7及び実施例16で得られた中間体と製剤のそれぞれに含まれる歯髄由来細胞の無刺激時における培養上清中のサイトカイン等の各種因子の濃度の測定結果を示すグラフである。縦軸は各種因子の濃度(pg/1×10細胞)を示す。中間体細胞(黒棒)及び歯髄由来細胞製剤中の細胞(白棒)のそれぞれについて,左から順に,IL-6(インターロイキン-6),IL-11(インターロイキン-11),MCP-1(Monocyte Chemotactic Protein-1),IL-8(インターロイキン-8),GROα(Human Growth Regulated Protein alpha),HGF(肝細胞増殖因子),VEGF(血管内皮増殖因子),VCAM-1(Vascular Cell Adhesion Molecule-1),TIMP-3(Tissue inhibitor of Metalloproteinase-3),TIMP-2(Tissue inhibitor of Metalloproteinase-2),及びTIMP-1(Tissue inhibitor of Metalloproteinase-1)の濃度を示す。値は平均値であり,エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
図14図14は,実施例7及び実施例16で得られた中間体と製剤のそれぞれに含まれる歯髄由来細胞の無刺激時における培養上清中のサイトカイン等の各種因子の濃度の測定結果を示す図である。縦軸は各種因子の濃度(pg/1×10細胞)を示す。中間体(黒棒)及び製剤(白棒)のそれぞれについて,左から順に,IL-23(インターロイキン-23),IL-21(インターロイキン-21),IFN-α(インターフェロン-α),TNF-α,IL-18(インターロイキン-18),IL-33(インターロイキン-33),IL-27(インターロイキン-27),TARC(Thymus and activation―regluated chemokine),ENA-78(Epithelial neutrophil-activating protein-78),MIP-3α(マクロファージ炎症性蛋白質-3α),MIP-1β(マクロファージ炎症性蛋白質-1β),Eotaxin,IP-10(インターフェロンγ誘導タンパク質-10),MIP-1α(マクロファージ炎症性蛋白質-1α),MIG(Monokine induced by gamma interferon),I-TAC(Interferon-inducible T-cell alpha chemoattractant),SCF(幹細胞因子),GM-CSF(顆粒球単球コロニー刺激因子),及びICAM-1(Intercelluar adhesion moleculue―1)の濃度を示す。値は平均値であり,エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
図15図15は,実施例7及び実施例16で得られた中間体と製剤との間で,それらに含まれる歯髄由来細胞の無刺激時における培養上清中のサイトカイン等の各種因子のうち,製剤での濃度が中間体より高かったものについて,それらの比(製剤での濃度/中間体での濃度)を示すグラフである。左から順に,IL-6,IL-23,IL-11,MCP-1,ENA-78,HGF,VEGF,MMP-2,IGFBP-4,シスタチンC,TIMP-3,TIMP-2,及びTIMP-1の濃度比を示す。値には平均値を用い,エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
図16図16は,実施例7及び実施例16で得られた中間体と製剤のそれぞれに含まれる歯髄由来細胞について,無刺激,TNF-α刺激,及びIFN-γ刺激のそれぞれの群における培養上清中のIL-6の濃度を示すグラフである。縦軸は濃度(pg/1×10細胞)を示す。中間体(黒棒)及び製剤(白棒)のそれぞれについて,左から順に,無刺激群,TNF-α刺激群,及びIFN-γ刺激群での濃度を示す。値には平均値を用い,エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
図17図17は,実施例7及び実施例16で得られた中間体と製剤のそれぞれに含まれる歯髄由来細胞について,無刺激,TNF-α刺激,及びIFN-γ刺激のそれぞれの群における培養上清中のIL-11の濃度を示すグラフである。縦軸は濃度(pg/1×10細胞)を示す。中間体(黒棒)及び製剤(白棒)のそれぞれについて,左から順に,無刺激群,TNF-α刺激群,及びIFN-γ刺激群の結果を示す。値は平均値であり,エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
図18図18は,実施例7及び実施例16で得られた中間体と製剤のそれぞれに含まれる歯髄由来細胞について,無刺激,TNF-α刺激,及びIFN-γ刺激のそれぞれの群における培養上清中のIP-10の濃度を示すグラフである。縦軸は濃度(pg/1×10細胞)を示す。中間体(黒棒)及び製剤(白棒)のそれぞれについて,左から順に,無刺激群,TNF-α刺激群,及びIFN-γ刺激群の結果を示す。値は平均値であり,エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
図19図19は,実施例7及び実施例16で得られた中間体と製剤のそれぞれに含まれる歯髄由来細胞について,無刺激,TNF-α刺激,及びIFN-γ刺激のそれぞれの群における培養上清中のMCP-1の濃度を示すグラフである。縦軸は濃度(pg/1×10細胞)を示す。中間体(黒棒)及び製剤(白棒)のそれぞれについて,左から順に,無刺激群,TNF-α刺激群,及びIFN-γ刺激群の結果を示す。値は平均値であり,エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
図20図20は,実施例7及び実施例16で得られた中間体と製剤のそれぞれに含まれる歯髄由来細胞について,無刺激,TNF-α刺激,及びIFN-γ刺激のそれぞれの群における培養上清中のGM-CSFの濃度を示すグラフである。縦軸は濃度(pg/1×10細胞)を示す。中間体(黒棒)及び製剤(白棒)のそれぞれについて,左から順に,無刺激群,TNF-α刺激群,及びIFN-γ刺激群での結果を示す。値は平均値であり,エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
図21図21は,実施例7及び実施例16で得られた中間体と製剤のそれぞれに含まれる歯髄由来細胞について,無刺激,TNF-α刺激,及びIFN-γ刺激のそれぞれの群における培養上清中のHGFの濃度を示すグラフである。縦軸は濃度(pg/1×10細胞)を示す。中間体(黒棒)及び製剤(白棒)のそれぞれについて,左から順に,無刺激群,TNF-α刺激群,及びIFN-γ刺激群での結果を示す。値は平均値であり,エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
図22図22は,実施例7及び実施例16で得られた中間体と製剤のそれぞれに含まれる歯髄由来細胞について,無刺激,TNF-α刺激,及びIFN-γ刺激のそれぞれの群における培養上清中のIL-8の濃度を示すグラフである。縦軸は濃度(pg/1×10細胞)を示す。中間体(黒棒)及び製剤(白棒)のそれぞれについて,左から順に,無刺激群,TNF-α刺激群,及びIFN-γ刺激群での結果を示す。値は平均値であり,エラーバーは標準誤差を示す(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
多能性幹細胞は,自己複製能と共に2種以上の細胞への分化能をも有する細胞をいう。本発明により得られるヒト歯髄由来の多能性幹細胞は,好ましくは,軟骨細胞及び骨細胞への分化能を有するものであるが,これに特に限定されるものではない。
【0015】
本発明により得られる多能性幹細胞が軟骨細胞への分化能を有することは,例えば,細胞を,細胞の軟骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したときの,アグリカン遺伝子の発現量を定量することにより確認できる。アグリカンは,軟骨の細胞外マトリクスを構成する主要な分子であり,細胞の軟骨細胞への分化が誘導されると,発現量が増加する。この測定法において,細胞の軟骨細胞への分化を誘導する物質(軟骨細胞分化誘導物質)としては,例えば,TGF-b3を用いることができる。実施例20に記載の測定法は,軟骨細胞への分化能の測定法の好適な一例である。
【0016】
本発明により得られる多能性幹細胞が骨細胞への分化能を有することは,例えば,細胞を,細胞の骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したときの,細胞におけるカルシウムの蓄積量を定量することにより確認できる。骨細胞への分化が誘導されると,細胞にカルシウムが蓄積する。この測定法において,骨細胞への分化を誘導する物質(骨細胞分化誘導物質)としては,例えば,デキサメタゾン,β-グリセロフォスフェート,グリコサミノグリカン,アスコルビン酸,骨形成因子2(BMP-2),及びこれらの塩を,単独で又は組み合わせて用いることができる。例えば,デキサメタゾン,アスコルビン酸塩,及びβ-グリセロフォスフェートを組み合わせたものは,骨細胞分化誘導剤として好適に用いることができる。実施例19に記載の測定法は,骨細胞への分化能の測定法の好適な一例である。
【0017】
本発明において,「多能性幹細胞が富化された歯髄由来細胞」又は「多能性幹細胞富化歯髄由来細胞」とは,歯髄由来であって,歯髄から直接採取される細胞に比して多能性幹細胞の占める割合(個数割合)が高められた細胞の集合をいい,歯髄から培養等による選択を経て最終的に単離された多能性幹細胞を包含する。歯髄から直接採取される細胞は,多能性幹細胞がそれ以外の細胞と混在したものである。これを培養すると,多能性幹細胞は,他の細胞と比較して増殖能が高いので,培養開始時と比較して,培養終了時には多能性幹細胞の比率が高められる。培養を繰り返すことにより,多能性幹細胞の比率はより高められることになるので,ほぼ多能性幹細胞のみを含む細胞を得ることもできる。つまり,「多能性幹細胞富化歯髄由来細胞」とは,細胞全体に占める多能性幹細胞の比率が,培養等する過程で多能性幹細胞が増殖することにより,歯髄から採取された直後におけるよりも高められた多能性幹細胞を包含する。歯髄がヒト由来のものであるものは,特に「多能性幹細胞富化ヒト歯髄由来細胞」という。
【0018】
本発明において,歯髄から直接単離された多能性幹細胞,及び歯髄から培養を経て得られる多能性幹細胞富化歯髄由来細胞に含まれる多能性幹細胞は,「歯髄由来多能性幹細胞」と総称し,文脈によっては単に「歯髄由来幹細胞」又は「歯髄幹細胞」ということもある。歯髄がヒト由来のものであるものは,特に「ヒト歯髄由来多能性幹細胞」といい,単に「ヒト歯髄由来幹細胞」又は「ヒト歯髄幹細胞」ということもある。本明細書に記載の一実施形態である,「中間体に含まれる細胞(中間体細胞)」及び「歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞」は,実質的に多能性幹細胞のみを含むものであり,何れも歯髄由来多能性幹細胞である。
【0019】
本発明において,検査対象の細胞集団につきその表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,ある抗原が陽性であるというときは,細胞の集団を全体として観察したときに,観察した細胞のうち,好ましくは30%以上,より好ましくは40%以上,更に好ましくは50%以上,より更に好ましくは60%以上,より更に好ましくは70%以上,より更に好ましくは80%以上,より更に好ましくは90%以上,特に好ましくは95%以上が,その抗原が陽性であることを意味する。表面抗原の発現パターンは,例えば実施例21又は22に記載の方法で調べることができるが,これらに限られることはない。
【0020】
本発明において,検査対象の細胞集団につきその表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,ある抗原が陰性であるというときは,細胞の集団を全体として観察したときに,観察した細胞のうち,好ましくは20%未満,より好ましくは10%未満,更に好ましくは5%未満,より更に好ましくは2%未満,特に好ましくは1%未満が,その抗原が陽性であることを意味する。表面抗原の発現パターンは,例えば実施例21又は22に記載の方法で調べることができるが,これらに限られることはない。
【0021】
本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,軟骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したとき,アグリカンの発現量増加が全体として観察される。また,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したとき,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加するのが全体として観察される。すなわち,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,全体として観察したとき,軟骨細胞及び骨細胞への分化能を備えている。
【0022】
一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体(集団)として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166の少なくとも一つが陽性である。同様に,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,CD34及びCD45の少なくとも一つが陰性である。例えば,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,例えば,CD73及びCD90が陽性であり,且つCD34が陰性である。また,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34及びCD45が陰性である。この発現パターンは,間葉系幹細胞と共通する。
【0023】
また,一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つが陰性である。例えば,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,例えば,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である。これらの表面抗原マーカーが陽性の細胞は,同種異系の個体に移植したときに,抗原として認識されて生体内から排除される傾向にあることが知られている。これらの表面抗原マーカーの少なくとも一つが陰性であることは,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞が,それだけ低免疫原性の性質を有し,同種異型の個体に移植したときに生体内から排除され難い傾向を有することを示している。また,これら表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,IFN-γで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,CD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となってもよい。例えば,IFN-γで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,及びCD86が陰性のままであり,MHC-クラスII抗原が陽性となる。
【0024】
一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,例えば,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34,CD40,CD45,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である。このとき,IFN-γで細胞を刺激したときに,例えば,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となり得る。
【0025】
一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞(歯髄由来多能性幹細胞)は,
(a-1)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD29,CD46,CD47,CD59,CD73,CD81,CD90,CD147,及びHLA-A,B,Cの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したとき,観察した細胞の好ましくは70%以上,より好ましくは80%以上,更に好ましくは90%以上で陽性である。
【0026】
また,一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(a-2)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD9,CD44,CD49b,CD49c,CD55,CD98,及びEGF-Rの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したとき,観察した細胞の好ましくは65%以上,より好ましくは75%以上で陽性であり,更に好ましくは80%以上で陽性である。
【0027】
また,一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(a-3)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD49f,CD140b,及びCD166の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したとき,観察した細胞の好ましくは60%以上,より好ましくは70%以上で陽性であり,更に好ましくは75%以上で陽性である。
【0028】
また,一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(a-4)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD10,CD13,CD58,CD63,CD105,CD151,及びCD164の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したとき,観察した細胞の好ましくは60%以上,より好ましくは65%以上で陽性であり,更に好ましくは70%以上で陽性である。
【0029】
一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,好ましくは,上記の(a-1),(a-2),(a-3),及び(a-4)で示される特徴の2以上,より好ましくは3以上,更に好ましくはこれら全ての特徴を有するものである。例えば,上記の(a-1)及び(a-2)で示される特徴を有する細胞は,本発明の好適な一実施形態である。
【0030】
一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(a-5)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD120b,CD132,CD158a,CD161,CD184,CD195,CD206,CD210,CD212,CD226,CD244,CD267,CD278,CD279,CD282,CD294,SSEA-1(ステージ特異的胎児抗原-1),TRA-1-60,SSEA-3(ステージ特異的胎児抗原-3),CLA(皮膚リンパ球関連抗原),及びインテグリンβ7の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したとき,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下,更に好ましくは2%以下,より更に好ましくは1%以下の細胞でのみ陽性である。
【0031】
一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞,
(a-6)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD8b,CD11b,CD15s,CD16,CD19,CD24,CD31,CD32,CD62E,CD62P,CD66f,CD86,CD88,CD94,CD100,CD103,CD114,CD117,CD118,CD121b,CD122,CD123,CD124,CD126,CD127,CD128b,CD135,CD137,CD137リガンド,CD150,CD163,CD172b,CD177,CD178,CD180,CD197,CD220,CD229,CD231,CD255,CD268,CD305,CD314,CD321,CDw327,CDw328,CD329,CD335,CD336,BLTR-1(ロイコトリエンB4受容体),CLIP,CMRF-44,CMRF-56,fMLP-R(N-ホルミルメチオニル-ロイシル-フェニルアラニン受容体),Invariant NKT,及びγδTCR(γδT細胞受容体)の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したとき,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下の細胞,更に好ましくは2%以下の細胞でのみ陽性である。
【0032】
一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞,
(a-7)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD1a,CD1b,CD1d,CD2,CD3,CD5,CD6,CD7,CD8a,CD11c,CD15,CD18,CD21,CD22,CD23,CD25,CD26,CD27,CD28,CD33,CD34,CD35,CD37,CD38,CD40,CD41a,CD41b,CD42b,CD45,CD45RB,CD45RO,CD48,CD50,CD53,CD62L,CD64,CD66(a,c,d,e),CD69,CD70,CD72,CD80,CD84,CD85,CD87,CD89,CDw93,CD97,CD106,CD134,CD138,CD144,CD154,CD158b,CD162,CD183,CD205,CD235a,CD271,CD309,CD326,CD337,αβTCR(αβT細胞受容体),及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したとき,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下の細胞でのみ陽性である。
【0033】
一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞,好ましくは,上記の(a-1),(a-2),(a-3),(a-4),(a-5),(a-6),及び(a-7)で示される特徴の2以上,より好ましくは3以上,更に好ましくはこれら全ての特徴を有するものである。例えば,上記の(a-1)及び(a-5)で示される特徴を有する細胞は,本発明の好適な一実施形態である。
【0034】
本発明の一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,例えば,プロスタグランジンE(PGE)及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現するものであり,プロスタグランジンE(PGE)にあっては,細胞をTNFαで刺激することにより,その発現量が増加する。VEGFは,血管新生作用を有する物質であることから,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これをヒトに投与することにより,VEGFを介して体内で血管の形成を促進することができるので,血管新生作用を発揮させるべき疾患の治療剤として用いることができる。また,PGEは強力な抗炎症作用を有することから,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これをヒトに投与することにより,PGEを介して体内で炎症部位に作用し,炎症に伴う組織破壊を抑制することができるので,炎症に伴う組織破壊の抑制剤として用いることができる。但し,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞の効果は,VEGFとPGEを介して発揮されるものに限定されるものではない。
【0035】
本発明の一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,IFN―γの存在下で培養したときに,キヌレニンの分泌量を増加させるものである。キヌレニンはT細胞の増殖を抑制するとともに,単球を抗炎症性のM2マクロファージに分化させることができる。従って,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これをヒトに投与することにより,キヌレニンを介して抗炎症作用を発揮することができる。
【0036】
本発明の一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つ又はすべてが陽性であり,且つCD19,CD34,及びCD206の少なくとも一つ又はすべてが陰性である。また,本発明の一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つ又はすべてが陽性であり,且つCD19,CD31,CD33,CD34,CD38,CD45,CD206,CD235a,及びSSEA-1の少なくとも一つ又はすべてが陰性である。
【0037】
本発明の一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD19,CD26,CD106,CD117,及びCD271の少なくとも一つ,例えばこれらの全てが陰性である。
【0038】
本発明の一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD140b,及びHLA-A,B,Cの少なくとも一つ,例えばこれらの全てが陽性である。
【0039】
本発明の一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD10,CD46,CD47,CD55,CD58,及びCD59の少なくとも一つ,例えばこれらの全てが陽性である。
【0040】
本発明の一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,例えば,CD73,CD90,CD105,及びCD166の少なくとも一つが陽性であり,且つCD34及びCD45の少なくとも一つが陰性である。
【0041】
本発明の一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34,CD40,CD45,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である。このとき,IFN―γで細胞を刺激したときに,例えば,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となる。そして,プロスタグランジンE及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現するものであり,プロスタグランジンEにあっては,細胞をTNFαで刺激することにより,その分泌量が増加する。更に,IFN―γで刺激することにより,キヌレニンの分泌量が増加する。
【0042】
本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを培養したときに,種々の液性因子を分泌するものである。
(a-8)一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを培養したときに,MMP-2,IGFBP-4,及びシスタチンCの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現するものである。
【0043】
(a-9)一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを培養したときに,IL-6,IL-11,MCP-1,IL-8,GROα,HGF,VEGF,VCAM-I,TIMP-3,TIMP-2,及びTIMP-1の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現するものである。
【0044】
(a-10)また,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを培養したときに,IL-23,TNF-α,IL-18,IL-33,IL-27,TARC,ENA-78,MIP-3α,MIP-1β,IP-10,SCF,及びICAM-1の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現するものである。
【0045】
(a-11)また,一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを培養したときに,IL-21,エオタキシン(Eotaxin),MIP-1α,MIG,I-TAC,及びGM-CSFの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現しないか,ほとんど発現しないものである。
【0046】
(a-12)また,一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これをTNF-α存在下,又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,IL-6の発現量が増加するものである。
【0047】
(a-13)また,一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これをTNF-α存在下,又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,IL-11の発現量が増加するものである。
【0048】
(a-14)また,一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これをTNF-α存在下,又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,IP-10の発現量が増加するものである。
【0049】
(a-15)また,一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これをTNF-α存在下,又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,MCP-1の発現量が増加するものである。
【0050】
(a-16)また,一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これをTNF-α存在下で培養したときに,GM-CSFの発現が誘導されるが,IFN-γ存在下で培養したときには,GM-CSFの発現が誘導されないものである。
【0051】
(a-17)また,一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これをTNF-α存在下で培養したときに,その無存在下で培養したときに比較して,HGFの発現量が減少する一方,これをIFN-γ存在下で培養したときに,その無存在下で培養したときに比較して,HGFの発現量が増加するものである。
【0052】
(a-18)また,一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これをTNF-α存在下で培養したときに,その無存在下で培養したときに比較して,IL-8の発現量が増加するものである。
【0053】
一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞,好ましくは,上記の(a-8)乃至(a-18)で示される特徴の2以上,より好ましくは3以上,更に好ましくは4以上,なおも更に好ましくはこれら全ての特徴を有するものである。例えば,上記の(a-8)及び(a-14)で示される特徴を有する細胞,上記の(a-8),(a-13)及び(a-14)で示される特徴を有する細胞は,本発明の好適な一実施形態である。
【0054】
本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,ほとんどが歯髄由来多能性幹細胞で占められているものであってよい。平面培養中の歯髄由来多能性幹細胞は,光学顕微鏡下で,多くの場合,細胞培養プレート上で略紡錘形の固着細胞として観察される。但し,培養条件によっては,必ずしも紡錘形の固着細胞として観察されるものとは限らない。
【0055】
本発明において「歯髄」というときは,血管,神経及びリンパ管を含む結合組織と,辺縁部において,象牙質の内側からの沈積と修復を行う能力のある象牙芽細胞層からなる,歯の歯髄腔を満たす疎線維性結合組織のことをいう。また歯髄は,存在部位により冠部歯髄と根部歯髄に区分することができるが,本発明において歯髄というときは,少なくとも冠部歯髄又は根部歯髄いずれか一方を含むものをいう。また,本発明において用いられる歯髄の由来する動物種に特に制限はないが,動物種は,好ましくは哺乳動物であり,より好ましくは霊長類であり,更に好ましくはヒトである。
【0056】
歯髄を取得するための歯は,永久歯でも乳歯でもよく,また,切歯,犬歯,小臼歯,及び大臼歯のいずれであってもよい。かかる歯は,虫歯等に罹患していない健康な歯であることが好ましい。例えば,施術により抜歯された健康な抜歯体は,本発明において好適に用いることができる。特に第3大臼歯は,1個当たりの歯から得られる歯髄の量が多く,又,歯の矯正等の理由により,健康な状態のものが抜歯体として入手容易なことから,特に好適に使用できる。ここで,歯が取得されたヒトの年齢に特に限定はないが,10歳から50歳までのヒトから取得された歯であることが好ましく,15歳から45歳までのヒトから取得された歯であることがより好ましい。また,歯が取得されるヒトの性別にも特に制限はない。
【0057】
歯髄を取得するための歯は,好ましくは抜歯後72時間以内,より好ましくは抜歯後24時間以内のもの,更に好ましくは抜歯後12時間以内のものが用いられる。抜歯体は,重炭酸リンゲル液等で洗浄された後,殺菌剤で殺菌処理される。このとき用いられる殺菌剤に特に限定はないが,グラム陽性菌とグラム陰性菌の何れにも抗菌作用を示すものが好ましく,例えば,1%クロルヘキシジングルコン酸塩溶液が用いられる。
【0058】
歯髄は,抜歯体を機械的に破砕することにより歯髄を露出させることにより,抜歯体から取得することができる。抜歯体から取り出した歯髄は,好ましくはハサミ等の器具を用いて細断された後,プロテアーゼにより消化される。
【0059】
プロテアーゼで消化することにより,抜歯体から取得された歯髄から,歯髄を構成する個々の細胞が遊離する。このとき用いられるプロテアーゼは,セリンプロテアーゼ,メタロプロテアーゼ,又はこれらの混合物を含むものが好ましいが,これらに特に限定されるものではなく,歯髄を構成する個々の細胞を遊離させることのできるプロテアーゼ,すなわち蛋白質性の細胞接着分子を分解できるものであればよい。
【0060】
このとき好適に用いられるメタロプロテアーゼとしては,マトリックスメタロプロテアーゼ,中性メタロプロテアーゼ,又はこれらの混合物が挙げられる。マトリックスメタロプロテアーゼとしては,コラゲナーゼ,ゼラチナーゼ,又はこれらの混合物が好適に使用できる。また,コラゲナーゼとしては,コラゲナーゼI,コラゲナーゼII,又はこれらの混合物が好ましい。中性メタロプロテアーゼとしては,テルモリシン(サーモリシン),ディスパーゼ,又はこれらの混合物が好適に使用できる。
【0061】
好ましいプロテアーゼの組み合わせの一例として,コラゲナーゼI,コラゲナーゼII,及びテルモリシンの混合物が挙げられる。この混合物をプロテアーゼとして使用する場合,反応液中のプロテアーゼの活性は,好ましくは0.17~1.33単位/mLに調整される。コラゲナーゼI,コラゲナーゼII及びテルモリシンを含有するリベラーゼ(登録商標)(ロッシュ社)は,プロテアーゼとして好適に使用できる。
【0062】
コラゲナーゼタイプIIとディスパーゼの混合液を用いる場合,コラゲナーゼタイプIIとディスパーゼの濃度はそれぞれ,好ましくは1~2mg/mLと3000~7000単位/mL,より好ましくは約1.5mg/mLと約5000単位/mLである。
【0063】
抜歯体から取得された歯髄をプロテアーゼにより消化する際の好適な反応温度は,35~37.5℃であり,また好適な反応時間は30分~3時間である。例えば,歯髄はプロテアーゼにより37℃で2時間処理される。但し,反応温度及び反応時間は,プロテアーゼの種類,濃度等によって適宜調整されるべきものである。
【0064】
プロテアーゼにより消化させた歯髄は,歯髄を構成する個々の細胞を歯髄から遊離させるため,ピペッティング等の機械的な手段により解体することができる。このとき,機械的な手段により歯髄を解体する前に,プロテアーゼを不活化させておくことが好ましい。これは反応溶液にプロテアーゼを不活化させる成分を添加することにより行うことができ,そのような成分としては,EDTA等のキレート剤,FBSを含有する細胞培養用培地等がある。歯髄を解体することにより,溶液中に歯髄を構成する細胞等が浮遊状態で存在する懸濁物が得られる。この懸濁物には,歯髄から遊離した多能性幹細胞が含まれる。プロテアーゼを上清とともに除去するため,この懸濁物を一旦遠心して細胞等の不溶物を沈殿させることが好ましい。沈殿させた細胞等は,上清を除去した後,再び懸濁される。再懸濁に用いる溶液としては,例えば,FBSを含有する細胞培養用培地を用いることができる。このようにして得られる歯髄の懸濁物には,歯髄から遊離した細胞に加え,歯髄の組織片も含まれる。
【0065】
歯髄の解体物を細胞培養用培地に懸濁させた歯髄懸濁物は,細胞培養プレートに添加して,該プレート上で培養される。これに用いられる細胞培養用培地は,好ましくは,ウシ胎児血清を添加したダルベッコの修飾イーグル培地である。培地に添加されるウシ胎児血清の濃度(v/v%)は,好ましくは8~25%であり,より好ましくは10~25%であり,例えば,20%である。ダルベッコの修飾イーグル培地(ウシ胎児血清添加前)の詳細な組成の一例を表1に示す。適宜,3~5mM,例えば4mMのL-アラニル-L-グルタミンを培地に添加することもできる。また,所望により,ストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。ストレプトマイシンを培地に添加する場合,培地中でその濃度が,10mg/L~250mg/Lとなるように,例えば100mg/Lとなるように行われる。また,各成分は,その同等物,例えばその塩に,置換することが可能である。
【0066】
1個の抜歯体,例えば1個の成人の第3大臼歯,から得られた歯髄の懸濁物を細胞培養プレート上で培養する場合,当該プレートの培養面積は,好ましくは0.3~4cmであり,より好ましくは0.6~2cmであり,例えば,1cmである。細胞培養プレートに添加される培地の量は,培養面積1cm当たり,好ましくは250μL~1mLであり,例えば,500μLである。例えば,1本の成人の第3大臼歯から得られた歯髄の懸濁物を500μLの培地で懸濁させたものを,培養面積が1cmの細胞培養プレート上に添加して細胞を培養する。
【0067】
【表1】
【0068】
歯髄懸濁物を細胞培養プレート上で培養するときの温度は,好ましくは35~37.5℃であり,例えば37℃である。歯髄懸濁物の培養は,例えば,細胞が増殖することにより目視可能な大きさのコロニーが該プレート上に形成されるまで行われる。このときのコロニーは上方から見たときに略円形をなし,その直径は1~3mm程度であるが,これらに特に限定されることはなく,例えば,コロニーは不定型の場合もある。歯髄懸濁物の培養中,培地は,成分がある一定の範囲内に保たれるように新たなものと交換される。培地の交換は,例えば,1~6日毎,2~4日毎,1日毎,2日毎,3日毎,4日毎に行われる。培地の交換は,培地の全量を新しい培地に交換してもよく,一部を交換してもよい。培地の一部を新しい培地に交換する場合,古い培地の,例えば,1/4~4/5,1/4,1/3,1/2,又は4/5量を除去し,次いで等量の新しい培地が添加される。この培地交換の過程で,歯髄の懸濁物に含まれていた浮遊細胞,組織片等を取り除くこともできる。
【0069】
歯髄の懸濁物を培養することにより細胞培養プレート上にコロニーを形成した細胞は,これをプロテアーゼで処理することにより該プレートから剥離させて回収することができる。このとき用いられるプロテアーゼに,蛋白質性の細胞接着分子を分解できるものである限り特に限定はないが,セリンプロテアーゼが好ましく,トリプシンがより好ましい。トリプシンを用いる場合,その濃度は,好ましくは0.1~0.5%(w/v)であり,より好ましくは0.25%(w/v)である。
【0070】
上記プレートより回収された細胞は,細胞培養用培地に懸濁させてから細胞培養プレートに添加され,該プレート上で培養が開始される。これを初回の細胞培養という。このとき用いられる培地は,好ましくは,ウシ胎児血清を添加したダルベッコの修飾イーグル培地である。培地に添加されるウシ胎児血清の濃度(v/v%)は,好ましくは8~25%であり,より好ましくは8~20%であり,例えば,10%である。ダルベッコの修飾イーグル培地(ウシ胎児血清添加前)の詳細な組成の一例を表1に示す。適宜,3~5mM,例えば4mMのL-アラニル-L-グルタミンを培地に添加することもできる。また,所望により,ストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよいが,通常は,培地に抗生物質は添加しない。ストレプトマイシンを培地に添加する場合,濃度が,10mg/L~250mg/Lとなるように,例えば100mg/Lとなるように添加する。また,各成分は,その同等物,例えばその塩に,置換することが可能である。
【0071】
上記の初回の細胞培養の開始に際し,細胞は,細胞培養プレート上での生細胞密度が,好ましくは2000~30000細胞/cmとなるように,より好ましくは3000~20000細胞/cmとなるように,例えば,3000細胞/cm,5000細胞/cm,10000細胞/cm,20000細胞/cmとなるように添加される。細胞の培養中,培地は,成分がある一定の範囲内に保たれるように,交換される。このとき,培地の交換は,例えば,1~6日毎,2~4日毎,1日毎,2日毎,3日毎,又は4日毎に行われる。培地の交換は,培地の全量を新しい培地に交換してもよく,一部を交換してもよい。培地の一部を新しい培地に交換する場合,古い培地の,例えば,1/4~4/5,1/4,1/3,1/2,又は4/5量を除去し,次いで等量の新しい培地が添加される。この培地交換の過程で,元の細胞に含まれていた浮遊細胞等が取り除かれる結果,細胞培養プレートに固着した細胞が選択される。
【0072】
初回の細胞培養は,細胞培養プレート上の細胞が,好ましくは,ほぼコンフルエントとなるまで行われる。例えば,培養は,細胞培養プレートの細胞が固着できる面の85%以上,90%以上,又は95%以上が細胞で占められる状態になるまで行われる。細胞培養プレート上でほぼコンフルエントとなるまで培養された細胞は,これをプロテアーゼで処理することにより該プレートから剥離させて回収することができる。このとき用いられるプロテアーゼには蛋白質性の細胞接着分子を分解できるものである限り特に限定はないが,セリンプロテアーゼが好ましく,トリプシンがより好ましい。トリプシンを用いる場合,その濃度は,好ましくは0.1~0.5%(w/v)であり,より好ましくは0.25%(w/v)である。
【0073】
上記プレートより回収した細胞は,再度,細胞培養用培地に懸濁させてから細胞培養プレートに添加され,そうして該プレート上で培養される。このとき用いられる培地は,好ましくは,ウシ胎児血清を添加したダルベッコの修飾イーグル培地である。培地に添加されるウシ胎児血清の濃度(v/v%)は,好ましくは8~25%であり,より好ましくは8~20%であり,例えば,10%である。ダルベッコの修飾イーグル培地(ウシ胎児血清添加前)の詳細な組成の一例を表1に示す。適宜,3~5mM,例えば4mMのL-アラニル-L-グルタミンを培地に添加してもよい。また,所望により,ストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよいが,通常は,培地に抗生物質は添加しない。ストレプトマイシンを培地に添加する場合,ストレプトマイシンの培地中での濃度が,10mg/L~250mg/Lとなるように,例えば100mg/Lとなるように添加する。また,各成分は,その同等物,例えばその塩に,置換することが可能である。そして,細胞の培養は,細胞培養プレート上の細胞が,ほぼコンフルエントとなるまで行われる。例えば,培養は,細胞培養プレートの細胞が固着できる面の85%以上,90%以上,又は95%以上が細胞で占められる状態になるまで行われる。
【0074】
このようにして細胞の細胞培養プレートからの回収と細胞培養プレート上での培養を繰り返すことにより,歯髄由来細胞の細胞数を増加させることができる。また,培養中の培地交換により,浮遊細胞が取り除かれて,細胞培養プレートに固着する細胞が優先的に回収される(その結果,選択される)。歯髄由来多能性幹細胞は,細胞培養プレートに固着する性質を有するので,この過程を繰り返すことにより,多能性幹細胞が富化されることになる。すなわち,歯髄懸濁物を細胞培養プレート上で培養する工程,そして培養後に該プレートから回収する工程を経た細胞は,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞である。そうして,細胞の細胞培養プレートからの回収と培養を繰り返すことにより,より一層,多能性幹細胞が富化されることになる。
【0075】
細胞の細胞培養プレートからの回収と培養は,初回の細胞培養も含めて,好ましくは3~20回,より好ましくは3~8回,更に好ましくは4~8回,例えば,4回,5回,6回,7回又は8回繰り返される。細胞培養プレート上で増殖して得られる細胞は,初回の細胞培養終了時点で光学顕微鏡で観察したときには,その多くが略紡錘形の形態を示す多能性歯髄由来細胞であるものの,それ以外の細胞も含まれる。細胞の細胞培養プレートからの回収と培養を3回繰り返すことにより,多能性歯髄由来細胞でほぼ占められるようになるまで,歯髄由来多能性幹細胞が富化される。細胞培養プレートからの細胞の回収と培養を5回以上繰り返すと,益々,歯髄由来多能性幹細胞が富化されて,光学顕微鏡下で観察したときに略紡錘形の形態を示す多能性歯髄由来細胞以外の細胞は,ほとんど観察されなくなる。つまり,細胞の細胞培養プレートからの回収と培養を5回以上繰り返すことにより,歯髄由来多能性幹細胞が実質的に単離されることになる。
【0076】
こうして得られる多能性幹細胞富化歯髄由来細胞に含まれる細胞全体に占める歯髄由来多能性幹細胞の比率は,好ましくは99%以上であり,より好ましくは99.5%以上であり,更に好ましくは99.9%以上であり,より更に好ましくは99.95%以上である。歯髄由来多能性幹細胞の比率は,例えば,光学顕微鏡下で観察したときに略紡錘形の形態を示す細胞数を,全細胞数で除することにより求めることができる。
【0077】
こうして得られる多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,凍結保存液に懸濁させた状態で凍結保存することができる。凍結保存の対象とするためには,細胞培養プレート上での細胞の平均倍化時間が,96時間以内であることが好ましく,84時間以内であることがより好ましく,72時間以内であることが更に好ましく,48時間以内であることが更により好ましく,例えば36時間以内,24時間以内であることが特に好ましい。平均倍化時間に基準を設け,平均倍化時間がある一定の時間以内のものを凍結保存し,その後の利用に供するようにしてもよい。かかる基準としては,例えば,84時間以内,72時間以内,48時間以内と適宜に設定することができる。この基準値を満たさない細胞は,凍結保存することなく破棄することにより,ある一定以上の細胞分裂能を有する細胞のみを選択的に保存することができる。平均倍化時間が短いほど細胞分裂能が高い細胞といえる。
【0078】
このときに用いられる凍結保存液の組成は,哺乳動物細胞,特にヒトの多能性幹細胞富化歯髄由来細胞を死滅させることなく凍結,解凍できるものである限り特に制限はない。凍結保存液は細胞保護剤を含む。細胞保護剤は,例えば,細胞を凍結させるときに細胞内に氷の結晶が形成されて細胞が破壊されることを抑制する機能を有するものである。細胞保護剤として好適なものとして,ジメチルスルホキシド(DMSO),エチレングリコール,プロピレングリコール,セリシン,グリセロールが挙げられる。これらのうち2以上を組み合わせて細胞保護剤として使用することもできる。細胞保護剤としてジメチルスルホキシドを用いる場合,その濃度は好ましくは5~15%(v/v)であり,より好ましくは9~11%(v/v)であり,例えば10%(v/v)である。凍結保存液は緩衝剤を含んでもよい。緩衝剤は,水溶液のpHを6~8,例えば6.8~7.8に調整することのできるものが好ましい。かかる緩衝剤としては,例えば,炭酸イオン,クエン酸イオン及びナトリウムイオンを含有するものが挙げられる。凍結保存液は更にヒト血清アルブミンを含んでもよい。ヒト血清アルブミンを用いる場合,その濃度は好ましくは40~100g/Lであり,より好ましくは46~56g/Lであり,例えば51g/Lである。後述する重炭酸リンゲル液にヒト血清アルブミン溶液とジメチルスルホキシドを添加したものは,凍結保存液として好適なものの一例である。なお,後述する中間体細胞用凍結保存液と製剤細胞用凍結保存液は,何れも凍結保存液である。製造工程で中間体細胞を凍結させるステップを設ける場合,便宜上,前者を第1の凍結保存液(中間体細胞用凍結保存液),後者を第2の凍結保存液(製剤細胞用凍結保存液)という。
【0079】
凍結保存した多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,後述する歯髄由来細胞製剤として用いることもでき,また,(後に更に増殖させるために保存される)中間体細胞として用いることもできる。中間体細胞として多能性幹細胞富化歯髄由来細胞を凍結保存する場合について,以下に詳述する。
【0080】
多能性幹細胞富化歯髄由来細胞を中間体細胞として凍結保存する場合(以下,「中間体細胞として細胞を凍結する場合」という。)にあっては,細胞の細胞培養プレートからの回収と培養は,初回の細胞培養も含めて,好ましくは3~8回,更に好ましくは4~8回,例えば,4回,5回,6回,7回又は8回繰り返される。
【0081】
また,中間体細胞として細胞を凍結する場合にあっては,歯髄懸濁物を培養することにより細胞培養プレート上に形成されたコロニーから回収した細胞は,細胞を凍結するまでに細胞培養プレート上で培養して,10回以上分裂させることが好ましく,15回以上分裂させることがより好ましい。例えば,13~20回,13~23回,14~20回分裂させた細胞が凍結保存される。理論上,15回分裂させることにより,細胞数は3×10倍以上にまで増加する。
【0082】
また,中間体細胞として細胞を凍結する場合にあっては,1個の抜歯体(例えば1個の第三大臼歯)から得られる細胞の数が,通常,好ましくは,3×10個以上となるまで,より好ましくは1×10個以上となるまで,更に好ましくは1×10個以上となるまで,細胞を増殖させる。
【0083】
また,中間体細胞としての凍結保存の対象となるには,細胞培養プレート上での細胞の平均倍化時間は,96時間以内であることが好ましく,84時間以内であることがより好ましく,72時間以内であることが更に好ましく,48時間以内であることが更により好ましく,例えば24時間以内,36時間以内であることが特に好ましい。平均倍化時間に基準を設け,平均倍化時間がある一定の時間以内のものを凍結保存し,その後の利用に供するようにしてもよい。かかる基準としては,例えば,84時間以内,72時間以内,48時間以内と適宜設定することができる。この基準値を満たさない細胞は,凍結保存することなく破棄することにより,ある一定以上の細胞分裂能を有する細胞のみを選択的に保存することができる。平均倍化時間が短いほど細胞分裂能が高い細胞といえる。
【0084】
中間体細胞として細胞を凍結する場合,凍結保存前に,プロテアーゼで処理することにより細胞培養プレートから剥離させて回収した多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,洗浄溶液で洗浄される。このとき用いられる洗浄溶液は,培地とプロテアーゼを十分に除くためのものであり,その組成に特に限定はなく,生理食塩水,リン酸緩衝生理食塩水,酢酸リンゲル液,重炭酸リンゲル液等を用いることができるが,好ましくは,重炭酸リンゲル液にヒト血清アルブミンを添加した溶液である。酢酸リンゲル液及び重炭酸リンゲル液は市販のものを使用することができる。例えば,酢酸リンゲル液としてはPLASMA-LYTE(登録商標)A(バクスター社),フィジオ(登録商標)140(大塚製薬社)を用いることができ,重炭酸リンゲル液としては,ビカーボン(登録商標)注(味の素社)を用いることができる。好適な重炭酸リンゲル液の成分組成及び電解質濃度の一例を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
また,重炭酸リンゲル液にヒト血清アルブミンを添加した洗浄溶液の成分組成として好適な一例を表4に示す。また,重炭酸リンゲル液にヒト血清アルブミンを添加した洗浄溶液に含まれる電解質濃度として好適な一例を表5に示す。なお,表4及び表5に示される洗浄溶液の成分のうち,アセチルトリプトファンナトリウムとカプリル酸ナトリウムは省くことができる。
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
中間体細胞として細胞を凍結する場合,洗浄溶液で洗浄後の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,一旦,遠心分離等の方法により回収される。回収された細胞は,懸濁液とした状態(中間体細胞懸濁液)で,凍結して保存される。但し,細胞を回収することなく,細胞が懸濁されている溶液の組成を,限外ろ過膜等を用いて置き換えることにより,中間体細胞懸濁液を調整し,これを凍結して保存することもできる。中間体細胞懸濁液の溶液部分(中間体細胞用凍結保存液)の組成は,哺乳動物細胞,特にヒトの多能性幹細胞富化歯髄由来細胞を死滅させることなく凍結,解凍できるものである限り特に制限はない。中間体細胞用凍結保存液は細胞保護剤を含む。細胞保護剤は,例えば,細胞を凍結させるときに細胞内に氷の結晶が形成されて細胞が破壊されることを抑制する機能を有するものである。細胞保護剤として好適なものとして,ジメチルスルホキシド(DMSO),エチレングリコール,プロピレングリコール,セリシン,グリセロールが挙げられる。これらの2以上を組み合わせて細胞保護剤として使用することもできる。細胞保護剤としてジメチルスルホキシドを用いる場合,その濃度は好ましくは5~15%(v/v)であり,より好ましくは9~11%(v/v)であり,例えば10%(v/v)である。凍結保存液は緩衝剤を含んでもよい。緩衝剤は,水溶液のpHを6~8,例えば6.8~7.8に調整することのできるものが好ましい。かかる緩衝剤としては,例えば,炭酸イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオン及びナトリウムイオンを含有するものが挙げられる。中間体細胞用凍結保存液は更にヒト血清アルブミンを含んでもよい。ヒト血清アルブミンを用いる場合,その濃度は好ましくは40~100g/Lであり,より好ましくは46~56g/Lであり,例えば51g/Lである。
【0091】
重炭酸リンゲル液にヒト血清アルブミン溶液とジメチルスルホキシドを添加したものは,中間体細胞用凍結保存液として好適なものの一例である。中間体細胞用凍結保存液は,好ましくは,塩化ナトリウムが59~80.4mM,塩化カリウムが2.3~3.08mM,塩化カルシウム二水和物が0.85~1.16mM,塩化マグネシウム六水和物が0.28~0.385mM,炭酸水素ナトリウムが14~19.2mM,クエン酸ナトリウムニ水和物が0.94~1.28mM,ヒト血清アルブミンが46~56g/L,アセチルトリプトファンナトリウムが3.73~4.55mM,カプリル酸ナトリウムが3.74~4.58mM,DMSOが9~11%(v/v)である。中間体細胞用凍結保存液の組成の好適な一例を表6に示す。すなわち,中間体細胞用凍結保存液の組成は,概ね,塩化ナトリウムが65.8~80.4mM,塩化カリウムが2.52~3.08mM,塩化カルシウム二水和物が0.95~1.16mM,塩化マグネシウム六水和物が0.315~0.385mM,炭酸水素ナトリウムが15.7~19.2mM,クエン酸ナトリウムニ水和物が1.04~1.28mM,ヒト血清アルブミンが46~56g/L,アセチルトリプトファンナトリウムが3.73~4.55mM,カプリル酸ナトリウムが3.74~4.58mM,DMSOが9~11%(v/v)である。この中で,アセチルトリプトファンナトリウムとカプリル酸ナトリウムは省くことができる。中間体細胞用凍結保存液の生理食塩水に対する浸透圧比は,好ましくは0.9~1.1である。
【0092】
また,ナトリウムイオン,カリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン,炭酸水素イオン,クエン酸イオン,ヒト血清アルブミン,及びジメチルスルホキシドを含む溶液は,中間体細胞用凍結保存液として好適に用いることができる。例えば,ナトリウムイオンを91~113mM,カリウムイオンを2.52~3.08mM,カルシウムイオンを0.95~1.16mM,マグネシウムイオンを0.315~0.385mM,炭酸水素イオンを15.6~19.mM,クエン酸イオンを1.04~1.28mM,ヒト血清アルブミンを46~56g/L,及びジメチルスルホキシドを9~11%(v/v)の濃度でそれぞれ含む溶液はその好適な一例である。また例えば,ナトリウムイオンを100~102mM,カリウムイオンを2.71~2.77mM,カルシウムイオンを1.01~1.03mM,マグネシウムイオンを0.335~0.345mM,炭酸水素イオンを16.9~17.2mM,クエン酸イオンを1.13~1.15mM,ヒト血清アルブミンを52.2~54.3g/L,及びジメチルスルホキシドを10.3~10.9%(v/v)の濃度でそれぞれ含む溶液はその好適な一例である。更に例えば,ナトリウムイオンを102mM,カリウムイオンを2.80mM,カルシウムイオンを1.05mM,マグネシウムイオンを0.35mM,炭酸水素イオンを17.4mM,クエン酸イオンを1.16mM,ヒト血清アルブミンを51g/L,及びジメチルスルホキシドを10% (v/v)の濃度でそれぞれ含む溶液はその好適な一例である。更に例えば,ナトリウムイオンを101mM,カリウムイオンを2.77mM,カルシウムイオンを1.03mM,マグネシウムイオンを0.34mM,炭酸水素イオンを17.2mM,クエン酸イオンを1.15mM,ヒト血清アルブミンを52g/L,及びジメチルスルホキシドを10%(v/v)の濃度でそれぞれ含む溶液はその好適な一例である。アセチルトリプトファン又はその塩を更に含む場合,その濃度は好ましくは3.73~4.55mM,4.24~4.41mMであり,例えば,4.14mM,4.24mMである。カプリル酸又はその塩を更に含む場合,その濃度は好ましくは3.74~4.58mM,4.25~4.43mMであり,例えば,4.16mM,4.25mMである。
【0093】
【表6】
【0094】
中間体細胞として細胞を凍結する場合,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞を,中間体細胞用凍結保存液に懸濁させた状態の,懸濁液中における細胞密度に特に制限はないが,好ましくは2×10~8×10個/mLであり,より好ましくは4×10~3×10個/mLであり,更に好ましくは8×10~2×10個/mLであり,例えば1.1×10個/mLである。中間体細胞用凍結保存液に懸濁させた多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,細胞凍結保存用容器に分注した後,凍結保存される。
【0095】
このとき,1つの細胞凍結保存用容器に分注される細胞懸濁液の量は,用途等によって適宜調整されるべきものであるが,好ましくは,1~20mLである。また,1つの細胞凍結保存用容器に分注される細胞数は,好ましくは5×10~9.2×10個である。
【0096】
細胞凍結保存用容器として用いられる容器については,その素材が低温での耐久性を示し,且つ内容物を凍結解凍しても破損しないものである限り特に限定はない。細胞の凍結保存用容器として市販されるものを使用することもできる。例えば,ガラス製及びプラスチック製(例えば,ポリオレフィン樹脂製)のクライオチュ―ブは,細胞凍結保存用容器として好適に用いることができる。ここでガラス製のものとしては,特に素材がほう珪酸ガラスであるバイアルが好適に使用できる。また,ここでポリオレフィン樹脂には,ポリエチレン,高密度ポリエチレン,低密度ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレンとプロピレンからなるコポリマー,熱可塑性エラストマーが含まれる。細胞の凍結は,細胞懸濁液を細胞凍結保存用容器に分注して封入した後,段階的に温度を低下させることにより行うことが好ましい。例えば,細胞の凍結方法として,-6℃までは1分あたり1℃の速度で温度を低下させて,その後は急速冷凍する方法を採用することができる。細胞は凍結状態で保存されるが,細胞を凍結保存する温度は,好ましくは-130℃以下であり,より好ましくは-170℃以下であり,更に好ましくは-180℃以下である。例えば,細胞は液体窒素(沸点:-196℃)に細胞凍結保存用容器を浸した状態で保存することができる。
【0097】
このように中間体細胞として凍結保存した細胞は,用時解凍して,歯髄由来細胞製剤の製造のための次の工程に供される。
【0098】
多能性幹細胞富化歯髄由来細胞の製造工程において,増殖した細胞を中間体細胞として一旦保存する工程を設けることは,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞の工程管理上,極めて意義のあることである。例えば,所望量の抜歯体が一度に入手できない場合,入手した抜歯体を原材料として歯髄由来細胞の培養を随時開始して最終製品まで製造すると,最終製品のロットサイズが小さくなり,ロット管理が煩雑になる。ところが,中間体細胞を製造して保存しておくことにより,一定量の中間体細胞が蓄積したところで,これを1バッチとして次の製造工程を開始することができるので,最終製品のロットサイズを大きくすることができ,ロット管理が容易になる。
【0099】
また,中間体細胞として保存するステップを設けることにより,製造工程の中間段階で,細胞の性状等につき品質検査が可能となる。従って,中間体細胞として得られた細胞が,所望の品質基準を満たすものである場合のみ,これを次の製造工程に供することが可能になる。つまり,中間体細胞の製造工程終了時又はその前後で,所望の品質基準を満たさない細胞を除くことができる。これにより,所望の品質基準を満たさない細胞が,以降の工程に持ち込まれることがなくなるので,所望の品質基準を満たす最終製品が製造される確率を高めることができる。つまり製造時の歩留まりを上昇させることができ,製造コストを削減することができる。
【0100】
製造工程において細胞を凍結保存することは,一般には細胞の前後で,細胞の性状が変化する危険性を伴う。また,細胞によっては,凍結保存後の細胞増殖能が劣化するものもある。これに対し,本発明において中間体細胞として得られる細胞は,凍結の前後で細胞の性状の変化が認められず,また,凍結保存後の細胞増殖能の劣化も認められない。
【0101】
中間体細胞として保存するための多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これに含まれる細胞中の生細胞の比率が高いことが好ましい。凍結保存前の生細胞の比率(細胞の生存率)は,50%以上であることが好ましく,60%以上であることがより好ましく,70%以上であることが更に好ましく,例えば,80%以上,90%以上,95%以上であることが好ましい。適宜設けた基準により,凍結保存前の細胞の生存率が,ある一定の数値以上のもののみを中間体細胞として保存するようにすることもできる。
【0102】
中間体細胞として保存するための多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,in vitroの環境下で,好ましくは10回以上の細胞分裂を経たものであり,例えば15回以上,16回以上,又は17回以上の細胞分裂を経たものであり,そして,好ましくは,該細胞分裂期間における平均細胞分裂時間が48時間以内であるものである。
【0103】
なお,本発明において,in vitroの環境下で細胞分裂させるとは,例えば,細胞を,細胞培養用の培地とともに細胞培養用フラスコ等の培養容器に加えた状態で,細胞分裂させることをいう。このときの培養温度は,好ましくは34~38℃であり,より好ましくは36~38℃であり,例えば37℃である。また,細胞は,好ましくは5%COの存在下の湿潤環境で培養される。このとき用いられる細胞培養用の培地は,哺乳動物細胞の培養に用いることのできるものであれば特に限定はなく,例えば,ウシ胎児血清(FBS)を含有するダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)である。培地に含まれるFBSの濃度は,好ましくは2~20%であり,より好ましくは5~20%であり,更に好ましくは8~15%であり,例えば10%である。また,DMEMに含まれるグルコースの濃度は,5~20mMであり,例えば5mMである。好適な培養条件として,培養温度が37℃であり,5%COの存在下の湿潤環境であり,培地が約5mMのグルコースと10%FBSを含有すDMEMであるものが挙げられる。実施例5に記載の歯髄由来細胞の培養法(即ち,細胞培養プレート上,10%FBS添加した5.56mMグルコース含有のDMEM培地,5%CO存在下,37℃)は,in vitroの環境下で細胞分裂させるための好適な方法の一例である。
【0104】
in vitroの環境下で細胞分裂させる場合の細胞の継代は,培養容器から細胞を剥離させ,次いで,この細胞を培養容器の底面積の1/20~1/3が細胞で覆われるように新たな培養容器に播種して行う。細胞が分裂することにより培養容器の底面積の70%以上,80%以上,又は90%以上が細胞で覆われる状態になった場合には,継代を繰り返す。
【0105】
一実施形態において,中間体細胞として保存するための多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,軟骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したとき,アグリカンの発現量増加が全体として観察される。また,中間体細胞として保存するための多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したとき,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加するのが全体として観察される。すなわち,当該多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,全体として観察したとき,軟骨細胞及び骨細胞への分化能を備えている。
【0106】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166の少なくとも一つが陽性であり,CD34及びCD45の少なくとも一つが陰性である。例えば,当該細胞は,全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73及びCD90が陽性であり,且つCD34が陰性である。また例えば,当該細胞は,全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34及びCD45は陰性である。
【0107】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,全体として観察したとき,例えば,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つが陰性である。例えば,当該細胞は,これを全体として観察したとき,例えば,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である。これらの表面抗原マーカーが陽性の細胞は,同種異型の個体に移植したときに,抗原として認識されて生体内から排除される傾向にあることが知られている。これらの表面抗原マーカーの少なくとも一つが陰性であることは,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞が,それだけ低免疫原性の性質を有し,同種異型の個体に移植したときに,生体内から排除され難い傾向を有することを示している。また,これら表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,IFNγで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となってもよい。例えば,これら表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,IFN-γで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となる。
【0108】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,例えば,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34,CD40,CD45,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である。また,IFN-γで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となる。
【0109】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(b-1)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,CD90,CD147,及びHLA-A,B,Cの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは80%以上,より好ましくは90%以上,更に好ましくは95%以上で陽性である。
【0110】
また,一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(b-2)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD29,CD46,CD55,CD59,CD73,及びCD140bの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは70%以上,より好ましくは80%以上,更に好ましくは90%以上で陽性である。
【0111】
また,一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(b-3)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD9,CD44,CD49b,CD49c,CD98,及びEGF-Rの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは65%以上,より好ましくは75%以上,更に好ましくは80%以上で陽性である。
【0112】
また,一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(b-4)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD49f,及びCD166の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは60%以上,より好ましくは70%以上,更に好ましくは75%以上で陽性である。
【0113】
また,一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(b-5)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD10,CD13,CD58,CD63,CD105,CD151,及びCD164の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは60%以上,より好ましくは65%以上で陽性であり,更に好ましくは70%以上で陽性である。
【0114】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,好ましくは,上記の(b-1),(b-2),(b-3),(b-4),及び(b-5)で示される特徴の2以上,より好ましくは3以上,更に好ましくはこれら全ての特徴を有するものである。例えば,上記の(b-1)及び(b-2)で示される特徴を有する細胞は,本発明の好適な一実施形態である。
【0115】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(b-6)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD120b,CD132,CD158a,CD161,CD184,CD195,CD206,CD210,CD212,CD226,CD244,CD267,CD278,CD279,CD282,CD294,NKB1,SSEA-1,TRA-1-60,TRA-1-81,Vβ23,SSEA-3,CLA,及びインテグリンβ7の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下,更に好ましくは2%以下,なおも更に好ましくは1%以下の細胞でのみ陽性である。
【0116】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(b-7)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD8b,CD11b,CD15s,CD16,CD19,CD24,CD31,CD32,CD62E,CD62P,CD66f,CD86,CD88,CD94,CD100,CD103,CD104,CD114,CD117,CD118,CD121b,CD122,CD123,CD124,CD126,CD127,CD128b,CD135,CD137,CD137リガンド,CD150,CD163,CD172b,CD177,CD178,CD180,CD197,CD220,CD229,CD231,CD255,CD268,CD305,CD314,CD321,CDw327,CDw328,CD329,CD335,CD336,BLTR-1,CLIP,CMRF-44,CMRF-56,fMLP-R,Vβ8,Invariant NKT,及びγδTCRの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下の細胞,更に好ましくは2%以下の細胞でのみ陽性である。
【0117】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(b-8)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD1a,CD1b,CD1d,CD2,CD3,CD5,CD6,CD7,CD8a,CD11c,CD15,CD18,CD21,CD22,CD23,CD25,CD26,CD27,CD28,CD33,CD34,CD35,CD37,CD38,CD40,CD41a,CD41b,CD42b,CD45,CD45RB,CD45RO,CD48,CD50,CD53,CD62L,CD64,CD66(a,c,d,e),CD69,CD70,CD72,CD74,CD80,CD84,CD85,CD87,CD89,CDw93,CD97,CD106,CD134,CD138,CD141,CD144,CD154,CD158b,CD162,CD183,CD205,CD235a,CD271,CD309,CD326,CD337,αβTCR,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下の細胞でのみ陽性である。
【0118】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,好ましくは,上記の(b-1),(b-2),(b-3),(b-4),(b-5),(b-6),(b-7),及び(b-8)で示される特徴の2以上,より好ましくは3以上,更に好ましくはこれら全ての特徴を有するものである。例えば,上記の(b-1)及び(b-6)で示される特徴を有する細胞は,本発明の好適な一実施形態である。
【0119】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,全体として観察したとき,例えば,プロスタグランジンE(PGE)及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現するものであり,プロスタグランジンE(PGE)にあっては,細胞をTNFαで刺激することにより,その発現量が増加する。
【0120】
本発明の一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,IFN―γ存在下で培養したときに,キヌレニンの分泌量を増加させるものである。
【0121】
本発明の一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つ又はすべてが陽性であり,且つCD19,CD34,及びCD206の少なくとも一つ又はすべてが陰性である。また別の一実施形態において,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つ又はすべてが陽性であり,且つCD19,CD31,CD33,CD34,CD38,CD45,CD206,CD235a,及びSSEA-1の少なくとも一つ又はすべてが陰性である。
【0122】
本発明の一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,例えば,CD73,CD90,CD105,及びCD166の少なくとも一つが陽性であり,且つCD34及びCD45の少なくとも一つが陰性である。
【0123】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34,CD40,CD45,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である。このとき,IFN―γで細胞を刺激したときに,例えば,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原が陽性となる。また,プロスタグランジンE(PGE)及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現するものであり,プロスタグランジンE(PGE)にあっては,細胞をTNFαで刺激することにより,その分泌量が増加する。
【0124】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,全体として観察したとき,軟骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養した場合に,アグリカンの発現量が増加する。また,骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養した場合には,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加する。すなわち,当該多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,全体として観察したとき,軟骨細胞及び骨細胞への分化能を有する。
【0125】
本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞が示す上記の表面抗原マーカー発現パターン及び/又は他の遺伝子発現パターンに基づき,適宜設けた基準により特定の発現パターンを示す細胞のみを中間体細胞として保存する,という方式を製造工程の管理で用いることもできる。
【0126】
中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,ほとんどが歯髄由来の多能性幹細胞(歯髄由来多能性幹細胞)で占められている。それらは平面培養中の光学顕微鏡下で,略紡錘形の固着細胞として観察され,細胞全体に占める略紡錘形の細胞の比率は,好ましくは99%以上であり,より好ましくは99.5%以上であり,更に好ましくは99.9%以上であり,更により好ましくは99.95%以上である。歯髄由来多能性幹細胞の比率は,光学顕微鏡下で観察したときに略紡錘形の形態を示す細胞数を,全細胞数で除することにより求めることができる。上記に基づき適宜設けた基準により,略紡錘形の細胞の比率が,ある一定以上である細胞群のみを中間体細胞として保存する,という方式を製造工程の管理で用いることもできる。
【0127】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,全体として観察したときに,好ましくは軟骨細胞への分化能と骨細胞への分化能とを有するものである。つまり,中間体細胞は,軟骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養した場合,アグリカンの発現量が増加する。また,中間体細胞は,全体として観察したときに,骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養した場合,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加する。中間体細胞が軟骨細胞への分化能及び骨細胞への分化能を有することは,それぞれ実施例20及び実施例19に記載の方法で調べることができる。これらの方法により軟骨細胞への分化能と骨細胞への分化能を有することが示された細胞群のみを,保存すべき中間体細胞とすることができる。但し,分化能を調べるための方法は,実施例20及び19に記載の方法に限定されるものではない。他の適切な手法により軟骨細胞への分化能と骨細胞への分化能を有することが示された細胞群のみを,保存すべき中間体細胞とすることもできる。
【0128】
一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,以下に詳述する更なる培養工程に供される中間体細胞と同一であるか,又は実質的に同一の性質を有するものであってもよい。
【0129】
中間体細胞として凍結保存された細胞は,解凍前と解凍後で,その性状が保持されることが好ましい。つまり,中間体細胞として凍結保存した多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを解凍したときに,生存率,表面抗原マーカーの発現パターン,細胞の形態,分化能等が,解凍前の細胞と実質的に同じであることが好ましい。解凍後若しくは解凍して培養したときの中間体細胞の性状を確認することにより,解凍の前後でその性状が保持されている細胞のみを,中間体細胞として,その後の培養工程に供することができる。
【0130】
更なる培養工程に供される中間体細胞は,解凍後の生存率が50%以上であることが好ましく,60%以上であることがより好ましく,70%以上であることが更に好ましく,例えば,生存率が80%以上,90%以上,95%以上であることが好ましい。適宜設けた基準により,解凍後の生存率がある一定の数値以上である中間体細胞のみを,その後の培養工程に供するようにすることができる。解凍後の細胞の生存率は,概ね,80%~98%,85%~95%である。
【0131】
中間体細胞として凍結保存された細胞は,解凍後に培養したとき,10回以上の細胞分裂能を有することが好ましく,15回以上の細胞分裂能を有することがより好ましく,例えば,14回以上の細胞分裂能を有するものである。また,中間体細胞として凍結保存された細胞は,解凍後に培養したとき,細胞培養プレート上での平均倍化時間が,96時間以内であることが好ましく,84時間以内であることがより好ましく,72時間以内であることが更に好ましく,48時間以内であることが更に好ましく,36時間以内のものであることが更に好ましい。例えば,細胞分裂能及び平均倍化時間に基準を設け,細胞分裂能が一定以上であり且つ平均倍化時間がある一定の時間以内のもののみを,その後の利用に供するようにすることもできる。かかる基準は,例えば,10回以上の細胞分裂能を有し平均倍化時間が96時間以内であるもの,14回以上の細胞分裂能を有し平均倍化時間が72時間以内であるもの,15回以上の細胞分裂能を有し平均倍化時間が72時間以内であるもの等と,適宜設定することができる。この基準を満たさない細胞を使用しないことにより,ある一定以上の細胞分裂能を有する中間体細胞のみを,その後の培養工程に供することができる。当該工程での培養条件は,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞について上記したそれまでの培養条件と同一又は同等のものであってよい。
【0132】
中間体細胞として凍結保存される細胞は,in vitroの環境下で,好ましくは10回以上の細胞分裂を経たものであり,例えば15回以上,16回以上,又は17回以上の細胞分裂を経たものであり,且つ好ましくは,該細胞分裂期間における平均細胞分裂時間が48時間以内であるものである。
【0133】
更なる培養工程に供される中間体細胞は,軟骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したとき,アグリカンの発現量増加が全体として観察される。また,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したとき,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加するのが全体として観察される。当該細胞は,全体として観察したとき,軟骨細胞及び骨細胞への分化能を備えている。
【0134】
一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,全体として観察したときに,解凍後若しくは解凍して培養したときの表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166の少なくとも一つが陽性であり,CD34及びCD45の少なくとも一つが陰性である。例えば,当該細胞は,CD73,CD90が陽性であり,且つCD34が陰性である。また例えば,CD73,CD90が陽性であり,且つCD34が陰性である。当該細胞は,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34及びCD45が陰性である。
【0135】
また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,全体として観察したとき,解凍直後又は解凍して培養したときの表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つが陰性である。例えば,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である。これらの表面抗原マーカーが陽性の細胞は,同種異型の個体に移植したときに,抗原として認識されて生体内から排除される傾向にあることが知られている。これらの表面抗原マーカーが陰性であることは,更なる培養工程に供される中間体細胞が,それだけ低免疫原性で,同種異型の個体に移植したとき生体内から排除され難い傾向を有することを示している。また,これら表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,IFN-γで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,CD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となってもよい。例えば,IFN-γで細胞を刺激したとき,これら表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原が陽性となる。
【0136】
一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,解凍直後若しくは解凍して培養したときにおいて全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34,CD40,CD45,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である。また,IFN-γで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となる。
【0137】
一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,
(c-1)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,CD90,CD147,及びHLA-A,B,Cの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは80%以上,より好ましくは90%以上,更に好ましくは95%以上で陽性である。
【0138】
また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,
(c-2)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいてCD29,CD46,CD55,CD59,CD73,及びCD140bの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは70%以上,より好ましくは80%以上,更に好ましくは90%以上で陽性である。
【0139】
また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,
(c-3)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD9,CD44,CD49b,CD49c,CD98,及びEGF-Rの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは65%以上,より好ましくは75%以上,更に好ましくは80%以上で陽性である。
【0140】
また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,
(c-4)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD49f,及びCD166の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは60%以上,より好ましくは70%以上,更に好ましくは75%以上で陽性である。
【0141】
また,一実施形態において,中間体細胞として保存される多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,
(c-5)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD10,CD13,CD58,CD63,CD105,CD151,及びCD164の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは60%以上,より好ましくは65%以上で陽性であり,更に好ましくは70%以上で陽性である。
【0142】
一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,好ましくは,上記の(c-1),(c-2),(c-3),(c-4),及び(c-5)で示される特徴の2以上,より好ましくは3以上,更に好ましくはこれら全ての特徴を有するものである。例えば,上記の(c-1)及び(c-2)で示される特徴を有する細胞は,本発明の好適な一実施形態である。
【0143】
一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,
(c-6)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD120b,CD132,CD158a,CD161,CD184,CD195,CD206,CD210,CD212,CD226,CD244,CD267,CD278,CD279,CD282,CD294,NKB1,SSEA-1,TRA-1-60,TRA-1-81,Vβ23,SSEA-3,CLA,及びインテグリンβ7の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下,更に好ましくは2%以下,より更に好ましくは1%以下の細胞で陽性である。
【0144】
一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,
(c-7)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD8b,CD11b,CD15s,CD16,CD19,CD24,CD31,CD32,CD62E,CD62P,CD66f,CD86,CD88,CD94,CD100,CD103,CD104,CD114,CD117,CD118,CD121b,CD122,CD123,CD124,CD126,CD127,CD128b,CD135,CD137,CD137リガンド,CD150,CD163,CD172b,CD177,CD178,CD180,CD197,CD220,CD229,CD231,CD255,CD268,CD305,CD314,CD321,CDw327,CDw328,CD329,CD335,CD336,BLTR-1,CLIP,CMRF-44,CMRF-56,fMLP-R,Vβ8,Invariant NKT,及びγδTCRの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下の細胞,更に好ましくは2%以下の細胞で陽性である。
【0145】
一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,
(c-8)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD1a,CD1b,CD1d,CD2,CD3,CD5,CD6,CD7,CD8a,CD11c,CD15,CD18,CD21,CD22,CD23,CD25,CD26,CD27,CD28,CD33,CD34,CD35,CD37,CD38,CD40,CD41a,CD41b,CD42b,CD45,CD45RB,CD45RO,CD48,CD50,CD53,CD62L,CD64,CD66(a,c,d,e),CD69,CD70,CD72,CD74,CD80,CD84,CD85,CD87,CD89,CDw93,CD97,CD106,CD134,CD138,CD141,CD144,CD154,CD158b,CD162,CD183,CD205,CD235a,CD271,CD309,CD326,CD337,αβTCR,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下の細胞で陽性である。
【0146】
一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,好ましくは,上記の(c-1),(c-2),(c-3),(c-4),(c-5),(c-6),(c-7),及び(c-8)で示される特徴の2以上,より好ましくは3以上,更に好ましくはこれら全ての特徴を有するものである。例えば,上記の(c-1)及び(c-6)で示される特徴を有する細胞は,本発明の好適な一実施形態である。
【0147】
また,更なる培養工程に供される中間体細胞は,全体として観察したとき,例えば,プロスタグランジンE(PGE)及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現しており,プロスタグランジンE(PGE)にあっては,細胞をTNFαで刺激することにより,その発現量が増加する。
【0148】
本発明の一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,IFN―γ存在下で培養したときに,キヌレニンの分泌量を増加させるものである。
【0149】
本発明の一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つ又はすべてが陽性であり,且つCD19,CD34,及びCD206の少なくとも一つ又はすべてが陰性である。また,本発明の一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つ又はすべてが陽性であり,且つCD19,CD31,CD33,CD34,CD38,CD45,CD206,CD235a,及びSSEA-1の少なくとも一つ又はすべてが陰性である。
【0150】
一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD19,CD26,CD106,CD117,及びCD271の少なくとも一つが陰性,例えばこれらの全てが陰性である。
【0151】
一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD140b及びHLA-A,B,Cの少なくとも一つが陽性,例えばこれらの全てが陽性である。
【0152】
本発明の一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD46,CD47,CD55,CD58,及びCD59の少なくとも一つ,例えばこれらの全てが陽性である。
【0153】
本発明の一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,例えば,CD73,CD90,CD105,及びCD166の少なくとも一つが陽性であり,且つCD34及びCD45の少なくとも一つが陰性である。
【0154】
また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,全体として観察したときに,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34,CD40,CD45,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である。このとき,IFN―γで細胞を刺激したとき,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原が陽性となる。また,プロスタグランジンE(PGE)及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現しており,プロスタグランジンE(PGE)にあっては,細胞をTNFαで刺激することにより,その分泌量が増加する。更に,IFN―γで刺激することにより,キヌレニンの分泌量が増加する。
【0155】
歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを培養したときに,種々の液性因子を分泌するものである。
(c-9)一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを培養したときに,MMP-2,IGFBP-4,及びシスタチンCの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現するものである。
【0156】
(c-10)一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これを培養したときに,IL-6,IL-11,MCP-1,IL-8,GROα,HGF,VEGF,VCAM-1,TIMP-3,TIMP-2,及びTIMP-1の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現するものである。
【0157】
(c-11)また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これを培養したときに,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これを培養したときに,IL-23,TNF-α,IL-18,IL-33,IL-27,TARC,ENA-78,MIP-3α,MIP-1β,IP-10,SCF,及びICAM-1の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現するものである。
【0158】
(c-12)また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これを培養したときに,IL-21,IFN-α,Eotaxin,MIP-1α,MIG,I-TAC,及びGM-CSFの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現しないか,ほとんど発現しないものである。
【0159】
(c-13)また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これをTNF-α存在下又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,IL-6の発現量が増加するものである。
【0160】
(c-14)また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これをTNF-α存在下,又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,IL-11の発現量が増加するものである。
【0161】
(c-15)また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これをTNF-α存在下又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,IP-10の発現量が増加するものである。
【0162】
(c-16)また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これをTNF-α存在下,又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,MCP-1の発現量が増加するものである。
【0163】
(c-17)また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これをTNF-α存在下で培養したときにGM-CSFの発現が誘導されるが,IFN-γ存在下で培養したときには,GM-CSFの発現が誘導されないものである。
【0164】
(c-18)また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これをTNF-α存在下で培養したときに,その無存在下で培養したときと比較してHGFの発現量が減少する一方,これをIFN-γ存在下で培養したときに,その無存在下で培養したときに比較してHGFの発現量が増加するものである。
【0165】
(c-19)また,一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これをTNF-α存在下で培養したときに,その無存在下で培養したときに比較して,IL-8の発現量が増加するものである。
【0166】
一実施形態において,更なる培養工程に供される中間体細胞は,好ましくは,上記の(c-9)乃至(c-19)で示される特徴の2以上,より好ましくは3以上,更に好ましくは4以上,なおも更に好ましくはこれら全ての特徴を有するものである。例えば,上記の(c-9)及び(c-15)で示される特徴を有する細胞,上記の(c-9),(c-14)及び(c-15)で示される特徴を有する細胞は,本発明の好適な一実施形態である。
【0167】
また,更なる培養工程に供される中間体細胞は,全体として観察したときに,解凍直後若しくは解凍して培養した場合に,軟骨細胞への分化能と骨細胞への分化能とを有する。つまり,軟骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養した場合に,アグリカンの発現量が増加し,また,骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養した場合に,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加する。中間体細胞が軟骨細胞への分化能及び骨細胞への分化能を有することは,それぞれ実施例20及び実施例19に記載の方法で調べることができる。これらの方法により軟骨細胞への分化能と骨細胞への分化能を有することが示された細胞群のみを,更なる培養工程に供される中間体細胞とすることができる。但し,これら分化能を調べる方法は,実施例に記載の方法に限定されるものではない。他の適切な手法により軟骨細胞への分化能と骨細胞への分化能を有することが示された細胞群のみを,中間体細胞としてその後の培養工程に供するようにすることもできる。
【0168】
本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞が示す上記の表面抗原マーカー発現パターン及び/又は他の遺伝子発現パターンに基づき,適宜設けた基準により,特定の発現パターンを示す細胞のみを,更なる培養工程に供される中間体細胞とする,という方式を製造工程の管理で用いることもできる。
【0169】
また,更なる培養工程に供される中間体細胞は,解凍直後若しくは解凍して培養したときにおいて全体として観察したとき,ほとんどが歯髄由来多能性幹細胞で占められている。それらは平面培養中の光学顕微鏡下で,略紡錘形の固着細胞として観察され,細胞全体に占める略紡錘形の細胞の比率は,好ましくは99%以上であり,より好ましくは99.5%以上であり,更に好ましくは99.9%以上であり,更により好ましくは99.95%以上である。上記に基づき適宜設けた基準により,略紡錘形の細胞の比率が,ある一定以上である細胞群のみを中間体細胞としてその後の培養工程に供するようにすることができる。
【0170】
また,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これを解凍して培養したとき,10回以上の細胞分裂能を有することが好ましく,15回以上の細胞分裂能を有することがより好ましく,例えば,14回以上の細胞分裂能を有するものである。また,更なる培養工程に供される中間体細胞は,これを解凍して細胞培養プレート上で培養したときの平均倍化時間が,好ましくは96時間以内であるものであり,より好ましくは84時間以内のものであり,更に好ましくは72時間以内のものであり,更により好ましくは48時間以内のものであり,更により好ましくは36時間以内のものである。このときの細胞の培養条件は,上記の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞の培養条件と同一又は同等のもの,例えば実施例5に記載の条件(即ち,細胞培養プレート上,10% FBS添加した5.56mMグルコース含有のDMEM培地,5%CO存在下,37℃)が用いられる。上記に基づき適宜設けた基準により,細胞分裂能が,ある一定以上である細胞群のみを,中間体細胞としてその後の培養工程に供するようにすることができる。また,適宜設けた基準により,平均倍化時間が,ある一定の時間内である細胞群のみを,中間体細胞としてその後の培養工程に供するようにすることもできる。かかる基準としては,例えば,10回以上の細胞分裂能を有し平均倍化時間が96時間以内であるもの,14回以上の細胞分裂能を有し平均倍化時間が72時間以内であるもの,15回以上の細胞分裂能を有し平均倍化時間が72時間以内であるものである。
【0171】
すなわち,更なる培養工程に供される中間体細胞は,高い分裂能を有し且つ2種以上の細胞に分化できるという幹細胞の性質を保持するものである。更なる培養工程に供される中間体細胞は,高いコロニー形成能を有する細胞ということもできる。ここでコロニー形成能とは,細胞をプレートに播種して培養したときに,プレート上で細胞が分裂してコロニーを形成する能力のことをいう。
【0172】
中間体細胞は,これを解凍したときに,溶液中,例えば培地中に浮遊させた状態での直径の平均が,好ましくは20μm以下,18μm以下であり,例えば,10~20μm,10~18μm,12~20μm,14~20μm,16~20μmである。
【0173】
中間体細胞の製造工程終了時又はその前後で実施される品質検査の項目を以下に品質検査a~kとして例示する。品質検査は,これらの項目の1又は2以上について行われる。これらの項目の全てを実施してもよい。このとき品質検査に供される細胞は,(1)中間体細胞として凍結保存液に懸濁させる前の細胞の一部を分取した細胞,(2)中間体細胞として凍結保存液に懸濁させる前の細胞の一部を分取し,これを更に継代させた細胞,(3)中間体細胞として凍結させるために凍結保存液に懸濁させた凍結前の細胞,(4)中間体細胞として凍結させたものを解凍した直後の細胞,又は(5)中間体細胞として凍結させたものを解凍し更に培養して得られた細胞,の何れかである。特に指定のない限り,これら(1)~(5)の細胞の2種以上について同一の品質検査を行ってもよい。
(品質検査a)光学顕微鏡下で観察したときに,細胞全体に占める略紡錘形の形態を示す細胞数の割合が,99%以上,99.5%以上,99.9%以上,又は99.95%以上であることの検証;
(品質検査b)細胞の生存率が,50%以上,60%以上,70%以上,80%以上,90%以上,又は95%以上であることの検証;
(品質検査c)細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34及びCD45は陰性であることの検証,又は
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73及びCD90の少なくとも一つが陽性であり,且つCD34が陰性であることの検証;
(品質検査d)細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性であることの検証,又は
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つが陰性であることの検証;
(品質検査e)細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,IFN-γで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原が陽性となることの検証,又は
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,IFN-γで細胞を刺激したときに,CD40が陰性,CD80が陰性,CD86が陰性,及びMHC-クラスII抗原が陽性であることの,少なくとも一つの検証;
(品質検査f)細胞が,プロスタグランジンE(PGE)及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現するものであり,且つプロスタグランジンE(PGE)にあっては,細胞をTNFαで刺激することにより,その発現量が増加することの検証;
(品質検査g)軟骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したときに,アグリカンの発現量が増加することの検証;
(品質検査h)骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したときに,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加することの検証;
(品質検査i)細胞培養プレート上で10回以上,14回以上,又は15回以上の細胞分裂能を有することの検証;
(品質検査j)細胞培養プレート上での細胞の平均倍化時間が,該品質検査iの実施期間において,96時間以内,84時間以内,72時間以内,48時間以内,又は36時間以内であることの検証。
(品質検査k)細胞を培地中に浮遊させた状態での平均の直径が,20μm以下,18μm以下,10~20μm,10~20μm,10~18μm,12~20μm,14~20μm,又は16~20μmであることの検証。
【0174】
上記品質検査は,(品質検査a)~(品質検査j)の10項目について実施してもよい。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の9項目を選択して実施してもよい。9項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a,b,c,d,e,f,g,i,及びjが選択されるが,限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の8項目を選択して実施してもよい。8項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a,b,c,d,e,f,i,及びjが選択されるが,限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の7項目を選択して実施してもよい。7項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a,b,c,d,e,i,及びjが選択されるが,これに限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の6項目を選択して実施してもよい。6項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a,b,c,d,i,及びjが選択されるが,これに限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の5項目を選択して実施してもよい。5項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a,b,c,i,及びjが選択されるが,これに限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の4項目を選択して実施してもよい。4項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a,b,c,及びjが選択されるが,これに限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の3項目を選択して実施してもよい。3項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a,b,及びcが選択されるが,これに限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の2項目を選択して実施してもよい。2項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a及びb,品質検査a及びc,品質検査a及びd,品質検査a及びe,品質検査a及びf,品質検査a及びg,品質検査a及びh,品質検査a及びi,品質検査a及びj,品質検査b及びc,品質検査b及びd,品質検査b及びe,品質検査b及びf,品質検査b及びg,品質検査b及びh,品質検査b及びi,品質検査b及びj,品質検査c及びd,品質検査c及びe,品質検査c及びf,品質検査c及びg,品質検査c及びh,品質検査c及びi,品質検査c及びj,品質検査d及びe,品質検査d及びf,品質検査d及びg,品質検査d及びh,品質検査d及びi,品質検査d及びj,品質検査e及びf,品質検査e及びg,品質検査e及びh,品質検査e及びi,品質検査e及びj,品質検査f及びi,品質検査f及びj,または品質検査i及びjが選択されるが,これらに限定されることはない。
【0175】
〔生産培養〕
中間体細胞に対して行われる更なる培養工程は,最終製品となる多能性幹細胞富化歯髄由来細胞の製造に至る培養工程であり,この工程を特に生産培養という。
【0176】
生産培養に用いられる培地は,好ましくは,ウシ胎児血清を添加したダルベッコの修飾イーグル培地である。培地に添加されるウシ胎児血清の濃度(v/v%)は,好ましくは8~25%であり,より好ましくは8~20%であり,例えば,10%である。ダルベッコの修飾イーグル培地(ウシ胎児血清添加前)の詳細な組成の一例を表1に示す。所望により,3~5mM,例えば4mMのL-アラニル-L-グルタミンを培地に添加してもよい。また,生産培養においては,通常は抗生物質が添加されない。但し,ストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添加することもできる。ストレプトマイシンを培地に添加する場合,ストレプトマイシンの培地中での濃度が,10mg/L~250mg/Lとなるように,例えば100mg/Lとなるように添加する。また,各成分は,その同等物,例えばその塩で置換可能である。
【0177】
生産培養は,細胞を細胞培養プレート上で行ってもよく,細胞培養装置内,例えばバイオリアクター内において,細胞をマイクロキャリア上で行ってもよい。また,生産培養は,細胞を,細胞培養プレート上で培養して増殖させた上で,更に細胞培養装置内,例えばバイオリアクター内においてマイクロキャリア上で行ってもよい。また,細胞をマイクロキャリア上で培養する場合にあっては,バイオリアクターに替えて,振盪フラスコを用いることもできる。生産培養において,細胞を細胞培養プレート上で培養する場合,その条件は,上記の歯髄懸濁物を培養して得られた細胞の培養条件と同一又は類似のものである。つまり,解凍後の中間体細胞を,細胞培養プレート上での培養と回収を繰り返して,細胞数を拡大させるものである。なお,バイオリアクターとしては,GEヘルスケア社,メルク社,ザルトリウス社等から市販されているものを好適に使用することができる。以下,細胞培養装置としてバイオリアクターを用いた細胞の培養法について特に詳述する。
【0178】
生産培養において,バイオリアクターを用いて,細胞をマイクロキャリア上で培養する場合,細胞を接着させたマイクロキャリアを,バイオリアクターに投入し,培地中でマイクロキャリアを撹拌させて細胞を培養する。マイクロキャリアは,細胞が接着することのできる素材の粒子(小粒子)であり,その表面上(多孔性のものにあっては孔内の表面を含む)で細胞を培養するために用いるものである。その意味で,マイクロキャリアは担体粒子又は担体小粒子ということもできる。細胞培養時(即ち,水和時)のマイクロキャリアの直径(粒径)は,好ましくは50~400μmであり,例えば,80~300μm,80~250μm,100~200μm,130~180μmである。マイクロキャリアは粒子表面から内側に向かって孔の開いた多孔性のものであってもよい。多孔性のマイクロキャリアにあっては,細胞培養時のその孔の直径(孔径)は,好ましくは3~40μmであり,例えば,5~25μm,10~20μm,5~15μmである。
【0179】
マイクロキャリアの素材について特に限定はなく,細胞を表面に接着させた状態で培養できるものである限り,その素材として用いることができる。マイクロキャリアとしては,高分子化合物を粒子状に成型したもの,セラミック製粒子,ガラス製粒子等がある。かかる高分子化合物としては,例えば,ビニル樹脂,ウレタン樹脂,エポキシ樹脂,ポリスチレン,ポリメチルメタクリレートポリエステル,ポリアミド,ポリイミド,シリコン樹脂,フェノール樹脂,メラミン樹脂,ユリア樹脂,アニリン樹脂,アイオノマー樹脂,ポリカーボネート,コラーゲン,デキストラン,ゼラチン,セルロース,アルギン酸塩及びこれらの混合物が挙げられる。マイクロキャリアは,その表面を更に細胞接着性分子等により修飾したものであってもよい。かかる細胞接着性分子としては,例えば,ゼラチン,ケラチン,エラスチン,ヘパラン硫酸,デキストラン,デキストラン硫酸,コンドロイチン硫酸,ヒアルロン酸ナトリウム,n-イソプロピルアクリルアミド,コラーゲンI乃至XIX,フィブロネクチン,ビトロネクチン,ラミニン-1乃至12,ニトジェン,テネイシン,トロンボスポンジン,オステオポンチン,フィブリノーゲン,ポリ-D-リジン,ポリ-L-リジン,キチン,キトサン,セファロース,ラミニン,エンタクチンI,又はこれら細胞接着性分子の細胞接着ドメインを含む断片若しくはペプチド,及びこれらの混合物が挙げられる。また,マイクロキャリアの比重は,培地に対する比重が,1に近いことが好ましく,0.9~1.2であることが好ましく,例えば,0.9~1.1であり,約1.0である。
【0180】
素材がゼラチンマトリックスであり,細胞培養時の粒径が130~180μm,孔径が10~20μm(又は5~15μm)であるものは,マイクロキャリアとして好適に使用できる。
【0181】
生産培養における細胞のマイクロキャリアへの接着は,溶液中で細胞とマイクロキャリアを撹拌,混合することにより行われる。この工程は,細胞のマイクロキャリアへの接着工程という。接着工程において,撹拌中にマイクロキャリアと接触した細胞がマイクロキャリアの表面に順次接着することになる。この工程で用いられる溶液は,好ましくは細胞培養用の培地であるが,これに特に限定されるものではない。接着工程における細胞とマイクロキャリアの撹拌は断続的に行ってもよい。この場合,例えば,撹拌を1分~20分行った後に,10分~2時間静置させる。
【0182】
細胞培養用の培地を溶液として用いて接着工程を行う場合,当該工程は,バイオリアクター内で行うこともできる。バイオリアクター内で接着工程を行う場合,バイオリアクターに細胞培養用の培地と細胞とマイクロキャリアとを投入して撹拌し,細胞をマイクロキャリアに接着させる。細胞の接着後は,バイオリアクター内で,そのまま細胞培養を続けることができる。バイオリアクター内での接着工程における細胞とマイクロキャリアの撹拌は断続的に行ってもよい。この場合,例えば,撹拌を1分~20分行った後に,10分~2時間静置させる。
【0183】
バイオリアクターは,一般に,固定化酵素反応装置などの生化学的反応器と,発酵槽や生物学的排水処理装置などの生物学的反応器・微生物学的反応器のことをいう。本発明における後述の実施例で用いられているバイオリアクターは,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞をマイクロキャリアに接着させて培地中で撹拌しながら培養するのに適している。当該バイオリアクターは,細胞を培養するための培養槽,培地を撹拌するための撹拌装置,気相投入口,液相投入口,排水口,センサー部を有する。培養槽は略円筒型の内腔を有する槽である。この状態で,培養槽内でマイクロキャリアを接着させた多能性幹細胞富化歯髄由来細胞を培養することができる。培養槽の内腔には,培養槽内の培地のための撹拌装置が設けられている。撹拌装置は,例えばインペラーであり,その回転により培地が撹拌される。インペラーによる培地の撹拌は,細胞の接着したマイクロキャリアのほとんどが,培養槽の内腔の底面に沈殿することなく,培地中に浮遊した状態となるように調整される。インペラーの回転速度は,培養槽の形状,インペラーの形状,マイクロキャリアの種類等により,適宜選択されるべきものであるが,例えば,30~100rpm,50~80rpm,約70rpmである。気相投入口は,培養槽中に,空気,酸素,二酸化炭素等の気相を送り込むためのものである。気相投入口は,その出口が培地の液面下にあってよく,この場合,気相は培地に気泡となって送り込まれる。液相投入口は,培養槽内に,培地,グルコース溶液等の各種溶液を投入するためのものである。排水口は,培養槽内の培地を排出するためのものであり,培地交換の際には,この排水口から培地が排出される。排水口はまた,培地と共に細胞の接着したマイクロキャリアを取り出すためにも用いられる。培養中にマイクロキャリアをサンプリングするとき,または培養終了後にマイクロキャリアを回収する際に,この排水口を用いることができる。センサー部は,培養槽内の培地の温度,pH,溶存酸素濃度を測定するセンサーを含む。センサー部は,更に,グルコース濃度,乳酸濃度を測定するセンサーを含むことができる。溶液の温度,pH,溶存酸素濃度,グルコース濃度及び乳酸濃度を測定するためのセンサーは,周知のものから適宜選んで設置することができる。
【0184】
バイオリアクターの培養槽は,バイオリアクター内に固定されるか,又は取り外し可能なように設置される。培養槽を取り外し可能なように設置することにより,培養槽の洗浄が容易となる。通常,培養槽は,金属製又は硬質樹脂製であり,使用後に洗浄して繰り返し使用される。このような培養槽に代えて,バイオリアクター内に柔軟な樹脂製の培養用バッグをセットし,バッグ内に培地及び細胞を投入して培養を行うこともできる。培養用バッグは,バイオリアクター内で,通常の培養槽と同様にして取り扱うことができるように支持されている。培養用バッグは使い捨てにできるので,使用後の洗浄操作が不要になり,培養の際の作業効率を高めることができる。
【0185】
生産培養において,培地中のグルコース濃度がある値以下となった場合には,培地にグルコースが補充される。例えば,グルコース濃度が0.1mM以下となった場合に,終濃度が5~7mMとなるようにグルコースが補充される。また,生産培養において,乳酸濃度がある値以上となった場合には,培地の全部又は一部が交換される。例えば,乳酸濃度が20mM以上となった場合には,培地の全部が交換されるか,又は,乳酸濃度が例えば,5mM以下,2mM以下となるように,培地の一部が交換される。
【0186】
バイオリアクター内での培養中,培地へは,酸素,空気,及びCOが気相投入口より供給される。酸素の供給量は,培地中の溶存酸素濃度が飽和濃度の50~100%となるよう,例えば,溶存酸素濃度が,50%又は100%に保持されるように制御される。また,COの流量は,培地のpHが,細胞が好適に成育できるように,例えば7.0~7.8に保持されるように供給される。溶存酸素濃度及びpHはセンサー部で経時的にモニタされているので,モニタされた数値が,設定された値から外れたときには,それに応じて酸素,COの供給量を増減することにより,溶存酸素濃度,pHを一定の値に保つことができる。また,細胞の増殖にあわせて,追加のマイクロキャリアをバイオリアクター内に供給することもできる。
【0187】
バイオリアクター内での培養は,マイクロキャリアの表面が,ある比率まで細胞で占められるようになるまで行われる。このときの比率は,例えば,20%,40%,85%,95%,98%と適宜設定することができる。また,バイオリアクター内での培養は,マイクロキャリアの表面上での細胞密度が,ある値となるまで細胞で占められるまで行われる。このときの細胞密度は,例えば,3000,5000,10000,20000,22000個/cmと適宜設定することができる。
【0188】
生産培養終了後に歯髄由来細胞製剤として凍結させる細胞は,歯髄懸濁物の培養で細胞培養プレート上にコロニーを形成した細胞として回収してから,15回以上分裂させたものであることが好ましく,20回以上分裂させたものであることがより好ましい。例えば,15~30回,15~23回,15~20回,20~30回,20~28回,又は23~26回分裂させた細胞が凍結保存される。
【0189】
中間体細胞を経てから生産培養終了後に歯髄由来細胞製剤として凍結させる細胞は,歯髄懸濁物の培養で細胞培養プレート上にコロニーを形成した細胞として回収してから,中間体細胞とするまでに,10回以上分裂させたものであることが好ましく,15回以上分裂させたものであることがより好ましい。例えば,13~20回,13~23回,又は14~20回分裂させた細胞が中間体細胞として凍結保存される。次いで,中間体細胞を解凍して開始する生産培養では,開始してから歯髄由来細胞製剤とするまでに,細胞を5回以上分裂させることが好ましく,例えば,8回以上又は10回以上分裂させることが好ましい。特に,生産培養におけるマイクロキャリアを用いた培養の際には,細胞は,好ましくは2~5回分裂させることが好ましく,例えば2~3回分裂させることが好ましい。
【0190】
中間体細胞から歯髄由来細胞製剤を取得するまでに,細胞を培養して分裂させるときの,細胞の平均倍化時間は,細胞を細胞培養プレート上で培養する場合にあっては,96時間以内であることが好ましく,84時間以内であることがより好ましく,72時間以内であることが更に好ましく,48時間以内であることが更により好ましく,36時間以内であることが更により好ましい。中間体細胞から歯髄由来細胞製剤を取得するまでに,細胞を培養して分裂させるときの,細胞の平均倍化時間は,細胞をマイクロキャリアを用いて培養する場合にあっては,8日以内であることが好ましく,6日以内であることがより好ましく,5日以内であることが更に好ましく,4日以内であることが更に好ましく,例えば,2~8日,2~7日,2~6日,2.5~6日,又は2.5~5.5日である。
【0191】
生産培養全期間における又はマイクロキャリアを用いた培養の際の,細胞の平均倍化時間に基準を設け,平均倍化時間が当該基準以内のもののみを凍結保存し,その後の利用に供するようにすることもできる。かかる基準としては,例えば,細胞培養プレート上で培養する場合にあっては,84時間以内,72時間以内,48時間以内,又は36時間以内と,マイクロキャリアを用いて培養する場合にあっては,8日以内,6日以内,5日以内,4日以内又は3日以内等と,適宜設定することができる。この基準値を満たさない細胞は,凍結保存することなく破棄することにより,ある一定以上の細胞分裂能を有する細胞のみを選択的に歯髄由来細胞製剤として保存することができる。
【0192】
生産培養においては,歯髄由来細胞製剤を取得するまでに,1個の抜歯体(例えば1個の第三大臼歯)から得られる多能性幹細胞の数が,好ましくは,1×10個以上となるまで,より好ましくは1×10個以上となるまで,更に好ましくは3×10個以上となるまで,更により好ましくは1×10個以上となるまで,更により好ましくは1×10個以上となるまで,例えば,1×10~1×1010個となるまで細胞を増殖させる。理論上,20回,25回,及び30回分裂させることにより,細胞数はそれぞれ,1×10倍以上,3×10倍以上,及び1×10倍以上にまで増加する。
【0193】
〔製剤の製造〕
生産培養終了後,マイクロキャリアは,細胞が接着した状態で回収され,その状態で洗浄される。このときマイクロキャリアを洗浄するための洗浄液として用いることのできる溶液には,細胞に障害を与えず,且つ,セリンプロテアーゼ及びメタロプロテアーゼ,特にトリプシンの酵素活性を阻害することがないものである限り特に限定はないが,生理食塩水,PBS,DMEM Low Glucose培地(血清不含),表4に示す組成を有する洗浄溶液が好適であり,例えば,DMEM Low Glucose培地(血清不含)を用いることができる。
【0194】
洗浄後のマイクロキャリアは,プロテアーゼにより処理される。このとき用いられるプロテアーゼには,蛋白質性の細胞接着分子を分解できるものである限り特に限定はないが,セリンプロテアーゼ,メタロプロテアーゼ又はその混合物が好ましく,セリンプロテアーゼとしてはトリプシンが好適なものの一つであり,メタロプロテアーゼとしてはゼラチナーゼが好適なものの一つである。プロテアーゼ処理することにより,細胞がマイクロキャリアから遊離する。また,マイクロキャリアの素材がゼラチン等の蛋白質である場合は,プロテアーゼ処理により,マイクロキャリア自体が分解される。このときマイクロキャリアが多孔性であれば,孔内の表面に固着した細胞もマイクロキャリアから遊離する。多孔性のゼラチンマトリックスのマイクロキャリアである場合,プロテアーゼで処理することにより,ゼラチンが分解されて,遊離した細胞とゼラチンの分解物を含む懸濁液が得られる。この場合,プロテアーゼとしてはトリプシン,ゼラチナーゼ,又はその混合物が特に好適である。
【0195】
マイクロキャリアの素材がゼラチン等の蛋白質である場合,プロテアーゼにより,マイクロキャリアから遊離した細胞とマイクロキャリアの材料である蛋白質の分解物(素材がゼラチンであるときにはゼラチンの分解物)を含む懸濁液が得られる。遊離した歯髄由来細胞製剤を製剤化するには,細胞の洗浄操作により,この懸濁液からプロテアーゼ,マイクロキャリアの材料の分解物等の夾雑物を除くことが好ましい。以下,マイクロキャリアの材料がゼラチンである場合の,細胞の洗浄操作について詳述する。
【0196】
プロテアーゼによる処理により得られた懸濁液は,遠心分離による回収と洗浄溶液による懸濁を繰り返して洗浄することができる。プロテアーゼ及び微細なゼラチンの分解物は,遠心分離により除くことができる。しかし,ゼラチンの分解物の中には遠心したときに細胞と共に沈殿する大きさの残渣もある。このようなゼラチンの粗大な残渣の除去は,膜ろ過等の手段により行うことができる。かかる観点から,膜ろ過を行う場合,そのろ過膜の孔径は,20~80μmが好ましい。例えば,孔径が,25μm,26μm,27μm,28μm,30μm,50μm,70μm,80μmのろ過膜を用いることができる。ろ過膜によるろ過は,大孔径のろ過膜でろ過した後に,小孔径のろ過膜でろ過することにより,ろ過膜の目詰まりを防止し効率よく行うことができる。例えば,最初に孔径が60~100μmのろ過膜でろ過した後に,孔径が25~50μmのろ過膜でろ過してもよく,最初に孔径が60~75μmのろ過膜でろ過した後に,孔径が25~30μmのろ過膜でろ過してもよい。ろ過膜によるろ過は,小孔径のろ過膜のみでろ過することによっても行うことができる。この場合に用いられるろ過膜の孔径は25~50μmが好ましく,25~30μmがより好ましく,例えば,孔径が,25μm,26μm,27μm,28μm,30μmのろ過膜である。このとき,ゼラチンの粗大な残渣はろ過膜を通過せず取り残され,ろ液中に細胞が回収される。但し,細胞を回収することなく細胞が懸濁されている溶液を,限外ろ過膜等を用いて後述する凍結保存液(製剤細胞用凍結保存液)に置き換えることにより,凍結前製剤細胞懸濁液を調整することもできる。
【0197】
上記洗浄操作で用いられる洗浄溶液は,培地とプロテアーゼを十分に除くためのものであり,マイクロキャリアがゼラチン等の蛋白質である場合は,その分解物をも除くためのものである。かかる洗浄溶液の組成に特に限定はなく,生理食塩水,リン酸緩衝生理食塩水,酢酸リンゲル液,重炭酸リンゲル液等を用いることができるが,好ましくは,重炭酸リンゲル液にヒト血清アルブミンを添加した溶液である。酢酸リンゲル液及び重炭酸リンゲル液は市販のものを使用することができる。例えば,酢酸リンゲル液としてはPLASMA-LYTE A(バクスター社),フィジオ140(大塚製薬社)を用いることができ,重炭酸リンゲル液としては,ビカーボン注(味の素社)を用いることができる。好適な重炭酸リンゲル液の成分組成及び電解質濃度の一例を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0198】
洗浄溶液の成分組成として好適な一例を表4に示す。また,洗浄溶液に含まれる電解質濃度として好適な一例を表5に示す。なお,表4及び表5に示される洗浄溶液の成分のうち,アセチルトリプトファンナトリウムとカプリル酸ナトリウムは省くこともできる。
【0199】
なお,プロテアーゼによる処理後に夾雑物を除去するために,遠心分離と膜ろ過を行う場合,遠心分離を先に行い,続いて膜ろ過を行ってもよく,膜ろ過を先に行い,続いて遠心分離を行ってもよいが,好ましくは膜ろ過を先に行い,続いて遠心分離を行う。
【0200】
洗浄溶液で洗浄後の回収細胞は,凍結保存液(製剤細胞用凍結保存液)に懸濁した状態にされる。この懸濁液(凍結前製剤細胞懸濁液)を細胞凍結保存用容器に封入して凍結したものが,歯髄由来細胞製剤のうち,保存や輸送に最適の形態のものとなる。凍結前製剤細胞懸濁液の溶液部分(製剤細胞用凍結保存液)の組成は,哺乳動物細胞,特にヒトの多能性幹細胞富化歯髄由来細胞を死滅させることなく凍結,解凍できるものである限り特に制限はない。製剤細胞用凍結保存液は細胞保護剤を含む。細胞保護剤は,例えば,細胞を凍結させるときに細胞内に氷の結晶が形成されて細胞が破壊されることを抑制する機能を有するものである。細胞保護剤として好適なものとして,ジメチルスルホキシド(DMSO),エチレングリコール,プロピレングリコール,セリシン,グリセロールが挙げられる。これらの2以上を組み合わせて細胞保護剤として使用することもできる。細胞保護剤としてジメチルスルホキシドを用いる場合,その濃度は好ましくは5~15%(v/v)であり,より好ましくは9~11%(v/v)であり,例えば10%(v/v)である。凍結保存液は緩衝剤を含んでもよい。緩衝剤は,水溶液のpHを6~8,例えば6.8~7.8に調整することのできるものが好ましい。かかる緩衝剤としては,例えば,炭酸イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオン及びナトリウムイオンを含有するものが挙げられる。製剤細胞用凍結保存液は更にヒト血清アルブミンを含んでもよい。ヒト血清アルブミンを用いる場合,その濃度は好ましくは40~100g/Lであり,より好ましくは46~56g/Lであり,例えば51g/Lである。
【0201】
重炭酸リンゲル液にヒト血清アルブミン溶液とジメチルスルホキシドを添加したものは,製剤細胞用凍結保存液として好適なものの一例である。製剤細胞用凍結保存液は,好ましくは,塩化ナトリウムが59~80.4mM,塩化カリウムが2.3~3.08mM,塩化カルシウム二水和物が0.85~1.16mM,塩化マグネシウム六水和物が0.28~0.385mM,炭酸水素ナトリウムが14~19.2mM,クエン酸ナトリウムニ水和物が0.94~1.28mM,ヒト血清アルブミンが46~56g/L,アセチルトリプトファンナトリウムが3.73~4.55mM,カプリル酸ナトリウムが3.74~4.58mM,DMSOが9~11%(v/v)である。表6に示される中間体細胞用凍結保存液は,製剤細胞用凍結保存液としても好適に用いることができる。
すなわち,製剤細胞用凍結保存液は,概ね,中間体細胞用凍結保存液として用いることのできるものを,好適に用いることができる。例えば,その組成は,塩化ナトリウムが65.8~80.4mM,塩化カリウムが2.52~3.08mM,塩化カルシウム二水和物が0.95~1.16mM,塩化マグネシウム六水和物が0.315~0.385mM,炭酸水素ナトリウムが15.7~19.2mM,クエン酸ナトリウムニ水和物が1.04~1.28mM,ヒト血清アルブミンが46~56g/L,アセチルトリプトファンナトリウムが3.73~4.55mM,カプリル酸ナトリウムが3.74~4.58mM,DMSOが9~11%(v/v)である。表6に示されるものの他,塩化ナトリウムが70.8~71.3mM,塩化カリウムが2.71~2.73mM,塩化カルシウム二水和物が1.01~1.02mM,塩化マグネシウム六水和物が0.335~0.345mM,炭酸水素ナトリウムが16.9~17.0mM,クエン酸ナトリウムニ水和物が1.12~1.14mM,ヒト血清アルブミンが53.6~54.3g/L,アセチルトリプトファンナトリウムが4.36~4.41mM,カプリル酸ナトリウムが4.37~4.43mM,DMSOが10.6~10.9%(v/v)である。なお,これらのうち,アセチルトリプトファンナトリウムとカプリル酸ナトリウムは省くことができる。製剤細胞用凍結保存液の生理食塩水に対する浸透圧比は,好ましくは0.9~1.1である。
【0202】
また,ナトリウムイオン,カリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン,炭酸水素イオン,クエン酸イオン,ヒト血清アルブミン,及びジメチルスルホキシドを含む溶液は,中間体細胞用凍結保存液として好適に用いることができる。例えば,ナトリウムイオンを91~113mM,カリウムイオンを2.52~3.08mM,カルシウムイオンを0.95~1.16mM,マグネシウムイオンを0.315~0.385mM,炭酸水素イオンを15.6~19.2mM,クエン酸イオンを1.04~1.28mM,ヒト血清アルブミンを46~56g/L,及びジメチルスルホキシドを9~11%(v/v)の濃度でそれぞれ含む溶液はその好適な一例である。また例えば,ナトリウムイオンを100~102mM,カリウムイオンを2.71~2.77mM,カルシウムイオンを1.01~1.03mM,マグネシウムイオンを0.335~0.345mM,炭酸水素イオンを16.9~17.2mM,クエン酸イオンを1.13~1.15mM,ヒト血清アルブミンを52.2~54.3g/L,及びジメチルスルホキシドを10.3~10.9%(v/v)の濃度でそれぞれ含む溶液はその好適な一例である。更に例えば,ナトリウムイオンを102mM,カリウムイオンを2.80mM,カルシウムイオンを1.05mM,マグネシウムイオンを0.35mM,炭酸水素イオンを17.4mM,クエン酸イオンを1.16mM,ヒト血清アルブミンを51g/L,及びジメチルスルホキシドを10%(v/v)の濃度でそれぞれ含む溶液はその好適な一例である。更に例えば,ナトリウムイオンを101mM,カリウムイオンを2.77mM,カルシウムイオンを1.03mM,マグネシウムイオンを0.34mM,炭酸水素イオンを17.2mM,クエン酸イオンを1.15mM,ヒト血清アルブミンを52g/L,及びジメチルスルホキシドを10%(v/v)の濃度でそれぞれ含む溶液はその好適な一例である。更に例えば,ナトリウムイオンを100mM,カリウムイオンを2.71mM,カルシウムイオンを1.01mM,マグネシウムイオンを0.34mM,炭酸水素イオンを16.9mM,クエン酸イオンを1.13mM,ヒト血清アルブミンを53.6g/L,及びジメチルスルホキシドを10.7%(v/v)の濃度でそれぞれ含む溶液はその好適な一例である。
アセチルトリプトファン又はその塩を更に含む場合,その濃度は好ましくは3.73~4.55mM,より好ましくは4.24~4.41mMであり,例えば,4.14mM,4.24mM,4.36mM等である。カプリル酸又はその塩を更に含む場合,その濃度は好ましくは3.74~4.58mM,より好ましくは4.25~4.43mMであり,例えば,4.16mM,4.25mM,4.37mM等である。
【0203】
製剤細胞用凍結保存液に懸濁させた状態の,懸濁液中における細胞密度に特に制限はないが,好ましくは5×10~8×10個/mLであり,より好ましくは1.5×10~3×10個/mLであり,更に好ましくは2.1×10~3.0×10個/mLであり,例えば2.5×10個/mLである。懸濁させた多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,細胞凍結保存用容器に分注した後,凍結保存される。
【0204】
多能性幹細胞富化歯髄由来細胞を,製剤細胞用凍結保存液に懸濁させた状態における,細胞懸濁液の組成は,懸濁させる細胞密度により異なるが,概ね,塩化ナトリウムが59~61mM,塩化カリウムが2.3~2.6mM,塩化カルシウム二水和物が0.85~0.98mM,塩化マグネシウム六水和物が0.28~0.32mM,炭酸水素ナトリウムが14~16mM,クエン酸ナトリウムニ水和物が0.94~1.08mM,ヒト血清アルブミンが49~50g/L,アセチルトリプトファンナトリウムが4.0~4.1mM,カプリル酸ナトリウムが4.0~4.1mM,DMSOが9~11%(v/v)である。
【0205】
1つの細胞凍結保存用容器に分注される細胞懸濁液の量は,適宜調整されるべきものであるが,好ましくは,1~20mLである。また,1つの細胞凍結保存用容器に分注される細胞数は,好ましくは5×10~9.2×10個である。
【0206】
製剤細胞用凍結保存液に懸濁させた細胞の凍結保存のための好適な容器,細胞の凍結及び保存の手順及び条件は,中間体細胞の凍結保存について既に記載したのと同様である。
【0207】
このようにして凍結保存した細胞は,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞を有効成分として含有してなる医薬(歯髄由来細胞製剤)として使用することが可能である。この場合,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は凍結状態で搬送し,使用時に解凍して患者に投与される。
【0208】
生産培養を経て得られる歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,解凍直後の生存率が50%以上であることが好ましく,60%以上であることがより好ましく,70%以上であることが更に好ましく,例えば,生存率が80%以上,90%以上,95%以上であることが好ましい。適宜に設けた基準により,生存率がある一定の数値以上であるもののみを歯髄由来細胞製剤として,医薬として供するようにすることができる。
【0209】
歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,軟骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したとき,アグリカンの発現量増加が全体として観察される。また,当該細胞は,骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したとき,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加するのが全体として観察される。すなわち,当該細胞は,全体として観察したとき,軟骨細胞及び骨細胞への分化能を備えている。
【0210】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したときに,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166の少なくとも一つが陽性である。同様に,当該細胞は,CD34及びCD45の少なくとも一つが陰性である。例えば,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したときに,解凍直後若しくは解凍して培養したときの表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73及びCD90が陽性であり,且つCD34が陰性であり,又は例えば,CD73,CD90,CD105,及びCD166は陽性であり,且つCD34及びCD45は陰性である。
【0211】
また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したときに,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つが陰性である。例えば,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したときに,解凍直後若しくは解凍して培養したときの表面抗原マーカーの発現パターンが,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性であるものである。これらの表面抗原マーカーが陽性の細胞は,同種異型の個体に移植したときに,抗原として認識されて生体内から排除される傾向にあることが知られている。これらの表面抗原マーカーの少なくとも一つが陰性であることは,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞が,それだけ低免疫原性で,同種異型の個体に移植したときに,生体内から排除され難い傾向を有することを示している。また,これら表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,IFN-γで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,CD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となってもよい。例えば,IFN-γで細胞を刺激したとき,例えば,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となる。
【0212】
また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したときに,解凍直後若しくは解凍して培養したときの表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,例えば,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34,CD40,CD45,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である。IFN-γで細胞を刺激したとき,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となる。
【0213】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,
(d-1)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD29,CD44,CD59,及びCD164の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは80%以上,より好ましくは90%以上,更に好ましくは95%以上で陽性である。
【0214】
又,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,
(d-2)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD9,CD13,CD46,CD47,CD58,CD63,CD73,CD81,CD90,CD98,CD147,HLA-A,B,C及びEGF-Rの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは70%以上,より好ましくは80%以上,更に好ましくは90%以上で陽性である。
【0215】
又,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,
(d-3)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD49b,CD49c,CD49e,CD55,CD95,CD151,及びCD166の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは65%以上,より好ましくは75%以上で陽性であり,更に好ましくは80%以上で陽性である。
【0216】
又,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,
(d-4)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD10,CD49f,CD105,及びCD140bの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陽性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは60%以上,より好ましくは70%以上で陽性であり,更に好ましくは75%以上で陽性である。
【0217】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,好ましくは,上記の(d-1),(d-2),(d-3),及び(d-4)で示される特徴の2以上,より好ましくは3以上,更に好ましくはこれら全ての特徴を有するものである。例えば,上記の(d-1)及び(d-2)で示される特徴を有する細胞は,本発明の好適な一実施形態である。
【0218】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,
(d-5)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD1a,CD1d,CD2,CD3,CD4,CD5,CD7,CD8a,CD8b,CD11b,CD11c,CD15,CD15s,CD16,CD18,CD19,CD20,CD21,CD22,CD23,CD24,CD25,CD28,CD30,CD31,CD32,CD33,CD34,CD35,CD37,CD38,CD41a,CD86,CD87,CD88,CD89,CDw93,CD94,CD100,CD102,CD103,CD114,CD117,CD118,CD120b,CD121b,CD122,CD123,CD124,CD126,CD127,CD128b,CD132,CD134,CD135,CD137,CD137リガンド,CD138,CD144,CD150,CD153,CD154,CD158a,CD158b,CD161,CD162,CD163,CD172b,CD177,CD178,CD180,CD184,CD195,CD196,CD197,CD205,CD206,CD210,CD212,CD220,CD226,CD229,CD231,CD235a,CD244,CD255,CD267,CD268,CD278,CD279,CD282,CD294,CD305,CD309,CD314,CD321,CDw327,CDw328,CD329,CD335,CD336,CD337,BLTR-1,CLIP,CMRF-44,CMRF-56,fMLP-R,SSEA-1,TRA-1-60,CLA,インテグリンβ7,及びInvariant NKTの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下,更に好ましくは2%以下,より更に好ましくは1%以下の細胞でのみ陽性である。
【0219】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,
(d-6)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD1b,CD6,CD27,CD41b,CD42a,CD42b,CD43,CD45,CD45RB,CD48,CD50,CD53,CD57,CD62E,CD62L,CD62P,CD64,CD66b,CD66f,CD69,CD70,CD72,CD75,CD84,CD85,CD97,CD99R,CD183,CD193,SSEA-3,及びγδTCRの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下,更に好ましくは2%以下の細胞で陽性でのみある。
【0220】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,
(d-7)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD4v4,CD14,CD36,CD45RA,CD45RO,CD66(a,c,d,e),CD79b,CD83,CD106,CD152,CD209,CD271,CD275,CD326,MIC A/B,及びαβTCRの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは10%以下,より好ましくは5%以下の細胞で陽性である。
【0221】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,
(d-8)全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD26,CD40,CD56,CD80,CD146,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てが陰性である。ここで,これらの抗原は,全体に含まれる個々の細胞を観察したときに,観察した細胞の好ましくは20%以下,より好ましくは10%以下の細胞でのみ陽性である。
【0222】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,好ましくは,上記の(d-1),(d-2),(d-3),(d-4),(d-5),(d-6),(d-7),及び(d-8)で示される特徴の2以上,より好ましくは3以上,更に好ましくはこれら全ての特徴を有するものである。例えば,上記の(d-1)及び(d-5)で示される特徴を有する細胞は,本発明の好適な一実施形態である。
【0223】
また,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,全体として観察したとき,解凍直後若しくは解凍後の培養において,プロスタグランジンE(PGE)及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現するものであり,プロスタグランジンE(PGE)にあっては,細胞をTNFαで刺激することにより,その発現量が増加する。
【0224】
また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,IFN―γの存在下で培養したときに,キヌレニンの分泌量を増加させるものである。
【0225】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つ又はすべてが陽性であり,且つCD19,CD34,及びCD206の少なくとも一つ又はすべてが陰性である。また,本発明の一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つ又はすべてが陽性であり,且つCD19,CD31,CD33,CD34,CD38,CD45,CD206,CD235a,及びSSEA-1の少なくとも一つ又はすべてが陰性である
【0226】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,CD19,CD26,CD34,CD56,CD106,CD117,CD146,及びCD271の少なくとも一つが陰性,例えばこれらの全てが陰性である。
【0227】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD140b及びHLA-A,B,Cの少なくとも一つが陽性,例えばこれらの全てが陽性である。
【0228】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD10,CD49e及びCD95の少なくとも一つが陽性,例えばこれらの全てが陽性である。
【0229】
本発明の一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD46,CD47,CD55,CD58,及びCD59の少なくとも一つ,例えばこれらの全てが陽性である。
【0230】
本発明の一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,例えば,CD73,CD90,CD105,及びCD166の少なくとも一つが陽性であり,且つCD34及びCD45の少なくとも一つが陰性である。
【0231】
また,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,解凍直後若しくは解凍して培養したときにおいて全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34,CD40,CD45,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性である。また,IFN―γで細胞を刺激したとき,例えば,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原は陽性となる。また,プロスタグランジンE(PGE)及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現し,プロスタグランジンE(PGE)にあっては,細胞をTNFαで刺激することにより,その分泌量が増加する。
【0232】
歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを培養したときに,種々の液性因子を分泌するものである。
(d-9)一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを培養したときに,MMP-2,IGFBP-4,及びシスタチンCの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現するものである。
【0233】
(d-10)また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを培養したときに,IL-6,IL-11,MCP-1,IL-8,GROα,HGF,VEGF,VCAM-1,TIMP-3,TIMP-2,及びTIMP-1の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現するものである。
【0234】
(d-11)また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを培養したときに,これを培養したときに,IL-23,IFN-α,TNF-α,IL-18,IL-27,TARC,ENA-78,MIP-3α,MIP-1β,IP-10,SCF,及びICAM-1の少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現するものである。
【0235】
(d-12)また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを培養したときに,IL-21,Eotaxin,MIP-1α,MIG,I-TAC,IP-10,及びGM-CSFの少なくとも一つ,好ましくはこれらの全てを発現しないか,ほとんど発現しないものである。
【0236】
(d-13)また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを培養したときの,IL-6,IL-23,IL-11,MCP-1,ENA-78,HGF,VEGF,MMP-2,IGFBP-4,シスタチンC,TIMP-3,TIMP-2,及びTIMP-1の発現量の少なくとも一つが,中間体細胞の発現量と比較して増加するものである。例えば,IL-6,IL-11,HGF,TIMP-3,及びTIMP-1の発現量が,中間体細胞の発現量と比較して増加するものである。
【0237】
(d-14)また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これをTNF-α存在下,又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,IL-6の発現量が増加するものである。
【0238】
(d-15)また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これをTNF-α存在下,又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,IL-11の発現量が増加するものである。
【0239】
(d-16)また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これをTNF-α存在下,又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,IP-10の発現量が増加するものである。
【0240】
(d-17)また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これをTNF-α存在下,又はIFN-γ存在下で培養したときに,これらの無存在下で培養したときに比較して,MCP-1の発現量が増加するものである。
【0241】
(d-18)また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これをTNF-α存在下で培養したときに,GM-CSFの発現が誘導されるが,IFN-γ存在下で培養したときには,GM-CSFの発現が誘導されないものである。
【0242】
(d-19)また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これをTNF-α存在下で培養したときに,その無存在下で培養したときに比較して,HGFの発現量が減少する一方,これをIFN-γ存在下で培養したときに,その無存在下で培養したときに比較して,HGFの発現量が増加するものである。
【0243】
(d-20)また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これをTNF-α存在下で培養したときに,その無存在下で培養したときに比較して,IL-8の発現量が増加するものである。
【0244】
一実施形態において,本発明の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞,好ましくは,上記の(d-9)乃至(d-20)で示される特徴の2以上,より好ましくは3以上,更に好ましくは4以上,なおも更に好ましくはこれら全ての特徴を有するものである。例えば,上記の(d-9)及び(d-16)で示される特徴を有する細胞,上記の(d-9),(d-15)及び(d-16)で示される特徴を有する細胞は,本発明の好適な一実施形態である。
【0245】
また,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,解凍直後若しくは解凍して培養したときにおいて全体として観察したとき,軟骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養した場合に,アグリカンの発現量が増加する。また,当該多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養した場合,全体として観察したとき,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加する。すなわち,当該多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,軟骨細胞及び骨細胞への分化能を有する。歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞が軟骨細胞への分化能及び骨細胞への分化能を有することは,それぞれ実施例20及び実施例19に記載の方法で調べることができる。これらの方法により軟骨細胞への分化能と骨細胞への分化能を有することが確認された細胞群のみを,製品として医療機関等に供給するようにすることができる。
【0246】
適宜設けた基準により,所定の表面抗原マーカーの発現パターン及び/又は遺伝子発現パターンを示す細胞のみを歯髄由来細胞製剤として保存するようにすることができる。
【0247】
また,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,解凍直後若しくは解凍して培養したときにおいて全体として観察したとき,ほとんどが歯髄由来多能性幹細胞で占められている。平面培養中の歯髄由来多能性幹細胞は,光学顕微鏡下で略紡錘形の固着細胞として観察される。光学顕微鏡下で観察したときの,平面培養中の細胞全体に占める略紡錘形の細胞の比率は,好ましくは99%以上であり,より好ましくは99.5%以上であり,更に好ましくは99.9%以上であり,より更に好ましくは99.95%以上である。適宜設けた基準により,略紡錘形の細胞の比率が,ある一定以上である歯髄由来細胞製剤のみを,製品として医療機関等に供給するようにすることができる。
【0248】
また,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを解凍して培養したときに,3回以上の細胞分裂能を有するものであり,好ましくは4回以上,より好ましくは5回以上,更に好ましくは10回以上の細胞分裂能を有するものである。また,歯髄由来細胞製剤は,これを解凍して細胞培養プレート上で培養したときの平均倍化時間が,好ましくは96時間以内であるものであり,より好ましくは84時間以内のものであり,更に好ましくは72時間以内のものであり,更により好ましくは48時間以内のものであり,更により好ましくは36時間以内のものである。このときの細胞の培養条件は,上記の多能性幹細胞富化歯髄由来細胞と同一若しくは同等のもの,例えば実施例5に記載の条件が用いられる。適宜設けた基準により,細胞分裂能が,ある一定以上である歯髄由来細胞製剤のみを,製品として医療機関等に供給することができる。また,適宜設けた基準により,平均倍化時間が,ある一定の時間内である歯髄由来細胞製剤のみを,製品として医療機関等に供給することもできる。かかる基準としては,例えば,3回以上の細胞分裂能を有し平均倍化時間が72時間以内であるもの,4回以上の細胞分裂能を有し平均倍化時間が72時間以内であるもの,5回以上の細胞分裂能を有し平均倍化時間が72時間以内であるものである。
【0249】
すなわち,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,高い分裂能を有し且つ2種以上の細胞に分化できるという幹細胞の性質を保持するものである。更なる培養工程に供される中間体細胞は,高いコロニー形成能を有する細胞ということもできる。
【0250】
歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,in vitroの環境下で,好ましくは16回以上の細胞分裂を経たものであり,例えば21回以上,22回以上,又は23回以上の細胞分裂を経たものである。
【0251】
歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを解凍したときに,溶液中,例えば培地中に浮遊させた状態でのその直径の平均が20μm以下,18μm以下であり,例えば,10~20μm,10~18μm,12~20μm,14~20μm,16~20μmである。
【0252】
歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞の品質検査の項目を以下に品質検査a’~k’として例示する。品質検査は,これらの項目の1又は2以上について行われる。これらの項目の全てを実施してもよい。このとき品質検査に供される細胞は,(1)歯髄由来細胞製剤として凍結保存液に懸濁させる前の細胞の一部を分取した細胞,(2)歯髄由来細胞製剤として凍結保存液に懸濁させる前の細胞の一部を分取し,これを更に継代させた細胞,(3)歯髄由来細胞製剤として凍結させるために凍結保存液に懸濁させた凍結前の細胞,(4)歯髄由来細胞製剤として凍結させたものを解凍した直後の細胞,又は(5)歯髄由来細胞製剤として凍結させたものを解凍し更に培養して得られた細胞,の何れかである。特に指定のない限り,これら(1)~(5)の細胞の2種以上について同一の品質検査を行ってもよい。
(品質検査a’)光学顕微鏡下で観察したときに,細胞全体に占める略紡錘形の形態を示す細胞数の割合が,99%以上,99.5%以上,99.9%以上,又は99.95%以上であることの検証。
(品質検査b’)細胞の生存率が,50%以上,60%以上,70%以上,80%以上,90%以上,又は95%以上であることの検証。
(品質検査c’)細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,且つCD34及びCD45は陰性であることの検証,
又は,細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD73及びCD90の少なくとも一つが陽性であり,且つCD34が陰性であることの検証。
(品質検査d’)細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原が陰性であることの検証,又は
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD40,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原の少なくとも一つが陰性であることの検証。
(品質検査e’)細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,IFN-γで細胞を刺激したときに,CD40,CD80,及びCD86は陰性のままであり,MHC-クラスII抗原が陽性となることの検証,又は
細胞の表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,IFN-γで細胞を刺激したときに,CD40が陰性,CD80が陰性,CD86が陰性,及びMHC-クラスII抗原が陰性であることの少なくとも一つの検証。
(品質検査f’)細胞が,プロスタグランジンE(PGE)及び/又は血管内皮増殖因子(VEGF)を発現するものであり,且つプロスタグランジンE(PGE)にあっては,細胞をTNFαで刺激することにより,その発現量が増加することの検証。
(品質検査g’)軟骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したときに,アグリカンの発現量が増加することの検証。
(品質検査h’)骨細胞への分化を誘導することの知られている物質を含有する培地で培養したときに,細胞におけるカルシウムの蓄積量が増加することの検証。
(品質検査i’)細胞培養プレート上で細胞が,3回以上,4回以上,又は5回以上の細胞分裂能を有することの検証。
(品質検査j’)細胞培養プレート上での細胞の平均倍化時間が,該品質検査i’の実施期間において,96時間以内,84時間以内,72時間以内,48時間以内,又は36時間以内であることの検証。
(品質検査k’)細胞を培地中に浮遊させた状態での平均の直径が,20μm以下,18μm以下,10~20μm,10~18μm,12~20μm,14~20μm,又は16~20μmであることの検証。
【0253】
上記品質検査は,(品質検査a’)~(品質検査j’)の任意の10項目について実施してもよい。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の9項目を選択して実施してもよい。9項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a’,b’,c’,d’,e’,f’,g’,i’,及びj’が選択されるが,限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の8項目を選択して実施してもよい。8項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a’,b’,c’,d’,e’,f’,i’,及びj’が選択されるが,限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の7項目を選択して実施してもよい。7項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a’,b’,c’,d’,e’,i’,及びj’が選択されるが,これに限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の6項目を選択して実施してもよい。6項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a’,b’,c’,d’,i’,及びj’が選択されるが,これに限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の5項目を選択して実施してもよい。5項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a’,b’,c’,i’,及びj’が選択されるが,これに限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の4項目を選択して実施してもよい。4項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a’,b’,c’,及びj’が選択されるが,これに限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の3項目を選択して実施してもよい。3項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a’,b’,及びc’が選択されるが,これに限定されることはない。また品質検査は,これら10項目の中から,任意の2項目を選択して実施してもよい。2項目を選択して品質検査を実施する場合は,例えば,品質検査a’及びb’,品質検査a’及びc’,品質検査a’及びd’,品質検査a’及びe’,品質検査a’及びf’,品質検査a’及びg’,品質検査a’及びh’,品質検査a’及びi’,品質検査a’及びj’,品質検査b’及びc’,品質検査b’及びd’,品質検査b’及びe’,品質検査b’及びf’,品質検査b’及びg’,品質検査b’及びh’,品質検査b及びi,品質検査b及びj,品質検査c及びd,品質検査c及びe,品質検査c’及びf’,品質検査c’及びg’,品質検査c’及びh’,品質検査c’及びi’,品質検査c’及びj’,品質検査d’及びe’,品質検査d’及びf’,品質検査d’及びg’,品質検査d’及びh’,品質検査d’及びi’,品質検査d’及びj’,品質検査e’及びf’,品質検査e’及びg’,品質検査e’及びh’,品質検査e’及びi’,品質検査e’及びj’,品質検査f’及びi’,品質検査f’及びj’,または品質検査i’及びj’が選択されるが,これらに限定されることはない。
【0254】
本発明の多能性幹細胞が富化された歯髄由来細胞の製造方法は,歯髄に含まれる多能性幹細胞を培養し,増殖させた多能性幹細胞を中間体細胞として凍結保存させた後,これを解凍し更に培養し増殖させることにより歯髄由来細胞製剤を製造するものである。中間体細胞から歯髄由来細胞製剤を調製するまでの工程は,多能性幹細胞を粒子の表面に接着させた状態で培養するステップを含む。かかる工程が含まれることにより,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,中間体細胞と異なる性質を有するものとなる。
【0255】
例えば,表面抗原の陽性率についてみると,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,中間体細胞と比較して,CD39,CD49a,CD61,CD107a,CD107b,及びCD143のいずれか一つ又はこれらの全ての陽性率が高い。例えば,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,中間体細胞と比較して,CD107bの陽性率が高い。歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞のこれらの表面抗原の陽性率は,中間体細胞と比較して,好ましくは10%以上高いものであり,より好ましくは20%以上高いものである。また,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,中間体細胞と比較して,CD146の陽性率が低い。歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞のCD146の陽性率は,中間体細胞と比較して,20%以上,又は50%以上低い。
【0256】
また例えば,液性因子の発現量についてみると,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,中間体細胞と比較して,IL-6,IL-23,IL-11,MCP-1,ENA-78,HGF,VEGF,MMP-2,IGFBP-4,シスタチンC,TIMP-3,TIMP-2,及びTIMP-1のいずれか一つ又はこれらの全ての発現量が多い。特に,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,中間体細胞と比較して,IL-6,IL-11,HGF,IGFBP-4,TIMP-3,及びTIMP-1のいずれか一つ又はこれらの全ての発現量が多い。特に,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,中間体細胞と比較して,IL-6及びHGFのいずれか一つ又はこれらの全ての発現量が多い。
【0257】
中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,高い分裂能を有し且つ2種以上の細胞に分化できるという幹細胞の性質を保持するものである。これらの細胞は,高いコロニー形成能を有する細胞ということもできる。
【0258】
中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,例えば,CD73,CD90,CD105,及びCD166の少なくとも一つが陽性であり,且つCD34及びCD45の少なくとも一つが陰性である。また,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,例えば,CD73及びCD90が陽性であり,且つCD34が陰性である。この発現パターンは,間葉系幹細胞と共通する。しかし,特徴的な性質も有する。
【0259】
本発明の一実施形態において,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つ又はすべてが陽性であり,且つCD19,CD34,及びCD206の少なくとも一つ又はすべてが陰性である。また,本発明の一実施形態において,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47,CD81,及びCD147の少なくとも一つ又はすべてが陽性であり,且つCD19,CD31,CD33,CD34,CD38,CD45,CD206,CD235a,及びSSEA-1の少なくとも一つ又はすべてが陰性である。
【0260】
一実施形態において,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD19,CD26,CD34,CD106,CD117,及びCD271の少なくとも一つが陰性,例えばこれらの全てが陰性である。また,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,CD19,CD26,CD34,CD56,CD106,CD117,CD146,及びCD271の少なくとも一つが陰性,例えばこれらの全てが陰性である。これらの中で,CD106は,機能が十分に解明されていないものの,炎症部位の血管内皮細胞で発現していることから,炎症性シグナルの活性化に関与していると考えられる。これらの表面抗原の発現パターンは,一般的に高いコロニー形成能を有する幹細胞で知られているものと相違するが,それでもなお,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞が,高いコロニー形成能を有することは驚くべきことである。
【0261】
一実施形態において,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD140b及びHLA-A,B,Cの少なくとも一つが陽性,例えばこれらの全てが陽性である。
【0262】
一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD49e及びCD95の少なくとも一つが陽性,例えばこれらの全てが陽性である。
【0263】
一実施形態において,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD10が陽性である。CD10の機能は十分に解明されていないが,エンケファリンやサブスタンスPなどの炎症関連物質及び,炎症関連ペプチドを分解することで炎症反応の収束に関与している可能性がある。
【0264】
また,一実施形態において,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,中間体細胞と比較してCD39の陽性率が高い。また,これらの細胞は,何れもCD73が陽性である。CD39はCD73と協働してATPをアデノシンに変換することにより細胞外アデノシン濃度を上昇させる。アデノシンは免疫反応を負に制御して炎症を抑制する機能を有する。この機能は,CD39の陽性率の高い歯髄由来細胞製剤において,中間体細胞と比較して高いと考えられる。
【0265】
また,一実施形態において,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD46が陽性である。CD46は補体(C3)の活性を抑制することにより,補体依存性細胞障害の回避に関与していると考えられる。
【0266】
また,一実施形態において,これらの細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD47が陽性である。CD47は,細胞にマクロファージによる貪食への抵抗性を付与する。
【0267】
また,一実施形態において,これらの細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD55が陽性である。CD55は,補体の古典的経路または第二経路を調節する機能を有し,補体による細胞障害の回避に関与していると考えられる。
【0268】
また,一実施形態において,これらの細胞は,これを全体として観察したとき,表面抗原マーカーの発現パターンにおいて,CD58が陽性である。CD58の機能は十分に解明されていないが,制御性T細胞(Treg細胞)を誘導することにより,炎症反応の収束に寄与することが示唆されている。
【0269】
また,一実施形態において,これらの細胞は,CD59が陽性である。CD59は,補体(C9)に作用することで膜障害複合体の形成を阻害することにより,補体による細胞障害の回避に関与していると考えられる。
【0270】
中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,種々の液性因子を分泌するものである。一実施形態において,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,MMP-2,IGFBP-4,シスタチンC,IL-6,IL-11,MCP-1,IL-8,HGF,VEGF(血管内皮細胞増殖因子),TIMP-1,TIMP-2,及びTIMP-3の少なくとも一つ,例えばこれらの全てを分泌する。これらに加えて,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,GROα,VCAM-I,及びIP-10の少なくとも一つ,例えばこれらの全てを分泌する。
【0271】
一実施形態において,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,IL-6を分泌する。IL-6の分泌量は,TNF-α刺激,及びIFN-γ刺激により増加する。IL-6は,炎症性サイトカインとしても知られているが,IL-6欠損マウスで肝臓における炎症反応が悪化すること等が知られており,抗炎症作用を有すると考えられる。
【0272】
中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,種々の液性因子を分泌するものである。一実施形態において,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,IL-11を分泌する。IL-11の分泌量は,TNF-α刺激,及びIFN-γ刺激により増加する。IL-11は,炎症性サイトカインの分泌を抑制することにより,抗炎症作用を示すと考えられる。
【0273】
中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,種々の液性因子を分泌するものである。一実施形態において,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,IP-10を分泌する。IP-10の分泌量は,TNF-α刺激,及びIFN-γ刺激により増加する。IP-10は,炎症性サイトカインの分泌を抑制することにより,抗炎症作用を示すと考えられる。
【0274】
歯髄由来細胞は,抗炎症作用等の機能を有する。上記の表面抗原,液性因子,及びその他の要素の,一部又はすべてが協働してその機能が発揮される。
【0275】
本発明の歯髄由来細胞製剤を有効成分として含む医薬組成物は,種々の疾患の治療薬として用いることができる。例えば,歯髄由来細胞製剤は,自己免疫疾患,炎症性疾患,間節リウマチ,クローン病,慢性炎症性腸疾患,心筋梗塞,脳梗塞(慢性期脳梗塞,急性期脳梗塞を含む),慢性炎症性脱髄性多発性神経炎,多発性硬化症,全身性エリテマトーデス,肝硬変(非代償性肝硬変を含む),敗血症,骨関節炎,乾癬,および器官移植片拒絶を含む群から選択される疾患または障害の治療及び予防に用いることができる。自己免疫疾患等の治療薬として用いることのできる細胞製剤として,間葉系幹細胞等の幹細胞を含むものが知られている。しかしながら,既知の細胞製剤は,全ての患者に顕著な治療効果を示すものではなく,その用法も限定的である。本発明の歯髄由来細胞製剤は,自己免疫疾患等の治療薬として用いることのできる細胞製剤に多様性を加えるものである。例えば,既知の細胞製剤により治療効果が得られなかった患者,既知の細胞製剤では治療効果が証明されていない疾患に罹患した患者の治療剤として,本発明の歯髄由来細胞製剤を用いることにより,かかる患者に新たな治療機会を提供することができる。
【0276】
歯髄由来細胞製剤は,上記疾患に罹患する患者に,点滴静注,局所注射等の手段により投与される。
【0277】
歯髄由来細胞製剤は用時解凍して用いられる。使用時に,歯髄由来細胞製剤は,液体窒素保存容器から取り出され,解凍される。解凍は,例えば,36.5~37.5℃のウォーターバス内で加温することにより行う。解凍後の歯髄由来細胞製剤は,医薬品として点滴静注,局所注射等の手段によりヒトに投与することができる。点滴静注の場合,歯髄由来細胞製剤はバイアルから透析バッグに移されてから患者に点滴静注により投与される。局所注射の場合,歯髄由来細胞製剤はバイアルからシリンジに移されてから,患者の局所に注射される。
【0278】
歯髄由来細胞製剤の使用前の解凍は,医療機関において実施されることが想定される。歯髄由来細胞製剤の医療機関への供給は,例えば以下のようにして行われるが,これに特に限定されるものではない。歯髄由来細胞製剤は,その製造業者,販売業者等の保管庫で凍結保存されたものが,医療機関の求めに応じて凍結状態で出荷されて医療機関まで輸送される。医療機関に凍結された状態で搬入された製剤は,患者に投与する直前に解凍され,そうして静脈注射等により患者に投与される。歯髄由来細胞製剤を凍結したままで取り扱う装置として,移動式低温作業台(WO2017/099105)は好適に用いることができる。
【実施例0279】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0280】
〔実施例1:培地および試薬の調製〕
DMEM(10% FBS)培地:DMEM Low Glucose(グルコース濃度5.56mM,GE healthcare社)にFBS(GE healthcare社)を終濃度が10%となるように添加したもの。
【0281】
DMEM(20% FBS)培地:DMEM Low Glucose(グルコース濃度5.56mM,GE healthcare社)にFBS(GE healthcare社)を終濃度が20%となるように添加したもの。
【0282】
ストレプトマイシン水溶液:硫酸ストレプトマイシンを終濃度0.01g/mLとなるように純水に溶解したもの。
【0283】
プロテアーゼ溶液:リベラーゼ 5mg(Roche社)にDMEM Low Glucoseを加えて終濃度2.5mg/mLとなるように調製したもの。プロテアーゼとしてコラゲナーゼI,コラゲナーゼII及びテルモリシンを含有する溶液である。
【0284】
DMEM(20% FBS)ストレプトマイシン培地:DMEM(20% FBS)培地とストレプトマイシン溶液とを,体積比で,100:1で混和したもの。
【0285】
トリプシン-EDTA溶液:0.25%トリプシン-EDTA溶液(Thermo Fisher Scientific社)。
【0286】
1%クロルヘキシジングルコン酸塩溶液:5%(w/v)フェルマジン溶液(シオエ製薬社)を注射用水で5倍希釈したもの。
【0287】
重炭酸リンゲル液:下記の表7及び表8に示す組成を有するビカーボン輸液(エイワイファーマ社)
【0288】
【表7】
【0289】
【表8】
【0290】
ヒト血清アルブミン溶液:下記の表9に示す組成を有する献血アルブミン25-ニチヤク(日本製薬社)
【0291】
【表9】
【0292】
洗浄溶液:ヒト血清アルブミンの終濃度が1.19%(w/v)となるように,1000mLの重炭酸リンゲル液(ビカーボン輸液,エイワイファーマ社)に25%(w/v)ヒト血清アルブミン溶液(日本製薬社)を50mL添加したもの。表10及び表11に洗浄溶液の組成を示す。
【0293】
【表10】
【0294】
【表11】
【0295】
細胞保護液:重炭酸リンゲル液(ビカーボン輸液,エイワイファーマ社)とヒト血清アルブミン25%溶液とジメチルスルホキシド(DMSO,Mylan社)を,体積比で,11:9:5となるように混合したもの。
【0296】
【表12】
【0297】
〔実施例2:ヒト抜歯体からの歯髄の取得〕
インフォームドコンセントを得て取得した1個のヒト抜歯体(第3大臼歯)を,重炭酸リンゲル液(ビカーボン注)で軽く洗浄した後,1%クロルヘキシジングルコン酸塩溶液を用いて抜歯体の表面を殺菌した。次いで,抜歯体を砕いてから歯髄を他の組織から切除した。
【0298】
〔実施例3:歯髄の酵素処理〕
実施例2で得られた歯髄に,DMEM Low Glucoseで約10倍希釈したプロテアーゼ溶液を添加した後,37℃に設定したウォーターバス内で,十分に組織が分解されたことが目視により確認されるまで放置した。
【0299】
次いで,酵素処理後の細胞の全量を遠心管に移し,DMEM(20% FBS)ストレプトマイシン培地を添加して酵素反応を停止させてから,遠心して組織片,細胞等を沈殿させた。上清を除去し,得られた沈殿物にDMEM(20% FBS)ストレプトマイシン培地を添加して組織片,細胞等を懸濁させ,再度遠心して細胞等を沈殿させた。沈殿物にDMEM(20% FBS)ストレプトマイシン培地を添加し,ピペッティングで緩やかに細胞を懸濁させて,組織片,歯髄由来細胞等を含む歯髄懸濁物を得た。
【0300】
〔実施例4:歯髄懸濁物の培養〕
実施例3で調製した歯髄懸濁物を細胞培養プレートに添加し,5%CO存在下,37℃で培養を開始した。DMEM(20% FBS)ストレプトマイシン培地を2~4日毎に交換しながら,該プレート上に形成されたコロニーが目視により確認されるまで,培養を継続した。
【0301】
〔実施例5:歯髄由来細胞の培養〕
コロニーが目視により確認された細胞培養プレートから培地を取り除き,トリプシン-EDTA溶液を細胞の表面が同溶液で覆われるように添加し,37℃で5~10分間静置して細胞を剥離させた。次いで,細胞培養プレートにDMEM(10% FBS)培地を添加して反応を停止させるとともに細胞を懸濁させた。この細胞懸濁液を遠心管に回収した。回収した細胞を遠心(300×g,5分)して沈殿させ,上清を除去した。遠心管にDMEM(10% FBS)培地を添加し細胞を懸濁させて細胞懸濁液とした。
【0302】
細胞懸濁液に含まれる生細胞数を測定した後,3000~20000細胞/cmの細胞密度となるように,細胞培養プレートに細胞を播種し,5%CO存在下,37℃で培養を開始した。DMEM(10% FBS)培地を2~4日毎に交換しながら,該プレート上で細胞がコンフルエントとなるまで,培養を継続した。
【0303】
細胞がコンフルエントとなった細胞培養プレートから培地を除いた後,該プレートにトリプシン-EDTA溶液を,細胞の表面が同溶液で覆われるように添加した。37℃で5~10分間該プレートを静置して細胞を剥離させた。次いで,トリプシン-EDTA溶液と同量のDMEM(10% FBS)培地を該プレートに添加して反応を停止させるとともに細胞を懸濁させた。この細胞懸濁液を遠心管に回収した。回収した細胞を遠心(300×g,5分)して沈殿させ,上清を除去し,DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させた。
【0304】
上記の細胞の回収と培養を繰り返し,生細胞数が1×10個以上となるまで細胞を増殖させた。この培養期間中の細胞の分裂回数(すなわちin vitro環境下での分裂回数)は16~17回であり,細胞の平均倍化時間は培養期間を通して2日(48時間)以内であった。
【0305】
〔実施例6:歯髄由来細胞(中間体細胞)の回収〕
実施例5における最後の培養で細胞がコンフルエントとなった細胞培養プレートから培地を除き,トリプシン-EDTA溶液を,細胞の表面が同溶液で覆われるように添加した。37℃で5~10分間静置し,細胞を剥離させた。次いで,トリプシン-EDTA溶液と同量のDMEM(10% FBS)培地を細胞培養プレートに添加して反応を停止させるとともに細胞を懸濁させた。この細胞懸濁液を容器に回収し,遠心して細胞を沈殿させ,上清を除去した。細胞を洗浄するため,洗浄溶液を500mL~1000mL添加して細胞を懸濁させた後,再度遠心して細胞を沈殿させ,上清を除去した。この細胞の洗浄操作を繰り返して行い,最終的に遠心後の沈殿として細胞を回収した。こうして得られた細胞を中間体細胞とした。
【0306】
〔実施例7:歯髄由来細胞(中間体細胞)の凍結〕
実施例6で調製した細胞の沈殿に洗浄溶液と細胞保護液を加えて,細胞濃度が11×10個/mL(±5%)となるよう細胞を懸濁させた。こうして得られた細胞懸濁液を凍結保存用バイアル(素材:Cyclic olefin copolymer,Sterile Closed Vial,Aseptic Technologies社)に充填して密封した。この細胞懸濁液を中間体細胞懸濁液とした。中間体細胞懸濁液の溶液部分(中間体細胞用凍結保存液)に含まれる成分を表13に示す。中間体細胞懸濁液を,プログラムフリーザーを用いて凍結させてから,液体窒素保存容器内に移して保存した。この凍結させた中間体細胞懸濁液を,中間体細胞凍結品とした。
【0307】
【表13】
【0308】
〔実施例8:歯髄由来細胞(中間体細胞)の解凍〕
実施例7で調製した歯髄由来細胞(中間体細胞)を充填したバイアルを液体窒素保存容器から取り出し,36.5~37.5℃のウォーターバス内で加温して解凍した。解凍した細胞懸濁液を遠心管に移し,30mLのDMEM(10% FBS)培地を加えて懸濁させた。遠心(300×g,5分)して細胞を沈殿させ,上清を除去した。次いで,DMEM(10% FBS)培地を20mL添加して中間体細胞を懸濁させた。
【0309】
〔実施例9:歯髄由来細胞の生産培養(前培養)〕
実施例8で調製した細胞懸濁液に含まれる中間体細胞の生細胞数を測定した後,20000細胞/cm以下の密度となるように,細胞培養プレートに細胞を播種し,5%CO存在下,37℃で培養を開始した。DMEM(10% FBS)培地を2~4日毎に交換しながら,細胞培養プレート上で細胞がコンフルエントとなるまで,培養を継続した。なお,生細胞数から算出された解凍後の中間体細胞に含まれる細胞の生存率(生細胞数/全細胞数×100%)は,概ね85~95%であった。
【0310】
細胞がコンフルエントとなった細胞培養プレートの培地を除き,トリプシン-EDTA溶液を,細胞の表面が同溶液で覆われるように添加し,37℃で5~60分間静置し,細胞を剥離させた。次いで,同量のDMEM(10% FBS)培地を細胞培養プレートに添加して反応を停止させるとともに細胞を懸濁させた。細胞懸濁液を容器に回収し,遠心して細胞を沈殿させ,上清を除去した。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させた後,再度遠心して細胞を沈殿させ,上清を除去した。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を再度懸濁させた。
【0311】
細胞懸濁液に含まれる生細胞数を測定した後,20000細胞/cm以下の密度となるように,細胞培養プレートに細胞を播種し,5%CO存在下,37℃で培養を開始した。DMEM(10% FBS)培地を2~4日毎に交換しながら,該プレート上で細胞がコンフルエントとなるまで,培養を継続した。
【0312】
上記の細胞の回収と培養を繰り返し,生細胞数が1×10個以上となるまで細胞を増殖させた。この中間体細胞の細胞培養プレート上での培養期間中の細胞の分裂回数は5~6回であり,細胞の平均倍化時間は培養期間を通して2日(48時間)以内であった。
【0313】
細胞がコンフルエントとなった細胞培養プレートの培地を除き,トリプシン-EDTA溶液を添加した。37℃で5~60分間静置し,細胞を剥離させた。次いで,DMEM(10% FBS)培地を細胞培養プレートに添加して反応を停止させるとともに細胞を懸濁させた。この細胞懸濁液を容器に回収した。回収した細胞を遠心して沈殿させ,上清を除去した。DMEM(10% FBS)培地を500mL~600mL添加して細胞を懸濁させた後,再度遠心して細胞を沈殿させ,上清を除去した。DMEM(10% FBS)培地を500mL~600mL添加して細胞を再度懸濁させた。
【0314】
〔実施例10:歯髄由来細胞の生産培養(バイオリアクターの準備)〕
電子天秤でマイクロキャリアを50g(±1.0g)量りとって試薬瓶に入れ,PBSを2000mLを添加した後にオートクレーブで滅菌した。なお,マイクロキャリアは,粒径が130~180μm(水和時)である,細胞培養用のゼラチン素材のマイクロキャリアであり,オートクレーブで滅菌処理が可能なように耐熱性を持たせたものを用いた。
【0315】
バイオリアクターにリアクター用50Lバッグ,ベントフィルター,及びセンサーループをセッティングし,更に温度センサー,pHメーターと溶存酸素計を設置した。バイオリアクター内(のバッグ)に10LのDMEM(10% FBS)培地と50g(乾重量)のマイクロキャリアを加えて,撹拌しながら37℃で加温した。なお撹拌は,同装置に設けられたインペラーを用いて行った。
【0316】
〔実施例11:歯髄由来細胞の生産培養(細胞のマイクロキャリアへの接着工程)〕
実施例9で調製した細胞懸濁液に含まれる生細胞数を測定した後,1000~5000細胞/cmの密度となるようにバイオリアクター内に添加した。リアクター内を数分間撹拌した後,撹拌を停止させて1時間以上静置した。この撹拌と静置を繰り返して行い,細胞をマイクロキャリアへ接着させた。
【0317】
〔実施例12:歯髄由来細胞の生産培養(細胞培養工程)〕
接着工程終了後に,バイオリアクター内を撹拌して培養を開始した。培養中にバイオリアクター内を定期的に観察し,リアクターの底部にマイクロキャリアが沈降していた場合には,リアクター内の撹拌回転数を上げて,マイクロキャリアが培地中に浮遊状態になるようにした。
【0318】
生産培養は,実施例13に記載の測定により,生細胞数が5×10個以上となるまで細胞が増殖するまで行った。マイクロキャリアでの培養期間中の細胞の分裂回数は2~3回であり,細胞の平均倍化時間は,概ね3~6日であった。生産培養を経た細胞は,in vitro環境下で少なくとも23回の細胞分裂をしたものであり,23~27回の細胞分裂をしたものである。
【0319】
〔実施例13:歯髄由来細胞の生産培養(細胞数の測定)〕
マイクロキャリアを含む培養液をリアクター内から30~40mL採取して遠心管に移し,5分以上静置してマイクロキャリアを沈降させた後に上清を除いた。PBSを25mL加えて細胞を懸濁させ,5分以上静置した後に上清を除いた。この操作を更に1回行った。上清を除去後,マイクロキャリアにトリプシン-EDTA溶液を添加した。37℃のウォーターバス内で5~10分間振とうした後,トリプシン-EDTA溶液と同量のDMEM(10% FBS)培地を添加して反応を停止させるとともに細胞を懸濁させた。この細胞懸濁液を遠心(300×g,5分)して細胞を沈殿させ,上清を除去した。DMEM(10% FBS)培地を1~5mL添加して細胞を懸濁させた後,細胞懸濁液に含まれる生細胞数を測定した。
【0320】
〔実施例14:歯髄由来細胞の生産培養(グルコース濃度及び乳酸濃度の測定)〕
培養中の細胞懸濁液をリアクター内から5~40mL採取して遠心管に移し,細胞懸濁液を5分以上静置してマイクロキャリアを沈降させた後,上清の一部を新しい1.5mLチューブに移した。マイクロシリンジを用いて上清を50μL採取し,バイオセンサー(BF-7D,王子計測機器社)を用いて,上清中のグルコース濃度および乳酸濃度を測定した。グルコース濃度が低下した場合には,グルコースが0.1mM未満の濃度とならないようにグルコースを補充するか又は培地の全部または一部を交換した。また乳酸濃度が上昇した場合には,乳酸が20mM以上の濃度とならないように培地の全部または一部を交換した。
【0321】
〔実施例15:生産培養で得た歯髄由来細胞の回収〕
所定の細胞数まで細胞が増殖したことを確認後,リアクターおよびセンサーループの撹拌を停止し,10分以上静置してマイクロキャリアを沈降させた。可能な限りの量の上清を除去した後,残存する培地で細胞を懸濁させた。細胞懸濁液を10Lバッグ(Thermo Fisher Scientific社)内に回収し,5分以上静置してマイクロキャリアを沈降させた後に上清を除いた。
【0322】
DMEM Low Glucoseを加えてマイクロキャリアを懸濁させ,5分以上静置してマイクロキャリアを沈降させた後に上清を除いた。この操作を数回繰り返して行った。次いで,上清を除去後のマイクロキャリアにトリプシン-EDTA溶液を添加した。トリプシン-EDTA溶液を添加後,37℃のウォーターバス内で30~60分間振とうすることにより,細胞をマイクロキャリアから剥離させるとともに,マイクロキャリアを分解した。
【0323】
細胞懸濁液に残存するマイクロキャリアの断片,細胞塊等を除去するため,回収したろ液を孔径20~35μmのフィルターに通過させて,細胞をフィルターのろ液中に回収した。回収したろ液を遠心して細胞を沈殿させて,上清を除去した。細胞を洗浄するため,実施例1で調製した洗浄溶液を添加して細胞を懸濁させ,再度遠心して細胞を沈殿させて上清を除去した。この洗浄操作を,繰り返して行い,最終的に,遠心後の沈殿として細胞を回収した。
【0324】
〔実施例16:歯髄由来細胞の製剤化及び凍結保存〕
実施例15で回収した細胞の沈殿に洗浄溶液と細胞保護液を加えて,細胞濃度が25~31×10個/mLとなるように細胞を懸濁させた。こうして得られた細胞懸濁液を凍結保存用バイアル(素材:Cyclic olefin copolymer,Sterile Closed Vial,Aseptic Technologies社)に充填して密封した。この細胞懸濁液を凍結前歯髄由来細胞製剤とした。凍結前歯髄由来細胞製剤の溶液部分(製剤細胞用凍結保存液)に含まれる成分を表14に示す。
【0325】
【表14】
【0326】
バイアルに充填した凍結前歯髄由来細胞製剤を,常法によりプログラムフリーザーを用いて凍結してから,液体窒素保存容器内に移して保存した。この凍結させた細胞懸濁液を,歯髄由来細胞を有効成分として含む製剤(歯髄由来細胞製剤)とした。
【0327】
〔実施例17:歯髄由来細胞の性状(細胞の形態等)〕
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍し,10mLのDMEM(10% FBS)培地を加えて軽く振り混ぜた後,遠心(1500rpm,5分)して細胞を沈殿させた。上清を除去し,10mLのDMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,再度遠心(1500rpm,5分)して細胞を沈殿させた。次いで,細胞をDMEM(10% FBS)培地に懸濁させ,5000~10000細胞/cmの密度となるように,細胞培養プレートに播種し,細胞が90~100%コンフルエントになるまで培養した。位相差顕微鏡により,細胞培養プレート上での細胞の形態を観察した。中間体細胞凍結品及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞を培養したものは,全て略紡錘形の固着細胞であり,その他の形状の細胞を含まなかった。なお,生細胞数から算出された解凍後の中間体細胞凍結品及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞の生存率(生細胞数/全細胞数×100%)は,概ね85~95%であった。
【0328】
〔実施例18:歯髄由来細胞製剤の性状(粒子径)〕
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍し,それぞれD-PBS(-)溶液で希釈し,約5×10個/mLの細胞希釈液を調製した。細胞粒子径は,生死細胞オートアナライザー(Vi-CellXR,ベックマン・コールター社)を用いた画像解析法により計測した。生死細胞オートアナライザーを用いた画像解析法について,以下に概略する。細胞希釈液にトリパンブルーを加えて細胞を染色し,この細胞希釈液を送液して細長い流路を通過させ,流路の顕微鏡拡大画像を複数枚撮影する。死細胞ではトリパンブルーが細胞膜を透過し染色されるため,それぞれの画像において,色付きの粒子として観察される細胞を死細胞,透明な粒子として観察される細胞を生細胞として計測する。細胞粒子径は,その画像上において計測される一の粒子の直径と,顕微鏡の拡大倍率とを用いて算出される。撮影した全ての画像における粒子径の値から平均値が求められる。
【0329】
(結果)
細胞粒子径(細胞の直径)の平均値は,中間体細胞凍結細胞を解凍したものでは17.36μm±1.40μm(平均値±SD,n=3),歯髄由来細胞製剤を解凍したものでは16.98±1.23μm(平均値±SD,n=3)であった(図1)。
【0330】
〔実施例19:歯髄由来細胞の性状(骨細胞分化能)〕)
骨細胞分化能は,Pittenger MF.,et al.,Science.284,143-7(1999),Colter DC.,et al.,Proc Natl Acad Sci USA.98,7841-5(2001)の記載等を参考にして,下記の方法で調べた。
【0331】
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤をそれぞれ解凍し,遠心(1500rpm,5分)して細胞を沈殿させた。次いで,細胞をDMEM(10% FBS)培地に懸濁させ,5000~15000細胞/cmの密度となるように,細胞培養プレートに播種し,細胞が90~100%コンフルエントになるまで培養した。PBSで細胞を洗浄し,トリプシン-EDTAを添加し,37℃に5~10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,生細胞数を測定した。コラーゲンIでコートされた24ウェル細胞培養プレートに,細胞を,DMEM(10% FBS)培地中の細胞密度(15000~25000細胞/cm)で播種して3日間培養した。細胞を2群に分け,一方の群の培地を,骨細胞分化用基礎培地(Lonza社)にデキサメタゾン,L-グルタミン,アスコルビン酸塩,ペニシリン/ストレプトマイシン,mesenchymal cell growth supplement(MCGS),β-グリセロフォスフェートを含む骨細胞分化用添加因子セット(Lonza社)を添加したものである骨細胞分化誘導培地に入れ換え,3~4日毎に培地交換しながら2~3週間分化培養を行った。この群を骨細胞分化誘導群とした。もう一方の群については,培地を新しいDMEM(10% FBS)培地に入れ換え,3~4日毎に培地交換しながら2~3週間培養を行った。この群をコントロール群とした。骨細胞分化誘導群及びコントロール群の細胞をそれぞれ培養後,PBSで1回洗浄し,各ウェルに0.4mLの10%ギ酸を添加し室温で1時間静置して細胞に蓄積したカルシウムを細胞から遊離させた。遊離したカルシウム濃度を,カルシウムE-テストワコー(和光純薬社)を用いて定量した。
【0332】
図2に測定結果を示す。中間体細胞凍結品,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞のいずれも,骨細胞分化誘導群において,コントロール群と比較して,細胞のカルシウム濃度の上昇が認められた。この結果は,中間体細胞凍結品及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞が共に骨細胞へ分化したことを示しており,本発明の歯髄由来細胞が骨細胞への分化能を有することを示すものである。
【0333】
〔実施例20:歯髄由来細胞の性状(軟骨細胞分化能)〕
軟骨細胞分化能は,Kiani C.,et al.Cell Res. 12 19-32(2002),Aung A.,et al.Arthritis Rheum.63 148-58(2011)の記載等を参考にして,下記の方法で調べた。
【0334】
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍し,遠心(1500rpm,5分)して細胞を沈殿させた。次いで,細胞をDMEM(10% FBS)培地に懸濁させ,5000~10000細胞/cmの密度となるように,細胞培養プレートに播種し,細胞が90~100%コンフルエントになるまで培養した。PBSで細胞を洗浄し,トリプシン-EDTAを添加し,37℃に5~10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,生細胞数を測定した。細胞を2群に分け,一方の群の細胞を,軟骨細胞分化誘導培地であるStem MACS(登録商標)ChondroDiff Medium(Miltenyi Biotec社)に1×10個/mLの濃度で懸濁させ,これを低吸着性容器(ステムフル(登録商標),住友ベークライト社)に1mLずつ播種し,スフェロイドを形成させた。3~4日毎に培地交換しながら2~3週間分化培養を行った。これを軟骨細胞分化誘導群とした。他方の群については,細胞をDMEM(10% FBS)培地を用いて継代培養し,これをコントロール群とした。
【0335】
培養後,細胞を回収し,55℃温浴中,30分間プロテイナーゼKで処理して細胞を溶解させた。溶解させた細胞からRNeasy(登録商標)Plus Mini Kit(QIAGEN社)により全RNAを抽出して全RNA抽出液を調製し,次いで吸光光度計(Denovix社)を用いて全RNA抽出液に含まれるRNA濃度を測定した。RNA濃度測定後,QuantiTect(登録商標)Reverse Transcriptionキット(QIAGEN社)を用いてcDNAを合成した。さらにPCR反応液を調製し,各群のcDNA 25ngを鋳型とし,〔(50℃/2分)×1サイクル,(95℃/10分)×1サイクル,(95℃/15秒,60℃/1分)×40サイクル〕のPCR条件下でリアルタイムRT-PCRを行い,アグリカン遺伝子とβアクチン遺伝子を増幅させた。PCRプライマーには,アグリカンプローブ(Applied Biosystems社/Assay ID:Hs00153936_m1)及びβアクチンプローブ(Applied Biosystems社/4310881E)をそれぞれ用いた。
【0336】
図3に測定結果を示す。中間体細胞凍結品,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞のいずれも,軟骨細胞分化誘導群で,コントロール群と比較してアグリカンのCt値(Threshold cycle)が高いことが判明した。この結果は,軟骨細胞分化誘導群において,軟骨の細胞外マトリクスを構成する主要な分子であるアグリカンの発現量が増加したことを示すものであり,中間体細胞凍結品及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞の何れもが軟骨細胞への分化能を有することを示すものである。
【0337】
〔実施例21:歯髄由来細胞の性状(表面抗原の測定-1)〕
歯髄由来細胞は,ヒト間葉系幹細胞と同じく略紡錘状の形状を示した。そこで,ヒト間葉系幹細胞で陽性であることが知られている表面抗原マーカーであるCD73,CD90,CD105,及びCD166,及び間葉系幹細胞で陰性であることが知られている表面抗原マーカーであるCD34とCD45の発現の有無を,フローサイトメーターを用いて調べた。
【0338】
リン酸緩衝液生理食塩水pH7.4,contains BSA,powder(SIGMA社)を純水に溶解し,0.45μmフィルターに通して,PBS-B〔0.138M塩化ナトリウム,0.0027M塩化カリウム,1%(w/v)ウシ血清アルブミンを含有する0.01Mリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)〕を調製した。IgG from Human(SIGMA社)をPBS(Life technologies社)に溶解し,0.45μmフィルターに通して,20mg/mL IgG溶液を調製した。18mLのPBS-Bに,2mLの20mg/mL IgG溶液を加えて,ブロッキング溶液を調製した。
【0339】
また,抗CD34抗体としてFITC標識抗ヒトCD34抗体(anti-CD34-FITC,BD社),抗CD45抗体としてFITC標識抗ヒトCD45抗体(anti-CD45-FITC,ベックマンコールター社),抗CD73抗体としてFITC標識抗ヒトCD73抗体(anti-CD73-FITC,BD社),抗CD90抗体としてFITC標識抗ヒトCD90抗体(anti-CD73-FITC,BD社),抗CD105抗体としてPE標識抗ヒトCD105抗体(anti-CD105-R-PE,BD社),抗CD166抗体としてPE標識抗ヒトCD166抗体(anti-CD166-PE,Ancell社),及びコントロール抗体としてFITC標識マウスIgG1アイソタイプコントロール(anti-IgG1-FITC,ベックマンコールター社)とPE標識マウスIgG1アイソタイプコントロール(IgG1-PE,ベックマンコールター社)を用いた。
【0340】
(細胞の染色方法)
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍し,遠心(1500rpm,5分)して細胞を沈殿させた。上清を除去し,10mLのDMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ生細胞数を測定した。細胞(1×10個)を50mL遠心管に採取し,遠心(1500rpm,5分)して沈殿させ,上清を除去した。PBS-Bを加えて全量を10mLにして細胞を懸濁させた後,再度細胞を遠心(1500rpm,5分)して沈殿させ,上清を除去した。次いで,細胞を1mLのブロッキング溶液に懸濁させ,氷上で1時間静置した。9本の5mL反応チューブ(番号(1)~(9))に,各抗体溶液を表15に示すとおり添加した。次いで,各チューブに,ブロッキング溶液に懸濁させた細胞の懸濁液を100μLずつ添加して軽く振り混ぜ,氷上で20分間静置させて,各抗体溶液に含まれる抗体と細胞表面に発現する表面抗原マーカーとを結合させた。次いで,各チューブにPBS-Bを3mLずつ添加して混和した後,細胞を遠心(1500rpm,5分)して沈殿させて上清を除去し,細胞に結合していない抗体を除去した。この抗体の除去操作を3回繰り返した。各チューブにPBS-Bを400μL加え細胞を懸濁させた。
【0341】
【表15】
【0342】
(測定及び解析)
チューブ番号(1)~(9)の細胞について,FITC及びPEの各蛍光色素の量をBD FACSVerse(登録商標)(BD社)で測定し,陰性コントロールとの比較により,表面抗原に特異的に結合した抗体を介して細胞表面に結合した蛍光色素の量を求めた。なお,チューブ(2)はチューブ(3)~(6),チューブ(7)は(8)及び(9)の陰性コントロールである。チューブ(1)は非染色細胞である。
【0343】
図4に測定結果を示す。チューブ番号(5),(6),及び(8),(9)の細胞(それぞれ,CD73,CD90,CD105,及びCD166染色細胞)についてみると,中間体細胞凍結品,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞のいずれについても,これらの表面抗原について85%以上の細胞で陽性であった。チューブ番号(3)と(4)の細胞(それぞれ,CD34及びCD45染色細胞)についてみると,中間体細胞凍結品,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞のいずれについても,これらの表面抗原についてほとんどの細胞が陰性であった。これらの結果は,歯髄由来細胞が,CD73,CD90,CD105,及びCD166が陽性であり,CD34とCD45が陰性であることを示すものである。
【0344】
〔実施例22:歯髄由来細胞の性状(表面抗原の測定-2)〕
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍し,細胞懸濁液全量をDMEM培地に加えた。遠心(300×g,5分間,室温)を行い,上清を除去後,DMEM培地を加えて懸濁した。次いで,細胞をBD Lyoplate(Human Cell Screening Marker Screening Panel,BD社)を用いて,表面抗原に対する抗体を用いて抗体染色した。抗体染色は,Human cell screening panel(BD社)のプロトコルに従い実施した。以下にHuman cell screening panelを用いた,表面抗原の測定方法の概略を説明する。96ウェルプレートの各ウェルに,細胞懸濁液を分注する。各ウェルに各種表面抗原に対する抗体を一次抗体として添加して30分静置し,表面抗原と抗体を結合させる。遠心して細胞を沈殿させて上清を除く。細胞を洗浄した後に,各ウェルに一次抗体に対する抗体を二次抗体として添加して30分静置し,表面抗原と抗体を結合させる。二次抗体は,Alexa Fluor 647により蛍光標識されたものである。遠心して細胞を沈殿させて上清を除く。細胞を再懸濁し,この細胞懸濁液について,フローサイトメトリーを用いて,二次抗体の結合した細胞を陽性細胞として蛍光検出し,各表面抗原の陽性細胞の存在比率を求める。測定は,中間体細胞については9ロット,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞については,7ロットについて行い,各抗原について陽性比率を求めた。
【0345】
(結果)
中間体細胞および歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞において,陽性であった表面抗原を図5図6にそれぞれ示す。
【0346】
中間体細胞では,CD47,CD81,CD90,CD147,及びHLA-A,B,Cについては全てのロットで95%以上の陽性率を示した。また,CD29,CD46,CD55,CD59,CD73,及びCD140bについては,全てのロットで90%以上の陽性率を示した。また,CD9,CD44,CD49b,CD49c,CD98,及びEGF-Rについては,全てのロットで80%以上の陽性率を示し,概ね90%以上の陽性率を示した。また,CD49f及びCD166については,全ての細胞で70%以上の陽性率を示し,概ね90%以上の陽性率を示した。また,CD10,CD13,CD58,CD63,CD151,及びCD164については,全ての細胞で60%以上の陽性率を示し,概ね90%以上の陽性率を示した(図5)。これらに加えて,中間体細胞ではCD105も陽性である(図4)。
【0347】
一方,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞では,CD29,CD59,CD44,及びCD164については,全てのロットで95%以上の陽性率を示し,概ね98%以上の陽性率を示した。また,CD9,CD13,CD46,CD47,CD58,CD63,CD73,CD81,CD90,CD98,CD147,EGF-R,及びHLA-A,B,Cについては,全てのロットで90%以上の陽性率を示し,概ね95%以上の陽性率を示した。また,CD49b,CD49c,CD49e,CD55,CD95,CD151,及びCD166については,全てのロットで80%以上の陽性率を示し,CD95,CD151,及びCD166を除き,概ね90%以上の陽性率を示した。また,CD10,CD49f,及びCD140bでは,全てのロットで70%以上の陽性率を示し,概ね80%以上の陽性率を示した(図6)。これらに加えて,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞ではCD105も陽性である(図4)。
【0348】
次いで,中間体細胞および歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞において,陰性であった表面抗原を表16,表17にそれぞれ示す。
【0349】
中間体細胞では,CD120b,CD132,CD158a,CD161,CD184,CD195,CD206,CD210,CD212,CD226,CD244,CD267,CD278,CD279,CD282,CD294,NKB1,SSEA-1,TRA-1-60,TRA-1-81,Vβ23,SSEA-3,CLA,及びインテグリンβ7については,全てのロットで1%以下の陽性率を示した。また,CD8b,CD11b,CD15s,CD16,CD19,CD24,CD31,CD32,CD62E,CD62P,CD66f,CD86,CD88,CD94,CD100,CD103,CD104,CD114,CD117,CD118,CD121b,CD122,CD123,CD124,CD126,CD127,CD128b,CD135,CD137,CD137リガンド,CD150,CD163,CD172b,CD177,CD178,CD180,CD197,CD220,CD229,CD231,CD255,CD268,CD305,CD314,CD321,CDw327,CDw328,CD329,CD335,CD336,BLTR-1,CLIP,CMRF-44,CMRF-56,fMLP-R,Vβ8,Invariant NKT,及びγδTCRについては全てのロットで2%以下の陽性率を示し,概ね陽性率は1%以下であった。また,CD1a,CD1b,CD1d,CD2,CD3,CD5,CD6,CD7,CD8a,CD11c,CD15,CD18,CD21,CD22,CD23,CD25,CD27,CD28,CD33,CD35,CD37,CD38,CD41a,CD41b,CD42b,CD45,CD45RB,CD45RO,CD48,CD50,CD53,CD62L,CD64,CD66(a,c,d,e),CD69,CD70,CD72,CD74,CD84,CD85,CD87,CD89,CDw93,CD97,CD134,CD138,CD141,CD144,CD154,CD158b,CD162,CD183,CD205,CD235a,CD309,CD326,CD337,及びαβTCRについては,全ての細胞で5%以下の陽性率を示した。また,CD26,CD106,及びCD271については,一部のロットで5%を超える陽性率を示すものがあったが,陽性率の平均値は5%以下であった(表16A~表16-D)。これらに加えて,中間体細胞ではCD34,CD40,CD45,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原も陰性である(図4図11A)。
【0350】
歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞では,CD1a,CD1d,CD2,CD3,CD4,CD5,CD7,CD8a,CD8b,CD11b,CD11c,CD15,CD15s,CD16,CD18,CD19,CD20,CD21,CD22,CD23,CD24,CD25,CD28,CD30,CD31,CD32,CD33,CD34,CD35,CD37,CD38,CD41a,CD86,CD87,CD88,CD89,CDw93,CD94,CD100,CD102,CD103,CD114,CD117,CD118,CD120b,CD121b,CD122,CD123,CD124,CD126,CD127,CD128b,CD132,CD134,CD135,CD137,CD137リガンド,CD138,CD144,CD150,CD153,CD154,CD158a,CD158b,CD161,CD162,CD163,CD172b,CD177,CD178,CD180,CD184,CD195,CD196,CD197,CD205,CD206,CD210,CD212,CD220,CD226,CD229,CD231,CD235a,CD244,CD255,CD267,CD268,CD278,CD279,CD282,CD294,CD305,CD309,CD314,CD321,CDw327,CDw328,CD329,CD335,CD336,CD337,BLTR-1,CLIP,CMRF-44,CMRF-56,fMLP-R,SSEA-1,TRA-1-60,CLA,インテグリンβ7,及びInvariant NKTについては,全てのロットで1%以下の陽性率を示した。また,CD1b,CD6,CD27,CD41b,CD42a,CD42b,CD43,CD45,CD45RB,CD48,CD50,CD53,CD57,CD62E,CD62L,CD62P,CD64,CD66b,CD66f,CD69,CD70,CD72,CD75,CD84,CD85,CD97,CD99R,CD183,CD193,SSEA-3,及びγδTCRについては全てのロットで2%以下の陽性率を示し,概ね陽性率は1%以下であった。また,CD4v4,CD14,CD36,CD45RA,CD45RO,CD66(a,c,d,e),CD79b,CD83,CD152,CD209,CD275,CD326,MIC A/B,及びαβTCRについては全てのロットで5%以下の陽性率を示し,概ね陽性率は2%以下であった。また,CD106及びCD271については,一部のロットで5%を超える陽性率を示すものがあったが,陽性率の平均値は5%以下であった(表17A~表17E)。これらに加えて,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞ではCD34,CD40,CD45,CD80,CD86,及びMHC-クラスII抗原も陰性である(図4図11B)。
【0351】
【表16A】
【0352】
【表16B】
【0353】
【表16C】
【0354】
【表16D】
【0355】
【表17A】
【0356】
【表17B】
【0357】
【表17C】
【0358】
【表17D】
【0359】
【表17E】
【0360】
中間体細胞と歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞において,陽性率に10%以上の差があったものを図7に示す。実施例9~15に記載の方法で,中間体細胞を更に培養して得られた歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞においては,中間体細胞と比較して,CD39,CD49a,CD61,CD107a,CD107b及びCD143の陽性率が20%以上増加する一方,CD146の陽性率が60%低下した。これらの結果は,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞が,中間体細胞と異なる性質を有するものである。すなわち実施例9~15に記載の方法により培養を行うことにより,中間体細胞と異なる新たな細胞として,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞を得ることができることを示す。
【0361】
〔実施例23:歯髄由来細胞の性状((血管内皮細胞増殖因子(VEGF)分泌能試験)〕
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍し,遠心(1500rpm,5分)して細胞を沈殿させた。次いで,細胞をDMEM(10% FBS)培地に懸濁させ,5000~15000細胞/cmの密度となるように,細胞培養プレートに播種し,細胞が90~100%コンフルエントになるまで培養した。PBSで細胞を洗浄し,トリプシン-EDTAを添加し,37℃に5~10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,生細胞数を測定した。細胞をDMEM(10% FBS)培地で0.7×10個/mLの濃度で懸濁させた後,その10mLをT25細胞培養プレートに播種し,5日間培養した。培養後,培養上清の全量を回収し,回収した培養上清の重量を電子天秤(島津製作所社)で計測し,測定時まで-80℃で凍結保存した。上清を回収・除去した後,PBSで細胞を洗浄し,トリプシン-EDTAを添加し,37℃に5~10分間静置して剥離させた。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,生細胞数を測定した。
【0362】
上記凍結保存した培養上清を解凍し,培養上清中に含まれるVEGFを,Quantikine ELISA Human VEGFキット(R&D Systems社)を用いて標識した後,マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社)を用いて検出した。既知の濃度のVEGFで作成した検量線に,得られた検出値を内挿して,培養上清中に含まれるVEGF濃度を求めた。VEGFの分泌量は,下記式により,細胞数あたりの分泌量として算出した。
[VEGFの分泌量=VEGF濃度測定値×培養上清の体積/生細胞数(1×10個)]
【0363】
図8に測定結果の一例を示す。この結果は,中間体細胞,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞ともに,VEGFの分泌能を有するが,その能力は,中間体細胞から更なる培養を経て歯髄由来細胞製剤にまで至る過程で,増強されることを示す。VEGFは,血管新生作用を有する物質であることから,歯髄由来細胞製剤は,これをヒトに投与することにより,VEGFを介して体内で血管の形成を促進することができる。また,中間体細胞を経て製造された歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞では,VEGFの分泌能が増強されることから,かかる製造方法により製造された歯髄由来細胞製剤は,血管新生作用を発揮させるべき疾患の治療薬としてより有効であると考えられる。
【0364】
〔実施例24:歯髄由来細胞の性状(プロスタグランジンE(PGE)分泌能試験)〕
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍し,遠心(1500rpm,5分)して細胞を沈殿させた。次いで,細胞をDMEM(10% FBS)培地に懸濁せさ,5000~15000細胞/cmの密度となるように,細胞培養プレートに播種し,細胞が90~100%コンフルエントになるまで培養した。PBSで細胞を洗浄し,トリプシン-EDTAを添加し,37℃に5~10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,生細胞数を測定した。細胞をDMEM(10% FBS)培地で1×10個/mLの濃度で懸濁させた後,12ウェル細胞培養プレート中の6ウェル分に1mLの細胞希釈液をそれぞれ播種した。更に,3ウェルには40ng/mLのTNFα(R&D Systems社)を含有するDMEM(10% FBS)培地を1mLずつ加え,残りの3ウェルにはDMEM(10% FBS)培地を1mLずつ加え,前者をTNFα刺激群,後者を無刺激群(コントロール群)として,約24時間培養した。培養後,培養上清の全量を回収し,回収した上清の重量を電子天秤(島津製作所社)で計測し,測定時まで-80℃で凍結保存した。上清を回収・除去した後,PBSで細胞を洗浄し,トリプシン-EDTAを添加し,37℃に5~10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,生細胞数を測定した。
【0365】
上記凍結保存した培養上清を解凍し,培養上清中に含まれるプロスタグランジンE(PGE)を,Prostaglandin E2 Express EIA Kit(Cayman Chemical社)を用いて標識した後,マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス社)を用いて検出した。既知の濃度のPGEで作成した検量線に,得られた検出値を内挿して,培養上清中に含まれるPGE濃度を求めた。PGEの分泌量は,下記式により,細胞数1×10個あたりの分泌量として算出した。
[PGEの分泌量=PGE濃度測定値×培養上清の体積/生細胞数(1×10個)]
【0366】
図9に測定結果を示す。この結果は,中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞ともに,TNFα反応性のPGEの分泌能を有するが,その能力は,中間体細胞から更なる培養を経て歯髄由来細胞製剤にまで至る過程で増加することを示すものである。PGEは強力な抗炎症作用を有することから,歯髄由来細胞製剤は,これをヒトに投与することにより,PGEを介して体内で炎症部位に作用し,炎症に伴う組織破壊を抑制することができる。また,中間体細胞を経て製造された歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞では,PGEの分泌能が増強されることから,かかる製造方法により製造された歯髄由来細胞製剤は,抗炎症作用を発揮させるべき疾患の治療薬としてより有効であると考えられる。
【0367】
〔実施例25:キヌレニン分泌試験〕
(試験方法)
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍した後,5000~15000細胞/cmの密度となるように細胞培養フラスコに播種し,細胞が90~100%コンフルエントになるまで4日間培養した。PBSで細胞を洗浄してトリプシン-EDTA(Thermo Fisher Scientific社)を添加し,37℃で5~10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,生細胞数を測定した。細胞を15000~25000細胞/cmの密度となるように2枚の細胞培養フラスコに播種した。このうち1枚の細胞培養フラスコには100U/mLのIFNγ(塩野義製薬社)を含有するDMEM(10% FBS)培地を加え,もう1枚の細胞培養フラスコにはDMEM(10% FBS)培地を加え,前者をIFNγ刺激群,後者を無刺激群(コントロール群)として,3日間培養した。培養後,細胞培養上清を全量回収した。回収した細胞培養上清の重量を電子天秤(島津製作所社)で計測し,測定時まで-80℃で凍結保存した。上清を回収・除去した後,PBSで細胞を洗浄してトリプシン-EDTAを添加し,37℃で5~10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,IFNγ刺激群及び無刺激群の生細胞数をそれぞれ測定した。上記凍結保存した培養上清を解凍し,30%トリクロロ酢酸(ナカライテスク社)を添加して遠心(10000g,10分)した後,培養上清中に含まれるキヌレニンを,HPLC(島津製作所社)を用いて検出した。既知の濃度のキヌレニンで作成した検量線に,得られた検出値を内挿して,培養上清中に含まれるキヌレニン濃度(モル濃度)を求めた。キヌレニンの分泌量は,下記式により,細胞数あたりの分泌量として算出した。
[キヌレニンの分泌量=キヌレニン濃度測定値×208.21×培養上清の体積/生細胞数(1×10個)]
(結果)
結果を図10に示す。中間体細胞及び歯髄由来細胞製剤ともに,IFNγ存在下で培養することにより,キヌレニンの分泌量が顕著に増加する。キヌレニンはT細胞の増殖を抑制するとともに,単球を抗炎症性のM2マクロファージに分化させることができる。従って,多能性幹細胞富化歯髄由来細胞は,これをヒトに投与することにより,キヌレニンを介して抗炎症作用を発揮することができると考えられる。
【0368】
〔実施例26:歯髄由来細胞の性状(低免疫原性試験)〕
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍し,遠心(1500rpm,5分)して細胞を沈殿させた。次いで,細胞をDMEM(10% FBS)培地に懸濁させ,5000~15000細胞/cmの密度となるように細胞培養プレートに播種し,細胞が90~100%コンフルエントになるまで培養した。PBSで細胞を洗浄し,トリプシン-EDTAを添加し,37℃に5~10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,生細胞数を測定した。細胞を15000~25000細胞/cmの密度となるように2枚の細胞培養プレートに播種した。このうち1枚の細胞培養プレートには100U/mLのIFNγ(塩野義製薬社)を含有するDMEM(10% FBS)培地を加え,もう1枚の細胞培養プレートにはDMEM(10% FBS)培地を加え,前者をIFNγ刺激群,後者を無刺激群(コントロール群)として,3日間培養した。培養後,PBSで細胞を洗浄し,トリプシン-EDTAを添加し,37℃に5~10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,IFNγ刺激群及び無刺激群の生細胞数をそれぞれ測定した。次いで,各群の細胞懸濁液を遠心(1500rpm,5分)し,上清を除去した後ブロッキング溶液(実施例21に記載)を加えて細胞濃度が1×10細胞/mLとなるように調整し,氷上で1時間静置した。
【0369】
MHC-クラスI抗原,MHC-クラスII抗原,CD40,CD80,CD86に対する抗体として,FITC標識抗ヒトMHC-クラスI抗原抗体(Ancell社),FITC標識抗ヒトMHC-クラスII抗原抗体(Ancell社),FITC標識抗ヒトCD40抗体(BD Biosciences社),FITC標識抗ヒトCD80抗体(BD Biosciences社),FITC標識抗ヒトCD86抗体(BD Biosciences社)をそれぞれ用いた。また,コントロール抗体として,FITC標識マウスIgG1アイソタイプコントロール(ベックマンコールター社),及びFITC標識マウスIgG2aアイソタイプコントロール(BD Biosciences社)を用いた。
【0370】
5mL反応チューブ(番号(1)~(16))に各抗体溶液を表16に示すとおり添加した。次いで,5mL反応チューブ(1)~(8)にはIFNγ刺激群の細胞懸濁液を,又,5mL反応チューブ(9)~(16)にはIFNγ無刺激群の細胞懸濁液を100μLずつ添加して軽く振り混ぜ,氷上で20分間静置させて,各抗体溶液に含まれる抗体と細胞表面に発現する表面抗原マーカーとを結合させた。次いで,PBS-Bを3mLずつ添加して混和した後,細胞を遠心(1500rpm,5分)して沈殿させて上清を除去し,細胞に結合していない抗体を除去した。この抗体の除去操作を3回繰り返した。次いで,各チューブにPBS-Bを400μL加え細胞を懸濁させた。
【0371】
【表18】
【0372】
チューブ番号(1)~(16)の細胞について,FITCの蛍光色素の量をBD FACSVerse(BD社)で測定し,陰性コントロールとの比較により,表面抗原に特異的に結合した抗体を介して細胞表面に結合した蛍光色素の量を求めた。なお,チューブ(2)はチューブ(4)及び(6)~(8)の,チューブ(3)はチューブ(5)の,チューブ(10)はチューブ(12)及び(14)~(16)の,チューブ(11)は(13)の,それぞれ陰性コントロールである。チューブ(1)及び(9)は非染色細胞である。
【0373】
(結果)
図11A及び図11Bに測定結果を示す。MHC-クラスI抗原の測定結果についてみると,IFNγ刺激の有無に関わらず,中間体細胞,歯髄由来細胞製剤ともに,ほぼ全ての細胞が陽性であった。MHC-クラスII抗原の測定結果についてみると,中間体細胞,歯髄由来細胞製剤ともに,IFNγ無刺激では,実質的に全ての細胞が陰性であったが,IFNγ刺激により,ほとんどの細胞が陽性となった。CD40,CD80,及びCD86の測定結果についてみると,IFNγ刺激の有無に関わらず,中間体細胞,歯髄由来細胞製剤ともに,ほぼ全ての細胞が陰性であった。
【0374】
MHC-クラスI抗原及びMHC-クラスII抗原は,抗原を免疫細胞に提示する機能を有する細胞表面抗原である。また,MHC-クラスI抗原はほぼ全ての細胞で発現していることが知られており,また,MHC-クラスII抗原は多くの細胞でIFNγ刺激によりその発現が誘導されることが知られている。一方,CD40,CD80,及びCD86は免疫系細胞の活性化に関与する表面抗原である。すなわち,中間体細胞凍結品及び歯髄由来細胞製剤は,ともに,CD40,CD80,及びCD86を発現しないことから,積極的に免疫細胞を活性化することはないと考えられる。つまり,これらの結果は,中間体細胞凍結品及び歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,何れも,免疫原性を有さず,IFNγ刺激した場合にあっても,免疫原性が惹起されない性質を有することを示すものである。
【0375】
〔実施例27:中間体細胞と歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞のサイトカインを含む各種因子の分泌能の測定〕
(前培養)
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍し,融解した細胞懸濁液全量をDMEM培地に加えた。遠心(300×g,5分間,室温)を行い,上清を除去後,DMEM培地を加えて懸濁し,Muse Cell Analyzer(Millipore Sigma社)を用いて細胞懸濁液中の生細胞数と全細胞数を計測し生存率を算出した。生細胞が中間体細胞凍結品中の細胞では7000個/cm,歯髄由来細胞製剤中の細胞では12000個/cmとなるようT225フラスコに細胞を播種し,COインキュベーター内(37℃,5%CO)で4日間培養した。培養後,T225フラスコから培地を除去した後,DPBSで洗浄し,0.25%Trypsin-EDTAを添加してCOインキュベーター内に5分静置した。細胞の剥離を確認した後,DMEM培地を添加して細胞を懸濁させて,全量を回収した。遠心(300×g,5分間,室温)を行い,細胞を沈殿させた。上清を除去後,DMEM培地を加えて懸濁し,Muse Cell Analyzer(Millipore Sigma社)を用いて細胞懸濁液中の生細胞数と全細胞数を計測し生存率を算出した。
【0376】
(培養上清の回収)
前培養で回収した細胞を,生細胞の個数が28000個/フラスコとなるようにT25フラスコに播種し,無刺激群,TNFα及びIFNγ刺激群に振り分けて培養を開始した。各群の培地量は1フラスコあたり10mLとし,TNFαの最終濃度は10ng/mL(原液2μg/mL),IFNγの最終濃度は100U/mLに調製した(原液1×10U/mL)。培養を開始してから3日目に,培養上清を0.5mLずつクライオチューブに回収し,凍結保存した。培養上清回収後にDPBSで洗浄し,0.25%Trypsin-EDTAを添加してCOインキュベーター内に5分静置した。細胞の剥離を確認した後,DMEM培地を添加し,全量を回収した。遠心(300×g,5分間,室温)を行い,上清を除去後,DMEM培地を加えて懸濁し,Muse Cell Analyzer(Millipore Sigma社)を用いて細胞懸濁液中の生細胞数と全細胞数を計測し生存率を算出した。
【0377】
(サイトカイン測定)
回収した培養上清に含まれるサイトカインを含む各種因子の濃度を,LEGENDplex(BioLegend社)を用いて測定した。LEGENDplexの測定原理を以下に概略する。ビーズに結合させた,抗原(サイトカインの種類)ごとに異なる一次抗体を,測定対象となる物質を含むサンプルに添加して,一次抗体と当該物質を結合させる。次いで,ビオチン化した二次抗体を添加して一次抗体と結合した当該物質に結合させ,更に,フィコエリスリン(PE)標識ストレプアビジンを結合させる。アビジンはビオチンに特異的に結合するため,これをフローサイトメトリーで測定することにより,その蛍光強度に応じてビーズに結合したフィコエリスリン(PE)標識ストレプアビジンを定量することができる。この定量値は,サンプルに含まれる測定対象となる物質の量に比例するので,当該物質を定量することができる。
【0378】
(結果:無刺激群における各種因子の発現量)
無刺激群における培養上清に含まれる各種因子の濃度を図12に示す。中間体細胞と歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,何れもMMP-2,IGFBP-4,及びシスタチンCを高いレベルで発現する(図12)。
【0379】
また,中間体細胞と歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,何れもIL-6,IL-11,MCP-1,IL-8,GROα,HGF,VEGF,VCAM-1,TIMP-3,TIMP-2,及びTIMP-1を発現する(図13)。
【0380】
更に,中間体細胞と歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,微量ではあるが,何れも,IL-23,TNF-α,IL-18,IL-33,IL-27,TARC,ENA-78,MIP-3α,MIP-1β,IP-10,SCF,及びICAM-1を発現する(図14)。また,中間体細胞と歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,何れも,IL-21,Exotaxin,MIP-1α,MIG,I-TAC,及びGM-CSFを発現しないか,又はほとんど発現しない。IFN-αは,中間体細胞では発現が検出されないが,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞では,微量に発現している。また,表には示さないが,中間体細胞と歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞の何れにおいても,炎症性サイトカインであるIL-2,IL-4,IL-5,IL-9,及びIL-13は発現していないか,又はほとんど発現していない。
【0381】
(結果:無刺激群における各種因子の発現量の,中間体細胞と歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞との間の差異)
中間体細胞と歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞との間で,発現量が比較的異なる因子について,培養上清に含まれる各種因子の濃度比を図15に示す。これらの因子は,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞で,中間体細胞と比較して発現量が多い。特に,IL-6,IL-11,HGF,IGFBP-4,TIMP-3,及びTIMP-1は,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞の発現量が,中間体細胞の1.5倍以上である。
【0382】
(結果:TNF-α及びIFN-γ刺激によるIL-6の発現量の変化)
TNF-α及びIFN-γで刺激したときにおける培養上清に含まれるIL-6の濃度を図16に示す。中間体細胞では,TNF-α及びIFN-γ刺激の何れにおいても,IL-6の発現量が,無刺激の場合と比較して増加する。歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞についても同様である。
【0383】
(結果:TNF-α及びIFN-γ刺激によるIL-11の発現量の変化)
TNF-α及びIFN-γで刺激したときにおける培養上清に含まれるIL-11の濃度を図17に示す。中間体細胞では,TNF-α及びIFN-γ刺激の何れにおいても,IL-11の発現量が,無刺激の場合と比較して増加する。歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞についても同様である。
【0384】
(結果:TNF-α及びIFN-γ刺激によるIP-10の発現量の変化)
TNF-α及びIFN-γで刺激したときにおける培養上清に含まれるIP-10の濃度を図18に示す。中間体細胞では,TNF-α及びIFN-γ刺激の何れにおいても,IP-10の発現量が,無刺激の場合と比較して増加する。図18中,無刺激の場合のIP-10の濃度が図中に現われないが,IP-10の濃度が低いためであり,図14に示されるように,中間体細胞は無刺激の場合においても発現している。歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞についても同様である。
【0385】
(結果:TNF-α及びIFN-γ刺激によるMCP-1の発現量の変化)
TNF-α及びIFN-γで刺激したときにおける培養上清に含まれるMCP-1の濃度を図19に示す。中間体細胞では,TNF-α及びIFN-γ刺激の何れにおいても,MCP-1の発現量が,無刺激の場合と比較して増加する。歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞についても同様である。
【0386】
(結果:TNF-α及びIFN-γ刺激によるGM-CSFの発現量の変化)
TNF-α及びIFN-γで刺激したときにおける培養上清に含まれるGM-CSFの濃度を図20に示す。無刺激の場合,GM-CSFは中間体細胞と歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞の何れにおいてもほとんど発現が認められない。中間体細胞では,TNF-α刺激によりGM-CSFの発現が誘導されるが,IFN-γ刺激では発現は誘導されない。歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞についても同様である。
【0387】
(結果:TNF-α及びIFN-γ刺激によるHGFの発現量の変化)
TNF-α及びIFN-γで刺激したときにおける培養上清に含まれるHGFの濃度を図21に示す。中間体細胞では,HGFの発現量が無刺激の場合と比較して,TNF-α刺激により減少する一方,IFN-γ刺激により増加する。歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞についても同様である。
【0388】
(結果:TNF-α及びIFN-γ刺激によるIL-8の発現量の変化)
TNF-α及びIFN-γで刺激したときにおける培養上清に含まれるIL-8の濃度を図22に示す。中間体細胞では,IL-8の発現量が無刺激の場合と比較して,TNF-α刺激により増加するが,IFN-γ刺激では変化がない。歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞についても同様である。
【0389】
〔実施例28:歯髄由来細胞の性状(細胞分裂能)〕
実施例7で調製した中間体細胞凍結品及び実施例16で調製した歯髄由来細胞製剤を解凍し,遠心(1500rpm,5分)して細胞を沈殿させた。次いで,細胞をDMEM(10% FBS)培地に懸濁させ,5000~15000細胞/cmの密度となるように細胞培養プレートに播種し,細胞が90~100%コンフルエントになるまで培養した。PBSで細胞を洗浄し,トリプシン-EDTAを添加し,37℃に5~10分間静置して細胞を剥離させた。DMEM(10% FBS)培地を添加して細胞を懸濁させ,生細胞数を測定した。再度,細胞を5000~15000細胞/cmの密度となるように細胞培養プレートに播種し,細胞が90~100%コンフルエントになるまで培養した。細胞の継代培養を繰り返し,継代培養終了時毎に生細胞数を測定して,細胞の分裂回数を算出した。細胞の分裂回数は,各継代培養の開始時の生細胞数と培養終了時の生細胞数から下記の式により算出した。
細胞の分裂回数=log(培養終了時の生細胞数/培養開始時の生細胞数)
【0390】
(結果)
中間体細胞凍結品に含まれる細胞は,解凍後も,14回以上の分裂能を有し,またそのときの倍化時間は,3日以内(72時間以内)であった。また,歯髄由来細胞製剤に含まれる細胞は,解凍後も,4回以上の分裂能を有し,またそのときの倍化時間は,3日以内(72時間以内)であった。
【0391】
〔実施例29:歯髄由来細胞製剤の使用例1〕
歯髄由来細胞製剤は,リウマチ性関節炎,膠原病等の自己免疫疾患に伴う諸症状を寛解するための薬剤として,これら疾患に罹患する患者に,点滴静注,局所注射等の手段により投与される。
【0392】
〔実施例30:歯髄由来細胞製剤の使用例2〕
歯髄由来細胞製剤は用時解凍して用いられる。使用時に,歯髄由来細胞製剤は,液体窒素保存容器から取り出され,36.5~37.5℃のウォーターバス内で加温して解凍される。解凍後の歯髄由来細胞製剤は,医薬品として点滴静注,局所注射等の手段によりヒトに投与することができる。点滴静注の場合,歯髄由来細胞製剤は細胞凍結保存用容器から透析バッグに移されてから患者に点滴静注により投与される。局所注射の場合,歯髄由来細胞製剤は細胞凍結保存用容器からシリンジに移されてから,患者の局所に注射される。
【0393】
〔実施例31:歯髄由来細胞製剤の使用例3〕
歯髄由来細胞製剤は,使用前に医療機関において解凍して用いられる。従って,歯髄由来細胞製剤は,その製造業者,販売業者等の保管庫で凍結保存されたものが,医療機関の求めに応じて凍結状態で出荷されて医療機関まで輸送される。凍結された状態で搬入された細胞は,医療機関において患者に投与される直前に解凍され,点滴静注等の手段により患者に投与される。
【産業上の利用可能性】
【0394】
本発明は,例えば,ヒトに投与し得る歯髄由来細胞を有効成分として含有してなる医薬品を提供するに有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22