(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103837
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】捺染装置の粘着層除去装置及び捺染装置の粘着層除去方法
(51)【国際特許分類】
B65H 5/00 20060101AFI20240726BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
B65H5/00 B
B41J2/01 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007757
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 輝夫
(72)【発明者】
【氏名】本谷 昭博
(72)【発明者】
【氏名】内野 泰子
【テーマコード(参考)】
2C056
3F101
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056FB03
2C056HA29
2C056HA33
3F101AB01
3F101AB03
3F101AB06
3F101AB07
3F101AB09
3F101AB12
3F101AB19
3F101LA07
3F101LB11
(57)【要約】
【課題】有機溶剤を使用しなくても、布帛担持体から粘着層を効率良く剥離させることができる捺染装置の粘着層除去装置及び捺染装置の粘着層除去方法を提供する。
【解決手段】布帛担持体の表面に粘着層が形成された捺染装置に用いられる粘着層除去装置であって、布帛担持体の裏面に接触する剛体部材と、樹脂部を有し、剛体部材が接触する布帛担持体の裏面と反対側で布帛担持体の表面を樹脂部で摺擦することにより、粘着層を剥離させる剥離機構と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛担持体の表面に粘着層が形成された捺染装置に用いられる粘着層除去装置であって、
前記布帛担持体の裏面に接触する剛体部材と、
樹脂部を有し、前記剛体部材が接触する前記布帛担持体の裏面と反対側で前記布帛担持体の表面を前記樹脂部で摺擦することにより、前記粘着層を剥離させる剥離機構と、
を備える捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項2】
前記剥離機構は、
少なくとも外周部が前記樹脂部を構成する剥離ローラと、
前記剥離ローラを回転させる回転駆動部と、
を備える請求項1に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項3】
前記捺染装置は、前記布帛担持体を移動させる担持体駆動部を備え、
前記回転駆動部は、前記布帛担持体と前記剥離ローラとの接触部において、前記担持体駆動部によって移動する前記布帛担持体に対する前記剥離ローラの相対速度が0にならない条件で、前記剥離ローラを回転させる
請求項2に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項4】
前記剥離機構は、前記布帛担持体に対して前記剥離ローラを接近離間する方向に移動させる移動駆動部を備える
請求項2に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項5】
前記樹脂部のアスカーC硬度が48°以上75°以下である
請求項1に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項6】
前記樹脂部は、充填剤として樹脂粒子を用いて構成されている
請求項1に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項7】
前記布帛担持体は、無端状のベルトである
請求項1に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項8】
前記捺染装置は、水系インクに対応するインクジェット装置である
請求項1に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項9】
前記捺染装置は、
染色用のインクジェット部と、
前記インクジェット部による染色のための前処理部及び/又は後処理部と、
を備える請求項1に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項10】
前記剥離機構によって前記粘着層が剥離された前記布帛担持体の表面を清掃する清掃機構をさらに備える
請求項1に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項11】
前記清掃機構は、前記布帛担持体の表面を水洗によって清掃する
請求項10に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項12】
前記清掃機構は、
前記布帛担持体の表面に水を吹き付けるノズルと、
前記ノズルによって吹き付けられた水を前記布帛担持体の表面から取り除く水切り部材と、
を有する請求項11に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項13】
前記清掃機構は、前記布帛担持体の表面を清掃するブラシ又はブレードを有する
請求項10に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項14】
前記清掃機構は、前記布帛担持体の表面をエアーの吸引によって清掃する吸引ノズルを有する
請求項10に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項15】
前記清掃機構は、前記布帛担持体の表面をエアーの吹き付けによって清掃する吹き付けノズルを有する
請求項10に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項16】
前記清掃機構は、前記布帛担持体の表面を粘着によって清掃する粘着部材を有する
請求項10に記載の捺染装置の粘着層除去装置。
【請求項17】
布帛担持体の表面に粘着層が形成された捺染装置に用いられる粘着層除去方法であって、
前記布帛担持体の裏面に剛体部材を接触させるとともに、前記剛体部材が接触する前記布帛担持体の裏面と反対側で前記布帛担持体の表面を樹脂部で摺擦することにより、前記粘着層を剥離させる
捺染装置の粘着層除去方法。
【請求項18】
前記粘着層が剥離された前記布帛担持体の表面を清掃する
請求項17に記載の捺染装置の粘着層除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染装置の粘着層除去装置及び捺染装置の粘着層除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル式の捺染装置として、インクジェット捺染装置が知られている。インクジェット捺染装置は、布帛担持体に担持された布帛にインクを用いて画像を形成する装置である。この種の捺染装置において、布帛担持体の表面には粘着層が形成される。粘着層は、地張り剤と呼ばれる粘着剤を用いて形成される。布帛は、粘着層を介して布帛担持体に担持される。
【0003】
インクジェット捺染装置においては、布帛担持体に粘着層を介して布帛を仮固定し、その状態で布帛にインクによって模様等の画像を形成した後、布帛を布帛担持体から剥離する。布帛への印刷は、上述した仮固定、画像形成及び剥離のサイクルを繰り返すことで進行する。このため、布帛に対する粘着層の粘着力は、インクジェット捺染装置を使用しているうちに徐々に低下する。したがって、粘着力の低下により粘着層が寿命に達した場合は、布帛担持体の表面から古い粘着層を剥がして取り除いた後、新たな粘着層を布帛担持体の表面に形成し直す必要がある。布帛担持体から粘着層を剥離する方法として、例えば特許文献1には、有機溶剤を用いる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法には幾つかの問題がある。例えば、有機溶剤には、臭気、毒性、安全性などの問題がある。このため、作業者は、有機溶剤に対応した保護具を装着する必要がある。また、インクジェット捺染装置は、インクの粘性等に影響を与える温湿度の管理がしやすい屋内に設置することが好ましいが、そのような設置環境では、上述した有機溶剤由来の問題が顕在化してしまう。また、有機溶剤を使用する方法では、粘着層に有機溶剤を塗布してから粘着層が溶解し始めるまでに時間がかかる。このため、粘着層を溶解するのに長い時間と多量の有機溶剤が必要になる。また、溶解ムラが発生しやすいという欠点もある。
【0006】
有機溶剤を使用しない方法として、例えば、粘着層の端を外力で引っ張ることにより、布帛担持体から粘着層を物理的に剥離させる方法も考えられる。しかしながら、この方法には、次のような問題がある。布帛担持体に対する粘着層の粘着力は、布帛に対する粘着層の粘着力よりも各段に大きい。このため、布帛担持体から粘着層を剥離するには、大きな外力で粘着層を引っ張ることになる。その場合、粘着層が剥離時の外力に耐えられずに途中で何度も切れてしまい、その都度、粘着層の切れた端を探して外力で引っ張る動作を繰り返す必要がある。このため、布帛担持体から粘着層を効率良く剥離させることができない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、有機溶剤を使用しなくても、布帛担持体から粘着層を効率良く剥離させることができる捺染装置の粘着層除去装置及び捺染装置の粘着層除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、布帛担持体の表面に粘着層が形成された捺染装置に用いられる粘着層除去装置であって、布帛担持体の裏面に接触する剛体部材と、樹脂部を有し、剛体部材が接触する布帛担持体の裏面と反対側で布帛担持体の表面を樹脂部で摺擦することにより、粘着層を剥離させる剥離機構と、を備える。
また、本発明は、布帛担持体の表面に粘着層が形成された捺染装置に用いられる粘着層除去方法であって、布帛担持体の裏面に剛体部材を接触させるとともに、剛体部材が接触する布帛担持体の裏面と反対側で布帛担持体の表面を樹脂部で摺擦することにより、粘着層を剥離させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機溶剤を使用しなくても、布帛担持体から粘着層を効率良く剥離させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る捺染装置の構成例を示す概略斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略平面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
【
図5】本発明の第3実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
【
図6】本発明の第4実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
【
図7】本発明の第5実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
【
図8】本発明の第6実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
【
図9】本発明の第7実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
【
図10】本発明の実施例に係る剥離ローラの斜視図である。
【
図11】本発明の実施例に係る剥離ローラの組成表を示す図である。
【
図13】剥離機構の第1変形例を説明する概略平面図である。
【
図14】剥離機構の第2変形例を説明する概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
<捺染装置>
まず、本発明の実施形態に係る捺染装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る捺染装置の構成例を示す概略斜視図である。
図1に示すように、捺染装置1は、ベルト駆動部2と、複数のキャリッジ3a,3b,3c,3d,3e,3fと、第1ガイドローラ5と、第2ガイドローラ6と、ベルト7とを備えている。捺染装置1は、ベルト7に担持された布帛11に印捺するデジタル式の捺染装置であり、好ましくは、水系インクに対応するインクジェット装置、すなわちインクジェット捺染装置である。ベルト7は、布帛担持体の一例として設けられている。また、ベルト駆動部2は、担持体駆動部の一例として設けられている。
【0013】
ベルト駆動部2は、無端状のベルト7を支持する一対のローラ8,9と、押し付けローラ10とを有している。一対のローラ8,9のうち、一方のローラ8は駆動ローラ、他方のローラ9は従動ローラである。駆動ローラ8と従動ローラ9とは、互いに平行に配置されている。また、駆動ローラ8と従動ローラ9とは、いずれも水平に配置されている。駆動ローラ8は、図示しないモータの駆動にしたがって回転する。駆動ローラ8は、例えばステンレスなどの金属で構成された剛体ローラである。駆動ローラ8と従動ローラ9は、ベルト7に所定の張力を付与している。
【0014】
ベルト7は、好ましくは樹脂製のシームレスベルトであり、可撓性を有している。ベルト7は、所定の張力を加えた状態で駆動ローラ8と従動ローラ9に巻き掛けられている。ベルト7は、駆動ローラ8の回転にしたがってY方向に移動する。従動ローラ9は、ベルト7の移動にしたがって回転する。ベルト7は、駆動ローラ8と従動ローラ9との間で、布帛11をY方向に搬送する。布帛11は、記録媒体の一例として捺染装置1にセットされる。駆動ローラ8は、布帛11の搬送方向Yの上流側に配置され、従動ローラ9は、搬送方向Yの下流側に配置されている。
【0015】
押し付けローラ10は、第1ガイドローラ5を経由して送り出される布帛11をベルト7の表面に押し付けるものである。本実施形態において、ベルト7の表面は、外側を向いて配置されるベルト面、すなわちベルト7の外周面であり、ベルト7の裏面は、内側を向いて配置されるベルト面、すなわちベルト7の内周面である。ベルト7の表面には、布帛11をベルト7の表面に仮固定させるための粘着層(図示せず)が形成されている。粘着層は、地張り剤と呼ばれる粘着剤を用いてベルト7の表面に形成される。粘着剤は、ベルト7の表面に布帛11を仮固定するのに適した物性をもつ粘着剤であればよい。粘着剤は、例えば、アクリル系樹脂又はシリコーン系樹脂である。ベルト7の表面に粘着層を形成する方法としては、例えば、油性塗料方式、水系エマルション塗料方式、UV硬化塗料方式、ホットメルト方式、両面テープ方式などが考えられる。押し付けローラ10は、最上流のキャリッジ3aよりも搬送方向Yの上流側に配置されている。押し付けローラ10は、従動ローラ9と平行に配置されている。また、押し付けローラ10は、布帛11の移動にしたがって回転するように回転自在に支持されている。
【0016】
複数のキャリッジ3a,3b,3c,3d,3e,3fは、染色用のインクジェット部3を構成している。捺染装置1は、ベルト駆動部2やインクジェット部3の他に、図示しない前処理部及び/又は後処理部を備えた構成でもよい。前処理部及び後処理部は、インクジェット部3による染色のための処理を行う部分である。具体的には、前処理部は、例えば、インクによる染色を促すための前処理剤を布帛11に塗布する部分であり、後処理部は、例えば、染色された布帛11の色落ちを抑制するための後処理剤を布帛11に塗布する部分である。
【0017】
複数のキャリッジ3a,3b,3c,3d,3e,3fは、ベルト7の上面に対向する状態で配置されている。ベルト7の上面は、Y方向に移動するベルト7の表面のうち、上向きに配置される面をいう。複数のキャリッジ3a,3b,3c,3d,3e,3fは、布帛11の搬送方向Yの上流側から下流側に向かって順に配置されている。
【0018】
キャリッジ3aにはヘッドユニット13aが収容され、キャリッジ3bにはヘッドユニット13bが収容されている。また、キャリッジ3cにはヘッドユニット13cが収容され、キャリッジ3dにはヘッドユニット13dが収容されている。また、キャリッジ3eにはヘッドユニット13eが収容され、キャリッジ3fにはヘッドユニット13fが収容されている。ヘッドユニット13a~13fは、それぞれ所定の色のインクを吐出するものである。例えば、ヘッドユニット13aはイエローのインクを吐出し、ヘッドユニット13bはオレンジのインクを吐出し、ヘッドユニット13cはマゼンタのインクを吐出する。また、ヘッドユニット13dはシアンのインクを吐出し、ヘッドユニット13dおよびヘッドユニット13fはそれぞれブラックのインクを吐出する。
【0019】
第1ガイドローラ5は、図示しない送り出し部から送り出される布帛11をガイドするローラである。第1ガイドローラ5は、押し付けローラ10よりも搬送方向Yの上流側に配置されている。第2ガイドローラ6は、ベルト7の移動によって搬送された布帛11を、図示しない巻き取り部に向けて案内するローラである。第2ガイドローラ6は、最下流のキャリッジ3fよりも搬送方向Yの下流側に配置されている。
【0020】
上記構成からなる捺染装置1においては、送り出し部から第1ガイドローラ5を経て送り出された布帛11が、押し付けローラ10によってベルト7の表面に押し付けられる。ベルト7は、駆動ローラ8の回転によってY方向に移動しており、この移動中のベルト7の表面に押し付けローラ10によって布帛11が押し付けられる。これにより、布帛11は、粘着層の粘着力によりベルト7の表面(上面)に仮固定された状態となる。その後、布帛11は、ベルト7の表面に仮固定された状態のままY方向に搬送される。このとき、各々のキャリッジ3a,3b,3c,3d,3e,3fのヘッドユニット13a,13b,13c,13d,13e,13fから、それぞれ所定のタイミングでインクが吐出される。これにより、布帛11に画像が形成される。その後、画像形成済みの布帛11は、キャリッジ3fよりも下流側でベルト7の表面から剥離され、第2ガイドローラ6を経て巻き取り部へと送り込まれる。
【0021】
<捺染装置の粘着層除去装置>
続いて、本発明に係る捺染装置の粘着層除去装置(以下、単に「捺染装置」ともいう。)について説明する。なお、図面の縮尺や各部の寸法関係などは必ずしも正確ではない。
【0022】
<第1実施形態>
図2は、本発明の第1実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略平面図である。
図3は、本発明の第1実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
図2及び
図3に示すように、ベルト7の表面には粘着層12が形成されている。粘着層12は、上述したように布帛11をベルト7の表面に仮固定するための層である。
【0023】
粘着層除去装置21は、使用により寿命に達した粘着層12をベルト7から剥離して取り除くための装置である。粘着層除去装置21は、剥離機構22と、清掃機構23(
図3参照)とを備えている。剥離機構22は、ベルト7から粘着層12を剥離するための機構である。清掃機構23は、剥離機構22によって粘着層12が剥離されたベルト7の表面を清掃する機構である。
【0024】
剥離機構22は、
図2に示すように、剥離ローラ25と、回転駆動部26と、移動駆動部27とを備えている。剥離ローラ25は、ローラ本体部25aと、ローラ軸部25bとを有している。ローラ本体部25aは、樹脂によって構成されている。ローラ本体部25aを構成する樹脂は、ゴムを主成分とする材料である。また、ローラ本体部25aは、主成分であるゴムに、充填剤、軟化剤、架橋剤などを配合したゴム組成物によって構成されている。ローラ本体部25aは、樹脂部に相当する。ただし、ローラ本体部25aは、ローラ外周部のみが樹脂によって構成されていてもよい。ローラ軸部25bは、例えば金属によって構成されている。剥離ローラ25は、駆動ローラ8と平行に配置されている。回転駆動部26は、剥離ローラ25を回転させるための駆動部である。回転駆動部26が剥離ローラ25を回転させる方向は、
図3の時計回り方向(cw方向)でもよいし、反時計回り方向(ccw方向)でもよい。移動駆動部27は、ベルト7に対して剥離ローラ25を接近離間する方向(
図2及び
図3の左右方向)に移動させるための駆動部である。
【0025】
剥離機構22の動作時において、剥離ローラ25は、駆動ローラ8に巻き掛けられたベルト7の表面にローラ本体部25aが接触するように、移動駆動部27の駆動によって駆動ローラ8の近傍に配置される。その際、ベルト7の裏面は、剛体部材としての駆動ローラ8に接触しているため、ベルト7の表面にローラ本体部25aを接触させると、その接触圧がベルト7に加わる。また、剥離ローラ25は、回転駆動部26によって回転駆動される。
【0026】
清掃機構23は、
図3に示すように、ベルト7の表面を清掃するブラシ31を有する。ブラシ31は、剥離ローラ25のローラ本体部25aとほぼ同じ幅を有するローラブラシによって構成されている。ローラブラシは、ローラ芯部と、ローラ芯部の外周面に植毛されたブラシ毛とを有するブラシである。
【0027】
清掃機構23の動作時において、ブラシ31は、駆動ローラ8に巻き掛けられたベルト7の表面にブラシ毛が接触するように、駆動ローラ8の近傍に配置される。また、ブラシ31は、駆動ローラ8の下側周面でベルト7の表面に接触する状態で配置される。また、ブラシ31は、図示しないブラシ駆動部によって回転駆動される。ブラシ31の回転方向は、ベルト7の移動方向(Y方向)に逆らう方向、すなわち
図3の反時計回り方向(ccw方向)に設定されている。
【0028】
続いて、本発明の第1実施形態に係る粘着層除去装置21の動作について説明する。
粘着層除去装置21は、捺染装置1が備えるベルト7から粘着層12を剥離して取り除く場合に設置される。また、粘着層除去装置21は、ベルト駆動部2によってベルト7がY方向に移動している状態で、以下のように動作する。
【0029】
まず、移動駆動部27は、駆動ローラ8に巻き掛けられているベルト7表面の粘着層12に剥離ローラ25のローラ本体部25aが接触するように、剥離ローラ25を移動させる。このとき、移動駆動部27は、ローラ本体部25aの外周面が粘着層12に少し食い込む状態となるように、剥離ローラ25をベルト7の表面に所定の圧力で押し付けることが好ましい。これにより、ベルト7の表面を剥離ローラ25で摺擦する場合に、ベルト7表面の粘着層12に対して安定した摺擦特性を確保して、適正な剥離力を維持することができる。
【0030】
一方、回転駆動部26は、ベルト7と剥離ローラ25との接触部において、ベルト駆動部2によってY方向に移動するベルト7に対する剥離ローラ25の相対速度が0にならない条件で、剥離ローラ25を回転させる。ベルト7に対する剥離ローラ25の相対速度が0にならない条件で、剥離ローラ25を回転させる理由は、ベルト7の表面を剥離ローラ25のローラ本体部25aで摺擦するためである。摺擦とは、物理的に圧力を加えながら擦ることをいう。
【0031】
ベルト7に対する剥離ローラ25の相対速度が0にならない条件で、剥離ローラ25を回転させる場合の動作状態はいくつか考えられるが、そのなかで好ましい動作状態は、次に挙げる2つの場合である。1つは、Y方向に移動するベルト7に対して、剥離ローラ25を
図3の反時計回り方向(ccw方向)に回転させる場合である。この場合は、ベルト7と剥離ローラ25との接触部において、ベルト7の表面は下向きに移動し、剥離ローラ25の外周面は上向きに移動する。このため、ベルト7に対する剥離ローラ25の相対速度は0にならない。もう1つは、Y方向に移動するベルト7に対して、剥離ローラ25を
図3の時計回り方向(cw方向)に回転させるとともに、駆動ローラ8の周方向におけるベルト7の移動速度よりも早い周速で剥離ローラ25を回転させる場合である。この場合は、ベルト7と剥離ローラ25との接触部において、剥離ローラ25のローラ本体部25aがベルト7の移動速度よりも高速に回転移動する。このため、ベルト7に対する剥離ローラ25の相対速度は0にならない。
【0032】
本実施形態においては、好ましい例として、回転駆動部26は、Y方向に移動するベルト7に対して、剥離ローラ25を
図3の反時計回り方向に回転させるものとする。また、本実施形態においては、剥離ローラ25の回転速度を回転駆動部26によって調整可能な構成になっている。このため、粘着層12の剥離性に影響を与える、ベルト7と剥離ローラ25との相対速度を、回転駆動部26によって容易に変更することができる。
【0033】
上述した条件で剥離ローラ25を回転させると、ベルト7の表面に形成されている粘着層12は、剥離ローラ25のローラ本体部25aによって擦られる。剥離ローラ25によるベルト7表面の摺擦は、ベルト7がY方向に1回転(1周)することにより、ベルト7の全周にわたって行われる。このため、ベルト駆動部2は、ベルト7と剥離ローラ25を接触させた状態で、ベルト7を1回以上回転させる。ベルト7から粘着層12を剥離させるためにベルト駆動部2がベルト7を何度回転させるかについては、任意に設定又は変更することが可能である。
【0034】
なお、ベルト7を移動させずに粘着層除去装置21を動作させた場合は、ベルト7の特定の部位を剥離ローラ25によって連続的に摺擦することになるため、ベルト7の劣化を促進するおそれがある。これに対して、ベルト駆動部2によってベルト7を移動させた状態で粘着層除去装置21を動作させた場合は、ベルト7の劣化を促進することなく、ベルト7の全周を剥離ローラ25によって摺擦することができる。また、剥離ムラなどの発生を抑えることができる。
【0035】
また、粘着層除去装置21を使い続けると、剥離ローラ25のローラ本体部25aが徐々に摩耗してローラ外径が小さくなることが考えられる。ローラ外径が小さくなると、ベルト7に対する剥離ローラ25の接触圧が低下する。このため、ローラ外径が小さくなった場合は、その分を補正するように移動駆動部27が剥離ローラ25の位置を駆動ローラ8側に近づける方向に調整すればよい。具体的には、例えば、剥離ローラ25の回転トルクをトルクセンサ等によって検出し、この検出値が予め設定された許容範囲に収まるように、剥離ローラ25と駆動ローラ8の中心間距離を移動駆動部27によって変更(調整)可能な構成を採用すればよい。これにより、剥離ローラ25の摩耗に起因する接触圧の低下を抑制することができる。
【0036】
上述のように剥離ローラ25がベルト7の表面を摺擦すると、粘着層12は、ベルト7の表面から剥がされるとともに、粉状又は顆粒状或いは細片状に変形加工されてカスになる。剥離ローラ25による粘着層12の剥離メカニズムは、次に述べるいずれの場合が想定される。1つは、ベルト7の表面を剥離ローラ25で摺擦したときに発生する摩擦熱により、ローラ本体部25aの主成分であるゴム、及び/又は、ゴムに配合された軟化剤と、粘着層12を形成している粘着剤の両方が軟化し、粘着層12が変形加工されて剥離する場合である。もう1つは、ローラ本体部25aの構成材料と粘着層12の構成材料との親和性により、両方の材料が相溶及び同化し、これによって粘着剤が希釈されてベルト7から剥離する場合である。粘着層12の剥離は、これら2つの場合が複合して起こることも考えられる。
【0037】
上述のように生成される粘着層12のカスのうち、一部のカスはベルト7から分離して落下し、残りのカスはベルト7に付着したままベルト7の移動によって運ばれる。したがって、剥離ローラ25との接触部を通過したベルト7の表面には、上述のように清掃容易な形状(粉状又は顆粒状或いは細片状)に変形した粘着層12のカスが残る。仮に、この状態でベルト7の表面に新品の粘着剤を用いて新たな粘着層12を形成した場合は、古い粘着層12のカスが残留したまま新たな粘着層12を成膜することになるため、成膜品質に悪影響をおよぼすおそれがある。
【0038】
そこで、清掃機構23では、
図3に示すように、ベルト7の表面をブラシ31によって清掃する。これにより、ベルト7に表面に残留する粘着層12のカス12aがブラシ31によって掻き取られる。したがって、ベルト7の表面を清浄な状態に戻すことができる。この状態でベルト7の表面に新品の粘着剤を用いて新たな粘着層12を形成した場合は、良好な成膜品質を有する粘着層12が得られる。
【0039】
清掃機構23が動作を開始するタイミングは、剥離機構22が動作を開始するタイミングと同じでもよいし、それよりも数秒から数分程度遅いタイミングでもよい。また、剥離機構22の動作を終了した時点では、ベルト7の表面や剥離ローラ25の表面に粘着層12のカス12aが滞留している可能性がある。このため、剥離機構22の動作を終了した後、しばらくの間は、清掃機構23の動作やベルト7の移動動作を継続することが好ましい。また、清掃機構23の動作やベルト7の移動動作は、ベルト7の表面に粘着層12のカスがなくなったことを目視又はカメラ等で確認してから終了することが好ましい。
【0040】
また、清掃機構23を連続動作させていると、清掃部材であるブラシ31の表面に粘着層12のカス12aが大量に付着して清掃機能が低下することがある。このため、ブラシ31に付着したカス12aを落とすためのリフレッシュ機構(図示せず)を設置してもよい。また、ベルト7の表面から剥離させた粘着層12のカス12aを気流や水流などで凝集させてから取り除いてもよい。
【0041】
本発明の第1実施形態においては、駆動ローラ8に巻き掛けられたベルト7の表面を剥離ローラ25のローラ本体部25aで摺接することにより、ベルト7の表面から粘着層12が剥がされる。これにより、有機溶剤を使用しなくても、ベルト7から粘着層12を効率良く剥離させることができる。
【0042】
また、本発明の第1実施形態においては、剥離機構22によって粘着層12が剥離されたベルト7の表面を清掃機構23のブラシ31で清掃することにより、ベルト7の表面から粘着層12のカス12aを取り除くことができる。
【0043】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
図4に示すように、第2実施形態に係る粘着層除去装置21Aは、上述した第1実施形態に係る粘着層除去装置21と比較して、清掃機構23Aの構成が異なる。
【0044】
清掃機構23Aは、ベルト7の表面を水洗によって清掃する。具体的には、清掃機構23Aは、ベルト7の表面に水を吹き付けるノズル32と、ノズル32によって吹き付けられた水をベルト7の表面から取り除く水切り部材33とを有している。ノズル32については、ベルト7の表面を水洗するための専用ノズルとして新設してもよいし、インク洗浄用として捺染装置1に既設されているノズルを代用してもよい。また、水切り部材33についても、捺染装置1に既設されているワイパーなどを代用してもよいし、清掃機構23Aの専用品として新設してもよい。
【0045】
本発明の第2実施形態においては、剥離機構22によって粘着層12が剥離されたベルト7の表面にノズル32によって水を吹き付けることにより、粘着層12のカス12aが洗い落とされる。これにより、ベルト7の表面から粘着層12のカス12aを取り除くことができる。また、ベルト7の表面に水切り部材33を接触させることにより、ベルト7の表面から水滴を取り除くことができる。
【0046】
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
図5に示すように、第3実施形態に係る粘着層除去装置21Bは、上述した第1実施形態に係る粘着層除去装置21と比較して、清掃機構23Bの構成が異なる。
【0047】
清掃機構23Bは、ベルト7の表面を清掃するブレード35を備えている。ブレード35は、金属製でも樹脂製でもよい。清掃機構23Bの動作時において、ブレード35は、ベルト7の表面に接触する状態で配置される。
【0048】
本発明の第3実施形態においては、剥離機構22によって粘着層12が剥離されたベルト7の表面にブレード35を接触させることにより、粘着層12のカス12aがブレード35によって掻き落とされる。これにより、ベルト7の表面から粘着層12のカス12aを取り除くことができる。
【0049】
<第4実施形態>
図6は、本発明の第4実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
図6に示すように、第4実施形態に係る粘着層除去装置21Cは、上述した第1実施形態に係る粘着層除去装置21と比較して、清掃機構23Cの構成が異なる。
【0050】
清掃機構23Cは、ベルト7の表面をエアーの吸引によって清掃する吸引ノズル36を備えている。吸引ノズル36は、駆動ローラ8に巻き掛けられたベルト7の表面に対向する状態で配置されている。
【0051】
本発明の第4実施形態においては、剥離機構22によって粘着層12が剥離されたベルト7の表面に吸引ノズル36を対向させ、この吸引ノズル36によってエアーを吸引することにより、粘着層12のカス12aがエアーと共に吸引ノズル36に吸い込まれる。これにより、ベルト7の表面から粘着層12のカス12aを取り除くことができる。
【0052】
<第5実施形態>
図7は、本発明の第5実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
図7に示すように、第5実施形態に係る粘着層除去装置21Dは、上述した第1実施形態に係る粘着層除去装置21と比較して、清掃機構23Dの構成が異なる。
【0053】
清掃機構23Dは、ベルト7の表面をエアーの吹き付けによって清掃する吹き付けノズル37を備えている。吹き付けノズル37は、駆動ローラ8に巻き掛けられたベルト7の表面に対向する状態で配置されている。
【0054】
本発明の第5実施形態においては、剥離機構22によって粘着層12が剥離されたベルト7の表面に吹き付けノズル37を対向させ、この吹き付けノズル37からベルト7の表面にエアーを吹き付けることにより、粘着層12のカス12aが吹き飛ばされる。これにより、ベルト7の表面から粘着層12のカス12aを取り除くことができる。
【0055】
<第6実施形態>
図8は、本発明の第6実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
図8に示すように、第6実施形態に係る粘着層除去装置21Eは、上述した第1実施形態に係る粘着層除去装置21と比較して、清掃機構23Eの構成が異なる。
【0056】
清掃機構23Eは、ベルト7の表面を清掃する粘着ローラ38を備えている。粘着ローラ38は、ベルト7の表面を粘着によって清掃する粘着部材に相当する。粘着ローラ38は、回転自在に支持されている。清掃機構23Eの動作時において、粘着ローラ38は、ベルト7の表面に接触する状態で配置される。
【0057】
本発明の第6実施形態においては、剥離機構22によって粘着層12が剥離されたベルト7の表面に粘着ローラ38を接触させることにより、粘着ローラ38がベルト7の移動にしたがって回転する。このとき、ベルト7の表面に付着している粘着層12のカス12aは、粘着ローラ38の粘着力により、ベルト7の表面から粘着ローラ38の外周面に転移する。これにより、ベルト7の表面から粘着層12のカス12aを取り除くことができる。
【0058】
なお、上述した清掃機構23、23A、23B、23C、23D、23Eについては、いずれか1つの清掃機構を用いてもよいし、複数の清掃機構を併用してもよい。また、ベルト7の表面から剥離された粘着層12のカス12aは、粘着剤成分を含んでいる。このため、ベルト7の表面を水洗によって清掃する清掃機構を用いることが好ましい。水洗による清掃機構を用いた場合は、粘着層12のカス12aの粘着力を低下させ、ベルト7の表面にカス12aが再粘着することを抑制できる。
【0059】
<第7実施形態>
図9は、本発明の第7実施形態に係る粘着層除去装置の構成を示す概略側面図である。
図9に示すように、第7実施形態に係る粘着層除去装置21Fは、上述した第1実施形態に係る粘着層除去装置21と比較して、駆動ローラ8とは別に剛体部材41が設けられている点と、この剛体部材41の近傍に剥離機構22Fと清掃機構23Fが配置されている点が異なる。
【0060】
剛体部材41は、例えば金属製のプレートによって構成される。剛体部材41は、駆動ローラ8と従動ローラ9との間に配置されている。また、剛体部材41は、ベルト7の裏面に接触する状態に配置されている。
【0061】
剥離機構22Fは、ベルト7を介して剛体部材41と対向する状態に配置されている。剥離機構22Fの動作時において、剥離ローラ25は、剛体部材41と反対側でベルト7の表面にローラ本体部25aが接触するように、移動駆動部27(
図2参照)の駆動によって剛体部材41の近傍に配置される。その際、ベルト7の裏面は、剛体部材41に接触しているため、ベルト7の表面にローラ本体部25aを接触させると、その接触圧がベルト7に加わる。また、剥離ローラ25は、回転駆動部26(
図2参照)によって回転駆動される。
【0062】
清掃機構23Fは、剥離機構22Fよりもベルト移動方向の下流側に配置されている。また、清掃機構23Fは、ベルト7を介して剛体部材41と対向する状態に配置されている。清掃機構23Fの動作時において、ブラシ31は、剛体部材41と反対側でベルト7の表面にブラシ毛が接触するように、剛体部材41の近傍に配置される。また、ブラシ31は、図示しないブラシ駆動部によって回転駆動される。
【0063】
本発明の第7実施形態においては、剛体部材41と反対側でベルト7の表面を剥離ローラ25のローラ本体部25aで摺接することにより、ベルト7の表面から粘着層12が剥がされる。これにより、有機溶剤を使用しなくても、ベルト7から粘着層12を効率良く剥離させることができる。
【0064】
また、本発明の第7実施形態においては、剥離機構22Fによって粘着層12が剥離されたベルト7の表面を清掃機構23Fのブラシ31で清掃することにより、ベルト7の表面から粘着層12のカス12aを取り除くことができる。
【0065】
続いて、本発明の実施例について説明する。本発明の実施例においては、
図10に示すように、ローラ本体部25a及びローラ軸部25bを有する剥離ローラ25を作製し、この剥離ローラ25を用いて粘着層12を剥離したときの剥離結果、ベルト表面のダメージ、剥離中の異臭について評価した。また、実施例においては、剥離ローラ25の作製条件を変えた5種類の剥離ローラを用意した。以降の説明では、5種類の剥離ローラを、剥離ローラA、剥離ローラB、剥離ローラC、剥離ローラD、剥離ローラEと区別する。
【0066】
(剥離ローラAの作製)
剥離ローラAの組成は、
図11に示すとおりである。この組成は、剥離ローラ25のローラ本体部25aを構成する材料の組成である。剥離ローラAを作製するにあたっては、まず、
図11に示す組成表にしたがって材料を配合し、オーブンロールで材料を均一に分散させた。次に、250kg/cm2の圧力で材料を加圧しながら、175℃の温度で材料を18分間加熱処理(架橋)して、樹脂部材を作製した。次に、この樹脂部材を、外径16cm、長さ182cmの円柱形状に切削加工してローラ本体部25aを得た。次に、ローラ本体部25aの軸孔に金属製のローラ軸部25bを通して固定することにより、剥離ローラAを得た。ローラ軸部25bには、SUS403製の芯金棒を用いた。
【0067】
(剥離ローラAの硬度)
剥離ローラAの樹脂部(ローラ本体部25a)の硬度は、アスカーC硬度測定で確認した。アスカーC硬度測定には、高分子計器株式会社の定圧荷重器(CL-150シリーズ)を用いた。測定環境は、20℃、相対湿度50%とした。また。硬度実測値には、5点データの平均値を用いた。以上の条件で硬度測定した結果、剥離ローラAの樹脂部のアスカーC硬度は、64.8°であった。
【0068】
(剥離ローラBの作製及び硬度)
剥離ローラBについては、軟化剤の配合比率を55重量部に変更し、充填剤の配合比率を140重量部に変更した以外は、剥離ローラAと同様に作製した。また、上記の条件で硬度測定した結果、剥離ローラBの樹脂部のアスカーC硬度は、49.2°であった。
【0069】
(剥離ローラCの作製及び硬度)
剥離ローラCについては、加熱処理の条件時間を16分に変更した以外は、剥離ローラBと同様に作製した。また、上記の条件で硬度測定した結果、剥離ローラCの樹脂部のアスカーC硬度は、46.4°であった。
【0070】
(剥離ローラDの作製及び硬度)
剥離ローラDについては、軟化剤の配合量を30重量部に変更した以外は、剥離ローラAと同様に作製した。また、上記の条件で硬度測定した結果、剥離ローラDの樹脂部のアスカーC硬度は、74.0°であった。
【0071】
(剥離ローラEの作製及び硬度)
剥離ローラEについては、軟化剤の配合量を27重量部に変更し、充填剤として軽質炭酸カルシウム粒子(ニューライム社製のミクローン200)を320重量部配合した以外は、剥離ローラDと同様に作製した。また、上記の条件で硬度測定した結果、剥離ローラEの樹脂部のアスカーC硬度は、75.6°であった。
【0072】
(実施例1)
捺染装置として、コニカミノルタ株式会社製のインクジェットプリンタ(ナッセンジャーRPO120)を用いた。このインクジェットプリンタのベルト7の表面に、乾燥後の膜厚が40μmになるように粘着層12を形成した。粘着層12については、油性粘着剤(村山化学研究所株式会社製の粘着剤、MCポリマーRSとMCポリマーRHの混合物、重量混合比7/3)を、アプリケーターによる方法でベルトの表面に塗布した後、12時間の乾燥を行って形成した。また、剥離性の評価には、上述したコニカミノルタ株式会社製のインクジェットプリンタを用いた。そして、
図2及び
図3に示すように、駆動ローラ8と対向するように剥離ローラ25とブラシ31を配置した。剥離ローラ25による剥離動作と、ブラシ31による清掃動作は、同時に開始した。剥離ローラ25は、100rpmで回転させた。ベルト7の移動速度(線速度)は、2cm/分とした。剥離ローラ25として、剥離ローラAを用いた。また、剥離ローラ25による剥離動作は、剥離動作の開始時から予め決められた第1の時間が経過した段階で停止した。第1の時間は、ベルト7が2周(2回転)するのに必要な時間に設定した。一方、ベルト7の移動とブラシ31の回転は、剥離動作の開始時から予め決められた第2の時間が経過した段階で停止した。第2の時間は、第1の時間よりも長く設定した。つまり、剥離ローラ25による剥離動作を停止した後も、予め決められた一定の時間だけ、ベルト7の移動とブラシ31の回転を継続した。
【0073】
(実施例2)
実施例2は、剥離ローラ25として剥離ローラBを用いた以外は、実施例1と同様である。
【0074】
(実施例3)
実施例3は、剥離ローラ25として剥離ローラCを用いた以外は、実施例1と同様である。
【0075】
(実施例4)
実施例4は、剥離ローラ25として剥離ローラDを用いた以外は、実施例1と同様である。
【0076】
(実施例5)
実施例5は、剥離ローラ25として剥離ローラEを用いた以外は、実施例1と同様である。
【0077】
(実施例6)
実施例6は、粘着層12の形成方法を変更した以外は、実施例1と同様である。実施例6では、シリコーン系基材レス両面テープ(テクノアルファ株式会社製ARclad7876、厚さ56μm)をベルト7の表面に貼り付ける、いわゆる両面テープ貼り付け法によって粘着層12を形成した。
【0078】
また、各実施例1~6について、剥離性(剥離結果)、ベルト表面のダメージ、剥離中の臭気を、下記の評価基準に基づいて評価した。
【0079】
(剥離性の評価基準)
剥離性については、「良い」、「普通」、「悪い」の3段階で評価した。具体的には、ベルト1周分の剥離動作で粘着層12の剥離がすべて完了している場合を「良い」と評価した。また、ベルト1周分の剥離動作では粘着層12の僅かな残留が認められるが、ベルト2周分の剥離動作で粘着層12の剥離がすべて完了している場合を「普通」と評価し、ベルト2周分の剥離動作でも粘着層12の残留が認められる場合を「悪い」と評価した。
【0080】
(ベルト表面のダメージの評価基準)
ベルト表面のダメージについては、「良い」、「普通」、「悪い」の3段階で評価した。具体的には、ベルトの表面にキズや変形が認められず、表面の硬さの変化もない状態を「良い」と評価した。また、ベルトの表面にキズは発生しているが、実用上問題のない状態を「普通」と評価し、ベルトの表面に多くのキズがあり、実用上問題のある状態を「悪い」と評価した。
【0081】
(剥離中の異臭の評価基準)
剥離中の異臭については、「あり」、「なし」の2段階で評価した。具体的には、異臭を全く感じない、又は、極少量の臭気で、長時間を過ごしても気にならないレベルであり、防毒マスクなしの作業でも問題なく、作業環境として全く問題のない状態を「なし」と評価した。また、作業環境として誰もが気になる臭気のレベルであり、防毒マスクを必要とする状態を「あり」と評価した。
【0082】
図12は、実施例ごとの評価結果を示す図である。
図12に示すように、実施例1、実施例2及び実施例6においては、剥離結果とベルト表面のダメージが共に「良い」という評価となり、剥離中の異臭は「なし」という評価となった。
実施例3及び実施例4においては、剥離結果が「普通」、ベルト表面のダメージが「良い」という評価となり、剥離中の異臭は「なし」という評価となった。実施例3で使用した剥離ローラCは、他の実施例で使用した剥離ローラに比べてアスカーC硬度が低く、実施例4で使用した剥離ローラDは、他の実施例で使用した剥離ローラに比べてアスカーC硬度が高い。実施例4では、軟化剤の配合量が少なすぎるために樹脂部の硬度が高くなり、粘着層の剥離が進みにくくなってベルト1周では粘着層を剥がし切れなかったものと思われる。
【0083】
ただし、実施例3及び実施例4のいずれにおいても、ベルト2周分の剥離動作で粘着層12の剥離がすべて完了している。このため、剥離ローラの樹脂部のアスカーC硬度の下限値は、好ましくは46°、より好ましくは48°、さらに好ましくは49°である。また、剥離ローラの樹脂部のアスカーC硬度の上限値は、好ましくは76°、より好ましくは75°、さらに好ましくは74°である。樹脂部の硬度が小さすぎる場合は、捺染装置1の粘着層12に対して、十分な剥離作用を得られない。捺染装置1の粘着層12は、耐久性を重視するために硬い材料で形成されている。このため、硬度の小さい樹脂部(ゴム組成物)では、粘着層12に必要な十分な外力及び摩擦力を及ぼして粘着剤を変形させることができない。これに対して、樹脂部の硬度が大きすぎる場合は、軟化剤が少なすぎることによる剥離不良が起こる可能性がある。このため、樹脂部の硬度には、上述したように適正な上下限の範囲がある。
【0084】
実施例5においては、剥離結果とベルト表面のダメージが共に「普通」という評価となり、剥離中の異臭は「なし」という評価となった。実施例5において、ベルト表面のダメージが「普通」という評価になった要因は、樹脂部の硬度が高いことと、充填剤に無機フィラーを使用したためと思われる。特に無機フィラーの影響でベルト7の表面に多くのキズが入ってしまい、実用上問題のある結果になったものと推測される。このため、ベルトのダメージを低減するという観点では、剥離ローラ25の樹脂部(ローラ本体部25a)は、上述した剥離ローラA~Dのように、充填剤として樹脂粒子を用いて構成することが好ましい。
【0085】
次に、剥離ローラ25の樹脂部(ローラ本体部25a)の構成材料について述べる。
主成分に関しては、例えば、エチレンプロピレンジエンゴムなどのジエン系ゴムが好ましいが、ゴムと類似の材料としてファクチスを用いてもよい。ファクチスは、加硫された不飽和植物油又は動物油であり、ゴムの加工助剤及び特性調整剤として使用される材料である。
【0086】
架橋剤、架橋助剤に関しては、架橋によって、使用前状態の形状を維持する効果や、硬度を上げる(調整する)効果がある。1種類の架橋剤だけでは十分な架橋度が得られない場合は、複数の種類の架橋剤を使うことができる。あるいは、架橋助剤を用いて硬化反応を促進することができる。ただし、架橋度が高すぎる場合は、摩擦熱による溶融性が下がる、あるいは、粘着剤を溶かす力が下がる可能性がある。このため、所望の架橋度に応じて架橋助剤の配合量を調整することが好ましい。
【0087】
充填剤に関しては、例えば、無機充填剤、有機物の充填剤、樹脂粒子などを用いることができる。充填剤は、特に、剥離ローラ25を高速回転させたときの異常な変形を抑制し、剥離動作を安定化させる効果や、剥離によって発生した粉の粒径を大きくして、除去容易な形状に加工するなどの効果がある。高硬度の充填剤は、布帛担持体であるベルト7の表面にダメージを与えやすいため好ましくない。よって、充填剤としては樹脂粒子を用いることが好ましい。具体的には、例えば、架橋アクリル粒子、架橋スチレンアクリル粒子、架橋ポリスチレン粒子などが特に好ましい。ほかには、モース硬度が3以下の無機充填剤(例えば、タルク、炭酸カルシウムなど)の選択肢から選ばれる1種類以上の充填剤が好ましい。充填剤は、機能を損なわない範囲で、材質違い、あるいは、粒径違いを複数種類併用してもよい。
【0088】
軟化剤は、粘着層12を構成する粘着剤を希釈して、布帛担持体に対する粘着層12の粘着力を下げて、剥離を促進する機能がある。軟化剤の配合量が多すぎる場合には、樹脂部の硬度が下がりすぎて、粘着層12の剥離が困難になるおそれがある。また、軟化剤の配合量が少なすぎる場合は、樹脂部の硬度が上がり過ぎて、粘着層12の剥離不良を起こしたり、布帛担持体にキズを付けたりするおそれがある。軟化剤は、常温で液体の材料、又は、融点が100℃未満の材料などを使用すればよい。
【0089】
次に、剥離ローラ25による摺擦速度について述べる。
剥離ローラ25による摺擦速度は、ベルト7と剥離ローラ25との接触部における両者(7、25)の相対速度によって決まる。ベルト7の表面から粘着層12を剥離するときの生産性を高めるには、摺擦速度を速くしたほうがよい。ただし、摺擦速度をあまり速くすると、摺擦エネルギーが大きくなりすぎて、剥離ローラ25の剥離動作が不安定になるおそれがある。また、布帛担持体の表面が熱可塑性の樹脂(例えば、エラストマーなど)である場合には、表面の耐熱温度の制約が大きいため、摺擦によって発生する摩擦熱が耐熱温度を超えないように摺擦速度を設定する必要がある。摺擦速度の範囲としては、最大で2000m/秒、最小で1m/秒が考えられる。
【0090】
布帛担持体の表面を樹脂部で摺擦する場合は、剥離ローラ25などを用いた回転運動による摺擦の他に、往復運動による摺擦も考えられる。ただし、往復運動による摺擦では、移動方向が切り替わるタイミングで速度が0になる瞬間が生じるため、布帛担持体の表面に一定の負荷を連続的に与えることができない。また、負荷が不連続になると、剥離ムラが生じやすくなる。これに対して、回転運動による摺擦では、布帛担持体の表面に一定の負荷を連続的に与えることができるため、剥離ムラの発生を抑制することができる。回転運動による摺擦は、円柱状(ローラ状)の一体構造物でもよいし、複数の円板を重ね合わせて円柱状に組み立てた構造でもよい。また、ローラ外周面に凹凸を配置した構成でもよい。
【0091】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0092】
例えば、上記実施形態に係る剥離機構22(
図2参照)は、剥離ローラ25をベルト幅方向(
図2の上下方向)に移動させなくても、ベルト7の全幅にわたって粘着層12を剥離可能な構成になっているが、本発明はこれに限らない。例えば、剥離機構22は、
図13に示すようにローラ軸部25b上でローラ本体部25aをベルト幅方向(
図13の上下方向)に移動させる構成でもよいし、
図14に示すようにローラ本体部25aとローラ軸部25bをベルト幅方向に一体に移動させる構成でもよい。
【0093】
また、本発明は、布帛担持体の表面に粘着層が形成された捺染装置に用いられる粘着層除去装置又は粘着層除去方法として広く適用可能である。
【符号の説明】
【0094】
1…捺染装置
2…ベルト駆動部(布帛担持体駆動部)
3…インクジェット部
7…ベルト(布帛担持体)
8…駆動ローラ(剛体部材)
11…布帛
12…粘着層
21…粘着層除去装置
22…剥離機構
23…清掃機構
25…剥離ローラ
25a…ローラ本体部(樹脂部)
26…回転駆動部
27…移動駆動部
31…ブラシ
32…ノズル
33…水切り部材
35…ブレード
36…吸引ノズル
37…吹き付けノズル
38…粘着ローラ(粘着部材)
41…剛体部材