(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103858
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】リサイクル原料用シートの製造方法及びその製造方法に用いる積層体
(51)【国際特許分類】
B29B 17/02 20060101AFI20240726BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
B32B27/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007797
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】小林 凌
【テーマコード(参考)】
4F100
4F401
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK07A
4F100AK73B
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH17A
4F100EH23B
4F100EJ37A
4F100HB31C
4F100JA12B
4F100JB08B
4F100JB16A
4F100JL14B
4F401AA10
4F401AB07
4F401AD02
4F401CA51
4F401CA53
4F401EA59
4F401FA01Y
(57)【要約】
【課題】強アルカリ溶液を使用せずに、容易に脱墨を行うことができるリサイクル原料用シートの製造方法、及びその製造方法に使用する積層体を提供する。
【解決手段】リサイクル原料用シートの製造方法であって、基材層、脱離層、及び印刷層をこの順に積層した積層体に対して、脂肪族高級アルコールを含有する洗浄剤を使用して、前記積層体から少なくとも前記印刷層が除去された前記リサイクル原料用シートを得る洗浄工程を備え、前記基材層は熱可塑性樹脂を備え、かつ前記脱離層は前記脂肪族高級アルコールに可溶な非晶性樹脂を含む、リサイクル原料用シートの製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクル原料用シートの製造方法であって、
基材層、脱離層、及び印刷層をこの順に積層した積層体に対して、脂肪族高級アルコールを含有する洗浄剤を使用して、前記積層体から少なくとも前記印刷層が除去された前記リサイクル原料用シートを得る洗浄工程を備え、
前記基材層は熱可塑性樹脂を含み、かつ前記脱離層は前記脂肪族高級アルコールに可溶な非晶性樹脂を含む、
リサイクル原料用シートの製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族高級アルコールは、炭素数8~20の脂肪族高級アルコールである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄工程の洗浄温度は、70~150℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記積層体に対する前記洗浄剤の質量比は、1~500であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄剤に対する前記脂肪族高級アルコールの濃度は、50~99質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄剤中の水分濃度は、1~50重量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
基材層、脱離層、及び印刷層がこの順に積層された積層体であって、
前記基材層は熱可塑性樹脂を含み、かつ前記脱離層は脂肪族高級アルコールに可溶な非晶性樹脂を含む、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル原料用シートの製造方法及びその製造方法に用いる積層体に関する。
【0002】
従来、廃棄されたプラスチック製品のリサイクルが試みられている。廃棄されたプラスチック製品は、粉砕、洗浄等の工程を経て再生製品としてリサイクルされる。ここで、印刷が施されたプラスチック製品が工程に混入すると、再生製品が全体的に着色されてしまったり、インク成分が樹脂を劣化させて流動性や耐久性が低下してしまう可能性がある。そのため、特許文献1では、インク除去(脱墨)の薬剤にアルカリ溶液を使用し、かつ基材層とインク層の間にアルカリ溶液に可溶な中間層を設けた積層体を作製することにより、リサイクル時に積層体をアルカリ溶液中へ浸して、中間層ごと脱墨を行う再生方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1は強アルカリを洗浄液として用いなければならないという問題や、アルカリ溶液を前提としているため脱離層に使用できる物質が限られてしまうという問題があった。このため、更なる研究・開発を行う余地が残っていた。
【0005】
そこで、本発明は、強アルカリ溶液を使用せずに、容易に脱墨を行うことができるリサイクル原料用シートの製造方法を提供することを目的とする。また、その製造方法に用いる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等の鋭意研究の結果、意外にも、基材層、脱離層、及び印刷層をこの順に積層した積層体に対して、特定の脂肪族高級アルコールを含有する洗浄剤を使用して洗浄処理を施すことにより、強アルカリ溶液を用いずとも、インク成分を容易に除去して、リサイクル原料用シートを製造する方法を提供できることが判明した。ここで、脱離層は上記特定の脂肪族高級アルコールに可溶な非晶性樹脂を含む。また、リサイクル原料用シートは、洗浄処理により積層体から少なくとも印刷層が除去された、主に基材層を含むシートである。すなわち、本発明に係るリサイクル原料用シートの製造方法、及びその製造方法に用いる積層体の特徴については以下の通りである。
【0007】
[1]リサイクル原料用シートの製造方法であって、
基材層、脱離層、及び印刷層をこの順に積層した積層体に対して、脂肪族高級アルコールを含有する洗浄剤を使用して、前記積層体から少なくとも印刷層が除去された前記リサイクル原料用シートを得る洗浄工程を備え、
前記基材層は熱可塑性樹脂を含み、かつ前記脱離層は前記脂肪族高級アルコールに可溶な非晶性樹脂を含む、
リサイクル原料用シートの製造方法。
【0008】
[2]前記脂肪族高級アルコールは、炭素数8~20の脂肪族高級アルコールである、前記[1]に記載の製造方法。
【0009】
[3]前記洗浄工程の洗浄温度は、70~150℃である、上記[1]に記載の製造方法。
【0010】
[4]前記積層体に対する前記洗浄剤の質量比は、1~500であることを特徴とする、上記[1]に記載の製造方法。
【0011】
[5]前記洗浄剤に対する前記脂肪族高級アルコールの濃度は、50~99質量%である、上記[1]に記載の製造方法。
【0012】
[6]前記洗浄剤中の水分濃度は、1~50重量%である、上記[1]に記載の製造方法。
【0013】
[7]基材層、脱離層、及び印刷層がこの順に積層された積層体であって、
前記基材層は熱可塑性樹脂を含み、かつ前記脱離層は脂肪族高級アルコールに可溶な非晶性樹脂を含む、積層体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強アルカリ溶液を使用せずに、容易に脱墨を行うことができるリサイクル原料用シートの製造方法を提供することができる。また、その製造方法に用いる積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】洗浄工程前の積層体の断面図と、洗浄工程後のリサイクル原料用シートの断面図とを示す一例である。
【
図2】リサイクル原料用シートの製造方法のうち、特に洗浄工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るリサイクル原料用シートの製造方法、及びその製造方法に用いる積層体について詳細に説明する。以下の説明は本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれに限定されない。
【0017】
本発明のリサイクル原料用シートの製造方法は、基材層、脱離層、及び印刷層をこの順に積層した積層体に対して、脂肪族高級アルコールを含有する洗浄剤を使用して、積層体から少なくとも印刷層が除去されたリサイクル原料用シートを得る洗浄工程を備える。基材層は熱可塑性樹脂を備える。脱離層は上記脂肪族高級アルコールに可溶な非晶性樹脂を備える。脂肪族高級アルコールは、インク除去の観点から、炭素数8~20の脂肪族高級アルコールであることが好ましい。
また、リサイクル原料用シートは、本発明の製造方法で用いる積層体を洗浄処理することにより積層体から少なくとも印刷層が除去された、主に基材層を含むシートである。リサイクル原料用シートは、基材層のリサイクル材料である。洗浄処理を施した後のリサイクル原料用シートは、少なくとも印刷層は除去されるが、洗浄工程の程度によって脱離層が部分的に残る場合もある。
【0018】
また、本発明の積層体は、基材層、脱離層、及び印刷層がこの順に積層され、基材層は熱可塑性樹脂を備え、また、脱離層は脂肪族高級アルコールに可溶な非晶性樹脂を備える。脂肪族高級アルコールは、インク除去の観点から、炭素数8~20の脂肪族高級アルコールであることが好ましい。
【0019】
脱離層は、上記の脂肪族高級アルコールを含有する洗浄剤に溶解して、印刷層を脱離層ごと基材層から分離させることができる。この脱離層により積層体からのインク除去が容易となるため、リサイクル原料用シートを容易に生成できる。また、上記脱離層を備える積層体は、容易にリサイクル原料用シートを提供することができる。
【0020】
また、脱離層の樹脂が非晶性であるため、脱離層に対する基材層及び印刷層との接着性は高く、通常使用時のインク密着性にも優れている。また、非晶性樹脂は耐水性であり、積層体は耐水インク密着性に優れる。また、脂肪族高級アルコールとして植物由来のものを用いることで、さらなる環境負荷低減に寄与することができる。更に、上記の脂肪族高級アルコールを含有する洗浄剤は、インク自体を溶解させる効果をある程度有しており、基材層から脱離層ごと印刷層を脱離させる効果と併せて、相乗的な脱墨の効果を有する。
【0021】
このように、本発明によれば、リサイクル原料用シートの製造方法において、リサイクル時に容易なインク除去を行うだけでなく、リサイクル前の耐水インク密着性にも優れた積層体を提供することが可能である。
【0022】
(積層体)
本発明において洗浄される積層体は、上述のように、基材層、脱離層、及び印刷層がこの順に積層され、基材層は熱可塑性樹脂を備え、また、脱離層は脂肪族高級アルコールに可溶な非晶性樹脂を備える。また、本積層体を用いて上記洗浄工程を経ることにより、リサイクル原料用シートを提供することができる。また、両面印刷を施す場合は、基材層の両側にそれぞれ脱離層及び印刷層がこの順に設けられていてもよい。
【0023】
図1は、洗浄工程前の積層体の断面図(左図)と、洗浄工程後のリサイクル原料用シートの断面図(右図)とを一例として示している。
図1の左図において、積層体10は、基材層1の一方の面に脱離層2及び印刷層3をこの順に積層する。また、基材層1の他方の面にも脱離層2及び印刷層3がこの順に積層されていてもよい。また、洗浄工程を経て、積層体10から脱離層2ごと印刷層3が脱離して脱墨することにより、右図の様な基材層1のリサイクル原料が生成される。
【0024】
<厚み>
積層体の厚みは、搬送性向上の観点、及び良好なフィルム強度を得る観点から、下限として40μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましく、80μm以上がさらに好ましい。また、樹脂量削減の観点から、上限として200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
【0025】
以下、各層について説明する。
((基材層))
基材層は、熱可塑性樹脂フィルムであり、積層体に剛度を付与する支持体として機能する。基材層の上には脱離層が形成される。洗浄工程によって印刷層は脱離層ごと除去できるため、脱離層より下の基材層は回収されてリサイクルに供される。
【0026】
<熱可塑性樹脂>
基材層に使用できる熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又はポリカーボネート樹脂等が挙げられる。リサイクル性、フィルムの成形性又は機械的強度の観点から、基材層は、熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂を含むことが好ましい。
【0027】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリプロピレン系樹脂又はポリエチレン系樹脂等が挙げられる。リサイクル性、フィルムの成形性又は機械的強度の観点から、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0028】
ポリプロピレン系樹脂としては、例えばプロピレンを単独重合させたアイソタクティックホモポリプロピレン等のプロピレン単独重合体、プロピレンを主体とし、これとエチレン、1-ブテン等のα-オレフィン等とを共重合させたプロピレン共重合体等が挙げられ、なかでもプロピレン単独重合体が好ましい。
上記熱可塑性樹脂のうち、1種を単独で又は2種以上を組合わせて使用することができる。
【0029】
<フィラー>
基材層は、フィラーを含有することができる。使用できるフィラーとしては、例えば無機フィラー及び有機フィラー等が挙げられ、樹脂量を削減し、環境負荷を低減する観点からは好ましくは無機フィラーである。フィラーにより積層体の白色度又は不透明度を調整することができる。またフィラーを含有する熱可塑性樹脂フィルムの延伸により、フィラーを起点として多数の空孔がフィルム内部に形成され、より樹脂量の削減が可能であるとともに上記白色度又は不透明度の調整が容易となる。
【0030】
無機フィラーとしては、例えば炭酸カルシウム、焼成クレイ、シリカ、タルク、ルチル型二酸化チタン等の酸化チタン、又は硫酸バリウム等の無機粒子が挙げられる。なかでも、炭酸カルシウムは、空孔の成形性が良好であり、好ましい。炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、又は軽質炭酸カルシウムが挙げられ、重質炭酸カルシウムが好ましい。なお、分散性改善等の目的から、無機フィラーの表面は脂肪酸等の表面処理剤で表面処理されていてもよい。
【0031】
上記フィラーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができ、2種以上の場合は無機フィラーと有機フィラーの組み合わせであってもよい。
【0032】
不透明度又は白色度を高くする観点からは、基材層1中のフィラーの含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。基材層の成形の均一性を高める観点からは、上記フィラーの含有量は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
【0033】
フィラーの平均粒子径は、空孔の形成の容易性の観点から、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.10μm以上であることがさらに好ましい。引裂き耐性等の機械的強度を付与する観点からは、上記フィラーの平均粒子径は、15μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。
【0034】
無機フィラーの平均粒子径は、粒子計測装置、例えばレーザー回折式粒子径分布測定装置(マイクロトラック、株式会社日機装製)により測定した体積累積で50%にあたる体積平均粒子径(累積50%粒径)である。また、有機フィラーの平均粒子径は、溶融混練と分散により熱可塑性樹脂中に分散したときの平均分散粒子径である。平均分散粒子径は、有機フィラーを含有する熱可塑性樹脂フィルムの切断面を電子顕微鏡で観察し、少なくとも10個の粒子の最大径を測定し、その平均値として求めることができる。
【0035】
<その他添加剤>
基材層は、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、分散剤、滑剤、並びに帯電防止剤等の添加剤を含有することができる。
【0036】
基材層中の添加剤の含有量は、添加剤の十分な効果を得つつ本発明の効果を妨げない範囲で、通常、添加剤の種類ごとに独立して0.001~3質量%とすることができる。
【0037】
<層構成>
基材層は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。多層構造の場合、層ごとに異なる機能を付与することができる。各層を形成する樹脂組成物の種類及び含有量等は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0038】
基材層は、無延伸フィルムであっても延伸フィルムであってもよい。積層体の剛度を高める観点からは、基材層は、少なくとも1軸方向に延伸されたフィルムであることが好ましく、2軸延伸フィルムであることがより好ましい。
【0039】
<厚み>
基材層の厚みは、積層体の搬送性の観点、及び良好なフィルム強度を得る観点から、20μm以上が好ましく、40μm以上であることがより好ましい。積層体10の樹脂量削減の観点、及び良好な柔軟性を得る観点から、基材層の厚さは、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましい。
【0040】
((脱離層))
脱離層は、印刷層と基材層の間に設けられる。脱離層は、非晶性樹脂を含む層であり、脂肪族高級アルコールによって脱離層は溶解する。脱離層は耐水性であり、基材層との密着性が高いため、耐水インク密着性を備える。また、脱離層は、リサイクル時には特定の脂肪族高級アルコールを含有する洗浄剤に容易に溶解する。洗浄剤に関しては<洗浄工程>の段落で詳しく説明する。この性質から、脱離層は基材層から印刷層を容易に脱離させて、インクを除去する。
【0041】
<非晶性樹脂>
本願明細書において、非晶性樹脂は、配向した分子鎖部分(結晶部分)を有しないか、結晶部分を有していてもその量が極めて少ない樹脂をいう。樹脂が結晶性を有する程度に結晶部分を有しているか否かは、樹脂が融点を有するか否か、すなわち、一定速度で昇温した示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)で明瞭な融解ピークを有するか否かで判断することができる。
【0042】
非晶性樹脂はその分子鎖同士が不規則に絡まった構造を有する。非晶性樹脂は、実質的に結晶化した部分を有さない樹脂である。非晶性樹脂の結晶化度は、上限として、インク除去(脱墨)、接着性の観点から、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。下限として、0%以上である。
【0043】
非晶性樹脂としては、例えば、エラストマー樹脂、石油樹脂、又は環状オレフィン系樹脂等が挙げられる。中でも、脱離性、及び接着性の観点から、エラストマー樹脂が好ましい。
エラストマー樹脂としては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)又はイソプレン系ゴム等のジエン系ゴムが挙げられる。中でも、脱離性、及び接着性の観点から、スチレンブタジエンゴム(SBR)が好ましい。
【0044】
石油樹脂は、石油類の熱分解により生成する分解油留分を重合し、固化させた熱可塑性樹脂である。例えば、C5留分を原料とした脂肪族系樹脂、C9留分を原料とした芳香族系樹脂、スチレン系樹脂等が挙げられる。。
【0045】
環状オレフィン系樹脂としては、例えば、特開2001-277449号公報に記載された、環状オレフィン系モノマーから誘導される開環重合体、当該開環重合体又は共重合体の水素化物、一般式(1)で表される構造を有する環状オレフィン系モノマーとエチレンの共重合体等を例示できる。
【0046】
脱離層中の非晶性樹脂の含有量は、耐水インク密着性、リサイクル時のインク除去の観点から、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0047】
また、上記含有量は、脱離性能の観点から100質量%が好ましいが、成形性やその他の性能を付与する観点から、脱離性能を阻害しない範囲で助剤を配合しても良い。
【0048】
<厚み>
脱離層の厚みは、接着性、耐水インク密着性の観点から、1.0μm以上であることが好ましく、3.0μm以上がより好ましい。脱離層の厚みは、洗浄時に容易に印刷層を基材層から脱離させる観点(インク除去の観点)から、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0049】
((印刷層))
印刷層は、脱離層の上に形成される。印刷層とは印刷インク又はトナー等によって形成された文字や画像等からなる層である。印刷層は積層体の脱離層側の表面に位置し、脱離層表面の少なくとも一部の領域を覆っていればよく、全ての領域を覆っていてもよい。
【0050】
印刷方式としては、オフセット印刷、インクジェット方式、電子写真(レーザー)方式、感熱記録方式、熱転写方式等の各種印刷方式を用いることができる。塗布装置としては、ダイコーター、バーコーター等がある。
【0051】
((積層体の形成方法))
上記積層体は、例えば脱離層及び基材層をフィルム状に成形形して積層したものに印刷を施すことにより、形成することができる。積層体は、必要に応じて延伸され得る。
【0052】
<フィルム成形>
フィルムの成形方法としては、例えばスクリュー型押出機に接続された単層又は多層のTダイ等により溶融樹脂をシート状に押し出すキャスト成形、カレンダー成形、圧延成形、インフレーション成形等が挙げられる。
【0053】
熱可塑性樹脂フィルムの積層方法としては、例えばフィードブロック、マルチマニホールドを使用した多層ダイス(共押出)方式、及び複数のダイスを使用する押出しラミネーション方式等が挙げられ、各方法を組み合わせることもできる。脱離層は、塗工法によって形成及び積層されてもよい。基材層と脱離層の密着性向上の観点からは、共押出し方式が好ましい。
【0054】
<延伸>
延伸方法としては、例えばロール群の周速差を利用した縦延伸法、テンターオーブンを利用した横延伸法、これらを組み合わせた逐次2軸延伸法、又は圧延法等が挙げられる。
【0055】
複数層を延伸する場合は、各層を積層する前に個別に延伸しておいてもよいし、積層した後にまとめて延伸してもよい。また、延伸した層を積層後に再び延伸してもよい。
【0056】
延伸温度は、各層の組成、例えば熱可塑性樹脂の融点等を考慮して設定することができる。例えば、延伸温度は、熱可塑性樹脂の融点以下であることが好ましく、融点よりも2~20℃低い温度の範囲内であることがより好ましい。使用する熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂の場合の延伸温度は、当該熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上の範囲であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合の延伸温度は、当該熱可塑性樹脂の非結晶部分のガラス転移点以上であって、かつ当該熱可塑性樹脂の結晶部分の融点以下の範囲内であることが好ましく、具体的には熱可塑性樹脂の融点よりも2~60℃低い温度が好ましい。
【0057】
延伸速度は、特に限定されるものではないが、安定した延伸成形の観点から、20~350m/分の範囲内であることが好ましい。
【0058】
また、延伸倍率についても、使用する熱可塑性樹脂の特性等を考慮して適宜決定することができる。例えば、プロピレンの単独重合体又はその共重合体を含む熱可塑性樹脂フィルムを一方向に延伸する場合、その延伸倍率は、好ましくは1.2倍以上であり、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは4倍以上である一方、好ましくは12倍以下であり、より好ましくは10倍以下である。一方、2軸延伸する場合の延伸倍率は、面積延伸倍率で、好ましくは2倍以上であり、より好ましくは10倍以上である一方、好ましくは60倍以下であり、より好ましくは50倍以下である。
上記延伸倍率の範囲内であれば、目的の空孔率が得られて不透明性が向上しやすい。また、熱可塑性樹脂フィルムの破断が起きにくく、安定した延伸成形ができる傾向がある。
【0059】
<表面処理>
各層の熱可塑性樹脂フィルムは、隣接する層との密着性を高める観点から、表面処理が施されてもよい。
表面処理としては、コロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理等が挙げられ、これら処理は組み合わせることができる。なかでも、コロナ処理が好ましい。
【0060】
<印刷>
基材層と脱離層を含む積層フィルムにおいて、脱離層上に印刷を施すことにより、印刷層を形成する。
【0061】
(リサイクル原料用シートの製造方法)
上記のように印刷層を備える積層体は、ポスター、カタログ、カレンダー等として使用することができる。使用後、本発明の製造方法によって、基材層を主に含むリサイクル原料用シートを製造することができる。本発明のリサイクル原料用シートの製造方法は、上述した洗浄工程を含むが、洗浄工程の前に積層体を小さくする破砕工程、洗浄工程後の乾燥工程等の他の工程も含み得る。なお、破砕工程によって細かく粉砕されたものもシートと称する。また、積層体やシートの比表面積を大きくしてインク除去を促進する観点から、リサイクル原料用シートの製造方法は、破砕工程を含むことが好ましい。
【0062】
<洗浄工程>
洗浄工程では、特定の脂肪族高級アルコールを含有する洗浄剤に積層体を浸漬及び撹拌して洗浄する。
洗浄液に含まれる脂肪族高級アルコールは、インク除去の観点から、脂肪族高級アルコールであるのが好ましい。脂肪族高級アルコールは、インク除去の観点から、下限として、炭素数8以上であることが好ましく、炭素数10以上であることがより好ましく、炭素数12以上であることがさらに好ましい。また、洗浄操作の温度と脂肪族高級アルコールの融点の観点から、上限として、炭素数22以下であることが好ましく、炭素数20以下であることがより好ましく、炭素数15以下であることがさらに好ましい。
また、洗浄剤には、上記脂肪族高級アルコールの他に、洗浄性能を阻害しない範囲で別の成分が含まれていてもよく、中でも界面活性剤及び水が含まれていることが好ましい。
【0063】
環境負荷の低減の観点から、上記脂肪族高級アルコールは、植物由来であることが好ましく、また、その生分解性(JIS K 3363)は90%以上が好ましい。また、上記の非該当界面活性剤も植物由来であることが好ましく、その生分解性(JIS K 3363)は90%以上が好ましい。
【0064】
洗浄液中のアルコール濃度は、下限として、インク除去の観点から、洗浄液全量に対して、50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましい。また、上限として、経済的観点から、99重量%以下であることが好ましく、95重量%以下であることがより好ましい。
【0065】
洗浄液中の水分濃度は、下限として、経済的観点から、洗浄液全量に対して、1重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。また、上限として、インク除去の観点から、50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましい。
【0066】
図2は、リサイクル原料用シートの製造方法のうち、洗浄工程の一例を示す模式図である。操作を開始すると、まずステップS1001において、廃棄対象の印刷済み積層体を、粉砕機を用いて粉砕する。粉砕サイズに関しては、洗浄工程に支障の無い範囲であれば、特に限定されない。例えば、1cm×1cmのサイズに調整して裁断してもよい。
【0067】
次に、ステップS1002において、粉砕体を洗浄液に浸漬してインク除去(脱墨)する。浸漬、インク除去の作業は通常、常圧環境下で行う。インク除去中、洗浄液はスクリューを用いて撹拌を行う。
【0068】
積層体に対する洗浄液の質量比は、下限として、リサイクルの効率の観点から、1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。また、上限として、洗浄液の洗浄能力の観点から、500以下が好ましく、100以下がより好ましく、50以下がさらに好ましい。
【0069】
常圧下における洗浄温度は、下限として、インク除去の観点から、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。また、上限として、洗浄操作の簡便性や安全性の観点から150℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましい。
【0070】
洗浄時間は、下限として、インク除去の観点から、10秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましい。上限として、リサイクル効率の観点から、10分以下であることが好ましく、5分以下であることがより好ましい。
【0071】
撹拌速度は洗浄槽中の洗浄液の濃度及び温度が均一になる程度の撹拌速度であれば特に限定されない。例えば、下限として、インク除去の観点から、100rpm以上であることが好ましく、300rpm以上であることがより好ましい。上限として、撹拌効率の観点から、2000rpm以下であることが好ましく、1000rpm以下であることがより好ましい。
【0072】
次に、ステップS1003において、インク除去した基材層を分離し、水洗した後に乾燥させ、最後にステップS1004において、基材層を回収しリサイクルに供する。
【0073】
本発明に係るリサイクル原料用シートを用いることにより、積層体の表面(脱離層側表面)に印刷層を備えた印刷物は、洗浄剤中で脱離層と共に印刷層を除去し、水洗、乾燥して基材層のリサイクル原料用シートを得ることができる。基材層は熱可塑性樹脂であるため、押出機によりペレットに再生して利用することができる。
【実施例0074】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」、「%」等の記載は、断りのない限り、質量基準の記載を意味する。
【0075】
【0076】
(積層体(W1)の作製)
(I)熱可塑性樹脂(プロピレン単独重合体、商品名:ノバテックPP MA3、日本ポリプロ社製、MFR(230℃、2.16kg荷重):11g/10分)70質量部、及びフィラー(重質炭酸カルシウム微細粉末、商品名:ソフトン#1800、備北粉化工業社製、平均粒子径:1.8μm)30質量部を混合した樹脂組成物(i)を、270℃に設定した押出機で溶融混練した。これをシート状に押し出して冷却ロールにより冷却し、無延伸シートを得た。当該無延伸シートを150℃にまで再度加熱した後、ロール間の速度差を利用してシート流れ方向に4.8倍の延伸を行って、縦延伸樹脂フィルムを得た。
【0077】
(II)非晶性樹脂(スチレン・ブタジエンゴム、商品名:0695、JSR(株)社製)100質量部からなる樹脂組成物(ii)を230℃に設定した押出機にて溶融混練した。これをダイからシート状に押出し、上記(I)の工程で得られた縦延伸樹脂フィルムの一方の面上に積層し、2層シートを得た。
【0078】
得られた2層シートを60℃にまで冷却した後、再び150℃にまで再加熱して、テンターを用いてシート幅方向に9倍延伸し、次いで165℃でアニーリング処理した。その後、再び60℃にまで冷却した後、耳部をスリットして、脱離層(B)/基材層(A)の順に積層された2層の積層フィルム(全層厚み:100μm、各層厚み:5μm/95μm)、各層の延伸軸数:1軸/2軸)を得た。
【0079】
上記積層フィルムを所定サイズにカットした後、脱離層(B)上にフレキソ印刷を施し、印刷層が形成された積層体(W1)を得た。
【0080】
(積層体(W2)~(W3)の作製)
表2に示すように、SBRをアルカリ可溶樹脂(アクリル酸エステル系樹脂ラテックス、商品名:AE950、JSR(株)社名)及びプロピレン単独重合体の100質量部にそれぞれ変更した以外は積層体(W1)と同様にして積層体(W2)及び(W3)を得た。
【0081】
(実施例1)
印刷済み積層体(W1)を、粉砕機を用いて粉砕し、1cm×1cmのサイズの粉砕体を得た。
粉砕体50gを、洗浄液500gに投入(粉砕体に対する洗浄液の比率:10)し、常圧下、100℃の、脂肪酸高級アルコールを含む洗浄剤(ペイントソルブW)に浸漬し、3分間スクリューで500rpmにて撹拌しながらインク除去を行った。次に、インク除去した基材層を分離し、水洗した後に乾燥させ、リサイクル原料用シート(V1)を得た。
【0082】
(実施例2)
実施例1において、洗浄液への浸漬温度を80℃に変更した以外は、実施例1と同様にしてリサイクル原料用シート(V2)を得た。
【0083】
(実施例3)
実施例1において、積層体(W1)を積層体(W2)に変更した以外は、実施例1と同様にしてリサイクル原料用シート(V3)を得た。
【0084】
(比較例1~3)
比較例1は、実施例1において、脂肪族高級アルコールを含む洗浄剤の代わりに低級アルコール(エタノール)を使用し、かつ洗浄液への浸漬温度を50℃に変更した以外は、実施例1と同様にしてリサイクル原料用シート(V4)を得た。
比較例2は、実施例1において、脂肪族高級アルコールを含む洗浄剤の代わりにオレイン酸(商品名:ルナックーOV、花王(株)社製)を使用した以外は実施例1と同様にしてリサイクル原料用シート(V5)を得た。
比較例3は、実施例1において、積層体(W1)を積層体(W3)に変更した以外は実施例1と同様にしてリサイクル原料用シート(V6)を得た。
【0085】
(評価)
各実施例及び比較例のリサイクル原料用シート(V1)~(V6)について、下記を評価した。
【0086】
<インクの除去性>
リサイクル原料用シート(V1)~(V6)を目視にて確認して、インクが十分に除去されているか否かを確認した。結果を表2に示す。
〇:インクが十分に除去されており、インク残りが見られない
△:インクを殆ど除去できているが、わずかにインク残りが見られる
×:インクを除去できておらず、インク残りが見られる
【0087】
<耐水インク密着性>
リサイクル原料用シート(V1)~(V5)に関し、洗浄剤に浸漬する前に積層体(W1)~(W5)の一部を取り出して、イオン交換水中に浸漬させ24時間浸漬させた後、水中から取り出して、ティッシュで水を拭き取り、インクの上にセロハンテープ(株式会社ニチバン製、製品名:CT-18)を貼り、指で3回擦って密着させた後に、密着させたセロハンテープを180度方向に約300m/minの速度で手剥離した。積層体(W1)~(W5)上のインクの残存面積の割合から耐水インク密着性を評価した。結果を表2に示す。
〇:インクの残存面積が90%以上
△:インクの残存面積が70%以上
×:インクの残存面積が70%未満
【0088】
【0089】
表2によれば、脂肪酸高級アルコールを洗浄剤として使用した実施例1~3は、低級アルコール又はオレイン酸を洗浄剤として使用した比較例1及び2よりも、インク除去能が優れていた。また、脱離層にSBR又はアルカリ可溶樹脂を使用している実施例1~3は、脱離層にポリポロピレンを使用した比較例3よりもインク除去能が優れていた。
更に、脱離層にSBRを使用している実施例1及び2は、脱離層にアルカリ可溶樹脂を使用している実施例3と比較して、耐水インク密着性が優れていた。