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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010389
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】グラフェンの生成方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/186 20170101AFI20240117BHJP
【FI】
C01B32/186
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111704
(22)【出願日】2022-07-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年2月25日、第69回 応用物理学会春季学術講演会の予稿集に要約として、“m面サファイア基板上でのグラフェン減圧CVD”と題してグラフェンの生成方法に関する研究について公開した。 2022年3月22日、第69回 応用物理学会春季学術講演会において、グラフェンの生成方法に関する研究について公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成塚 重弥
(72)【発明者】
【氏名】三田 和輝
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC16B
4G146BA12
4G146BA48
4G146BB23
4G146BC09
4G146BC23
4G146BC25
4G146BC26
4G146BC27
4G146BC34B
4G146BC37B
4G146BC38B
(57)【要約】
【課題】品質の良好な2層グラフェンを生成するグラフェンの生成方法を提供する。
【解決手段】グラフェンの生成方法は、サファイア基板10の表面にグラフェン層11を積層するグラフェン層積層工程を備え、サファイア基板10の表面には、サファイア基板10のm面が露出している。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面にグラフェン層を積層するグラフェン層積層工程を備え、
前記基板の表面には、前記基板のm面が露出している、グラフェンの生成方法。
【請求項2】
前記基板の表面は、前記m面に対して0°から±5°のオフ角を有している、請求項1に記載のグラフェンの生成方法。
【請求項3】
前記グラフェン層積層工程において、前記基板の表面の全体にわたってグラフェン層が2層積層される請求項1又は請求項2に記載のグラフェンの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラフェンの生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、表面をa面、c面、r面としたサファイア基板上にグラフェンを成長させて、サファイア基板の面方位がグラフェンの成長に影響を及ぼすことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Yuki ueda et al.,"Crystal orientation effects of sapphire substrate on graphene direct growth by metal catalyst-free low-pressure CVD"Appl.Phys.Lett 115,013103 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
単層のグラフェンは、バンドギャップを持たない。しかし、グラフェンが2層積層されたもの(以下2層グラフェンともいう)に垂直電場を印加すると、バンドギャップが生じることがこれまでの研究で分かっている。この2層グラフェンが有する特性を電子デバイスに応用することによって、高性能なトランジスタ等の電子部品の開発が期待される。しかし、2層グラフェンを作製する場合には、単層のグラフェンを作製して2層重ねる手法が知られているが、この手法は手間がかかる。このため、2層グラフェンを良好に作製する手法が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、品質の良好な2層積層されたグラフェン層を生成することができるグラフェンの生成方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のグラフェンの生成方法は、
基板の表面にグラフェン層を積層するグラフェン層積層工程を備え、
前記基板の表面には、前記基板のm面が露出している。
【0007】
本発明のグラフェンの生成方法は、2層積層されたグラフェン層を良好に生成し易い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1のグラフェンの生成方法を示す概略図である。
図2】実施例1のグラフェンの生成方法においてグラフェン層の成長時間を30分間としたサンプルと、120分間としたサンプルの各々の表面を、AFMを用いて観察した画像である。
図3】実施例1のグラフェンの生成方法においてグラフェン層の成長時間を120分間として作製したサンプルの表面をラマン散乱分光法によって観察した結果を示すグラフである。
図4】実施例1のグラフェンの生成方法において、グラフェン層の成長温度を変化させたサンプルの各々における被覆率を示すグラフである。
図5】実施例1のグラフェンの生成方法において、グラフェン層の成長温度を1130℃としたサンプルの表面を、AFMを用いて観察した画像である。
図6】サファイア基板の表面においてグラフェン層が生成されるメカニズムを示す模式図である。
図7】実施例1のグラフェンの生成方法において、グラフェン層の成長圧力を変化させたサンプルの各々における被覆率を示すグラフである。
図8】実施例1のグラフェンの生成方法において、原料ガスの供給量を変化させたサンプルの各々の表面をラマン散乱分光法によって観察した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0010】
本発明のグラフェンの生成方法において、基板の表面は、m面に対して0°から±5°のオフ角を有し得る。この場合、表面に厳密なm面が露出していない基板であっても2層積層されたグラフェン層を良好に生成することができる。
【0011】
本発明のグラフェンの生成方法のグラフェン層積層工程において、基板の表面の全体にわたってグラフェン層が2層積層され得る。この場合、大きな面積の2層積層されたグラフェン層を容易に得ることができる。
【0012】
次に、本発明を具体化した実施例1について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
<実施例1>
先ず、サファイア基板10を用意する。サファイア基板10の表面には、m面が露出している。サファイア基板10の表面は、m面に対して0°から±5°のオフ角を有している。そして、サファイア基板10をメタノールに浸して、超音波洗浄機を用いて3分間洗浄する。そして、乾燥させたサファイア基板10をアセトンに浸して、超音波洗浄機を用いて3分間洗浄する。さらに、乾燥させたサファイア基板10を再びメタノールに浸して、超音波洗浄機を用いて3分間洗浄する。なお、洗浄に用いるメタノール、及びアセトンの量は、およそ30mlである。
【0014】
炭素原料である3ヘキシンを満たしたバブラの温度を任意の温度に保持する恒温槽の温度を15℃に設定し、3ヘキシンが通過する反応管に繋がる配管の加熱温度を35℃に設定する。キャリアガスとして水素、及び窒素を用いる。水素は、水素純化器で生成した物を使用する。
【0015】
サファイア基板10を減圧CVD装置の反応管内にセットする(図示せず。)。減圧CVD装置は、CVD法(化学気相成長)を実行することができる。サファイア基板10は、表面にキャリアガスが当たる様に反応管内に保持される。(図1における上側が基板の表面側である。以下同じ)である。
【0016】
次に、ロータリーポンプを用いて反応管内から排気して、反応管内の圧力を1.0kPa未満にする。
【0017】
その後、反応管内に窒素を1000sccm、水素を100sccm流しつつ、排気を継続する。排気側のニードルバルブを調整して、反応管内の圧力を5.0kPaに保持する。反応管内の圧力が5.0kPaに到達した後、20分間この状態を保持する。
【0018】
グラフェン層11を成長させる前に、炭素原料である3ヘキシンが入ったバブラを窒素10sccmで5分間バブリングする。その後、サファイア基板10の温度をおよそ10分間かけて1200℃まで昇温(すなわち、昇温速度およそ120℃/min)する。そして、サファイア基板10の温度を1200℃にした状態で60分間保持して、サファイア基板10の表面の洗浄と表面改質を行う。グラフェン層11を成長させる30分前から3ヘキシンが入ったバブラを窒素1sccmでバブリングする。
【0019】
次に、サファイア基板10の表面にグラフェン層11を積層するグラフェン層積層工程を実行する。具体的には、サファイア基板10の温度を1200℃に保持したまま、減圧CVD装置の反応管内に導入する混合ガスの割合を窒素1000sccm、水素100sccmから、窒素999sccm、水素100sccm、3ヘキシン(窒素バブリング1sccm)の混合ガスに変更し、排気側のニードルバルブを調整して反応管内圧力を5.0kPaに設定する。
【0020】
窒素、水素、及び3ヘキシンの混合雰囲気において、サファイア基板10の温度を1200℃に保持し、120分間グラフェン層11の成長を行う。120分間経過したところで、水素、及び3ヘキシン(窒素バブリング1sccm)の反応管内への供給を停止する。これと同時にサファイア基板10の温度をおよそ60分間かけて1200度から200℃まで自然冷却した。このときの降温速度はおよそ-16.7℃/minである。この時、反応管内に供給する窒素の流量を999sccmから1000sccmに変更する。
【0021】
基板温度が200℃以下になったところで、反応管に窒素を供給し、大気圧にする。その後、水素純化器の立ち下げ操作等を行い、サファイア基板10を減圧CVD装置の反応管から準備室を経由して外に取り出す。こうして、サファイア基板10の表面にグラフェン層11を積層して成長させる。
【0022】
[グラフェン層の生成における成長時間に対する依存性について]
グラフェン層11の生成における成長時間に対する依存性について検証した結果について説明する。実施例1では、窒素、水素、及び3ヘキシンの混合雰囲気において、サファイア基板10の温度を1200℃に保持し、120分間グラフェン層11の成長を行ったサンプルを作製している。以下、このサンプルを単に120分のサンプルともいう。さらに、実施例1のグラフェンの生成方法において、窒素、水素、及び3ヘキシンの混合雰囲気において、サファイア基板10の温度を1200℃に保持し、30分間グラフェン層11の成長を行ったサンプルを用意した。以下、このサンプルを単に30分のサンプルともいう。
【0023】
これら2種類のサンプル(30分のサンプル、120分のサンプル)をAFM(原子間力顕微鏡)で観察した結果を図2(A)から(D)に示す。図2(A)のAFMの形状像から、30分のサンプルでは、周りの領域R2よりもおよそ0.28nm低く形成された円形の穴のように凹んだ領域R1が存在することがわかった。ここで、領域R1は図2(A)における円形をなした暗い領域であり、領域R2は、領域R1よりも明るい色調で、且つ領域R1の周囲に拡がる領域である。図2(B)、(D)に示すように、いずれのサンプルにおけるAFMの位相像のコントラストは、概ね一様であり材料の変化がみられない。このことから、いずれのサンプルもサファイア基板10の表面全体がグラフェン層11で覆われていることが分かった。
【0024】
図3は、120分のサンプルの表面における任意の3か所についてラマン散乱分光法によって測定した結果である。ラマン散乱分光法は、グラフェンの評価において一般的に用いられている。グラフェンは、Dピーク、Gピーク、及び2Dピークの3種類のラマンピークを基にして評価することができる。Dピークは、グラフェンの構造欠陥、及びグラフェンのエッジに由来するピークである。Gピークは、グラフェンの面内における伸縮の振動、及びsp結合に由来するピークである。2Dピークはグラフェンのバンド間遷移を含む多段遷移に関係するピークである。なお、ラマン散乱分光法を用いてグラフェンを評価した結果において、Gピーク及び2Dピークが出現している場合、グラフェンが生成されていることを示す。
【0025】
また、Gピーク及び2Dピークのそれぞれのピークの大きさを比べることによって生成されたグラフェンの積層された層数に関する知見を得ることができる。グラフェンが1層(単層)の場合には、2D/G比がおよそ2を示し、グラフェンが2層積層された場合には、2D/G比がおよそ1を示し、グラフェンが3層積層された場合には、2D/G比がおよそ0.5を示す。
【0026】
図3に示すように、120分のサンプルの表面における任意の3か所の各々についてラマン散乱測定を行った測定結果における2D/G比は、およそ0.85から1.0であり、グラフェン層11が2層積層されていることを示す値が得られた。つまり、120分のサンプルは、グラフェン層積層工程において、サファイア基板10の表面の全体にわたってグラフェン層11が2層積層されていると考えられる。
【0027】
また、領域R2に対して、領域R1は、およそ0.28nm低い。この値は、積層された2層のグラフェンの間の距離とほぼ同じであることから、領域R1に単層のグラフェン層11が形成され、その周りの領域R2に2層のグラフェン層11が形成されていると考えられる。
【0028】
[グラフェンの生成における成長温度に対する依存性について]
グラフェン層11の生成における成長温度に対する依存性について検証した結果について説明する。実施例1におけるグラフェンの生成方法において、以下の手順における温度Tを1090℃、1130℃、1170℃、1210℃の4種類に変化させたサンプルを作製した。これら4種類のサンプルを、以下、単に1090℃のサンプル、1130℃のサンプル、1170℃のサンプル、1210℃のサンプルともいう。
【0029】
サファイア基板10を減圧CVD装置の反応管内にセットする(図示せず。)。サファイア基板10は、表面にキャリアガスが当たる状態で反応管内に保持される。次に、ロータリーポンプを用いて反応管内から排気して、反応管内の圧力を1.0kPa未満にする。炭素原料である3ヘキシンで満たされたバブラの温度を任意の温度に保持する恒温槽の温度は-12℃に設定する。その後、反応管内に窒素を900sccm、水素を100sccm流しつつ、排気を継続する。排気側のニードルバルブを調整して、反応管内の圧力を10.0kPaに保持する。反応管内の圧力が10.0kPa到達した後、20分間この状態を保持する。
【0030】
グラフェン層11を成長させる前に、炭素原料である3ヘキシンが入ったバブラを窒素10sccmで5分間バブリングする。その後、サファイア基板10の温度をおよそ10分間かけてT℃まで昇温(すなわち、昇温速度およそT/10(℃/min))する。そして、サファイア基板10の温度をT℃にした状態で60分間保持して、サファイア基板10の表面の洗浄と表面改質を行う。グラフェン層11を成長させる30分前から3ヘキシンが入ったバブラを窒素1sccmでバブリングする。
【0031】
次に、サファイア基板10の表面にグラフェン層11を積層するグラフェン層積層工程を実行する。具体的には、サファイア基板10の温度をT℃に保持したまま、減圧CVD装置の反応管内に導入する混合ガスの割合を窒素900sccm、水素100sccmから、窒素899sccm、水素100sccm、3ヘキシン(窒素バブリング1sccm)の混合ガスに変更し、排気側のニードルバルブを調整して反応管内の圧力を10.0kPaに設定する。
【0032】
窒素、水素、及び3ヘキシンの混合雰囲気において、サファイア基板10の温度をT℃に保持し、120分間グラフェン層11の成長を行う。120分間経過したところで、サファイア基板10の温度をおよそ60分間かけてT度から200℃まで自然冷却する。サファイア基板10の温度が200℃以下になったところで、水素、及び3ヘキシン(窒素バブリング1sccm)の反応管内への供給を停止する。このときの降温速度は、およそ(200-T)/60(℃/min)である。この時、反応管内に供給する窒素の流量を899sccmから1000sccmに変更する。そして、反応管に窒素を供給し、大気圧にする。その後、水素純化器の立ち下げ操作等を行い、サファイア基板10を減圧CVD装置の反応管から取り出す。こうして、サファイア基板10の表面にグラフェン層11を積層して成長させる。
【0033】
図4に示すように、成長温度を変更することによって、グラフェン層11の成長速度が変化することが分かった。図4は、4種類の成長温度でグラフェン層11を成長させた各サンプルのAFMの位相像から、サファイア基板10の表面に占めるグラフェン層11の割合(被覆率)を算出したものである。図4に示すように、1130℃サンプルにおける被覆率が最も高く、1170℃のサンプルにおける被覆率が次に高く、1210℃のサンプルにおける被覆率が次に高く、1090℃のサンプルにおける被覆率が最も低いことが分かった。つまり、各サンプルのうち、1130℃のサンプルにおけるグラフェン層11の成長量が最も多いことがわかった。(被覆率は、Image Jという画像処理のプログラムを用いて解析した。)
【0034】
図5は、1130℃のサンプルの表面のAFMの形状像である。図5に示すように、サファイア基板10の表面には、複数の穴Hが形成されていることが分かった。穴Hは、サファイア基板10を各温度に昇温した際に、サファイア基板10の表面から酸素が脱離することによって形成されたものと考えられる。穴Hは、各温度のサンプルの表面のいずれにも形成されていることがわかった。穴Hの深さ寸法は、およそ1nmであった。この深さ寸法は、2層積層したグラフェン層11の厚みを含有する深さ寸法である。
【0035】
ここで、サファイア基板10の表面にグラフェン層11が形成されるメカニズムについて考察する。図6(A)に示すように、サファイア基板10の表面は、原子層が階段状に形成されたm面が露出している。そして、サファイア基板10を各温度に昇温すると、サファイア基板10の表面(すなわちm面)から酸素が脱離することによって、穴Hが形成される(図6(B)参照)。
【0036】
そして、減圧CVD装置の反応管内に窒素、水素、3ヘキシン(窒素バブリング1sccm)の混合ガスを導入する。すると、穴Hの壁面をきっかけにして、穴H内に2層積層されたグラフェン層11が生成する(図6(C)参照)。例えば、隣合う穴Hの各々に生成されたグラフェン層11は、互いに結合する(図6(D)、(E)参照)。さらに、穴H内で形成された2層のグラフェン層11は、穴Hの外部に延長するように成長を続け、これによりサファイア基板10の表面は、全体にわたって2層のグラフェン層11によって覆われると考えられる。このように、サファイア基板10を昇温した際に形成される穴Hにグラフェン層11が最初に形成すると考えられる。
【0037】
[グラフェンの生成における成長圧力に対する依存性について]
グラフェン層11の生成における成長圧力に対する依存性について検証した結果について説明する。ここで、成長圧力とは、グラフェン層積層工程における反応管内の圧力である。実施例1におけるグラフェンの生成方法において、以下の手順における反応管内の圧力Bを5kPa、6kPa、7kPa、10kPaの4種類に変化させたサンプルを作製した。これら4種類のサンプルを、以下、単に5kPaのサンプル、6kPaのサンプル、7kPaのサンプル、10kPaのサンプルともいう。
【0038】
サファイア基板10を減圧CVD装置の反応管内にセットする(図示せず。)。サファイア基板10は、表面にキャリアガスが当たる状態で反応管内に保持される。次に、ロータリーポンプを用いて反応管内から排気して、反応管内の圧力を1.0kPa未満にする。炭素原料である3ヘキシンで満たされたバブラの温度を任意の温度に保持する恒温槽の温度は-12℃に設定する。その後、反応管内に窒素を900sccm、水素を100sccm流しつつ、排気を継続する。排気側のニードルバルブを調整して、反応管内の圧力をBkPaに保持する。反応管内の圧力がBkPa到達した後、20分間この状態を保持する。
【0039】
グラフェン層11を成長させる前に、炭素原料である3ヘキシンが入ったバブラを窒素10sccmで5分間バブリングする。その後、サファイア基板10の温度をおよそ10分間かけて1130℃まで昇温する。そして、サファイア基板10の温度を1130℃にした状態で60分間保持して、サファイア基板10の表面の洗浄と表面改質を行う。グラフェン層11を成長させる30分前から3ヘキシンが入ったバブラを窒素1sccmでバブリングする。
【0040】
次に、サファイア基板10の表面にグラフェン層11を積層するグラフェン層積層工程を実行する。具体的には、サファイア基板10の温度を1130℃に保持したまま、減圧CVD装置の反応管内に導入する混合ガスの割合を窒素900sccm、水素100sccmから、窒素899sccm、水素100sccm、3ヘキシン(窒素バブリング1sccm)の混合ガスに変更し、排気側のニードルバルブを調整して反応管内の圧力をBkPaに設定する。
【0041】
窒素、水素、及び3ヘキシンの混合雰囲気において、サファイア基板10の温度を1130℃に保持し、120分間グラフェン層11の成長を行う。120分間経過したところで、サファイア基板10の温度をおよそ60分間かけて1130度から200℃まで自然冷却する。サファイア基板10の温度が200℃以下になったところで、水素、及び3ヘキシン(窒素バブリング1sccm)の反応管内への供給を停止する。この時、反応管内に供給する窒素の流量を899sccmから1000sccmに変更する。そして、反応管に窒素を供給し、大気圧にする。その後、水素純化器の立ち下げ操作等を行い、サファイア基板10を減圧CVD装置の反応管から取り出す。こうして、サファイア基板10の表面にグラフェン層11を積層して成長させる。
【0042】
図7に示すように、成長圧力を変更することによって、グラフェン層11の被覆率、すなわちグラフェン層11の成長速度が変化することが分かった。図7は、4種類の成長圧力でグラフェン層11を成長させた各サンプルのAFMの位相像から、サファイア基板10の表面に占めるグラフェン層11の割合(被覆率)を算出したものである。図7に示すように、5kPaのサンプルにおける被覆率が最も高く、6kPaのサンプルにおける被覆率が次に高く、7kPaのサンプルにおける被覆率が次に高く、10kPaのサンプルにおける被覆率が最も低いことが分かった。つまり、成長圧力を下げた方がグラフェン層11の成長速度が速くなることがわかった。
【0043】
[グラフェンの生成における原料ガス供給量に対する依存性について]
グラフェン層11の生成における原料ガス供給量に対する依存性について検証した結果について説明する。実施例1におけるグラフェンの生成方法において、以下の手順における窒素バブリングの流量Fを1sccm、5sccm、10sccmの3種類に変化させたサンプルを作製した。これら3種類のサンプルを、以下、単に1sccmのサンプル、5sccmのサンプル、10sccmのサンプルともいう。
【0044】
サファイア基板10を減圧CVD装置の反応管内にセットする(図示せず。)。サファイア基板10は、表面にキャリアガスが当たる状態で反応管内に保持される。次に、ロータリーポンプを用いて反応管内から排気して、反応管内の圧力を1.0kPa未満にする。炭素原料である3ヘキシンで満たされたバブラの温度を任意の温度に保持する恒温槽の温度は-12℃に設定する。その後、反応管内に窒素を900sccm、水素を100sccm流しつつ、排気を継続する。排気側のニードルバルブを調整して、反応管内の圧力を5.0kPaに保持する。反応管内の圧力が5.0kPa到達した後、20分間この状態を保持する。
【0045】
グラフェン層11を成長させる前に、炭素原料である3ヘキシンが入ったバブラを窒素10sccmで5分間バブリングする。その後、サファイア基板10の温度をおよそ10分間かけて1130℃まで昇温する。そして、サファイア基板10の温度を1130℃にした状態で60分間保持して、サファイア基板10の表面の洗浄と表面改質を行う。グラフェン層11を成長させる30分前から3ヘキシンが入ったバブラを窒素Fsccmでバブリングする。
【0046】
次に、サファイア基板10の表面にグラフェン層11を積層するグラフェン層積層工程を実行する。具体的には、サファイア基板10の温度を1130℃に保持したまま、減圧CVD装置の反応管内に導入する混合ガスの割合を窒素900sccm、水素100sccmから、窒素Xsccm、水素100sccm、3ヘキシン(窒素バブリングFsccm)の混合ガスに変更し、排気側のニードルバルブを調整して反応管内の圧力を5.0kPaに設定する。ここで、窒素の流量Xは、窒素バブリングの流量Fが1sccmの場合に899sccmであり、窒素バブリングの流量Fが5sccmの場合に895sccmであり、窒素バブリングの流量Fが10sccmの場合に890sccmである。
【0047】
窒素、水素、及び3ヘキシンの混合雰囲気において、サファイア基板10の温度を1130℃に保持し、120分間グラフェン層11の成長を行う。120分間経過したところで、サファイア基板10の温度をおよそ60分間かけて1130度から200℃まで自然冷却する。サファイア基板10の温度が200℃以下になったところで、水素、及び3ヘキシン(窒素バブリング)の反応管内への供給を停止する。この時、反応管内に供給する窒素の流量をXsccmから1000sccmに変更する。そして、反応管に窒素を供給し、大気圧にする。その後、水素純化器の立ち下げ操作等を行い、サファイア基板10を減圧CVD装置の反応管から取り出す。こうして、サファイア基板10の表面にグラフェン層11を積層して成長させる。
【0048】
図8に示すように、原料ガスの供給量を変更することによって、グラフェン層11の成長速度、結晶品質が変化することがわかった。図8は、3種類の原料ガスの供給量でグラフェン層11を成長させた各サンプルのラマン散乱測定の結果である。図8に示すように、10sccmのサンプルにおけるDピークが最も大きく、5sccmのサンプルにおけるDピークが次に大きく、1sccmのサンプルにおけるDピークが最も小さいことが分かった。つまり、原料ガスの供給量の増加に伴い、欠陥を示すDピークが大きくなることがわかった。
【0049】
次に、上記実施例における効果を説明する。
本発明のグラフェンの生成方法は、サファイア基板10の表面にグラフェン層11を積層するグラフェン層積層工程を備え、サファイア基板10の表面には、サファイア基板10のm面が露出している。この構成によれば、2層積層されたグラフェン層11を良好に生成し易い。
【0050】
本発明のグラフェンの生成方法において、サファイア基板10の表面は、m面に対して0°から±5°のオフ角を有する。この構成によれば、表面に厳密なm面が露出していないサファイア基板10であっても2層積層されたグラフェン層11を良好に生成することができる。
【0051】
本発明のグラフェンの生成方法のグラフェン層積層工程において、サファイア基板10の表面の全体にわたってグラフェン層11が2層積層される。この構成によれば、大きな面積の2層のグラフェン層11を容易に得ることができる。
【0052】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1とは異なり、m面を有する他の材質の基板を用いてもよい。
(2)グラフェン層の生成における成長時間は、実施例1に開示された時間に限らない。
(3)グラフェン層の生成における成長温度は、実施例1に開示された温度に限らない。
(4)グラフェン層の生成における成長圧力は、実施例1に開示された圧力に限らない。
(5)グラフェン層の生成における原料ガス供給量は、実施例1に開示された供給量に限らない。
(6)実施例1とは異なり、熱分解することにより炭素を供給する他の炭素原料を用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…サファイア基板(基板)
11…グラフェン層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8