(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103898
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】衛生マスク用の口元基材、及び衛生マスク用の口元シート
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
A41D13/11 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007846
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】595031775
【氏名又は名称】シンワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142217
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 宜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100119367
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 理
(72)【発明者】
【氏名】上谷 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】高岡 亮
(57)【要約】
【課題】衛生マスクの装着者の肌荒れや炎症等の肌トラブルの発生を抑えることができる衛生マスク用の口元基材を提供する。
【解決手段】衛生マスクの装着者の口元に面する当該衛生マスクの口元層に適用する衛生マスク用の口元基材であって、ポリプロピレン繊維、又はポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維との複合繊維からなり、坪量が1平方メートル当たり20~40グラムであるスパンポンド不織布と、前記スパンポンド不織布に所定量ずつ添加した、クエン酸及びクエン酸ナトリウム並びに界面活性剤とからなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛生マスクの装着者の口元に面する当該衛生マスクの口元層に適用する衛生マスク用の口元基材であって、
坪量が1平方メートル当たり20~40グラムである不織布と、
前記不織布に所定量ずつ添加した、有機酸及び有機酸塩とからなることを特徴する衛生マスク用の口元基材。
【請求項2】
請求項1に記載の衛生マスクの口元基材であって、
前記不織布は、ポリプロピレン繊維、又はポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維との複合繊維であり、
前記有機酸は、クエン酸であり、
前記有機酸塩は、クエン酸ナトリウムである衛生マスク用の口元基材。
【請求項3】
衛生マスクと、該衛生マスクの装着者の口元との間に装着する衛生マスク用の口元シートであって、
坪量が1平方メートル当たり20~40グラムである不織布と、
前記不織布に所定量ずつ添加した、有機酸及び有機酸塩とからなることを特徴する衛生マスク用の口元シート。
【請求項4】
請求項3に記載の衛生マスク用の口元シートであって、
前記不織布は、ポリプロピレン繊維、又はポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維との複合繊維であり、
前記有機酸は、クエン酸であり、
前記有機酸塩は、クエン酸ナトリウムである衛生マスク用の口元シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生マスクの口元層に適用する衛生マスク用の口元基材、及び、衛生マスクとその装着者の口元との間に装着する衛生マスク用の口元シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衛生マスクには、例えば特許文献1に記載されているように、花粉、ダスト及びウイルスを含む飛沫をカットするために、3層の積層不織布からなるものがあり、この衛生マスクでは、衛生マスクを長時間使用した際の不快感を低減するために、3層の積層不織布のうち、当該衛生マスクを装着した者の口元に近い口元層を、メッシュ処理を施したスパンボンド不織布で構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、最近では、新型コロナウイルス禍に伴い、衛生マスク装着時間が更に長くなる傾向にあり、それによって衛生マスクの口元層が接触する装着者の口元(口の周辺、鼻、頬等部分の肌)に、かぶれ等の炎症が生じ易くなっており、衛生マスクに対して、肌ストレスを生じないための対策が要望されるようになっている。しかし、上述の衛生マスクでは、肌触りに対する対策は施されているものの、口元の水分や汗による肌荒れや肌の炎症等に対する対策は施されていない。
【0005】
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、衛生マスクの装着者の肌荒れや炎症等の肌トラブルの発生を抑えることができる衛生マスク用の口元基材及び衛生マスク用の口元シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
本発明の第1の側面に係る衛生マスク用の口元基材によれば、衛生マスクの装着者の口元に面する当該衛生マスクの口元層に適用する衛生マスク用の口元基材であって、坪量が1平方メートル当たり20~40グラムである不織布と、前記不織布に所定量ずつ添加した、有機酸及び有機酸塩とからなるよう構成できる。前記構成により、衛生マスクの着用が長時間にわたっても、肌荒れや肌の炎症等の肌トラブルの発生を抑えることができる。
【0007】
本発明の第2の側面に係る衛生マスク用の口元基材によれば、前記不織布は、ポリプロピレン繊維、又はポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維との複合繊維であり、前記有機酸は、クエン酸であり、前記有機酸塩は、クエン酸ナトリウムであるよう構成できる。
【0008】
本発明の第3の側面に係る衛生マスク用の口元シートによれば、坪量が1平方メートル当たり20~40グラムである不織布と、前記不織布に所定量ずつ添加した、有機酸及び有機酸塩とからなるよう構成できる。
【0009】
本発明の第4の側面に係る衛生マスク用の口元シートによれば、前記不織布は、ポリプロピレン繊維、又はポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維との複合繊維であり、前記有機酸は、クエン酸であり、前記有機酸塩は、クエン酸ナトリウムであるよう構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】pH緩衝能テスト結果を示す折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
(第一実施形態)
【0012】
本発明の第一実施形態に係る衛生マスクの口元基材は、衛生マスクの装着者の口元に面する当該衛生マスクの口元層に適用する衛生マスク用の口元基材であって、疎水性熱可塑性繊維からなり、坪量が1平方メートル当たり20~40グラムであるスパンポンド不織布と、前記スパンポンド不織布に所定量ずつ添加した、有機酸及び有機酸塩並びに界面活性剤とからなる。この実施形態では、前記疎水性熱可塑性繊維として、ポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維との複合繊維を用いており、前記有機酸としてクエン酸、前記有機酸塩としてクエン酸ナトリウムを用いている。
【0013】
スパンポンド不織布は、ポリプロピレンとポリエチレンの素材をスパンポンド法により不織布に形成したものであり、比較的通気性が良いため、衛生マスクに用いても圧力損失を抑えることができるので都合が良い。そしてポリプロピレンとポリエチレンとの複合繊維の代わりに、素材としてポリプロピレンのみを用いたものでもよい。
【0014】
スパンポンド不織布の坪量が、坪量が、1平方メートル当たり40グラムを超えると、口元基材が厚くなり過ぎると共に、pH調整剤であるクエン酸やクエン酸塩の量も多くなって製造コスト的に不利になり、1平方メートル当たり20未満だと、口元基材が薄くなり過ぎて加工や取扱いの面で不利になる。
【0015】
スパンポンド不織布に、クエン酸及びクエン酸ナトリウム並びに界面活性剤を添加するには、クエン酸及びクエン酸ナトリウム並びに界面活性剤を夫々所要量ずつ蒸留水に添加して水性の薬液を作り、この薬液をスパンポンド不織布に付着させた後、水分を蒸発させて、クエン酸及びクエン酸ナトリウム並びに界面活性剤をスパンポンド不織布中の繊維に付着させる。
【0016】
薬液は水溶液、水懸濁液、乳化液等であってもよく、蒸留水の代わりに硬水、軟水、イオン交換水等を用いたものでもよい。また薬液をスパンポンド不織布に付着させる方法として、例えば薬液中にスパンポンド不織布を浸漬する方法、薬液を塗工ローラによってスパンポンド不織布に塗布する方法、薬液をスプレーでスパンポンド不織布に散布する方法がある。
【0017】
衛生マスクの口元基材は、衛生マスクが、複数の不織布を積層した積層シートで形成される場合には、最も口元に近い口元層の不織布基材として用いられる。例えば、装着者の口元を覆う部分が外層、内層、口元層の3層からなる衛生マスクを製造するには、外層となる不織布基材と、内層となる不織布基材と、本発明の口元基材とを重ね合わせて積層シートとし、その積層シートから衛生マスクを形成する。
【0018】
衛生マスクの口元基材を適用した衛生マスクを装着したとき、スパンボンド不織布の繊維に付着したクエン酸及びクエン酸ナトリウムは、衛生マスク装着者の汗や呼気中の水分等により弱酸性の溶液となって口元基材の表面に付着した状態になり、その弱酸性の溶液に、衛生マスク装着者の肌が接触することが可能になる。
【0019】
通常、肌は元々雑菌の繁殖を防ぐことができるよう弱酸性になっているが、長時間のマスクの着用で口元が汗等により多湿の環境になると肌の表面のpHがアルカリ性に傾いて雑菌が繁殖し易い環境になり、それが肌にトラブルが発生する原因であると考えられる。
【0020】
しかし、本発明の衛生マスクの口元基材が口元に接触していれば、口元基材の表面に付着している弱酸性の溶液が装着者の肌に接触することで、肌が弱酸性を保つのを補助することができ、雑菌の繁殖を防ぐことができると考えられる。
(口元基材のpH緩衝能テスト)
【0021】
本発明の衛生マスクの口元基材について、弱酸性の状態をどの程度保持できるかを知るためにpH緩衝能テストを行った。
【0022】
実施例1として、坪量が1平方メートル当たり20グラムのポリプロピレンとポリエチレンの複合スパンボンド不織布を、クエン酸0.4w/w%、クエン酸塩1.2w/w%、界面活性剤(アルカンスルホン酸ナトリウム)0.1w/w%の水性の薬液に浸漬した後、乾燥させて口元基材を形成した。
【0023】
実施例2として、実施例1と同じ仕様のスパンボンド不織布を、クエン酸0.1w/w%、クエン酸塩0.3w/w%、界面活性剤(アルカンスルホン酸ナトリウム)0.1w/w%の水性の薬液に浸漬した後、乾燥させて口元基材を形成した。
【0024】
実施例1と同じ仕様のスパンボンド不織布を、上記薬液の浸漬処理を施することなく口元基材とし、これを比較例1とした。
【0025】
25w/w%のアンモニア水を1万倍の蒸留水にて希釈し、pH約9に調整した水溶液を、試験液として準備した。
【0026】
pH緩衝能テストは、実施例1、実施例2、比較例1の口元基材を一辺10センチメートルの正方形に切取って各々の試験片とし、この試験片をポリエチレンフィルムの上に並べた状態で、各試験片に霧吹きで試験液を噴霧した後、各試験片の表面pHを計測する計測作業を5回行い、この計測作業毎に、各試験片に対する試験液の噴霧回数を1回ずつ増やした。各試験片の表面pHの計測には、表面pHメーター(堀場製作所製)を用いた。この試験結果を表1及び
図1に示す。
【0027】
【0028】
pH緩衝能テストの結果、比較例1の口元基材の表面は、試験液を噴霧する前は中性であるが、噴霧を繰り返すことでアルカリ性が強くなるが、実施例1及び実施例2の口元基材は、試験液の噴霧を5回繰り返しても弱酸性が保持されている。したがって実施例1及び実施例2の口元基材は、pH緩衝能を有しており、この口元基材を衛生マスクに用いた場合、口元に接触する水分が汗等によってアルカリ性に変化しようとしても肌の弱酸性を保つことができると推定される。
(第二実施形態)
【0029】
本発明の第二実施形態に係る衛生マスクの口元シートは、第一実施形態に係る衛生マスクの口元基材を、所要形状のシートに形成してなる。第二実施形態に係る衛生マスクの口元シートは、マスク装着時に、例えば市販の衛生マスクと、該衛生マスクの装着者の口元との間に装着して使用できるように衛生マスクとは別体として構成してもよいし、衛生マスクと一体化し、衛生マスクを装着すれば、装着者の口元位置に第二実施形態に係る衛生マスクの口元シートが配されるように構成してもよい。
【0030】
第二実施形態に係る口元シートを衛生マスクとは別体として構成することで、該口元シートを任意の衛生マスクと組み合わせることができるため、装着者は、デザイン性重視の市販の布マスク等を使用しつつも、飛沫防止効果と肌ストレスの低減効果の両方を得ることができる。
【0031】
一方、第二実施形態に係る口元シートが予め衛生マスクと一体となるよう構成する態様では、装着者は、飛沫防止効果及び肌ストレスの低減効果を得る上で、衛生マスクの装着時に口元シートの装着が不要となるため、手間をかけずに済む利点がある。