(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010391
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】麺類乾燥室
(51)【国際特許分類】
F26B 9/06 20060101AFI20240117BHJP
A21C 9/00 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
F26B9/06 Z
A21C9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111707
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】593124152
【氏名又は名称】福島 繁博
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】福島 繁博
【テーマコード(参考)】
3L113
4B031
【Fターム(参考)】
3L113AA01
3L113AC51
3L113AC64
3L113BA24
3L113CB24
3L113DA02
4B031CA03
4B031CK14
(57)【要約】
【課題】整流された空気の流れを形成した麺類乾燥室。
【解決手段】天井から吊り下げられた複数の天井扇の一部を正回転し、残部を逆回転させて、幡に巻きかけられた麺線の下部において所定以上の風速を生じさせるとともに、少なくとも逆転する天井扇に所定長さの風洞を設けた構成とした。前記天井扇は、径方向中央ほど送風力が大きい翼構造であり、前記風洞は前記天井扇の中央部の所定径にのみ対応する構成とした。上記構成によると、乾燥室の上方から下方に、下方から上方に整流された流れが形成され、乾燥室内での空気の無駄な流れを抑えることができ、麺類乾燥室全体のエネルギー消費を少なくすることができ、乾燥効果も大きくなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の天井扇によって起こされる風を当てることで麺類を乾燥させる麺類乾燥室において、
天井から吊り下げられた複数の天井扇の一部を正回転し、残部を逆回転させて、幡に巻きかけられた麺線の下部において所定以上の風速を生じさせ、
前記少なくとも逆回転側の天井扇の天井側に所定長さの風洞を設けたことを特徴とする麺類乾燥室。
【請求項2】
前記天井扇が、径方向中央ほど送風力が大きい翼構造であり、前記風洞は前記天井扇の中央部の所定径にのみ対応する大きさとした請求項1に記載の麺類乾燥室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の天井扇によって起こされる風を当てることで麺類を乾燥させる麺類乾燥室に関し、特に、高品質の素麺の収量を増大できるようにした麺類乾燥室に関する。
【背景技術】
【0002】
素麺などの麺類を製造する方法としては以下の方法が代表的である。
【0003】
すなわち、特許文献1に開示されているように、原料粉を捏ねて玉と呼ばれる塊を造り、この玉を紐状(5~10mm程度の径)に延ばして上下1対の管(くだ)と呼ばれる棒に襷掛け状に巻き掛ける(上下の管の距離は50cm程度)。そして、これら管に巻き掛けた麺線を延伸(2mm程度)した後、幡(はた)に掛けるようになっている。
【0004】
上記幡100は、例えば
図7の斜視図に示すように、1対の上下両管受102、103を柱101に昇降可能に支持させた構成となっており、麺線が多数回襷掛け状に巻き掛けられた上の管104の端部を上の管受102に、また、下の管105の端部を下の管受103に支持させるようになっている。
【0005】
次に、天井に設置された扇風機(以下「天井扇」という)によって起こされる風を上方から当てることで、上記のように延伸した麺線を乾燥させる。この天井扇としては、
図8に示すように、モータ11の出力軸にハブ12を介して4枚の翼13を放射状に連結したものが一般的である。
【0006】
最後に、上記のように乾燥させた麺線を所定の長さに裁断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63-167750号公報
【特許文献2】特許3571035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記複数の天井扇Fから麺線に向かって一斉に送られる風は、真っ直ぐ下方に吹き下るので、床面で行き止まった空気は、床面の近くでは流れを形成しないで淀んだ状態を形成する。その結果、下側の約30%近くの麺線は乾燥が不十分な低品質のものになっているのが実情である。
【0009】
この点を改良すべく、本願出願人は特許3571035(特許文献2)において、上記複数の天井扇の内の一部を逆回転させることを提案し、製品の不良率を低減することに成功している。この構成では、逆転する天井扇が、乾燥室の下部の空気を吸い上げるので、正転する天井扇の噴出した空気が乾燥室の下部にまで行き届くことになる。
【0010】
しかしながら、上記特許3571035(特許文献2)によると、隣接する天井扇の吹き出し方向が相互に逆になっているのであるから、特定の正転する天井扇から噴き出した空気流を隣接する逆転天井扇が奪いとることになって、はなはだ荒れた流れを形成し、効率が悪く、電力コストが上がることになっていた。
【0011】
すなわち、当該特許文献2の目的は、床付近の空気の流れを良くして、下管付近の麺の乾燥を促進させようとするものであるが、理想的な乾燥室での空気の流れとして、乾燥室の上方から下方へ、下方から上方へと、整流された空気の循環が形成されている場面を想定するとき、前記特許文献2の形成する空気の流れははなはだ荒れた循環をていしていた。
【0012】
本発明は、上記従来の事情に基づいて提案されたものであって、麺線の下部まで十分に乾燥させることによって高品質の麺類の収量を増大できるようにすることはもちろん、室全体に整流された空気流を形成することによって、エネルギー消費を少なくする麺類乾燥室を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の麺類乾燥室は、上記目的を達成するために以下の手段を採用している。
【0014】
天井から吊り下げられた複数の天井扇の一部を正回転し、残部を逆回転させて、幡に巻きかけられた麺線の下部において所定以上の風速を生じさせるとともに、少なくとも逆転する天井扇に所定長さの風洞を設けた構成とした。
【0015】
前記天井扇は、径方向中央ほど送風力が大きい翼構造であり、前記風洞は前記天井扇の中央部にのみ対応する構成とした。
【発明の効果】
【0016】
上記構成によると、乾燥室の上方から下方に、下方から上方に整流された流れが形成され、乾燥室内での空気の無駄な流れを抑えることができ、麺類乾燥室全体のエネルギー消費を少なくすることができ、乾燥効果も大きくなる。すなわち、天井扇の数を減らす、あるいは回転数を落として運転することができるメリットがある。
【0017】
特に、天井扇に、径の中央ほど送風力の大きな天井扇を用い、前記風洞の径を天井扇の中央部にのみ対応する大きさとすることによって、天井扇の中央部の送風力を利用して、整流された循環流を形成するとともに、天井扇の端部から径方向に送出される空気流も有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明における麺類乾燥室の要部を説明するための図。
【
図3】本発明で採用する天井扇が備える翼の断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって詳細に説明する。なお、麺線を乾燥させる工程以外は上記従来と同じであるため、ここでは詳しい説明を省略する。また、幡の構成も上記従来と同じであるため、ここでは同じ符号を用いて説明する。
【0020】
本発明における麺類乾燥室は、
図1に示すように、適当な間隔をあけて複数の天井扇F(正転の天井扇F1,逆転の天井扇F2)を備えている。尚、
図1では正転の天井扇F1と逆転の天井扇F2を交互に配列しているが、後に説明するように、これに限定されるものではない。
【0021】
前記天井扇として、
図2,
図3に示す天井扇を使用することができる。
【0022】
前記天井扇Fは、
図2の斜視図に示すように、天井に支持させる減速機付モータ1と、その出力軸に固定されるハブ2と、このハブ2の周囲に放射状に連結された4枚の翼3とを備えている。
【0023】
各翼3は、ハブ2から翼端にわたって設けられる骨材4と、この骨材4に溶接された鉄板(翼板)5とからなる。この翼板5は、
図3の断面図に示すように、骨材4を境にして「ヘ」字形に屈曲させて、上側の翼板部分5aの回転面に対する傾斜角θaよりもその下側の翼板部分5bの回転面に対する傾斜角θbの方が大きくなるように配置される。また、この翼板5の弦線が回転面となす角(即ち、翼角)θは翼根から翼端まで一様にしてあり、この翼板5の前線6と後線7との間隔は翼根側から翼端側に一様に減少するようにしている。
【0024】
翼3の外径は、モータ1の出力、送風する領域の大きさ、送風量などを考慮して適宜設計すればよい。一般的には、翼3の外径を大きくすると、送風領域が増大するという利点が得られる反面、翼板3あるいは翼板5に必要な強度を持たせるために翼断面積を増大させる必要が生じるので製造コスト及びランニングコストが高くなるという欠点を伴う。これらの得失を考慮に入れると、翼3の外径は1,000~2,000mmにすることが好ましい。
【0025】
翼板5の形状及び大きさは、翼外径、回転数、送風量などを考慮に入れて適宜設計すればよい。例えば、翼外径1400mm、回転数340rpm、送風量130m3/分の場合、翼根側から翼端までの長さは587mm、翼根側における前線6と後線7との間隔は160mm、翼端における前線6と後線7との間隔は110mmとするのが好ましい。
【0026】
翼板5の断面を折り曲げる場合、上側の翼板部分5aと下側の翼板部分5bとの挟角αは120°~170°とすることが好ましい(本実施例では約150°)。すなわち、この挟角αが120°よりも小さい場合には、加工が面倒になる上、送風効率が低下するという欠点がある。一方、この挟角αが170°よりも大きい場合には、送風方向が翼3の回転方向において広げられる効果が著しく低下するという欠点がある。
【0027】
なお、この実施例では翼板5を「ヘ」字形に折り曲げているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、翼板5をその前線6と後線7との間の2箇所以上で屈曲させてもよいし、あるいは、その前線6と後線7との間で一様に湾曲させてもよい。
【0028】
また、翼角θ、上部翼角θa、下部翼角θb、翼数も、特に限定されるものではない。すなわち、これらは、翼3の寸法、回転数、送風量などを考慮して適宜設計すればよい。
【0029】
前記のように、中央部の翼幅を大きく、周端の翼幅を小さくすると、中央部の風速が速く平行に大きくなる傾向にある。これに対して翼端側は、翼板3の径方向に拡散する風が吹き下ろされる。
【0030】
上記幡に掛かっている麺線(手延麺)は、上記したように上管104と下管105とによって引っ張られているから、多少の風では揺れないようになっている。しかしながら、上記のように、中央部に強い平行流、周辺部に拡散性を有する風を吹き下ろすと、上管及びこれに巻き掛けられた麺線の上部の間からその下方の麺線の間に風が吹き込み、麺線をそよがせながら下方まで流れて、麺線の下部を乾燥させる。その結果、十分に乾燥して白くなった高品質の素麺の収量を増大させ、乾燥が不十分な茶色みを帯びた低品質品の発生率を例えば10%以下に減少させることができる。
【0031】
このように天井扇Fが備える翼の形状を変えるだけでも、かなりの効果を得ることができるが、本出願人は、特許文献2において、さらに以下の手法を採用することで、より麺線の下部まで十分に乾燥させることに成功した。
【0032】
すなわち、特許文献2に開示の麺類乾燥室は、
図1で示したように、適当な間隔をあけて複数の天井扇Fを備えた状態で、これら複数の天井扇Fをその配置順に交互に逆回転させるようにしたものである。
【0033】
前記特許文献2によると、床付近の空気の流れは良くなり、乾燥後の素麺の不良率を著しく改善することができる。
【0034】
しかしながら、前記逆回転の天井扇Fの存在で、床付近の空気の流れはよくなるが、正転する天井扇Fの隣に逆転する天井扇Fが存在するのであるから、乾燥室全体の空間の空気の流れは激しく乱れて、”整流”された状態とは遠い状態となる。すなわち空気の流れが不必要に乱れているので、エネルギーの損失は大きくなる。
【0035】
正転する天井扇Fと逆転する天井扇Fをより幡に掛けられた麺線に近づけるようにすると、上記の無駄は少なくなるが、上管付近の麺への風の当たりが強い部分と弱い部分の差が大きくなり、乾燥斑ができる原因となる。
【0036】
特許文献2に開示の発明以前は、正転のみの天井扇で乾燥作業を実行しており、これで上管付近は十分に乾燥していたのであるから、逆転の天井扇Fは床付近の空気を吸い上げて、そこに正転の天井扇Fからの空気を流し込むという流れを作ることに寄与することになる。
【0037】
以上を考慮して、本願発明では、
図1、
図6に示すように、少なくとも逆転の天井扇F2の吹き出し方向に、上方向に伸びる風洞202を設ける構成とした。もちろん、正転の天井扇F1の吹き出し方向の後方にも、上方向の伸びる風洞201を設けてもよい。
【0038】
前記したように、本発明に使用する天井扇F(正転F1,逆転F2)は、中央部の翼幅を大きく、周端の翼幅を小さくしている。そこで、前記風洞201202は、中央部の強い平行流を生む部分のみに対応する範囲を囲う構成で足りる。この構成により、中央部の風速が径に直角方向(真下、真上方向)に一層速く平行に大きくなり、翼端側は、翼板3の径方向に拡散する空気の流れが形成される。
【0039】
尚、
図1、
図6は、説明を分かりやすくするために、正転の天井扇F1と逆転の天井扇F2を1対1で隣接させた状態で描いているが、実際の配置状態は、
図4(後に説明)に示すように、より複雑である。
【0040】
前記の構成によると、正転する天井扇F1からの空気の流れの中心部は、風洞201で整流されて、下方向に空気を押すことになる。逆転する天井扇F2は乾燥室の下の空間の空気を吸い上げることになるが、前記のように風洞202が設けられているので、乾燥室の下の空間から、上の空間に至る風筋は整流された乱れの少ない風筋となる。この整流された上向きの空気流は、乾燥室の底部の気圧を低下せしめ、前記正転の天井扇F1からの前記下方に吹き下ろされた空気は幡の下管付近にまで到達することになる。
【0041】
前記逆転する天井扇F2からの上方への吹き出しも、風洞202で整流されるので、乾燥室20の天井に噴き上げられてから、正転の天井扇F1に戻ることになる。
【0042】
従って、正転の天井扇F1から逆転の天井扇F2を経て再び正転の天井扇F1に戻る循環流が、より整流されたきれいな状態で発生することになり、空気の流れに無駄がなくなり、乾燥効果を高め、電力量はすくなくなることになる。
【0043】
上記は、正転の天井扇F1と、逆転の天井扇F2との両方に風洞201、202を設ける構成としているが、少なくとも逆転の天井扇F2に対応して風洞202を設けることでもよい。
【0044】
すなわち、逆転の天井扇F2は吹き出し方向の後方に翼が置かれた状態となり、整流した空気流を得やすい。正転側の構成を、前記と同じ構成にしようとすると、
図1、
図4で描いた状態と反対側に風洞201を置く必要がある。しかしながら、この場合、モータ1の反対側に風洞が突き出すことになり、モータ1に風洞を保持させることができない難点がある。
【0045】
また、上記では正転の天井扇F1と、逆転の天井扇F2とを1対1で隣合わせて配列した場合について説明したが、より具体的には、乾燥室20内、での配列は例えば
図4に示すような配列になる。
【0046】
麺類乾燥室20は、矩形領域を有し、当該矩形領域を略三等分した各領域21~23の天井にそれぞれ8つの天井扇Fを設置している。ここでは、領域21~23毎に独立した計3台のインバータによって、天井扇Fが備えるモータ1の回転数と回転方向を制御するようにしている。天井扇F間の距離L3・L4は共に1.8mであり、また、天井扇Fの取り付け高さは床から2.7mである。
【0047】
幡100は、
図5に示すように、領域21~23毎に5台ずつ横向きに配列している。幡100間の距離L5は1.25mであり、また、幡100に巻き掛けている麺間の距離L6は0.15mである。幡100の高さは2m前後であり、従って、幡100と天井扇との間に数十cmの間隔がある。
【0048】
このような条件下で、両端の区画21、23の天井扇を正転、中央の区画22の天井扇F2を逆回転させる場合がある。また、両端の区画21、23を逆転させ、中央部を正転させる場合がある。
【0049】
ずれの場合であっても、乾燥室20全体に整流された循環流を生じるので、従前と同じ台数の天井扇Fを使用する場合、各天井扇Fの回転数を減らしても、麺の乾燥は均一になり、省力化が図れることになる。また、従来と同じ回転数で運転する場合、使用扇の数を減らすことができることになる。
【符号の説明】
【0050】
20 麺類乾燥室
F(F1、F2) 天井扇
100 幡
201、202 風洞