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特開2024-103958超音波探傷装置、超音波探傷装置とレールの組み合わせ、およびレールの探傷方法
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  • 特開-超音波探傷装置、超音波探傷装置とレールの組み合わせ、およびレールの探傷方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024103958
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】超音波探傷装置、超音波探傷装置とレールの組み合わせ、およびレールの探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
G01N29/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023007927
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502230882
【氏名又は名称】株式会社大同キャスティングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森永 武
(72)【発明者】
【氏名】諸頭 慧
(72)【発明者】
【氏名】岡田 美典
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA07
2G047AC09
2G047BA03
2G047BC09
2G047DB02
2G047EA10
2G047GB02
2G047GB17
2G047GF11
(57)【要約】
【課題】レールの形状による影響を低減して、レールに対する探傷検査を高精度に行うことができる超音波探傷装置、およびそのような超音波探傷装置とレールの組み合わせ、またレールの探傷方法を提供する。
【解決手段】レールRに対して超音波探傷を行う超音波探傷装置であって、超音探傷装置は、超音波Uの送受信を行う素子Dを有し、素子Dの幅は、下の式(A)でφ=θとなる幅2aに対して、±25%の範囲にある、超音波探傷装置とする。
2a=4λJ(m)/(πsinφ) (A)
ここで、λは素子Dが送受信する超音波Uの波長であり、φは素子Dの中心音軸からの角度であり、m=(2πa/λ)sinφであり、J(m)はmについての1次の第1種ベッセル関数である。また、検査対象のレールRにおいて、頭部R1の高さをh、頭部R1と底部R3を結ぶ腹部R5の幅を2dとして、θ=arctan(d/h)である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールに対して超音波探傷を行う超音波探傷装置であって、
前記超音探傷装置は、超音波の送受信を行う素子を有し、
前記素子の幅は、下の式(A)でφ=θとなる幅2aに対して、±25%の範囲にある、超音波探傷装置。
2a=4λJ(m)/(πsinφ) (A)
ここで、λは前記素子が送受信する超音波の波長であり、φは前記素子の中心音軸からの角度であり、m=(2πa/λ)sinφであり、J(m)はmについての1次の第1種ベッセル関数である。また、検査対象のレールにおいて、頭部の高さをh、前記頭部と底部を結ぶ腹部の幅を2dとして、θ=arctan(d/h)である。
【請求項2】
前記素子が送受信する超音波の周波数は、0.5MHz以上2MHz以下である、請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記素子の幅は、30mm以上50mm以下である、請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
前記式(A)において、θ=11.3°である、請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項5】
マンガンクロッシングの検査に用いられる、請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
前記超音波探傷装置は、検査対象のレールの長手方向に沿って、前記素子が複数配列されたアレイプローブを備える、請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超音波探傷装置と、
レールとの組よりなり、
前記レールは、頭部の高さがh、前記頭部と底部を結ぶ腹部の幅が2dであり、
それらhおよびdの値を代入した前記式(A)によって定まる幅2aに対して±25%の範囲に、前記超音波探傷装置の前記素子の幅が収まっている、超音波探傷装置とレールの組み合わせ。
【請求項8】
前記レールは、前記頭部の高さhが49mmから51mm、前記腹部の幅2dが18mmから20mmである、請求項7に記載の超音波探傷装置とレールの組み合わせ。
【請求項9】
前記レールは、マンガンクロッシングである、請求項7に記載の超音波探傷装置とレールの組み合わせ。
【請求項10】
頭部の高さがh、前記頭部と底部を結ぶ腹部の幅が2dのレールに対して、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超音波探傷装置を用いて、
前記超音波探傷装置の前記素子を前記レールの前記頭部の上面に配置した状態で、超音波探傷検査を行う、レールの探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷装置、超音波探傷装置とレールの組み合わせ、およびレールの探傷方法に関し、さらに詳しくは、マンガンクロッシングをはじめとするレールに対して、探傷検査を好適に実施することができる超音波探傷装置、およびそのような超音波探傷装置とレールの組み合わせ、またレールの探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道レールをはじめとするレールに対しては、製造後、製品として供される前に、X線検査等の検査を行って、内部に亀裂等の損傷が存在しないことが保証されるが、レールが敷設され、使用される間に、内部に損傷が発生する場合がある。そのような損傷を、進行の浅いうちに発見するために、敷設されたレールに対して設備点検が実施される。レール内部の損傷を発見するための設備点検として、超音波探傷が利用される場合がある。例えば、特許文献1に、周波数が30kHz以上200kHz以下の超音波を用いて、レールの底端部が高さ方向に振動するようなガイド波のモードを発生させて、レール底端部における損傷を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-107165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
普通レール(一方向に線状に延びる一般的なレール)に対して、内部の損傷の有無を調べる場合には、特許文献1に開示されるようなガイド波を用いる方法等、超音波を用いた探傷検査によって、簡便に検査を実施することができる。しかし、異なる複数の方向に延びるクロッシングレールである場合等、レールが分岐や交差等の複雑な平面形状を有する場合には、超音波探傷を適用して、損傷の有無を高精度に検査するのは難しい場合がある。例えば、ガイド波を用いる方法においては、普通レールのように、レールが単純な平面形状を有して延びている場合には、正確な検査を行うことができるが、クロッシングレールの交差部分のように、レールの延びる方向が他の箇所と異なる箇所や、複数のレールが結合(溶接、ボルト締結等)されている箇所が存在すると、その箇所において超音波の反射が起こってしまい、亀裂等の損傷を正確に検知することが難しくなる場合もある。
【0005】
また、マンガンクロッシング(高マンガン鋼よりなるクロッシングレール)をはじめとして、一部のレールにおいては、金属材料の組織が、大きな結晶粒を含むものとなっているが、そのような場合には、粗大な結晶粒による超音波の散乱減衰の影響により、高精度に超音波探傷を行うのが難しい場合がある。低周波数の超音波を用いれば、散乱減衰の影響を低減することができるが、低周波数の超音波は、指向性が悪く、レール内を広がって伝播されやすい。すると、構造中の多様な箇所で超音波が反射されてしまい、レールの形状に起因するノイズが、検出される超音波信号に重畳されることで、亀裂等、金属組織内の損傷に由来する信号を識別するのが難しくなる可能性がある。このため、低周波数の超音波を用いて、マンガンクロッシングに対して高精度に超音波探傷検査を行うことは、従来の方法では難しい。現在、マンガンクロッシングの設備点検を行うためには、敷設されているマンガンクロッシングを一旦取り外し、検査工場等に運搬して、X線検査や、表面に開口している損傷を対象とした浸透探傷試験等による検査を行った後、再度敷設しなすという工程が取られており、極めて多くの労力と時間を要している。なお、普通レールは、炭素鋼製であり、圧延によって製造される。普通レールは、単純形状を有するうえ、結晶粒が細かく超音波探傷を実施しやすい。これに対し、マンガンクロッシングは、高マンガン鋼製であり、鋳造により製造される。マンガンクロッシングは、炭素鋼レールを使った他種のクロッシングレールに比べて、耐衝撃性・耐摩耗性に優れる。しかし、マンガンクロッシングは、複雑形状を有するうえ、鋳造後に圧延や鍛造が行えないことにより、結晶粒が粗大になっており、超音波探傷が困難である。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、レールの形状による影響を低減して、レールに対する探傷検査を高精度に行うことができる超音波探傷装置、およびそのような超音波探傷装置とレールの組み合わせ、またレールの探傷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明にかかる超音波探傷装置、超音波探傷装置とレールの組み合わせ、およびレールの探傷方法は、以下の構成を有する。
[1]本発明にかかる超音波探傷装置は、レールに対して超音波探傷を行う超音波探傷装置であって、前記超音探傷装置は、超音波の送受信を行う素子を有し、前記素子の幅は、下の式(A)でφ=θとなる幅2aに対して、±25%の範囲にある。
2a=4λJ(m)/(πsinφ) (A)
ここで、λは前記素子が送受信する超音波の波長であり、φは前記素子の中心音軸からの角度であり、m=(2πa/λ)sinφであり、J(m)はmについての1次の第1種ベッセル関数である。また、検査対象のレールにおいて、頭部の高さをh、前記頭部と底部を結ぶ腹部の幅を2dとして、θ=arctan(d/h)である。
【0008】
[2]上記[1]の態様において、前記素子が送受信する超音波の周波数は、0.5MHz以上2MHz以下であるとよい。
【0009】
[3]上記[1]または[2]の態様において、前記素子の幅は、30mm以上50mm以下であるとよい。
【0010】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記式(A)において、θ=11.3°であるとよい。
【0011】
[5]上記[1]から[4]のいずれか1つの態様において、前記超音波探傷装置は、マンガンクロッシングの検査に用いられるとよい。
【0012】
[6]上記[1]から[5]のいずれか1つの態様において、前記超音波探傷装置は、検査対象のレールの長手方向に沿って、前記素子が複数配列されたアレイプローブを備えるとよい。
【0013】
[7]本発明にかかる超音波探傷装置とレールの組み合わせは、上記[1]から[6]のいずれか1つの超音波探傷装置と、レールとの組よりなり、前記レールは、頭部の高さがh、前記頭部と底部を結ぶ腹部の幅が2dであり、それらhおよびdの値を代入した前記式(A)によって定まる幅2aに対して±25%の範囲に、前記超音波探傷装置の前記素子の幅が収まっている。
【0014】
[8]上記[7]の態様において、前記レールは、前記頭部の高さhが49mmから51mm、前記腹部の幅2dが18mmから20mmであるとよい。
【0015】
[9]上記[7]または[8]の態様において、前記レールは、マンガンクロッシングであるとよい。
【0016】
[10]本発明にかかるレールの探傷方法は、頭部の高さがh、前記頭部と底部を結ぶ腹部の幅が2dのレールに対して、上記[1]から[6]のいずれか1つの超音波探傷装置を用いて、前記超音波探傷装置の前記素子を前記レールの前記頭部の上面に配置した状態で、超音波探傷検査を行う。
【発明の効果】
【0017】
上記[1]の発明にかかる超音探傷装置においては、超音波を送受信する素子の幅が、超音波の波長λ、およびレールの頭部の高さh、腹部の幅2dとの関係において式(A)によって定まる2aとなっている場合に、素子の幅方向をレールの幅方向に揃えて、レールの頭部の上面に素子を配置して超音波探傷を行うと、超音波の指向性係数の半減角が、レールの頭部と腹部の間の広がり角θ(tanθ=d/h)と等しくなる。そのため、レール中を伝播する超音波が、頭部と腹部の境界の構造による反射を受けにくくなり、素子で検出される超音波信号に、そのような反射の影響によるノイズが生じにくくなる。その結果として、レールの内部に亀裂等の損傷が存在するか否かを、高精度に検査することができる。式(A)に基づいて幅を設定した素子を有する超音波探傷装置を用いて、レールの頭部の上面から下方に向かって超音波を送受信し、検査を行うことで、頭部と腹部の境界の構造をはじめ、レールの高さ方向における形状の影響、およびクロッシングレールのクロッシング部分等、レールの長手方向に沿った形状の影響の両方を小さく抑えて、内部の損傷に対する検査を、精度良く実施することができる。
【0018】
上記[2]の態様においては、素子が送受信する超音波の周波数が、0.5MHz以上2MHz以下の低周波領域にあることで、レールが、粗大結晶粒を有する材料より構成されている場合でも、粗大粒による散乱減衰の影響を低減して、探傷検査を高精度に行うことができる。一般に、低周波数の超音波は、指向性が悪く、伝播中に広がりやすいが、本発明の超音波探傷装置においては、超音波の波長λに応じて、上記式(A)に基づいて素子の幅を定め、超音波の広がりによるノイズの影響を低減できるように設計しているため、低周波数の超音波を用いる場合でも、探傷検査を高精度に実施することができる。
【0019】
上記[3]の態様においては、素子の幅が30mm以上50mm以下となっている。素子の幅2aがその範囲にあれば、0.5MHz以上2MHz以下のような低周波領域で、クロッシングレールをはじめとする鉄道レールに対して検査を行う場合に、式(A)を充足しやすい。そのため、レールの頭部と腹部の境界における超音波の反射に起因するノイズを低減し、レールの探傷を高精度に実施することができる。30mm以上50mm以下との寸法は、一般的な超音波探傷素子の幅と比較して、大きい領域にある。
【0020】
上記[4]の態様においては、θ=11.3°となっている。一般的なクロッシングレールにおいては、頭部の高さhが約50mm、腹部の幅2dが約20mmであり、この場合に、頭部と腹部の間の広がり角θは、arctan(d/h)=arctan(1/5)、つまり11.3°となる。つまりそのようなθについて、φ=θとして式(A)に基づいて、超音波探傷装置を設計すれば、一般的なクロッシングレールに対して、頭部と腹部の境界における超音波の反射の影響を抑えて、高精度に探傷を行うことができる。
【0021】
上記[5]の態様においては、超音波探傷装置が、マンガンクロッシングの検査に用いられる。クロッシングレールは、大きな負荷を印加されるため、高い靭性を有する材料である高マンガン鋼よりなるマンガンクロッシングとして構成されることが多いが、高マンガン鋼よりなるレールにおいては、金属組織内の結晶粒径が大きくなりやすく、粗大粒による超音波の散乱減衰の影響を低減するためには、超音波探傷を低周波領域で行う必要がある。一方で、低周波領域で超音波探傷を行う際には、レールの形状に起因するノイズが生じやすい。しかし、本実施形態にかかる超音波探傷装置においては、式(A)の条件を満たすことにより、レールの頭部の上面から探傷検査を行った際に、粗大粒による散乱減衰の影響と、形状に起因するノイズの影響をともに低減して、高マンガン鋼よりなるレールに対しても、高い精度で探傷検査を行うことができる。
【0022】
上記[6]の態様においては、超音波探傷装置が、検査対象のレールの長手方向に沿って、素子が複数配列されたアレイプローブを備えている。これにより、レールの長手方向に沿った超音波断層像を簡便に取得することができる。
【0023】
上記[7]の発明にかかる超音波探傷装置とレールの組み合わせは、上記[1]から[6]のいずれか1つの超音波探傷装置と、レールとの組よりなっている。そして、そのレールの頭部の高さhおよび腹部の幅が2dの値を、式(A)に代入して得られる幅2aに対して±25%の範囲に、超音波探傷装置の素子の幅が収まっている。式(A)を満たすことで、素子の幅方向をレールの幅方向に揃えて、レールの頭部の上面に素子を配置して超音波探傷を行った際に、超音波の指向性係数の半減角が、レールの頭部と腹部の間の広がり角θ(=arctan(d/h))と等しくなる。そのため、頭部と腹部の境界の構造をはじめ、レールの高さ方向における形状の影響と、レールの長手方向に沿った形状の影響の両方を小さく抑えて、レールの探傷を高精度に実行することができる。
【0024】
上記[8]の態様においては、レールの頭部の高さhが49mmから51mm、腹部の幅2dが18mmから20mmとなっている。これは、一般的なクロッシングレールに採用される寸法であり、それらhおよびdの値を用いた式(A)に基づいて、超音波探傷装置の素子の幅を設定することで、クロッシングレールに対する探傷検査を、高精度に実施することができる。
【0025】
上記[9]の態様においては、レールが、マンガンクロッシングとなっている。そのようなレールを、上記超音波探傷装置と組み合わせ、低周波数領域で探傷を行うことで、高マンガン鋼の粗大粒による散乱減衰の影響と、クロッシングレールの形状に起因するノイズの影響の両方を抑えて、高精度に、探傷検査を実施することができる。
【0026】
上記[10]の発明にかかるレールの探傷方法においては、頭部の高さがh、腹部の幅が2dのレールに対して、上記[1]から[6]のいずれか1つの超音波探傷装置を用いて、超音波探傷装置の素子をレールの頭部の上面に配置した状態で、超音波探傷検査を行う。超音波探傷装置の素子の幅が、レールの寸法h,d、および超音波の波長λとの関係で式(A)を満たす幅2aから、±25%の範囲に設定されていることで、探傷検査を行った際に、レールの頭部と腹部の境界の構造による超音波の反射の影響を小さく抑えて、高精度に探傷を実施することができる。また、レールの頭部の上面に素子を配置し、下方に向けて探傷を行うことで、得られる超音波信号に、レールの長手方向に沿った構造による影響も生じにくい。レールの長手方向に沿って、超音波探傷装置を移動させながら探傷検査を行えば、敷設された状態のレールに対する設備点検として、探傷検査を簡便に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】超音波探傷装置の素子とレールの関係を示す概略断面図である。
図2】素子の幅を異ならせた場合について、超音波の指向性係数の角度依存性を示す図である。
図3】(a)~(d)は、人工的に形成した欠陥に対する探傷試験を想定したシミュレーションの結果を示している。(a),(b)はそれぞれ、素子幅が40mmの場合について、欠陥がある場合、および欠陥がない場合に検出される超音波のシミュレーション波形を示している。(c)は、素子幅が10mmの場合について、欠陥がない場合のシミュレーション波形を示している。(d)は、素子幅とシミュレーション波形におけるS/N比の関係を示している。(e)は、素子幅が40mmの場合について、実際に探傷試験を行って得られた断層像(Bスコープ)である。横方向がレールの長手方向に対応している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態にかかる超音波探傷装置、超音波探傷装置とレールの組み合わせ、およびレールの探傷方法について説明する。本発明の実施形態にかかる超音波探傷装置は、レールの超音波探傷検査に好適に用いることができる装置である。本発明の実施形態にかかる超音波探傷装置とレールの組み合わせは、その超音波探傷装置と検査対象のレールとの組よりなる。本発明の実施形態にかかる超音波探傷方法は、その超音波探傷装置を用いてレールの超音波探傷検査を行うものである。
【0029】
[超音波探傷装置およびレール、超音波探傷方法の概略]
図1に、超音波探傷装置の素子DおよびレールRの概略を、レールRの長手方向に垂直に切断した断面図にて示す。
【0030】
本実施形態にかかる超音波探傷装置は、超音波の送受信を行う素子Dを有している。ここで、素子Dの幅、つまり素子Dが超音波Uを送受信する領域の幅を、2aとする。また、素子Dより送受信される超音波Uの波長をλとする。超音波探傷装置においては、素子Dが1つのみ設けられてもよいが、素子Dを複数配列されたアレイプローブを備えていることが好ましい。この場合には、幅2aの素子Dが、幅方向と直交する長手方向に沿って、複数、等間隔に配置される。
【0031】
検査対象となるレールRは、用途を特に限定されるものではないが、主に鉄道レールである場合を想定する。レールRは、頭部R1と、底部R3を有し、さらに頭部R1と底部R3を結ぶ、断面柱状の腹部R5を有している。腹部R5は、頭部R1および底部R3よりも幅が狭くなっている。
【0032】
レールRにおいて、頭部R1の高さ、つまり頭部R1の上面R2から、頭部R1と腹部R5の境界までの間の、高さ方向に沿った距離をhとする。頭部R1と腹部R5の境界部分には、腹部R5側に向かって幅が狭くなる傾斜部R6,R6を有するが、その傾斜部R6,R6が形成された箇所まで含めた寸法として、高さhが規定される。さらに、腹部R5の幅を2dとする。また、頭部R1の上面R2の幅方向中央に相当する中心点を基準とし、その中心点を通る垂直方向の軸である中心軸Aに対して、腹部R5の上端における幅方向端部を通る直線がなす角度を、頭部R1と腹部R5の間の広がり角θとする。図1には、鉄道線路の分岐器として用いられるクロッシングレールについて、各部の寸法の例を、合わせて示している(単位:mm)。なお、JIS規格において、高さhは49mmであり、幅2dは、50kgNレールと称されるレールの場合に18mm、60kgレールと称されるレールの場合に19.2mmである。国際規格のUIC60レールの場合は、頭部R1の高さhが51mmであり、図1に示した頭部R1の幅が74.3mmである点で、JIS規格のものとは異なる。頭部R1の高さhについて49mmから51mmの範囲、腹部R5の幅2dについて18mmから20mmの範囲に、多くのクロッシングレールが収まり、以降では、代表値として、図1中に示したとおり、高さhを50mm、腹部R5の幅を20mmとした場合について、説明を行う。
【0033】
レールRの探傷検査を行う際に、超音波探傷装置の素子Dを、レールRの頭部R1の上面R2に配置する。この際、素子Dの幅方向をレールRの幅方向に揃え、さらに素子Dの中心音軸を、レールRの中心軸Aに揃える。超音波探傷装置がアレイプローブを備える場合には、複数の素子Dの配列方向を、レールRの長手方向(図示した面に垂直な方向)に揃える。
【0034】
このようにレールRの上面R2に素子Dを配置した状態で、素子Dから、高さ方向下方に向かって、つまりレールRの頭部R1から底部R3に向かう方向に、超音波Uを発信する。超音波Uは、レールRの金属組織の中を進み、底部R3の底面R4にて反射されて、素子Dの位置へと戻り、素子Dに受信される。この際、超音波Uが通過する経路に、亀裂等の損傷が存在していれば、その損傷によって超音波Uの少なくとも一部が反射され、底面R4にて反射される成分よりも早い時間に、素子Dによって検出されることになる。このような損傷に起因する信号が出現するか否かにより、レールRに損傷が存在するか否かを検査することができる。さらに、損傷が存在する場合に、損傷に由来する信号が検出されるまでの時間の長さにより、その損傷が存在する深さを特定することもできる。レールRにおいては、最も幅の狭い領域である腹部R5に、負荷が集中して損傷が生じやすい。
【0035】
超音波探傷装置がアレイプローブを備える場合には、レールRの長手方向に沿って、ある程度の範囲にわたって、検査信号を同時に得ることができ、二次元的な超音波断層像が簡便に得られる。焦点の深さを制御することもできる。また、レールRに沿って超音波探傷装置を移動させながら探傷検査を行えば、1つながりのレールR全体、あるはさらに多数のレールが連続して敷設された広い領域にわたって、探傷検査を実施することができる。超音波探傷装置には、レールRに沿った移動を補助するために、レールRに接触して回転するローラ等の補助部材を適宜設けてもよい。
【0036】
[素子の幅とレール寸法との関係]
本実施形態においては、超音波探傷装置の素子Dの幅2aが、レールRの頭部R1の高さhおよび腹部R5の幅2dとの関係によって定められ、それによって、頭部R1と腹部R5の間の境界部による超音波Uの反射の影響が低減される。
【0037】
素子Dから出射される超音波Uにおいて、指向性係数(正規化音圧)Dcは、下の式(1)によって表される。
Dc=2J(m)/m (1)
ここで、各符号は以下を意味する。
(m):mについての1次の第1種ベッセル関数。
m=k・a・sinφ=(2πa/λ)sinφ (kは超音波の波数、λは波長)
φ:中心音軸(中心軸A)からの角度
【0038】
式(1)を用いて、素子Dの幅2aを異ならせながら、中心音軸からの角度φと指向性係数Dcの関係を計算により見積もったグラフを、図2に示す。波長λとしては、高マンガン鋼中での周波数0.5MHの超音波の波長を採用している。ここでは、(a)~(e)で、素子幅を、10mmから50mmまで、10mmずつ増大させている。いずれの素子幅においても、中心音軸からの角度φが大きくなるほど、指向性係数が小さくなっているが、素子幅が小さいほど、角度φの増大に対する指向性係数の減衰の程度が小さくなっている。つまり、素子幅が小さいほど、超音波Uが素子Dから広角に広がる。一方で、素子幅が大きくなると、角度φに対して指向性係数が急峻に低減しており、超音波Uの広がりが小さく抑えられる。
【0039】
図1のように、レールRの中心軸A上に素子Dを配置して、素子Dから超音波Uを出射する場合に、超音波Uが広角に広がるとすれば、広がって進んだ超音波Uが、レールRの頭部R1と腹部R5の間の傾斜部R6,R6に当たって、反射されてしまう。この傾斜部R6,R6で反射される成分は、腹部R5には進入することができないため、腹部R5の探傷に利用できず、探傷のために素子Dで検出される超音波信号に対して、ノイズとなってしまう(妨害エコー)。超音波探傷の精度を高めるためには、このような妨害エコーを十分に低減することが好ましい。例えば、頭部R1から腹部R5に進入せずに境界部で反射されてしまう超音波成分について、指向性係数を1/2以下に抑えることができれば、それらの成分によるノイズを効果的に低減することができる。
【0040】
図1に示した配置において、レールRの頭部R1と腹部R5の間の広がり角θよりも小さい角度で、素子Dから伝播した超音波Uは、腹部R5に進入することができる。一方、広がり角θ以上に広がって伝播した超音波Uは、頭部R1と腹部R5の境界の傾斜部R6,R6で反射されてしまう。そこで、超音波Uの伝播における中心音軸からの角度φがθに一致する場合に、指向性係数が1/2となるようにすれば、頭部R1から腹部R5に進入せずに境界部で反射されてしまう超音波成分、つまりφがθ以上に広がる超音波成分について、指向性係数を1/2以下に抑えることができる。換言すると、指向性係数Dcの半減角が、レールRの広がり角θに一致するようにすればよい。
【0041】
上記式(1)で、Dc=1/2とすると、下の式(2)のようになる。
2J(m)/(2πa/λ)sinφ=1/2 (2)
式(2)を整理すると、下の式(A)が得られる。
2a=4λJ(m)/πsinφ (A)
【0042】
つまり、φ=θとして、式(A)を満たすように、素子Dの幅2aを設定すれば、超音波の半減角をθに一致させることができる。つまり、頭部R1と腹部R5の境界部で反射される超音波成分について、指向性係数を1/2以下に抑えて、それらの超音波成分によるノイズの影響を低減した状態で、探傷を行うことができる。ここで、広がり角θは、θ=arctan(d/h)として計算される。
【0043】
さらに、素子Dの幅について、φ=θとして式(A)をちょうど満たす2aの値に対して、ある程度の余裕や誤差を許容しても、頭部R1と腹部R5の境界部による反射に起因する妨害エコーを、十分に小さく抑えることができる。具体的には、φ=θとして式(A)を満たす幅2aに対して、±25%の範囲に収まるように、実際の素子Dの幅を設定すればよい。その範囲を超えて素子Dの幅を小さくしすぎると、素子Dから出射される超音波Uが広角に広がりすぎ、その広がった超音波Uが頭部R1と腹部R5の境界の傾斜部R6,R6で反射されて、ノイズの原因となる。一方、上記範囲を超えて素子Dの幅を大きくしすぎた場合には、広がらずに直進して傾斜部R6,R6に反射される成分の寄与が大きくなり、やはりノイズの原因となる。より好ましくは、素子Dの幅を、φ=θとして式(A)を満たす2aの値に対して、±15%の範囲、さらには±10%の範囲としておくとよい。
【0044】
ここで、図1に示したとおり、h=50mm、2d=20mmとした場合に、広がり角θは、θ=arctan(1/5)=11.3°となる。図2の例で採用した、高マンガン鋼中で周波数0.5MHzとした場合について、このθの値を用いて、φ=θとして式(A)を満たす幅2aを求めると、2a=41.5mmとなる。実際に、図2を見ると、素子幅40mmの場合に、φ=11.3°の位置において、0.5に近い指向性係数が得られている。±25%の余裕と上面R2の幅を考慮して、素子Dの幅2aを、31mm以上、50mm以下とすればよいことになる。
【0045】
以上のように、本実施形態にかかる超音波探傷装置においては、式(A)に基づいて、素子Dの幅を定めることで、レールRの頭部R1と腹部R5の境界部の構造による妨害エコーを低減し、超音波探傷において、高い精度を得ることができる。また、レールRの長手方向の各位置において、素子DをレールRの頭部R1の上面R2に配置し、下方に向かって超音波Uの送受信を行うことから、クロッシングレールのクロッシング部分のように、複雑な構造がレールRの長手方向に形成されていても、ガイド波を用いる場合とは異なり、探傷検査において、それらの構造の影響は、大きくは現れない。このように、本実施形態にかかる超音波探傷装置を用いた探傷検査においては、レールRの高さ方向と長手方向の両方向について、レールRの形状に起因する影響を低減して、高精度に探傷検査を行うことができる。また、レールRの上方に超音波探傷装置を配置するだけで、探傷検査を実施することができるので、敷設した状態のレールRに対しても、簡便に、探傷検査による設備点検を実施することができる。例えば、検査用車両に超音波探傷装置を搭載し、走行しながら超音波探傷を行う形態が考えられる。
【0046】
超音波探傷に用いる超音波Uの周波数は、特に限定されるものではないが、0.5MHz以上2MHz以下の範囲に設定することが好ましい。この範囲は、金属の超音波探傷に一般的に用いられる周波数よりは、低周波の領域に属する。検査対象の金属組織が、粗大粒より構成されていると、超音波の散乱減衰により、信号強度が弱くなり、相対的にノイズの影響が大きくなるが、低周波数の超音波を用いれば、粗大粒による散乱減衰を低減し、探傷検査の精度を高めることができる。一方で、低周波数の超音波は、指向性が悪く、広がって伝播しやすいが、式(A)に基づいて、周波数(波長)に応じて素子Dの幅を定めておくことで、低周波数の超音波Uであっても、伝播時の広がりによるノイズの発生を十分に抑制することができる。つまり、粗大粒に起因するノイズと、レールRの形状に起因するノイズの両方を抑制して、高精度に超音波探傷を行うことができる。
【0047】
超音波探傷装置の素子Dの幅2aの具体的な大きさは、φ=θとして式(A)を満たす幅に対して±25%の範囲にあれば、特に限定されるものではない。しかし、一般的な鉄道レールの寸法を考慮すると、その条件を満たす素子Dの幅は、おおむね30mm以上50mm以下程度の範囲となる。上記で、図1に示した寸法をもとに見積もった素子Dの幅も、31mm以上50mm以下であり、その範囲とほぼ一致している。30mm以上50mm以下の範囲の素子幅は、一般的な超音波探傷用の素子の幅としては、比較的大きなものである。
【0048】
検査対象とするレールRの種類は特に限定されるものではないが、クロッシングレールを好適な対象とすることができる。クロッシングレールは、普通レールと比べて、大きな負荷が印加されるため、探傷検査による損傷の早期発見が重要となるうえ、複雑な平面形状を有しており、形状に起因するノイズを低減して、高精度に探傷検査を行うことが重要となるからである。クロッシングレールの形状や特性は、JIS E 1303:2001およびJIS E 1306:2010に詳しく規定されており、前述のとおり、図1に示した寸法は、典型的なクロッシングレールの寸法の範囲にある。多くの場合、クロッシングレールは、マンガンクロッシングとして構成されている。鋳造によって製造されたマンガンクロッシングにおいては、粗大な結晶粒が形成されやすい。上記のように、粗大粒による超音波の散乱減衰を低減するためには、低周波数の超音波を探傷に用いることが好適であり、本実施形態にかかる超音波探傷装置を用いることで、低周波数領域であっても、レールRの形状に起因するノイズを低減することができる。つまり、本実施形態にかかる超音波探傷装置は、粗大粒を有し、かつ複雑な平面形状を有するマンガンクロッシングの探傷検査に、特に好適に用いることができる。なお、マンガンクロッシングを構成する高マンガン鋼は、詳細には、JIS G 5131:2008に組成を規定されるSCMnH3鋼である。
【実施例0049】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。ここでは、人工的な欠陥を設けたレールに対する探傷検査を模したシミュレーションを、超音波探傷装置における素子の幅を変化させながら行い、得られる結果を比較した。また、シミュレーションから導かれた最適な素子サイズを適用して、実測による探傷検査を行った。
【0050】
[試験方法]
シミュレーション、実測とも、試料として、図1に示したとおりの寸法を有するマンガンクロッシングを用いた。実測用にこの試料を製造するに際し、実物のマンガンクロッシングと同じ形状の木型を転写した砂型に、アーク炉で溶解した高マンガン鋼を流し込み、凝固後に解体して、水靭熱処理した。そして、矯正および機械加工を施して得られたマンガンクロッシングに対し、端部の一部を切り出して、試料とした。高マンガン鋼の成分組成は、質量%で、C:1.11%、Si:0.56%、Mn:12.32%、P:0.026%、S:0.001%、Fe:残部であった。得られた試料のレールには、頭部の上面から深さ50mmの位置に、亀裂を模した欠陥を人工的に設けておいた。欠陥としては、レールの長手方向の1か所に、φ3mmの円柱状の穴を、レールの幅方向に貫通させて設けた。
【0051】
シミュレーションには、超音波解析ソフトウェア「ComWAVE」を用い、上記の試料に対して、超音波探傷素子を用いて超音波を送受信する過程を模擬し、得られる受信波形に対する解析を行った。シミュレーションモデルとして、レールの頭部の上面に、超音波探傷素子を配置した。この際、素子の幅方向をレールの幅方向に揃え、素子の中心音軸をレールの中心軸Aに合わせた。そして、人工的に形成した欠陥が存在する場所、および欠陥が存在しない場所のそれぞれにおいて、下方に向かって超音波を送受信することで、探傷試験を模したシミュレーションを行った。超音波の周波数は、0.5MHzとした。これは、図2の計算で採用したのと同じ周波数である。素子の幅としては、10mmから50mmまでのものを、10mm刻みで準備し、それぞれについて同様のシミュレーションを行った。
【0052】
一方、実測においては、超音波探傷装置を用いて超音波の送受信を行い、検査結果として断層像を得た。超音波探傷装置としては、所定の幅の超音波探傷素子を、複数配列したアレイプローブを備えるものを用いた。アレイプローブにおいては、配列方向に沿って、各素子の寸法を2.4mm、素子間の間隔を0.1mmとし、32チャンネルの素子が配列されたものを用いた。各素子の幅としては、後に説明するシミュレーションの結果より得られた最適な素子幅である40mmを採用した。実測においては、レールの頭部の上面に、上記超音波探傷装置を配置した。この際、超音波探傷装置の素子の幅方向をレールの幅方向に揃え、素子の配列方向をレールの長手方向に揃え、さらに素子の中心音軸をレールの中心軸Aに合わせた。そして、人工的に形成した欠陥が存在する場所、および欠陥が存在しない場所のそれぞれにおいて、下方に向かって超音波を送受信して探傷試験を行い、断層像を得た。超音波の周波数は、シミュレーションと同じ0.5MHzとした。
【0053】
[試験結果]
図3(a),(b)に、幅40mmの素子を用いた場合について、それぞれ、欠陥が存在する場所、および存在しない場所で取得される受信波のシミュレーション波形を示す。横軸が、超音波が検出されるまでの時間に基づいて得られる深さ位置を示し、縦軸が、反射信号の振動変位振幅を示している。(a),(b)いずれにおいても、シミュレーション波形は、深さ0~15mm程度の位置に、レール上面での反射に対応するピークを有し、深さ70~85mm程度の位置に、レール底面での反射に対応するピークを有しているが、それらに加えて、(a)の欠陥が存在する場合にのみ、深さ55~70mm程度の位置に、明らかなピークが見られている(楕円で囲んで表示)。このピークは、欠陥による超音波の反射によるものと帰属できる。つまり、幅40mmの素子を用いた場合には、欠陥が存在する場合にのみ、欠陥に由来する超音波信号が検出され、正確に探傷を行えることが、示される。
【0054】
一方、図3(c)に、幅10mmの素子を用いた場合について、欠陥が存在しない場所で取得される受信波のシミュレーション波形を示している。この場合には、深さ45~60mmの近傍に、明らかなピーク構造が出現している(長方形にて表示)。しかし、この波形は、欠陥の存在しない位置において取得しており、このピークは欠陥に由来するものではない。深さ位置を考慮すると、このピークは、レールの頭部と腹部の間の傾斜部による超音波の反射に起因した妨害エコーであると帰属される。図3(b)の幅40mmの素子を用いた場合には、長方形で囲んで示す同様の領域に、明らかな妨害エコーは存在していないのと、対照的になっている。図3(c)の妨害エコーが出現している状態で、欠陥に由来する信号が現れたとしても、妨害エコーとの区別が明確につかず、欠陥の有無や深さ位置を正確に判定することができない。
【0055】
このように、妨害エコーによるノイズの程度は、超音波探傷素子の幅に依存する。それらの関係をさらに明らかにするために、図3(d)に、それぞれの幅を有する素子を用いた場合について、シミュレーション結果において得られたS/N比(信号-ノイズ比)をプロットして示している。ここで、信号強度としては、欠陥に対応する信号のピークトップの強度を採用し、ノイズ強度としては、上記妨害エコーを含めたノイズの強度の最大値を採用している。
【0056】
図3(d)によると、素子幅が40mmの点で、S/N比が顕著に高くなって極大値をとっている。そのS/N比の値は、他の素子幅をとる場合の2倍以上となっている。ここで、上に説明したとおり、レールの頭部の高さhが50mm、腹部の幅2dが20mmである場合、つまりθ=11.3°である場合に、φ=θとして式(A)を満たす幅2aは、41.5mmであり、この値は、図3(d)でS/N比の極大値を与える40mmとの素子幅に非常に近いものである。図2(d)の指向性係数の計算結果を見ても、φ=11.3°の位置で、指向性係数が0.5に近い値をとっている。これらのことから、φ=θとして式(A)を満たすように、素子の幅2aを定めることによって、レールの頭部と腹部の間の構造による妨害エコーを低減して、超音波探傷を高精度に行えることが、実証される。
【0057】
さらに、図3(d)によると、素子幅が30mmから50mmの領域で、5以上のS/N比が得られている。概ね、S/N比が5以上であれば、超音波探傷において十分に実用的な検出精度が得られる。このことから、実際の素子の幅を、φ=θとして式(A)を満たす2aの値に対して、±25%の範囲に定めることで、十分に高い探傷精度が得られると言える。
【0058】
最後に、上記シミュレーション結果から最も高いS/N比を与えることが明らかになった幅40mmの素子を用いた場合について、実際に探傷検査を行って得られた断層像(Bスコープ)を図3(e)に示す。ここでは、画像の横方向が、レールの長手方向に対応し、画像の上下方向がレールの高さ方向に対応する。断層像においては、楕円で囲んで示すように、スポット状に信号強度が大きくなった領域が存在している。この領域が、欠陥の存在する領域に対応する。欠陥は、レールの幅方向に沿った円柱状の貫通孔として設けられており、レールの長手方向に沿った断層像において、スポット状に検出されているのと、整合している。断層像中の欠陥の深さ位置も、実際に欠陥を形成した位置と合致している。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明は、これらの実施形態に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0060】
D 素子
R レール
R1 頭部
R2 上面
R3 底部
R4 底面
R5 腹部
R6 傾斜部
U 超音波
2a 素子の幅
2d 腹部の幅
h 頭部の高さ
θ 頭部と腹部の間の広がり角
図1
図2
図3