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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000104
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20231225BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20231225BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20231225BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20231225BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20231225BHJP
   F16D 125/40 20120101ALN20231225BHJP
【FI】
F16H25/24 G
F16H25/22 Z
B60T13/74 G
F16D65/18
F16D121:24
F16D125:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098665
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 諒
【テーマコード(参考)】
3D048
3J058
3J062
【Fターム(参考)】
3D048BB33
3D048CC49
3D048HH18
3D048HH58
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA63
3J058AA69
3J058AA78
3J058AA87
3J058BA55
3J058CC63
3J058FA06
3J058FA07
3J062AA01
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA32
3J062CD07
3J062CD08
3J062CD22
3J062CD57
(57)【要約】
【課題】ピストンの円滑な摺動が保持される電動アクチュエータを提供する。
【解決手段】本開示の電動アクチュエータは、モータ、ボールねじ装置、ピストンと、ハウジングと、を備えている。壁面は、ピストンの外周面を摺動自在に支持する摺動面を有している。ねじ軸は、ねじ軸本体と動力伝達部を有している。ナットは、ナット本体と嵌合部を有している。ナット本体は、第2方向を向く端面であり、ピストンを第2方向に押圧する押圧面を有している。ピストンは、ナット本体に対し第2方向に配置され、外周面が摺動面に支持されたピストン本体と、ピストン本体の第1方向の端部のうち外周側の部分から第1方向に延び、内周側にナット本体が配置される筒状の拡張部と、ピストン本体の第1方向の端面であり、押圧面と当接する端面と、拡張部から第1方向に延び、内周側に嵌合部が嵌合する筒状の被嵌合部と、を有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転運動を生成するモータと、
ねじ軸、ナット、及びボールを有し、前記回転運動を直線運動に変換するボールねじ装置と、
前記ナットに嵌合し、前記ねじ軸と平行な軸方向に移動するピストンと、
前記軸方向に延在する収容空間と前記収容空間を囲む筒状の壁面を有し、前記収容空間に前記ボールねじ装置と前記ピストンが配置されるハウジングと、
を備え、
前記壁面は、前記ピストンの外周面を摺動自在に支持する筒状の摺動面を有し、
前記ねじ軸は、
外周面に外周軌道面が設けられたねじ軸本体と、
前記ねじ軸本体に対し前記軸方向の一方である第1方向に配置され、前記ハウジングに回転自在に支持される動力伝達部と、
を有し、
前記ナットは、
内周面に内周軌道面が設けられたナット本体と、
前記ナット本体に対し前記第1方向に配置され、外径が前記ナット本体の外径よりも大きい嵌合部と、
を有し、
前記ナット本体は、前記第1方向と反対方向の第2方向を向く端面であり、前記ピストンを前記第2方向に押圧する押圧面を有し、
前記ピストンは、
前記ナット本体に対し前記第2方向に配置され、外径が前記ナット本体の外径よりも大きく、かつ外周面が前記摺動面に支持されたピストン本体と、
前記ピストン本体の前記第1方向の端部のうち外周側の部分から前記第1方向に延び、内周側に前記ナット本体が配置される筒状の拡張部と、
前記ピストン本体の前記第1方向の端面であり、かつ前記拡張部の内周側に配置され、前記押圧面と当接する端面と、
前記拡張部から前記第1方向に延び、内周側に前記嵌合部が嵌合する筒状の被嵌合部と、
を有している電動アクチュエータ。
【請求項2】
前記ナット本体の前記内周軌道面と前記外周軌道面との間には、螺旋状の軌道が設けられ、
前記ボールは、前記軌道を転動している
請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項3】
前記拡張部の内径は、前記ナット本体の外径よりも大きく、
前記拡張部の内周面と前記ナット本体の外周面との間には、筒状の隙間が設けられている
請求項1に記載の電動アクチュエータ。
【請求項4】
前記拡張部の内周面のうち前記第2方向の端部は、前記ナット本体の外周面と当接している請求項3に記載の電動アクチュエータ。
【請求項5】
前記拡張部の内周面のうち前記第2方向の端部は、前記ナット本体の外周面と嵌合している請求項3に記載の電動アクチュエータ。
【請求項6】
前記拡張部の内径は、前記ナット本体の外径よりも大きく、
前記拡張部の内周面と前記ナット本体の外周面との間には、筒状の隙間が設けられている
請求項2に記載の電動アクチュエータ。
【請求項7】
前記拡張部の内周面のうち前記第2方向の端部は、前記ナット本体の外周面と当接している請求項6に記載の電動アクチュエータ。
【請求項8】
前記拡張部の内周面のうち前記第2方向の端部は、前記ナット本体の外周面と嵌合している請求項6に記載の電動アクチュエータ。
【請求項9】
前記ハウジングの前記壁面は、前記摺動面に対し前記第1方向に配置され、前記摺動面よりも大径となっている筒状の大径面を有し、
前記被嵌合部における前記軸方向の移動範囲は、前記収容空間のうち前記大径面の内周側に限定されている
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の電動アクチュエータ。
【請求項10】
前記被嵌合部の外径は、前記摺動面の径よりも大きく、
前記被嵌合部の外周面には、内周側に窪む第1凹面が設けられ、
前記大径面には、前記第1凹面と対向し、かつ前記軸方向に延びる第2凹面が設けられ、
前記第2凹面には、前記軸方向に延びるピンが収容され、
前記ピンの少なくとも一部は、前記大径面よりも内周側に突出し、前記第1凹面の内部を前記軸方向に貫通している
請求項9に記載の電動アクチュエータ。
【請求項11】
前記ナットは、前記嵌合部に対し前記第1方向に配置され、前記被嵌合部よりも径方向外側に突出する突出部を有し、
前記突出部の外周面には、内周側に窪む第3凹面が設けられ、
前記大径面には、前記第3凹面と対向し、かつ前記軸方向に延びる第2凹面が設けられ、
前記第2凹面には、前記軸方向に延びるピンが収容され、
前記ピンの少なくとも一部は、前記大径面よりも内周側に突出し、前記第3凹面の内部を前記軸方向に貫通している
請求項9に記載の電動アクチュエータ。
【請求項12】
前記ナットは、前記嵌合部に対し前記第1方向に配置され、前記被嵌合部の外径と同じ外径の突出部を有し、
前記突出部の外周面には、内周側に窪む第3凹面が設けられ、
前記ピンは、前記第1凹面の内部と前記第3凹面の内部を前記軸方向に貫通している
請求項10に記載の電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
電動アクチュエータは、回転運動を生成するモータと、回転運動を直線運動に変換するボールねじ装置と、押圧力を発揮するピストンと、ハウジングと、を備えている。このような電動アクチュエータは、例えばブレーキ装置に利用されている。下記特許文献のブレーキ装置では、ピストンがナットに嵌合されている。ピストンの外周面は、ハウジングの摺動面に摺動自在に支持されている。ボールねじ装置が作動すると、ピストンがブレーキパッドを押圧し、ブレーキディスクにブレーキパッドが押し付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-65923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献によれば、ナットの先端にのみピストンが嵌合している。よって、ピストンの移動量(突出量)が大きい場合、摺動面の内周側に、ピストンとナットが配置される。つまり、摺動面の一部に対しナットが対向し、ピストンと摺動面の係り代(対向している軸方向の範囲)が短い。この結果、ピストンが傾き易く、ピストンの円滑な摺動が阻害される可能性がある。以上から、ピストンの移動量が大きい場合であってもピストンの円滑な摺動が保持されるボールねじ装置の開発が望まれている。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、ピストンの円滑な摺動が保持される電動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係る電動アクチュエータは、回転運動を生成するモータと、ねじ軸、ナット、及びボールを有し、前記回転運動を直線運動に変換するボールねじ装置と、前記ナットに嵌合し、前記ねじ軸と平行な軸方向に移動するピストンと、前記軸方向に延在する収容空間と前記収容空間を囲む筒状の壁面を有し、前記収容空間に前記ボールねじ装置と前記ピストンが配置されるハウジングと、を備えている。前記壁面は、前記ピストンの外周面を摺動自在に支持する筒状の摺動面を有している。前記ねじ軸は、外周面に外周軌道面が設けられたねじ軸本体と、前記ねじ軸本体に対し前記軸方向の一方である第1方向に配置され、前記ハウジングに回転自在に支持される動力伝達部と、を有している。前記ナットは、内周面に内周軌道面が設けられたナット本体と、前記ナット本体に対し前記第1方向に配置され、外径が前記ナット本体の外径よりも大きい嵌合部と、を有している。前記ナット本体は、前記第1方向と反対方向の第2方向を向く端面であり、前記ピストンを前記第2方向に押圧する押圧面を有している。前記ピストンは、前記ナット本体に対し前記第2方向に配置され、外径が前記ナット本体の外径よりも大きく、かつ外周面が前記摺動面に支持されたピストン本体と、前記ピストン本体の前記第1方向の端部のうち外周側の部分から前記第1方向に延び、内周側に前記ナット本体が配置される筒状の拡張部と、前記ピストン本体の前記第1方向の端面であり、かつ前記拡張部の内周側に配置され、前記押圧面と当接する端面と、前記拡張部から前記第1方向に延び、内周側に前記嵌合部が嵌合する筒状の被嵌合部と、を有している。
【0007】
前記発明によれば、ナット本体の外周面は、ピストンの拡張部に覆われている。このため、ピストンの第2方向への移動量が大きくても、ピストン本体の外周面と拡張部の外周面が摺動面に支持される。つまり、本開示によれば、摺動面とナット本体が対向しないため、ピストンが傾き難く、ピストンの作動性に優れる。また、ピストンが第2方向に移動した場合、ピストンは押圧対象から反力を受ける。これにより、ボールねじ装置に圧縮荷重が作用し、ねじ軸本体とナット本体が弾性変形する。つまり、内周軌道面と外周軌道面は軸方向に変位し、ボールの負荷が大きくなる。本開示では、ピストンからナットに作用する第1方向への荷重は、ナットの押圧面に作用する。よって、内周軌道面の各条における変位量は、第2方向の端部(押圧面)に近いほど大きい。一方、ねじ軸は、動力伝達部がハウジングに支持されている。よって、外周軌道面の各条における変位量は、第1方向の端部(動力伝達部)に近いほど大きい。以上から、複数のボールのうち負荷が増加する部分は、軌道のうち第1方向寄りを転動するボールと、第2方向寄りを転動するボールとなる。つまり、負荷が増加する部分が軸方向の両側に分散される。このため、ボールの負荷分布の均一化を図れる。
【0008】
前記する電動アクチュエータの好ましい態様として、前記ナット本体の前記内周軌道面と前記外周軌道面との間には、螺旋状の軌道が設けられている。前記ボールは、前記軌道を転動している。
【0009】
本開示では、嵌合部は、被嵌合部に嵌合するため、変形してしまう。よって、嵌合部に内周軌道面や循環部(例えばS溝など)が設けると、内周軌道面や循環部が変形し、ボールは円滑に転動できない。一方で、前記構成によれば、嵌合部の内周側をボールが転動しない。よって、ボールの円滑な転動が確保され、ボールねじ装置の作動性が優れる。
【0010】
前記する電動アクチュエータの好ましい態様として、前記拡張部の内径は、前記ナット本体の外径よりも大きい。前記拡張部の内周面と前記ナット本体の外周面との間には、筒状の隙間が設けられている。
【0011】
仮にナット本体が拡張部に嵌合すると、ナット本体の内周軌道面が変形し、ボールの円滑な転動を確保できなくなる。また、嵌合によって拡張部が拡径し、ピストンの円滑な摺動が損なわれる可能性がある。一方で、前記構成によれば、内周軌道面の変形が回避され、ボールが円滑に転動する。また、拡張部の拡径が回避され、ピストンは円滑に摺動する。
【0012】
前記する電動アクチュエータの好ましい態様として、前記拡張部の内周面のうち前記第2方向の端部は、前記ナット本体の外周面と当接している。
【0013】
前記構成によれば、ナットの第2方向の端部が拡張部の内周面に支持される。よって、ナットが傾き難く、ナットが軸方向に円滑に移動する。
【0014】
前記する電動アクチュエータの好ましい態様として、前記拡張部の内周面のうち前記第2方向の端部は、前記ナット本体の外周面と嵌合している。
【0015】
前記構成によれば、ナットの第2方向の端部が拡張部の内周面に支持されている。よって、ナットが傾き難くなり、ナットが軸方向に円滑に移動する。また、嵌合個所が増えるため、ナットとピストンの固定が強固となる。よって、ナットとピストンが分離し難い。
【0016】
前記する電動アクチュエータの好ましい態様として、前記ハウジングの前記壁面は、前記摺動面に対し前記第1方向に配置され、前記摺動面よりも大径となっている筒状の大径面を有している。前記被嵌合部における前記軸方向の移動範囲は、前記収容空間のうち前記大径面の内周側に限定されている。
【0017】
被嵌合部は、嵌合部が嵌合し、拡径している可能性がある。つまり、被嵌合部がハウジングの壁面に引っ掛かり、ピストンの円滑な摺動が阻害される可能性がある。一方、前記構成によれば、被嵌合部は、摺動面の内周側に移動しない。つまり、被嵌合部が摺動面に引っ掛かる、ということがない。よって、ピストンの円滑な摺動が確保される。
【0018】
前記する電動アクチュエータの好ましい態様として、前記被嵌合部の外径は、前記摺動面の径よりも大きい。前記被嵌合部の外周面には、内周側に窪む第1凹面が設けられている。前記大径面には、前記第1凹面と対向し、かつ前記軸方向に延びる第2凹面が設けられている。前記第2凹面には、前記軸方向に延びるピンが収容されている。前記ピンの少なくとも一部は、前記大径面よりも内周側に突出し、前記第1凹面の内部を前記軸方向に貫通している。
【0019】
前記構成によれば、被嵌合部は、外径が摺動面の径よりも大きいため、摺動面の内周側に入り込まない。よって、被嵌合部が摺動面に引っ掛かる、ということが発生しない。また、被嵌合部がピンに引っ掛かるため、ピストンは回転不能かつ軸方向に移動可能に支持される。よって、ピストンに固定されるナットも回転不能かつ軸方向に移動可能に支持される。
【0020】
前記する電動アクチュエータの好ましい態様として、前記ナットは、前記嵌合部に対し前記第1方向に配置され、前記被嵌合部よりも径方向外側に突出する突出部を有している。前記突出部の外周面には、内周側に窪む第3凹面が設けられている。前記大径面には、前記第3凹面と対向し、かつ前記軸方向に延びる第2凹面が設けられている。前記第2凹面には、前記軸方向に延びるピンが収容されている。前記ピンの少なくとも一部は、前記大径面よりも内周側に突出し、前記第3凹面の内部を前記軸方向に貫通している。
【0021】
前記構成によれば、突出部がピンに引っ掛かり、ナットが回転不能かつ軸方向に移動可能に支持される。
【0022】
前記する電動アクチュエータの好ましい態様として、前記ナットは、前記嵌合部に対し前記第1方向に配置され、前記被嵌合部の外径と同じ外径の突出部を有している。前記突出部の外周面には、内周側に窪む第3凹面が設けられている。前記ピンは、前記第1凹面の内部と前記第3凹面の内部を前記軸方向に貫通している。
【0023】
前記構成によれば、突出部がピンに引っ掛かり、ナットが回転不能かつ軸方向に移動可能に支持される。
【発明の効果】
【0024】
本開示の電動アクチュエータによれば、ピストンの移動量が大きい場合、拡張部が摺動面と対向する。よって、ピストンの円滑な摺動が保持される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施形態1のブレーキキャリパーであって作動前の状態を軸方向に切った断面図である。
図2図2は、図1の一部を拡大した拡大図である。
図3図3は、図2のIII-III線矢視断面図である。
図4図4は、図2のIV-IV線矢視断面図である。
図5図5は、実施形態1のブレーキキャリパーであって作動後の状態を軸方向に切った断面図である。
図6図6は、実施形態2の電動アクチュエータであって作動前の状態を軸方向に切った断面図である。
図7図7は、実施形態2の電動アクチュエータであって作動後の状態を軸方向に切った断面図である。
図8図8は、実施形態3の電動アクチュエータであって作動前の状態を軸方向に切った断面図である。
図9図9は、実施形態4の電動アクチュエータであって作動前の状態を軸方向に切った断面を拡大した図である。
図10図10は、実施形態5の電動アクチュエータであって作動前の状態を軸方向に切った断面を拡大した図である。
図11図11は、変形例の電動アクチュエータを軸方向に切った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示を実施するための形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明で記載した内容により本開示が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0027】
(実施形態1)
図1は、実施形態1のブレーキキャリパーであって作動前の状態を軸方向に切った断面図である。図1に示すように、実施形態1のブレーキ装置は、ブレーキキャリパー100である。ブレーキキャリパー100は、図示しない車輪と供回りするブレーキディスク101を2つのブレーキパッド102、103で挟み、車輪に制動力を与える装置である。ブレーキキャリパー100は、ブレーキディスク101と、2つのブレーキパッド102、103と、ブレーキパッド102を作動させる電動アクチュエータ104と、を備えている。
【0028】
電動アクチュエータ104は、回転運動を生成するモータ(不図示)と、回転運動を減速させる減速装置110と、回転運動を直線運動に変換するボールねじ装置1と、ブレーキパッド102を押圧するピストン40と、ハウジング120と、を備えている。
【0029】
以下の説明において、ボールねじ装置1のねじ軸2の軸心Oと平行な方向を軸方向と称する。また、軸方向のうち、ブレーキディスク101から視てボールねじ装置1が配置される方を第1方向X1と称し、第1方向X1と反対方向を第2方向X2と称する。
【0030】
ハウジング120は、ブレーキディスク101及びブレーキパッド102、103が配置されるブレーキ空間S10と、ブレーキ空間S10に連通する第1収容空間S1と、第1収容空間S1に対し第1方向X1に配置された第2収容空間S2と、を有している。
【0031】
第1収容空間S1と第2収容空間S2は、軸心Oを中心とする円柱状の空間である。第1収容空間S1の径は、第2収容空間S2の径よりも小さい。また、ハウジング120は、第1収容空間S1を囲む円筒状の第1壁面121と、第2収容空間S2を囲む円筒状の第2壁面122と、を有している。
【0032】
減速装置110は、遊星歯車機構であり、第2収容空間S2に収容されている。減速装置110は、入力軸111と、サンギヤ112と、リングギヤ113と、複数のプラネタリギヤ114と、複数の伝達軸115と、キャリア116と、を備えている。
【0033】
入力軸111には、モータの回転運動が入力される。入力軸111は、軸心Oと同軸上に配置されている。サンギヤ112は、入力軸111に貫通され、入力軸111に回転不能に固定している。リングギヤ113は、入力軸111を中心とする内歯車である。リングギヤ113の外周面がハウジング120の第2壁面122に嵌合している。これにより、リングギヤ113は、ハウジング120に固定している。
【0034】
プラネタリギヤ114は、サンギヤ112とリングギヤ113の間に配置されている。また、プラネタリギヤ114は、サンギヤ112及びリングギヤ113に歯合している。プラネタリギヤ114は、伝達軸115に貫通されている。また、プラネタリギヤ114は、伝達軸115を中心に回転自在に支持されている。
【0035】
キャリア116は、軸心Oを中心とする環状部品である。キャリア116の外周面が軸受117に嵌合している。よって、キャリア116は、回転自在にハウジング120に支持されている。なお、軸受117の外輪は、ハウジング120の段差面と止め輪により挟持されている。よって、軸受117は、軸方向に移動不能に固定されている。また、キャリア116は、軸受117の内輪に第2方向から当接するフランジを有している。よって、キャリア116は、第1方向X1に移動不能に固定されている。キャリア116の中央部は、ねじ軸2が貫通している。キャリア116とねじ軸2は、スプライン嵌合している。よって、キャリア116とねじ軸2とは、相対回転しないように連結している。また、伝達軸115は、キャリア116の中央部から径方向外側に偏心した位置を貫通している。
【0036】
以上から、回転運動が入力軸111に入力されると、サンギヤ112は軸心Oを中心に回転する。そして、プラネタリギヤ114は、伝達軸115を中心に回転(自転)しながら、軸心Oを中心に回転(公転)する。これにより、キャリア116及びねじ軸2が軸心Oを中心に回転する。また、ねじ軸2の回転速度は、入力軸111の回転速度よりも減速する。
【0037】
ボールねじ装置1は、ねじ軸2と、ナット3と、ボール4と、を備えている。ねじ軸2は、キャリア116に嵌合する動力伝達部10と、動力伝達部10に対し第2方向X2に配置されたねじ軸本体11と、を備えている。ねじ軸本体11の外周面には、螺旋方向に延在する外周軌道面12と、が設けられている。動力伝達部10は、ねじ軸本体11よりも小径となっている。これにより、動力伝達部10とねじ軸本体11との間には、第1方向X1を向く段差面が設けられている。この段差面は、キャリア116の側面に当接している。よって、ねじ軸2は、第1方向X1に移動不能に固定されている。
【0038】
ナット3は、円筒状を成している。ナット3の内周面には、外周軌道面12に対向する内周軌道面3aが設けられている。外周軌道面12と内周軌道面3aとの間は、螺旋状の軌道8となっている。軌道8には、複数のボール4が配置されている。ピストン40は、筒状を成し、かつ第2方向X2の端部を閉塞する蓋部41を有する有底筒状の部品である。詳細については後述するが、ピストン40はナット3に固定されている。ピストン405の蓋部41は、ブレーキパッド102に当接している。
【0039】
よって、ねじ軸2の回転によりナット3が第2方向X2に移動すると、ピストン40も第2方向X2に移動する。ピストン40の蓋部41はブレーキパッド102を第1方向X1に押圧し、ブレーキパッド102がブレーキディスク101に当接する。さらにピストン5が第2方向X2に移動すると、ブレーキディスク101は、第2方向X2に押圧され、ブレーキパッド103に接触する。これにより、ブレーキディスク101は、ブレーキパッド102、103に挟持され、図示しない車輪の回転が規制される。以下、実施形態1の電動アクチュエータ104の詳細について説明する。
【0040】
図2は、図1の一部を拡大した拡大図である。図2に示すように、ナット3は、ナット本体20と、ナット本体20に対し第1方向X1に配置された嵌合部30と、を有している。嵌合部30の外周面31は、断面が円形状となっている。なお、図2において、ナット本体20と嵌合部30との境界を見やすくするため、仮想線H1を引いている。嵌合部30の外径は、ナット本体20の外径よりも大きい。よって、嵌合部30の外周面31は、ナット本体20の外周面21よりも径方向外側に突出している。嵌合部30の径方向外側への突出量は、ピストン40(被嵌合部45)の内周面に対し、締め代を有する程度となっている。
【0041】
ナット本体20の第2方向X2の端面は、押圧面22になっている。ナット本体20の内周面には、複数のS溝23(図2では1つのみ図示)が設けられている。S溝23は、1リードを移動したボール4を1リード分戻す循環部である。なお、本実施形態では、S溝23によりボール4を循環しているが、本開示はS溝23に限定されない。例えば、コマによりボール4を循環させてもよい。または、ナット3に軸方向の戻り穴を設け、エンドデフレクタ又はミドルデフレクタによりボール4を循環させてもよい。若しくは、チューブによりボール4を循環させるようにしてもよく、循環方法に特に限定はない。
【0042】
一方、嵌合部30には、S溝23が設けられていない。言い換えると、ボール4は、嵌合部30の内周軌道面3aを転動しない。本実施形態において、ナット3の内周面の全面に内周軌道面3aが設けられているが、ボール4が転動する範囲は、ナット本体20に設けられた内周軌道面3aのみとなっている。よって、軌道8は、ナット本体20の内周軌道面3aと外周軌道面12とから構成される。
【0043】
ピストン40は、ピストン本体42と、ピストン本体42の第1方向X1に配置された拡張部44と、拡張部44の第1方向X1に配置された被嵌合部45と、を備えている。
【0044】
ピストン本体42は、円筒状の円筒部43と、円筒部43の第2方向X2を閉塞する蓋部41と、を備えている。ピストン本体42は、ナット本体20に対し第2方向X2に配置されている。円筒部43の内径は、ナット本体20の内径と略同じである。円筒部43の外径は、ナット本体20の外径よりも大きい。よって、ピストン本体42の外周面42aは、ナット本体20よりも径方向外側に突出している。
【0045】
また、ピストン本体42の第1方向X1の端部には、第1方向X1を向く端面42bが設けられている。端面42bは、拡張部44に対し内周側に配置されている。端面42bは、ナット本体20の押圧面22と当接している。よって、ナット3が第2方向X2に移動する場合、端面42bは押圧面22により第2方向X2へ押圧される。
【0046】
拡張部44は、ピストン本体42の第1方向X1の端部のうち外周側の部分から第1方向X1に延び、円筒状を成している。拡張部44の外径は、ピストン本体42(円筒部43)の外径と同一である。よって、ピストン本体42の外周面42aと拡張部44の外周面44aは、軸方向に連続した円筒状の面となっている。
【0047】
拡張部44の内周側には、ナット本体20が配置されている。拡張部44の軸方向の長さは、ナット本体20と略同一となっている。よって、拡張部44に対し第1方向X1に配置される被嵌合部45と、ナット本体20に対し第1方向X1に配置される嵌合部30とは、径方向に重なっている。
【0048】
図3は、図2のIII-III線矢視断面図である。拡張部44の内径は、ナット本体20の外径よりも僅かに大きい。このため、図3に示すように、拡張部44の内周面44bとピストン本体42の外周面21との間には、環状の隙間S11が設けられている。つまり、ナット本体20は、拡張部44に嵌合していない。
【0049】
図2に示すように、被嵌合部45は、円筒状を成している。よって、被嵌合部45の内周面45aは、断面が円形状となっている。また、被嵌合部45の内径は、拡張部44の内径と同一である。被嵌合部45の内周側には、嵌合部30が配置されている。そして、被嵌合部45の内周面45aに嵌合部30が嵌合している。これにより、ピストン40がナット3に固定される。
【0050】
被嵌合部45の外径は、ピストン本体42及び拡張部44の外径よりも大きい。よって、被嵌合部45の外周面45bは、ピストン本体42の外周面42a及び拡張部44の外周面44aよりも径方向外側に突出している。
【0051】
図4は、図2のIV-IV線矢視断面図である。図4に示すように、被嵌合部45の外周面45bには、径方向内側に窪み、かつ軸方向に開口する第1凹面46が設けられている。第1凹面46は、軸方向から視て円弧状を成している。本実施形態において、第1凹面46は、180°間隔で2つ設けられている。
【0052】
図2に示すように、ハウジング120の第1壁面121は、摺動面123と、摺動面123に対し第1方向X1に配置された大径面124と、を有している。摺動面123の径は、ピストン本体42(円筒部43)の外径よりも僅かに大きい。よって、ピストン本体42の外周面42aと摺動面123との間には、微小隙間(不図示)が設けられている。これにより、ピストン本体42は、軸方向に摺動可能に摺動面123に支持されている。
【0053】
摺動面123の第2方向X2の端寄りには、凹部130とシール部131とが設けられている。これにより、ブレーキ空間S10から第1収容空間S1に液体や異物が侵入しないようになっている。
【0054】
大径面124は、摺動面123よりも大径となっている円筒状の面である。よって、大径面124と摺動面123との間には、第1方向X1を向く段差面125が設けられている。
【0055】
大径面124は、被嵌合部45の外径よりも大径に形成されている。よって、図4に示すように、大径面124と被嵌合部45の外周面45bとの間には、環状の隙間S12が設けられている。なお、被嵌合部45は、嵌合部30が嵌合するため、拡径する可能性がある。よって、被嵌合部45が拡径した場合、隙間S12により吸収される。このため、被嵌合部45は、大径面124に接触しない。
【0056】
図3に示すように、隙間S12は、大径面124と拡張部44との間にも延びている。また、隙間S12は、大径面124と拡張部44との間において、大径面124と被嵌合部45の外周面45bの間よりも径方向の隙間量が大きくなっている。
【0057】
図4に示すように、大径面124には、第1凹面46と対向する第2凹面126が設けられている。第2凹面126は、軸方向から視て円弧状を成している。第2凹面126は、第1凹面46に対応して、180°間隔で2つ設けられている。第2凹面126は、軸方向に延在している(図2参照)。この第2凹面126には、円柱状のピン60が配置されている。なお、ピン60は、図示しないCリングにより第1方向X1に抜けないように規制されている。
【0058】
ピン60の一部は、大径面124よりも径方向内側に突出している。また、ピン60の一部は、ピストン40の第1凹面46の内部に配置され、被嵌合部45を軸方向に貫通している。また、ピン60と第1凹面46は微小隙間(図示しない)が設けられている。このため、ピストン40は、軸心Oを中心とする回転方向の荷重が作用しても回転しない。また、ピストン40は、軸方向の荷重が作用すると、ピン60に案内されながら軸方向に移動する。以上から、ピストン40及びナット3は、軸方向に移動可能に、かつ軸方向に回転不能にハウジング120に支持されている。
【0059】
次に、ブレーキキャリパー100が作動した場合における各構成の詳細を説明する。最初にピストン40の被嵌合部45の詳細を説明する。
【0060】
図5は、実施形態1のブレーキキャリパーであって作動後の状態を軸方向に切った断面図である。図1に示すように、ブレーキキャリパー100の作動前の状態で、被嵌合部45は、ピン60の第1方向X1の端部に引っ掛かっている。モータが駆動すると、ピストン40(被嵌合部45)は第2方向X2に移動する。図5に示すように、被嵌合部45がピンの第2方向X2の端部に引っ掛かっている場合、被嵌合部45は段差面125に当接する。また、ピストン40は、被嵌合部45が段差面125に引っ掛かっている状態から、さらに第2方向X2に移動しない。つまり、被嵌合部45は、摺動面123の内周側に移動しない。よって、被嵌合部45の軸方向の移動範囲は、第1収容空間S1のうち大径面124の内周側に限定されている。また、ピストン40の第2方向X2への移動量が最大の場合とは、被嵌合部45が段差面125に当接している場合である。
【0061】
次に、ピストン40と摺動面123の係り代(対向している軸方向の範囲)について説明する。図2に示すように、ブレーキキャリパー100の作動前の状態において、摺動面123の全面に対し、ピストン本体42の外周面42aが対向している。ピストン40が第2方向X2に移動すると、摺動面123に対し、ピストン本体42の外周面42aと拡張部44の外周面44aが対向する。図5に示すように、ピストン40の第2方向X2への移動量が最大の場合、摺動面123に対し、ピストン本体42の外周面42aと拡張部44の外周面44aが対向している。このように、常に摺動面123の全面に対し、ピストン40の外周面が対向している。よって、作動の前後において、ピストン40と摺動面123の係り代が一定となっている。
【0062】
次に、ブレーキパッド102からピストン40に作用する反力について説明する。ピストン40は、押圧するブレーキパッド102から反力(第1方向X1の荷重)を受ける。これにより、ボールねじ装置1には、軸方向に圧縮するような圧縮荷重が作用する。つまり、ねじ軸2とナット3のそれぞれは、軸方向に弾性変形する。よって、外周軌道面12と内周軌道面3aは、軸方向に変位し、ボール4に作用する負荷が大きくなる。
【0063】
図5に示すように、ピストン40からナット3に作用する第1方向X1の荷重F1は、ナット本体20の押圧面22に作用する。よって、内周軌道面3aの各条に作用する応力(F11、F12を参照)は、第2方向X2の端部(押圧面22)に近いほど大きい(F11>F12)。つまり、内周軌道面3aの各条は、第2方向X2の端部(押圧面22)に近いほど、第1方向X1への変位量が大きい。以上から、軌道8に配置されたボール4のうち第2方向X2の端部寄りに位置するボール4は、内周軌道面3aから受ける荷重が増加し、負荷が増加している。
【0064】
一方で、ねじ軸2の動力伝達部10は、キャリア116と軸受117を介してハウジング120に支持されている。そして、動力伝達部10には、ピストン40に作用する反力に対抗する第2方向X2の荷重F2が作用している。よって、外周軌道面12の各条に作用する応力(F21、F22を参照)は、第1方向X1の端部(動力伝達部10)に近いほど大きい(F21>F22)。言い換えると、外周軌道面12の各条は、第1方向X1の端部(動力伝達部10)に近いほど、第1方向X1への変位量が大きい。このため、軌道8に配置されたボール4のうち第1方向X1の端部寄りに位置するボール4は、外周軌道面12から受ける荷重が増加し、負荷が増加している。
【0065】
次に、実施形態1のブレーキキャリパー100の効果を説明する。本実施形態によれば、ブレーキキャリパー100の作動の前後で、ピストン40と摺動面123の係り代が減少しない。このため、ピストン40が傾き難く、ピストン40の作動性が優れている。
【0066】
ブレーキキャリパー100の作動時、ブレーキパッド102から反力を受け、ボール4の負荷が増加している。しかしながら、内周軌道面3aの変位に伴うボール4の負荷増加分は、軌道8の第2方向X2の端部寄りに位置するボール4が負担している。一方、外周軌道面12の変位に伴うボール4の負荷増加分は、軌道8の第1方向X1の端部寄りに位置するボール4が負担している。以上から、負荷増加分は、軌道8において軸方向の両側に配置されたボール4に分散している。つまり、ボール4の負荷分布の均一化が図られており、ボールねじ装置1の長寿命化が達成される。
【0067】
内周軌道面3aは、ナット本体20と嵌合部30の両方に設けられている。しかしながら、嵌合部30の内周軌道面3aは、軌道8を構成していない。これは、嵌合部30の内周軌道面3aは、被嵌合部45への嵌合により変形し、ボール4が円滑に転動しない可能性があるからである。一方、ナット本体20は、拡張部44に嵌合していない。つまり、ナット本体20の内周軌道面3a及びS溝23は変形していない。このような理由から、本実施形態では、内周軌道面3aのうち軌道8を構成する部分は、ナット本体20に設けられている部分に限定されている。このため、ボール4が軌道8を円滑に転動し、ボールねじ装置1の作動性が優れる。
【0068】
被嵌合部45の軸方向の移動範囲は、第1収容空間S1のうち大径面124の内周側に限定されている。ここで、被嵌合部45は、嵌合部30が嵌合するため、製造時よりも拡径している可能性がある。つまり、被嵌合部45の外径を拡張部44の外径と同一となるように製造しても、被嵌合部45が拡径し、摺動面123に引っ掛かる可能性がある。よって、本実施形態では、ピストン40の円滑な摺動性を確保するため、被嵌合部45は、段差面125に引っ掛かり、摺動面123の内周側に移動しないようになっている。
【0069】
以上、実施形態1の電動アクチュエータ104は、回転運動を生成するモータと、ねじ軸2、ナット3、及びボール4を有し、回転運動を直線運動に変換するボールねじ装置1と、ナット3に嵌合し、ねじ軸2と平行な軸方向に移動するピストン40と、軸方向に延在する収容空間(第1収容空間S1)と収容空間を囲む筒状の壁面(第1壁面121)を有し、収容空間にボールねじ装置1とピストン40が配置されるハウジング120と、を備えている。壁面は、ピストン40の外周面を摺動自在に支持する筒状の摺動面123を有している。ねじ軸2は、外周面に外周軌道面12が設けられたねじ軸本体11と、ねじ軸本体11に対し軸方向の一方である第1方向X1に配置され、ハウジング120に回転自在に支持される動力伝達部10と、を有している。ナット3は、内周面に内周軌道面3aが設けられたナット本体20と、ナット本体20に対し第1方向X1に配置され、外径がナット本体20の外径よりも大きい嵌合部30と、を有している。ナット本体20は、第1方向X1と反対方向の第2方向X2を向く端面であり、ピストン40を第2方向X2に押圧する押圧面22を有している。ピストン40は、ナット本体20に対し第2方向X1に配置され、外径がナット本体20の外径よりも大きく、かつ外周面42aが摺動面123に支持されたピストン本体42と、ピストン本体42の第1方向X1の端部のうち外周側の部分から第1方向X1に延び、内周側にナット本体20が配置される筒状の拡張部44と、ピストン本体42の第1方向Xの端面であり、かつ拡張部44の内周側に配置され、押圧面22と当接する端面42bと、拡張部44から第1方向X1に延び、内周側に嵌合部30が嵌合する筒状の被嵌合部45と、を有している。
【0070】
実施形態1の電動アクチュエータ104によれば、ピストン40が傾き難く、ピストン40の作動性に優れている。ボール4の負荷分布の均一化が図られ、ボールねじ装置1の寿命が長い。
【0071】
実施形態1の電動アクチュエータ104において、ナット本体20の内周軌道面3aと外周軌道面12との間には、螺旋状の軌道8が設けられている。ボール4は、軌道8を転動している。
【0072】
ボール4は、嵌合部30の内周軌道面3aを転動しない。よって、ボール4が軌道8を円滑に転動し、ボールねじ装置1の作動性が優れる。
【0073】
実施形態1の電動アクチュエータ104において、拡張部44の内径は、ナット本体20の外径よりも大きい。拡張部44の内周面44bとナット本体20の外周面21との間には、筒状の隙間S11が設けられている。
【0074】
ナット本体20に設けられた内周軌道面3a及びS溝23は変形していない。よって、ボール4の円滑な転動が確保されている。また、嵌合による拡張部44の拡径が回避される。よって、ピストン40は円滑に摺動する。
【0075】
実施形態1の電動アクチュエータ104のハウジング120の壁面(第1壁面121)は、摺動面123に対し第1方向X1に配置され、摺動面123よりも大径となっている筒状の大径面124を有している。被嵌合部45における軸方向の移動範囲は、収容空間(第1収容空間S1)のうち大径面124の内周側に限定されている。
【0076】
被嵌合部45は、大径面124と対向する。よって、被嵌合部45が摺動面123に引っ掛かる、ということがない。よって、ピストン40の円滑な摺動が確保される。
【0077】
次に、電動アクチュエータ104の他の実施形態について説明する。以下の説明では、実施形態1との相違点に絞って説明する。
【0078】
(実施形態2)
図6は、実施形態2の電動アクチュエータであって作動前の状態を軸方向に切った断面図である。図7は、実施形態2の電動アクチュエータであって作動後の状態を軸方向に切った断面図である。図6に示すように、実施形態2の電動アクチュエータ104Aは、ピストン40が被嵌合部45に代えて被嵌合部45Aを備えている点で、実施形態1の電動アクチュエータ104と相違する。また、実施形態2の電動アクチュエータ104Aは、ナット3が突出部35を備えている点で、実施形態1の電動アクチュエータ104と相違する。
【0079】
被嵌合部45Aの外径は、ピストン本体42及び拡張部44の外径と同一に製造されている。ただし、被嵌合部45Aは、内周側に嵌合部30が嵌合し、拡径している可能性がある。よって、本実施形態においても、被嵌合部45Aの軸方向の移動範囲は、大径面124の内周側のみに限定されている。つまり、図7に示すように、ピストン40により第2方向X2への移動量が最大の場合であっても、被嵌合部45Aは摺動面123の内周側に位置しないようになっている。なお、被嵌合部45Aの移動範囲の制御は、モータの回転を制御したり、若しくは被嵌合部45Aを摺動面123よりも大径にして段差面125に当接させたりすることで達成される。
【0080】
突出部35は、嵌合部30に対し第1方向X1に配置されている。突出部35の外径は、被嵌合部45Aの外径よりも大きい。つまり、突出部35は、被嵌合部45Aよりも径方向外側に突出している。突出部35の外径は、大径面124よりも小径になっている。突出部35の外周面36には、径方向内側に窪み、かつ軸方向に開口する第3凹面37が設けられている。第3凹面37は、軸方向から視て円弧状を成している。ピン60の一部は、第3凹面37の内部に配置され、突出部35を軸方向に貫通している。
【0081】
以上から、ナット3は、軸心Oを中心とする回転方向の荷重が作用しても回転しない。また、ナット3は、軸方向の荷重が作用すると、ピン60に案内されながら軸方向に移動する。以上から、ナット3及びピストン40は、軸方向に移動可能に、かつ軸方向に回転不能にハウジング120に支持されている。
【0082】
(実施形態3)
図8は、実施形態3の電動アクチュエータであって作動前の状態を軸方向に切った断面図である。実施形態3の電動アクチュエータ104Bは、ナット3が突出部35を備えている点で、実施形態1の電動アクチュエータ104と相違する。よって、実施形態3において、ピン60に対し、ピストン40の第1凹面46と、ナット3の第3凹面37とが、引っ掛かっている。実施形態3によれば、ナット3及びピストン40は、確実に回転不能となっている。また、被嵌合部45が段差面125に当接する。よって、被嵌合部45の移動範囲は、大径面124の内周側に限定される。
【0083】
(実施形態4)
図9は、実施形態4の電動アクチュエータであって作動前の状態を軸方向に切った断面を拡大した図である。実施形態4の電動アクチュエータ104Cは、ナット本体20の外周面21に凹面27が設けられている点で実施形態1の電動アクチュエータ104と相違する。実施形態4の電動アクチュエータ104Cは、拡張部44の内周面44bに凸面48が設けられている点で、実施形態1の電動アクチュエータ104と相違する。
【0084】
凹面27は、ナット本体20の外周面21のうち第2方向X2の端部に配置されている。凹面27は、外周面21よりも径方向内側に窪んでいる。凹面27は、周方向に延在し、環状となっている。また、凸面48は、拡張部44の内周面44bのうち第2方向X2の端部に位置している。凸面48は、拡張部44の内周面44bよりも径方向内側に突出している。凸面48は、周方向に延在し、環状となっている。凹面27と凸面48は同径となっている。よって、凹面27と凸面48が当接している。つまり、拡張部44の内周面44bのうち第2方向X2の端部は、ナット本体20の外周面21と当接している。
【0085】
以上から、ナット3は、傾かないようにピストン40に支持される。よって、ナット3の軸方向の移動が円滑となる。また、凹面27と凸面48は同径であるため、ナット3の内周軌道面3aが変形しておらず、ボール4の円滑な転動が確保されている。また、拡張部44の拡径も回避されており、拡張部44が摺動面123に引っ掛かるということがない。
【0086】
また、ナット3には、外周面21と凹面27との間に、内周段差面28が設けられている。また、ピストン40には、内周面44bと凸面48との間に、外周段差面49が設けられている。内周段差面28と外周段差面49は、軸方向に離隔し、当接していない。このため、ピストン40がブレーキパッド102から受ける反力は、ナットの押圧面22に入力される。つまり、実施形態4においても、内周軌道面3aの変位に伴うボール4の負荷増加分は、軌道8の第2方向X2の端部寄りに位置するボール4が負担するようになっている。このため、ボール4の負荷分布の均一化が図られている。
【0087】
(実施形態5)
図10は、実施形態5の電動アクチュエータであって作動前の状態を軸方向に切った断面を拡大した図である。実施形態5の電動アクチュエータ104Dは、ナット本体20に凸面29が設けられている点で実施形態1の電動アクチュエータ104と相違する。
【0088】
凸面29は、ナット本体20の外周面21のうち第2方向X2の端部に配置されている。凸面29は、外周面21よりも径方向外側に突出している。凸面29は、周方向に延在し、環状となっている。凸面29は、拡張部44の内周面44bと同径となっている。このため、ナット3が傾かないようにピストン40に支持される。よって、ナット3の軸方向の移動が円滑となる。
【0089】
以上、各実施形態について説明したが、本開示は各実施形態に示した例に限定されない。例えば、実施形態4において、凹面27と凸面48が同一径となっているが、凹面27が凸面48よりも大径であってもよい。つまり、凹面27が凸面48に対し締め代を有していてもよい。これによれば、凹面27は凸面48に嵌合し、ナット3とピストン40との固定強度が向上する。同様に、実施形態5において凸面29が拡張部44の内周面44bに嵌合するようにしてもよい。
【0090】
図11は、変形例の電動アクチュエータを軸方向に切った断面図である。また、本実施形態の電動アクチュエータは、ブレーキキャリパー100に用いられる例を挙げたが、他の装置に用いられていてもよい。また、本開示は、図11に示すように、電動アクチュエータ104Eのハウジング120がシリンダ128を有していてもよい。このような変形例においては、シリンダ128の内部には、図示しない液体が封入される。ピストン40が第2方向X2に移動すると、液体の液圧が上昇する。液体の液圧は、貫通孔129aを介してブレーキシステムに伝達される。
【0091】
また、本実施形態では、拡張部44の内周面44bとピストン本体42の外周面21との間に環状の隙間S11が設けられているが、この径方向の隙間量(径方向の距離)について、本開示は特に限定はない。一方で、本開示は、隙間量が例えば50μm以下など、隙間量が小さい方が好ましい。これによれば、ナット3の傾き角度が小さく抑制されるからである。また、本開示は、隙間S11による径方向の隙間量は、軸方向に一定でなくてもなくてもよい。例えば、ナット本体20の外周面21のうち第2方向X2の端部と、拡張部44の内周面と、の間の隙間量が、隙間S11の軸方向の各部位のうち最も小さく、かつ、その径方向の隙間量が50μm以下となっているようにしてもよい。
【0092】
また、本実施形態において、第1凹面46と第2凹面126と第3凹面37は、軸方向から視た断面形状が円弧状となっているが、ピン60の周方向への移動を規制できればよく、本開示は、軸方向から視た断面形状が矩形状を成す角溝であってもよい。また、本開示においてピン60は、円柱状に限定されず、角柱状であってもよく、特に限定されない。また、本実施形態において、ハウジング120は、ピン60を用いてピストン40又はナット3を回転不能に支持しているが、本開示は、ピン60の代わりに別体(別部品)のキーを用いて、ハウジング120がピストン40又はナット3を回転不能に支持するようにしてもよい。そのほか、キーを別体(別部品)とすることなく、ハウジング120にキーを一体に設けたり、若しくは、ピストン40又はナット3の方にキーを一体に設けたりしてもよい。また、本開示は、ピストン40又はナット3の回り止め構造に関し、上記した内容以外の構成を採用してもよく、特に限定されない。
【0093】
また、嵌合部30と被嵌合部45との摩擦力が小さいと、ナット3がねじ軸2と供回りする(ピストン40に対しナット3がスピンする)可能性がある。よって、嵌合部30の外周面31と被嵌合部45の内周面45aのうち少なくとも一方に、摩擦力を向上させるための微細な凹凸加工や高摩擦材のコーティングを施してもよい。又は、嵌合部30の外周面31と被嵌合部45の内周面45aとに、周方向に引っ掛かる凸部及び凹部を設けてもよい。さらには、嵌合部30の外周面31と被嵌合部45の内周面45aに設けられた凸部及び凹部を嵌合させるようにしてもよい。これによれば、ナット3からピストン40が抜け落ちる、ということも回避できる。
【0094】
また、ピストン40に対しナット3がスピンすることを回避するため、ナット3の押圧面22とピストン40の端面42bとのうち少なくとも一方に微細な凹凸加工や高摩擦材のコーティングを施してもよい。又は、ナット3の押圧面22とピストン40の端面42bとに、周方向に引っ掛かる凸部及び凹部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 ボールねじ装置
2 ねじ軸
3 ナット
3a 内周軌道面
4 ボール
8 軌道
10 動力伝達部
11 ねじ軸本体
12 外周軌道面
20 ナット本体
21 外周面
22 押圧面
23 S溝
27 凹面
29 凸面
30 嵌合部
31 外周面
35 突出部
37 第3凹面
40 ピストン
41 蓋部
42 ピストン本体
43 円筒部
44 拡張部
45、45A 被嵌合部
46 第1凹面
48 凸面
60 ピン
100 ブレーキキャリパー
102、103 ブレーキパッド
104、104A、104B、104C、104D、104E 電動アクチュエータ
120 ハウジング
121 第1壁面(壁面)
122 第2壁面
123 摺動面
124 大径面
125 段差面
126 第2凹面
128 シリンダ
S1 第1収容空間(収容空間)
S2 第2収容空間
図1
図2
図3
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図5
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図11