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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104017
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20240726BHJP
   A61K 8/23 20060101ALI20240726BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K8/23
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008015
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】520061767
【氏名又は名称】紅道科研センター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 琴味
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕作
(72)【発明者】
【氏名】付 子華
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AB032
4C083AB351
4C083AB352
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC302
4C083AC532
4C083CC02
4C083DD27
4C083EE01
4C083EE12
(57)【要約】
【課題】皮膚外用剤において、ムラサキバレンギク抽出物を含有し、同抽出部の変色を抑制する。
【解決手段】皮膚外用剤は、成分(A)ムラサキバレンギク抽出物と、成分(B)ピロ亜硫酸ナトリウムと、を含有し、pH3~6である。成分(B)のピロ亜硫酸ナトリウムが添加され、pH3~6に調整されることにより、ムラサキバレンギク抽出物の変色を効果的に抑制することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)ムラサキバレンギク抽出物、
成分(B)ピロ亜硫酸ナトリウム、
を含有し、pH3~6である皮膚外用剤。
【請求項2】
前記成分(A)の含有量が、0.15質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
前記成分(B)が前記成分(A)の含有量の1/30以上含有されていることを特徴とする請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
成分(C)1,3-ブチレングリコール
を更に含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
前記成分(C)の含有量が、5質量%以上であることを特徴とする請求項4に記載の皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムラサキバレンギク抽出物を含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、植物由来成分を皮膚外用剤に配合する試みが数多くなされている。それらの中でも、ムラサキバレンギク抽出物は、皮膚や毛髪の保護、保湿に効果があるとされ、化粧料や洗浄剤等の皮膚外用剤の含有成分として広く利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、植物由来成分は、変色や変質を生じ易く、例えば、化粧料等に含有される場合には、液剤の見栄えが悪くなったり、期待された効果を発揮できなくなることがある。そこで、化粧料等に、酸化防止剤を添加することで、植物由来成分の変色等を抑制することが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/016037号
【特許文献2】特開2022-28125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的な酸化防止剤を用いたとしても、植物由来成分の種類は多岐にわたるので、その成分に応じて、酸化防止剤の種類、添加量、温度等の条件を適切に設定しなければ、成分の変色等を抑制できないことがある。特に、ムラサキバレンギク抽出物は、透明な液剤に溶解させた状態では、淡黄色であるが、安定性に課題があり、有効成分として効果のある添加量では、経時的に茶色に変色してしまい、液剤の見栄えを悪くしてしまう。
【0006】
本発明は、ムラサキバレンギク抽出物を含有し、同抽出部の変色を抑制することができる皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、成分(A)ムラサキバレンギク抽出物と、成分(B)ピロ亜硫酸ナトリウムと、を含有し、pH3~6である皮膚外用剤である。
【0008】
上記皮膚外用剤において、前記成分(A)の含有量が、0.15質量%以下であることが好ましい。
【0009】
上記皮膚外用剤において、前記成分(B)が前記成分(A)の含有量の1/30以上含有されていることが好ましい。
【0010】
上記皮膚外用剤において、成分(C)1,3-ブチレングリコールを更に含有することが好ましい。
【0011】
上記皮膚外用剤において、前記成分(C)の含有量が、5質量%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の皮膚外用剤によれば、成分(B)のピロ亜硫酸ナトリウムが添加され、pH3~6に調整されることにより、ムラサキバレンギク抽出物の変色を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る皮膚外用剤について、具体的に説明する。本実施形態に係る皮膚外用剤は、以下の成分を含有する。
成分(A)ムラサキバレンギク抽出物
成分(B)ピロ亜硫酸ナトリウム
成分(C)1,3-ブチレングリコール
【0014】
ムラサキバレンギク(Echinacea purpurea)は、キク科ムラサキバレンギク属の多年草であり、エキナセア、エキナケア又はエチナシとも呼ばれ、北米のインディアンがハーブ療法として用いていた植物として知られる。ムラサキバレンギク抽出物は、ムラサキバレンギクの葉、茎、花、根等の各部位及び全草を用いて抽出することができるが、特に根を用いて抽出されることが好ましいとされる。
【0015】
本実施形態の皮膚外用剤で用いられるムラサキバレンギク抽出物は、ムラサキバレンギクを圧搾、乾燥した乾燥粉末ハーブを原料とし、有効成分として、キコル酸を含有する。このものとしては、SymFinity(登録商標)1298:シムライズ株式会社製が用いられる。
【0016】
本実施形態の皮膚外用剤において、成分(A)のムラサキバレンギク抽出物の含有量は、例えば、0.01~0.5質量%が好ましく、0.05~0.15質量%がより好ましい。ムラサキバレンギク抽出物は、例えば、ボディーソープやシャンプー等の皮膚洗浄剤に添加されることで、洗浄後の肌や毛髪に潤いを与えることができ、抗酸化作用も期待される。また、液剤の見た目において、ムラサキバレンギク抽出物由来の淡黄色が程よく感じられ、使用者に好印象を与えることができる。
【0017】
ムラサキバレンギク抽出物を皮膚外用剤に含有させる方法としては、精製水に含有させる他に、例えば、グリセリン等の多価アルコールに溶解して組成物に含有させる方法等が挙げられる。
【0018】
成分(B)のピロ亜硫酸ナトリウムの含有量は、例えば、0.001~0.5質量%が好ましく、0.005~0.2質量%がより好ましい。成分(B)が少な過ぎると、後述するように、成分(A)の変色抑制効果が低下してしまう。一方、成分(B)が多過ぎると、皮膚外用剤として使用された際に、肌や毛髪に悪影響を及ぼす虞がある。
【0019】
また、成分(A)のムラサキバレンギク抽出物及び成分(B)のピロ亜硫酸ナトリウムは、皮膚外用剤の全量に対して、例えば、0.01~0.5質量%で含有され、好ましくは、0.05~0.15質量%で含有される。成分(A)及び成分(B)の含有比は、例えば、成分(A):成分(B)=100:1~1:1の範囲で設定され、好ましくは、成分(A):成分(B)=30:1~10:1の範囲で設定される。
【0020】
成分(C)の1,3-ブチレングリコールの含有量は、例えば、1~50質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。本実施形態の皮膚外用剤は、上記成分(A)(B)(C)に加えて、キレート剤、防腐剤、及びpH調整剤等が添加され後、残渣として水がそれらと相補的に含有されることにより生成される。
【0021】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(EDTA-2Na)が用いられる。EDTA-2Naは、主に、洗顔料、シャンプー等の洗浄剤に用いられ、硬水や温泉水等のカルシウムやマグネシウム等のミネラルによって洗浄剤の界面活性力が低下しないよう、キレート作用により金属イオンを不活性化する目的で添加される。本実施形態の皮膚外用剤では、例えば、EDTA-2Na(キレスト2B-SD:中部キレスト株式会社製)が0.01~0.1質量%で含有される。
【0022】
防腐剤としては、グリコールエーテル、グリセリルアルキルエーテル又はアルカンジオールといった、皮膚外用剤において一般に防腐剤として添加される材料が用いられ、例えば、フェノキシエタノール、フェノキシイソプロパノール、フェノキシプロパンジオール等が好適に用いられる。本実施形態の皮膚外用剤では、例えば、フェノキシエタノール(Microcare(登録商標)PE:ソー・ジャパン株式会社製)が0.01~0.5質量%で含有される。
【0023】
また、pH調整剤として、クエン酸、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等が、設定されたpHを実現すべく微量添加される。また、残渣に追加される水としては、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水、精製水又は天然水が挙げられ、殺菌済みのものが好ましい。
【0024】
<変色試験1>
本実施形態の皮膚外用剤において、ムラサキバレンギク抽出物の変色抑制にどのような効果を示すかについて、各成分を下記表2~表7に示す割合で調整したサンプルを作製した単純系において、変色試験を行った。試験は、各サンプルを所定の温度条件(-18℃、5℃、25℃、40℃、50℃)及び蛍光灯(紫外線)照射条件に置き、夫々1ケ月経過時における変色の程度を目視により確認した。そして、変色の程度を、下記の表1に示すように、4段階(◎、〇、△、×(2パターン))で評価した。
【0025】
【表1】
【0026】
試験1A~1Gにおけるサンプルの組成(配合成分と含有量)と、変色試験1の結果を下記の表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
上記表2(及び下記表3)の結果から明らかなように、pHを3~6に調整したサンプル(試験1A~1D)では、いずれの条件においてもムラサキバレンギク抽出物の変色が殆ど見られず、変色抑制効果が高いことが示された。これに対して、pHを7調整したサンプル(試験1E)では、40℃以上の高温条件で変色が見られ、pHを8、9調整したサンプル(試験1F、1G)では、著しい変色が見られた。従って、ピロ亜硫酸ナトリウムによるムラサキバレンギク抽出物の変色抑制効果は、pH6以下で発現することが示された。
【0029】
<変色試験2>
次に、(B)成分のピロ亜硫酸ナトリウムを添加せずに、上記変色試験1(表2)と同様に、pHを3~9の範囲で変化させ、上記の変色抑制効果が(B)成分の添加に基づくものであるかを確認する試験を行った。この変色試験2の結果を下記の表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
上記表3の結果から、pHを3~5に調整したサンプル(試験2A~2C)では、ムラサキバレンギク抽出物の変色はあまり見られなかったが、高温条件になるほど変色が見られ、また、-18℃の低温条件でも変色を生じ易くなることが示された。これに対して、表2で示した(B)成分のピロ亜硫酸ナトリウム添加系では、表3の無添加系では変色した条件でも変色が見られなかった。従って、(B)成分のピロ亜硫酸ナトリウムにムラサキバレンギク抽出物の変色抑制効果があることが示された。
【0032】
<変色試験3>
続いて、(B)成分のピロ亜硫酸ナトリウムの含有量を変化させて、pHを5.5~6に保ち、(B)成分の変色抑制効果と、その含有量との関係を調べる試験を行った。また、試験3E~3Gでは、成分(A)と成分(B)との配合比を変化させて試験を行った。この変色試験3の結果を下記の表4に示す。
【0033】
【表4】
【0034】
上記表4の結果から、(B)成分のピロ亜硫酸ナトリウムは、0.005質量%の含有量でムラサキバレンギク抽出物の変色抑制効果があることが示された(試験3A参照)。そして、(A)成分との含有比においては、(B)成分は(A)成分の1/20以上含有されていれば効果があることが示された。また、試験3Eに示されるように、(A)成分の含有量が少なければ、(B)成分の含有量も少なくてよいことが分かった。ただし、(A)成分の含有量が多くなると(0.2質量%)、-18℃の低温条件では変色を抑制しきれないことが分かった(試験3F、3G参照)。
【0035】
<変色試験4>
更に、成分(A)と成分(B)との配合比を、上記変色試験3から変化させて試験を行った。ここでは、成分(A)を0.15質量%又は0.2質量%とした。この変色試験3の結果を下記の表5に示す。
【0036】
【表5】
【0037】
上記表5の結果から、(A)成分が0.15質量%でも、(B)成分は(A)成分の1/30以上含有されていれば一定の効果があることが示された(試験4A参照)。一方、試験4Eに示されるように、(A)成分の含有量が多いのに対して、(B)成分の含有量が少ないと(1/40)、-18℃の低温条件だけでなく、50℃の高温条件で変色を抑制しきれないことが分かった。また、(A)成分が0.2質量%になると、(A)成分が0.15質量%である場合と比べて、-18℃の低温条件で変色を抑制できず(試験4E、4F参照)、(A)成分を0.15質量%以下とすることに有意差があることが分かった。
【0038】
<変色試験5>
次に、ピロ亜硫酸ナトリウム以外に、一般的な酸化防止剤において、ムラサキバレンギク抽出物の変色抑制効果があるかを検証した。酸化防止剤としては、亜硫酸ナトリウム(試験5C)、メタリン酸ナトリウム(試験5D)、アスコルビン酸ナトリウム(試験5E、5F)を用い、アスコルビン酸ナトリウムについては、異なる含有量で試験した。なお、対比のため、ピロ亜硫酸ナトリウム添加系(試験5A)及び無添加系(試験5B)も用意した。この変色試験5の結果を下記の表6に示す。
【0039】
【表6】
【0040】
上記表6の結果から、亜硫酸ナトリウム(試験5C)、メタリン酸ナトリウム(試験5D)、アスコルビン酸ナトリウム(試験5E、5F)のいずれにおいても、ムラサキバレンギク抽出物の変色抑制効果が十分ではなく、特に、高温条件では、変色抑制効果が低いことが示された。また、この結果は、酸化防止剤の中には、既に植物由来成分の変色等を抑制する効果を有するものが報告されているものの(上記特許文献2参照)、多種ある酸化防止剤のいずれもがムラサキバレンギク抽出物の変色抑制効果を有する訳ではなく、ピロ亜硫酸ナトリウムは、選択的に高い変色抑制効果を有するものであることを示す。
【0041】
<変色試験6>
続いて、成分(C)の1,3-ブチレングリコールの添加がもたらす影響を検証した。上記変色試験1~5では、いずれも成分(C)の含有量を5質量%としたが、ここでは、2~15質量%の範囲で変化させた(試験6A~6D)。また、1,3-ブチレングリコール以外の多価アルコールにおいても同様の効果が見られるのかを確認した。多価アルコールとしては、ペンチレングリコール(試験6F)、プロパンジオール(試験6G)、グリセリン(試験6H)を用いた。なお、対比のため、多価アルコール無添加系(試験6Eも用意した。この変色試験6の結果を下記の表7に示す。
【0042】
【表7】
【0043】
上記表7の結果から、成分(C)の1,3-ブチレングリコールは、5質量%の含有量で、-18℃の低温条件でもムラサキバレンギク抽出物の変色抑制効果を有することが示された。また、成分(C)の含有量が多くなっても、変色抑制効果に影響はなかった。また、5℃以上の温度条件においては、成分(C)が無くても、変色抑制効果は変わらないが、-18℃の低温条件では、1,3-ブチレングリコール以外の多価アルコールでは、変色抑制効果が低下することが示された。すなわち、多種ある多価アルコールのいずれもがピロ亜硫酸ナトリウムによるムラサキバレンギク抽出物の変色抑制効果を高める訳ではなく、選択的に1,3-ブチレングリコールを用いる意義があることが示された。
【0044】
なお、本発明に係る皮膚外用剤は、主に、化粧料や皮膚洗浄剤に適用されることを想定しているが、皮膚外用剤以外にも、例えば、健康増進等を目的とする飲食品、栄養補助食品、サプリメントに適用することができる。