(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010403
(43)【公開日】2024-01-24
(54)【発明の名称】予後予測方法、治療効果予測方法、マーカー、変異パネル、発現パネル、及び診断薬
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20240117BHJP
C12Q 1/6827 20180101ALI20240117BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240117BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20240117BHJP
C40B 40/02 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/6827 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6886 Z
C40B40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111723
(22)【出願日】2022-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】赤崎 安晴
(72)【発明者】
【氏名】武井 淳
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊英
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智也
(72)【発明者】
【氏名】村山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 裕子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA17
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】予後予測方法、治療効果予測方法、マーカー、変異パネル、発現パネル、及び診断薬を提供する。
【解決手段】悪性脳腫瘍患者由来の検体中の表1で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の変異をin vitroで測定し、前記患者に対する予後を評価すること、及び/又は、前記検体中の表2~4で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量をin vitroで測定し、前記患者に対する予後を評価すること、を含む、予後予測方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪性脳腫瘍患者由来の検体中の下記表1で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の変異をin vitroで測定し、前記患者に対する予後を評価すること、及び/又は、
前記検体中の下記表2~4で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量をin vitroで測定し、前記患者に対する予後を評価すること、を含む、予後予測方法。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【請求項2】
樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療を受ける悪性脳腫瘍患者由来の検体中の下記表5で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の変異をin vitroで測定し、前記患者に対する前記治療効果を評価すること、及び/又は、
前記検体中の下記表6~8で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量をin vitroで測定し、前記患者に対する前記治療効果を評価すること、を含む、治療効果予測方法。
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【請求項3】
悪性脳腫瘍患者における予後予測マーカーであって、
悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、下記表9~12で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、マーカー。
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【請求項4】
前記予後は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療効果である、請求項3に記載のマーカー。
【請求項5】
悪性脳腫瘍患者における予後を予測するための変異パネルであって、
悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、下記表13で表される遺伝子群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、変異パネル。
【表13】
【請求項6】
前記予後は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療効果である、請求項5に記載の変異パネル。
【請求項7】
悪性脳腫瘍患者における予後を予測するための発現パネルであって、
悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、下記表14~16で表される遺伝子群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、発現パネル。
【表14】
【表15】
【表16】
【請求項8】
前記予後は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療効果である、請求項7に記載の発現パネル。
【請求項9】
治療を受ける悪性脳腫瘍患者に用いられるコンパニオン診断薬であって、
下記表17~20で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子を増幅するためのプライマーセット、及び/又は前記遺伝子若しくはその増幅産物に結合するプローブを含む、診断薬。
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【請求項10】
前記治療は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療である、請求項9に記載の診断薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予後予測方法、治療効果予測方法、マーカー、変異パネル、発現パネル、及び診断薬に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性神経膠種及び神経膠芽腫は、脳にできる悪性腫瘍の中では発症頻度が高く、その一方で手術治療及び手術後の放射線治療・テモダール化学療法を併用する標準治療のみではいずれ再発を来す。
そのため新たな治療法の開発を目的とした様々な臨床研究が世界中で行われており、発明者らは、腫瘍細胞および樹状細胞との融合細胞を用いた免疫療法(以下、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法ともいう。)を標準治療と同時に行う臨床研究を行っている(非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Akasaki Y, Kikuchi T, Homma S, Koido S, Ohkusa T, Tasaki T, Hayashi K, Komita H, Watanabe N, Suzuki Y, Yamamoto Y, Mori R, Arai T, Tanaka T, Joki T, Yanagisawa T, Murayama Y. Phase I/II trial of combination of temozolomide chemotherapy and immunotherapy with fusions of dendritic and glioma cells in patients with glioblastoma. Cancer Immunol Immunother. 2016 ;65(12):1499-1509.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
係る臨床研究から、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の効果は患者によって異なることが分かっている。事前に治療効果を予測することは重要であるが、現状、悪性脳腫瘍に対する樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療効果を予測するマーカーはないため、その開発は急務である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]悪性脳腫瘍患者由来の検体中の下記表1で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の変異をin vitroで測定し、前記患者に対する予後を評価すること、及び/又は、前記検体中の下記表2~4で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量をin vitroで測定し、前記患者に対する予後を評価すること、を含む、予後予測方法。
【0006】
【0007】
【0008】
【0009】
【0010】
[2]樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療を受ける悪性脳腫瘍患者由来の検体中の下記表5で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の変異をin vitroで測定し、前記患者に対する前記治療効果を評価すること、及び/又は、前記検体中の下記表6~8で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量をin vitroで測定し、前記患者に対する前記治療効果を評価すること、を含む、治療効果予測方法。
【0011】
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
[3]悪性脳腫瘍患者における予後予測マーカーであって、悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、下記表9~12で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、マーカー。
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
[4]前記予後は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療効果である、[3]に記載のマーカー。
【0021】
[5]悪性脳腫瘍患者における予後を予測するための変異パネルであって、悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、下記表13で表される遺伝子群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、変異パネル。
【0022】
【0023】
[6]前記予後は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療効果である、[5]に記載の変異パネル。
[7]悪性脳腫瘍患者における予後を予測するための発現パネルであって、悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、下記表14~16で表される遺伝子群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、発現パネル。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
[8]前記予後は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療効果である、[7]に記載の発現パネル。
[9]治療を受ける悪性脳腫瘍患者に用いられるコンパニオン診断薬であって、下記表17~20で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子を増幅するためのプライマーセット、及び/又は前記遺伝子若しくはその増幅産物に結合するプローブを含む、診断薬。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
[10]前記治療は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療である、[9]に記載の診断薬。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、悪性脳腫瘍に対する樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療効果の予測に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】遺伝子変異の有無による生存曲線の解析結果である。
【
図2】遺伝子変異の有無による生存曲線の解析結果である。
【
図3】遺伝子変異の有無による生存曲線の解析結果である。
【
図4】遺伝子変異の有無による生存曲線の解析結果である。
【
図5】遺伝子変異の有無による生存曲線の解析結果である。
【
図6】遺伝子変異の有無による生存曲線の解析結果である。
【
図7】遺伝子変異の有無による生存曲線の解析結果である。
【
図8】遺伝子変異の有無による生存曲線の解析結果である。
【
図9】遺伝子変異の有無による生存曲線の解析結果である。
【
図10】遺伝子変異の有無による生存曲線の解析結果に基づく、遺伝子変異パネルである。
【
図11】予後不良群で高発現していた遺伝子群のリストである。
【
図12】予後不良群で高発現していた遺伝子群のリストである。
【
図13】予後不良群で高発現していた遺伝子群のリストである。
【
図14】予後不良群で低発現していた遺伝子群のリストである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
≪予後予測マーカー≫
本実施形態は、悪性脳腫瘍患者における予後予測マーカーであって、悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、上記表9~12で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、マーカーを提供する。
悪性脳腫瘍としては、悪性神経膠腫、神経膠芽腫等が挙げられる。
実施例において後述するように、本発明者は、悪性神経膠腫の患者に対して、腫瘍摘出手術を施行し、摘出した腫瘍組織から、腫瘍細胞を培養した。係る腫瘍細胞から遺伝子を抽出し、その遺伝子変異と遺伝子発現を網羅的に解析し、予後予測マーカーとしての遺伝子を見出した。
【0036】
[変異パネル]
予後予測マーカーとしての遺伝子の内、遺伝子変異が予後を予測するマーカーとなる遺伝子のリストを以下の表に示す。
【0037】
【0038】
【0039】
本実施形態の変異パネルは、悪性脳腫瘍患者における予後を予測するための変異パネルであって、悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、上記表13で表される遺伝子群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む。変異パネルにおける遺伝子の数は、多いほどよく、予後予測の精度が上がる。
【0040】
[発現パネル]
予後予測マーカーとしての遺伝子の内、遺伝子の発現量が予後を予測するマーカーとなる遺伝子のリストを以下の表に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
本実施形態の発現パネルは、悪性脳腫瘍患者における予後を予測するための発現パネルであって、悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、上記表14~16で表される遺伝子群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む。発現パネルにおける遺伝子の数は、多いほどよく、予後予測の精度が上がる。
【0054】
本実施形態の予後予測マーカーは、上記表9~12で表される遺伝子群の遺伝子の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる核酸も含む。
【0055】
本実施形態において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、5×SSC(20×SSCの組成:3M 塩化ナトリウム,0.3M クエン酸溶液,pH7.0)、0.1重量% N-ラウロイルサルコシン、0.02重量%のSDS、2重量%の核酸ハイブルダイゼーション用ブロッキング試薬、及び50%フォルムアミドから成るハイブリダイゼーションバッファー中で、55~70℃で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件を挙げることができる。なお、インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1重量%SDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1重量%SDS含有0.1×SSC溶液である。
【0056】
本実施形態の予後予測マーカーは、上記表9~12で表される遺伝子群の遺伝子の塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列を含む核酸であることが好ましい。同一性としては、95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上が特に好ましく、99%以上が最も好ましい。
【0057】
本実施形態の予後予測マーカーにおける遺伝子の数は、多いほどよく、予後予測の精度が上がる。
【0058】
≪コンパニオン診断薬≫
本実施形態は、治療を受ける悪性脳腫瘍患者に用いられるコンパニオン診断薬であって、上記表17~20で表されるの遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子を増幅するためのプライマーセット、及び/又は前記遺伝子若しくはその増幅産物に結合するプローブを含む、診断薬を提供する。
【0059】
樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の効果は患者によって異なることから、本実施形態の診断薬を用いることにより、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療の可否を判断することができる。
【0060】
≪薬効予測キット≫
本実施形態は、上記診断薬を含む、悪性脳腫瘍患者における予後予測用キットを提供する。
【0061】
本実施形態のキットは、生検試料等から核酸(例えば、total RNA)を抽出するためのキット、標識用蛍光物質、核酸増幅用試薬等を含むことが好ましい。
【0062】
≪予後予測デバイス≫
本実施形態は、悪性脳腫瘍患者における予後予測デバイスであって、固相と、前記固相に結合した上述した予後予測マーカーとハイブリダイズし得る核酸を含む、予後予測デバイスを提供する。
【0063】
本実施形態のデバイスは、上記核酸が固相に結合したものである。固相としては、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板、金属基板等が挙げられる。上記核酸が固相に結合したものとして、DNAアレイ、RNAアレイ等の核酸アレイが挙げられる。核酸アレイとしては、L-リジンやアミノ基、カルボキシル基等の官能基でコートされた固相表面に核酸が固定されたものが挙げられる。
【0064】
≪予後予測方法≫
本実施形態は、悪性脳腫瘍患者由来の検体中の上記表1で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の変異をin vitroで測定し、前記患者に対する予後を評価すること、及び/又は、前記検体中の上記表2~4で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量をin vitroで測定し、前記患者に対する予後を評価すること、を含む、予後予測方法を提供する。
例えば、患者由来の検体中の上記遺伝子発現量と、予後良好が分かっている対照者の対照発現量とを用いて両発現量を比較して、検体中の上記遺伝子発現量が、予後良好対照者の対照発現量と一致する又は近い場合、患者が、予後良好であると予測できる。
また、例えば、患者由来の検体中の上記遺伝子発現量と、予後不良が分かっている対照者の対照発現量とを用いて両発現量を比較して、検体中の上記遺伝子発現量が、予後不良対照者の対照発現量と一致する又は近い場合、患者が、予後不良であると予測できる。
また、例えば、患者由来の検体中の上記遺伝子変異の有無と、予後良好が分かっている対照者の遺伝子変異の有無を比較して、検体中の上記遺伝子変異の有無が、予後良好対照者の遺伝子変異の有無と一致する場合、患者が、予後良好であると予測できる。
また、例えば、患者由来の検体中の上記遺伝子変異の有無と、予後不良が分かっている対照者の遺伝子変異の有無を比較して、検体中の上記遺伝子変異の有無が、予後良好対照者の遺伝子変異の有無と一致する場合、患者が、予後不良であると予測できる。
【0065】
本実施形態において、検体としては、生検試料等が挙げられ、検体から核酸(例えば、total RNA)を抽出する方法としては、酸性フェノールを含むRNA抽出用試薬を用いた方法等が挙げられ、定法に従う。
【0066】
患者由来の検体中の遺伝子の検出方法としては、プライマーを用いてPCRにより、特定の遺伝子断片を増幅し、その増幅産物を解析してもよく、特定の遺伝子又は遺伝子変異に相補的なプローブを用いて、ハイブリダイゼーションを用いた方法により、解析してもよい。
遺伝子発現量を定量する観点から、PCRにより特定の遺伝子断片を増幅し、その増幅産物を解析することが好ましい。具体的な定量方法としては、次世代シークエンサー(NGS)法やリアルタイムPCR(RT-PCR)法が挙げられる。
【0067】
次世代シークエンサーでは、解析されたDNA断片をリードと呼び、リード数と1リード当たりに決定される塩基数(リード長)の積が出力データとなる。本実施形態において、上記表2~4で表される遺伝子群遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子をsingleplex PCRまたはmultiplex PCRで増幅し、次世代シークエンサー(NGS)でその増幅産物の塩基配列を解析し、当該領域のリード数を計数することにより定量することが好ましい。
multiplex PCRは、一つのPCR反応系に複数のプライマー対を同時に使用することで、複数の遺伝子領域を同時に増幅する方法である。上述した特定のmiRNAにアニールするプライマーの組み合わせの少なくとも一部を、一つのPCR反応系で使用してもよい。
【0068】
リアルタイムPCRでは、インターカレータ-法、プローブ法、サイクリングプローブ法等を用いて、蛍光強度を検出することにより、増幅産物の生成量をモニターすることができる。本実施形態において、上記遺伝子群から選択される少なくとも1つをsingleplexまたはmultiplexのリアルタイムPCR法により定量することが好ましい。multiplex PCRにおいては、上述した特定の遺伝子にアニールする様々なプライマーの組み合わせの少なくとも一部を、一つのPCR反応系で使用してもよい。
【0069】
また、リアルタイムPCRにおいては、特定の遺伝子に相補的な蛍光色素標識プローブを用いることが好ましい。
定量方法としては、ターゲットの実際のコピー数を決定する絶対定量法とサンプル間の相対値を決定する比較定量法が挙げられ、取得したいデータの質に応じて使い分けられる。
【0070】
上記各実施形態において、予後は、悪性脳腫瘍に関連するものであれば、特に制限されない。予後としては、生存期間、生存率、悪性脳腫瘍の悪化の有無、悪性脳腫瘍の改善の有、悪性脳腫瘍の再発の有無、癌の転移の有無が挙げられる。予後は、治療予後が好ましい。
治療としては、手術治療、手術後の放射線治療・デモダール化学療法を併用する標準治療、標準治療と同時に行う腫瘍細胞と樹状細胞との融合細胞を用いた免疫療法(樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法)等が挙げられ、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法が好ましい。
樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法とは、悪性神経膠腫の患者から摘出し培養した腫瘍細胞と、遠心型血液成分分離(アフェレーシス)装置を用いて、同患者から採取し培養した樹状細胞とを融合して得られる融合細胞を、28日毎に3~10回患者の頚部に注射投与する療法である。係る療法により、悪性脳腫瘍に対して免疫応答が誘発される。
【0071】
即ち、本実施形態は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療を受ける悪性脳腫瘍患者由来の検体中の上記表5で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の変異をin vitroで測定し、前記患者に対する前記治療効果を評価すること、及び/又は、前記検体中の上記表6~8で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量をin vitroで測定し、前記患者に対する前記治療効果を評価すること、を含む、治療効果予測方法を提供する。
また、本実施形態は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療を受ける悪性脳腫瘍患者における治療効果予測マーカーであって、悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、上記表9~12で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子を含む、マーカーを提供する。
また、本実施形態は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療を受ける悪性脳腫瘍患者における治療効果を予測するための変異パネルであって、悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、上記表13で表される遺伝子群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、変異パネルを提供する。
また、本実施形態は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療を受ける悪性脳腫瘍患者における治療効果を予測するための発現パネルであって、悪性脳腫瘍患者由来の検体中に含まれる、上記表14~16で表される遺伝子群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、発現パネルを提供する。
また、本実施形態は、樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療を受ける悪性脳腫瘍患者に用いられるコンパニオン診断薬であって、上記表17~20で表される遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子を増幅するためのプライマーセット、及び/又は前記遺伝子若しくはその増幅産物に結合するプローブを含む、診断薬を提供する。
【0072】
本実施形態により、悪性脳腫瘍に対する樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療効果の予測に寄与する。
【実施例0073】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
樹状細胞・腫瘍細胞融合細胞療法の治療を行った悪性脳腫瘍患者の脳腫瘍細胞の遺伝子変異と遺伝子発現を網羅的に解析し、予後(治療効果)と関連のある遺伝子を探索した。
図1~
図9に示す様に、TONSL、TACC2など53遺伝子(Log Rank test, p < 0.1)の遺伝子変異が治療効果を予測するマーカーとして同定された。
これらの遺伝子変異は単独で使用するよりも組み合わせて使用することでより効果予測の精度が上がるため、この遺伝子変異を網羅的に解析する次世代シークエンサーの解析パネルを作成した(
図10参照。)。
また、遺伝子発現解析から予後不良群で高発現していた遺伝子(
図11~13参照。)、265個、及び低発現していた遺伝子124個を発見した(
図14参照。)。これらの遺伝子の発現についても治療効果を予測するマーカーとなるため、遺伝子発現解析パネルを作成できる。