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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104031
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】転動部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240726BHJP
   C22C 38/24 20060101ALI20240726BHJP
   C21D 9/36 20060101ALN20240726BHJP
   C21D 9/40 20060101ALN20240726BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20240726BHJP
【FI】
C22C38/00 301N
C22C38/24
C21D9/36
C21D9/40
C21D9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008036
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 美有
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌弘
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA14
4K042AA18
4K042AA22
4K042BA03
4K042BA04
4K042BA08
4K042BA09
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA13
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DD02
4K042DE02
(57)【要約】
【課題】鋼材コストを低下させつつ、水素脆性に起因する剥離寿命、表面起点型剥離に起因する剥離寿命及び疲労強度が改善された転動部材を提供する。
【解決手段】転動部材(10,20,30)は、表面を有する鋼製の転動部材である。転動部材は、表面に、表層部(50)を備えている。鋼は、炭素と、シリコンと、マンガンと、クロムと、モリブデンと、バナジウムと、アルミニウムと、リンと、硫黄と、窒素と、酸素とを含み、残部が鉄及び不可避不純物からなる。表層部には、浸窒処理が行われている。表面からの深さが5μm以下となる表層部の第1領域では、圧縮残留応力が80MPa以上になっている。表面からの深さが20μm以下となる表層部の第2領域では、窒素の含有量が0.2質量パーセント以上0.8質量パーセント以下であり、比較面積率が30パーセントにおけるマルテンサイトブロック粒の平均粒径が2.0μm以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有する鋼製の転動部材であって、
前記表面に表層部を備え、
前記鋼は、0.80質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.15質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のシリコンと、0.30質量パーセント以上0.70質量パーセント以下のマンガンと、1.30質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のモリブデンと、0.12質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.005質量パーセント以上0.050質量パーセント以下のアルミニウムと、0.020質量パーセント以下のリンと、0.010質量パーセント以下の硫黄と、0.015質量パーセント以下の窒素と、0.0015質量パーセント以下の酸素とを含み、残部が鉄及び不可避不純物からなり、
前記表層部には、浸窒処理が行われており、
前記表面からの深さが5μm以下となる前記表層部の第1領域では、圧縮残留応力が80MPa以上になっており、
前記表面からの深さが20μm以下となる前記表層部の第2領域では、窒素の含有量が0.2質量パーセント以上0.8質量パーセント以下であり、比較面積率が30パーセントにおけるマルテンサイトブロック粒の平均粒径が2.0μm以下である、転動部材。
【請求項2】
前記表面からの距離が50μm以下となる前記表層部の第3領域では、120℃で2000時間の加熱を行った後の残留オーステナイト量が120℃で2000時間の加熱を行う前の残留オーステナイト量の60パーセント以上である、請求項1に記載の転動部材。
【請求項3】
前記第2領域では、マルテンサイトブロック粒の最大粒径が5.0μm以下である、請求項1に記載の転動部材。
【請求項4】
前記第2領域では、クロム又はバナジウムを主成分とする析出物の最大粒径が0.5μm以下であり、前記析出物の平均面積率が2.0パーセント以上である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の転動部材。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の前記転動部材を備える、転動部品。
【請求項6】
請求項4に記載の前記転動部材を備える、転動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や産業機械等の分野では、低燃費化が加速している。それに伴って、自動車や産業機械等に用いられる軸受、歯車、シャフト等の小型化や軽量化が求められる。軸受、歯車、シャフト等は、小型化や軽量化されると使用条件が過酷になるため、高耐久化や高強度化が求められる。
【0003】
例えば自動車や産業機械等の動力伝達装置に用いられる軸受では、高振動、高荷重、急加減速、高温等の厳しい負荷条件で使用される結果、軌道面や転動面にすべりが生じ、潤滑油に混入した水分や潤滑油が分解されて発生した水素が軌道面や転動面から鋼内部に侵入し、水素脆化が発生することがある。水素脆化は、軌道面や転動面において、早期剥離の原因となることがある。また、自動車や産業機械等の動力伝達装置に用いられる軸受では、動力伝達装置に含まれている歯車の摩耗や欠けに伴って、硬質の異物が軸受内部に侵入することがある。このような硬質の異物は、表面損傷や異物に起因した表面起点型剥離の原因となる。
【0004】
例えば自動車や産業機械等の動力伝達装置に用いられる歯車は、接触面(歯車同士が噛み合う面)におけるすべりを伴いながら転動するため、接触面から鋼内部に侵入した水素により水素脆化が引き起こされることがある。また、自動車や産業機械等の動力伝達装置に用いられる歯車は、繰り返し負荷が加わることで歯元に微小な亀裂が発生し、歯元において折損(疲労破壊)が生じることがある。
【0005】
例えば自動車や産業機械等の動力伝達装置に用いられるシャフト(アクスルシャフト、ドライブシャフト)では、自動車や産業機械等の高速旋回等が繰り返されることにより亀裂が発生し、折損(疲労破壊)が生じてしまうことがある。
【0006】
上記のような問題に対応するための技術としては、特開2009-7614号公報(特許文献1)、特許第6735589号公報(特許文献2)及び特許第6356881号公報(特許文献3)に記載の技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-7614号公報
【特許文献2】特許第6735589号公報
【特許文献3】特許第6356881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、トランスミッション用の部材を構成している鋼にニッケルが添加されている。しかしながら、ニッケルは高価であるため、鋼材へのニッケルの添加は、鋼材コストの上昇を招く。特許文献2や特許文献3では、水素脆性に起因する剥離寿命、表面起点型剥離に起因する剥離寿命及び疲労強度に改善の余地がある。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本発明は、鋼材コストを低下させつつ、水素脆性に起因する剥離寿命、表面起点型剥離に起因する剥離寿命及び疲労強度が改善された転動部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の転動部材は、表面を有する鋼製の転動部材である。転動部材は、表面に、表層部を備えている。鋼は、0.80質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.15質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のシリコンと、0.30質量パーセント以上0.70質量パーセント以下のマンガンと、1.30質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のモリブデンと、0.12質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.005質量パーセント以上0.050質量パーセント以下のアルミニウムと、0.020質量パーセント以下のリンと、0.010質量パーセント以下の硫黄と、0.015質量パーセント以下の窒素と、0.0015質量パーセント以下の酸素とを含み、残部が鉄及び不可避不純物からなる。表層部には、浸窒処理が行われている。表面からの深さが5μm以下となる表層部の第1領域では、圧縮残留応力が80MPa以上になっている。表面からの深さが20μm以下となる表層部の第2領域では、窒素の含有量が0.2質量パーセント以上0.8質量パーセント以下であり、比較面積率が30パーセントにおけるマルテンサイトブロック粒の平均粒径が2.0μm以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の転動部材によると、鋼材コストを低下させつつ水素脆性に起因する剥離寿命、表面起点型剥離に起因する剥離寿命及び疲労強度が改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】転がり軸受100の断面図である。
図2】転がり軸受100の製造工程図である。
図3】試験片60の側面図である。
図4】ボールねじ200の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。以下の図面では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。実施形態に係る転動部品の例を、転がり軸受100とする。本明細書では、転動部品は、転動しながら他から動力を受け取る又は他に動力を伝達する部品である。また、本明細書では、転動部材は、転動部品の構成部材である。そのため、実施形態に係る転動部品は、転がり軸受100に限られるものではない。
【0014】
(転がり軸受100の構成)
以下に、転がり軸受100の構成を説明する。
【0015】
図1は、転がり軸受100の断面図である。図1に示されるように、転がり軸受100は、例えば深溝玉軸受である。但し、転がり軸受100は、深溝玉軸受に限られるものではない。
【0016】
転がり軸受100は、内輪10と、外輪20と、複数の転動体30と、保持器40とを有している。内輪10の中心軸を、中心軸Aとする。中心軸Aの方向を、軸方向とする。中心軸Aを通り、かつ中心軸Aに直交する方向を、径方向とする。軸方向に沿って見た際に、中心軸Aを中心とする円周に沿う方向を、周方向とする。
【0017】
内輪10は、幅面10aと、幅面10bと、内径面10cと、外径面10dとを有している。幅面10a、幅面10b、内径面10c及び外径面10dを合わせて、内輪10の表面ということがある。内輪10は、周方向に延在している円環状である。
【0018】
幅面10a及び幅面10bは、軸方向における内輪10の端面である。幅面10aは、軸方向における一方側(図1中では右側)を向いている。幅面10bは、軸方向における幅面10aの反対面であり、軸方向における他方側(図1中では左側)を向いている。
【0019】
内径面10cは、周方向に延在している。内径面10cは、中心軸A側を向いている。外径面10dは、周方向に延在している。外径面10dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外径面10dは、径方向における内径面10cの反対面である。内径面10cの軸方向における一方端及び他方端は、それぞれ、幅面10a及び幅面10bに連なっている。外径面10dの軸方向における一方端及び他方端は、それぞれ、幅面10a及び幅面10bに連なっている。
【0020】
外径面10dは、軌道面10daを有している。軌道面10daは、転動体30に接触する外径面10dの部分である。外径面10dは、軌道面10daにおいて内径面10c側に凹んでいる。周方向に直径する断面視において、軌道面10daは、例えば部分円弧状である。内輪10は、内径面10cにおいて、軸(図示せず)に嵌め合わされる。
【0021】
外輪20は、幅面20aと、幅面20bと、内径面20cと、外径面20dとを有している。幅面20a、幅面20b、内径面20c及び外径面20dを合わせて、外輪20の表面ということがある。外輪20は、周方向に延在している円環状である。
【0022】
幅面20a及び幅面20bは、軸方向における外輪20の端面である。幅面20aは、軸方向における一方側(図1中では右側)を向いている。幅面20bは、軸方向における幅面20aの反対面であり、軸方向における他方側(図1中では左側)を向いている。
【0023】
内径面20cは、周方向に延在している。内径面20cは、中心軸A側を向いている。外径面20dは、周方向に延在している。外径面20dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外径面20dは、径方向における内径面20cの反対面である。内径面20cの軸方向における一方端及び他方端は、それぞれ、幅面20a及び幅面20bに連なっている。外径面20dの軸方向における一方端及び他方端は、それぞれ、幅面20a及び幅面20bに連なっている。
【0024】
内径面20cは、軌道面20caを有している。軌道面20caは、転動体30に接触する内径面20cの部分である。内径面20cは、軌道面20caにおいて外径面20d側に凹んでいる。周方向に直径する断面視において、軌道面20caは、例えば部分円弧状である。外輪20は、外径面20dにおいて、ハウジング(図示せず)に嵌め合わされる。外輪20は、内径面20cが外径面10dと径方向において間隔を空けて対向するように、内輪10の径方向における外側に配置されている。
【0025】
転動体30は、球状である。転動体30は、軌道面10daと軌道面20caとの間に配置されている。転動体30の表面は、軌道面10da及び軌道面20caに接触する。保持器40は、外径面10dと内径面20cとの間に配置されている。保持器40は、隣り合う2つの転動体30の間の周方向における間隔が一定範囲内となるように、複数の転動体30を保持している。
【0026】
内輪10、外輪20及び転動体30は、焼入れ及び焼戻しが行われた鋼製である。内輪10を構成している鋼、外輪20を構成している鋼及び転動体30を構成している鋼は、表1に示されている組成を有している。
【0027】
【表1】
【0028】
炭素は、焼入れ後における転動部材(内輪10、外輪20及び転動体30)の表面における鋼の硬さに影響を与える。鋼中の炭素の含有量が0.80質量パーセント未満である場合、転動部材の表面において、十分な硬さを確保することが困難である。鋼中の炭素の含有量が0.80質量パーセント未満である場合、浸炭処理等により転動部材の表面における炭素含有量を補う必要があり、生産効率の低下及び製造コスト増加の要因となる。他方で、鋼中の炭素の含有量が1.10質量パーセントを超える場合、焼入れ時の割れ(焼割れ)が発生するおそれがある。そのため、表1に示されている組成では、炭素の含有量が0.80質量パーセント以上1.10質量パーセント以下とされている。
【0029】
シリコンは、鋼の精錬時の脱酸及び浸窒処理前の加工性確保のために加えられている。鋼中のシリコンの含有量が0.15質量パーセント未満である場合、焼戻し軟化抵抗が不十分となる。その結果、焼入れ後の焼戻し又は転がり軸受100の使用時の温度上昇により、転動部材の表面における硬さが低下するおそれがある。また、この場合、転動部材を加工する際の加工性が不十分となる。
【0030】
鋼中のシリコンの含有量が0.50質量パーセントを超える場合、鋼が硬くなり過ぎ、転動部材を加工する際の加工性がかえって低下する。また、この場合、鋼の材料コストが上昇してしまう。そのため、表1に示されている組成では、シリコンの含有量が0.15質量パーセント以上0.50質量パーセント以下とされている。
【0031】
マンガンは、鋼の焼入れ性及び硬さを確保するために加えられている。鋼中のマンガンの含有量が0.30質量パーセント未満である場合、鋼の焼入れ性を確保することが困難である。鋼中のマンガンの含有量が0.70質量パーセントを超える場合、不純物であるマンガン系の非金属介在物が増加してしまう。そのため、表1に示されている組成では、マンガンの含有量が0.30質量パーセント以上0.70質量パーセント以下とされている。
【0032】
クロムは、鋼の焼入れ性の確保するため及び浸窒処理に伴って微細な析出物(窒化物、炭窒化物)を形成させるために加えられている。鋼中のクロムの含有量が1.30質量パーセント未満である場合、鋼の焼入れ性を確保すること及び微細な析出物を十分形成することが困難である。鋼中のクロムの含有量が1.60質量パーセントを超える場合、鋼の材料コストが上昇してしまう。そのため、表1に示されている組成では、クロムの含有量が1.30質量パーセント以上1.60質量パーセント以下とされている。
【0033】
モリブデンは、鋼の焼入れ性を確保するため及び浸窒処理に伴って微細な析出物を形成させるために加えられている。モリブデンは、炭素に対して強い親和性があるため、浸窒処理の際に鋼中に未固溶炭化物として析出している。このモリブデンの未固溶炭化物が焼入れ時に析出核となるため、モリブデンは、焼入れ後の析出物の量を増加させる。
【0034】
鋼中のモリブデンの含有量が0.10質量パーセント未満である場合、鋼の焼入れ性を確保すること及び微細な析出物を十分に形成することが困難である。鋼中のモリブデンの含有量が0.50質量パーセントを超える場合、鋼の材料コストが上昇してしまう。そのため、表1に示されている組成では、モリブデンの含有量が0.10質量パーセント以上0.50質量パーセント以下とされている。
【0035】
バナジウムは、鋼の焼入れ性を確保するため及び浸窒処理に伴って微細な析出物を形成させるために加えられている。鋼中のバナジウムの含有量が0.12質量パーセント未満である場合、鋼の焼入れ性を確保すること及び微細な析出物を十分に形成することが困難である。鋼中のバナジウムの含有量が0.50質量パーセントを超える場合、鋼の材料コストが上昇してしまう。そのため、表1に示されている組成では、バナジウムの含有量が0.12質量パーセント以上0.50質量パーセント以下とされている。
【0036】
内輪10、外輪20及び転動体30は、焼入れ及び焼戻しが行われた鋼製である。内輪10を構成している鋼、外輪20を構成している鋼及び転動体30を構成している鋼は、リン、硫黄、窒素及び炭素を含んでいなくてもよい。
【0037】
内輪10の表面、外輪20の表面及び転動体30の表面には、浸窒処理が行われていることにより、表層部50が形成されている。表層部50の表面は、内輪10の表面、外輪20の表面又は転動体30の表面である。表面からの距離が5μm以下となる表層部50の領域を、第1領域とする。表面からの距離が20μm以下となる表層部50の領域を、第2領域とする。表面からの距離が50μm以下となる領域を、第3領域とする。表層部50の表面からの距離は、当該表面上の任意の点から当該表面に直交する方向に沿って測定される。表層部50には、第3領域がなくてもよい。
【0038】
第1領域では、残留圧縮応力が80MPa以上になっている。好ましくは、第1領域では、周方向に作用する残留圧縮応力が80MPa以上になっている。第1領域での残留応力は、X線回折法により測定される。
【0039】
第2領域では、窒素の含有量が0.2質量パーセント以上0.8質量パーセント以下になっている。第2領域での窒素の含有量は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定される。
【0040】
内輪10を構成している鋼、外輪20を構成している鋼及び転動体30を構成している鋼は、表層部50において、マルテンサイトブロック粒を有している。隣り合う2つのマルテンサイトブロック粒は、粒界において、結晶方位の差が15°以上になっている。このことを別の観点から言えば、結晶方位にずれがある箇所が存在していても、結晶方位の差が15°未満である場合、当該箇所は、マルテンサイトブロック粒の結晶粒界とは見做されない。マルテンサイトブロック粒の粒界は、EBSD(Electron Back Scattered Diffraction)法により決定される。
【0041】
第2領域では、比較面積率が30パーセントにおけるマルテンサイトブロック粒の平均粒径が2.0μm以下である。第2領域では、好ましくは、マルテンサイトブロック粒の最大粒径が5.0μm以下である。第2領域での比較面積率が30パーセントにおけるマルテンサイトブロック粒の平均粒径及び第2領域でのマルテンサイトブロック粒の最大粒径は、以下の方法により測定される。
【0042】
第1に、第2領域を含む断面において、断面観察が行われる。この際、EBSD法により観察視野に含まれているマルテンサイトブロック粒が特定される。この観察視野は、倍率1500倍において観察される領域である。第2に、EBSD法により得られた結晶方位データから、観察視野に含まれているマルテンサイトブロック粒の各々の面積が解析される。観察視野に含まれているマルテンサイトブロック粒の各々の面積の最大値をπ/4で除した値の平方根が、第2領域でのマルテンサイトブロック粒の最大粒径である。
【0043】
第3に、観察視野に含まれているマルテンサイトブロック粒の各々の面積を、面積が大きいものから順に加算していく。この加算は、観察視野に含まれているマルテンサイトブロック粒の合計面積の30パーセントに達するまで行われる。上記の加算の対象になったマルテンサイトブロック粒の各々について、円相当径が算出される。この円相当径は、マルテンサイトブロック粒の面積をπ/4で除した値の平方根である。上記の加算の対象になったマルテンサイトブロック粒の円相当径の平均値が、第2領域での比較面積率が30パーセントにおけるマルテンサイトブロック粒の平均粒径と見做される。
【0044】
内輪10を構成している鋼、外輪20を構成している鋼及び転動体30を構成している鋼には、表層部50において、析出物が分散されている。析出物は、クロム又はバナジウムを主成分としている。より具体的には、析出物は、クロム又はバナジウムを主成分とする窒化物又は炭窒化物である。
【0045】
クロム(バナジウム)を主成分とする窒化物は、クロム(バナジウム)の窒化物又は当該窒化物中のクロム(バナジウム)のサイトの一部がクロム(バナジウム)以外の合金元素により置換されているものである。クロム(バナジウム)を主成分とする炭窒化物は、クロム(バナジウム)の炭化物中の炭素のサイトの一部が窒素により置換されているものである。クロム(バナジウム)を主成分とする炭窒化物のクロム(バナジウム)のサイトは、クロム(バナジウム)以外の合金元素により置換されていてもよい。
【0046】
第2領域では、析出物の最大粒径が0.5μm以下であることが好ましい。第2領域では、析出物の平均面積率が2.0パーセント以上であることが好ましい。第2領域での析出物の平均面積率及び最大粒径は、以下の方法により測定される。
【0047】
析出物の平均面積率は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emission Scanning Electron Microscope)を用いて倍率5000倍で第2領域の断面画像を取得するとともに、当該断面画像を二値化し、二値化された当該断面画像に対して画像処理を行うことにより算出される。上記の断面画像は、3視野以上で取得され、平均面積率はそれら複数の断面画像から得られた析出物の面積率の平均値である。
【0048】
各々の析出物の粒径は、上記と同様の方法を用いて各々の析出物の面積を取得するとともに、当該面積をπ/4で除した値の平方根を算出することにより得られる。そして、得られた析出物の粒径のうちで最大のものが、第2領域での析出物の最大粒径とされる。
【0049】
内輪10を構成している鋼、外輪20を構成している鋼及び転動体30を構成している鋼は、表層部50において、残留オーステナイトを有している。120℃で2000時間の加熱を行った後の残留オーステナイト量を、加熱後残留オーステナイト量とする。120℃で2000時間の加熱が行われる前の残留オーステナイト量を、加熱前残留オーステナイト量とする。
【0050】
第2領域では、加熱後残留オーステナイト量が加熱前残留オーステナイト量の60パーセント以上であることが好ましい。このことを別の観点から言えば、120℃で2000時間の加熱が行われる前後での残留オーステナイト量の変化率が、40パーセント以下であることが好ましい。
【0051】
(転がり軸受100の製造方法)
以下に、転がり軸受100の製造方法を説明する。
【0052】
図2は、転がり軸受100の製造工程図である。図2に示されるように、転がり軸受100の製造方法は、準備工程S1と、浸窒処理工程S2と、焼入れ工程S3と、焼戻し工程S4と、後処理工程S5と、組み立て工程S6とを有している。転がり軸受100の製造方法は、焼入れ工程S3とは別の焼入れ工程をさらに有していてもよく、焼戻し工程S4とは別の焼戻し工程をさらに有していてもよい。
【0053】
準備工程S1においては、加工対象部材が準備される。加工対象部材としては、内輪10及び外輪20を形成しようとする場合は円環状の部材が準備され、転動体30を形成しようとする場合は球状の部材が準備される。この加工対象部材は、表1に示されている組成の鋼により形成されている。
【0054】
浸窒処理工程S2においては、加工対象部材の表面に対する浸窒処理が行われる。この浸窒処理は、窒素源となるガス(例えばアンモニアガス)を含む雰囲気ガス中において、加工対象部材をA変態点以上の温度で所定時間保持することにより行われる。焼入れ工程S3においては、加工対象部材に対する焼入れが行われる。この焼入れは、加工対象部材をA変態点以上の温度で所定時間保持した後に加工対象部材をMs変態点以下の温度まで冷却することにより行われる。Ms変態点は、固溶する窒素濃度が高いほど低い傾向にある。そのため、窒素濃度が低い加工対象部材の深部(表面から離れている部分)ほどMs点が高く、焼入れ時のマルテンサイト変態に伴う膨張が加工対象部材の深部において先行する。そして、冷却が進んで窒素濃度の高い加工対象部材の表層におけるマルテンサイト変態が生じる際、既に硬化している加工対象部材の深部が加工対象部材の表層におけるマルテンサイト変態に伴う膨張に対する抵抗となり、加工対象部材の表層部が完全には膨張できず、格子間隔が圧縮された状態で常温に達する。そのため、加工対象部材の表層部には、圧縮応力が残留する。なお、残留圧縮応力と硬さとの間には相関があり(硬さが高いほど残留圧縮応力が高くなり)、析出物の面積率が大きいほど、マルテンサイトブロック粒の粒径が小さいほど、旧オーステナイト結晶粒の粒径が小さいほど、硬さが高くなる。マルテンサイトブロック粒の粒径や旧オーステナイト結晶粒の粒径は、バナジウムやモリブデンの窒化物・炭窒化物によるピン止め効果により小さくなる。焼戻し工程S4においては、加工対象部材に対する焼戻しが行われる。この焼戻しは、加工対象部材をA変態点未満の温度で所定時間保持することにより行われる。
【0055】
後処理工程S5においては、加工対象部材に対する仕上げ加工(研削・研磨)及び洗浄が行われる。これにより、内輪10、外輪20及び転動体30が形成される。組み立て工程S6においては、内輪10、外輪20及び転動体30が、保持器40とともに組み立てられる。以上により、図1に示される構造の転がり軸受100が製造される。
【0056】
(転がり軸受100の効果)
転がり軸受100においては、内輪10、外輪20及び転動体30が表1に示されている組成の鋼で形成されている。表1に示されている組成の鋼は、高価な合金元素の含有量が低い。そのため、転がり軸受100によると、鋼材コストを抑制可能である。
【0057】
転がり軸受100においては、内輪10、外輪20及び転動体30が表1に示されている組成の鋼で形成されているため、浸窒処理により形成された表層部50にある鋼中に微細な析出物が析出する。この微細な析出物の近傍が水素のトラップサイトになるため、表層部50における水素侵入量が低下する。そのため、転がり軸受100においては、水素脆性に起因した早期剥離が生じにくい。
【0058】
転がり軸受100においては、第1領域での圧縮残留応力が80MPa以上になっている。この圧縮残留応力により、内輪10の表面、外輪20の表面及び転動体30の表面における圧痕形成が抑制されるとともに圧痕を起点とする亀裂の進展が抑制される。また、この圧縮残留応力により、疲労強度が改善される。このように、転がり軸受100によると、水素脆性に起因した剥離寿命、表面起点型の剥離寿命を改善可能であるとともに、疲労強度も改善可能である。
【0059】
(実施例)
実施形態に係る転動部品の水素脆性に起因した剥離寿命、表面起点型の剥離寿命及び疲労寿命を評価するため、摩耗試験、第1転動疲労寿命試験、第2転動疲労寿命試験及び回転曲げ疲労試験が行われた。これらの試験に適用される鋼は、表2に示されるように、第1鋼又は第2鋼であった。第1鋼は表1に示されている組成の範囲内にあり、第2鋼は表1に示されている組成の範囲内にない。なお、表2に示されていないが、アルミニウム、リン、硫黄、窒素及び酸素に関して、第1鋼及び第2鋼の組成は、表1に示されている組成の範囲内にある。
【0060】
【表2】
【0061】
これらの試験に適用されるサンプルには、第1熱処理又は第2熱処理が適用された。第1熱処理が適用される場合には、浸窒処理工程S2、焼入れ工程S3及び焼戻し工程S4が行われる。第2熱処理が適用される場合には、焼入れ工程S3及び焼戻し工程S4が行われるが浸窒処理工程S2が行われない。
【0062】
なお、第1熱処理の浸窒処理工程S2及び焼入れ工程S3では、RXガス、プロパンガス及びアンモニアガス中において850℃で6時間の保持を行った後に油焼入れされた。第2熱処理の焼入れ工程S3では、850℃で1時間保持した後に油焼入れされた。第1熱処理及び第2熱処理の焼戻し工程S4では、180℃で2時間の保持が行われた。表3に示されているように、第1熱処理を第1鋼に適用する場合をサンプル1とし、第1熱処理を第2鋼に適用する場合をサンプル2とし、第2熱処理を第2鋼に適用する場合をサンプル3とする。
【0063】
サンプル1、サンプル2及びサンプル3に対して、第1領域での残留圧縮応力、第2領域での窒素の含有量及び第2領域での比較面積率が30パーセントにおけるマルテンサイトブロック粒の平均粒径が測定された。鋼の組成が表1に示される組成の範囲内にあることを、条件Aとする。第1領域での残留圧縮応力が80MPa以上であることを、条件Bとする。第2領域での窒素の含有量が0.2質量パーセント以上0.8質量パーセント以下あることを、条件Cとする。第2領域での比較面積率が30パーセントにおけるマルテンサイトブロック粒の平均粒径が2.0μm以下であることを、条件Dとする。表3に示されているように、サンプル1では、条件Aから条件Dの全てが充足されている。サンプル2では、条件A及び条件Dが充足されていない。サンプル3では、条件Aから条件Dの全てが充足されていない。
【0064】
サンプル2とサンプル3との比較から、浸窒処理工程S2が行われて条件Cが満たされることにより、条件Bが満たされるようになる(第1領域に80MPa以上の残留圧縮応力が作用するようになる)とともに、析出物が多く分散されるようになることが分かる。また、サンプル1とサンプル2との比較から、条件Aが満たされることにより(表1に示される組成範囲内の鋼が用いられることにより)析出物がさらに多く分散し、条件Dがさらに満たされる(第2領域でマルテンサイトブロック粒が微細化される)ことが分かる。
【0065】
【表3】
【0066】
<摩耗試験>
摩耗試験は、表4に示されている条件で行われた。摩耗試験の結果は、表5に示されている。耐摩耗性の評価は、試験後の摩耗痕をレーザ顕微鏡で観察して摩耗体積を算出することにより行われた。表5に示されているように、サンプル1の耐摩耗性は、サンプル2及びサンプル3と比較して優れていることが分かった。表面の耐摩耗性が高い場合、表面から表層部50への水素侵入が抑制される結果、水素脆性の発生が抑制される。したがって、サンプル1は、サンプル2及びサンプル3よりも水素脆性に起因した早期剥離が生じがたいことになる。
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
<第1転動疲労寿命試験及び第2転動疲労寿命試験>
第1転動疲労寿命試験は、表6に示されている条件で行われた。第2転動疲労寿命試験は、表7に示されている条件で行われた。すなわち、第1転動疲労寿命試験は異物混入環境下における表面起点型剥離に対する耐性が評価されており、第2転動疲労寿命試験は圧痕形成環境下における表面起点型剥離に対する耐性が評価されている。第1転動疲労寿命試験及び第2転動疲労寿命に供される各々の転がり軸受では、軌道輪がサンプル1からサンプル3のいずれかであるが、転動体はずぶ焼入れの行われたSUJ2製である。表8には、第1転動疲労寿命試験及び第2転動疲労寿命試験の結果が、サンプル3を基準とする相対値(サンプル3を1.0として評価)で示されている。表8に示されているように、第1転動疲労寿命試験及び第2転動疲労寿命試験の双方において、サンプル1のL10寿命は、サンプル2及びサンプル3よりも優れていた。
【0070】
【表6】
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
<回転曲げ疲労試験>
図3は、試験片60の側面図である。回転曲げ疲労試験には試験片60が用いられる。回転曲げ疲労試験では、JIS規格(JIS Z 2274:1978)に準拠した小野式回転曲げ疲労試験が行われた。回転曲げ疲労試験では、回転数が3600回転/分とされ、応力負荷繰り返し回数が10サイクルに達した段階で試験片60が破断しなかった最大応力により評価された。表9に示されるように、サンプル1の回転曲げ疲労寿命は、サンプル2及びサンプル3よりも優れていた。
【0074】
【表9】
【0075】
<まとめ>
以上のように、条件Aから条件Dの全てが充足されているサンプル1は、条件Aから条件Dのうちの少なくともいずれかが充足されていないサンプル2及びサンプル3と比較して、水素脆性に起因した剥離寿命、表面起点型の剥離寿命及び疲労強度が優れていた。このことから、条件Aから条件Dの全てが充足されることにより水素脆性に起因した剥離寿命、表面起点型の剥離寿命及び疲労強度が両立されることが明らかになった。
【0076】
(転がり軸受100以外の転動部品)
図4は、ボールねじ200の断面図である。図4に示されるように、ボールねじ200は、ねじ軸210と、ボールナット220と、複数のボール230と、シール部材240とを有している。ボールねじ200におけるボール230の循環方式は、特に限定されない。ボールねじ200におけるボール230の循環方式は、例えば、チューブ式、リターンチューブ(パイプ)式、デフレクタ式、エンドデフレクタ式、エンドキャップ式、こま式等である。
【0077】
ねじ軸210は、外周面210aを有している。外周面210aには、ねじ溝210bが形成されている。ボールナット220は、ねじ軸210の中心軸の方向に沿って延在している穴が形成されている。この穴の内壁面が、ボールナット220の内周面220aである。内周面220aには、ねじ溝220bが形成されている。ねじ軸210は、外周面210aが内周面220aと対向するようにボールナット220に挿入されている。ボール230は、ねじ溝210bとねじ溝220bとの間に配置されている。ねじ軸210が通されるボールナット220の穴は、シール部材240により閉塞されている。シール部材240に形成されている穴にも、ねじ軸210が通されている。
【0078】
ねじ軸210、ボールナット220及びボール230は、焼入れ及び焼戻しの行われた鋼により形成されている。当該鋼の組成は、表1に示されている組成の範囲内にある(上記の条件Aが満たされている)。ねじ軸210、ボールナット220及びボール230の表面には、浸窒処理が行われることで転がり軸受100と同様の表層部50が形成されており、上記の条件Bから条件Dが満たされている。
【0079】
ボールねじ200は、ねじ軸210、ボールナット220及びボール230の表面における耐摩耗性や水素脆性に起因した剥離寿命、表面起点型の剥離寿命及び疲労強度が改善されるため、高負荷容量化が可能であるとともに、小型軽量化も可能である。ボールねじ200が小型化されることにより、周辺部品や構造部材の小型化も可能になる。
【0080】
但し、ねじ軸210、ボールナット220及びボール230のうちの少なくとも1つが上記の条件Aから条件Dの全てが充足されることを満たしていればよい。このことを別の観点から言えば、ボールねじ200は、ねじ軸210、ボールナット220及びボール230の少なくともいずれかが実施形態に係る転動部材であればよい。
【0081】
ねじ軸210をその中心軸回りに回転させることにより、ねじ軸210の回転動力は、ボール230を介してボールナット220に伝達され、ボールナット220がねじ軸210の中心軸の方向に沿って移動する。すなわち、ボールねじ200は、モータ等の回転運動を直動運動に変換する装置である。ボールねじ200は、例えば電動アクチュエータ、位置決め装置、電動ジャッキ、サーボシリンダ、電動サーボプレス機、メカニカルプレス機、電動ブレーキ装置、トランスミッション、電動パワーステアリング装置、電動射出成形機等に用いられる。
【0082】
このように、実施形態に係る転動部品又は転動部材は、条件Aから条件Dが満たされていれば、いかなる用途の転動部品、転動部材にも適用可能である。例えば、実施形態に係る転動部品は、歯車、ドライブシャフト、カムフォロア等であってもよい。
【0083】
(付記)
上記の実施形態には、以下の構成が含まれている。
【0084】
<付記1>
表面を有する鋼製の転動部材であって、
前記表面に表層部を備え、
前記鋼は、0.80質量パーセント以上1.10質量パーセント以下の炭素と、0.15質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のシリコンと、0.30質量パーセント以上0.70質量パーセント以下のマンガンと、1.30質量パーセント以上1.60質量パーセント以下のクロムと、0.10質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のモリブデンと、0.12質量パーセント以上0.50質量パーセント以下のバナジウムと、0.005質量パーセント以上0.050質量パーセント以下のアルミニウムと、0.020質量パーセント以下のリンと、0.010質量パーセント以下の硫黄と、0.015質量パーセント以下の窒素と、0.0015質量パーセント以下の酸素とを含み、残部が鉄及び不可避不純物からなり、
前記表層部には、浸窒処理が行われており、
前記表面からの深さが5μm以下となる前記表層部の第1領域では、圧縮残留応力が80MPa以上になっており、
前記表面からの深さが20μm以下となる前記表層部の第2領域では、窒素の含有量が0.2質量パーセント以上0.8質量パーセント以下であり、比較面積率が30パーセントにおけるマルテンサイトブロック粒の平均粒径が2.0μm以下である、転動部材。
【0085】
<付記2>
前記表面からの距離が50μm以下となる前記表層部の第3領域では、120℃で2000時間の加熱を行った後の残留オーステナイト量が120℃で2000時間の加熱を行う前の残留オーステナイト量の60パーセント以上である、付記1に記載の転動部材。
【0086】
<付記3>
前記第2領域では、マルテンサイトブロック粒の最大粒径が5.0μm以下である、付記1又は付記2に記載の転動部材。
【0087】
<付記4>
前記第2領域では、クロム又はバナジウムを主成分とする析出物の最大粒径が0.5μm以下であり、前記析出物の平均面積率が2.0パーセント以上である、付記1から付記3のいずれか1項に記載の転動部材。
【0088】
<付記5>
付記1から付記4のいずれか1項に記載の前記転動部材を備える、転動部品。
【0089】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0090】
10 内輪、10a,10b 幅面、10c 内径面、10d 外径面、10da 軌道面、20 外輪、20a,20b 幅面、20c 内径面、20ca 軌道面、20d 外径面、30 転動体、40 保持器、50 表層部、60 試験片、100 転がり軸受、200 ボールねじ、210 ねじ軸、210a 外周面、210b ねじ溝、220 ボールナット、220a 内周面、220b ねじ溝、230 ボール、240 シール部材、A 中心軸、S1 準備工程、S2 浸窒処理工程、S3 焼入れ工程、S4 焼戻し工程、S5 後処理工程、S6 組み立て工程。
図1
図2
図3
図4