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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104061
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
H01G9/20 307
H01G9/20 203B
H01G9/20 203C
H01G9/20 111D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008076
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 やよい
(57)【要約】
【課題】発電性能のさらなる向上が図られた太陽電池を提供すること。
【解決手段】太陽電池は、電極と、電子輸送層と、光吸収層と、対向電極と、基板と、反射拡散部材とを備える。電極は、透明な電極である。電子輸送層は、電極の上に形成される。光吸収層は、電子輸送層の上に形成され、電子捕集剤と色素を含む。対向電極は、電極と対向して配置される透明な電極である。基板は、対向電極が設けられる透明な基板である。反射拡散部材は、基板の対向電極が設けられる面と逆側の面に設けられ、基板を透過した光を光吸収層に向けて反射及び拡散する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な電極と、
前記電極の上に形成される電子輸送層と、
前記電子輸送層の上に形成され、電子捕集剤と色素を含む光吸収層と、
前記電極と対向して配置される透明な対向電極と、
前記対向電極が設けられる透明な基板と、
前記基板の前記対向電極が設けられる面と逆側の面に設けられ、前記基板を透過した光を前記光吸収層に向けて反射及び拡散する反射拡散部材と、
を具備する太陽電池。
【請求項2】
前記反射拡散部材の前記基板と対向する面が白色である請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記反射拡散部材は、白い紙である請求項1に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記反射拡散部材は、金属シートの上に光拡散フィルムが形成されて構成されている請求項1に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記基板と前記反射拡散部材との間には空気層がある請求項1に記載の太陽電池。
【請求項6】
前記基板と前記反射拡散部材との間に設けられ、前記反射拡散部材で反射及び拡散された光を前記光吸収層に向けて集光する集光部材をさらに具備する請求項1乃至5の何れか1項に記載の太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、IoT(Internet of Things)デバイス用の電源及びエナジーハーベスティング素子として期待されている。太陽電池においては、さらなる光電変換の効率化による発電性能の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-347003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、発電性能のさらなる向上が図られた太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様の太陽電池は、電極と、電子輸送層と、光吸収層と、対向電極と、基板と、反射拡散部材とを備える。電極は、透明な電極である。電子輸送層は、電極の上に形成される。光吸収層は、電子輸送層の上に形成され、電子捕集剤と色素を含む。対向電極は、電極と対向して配置される透明な電極である。基板は、対向電極が設けられる透明な基板である。反射拡散部材は、基板の対向電極が設けられる面と逆側の面に設けられ、基板を透過した光を光吸収層に向けて反射及び拡散する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、発電性能のさらなる向上が図られた太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係る太陽電池の構成の一例を示す断面図である。
図2図2は、1つのユニットにおける発電原理を説明するための図である。
図3A図3Aは、種々の異なる光反射性を有する下地部材を用いて色素増感太陽電池のI-V特性を測定した実験結果を示すグラフである。
図3B図3Bは、種々の異なる光反射性を有する下地部材を用いて色素増感太陽電池のI-V特性を測定した実験結果を示すグラフである。
図3C図3Cは、図3A及び図3Bの結果に基づく下地部材毎の短絡電流Iscの比の値を示す図である。
図4A図4Aは、光反射性を有する下地部材のみが用いられた色素増感太陽電池のI-V特性と光反射性を有する部材に加えて光拡散性を有する部材が用いられた色素増感太陽電池1のI-V特性を測定した実験結果を示すグラフである。
図4B図4Bは、光反射性を有する下地部材のみが用いられた色素増感太陽電池のI-V特性と光反射性を有する部材に加えて光拡散性を有する部材が用いられた色素増感太陽電池1のI-V特性を測定した実験結果を示すグラフである。
図4C図4Cは、図4A及び図4Bの結果に基づく構成毎の短絡電流Iscの比の値を示す図である。
図5A図5Aは、第2の基板の裏面に反射拡散部材が貼り付けられていない色素増感太陽電池のIscと第2の基板の裏面に反射拡散部材が貼り付けられている色素増感太陽電池のIscの比較結果を示す棒グラフである。
図5B図5Bは、第2の基板の裏面に反射拡散部材が貼り付けられていない色素増感太陽電池のIscと第2の基板の裏面に反射拡散部材が貼り付けられている色素増感太陽電池のIscの比較結果を示す棒グラフである。
図6図6は、変形例2に係る太陽電池の構成の一例を示す断面図である。
図7A図7Aは、光反射性を有する下地部材のみが用いられた色素増感太陽電池のI-V特性と、光反射性を有する部材に加えて光拡散性を有する部材が用いられた色素増感太陽電池のI-V特性と、光反射性を有する部材に加えて光集光性を有する部材と光拡散性を有する部材が用いられた色素増感太陽電池のI-V特性とを測定した実験結果を示すグラフである。
図7B図7Bは、光反射性を有する下地部材のみが用いられた色素増感太陽電池のI-V特性と、光反射性を有する部材に加えて光拡散性を有する部材が用いられた色素増感太陽電池のI-V特性と、光反射性を有する部材に加えて光集光性を有する部材と光拡散性を有する部材が用いられた色素増感太陽電池のI-V特性とを測定した実験結果を示すグラフである。
図7C図7Cは、図7A及び図7Bの結果に基づく構成毎の短絡電流Iscの比の値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。図1は、実施形態に係る太陽電池の構成の一例を示す断面図である。ここで、図1は、実施形態の液体電解質型の色素増感太陽電池への適用例を示している。
【0009】
色素増感太陽電池1は、複数の色素増感太陽電池のユニットU1及びU2を有する色素増感太陽電池モジュールである。図1では、ユニットの数は、2つである。ユニットの数は、2つに限定されるものではない。また、図1では、ユニットU1とユニットU2とは電気的に接続されていない。一方で、ユニットU1とユニットU2とは、直列接続されてもよいし、並列接続されてもよい。
【0010】
図1に示すように、色素増感太陽電池1のそれぞれのユニットU1及びU2は、第1の基板11と第2の基板12との間に形成される。第1の基板11は、ガラス基板等の透明基板である。第2の基板12は、第1の基板11と対向するように配置される。第2の基板12は、第1の基板11と同様に、ガラス基板等の透明基板である。ここで、図1の例では、色素増感太陽電池1へは、図1の矢印L1で示すようにして第1の基板11の側から光が入射する。
【0011】
以下では、それぞれのユニットの構成は同一であるものとして説明が続けられる。第1の基板11のそれぞれのユニットの位置には、電極13が形成されている。電極13の間隔は、例えば隣接する電極間でのリーク電流等の影響がない程度の間隔である。電極13は、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)といった透明導電酸化膜(TCO)によって形成される。それぞれの電極13は、対応するユニットのアノード電極として用いられる。
【0012】
第2の基板12のそれぞれのユニットの位置には、対向電極14が形成されている。対向電極14の間隔は、例えば隣接する電極間でのリーク電流等の影響がない程度の間隔である。対向電極14は、電極13と同様、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)といった透明導電酸化膜(TCO)によって形成される。それぞれの対向電極14は、対応するユニットのカソード電極として用いられる。
【0013】
それぞれのユニットのアノード電極を構成する電極13の上には電子輸送層15が形成されている。電子輸送層15は、酸化チタン(TiO)等の金属酸化膜で構成される。電子輸送層15は、金属よりも高抵抗なTCOで構成される電極13による損失を抑制するために設けられ得る。また、電子輸送層15が形成されることにより、電子輸送層15の上にさらに形成される光吸収層16の密着性が向上する。
【0014】
それぞれの電子輸送層15の上には、光吸収層16が形成されている。光吸収層16は、電子捕集剤に色素が吸着されて構成された層である。電子捕集剤は、例えば微小な酸化物半導体、例えば酸化チタン(TiO)の集積体である。色素は、例えばルテニウム(Ru)色素(RU)(N719色素等)等である。電子捕集剤は、酸化チタンに限らず、例えば酸化亜鉛、酸化錫、酸化タングステン、酸化ニオブ、酸化インジウム及びその複合体等であってもよい。また、色素は、N719色素に限らない。例えば、ルテニウム系色素として、N3色素、BlackDyeや、純粋有機色素として、D149、キサンテン、PVK、メロシアニン、オキサジン等が用いられてもよい。
【0015】
それぞれのユニットのカソード電極を構成する対向電極14の上には触媒層17が形成されている。触媒層17は、例えば白金層である。
【0016】
それぞれのユニットの光吸収層16と触媒層17との間には、電解液18が充たされている。電解液18の溶媒としては、例えばアセトニトリル、メトキシアセトニトリル、炭酸エチレン等が用いられ得る。電解液18の溶質としては、例えばヨウ素(I)、1,2-ジメチル-3-n-プロピルイミダゾリウムアイオダイド(DMPImI)、ヨウ化リチウム(LiI)、4-tert-ブチルピリジン(TBP)等が用いられ得る。図1に示すように、電解液18は、ユニットU1とユニットU2の間の境界位置に設けられる封止材19によって仕切られている。さらに、色素増感太陽電池1の最外周部にも、封止材19が形成されている。封止材19は、第1の基板11と第2の基板12とを貼り合わせるとともに、電解液18の外部への漏れ出しを防止する。封止材19は、アクリル樹脂及びオレフィン樹脂等の耐溶媒性に優れた樹脂であり得る。ここで、図1において封止材19に金属を混入させることによって導電性を持たせつつ、ユニットU1の電極13とユニットU2の対向電極14とを封止材を介して導通させることによって、ユニットU1とユニットU2とが直列接続されてもよい。
【0017】
実施形態においては、光が入射する基板と対向する基板である第2の基板12の裏面に反射拡散部材20が貼り付けられている。反射拡散部材20は、例えば光反射性を有する下地部材の表面に光拡散部材が形成されてなる部材である。反射拡散部材20は、後で説明する発電原理に従って光吸収層16で吸収されずに第2の基板12を透過した光を矢印L2で示すように反射及び拡散させつつ、光吸収層16に戻すために設けられている。ここで、後で説明するが、光反射性を有する下地部材は、単に第2の基板12と対向する側の面が白色の部材であってよい。この場合、光反射性を有する下地部材としては、表面が白色に着色されたアクリル板等が用いられ得る。さらには、光反射性と光拡散性の双方を有する下地部材として、白い紙が用いられてもよい。紙は、普通紙であってもよく、光沢紙であってもよい。
【0018】
図2は、1つのユニットにおける発電原理を説明するための図である。ここで、説明の簡単化のために、図2では、反射拡散部材20が設けられていない色素増感太陽電池が示されている。また、以下の例では電子捕集剤は酸化チタン(TiO)であり、色素はルテニウム(Ru)色素であり、電解液18はヨウ素(I)電解液であるとする。
【0019】
まず、色素増感太陽電池1に光が入射すると、その光は基板に形成された色素16aによって吸収される。色素16aは、光を吸収することによって励起する。反応式は、例えば以下の式(1)で示される。
Ru→Ru+e (1)
【0020】
励起された色素16aから放出された電子(e)は、例えば多孔質の酸化チタン(TiO)で構成される電子捕集剤16bに注入される。電子捕集剤16bに注入された電子は、アノード電極である電極13に移動する。
【0021】
一方、電子(e)を失った色素16aは、電解液18中の例えばヨウ化物イオン(I)から、電子を供給される。電解液18中のヨウ化物イオン(I)は、電子(e)を色素16aに供給すると三ヨウ化物イオン(I )になる。反応式は、例えば以下の式(2)、式(3)で示される。
Ru+e→Ru (2)
3I→I +2e (3)
【0022】
このような酸化反応によって生じた三ヨウ化物イオン(I )は、カソード電極である対向電極14から電子(e)を受け取ろうとする。このとき、対向電極14と電極13との間には、電位差が発生する。対向電極14と電極13との間に負荷が接続されていれば、電極13まで移動した電子は、負荷を通って対向電極14まで移動する。そして、対向電極14に達した電子は、三ヨウ化物イオン(I )によって吸収される。このような還元反応により、三ヨウ化物イオン(I )はヨウ化物イオン(I)に戻る。反応式は、例えば以下の式(4)で示される。
+2e→3I (4)
【0023】
以上の酸化還元反応が繰り返されることにより、色素増感太陽電池1のユニットは発電する。このような酸化還元反応が起きるためには、励起状態の色素16aのエネルギー準位は、電子捕集剤16bのエネルギー準位よりも高く、かつ、基底状態の色素16aのエネルギー準位は、電解液18のエネルギー準位より低いという関係を要する。
【0024】
次に、反射拡散部材20について説明する。前述したように、色素増感太陽電池1に入射した光は、基本的には、光吸収層16を構成する色素16aによって吸収される。一方で、色素増感太陽電池1に入射した光のうちで色素16aに吸収されない光も存在し得る。このような色素16aに吸収されなかった光は、第2の基板12を透過することになる。このような第2の基板12を透過した光は、色素増感太陽電池1の発電効率を低下させる要因になる。実施形態では、第2の基板12を透過した光を反射拡散部材20によって光吸収層16に戻すことによって色素増感太陽電池1の発電効率の向上が図られる。
【0025】
反射拡散部材20は、第2の基板12を透過した光を単純に反射するだけではなく、反射及び拡散する。光吸収層16の表面に近い色素16aに対しては、拡散による多方向からの光の入射により電子の励起が促進されることが期待される。また、光が拡散されることにより、光吸収層16の色素16aに到達する光の光路長は増加しやすくなる。光路長の増加によって、色素16aへの光照射量が増加して電子の励起が促進されることも期待される。さらには、拡散による多方向からの光の入力によって光吸収層16の表面での光の反射及び拡散も生じやすくなる。これによっても、光吸収層16の色素16aに到達する光の光路長は増加しやすくなる。結果として、色素増感太陽電池1の発電効率の向上が期待される。
【0026】
図3A及び図3Bは、種々の異なる光反射性を有する下地部材を用いて色素増感太陽電池1のI-V特性を測定した実験結果を示すグラフである。図3Aは、色素増感太陽電池1に対してLED光源から1000luxの光を照射したときのI-V特性を示している。図3Bは、色素増感太陽電池1に対してLED光源から30000luxの光を照射したときのI-V特性を示している。1000luxの光は、室内光を想定した光である。30000luxの光は、晴天時の室外光を想定した光である。
【0027】
ここで、図3A及び図3Bの「黒」は、下地部材が光反射性を有さない部材、実験では黒い板である色素増感太陽電池1のI-V特性を示している。図3A及び図3Bの「白(1)」は、下地部材が白い普通紙である色素増感太陽電池1のI-V特性を示している。図3A及び図3Bの「白(2)」は、下地部材が白い光沢紙であるときのI-V特性を示している。図3A及び図3Bの「反射(1)」は、下地部材がクロム(Cr)シートである色素増感太陽電池1のI-V特性を示している。図3A及び図3Bの「反射(2)」は、下地部材が銀(Ag)シートである色素増感太陽電池1のI-V特性を示している。図3A及び図3Bの「反射(3)」は、下地部材がリフレクタ、実験ではアルミ系金属シートである色素増感太陽電池1のI-V特性を示している。
【0028】
また、図3A及び図3Bの電流は、「黒」の短絡電流Iscを1としたときの比率で表されている。図3A及び図3Bにおいて、Iscは、電圧が0Vのときの電流に相当する。Iscが大きいことは、色素増感太陽電池としての発電性能が高いことを示している。
【0029】
1000luxの光照射の条件下では、図3Aに示すように、光反射性を有さない部材が用いられた場合のIscよりも光反射性を有する部材が用いられた場合のIscのほうが大きくなっている。また、光反射性を有する部材の中での比較では、1000luxの光照射の条件下では下地部材としてCrが使用されているときのIscは、その他の材料が使用されているときのIscよりも小さくなっている。
【0030】
30000luxの光照射の条件下でも、図3Bに示すように、光反射性を有さない部材が用いられた場合のIscよりも光反射性を有する部材が用いられた場合のIscのほうが大きくなっている。また、光反射性を有する部材の中での比較では、30000luxの光照射の条件下では部材による顕著な性能の差異は見られない。
【0031】
図3Cは、図3A及び図3Bの結果に基づく下地部材毎の短絡電流Iscの比の値を示す図である。図3Cに示すように、基本的には、第2の基板12の裏面に光反射性を有する部材を配置することによって発電性能の向上がみられる。また、光反射性を有する部材として単なる白い紙でも十分に利用できることも分かる。
【0032】
図4A及び図4Bは、光反射性を有する下地部材のみが用いられた色素増感太陽電池1のI-V特性と光反射性を有する部材に加えて光拡散性を有する部材が用いられた色素増感太陽電池1のI-V特性を測定した実験結果を示すグラフである。図4Aは、色素増感太陽電池1に対してLED光源から1000luxの光を照射したときのI-V特性を示している。図4Bは、色素増感太陽電池1に対してLED光源から30000luxの光を照射したときのI-V特性を示している。
【0033】
ここで、図4A及び図4Bの「白」は、下地部材が白(1)のみである色素増感太陽電池1のI-V特性を示している。図4A及び図4Bの「白+拡散」は、白(1)の表面に光拡散フィルムが設けられている色素増感太陽電池1のI-V特性を示している。光拡散フィルムは、表面に凹凸が形成された樹脂フィルムである。
【0034】
また、図4A及び図4Bの電流は、「白」の短絡電流Iscを1としたときの比率で表されている。
【0035】
1000luxの光照射の条件下では、図4Aに示すように、「白」のIscと「白+拡散」のIscとで顕著な差異はない。一方で、30000luxの光照射の条件下では、図4Bに示すように、「白」のIscよりも「白+拡散」のIscのほうが明らかに大きくなっている。
【0036】
図4Cは、図4A及び図4Bの結果に基づく構成毎の短絡電流Iscの比の値を示す図である。低照度下では、「白」のIscと「白+拡散」のIscとで顕著な差異はない。これは、白い紙にもある程度の光拡散性があるためである。一方で、高照度下では、「白」のIscよりも「白+拡散」のIscのほうが大きくなる。すなわち、拡散部材の効果は、特に高照度下で顕著になることが分かる。また、光拡散性を有する部材として単なる白い紙でも十分に利用できることも分かる。
【0037】
以上説明したように実施形態によれば、色素増感太陽電池1の光入射側の基板と対向する基板の裏面に反射拡散部材20が設けられている。光吸収層16の色素16aに吸収されなかった光が光吸収層16に戻されることによって発電性能の向上が図られる。
【0038】
また、反射拡散部材20は、第2の基板12を透過した光を単純に反射するだけではなく、反射及び拡散する。光吸収層16の表面に近い色素16aに対しては、拡散による多方向からの光の入射により電子の励起が促進されることが期待される。また、光が拡散されることにより、光吸収層16の色素16aに到達する光の光路長は増加しやすくなる。光路長の増加によって、色素16aへの光照射量が増加して電子の励起が促進されることも期待される。さらには、拡散による多方向からの光の入力によって光吸収層16の表面での光の反射及び拡散も生じやすくなる。これによっても、光吸収層16の色素16aに到達する光の光路長は増加しやすくなる。結果として、色素増感太陽電池1の発電効率の向上が期待される。
【0039】
さらに、実施形態では、反射拡散部材20は、光入射側の基板と対向する基板の裏面に設けられている。このため、既存の色素増感太陽電池1の構成を変えることなく、反射拡散部材20が設けられ得る。このため、実施形態の色素増感太陽電池1は、簡易な構成で発電性能の向上が期待される。
【0040】
さらには、実施形態では、反射拡散部材20として、単なる白い紙や白いアクリル板等が用いられ得る。これらであれば、反射拡散部材20の製造も簡易である。したがって、低コストでの発電性能の向上が期待される。
【0041】
以下、実施形態の変形例を説明する。
(変形例1)
前述した実施形態では、反射拡散部材20は、第2の基板12の裏面に貼り付けられている。これに対し、反射拡散部材20は、必ずしも第2の基板12に貼り付けられていなくてもよい。
【0042】
図5A及び図5Bは、第2の基板12の裏面に反射拡散部材20が貼り付けられていない色素増感太陽電池1のIscと第2の基板12の裏面に反射拡散部材20が貼り付けられている色素増感太陽電池1のIscの比較結果を示す棒グラフである。図5Aは、色素増感太陽電池1に対してLED光源から1000luxの光を照射したときのIscを示している。図5Bは、色素増感太陽電池1に対してLED光源から30000luxの光を照射したときのIscを示している。
【0043】
ここで、図5A及び図5Bの「配置のみ」は、第2の基板12の裏面に反射拡散部材20が貼り付けられていない色素増感太陽電池1のIscを示している。実験では、「配置のみ」は、第2の基板12の裏面に反射拡散部材20を置いただけの状態であって、第2の基板12と反射拡散部材20との間に空気層が形成されている状態である。図5A及び図5Bの「貼り付け」は、第2の基板12の裏面に反射拡散部材20が貼り付けられている色素増感太陽電池1のIscを示している。実験では、「貼り付け」は、第2の基板12の裏面に反射拡散部材20を接着剤によって貼り付けた状態であって、第2の基板12と反射拡散部材20との間に空気層が形成されていない状態である。
【0044】
また、図5A及び図5Bの「下地(1)」は、反射拡散部材20が白い光沢紙である色素増感太陽電池1のIscを示している。図5A及び図5Bの「下地(2)」は、反射拡散部材20がリフレクタである色素増感太陽電池1のIscを示している。
【0045】
また、図5A及び図5BのIscは、「配置のみ」のIscを1としたときの比率で表されている。
【0046】
図5A及び図5Bに示すように、低照度下であっても、高照度下であっても、また、反射拡散部材20の部材が異なる場合であっても、「配置のみ」のIscと「貼り付け」のIscとで顕著な差異はない。これは、反射拡散部材20が第2の基板12の裏面に必ずしも貼り付けられる必要がないことを示している。
【0047】
このように、変形例1では、第2の基板12の反射拡散部材20が貼り付けられる必要がないことにより、接着剤等の貼り付けに必要な部材のコストが削減され得る。
【0048】
(変形例2)
前述した変形例1では、第2の基板12と反射拡散部材20との間に空気層が形成されていてよいとされている。空気層に代えて、第2の基板12と反射拡散部材20との間に集光部材が設けられていてもよい。
【0049】
図6は、変形例2に係る太陽電池の構成の一例を示す断面図である。変形例2においては、図6に示すように、第2の基板12と反射拡散部材20との間に集光部材21が設けられている。集光部材21は、例えばプリズムシートであり、反射拡散部材20から入射した光を矢印L3で示す光吸収層16の方向に集光するようにプリズムの傾斜角が調整されている。プリズムの傾斜角は、第2の基板12の屈折率及び電解液18の屈折率等の物性値を考慮して決定される。
【0050】
反射拡散部材20からの拡散光の射出角度が集光部材21によって調整されることで、光吸収層16に再入射する光の光路長を最適にすることができる。これによって、色素増感太陽電池1のさらなる発電効率の向上が期待される。
【0051】
図7A及び図7Bは、光反射性を有する下地部材のみが用いられた色素増感太陽電池1のI-V特性と、光反射性を有する部材に加えて光拡散性を有する部材が用いられた色素増感太陽電池1のI-V特性と、光反射性を有する部材に加えて光集光性を有する部材と光拡散性を有する部材が用いられた色素増感太陽電池1のI-V特性とを測定した実験結果を示すグラフである。図7Aは、色素増感太陽電池1に対してLED光源から1000luxの光を照射したときのI-V特性を示している。図7Bは、色素増感太陽電池1に対してLED光源から30000luxの光を照射したときのI-V特性を示している。
【0052】
ここで、図7A及び図7Bの「白」は、下地部材が白(1)のみである色素増感太陽電池1のI-V特性を示している。図7A及び図7Bの「白+拡散」は、白(1)の表面に光拡散フィルムが設けられている色素増感太陽電池1のI-V特性を示している。光拡散フィルムは、表面に凹凸は形成された樹脂フィルムである。図7A及び図7Bの「白+集光+拡散」は、白(1)と光拡散フィルムの上にさらに集光部材が設けられている色素増感太陽電池1のI-V特性を示している。集光部材は、プリズムシートである。
【0053】
また、図7A及び図7Bの電流は、「白」の短絡電流Iscを1としたときの比率で表されている。
【0054】
1000luxの光照射の条件下では、図7Aに示すように、「白」のIscと「白+拡散」のIscと「白+集光+拡散」とで顕著な差異はないものの、「白+集光+拡散」のIscが大きい。一方で、30000luxの光照射の条件下では、図7Bに示すように、「白」のIsc及び「白+拡散」のIscよりも「白+集光+拡散」のほうが明らかに大きくなっている。
【0055】
図7Cは、図7A及び図7Bの結果に基づく構成毎の短絡電流Iscの比の値を示す図である。低照度下では、「白」のIscと「白+拡散」のIscと「白+集光+拡散」で顕著な差異はないものの、「白+集光+拡散」のIscが大きい。一方で、高照度下では、「白」及び「白+拡散」のIscよりも「白+集光+拡散」のIscのほうが大きくなる。すなわち、集光部材の効果も、特に高照度下で顕著になることが分かる。
【0056】
このように、変形例2では、反射拡散部材20の上に集光部材21が配置されることにより、色素増感太陽電池1のさらなる性能の向上を図ることができる。
【0057】
[その他の変形例]
その他の変形例を説明する。前述した実施形態、変形例1及び変形例2では、液体型電解液の色素増感太陽電池への適用例が示されている。これに対し、反射拡散部材20は、太陽電池の基板の裏面に設置されればよいので、前述した実施形態、変形例1及び変形例2の構成は、液体型電解液の色素増感太陽電池以外の構成についても適用され得る。例えば、色素増感太陽電池1は、固体型電解液の色素増感太陽電池であってもよい。固体型電解液の色素増感太陽電池の場合、それぞれのユニットの光吸収層16と触媒層17との間に介在しているのが電解液18ではなく、固体電解質層である点のみが異なる。固体電解質層は、例えば、電解液18をゲル化剤等によってゲル化させたものであり得る。
【0058】
また、さらなる変形例として、前述した実施形態、変形例1及び変形例2の構成は、ペロブスカイト型太陽電池等の色素増感太陽電池以外の各種の太陽電池にも適用され得る。例えば、ペロブスカイト型太陽電池の場合には、固体電解質層がペロブスカイト結晶層に置き換えられればよい。
【0059】
また、前述した実施形態、変形例1及び変形例2では、第1の基板11と第2の基板12とは、ガラス基板等の透明基板であるとされている。これに対し、第1の基板11と第2の基板12は、可撓性基材であってもよい。この場合において、前述した実施形態、変形例1及び変形例2の構成は、第1の基板11と第2の基板12の一方にだけ電極等が形成されるモノリシック構造にも適用され得る。
【0060】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0061】
1 色素増感太陽電池、11 第1の基板、12 第2の基板、13 電極、14 対向電極、15 電子輸送層、16 光吸収層、17 触媒層、18 電解液、19 封止材、20 反射拡散部材、21 集光部材。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C