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特開2024-104078被溶削材の溶削方法および鋼片の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104078
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】被溶削材の溶削方法および鋼片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 7/06 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
B23K7/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008101
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大城 竣
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被溶削材の溶削に伴う突沸を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】溶削対象の被溶削材について溶削前に取得された被溶削材の表面温度を含む被溶削材情報と、任意に設定された搬送速度および溶削酸素圧力を含む溶削条件とを、機械学習モデルに入力し、前記被溶削材の予測溶削量および予測騒音値を算出し、前記予測溶削量と予め設定された目標溶削量との差を算出し、当該差が許容値以下となり、かつ、前記予測騒音値が予め設定した基準騒音値以下となるまで、前記搬送速度および前記溶削酸素圧力のうちいずれか一方または両方を変更して前記予測溶削量と前記目標溶削量との算出を繰り返し実行し、前記予測溶削量と前記目標溶削量との差が許容値以下となり、かつ、前記予測騒音値が前記基準騒音値以下となったときに設定されている搬送速度および溶削酸素圧力で前記被溶削材を搬送しながら溶削すること、を含む、被溶削材の溶削方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶削対象の被溶削材について溶削前に取得された被溶削材の表面温度を含む被溶削材情報と、任意に設定された搬送速度および溶削酸素圧力を含む溶削条件とを、機械学習モデルに入力し、前記被溶削材の予測溶削量および予測騒音値を算出する予測値算出ステップと、
前記予測溶削量と予め設定された目標溶削量との差を算出し、当該差が許容値以下となり、かつ、前記予測騒音値が予め設定した基準騒音値以下となるまで、前記搬送速度および前記溶削酸素圧力のうちいずれか一方または両方を変更して前記予測値算出ステップを繰り返し実行する判定ステップと、
前記予測溶削量と前記目標溶削量との差が許容値以下となり、かつ、前記予測騒音値が前記基準騒音値以下となったときに設定されている搬送速度および溶削酸素圧力で前記被溶削材を搬送しながら溶削する溶削ステップと、
を含む、被溶削材の溶削方法。
【請求項2】
前記被溶削材情報は、被溶削材の表面温度、成分値、厚さ、長さおよび幅を含み、
前記溶削条件は、溶削酸素圧力、被溶削材の搬送速度、溶削滓除去用高圧ジェット水圧力および流量ならびに溶削予熱時間を含む、請求項1に記載の被溶削材の溶削方法。
【請求項3】
前記機械学習モデルは、過去の実績データに含まれる被溶削材情報と溶削条件とを説明変数とし、溶削量および騒音値を目的変数として、溶削量の予測値と実測値の誤差が小さく、かつ、騒音値の予測値と実測値の誤差が小さくなるように各説明変数の重み係数等を調整することで予め作成されたモデルである、請求項1に記載の被溶削材の溶削方法。
【請求項4】
前記溶削ステップの前後で、厚さ測定装置により前記被溶削材の溶削前後の厚さをそれぞれ測定する厚さ測定ステップと、
前記溶削ステップでは溶削中の騒音を騒音計により測定する騒音測定ステップと、
前記溶削前後の厚さの差から計算される被溶削材の溶削量実績値、および、前記溶削中に測定された騒音実績値を目的変数とし、溶削された前記被溶削材の被溶削材情報および溶削条件を説明変数として、前記機械学習モデルを逐次学習させることにより当該機械学習モデルを更新するモデル更新ステップと、
をさらに含む、請求項3に記載の被溶削材の溶削方法。
【請求項5】
溶削装置に鋼片を運搬する搬入工程と、
前記溶削装置内の処理位置まで前記鋼片を装入する装入工程と、
前記装入工程で装入した前記鋼片の表面を溶削する第1溶削工程と、
を含み、
さらに、任意選択的に、前記鋼片の溶削した表面を撮影する撮影工程と、
必要に応じて、研削台車および反転トラバーサを用いて前記撮影工程にて撮影した表面写真から得られた、前記鋼片表面の手入れ必要箇所に対し自動研削を行う研削工程と、
を含む溶削作業を実施し、前記鋼片の処理終了後、次の処理対象鋼片に対し搬入工程から繰り返し溶削作業を実施する際に、
前記第1溶削工程における鋼片表面の溶削時に、請求項1~4のいずれか1項に記載の被溶削材の溶削方法に従い決定した溶削条件で溶削する、鋼片の製造方法。
【請求項6】
前記溶削作業が、さらに、
必要に応じて、反転機を用いて前記鋼片を自動反転または横転し、再度前記鋼片を前記処理位置まで自動で引き戻す再装入工程と、
前記鋼片の未溶削の表面を溶削する第2溶削工程と、
を含み、
さらに、任意選択的に、前記鋼片の未撮影の溶削した表面に前記撮影工程および必要に応じて前記研削工程を適用し、
必要に応じて前記鋼片を自動反転または横転し、溶削する必要のある表面がなくなるまで前記再装入工程から前記研削工程までを繰り返すにあたり、
前記第2溶削工程における鋼片表面の溶削時に、請求項1~4のいずれか1項に記載の被溶削材の溶削方法に従い決定した溶削条件で溶削する、請求項5に記載の鋼片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶削材の溶削方法に関し、その方法を適用した鋼片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所において、鋳造されたスラブやビレット等の鋼片は、高い品質を維持するために鋼片の表面に生じた割れ、ピンホール、ヘゲ等の疵や不純物を燃焼ガスと酸素で熱化学的に溶削する工程を経由して、圧延工程に搬送される。この溶削の際に単位時間あたりの溶削量が多い場合、高圧ジェット水で完全に吹き飛ばすことができないことがある。その場合、鋼片表面に残留したスラグが水分と接触して水蒸気爆発を起こしたり、ノロ地金がリフトロールのネック部に付着したり、鋼片表面に残って、それが以降の工程で品質欠陥になることがある。
【0003】
溶削スラグを鋼片上に残留させない方法として、たとえば、特許文献1に示す方法が知られている。特許文献1に開示された突沸防止方法は、溶鉄を洗い流す高圧ジェットの高さ調整を自動で行い、鋼片形状に追従できるようにすることで、溶削スラグを洗い流し、突沸を防止するものである。
【0004】
特許文献2には、適切な溶削を行う制御方法が示されている。この方法では、溶削前に機械学習モデルを用いて目標溶削量で溶削するための溶削条件を決定することで、安定した溶削量を確保し続ける方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-212988号公報
【特許文献2】特開2020-157307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、以下のような課題があった。
特許文献1に開示された技術は、溶削時に用いる高圧水が溶削スラグと反応した突沸状態の把握や実験を行っていないため、水蒸気爆発の防止対策効果がわからなかった。特許文献2に開示された技術は、溶削量制御を目的としているため、突沸防止対策については検討していなかった。
【0007】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、被溶削材の溶削に伴う突沸を抑制できる技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる被溶削材の溶削方法は、溶削対象の被溶削材について溶削前に取得された被溶削材の表面温度を含む被溶削材情報と、任意に設定された搬送速度および溶削酸素圧力を含む溶削条件とを、機械学習モデルに入力し、前記被溶削材の予測溶削量および予測騒音値を算出する予測値算出ステップと、前記予測溶削量と予め設定された目標溶削量との差を算出し、当該差が許容値以下となり、かつ、前記予測騒音値が予め設定した基準騒音値以下となるまで、前記搬送速度および前記溶削酸素圧力のうちいずれか一方または両方を変更して前記予測値算出ステップを繰り返し実行する判定ステップと、前記予測溶削量と前記目標溶削量との差が許容値以下となり、かつ、前記予測騒音値が前記基準騒音値以下となったときに設定されている搬送速度および溶削酸素圧力で前記被溶削材を搬送しながら溶削する溶削ステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
なお、本発明にかかる被溶削材の溶削方法は、
(a)前記被溶削材情報は、被溶削材の表面温度、成分値、厚さ、長さおよび幅を含み、前記溶削条件は、溶削酸素圧力、被溶削材の搬送速度、溶削滓除去用高圧ジェット水圧力および流量ならびに溶削予熱時間を含むこと、
(b)前記機械学習モデルは、過去の実績データに含まれる被溶削材情報と溶削条件とを説明変数とし、溶削量および騒音値を目的変数として、溶削量の予測値と実測値の誤差が小さく、かつ、騒音値の予測値と実測値の誤差が小さくなるように各説明変数の重み係数等を調整することで予め作成されたモデルであること、
(c)前記溶削ステップの前後で、厚さ測定装置により前記被溶削材の溶削前後の厚さをそれぞれ測定する厚さ測定ステップと、前記溶削ステップでは溶削中の騒音を騒音計により測定する騒音測定ステップと、前記溶削前後の厚さの差から計算される被溶削材の溶削量実績値、および、前記溶削中に測定された騒音実績値を目的変数とし、溶削された前記被溶削材の被溶削材情報および溶削条件を説明変数として、前記機械学習モデルを逐次学習させることにより当該機械学習モデルを更新するモデル更新ステップと、をさらに含むこと、
などがより好ましい解決手段になり得る。
【0010】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる鋼片の製造方法は、溶削装置に鋼片を運搬する搬入工程と、前記溶削装置内の処理位置まで前記鋼片を装入する装入工程と、前記装入工程で装入した前記鋼片の表面を溶削する第1溶削工程と、を含み、さらに、任意選択的に、前記鋼片の溶削した表面を撮影する撮影工程と、必要に応じて、研削台車および反転トラバーサを用いて前記撮影工程にて撮影した表面写真から得られた、前記鋼片表面の手入れ必要箇所に対し自動研削を行う研削工程と、を含む溶削作業を実施し、前記鋼片の処理終了後、次の処理対象鋼片に対し搬入工程から繰り返し溶削作業を実施する際に、前記第1溶削工程における鋼片表面の溶削時に、上記いずれかの被溶削材の溶削方法に従い決定した溶削条件で溶削することを特徴とする。
【0011】
なお、本発明にかかる鋼片の製造方法は、前記溶削作業が、さらに、必要に応じて、反転機を用いて前記鋼片を自動反転または横転し、再度前記鋼片を前記処理位置まで自動で引き戻す再装入工程と、前記鋼片の未溶削の表面を溶削する第2溶削工程と、を含み、さらに、任意選択的に、前記鋼片の未撮影の溶削した表面に前記撮影工程および必要に応じて前記研削工程を適用し、必要に応じて前記鋼片を自動反転または横転し、溶削する必要のある表面がなくなるまで前記再装入工程から前記研削工程までを繰り返すにあたり、前記第2溶削工程における鋼片表面の溶削時に、上記いずれかの被溶削材の溶削方法に従い決定した溶削条件で溶削することがより好ましい解決手段になり得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる被溶削材の溶削方法および鋼片の製造方法によれば、溶削作業中の突沸頻度や規模を抑制することが可能になる。また、大規模な水蒸気爆発による被溶削材への爆発疵を防止する効果もある。したがって、安全かつ品質に優れた溶削鋼片を安定的に製造することが可能となるため、生産性を向上させることができるので産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態にかかる被溶削材の溶削方法に適用して好適な溶削設備の概略構成を示す説明図である。
図2】上記実施形態で用いる演算装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図3】上記実施形態にかかる被溶削材の溶削方法を説明するフロー図である。
図4】溶削作業時の実績騒音レベルと突沸時の溶鉄最大飛散距離との関係を示すグラフである。
図5】騒音レベル96dBの大突沸が発生したときの溶削後鋼片表面の状態を示す写真撮影像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための設備や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
[1.設備構成]
図1に基づいて本発明の一実施形態にかかる被溶削材の溶削方法に適用して好適な設備構成について説明する。図1は本実施形態にかかる溶削設備100の概略構成を示す説明図である。
【0016】
本実施形態にかかる溶削設備100は、鋼片などの被溶削材の表面にある欠陥を溶削により除去するための設備である。溶削設備100では、図1に示すように、ライン上に複数配置された被溶削材搬送ロール6の回転速度を制御することにより、被溶削材7を所定の搬送速度で搬送しながら溶削装置9により被溶削材の表面を溶削する。
【0017】
本実施形態では、プロセスコンピュータ1が演算装置2に目標溶削量を指示する。演算装置2は、溶削装置9および搬送速度制御装置6Aにそれぞれ溶削条件を指示する。搬送速度制御装置6Aは被溶削材7が指示された搬送速度で搬送されるように被溶削材搬送ロール6の回転速度を制御する。溶削装置9は、被溶削材7の表面に燃料ガスおよび酸素を噴射し、点火して、その熱により、まず、被溶削材7の予熱を行う。予熱後は溶削用高圧酸素を噴射して、被溶削材7の表面に吹き付け、被溶削材7表面の溶融鉄と酸素との連続的な酸化反応の発熱を利用し被溶削材7の1面以上の溶削を行う。
【0018】
溶削装置9は被溶削材の厚さ、長さおよび幅に応じて、溶削ユニットの位置が調整され、演算装置2からの指示を受けて、燃料ガスおよび酸素を制御し、被溶削材7の表面を溶削する。溶削装置9の溶削酸素圧力や被溶削材搬送ロール6の回転速度(搬送速度)は演算装置2によって決定される。
【0019】
溶削装置9に対し搬送方向FDの上流側および下流側にはそれぞれ厚さ計3、4が設置されている。厚さ測定装置としての厚さ計3、4は、被溶削材7を上下に挟み込むように配置し、被溶削材9の表裏面までの距離を計測する装置で構成することができる。その装置として、レーザー距離計や超音波距離計、過電流式距離計を例示できる。厚さ計3、4で測定した被溶削材7の厚さは厚さデータとして演算装置2に送信され、溶削前後の厚さの差から実績溶削量が算出される。
【0020】
溶削装置9に対し搬送方向FDの上流側には被溶削材表面温度測定器としての温度計5が設置されている。温度計5としては、接触式の熱電対や非接触式の放射温度計を用いることができる。イメージセンサであってもよい。温度計5はたとえば被溶削材7の幅方向および長さ方向の中央部を測定可能にライン上方に設置することができる。温度計5が測定した表面温度は、被溶削材7の表面温度データとして演算装置2に送信される。
【0021】
溶削装置9の周辺に騒音計8が設置される。溶削時の騒音レベルを騒音計8で測定し、演算装置2に送信する。騒音レベルは、溶削装置9から所定距離離れた位置の屋内に設置した騒音計8によって測定することが好ましい。騒音計8は、測定した音圧をJIS Z 8731:2019に規定するA特性音圧レベル(dB)に変換して騒音レベル(dB)として出力する。A特性音圧(Pa)とは、JIS C 1509-1に規定する周波数重み付け特性A(附属書JA参照)を掛けて測定する音圧(Pa)のことをいう。音圧レベル(dB)は、音圧の実効値の2乗を基準の音圧の2乗で除した値の常用対数の10倍で計算される。Z特性音圧レベルを用いることもできるが、作業者の聴覚に近いA特性音圧レベルを評価指標とすることが好ましい。騒音レベルを騒音値ともいう。
【0022】
溶削装置9による被溶削材7の溶削量は、被溶削材7の搬送速度および溶削酸素圧力のうちのいずれか一方または両方を変更して調整することにより制御される。溶削時の搬送速度および溶削酸素圧力は、演算装置2により算出される。演算装置2は上位の指令装置であるプロセスコンピュータ1や各種測定機器から取得される情報から機械学習モデルを用いて被溶削材7の搬送速度および溶削酸素圧力を決定する。決定された被溶削材7の搬送速度は、被溶削材搬送ロール6の回転速度を制御する搬送速度制御装置6Aに出力される。決定された溶削酸素圧力は溶削装置9へ出力される。演算装置2により決定された値に基づき、被溶削材7の搬送速度が制御され、溶削装置9による被溶削材7の溶削が行われる。
【0023】
[2.計測データ等]
演算装置2には、厚さ計3、4により測定された溶削前後の被溶削材7の厚さデータが入力される。演算装置2は当該厚さデータを溶削量に変換する。演算装置2には温度計5によって測定された表面温度が被溶削材7の表面温度データとして入力される。演算装置2には、騒音計8が測定した騒音レベルが被溶削材7の溶削時の騒音レベルデータとして入力される。演算装置2には、プロセスコンピュータ1から被溶削材7の目標溶削量が入力されるほか、被溶削材7の成分組成、長さや幅などのサイズ、被溶削材7の予熱温度や予熱時間、被溶削材7の搬送速度および溶削酸素圧力、ならびに、溶削滓除去用高圧ジェット水圧力および流量を含む情報が実績データとして、たとえば、プロセスコンピュータ1が備える実績データベース1Aから入力される。ここで、算出した溶削量、測定した被溶削材7の表面温度、成分組成、長さや幅などのサイズなどを被溶削材情報とし、搬送速度、溶削酸素圧力、測定した騒音値、高圧ジェット水圧力や流量、予熱温度や予熱時間などを溶削条件とする。これらの実績データは、図2に示す演算装置2の記憶媒体10に収集される。
【0024】
[3.演算装置]
図2に基づいて、本実施形態にかかる演算装置2の機能構成を説明する。図2は、本実施形態にかかる演算装置2の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0025】
本実施形態にかかる演算装置2は、機械学習モデルを有し、溶削設備100の有する各装置に動作指示を出力する装置である。被溶削材情報および設定溶削条件から予測溶削量や予測騒音値を算出し、被溶削材7の適切な溶削条件を決定する機能を有する。演算装置2は、CPUを備えるコンピュータで構成できる。演算装置2は、図示しない入力部、表示部、出力部など他の機能を備えていてもよい。
【0026】
本実施形態にかかる演算装置2は、図2に示すように、記憶媒体10と、機械学習モデル作成部(機械学習モデル更新部)11と、予測値算出部12と、溶削条件判定部13と、溶削条件変更部14とを有する。
【0027】
機械学習モデル作成部11は、過去の実績データに基づいて、被溶削材7の予測溶削量および溶削時の予測騒音値を算出するための機械学習モデルを作成する。
【0028】
機械学習モデルは、上述の実績データの被溶削材情報と溶削条件とを説明変数とし、溶削量および騒音値を目的変数として、溶削量の予測値と実測値の誤差が小さく、かつ、騒音値の予測値と実測値の誤差が小さくなるように各説明変数の重み係数等を調整して作成される。機械学習モデルの作成にあたっては、それぞれの目的変数に影響するパラメータを説明変数として用いることで、当該モデルにより算出される目的変数の予測精度を高めることができる。
【0029】
たとえば、溶削量に影響を与える説明変数としての被溶削材情報には、被溶削材7の表面温度、成分組成、厚さ、幅、長さが含まれる。被溶削材7の表面温度は、被溶削材7に与えるべきエネルギーの大きさに影響する。成分組成は、被溶削材7の融点に関係し、融点により被溶削材7に与えるべきエネルギーの大きさは変化する。成分組成による融点を表す指標としては、例えば炭素当量を用いることができる。また、被溶削材7の幅はドッグボーン形状等の幅方向に厚さの異なる被溶削材7の形状による溶削量への影響を表す。長さは予熱時の熱の伝わりやすさに影響する。被溶削材7が短いほど予熱時の熱の伝わりやすさへの影響は大きくなる。厚さは溶削開始時と終了時とでの温度降下に影響する。
【0030】
たとえば、溶削量に影響を与える説明変数としての溶削条件には、溶削酸素圧力、被溶削材7の搬送速度、予熱時間が含まれる。溶削酸素圧力および被溶削材7の搬送速度は、被溶削材7の表面の単位面積あたりに与えるエネルギーをコントロールする指標である。予熱時間は、溶削開始時、被溶削材7の溶削開始位置に対して一定時間酸素ガスを吹き付けて溶鋼溜まりを生じさせる予熱処理が行われる時間を指す。予熱時間は、鋼種や被溶削材7の表面温度によって経験的に決定される値であり、予熱処理にて生じる溶鋼溜まりの量をコントロールする指標である。
【0031】
たとえば、騒音値に影響を与える説明変数には、溶削酸素圧力、高圧ジェット水圧力および流量、被溶削材7の溶削量、搬送速度、予熱時間が含まれる。被溶削材7の溶削量および搬送速度は、単位時間あたり単位幅あたりの溶融鉄生成量を表す。予熱時間は上記のように溶削初期の溶融鉄量に影響する。溶削酸素圧力および高圧ジェット水条件は、単位時間あたり単位幅あたりの溶融鉄を除去する能力に影響する。生成した溶融鉄を除去する能力が不足すると残存した溶融鉄とジェット水が反応し突沸や水蒸気爆発を生じるおそれがある。それらが騒音の原因となる。
【0032】
機械学習モデル作成部11では、たとえば、回帰モデルや深層学習を用いてモデルを生成してもよい。回帰モデルを溶削量の予測に用い、深層学習を騒音値の予測に用いてもよい。モデルの選択は任意である。
【0033】
また、機械学習モデル作成部11は、機械学習モデルの更新機能を有していることが好ましい。それぞれの機械学習モデルの更新は、たとえば、被溶削材7の溶削を1本処理するごとに実施してもよい。機械学習モデル作成部11は記憶媒体10に実績データが蓄積されるごとにその実績データを用いて、それぞれの機械学習モデルを逐次的に更新する。これにより、最新の情報からそれぞれの機械学習モデルの目的変数である溶削量や騒音値の予測精度を高めることができる。
【0034】
予測値算出部12は予測溶削量算出機能と予測騒音値算出機能とを持つ。予測値算出部12の予測溶削量算出機能は機械学習モデル作成部11により予め作成された機械学習モデルを用いて、溶削対象の被溶削材7の予測溶削量を算出する。予測溶削量算出機能は、温度計5により測定された溶削対象の被溶削材7の表面温度を機械学習モデルに入力し、設定予定の溶削酸素圧力および被溶削材7の搬送速度で溶削を実施した場合の被溶削材7の予測溶削量を算出する。
【0035】
予測値算出部12の予測騒音値算出機能は、機械学習モデル作成部11により予め作成された機械学習モデルを用いて、溶削対象の被溶削材7の溶削時の予測騒音値を算出する。予測騒音値算出機能は、予測溶削量算出機能が算出した予測溶削量およびその算出に用いた溶削条件を機械学習モデルに入力し、設定予定の溶削酸素圧力および被溶削材7の搬送速度で溶削を実施した場合の予測騒音値を算出する。
【0036】
溶削条件判定部13は、予測値算出部12の予測溶削量算出機能により算出された予測溶削量と目標溶削量との差を算出し、当該差が許容値内にあるか否かを判定する。目標溶削量はプロセスコンピュータ1により、被溶削材7ごとに予め決定されている。溶削条件判定部13は、予測値算出部12の予測騒音値算出機能により算出された予測騒音値が基準騒音値以下か否かを判定する。基準騒音値は溶削装置9と騒音計8の位置関係および突沸との関係から予め定められている。溶削条件判定部13により、予測溶削量と目標溶削量との差が許容値以下となり、かつ、予測騒音値が基準騒音値以下となったと判定された場合には、そのときの溶削条件にて被溶削材7を溶削する。溶削条件判定部13はそのときの溶削酸素圧力を溶削装置9に出力する。溶削条件判定部13はそのときの搬送速度を搬送速度制御装置6Aに出力する。なお、予測溶削量と目標溶削量との差が許容値より大きい、または、予測騒音値が基準騒音値を超えている場合には、溶削条件変更部14により、溶削条件が変更されて、再度それぞれを予測する。
【0037】
溶削条件変更部14は、溶削条件判定部13により、予測溶削量と目標溶削量との差が許容値より大きい、または、予測騒音値が基準騒音値を超えていると判定されたときに、溶削条件を変更する。溶削条件変更部14は、溶削条件のうち、搬送速度および溶削酸素圧力のうちいずれか一方または両方を変更する。
【0038】
たとえば、同一溶削量で、騒音値を抑制するには、溶削酸素圧力を下げ、かつ、搬送速度を遅くする必要がある。
【0039】
溶削条件変更部14は、変更した溶削条件の値を予測値算出部12へ出力する。溶削条件変更部14により変更された溶削条件により、再度、予測値算出部12の予測溶削量算出機能および予測騒音値算出機能はそれぞれ予測溶削量および予測騒音値を算出する。
【0040】
[4.被溶削材の溶削方法]
図3に基づき、本実施形態に係る被溶削材の溶削方法について説明する。図3は、本実施形態に係る被溶削材の溶削方法を示すフロー図である。
【0041】
<S1>演算開始
被溶削材7の溶削を開始するにあたり、前処理として、演算装置2の機械学習モデル作成部11により、機械学習モデルが生成される。機械学習モデル作成部11は上述したように、記憶媒体10に取得した過去の溶削の実績データを用いて、上記説明変数のそれぞれの重み係数等を調整して目的変数の予測値と実績値との誤差が小さくなるようにそれぞれの機械学習モデルを作成し、更新する。
【0042】
溶削作業の開始時には、プロセスコンピュータ1から演算装置2の予測値算出部12へ溶削対象の被溶削材7の情報が入力される。このとき、被溶削材7の目標溶削量が与えられる(S2)。
【0043】
<S3>被溶削材の表面温度測定
温度計5は、測定した被溶削材7の表面温度を演算装置2へ出力する。演算装置2は温度計5により測定された被溶削材7の表面温度を受信すると、予熱時間を計算する。予熱時間は、被溶削材7の表面温度および成分組成、つまり融点によって定まる。また、厚さ計3は、測定した溶削前の被溶削材の厚さを演算装置2へ出力する。
【0044】
<S4>溶削条件初期値設定
演算装置2には、プロセスコンピュータ1から被溶削材情報のほか、搬送速度の初期値および溶削酸素圧力の初期値が与えられる(S4)。これらは、成分組成や厚さ、長さ、幅などが類似する直前の被溶削材7の溶削条件であってもよいし、過去の類似した被溶削材7の平均の溶削条件であってもよい。
【0045】
<S5>予測溶削量および予測騒音値の算出
演算装置2は、予測値算出部12の予測溶削量算出機能により、取得した被溶削材7の表面温度と、被溶削材の厚さと、プロセスコンピュータ1から入力された被溶削材情報および溶削条件とに基づき、予め定めた機械学習モデルを用いて、予測溶削量を算出する。次に、演算装置2は、算出された予測溶削量、その算出に用いた被溶削材情報および溶削条件に基づき、予測値算出部12の予測騒音値算出機能により、予め定めた機械学習モデルを用いて、予測騒音値を算出する。(S5)。
【0046】
<S6>予測溶削量の判定
演算装置2は、溶削条件判定部13により、予測溶削量と目標溶削量との差を算出し、その差が所定の許容値(閾値)以内にあるか否かを判定する(S6)。許容値としての閾値は、たとえば、溶削量測定のための厚さ計の測定誤差や被溶削材7の搬送速度の設定値と実績値との誤差などに基づいて、設定できる。
【0047】
<S7>溶削条件の変更
ステップS6にて、予測溶削量と目標溶削量との差が許容値を超えた場合、溶削条件変更部14により、たとえば、搬送速度が変更されたのち(S7)、ステップS5の予測溶削量および予測騒音値の算出が再度実行される。
【0048】
予測溶削量を目標溶削量に近づけるにあたっては、搬送速度および溶削酸素圧力のいずれか一方または両方を変更する。たとえば、溶削酸素圧力を固定して、搬送速度を変更することが好ましい。この場合、ステップS7では、予測溶削量を目標溶削量との大小関係に応じて、所定の変更量だけ搬送速度を増減する。この搬送速度の変更量は、たとえば、搬送速度制御装置6Aによって変更可能な被溶削材搬送ロール6の最小の単位回転速度の整数倍に設定することができる。たとえば、予測溶削量が目標溶削量より許容値を超えて大きいときには、搬送速度を所定の変更量だけ増加させる。また、予測溶削量が目標溶削量より許容値を超えて小さいときには、搬送速度を所定の変更量だけ減少させる。
【0049】
ステップS5~ステップS7の処理は、ステップS6の判定処理において、予測溶削量と目標溶削量との差が許容値以内となるまで繰り返し実行される。
【0050】
<S8>予測騒音値の判定
ステップS6の判定処理によって予測溶削量と目標溶削量との差が許容値以内にあると判定されると、演算装置2は、溶削条件判定部13により、予測騒音値が基準騒音値以下であるか否かを判定する(S8)。基準騒音値は、たとえば、図4に示すような、溶削時の突沸の規模と実績騒音レベルとの関係に基づいて、突沸の規模が所定の値以下となる騒音レベルとして設定できる。図4の例では基準騒音値として騒音レベルを80dBとしている。基準騒音値は、溶削装置9と騒音計8との距離によって異なる。
【0051】
<S7>溶削条件の変更
ステップS8にて、予測騒音値が基準騒音値を超えた場合、溶削条件変更部14により、搬送速度および溶削酸素圧力のいずれか一方または両方を変更する。たとえば、溶削酸素圧力および搬送速度が変更されたのち(S7)、ステップS5の予測溶削量および予測騒音値の算出が再度実行される。たとえば、予測溶削量を維持したまま、予測騒音値を減少させるために、溶削酸素圧力および搬送速度をそれぞれ所定の変更量だけ減少させる。たとえば、溶削酸素圧力の変更量は、溶削酸素圧力の測定器の最小測定単位の整数倍とすることができる。搬送速度の変更量は、溶削酸素圧力の変更量との関係で予測溶削量が維持できる大きさを設定する。
【0052】
ステップS5~ステップS8の処理は、ステップS6およびステップS8の判定処理において、予測溶削量と目標溶削量との差が許容値以内となり、かつ、予測騒音値が基準騒音値以下となるまで繰り返し実行される。
【0053】
<S9>溶削条件の設定および溶削実施
ステップS6およびステップS8の判定処理において、予測溶削量と目標溶削量との差が許容値以内であり、かつ、予測騒音値が基準騒音値以下であると判定されると、溶削条件判定部13はその時点で設定されている被溶削材7の搬送速度で被溶削材7を溶削することを決定する。搬送速度制御装置6Aは決定された搬送速度で被溶削材7が搬送されるように被溶削材搬送ロール6を回転させる。搬送される被溶削材を決定した溶削酸素圧力で溶削装置9により溶削する(S9)。厚さ計4は、測定した溶削後の被溶削材7の厚さを演算装置2へ出力する。被溶削材7の溶削しようとする面の溶削が完了すれば演算終了となる(S10)。
【0054】
<機械学習モデルの更新>
ステップS9の溶削作業完了後に、機械学習モデルを更新してもよい。
【0055】
<予測溶削量算出モデル更新ステップ>
機械学習モデルの予測溶削量算出処理を更新する予測溶削量算出モデル更新ステップは以下のように実行される。
【0056】
被溶削材7の溶削前後で厚さ計3、4により測定された被溶削材7の厚さを実績厚さデータとして取得し、その差を溶削量実績値として算出し記憶媒体10に記憶する。機械学習モデル作成部11は、溶削材7の溶削量実績値とその溶削材7の被溶削材情報および設定した溶削条件とに基づいて、機械学習モデルの予測溶削量算出処理を逐次学習させる。すなわち、機械学習モデル作成部11は、被溶削材7の被溶削材情報および溶削条件に基づき、機械学習モデルの予測溶削量算出処理で算出される溶削量予測値と被溶削材7の溶削量実績値との差が小さくなるように機械学習モデルの予測溶削量算出処理内の各パラメータに対する重み係数を修正する。次回の被溶削材7の溶削時には、逐次学習により更新された機械学習モデルの予測溶削量算出処理を用いて予測溶削量が算出される。
【0057】
<予測騒音値算出モデル更新ステップ>
機械学習モデルの予測騒音値算出処理を更新する予測騒音値算出モデル更新ステップは以下のように実行される。
【0058】
上記予測溶削量算出モデル更新ステップの実績情報に加えて、溶削時に騒音計8で測定した実績騒音値を記憶媒体10に記憶する。機械学習モデル作成部11は、溶削材7の溶削量実績値と溶削時の実績騒音値とその溶削材7の被溶削材情報および設定した溶削条件とに基づいて、機械学習モデルの予測騒音値算出処理を逐次学習させる。すなわち、機械学習モデル作成部11は、被溶削材の溶削量実績値、被溶削材7の被溶削材情報および溶削条件に基づき、機械学習モデルの予測騒音値算出処理で算出される予測騒音値と実績騒音値との差が小さくなるように機械学習モデルの予測騒音値算出処理内の各パラメータに対する重み係数を修正する。次回の被溶削材7の溶削時には、逐次学習により更新された機械学習モデルの予測騒音値算出処理を用いて予測騒音値が算出される。
【0059】
[5.鋼片の製造方法]
次に、本発明の他の実施形態にかかる鋼片の製造方法について説明する。本実施形態にかかる鋼片の製造方法は、溶削装置を用いた溶削作業を含み、搬入工程と装入工程と第1溶削工程とを含み、さらに、任意選択的に、撮影工程と、必要に応じて行う研削工程とを含む。先の鋼片の溶削作業の処理終了後次の処理対象鋼片に対し搬入工程から繰り返し溶削作業を実施する。さらに、溶削作業は、必要に応じて、再装入工程と、第2溶削工程とを含む。
【0060】
搬入工程では、連続鋳造などによって鋳造された鋼片を溶削装置としてのマシンスカーフに運搬する。たとえば、鋼片をマシンスカーフのターンテーブル上に運搬する。
【0061】
装入工程では、たとえば、ターンテーブル上の鋼片をマシンスカーフ内の処理位置まで装入する。
【0062】
溶削工程は、点火ステップと予熱ステップと溶削ステップとを含む。点火ステップでは、たとえば、スカーファーユニットから可燃性ガスを供給し、点火装置によって可燃性ガスに点火する。次に、予熱ステップでは、燃焼する可燃性ガスの熱により、鋼片表面の一部を溶融して湯溜まりを形成して熱源とする。次に、溶削ステップでは、この湯溜まりに向けて酸素ガスを供給し、酸素ガスと鉄との酸化反応熱によって鋼片の表面を深さ1~4mm程度溶融させ、鋼片の表面欠陥を除去する。
【0063】
この、溶削工程では、上記被溶削材の溶削方法を適用して、被溶削材としての鋼片の目標溶削量と基準騒音値に適うように溶削を実施する。
【0064】
撮影工程は、鋼片の溶削した表面を撮影する。そして、表面欠陥の有無を判定し、さらなる溶削や次の研削工程への処理を決定する。この撮影工程は、厳格な表面品質が要求される鋼種に適用することが好ましい。
【0065】
研削工程は、撮影工程での判定に基づき、研削台車および反転トラバーサを用いて前記撮影工程にて撮影した表面写真から得られた、前記鋼片表面の手入れ必要箇所に対し自動研削を行う。もって、表面欠陥を除去する。
【0066】
溶削ステップでは、鋼片の全周に亘り、1回の溶削を行うこともできる。また、鋼片の1面ずつ、または、複数面を同時に溶削することもできる。再装入工程は、第1溶削工程で未処理の鋼片の面を溶削するために、反転機を用いて前記鋼片を自動反転または横転し、再度鋼片を前記処理位置まで自動で引き戻す。
【0067】
第2溶削工程は、鋼片の未溶削の表面を溶削する。各処理ステップは第1溶削工程と同様である。その後、さらに、任意選択的に、撮影工程および必要に応じて前記研削工程を適用する。
【0068】
さらに、溶削する必要のある鋼片の面がなくなるまで再装入工程~研削工程を繰り返し実施する。
【0069】
以上説明したように、被溶削材の溶削方法やその方法を溶削工程とする鋼片の製造方法は、精度よく溶削量を管理できるうえ、作業の安全性が向上し、相乗効果で生産性が増大する効果が得られた。
【実施例0070】
図1の装置構成で厚さ235mmおよび260mm、幅1000~1625mm、長さ6.10~8.93mの鋼スラブを溶削した。目標溶削量は2.3mmである。溶削酸素圧力をゲージ圧で230Paとした。搬送速度を9.6~16.5m/minの範囲で変更した。溶削装置から20mほど離れた建屋内に設置した騒音計で騒音を測定した。突沸時の溶鉄最大飛散距離(m)とそのときの騒音レベル(dB)との関係を図4に示す。騒音レベルが80dB超えで突沸時の溶鉄最大飛散距離が5m以上の「突沸」となっている。騒音レベルが96dBの「大突沸」が発生したときの、溶削した鋼片表面の撮像図を図5に示す。鋼片表面に溶削滓による盛り上がりの欠陥Dが観察される。このような鋼片表面性状異常が発生するとオフラインで研削処理が必要になるなど生産性の阻害や飛散した溶融鉄による周辺設備への損傷の危険性が増大するおそれがある。たとえば、騒音レベルが80dB以下の溶削条件とすることで、鋼片表面の品質および安全性、生産性を向上させることができた。
【符号の説明】
【0071】
100 溶削設備
1 プロセスコンピュータ
1A 実績データベース
2 演算装置
3 (溶削前)厚さ計
4 (溶削後)厚さ計
5 温度計(被溶削材表面温度測定器)
6 被溶削材搬送ロール
6A 搬送速度制御装置
7 被溶削材
8 騒音計
9 溶削装置(マシンスカーフ)
10 記憶媒体
11 機械学習モデル作成部(機械学習モデル更新部)
12 予測値算出部
13 溶削条件判定部
14 溶削条件変更部
FD 搬送方向
D (鋼片表面)欠陥部
図1
図2
図3
図4
図5