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  • 特開-窒化アルミニウム粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104096
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
C01B21/072 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008143
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】東 和樹
(72)【発明者】
【氏名】筒井 英之
(57)【要約】
【課題】品質にばらつきの無い塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末を用いる窒化アルミニウム粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】無水塩化アルミニウムと構造中に炭素-炭素結合を含まない有機アミン化合物を、粉砕混合装置を用いて粉砕混合して、BET値が4.0m/g以上の塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末を形成する焼成前駆体生成工程、前記生成された焼成前駆体を非酸化性雰囲気下で、焼成温度800~1200℃で焼成する焼成工程を含むことを特徴とする窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水塩化アルミニウムと構造中に炭素-炭素結合を含まない有機アミン化合物を、粉砕混合装置を用いて粉砕混合して、BET値が4.0m/g以上の塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末を形成する焼成前駆体生成工程、
前記生成された焼成前駆体を非酸化性雰囲気下で、焼成温度800~1200℃で焼成する焼成工程
を含むことを特徴とする窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項2】
前記有機アミン化合物が、メラミン、シアヌル酸、シアナミド、メチルアミン、尿素、ヘキサメチレンテトラミン、グアニジン若しくはシアノグアニジンから選ばれる請求項1に記載の窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の高集積化、高出力化に伴い、放熱材料に対する高性能化が望まれている。こうしたニーズに合致する素材として窒化アルミニウムが注目されている。窒化アルミニウムは、熱伝導性、絶縁性、熱膨張率において優れた性能を示す素材であることから、静電チャック等の半導体製造装置用部品、LED放熱基板、放熱フィラー等としての用途が検討されている。使われる窒化アルミニウム原料は絶縁性を付与するために、導電性を示す不純物を含まないことが望ましい。
【0003】
窒化アルミニウムの従来の製造方法で主なものとして炭素還元窒化法が知られているが、これはアルミナ粉末と活性炭を混合し、窒素またはアンモニア雰囲気下で、1500℃以上の高温加熱が必要であり、製造設備費の増大などが問題となっている。特許文献1には、無水塩化アルミニウムと有機アミン化合物から得られる塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末を用いる方法が提案されている。この錯体粉末を焼成前駆体とすると、1200℃以下という比較的低温で焼成することが可能であり、粒子径の揃った窒化アルミニウム粉末が得られることが記載されている。
【0004】
特許文献1に記載される窒化アルミニウムの前駆体である塩化アルミニウム-有機アミン錯体は、原料となる無水塩化アルミニウムと有機アミン化合物を、溶媒の存在下または非存在下で混合することで合成されるが、合成条件によって得られる錯体粉末の品質が変化し、焼成された窒化アルミニウム粉末の品質にばらつきが出る問題があった。通常、焼成工程で得られた窒化アルミニウムは不純物として炭素を少量含んでいるが、この炭素量にばらつきがあることがわかった。焼成工程では、錯体の有機アミン部分は熱分解の過程で揮発分となって除去されるが、この一部が炭化して窒化アルミニウム中に残存する。これまでの検討で、塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末の品質によって、焼成工程後の窒化アルミニウム中に含まれる不純物炭素の量が変化することがわかった。
【0005】
この錯体調製法を精査したところ、デカン、メチルシクロヘキサンのような鎖状および環状の脂肪族炭化水素を溶媒または分散剤として用いた場合は、無水塩化アルミニウムおよび有機アミン化合物の溶解度が低く、スラリー状態で反応が進行する。得られる塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末の外観は同様であるものの、両原料の粒子径、撹拌の度合等が異なると、得られた錯体粉末を焼成した後の窒化アルミニウム中に含まれる不純物炭素の量が大きく変わることがわかった。撹拌を効率よく行うことで良好な錯体を合成することは可能であるが、特に有機アミン化合物も固体である場合は錯体形成を安定して進行させることが難しく、スケールアップは困難であった。またアセトニトリル、プロピオニトリルのようなニトリル系溶媒では無水塩化アルミニウムは溶液として混合できるものの、溶液濃度が高い場合は生成する錯体が析出し、反応液全体の粘性が高くなり、撹拌が困難となり、生成する錯体が不均一となってしまうことがわかった。逆に溶液濃度が低い場合は撹拌が容易で効率よく混合されるが、得られた錯体の焼成結果が安定しなかった。理由は不明であるが、得られた錯体が溶媒を含んだ複雑な錯体となったことが原因と考えている。
【0006】
無溶媒法では無水塩化アルミニウムおよび有機アミン化合物を乳鉢等で粉砕混合するが、たとえ粒径の小さい微粉末を用いても再現よく均一に両原料を混合することは難しく、良好な錯体が得られない場合が多かった。
【0007】
このように得られる塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末の品質が悪い場合は、その後の焼成工程で窒化アルミニウム中の不純物量が増加してしまうため、不純物の少ない窒化アルミニウムを与える再現性のよい塩化アルミニウム-有機アミン錯体を合成することが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-142975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、特許文献1に記載の錯体調製法では安定して良好な塩化アルミニウム-有機アミン錯体が得られず、焼成条件を工夫しても安定して良好な窒化アルミニウムが得られないことが問題となっていた。特に原料として用いる無水塩化アルミニウムまたは有機アミン化合物の粒子径が大きい場合は、反応時間を延長しても得られる前駆体である塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末の品質向上は難しいことがわかっている。このため、品質にばらつきの無い塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末を用いる窒化アルミニウム粉末の製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記の問題点について鋭意検討した結果、無水塩化アルミニウムと有機アミン化合物を粉砕混合装置中で粉砕混合することで、品質にばらつきの無い塩化アルミニウム-有機アミン錯体の粉末が再現良く得られることを見出し、この錯体粉末を焼成することにより、安定して良好な窒化アルミニウム粉末が得られる本発明の製造方法の完成に至った。
【0011】
本発明の方法によれば、原料の粒子径によらず、品質にばらつきの無い良好な塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末(焼成前駆体)が再現よく調製可能である。得られる塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末の品質の良し悪しは減圧乾燥後の錯体の比表面積(BET値)を測定することで確認でき、BET値が4.0m/g以上であれば非酸化性雰囲気下、1200℃以下の温度で焼成することで、残存炭素量が少なく、解砕が容易なスポンジ状固体として窒化アルミニウムが得られる。
【0012】
すなわち、本発明は、無水塩化アルミニウムと構造中に炭素-炭素結合を含まない有機アミン化合物を、粉砕混合装置を用いて粉砕混合して、BET値が4.0m/g以上の塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末を形成する焼成前駆体生成工程、前記生成された焼成前駆体を非酸化性雰囲気下で、焼成温度800~1200℃で焼成する焼成工程を含むことを特徴とする窒化アルミニウム粉末の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法を用いると、焼成前駆体として良好な品質の塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末を再現良く合成することが可能である。すなわち、本発明の方法で合成した塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末を用いれば、外観が灰白色で残留炭素が少ない良好な品質の窒化アルミニウム粉末が再現良く得られる。本発明の方法は、分離精製などの操作が簡単でスケールアップも容易であることから、工業的に非常に有用な窒化アルミニウム粉末の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例記載のいくつかの実験例で得られた窒化アルミニウム焼成体の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法は、無水塩化アルミニウムと構造中に炭素-炭素結合を含まない有機アミン化合物を、粉砕混合装置を用いて粉砕混合して、BET値が4.0m/g以上の塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末を形成する焼成前駆体生成工程と、生成された焼成前駆体を非酸化性雰囲気下で、焼成温度800~1200℃で焼成する焼成工程を含むことを特徴とする窒化アルミニウム粉末の製造方法である。
【0016】
<焼成前駆体生成工程>
(無水塩化アルミニウム)
無水塩化アルミニウムは、通常、固体として様々な粒子径のものが市販されている。本発明の方法では、焼成前駆体生成工程の錯体形成反応中に粉砕されることから、原料の無水塩化アルミニウムの粒子径に合わせて粉砕条件を変更することができる。使用する原料の無水塩化アルミニウムの粒子径に制限はない。使用する粉砕混合装置により違いはあるものの、通常は粒子径100μm~10mm程度の無水塩化アルミニウムを使用できる。
【0017】
(有機アミン化合物)
本明細書で用いる、用語「有機アミン化合物」とは、アンモニアの水素原子を炭化水素基で置換した、通常は固体の化合物であって、構造中に炭素-炭素結合を含んでいないアミン化合物を言う。好ましくは、構造中に炭素-炭素結合を含まず、かつ窒素-炭素結合を含む有機アミン化合物である。本発明に用いる有機アミン化合物は構造中に炭素-炭素結合を含んでいないことから、焼成工程の比較的低温のところで有機アミン化合物の分解が起こり、炭素分が揮発成分となって効率的に除去されると考えられる。
【0018】
本発明に用いることができる有機アミン化合物としては、例えば、メラミン、シアヌル酸、シアナミド、メチルアミン、尿素、ヘキサメチレンテトラミン、グアニジン若しくはシアノグアニジン等の低分子有機アミン化合物およびその塩類、これら有機アミン化合物を最小単位とした重合物およびその塩類が挙げられる。これら有機アミン化合物は単独で用いても2種類以上の混合物として用いてもよい。
【0019】
原料の有機アミン化合物の量は、無水塩化アルミニウム1モルに対して0.1~50モル、好ましくは1~10モルの割合、より好ましくは、1~5モルの割合とすることができる。有機アミン化合物の量が少ない場合は、遊離の無水塩化アルミニウムが増加することで、その後の焼成で窒化アルミニウムの収率の低下を招く。有機アミン化合物の量が多い場合は、焼成工程でアミン揮発成分が多くなり廃棄物が増加するためコスト的に不利である。
【0020】
(分散剤・溶媒)
本発明の方法では、使用する粉砕混合機の種類にしたがって、溶媒または分散剤の、存在下または非存在下で粉砕混合が行われる。例えば、ポットミルやビーズミルを用いる場合では、無水塩化アルミニウムと有機アミン化合物を効率よく粉砕し、混合するために、基本的に分散剤の存在下で粉砕混合が行われる。使用する分散剤の種類としては、無水塩化アルミニウムおよび有機アミン化合物が分散し、そして錯体形成反応を阻害しなければ特に制限はない。このような分散剤としては、例えば、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン若しくはデカン等の鎖状および環状の脂肪族炭化水素類、またはベンゼン、トルエン若しくはキシレン等の芳香族炭化水素、またはジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素若しくはクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等を挙げることができる。特にヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン若しくはデカン等の鎖状および環状の脂肪族炭化水素類は、塩化アルミニウムと有機アミン化合物の溶解度が低く、反応完了後の除去も、ろ過操作のみであることから好ましい。これらの分散剤は、単独でもよく、2種類以上の混合分散剤として用いてもよい。
【0021】
原料固体の凝集により粉砕混合が妨げられることのない程度であれば分散剤の使用量に制限はないが、通常は原料として用いる塩化アルミニウム1質量部に対して、分散剤を100質量部以下、好ましくは50質量部以下、更に好ましくは10質量部以下の割合で使用する。上記分散剤に無水塩化アルミニウムおよび有機アミン化合物を分散させた状態は、通常、懸濁液状となる。
【0022】
(粉砕混合装置)
本発明の焼成前駆体生成工程に用いることができる粉砕混合装置としては、原料の無水塩化アルミニウム、有機アミン化合物を粉砕できれば、特に限定されない。例えば、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ジェットミル、ハンマーミル、振動ミル、遊星ミル、アトライター、回転式石臼等の粉砕混合装置が挙げられ、装置に合わせてバッチ式、連続式いずれも使用できる。
【0023】
本発明の焼成前駆体生成工程における粉砕では、装置の種類に応じて粉砕媒体を使用することができる。媒体の材質としては、無水塩化アルミニウム、有機アミン化合物および生成される焼成前駆体が効果的に粉砕混合できればよく、ガラス、アルミナ、ジルコニア、ステンレス(SUS)等が用いられる。これら媒体は単独でもよく、2種類以上混合して用いてもよい。
【0024】
本発明の焼成前駆体生成工程において、原料と粉砕媒体の量は使用する粉砕混合装置に合わせて適宜調整する。例えばポットミルでは、容器容量に対して分散媒体と原料の合計容積が1割以上7割以下となるように仕込む。7割より多い場合は媒体および原料が効率よく混合できず焼成前駆体(錯体)形成が進みにくい。1割より少ない場合は粉砕混合効率が低下し、焼成前駆体の形成に要する時間が長くなる上、粒子径の大きい原料が粉砕されず錯体形成が進まない。
【0025】
本発明の焼成前駆体生成工程における、塩化アルミニウム-有機アミン錯体の生成は、10~80℃の温度範囲で行われるが、15~50℃が好ましく、15~30℃がより好ましい。
【0026】
(形成された焼成前駆体の評価方法)
焼成工程で用いることができる焼成前駆体の品質を評価する方法としては、比表面積値が有効であり、本発明では、以下に示す比表面積測定原理(BET法)により測定したBET値を用いる。
【0027】
実施例に示すように、最終焼成物の窒化アルミニウム粉末の外観から判断して、BET値が4.0m/g以上で、良好な品質の焼成前駆体となることがわかった。この理由は依然不明であるが、無水塩化アルミニウムまたは有機アミン化合物の表面上で錯形成反応が進行すると、形成される錯体が保護膜となるので、保護膜内部の原料粒子は錯形成反応に関与できなくなる。このため、本発明の焼成前駆体生成工程のような粉砕混合を同時に行うことができる方法では、原料粒子を壊しながら錯形成反応が進行しているものと考えている。粉砕により活性の高い粉砕面を常に生成することで効率的に無水塩化アルミニウムと有機アミン化合物の錯形成反応が進行したものと考えられる。こうして得られたBET値が4.0m/g以上の錯体粉末は、次の焼成工程で、非酸化性雰囲気下、1200℃以下で焼成した場合、残留炭素1.0質量%以下で、解砕が容易なスポンジ状固体の良好な品質の窒化アルミニウムが得られる。錯体粉末のBET値の上限値は、高くても50m/g程度までと考えられる。これ以上になると、焼成で良好な窒化アルミニウムは得られるものの、錯体粉末が微粉末となるため扱いが煩雑となり、好ましくない。
【0028】
上記の方法で得られた塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末は、以下の焼成工程に、そのまま使用可能である。
【0029】
このようにして得られた塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末は、非酸化性雰囲気下で焼成され、窒化アルミニウムに変換される。焼成温度の下限値は800℃以上となることができる。焼成温度の好ましい範囲は800~1500℃であり、さらに好ましい範囲は、800~1200℃である。焼成装置としてはるつぼを用いたバッチ式焼成炉、または回転式焼成炉など、一般に用いられる工業的焼成炉であればいずれも使用することができる。この焼成反応は酸化によるアルミナの生成を抑制するために非酸化性雰囲気下行う。
【0030】
非酸化性雰囲気としては、窒素、アンモニア、水素、アルゴン、一酸化炭素、二酸化炭素またはこれらの混合雰囲気等となることができる。中でも窒素雰囲気が安全で安価であり好ましい。焼成後に得られる窒化アルミニウムの残留炭素は、通常1.0質量%以下である。
【0031】
焼成温度が800℃未満の場合は反応が十分に進まないため、有機アミン化合物由来の有機物が残存し、窒化アルミニウムが生成しない。また1500℃以上でも窒化アルミニウム生成に問題はないが、温度が高いことから設備費が増大し、結果的にコスト的に不利になる。本発明ではアルミニウム源となる塩化アルミニウムと窒素源となる有機アミン化合物が1:1~1:3の対となるような錯体を形成していると考えられる。アルミニウム原子と窒素原子が距離的に近い位置に存在することからアルミニウム-窒素結合形成のための反応が進行しやすく、その結果比較的低温で窒化アルミニウムが生成したと考えている。
【0032】
本発明の焼成前駆体生成工程における塩化アルミニウム-有機アミン錯体は、塩化アルミニウム(AlCl3)部分と、構造中に炭素-炭素結合を含まない有機アミン部分とから成っている。好ましくは、有機アミン部分は、構造中に炭素-炭素結合を含まず、かつ窒素-炭素の結合を含んで構成される有機アミン部であれば特に限定されない。このような有機アミン部分の構造は、製造に用いた、例えば、メラミン、シアヌル酸、シアナミド、メチルアミン、尿素、ヘキサメチレンテトラミン、グアニジン若しくはシアノグアニジン等の低分子有機アミン化合物およびその塩類、これら有機アミン化合物を最小単位とした重合物およびその塩類に由来するものである。
【実施例0033】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0034】
BET値(m/g)の測定は、比表面積自動測定装置(Micrometrics社:フローソーブII2300形)を使用し、JIS R1626:1996に準じて、定容量法による窒素ガス吸着量測定を行い、BET一点法により算出した。
【0035】
焼成された窒化アルミニウム中の炭素量(質量%)は、ELTRA社のCS2000炭素・硫黄分析装置を使用し、燃焼赤外吸収法で測定した。サンプルを1250℃の管状炉に挿入し、酸素ガスを流して炭素分を燃焼させCOに変換した後、発生ガスに赤外線を照射し、赤外線の吸収量をあらかじめ求めた検量線から換算して、炭素量を測定した。
【0036】
焼成された窒化アルミニウム外観を観測し、黒色を×、灰白色を〇と判定した。
【0037】
(焼成工程の焼成方法)
得られた塩化アルミニウム-有機アミン錯体(焼成前駆体)の焼成は、外径40mmφの石英管を備えたセラミック電気管状炉(アサヒ理化製作所:ARF-40K)を用い行った。塩化アルミニウム-有機アミン錯体の粉末を量り取り、100mL/minの流速で高純度窒素を流しながら、10℃/minの速度で昇温する。内温1100℃まで昇温して、30分保持した後、加熱を止め室温まで自然冷却し窒化アルミニウムを取り出した。
【0038】
<実験例A0>
窒素雰囲気下、アンカー型の撹拌翼を備えたガラス製セパラブルフラスコに、無水塩化アルミニウム(5.0g、37.5mmol)、メラミンモノマー(14.2g、113mmol)、デカン(38.4g、270mmol)を仕込み、4mmφのガラスビーズ100gを加えた。撹拌翼を数回転させ混合時間0minで、全体を均一に分散させた。篩でガラスビーズを分離した後、得られたスラリーを濾過、減圧乾燥して塩化アルミニウム-メラミン錯体(18.0g、収率94%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は0.6m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは黒色で融解固化した外観であった。
【0039】
<実験例A1>
撹拌翼を200rpmで回転させ3時間混合したこと以外は実験例A0に記載の方法により合成を実施し、塩化アルミニウム-メラミン錯体(18.1g、収率94%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は0.9m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは黒色で融解固化した外観であった。この焼成体の外観を図1に示す。
【0040】
<実験例A2>
撹拌翼を200rpmで回転させ6時間混合したこと以外は実験例A0に記載の方法により合成を実施し、塩化アルミニウム-メラミン錯体(18.3g、収率95%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は1.0m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは黒色で融解固化した外観であった。この焼成体の外観を図1に示す。
【0041】
<実験例A3>
撹拌翼を200rpmで回転させ24時間混合したこと以外は実験例A0に記載の方法により合成を実施し、塩化アルミニウム-メラミン錯体(17.4g、収率91%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は2.1m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは黒色で凝集固化した外観であった。
【0042】
<実験例A5>
撹拌翼を200rpmで回転させ72時間混合したこと以外は実験例A0に記載の方法により合成を実施し、塩化アルミニウム-メラミン錯体(17.4g、収率91%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は5.9m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは灰白色でスポンジ状に膨張固化した外観であった。
【0043】
<実験例A6>
撹拌翼を200rpmで回転させ96時間混合したこと以外は実験例A0に記載の方法により合成を実施し、塩化アルミニウム-メラミン錯体(17.4g、収率91%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は7.3m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは灰白色でスポンジ状に膨張固化した外観であった。
【0044】
<実験例B1>
外径105mmのアルミナポット(容量約300mL)に無水塩化アルミニウム(13.3g,0.1mol)、メラミンモノマー(37.8g,0.3mol)、デカン(50g、351mmol)を仕込み、10mmφのアルミナボール500gを加えた。この時原料とアルミナボールを合わせた容積はポットの約50%を占めていた。このポットをポットミル回転架台に乗せ280rpmで4日間回転させ混合した。篩でアルミナボールと粉体を分離した後、得られたスラリーを濾過、減圧乾燥して塩化アルミニウム-メラミン錯体を(48.3g,95%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は4.2m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは灰白色でスポンジ状に膨張固化した外観であった。この焼成体の外観を図1に示す。
【0045】
<実験例C1>
三日月翼の撹拌機を備えた丸底フラスコに無水塩化アルミニウム(6.67g、50mmol)、メラミンモノマー(18.8g、150mmol)、デカン(179g、1.25mol)を加え、スラリーを調製した。これをアシザワファインテック社製ビーズミル粉砕機ファーストミル(粉砕メディア:ジルコニアビーズ0.5mmφ,50g、回転数:6000rpm)に、ポンプにて20mL/minの速度で送液し、粉砕混合した。なお、1パスの送液でベッセル(粉砕混合される領域)中の滞留時間は約2分となる。得られたスラリー溶液を減圧濾過により白色固体(23.7g)を得た。これを減圧乾燥して塩化アルミニウム-メラミン錯体(22.5g、収率88%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は13.7m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは灰白色でスポンジ状に膨張固化した外観であった。得られた窒化アルミニウム中の炭素量を測定したところ0.2質量%であった。この焼成体の外観を図1に示す。
【0046】
<実験例C2>
ファーストミルの回転数を4000rpmにしたこと以外は実験例C1に記載の方法により合成を実施し、塩化アルミニウム-メラミン錯体(22.1g、収率87%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は7.6m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは灰白色でスポンジ状に膨張固化した外観であった。
【0047】
<実験例C3>
ファーストミルの回転数を2000rpmにしたこと以外は実験例C1に記載の方法により合成を実施し、塩化アルミニウム-メラミン錯体(21.5g、収率84%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は8.9m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは灰白色でスポンジ状に膨張固化した外観であった。得られた窒化アルミニウム中の炭素量を測定したところ0.4質量%であった。この焼成体の外観を図1に示す。
【0048】
<実験例C4>
実施例C1に記載の方法により得られたスラリーを用い再度実験例C1に記載の方法で粉砕混合を行う操作を4回繰り返し(スラリーがベッセルに5回通ることになる)、塩化アルミニウム-メラミン錯体(19.5g、収率76%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は11.3m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは灰白色でスポンジ状に膨張固化した外観であった。この焼成体の外観を図1に示す。
【0049】
<実験例C5>
ファーストミルの回転数を6900rpmにしたこと以外は実験例C1に記載の方法により合成を実施し、塩化アルミニウム-メラミン錯体(22.2g、収率87%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は7.4m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは灰白色でスポンジ状に膨張固化した外観であった。
【0050】
<実験例C6>
ジルコニアビーズの外径を0.1mmφとして実験例C1に記載の方法によりスラリーを得て、そのスラリーを再度装置に送液し粉砕混合を行う操作を行い(スラリーがベッセルに2回通ることになる)、塩化アルミニウム-メラミン錯体(19.0g、収率74%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は3.8m/gであった。この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは黒色で凝集固化した外観であった。得られた窒化アルミニウム中の炭素量を測定したところ2.0質量%であった。
【0051】
<実験例C7>
ジルコニアビーズの外径を0.1mmφとして実験例C1に記載の方法によりスラリーを得て、そのスラリーを再度装置に送液し粉砕混合を行う操作を4回繰り返して行い(スラリーがベッセルに5回通ることになる)、塩化アルミニウム-メラミン錯体(19.2g、収率75%)を白色粉末として得た。この錯体粉末のBET値は7.1m/gであった。また、この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは灰白色でスポンジ状に膨張固化した外観であった。この焼成体の外観を図1に示す。
【0052】
<実験例D1>
無水塩化アルミニウム(4g、0.03mol)とメラミンモノマー(11.35g、0.09mol)をバイアル瓶に仕込み、手で5分間振とうした。この一部5.19gをフラスコに移した後、180℃で2時間加熱した。粉体の一部が凝集融着したため、再度乳鉢で粉砕し粉末状の錯体5.16gを得た。この錯体粉末のBET値は0.57m/gであった。この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは黒色で凝集固化した外観であった。得られた窒化アルミニウム中の炭素量を測定したところ4.5質量%であった。この焼成体の外観を図1に示す。
【0053】
<実験例D2>
無水塩化アルミニウム(4g、0.03mol)とメラミンモノマー(11.35g、0.09mol)をグローブボックス内で乳鉢に仕込み、5分間乳棒で混合した。この一部5.24gをフラスコに移した後、180℃で2時間加熱した。粉体の一部が凝集融着したため、再度乳鉢で粉砕し粉末状の錯体5.21gを得た。この錯体粉末のBET値は0.56m/gであった。この錯体粉末を焼成した結果、得られた窒化アルミニウムは黒色で凝集固化した外観であった。得られた窒化アルミニウム中の炭素量を測定したところ8.8質量%であった。この焼成体の外観を図1に示す。
【0054】
上記実験例の条件および結果を表1に記載する。
【表1】
【0055】
表1に示す結果の通り、塩化アルミニウム-有機アミン錯体粉末のBET値が4.0m/g以上である場合は、焼成後の窒化アルミニウムの外観が灰白色でありスポンジ状に膨張固化した良好な焼成体が得られる。得られた窒化アルミニウム焼成体が灰白色であった場合は残存炭素量が低く、逆に黒色であった場合は残存炭素量が高い数値になることがわかった。すなわち、焼成体の色相で残存炭素量の推定が可能である。また形状としては炭素量が少ない場合はスポンジ状に膨張固化した窒化アルミニウムが得られ、これはスパーテル等で簡単に解砕可能であったことから、容易に粉末化できる。逆に炭素量が多い場合は凝集固化するため解砕は容易でない。
図1