(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104098
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】ウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム、プログラムおよび溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20240726BHJP
B23K 9/127 20060101ALI20240726BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240726BHJP
【FI】
B23K9/095 501F
B23K9/127 508D
G06T7/00 610Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008145
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】河田 純一
(72)【発明者】
【氏名】矢野 猛
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 圭太
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA06
5L096BA05
5L096CA04
5L096DA02
5L096FA69
5L096HA08
5L096JA11
5L096JA18
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】画像処理を適用した溶接線倣い制御において、高精度な倣い制御を実現する。
【解決手段】ウィービング制御方法は、指令情報からウィービング中のトーチ位置の情報を含む第1のウィービング情報を取得し、溶接中のトーチの先端周辺が撮像された画像情報から溶接線に直交するウィービング幅方向に関するウィービング中の溶接中心位置及びトーチ位置の情報を含む第2のウィービング情報を取得し、トーチが一方の側と他方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第1停止期間ΔT、第2停止期間ΔTを設定し、第2のウィービング情報に基づき第1停止期間ΔTと第2停止期間ΔTにおける溶接中心位置とトーチ位置との相対ずれ量の代表値AVE_dy_U、AVE_dy_Dをそれぞれ算出し、これら代表値に基づいて求めた周期内ずれ量n_PosUDに応じて溶接線倣いの補正量を算出する。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを指令情報に基づきウィービングさせるウィービング制御方法であって、
前記指令情報からウィービング中のトーチ位置の情報を含む第1のウィービング情報を取得する工程と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺が撮像された画像情報から、予め定めたサンプリング周期ごとに、溶接線に直交するウィービング幅方向に関するウィービング中の溶接中心位置及び前記トーチ位置の情報を含む第2のウィービング情報を取得する工程と、
前記溶接トーチが前記ウィービング幅方向の中央を境として一方の側と他方の側に移動する際の、前記一方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第1停止期間と、前記他方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第2停止期間とをそれぞれ設定する工程と、
前記第2のウィービング情報に基づきウィービング周期ごとに、前記第1停止期間と前記第2停止期間における前記溶接中心位置と前記トーチ位置との相対ずれ量の代表値をそれぞれ算出する工程と、
前記ウィービング周期ごとに、前記第1停止期間の前記相対ずれ量の代表値と、前記第2停止期間の前記相対ずれ量の代表値とに基づいて求めた周期内ずれ量に応じて、溶接線倣いの補正量を算出する工程と、
を有するウィービング制御方法。
【請求項2】
前記画像情報は2次元座標軸を有する画像データを含み、前記画像データから少なくとも、前記溶接中心位置と前記トーチ位置を決定する、
請求項1に記載のウィービング制御方法。
【請求項3】
前記画像情報には、溶融池の画像と、トーチ先端から突出した溶接ワイヤの画像とが含まれており、
前記溶接中心位置を、前記溶接中の前記画像情報から得られる前記溶融池の位置に基づいて算出し、
前記サンプリング周期ごとの前記トーチ位置を、前記溶接中に撮像した前記画像情報から得られるトーチ先端から突出した溶接ワイヤのワイヤ先端位置に基づいて算出し、
前記溶接中心位置と前記トーチ位置との差分値がプラスの値である場合と、マイナスの値をとる場合とで、前記一方の側のウィービング位置または前記他方の側のウィービング位置かを区別する、
請求項2に記載のウィービング制御方法。
【請求項4】
前記溶融池の位置は、少なくとも、前記溶融池における前記ウィービング幅方向の両端の溶融池先端位置と、前記両端の溶融池先端位置から算出される、前記両端の溶融池先端位置同士の間の溶融池中心位置とを含み、
前記溶接中心位置を、前記溶融池中心位置に設定する、
請求項3に記載のウィービング制御方法。
【請求項5】
前記周期内ずれ量を、前記一方の側における前記相対ずれ量の代表値と、前記他方の側における前記相対ずれ量の代表値に補正係数を乗じて算出する、
請求項1に記載のウィービング制御方法。
【請求項6】
前記溶接線倣いの補正量は、複数のウィービング周期で求めた各周期の周期内ずれ量を移動平均した値を用いて算出する、
請求項1に記載のウィービング制御方法。
【請求項7】
前記溶接線倣いの制御処理を実施する周期の数をn、前記溶接線倣いとは異なる制御処理を実施する周期の数をpとして、前記溶接線倣いの制御処理と前記溶接線倣いとは異なる制御処理を1セットとして繰り返し、
n>p
である請求項1に記載のウィービング制御方法。
【請求項8】
前記補正量が予め定めた制限範囲を超える場合に、
前記補正量を、予め定めた前記制限範囲内の固定値に設定する、
前記制限範囲を超えた前記補正量による溶接線倣い制御を行わない、
異常信号を発信する、
溶接を停止する、
動作のうち少なくとも1つを実施する、
請求項1記載のウィービング制御方法。
【請求項9】
前記第1のウィービング情報と、前記第2のウィービング情報と間の遅れ時間を算出し、
算出した前記遅れ時間に基づいて、前記第1のウィービング情報と前記第2のウィービング情報とを同期させる、
請求項1に記載のウィービング制御方法。
【請求項10】
前記画像情報を入力データとし、溶接現象に係る特徴情報を出力するように生成された学習済みモデルを用意して、
前記画像情報を前記学習済みモデルに入力することにより、前記学習済みモデルから出力された前記特徴情報に基づいて、前記溶接中心位置と前記トーチ位置の少なくともいずれかを算出する、
請求項1に記載のウィービング制御方法。
【請求項11】
前記特徴情報は、トーチ先端から突出した溶接ワイヤのワイヤ先端位置と、溶融池における前記ウィービング幅方向の両端の溶融池先端位置と、を少なくとも含む、
請求項10に記載のウィービング制御方法。
【請求項12】
溶接トーチを指令情報に基づきウィービング制御するための機能を有する溶接制御装置であって、
前記指令情報からウィービング中のトーチ位置の情報を含む第1のウィービング情報を取得する第1情報取得部と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺が撮像された画像情報から、予め定めたサンプリング周期ごとに、溶接線に直交するウィービング幅方向に関するウィービング中の溶接中心位置及び前記トーチ位置の情報を含む第2のウィービング情報を取得する第2情報取得部と、
前記溶接トーチが前記ウィービング幅方向の中央を境として一方の側と他方の側に移動する際の、前記一方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第1停止期間と、前記他方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第2停止期間とをそれぞれ設定する停止期間設定部と、
前記第2のウィービング情報に基づきウィービング周期ごとに、前記第1停止期間と前記第2停止期間における前記溶接中心位置と前記トーチ位置との相対ずれ量の代表値をそれぞれ算出する相対ずれ量算出部と、
前記ウィービング周期ごとに、前記第1停止期間の前記相対ずれ量の代表値と、前記第2停止期間の前記相対ずれ量の代表値とに基づいて求めた周期内ずれ量に応じて、溶接線倣いの補正量を算出する補正量算出部と、
を有する溶接制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載の溶接制御装置と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺を撮像する撮像装置と、
前記溶接制御装置から出力される前記溶接線倣いの補正量に基づいて、溶接条件を変更する溶接装置と、
を含んで構成される溶接システム。
【請求項14】
溶接トーチを指令情報に基づきウィービングさせるウィービング制御方法の手順を実行させるプログラムであって、
コンピュータに、
前記指令情報からウィービング中のトーチ位置の情報を含む第1のウィービング情報を取得する手順と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺が撮像された画像情報から、予め定めたサンプリング周期ごとに、溶接線に直交するウィービング幅方向に関するウィービング中の溶接中心位置及び前記トーチ位置の情報を含む第2のウィービング情報を取得する手順と、
前記溶接トーチが前記ウィービング幅方向の中央を境として一方の側と他方の側に移動する際の、前記一方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第1停止期間と、前記他方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第2停止期間とをそれぞれ設定する手順と、
前記第2のウィービング情報に基づきウィービング周期ごとに、前記第1停止期間と前記第2停止期間における前記溶接中心位置と前記トーチ位置との相対ずれ量の代表値をそれぞれ算出する手順と、
前記ウィービング周期ごとに、前記第1停止期間の前記相対ずれ量の代表値と、前記第2停止期間の前記相対ずれ量の代表値とに基づいて求めた周期内ずれ量に応じて、溶接線倣いの補正量を算出する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【請求項15】
請求項1から11のいずれか1項に記載のウィービング制御方法により補正された溶接条件で溶接を行う制御工程を有する溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム、プログラムおよび溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接トーチの揺動(以降、「ウィービング」または「運棒」と称する。)時に関する種々の制御(以降、「ウィービング制御」とも称する。)の中に、溶接線倣い制御がある。溶接線倣い制御は、従来、ウィービング時の両端の電流を比較して溶接線を倣わせる方法(以降、「アークセンサ」とも称する。)が一般的であるが、このアークセンサは、特殊な電流波形を用いる場合に精度が低下すること、TIG溶接やプラズマ溶接などの非溶極式のアーク溶接では適用が難しいこと、仮付けなどの状況変化や外乱に弱いことなどの欠点がある。これに対し、近年、画像処理を適用した溶接線倣い制御方法が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1では、アークセンサでは開先位置の左右方向のずれを検出することが難しいTIG溶接やプラズマ溶接などの非溶極式のアーク溶接において、高価なレーザセンサを用いない倣い制御方法を開示している。この制御では、画像処理装置が、撮像画像から得られた溶接電極の反射像の位置座標に基づいて、溶接トーチに対する開先位置のシフト量を導出し、ロボット制御装置が、シフト量に基づいて溶接トーチの位置座標を補正することにより、溶接トーチの倣い制御を行っている。
【0004】
また、特許文献2では、より広範に利用でき、外乱や状況変化によりよく対応することができるような、より簡便な自動開先倣い溶接装置及び方法を開示している。この装置は、溶接トーチの前方やや上方から溶接部の映像を取得する撮影装置と、撮影装置の映像出力を処理してアーク高輝度部の領域を画定する画像処理装置と、予め求めて記憶装置に格納しておいた溶接トーチと開先の位置関係とアーク高輝度部の形状特性の関係に基づいてアーク高輝度部領域の形状特性から溶接トーチの位置を算定する演算装置と、算定された溶接トーチの位置に基づいて溶接トーチを適正位置に調整する制御装置とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-55344号公報
【特許文献2】特開2004-42067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2の技術で挙げられているように、画像処理を適用した溶接線倣い制御は非常に汎用性が高いと言える。しかしながら、1つの画像データの容量が大きく、また画像処理速度も勘案すると、撮像装置のフレームレートは低くせざるを得ない。その結果、サンプリング周波数が小さくなり、アークセンサなど他の溶接線倣い制御に比べて溶接線倣い制御の精度が劣ってしまう。特に、ウィービング時に、ウィービング端にて停止期間(以降、端停止時間とも称する。)を設けた場合、サンプリング周波数が小さくなりすぎて端停止時間を把握できず、ウィービング端の位置を把握し難くなり、溶接線倣いの精度の低下が避けられない。このため、サンプリング周波数が小さくとも、高精度な溶接線倣い制御の実現可能な技術が望まれる。
【0007】
よって、本発明では、画像処理を適用した溶接線倣い制御において、高精度な倣い制御を実現できるウィービング制御方法、溶接制御装置、溶接システム、プログラムおよび溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 溶接トーチを指令情報に基づきウィービングさせるウィービング制御方法であって、
前記指令情報からウィービング中のトーチ位置の情報を含む第1のウィービング情報を取得する工程と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺が撮像された画像情報から、予め定めたサンプリング周期ごとに、溶接線に直交するウィービング幅方向に関するウィービング中の溶接中心位置及び前記トーチ位置の情報を含む第2のウィービング情報を取得する工程と、
前記溶接トーチが前記ウィービング幅方向の中央を境として一方の側と他方の側に移動する際の、前記一方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第1停止期間と、前記他方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第2停止期間とをそれぞれ設定する工程と、
前記第2のウィービング情報に基づきウィービング周期ごとに、前記第1停止期間と前記第2停止期間における前記溶接中心位置と前記トーチ位置との相対ずれ量の代表値をそれぞれ算出する工程と、
前記ウィービング周期ごとに、前記第1停止期間の前記相対ずれ量の代表値と、前記第2停止期間の前記相対ずれ量の代表値とに基づいて求めた周期内ずれ量に応じて、溶接線倣いの補正量を算出する工程と、
を有するウィービング制御方法。
(2) 溶接トーチを指令情報に基づきウィービング制御するための機能を有する溶接制御装置であって、
前記指令情報からウィービング中のトーチ位置の情報を含む第1のウィービング情報を取得する第1情報取得部と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺が撮像された画像情報から、予め定めたサンプリング周期ごとに、溶接線に直交するウィービング幅方向に関するウィービング中の溶接中心位置及び前記トーチ位置の情報を含む第2のウィービング情報を取得する第2情報取得部と、
前記溶接トーチが前記ウィービング幅方向の中央を境として一方の側と他方の側に移動する際の、前記一方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第1停止期間と、前記他方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第2停止期間とをそれぞれ設定する停止期間設定部と、
前記第2のウィービング情報に基づきウィービング周期ごとに、前記第1停止期間と前記第2停止期間における前記溶接中心位置と前記トーチ位置との相対ずれ量の代表値をそれぞれ算出する相対ずれ量算出部と、
前記ウィービング周期ごとに、前記第1停止期間の前記相対ずれ量の代表値と、前記第2停止期間の前記相対ずれ量の代表値とに基づいて求めた周期内ずれ量に応じて、溶接線倣いの補正量を算出する補正量算出部と、
を有する溶接制御装置。
(3) (2)に記載の溶接制御装置と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺を撮像する撮像装置と、
前記ウィービング制御装置から出力される前記溶接線倣いの補正量に基づいて、溶接条件を変更する溶接装置と、
を含んで構成される溶接システム。
(4) 溶接トーチを指令情報に基づきウィービングさせるウィービング制御方法の手順を実行させるプログラムであって、
コンピュータに、
前記指令情報からウィービング中のトーチ位置の情報を含む第1のウィービング情報を取得する手順と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺が撮像された画像情報から、予め定めたサンプリング周期ごとに、溶接線に直交するウィービング幅方向に関するウィービング中の溶接中心位置及び前記トーチ位置の情報を含む第2のウィービング情報を取得する手順と、
前記溶接トーチが前記ウィービング幅方向の中央を境として一方の側と他方の側に移動する際の、前記一方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第1停止期間と、前記他方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第2停止期間とをそれぞれ設定する手順と、
前記第2のウィービング情報に基づきウィービング周期ごとに、前記第1停止期間と前記第2停止期間における前記溶接中心位置と前記トーチ位置との相対ずれ量の代表値をそれぞれ算出する手順と、
前記ウィービング周期ごとに、前記第1停止期間の前記相対ずれ量の代表値と、前記第2停止期間の前記相対ずれ量の代表値とに基づいて求めた周期内ずれ量に応じて、溶接線倣いの補正量を算出する手順と、
を実行させるためのプログラム。
(5) (1)に記載のウィービング制御方法により補正された溶接条件で溶接を行う制御工程を有する溶接方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、画像処理を適用した溶接線倣い制御において、高精度な倣い制御を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る溶接システムの構成例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、ロボット制御装置によるロボット制御の手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、撮像装置の配置位置を説明するための斜視図である。
【
図4】
図4は、横向き姿勢の溶接の場合に、撮像装置にて撮像された溶接画像の一例を示す画像である。
【
図5】
図5は、データ処理装置の構成例を説明するためのブロック図である。
【
図6】
図6は、教示作業に用いる画面の一例を示す説明図である。
【
図7】
図7は、横向姿勢の溶接により得られる溶接画像の具体例と、その溶接画像内の溶接情報の例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、サンプリング周期ごとのウィービング中のトーチ位置と時間の関係から得られる、ウィービングの軌跡を示す説明図である。
【
図9】
図9は、ウィービング動作の立ち上がりと立ち下がりを設けたウィービングの軌跡を示す説明図である。
【
図10】
図10は、データ処理装置へ出力される信号の波形を示す説明図である。
【
図11】
図11は、ステッピングモーターへの指令信号と、実際のトーチの軌跡を表す波形を示す説明図である。
【
図12】
図12は、データ処理装置へ出力される信号の他の波形を示す説明図である。
【
図13】
図13は、データ処理装置へ出力される信号の他の波形を示す説明図である。
【
図14】
図14は、データ処理装置へ出力される信号の他の波形を示す説明図である。
【
図15】
図15は、溶接画像から得られるトーチ位置と時間との関係を示すグラフである。
【
図16】
図16は、第1のウィービング情報と第2のウィービング情報とを同期させる様子を示す説明図である。
【
図17】
図17は、第1のウィービング情報によるトーチ位置と第2のウィービング情報による相対ずれ量の波形とを示す説明図である。
【
図18】
図18は、倣い補正量を算出する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願発明の一実施形態に係る溶接システムについて図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。本発明に係る溶接システムは、可搬型溶接ロボットに好適であるが、本実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、6軸の溶接ロボット、台車などの駆動部を有する溶接装置の場合であってもよい。また、本実施形態では、一例として、横向姿勢の片面溶接を選択しているが、これに限定されるものではなく、施工方法、溶接姿勢は特に問わない。
【0012】
また、本実施形態では、後述するように、少なくとも、溶接中の溶融池を画像データに含めるように撮像し、溶融池、溶接ワイヤ、及びアークに係る特徴点を抽出する。この特徴点の抽出方法は特に問わないが、本実施形態においては、学習装置を用いて特徴点を抽出する。
【0013】
<溶接システムの構成>
図1は、本実施形態に係る溶接システムの構成例を示す概略図である。溶接システム50は、
図1に示すように、可搬型溶接ロボット100、送給装置300、溶接電源400、シールドガス供給源500、ロボット制御装置600、撮像装置700、およびデータ処理装置800を含んで構成される。なお、上述したように本実施形態の特徴を6軸の溶接ロボット、台車などの駆動部を有する溶接装置などに適用する場合には、それらの構成に合わせて更なる構成が含まれてよい。また、溶接システム50を構成する各部位は、有線又は無線の各種通信方式により、通信可能に接続される。ここでの通信方式は、1つに限定するものではなく、複数の通信方式を組み合わせて接続されてよい。
【0014】
(ロボット制御装置)
ロボット制御装置600は、ロボット用制御ケーブル610によって可搬型溶接ロボット100と接続され、電源用制御ケーブル620によって溶接電源400と接続されている。ロボット制御装置600は、あらかじめ可搬型溶接ロボット100の動作パターン、溶接開始位置、溶接終了位置、施工条件、溶接条件等を定めたティーチングデータを保持するデータ保持部601を有し、このティーチングデータに基づいて可搬型溶接ロボット100及び溶接電源400に対して指令情報をコマンドとして送り、可搬型溶接ロボット100の動作及び溶接条件を制御する。
【0015】
また、ロボット制御装置600は、溶接前において、タッチセンシングなどのセンシングを行うことにより得られる検知データから開先形状情報を算出する開先形状情報算出部602と、該開先形状情報をもとに上記ティーチングデータの溶接条件を補正して取得する溶接条件取得部603と、を有してもよい。そして、開先形状情報算出部602と溶接条件取得部603により、制御部604が構成されている。
【0016】
ロボット制御装置600は、
図2にロボット制御の手順を示すように、センシングによって補正を行ったティーチングデータの溶接条件で溶接を開始した後の溶接中において、後述するように、撮像装置700から取得した画像データに基づいて、データ処理装置800で特徴点を抽出する。そして、各特徴点の情報から様々な処理の補正信号を指令情報(以降、コマンドとも称する。)として受信する(S1)。ロボット制御装置600は、それぞれ詳細を後述する、例えばギャップ処理(S2)、運棒処理(S3)、倣い・振幅処理(S4)、速度処理(S5)等の制御を順次に実施する。このように、溶接中に受信した補正信号に応じて各制御の処理を行い、その後、各種制御条件のステータス更新の情報をデータ処理装置800へ出力する(S6)。上記の処理(S1~S6)を目的とする溶接が終了するまで繰り返す(S7)。
【0017】
さらに、
図1に示すロボット制御装置600は、ティーチングや可搬型溶接ロボット100のマニュアル操作等を行うためのコントローラ(以降、「教示ペンダント」とも称する。)とその他の制御機能をもつコントローラを有する。コントローラは、一体となって形成されてもよいし、教示ペンダント及びその他の制御機能をもつコントローラの2つに分ける等、役割によって複数に分割してもよいし、可搬型溶接ロボット100にロボット制御装置600を含めてもよい。なお、コントローラは、溶接現場における使用性の観点から、ティーチングや可搬型溶接ロボット100のマニュアル操作等を行うためのコントローラと、その他の制御機能をもつコントローラとの2つに分けるのが好ましい。よって、本実施形態では、教示ペンダント及びその他の制御機能をもつコントローラの2つに分割され、図示しない教示ペンダントとロボット制御装置600が通信ケーブルで繋がっている。また、本実施形態においては、ロボット用制御ケーブル610及び電源用制御ケーブル620を用いて信号が送られているが、これに限られるものではなく、無線で送信してもよい。
【0018】
(溶接電源)
溶接電源400は、ロボット制御装置600からの指令により、消耗電極である溶接ワイヤ211及びワークWoに電力を供給することで、溶接ワイヤ211とワークWoとの間にアークを発生させる。溶接電源400からの電力は、パワーケーブル410を介して送給装置300に送られ、送給装置300からコンジットチューブ420を介して溶接トーチ(以下、「トーチ」と称する。)200に送られる。そして、溶接電源400からの電力は、トーチ200先端のコンタクトチップを介して、溶接ワイヤ211に供給される。なお、溶接作業時の電流は、直流又は交流であってもよく、また、その波形は特に問わない。よって、電流は、矩形波や三角波などのパルスであってもよい。
【0019】
また、溶接電源400は、例えば、パワーケーブル410がプラス電極としてトーチ200側に接続され、パワーケーブル430をマイナス電極としてワークWoに接続される。なお、これは逆極性で溶接を行う場合であり、正極性で溶接を行う場合はプラス電極のパワーケーブルがワークWo側に接続され、マイナス電極のパワーケーブルが、トーチ200側と接続されていればよい。
【0020】
(シールドガス供給源)
シールドガス供給源500は、シールドガスが封入された容器、バルブ等の付帯部材から構成される。シールドガス供給源500から、シールドガスがガスチューブ510を介して送給装置300へ送られる。送給装置300に送られたシールドガスは、コンジットチューブ420を介してトーチ200に送られる。トーチ200に送られたシールドガスは、トーチ200内を流れて、ノズル210にガイドされ、トーチ200の先端側から噴出する。本実施形態で用いるシールドガスとしては、例えば、アルゴン(Ar)や炭酸ガス(CO2)又はこれらの混合ガスを用いることができる。
【0021】
本実施形態に係るコンジットチューブ420は、チューブの外皮側にパワーケーブルとして機能するための導電路が形成され、チューブの内部に溶接ワイヤ211を保護する保護管が配置され、シールドガスの流路が形成されている。ただし、コンジットチューブ420は、これに限られるものではなく、例えば、トーチ200に溶接ワイヤ211を送給するための保護管を中心にして、電力供給用ケーブルやシールドガス供給用のホースを束ねたものを用いることもできる。また、例えば、溶接ワイヤ211及びシールドガスを送るチューブと、パワーケーブルとを個別に設置することもできる。
【0022】
(送給装置)
送給装置300は、溶接ワイヤ211を繰り出してトーチ200に送る。送給装置300により送られる溶接ワイヤ211は、特に限定されず、ワークWoの性質や溶接形態等によって選択され、例えば、ソリッドワイヤやフラックス入りワイヤが使用される。また、溶接ワイヤの線径は、特に問わないが、本実施形態において好ましい線径は、上限は1.6mmであり、下限は0.9mmである。
【0023】
本実施形態に係るコンジットチューブ420は、チューブの外皮側にパワーケーブルとして機能するための導電路が形成され、チューブの内部に溶接ワイヤ211を保護する保護管が配置され、シールドガスの流路が形成されている。ただし、コンジットチューブ420は、これに限られるものではなく、例えば、トーチ200に溶接ワイヤ211を送給するための保護管を中心にして、電力供給用ケーブルやシールドガス供給用のホースを束ねたものを用いることもできる。また、例えば、溶接ワイヤ211及びシールドガスを送るチューブと、パワーケーブルとを個別に設置することもできる。
【0024】
また、本実施形態においては、ワークWoと溶接ワイヤ211間に電圧を印加し、溶接ワイヤ211がワークWoに接触したときに生じる電圧降下現象を利用して、開先10の表面等をセンシングするタッチセンサを検知手段とする。検知手段は、本実施形態のタッチセンサに限られず、画像センサ、レーザセンサ等、又はこれら検知手段の組み合わせを用いてもよいが、装置構成の簡便性から本実施形態のタッチセンサを用いることが好ましい。
【0025】
(撮像装置)
撮像装置700(以降、「カメラ」とも称する。)は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)を視覚センサとして備えるカメラにより構成される。撮像装置700の配置位置は特に問わず、撮像装置700は、可搬型溶接ロボット100に直接取り付けられてもよいし、また、監視カメラとして、周辺の特定の場所に固定されてもよい。可搬型溶接ロボット100に撮像装置700を直接取り付けた場合には、撮像装置700は、可搬型溶接ロボット100の動作に併せて、トーチ200の先端周辺を撮像するように移動する。撮像装置700を構成するカメラの台数は複数でもよい。例えば、機能や設置位置が異なる複数のカメラを用いて撮像装置700が構成されてもよい。
【0026】
また、撮像装置700により撮像する方向も特に問わない。例えば、溶接が進行する方向を前方とした場合に、前方側を撮像するように配置してもよいし、側面側、後方側を撮像するように配置してもよい。したがって、撮像装置700による撮像範囲は、適宜決定すればよい。なお、トーチ200の干渉を抑制するために、前方側から撮像することが好ましく、本実施形態では、前方側からの撮像としている。撮像された画像情報はデータ処理装置800に送信されて、データ処理装置800側で利用される。このとき、データ処理装置800は、撮像された画像情報の中から、例えば、所定の間隔にて任意の画像を取り込み、後述する処理に利用してよい。ここでの取り込み方法や取り込み設定は、例えば、撮像装置700の構成や機能、データ処理装置800の性能などに応じて切り替えられてよい。
【0027】
本実施形態においては、可搬型溶接ロボット100に直接取り付け、固定した撮像装置700を用い、画像データに含めるオブジェクト(対象)として、少なくとも、ワークWo、溶接ワイヤ211、およびアークが含まれる撮像範囲となるように、溶接画像として動画像を撮像する。なお、溶接画像に係る各種撮像設定は、予め規定されていてもよいし、溶接システム50の動作条件に応じて切り替えられてもよい。撮像設定としては、例えば、フレームレート、画像のピクセル数、解像度、シャッタースピードなどが挙げられる。
【0028】
図3は、撮像装置700の配置位置を説明するための斜視図である。なお、トーチ200や開先の向きは、溶接の姿勢に応じて異なるため、
図3に示す向きは一例である。本実施形態の場合、ワークW
oは、突合せ継手である。ワークWoは、2枚の金属板であり、開先を隔てて突き合わされている。本実施形態では横向姿勢を例に挙げ、この場合に、上板側のワークをW1(以降、上板W1と称する。)、下板側のワークをW2(以降、下板W2と称する。)として説明する。また、突き合わされている2枚のワークW1,W2の裏面側には、セラミックス製の裏当て材14が取り付けられている。なお、裏当て材14として、メタル系の裏当て材を使用してもよく、裏当て材を設けない構成にしてもよい。したがって、裏当て材の材質は特に限定するものではなく、ワークWoの材質などに応じて異なってよい。突合せ継手では、開先に沿って一方向にアーク溶接が行われる。以下では、溶接が進行する方向を「溶接線方向」という。
図3では、溶接が進行する方向を矢印で示している。このため、トーチ200は、撮像装置700の後方に位置している。
【0029】
図4は、横向き姿勢の溶接の場合に、撮像装置700にて撮像された溶接画像の一例を示す画像である。
図4の各画像データは座標を持ち、X軸とY軸の2軸からなる座標平面となり、X軸は溶接線方向を示し、Y軸はX軸に直交する方向を示す。撮像装置700は、アーク溶接中におけるワークWoの溶接位置を含む範囲の画像を撮像する。この画像には、溶融池、溶接ワイヤ211およびアークが含まれる。
【0030】
本実施形態における撮像装置700の視覚センサは、例えば、1024×768ピクセルの静止画像を連続して撮像できる。換言すると、撮像装置700は、溶接画像を動画像として撮像可能である。撮像装置700にて撮像可能な静止画像の解像度は特に限定されるものではない。例えば、撮像装置700が複数のカメラから構成される場合に、複数のカメラそれぞれが異なる解像度の溶接画像を取得してもよい。また、後述する学習済みモデルに入力する前に、処理時間を短縮することを目的として撮像された溶接画像から任意の特徴領域を切り出すなどの前処理を行ってもよい。任意の特徴領域は、所定の領域が中心に位置するように配置された固定サイズの範囲であってもよい。また、任意の特徴領域のサイズは、溶接状況に応じて変更されてもよい。
【0031】
(データ処理装置)
図5は、データ処理装置800の構成例を説明するためのブロック図である。データ処理装置800は、例えばコンピュータで構成される。コンピュータは、本体810、入力部820、および表示部830を含んで構成される。本体810は、CPU811、GPU(Graphical Processing Unit)812、ROM813、RAM814、不揮発性記憶装置815、入出力インタフェース816、通信インタフェース817、映像出力インタフェース818、および算出部819を含んで構成される。CPU811、GPU812、ROM813、RAM814、不揮発性記憶装置815、入出力インタフェース816、通信インタフェース817、映像出力インタフェース818、および算出部819は、バスや信号線によって相互に通信可能に接続されている。
【0032】
不揮発性記憶装置815には、所定の学習データを用いてディープラーニングを実行する学習プログラム815A、学習プログラム815Aの実行を通じて生成される学習済みモデル815B、学習済みモデル815Bを用いて溶接に関する溶接情報を生成する情報生成プログラム815C、および、画像データ815Dが記憶されている。この他、不揮発性記憶装置815には、オペレーティングシステムやアプリケーションプログラムもインストールされている。
【0033】
CPU811およびGPU812によるプログラムの実行により、データ処理装置800は、各種の機能を実現する。本実施形態の場合、データ処理装置800は、機械学習により学習済みモデルを生成する機能と、学習済みモデルを利用して実際の溶接時の各種処理を行う機能を実現する。これの機能の内容については後述する。なお、学習済みモデルを生成する機能と、実際の溶接の実行時に学習済みモデルから出力される情報に基づいて制御処理を実行する機能に合わせてデータ処理装置800を分けてもよい。汎用性の観点から見ると、それぞれの機能に合わせて、データ処理装置800を分けることがより好ましい。GPU812は、学習プログラム815Aおよび情報生成プログラム815Cを実行する際の演算装置として使用される。ROM813には、CPU811に実行されるBIOS(Basic Input Output System)等が記憶されている。RAM814は、不揮発性記憶装置815から読み出されたプログラムの作業領域として使用される。
【0034】
入出力インタフェース816は、キーボード、マウス等で構成される入力部820に接続されている。入出力インタフェース816には、撮像装置700も接続されている。撮像装置700から出力された画像データが入出力インタフェース816を介してCPU811に与えられる。通信インタフェース817は、有線または無線通信用の通信モジュールである。映像出力インタフェース818は、例えば液晶ディスプレイや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイで構成される表示部830に接続されており、CPU811から与えられた映像データに応じた映像信号を表示部830に出力する。算出部819は、CPU811やGPU812と連携して、本実施形態に係る溶接線倣い補正量の算出などの各種処理を実行する。
【0035】
算出部819は、第1情報取得部819A、第2情報取得部819B、停止期間設定部819C、相対ずれ量算出部819D、補正量算出部819Eを備える。算出部819の各部の処理の詳細については後述するが、概略的には次の通りである。
第1情報取得部819Aは、指令情報からウィービング中のトーチ位置の情報を含む第1のウィービング情報を取得する。
第2情報取得部819Bは、溶接中のトーチ200の先端周辺が撮像された画像情報から、予め定めたサンプリング周期ごとに、溶接線に直交するウィービング幅方向に関するウィービング中の溶接中心位置及びトーチ位置の情報を含む第2のウィービング情報を取得する。
停止期間設定部819Cは、トーチ200がウィービング幅方向の中央を境として一方の側と他方の側に移動する際の、一方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第1停止期間と、他方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第2停止期間とをそれぞれ設定する。
相対ずれ量算出部819Dは、第2のウィービング情報に基づきウィービング周期ごとに、第1停止期間と第2停止期間における溶接中心位置とトーチ位置との相対ずれ量の代表値をそれぞれ算出する。
補正量算出部819Eは、ウィービング周期ごとに、第1停止期間の相対ずれ量の代表値と、第2停止期間の相対ずれ量の代表値とに基づいて求めた周期内ずれ量に応じて、溶接線倣いの補正量を算出する。
【0036】
上記したデータ処理装置800は、溶接トーチを指令情報に基づきウィービング制御するための機能を有する溶接制御装置として機能する。
【0037】
(学習モデルの生成)
本実施形態にて、画像データから抽出する特徴点および特徴点を抽出する学習済みモデルについて説明する。本実施形態における学習済みモデル815Bは、畳み込みニューラルネットワークにより構成されており、複数の畳み込み層、および複数のプーリング層を含んでいる。なお、畳み込みニューラルネットワークの構成は上記に限定するものではなく、層数や構成が他の構成であってよい。
【0038】
以下の学習装置に係る説明において、「学習」または「機械学習」とは、学習データおよび任意の学習アルゴリズムを用いて学習を行うことにより、「学習済みモデル」を生成することを指す。学習済みモデルは、複数の学習データを用いて学習が進むことにより、適時更新され、同じ入力であってもその出力が変化していく。したがって、学習済みモデルは、いずれの時点での状態であるかを限定するものではない。ここでは、学習にて用いられるモデルを「学習モデル」と記載し、一定程度の学習が行われた学習モデルを「学習済みモデル」と記載する。また、「学習データ」の具体的な例については後述するが、その構成は、利用する学習アルゴリズムに応じて変更されてよい。また、学習データには、学習そのものに用いられる教師データ、学習済みモデルの検証に用いられる検証データ、学習済みモデルのテストに用いられるテストデータを含んでよい。以下の説明では、学習に関するデータを包括的に示す場合は、「学習データ」と記載し、学習そのものを行う際のデータを示す場合は「教師データ」と記載する。なお、学習データに含まれる教師データ、検証データ、およびテストデータを明確に分類することを意図するものではなく、例えば、学習、検証、およびテストの方法によっては、学習データすべてが教師データにもなり得る。
【0039】
学習済みモデル815Bは、撮像装置700から出力される画像データを入力とし、画像データに現れる様々な溶接情報に係る特徴点を出力する。本実施形態において、学習済みモデル815Bに入力される画像データには、
図4に示すように、少なくとも、オブジェクト(対象)として、溶融池、溶接ワイヤ、及びアークを含み、これら各オブジェクト、または複数のオブジェクト間から得られる特徴点を抽出する。そして、抽出した特徴点に基づいて、算出部819において、後述の倣い補正量の算出や振り幅、溶接速度、運棒の軌跡(角度)などの補正量を算出し、得られた補正量の情報をロボット制御装置600へ送信する。なお、この画像データは、以下、溶接画像と称することもある。
【0040】
本実施形態では、溶接情報に係る特徴点として、溶接ワイヤ211の先端(ワイヤ先端)、アークの中心点(アーク中心)、溶融池の左右(または上下)の先端の位置、溶融池の左右(または上下)の端部の位置を使用する。教師データとして用いる特徴点の入力は、教示作業を支援する操作画面の指示に従い、オペレータが溶接画像上の特定の位置を指定することで行われる。したがって、教師データは、溶接画像とオペレータにて指定された溶接情報としての座標情報となる特徴点とを対として構成される。学習処理では、学習モデルから出力される溶接情報と、教師データに含まれる溶接情報とを比較し、その誤差をフィードバックすることでパラメータを調整する。この処理を繰り返すことで、学習が進む。
【0041】
図6は、教示作業に用いる画面の一例を示す説明図である。
図6に示す画面の溶接画像には、溶融池15、溶接ワイヤ211、アーク16が含まれている。
図6では、溶融池15を網掛けで示す。なお、
図6に関する説明において、「上端」、「下端」は、画像における上下を示しているに過ぎず、溶接の姿勢と画像の向きに応じて、「右端」、「左端」などに置き換えてよい。
【0042】
また、
図7は、横向姿勢の溶接により得られる溶接画像の具体例と、その溶接画像内の溶接情報の例を示す説明図である。ここでは説明を容易にするために、溶接画像上に、特徴点にて示す座標に相当する位置を描画して示している。なお、上述のとおり画像は座標を持ち、X軸とY軸の2軸からなる座標平面となる。
【0043】
本実施形態では、撮像装置700は、溶接線方向とX軸方向とが平行になるように設置させるため、本実施形態においては、X軸方向は溶接線方向と言い換えてもよい。また、Y軸方向はX軸の垂直方向であり、言い換えれば、溶接線の垂直方向である開先幅方向となるから、Y軸方向は開先幅方向と言い換えてもよい。なお、本実施形態の可搬型ロボットが動くX軸は溶接線方向となるので、可搬型ロボットが動くX軸と溶接画像上のX軸も方向が同じとなり、Y軸方向も可搬型ロボットが動くY軸と溶接画像上のY軸方向も同じであると言える。
【0044】
本実施形態の場合、
図6に示すように、特徴点として、アーク中心の座標位置P
A(ArcX,ArcY)、ワイヤ先端の座標位置P
W(WireX,WireY)、溶融池先端下の座標位置P
LD(Pool_Lead_Dx,Pool_Lead_Dy)、溶融池先端上の座標位置P
LU(Pool_Lead_Ux,Pool_Lead_Uy)、溶融池下端の座標位置P
D(Pool_Dy)、溶融池上端の座標位置P
U(Pool_Uy)が、オペレータにより教示される。特徴点の入力は、画面上の特定の位置をオペレータが指示することで実行される。溶接ワイヤ211とアークの境界を与える座標は、ワイヤ先端の位置座標の一例である。また、溶融池先端下と、溶融池先端上と、溶融池下端と、溶融池上端は、溶融池15の挙動に関する特徴点の一例である。例えば、溶融池下端と溶融池上端の特徴点が分かると、溶融池15の幅を計算できる。
【0045】
<倣い補正量の算出>
本実施形態の倣い補正量は、ロボット制御装置600から可搬型溶接ロボットのステッピングモーターに出力されるウィービングの指令値に基づいて、算出されるウィービングのロボット座標データ(以降、第1のウィービング情報とも称する)と撮像装置700で撮像された溶接画像の特徴点に従って、算出されるウィービングのデータ(以降、第2のウィービング情報とも称する)に基づいて算出する。前述の通り、溶接画像に基づくウィービングのデータである第2のウィービング情報のみで溶接線倣い制御の補正量を算出すると、サンプリング周波数が小さくなり、アークセンサなど他の溶接線倣い制御に比べて精度が劣る。一方で、ウィービングのロボット座標データである第1のウィービング情報は、サンプリング周波数は大きいが、溶接狙い位置である中心位置が把握できず、倣い制御には適用できない。よって、本実施形態では、以下の詳細説明のように、サンプリング周波数の大きい第1のウィービング情報を利用して、第2のウィービング情報から倣い補正量を算出する。なお、以下の処理はロボット座標系で行うが、座標系はこれに限らない。
【0046】
(第1のウィービング情報)
第1のウィービング情報は、ウィービング中のトーチ位置をロボット座標に基づいて算出した情報である。また、ここでいうトーチ位置とは、正確には、溶接ワイヤ211先端の狙い位置となるワイヤ先端位置を意味する。本実施形態においては、第1情報取得部819Aが、ロボット制御装置600において可搬型溶接ロボットのウィービング動作を担うステッピングモーターへの指令情報に基づいて、トーチ位置を算出する。ウィービングの軌跡は、
図8に示すように、ステッピングモーターへの指令信号の周期をサンプリング周期として、このサンプリング周期ごとに、ウィービング中のトーチ位置と時間の関係から求めてもよい。なお、本実施形態では、ステッピングモーターへの指令情報からロボット座標のウィービング情報を生成するため、トーチがウィービング端からもう一方のウィービング端に移動するときのトーチ位置が捉えられない。そのため、
図8に示すように、ウィービングの軌跡が矩形波として算出されている。
【0047】
上記したウィービング動作による運棒が、ウィービング端において所定の時間(ウィービング端停止時間ΔT)を停止させる動作としている場合には、この予め設定したウィービング端停止時間ΔTに基づき、ウィービング動作の立ち上がりと立ち下がりを設けてもよい。その場合、
図9に示すように、破線で示す矩形波の軌跡からウィービングの軌跡が修正された実線の波形が得られる。この波形を、上記したロボット座標のウィービングデータである第1のウィービング情報とする。
【0048】
一方、ウィービング動作がウィービング端停止時間ΔTを設定しない場合、つまり、端停止をしないウィービング動作を行う場合(ΔT=0)は、後述する周期内ずれ量の算出過程において、ΔTの値を予め定めた固定値をウィービング停止時間として適用して算出する。例えば、ウィービング動作が端停止をしない条件の場合、固定値を100~200msecの範囲から選択される値で予め設定しておき、元のロボット座標のウィービングデータにおいて、端点にトーチ位置がある時を含むように、固定値分の時間を設けた波形を作成し、固定値分をウィービング端停止時間ΔTとして周期内ずれ量の算出を行う。
【0049】
上記したウィービング端停止時間ΔTは、停止期間設定部819Cにより設定される。なお、本実施形態では、後述するように、ロボット制御装置600において、
図8に示す波形の信号から、ウィービング端停止時間ΔTの部分のみをシグナルとした
図10に示す波形に置き換えた信号をデータ処理装置800へ出力している。
【0050】
また、上記したウィービング軌跡の波形に固定値のウィービング端停止期間ΔTを設ける場合、ウィービング端停止期間ΔTを設ける期間は、
図10に示すようにトーチがウィービング端に到達したタイミングを起点とした期間に限らない。例えば、
図11に示す破線で示すステッピングモーターへの指令信号に対して、実際のトーチの軌跡が実線で示す三角波状である場合、
図12に示すように、実際のトーチがウィービング端に到達したタイミングを中心としてウィービング端停止期間ΔTを設けてもよい。また、
図13に示すように、実際のトーチがウィービング端に到達したタイミングを起点としてウィービング端停止期間ΔTを設けてもよく、
図14に示すように、上記したウィービング端に到達したタイミングを終端とし、終端から遡ってウィービング端停止期間ΔTを設けてもよい。
【0051】
(第2のウィービング情報)
第2のウィービング情報は、溶接画像に基づき求められ、予め定めたサンプリング周期ごとのウィービング中のトーチ位置を含む。この第2のウィービング情報は、第2情報取得部819Bが算出する。ここでのサンプリング周期は、カメラのフレームレートに基づいた周期を用いるとよい。本実施形態において、溶接画像に基づき求められるトーチ位置は、溶接画像の特徴点の一つであるワイヤ先端位置のY座標位置(WireY)として算出する。なお、トーチ位置は、ワイヤ先端位置となるY座標位置(WireY)に限定されるものではなく、例えば、アーク中心のY座標位置(ArcY)を用いてもよい。なお、サンプリング周期は、フレームレート以外にも、フレームレートの整数倍の周期にしてもよい。
【0052】
倣い補正の制御を行う場合において、横向き姿勢の場合は、任意の溶接狙い位置を中心に、上板(以降、一方の側とも称する。)または下板(以降、他方の側とも称する)のどちらかに寄っているかを判定する必要がある。なお、溶接狙い位置は開先の溶接の場合には、一般的に開先中央位置となる。本実施形態においては、溶接画像中の溶融池から、溶接狙い位置を判定する。
図6に示すように、具体的には、溶融池先端下の座標位置P
LDのY座標(Pool_Lead_Dy)と溶融池先端上の座標位置P
UDのY座標(Pool_Lead_Uy)から、以下式1で溶融池中心位置P
PのY座標(Pool_Central_Y)を算出する。
【0053】
(Pool_Central_Y)={(Pool_Lead_Dy)+(Pool_Lead_Uy)}/2 ・・・(式1)
【0054】
さらに、式1によって、算出した溶融池中心位置P
PのY座標(Pool_Central_Y)を溶接中心位置として、原点位置(0位置)と定義し、以下の式2からウィービング幅方向の中央を境として、ウィービング幅方向の一方の側と他方の側とのトーチ位置を整理する。本実施形態においては、相対ずれ量算出部819Dが式2により相対ずれ量(dY)を算出し、算出された相対ずれ量(dY)の値がプラスの場合は、ワイヤ先端位置(WireY)が一方の側(上側)、マイナスの場合は他方の側(下側)として整理する。このときの相対ずれ量(dY)と時間との関係は
図15のように示される。この相対ずれ量(dY)のデータが第2のウィービング情報となる。
【0055】
(dY)=(WireY)-(Pool_Central_Y) ・・・(式2)
【0056】
<倣い補正量の算出方法>
次に、補正量算出部Eは、上述した第1のウィービング情報と第2のウィービング情報を用いて、以下の通り倣い補正量の算出を行う。
【0057】
(同期処理)
まず、第1のウィービング情報と第2のウィービング情報のデータ波形を同期させる。第1のウィービング情報であるロボット座標のデータ(例えば
図10のデータ)をロボット制御装置600からデータ処理装置800へ出力する。このときのロボット座標のデータには遅れ時間が含まれるので、この遅れ時間を調整する。つまり、
図16に示すように、第1のウィービング情報におけるウィービング端停止時間ΔTの中央に、第2のウィービング情報の波形のピークが同位相で配置されるように、時間軸上で第1のウィービング情報と第2のウィービング情報とを同期させる。
【0058】
(相対ずれ量、周期内ずれ量の算出)
図17に示されるように、ウィービング周期T
i(iは正整数)ごとに、
図9、
図10、
図12~
図14で説明した端停止時間ΔTの期間における上側(プラス値)の相対ずれ量dY(dy_U)の代表値として平均値(AVE_dy_U)を算出する。また同様に、次の端停止時間ΔTの期間における下側(マイナス値)の相対ずれ量dY(dy_D)の代表値として平均値(AVE_dy_D)を算出する。そして、以下の式3の通り、相対ずれ量の平均値(AVE_dy_U),(AVE_dy_D)の値に基づいて、トーチが上側に寄っているか下側に寄っているかを判定し、その差から各ウィービング周期内における周期内ずれ量(n_PosUD)を算出する。なお、本実施形態では相対ずれ量の平均値(AVE_dy_U)の値はプラス、相対ずれ量の平均値(AVE_dy_D)の値がマイナスとなるため、周期内ずれ量(n_PosUD)がプラスの値であれば上側にその値分のずれがあり、マイナスの値であれば下側にその値分のずれがあることになる。また、本実施形態では、代表値として平均値を算出しているが、これに限られず、端停止時間ΔTの期間における最小値や最大値などを適用しても良い。
【0059】
(n_PosUD)=(AVE_dy_U)+(AVE_dy_D) ・・・ (式3)
【0060】
ウィービング周期T1においては、上側の相対ずれ量dY(dy_U)の平均値(AVE_dy_U)の絶対値は、下側の相対ずれ量dY(dy_D)の平均値(AVE_dy_D)の絶対値よりも小さい。そのため、周期内ずれ量(n_PosUD)は、下側(マイナス側)となる。これは、溶接中央位置に対し、下側にずれていることを指す。また、ウィービング周期T2においては、上側の相対ずれ量dY(dy_U)の平均値(AVE_dy_U)の絶対値は、下側の相対ずれ量dY(dy_D)の平均値(AVE_dy_D)の絶対値よりも大きく、そのため、周期内ずれ量(n+1_PosUD)は、上側(プラス側)となる。これは、溶接中央位置に対し、上側にずれていることを指す。
【0061】
また、計算上の理由で、式4のように周期内ずれ量に補正係数Mを乗じてもよい。補正係数Mを乗じることで、実際の相対ずれ量の変化を、計算上、適切なレベルの大きさにでき、制御の応答性を適正に調整できる。
【0062】
(n_PosUD)=[{(AVE_dy_U)+(AVE_dy_D)}×M] ・・・ (式4)
【0063】
このようにして、データ処理装置800で算出した周期内ずれ量(n_PosUD),(n+1_PosUD),・・・は、ロボット制御装置600へコマンドの一つとして出力される。なお、上記の各端停止時間ΔTにおける相対ずれ量dYの平均値を代表値にすることに代えて、例えば、中央値、最大値、最頻値等を代表値にしてもよい。
【0064】
(倣い補正量の算出)
倣い補正量TCとして、ウィービング周期ごとに算出される周期内ずれ量(n_PosUD)をそのまま適用してもよいが、外乱などによって、想定外の値で補正され、制御が適切に行われない虞がある。その場合、式5で示されるように、現周期のずれ量(n_PosUD)と一つ前の周期のずれ量(n-1_PosUD)との移動平均値(AVE_n_PosUD)を適用してもよい。さらに、式6の通り、移動平均値(AVE_n_PosUD)に予め定めたゲイン数Gを乗じた値を倣い補正量TCとして算出してもよい。なお、この倣い補正量は、ずれ量をキャンセルする距離(mm)として算出するとよい。係数kは、例えば0.5等の値を採用できる。
【0065】
(AVE_n_PosUD)=(n_PosUD)×(1-k)+(n-1_PosUD)×k ・・・(式5)
TC=(AVE_n_PosUD)×G ・・・(式6)
【0066】
(倣い補正量の制限値)
また、制御の安定化の観点から、算出された倣い補正量TCに予め定めた制限値を設けることが好ましい。制限範囲を超えた場合、その倣い補正量TCは制限範囲の最大値または最小値の補正量を用いる。例えば、+αmm~-αmmの制限範囲の場合、+側で制限範囲を超える場合はαmmを固定値とし(αは任意の値)、-側で制限範囲を超える場合は-αmmを固定値として取り扱う。
【0067】
<倣い制御と他の制御>
決定した倣い補正量TCの情報は、座標処理を行った後、ロボット制御装置600が行う倣い制御(
図2のS4)に供される。ロボット制御装置600は、倣い補正量TCに応じた倣い制御の処理が完了すると、可搬型溶接ロボット100に指令情報(コマンド)を送る。そして、ロボット制御装置600は、
図2に示すように、次の処理に進む。なお、この倣い補正量TCは、前述したずれ量をキャンセルする距離(mm)とするとよい。
【0068】
倣い補正量TCに係るデータ処理装置800からロボット制御装置600へのコマンドの出力は、複数の制御を1周期、1制御ごとに実施する場合、1セット分のウィービングの周期総数のうち溶接線倣いの制御処理を実施する周期の数をn、溶接線倣いとは異なる制御処理を実施する周期の数をpとしたときn>pであるのが好ましい。例えば、溶接線倣いの制御処理を実施する周期をn回行った後、溶接線倣いとは異なる制御処理を実施する周期の数をp回行うことを1セットとし、これらの処理を溶接が終了するまで繰り返す(
図2のS7)。
【0069】
倣い制御以外の制御処理としては、例えば、振幅の制御処理が挙げられる。倣いの制御と振幅の制御とを上記の割合で別々に行うことで、倣いの制御と振幅の制御とが精度よく実施可能となる。倣い制御以外の制御処理は、上記した振幅の制御処理以外にも、例えば、トーチ高さの制御処理でもよい。また、倣い制御、振幅の制御、トーチ高さ(以降、突出長さとも称する。)の制御などの、複数の制御処理を組み合わせてもよい。このとき、倣いの制御処理の実施回数nを、振幅の制御処理の実施回数と、突出長さの制御処理の実施回数との合計の実施回数pより大きくすればよい。
【0070】
ここで、ロボット制御装置600に、コマンドの一つとして入力された周期内ずれ量(n_PosUD),(n+1_PosUD),・・・に基づいて倣い補正量TCを算出させる、具体的な倣い・振幅処理の手順について、
図2及び
図18のフローを用いて説明する。
【0071】
ロボット制御装置600は、溶接開始時に各処理工程の初期化を行う。例えば、倣い・振幅処理(
図2のS4)においては、後述する補正カウンタなどの初期化が挙げられる。そして、
図2で示す通り、コマンド受信(S1)で、データ処理装置800から相対ずれ量など各種の処理を行うためのコマンドを受信する。本実施形態では、受信したコマンドに基づいて、ギャップ処理(S2)、運棒処理(S3)を行った後、倣い・振幅処理など(S4,S5)を行う。倣い・振幅処理(S4)では、相対ずれ量のデータが入力されると、
図18のフローで示すように、ロボット制御装置600は、補正カウンタが溶接線倣いの制御処理の実施回数nより小さいことを確認し(S11)、前述した相対ずれ量の代表値を算出する(S12)。そして、周期内ずれ量を算出して(S13)、さらに必要に応じて周期内ずれ量の移動平均を求め、ゲイン数を乗じ、倣い補正量TCを算出する(S14)。
【0072】
算出した倣い補正量TCが制限範囲内かを判断し(S15)、制限範囲外である場合には、倣い補正量を予め定めた固定値に設定する(S16)。制限範囲内である場合には、算出した倣い補正量TCのままとする。そして、設定した倣い補正量に基づき、倣い制御を実施する(S17)。実施後に補正カウンタのカウントを1つ加算して(S18)、次の処理へ移行する。即ち、本実施形態では、
図2に示す速度処理(S5)に進むことになる。
【0073】
上記のように、
図2のステップS1にてリアルタイムで入力される相対ずれ量に対し、倣い・振幅処理(S4)において、補正カウンタがnを超えるまで
図18に示すステップS11~S18の処理を繰り返す。つまり、倣い制御をn回実施する。そして、n回実施後に
図2のルーチンに戻り、次の処理(S5)へ移行する。
【0074】
図2のルーチンで再度ステップS4を処理する際、
図18のステップS11にて補正カウンタがnを超えた場合には、ステップS19に移行する。ここでは、補正カウンタが、溶接線倣いとは異なる制御処理の実施回数pと、前述した溶接線倣い制御の実施回数nとの合計数より小さい場合に、振幅制御を実施する(S20)。振幅制御を実施した後、補正カウンタのカウントを1つ増加させ(S18)、次の処理へ移行する。こうして、補正カウンタがp+nの数を超えるまで振幅制御を繰り返す。ステップS19にて補正カウンタがp+nの数を超える場合には、補正カウンタがリセットされ(S21)、次回のルーチンで再び補正カウンタがnを超えるまでステップS11~S18の処理を繰り返す。なお、
図18に示す本実施形態の処理においては、倣い制御以外の制御として振幅制御のみを適用しているが、前述したように他の制御が行われてもよい。
【0075】
以上の手順によれば、ウィービング動作させている間、溶接線倣い制御と他の制御とをバランスよく交互に実施でき、より高精度な溶接処理を実施できる。
【0076】
<溶接制御方法>
以下、本実施形態における、実際の溶接時における溶接システム50の溶接動作について説明する。アーク溶接を行う場合、オペレータは、ロボット制御装置600、溶接電源400、及びデータ処理装置800のそれぞれを起動する。ロボット制御装置600は、溶接電源400に溶接条件の指令を行い、可搬型溶接ロボット100の動きを制御することで、可搬型溶接ロボット100が溶接を実行する。また、データ処理装置800は、撮像装置700により撮像される溶接画像を入力し、アーク溶接に関する特徴点を逐次出力する。本実施の形態では、特徴点を、ワイヤ先端の位置、アーク中心、溶融池先端上および下位置、および、溶融池上端および下端位置とする。
【0077】
オペレータは、アーク溶接を開始する場合、ロボット制御装置600と接続された図示しない教示ペンダントを操作して、ロボット制御装置600に対して、適用する教示プログラム、各種設定値を入力する。ここでの教示プログラムは、可搬型溶接ロボット100の動きおよび溶接開始、溶接終了指示等を予め教示した教示済みのプログラムとして規定する。以下、プログラム開始後のプロセスを(A)~(G)の流れで説明する。
【0078】
(A)ロボット制御装置600は、教示プログラム、各種設定値指示を受け付ける。
【0079】
(B)ロボット制御装置600は、教示プログラム開始後、所定の溶接開始位置に可搬型溶接ロボット100を動かし、溶接電源400に対して、溶接開始(アークオン)を指令する。なお、溶接プログラム開始前に、タッチセンシングやレーザセンシングなどのセンシングを行い、教示プログラムの設定値を補正してもよい。
【0080】
(C)溶接電源400は、ロボット制御装置600からの溶接開始の指令を受信する。
【0081】
(D)溶接電源400は、内蔵されている不図示の電源回路を制御して電力を供することで、溶接を開始させる。これにより、溶接ワイヤ211(
図1参照)とワークWo(
図1参照)との間に電圧が印加され、溶接開始位置にアークが発生する。
【0082】
(E)ロボット制御装置600は、溶接電源400または可搬型溶接ロボット100に制御信号を送信し、溶接制御を実行する。溶接制御は、例えば、溶接条件の制御、ウィービング動作を含む運棒処理などの制御、溶接線の倣い制御などを含む。
【0083】
(F)ロボット制御装置600は、溶接の停止信号が検出されるまで、データ処理装置800から溶接制御にかかる補正信号を受信する。ここで受信される補正信号は、データ処理装置800が学習済みモデル815Bを用いて特徴点を出力し、特徴点に基づいた各時系列データに基づいて算出された種々の処理の補正量(倣い制御の場合は倣い補正量)に関する信号となる。なお、溶接の停止信号は、例えば、オペレータからの溶接停止の指示の受け付け、教示プログラムによる溶接終了位置の検出、又は、溶接異常の検出等があった場合に、溶接の停止と判定してよい。
【0084】
溶接条件の制御においては、データ処理装置800が、溶接画像から得られる特徴点に基づいて、溶接速度、溶接電流又はアーク電圧の少なくとも一つを制御するための補正量を算出し、ロボット制御装置600に、補正量に係る補正信号をコマンドとして送信する。そして、ロボット制御装置600は、その補正信号に応じた指令信号を可搬型溶接ロボット100または溶接電源400に送信することで、可搬型溶接ロボット100または溶接電源400は溶接を実行する。なお、制御の容易性の観点から、溶接の安定性を得る場合には、溶接速度の制御を含むことが好ましい。本実施形態では溶接速度の制御のみを行っており、例えば、溶接画像から得られるワイヤ先端のX座標位置と溶融池上端および下端位置の差に基づいて溶接速度の補正量を決定すればよい。
【0085】
ウィービング動作の制御においては、データ処理装置800が、溶接画像から得られる特徴点に基づいて、ウィービング条件に関する条件を制御するための補正量を算出し、ロボット制御装置600に、補正量に係る補正信号を送信する。ロボット制御装置600は、その補正信号に応じた指令信号を可搬型溶接ロボット100または溶接電源400に送信することで、可搬型溶接ロボット100または溶接電源400は溶接を実行する。
【0086】
溶接線の倣い制御は、データ処理装置800が、溶接画像から得られる特徴点に基づいて、上述の通りに倣い補正量TCを算出し、座標処理後の指令値を補正信号として、ロボット制御装置600に送信する。ロボット制御装置600は、その補正信号に応じた指令信号を可搬型溶接ロボット100に送信することで、可搬型溶接ロボット100は溶接を実行する。
【0087】
(G)ロボット制御装置600は、溶接の停止信号が検出されると、溶接電源400に対して溶接停止を指令する。溶接の停止は、溶接電力の供給の停止により実現される。また、ロボット制御装置600は、データ処理装置800に対して補正信号の生成停止を指令する。これにより、溶接システム50の溶接動作が終了する。
【0088】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0089】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶接トーチを指令情報に基づきウィービングさせるウィービング制御方法であって、
前記指令情報からウィービング中のトーチ位置の情報を含む第1のウィービング情報を取得する工程と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺が撮像された画像情報から、予め定めたサンプリング周期ごとに、溶接線に直交するウィービング幅方向に関するウィービング中の溶接中心位置及び前記トーチ位置の情報を含む第2のウィービング情報を取得する工程と、
前記溶接トーチが前記ウィービング幅方向の中央を境として一方の側と他方の側に移動する際の、前記一方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第1停止期間と、前記他方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第2停止期間とをそれぞれ設定する工程と、
前記第2のウィービング情報に基づきウィービング周期ごとに、前記第1停止期間と前記第2停止期間における前記溶接中心位置と前記トーチ位置との相対ずれ量の代表値をそれぞれ算出する工程と、
前記ウィービング周期ごとに、前記第1停止期間の前記相対ずれ量の代表値と、前記第2停止期間の前記相対ずれ量の代表値とに基づいて求めた周期内ずれ量に応じて、溶接線倣いの補正量を算出する工程と、
を有するウィービング制御方法。
このウィービング制御方法によれば、指令情報に基づく第1のウィービング情報によりウィービング端での停止タイミングを把握し、その停止タイミングで画像情報から得られる溶接中心位置及びトーチ位置の情報を用いて溶接線倣いの補正量を算出するため、画像情報のサンプリングレートが大きくても、溶接線倣い制御を高精度に行える。
【0090】
(2) 前記画像情報は2次元座標軸を有する画像データを含み、前記画像データから少なくとも、前記溶接中心位置と前記トーチ位置を決定する、(1)に記載のウィービング制御方法。
このウィービング制御方法によれば、2次元の画像データから溶接中心位置とトーチ位置を精度よく決定できる。
【0091】
(3) 前記画像情報には、溶融池の画像と、トーチ先端から突出した溶接ワイヤの画像とが含まれており、
前記溶接中心位置を、前記溶接中の前記画像情報から得られる前記溶融池の位置に基づいて算出し、
前記サンプリング周期ごとの前記トーチ位置を、前記溶接中に撮像した前記画像情報から得られるトーチ先端から突出した溶接ワイヤのワイヤ先端位置に基づいて算出し、
前記溶接中心位置と前記トーチ位置との差分値がプラスの値である場合と、マイナスの値をとる場合とで、前記一方の側のウィービング位置または前記他方の側のウィービング位置かを区別する、(2)に記載のウィービング制御方法。
このウィービング制御方法によれば、トーチ位置を、溶接中心位置とトーチ位置との差分値がプラスの値である場合と、マイナスの値をとる場合とで、一方の側のウィービング位置または他方の側のウィービング位置かを容易に区別できる。
【0092】
(4) 前記溶融池の位置は、少なくとも、前記溶融池における前記ウィービング幅方向の両端の溶融池先端位置と、前記両端の溶融池先端位置から算出される、前記両端の溶融池先端位置同士の間の溶融池中心位置とを含み、
前記溶接中心位置を、前記溶融池中心位置に設定する、(3)に記載のウィービング制御方法。
このウィービング制御方法によれば、溶接中心位置を、溶融池先端位置と溶融池中心位置により正確に設定できる。
【0093】
(5) 前記周期内ずれ量を、前記一方の側における前記相対ずれ量の代表値と、前記他方の側における前記相対ずれ量の代表値に補正係数を乗じて算出する、(1)から(4)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
このウィービング制御方法によれば、補正係数を乗じることで、実際の相対ずれ量の変化を、計算上、適切なレベルの大きさにでき、制御の応答性を適正に調整できる。
【0094】
(6) 前記溶接線倣いの補正量は、複数のウィービング周期で求めた各周期の周期内ずれ量を移動平均した値を用いて算出する、(1)から(5)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
このウィービング制御方法によれば、瞬発的なずれの発生による影響を抑え、制御の安定性を向上できる。
【0095】
(7) 前記溶接線倣いの制御処理を実施する周期の数をn、前記溶接線倣いとは異なる制御処理を実施する周期の数をpとして、前記溶接線倣いの制御処理と前記溶接線倣いとは異なる制御処理を1セットとして繰り返し、
n>p
である(1)から(6)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
このウィービング制御方法によれば、溶接線倣いの制御処理と他の制御処理とを効率よく実施できる。
【0096】
(8) 前記補正量が予め定めた制限範囲を超える場合に、
前記補正量を、予め定めた前記制限範囲内の固定値に設定する、
前記制限範囲を超えた前記補正量による溶接線倣い制御を行わない、
異常信号を発信する、
溶接を停止する、
動作のうち少なくとも1つを実施する、(1)から(7)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
このウィービング制御方法によれば、補正量が制限範囲を超えた場合でも、過剰な応答を生じさせることなく安定した制御が可能になる。
【0097】
(9) 前記第1のウィービング情報と、前記第2のウィービング情報と間の遅れ時間を算出し、
算出した前記遅れ時間に基づいて、前記第1のウィービング情報と前記第2のウィービング情報とを同期させる、(1)から(8)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
このウィービング制御方法によれば、第1のウィービング情報と第2のウィービング情報を遅れなく同期させることができる。
【0098】
(10) 前記画像情報を入力データとし、溶接現象に係る特徴情報を出力するように生成された学習済みモデルを用意して、
前記画像情報を前記学習済みモデルに入力することにより、前記学習済みモデルから出力された前記特徴情報に基づいて、前記溶接中心位置と前記トーチ位置の少なくともいずれかを算出する、(1)から(9)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法。
このウィービング制御方法によれば、学習済みモデルを用いて特徴情報を取得できる。
(11) 前記特徴情報は、トーチ先端から突出した溶接ワイヤのワイヤ先端位置と、溶融池における前記ウィービング幅方向の両端の溶融池先端位置と、を少なくとも含む、(10)に記載のウィービング制御方法。
このウィービング制御方法によれば、画像情報から各特徴点の位置を容易に検出できる。
【0099】
(12) 溶接トーチを指令情報に基づきウィービング制御するための機能を有する溶接制御装置であって、
前記指令情報からウィービング中のトーチ位置の情報を含む第1のウィービング情報を取得する第1情報取得部と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺が撮像された画像情報から、予め定めたサンプリング周期ごとに、溶接線に直交するウィービング幅方向に関するウィービング中の溶接中心位置及び前記トーチ位置の情報を含む第2のウィービング情報を取得する第2情報取得部と、
前記溶接トーチが前記ウィービング幅方向の中央を境として一方の側と他方の側に移動する際の、前記一方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第1停止期間と、前記他方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第2停止期間とをそれぞれ設定する停止期間設定部と、
前記第2のウィービング情報に基づきウィービング周期ごとに、前記第1停止期間と前記第2停止期間における前記溶接中心位置と前記トーチ位置との相対ずれ量の代表値をそれぞれ算出する相対ずれ量算出部と、
前記ウィービング周期ごとに、前記第1停止期間の前記相対ずれ量の代表値と、前記第2停止期間の前記相対ずれ量の代表値とに基づいて求めた周期内ずれ量に応じて、溶接線倣いの補正量を算出する補正量算出部と、
を有する溶接制御装置。
この溶接制御装置によれば、指令情報に基づく第1のウィービング情報によりウィービング端での停止タイミングを把握し、その停止タイミングで画像情報から得られる溶接中心位置及びトーチ位置の情報を用いて溶接線倣いの補正量を算出するため、画像情報のサンプリングレートが大きくても、溶接線倣い制御を高精度に行える。
【0100】
(13) (12)に記載の溶接制御装置と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺を撮像する撮像装置と、
前記溶接制御装置から出力される前記溶接線倣いの補正量に基づいて、溶接条件を変更する溶接装置と、
を含んで構成される溶接システム。
この溶接システムによれば、溶接線倣い制御が適正に実施された高品位なワークが得られる。
【0101】
(14) 溶接トーチを指令情報に基づきウィービングさせるウィービング制御方法の手順を実行させるプログラムであって、
コンピュータに、
前記指令情報からウィービング中のトーチ位置の情報を含む第1のウィービング情報を取得する手順と、
溶接中の前記溶接トーチの先端周辺が撮像された画像情報から、予め定めたサンプリング周期ごとに、溶接線に直交するウィービング幅方向に関するウィービング中の溶接中心位置及び前記トーチ位置の情報を含む第2のウィービング情報を取得する手順と、
前記溶接トーチが前記ウィービング幅方向の中央を境として一方の側と他方の側に移動する際の、前記一方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第1停止期間と、前記他方の側のウィービング端で停止するタイミングを含む第2停止期間とをそれぞれ設定する手順と、
前記第2のウィービング情報に基づきウィービング周期ごとに、前記第1停止期間と前記第2停止期間における前記溶接中心位置と前記トーチ位置との相対ずれ量の代表値をそれぞれ算出する手順と、
前記ウィービング周期ごとに、前記第1停止期間の前記相対ずれ量の代表値と、前記第2停止期間の前記相対ずれ量の代表値とに基づいて求めた周期内ずれ量に応じて、溶接線倣いの補正量を算出する手順と、を実行させるためのプログラム。
このプログラムによれば、指令情報に基づく第1のウィービング情報によりウィービング端での停止タイミングを把握し、その停止タイミングで画像情報から得られる溶接中心位置及びトーチ位置の情報を用いて溶接線倣いの補正量を算出するため、画像情報のサンプリングレートが大きくても、溶接線倣い制御を高精度に行える。
【0102】
(15) (1)から(11)のいずれか1つに記載のウィービング制御方法により補正された溶接条件で溶接を行う制御工程を有する溶接方法。
この溶接方法によれば、溶接線倣い制御が適正に実施された高品位なワークが得られる。
【符号の説明】
【0103】
10 開先
50 溶接システム
100 可搬型溶接ロボット
200 トーチ
211 溶接ワイヤ
300 送給装置
400 溶接電源
500 シールドガス供給源
600 ロボット制御装置
700 撮像装置
800 データ処理装置
810 本体
811 CPU
812 GPU
813 ROM
814 RAM
815 不揮発性記憶装置
815D 画像データ
816 入出力インタフェース
817 通信インタフェース
818 映像出力インタフェース
819 算出部
820 入力部
830 表示部
819A 第1情報取得部
819B 第2情報取得部
819C 停止期間設定部
819D 相対ずれ量算出部
819E 補正量算出部
Wo ワーク
W1 上板
W2 下板