(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104103
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】コークス製造用石炭ケーキの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 45/02 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
C10B45/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008153
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】中島 崇秀
(57)【要約】
【課題】スタンプチャージ法により石炭ケーキをブロック状に成型しても石炭ケーキの入側端部の崩落をなくすことができる、コークス製造用石炭ケーキの製造方法を提案すること。
【解決手段】コークス製造に用いる石炭ケーキをスタンプチャージ法で成型するコークス製造用石炭ケーキの製造方法において、石炭ケーキの入側端部において、成型されるエネルギーが、目標密度を達成するために必要なエネルギーEt(kJ/t)以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス製造に用いる石炭ケーキをスタンプチャージ法で成型するコークス製造用石炭ケーキの製造方法において、
前記石炭ケーキの入側端部において、成型されるエネルギーが目標密度を達成するために必要なエネルギーEt(kJ/t)以上であることを特徴とする、コークス製造用石炭ケーキの製造方法。
【請求項2】
前記Etは、石炭毎に、スタンピングエネルギーE(kJ/t)と石炭ケーキ密度ρ(kg/m3)との相関関係に基づいて設定されることを特徴とする、請求項1に記載のコークス製造用石炭ケーキの製造方法。
【請求項3】
前記Etは、下記式(1)を満たすことを特徴とする、請求項1または2に記載のコークス製造用石炭ケーキの製造方法:
Et≦ΣEi/(a×Li+b)・・・・(1)
ここで、
Ei:i番目のスタンパーから石炭ケーキ入側端部に伝わるスタンピングエネルギー(kJ/t)、
Li:i番目のスタンパー端部までの炉頂方向距離(m)、
a、b:石炭毎に定まる係数。
【請求項4】
前記Eiにおいて、最も入側端部に近いスタンパーのスタンピングエネルギーE1を調整することを特徴とする、請求項3に記載のコークス製造用石炭ケーキの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス製造に用いる石炭ケーキをスタンプチャージ法で成型するコークス製造用石炭ケーキの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス製造用としての石炭として、良質の強粘結炭は資源的に枯渇状態になってきているため、劣質炭を用いても強度を確保することが求められている。強度を向上させる技術としては、コークス炉に装入する石炭の嵩密度を増加させる方法があり、一例としてスタンプチャージ法が知られている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1で開示されているスタンプチャージ法では、粉炭と成形炭との混合物をスタンパーにより上からスタンプして成型し、嵩密度が大きいブロック状の石炭ケーキとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スタンプチャージ法で形成されたブロック状の石炭ケーキの強度は場所によりばらつきがあり、スタンパーから水平方向に距離が離れるとスタンピングの衝撃が減衰することから嵩密度が小さく、強度が小さくなりやすい。そのため、一定回数スタンピングしてブロック形状に成型した石炭ケーキにおいて、石炭ケーキのコークス炉の炭化室に面する入側端部が強度不足により崩落する場合がある。その場合、入側端部が崩落した石炭ケーキを、コークス炉の炭化室へ装入できなくなり、石炭ケーキを乾留してコークスを製造することができない。
【0006】
本発明の目的は、上記の問題点を解決して、スタンプチャージ法により石炭ケーキをブロック状に成型しても石炭ケーキの入側端部からの崩落をなくすことができる、コークス製造用の石炭ケーキの製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
石炭ケーキの崩落を防ぐために、スタンプチャージ法により成型される石炭ケーキの密度は1100kg/m3以上が望ましい。そこで、本発明では、前記課題を解決するために石炭ケーキが入側端部から崩落する要因を鋭意調査した。その結果、以下の知見を得た。
1)石炭ケーキが炉頂方向に入側端部に近いほど、中央側にあるスタンパーから伝わる成型エネルギーが減衰して小さくなる。その結果、石炭ケーキ中央部に比べて入側端部に近い方において、石炭ケーキ強度が不足する。
2)石炭の銘柄や性状、粒度などによって、同じスタンピングエネルギーを与えた場合であっても、得られる石炭ケーキの密度は大きく変化する。
【0008】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。すなわち、本発明のコークス製造用石炭ケーキの製造方法は、コークス製造に用いる石炭ケーキをスタンプチャージ法で成型するコークス製造用石炭ケーキの製造方法において、前記石炭ケーキの入側端部において、成型されるエネルギーが目標密度を達成するために必要なエネルギーEt(kJ/t)以上であることを特徴とする、コークス製造用石炭ケーキの製造方法である。
【0009】
なお、前記のように構成される本発明に係るコークス製造用石炭ケーキの製造方法においては、
(1)前記Etは、石炭毎に、スタンピングエネルギーE(kJ/t)と石炭ケーキ密度ρ(kg/m3)との相関関係に基づいて設定されること、
(2)前記Etは、石炭ケーキのいずれの高さにおいても、下記式(1)を満たすこと:
Et≦ΣEi/(a×Li+b)・・・・(1)
ここで、
Ei:i番目のスタンパーから石炭ケーキ入側端部に伝わるスタンピングエネルギー(kJ/t)、
Li:i番目のスタンパー端部までの炉頂方向距離(m)、
a、b:石炭毎に定まる係数。
(3)前記Eiにおいて、最も入側端部に近いスタンパーのスタンピングエネルギーE1を調整すること、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコークス製造用石炭ケーキの製造方法によれば、石炭ケーキの入側端部において、石炭ケーキのいずれの高さにおいても、成型されるエネルギーが目標密度を達成するために必要なエネルギーEt(kJ/t)以上である。そのため、石炭ケーキ入側端部からの石炭ケーキの崩落を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の石炭ケーキを用いる従来から知られているコークス炉の一実施形態を説明するための図である。
【
図2】本発明の石炭ケーキの製造に用いるスタンプチャージ設備の一実施形態を説明するための図である。
【
図3】本発明におけるEtを説明するための、スタンピングエネルギーと石炭ケーキ密度との関係の一例を示すグラフである。
【
図4】本発明における、スタンピングエネルギーとケーキ端部からの距離とからなるスタンピングエネルギーの分布の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
<本発明の石炭ケーキを用いるコークス炉について>
図1は本発明の石炭ケーキを用いる従来から知られているコークス炉の一実施形態を説明するための図である。
図1に示す例において、コークス炉1は、石炭ケーキを装入する炭化室2と炭化室2を加熱する燃焼室3とが交互に配置された構造体(炉団)である。炭化室2においては、石炭を蒸し焼き(乾留)して、コークスを製造している。製造したコークスは、炭化室2の前後方向の端部の窯口に着脱自在に設けられた炉蓋4を開け、水平方向に図示しない押し出しラムにより押し出すことで、炭化室2から取り出される。
【0014】
燃焼室3の下部には、一体に蓄熱室5が設けられており、燃焼室3と蓄熱室5とにより、燃料ガス6を空気9により燃焼して燃焼排ガス7としてコークス炉1の外部に排出することで、隣接する炭化室2を石炭が乾留される温度まで加熱している。上記構成のコークス炉1は、石炭処理能力が高く、熱効率も良好で、強度の高いコークスを得ることができる。
【0015】
図1に示す構成のコークス炉1では、
図1に燃焼室3および蓄熱室5の構成を示すように、燃焼室3および蓄熱室5が長さ方向に燃焼側と引き落とし側とに仕切り壁8により2分割されており、燃料ガス6と燃焼した燃焼ガスを、
図1に矢印で示すように、(蓄熱室5の燃焼側)→(燃焼室3の燃焼側)→(燃焼室3の引き落とし側)→(蓄熱室5の引き落とし側)と流通させて、隣接する炭化室2を、石炭を乾留するための温度例えば約1100℃に加熱している。そして、この状態を20~30分程度継続したら、ガスの流れを反対向きにして燃焼と排気の切り替えを行い、燃焼側と引き落とし側を入れ替えて加熱することを繰り返す操業を行う。
【0016】
<本発明のコークス製造用石炭ケーキの製造方法について>
図2は本発明の石炭ケーキの製造に用いるスタンプチャージ設備の一実施形態を説明するための図である。
図2に示す例において、装炭押出機21の上部に複数のスタンパー22を設けている。そして、装炭押出機21内に上部からホッパー25を介して石炭23を装入し、スタンパー22を上下動させることで石炭23を上部からスタンピングして、石炭ケーキ24を成形している。装炭押出機21の前端は可動扉21aから構成され、後端は背面壁21bから構成されている。可動扉21aおよび押出扉21bを所定の位置にセットしてスタンピングボックスを形成することができる。そのため、石炭23をスタンパー22でスタンピングすることで、装入された石炭23は所定のブロック形状に成型された石炭ケーキ24を得ることができる。成型された石炭ケーキ24は、前端の可動扉21aを開けた状態で後端の背面壁21bにより押すことで、コークス炉1の炭化室2にセットされる。そして、炭化室2内にセットされた石炭ケーキ24は炭化室2内で乾留される。なお、
図2において、前端の可動扉21aと接する石炭ケーキ24の部分を、石炭ケーキ24の入側端部24aとする。
【0017】
本発明のコークス製造用石炭ケーキの製造方法の特徴は、上述した装炭押出機21での石炭ケーキ24の成型中、石炭ケーキ24の入側端部24aにおいて、石炭ケーキのいずれの高さにおいても、成型されるエネルギーが目標密度を達成するために必要なエネルギーEt(kJ/t)以上である点にある。
【0018】
ここで、Et(kJ/t)とは、目標密度(例えば、1100kg/m
3)を達成するために必要なエネルギーである。原料となる石炭の銘柄や性状、粒度などによって、同じスタンピングエネルギーを石炭に与えた場合であっても、スタンプチャージ法で成型された石炭ケーキの密度は大きく変化する。そのため、オフライン試験でスタンピングエネルギーEと石炭ケーキ密度ρとの相関関係を予め調査し、原料毎にEtを決定することが好ましい。Etの好適な実際の例については、以下の実施例において、表1および
図3に基づき説明する。
【0019】
また、本発明のコークス製造用石炭ケーキの製造方法の好適な一実施形態として、Etは、下記式(1)を満たすことがある:
Et≦ΣEi/(a×Li+b)・・・・(1)
ここで、
Ei:i番目のスタンパーから石炭ケーキ入側端部に伝わるスタンピングエネルギー(kJ/t)、
Li:i番目のスタンパー端部までの炉頂方向距離(m)、
a、b:石炭毎に定まる係数。
【0020】
スタンプチャージ法で石炭ケーキを製造する際、通常、炉頂方向に数十個のスタンパーが並んでおり、それぞれのスタンパーの成型エネルギーが周囲に伝播することで石炭を押し固める。ここで、i番目のスタンパーから石炭ケーキ入側端部に伝わるスタンピングエネルギーEi(kJ/t)およびi番目のスタンパー端部までの炉頂方向の距離Li(m)は、石炭ケーキ入側端部におけるスタンピングエネルギーEtを求めるために使用される。
【0021】
式(1)のΣEi/(a×Li+b)は、以下の知見に基づき求められている。すなわち、司・翠川の回帰式(司宏俊、翠川三郎:断層タイプ及地盤条件を考慮した最大加速度・最大速度の距離減衰式、日本建築学会構造系論文集、第523号、1999、pp.63-70)では、震源から距離X(km)離れた位置での最大加速度Aが距離によって減衰していく傾向を表している。
log(A)=b-log(Xz+c)-0.003X (b、cは地震の大きさに関する係数)
【0022】
ここで距離が近い場合では、第2項の-0.003Xが無視でき、最大加速度がXの一次式の逆数に比例する。また、最大加速度とその地点でのエネルギーが比例すると考え、これを重錘から石炭が受けるエネルギーに展開すると、重錘の落下地点からLi(m)離れた位置で石炭が受けるエネルギーはLiの一次式の逆数:1/(a×Li+b)に比例すると考えられる。
【0023】
入側端部のスタンパーにおいてスタンピング速度を増加させる方法、スタンパーの重量を重くして加圧エネルギーを増加させる方法、石炭の投入量を低下させる方法、あるいはこれらを組み合わせた方法により、ΣEi/(a×Li+b)をEtよりも大きくできる。すなわち、上記いずれかの方法で、目標密度に達するまでの石炭重量当たりのスタンピングエネルギーを局所的に大きくすることができ、式(1)のようにΣEi/(a×Li+b)をEtよりも大きくすることが可能である。
【実施例0024】
実施例として、-3mmの割合を90%、含水率を10%に調整した石炭を用いて、スタンピングエネルギーEを300~700(kJ/t)の範囲で変化させた時の石炭ケーキ密度ρを調査した。その結果を、石炭のオフライン試験におけるスタンピングエネルギーと石炭ケーキ密度との関係として、以下の表1および
図3に示す。
図3のグラフから、この石炭の場合、例えば1100(kg/cm
3)の目標密度を得るための目標スタンピングエネルギーEtは、Et=547(kJ/t)となる。
【0025】
なお、上記石炭では、
図3に示すように、石炭ケーキ密度をy、スタンピングエネルギーをxとしたとき、y=585.5x
0.1との式を求めることができる。ここで、係数585.5と指数0.1は、石炭の種類ごとに異なる値をとる。そのため、係数をa、指数をbとすれば、石炭の種類によらず、石炭ケーキ密度とスタンピングエネルギーとの関係を、y=ax
bと示すことができる。
【0026】
【0027】
好適な一実施形態として、以下の式(1)の条件を満たすことがある:Et≦ΣEi/(a×Li+b)・・・・(1)ここで、Ei:i番目のスタンパーから石炭ケーキ入側端部に伝わるスタンピングエネルギー(kJ/t)、Li:i番目のスタンパー端部までの炉頂方向距離(m)、a、b:石炭毎に定まる係数。
【0028】
ここで、スタンピングする石炭にマーカーを等間隔に配置する等の手段により計算した減衰係数がa=0.2、b=1.0となる場合、さらに石炭ケーキ端部から5cmの位置からスタンパーの長さ40cmのハンマー1、2、3、4・・・が10cm間隔で30個並んでいる場合において、スタンピングエネルギーの分布は
図4のようになる。
【0029】
上記の石炭を用いて、スタンプチャージ法に従って、スタンピング速度(回/秒)、スタンパーの加圧エネルギー(kJ/回)、装炭速度(t/秒)を種々に変化させて、Ei、Li、Ei/(a×Li+b)を計算して、30個のスタンパーによるΣEi/(a×Li+b)を求め、比較例1、実施例1の石炭ケーキを成型した。そして、コークス炉の炭化室に装入した際の石炭ケーキ上層の崩落の有無を調査した。石炭ケーキの形状は、幅0.43m×長さ15.43m×高さ6mであり、石炭を装入するホッパー高さは7mであった。以下、比較例1および実施例1の各種の成型条件および成型結果を、表2および表3として示す。
【0030】
【0031】
【0032】
図3のグラフから、石炭ケーキ入側端部で必要となる目標密度を達成するために必要なエネルギーはEt=547(kJ/t)である。表2に示す比較例1では、石炭ケーキ入側端部での30個のスタンパーによるEtすなわちΣEi/(a×Li+b)が434kJ/tであったため、石炭ケーキ入側端部での崩落が発生したことがわかる。一方、表3に示す実施例1では、石炭ケーキ入側端部での30個のスタンパーによるEtすなわちΣEi/(a×Li+b)が547kJ/tであったため、石炭ケーキ入側端部での崩落が発生しなかったことがわかる。
【0033】
なお、実施例1では、表3に示すように、石炭ケーキ入側に一番近いハンマー1のスタンピングエネルギーをEt=726kJ/t以上に調整することで、石炭ケーキ入側端部の目標密度を達成できることがわかる。これを実現する方法の一例として、本例では、ハンマー1の重量を他のハンマーに比べ45%増加させ、1回の落下で与えるエネルギーを増加させる調整を実施している。
【0034】
以上のことから、石炭ケーキの入側端部において、成型されるエネルギーが目標密度を達成するために必要なエネルギーEt(kJ/t)以上であることで、石炭ケーキの入側端部における崩落のない石炭ケーキを得られることがわかった。
本発明のコークスの製造方法によれば、石炭ケーキの入側端部において、成型されるエネルギーが目標密度を達成するために必要なエネルギーEt(kJ/t)以上でとする。これにより石炭ケーキの入側端部からの石炭ケーキの崩落を防ぐことができ、産業上有用である。