(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104109
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】精製されたトランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))の製造方法、及びHFO-1132(E)を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 17/383 20060101AFI20240726BHJP
C07C 17/395 20060101ALI20240726BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20240726BHJP
C07C 19/08 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
C07C17/383
C07C17/395
C07C21/18
C07C19/08
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008172
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
(72)【発明者】
【氏名】野口 敦史
(72)【発明者】
【氏名】蓮本 雄太
(72)【発明者】
【氏名】田渕 昭一
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD11
4H006AD30
4H006BB19
4H006BD35
4H006EA02
4H006EA03
(57)【要約】
【課題】HFO-1132(E)を効率よく精製する方法を提供する。
【解決手段】1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))とを含む組成物をアミンを含む溶媒と接触させ、前記組成物から前記HFC-143aが低減された組成物を得る抽出蒸留工程を含む、精製されたHFO-1132(E)の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))とを含む組成物をアミンを含む溶媒と接触させ、前記組成物から前記HFC-143aが低減された組成物を得る抽出蒸留工程を含む、
精製されたHFO-1132(E)の製造方法。
【請求項2】
前記抽出蒸留工程で得られた組成物を蒸留して、前記HFO-1132(E)を主成分として含む組成物と、前記アミンを含む溶媒を主成分として含む組成物とに分離する蒸留工程を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記抽出蒸留工程を行う第1の蒸留塔を使用した前記抽出蒸留工程を0.05~5MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記蒸留工程を行う第2の蒸留塔を使用した前記蒸留工程を0.05~3MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記抽出蒸留工程で使用した前記アミンを含む溶媒を回収し、回収した前記アミンを含む溶媒を前記抽出蒸留工程に再循環させる溶媒回収工程を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記アミンは、一般式:NR1R2R3
〔式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって水素又は置換基を有していてもよい炭素数1~3の炭化水素基を示す。但し、R1、R2及びR3が全て水素である場合を除く。〕
で表される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記アミンが、-10~160℃の標準沸点を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アミンが、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ-n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、モノ-イソプロピルアミン、及びジ-イソプロピルアミンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))と、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)と、アミンとを含有する組成物であって、該三成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ前記HFC143aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.4質量%以下であり、前記アミンの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下である組成物。
【請求項10】
トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))と、アミンとを含有する組成物であって、該二成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ前記アミンの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下である組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、精製されたトランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))の製造方法、及びHFO-1132(E)を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
HFO-1132(E)は、地球温暖化係数(GWP)が小さいため、温室効果ガスであるジフルオロメタン(HFC-32)及び1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(HFC-125)を代替する冷媒として注目されている。
【0003】
特許文献1には、本開示に関連し、「ジフルオロメタン(HFC-32)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又は1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)とを含む共沸組成物又は共沸様組成物を抽出溶媒と接触させ、前記共沸組成物又は前記共沸様組成物からHFC-32が低減された組成物を得る抽出蒸留工程を含む、精製されたHFO-1132(E)及び/又はHFO-1123の製造方法。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、HFO-1132(E)を効率よく精製する方法、及びHFO-1132(E)を含有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、例えば、以下の項に記載の発明を包含する。
項1.1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)と、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))とを含む組成物をアミンを含む溶媒と接触させ、前記組成物から前記HFC-143aが低減された組成物を得る抽出蒸留工程を含む、
精製されたHFO-1132(E)の製造方法。
項2.前記抽出蒸留工程で得られた組成物を蒸留して、前記HFO-1132(E)を主成分として含む組成物と、前記アミンを含む溶媒を主成分として含む組成物とに分離する蒸留工程を更に含む、上記項1に記載の製造方法。
項3.前記抽出蒸留工程を行う第1の蒸留塔を使用した前記抽出蒸留工程を0.05~5MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、上記項1~3のいずれかに記載の製造方法。
項4.前記蒸留工程を行う第2の蒸留塔を使用した前記蒸留工程を0.05~3MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、上記項2又は3に記載の製造方法。
項5.前記抽出蒸留工程で使用した前記アミンを含む溶媒を回収し、回収した前記アミンを含む溶媒を前記抽出蒸留工程に再循環させる溶媒回収工程を更に含む、上記項1~4のいずれかに記載の製造方法。
項6.前記アミンは、一般式:NR1R2R3
〔式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって水素又は置換基を有していてもよい炭素数1~3の炭化水素基を示す。但し、R1、R2及びR3が全て水素である場合を除く。〕
で表される、上記項1~5のいずれかに記載の製造方法。
項7.前記アミンが、-10~160℃の標準沸点を有する、上記項1~6のいずれかに記載の製造方法。
項8.前記アミンが、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ-n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、モノ-イソプロピルアミン、及びジ-イソプロピルアミンからなる群より選択される少なくとも1種である、上記項1~7のいずれかに記載の製造方法。
項9.トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))と、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)と、アミンとを含有する組成物であって、該三成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ前記HFC143aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.4質量%以下であり、前記アミンの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下である組成物。
項10.トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))と、アミンとを含有する組成物であって、該二成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ前記アミンの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下である組成物。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、HFO-1132(E)を効率よく精製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1におけるプロセスの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示者らは、鋭意研究を行った結果、HFC-143aと、HFO-1132(E)とを含む組成物をアミンを含む溶媒と接触させ、前記組成物から前記HFC-143aが低減された組成物を得る抽出蒸留工程を含む製造方法によって、HFO-1132(E)を効率よく精製できることを見出した。
【0010】
本開示は、かかる知見に基づき、更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0011】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲(すなわち「以上・以下」)を意味する。
【0012】
本明細書において、共沸組成物とは、一定圧力下で液相と気相との組成間に差がなく、あたかも一つの物質のように挙動する組成物を意味する。
【0013】
本明細書において、共沸様組成物とは、共沸組成を形成できる組成物において、共沸組成に近似する組成を有する組成物であって、共沸組成物に近い挙動を示す組成を意味する。共沸様組成物は組成の変化をほとんど伴わずに蒸留及び/又は還流され得る。したがって、共沸様組成物は、共沸組成物とほぼ同等に取り扱える。なお、共沸様組成物の一つの特徴として、圧力-組成図において沸点曲線と露点曲線の圧力の差が5%以内であることが挙げられる。
【0014】
本明細書において、標準沸点とは、標準大気圧1013.25hPaにおける沸点を意味する。
【0015】
本明細書において、ゲージ圧とは、大気圧を基準とした相対圧力のことであり、絶対圧から大気圧を差し引いた圧力差を意味する。本明細書において、ゲージ圧は例えばMPaGのように「G」を付して表記する。他方、「G」を付さない場合は大気圧である。
【0016】
本明細書において、冷媒の「純度」とは、ガスクロマトグラフィーでの定量分析による成分比率(モル%、または質量%)を意味する。
【0017】
本明細書において、主成分とは、好ましくは85モル%~99.9モル%、より好ましくは90モル%~99.9モル%、更に好ましくは95モル%~99.9モル%、特に好ましくは99モル%~99.9モル%含まれている成分を意味する。
【0018】
本明細書において、抽出蒸留とは、標準沸点が極めて近く、通常の蒸留による分離が困難な2成分又は3成分からなり比揮発度(相対揮発度)が1に近い混合物又は共沸組成をもつ組み合わせの混合物に、抽出溶媒を加えて抽出用混合物とし、元の2成分又は3成分の相対揮発度を1から隔たらせることにより、分離を容易にする蒸留操作を意味する。なお、相対揮発度が1の場合は、蒸留による分離は不可能になる。
【0019】
本明細書において、比揮発度(α)とは、少なくとも着目成分A及び着目成分Bを含む組成物が気液平衡状態にある場合において、液相成分Aのモル分率をxA、液相成分Bのモル分率をxB とし、液相と平衡状態にある気相成分Aのモル分率をyA 、気相成分Bのモル分率をyB とした場合、成分Aの成分Bに対する比揮発度は、
αA→B=(yA /xA )/(yB /xB )
と定義される。
【0020】
本明細書において成分AをHFC-143a、成分BをHFO-1132(E)とした場合は、成分Aの成分Bに対する比揮発度、つまり「HFC-143aのHFO-1132(E)に対する比揮発度」は、α143a→1132(E)と表記する。
【0021】
本開示は、以下の実施形態を含む。
【0022】
本開示の製造方法は、精製されたHFO-1132(E)の製造方法であって、
HFC-143aと、HFO-1132(E)とを含む組成物をアミンを含む溶媒と接触させ、前記組成物から前記HFC-143aが低減された組成物を得る抽出蒸留工程を有する。この中でも特に、HFC-143aと、HFO-1132(E)とを含む組成物(「抽出蒸留用組成物」ともいう)が共沸組成物又は共沸様組成物である場合に本開示の製造方法を適用することが好ましい。
【0023】
(抽出蒸留工程)
本開示の製造方法における抽出蒸留工程は、HFC-143aと、HFO-1132(E)とを含む組成物(抽出蒸留用組成物)をアミンを含む溶媒と接触させ、前記組成物から前記HFC-143aが低減された組成物を得る工程である。言い換えれば、上記抽出蒸留工程は、アミンを含む溶媒の存在下、HFC-143aと、HFO-1132(E)とを含む組成物(抽出蒸留用組成物)を抽出蒸留して、前記組成物からHFC-143aが低減された組成物を得る工程である。なお、本開示において、抽出蒸留工程における「低減」とは、抽出蒸留用組成物中の特定化合物(HFC-143a)の含有割合を減少させることを意味する。
【0024】
上記抽出蒸留用組成物は、HFC-143aとHFO-1132(E)とをこれらの濃度の総和で、好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.7質量%以上、より一層好ましくは99.8質量%以上、更に好ましくは99.9質量%以上含有する。上記抽出蒸留用組成物としては、例えばHFO-1132(E)の製造過程において、必要に応じて事前の分離工程(任意の蒸留工程など)を経て分離容易な副生成物を除去後、HFC-143aとHFO-1132(E)とを好ましくは上記濃度の総和で含有する組成物(特に共沸組成物又は共沸様組成物)を適用することができる。
【0025】
上記抽出蒸留用組成物は、HFO-1132(E)及びHFC-143aのみからなることが好ましいが、上記抽出蒸留用組成物の調製過程の条件により不可避的不純物が含有されていることは許容される。
【0026】
なお、HFC-143a(標準沸点:-47.2℃)とHFO-1132(E)(標準沸点:-53.0℃)とは共沸又は共沸様を示し、HFC-143aとHFO-1132(E)との共沸組成物又は共沸様組成物は、HFC-143a及びHFO-1132(E)のいずれの沸点よりも低い温度(0.1013MPaにおいて共沸組成はHFC-143a=0.94、温度-53.1℃)の沸点を有する。上記抽出蒸留工程に供給される抽出蒸留用組成物の組成は、HFO-1132(E)のモル比率として80%以上99.999%以下が好ましく、90%以上99.999%以下がより好ましい。
【0027】
上記抽出蒸留工程は、上記抽出蒸留用組成物を、アミンを含む溶媒と接触させて抽出蒸留することにより、HFO-1132(E)を含み、実質的にHFC-143aを含まない組成物を得る工程であることが好ましい。
【0028】
本明細書において、実質的にHFC-143aを含まないとは、上記抽出蒸留工程で得られた組成物中のHFC-143aの含有量が、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満、特に好ましくは0.1質量%未満であることを意味する。
【0029】
上記抽出蒸留工程において、抽出溶媒としては、アミンを含む溶媒を使用する。
【0030】
上記アミンは抽出溶媒となる液状アミンであればよいが、一般式:NR1R2R3
〔式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって水素又は置換基を有していてもよい炭素数1~3の炭化水素基を示す。但し、R1、R2及びR3が全て水素である場合を除く。〕
で表されるであることが好ましい。本開示におけるアミンを含む溶媒は、アミン(単独又はアミン混合物)のみからなることが好ましいが、抽出蒸留工程に影響しない範囲で不可避的不純物が含有されていることは許容される。以下、「アミンを含む溶媒」は実質的にアミンを意味し、単に「抽出溶媒」ともいう。
【0031】
また、上記アミンは、-10~160℃の標準沸点を有することが好ましい。
【0032】
上記アミンとしては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ-n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、モノ-イソプロピルアミン、及びジ-イソプロピルアミンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらのアミンのCasNo.及び標準沸点を下記表1に示す。
【0033】
【0034】
これらのアミンは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
上記抽出蒸留工程における標準沸点の温度範囲に関しては、抽出溶媒と抽出蒸留工程における分離対象となる化合物が、単蒸留、ストリッピング等で分離できる程度の温度差、通常20℃以上の温度差があればよいが、標準沸点が高すぎると抽出溶媒自体が分解されるおそれがある。それ故、抽出溶媒の標準沸点は、抽出蒸留を効率良く行う観点から、好ましくは30~135℃、より好ましくは35~120℃、更に好ましくは40~100℃、特に好ましくは50~90℃である。
【0036】
上記抽出蒸留工程における抽出溶媒の使用量は、抽出蒸留塔に供給される抽出蒸留用組成物に対して1倍モル当量以上30倍モル当量以下であることが好ましく、5倍モル当量以上25倍モル当量以下であることがより好ましい。
【0037】
上記抽出蒸留工程における抽出蒸留用組成物中のHFC-143aの濃度は、好ましくは15モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。上記抽出蒸留工程における抽出蒸留用組成物中のHFC-143aの濃度の下限値は、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.01モル%以上、さらに好ましくは0.1モル%以上である。
【0038】
上記抽出蒸留工程で使用する抽出蒸留塔の理論段数は、好ましくは10段以上、より好ましくは20段以上である。また、上記抽出蒸留工程で使用する抽出蒸留塔の理論段数は、経済的な観点から、好ましくは60段以下、より好ましくは50段以下である。
【0039】
上記抽出蒸留工程において、抽出蒸留塔の上段に抽出溶媒を供給することが好ましい。また、上記抽出蒸留工程で使用する抽出溶媒は、後記する抽出溶媒回収工程で回収し、再循環させた抽出溶媒であることが好ましい。
【0040】
上記抽出蒸留工程において、抽出蒸留を行う圧力(第1の蒸留塔の圧力)は0.05~5MPaG(ゲージ圧)が好ましい。圧力の下限値は、好ましくは0.05MPaG、より好ましくは0.1MPaG、更に好ましくは0.25MPaG、特に好ましくは0.5MPaGである。圧力の上限値は、好ましくは5MPaG、より好ましくは4MPaG、更に好ましくは3MPaG、特に好ましくは2MPaGである。
【0041】
上記抽出蒸留工程は、不連続操作又は連続操作で行うことができ、工業的な観点から、連続操作での実施が好ましい。更に、抽出蒸留を繰り返すことにより、留出成分を高純度化することができる。
【0042】
上記抽出蒸留工程において、上記抽出蒸留用組成物からHFC-143aを留出させる場合、抽出溶媒を加えた際に、HFC-143aのHFO-1132(E)に対する相対揮発度(比揮発度)が1.1以上、好ましくは1.2以上になるような抽出溶媒を用いることが好ましい。これにより、HFC-143aの気相モル分率が増加することで気相にHFC-143aが増加し、抽出蒸留塔の塔頂からHFC-143aを分離可能となり、抽出蒸留塔の塔底からは抽出溶媒とHFO-1132(E)とが得られる。
【0043】
(抽出溶媒回収工程)
本開示の製造方法は、上記抽出蒸留工程で使用した抽出溶媒を回収し、回収した抽出溶媒を上記抽出蒸留工程に再循環させる抽出溶媒回収工程を有することが好ましい。
【0044】
上記抽出溶媒回収工程は、上記抽出蒸留工程で得られた組成物を蒸留して、HFO-1132(E)を主成分として含む組成物と、抽出溶媒を主成分として含む組成物とに分離する蒸留工程(以下、「蒸留工程」ともいう。)を含み、抽出溶媒を主成分として含む組成物から抽出溶媒を回収し、抽出蒸留工程に再循環させることにより実施できる。
【0045】
上記蒸留工程で使用する溶媒回収塔(第2の蒸留塔)の理論段数は、好ましくは5段以上、より好ましくは10段以上である。また、溶媒回収塔の理論段数は、経済的な観点から、好ましくは40段以下、より好ましくは30段以下である。
【0046】
上記蒸留工程において、蒸留を行う圧力は0.05~3MPaG(ゲージ圧)が好ましい。圧力の下限値は、好ましくは0.05MPaG、より好ましくは0.1MPaGである。圧力の上限値は、好ましくは3MPaG、より好ましくは2.5MPaGである。
【0047】
上記蒸留工程により、溶媒回収塔の塔頂からHFO-1132(E)を主成分として含む組成物を分離可能となり、溶媒回収塔の塔底からは抽出溶媒を主成分として含む組成物が得られる。
【0048】
上記抽出溶媒回収工程は、上記蒸留工程で塔底から得られた抽出溶媒を主成分として含む組成物から抽出溶媒を回収し、抽出蒸留工程に再循環させることにより実施することができる。なお、塔底から回収した抽出溶媒は、抽出蒸留工程に再循環させる前に、必要に応じて不純物を除去するために更に精留などの任意の分離工程に供することもできる。
【0049】
上記蒸留工程は、不連続操作又は連続操作で行うことができ、工業的な観点から、連続操作での実施が好ましい。
【0050】
本開示の製造方法は、抽出蒸留工程、及び抽出溶媒回収工程を含むことが好ましく、抽出蒸留用組成物の純度を高めるための任意の事前の蒸留工程、抽出蒸留工程、及び抽出溶媒回収工程からなることがより好ましい。
【0051】
(HFO-1132(E)とHFC-143aとアミンとを含む組成物)
本開示は、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))と、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)と、アミンとを含む組成物(以下「冷媒1」ともいう)を包含する。なお、アミンの種類は、前記抽出溶媒の項目で説明した内容と同じである。
【0052】
冷媒1は、HFO-1132(E)と、HFC-143aと、アミンとを含有する組成物であって、該三成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ前記HFC143aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.4質量%以下であり、前記アミンの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下である。なお、0質量%超過の記載は、0.01質量%以上と表記することもできる。
【0053】
冷媒1における該三成分の総濃度は、前記組成物全体に対して99.7質量%以上であれば好ましく、99.8質量%以上であればより好ましく、99.9質量%以上であれば更に好ましい。
【0054】
冷媒1は、HFO-1132(E)、HFC-143a及びアミンのみからなることが特に好ましいが、不可避的不純物が含有されることは許容される。
【0055】
冷媒1の用途は限定的ではないが、例えば空調用冷媒、熱移動媒体、カーエアコン用冷媒等の用途に適用することができる。
【0056】
(精製されたHFO-1132(E)を含有する組成物)
本開示は、精製されたHFO-1132(E)を含有する組成物として、HFO-1132(E)と、アミンとを含有する組成物(以下、「組成物1」ともいう)を包含する。なお、アミンの種類は、前記抽出溶媒の項目で説明した内容と同じである。
【0057】
組成物1は、HFO-1132(E)と、アミンとを含有する組成物であって、該二成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ前記アミンの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下である。なお、組成物1は、本開示の製造方法において最終的に得られた精製されたHFO-1132(E)を含有する組成物のうち、抽出溶媒(アミン)が微量残存している組成物である。なお、0質量%超過の記載は、0.01質量%以上と表記することもできる。
【0058】
組成物1における該二成分の総濃度は、前記組成物1に対して99.7質量%以上であれば好ましく、99.8質量%以上であればより好ましく、99.9質量%以上であれば更に好ましい。
【0059】
組成物1は、HFO-1132(E)、及びアミンのみからなることが特に好ましいが、不可避的不純物が含有されることは許容される。
【0060】
組成物1の用途は限定的ではないが、例えば冷媒使用時における漏洩検知剤、安定化剤、トレーサー等の用途に適用することができる。
【実施例0061】
以下に実施例を記載し、本開示を具体的に説明する。但し、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例において、HFO-1132(E)等の各成分の濃度は下記の測定装置及び測定条件により測定した。
【0063】
測定装置:ガスクロマトグラフィー(FID検出器を使用)
各成分の濃度の計算方法:
・HFO-1132(E)の濃度=HFO-1132(E)のモル数/(HFO-1132(E)のモル数+HFC-143aのモル数)
・HFC-143aの濃度=HFC-143aのモル数/(HFO-1132(E)のモル数+HFC-143aのモル数)
【0064】
実施例1~4及び比較例1~6
HFO-1132(E)を80mol%と、HFC-143aを20mol%とを含む組成物に対して、各溶媒を前記組成物に対して5倍mol追加し、15℃におけるHFC-143aのHFO-1132(E)に対する比揮発度α143a→1132(E)を測定した。
【0065】
実施例1では溶媒としてモノメチルアミンを使用し、比揮発度α143a→1132(E)は1.7であった。実施例2では溶媒としてモノエチルアミンを使用し、比揮発度α143a→1132(E)は1.8であった。実施例3では溶媒としてモノ-n-プロピルアミンを使用し、比揮発度α143a→1132(E)は1.6であった。実施例4では溶媒としてモノ-イソプロピルアミンを使用し、比揮発度α143a→1132(E)は1.7であった。比較例1では溶媒としてメタノールを使用し、比揮発度α143a→1132(E)は1.1であった。比較例2では溶媒としてジエチルエーテルを使用し、比揮発度α143a→1132(E)は1.2であった。比較例3では溶媒としてn-ヘキサンを使用し、比揮発度α143a→1132(E)は1.1であった。比較例4では溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を使用し、比揮発度α143a→1132(E)は1.2であった。比較例5では溶媒としてアセトニトリルを使用し、比揮発度α143a→1132(E)は1.1であった。比較例6では溶媒として酢酸エチルを使用し、比揮発度α143a→1132(E)は1.2であった。
【0066】
以下にその結果をまとめて示す。
【0067】
【0068】
以上の結果から、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノ-n-プロピルアミン、モノ-イソプロピルアミン等のアミンが抽出溶媒として効果的であることが分かった。
【0069】
実施例5
図1に示すフロー図に従い、HFO-1132(E)とHFC-143aとを含む抽出蒸留用組成物を原料とし、抽出溶媒としてモノ-イソプロピルアミンを使用し、抽出蒸留工程と抽出溶媒回収工程とからなるプロセスにより、精製されたHFO-1132(E)を製造した。
【0070】
(抽出蒸留工程)
抽出蒸留用組成物を、50段の理論段数を持つ抽出蒸留塔の塔頂から15段目より、9.8mol/hrの流量で抽出蒸留塔に供給した。抽出溶媒(モノ-イソプロピルアミン)は抽出蒸留塔の4段目から206mol/hrの流量で供給した。抽出蒸留塔の運転圧力は0.45MPaG、塔頂温度は-12℃であった。
【0071】
(抽出溶媒回収工程)
抽出蒸留工程において塔底より抜き出した缶出液を、30段の理論段数を持つ抽出溶媒回収塔(以下、「溶媒回収塔」と称する)の塔頂から15段目よりフィードし、塔頂よりHFO-1132(E)の製品を99.99%の純度で回収した。溶媒回収塔の運転圧力は0.6MPaG、塔頂温度は-5℃であった。
【0072】
なお、回収塔の塔底より抜き出したモノ-イソプロピルアミンを含む缶出液(モノ-イソプロピルアミンの流量:206mol/hr)は、抽出蒸留工程に再循環して使用した。
【0073】
図1のプロセスによる実施例5の物質収支は、F1ではHFO-1132(E)が9.4mol/hr、HFC-143aが0.4mol/hr、モノ-イソプロピルアミンが0mol/hrであった。F2ではHFO-1132(E)が9.5mol/hr、HFC-143aが6×10
-5mol/hr、モノ-イソプロピルアミンが206.0mol/hrであった。F3ではHFO-1132(E)が2×10
-5mol/hr、HFC-143aが0.4mol/hr、モノ-イソプロピルアミンが2×10
-6mol/hrであった。F4ではHFO-1132(E)が0.1mol/hr、HFC-143aが6×10
-5mol/hr、モノ-イソプロピルアミンが206.0mol/hrであった。F5ではHFO-1132(E)が9.4mol/hr、HFC-143aが6×10
-5mol/hr、モノ-イソプロピルアミンが×10
-10mol/hrであった。下記表3に実施例5の物質収支をまとめて示す。
【0074】
【0075】
実施例1~4に示したアミンを含む溶媒は、いずれもHFC-143aのHFO-1132(E)に対する比揮発度α143a→1132(E)が1.6~1.8と、各比較例(1.2以下)に比べて十分大きく、気相中のHFC-143a濃度でみると50%以上高くなり、顕著に分離効率が向上することを示している。よって、HFC-143aとHFO-1132(E)の分離においては抽出蒸留にアミンを含む溶媒を用いる本願発明のプロセスが非常に有効である。