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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104114
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】栄養膜幹細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20240726BHJP
【FI】
C12N5/074
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008179
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依馬 正次
(72)【発明者】
【氏名】岡村 永一
(72)【発明者】
【氏名】武藤 真長
(72)【発明者】
【氏名】村上 節
(72)【発明者】
【氏名】辻 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】星山 貴子
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BC06
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】遺伝子導入を行うことなく、栄養膜幹細胞を効率的に樹立すること。
【解決手段】絨毛膜から細胞を単離して培養することにより、栄養膜幹細胞を樹立する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絨毛膜から細胞を単離する工程を含む、栄養膜幹細胞の製造方法。
【請求項2】
前記絨毛膜が霊長類に由来する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記霊長類がヒトである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記絨毛膜が胎盤を構成する部位を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
絨毛膜から単離された細胞を、酸素濃度が10%以下の低酸素条件で培養する工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
絨毛膜から単離された細胞を、酸素濃度が10%以下の低酸素条件で培養する工程を含む、栄養膜幹細胞の増殖効率を向上させる方法。
【請求項7】
絨毛膜に由来する、栄養膜幹細胞。
【請求項8】
前記絨毛膜が霊長類に由来する、請求項7に記載の栄養膜幹細胞。
【請求項9】
前記霊長類がヒトである、請求項8に記載の栄養膜幹細胞。
【請求項10】
前記絨毛膜が胎盤を構成する部位を含まない、請求項7~9のいずれか1項に記載の栄養膜幹細胞。
【請求項11】
以下の(A)及び(B)の特性を有する、請求項7~9のいずれか1項に記載の栄養膜幹細胞。
(A)CK7、GATA3、TEAD4、ITGA6、及びCDH1について陽性である。
(B)HLA-G、CGB、SDC1、及びVIMについて陰性である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、栄養膜幹細胞、栄養膜幹細胞を製造する方法、及び栄養膜幹細胞の樹立効率を高める方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
妊娠高血圧症又は妊娠高血圧症候群(Hypertensive Disorders of Pregnancy)は、妊娠中に生じ得る医学的問題の中で最も一般的なものの1つであり、妊婦の約20人に1人の割合で生じるともいわれている。妊娠高血圧症は、重症の場合には母体合併症として腎不全、脳出血、周産期心筋症等を生じ得て、胎児合併症として子宮内胎児発育不全、胎児胎盤機能不全等を生じ得る。したがって、妊娠高血圧症を予防及び/又は治療することは重要である。妊娠高血圧症の患者においては胎盤形成に異常が生じ得ることが知られているが、妊娠高血圧症の原因は未だ解明されていない。
【0003】
栄養膜幹細胞(Trophoblast Stem Cell)は、胎盤を構成する全ての栄養膜細胞(Trophoblast Cell)に分化し得る幹細胞である。栄養膜細胞は、細胞性栄養膜細胞、合胞体栄養膜細胞、絨毛外性栄養膜細胞等を含む、数種類の細胞の総称である。栄養膜幹細胞は、妊娠高血圧症を含む胎盤形成に関わる様々な疾患研究への利用が期待される。このため、栄養膜幹細胞を樹立する方法がこれまでに検討されている(非特許文献1~3)。
【0004】
例えば非特許文献1においては、妊娠初期のヒト胎盤に由来する細胞性栄養膜細胞(Cytotrophoblast Cell)から栄養膜幹細胞を樹立したことが報告されている。しかしながら、出産時を含む妊娠後期の胎盤に含まれる、栄養膜幹細胞のソースとなる細胞性栄養膜細胞はわずかである。このため、非特許文献1の方法によって妊娠後期の胎盤から栄養膜幹細胞を樹立することは困難であった。ここで、妊娠高血圧症は妊娠中期である20週目以降に診断される。すなわち、非特許文献1の方法によっては、妊娠高血圧症と診断された患者由来の胎盤から栄養膜幹細胞を樹立することができなかった。また、非特許文献2においては、1%酸素濃度の極低酸素条件で培養を行うことによって、妊娠後期の胎盤から栄養膜幹細胞を樹立したことが報告されている。しかしながら、上述したように妊娠後期の胎盤に含まれる栄養膜幹細胞はわずかであるため、非特許文献2の方法は樹立効率において十分なものとはいえなかった。さらに、非特許文献2の方法は、1%酸素濃度の極低酸素条件下で細胞培養を行うために特殊な設備が必要であるという問題も有していた。また、主にげっ歯類において、通常酸素濃度で培養された栄養膜幹細胞を酸素濃度1%程度の極低酸素状態に置くことにより、分化マーカー遺伝子の発現が増加する等、分化が誘導され得ることがこれまでに報告されている。ヒトを含むその他の哺乳類においても同様に、酸素条件を変化させることで分化が誘導される可能性があるが、1%酸素濃度の極低酸素条件下で一貫して樹立及び培養を行う非特許文献2の方法で得られた栄養膜幹細胞は、低酸素応答による分化能の検証に用いることができないという問題を有していた。非特許文献3においては、妊娠後期の胎盤から単離した栄養膜細胞に転写因子を導入することにより、栄養膜幹細胞様細胞の樹立に成功したことが報告されているが、遺伝子導入を行うことなく栄養膜幹細胞を樹立したことは報告されていない。
【0005】
また、絨毛膜から栄養膜幹細胞を樹立する方法は、これまでに報告されていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Okae et al., 2018, Cell Stem Cell 22, 50-63
【非特許文献2】Wang et al., 2022, Nat Commun 13, 1626
【非特許文献3】Bai et al., 2021, Stem Cell Research 56, 102507
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは上記事情に鑑みて、遺伝子導入を行うことなく、栄養膜幹細胞を効率的に樹立することを主な目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、絨毛膜から効率的に栄養膜幹細胞を樹立できる可能性を見出し、さらに改良を重ね、本開示を完成させるに至った。
【0009】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
絨毛膜から細胞を単離する工程を含む、栄養膜幹細胞の製造方法。
項2.
前記絨毛膜が霊長類に由来する、項1に記載の製造方法。
項3.
前記霊長類がヒトである、項2に記載の製造方法。
項4.
前記絨毛膜が胎盤を構成する部位を含まない、項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
項5.
絨毛膜から単離された細胞を、酸素濃度が10%以下の低酸素条件で培養する工程を含む、項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
項6.
絨毛膜から単離された細胞を、酸素濃度が10%以下の低酸素条件で培養する工程を含む、栄養膜幹細胞の増殖効率を向上させる方法。
項7.
絨毛膜に由来する、栄養膜幹細胞。
項8.
前記絨毛膜が霊長類に由来する、項7に記載の栄養膜幹細胞。
項9.
前記霊長類がヒトである、項8に記載の栄養膜幹細胞。
項10.
前記絨毛膜が胎盤を構成する部位を含まない、項7~9のいずれか1項に記載の栄養膜幹細胞。
項11.
以下の(A)及び(B)の特性を有する、項7~10のいずれか1項に記載の栄養膜幹細胞。
(A)CK7、GATA3、TEAD4、ITGA6、及びCDH1について陽性である。
(B)HLA-G、CGB、SDC1、及びVIMについて陰性である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、絨毛膜から栄養膜幹細胞となる能力を有する細胞を取得して、効率的に栄養膜幹細胞を樹立することができる。上述した通り妊娠高血圧症は妊娠20週目の妊娠中期以降に診断されるため、妊娠初期でしか効率良く栄養膜幹細胞を樹立できなかった従来の技術では、妊娠高血圧症と診断された後の対象に由来する栄養膜幹細胞を効率的に樹立することができなかった。しかし本開示によれば、妊娠高血圧症と診断される妊娠20週目以降の対象からも、栄養膜幹細胞を効率的に樹立することができる。
【0011】
上述の通り妊娠高血圧症の原因は未だ解明されていない。例えば、本開示の方法により、妊娠高血圧症と診断された対象に由来する栄養膜幹細胞を樹立すれば、妊娠高血圧症の原因解明への応用が期待される。
【0012】
また、妊娠高血圧症と診断された場合の対処は主に安静を保つことであり、重度の高血圧の場合に降圧剤を投与するといった対症療法を行うことはあるが、根本的に妊娠高血圧症を治療する薬剤は見つかっていない。本開示の方法により、妊娠高血圧症と診断された対象に由来する栄養膜幹細胞を樹立すれば、妊娠高血圧症に対する薬剤の効果評価への利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】胎盤組織から絨毛膜を分離する様子を示す。
図2】試験例3において低酸素条件で継代培養した、絨毛膜由来の細胞を示す。
図3】試験例3において通常酸素条件(21%O)で培養した絨毛膜由来の細胞、及び、低酸素条件(5%O)で培養した絨毛膜由来の細胞を示す。
図4】試験例3において、絨毛膜由来の細胞を通常酸素条件(21%O)で培養した場合、及び、低酸素条件(5%O)で培養した場合の、細胞数の変化を示す。
図5】試験例4において低酸素条件で培養した胎盤(絨毛組織)由来の細胞(placenta TS)を、試験例3において低酸素条件で培養した絨毛膜由来の細胞(Chorion TS)と比較した結果を示す。なおChorion TSは、day18以前に細胞占有面積率が80%以上となったため、継代を行った(Passaged)。
図6】非特許文献1の方法で妊娠初期胎盤から樹立された栄養膜幹細胞(OkaeTS)、及び、試験例3で得た低酸素条件で培養した絨毛膜由来の栄養膜幹細胞(chorion TS)を免疫染色した結果を示す。
図7】OkaeTS細胞を試験例5-1と同様の方法でEVTへ分化誘導した細胞(EVT(Okae TS))、及び、試験例5-1で得た、絨毛膜由来の栄養膜幹細胞からEVTへ分化誘導した細胞(EVT(Chorion TS))を、HLA-Gで免疫染色した結果を示す。
図8】Okae TS細胞を試験例5-2と同様の方法でSTへ分化誘導した細胞(ST(Okae TS))、及び、試験例5-2で得た、絨毛膜由来の栄養膜幹細胞からSTへ分化誘導した細胞(ST(Chorion TS))を、HCGBで免疫染色した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、絨毛膜に由来する栄養膜幹細胞、単離された絨毛膜から栄養膜幹細胞を製造する方法、及び絨毛膜に由来する栄養膜幹細胞の樹立効率を高める方法等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0015】
本開示において幹細胞(stem cell)とは、自己複製能及び分化能を有する、未分化の細胞をいう。自己複製能とは、細胞分裂によって、細胞系譜上母細胞と同等の能力及び分化程度を保持する娘細胞を、少なくとも1つ生成する能力をいう。自己複製能によって幹細胞は細胞分裂周期を経ても未分化状態を維持する。分化能とは、ある細胞が異なる細胞種へ分化する能力をいう。
【0016】
本開示において栄養膜幹細胞(Trophoblast Stem Cell、本開示においてTS細胞、又は単にTSと表記されることがある)とは、絨毛外栄養膜細胞(Extravillous Trophoblast Cell、本開示においてEVT細胞、又は単にEVTと表記されることがある)及び合胞体栄養膜細胞(Syncytiotrophoblast Cell、本開示においてST細胞、又は単にSTと表記されることがある)に分化する能力を有する幹細胞をいう。したがって、仮に栄養膜に由来する幹細胞であっても、EVT細胞及びST細胞に分化する能力を有しない細胞は、本開示において栄養膜幹細胞に該当しない。一方、栄養膜に由来しなくとも、EVT細胞及びST細胞に分化する能力を有する幹細胞は、本開示において栄養膜幹細胞に該当する。すなわち本開示において栄養膜幹細胞との用語は、当該幹細胞の由来を示すものではなく、当該幹細胞の能力(性質)を示すものである。
【0017】
ある細胞がEVT細胞に分化する能力を有するか否かは、従来公知の方法により評価することができる。例えば非特許文献1に開示された方法によりEVT細胞への分化を誘導した後、免疫染色を行うことにより評価できる。免疫染色においては、例えばHLA-Gをマーカーとすることができる。
【0018】
ある細胞がST細胞に分化する能力を有するか否かは、従来公知の方法により評価することができる。例えば非特許文献1に開示された方法によりST細胞への分化を誘導した後、免疫染色を行うことにより評価できる。免疫染色においては、例えばHCGB及びSDC1から選択される少なくとも1つをマーカーとすることができる。
【0019】
本開示において絨毛膜(chorion)とは、羊膜及び脱落膜とともに卵膜を構成する膜状構造物である。絨毛膜は羊膜と脱落膜の間に存在する。絨毛膜を含む卵膜は、母体内では胎児を包む袋状の構造をしており、卵膜の一部は胎盤を構成する。したがって、絨毛膜は、胎盤を構成する部位と、胎盤を構成しない部位とに区別される。特に制限されないが、本開示における絨毛膜は、胎盤を構成する部位を含まない(すなわち、胎盤を構成しない部位である)ことが好ましい。また、特に制限されないが、本開示における絨毛膜は、その他の卵膜構成物、すなわち羊膜及び脱落膜から分離された(羊膜及び脱落膜が除去された)ものであることが好ましい。
【0020】
本開示における絨毛膜は、妊娠初期、妊娠中期、妊娠後期のいずれの対象に由来するものであってもよい。対象がヒトである場合、本開示において妊娠初期とは妊娠14週未満を、妊娠中期とは妊娠14週~28週未満を、妊娠後期とは妊娠28週以降を指すものとする。特に制限されないが、本開示において絨毛膜は妊娠中期又は妊娠後期の対象に由来するものであることが好ましく、妊娠後期の対象に由来するものであることがより好ましい。
【0021】
本開示における絨毛膜は、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類;ウサギ等の兎形目;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、アルパカ等の有蹄類;イヌ、ネコ等の食肉目;ヒト、ゴリラ、チンパンジー、ボノボ、オランウータン、テナガザル、フクロテナガザル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等の霊長類等、いずれの哺乳類由来のものであってもよい。中でも霊長類由来のものが好ましく、霊長類の中でもヒト由来のものが特に好ましい。
【0022】
<絨毛膜からの細胞の単離>
本開示において単離する細胞は、特に栄養膜幹細胞になる能力を有する細胞である。絨毛膜から前記細胞を単離する方法は特に制限されず、従来公知の方法から容易に想到可能な方法を採用できる。例えば、胎盤組織から卵膜を切除し、前記卵膜から羊膜及び脱落膜を除去して得られた絨毛膜から単離することができる。より詳細には、前記絨毛膜をPBS等の緩衝液で洗浄した後に細断し、酵素処理によって細胞を解離させて細胞塊及び/又はシングルセル化し、精製した後に栄養膜幹細胞になる能力を有する細胞を選択的に回収することで、前記細胞を単離できる。なお、栄養膜幹細胞になる能力を有する細胞としては、例えば細胞性栄養膜細胞等が挙げられる。
【0023】
細胞を解離する酵素としては、例えばトリプシン、コラゲナーゼ、パパイン、ヌクレアーゼ、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ、TrypLE(Thermo Fisher Scientific社製)、Accutase、Accumax(Innovative Cell Technologies社製)等が挙げられ、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。細胞を解離する酵素は、トリプシン、TrypLE、Accutase、及びAccumaxからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、TrypLE及びAccumaxを組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0024】
また、細胞を解離させるための酵素処理の条件(例えば、酵素濃度、反応温度、反応時間等)は、当該酵素反応が進行する限り特に制限されない。例えば、洗浄後細断した絨毛膜が入ったチューブにTrypLE及びAccumaxを1:1の比率で加え、35℃~40℃程度で10分~1時間程度静置することにより処理してもよい。さらに、当該酵素処理は複数回行ってもよく、細胞の回収効率を高める観点から2~3回程度行うことが好ましい。酵素処理を複数回行う場合、例えば酵素処理を行った容器から上清を回収した後、容器に残った絨毛膜に再度酵素を加え、酵素反応と上清の回収を繰り返すことにより行ってもよい。前記上清中には、栄養膜幹細胞になる能力を有する細胞を含む細胞塊及び/又はシングルセルが含まれる。
【0025】
絨毛膜から細胞を解離させた後、細胞を精製する方法は特に制限されず、従来公知の方法、又は従来公知の方法から容易に想到可能な方法を採用できる。例えば、上記酵素処理によって得た細胞を含む上清を、セルストレーナーで濾過した後、遠心分離により細胞を沈殿させて上清を除去してもよい。また、さらに前記沈殿をウシ胎児血清及びEDTAを添加したPBS等の緩衝液に懸濁し、再度遠心分離した後に上清を除去することにより、細胞を洗浄してもよい。前記洗浄工程は複数回行ってもよく、2回程度行うことが好ましい。
【0026】
精製した絨毛膜由来の細胞から栄養膜幹細胞になる能力を有する細胞を選択的に回収する方法は特に制限されず、従来公知の方法、又は従来公知の方法から容易に想到可能な方法を採用できる。例えば、上記方法により精製した細胞を、ウシ胎児血清及びEDTAを添加したPBS等の緩衝液に懸濁し、FcRブロッキング試薬を加えた後に、フィコエリスリン(Phycoerythrin;PE)で標識された、栄養膜幹細胞になる能力を有する細胞と特異的に結合する抗体(PE標識抗体)を反応させてもよい。前記細胞と特異的に結合する抗体としては、例えば抗CD49f抗体等が挙げられる。前記PE標識抗体と結合した栄養膜幹細胞になる能力を有する細胞は、フローサイトメトリーや、EasySep PE Positive Selection Kit II(StemCell Technologies社製)、アフィニティカラム等を用いることにより、選択的に回収することができる。
【0027】
上記方法により単離された栄養膜幹細胞になる能力を有する細胞から、栄養膜幹細胞が樹立され得る。樹立された細胞が栄養膜幹細胞であることは、公知の栄養膜幹細胞マーカーが陽性であることによって確認される。公知の栄養膜幹細胞マーカーとしては、例えばCK7、GATA3、TEAD4、ITGA6、CDH1等が挙げられ、樹立された細胞が栄養膜幹細胞である場合には、これらのうち少なくとも1つが陽性であり得る。さらに、樹立された細胞が栄養膜幹細胞である場合には、栄養膜幹細胞で発現が認められない分子の発現が陰性であり得る。栄養膜幹細胞で発現が認められない分子の例としては、例えばHLA-G、CGB、SDC1、VIM等が挙げられる。
【0028】
<単離された細胞及び樹立された栄養膜幹細胞の培養>
単離された栄養膜幹細胞になる能力を有する細胞、及び前記細胞から樹立された栄養膜幹細胞を培養する方法、例えば、培地、培養容器、培養条件、培養期間、継代方法等は特に制限されず、従来公知の方法、又は従来公知の方法から容易に想到可能な方法を採用できる。
【0029】
単離された栄養膜幹細胞になる能力を有する細胞、及び樹立された栄養膜幹細胞を培養する培地としては、例えば、従来公知の基礎培地に、培地に添加され得る任意の成分を添加したものを用いることができる。公知の基礎培地としては、例えば、DMEM培地、Ham’s F12培地、DMEM/F12培地、IMDM培地、EMEM培地等が挙げられる。培地に添加され得る任意の成分としては、例えば、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清アルブミン(BSA)、トランスフェリン、インスリン、エタノールアミン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、アスコルビン酸等のビタミン、EGF等の増殖因子、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、バルプロ酸、緩衝剤、無機塩類等が挙げられる。さらに、CHIR99021、A83-01、SB431542、Y27632等の阻害剤や増殖因子等も添加され得る。培地に添加され得る任意の成分は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本開示においては、単離された細胞及び樹立された栄養膜幹細胞を培養する培地に含有される成分及びその含有量は、前記細胞の増殖が妨げられない限り特に制限されない。また、培養期間を通じて同一の組成の培地を用いてもよく、任意のタイミングで異なる組成の培地に交換してもよい。
【0030】
単離された細胞及び樹立された栄養膜幹細胞を培養する培地は、以下の成分を含有するDMEM/F12培地であることが好ましい;2-mercaptoethanol、FBS、Penicillin-Streptomycin、BSA、ITS-X supplement、L-ascorbic acid、EGF、CHIR99021、A83-01、SB431542、バルプロ酸(valproic acid;VPA)、及びY27632。なお、ITS-X supplementは、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、及びエタノールアミンを含む溶液であり、Thermo Fisher Scientific社、富士フイルム和光純薬社等から市販されている。
【0031】
単離された細胞及び樹立された栄養膜幹細胞を培養する培地は、足場成分を含んでいてもよい。足場成分としては、例えば、ラミニン、エンタクチン、フィブロネクチン、ゼラチン、コラーゲン、ビトロネクチン等の細胞外マトリックスが挙げられる。また、iMatrix-511(マトリクソーム社製)、シンセマックス、マトリゲル(Corning Life Sciences社製)等の市販品を用いることもできる。細胞を播種する前に、足場成分を含む溶液を培養容器に加えて一定時間静置して、当該培養容器を足場成分でコートしてもよい。
【0032】
単離された細胞及び樹立された栄養膜幹細胞を培養する条件は、前記細胞の増殖が阻害されない限り特に制限されない。培養温度としては、例えば20℃~45℃程度が挙げられ、30℃~40℃程度が好ましく、35℃~40℃程度がより好ましく、37℃程度が特に好ましい。
【0033】
単離された細胞及び樹立された栄養膜幹細胞を培養する際の酸素濃度も特に制限されず、例えば21%以下であってもよい。前記細胞の増殖効率を向上させる観点から、酸素濃度は10%以下であることが好ましく、5%以下であることが特に好ましい。酸素濃度の下限は、例えば1、2、3、4、又は5%であってもよい。なお、本開示において気体の濃度に言及する際の「%」は、「体積%」を指すものとする。
【0034】
細胞の状態に応じて、適宜継代を行ってもよい。例えば、細胞が成長し、細胞占有面積率(コンフルエンシー)が80%以上となった時点で継代を行ってもよい。また、細胞の状態に応じて、適宜培地交換を行ってもよい。培地交換後の培地は、培地交換前の培地と同一の組成であってもよく、異なる組成であってもよい。
【0035】
なお、単離された栄養膜幹細胞になる能力を有する細胞が培養されて増殖が確認され、かつ当該増殖した細胞が栄養膜幹細胞であることが確認された場合に、「栄養膜幹細胞が樹立された」と判断され得る。
【0036】
<栄養膜幹細胞の分化誘導>
絨毛膜から樹立された栄養膜幹細胞は、従来公知の方法から容易に想到可能な方法により、絨毛外栄養膜細胞(Extravillous trophoblast;EVT)へ分化させることができる。例えば非特許文献1には、妊娠初期の胎盤から樹立された栄養膜幹細胞をEVTに分化させたことが開示されており、非特許文献1に記載の方法を適宜改変して適用することにより、絨毛膜から樹立された栄養膜幹細胞をEVTへ分化させることができる。より具体的には、例えば、2-mercaptoethanol、Penicillin-Streptomycin、BSA、ITS-X supplement、NRG1、A83-01、Y27632、及びKnockOut Serum Replacement(Thermo Fisher Scientific社製)を含む、DMEM/F12培地を用いて培養することで、EVTへの分化を誘導できる。
【0037】
栄養膜幹細胞がEVTに分化したことは、公知のEVTマーカーが陽性であることによって確認される。公知のEVTマーカーとしては、例えばITGA5及びHLA-G等が挙げられ、栄養膜幹細胞がEVTに分化した場合には、これらのうち少なくとも1つが陽性であり得る。さらに、栄養膜幹細胞がEVTに分化した場合には、EVTで発現が認められない分子の発現が陰性であり得る。EVTで発現が認められない分子の例としては、例えばITGA6、CDH1、SDC1、VIM等が挙げられる。
【0038】
絨毛膜から樹立された栄養膜幹細胞は、従来公知の方法から容易に想到可能な方法により、合胞体栄養膜細胞(Syncytiotrophoblast;ST)へ分化させることができる。例えば非特許文献1には、妊娠初期の胎盤から樹立された栄養膜幹細胞をSTに分化させたことが開示されており、非特許文献1に記載の方法を適宜改変して適用することにより、絨毛膜から樹立された栄養膜幹細胞をSTへ分化させることができる。より具体的には、例えば、2-mercaptoethanol、Penicillin-Streptomycin、BSA、ITS-X supplement、Y27632、forskolin、及びKSRを含む、DMEM/F12培地を用いて培養することで、STへの分化を誘導できる。
【0039】
栄養膜幹細胞がSTに分化したことは、公知のSTマーカーが陽性であることによって確認される。公知のSTマーカーとしては、例えばCGB及びSDC1等が挙げられ、栄養膜幹細胞がSTに分化した場合には、これらのうち少なくとも1つが陽性であり得る。さらに、栄養膜幹細胞がSTに分化した場合には、STで発現が認められない分子の発現が陰性であり得る。STで発現が認められない分子の例としては、例えばITGA6、CDH1、HLA-G、VIM等が挙げられる。
【0040】
なお、EVT又はSTへの分化を誘導する際の培養条件等は、分化が誘導され、かつ細胞の増殖が阻害されない限り特に制限されない。
【0041】
本明細書において「含む」とは、「含有する」の他に、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term “comprising” includes “essentially consisting of” and ”consisting of.“)。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0042】
さらに、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、数値、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0043】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0044】
<試験例1>絨毛膜からの細胞性栄養膜細胞(Cytotrophoblast Cell)の単離
妊娠37週~38週のヒト由来の胎盤組織から剪刀で卵膜を切除した後、卵膜から用手的に羊膜を剥離した。前記卵膜から脱落膜を注意深く除去し、絨毛膜を得た。胎盤組織から絨毛膜を分離する様子を図1に示す。得られた絨毛膜を10cm dishに移した後、PBSを用いて2回洗浄し、血液及び血球細胞を除去した。洗浄した絨毛膜を50mlチューブに移し、剪刀を用いて1~2mm程度に細断した。前記絨毛膜1gあたり2.5mlの TrypLE(Thermo Fisher Scientific社製)及び2.5mlのAccumax(Innovative Cell Technologies社製)を加え、37℃で20分間反応させた。反応後、細胞が含まれた上清を回収した。上清回収後、50mlチューブに残った絨毛膜について、同様にしてさらに2回TrypLEとAccumaxを反応させ、その都度上清を回収した。以上の工程により得られた全ての上清をセルストレーナー(40μmメッシュ)で濾過した後、22℃、350gの遠心力で、10分間遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、沈殿した細胞を得た。EasySep Human PE Positive Selection Kit II(StemCell Technologies社製)を用いて、以下の工程により前記細胞から細胞性栄養膜細胞を選択的に回収した。
【0045】
沈殿した細胞に、2%のウシ胎児血清、及び0.5M EDTAを添加したPBS(2%FBS、0.5M EDTA,PBS)を4ml加え、1000rpmで5分間遠心分離した後上清を除去することにより、細胞を洗浄した。前記洗浄工程をさらにもう一度行った。細胞を1×10cells/ml、0.1~2.5mlとなるよう2%FBS、0.5M EDTA,PBSで調整し、撹拌した後、100μl/ml Easysep Anti-Human CD32(Fc gramma R II)Blocker for Positive Selection(EasySep Human PE Positive Selection Kit IIに付属)を加えて混ぜた。さらに、0.3~3μg/ml BD Pharmingen PE Rat Anti-Human CD49f(BD Biosciences社製)を加えて混ぜ、室温で15分間静置した。以上の工程を経た反応液を2%FBS、0.5M EDTA,PBSで10倍に希釈し、1000rpmで5分間遠心分離した。100μl/ml Easysep PE Selection Cocktail(EasySep Human PE Positive Selection Kit IIに付属)を加えて混ぜ、室温で15分間静置した。その後、50μl/ml RapidSphere(StemCell Technologies社製)を加えて混ぜ、室温で10分間静置した。以上の工程を経た反応液を5mlチューブに移した。(i)該5mlチューブに2%FBS、0.5M EDTA,PBSを計2.5mlとなるように加えた後、マグネット内に該5mlチューブをセットし、室温で5分間静置した。(ii)マグネット内に該5mlチューブをセットしたまま、該5mlチューブを反転させ、上清を破棄した。(i)(ii)の操作をさらに2回行った。該5mlチューブ内に残った細胞に2%FBS、0.5M EDTA,PBSを加え、1000rpmで5分間遠心分離を行った。沈殿した細胞を回収し、絨毛膜由来の細胞性栄養膜細胞を得た。
【0046】
<試験例2>胎盤(絨毛組織)からの細胞性栄養膜細胞の単離
妊娠37週~38週のヒト由来の胎盤から絨毛組織を剪刀で切除した。絨毛膜の代わりに前記絨毛組織を用いる以外は試験例1と同様にして、胎盤(絨毛組織)由来の細胞性栄養膜細胞を得た。
【0047】
<試験例3>絨毛膜由来の細胞の培養
培養容器を0.5μg/mlのコラーゲンタイプIVでコートした。コートは、培養容器に0.5μg/mlのコラーゲンタイプIVを加えた後、37℃で1時間以上静置することにより行った。当該培養容器に、試験例1で得た絨毛膜由来の細胞性栄養膜細胞を0.5~1.0×10細胞/cmで播種した後、TS培地(0.1mM 2-mercaptoethanol、0.2% FBS、0.5% Penicillin-Streptomycin(Thermo Fisher Scientific社製)、0.3% BSA、1% ITS-X supplement(富士フイルム和光純薬社製)、1.5μg/ml L-ascorbic acid、50ng/ml EGF、2μM CHIR99021、 0.5 μM A83-01、1 μM SB431542、0.8mM バルプロ酸(valproic acid;VPA)、及び5μM Y27632を含む、DMEM/F12培地)を500μl加え、5%O、5%CO、90%Nの低酸素条件で培養した。
【0048】
細胞が成長し、細胞占有面積率が80%以上となった時点でTrypLEで処理をして、細胞を培養容器から分離した。分離した細胞のうち1/3~1/6量を、0.5μg/mlのコラーゲンタイプIVであらかじめコートした新たな培養容器で同様に培養する方法で、継代培養を行った。当該細胞を図2に示す。
【0049】
また、培養条件を21%Oの通常酸素条件とした以外は上記と同様に培養した結果を図3に示す。各酸素条件で培養したときの細胞数の変化を図4に示す。なお、細胞数は、Countess II FL(Thermo Fisher Scientific社製)により計測した。
【0050】
図3及び図4から明らかなように、低酸素条件で培養した絨毛膜由来の細胞の方が、通常酸素条件で培養した絨毛膜由来の細胞よりも、増殖が著しく良好であった。
【0051】
<試験例4>胎盤(絨毛組織)由来の細胞の培養
試験例2で得た胎盤(絨毛組織)由来の細胞性栄養膜細胞を、試験例3と同様の方法で播種し、培養した。なおこのとき、培養条件は5%O、5%CO、90%Nの低酸素条件とした。低酸素条件で培養した胎盤(絨毛組織)由来の細胞を、試験例3において低酸素条件で培養した絨毛膜由来の細胞と比較した結果を図5に示す。
【0052】
図5から明らかなように、胎盤(絨毛組織)由来の細胞は、低酸素条件においても増殖が確認されなかった。
【0053】
<試験例5>絨毛膜由来の細胞の分化誘導
5-1.絨毛外栄養膜細胞(Extravillous trophoblast;EVT)への分化及び培養
試験例3の方法で得た細胞を、1μg/mlのコラーゲンタイプIVであらかじめコートした6wellプレートに、1wellあたり1.0×10細胞で播種した。6wellプレートのコートは試験例3に記載の方法で行った。前記プレートに、1wellあたり2mlのEVT培地(0.1mM 2-mercaptoethanol、0.5% Penicillin-Streptomycin、0.3% BSA、1% ITS-X supplement、100ng/ml NRG1、7.5μM A83-01、2.5μM Y27632、及び4% KnockOut Serum Replacement(Thermo Fisher Scientific社製)を含む、DMEM/F12培地)を加え、さらに、マトリゲル(Corning Life Sciences社製)を最終濃度2%となるよう添加し、37℃、21%Oの通常酸素条件で培養を開始した。培養開始から3日目と6日目に、NRG1を含まないEVT培地で培地交換を行い、その際、マトリゲルを最終濃度0.5%となるよう培地に加えた。培養開始から8日目の細胞を用いて試験例6の評価を行った。
【0054】
5-2.合胞体栄養膜細胞(Syncytiotrophoblast;ST)への分化誘導及び二次元培養
試験例3の方法で得た細胞を、2.5μg/mlのコラーゲンタイプIVであらかじめコートした6wellプレートに、1wellあたり2.0×10細胞で播種した。6wellプレートのコートは試験例3に記載の方法で行った。前記プレートに、1wellあたり2mlのST(2D)培地(0.1mM 2-mercaptoethanol、0.5% Penicillin-Streptomycin、0.3% BSA、1% ITS-X supplement、2.5μM Y27632、2μM forskolin、及び4% KSRを含む、DMEM/F12培地)を加え、37℃、21%Oの通常酸素条件で培養した。培養開始から3日目にST(2D)培地で培地交換を行い、培養開始から6日目の細胞を用いて試験例6の解析を行った。
【0055】
5-3.STへの分化誘導及び三次元培養
試験例3の方法で得た細胞を、表面処理されていない6cm皿に2.5×10細胞播種した。前記6cm皿に3mlのST(3D)培地(0.1mM 2-mercaptoethanol、0.5% Penicillin-Streptomycin、0.3% BSA、1% ITS-X supplement、2.5μM Y27632、50ng/ml EGF、2μM forskolin、及び4% KSRを含む、DMEM/F12培地)を加え、37℃、21%Oの通常酸素条件で培養した。培養開始から3日目に3mlのST(3D)培地を加えた。培養開始から6日目に40mmメッシュで細胞を濾過し、細胞破片や死細胞を除去した。40mmメッシュに残ったST(3D)細胞を用いて試験例6の解析を行った。
【0056】
<試験例6>免疫染色
低酸素条件で培養した絨毛膜由来の細胞(試験例3)、EVTへ分化誘導した細胞(試験例5-1)、及び、STへ分化誘導した細胞(試験例5-2)を、以下の方法で免疫染色した。
【0057】
細胞を4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde;PFA)で10分間固定した後、PBSで3回洗浄した。0.5%濃度となるようTriton X-100(Dow Chemical社製)を添加して15分間室温で反応させた後、1%BSA・0.1%Triton X-100/PBSで1時間ブロッキングした。その後、次の一次抗体:抗CK7抗体、抗GATA3抗体、抗TEAD4抗体、抗CDH1抗体、抗ITGA6抗体、抗HLA-G抗体、抗HCGB抗体、又は抗VIM抗体を加え、4℃で一晩反応させた。二次抗体として、Alexa Fluor 488-、Cy3- conjugated抗体(Cell Signaling社製)を用いた。核はHoechstで染色した。染色後、蛍光顕微鏡で画像を撮影した。
【0058】
非特許文献1の方法で妊娠初期胎盤から樹立された栄養膜幹細胞(OkaeTS)、及び、試験例3で得た低酸素条件で培養した絨毛膜由来の細胞を、上記の方法で抗CK7抗体、抗GATA3抗体、抗TEAD4抗体、抗CDH1抗体、及び抗ITGA6抗体を用いて染色した。結果を図6に示す。図6から明らかなように、低酸素条件で培養した絨毛膜由来の細胞は、OkaeTS細胞と同様に、CK7、GATA3、TEAD4、CDH1、及びITGA6に対して陽性であった。
【0059】
OkaeTS細胞を試験例5-1と同様の方法でEVTへ分化誘導した細胞、及び、試験例5-1で得た、絨毛膜由来の細胞からEVTへ分化誘導した細胞を、HLA-Gで染色した。結果を図7に示す。図7から明らかにように、試験例5-1で得た細胞は、OkaeTS細胞をEVTへ分化誘導した細胞と同様に、HLA-Gに対して陽性であった。
【0060】
OkaeTS細胞を試験例5-2と同様の方法でSTへ分化誘導した細胞及び、試験例5-2で得た、絨毛膜由来の細胞からSTへ分化誘導した細胞を、HCGBで染色した。結果を図8に示す。図8から明らかにように、試験例5-2で得た細胞は、OkaeTS細胞をSTへ分化誘導した細胞と同様に、HCGBに対して陽性であった。
【0061】
試験例6の結果から、試験例3で培養され増殖した絨毛膜由来の細胞は、栄養膜幹細胞であったことが確認された。換言すれば、試験例3において絨毛膜由来の栄養膜幹細胞が樹立されたことが確認された。
【0062】
<考察>
以上の試験結果から、1)絨毛膜から栄養膜幹細胞を樹立できること、2)絨毛膜由来の栄養膜幹細胞は、低酸素条件で培養された場合に、通常酸素条件で培養された場合よりも増殖が著しく良好であること、3)胎盤(絨毛組織)由来の細胞性栄養膜細胞は、低酸素条件においても増殖が確認されないこと、すなわち、胎盤(絨毛組織)からは栄養膜幹細胞の樹立が困難であること、並びに、4)絨毛膜由来の栄養膜幹細胞は、Okae et al., 2018の方法で妊娠初期胎盤から樹立された栄養膜幹細胞(OkaeTS)と同様に、絨毛外栄養膜細胞(EVT)及び合胞体栄養膜細胞(ST)へと分化できることが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8