(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104120
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】レアメタル及び貴金属回収用のナノファイバー及びレアメタル及び貴金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 3/24 20060101AFI20240726BHJP
C22B 11/00 20060101ALI20240726BHJP
C22B 59/00 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
C22B3/24 101
C22B11/00 101
C22B59/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008188
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】523025838
【氏名又は名称】Inspired Micro Crystals株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】松浦 修士
(72)【発明者】
【氏名】森 肇
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 明彦
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA01
4K001AA04
4K001AA05
4K001AA07
4K001AA08
4K001AA11
4K001AA12
4K001AA13
4K001AA16
4K001AA17
4K001AA18
4K001AA19
4K001AA21
4K001AA22
4K001AA25
4K001AA26
4K001AA27
4K001AA28
4K001AA29
4K001AA31
4K001AA34
4K001AA36
4K001AA39
4K001AA40
4K001AA41
4K001AA42
4K001BA24
4K001DB36
4K001EA06
(57)【要約】
【課題】効率的な金属イオンの回収や除去ができる手段を提供する。
【解決手段】多角体を担持又は含有した多角体固定化ナノファイバーを用いて、レアメタルや貴金属の回収や除去を行う。これにより、効率的にレアメタルや貴金属等の金属イオンの回収や除去を行うことが可能となる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角体を担持又は含有した、レアメタル及び貴金属回収用多角体固定化ナノファイバー。
【請求項2】
請求項1に記載の多角体固定化ナノファイバーからなる、レアメタル及び貴金属回収用多角体固定化ナノファイバー膜。
【請求項3】
多角体を担持又は含有した多角体固定化ナノファイバーを用いたレアメタル及び貴金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多角体固定化ナノファイバーに関し、特にレアメタル及び貴金属回収用のナノファイバー、及び、ナノファイバーを用いたレアメタル及び貴金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属は埋蔵量や用途によって、ベースメタル、貴金属、レアメタルに分類され、さらにレアメタルの中の希土類は特にレアアースと呼ばれている。
ベースメタルとは、鉄や銅、亜鉛、鉛、アルミニウムなどのように社会の中で大量に使用され、生産量が多く、様々な材料に使用されている金属である。貴金属とは、一般的には金、銀、白金(プラチナ)やパラジウムなどの8元素を指し、希少で耐腐食性があるのが特徴の金属である。レアメタルとは、地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属のうち、安定供給の確保が政策的に重要で、産業に利用されるケースが多い希少な非鉄金属を指し、構造材料へ添加して特性を向上させ、また電子材料・磁性材料などの機能性材料などに使用されている。
【0003】
レアメタルとは、地殻中の存在量が比較的少なく、採掘と精錬のコストが高いなどの理由で流通・使用量が少ない非鉄金属を指す。レアメタルは、金属製品の強度を増したり、錆びにくくする構造材料への添加材として、また発光ダイオードや電池、永久磁石などの電子・磁石材料として、さらには光触媒やニューガラスなどの機能性材料として用途は多岐に渡り、現代社会では非常に重要な元素である。
【0004】
レアメタルは、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、パラジウム(Pd)、インジウム(In)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、セシウム(Cs)、バリウム(Ba)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、白金(Pt)、タリウム(Tl)、ビスマス(Bi)、及び希土類が含まれる。
【0005】
レアメタルの中の、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の17元素からなるグループは、希土類元素あるいはレアアースとされる。
【0006】
また、金、銀、白金、パラジウムなどの8元素はレアメタルの中でも貴金属として別途呼称されている。その中でも銀は電気伝導率や熱伝導率、可視光線の反射率が金属の中で最大で、様々な電子産業には欠かせない素材であり、スマートフォンや太陽電池などに使われている。また、銀イオンには殺菌効果があることから、夏に需要が多いデオドラントスプレーにも使われている。
【0007】
銀の主な産出国はメキシコやペルーといった中南米のほか、中国が主要産出国となっており、我が国はこれらの国からの輸入に依存している。一方で世界の銀の需要は年々増加している。
このため、使用済みの製品からの銀の回収が重要となっているが、その回収としての銀リサイクル事業では主に硝酸銀溶液からの回収が主流となっている。例えば、水質汚濁の指標である化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand(COD))の測定を行うCOD-Mn分析では硝酸銀や硫酸銀を使用して分析しているが、その分析後の廃液に含まれる銀を回収することが重要となってきている。
【0008】
ところで、昆虫ウイルスは何十年もの間ウイルスを包埋保護し、熱や酸にも耐性がある非常に強固な多角体と呼ばれるタンパク質微結晶を作る。
【0009】
一例として、文献1には、高温、酸性条件に生息する硫酸性温泉紅藻によって、複数の金属を含む酸性溶液からレアアースを回収することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ayumi Minoda, Hitomi Sawada, Sonoe Suzuki, Shin-ichi Miyashita, Kazumi Inagaki, Takaiku Yamamoto and Mikio Tsuzuki, Recovery of rare earth elements from the sulfo-thermophilic red alga Galdieria sulphuraria using aqueous acid, Applied Microbiology and Biotechnology
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1に開示されている技術は、温泉紅藻を用いたレアアースの回収について記載されているが、特性的に極端な酸性条件下においてレアアースが回収できるのみであって、その他の条件においてレアメタルを回収することはできない。
【0012】
そこで本発明は、効率的な金属イオンの回収や除去ができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願の一実施形態では、昆虫ウイルス由来のレアメタル捕集用タンパク質微結晶が提供される。これにより、大がかりな装置を用いることなく、安価に広範囲にわたってレアメタルの回収を行うことが可能となる。また、これにより、我が国が発掘できるレアメタルの分布マップ等を作成することも可能となる。
【0014】
昆虫ウイルスとしては、カイコ細胞質多角体病ウイルスからなる多角体を用いることが好ましい。多角体タンパク質は化学的にも物理的に堅牢であることから、長期にわたって、水溶液中からの微量物質の捕集手段として、輸送媒体として、そして回収手段としての機能性を発揮し、資源調査技術へ用いることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、大がかりな装置を用いることなく、安価に広範囲にわたってレアメタルの回収を行うためのタンパク質微結晶を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)エチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)ナノファイバー膜の電子顕微鏡写真を示した図、(b)多角体担持エチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)ナノファイバー膜の電子顕微鏡写真を示した図である。
【
図2】(a)エチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)溶液から作製した多角体含有ナノファイバー膜の電子顕微鏡写真を示した図、(b)エチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)溶液から作製した多角体含有ナノファイバー膜の電子顕微鏡写真を示した図である。
【
図3】多角体担持ナノファイバー膜における銀イオン透水吸着試験の試験装置を示した図である。
【
図4】銀イオン10 ppmの溶液を透水した後の多角体担持ナノファイバー膜の電子顕微鏡写真を示した図である。
【
図5】多角体含有ナノファイバー膜の銀イオン吸着の時間依存性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面と共に説明する。
(多角体固定化ナノファイバー膜の作製)
図1(a)は、エチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)ナノファイバー膜の電子顕微鏡写真を示している。親水性ユニットにビニルアルコールを持つ市販のEVOH溶液(日本合成化学工業製 Soarnol 16DX)を超純水(Merck社製 Milli-Q Reference A+により製造)と1-プロパノール(富士フイルム和光純薬製、試薬特級)の混合溶媒(重量比1:1)で希釈することで濃度14重量%のEVOH溶液を調製した。この溶液から電界紡糸によってEVOHナノファイバー膜を作製した。紡糸は、印加電圧15kV、溶液供給流速8.3μL/min、紡糸ノズル-コレクタ間距離24cmの条件で行い、コレクタ上に平均直径472 ±70 nmのナノファイバー膜を作製した。その後、紡糸後の膜に、80 ℃、2 MPaの条件で10分間熱プレス処理を行ったものが、
図1(a)のナノファイバー膜となる。
【0018】
図1(b)は、
図1(a)に示されたエチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)ナノファイバー膜に多角体を担持させた多角体担持エチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)ナノファイバー膜の電子顕微鏡写真を示している。多角体としては、Cell Guidance Systems社製のPODS Emptyを使用し、超純水を用いて濃度14 mg/mLの分散液を調製した。
図1(a)に示されている熱プレス処理後のナノファイバー膜(直径13mm)をポリテトラフルオロエチレンシート上に置き、膜の上にシリコーンゴム製のOリング(内径10 mm、外径13 mm)を置くことでシート上に固定した。最初に膜の表面にエタノール10 μLを滴下し、さらに多角体分散液50 μLを滴下することでナノファイバー膜に多角体を担持させた。この後、70 ℃で2時間真空乾燥を行うことで溶媒を蒸発させたものが、
図1(b)の多角体担持ナノファイバー膜となる。
【0019】
図1(a)及び
図1(b)に示されているナノファイバー膜の平均直径および多角体担持状態の評価には走査電子顕微鏡(日本電子製JCM-5700)を使用し、測定試料には白金コートを行っている。
図1(b)における立方体の形状をしたものが、ナノファイバー膜に担持された多角体であり、多くの多角体がナノファイバーの表面に担持されていることが確認できる。
【0020】
次に、
図2(a)及び
図2(b)は、エチレンービニルアルコール共重合体(EVOH)溶液から作製した多角体含有ナノファイバー膜の電子顕微鏡写真を示している。ここでは、
図1(a)に示されたナノファイバー膜の作製に用いた、超純水と1-プロパノールの混合溶媒を用いて所定の濃度のEVOH溶液を調製し、この溶液に多角体を添加して攪拌することで、1.5 wt%多角体を含む14 wt% EVOH溶液を調製した。この紡糸液を印加電圧22 kV、溶液供給流速1.7 μL/min、紡糸ノズル-コレクタ間距離8 cmの条件で電界紡糸を行い、多角体含有EVOHナノファイバー膜を作製した。作製後に35 ℃で3時間真空乾燥を行うことで溶媒を蒸発させたものが、
図2(a)又は
図2(b)の多角体含有ナノファイバー膜となる。
【0021】
これについても、ナノファイバーの平均直径および多角体含有状態の評価には電界放射型走査電子顕微鏡(日本電子製JSM-7500F)を使用し、測定試料には銀コートを行った。
図2(a)は多角体が微小な場合を示しており、〇のついた箇所等に、ナノファイバーに沿って多角体が付着している。一方、
図2(b)は多角体が大きい場合を示しており、
図2(b)に示されているようにナノファイバーの上に乗るように固定されていることが確認できる。
【0022】
なお、このような多角体を固定化したナノファイバーを作製するには、親水性ユニットと疎水性ユニットの共重合体であって、親水性ユニットとしてビニルアルコールやポリオキシエチレン鎖を含むものが望ましい。本件においては、多角体担持ナノファイバーおよび多角体含有ナノファイバーをまとめて多角体固定化ナノファイバーとすることがある。
【0023】
(銀吸着試験)
図3は、多角体担持ナノファイバー膜における銀イオン透水吸着試験の試験装置を示している。市販セルロース膜(アドバンテック東洋製セルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター、孔径0.2 μm)上に、多角体担持ナノファイバー膜を重ね、これらをOリングでパッキングすることでホルダー14(Merck社製スウィネックスホルダーφ13 mm)に固定し、銀イオンを含む水溶液の透過実験を行っている。透過実験には、市販硝酸銀溶液(富士フィルム和光純薬製ICP標準液)から銀イオン濃度が10 ppmの溶液を調製し、シリンジ10(アズワン製オールプラスチックディスポシリンジ横口24 mL)の上部から注入している。そして、透過側の溶液中の銀イオン濃度をICP発光分析装置(アジレントテクノロジー社製5100VDP ICP-OES)を用いて定量した。
【0024】
透過側溶液中の銀イオン濃度から使用した多角体担持ナノファイバー膜の単位重量あたりの銀イオン吸着量(qAg)を求めたところ、7.3 mg/gであった。吸着実験後の膜の銀吸着の確認にはエネルギー分散型X線分析装置付きインレンズ対物式超高分解能電界放出型走査電子顕微鏡(AMETEK社製GENESISおよび日立ハイテク製 SU9000)を使用し、測定試料にはオスミウムコートを行った。
【0025】
図4は、上記の実験の銀イオン10 ppmの溶液を透水した後の多角体担持ナノファイバー膜の電子顕微鏡写真を示している。
図4の矢印部分に示されているように、ナノファイバー膜の多角体部分に銀イオンが吸着されていることが確認できる。
【0026】
次に、上記の銀吸着試験を水溶液への浸潤で行い、浸潤の時間を変更した試験を行った。多角体含有ナノファイバー膜を10 ppm硝酸銀水溶液に1分間、10分間、1時間、3日間浸漬し、ICP発光分析により浸漬液の銀イオン濃度の変化を測定することで、膜への銀イオンの吸着量を評価した。
図5にその結果を示す。
図5に示されているように、吸着は短時間で平衡に達している。多角体含有ナノファイバー膜の単位重量あたりの銀イオンの平衡吸着量は35.09 mg/g、また多角体単位重量あたり銀イオンの平衡吸着量は362.0 mg/gであった。
比較試料として、多角体を含まない14 wt% EVOH 溶液から作製したナノファイバー膜について、同様に10 ppm硝酸銀水溶液に1時間浸漬した。溶液の銀イオン濃度はほぼ変化せず、EVOHナノファイバー膜には銀イオンが吸着されていないことが確認された。
【0027】
他の試料として、ポリ(フェニルグリシン)(Poly(N-phenylglycine) )膜、リン酸化ポリアクリロニトリルベース(Phosphorylated polyacrylonitrile-based)ナノファイバー、セルロースナノクリスタル、キチンナノクリスタル、アミノ化ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile)ナノファイバー等によっても銀イオンの吸着は可能ではあるが、これらを用いて吸着させる場合には、全て浸漬によるバッチ式として行う必要があり、4.5時間から24時間の浸漬が必要となる。その場合の銀イオンの平衡吸着量qe(mg/g)の値は19.8から229.5の範囲となる。
【0028】
これに対して、本実施例の多角体固定化ナノファイバー膜の場合、バッチ式と比較しても非常に短時間で、さらに濾過式においてもこれらの平衡吸着量と同等もしくはそれ以上の吸着を行うことが可能となる。これにより、本実施例の多角体固定化ナノファイバー膜は極めて効率良く銀イオンを吸着することができる。
【0029】
本実施例は、銀イオンを用いて説明を行ったが、銀イオンのみに限ったものではなく、ベースメタル、レアメタル、貴金属全般に適用することが可能であり、それらのベースメタル、レアメタル、貴金属の回収および除去に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 シリンジ