(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104137
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】先端抵抗評価方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/30 20060101AFI20240726BHJP
E02D 5/50 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
E02D5/30 Z
E02D5/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008215
(22)【出願日】2023-01-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年7月20日に「2022年度大会(北海道)学術講演梗概集・建築デザイン発表梗概集DVD,第435~436頁,一般社団法人日本建築学会」において公開 (2)令和4年7月20日に「2022年度大会(北海道)学術講演梗概集・建築デザイン発表梗概集DVD,第437~438頁,一般社団法人日本建築学会」において公開 (3)令和4年9月6日に北海道科学大学(北海道札幌市手稲区前田7条15丁目4-1)オンライン会場(http://taikai2022.aij.or.jp/)にて開催された「2022年度日本建築学会大会(北海道)」において公開 (4)令和4年9月6日に北海道科学大学(北海道札幌市手稲区前田7条15丁目4-1)オンライン会場(http://taikai2022.aij.or.jp/)にて開催された「2022年度日本建築学会大会(北海道)」において公開
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀井 良浩
(72)【発明者】
【氏名】長尾 俊昌
(72)【発明者】
【氏名】富田 菜都美
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA03
2D041BA11
2D041BA13
2D041BA44
2D041DA12
2D041DB02
2D041DB06
2D041FA02
2D041FA03
(57)【要約】
【課題】杭の先端部を支持する薄い砂質土層の下に粘性土層が存在する地盤条件において、埋込杭の先端抵抗を評価するための先端抵抗評価方法を提案する。
【解決手段】粘性土層からなる下層支持層L2に砂質土層からなる上層支持層L1が積層されてなる支持層に支持される埋込杭1の先端抵抗評価方法である。埋込杭1の先端部には、上層支持層L1に少なくとも一部が挿入された根固め部2が形成されていて、根固め部2の先端荷重度と根固め部2の周面荷重度との合計を埋込杭1の先端抵抗として評価する。このとき、先端荷重度は、根固め部2の直下の上層支持層L1内に想定される円錐台状土塊4の下層支持層L2との接地面での底面抵抗である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性土層からなる下層支持層に砂質土層からなる上層支持層が積層されてなる支持層に支持される埋込杭の先端抵抗評価方法であって、
前記埋込杭の先端部には、前記上層支持層に少なくとも一部が挿入された根固め部が形成されていて、
前記根固め部の先端荷重度と、前記根固め部の周面荷重度との合計を、前記埋込杭の先端抵抗として評価するものとし、
前記先端荷重度は、前記根固め部の直下の前記上層支持層内に想定される円錐台状土塊の前記下層支持層との接地面での底面抵抗であることを特徴とする、先端抵抗評価方法。
【請求項2】
前記先端荷重度と先端沈下比との関係を、初期剛性と最大支持力で規定されるKondner型の双曲線関数で表し、先端沈下比に基づいて前記先端荷重度を求めることを特徴とする、請求項1に記載の先端抵抗評価方法。
【請求項3】
前記周面荷重度と先端沈下比との関係を、初期剛性と最大周面抵抗力で規定されるKondner型の双曲線関数で表し、先端沈下比、根固め部の長さ径比、根固め部の平均極限周面抵抗力度および周辺地盤平均せん断弾性係数に基づいて前記周面荷重度を求めることを特徴とする、請求項1に記載の先端抵抗評価方法。
【請求項4】
前記先端荷重度は、式1により算出することを特徴とする、請求項1に記載の先端抵抗評価方法。
【数1】
【請求項5】
前記周面荷重度は、式2により算出することを特徴とする、請求項1に記載の先端抵抗評価方法。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋込杭の先端抵抗評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤に形成された掘削孔に既製杭を挿入して建て込む埋込杭では、掘削孔先端部に根固め液を注入して、杭先端部に根固め部を形成する場合がある。この場合、掘削孔の先端は支持層に到達させておき、根固め部は支持層に挿入させた状態で形成する。
このような埋込杭は、杭に作用する荷重によって過大な沈下が生じることが無いように、十分な先端支持力を確保する必要がある。そのため、埋込杭の先端支持力を予め評価する必要がある。
埋込杭の先端支持力の評価方法として、杭先端面積に先端平均N値および先端支持力係数を乗じることで、先端支持力を算出する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
なお、杭の先端部を支持する支持層がやや薄い砂質土層の場合には、杭下方の砂質土層厚Hの先端径Dに対する比H/Dが減少するにつれて、杭の下方に形成される円錐台状の砂質土層の土塊が砂質土層の下に積層された粘性土層に貫入する破壊を伴う可能性が高まる。このような破壊が生じると、支持力が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、杭の先端部を支持する薄い砂質土層の下に粘性土層が存在する地盤条件において、埋込杭の先端抵抗を評価するための先端抵抗評価方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明の先端抵抗評価方法は、砂質土層(礫質土も含む)からなる上層支持層と粘性土層からなる下層支持層とが積層された支持層に支持される埋込杭の先端抵抗評価法であって、前記埋込杭の先端部には前記上層支持層に少なくとも一部が挿入された根固め部が形成されていて、前記根固め部の先端荷重度と前記根固め部の周面荷重度との合計を前記埋込杭の先端抵抗として評価するものである。前記先端荷重度は、前記根固め部の直下の前記上層支持層内に想定される円錐台状土塊の前記下層支持層との接地面での底面抵抗である。
前記先端荷重度と先端沈下比との関係は、例えば式1に示すように、初期剛性と最大支持力で規定されるKondner型の双曲線関数で表すことができる。つまり、先端荷重度は、先端沈下比に基づいて求めることができる。
また、前記周面荷重度と先端沈下比との関係は、例えば式2に示すように、初期剛性と最大周面抵抗力で規定されるKondner型の双曲線関数で表すことができる。つまり、周面荷重度は、先端沈下比、根固め部の長さ径比、根固め部の平均極限周面抵抗力度および周辺地盤平均せん断弾性係数に基づいて求めることができる。
かかる先端抵抗評価方法によれば、根固め部の直下に想定される円錐台状の土塊の底面抵抗、および、根固め部外周面と地盤との摩擦抵抗からなる周面抵抗とにより根固め部の先端抵抗を求めることで、薄層支持の変形特性を考慮した合理的な評価結果を得ることができる。
【0006】
【0007】
【発明の効果】
【0008】
本発明の先端抵抗評価方法によれば、薄い砂質土層の下に粘性土層が積層された2層地盤に埋込杭の先端部を支持させる場合における先端抵抗を合理的に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る埋込杭の下端部を示す概念図である。
【
図2】先端抵抗評価方法の説明図であって、(a)は先端荷重度と先端沈下比の関係を示すグラフ、(b)は断面図である。
【
図4】(a)は本実施形態の先端抵抗評価方法と載荷試験結果との比較検討時の検討対象の概要図、(b)は根固め部の拡大図である。
【
図5】(a)は本実施形態の先端抵抗評価方法の評価結果と載荷試験結果との比較結果を示すグラフ、(b)は先端抵抗評価方法の評価結果、載荷試験結果およびAIJ推奨式の算定結果の比較結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態では、薄い砂質土層(上層支持層L1)の下に過圧密である粘性土層(下層支持層L2)が積層された2層地盤を想定し、当該2層地盤に支持される既製杭(埋込杭1)について説明する。
図1に埋込杭1の先端部(下端部)を示す。本実施形態において、砂質土層は、細粒分(粒径0.075mm未満)が50%未満で、かつ、礫(粒径2~75mm)が砂(粒径0.075~2mm)より少ない土層である。また、粘性土層は、細粒分(粒径0.075~75mm)が50%以上の土層である。
図1に示すように、埋込杭1の先端部には、上層支持層L1に少なくとも一部が挿入された根固め部2が形成されている。根固め部2は、地盤Gに形成された掘削孔3の孔壁と、埋込杭1の外面との隙間に注入されたソイルセメントにより形成されている。埋込杭1は、想定される上載荷重に対して、十分な先端抵抗を確保できるように設計する。
【0011】
図2に本実施形態の埋込杭の先端抵抗q
pの評価法の概念図を示す。埋込杭1の先端抵抗q
pは、根固め部2の先端荷重度q
pbと、根固め部2の周面荷重度q
psとの合計(q
p=q
pb+q
ps)として評価する(
図2参照)。これは、根固め部2の先端荷重度と周面荷重との破壊領域が重ならないことと、周面荷重度は先端荷重度に対して外力と抵抗(抑え荷重)の両方の荷重効果があることを考慮したことによる。
先端荷重度q
pbは、根固め部2の直下の上層支持層L1内に想定される円錐台状土塊4の下層支持層L2との接地面での底面抵抗(先端ばね)である。
本実施形態では、先端荷重度q
pbと先端沈下比(先端沈下量S
pと根固め部直径D
pの比)との関係を、初期剛性と最大支持力で規定されるKondner型の双曲線関数で表し、式1に示すように、先端沈下比に基づいて先端荷重度を求めるものとする。
【0012】
【0013】
周面荷重度q
psは、根固め部2の外周面と地盤Gとの摩擦抵抗である。本実施形態では、周面荷重度q
psと先端沈下比との関係を、初期剛性と最大周面抵抗力で規定されるKondner型の双曲線関数で表し、式2に示すように、先端沈下比、根固め部の長さ径比L
p/D
p、根固め部の平均極限周面抵抗力度τ
uaveおよび周辺地盤平均せん断弾性係数G
aveに基づいて周面荷重度を求めるものとする。ここで、初期剛性K
ps0は、式3に示すように、周面抵抗力と根固め部周辺地盤のせん断ひずみの積分(荷重分散角を横1:縦0.5(=k)と仮定している)にて得られる沈下を用いて算出する(
図3参照)。また、根固め部の平均極限周面抵抗力度τ
uaveは、場所打ち杭相当(砂質土は3.3N、粘性土は0.5q
u)とする。なお、
図3は、初期剛性K
ps0の算定方法の説明図である。
【0014】
【0015】
【0016】
本実施形態の先端抵抗評価方法によれば、根固め部の直下に想定される円錐台状の土塊の底面抵抗、および、根固め部外周面と地盤との摩擦抵抗からなる周面抵抗とにより根固め部の先端抵抗を求めることで、薄層支持の変形特性を考慮した合理的な評価結果を得ることができる。
【0017】
以下、本実施形態の先端抵抗評価方法と載荷試験結果とを比較した結果を示す。
図4に検討対象の概要を示す。検討対象は、中堀工法による鋼管杭10であり、
図4(a)に示すように、根固め部2の直径が1.15mで、軸部径(1.0m)よりも大きく、根固め部の長さ径比L
p/D
pは0.87である。杭下方の有効支持(砂)層厚比H
s/D
pは0.78、粘性土Cの一軸圧縮強さq
uは235kPaである。
図4(b)に示すように、根固め部2の先端はN値が60以上の砂質土層(より具体的には、洪積砂礫層)に当接し、周面は主にN値が8の粘性土層(より具体的には洪積粘性土層)内にある(q
u=12.5N=110kN/m
2、τ
uave=67kN/m
2)。表1に評価用定数を示す。
【0018】
【0019】
図5(a)に評価結果と載荷試験結果との比較を示す。
図5(a)より、評価結果と載荷試験結果は良好な対応を示し、根固め部先端抵抗に加えて根固め部周面抵抗を考慮することにより評価精度が向上したことが分かる。
図5(b)に評価結果と式4に示す日本建築学会:建築基礎構造設計指針(2019年)の埋込み鋼管杭(礫質土)に対する推奨式(以下「AIJ推奨式」という。)による算定結果との比較を示す。ここで、AIJ推奨式による算定には載荷試験結果の先端支持力を用いる。
図5(b)に示すように、AIJ推奨式は、載荷試験結果に比べて、先端荷重を小さく評価する。一方、本実施形態の先端抵抗評価方法の方が載荷試験結果と良好な対応を示し、合理的な評価結果を与えることが確認できた。
【0020】
【0021】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0022】
1 埋込杭
2 根固め部
3 掘削孔
4 円錐台状土塊
L1 上層支持層
L2 下層支持層