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特開2024-104139構造体の接着方法、複合構造体、及び接着剤組成物
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  • 特開-構造体の接着方法、複合構造体、及び接着剤組成物 図1
  • 特開-構造体の接着方法、複合構造体、及び接着剤組成物 図2
  • 特開-構造体の接着方法、複合構造体、及び接着剤組成物 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104139
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】構造体の接着方法、複合構造体、及び接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/00 20060101AFI20240726BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240726BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
C09J5/00
C09J201/00
C09J163/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008220
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】戸張 博之
(72)【発明者】
【氏名】平井 圭三
(72)【発明者】
【氏名】黒木 一真
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040EC001
4J040EC061
4J040JA01
4J040JA09
4J040JA12
4J040KA04
4J040KA14
4J040KA16
4J040LA01
4J040LA06
4J040MA02
4J040MA10
4J040PA00
4J040PA21
4J040PA25
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、2つの構造体の接着結合を、簡易な前処理で、かつ金型、加熱加圧プレス等の設備が不要で、安価で生産効率よく、接着層自体が強靭な接着強度を達成できる接着方法、及びその接着方法を用いて製造した複合構造体を提供することである。
【解決手段】上記の課題を解決するための本発明の接着方法は、
シート状の繊維不織マットに硬化性樹脂接着剤を含侵させた接着剤組成物を、2つの構造体の被着面間に介在させる工程と、前記介在させた接着剤組成物を硬化させることにより前記2つの構造体どうしを接着する工程と、を有することを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の繊維不織マットに硬化性樹脂接着剤を含侵させた接着剤組成物を、2つの構造体の被着面間に介在させる工程と、
前記介在させた接着剤組成物を硬化させることにより前記2つの構造体どうしを接着する工程と、
を有することを特徴とする構造体の接着方法。
【請求項2】
前記硬化性樹脂が、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂であることを特徴とする、
請求項1に記載の構造体の接着方法。
【請求項3】
前記繊維不織マットの繊維がガラス繊維であることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の構造体の接着方法。
【請求項4】
前記シート状の繊維不織マットとして、不織マットの嵩体積中繊維が占める割合が30%以下であることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の構造体の接着方法。
【請求項5】
前記シート状の繊維不織マットに前記硬化性樹脂接着剤を含侵させる際に、20℃以上かつ前記熱硬化性樹脂の硬化温度未満の温度下で、真空吸引して脱泡及び樹脂含侵をさせることを特徴とする、
請求項2に記載の構造体の接着方法。
【請求項6】
前記2つの構造体の両被着面が、繊維強化プラスチック又は金属部材からなることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の構造体の接着方法。
【請求項7】
前記構造体の被着面が、最大幅で1m以上の寸法を有することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の構造体の接着方法。
【請求項8】
シート状の繊維不織マットに硬化性樹脂接着剤を含侵させた接着剤組成物を、2つの構造体の被着面間に挟んだ状態で、前記接着剤組成物が硬化され前記2つの構造体どうしが接着された構造を有することを特徴とする複合構造体。
【請求項9】
シート状の繊維不織マットに硬化性樹脂接着剤を含侵させた接着剤組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体に用いる接着剤組成物と接着方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、金属部材を含めた大型構造体間を接着する方法、及びその接着方法を用いて接着して製造した複合構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属構造体と繊維強化プラスチック(以下FRP)からなる構造体を接着する場合は、エポキシ等の接着剤樹脂単体または粉体や充填剤を含む接着剤で接着処理するか、または金属構造体と未硬化のFRPを金型内において型締め方向に積層させて加熱加圧成型する手法がある。
【0003】
前者の場合は、接着剤のみを用いて2つの構造体を接合するため、被着体接合面の粗さ及び表面うねり等をできるだけ小さくするための平滑処理や研磨工程、さらに表面層を清浄にするための各種表面処理やプライマー処理等の様々な前処理工程が必要である。また、接着剤層の厚さは、接着剤層自体の機械的強度が高くないために、できるだけ薄くかつ均一にする必要がある。
【0004】
一方、後者の場合は金型を用いた型締め加圧プレスを行うため、生産効率が低いし、必要となる金型、加圧プレス、オートクレーブ等の製造費用が高価である。また、前者の接着剤を用いる方法に比べてFRPと金属部材との接着強度が劣るおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-100829号公報
【特許文献2】特開2018-158482号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】桜井冨美夫、「エポキシ接着剤の技術動向」、色材協会誌、1998年、71巻、4号、p.254~262、
【非特許文献2】公益財団法人航空機国際共同開発促進基金、「複合材と金属の接合技術」解説概要29-6、p.1~6、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属構造体とFRP構造体とを接着剤によって接合した複合構造体としては、一次構造における接着構造は回避されている。非特許文献1によれば、金属(チタン等)とCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の構造体の接着結合を、ステップラップジョイントという特殊な接着接手構造を用いて実用化されている。しかしながら、航空機それも戦闘機のあくまでごく限られた一部の特殊な用途においてのみの採用に留まっている。
また、非特許文献2によれば、エポキシ樹脂接着剤を用いる際の課題として、強靭化の必要性や使い勝手の難しさに加え、溶剤脱脂、洗浄、研磨、エッチング、表面処理、プライマー処理等の各種前処理を含めた接着工程の煩雑さがある。(被着体:アルミ合金)
その他、樹脂単体からなる接着剤以外に、無機フィラー等の充填剤を含む接着剤が用いられることがあるが、フィラーを充填するだけでは強度が不十分であり、他方、接着剤の厚さを厚くすると接着界面が剥離する応力よりも低い応力で接着層内において凝集破壊するという問題がある。
【0008】
一方、特許文献1では、自動車用部品への適用を背景に、金属部材と樹脂硬化前の炭素繊維強化プラスチックを金型内で加熱加圧して金属と炭素繊維強化プラスチックを接合せしめる複合構造体の製造方法が開示されている。しかしながら、金型内で加熱加圧するという製造方法では、複合構造体の大きさ及び形状が大幅に制限され、かつ、金型製造費用が高価であるという問題がある。
特許文献2では、強化繊維と樹脂系接着剤ならびに金属部材を金型内で積層し、金型内で加熱加圧して繊維強化材と金属部材を接合せしめる複合構造体の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の方法と同様に、金型内で加熱加圧するという製造方法であるため、やはり複合構造体の大きさ及び形状が制限されるととともに、金型製造の投資費用が極めて高価となるため、自動車部品のような同形状の物を多数個大量量産する場合を除き、特に単品の複合構造体の製造には広く適用し難い。
【0009】
そこで、本発明の課題は、2つの構造体の接着結合を、簡易な前処理で、かつ金型、加熱加圧プレス等の設備が不要で、安価で生産効率よく、接着層自体が強靭な接着強度を達成できる接着方法及びその接着方法を用いて製造した複合構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、シート状の繊維不織マットに硬化性樹脂接着剤を塗布して含侵した接着剤組成物を所定の形状に切り出して、2つの構造体間の接着箇所に配置して接着する接着方法を見出した。またこの接着方法により、簡易な前処理でかつ金型不要で安価に接着結合し、かつ接着層自体が強靭で高強度な複合構造体を製造可能となることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下を特徴とする接着剤組成物を用いた接着方法、及びその接着方法を用いて製造した複合体構造物である。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の接着剤組成物を用いた構造体の接着方法は、シート状の繊維不織マットに硬化性樹脂接着剤を含侵させた接着剤組成物を、2つの構造体の被着面間に介在させる工程と、前記介在させた接着剤組成物を硬化させることにより前記2つの構造体どうしを接着する工程と、を有することを特徴とする。
この接着方法によれば、接着層の厚さを大きな制限なく自在に変更できるため、被着面の平滑性や面粗さ、表面うねり等の影響を受けにくく、簡易な表面処理で接着可能であり、また金型も不要で構造体同士の接着を簡易かつ安価に行うことができる。
【0012】
また、上記課題を解決するための本発明の接着剤組成物を用いた構造体の接着方法は、硬化性樹脂にエポキシ樹脂を用いることを特徴とする。
この特徴によれば、接着硬化に際して特別な加圧は不要であるとともに、エポキシ樹脂は熱硬化収縮が小さいために硬化時の内部歪に起因する内部応力が小さく、また揮発性物質を生じないので、繊維補強層により接着層自体の強度が高く、構造体の接着に必要な高いせん断接着強度を保持することができるし、また気密性も高い。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明の接着剤組成物を用いた構造体の接着方法は、繊維不織マットの繊維としてガラス繊維を用いることを特徴とする。
この特徴によれば、ガラス繊維補強層が高弾性、高強度で、かつ電気絶縁性や寸法安定性、耐熱性に優れるため、各種用途に適した構造体の接着結合に利用することができる。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明の接着剤組成物を用いた構造体の接着方法は、シート状の繊維不織マットとして、不織マットの嵩体積中繊維が占める割合が30%以下であることを特徴とする。
この特徴によれば、薄く平滑で樹脂の繊維不織マット内への含侵が均一で、かつ高いせん断接着力を有する繊維-樹脂複合接着層とすることができ、また用途により複数の枚数を重ねる等により厚くすることで強度を高めることが可能となる。
【0015】
また、上記課題を解決するための本発明の接着剤組成物を用いた構造体の接着方法は、シート状の繊維不織マットに硬化性樹脂接着剤を含侵させる際に、20℃以上かつ熱硬化性樹脂の硬化温度未満の温度下で、真空吸引して脱泡及び樹脂含侵をさせることを特徴とする。
この特徴によれば、脱泡により機械的及び電気的特性を劣化させる欠陥となり得るマイクロボイドを除去できるとともに、樹脂が繊維不織マット内へ均一に深く浸透して含侵することで、より高強度で安定なせん断接着力を有する接着結合とすることができる。
【0016】
また、本発明の方法の一実施態様としては、2つ構造体の両被着面が、FRP又は金属部材からなることを特徴とする。
この特徴によれば、FRP構造体と金属部材間、FRP構造体同士、及び金属部材同士の接着処理を行うことができ、電気絶縁性や耐リーク性を必要とする各種用途に用いられる複合構造体の製造に適用することができる。
【0017】
また、本発明の方法の一実施態様としては、構造体の被着面の大きさが、最大幅で1m以上の寸法を有することを特徴とする。
この特徴によれば、大型のFRP構造体と金属部材とを大面積の被着面において接着結合する複合構造体を、金型や加熱加圧プレス等を用いずに接着処理可能とすることができる。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の複合構造体は、シート状の繊維不織マットに硬化性樹脂接着剤を含侵させた接着剤組成物を、2つの構造体の被着面間に挟んだ状態で、前記接着剤組成物が硬化され前記2つの構造体どうしが接着された構造を有することを特徴とする。
この特徴によれば、接着層の厚さを自在に変更できるため、各種の大きさ、形状の被着面を有する構造体同士を、簡易な前処理で接着可能であり、また金型や加熱加圧プレス等も不要で、簡易かつ安価に、高い接着強度を有する複合構造体として提供することができる。
【0019】
上記課題を解決するための本発明の接着剤組成物は、シート状の繊維不織マットに硬化性樹脂接着剤を含侵させたことを特徴とする。
この接着剤組成物によれば、接着層の厚さを大きな制限なく自在に変更できるため、被着面の平滑性や面粗さ、表面うねり等の影響を受けにくく、簡易な表面処理で接着可能であり、また金型も不要で構造体同士の接着を簡易かつ安価に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シート状の繊維不織マットに硬化性樹脂接着剤を含侵させた接着剤組成物を、2つの構造体の被着面間に挟んだ状態で硬化性樹脂接着剤を硬化させて接着を行うことで、大きさや形状に対する制限にとらわれずに大型構造体を接合して、強靭な接着強度を有しながら、簡易で安価な接着方法と複合構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施態様における、接着剤組成物の調製ステップを示す概略図である。
図2】本発明の実施態様における、構造物間の接着処理による複合構造体の製造の実施例を示す概略図である。
図3】本発明の実施態様における、構造物間の接着処理による複合構造体の製造の実施例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る接着剤組成物を用いた構造体の接着方法、及びそれを用いて接着結合した複合構造体の実施態様を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する接着方法については、本発明に係る接着剤組成物を用いた構造体の接着方法、及びその接着方法を用いて接着結合した複合構造体を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明における、「接着剤組成物10」とは、繊維不織マット層に、硬化性樹脂接着剤を含侵させたもので、接着対象の構造体の被着面に接する上下表面には、繊維が接しておらず、樹脂接着剤で覆われているシート状の接着剤組成物を指す。
本発明における、「繊維不織マット11」とは、短繊維を平面状に無配向に均一分散させたシート状の平滑なマットを指す。繊維方向は接着面と平行になる。
本発明における、「硬化性樹脂接着剤12」とは、繊維不織マット層11に含侵して「接着剤組成物10」をなすとともに、金属部材とプラスチック部材を含む接着対象の構造体の被着面で硬化することより接着する特性を有する接着剤を指す。
【0024】
本発明の接着剤組成物10を用いた構造体の接着方法、及びそれを用いて接着結合した複合構造体の製造の実施態様は、以下のステップからなる。
(1)繊維不織マット11の準備:
本発明の接着剤組成物10に用いる、シート状の繊維不織マット11を準備するステップ。
(2)硬化性樹脂接着剤12の準備:
本発明の接着剤組成物10に用いる、硬化性樹脂接着剤12を準備するステップ。
(3)接着剤組成物10の調製:
上記のシート状の繊維不織マット11に、上記の硬化性樹脂接着剤12を塗布、含侵させて本発明の接着剤組成物10を調製するステップ。
(4)複合構造体の製造:
2つのFRPまたは金属構造体の間の接合被着面間に、上記の接着剤組成物10を配置し、接着用樹脂が硬化することで接着し、複合構造体を製造するステップ。
【0025】
(1)[繊維不織マット11]
<繊維>
本発明の繊維不織マット11に用いる繊維種としては、補強用繊維で、高強度、高弾性、耐熱性、寸法安定性等に優れることが望ましいが、無機繊維、有機繊維、天然繊維等、特に限定されるものではない。
無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、等が挙げられる。有機繊維としては、アラミド、ポリエステル、ポリアミド、レーヨン、ビニロン、高強度セルロース繊維等。天然繊維では、綿、麻、絹等が挙げられる。但し、その、高強度、高弾性、耐熱性、寸法安定性等の特性から、ガラス繊維及び炭素繊維が好ましい。更に、価格等のバランスや、電気絶縁性等の特徴も含め、ガラス繊維が最も好適に用いることができる。
【0026】
ガラス繊維には、そのガラス組成により、Eガラス、Sガラス、Cガラス、Dガラス、ECRガラス、ARガラス等の各種ガラス繊維があるが、本発明の用途にはその強度の高さからEガラスまたはSガラスを好適に用いることができる。また、ガラス繊維には、ガラス-マトリックス界面の接着性の観点から、その表面にシランカップリング剤等の表面処理剤が付与されていることが望ましい。
【0027】
<不織マット>
本発明の繊維不織マット11に用いる繊維は長繊維でなく、カットされた短繊維であり、収束させたり、撚られたり、織られたりしてなく、短繊維を平面状にランダムな方向に均一分散させ、シート状の平滑なマットとしたものである。短繊維の繊維長は数mmから数cmであり、1cm以上4cm以下のものが好適に用いることが出来る。また、分散後のマット形状を維持するために少量のバインダーで固めたものが好ましく用いられる。
本発明の繊維不織マット11は、構造体間の接着層として用いるため、平坦で平滑であることが求められる。このため、厚さが薄く、単位重量が少なく、繊維径が細く、平滑である必要がある。このため、通常FRPの表面仕上げ用に用いられる、いわゆる「サーフェスマット」を好ましく用いることができる。
【0028】
接着剤を含侵する前の、繊維不織マット単体の嵩体積中に繊維が占める割合は、30%以下、好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下である。繊維の占有割合を30%以下とすることで、上下両面は接着剤に覆われ均一に接着剤が繊維不織マット層に含侵したシート状の接着剤組成物10とすることができる。
対象とする構造体に合わせて、厚い繊維不織マットとして使用したい際には、厚さには特に制限はなく、例えば、0.2mm以下の市販のサーフェスマットを複数枚重ねることで、必要な厚さの繊維不織マットとすることができる。
繊維不織マットの単位重量(目付)には特に制限はなく、例えば、30g/mの市販のサーフェスマットを複数枚重ねることで、必要な単位重量の繊維不織マット11とすることができる。
繊維径は、30μm以下、好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下である。
【0029】
(2)[硬化性樹脂接着剤]
<接着剤樹脂>
本発明の硬化性樹脂接着剤12に用いる硬化性樹脂種としては、特に限定されるものではなく、熱硬化性樹脂である、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン等が挙げられる。但し、本発明の目的とする構造体用の接着剤用途においては、せん断接着強さで10MPa以上、好ましくは20MPa以上の高強度の接着力が必要であり、その優れた接着強度、耐熱性、耐久性、硬化収縮の小ささ、電気絶縁性、バランスの良い力学特性等から、エポキシ樹脂接着剤が最も好ましく用いることができる。なお、硬化性樹脂接着剤として、熱硬化性樹脂接着剤を例示しているが、これに代えて、紫外線の照射により硬化する紫外線硬化性樹脂接着剤を適用してもよい。
【0030】
エポキシ接着剤としては、1液型、2液分離型があり、特に限定されるものではないが、本発明においては繊維不織マットに含侵させて用いる観点から、その粘度をコントロールし易い1液型接着剤が好ましく用いることができる。2液混合型の場合は、エポキシ主剤と硬化剤に分かれていて、それらを混ぜ合わせることで反応し硬化するが、混合後の粘度安定性が1液型と比較して劣るため、本発明の用途においては使用時の難しさがある。
1液型エポキシ接着剤は、主剤のエポキシと硬化剤/触媒が予め混合されており、加熱により比較的短時間で硬化するため、本発明の用途に適している。
【0031】
前記エポキシに用いるエポキシ樹脂種は特に限定されるものではないが、2官能以上の多官能エポキシ樹脂が好ましく用いられる。例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、tert- ブチル- カテコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、トリスフェニロールメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェニロールエタン型エポキシ樹脂、フェノールビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の芳香環を水素化したエポキシ樹脂、フェノールジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂の芳香環を水素化したエポキシ樹脂、トリアジン誘導体エポキシ樹脂及び脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
但し、その接着強度の高さ、機械的性質、電気絶縁性の高さ等の特徴も含め、ビスフェノールA型及びビスフェノールF型が最も好適に用いることができる。
【0032】
<硬化剤/重合触媒>
エポキシ樹脂はエポキシ環の開環反応により重合硬化するが、その硬化反応形態は、エポキシ基に付加する硬化剤による重合と、アニオン又はカチオン触媒による自己重合があり、両方が同時に起こる場合もある。本発明に用いる硬化剤/触媒の種類は特に限定されないが、以下の硬化剤/触媒を事前に配合した1液型エポキシ接着剤を好適に用いることができる。
【0033】
付加型の硬化剤としては、アミン化合物、フェノール化合物、酸無水物等が挙げられる。これ等は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、硬化剤に加えて、イミダゾール化合物、リン化合物、有機金属化合物等の硬化促進剤を用いてもよい。
自己重合型の触媒としては、アニオン重合としてはイミダゾール化合物、3級アミン等、カチオン重合としては、3フッ化ホウ素、スルフォニウム塩等が挙げられる。
1液型エポキシ接着剤の中でも、室温では反応せず加熱により活性種を放出する潜在型硬化剤(イミダゾール化合物、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド、マイクロカプセル型等)を含む1液型ペーストタイプの接着剤が、本発明の用途に好適に用いることができる。
【0034】
<粘度>
本発明の硬化性樹脂接着剤12は、繊維不織マット11に塗布して含侵させるため、その粘度が適当である必要がある。繊維不織マット11内に均一に含侵させるには、接着剤の粘度が十分低いことが好ましい。具体的には、室温でのB型回転計粘度が10000mPa・s以下、好ましくは3000mPa・s以下、さらに好ましくは1000mPa・s以下である。
室温で粘度が高く繊維不織マット11内に含侵しにくい場合は、加温すると接着剤の粘度が下がるので、50℃程度まで加温して粘度を下げて使用することができる。但し、硬化性樹脂として、熱硬化性樹脂を適用している場合、温度が高すぎると硬化剤を含む熱硬化性樹脂の硬化反応が進むおそれがあるため、室温(20℃)以上で当該熱硬化性樹脂の硬化温度未満の温度、より好ましくは硬化温度-20℃以下の温度で、接着剤がゲル化しない時間以内で含侵を行うことが好ましい。
【0035】
(3)[接着剤組成物10の調整]
<繊維/樹脂比率>
本発明の接着剤組成物10の繊維/樹脂比率は、重量比率で10%程度が好ましい。2%以上30%以下、好ましくは3%以上20%以下、さらに好ましくは5%以上15%以下である。繊維の量を2%以上とすることで強度が保持できる。一方、繊維の量を30%以下とすることで、接着剤樹脂の繊維不織マット11層への含侵の均一性と平坦性を保持することができる。また、シートの上下表面に繊維が一部出てしまい、被接着体の表面に接することを避けることができる。
【0036】
<含侵>
準備した繊維不織マット11に、以下の方法で硬化性樹脂接着剤12を塗布して含侵させる。
目標とする繊維/樹脂比率に、計算上必要な量の硬化性樹脂接着剤12を準備し表面に塗布する。塗布する場合は、図1に示すように接着剤を1ヵ所のみに塗布して載せるのではなく、できるだけ繊維不織マット11の表面に満遍なく均一に広がるように適宜複数個所に分けて塗布し、特にマット端部における接着剤の含侵が不足しないように留意する。
【0037】
<真空吸引、脱気>
硬化性樹脂接着剤12の繊維不織マット11内への含侵を均一に行い、機械的及び電気的特性を損なう原因となるマイクロボイドを除去するため、上記塗布マットサンプルを10kPa(0.1気圧)以下、より好ましくは1kPa(0.01気圧)以下の真空条件下で吸引する。図1に示すように、真空吸引後の接着剤組成物13は、繊維不織マット上の接着剤が真空引きすることで流動し、繊維層に沿って広がり自動的に含侵される。10分間程度真空吸引を保持することで、マイクロボイドを完全に脱気除去した接着剤組成物10を調製できる。必要な所定の形状に端部を除去して、切り出し後の接着剤組成物14とすることができる。これを対象とする2つの構造体の間に配置して、接着に用いることができる。
【0038】
(4)[複合構造体の製造]
上記で準備した接着剤組成物10のシートを、2つのFRP又は金属構造体の両被着面間に挟みこんで配置し、接着剤組成物10に含侵させた硬化性樹脂接着剤において熱硬化性樹脂を適用している場合、当該熱硬化性樹脂が硬化する温度以上で加熱し、適当な時間保持した後に硬化を完了する。加熱温度は接着剤の種類によるが、80℃から140℃程度、好ましくは100℃から120℃である。加熱時間は接着剤種と構造体の大きさや被着面積により適宜選択する。この際に必要に応じ、重しを載せる等により加圧してもよい。
また、接着結合の事前に、被着面を研磨紙等で研磨してもよいし、溶剤や超音波等で洗浄を行ってもよい。
【0039】
本発明の接着方法が対象とする金属構造体の被着面の金属部材としては、特に限定されるものではないが、鉄、一般鉄鋼材、ステンレス鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金等が挙げられる。
【0040】
本発明の接着方法が対象とするFRP構造体の被着面のプラスチック部材としては、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられるが、ポリアミド、PPS、PEEK、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂でもよい。
但し、接着剤樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合は、FRP構造体の被着面のプラスチック部材もエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0041】
本発明の接着方法が対象とする構造体の大きさに特に制限はなく、金型と加圧プレスを必要とする従来技術では費用が高くなり難しい被着面が寸法1m以上の構造体の接着に適用することができる。
【実施例0042】
次に本発明の接着剤組成物10を用いた構造体の接着方法、及びそれを用いて接着結合した複合構造体の製造の実施例を以下に示す。
図3に示すように、直径1mの円筒形のGFRP(ガラス繊維強化樹脂:樹脂はエポキシ)製構造体20と、同じく直径1mの円盤型ステンレス製(SUS304)フランジ構造体30を、本発明の接着剤組成物10を用いた接着方法により接着して複合構造体を製造した。
【0043】
サーフェスマット(セントラルガラス製FC-30C:繊維径9μm以下、カタログ厚さ0.13mm、単位重量30g/m)を準備し、10枚重ねたところ、実測厚さが2mmであった。この、幅100mmx長さ200mm、厚さ2mmの繊維不織マット11(嵩体積10x20x0.2=40cm、ガラス繊維嵩密度15%)に、40mlの市販の1液型硬化剤含有エポキシ接着剤(ナガセエレックス製XNR3688:ビスフェノールA型エポキシ樹脂)を塗布して含侵した。
【0044】
脱泡ローラーで気泡を取り除きながら含浸し、さらに、真空装置内において、温度50℃下、真空度1kPaで10分間真空吸引保持することでマイクロボイドを除去したシート状の未硬化の接着剤組成物10を複数枚製造した。
接着剤組成物10におけるガラス繊維の重量比率は10%であった。
【0045】
<接着層強度試験>
調製した接着剤組成物10の硬化物の強度を、ダンベル形状のサンプルを切り出して試験した。JISK7167試験方法に準じて試験速度10mm/分で引張強度を測定したところ、本発明のガラス繊維にエポキシ樹脂を含侵させた接着剤組成物の引張強度は、160MPaであった。一方、接着剤樹脂のみの硬化物の引張強度はカタログ値で63MPaであり、その2倍以上の強度を示した。
【0046】
上記の接着剤組成物10から、図2に示すように直径1mの円筒端部接着面を16分割した扇状をなすような形状に分割切断したものを切り出して各2組作成した。その後、継ぎ目が重ならないように円筒形GFRP製構造体20の端部接着面に配置し、図3に示すようにSUS304製フランジ構造体30をその上に設置し140℃で60分間加熱硬化して接着した。なお、この時接着剤組成物10にかかる荷重は、SUS304製フランジ構造体30の自重により、50g/cmであった。
【0047】
<リーク試験>
製造された複合構造体の気密性を確認するため、製造された複合構造体内部を真空引きし、Heリークディテクターを使用して接着部のリーク試験を行った結果、リークレート1.0x10-9Pa・m/s以下となり、気密性は良好であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の接着剤組成物を用いた構造体の接着方法は、FRP及び金属部材からなる大型構造体の接着による複合構造体の製造において、金型や加熱加圧プレス等が不要で、簡易で安価な製造方法として有用である。特に、大きさや形状、接着層の厚さの制限が少なく、高い接着せん断強度と、電気絶縁性、気密性等が必要で大量生産には適さない大型複合構造体の接着方法として特に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
11 繊維不織マット
12 硬化性樹脂接着剤
13 真空吸引後の接着剤組成物
14 切り出し後の接着剤組成物
10 接着剤組成物
20 GFRP製構造体
30 ステンレス製フランジ構造体

図1
図2
図3