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特開2024-104144形状転写用多面版の製造方法及び形状転写用多面版
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104144
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】形状転写用多面版の製造方法及び形状転写用多面版
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20240726BHJP
   G02B 5/32 20060101ALI20240726BHJP
   G02B 13/00 20060101ALI20240726BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20240726BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20240726BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B5/32
G02B13/00
G02B3/00 A
B29C59/02 B
B29C33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008227
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】岸本 康
【テーマコード(参考)】
2H087
2H249
4F202
4F209
【Fターム(参考)】
2H087KA19
2H087KA26
2H087RA26
2H087RA46
2H249AA03
2H249AA07
2H249AA13
2H249AA31
2H249AA40
2H249AA63
2H249CA05
2H249CA28
4F202AA44
4F202AF01
4F202AG05
4F202AH73
4F202AH75
4F202AH76
4F202AJ03
4F202CA19
4F202CB01
4F202CD02
4F202CD08
4F202CD12
4F202CD22
4F202CD23
4F202CK12
4F209AA44
4F209AF01
4F209AG05
4F209AH73
4F209AH75
4F209AJ03
4F209PA02
4F209PA18
4F209PB01
4F209PJ06
4F209PN09
4F209PQ11
(57)【要約】
【課題】製造工数が増大することを抑制するとともに、複数の微細なレリーフ構造の位置精度を高めることができる形状転写用多面版の製造方法を提供する。
【解決手段】微細なレリーフ構造が形成された複数の版領域を有する形状転写用多面版の製造方法であって、第1方向に並ぶ複数の樹脂版領域に微細なレリーフ構造が転写された光硬化樹脂が固定された樹脂版を作製する樹脂版作製工程と、樹脂版から、複数の電鋳版を複製する電鋳版複製工程と、複数の電鋳版を第2方向に並べ、複数の電鋳版を接合して形状転写用多面版を作製する接合工程と、を有し、樹脂版作製工程は、複数の樹脂版領域において、光硬化樹脂を透明基板に塗布する塗布工程と、原版を光硬化樹脂に密着させる近接配置工程と、光硬化樹脂に光線を照射して光硬化樹脂を硬化させ、原版を光硬化樹脂から剥離する転写工程と、を有する、形状転写用多面版の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射された光に対して反射、回折、干渉、散乱、吸収、および共鳴のうちの少なくとも1つの光学的な機能を有する微細なレリーフ構造が形成された複数の版領域を有する形状転写用多面版の製造方法であって、
透明基板の表面であって、第1方向に隣り合って並ぶ複数の樹脂版領域のそれぞれにおいて、前記微細なレリーフ構造が転写された光硬化樹脂が固定された樹脂版を作製する樹脂版作製工程と、
前記樹脂版から、複数の電鋳版を複製する電鋳版複製工程と、
複数の前記電鋳版のそれぞれを前記第1方向と交差する第2方向に並べ、複数の前記電鋳版それぞれの前記第2方向の端部同士を接合して、前記形状転写用多面版を作製する接合工程と、
を有し、
前記樹脂版作製工程は、複数の前記樹脂版領域のそれぞれにおいて、
前記光硬化樹脂を前記透明基板に塗布する塗布工程と、
前記透明基板と原版とを近接配置させて、前記原版に記録された前記微細なレリーフ構造を前記光硬化樹脂に密着させる近接配置工程と、
前記光硬化樹脂に光線を照射して前記光硬化樹脂を硬化させ、前記原版を前記光硬化樹脂から剥離する転写工程と、
を有する、形状転写用多面版の製造方法。
【請求項2】
前記電鋳版複製工程は、
前記樹脂版の表面にエラストマーを塗布し、前記エラストマーにより元版を作製する元版作製工程と、
前記元版から、電鋳により複数の前記電鋳版を作製する電鋳版作製工程と、
を有する、請求項1に記載の形状転写用多面版の製造方法。
【請求項3】
前記電鋳版複製工程は、
前記樹脂版の表面に導電性膜を形成した後に、電鋳により元版を作製する元版作製工程と、
前記元版から、電鋳により複数の前記電鋳版を作製する電鋳版作製工程と、
を有する、請求項1に記載の形状転写用多面版の製造方法。
【請求項4】
前記転写工程において、スリット状の前記光線を前記光硬化樹脂に照射し、前記光線の照射位置をスリット方向と略直交する方向に移動させて、前記光硬化樹脂を順次硬化させる、請求項1から3のいずれか一項に記載の形状転写用多面版の製造方法。
【請求項5】
前記接合工程において、複数の前記電鋳版をレーザ溶接により接合する、請求項1から3のいずれか一項に記載の形状転写用多面版の製造方法。
【請求項6】
前記原版の前記微細なレリーフ構造は、電子線描画装置により作製され、前記光硬化樹脂に密着する前記原版の前記微細なレリーフ構造が形成された領域は方形状であり、前記領域の長辺は15cm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の形状転写用多面版の製造方法。
【請求項7】
前記原版の前記微細なレリーフ構造は、電子線描画装置により作製され、複数の前記電鋳版は方形状であり、長辺が15cm以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の形状転写用多面版の製造方法。
【請求項8】
照射された光に対して反射、回折、干渉、散乱、吸収、および共鳴のうちの少なくとも1つの光学的な機能を有する微細なレリーフ構造が形成された複数の版領域を有する形状転写用多面版であって、
互いに接合される複数の電鋳版によって構成され、
複数の前記電鋳版のそれぞれには、原版の前記微細なレリーフ構造が転写された複数の前記版領域が第1方向に隣り合って設けられ、
複数の前記電鋳版は、前記第1方向と交差する第2方向に並び、複数の前記電鋳版それぞれの前記第2方向の端部同士が接合される、形状転写用多面版。
【請求項9】
前記原版の前記微細なレリーフ構造は、表面レリーフ型ホログラムである、請求項8に記載の形状転写用多面版。
【請求項10】
前記原版の前記微細なレリーフ構造は、回折格子である、請求項8に記載の形状転写用多面版。
【請求項11】
前記回折格子は、鋸刃状のブレーズド型回折格子である、請求項10に記載の形状転写用多面版。
【請求項12】
前記原版の前記微細なレリーフ構造は、マイクロレンズアレイである、請求項8に記載の形状転写用多面版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状転写用多面版の製造方法及び形状転写用多面版に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回折格子パターンを有するディスプレイを複製する方法として、原版の回折格子の微細なレリーフ構造を複数個面付け転写した形状転写用多面版(スタンパー)を用いて複製する方法が採用されている。
【0003】
2光束干渉による回折格子パターンを有するディスプレイの形状転写用多面版を作製する工程として、特許文献1では、2光束干渉による干渉縞を、ピッチ、方向、および光強度を変化させて、感光材料基板の表面に次々に露光していく方法が提案されている。しかしながら、このような形状転写用多面版の作製工程では、電子線描画装置によって微細なレリーフ構造を記録した原版から面積が大きい形状転写用多面版を作製することは困難である。
【0004】
また、原版の微細なレリーフ構造を転写する方法として、熱可塑性樹脂に原版を密着させた状態で加熱を行うことによって、熱可塑性樹脂に転写する方法がある。しかしながら、係る方法では、原版の微細な凹凸の細部まで熱可塑性樹脂を充填することが困難であるため、微細なレリーフ構造を精度よく転写することが困難である。
【0005】
また、原版の微細なレリーフ構造を転写する他の方法として、特許文献2では、紫外線硬化樹脂等の光硬化樹脂に原版を密着させた状態で、紫外線等の光線を光硬化樹脂に照射することにより光硬化樹脂を硬化させて、光硬化樹脂に原版の微細なレリーフ構造を転写する方法が提案されている。しかしながら、係る方法において、面積が小さい原版から面積が大きい形状転写用多面版を作製するためには、光硬化樹脂に原版の微細なレリーフ構造を転写する作業を、原版と形状転写用多面版の面積比に相当する回数行う必要があり、形状転写用多面版の製造工数が増大する。
【0006】
一方、形状転写用多面版の収率は、原版の転写収率を光硬化樹脂にレリーフ構造を転写する回数だけべき乗したものとなる。よって、形状転写用多面版の生産性を向上させることを目的として転写する回数を多くすると、形状転写用多面版の収率が大きく低下するため、形状転写用多面版の生産性が低下してしまう。具体的には、原版の転写収率が99%、光硬化樹脂に6列6行の36面の転写を行う場合、形状転写用多面版の収率は、69.6%程度(形状転写用多面版の不良率は、30.4%程度)となる。また、光硬化樹脂に転写された微細なレリーフ構造の不良は修復できないため、1面でも不良が発生すると、形状転写用多面版全体が不良となる。そのため、形状転写用多面版が不良だった場合の再作製を含め合計3度の転写を行った場合に、全ての形状転写用多面版に不良が発生する確率は、3%程度となり、製造上好ましくない。
【0007】
また、形状転写用多面版を作製する他の方法として、電鋳によって、微細なレリーフ構造を記録した原版から複数の複製版を作製し、溶接等によって、複数の複製版同士を接合して形状転写用多面版を作製する方法がある。しかしながら、係る方法では、複数の複製版同士を接合する際に、複製版が溶融によって収縮するため、各複製版が配置される位置精度を高めることが困難である。したがって、形状転写用多面版に形成される複数の微細なレリーフ構造の位置精度を高めることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平8-12285号公報
【特許文献2】特許第4192597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、紫外線硬化樹脂等の光硬化樹脂に原版を密着させた状態で、紫外線等の光線を照射することにより光硬化樹脂を硬化させて原版の微細なレリーフ構造を光硬化樹脂に転写する方法では、光硬化樹脂にレリーフ構造を転写する回数が増大するため形状転写用多面版の製造工数が増大すること、および、それに伴う形状転写用多面版の収率低下が問題であった。
【0010】
また、電鋳によって、微細なレリーフ構造を記録した原版から複数の複製版を作製し、複数の複製版同士を溶接等の方法で接合して形状転写用多面版を作製する方法では、形状転写用多面版に形成される複数の微細なレリーフ構造の位置精度を高めることが困難であるという問題があった。
【0011】
本発明の一つの態様は、上記事情に鑑みて、製造工数が増大することを抑制できるとともに、複数の微細なレリーフ構造の位置精度を高めることができる形状転写用多面版の製造方法を提供することを目的の一つとする。また、本発明の一つの態様は、製造工数が増大することを抑制できるとともに、複数の微細なレリーフ構造の位置精度を高めることができる形状転写用多面版を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
【0013】
本発明の形状転写用多面版の製造方法は、照射された光に対して反射、回折、干渉、散乱、吸収、および共鳴のうちの少なくとも1つの光学的な機能を有する微細なレリーフ構造が形成された複数の版領域を有する形状転写用多面版の製造方法であって、透明基板の表面であって、第1方向に隣り合って並ぶ複数の樹脂版領域のそれぞれにおいて、前記微細なレリーフ構造が転写された光硬化樹脂が固定された樹脂版を作製する樹脂版作製工程と、前記樹脂版から、複数の電鋳版を複製する電鋳版複製工程と、複数の前記電鋳版のそれぞれを前記第1方向と交差する第2方向に並べ、複数の前記電鋳版それぞれの前記第2方向の端部同士を接合して、前記形状転写用多面版を作製する接合工程と、を有し、前記樹脂版作製工程は、複数の前記樹脂版領域のそれぞれにおいて、前記光硬化樹脂を前記透明基板に塗布する塗布工程と、前記透明基板と前記原版とを近接配置させて、原版に記録された前記微細なレリーフ構造を前記光硬化樹脂に密着させる近接配置工程と、前記光硬化樹脂に光線を照射して前記光硬化樹脂を硬化させ、前記原版を前記光硬化樹脂から剥離する転写工程と、を有する。
【0014】
本発明の形状転写用多面版は、照射された光に対して反射、回折、干渉、散乱、吸収、および共鳴のうちの少なくとも1つの光学的な機能を有する微細なレリーフ構造が形成された複数の版領域を有する形状転写用多面版であって、互いに接合される複数の電鋳版によって構成され、複数の前記電鋳版のそれぞれには、原版の前記微細なレリーフ構造が転写された複数の前記版領域が第1方向に隣り合って設けられ、複数の前記電鋳版は、前記第1方向と交差する第2方向に並び、複数の前記電鋳版それぞれの前記第2方向の端部同士が接合される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一つの態様によれば、製造工数が増大することを抑制できるとともに、複数の微細なレリーフ構造の位置精度を高めることができる形状転写用多面版の製造方法を提供できる。
具体的には、微細なレリーフ構造の光硬化樹脂への転写の収率、および電鋳版同士を接合する収率のそれぞれを99%とした場合、形状転写用多面版を36面付けとするには、6回の転写と5回の接合を行うため、形状転写用多面版の収率を、89.5%程度(不良率は、10.5%程度)に高めることができる。また、不良が発生した際の再作製を含めて合計3度の製造を行った場合に、全ての形状転写用多面版に不良が発生する確率を、0.1%程度に抑えることができる。したがって、より確実に形状転写用多面版を製造できる。
また、樹脂版に転写された微細なレリーフ構造の不良を検知できる場合、不良を含んだ電鋳版同士を接合する前に、不良を含んだ電鋳版を除外できるため、さらに収率を高めることができる。
また、本発明の一つの態様によれば、製造工数が増大することを抑制できるとともに、複数の微細なレリーフ構造の位置精度を高めることができる形状転写用多面版を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係る形状転写用多面版の製造方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の第1実施形態に係る樹脂版を示す正面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る樹脂版作製工程の手順を示す斜視図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る樹脂版作製工程を示す側面から見た第1の図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る樹脂版作製工程を示す側面から見た第2の図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る樹脂版作製工程を示す側面から見た第3の図である。
図7】本発明の第1実施形態に係る樹脂版作製工程を示す側面から見た第4の図である。
図8】本発明の第1実施形態に係る樹脂版作製工程を示す側面から見た第5の図である。
図9】本発明の第1実施形態に係る樹脂版作製工程を示す側面から見た第6の図である。
図10】本発明の第1実施形態に係る元版を示す正面図である。
図11】本発明の第1実施形態に係る形状転写用多面版を示す正面図である。
図12】本発明の第1実施形態に係る接合工程の手順を示す斜視図である。
図13】本発明の第1実施形態に係る形状転写用多面版の拡大正面図である。
図14】本発明の第1実施形態に係る形状転写用多面版の拡大背面図である。
図15】本発明の第1実施形態の変形例に係る形状転写用多面版の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る形状転写用多面版の製造方法および形状転写用多面版について説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面では、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0018】
以下の説明において、各図には適宜、第1方向D1を示す。第1方向D1は、以下に説明する実施形態の透明基板において複数の樹脂版領域が並んで配置される方向である。第1方向D1は、フィルムへの転写時における搬送方向、すなわちロールに巻いた時の周方向とできる。
【0019】
以下の説明において、各図には適宜、第2方向D2を示す。第2方向D2は、形状転写用多面版を構成する複数の電鋳版が並んで配置される方向であり、第1方向D1と交差する方向である。本実施形態において、第2方向D2は、第1方向D1と直交する方向である。以下の説明では、第2方向D2の矢印が向く側(+D2側)を「第2方向D2の一方側」と呼ぶ。第2方向D2の矢印が向く側と反対側(-D2側)を「第2方向D2の他方側」と呼ぶ。第2方向D2は、フィルムへの転写時における幅方向、すなわちロールに巻いた時の軸方向とできる。
【0020】
以下の説明において、各図には適宜、第3方向D3を示す。第3方向D3は、透明基板、電鋳版、および形状転写用多面版の板厚方向である。第3方向D3は、第1方向D1および第2方向D2と直交する。以下の説明では、第3方向D3の矢印が向く側(+D3側)を「第3方向D3の一方側」と呼ぶ。第3方向D3の矢印が向く側と反対側(-D3側)を「第3方向D3の他方側」と呼ぶ。
【0021】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態について、図1から図14を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る形状転写用多面版10の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態の形状転写用多面版10の製造方法は、透明基板31の各樹脂版領域32に原版37の微細なレリーフ構造S1が転写された光硬化樹脂35が固定された樹脂版30を作製する樹脂版作製工程P1と、樹脂版30から、複数の微細なレリーフ構造S3が形成された複数の電鋳版20を複製する電鋳版複製工程P2と、複数の電鋳版20同士を接合して形状転写用多面版10を作製する接合工程P3と、を有する。
【0022】
原版37は、マスクブランクスにレリーフ構造を電子線等で描画し、その原版37のレジスト面に気相成長により導電性膜を形成した後、複数回の電鋳によりレリーフ構造が転写された電鋳版を作製し、余分な端部を断裁することで得られる。これにより、原版37の記録面37aにレリーフ構造を記録できる。
【0023】
図2は、本実施形態に係る樹脂版30を示す正面図である。図3は、本発明の第1実施形態に係る樹脂版作製工程P1の手順を示す斜視図である。
図2に示すように、樹脂版30は、透明基板31と、後述する原版37の微細なレリーフ構造S1が転写された複数の光硬化樹脂35によって構成される。本実施形態において、透明基板31は、第3方向D3と直交する方向に広がる板状である。第3方向D3に見て、透明基板31は正方形または長方形とできる。本実施形態において、透明基板31は、ガラス板である。透明基板31の表面には、複数の樹脂版領域32が設けられる。透明基板31の材質は、ソーダガラスまたは石英ガラスとできる。透明基板31の表面は、脱油処理やシランカップリング処理がされていてもよい。透明基板31は、g線やh線を50%以上透過するものとしてもよい。
【0024】
複数の樹脂版領域32は、第1方向D1に沿って互いに隣り合って並んでいる。隣り合った樹脂版領域32は継ぎ目を介して、隣接してもよい。各樹脂版領域32は、透明基板31の表面の一部である。本実施形態において、樹脂版領域32は、6個設けられる。第3方向D3に見て、各樹脂版領域32は略正方形状である。各樹脂版領域32のうち、2つの辺は第1方向D1に延び、他の2つの辺は第2方向D2に延びている。本実施形態において、樹脂版領域32の各辺の寸法は、15cm程度である。樹脂版領域32の各辺の寸法は、後述する原版37の微細なレリーフ構造S1が形成される領域の各辺の寸法と略同じ寸法か、または大きい。樹脂版領域32の全面または一部には、微細なレリーフ構造が形成されている。また、樹脂版領域32の各辺の寸法は、原版37に微細なレリーフ構造S1を記録する図示しない電子線描画装置において用いる版の寸法より小さい寸法とできる。透明基板31に設けられる樹脂版領域32の個数は、6個に限定されず、5個以下でもよく、7個以上でもよい。樹脂版領域32の個数は、4個以上、15個以下としてもよい。透明基板31に設けられる樹脂版領域32の個数は、原版37の寸法と形状転写用多面版10の寸法との比率等によって決めることができる。複数の樹脂版領域32のそれぞれには、原版37の微細なレリーフ構造S1が転写された光硬化樹脂35が固定されている。
【0025】
図4は、本実施形態に係る樹脂版作製工程P1を示す側面から見た第1の図である。図5は、本実施形態に係る樹脂版作製工程P1を示す側面から見た第2の図である。図6は、本実施形態に係る樹脂版作製工程P1を示す側面から見た第3の図である。図7は、本実施形態に係る樹脂版作製工程P1を示す側面から見た第4の図である。図8は、本実施形態に係る樹脂版作製工程P1を示す側面から見た第5の図である。図9は、本実施形態に係る樹脂版作製工程P1を示す側面から見た第6の図である。
【0026】
図1に示すように、樹脂版作製工程P1は、複数の樹脂版領域32のそれぞれにおいて、光硬化樹脂35を透明基板31に塗布する塗布工程P11と、透明基板31と原版37とを近接配置し原版37に記録された微細なレリーフ構造S1を光硬化樹脂35に密着させる近接配置工程P12と、光硬化樹脂35に光線77を照射して光硬化樹脂35を硬化させた後に、原版37を光硬化樹脂35から剥離する転写工程P13と、を有する。
【0027】
図4に示すように、塗布工程P11では、シランカップリング処理された透明基板31の成形面31aの樹脂版領域32に未硬化の前駆体35aを塗布する。シランカップリング処理は、硬化した光硬化樹脂35bが透明基板31に密着し易くするための処理である。シランカップリング処理は、透明基板31の成形面31aにシランカップリング処理剤34を塗布する処理とできる。シランカップリング処理剤34の塗布は、スピンコート、ディッピング、またはスプレー加工とできる。シランカップリング処理剤34は、光硬化樹脂35に合わせて選択してもよいし、汎用品でもよい。本実施形態において、光硬化樹脂35は、アクリル、ウレタン、シリコーンのいずれか、その混合またはそのコポリマーとできる。前駆体35aは、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれかまたはその混合とできる。光硬化樹脂35の粘度は、8mPa・s以上、1000mPa・s以下の範囲が好ましい。
【0028】
図5に示すように、近接配置工程P12では、原版37を保持する昇降ヘッド76を透明基板31の第3方向D3の一方側(+D3側)から第3方向D3の他方側(-D3側)に移動させ、微細なレリーフ構造S1が記録された原版37の記録面37aと透明基板31の成形面31aとが平行になるように、原版37を透明基板31に近接配置させて、原版37の記録面37aと未硬化の前駆体35aとを密着させる。これにより、原版37に記録された微細なレリーフ構造S1を光硬化樹脂35に密着させる。なお、原版37と透明基板31との間の間隔は、硬化した光硬化樹脂35の厚さとなる。光硬化樹脂35の厚さは、3μm~300μmの範囲が好ましい。
【0029】
本実施形態において、原版37の材質はニッケルである。原版37の厚さは、30μm以上、1000μm以下の範囲が好ましい。図示は省略するが、原版37の記録面37aに記録される微細なレリーフ構造S1が形成された領域は方形である。本実施形態において、微細なレリーフ構造S1が形成された領域の長辺は、5cm以上、20cm以下とできる。
【0030】
図5に示すように、転写工程P13では、まず、前駆体35aに光線77を照射して、前駆体35aを硬化させる。本実施形態において、光線77は、紫外線レーザビームである。紫外線レーザ71としては、He-Cdレーザや、LD励起固体レーザ等を用いることができる。He-Cdレーザでは325nm、442nm、LD励起固体レーザでは343nm以上、355nm以下の波長の紫外線を利用できる。図3に示すように、紫外線レーザ71から発信した光線77は、ミラー72において反射し、シャッタ73を通過する。このとき、光線77の形状は、第2方向D2に長いスリット状に成形される。シャッタ73を通過した光線77は、Xスキャナ74によって駆動されるミラー74aに入射する。これにより、光線77は第1方向D1に走査される。Xスキャナ74により走査された光線77は、Yスキャナ75のミラー75aに入射し、第2方向D2に走査されて、透明基板31の成形面31aとは反対の面に入射する。なお、図3では、原版37と前駆体35aとが第3方向D3に離れた状態を図示しているが、実際に光線77を照射する際には、図5に示すように、原版37の微細なレリーフ構造S1が記録された記録面37aと前駆体35aとは密着している。
【0031】
透明基板31に入射した光線77は、透明基板31を第3方向D3の他方側(-D3側)から第3方向D3の一方側(+D3側)に通過し、未硬化の前駆体35aに照射されると、光線77が照射された未硬化の前駆体35aは硬化する。上述のように、未硬化の前駆体35aを照射する光線77は、スリット状であり、Xスキャナ74によって、スリット方向と略直交する第1方向D1に走査され、Yスキャナ75によって、第2方向D2に走査される。これにより、1つの樹脂版領域32全体に光線77が照射されると、図6に示すように、1つの樹脂版領域32に硬化した光硬化樹脂35bが固定される。
【0032】
次に、昇降ヘッド76を、第3方向D3の一方側(+D3側)に移動させて、原版37を光硬化樹脂35から剥離すると、原版37の微細なレリーフ構造S1が光硬化樹脂35に転写される。なお、光硬化樹脂35に転写された微細なレリーフ構造S2は、原版37の微細なレリーフ構造S1が第3方向D3に反転した形状である。上述のように、透明基板31の成形面31aは、シランカップリング処理剤34によりシランカップリング処理されているため、光硬化樹脂35は透明基板31に密着し易い。したがって、原版37を光硬化樹脂35から剥離する際に、光硬化樹脂35が透明基板31から剥がれることを抑制できる。
【0033】
次に、光硬化樹脂35が固定された樹脂版領域32と隣り合う樹脂版領域32において、塗布工程P11、近接配置工程P12、および転写工程P13を行って、係る樹脂版領域32に原版37の微細なレリーフ構造S1が転写された光硬化樹脂35を固定する。つまり、図7に示すように、上述の塗布工程P11によって、係る樹脂版領域32に、未硬化の前駆体35aを塗布し、図8に示すように、上述の近接配置工程P12によって、原版37に記録された微細なレリーフ構造S1を未硬化の前駆体35aに密着させ、上述の転写工程P13によって、未硬化の前駆体35aに光線77を照射して未硬化の前駆体35aを硬化させた後に、図9に示すように、原版37を光硬化樹脂35から剥離する。これにより、係る樹脂版領域32に、原版37の微細なレリーフ構造S1が転写された光硬化樹脂35が固定される。以後は、他の樹脂版領域32のそれぞれに原版37の微細なレリーフ構造S1が転写された光硬化樹脂35を固定すると、図2に示す樹脂版30が作製され、樹脂版作製工程P1は終了する。
【0034】
上述の樹脂版作製工程P1で作成された樹脂版30では、各樹脂版領域32が1つの透明基板31の成形面31aに設けられるため、第3方向D3において、各樹脂版領域32それぞれの第3方向D3の一方側(+D3側)を向く面の位置がばらつくことを抑制できる。つまり、各光硬化樹脂35間の段差を小さくできる。また、樹脂版作製工程P1において、各光硬化樹脂35の硬化収縮は起こるが、樹脂版30の透明基板31は収縮しないため、第1方向D1および第2方向D2において、各光硬化樹脂35に転写された微細なレリーフ構造S2同士の位置精度を高めることができる。これらにより、樹脂版30に設けられた複数の微細なレリーフ構造S2の位置精度を高めることができる。さらに、図8に示すように、上述の近接配置工程P12によって、原版37の記録面37aと前駆体35aとを密着させる作業を、既に硬化させた樹脂版領域32の第1方向D1に隣り合う樹脂版領域32において行うことができる。そのため、各光硬化樹脂35同士の間において、第2方向D2に延びる筋の発生を抑制できる。なお、原版37の微細なレリーフ構造S1が転写されている樹脂版領域32は方形状であり、係る領域の長辺は1cm以上、20cm以下である。
【0035】
本実施形態によれば、転写工程P13において、スリット状の光線77を光硬化樹脂35に照射し、光線77の照射位置をスリット方向と略直交する方向に移動させ、光硬化樹脂35を順次硬化させる。よって、前駆体35aがスリット状に硬化するため、前駆体35aが硬化により収縮しても、収縮した体積に相当する未硬化の前駆体35aが未硬化部分から硬化収縮により生じたスペースに供給されるため、光硬化樹脂35の硬化収縮による歪みが抑制される。したがって、硬化した光硬化樹脂35にマイクロクラックが発生することを好適に抑制できる。このため、マイクロクラック等がない外観上の品質に優れた微細なレリーフ構造を形成できる。
【0036】
本実施形態では、原版37は、電子線描画装置により微細なレリーフ構造S1を描画し、微細なレリーフ構造S1上に金属を気相成長させた導電膜が形成された基版から複数回の電鋳によりその微細なレリーフ構造S1が転写し製造できる。この基板のレジストは、スピンコートで塗布され、この基板は、通常は、描画装置やレジストの塗布の容易性から5inch四方や20cm四方のものが用いられるため、原版37のサイズはこの基板のサイズに限定されてしまう。そのため、ロールの全周分の微細なレリーフ構造を描画した原版37は、現実的ではない。
【0037】
図10は、本発明の第1実施形態に係る元版25を示す正面図である。図11は、本発明の第1実施形態に係る形状転写用多面版10を示す正面図である。
電鋳版複製工程P2では、樹脂版30から、複数の電鋳版20を複製する。本実施形態の電鋳版複製工程P2では、樹脂版30の表面にエラストマーを塗布し、エラストマーにより図10に示す元版25を作製する元版作製工程P21と、元版25から、電鋳により図11に示す複数の電鋳版20を作製する電鋳版作製工程P22と、を有する。電鋳版作製工程P22において作製する電鋳版20の個数は6個である。
【0038】
元版作製工程P21では、まず、図示は省略するが、樹脂版30の表面に未硬化のエラストマーを塗布する。エラストマーとしては、例えば、シリコーンゴムおよびウレタンゴム等の熱硬化性エラストマーとできる。本実施形態では、エラストマーとして、シリコーンゴムを用いた。次に、エラストマーを加熱することによってエラストマーを硬化させた後に、樹脂版30からエラストマーを剥離すると、図10に示すエラストマー製の元版25が作製される。元版25は、複数の元版領域26を有する。複数の元版領域26は、第1方向D1に沿って互いに隣り合って並んでいる。元版25は、6個の元版領域26を有する。各元版領域26には、複数の微細なレリーフ構造が形成されている。これにより、元版25には、第1方向D1に並ぶ複数の微細なレリーフ構造が形成される。元版25に形成された複数の微細なレリーフ構造のそれぞれは、原版37の微細なレリーフ構造S1と同じ形状である。元版25が作製されると、元版作製工程P21は終了する。
【0039】
元版25の厚さは、50μm以上、1000μm以下であることが好ましい。元版25は、方形状である。より詳細には、元版25は、長辺が第1方向D1に延びる略長方形状である。電鋳版20の長辺は、20cmより長く、好ましくは30cm以上であり、より好ましくは50cm以上である。また、電鋳版20の長辺は、1m以下としてもよい。
【0040】
電鋳版作製工程P22では、まず、図示は省略するが、元版25の表面に導電性膜を形成する。導電性膜は、気相成長によって形成できる。気相成長は、物理気相成長、または化学気相成長とできる。物理気相成長は、スパッタリングや蒸着とできる。導電性膜を構成する材料は、金属とできる。金属としては、例えば、ニッケル、アルミニウム、銀、銅、プラチナ等を用いることができる。導電性膜は、単層または多層とできる。
【0041】
次に、導電性膜を形成した元版25に電鋳を行って、図11に示すニッケル製の電鋳版20を作製した後に、電鋳版20を元版25から剥離する。本実施形態において、電鋳版20の厚さは、50μm以上、1000μm以下の範囲が好ましい。電鋳版20は、方形状である。より詳細には、電鋳版20は、長辺が第1方向D1に延びる略長方形状である。電鋳版20の長辺は20cmより長く、好ましくは30cm以上であり、より好ましくは50cm以上である。また長辺は、1m以下としてもよい。電鋳版20には、複数の版領域21が設けられる。本実施形態において、電鋳版20には、6個の版領域21が設けられる。複数の版領域21は、第1方向D1に隣り合って設けられる。複数の版領域21は、継ぎ目を介して隣接する。
【0042】
各版領域21には、微細なレリーフ構造S3が形成されている。微細なレリーフ構造S3は、原版37の微細なレリーフ構造S1が第3方向D3に反転した形状である。各版領域21の微細なレリーフ構造S3は、照射された光に対して反射、回折、干渉、散乱、吸収、および共鳴のうちの少なくとも1つの光学的な機能を有する。以後は、元版25の表面に導電性膜を形成した後に電鋳を行って電鋳版20を作製する作業を繰り返し行い、6個の電鋳版20が作製されると、電鋳版作製工程P22は終了する。なお、電鋳版20を作製する方法は、電鋳に限定されず、例えば、化学鍍金等の他の方法であってもよい。また、電鋳版20は、樹脂版30の表面に電鋳を行った際に作製される図示しないプレ電鋳版の第2方向D2に延びたバリを各版領域21の第1方向D1に沿ってレーザカットによって切断して作製される。これにより、各版領域21の第2方向D2の両端が、電鋳版20の第2方向D2の両端に位置する。
【0043】
本実施形態によれば、電鋳版複製工程P2は、樹脂版30の表面にエラストマーを塗布し、エラストマーにより元版25を作製する元版作製工程P21と、元版25から、電鋳により複数の電鋳版20を作製する電鋳版作製工程P22と、を有する。上述のように、樹脂版30では、複数の微細なレリーフ構造S2の位置精度を高めることができるとともに、各光硬化樹脂35同士の間に第2方向D2に延びる筋が発生することを抑制できる。したがって、電鋳版20においても、複数の微細なレリーフ構造S3の位置精度を高めることができるとともに、複数の微細なレリーフ構造S3同士の間に第2方向D2に延びる筋が発生することを抑制できる。
【0044】
樹脂版30に電鋳を行って電鋳版を作製する場合では、ニッケル製の電鋳版の硬度に対して光硬化樹脂35の硬度は小さいため、樹脂版30から電鋳版を剥離する際に、光硬化樹脂35に形成されている微細なレリーフ構造S2に欠陥が発生し易い。樹脂版30の微細なレリーフ構造S2に欠陥が発生すると、新たな樹脂版30を追加的に作製する必要が生じるため、形状転写用多面版10の製造工数が増大する。これに対して、本実施形態では、元版25はニッケルよりも硬度が小さいエラストマーによって構成されるため、樹脂版30から元版25を剥離する際に、光硬化樹脂35に形成されている微細なレリーフ構造S2に欠陥が発生することを抑制できる。よって、1つの樹脂版30を繰り返し使用できるため、新たな樹脂版30を追加的に作製する工数を抑制できる。したがって、形状転写用多面版10の製造工数が増大することを抑制できる。
【0045】
また、本実施形態では、元版25は、樹脂版30の光硬化樹脂35よりも硬度が大きいエラストマー製であるため、元版25から電鋳版20を剥離する際に、元版25に形成されている微細なレリーフ構造に欠陥が発生することを抑制できる。よって、1つの元版25から複数の電鋳版20を作製しても、複数の電鋳版20の微細なレリーフ構造S3に欠陥が発生することを抑制できる。したがって、形状転写用多面版10の製造工数が増大することを抑制できるとともに、形状転写用多面版10の品質を高めることができる。
【0046】
図11に示すように、本実施形態において、形状転写用多面版10は、長辺が第1方向D1に延びる略長方形状である。形状転写用多面版10は、互いに接合された複数の電鋳版20によって構成される。本実施形態において、形状転写用多面版10は、6個の電鋳版20によって構成される。上述のように、各電鋳版20のそれぞれには、第1方向D1に並ぶ6個の版領域21が設けられる。したがって、形状転写用多面版10は、36個の版領域21を有する。複数の電鋳版20は、第2方向D2に並ぶ。互いに第2方向D2に隣り合って並ぶ2つの電鋳版20のうち、第2方向D2の他方側(-D2側)に位置する電鋳版20の第2方向D2の一方側(+D2側)の端部22aと、第2方向D2の一方側に位置する電鋳版20の第2方向D2の他方側の端部22bとが接合される。電鋳版20同士が接合された部分である接合部23は、第1方向D1に延びる。形状転写用多面版10には、5個の接合部23が形成される。
【0047】
図12は、本発明の第1実施形態に係る接合工程P3の手順を示す斜視図である。図13は、本発明の第1実施形態に係る形状転写用多面版10の拡大正面図である。図14は、本発明の第1実施形態に係る形状転写用多面版10の拡大背面図である。
接合工程P3では、複数の電鋳版20を接合して、形状転写用多面版10を作製する。図12に示すように、本実施形態では、複数の電鋳版20それぞれの第2方向D2の端部同士をレーザ溶接によって接合する。なお、複数の電鋳版20の接合は、半田付け等の蝋付け、電気溶接およびガス溶接などの他の溶接方法であってもよいが、接合部23は形状転写用多面版10に形状として残るため、接合部23の幅は狭いことが好ましく、狭い幅での溶接が可能なレーザ溶接が適している。また、レーザ溶接には、ビームを小さく絞り込むことが可能であるLD励起のファイバーレーザが適している。
【0048】
接合工程P3では、複数の電鋳版20それぞれの第2方向D2の端部同士が接するように、複数の電鋳版20を平面上に配置する。なお、図12では説明の簡略化のため、2つの電鋳版20のみを図示している。ファイバーレーザ81から発信したレーザ光85は、ミラー82において反射して、シャッタ83を通過し、スキャナ84のミラー84aに入射する。ミラー84aに入射したレーザ光85は、スキャナ84によって、電鋳版20同士が互いに接触する部分に沿うように走査される。これにより、2つの電鋳版20それぞれの第2方向D2の端部同士が接合される。この後、他の複数の電鋳版20それぞれの第2方向D2の端部同士を順次接合すると、図11に示す形状転写用多面版10が作製され、接合工程P3は終了する。なお、本実施形態において、レーザ光85は、電鋳版20の微細なレリーフ構造S3が形成された第3方向D3の一方側(+D3側)を向く面とは反対側の第3方向D3の他方側(-D3側)を向く面に照射される。これにより、電鋳版20の第3方向D3の一方側を向く面が溶融することを抑制できる。そのため、図13に示す電鋳版20の第3方向D3の一方側を向く面側の接合部23の幅を、図14に示す電鋳版20の第3方向D3の他方側を向く面側の接合部23の幅よりも狭くできる。したがって、電鋳版20の溶融によって、微細なレリーフ構造S3が欠損することを抑制できる。
【0049】
また、本実施形態では、上述のように、各電鋳版20において、複数の微細なレリーフ構造S3の位置精度を高めることができる。したがって、形状転写用多面版10においても、第1方向D1に並ぶ複数の微細なレリーフ構造S3の位置精度を高めることができる。また、上述のように、各光硬化樹脂35同士の間に第2方向D2に延びる筋の発生を抑制できるため、図13に示すように、電鋳版20の複数の微細なレリーフ構造S3同士の間を第2方向D2に延びる筋24の幅を狭くできるとともに、図示は省略するが筋24の深さを浅くできる。
【0050】
本実施形態によれば、接合工程P3において、複数の電鋳版20をレーザ溶接により接合する。したがって、接合部23の幅を狭くすることができるとともに、接合部23の凹凸を小さくできる。したがって、接合工程P3における電鋳版20の溶融によって、電鋳版20に形成された微細なレリーフ構造S3が欠損することを抑制できる。
【0051】
なお、本実施形態の接合工程P3では、電鋳版20に対するレーザ光85の走査をスキャナ84で行っているが、例えば、電鋳版20を保持する図示しないステージを移動させて、レーザ光85に対して電鋳版20を走査してもよいし、ファイバーレーザ81自体を移動させることによって走査してもよい。
【0052】
本実施形態によれば、形状転写用多面版10の製造方法は、透明基板31の表面であって、第1方向D1に隣り合って並ぶ複数の樹脂版領域32のそれぞれにおいて、微細なレリーフ構造が転写された光硬化樹脂35が固定された樹脂版30を作製する樹脂版作製工程P1と、樹脂版30から、複数の電鋳版20を複製する電鋳版複製工程P2と、複数の電鋳版20それぞれを第1方向D1と交差する第2方向D2に並べ、複数の電鋳版20それぞれの第2方向D2の端部同士を接合して、形状転写用多面版10を作製する接合工程P3と、を有する。よって、上述のように、樹脂版作製工程P1において、樹脂版30に設けられた複数の微細なレリーフ構造S2の位置精度を高めることができるため、電鋳版複製工程P2において、樹脂版30を用いて電鋳によって作製される複数の電鋳版20のそれぞれに形成される複数の微細なレリーフ構造S3の位置精度を高めることができる。したがって、形状転写用多面版10に形成される複数の微細なレリーフ構造S3の位置精度を高めることができる。
【0053】
また、樹脂版作製工程P1において、樹脂版30には、第1方向D1に並ぶ1列分の微細なレリーフ構造S1のみが形成される。そのため、樹脂版30に、第1方向に並ぶ微細なレリーフ構造S1に加えて、第2方向D2に並ぶ微細なレリーフ構造S1を形成する場合と比較して、樹脂版作製工程P1の工数が増大することを抑制できる。さらに、接合工程P3において、1回の接合によって、各電鋳版20の形成された第1方向D1に並ぶ1列分の微細なレリーフ構造S3同士を第2方向D2に接合できるため、接合工程P3の工数が増大することを抑制できる。したがって、形状転写用多面版10の製造工数が増大することを抑制できる。
【0054】
本実施形態では、上述のように、樹脂版作製工程P1において、第1方向D1に隣り合う複数の各樹脂版領域32に固定される光硬化樹脂35同士を第1方向D1に接触させることができるため、各光硬化樹脂35同士の間に第2方向D2に延びる筋が発生することを抑制できる。したがって、形状転写用多面版10において、第1方向D1に隣り合う微細なレリーフ構造S3の同士の間に第2方向D2に延びる筋24の幅を狭くできるとともに筋24の深さを浅くできる。
【0055】
本実施形態では、電鋳版複製工程P2において、元版25から電鋳を行うことによって、第1方向D1に並ぶ複数の微細なレリーフ構造S3が形成された電鋳版20を複製できる。そのため、1つの微細なレリーフ構造S3のみが形成された複製版同士を第1方向D1に接合して電鋳版を作製する場合に問題になる、接合時の複製版の溶融収縮に起因する微細なレリーフ構造S3の位置精度の低下が発生しない。したがって、電鋳版20に形成される複数の微細なレリーフ構造S3の位置精度を高めることができる。そのため、形状転写用多面版10の複数の微細なレリーフ構造S3の位置精度が高められる。また、複数の電鋳版20のそれぞれを、長辺が30cm以上、150cm以下の方形状にできる。
【0056】
本実施形態によれば、原版37の微細なレリーフ構造S1は、電子線描画装置により作製される。原版37は、方形状、特に正方形でありその一辺は5cm以上20cm以下とできる。原版37の微細なレリーフ構造S1はレジストが塗布された基板上に、電子線で描画することができる。複数の電鋳版20の短辺は、5cm以上20cm以下とできる。
【0057】
本実施形態によれば、形状転写用多面版10は、照射された光に対して反射、回折、干渉、散乱、吸収、および共鳴のうちの少なくとも1つの光学的な機能を有する微細なレリーフ構造が形成された複数の版領域21を有する形状転写用多面版10であって、互いに接合される複数の電鋳版20によって構成され、複数の電鋳版20のそれぞれには、原版37の微細なレリーフ構造S1が形成された複数の版領域21が第1方向D1に隣り合って設けられ、複数の電鋳版20は、第2方向D2に並び、複数の電鋳版20それぞれの第2方向D2の端部22a,22b同士が接合される。よって、2つの電鋳版20を1回接合することによって、第1方向D1に並ぶ1列分の微細なレリーフ構造S3同士を第2方向D2に接合できるため、形状転写用多面版10を作製する工数を短縮できる。また、1つの微細なレリーフ構造が形成された電鋳版同士を第1方向D1および第2方向D2それぞれに接合して形状転写用多面版を作製する場合と比較して、電鋳版同士を接合する箇所を低減できるため、接合の際に発生する電鋳版の溶融収縮を抑制でき、形状転写用多面版10の複数の微細なレリーフ構造S3の位置精度を高めることができる。また、第1方向D1に並ぶ微細なレリーフ構造S3同士の間に接合部が形成されないため、第1方向D1に並ぶ微細なレリーフ構造S3同士の間において第2方向D2に延びる凹凸が発生することを抑制できる。
【0058】
なお、原版37の微細なレリーフ構造S1は、表面レリーフ型ホログラムであってもよい。この場合、従来の転写方法では転写成形が困難であった、高空間周波数の表面レリーフ型ホログラムを、回折効率の低下なく高精度に転写成形することが可能な形状転写用多面版10を作製できる。
【0059】
なお、原版37の微細なレリーフ構造S1は、回折格子であってもよい。この場合、従来の転写方法では転写成形が困難であった、高空間周波数の回折格子を、回折効率の低下なく高精度に転写成形することが可能な形状転写用多面版10を作製できる。
【0060】
なお、回折格子は、鋸刃状のブレーズド型回折格子であってもよい。この場合、従来の転写方法では転写成形が困難であった、鋸刃状のブレーズド型回折格子を、回折効率の低下なく高精度に転写成形することが可能な形状転写用多面版10を作製できる。
【0061】
なお、原版37の微細なレリーフ構造S1は、マイクロレンズアレイであってもよい。この場合、従来の転写方法では転写成形が困難であった、マイクロレンズアレイ形状を、変形なく高精度に転写成形することが可能な形状転写用多面版10を作製できる。
【0062】
以上、説明した形状転写用多面版10の作製方法で作製した形状転写用多面版10でエンボス加工を施す際には、形状転写用多面版10をシリンダロールに巻き付けることで、連続エンボス加工が可能となる。
【0063】
<第1実施形態の変形例>
図15は、第1実施形態の変形例に係る形状転写用多面版10の製造方法を示すフローチャートである。以下の説明において、上述の第1実施形態と同一態様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略する。
本変形例の形状転写用多面版10の製造方法は、樹脂版30を作製する樹脂版作製工程P1と、樹脂版30から、複数の微細なレリーフ構造S3が形成された複数の電鋳版を複製する電鋳版複製工程P202と、複数の電鋳版同士を接合して形状転写用多面版10を作製する接合工程P3と、を有する。本変形例の樹脂版作製工程P1および接合工程P3は、上述の第1実施形態の樹脂版作製工程P1および接合工程P3と同様の工程である。
【0064】
電鋳版複製工程P202では、樹脂版30から、複数の電鋳版を複製する。電鋳版複製工程P202は、樹脂版30の表面に導電性膜を形成した後に、電鋳により元版を作製する元版作製工程P2021と、元版から、電鋳により複数の電鋳版を作製する電鋳版作製工程P2022と、を有する。電鋳版作製工程P2022において作製する電鋳版の個数は6個である。
【0065】
元版作製工程P2021では、まず、図示は省略するが、上述の第1実施形態において元版25に導電性膜を形成した手法と同様の手法により、樹脂版30の表面に導電性膜を形成する。次に、導電性膜を形成した樹脂版30に電鋳を行い、ニッケル製の元版を作製する。図示は省略するが、元版には、第1方向D1に並ぶ複数の微細なレリーフ構造が形成されている。元版に形成された複数の微細なレリーフ構造のそれぞれは、原版37の微細なレリーフ構造S1と同じ形状である。元版が作製されると、元版作製工程P2021は終了する。
【0066】
電鋳版作製工程P2022では、まず、元版の表面に酸化被膜を形成する。本変形例において、酸化被膜は、元版の表面にクロム酸による酸化処理を行うことによって形成される。次に、酸化被膜を形成した元版に電鋳を行い、ニッケル製の反転電鋳版を作製する。その後、反転電鋳版は、元版から剥離される。反転電鋳版には、第1方向D1に並ぶ複数の微細なレリーフ構造が形成される。反転電鋳版に形成された複数の微細なレリーフ構造のそれぞれは、原版37の微細なレリーフ構造S1が第3方向D3に反転した形状である。
【0067】
次に、反転電鋳版の表面に上記の方法と同様の方法によって酸化被膜を形成した後に電鋳を行い、ニッケル製の電鋳版を作製する。その後、電鋳版を反転電鋳版から剥離する。電鋳版には、第1方向D1に並ぶ複数の微細なレリーフ構造が形成されている。電鋳版に形成された複数の微細なレリーフ構造のそれぞれは、原版37の微細なレリーフ構造S1と同じ形状である。本変形例の電鋳版のその他の構成等は、上述の第1実施形態の電鋳版20のその他の構成等と同一である。以後は、反転電鋳版の表面に酸化被膜を形成した後に電鋳を行って電鋳版を作製し、係る電鋳版を反転電鋳版から剥離する作業を繰り返し行う。6個の電鋳版が作製されると、電鋳版複製工程P202は終了する。
【0068】
接合工程P3では、上述の第1実施形態の接合工程P3と同様の方法によって、複数の電鋳版それぞれを第2方向D2に並べ、複数の電鋳版それぞれの第2方向D2の端部同士を接合することによって、図11に示す形状転写用多面版10を作製する。
【0069】
本変形例によれば、電鋳版複製工程P202は、樹脂版30の表面に導電性膜を形成した後に、電鋳により元版を作製する元版作製工程P2021と、元版から、電鋳により複数の電鋳版を作製する電鋳版作製工程P2022と、を有する。樹脂版30の光硬化樹脂35の硬度は、ニッケル製の元版の硬度よりも小さいため、元版作製工程P2021では、樹脂版30から元版を剥離する際に、光硬化樹脂35に転写された微細なレリーフ構造S2に欠陥が発生する虞がある。そのため、樹脂版30から複数の電鋳版を作製する場合、電鋳版に形成される微細なレリーフ構造に欠陥が発生し易い。また、樹脂版30に欠陥が発生すると、新たな樹脂版30を追加的に作製する必要が生じるため、形状転写用多面版10の製造工数が増大する。しかしながら、本変形例では、樹脂版30から元版を作製する元版作製工程P2021が行われる回数は1回のみであるため、元版に形成された微細なレリーフ構造に欠陥が発生することを抑制できる。したがって、新たな樹脂版30を追加的に作製する必要が無いため、形状転写用多面版10の製造工数が増大することを抑制できる。
【0070】
また、上述のように、本変形例において、反転電鋳版は硬度が大きなニッケル製であるため、電鋳版作製工程P2022において、反転電鋳版から電鋳版を剥離する際に、反転電鋳版に形成された微細なレリーフ構造に欠陥が発生することを抑制できる。よって、反転電鋳版から複数の電鋳版を作製しても、複数の電鋳版それぞれの微細なレリーフ構造に欠陥が発生することを抑制できる。したがって、形状転写用多面版10の製造工数が増大することを抑制できるとともに、形状転写用多面版10の品質を高めることができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。また、言うまでもなく、形状転写用多面版から電鋳により、レリーフ構造が転写された新たな形状転写用多面版を複版できる。
【符号の説明】
【0072】
10 形状転写用多面版
20 電鋳版
21 版領域
25 元版
30 樹脂版
31 透明基板
32 樹脂版領域
35 光硬化樹脂
37 原版
77 光線
D1 第1方向
D2 第2方向
P1 樹脂版作製工程
P11 塗布工程
P12 近接配置工程
P13 転写工程
P2,P202 電鋳版複製工程
P21,P2021 元版作製工程
P22,P2022 電鋳版作製工程
P3 接合工程
図1
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図15