(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104175
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】触媒担持カーボン、それを用いた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体および固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240726BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240726BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240726BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240726BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M4/90 M
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008272
(22)【出願日】2023-01-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桜田 雄
(72)【発明者】
【氏名】石田 貴信
(72)【発明者】
【氏名】小林 大樹
(72)【発明者】
【氏名】青木 直也
(72)【発明者】
【氏名】津田 雅史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 庸介
(72)【発明者】
【氏名】鏡 早智
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB16
5H018BB17
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE10
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH04
5H018HH05
5H018HH08
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】
高い初期活性を有し、且つ耐久性に優れた触媒担持カーボンの提供。
【解決手段】
結晶子サイズが3.5nm以上9nm以下であり、且つBET比表面積が300m
2/g以上450m
2/g以下、細孔径が5.0nm以上20.0nm以下のカーボン担体に結晶子サイズが2.5nm以上5.0nm以下、触媒の表面積が40m
2/g以上80m
2/g以下である白金又は白金合金からなる触媒粒子を担持した触媒担持カーボン。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質カーボンからなるカーボン担体に白金又は白金合金からなる触媒粒子が担持された触媒担持カーボンであって
前記触媒担持カーボンのカーボン担体は、X線回折による結晶子サイズ(Lc)が3.5nm以上9nm以下であり、且つ
窒素吸着測定により測定されたBET比表面積(SSA)が300m2/g以上450m2/g以下、細孔径が5.0nm以上20.0nm以下であり、また
前記触媒担持カーボンの白金又は白金合金からなる触媒粒子は、X線回折による結晶子サイズが2.5nm以上5.0nm以下であり、且つ
COパルス吸着測定により測定された触媒粒子の表面積が40m2/g~80m2/gであることを特徴とする触媒担持カーボン。
【請求項2】
前記触媒担持カーボンは、示差熱分析により測定された空気雰囲気における燃焼温度が400℃以上、且つ
燃焼ピークの半値幅が100℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の触媒担持カーボン。
【請求項3】
前記触媒担持カーボンのカーボン担体は、X線回折による(002)面の平均面間隔d002が0.345nm以下であることを特徴とする請求項1~2に記載の触媒担持カーボン。
【請求項4】
前記触媒担持カーボンのカーボン担体は、ラマン分光法により測定されたGバンドとDバンドのピーク強度比率(G/D)が0.8以上であり、且つ
Gバンドのピーク半値幅(G-FWHM)が40cm-1以上60cm-1以下であることを特徴とする請求項1~2に記載の触媒担持カーボン。
【請求項5】
前記触媒担持カーボンは、カーボン担体に酸性官能基が表面官能基として付与されていることを特徴とする請求項1~2に記載の触媒担持カーボン。
【請求項6】
請求項1に記載の触媒担持カーボンが電極に含有されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項7】
請求項1に記載の触媒担持カーボンが膜電極接合体の電極に含有されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子形等の燃料電池、水電解装置等に用いる触媒担持カーボンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動
し高出力密度が得られる固体高分子形燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。また、水素製造のための水電解装置も注目されている。例えば、固体高分子形燃料電池は、フィルム状の固体高分子膜からなる電解質層を用いるのが特徴である。
【0003】
固体高分子形燃料電池の構成は、一般的には、膜電極接合体(以下、「MEA」と記載する。) を1対のセパレータで挟持した単電池セルを複数積層した構造となっている。MEAは、電極触媒を高分散した電極触媒層により電解質層が挟持された構造を有する。前記電極触媒層は、電極とも呼ばれている。
【0004】
前記MEAでは、以下のような電気化学的反応が進行する。まず、燃料極(アノード)側に供給された燃料ガスに含まれる水素は、触媒粒子により酸化され、プロトンおよび電子となる。次に、生成したプロトンは、電極触媒層に含まれるプロトン導電性電解質、さらに電極触媒層と接触している固体高分子膜を通り、酸素極(カソード)側電極触媒層に達する。また、アノード側電極触媒層で生成した電子は、電極触媒層を構成している導電性担体、さらに電極触媒層の固体高分子膜と異なる側に接触しているガス拡散層、ガスセパレータおよび外部回路を通してカソード側電極触媒層に達する。そして、カソード側電極触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する。燃料電池では、上述した電気化学的反応を通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。
【0005】
従来の電極触媒では、カソードおよびアノードともに、炭素を主成分とするカーボンを担体として、これに白金または白金合金等の触媒粒子を担持させた触媒担持カーボン等が用いられている。触媒担持カーボンにおける担体カーボンは、微細化された触媒粒子を高分散担持させるために、高比表面積を有するものが多く用いられている。これにより、触媒粒子表面の電極反応面積を大きくすることができ、触媒粒子の少ない担持量で十分な初期活性が得られる。
【0006】
固体高分子形燃料電池は、初期活性とともに問題となっているのが電池の寿命である。電池の寿命は、自動車で5000時間、家庭用では4万時間ともいわれ、長期にわたって高い発電性能を維持することが求められている。
【0007】
しかしながら、長時間に亘る連続運転、起動時、停止時、保管時など、固体高分子形燃料電池の運転条件により、電極が貴電位環境(約0.8V以上)となると、電極を構成する導電性担体や触媒粒子は電気化学的に酸化され腐食・消失する問題があった。このように電極として機能する部位が経時的に減少するため、結果として固体高分子形燃料電池の性能低下を招く。
【0008】
そこで、従来から高い初期活性を有し、且つ耐久性に優れた触媒担持カーボンや、長期間に亘り安定した発電性能を示すMEAに関して、様々な研究開発がなされている。
【0009】
先行技術文献1、先行技術文献2には、1.7nm~1.9nmの結晶子サイズと750
m2/g~1000m2/gの比表面積を示すカーボン担体を有する触媒担持カーボンが記載されているが、耐久性をさらに向上させることが求められている。
【0010】
先行技術文献3には、3.5nm以上の結晶子サイズと50m2/g~250m2/gの比表面積を示すカーボン担体を有する触媒担持カーボンが記載されているが、初期活性をさらに向上させることが求められている。
【0011】
先行技術文献4には、350℃以上の燃焼温度である高耐久性触媒担持カーボンが記載されているが、比表面積が250m2/g以下と低く、初期活性をさらに向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2016-146305
【特許文献2】特開2017-73357
【特許文献3】特開2016-100262
【特許文献4】特開2005-302527
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
触媒担持カーボンの初期活性を向上させるためには、高比表面積のカーボン担体と微細化された触媒粒子が好適に使用される。一方で、耐久性を向上させるためには、大きい結晶子サイズのカーボン担体と微細化されていない大粒径の触媒粒子が好適に使用される。しかし、大きい結晶子サイズと高比表面積は相反する傾向にあり、両特性を高い次元で両立させた担体例はない。そこで、本発明が目的とするところは、大きい結晶子サイズと高比表面積を両立するカーボン担体に、特定の範囲内にある結晶子サイズの触媒粒子を担持させることで、高い初期活性を有し、且つ耐久性に優れた触媒担持カーボン、その触媒担持カーボンを用いた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは炭素を含む化合物 (78Mn―22C(mol%))を溶融亜鉛金属に接
触させることにより、Mnを選択的に溶融亜鉛金属に溶出させて多孔質炭素材料を得る脱成分工程を採用し、比表面積300~450m2/gと結晶子サイズ3.5nm~9nmを有するカーボン担体を得ることができた。その特徴的な構造は高比表面積と結晶子サイズが大きいことを両立した黒鉛化が進んだ多孔質カーボン担体である点にある。前記カーボン担体に前記カーボン担体のメソ孔径以下の結晶子サイズを有する白金粒子または白金合金粒子を担持することで上記課題が解決され、高い初期活性を有し、且つ耐久性の優れた固体高分子形燃料電池等に使用できる触媒担持カーボンが得られることを見出し、本発明に至った。
【0015】
即ち、本発明は以下の(1)~(7)の各態様を有する触媒担持カーボン、触媒担持カーボンが電極に含有されている固体高分子形燃料電池用膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池である。
(1)多孔質カーボンからなるカーボン担体に白金又は白金合金からなる触媒粒子を担持させた触媒担持カーボンであって、前記触媒担持カーボンのカーボン担体は、X線回折による結晶子サイズ(LC)が3.5nm以上9nm以下であり、且つ窒素吸着測定により測定されたBET比表面積が300m2/g以上450m2/g以下、細孔径が5.0nm以上20.0nm以下であり、また、前記触媒担持カーボンの白金又は白金合金からなる触媒粒子は、X線回折による結晶子サイズが2.5nm以上5.0nm以下であり、CO
パルス吸着測定により測定された触媒粒子の表面積が45~80m2/gであることを特徴とする触媒担持カーボン。
【0016】
(2)前記触媒担持カーボンは、示差熱分析により測定された空気雰囲気における燃焼温度が400℃以上、且つ燃焼開始温度と燃焼終了温度の差が100℃以下であることを特徴とする前記(1)に記載の触媒担持カーボン。
【0017】
(3)前記触媒担持カーボンのカーボン担体は、X線回折による(002)面の平均面間隔d002が0.345nm以下であることを特徴とする前記(1)~(2)に記載の触媒担持カーボン。
(4)前記触媒担持カーボンのカーボン担体は、ラマン分光法により測定されたGバンドとDバンドのピーク強度比率(G/D)が0.8以上であり、且つGバンドのピーク半値幅(G-FWHM)が40cm-1以上60cm-1以下であることを特徴とする前記(1)~(2)に記載の触媒担持カーボン。
【0018】
(5)前記触媒担持カーボンのカーボン担体に酸性官能基が表面官能基として付与されていることを特徴とする請求項1~2に記載の触媒担持カーボン。
【0019】
(6)前記(1)記載の触媒担持カーボンが電極に含有されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【0020】
(7)前記(1)記載の触媒担持カーボンが膜電極接合体の電極に含有されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0021】
本発明の触媒担持カーボンは、結晶子サイズと比表面積を高い次元で両立するカーボン担体に特定の結晶子サイズの触媒粒子が担持されることで、高い初期活性を発現し、且つ担体の腐食消失、触媒粒子の溶出や凝集などが起こり難く、貴電位環境下や強酸性雰囲気下においても優れた耐食性が得られる。従って、高い初期活性を有し、且つ耐久性に優れた触媒担持カーボン、その触媒担持カーボンを用いた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例と比較例において得られた触媒担持カーボンのカーボン担体の結晶子サイズと比表面積の関係を表した図
【
図2】実施例と比較例において得られた触媒担持カーボンの初期活性と耐久性の関係を表した図
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形
態に限定されるものではない。
【0024】
本発明において、触媒担持カーボンのカーボン担体のX線回折による結晶子サイズ(L
c)が3.5nm以上9nm以下、且つ窒素吸着測定によるBET比表面積(SSA)は300m
2/g以上450m
2/g以下である必要がある。
図1に本発明と従来技術における触媒担持カーボンのカーボン担体の結晶子サイズ(L
c)とBET比表面積(SSA)との関係を示す。本発明における触媒担持カーボンのカーボン担体は、従来技術に対して、結晶子サイズ(L
c)とBET比表面積(SSA)を高い次元で両立させたカーボン担体である。
【0025】
カーボン担体は例えば、ホウ素、窒素、タングステン、アルミニウム、チタン等がドープされたカーボンをも含む。
【0026】
カーボン担体は例えば、次のように調製することができる。炭素を含む化合物(78Mn―22C(mol%))を600℃の溶融金属溶湯に接触させ、Mnを選択的に溶融金属溶湯に溶出させる脱成分反応を行う。1時間保持した後に炉冷し、多孔質炭素と金属成分を含む複合体から硝酸水溶液中で金属成分を除去し、ろ過・乾燥して多孔質炭素を得る。その後2000℃で加熱することにより黒鉛化処理を行う。
【0027】
本発明者らは、炭素を含む化合物 (78Mn―22C(mol%))を溶融亜鉛金属に
接触させることにより、Mnを選択的に溶融亜鉛金属に溶出させて多孔質炭素材料を得る脱成分工程後に黒鉛化処理することで、X線回折による結晶子サイズ(Lc)が3.5nm以上9nm以下と窒素吸着測定によるBET比表面積(SSA)が300m2/g以上450m2/g以下である、結晶子サイズ(Lc)とBET比表面積(SSA)を高い次元で両立したカーボン担体を実現できることを見出した。その理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のように推測している。即ち、脱成分工程中で炭素を含む化合物から溶融亜鉛金属へのMnの溶出による多孔質化と亜鉛溶湯中での炭素の表面拡散による結晶成長により、2000℃の黒鉛化処理後に高比表面積と大きい結晶子サイズを両立した。
【0028】
前記結晶子サイズ(Lc)を3.5nm以上と大きくすることで、カーボン担体の劣化を抑制でき、高い耐久性を示すことが可能となる。前記結晶子サイズ(Lc)は、カーボン六角網面の積層由来のサイズを示し、Lcが大きい程、カーボン六角網面の積層構造が厚いことを意味する。
【0029】
電極触媒におけるカーボン担体の腐食消失などは、カーボン六角網面にある不規則な構造を起点として生じ易く、そのため、カーボン六角網面の積層を増やすことでカーボン六角網面にある不規則な構造の割合を減らすことが好ましい。また、カーボン担体の積層構造が厚いことにより電子伝導性が向上し、初期活性および耐久性の両特性が向上することも期待できる。結晶子サイズは、別の態様として、3.7nm以上であることができる。また、別の態様として、結晶子サイズは、3.9nm以上であることができる。
【0030】
一方、前記結晶子サイズが9nmを超えると、後述のBET比表面積(SSA)が低下し、BET比表面積(SSA)と結晶子サイズ(Lc)を高い次元で両立することができない。結晶子サイズは、別の態様として、8.5nm以下であることができる。また、別の態様として、結晶子サイズは、8.3nm以下であることができる。
【0031】
前記BET比表面積(SSA)を300m2/g以上と高くすることで、触媒粒子を高分散に担持させることができ、高い初期活性を示すことが可能となる。
前記BET比表面積(SSA)は、触媒粒子を担持可能な面積を表し、BET比表面積(SSA)が高い程、高担持密度の触媒粒子を高分散に担持できることを意味する。
【0032】
一般に固体高分子形燃料電池用触媒担持カーボンでは、10質量%~70質量%の高担持密度で触媒粒子をカーボン担体に担持することが求められる。前記BET比表面積(SSA)を300m2/g以上と高くすることで、所望の担持密度、特に40質量%以上の触媒粒子を高分散に担持することができ、高い初期活性を示すことが可能となる。
BET比表面積(SSA)は、別の態様として、320m2/g以上であることができる。また、別の態様として、BET比表面積(SSA)は、340m2/g以上であることができる。
【0033】
電極触媒におけるカーボン担体の腐食消失などはカーボン担体と触媒粒子とが接触する部位で特に生じ易く、そのため触媒粒子が微粒子状に高分散担持された電極触媒は、却って耐食性に劣る恐れがあることが判明した。そこで、カーボン担体に担持させる触媒粒子の分散状態などを調整して、電極触媒におけるカーボン担体のBET比表面積(SSA)を適切な値に制限することが好ましい。即ち、BET比表面積(SSA)を450m2/g以下とすることにより、カーボン担体の腐食をより抑制できる。
また、BET比表面積(SSA)を450m2/gより高くすると前述の結晶子サイズ(Lc)が低下し、結晶子サイズ(Lc)とBET比表面積(SSA)を高い次元で両立することができない。BET比表面積(SSA)は、別の態様として、430m2/g以下であることができる。また、別の態様として、BET比表面積は、410m2/g以下であることができる。
【0034】
本発明の触媒担持カーボンの細孔径を5.0nm以上20.0nm以下、触媒担持カーボンの触媒粒子の結晶子サイズを2.5nm以上5.0nm以下である必要がある。触媒担持カーボンの細孔径と触媒担持カーボンの触媒粒子の結晶子サイズを前記範囲とすることで、触媒粒子がカーボン担体の細孔内に担持される構造を形成することでき、高い初期活性を示すことが可能となる。
【0035】
触媒粒子がカーボン担体の細孔内、特にメソ孔内に担持されていることにより、燃料電池用触媒電極層を形成した際に、触媒粒子とアイオノマーとの接触面積を低減することができ、これにより、例えばアイオノマーのスルホン酸基による触媒粒子の被毒を低減することができる。
【0036】
本発明の触媒担持カーボンのカーボン担体の細孔径は、窒素ガスの吸着等温線測定を採用し、BJH法による解析から算出される。ここで、「メソ孔」とは、IUPACに従えば2.0nmから50.0nmの細孔であるが、本発明においては、細孔径5.0nm以上20.0nm以下のメソ孔が重要となる。
【0037】
細孔径が5.0nm未満では、触媒粒子が細孔内に担持されず、細孔外の表面に選択的に担持され、触媒粒子とアイオノマーとの接触面積を低減することができず、初期活性の低下につながる。一方、細孔径が20.0nmより大きいと、アイオノマーが細孔内に侵入し、触媒粒子とアイオノマーとの接触面積を低減することができず、初期活性の低下につながる。即ち、カーボン担体の細孔径は触媒粒子の結晶子サイズより大きくすることが好ましく、触媒粒子の結晶子サイズの125%以上にすることがより好ましい。細孔径は、別の態様として、7nm以上、18nm以下であることができる。また、別の態様として、結晶子サイズは、9nm以上、16nm以下であることができる。
【0038】
本発明の触媒担持カーボンに含まれる触媒粒子の結晶子サイズは、Pt又はPt合金の(220)面で算出する。Pt又はPt合金の(220)面の結晶子サイズは、2.5nm以上5.0nm以下の範囲とすることができる。Pt又はPt合金の(220)面の結晶子サイズは、別の態様として、2.7nm以上、4.8nm以下であることができる。また、別の態様として、Pt又はPt合金の(220)面の結晶子サイズは、2.0nm以上、4.6nm以下であることができる。
【0039】
触媒粒子のPt又はPt合金の(220)面の結晶子サイズが前記範囲であることで、初期活性と耐久性の両立が図れる。Pt又はPt合金の(220)面の結晶子サイズが2.5nm未満の場合は、Pt又はPt合金の金属表面積が高いことに起因して初期活性の向上が見込めるが、Ptの溶解・再析出による粗大化、触媒金属粒子が担体上で移動して凝集すること等によって、耐久後の活性が低下する。Pt又はPt合金の(220)面の結晶子サイズが5.0nmより大きい場合は、Ptの溶解・再析出による粗大化、触媒金属
粒子が担体上で移動して凝集することは生じ難く、耐久性の向上は見込めるが、Pt又はPt合金の金属表面積が低いことに起因して初期活性の低下につながる。なお、「金属表面積」は、後述の「触媒粒子の表面積」である。
【0040】
ここで、触媒粒子の結晶子サイズは金属表面積と触媒担持量から算出された平均粒子径や透過型電子顕微鏡像より求めた平均粒子径と合致しており、触媒の結晶子サイズは触媒の粒子サイズを表す。即ち、触媒の粒子サイズは触媒の結晶子サイズにより決定される。
【0041】
本発明のPt又はPt合金からなる触媒粒子の表面積は、40m2/g以上80m2/g以下とすることができる。
【0042】
触媒粒子の表面積が前記範囲であることで初期活性と耐久性の両立が図れる。Pt又はPt合金からなる触媒粒子表面積が80m2/gより高い場合は、初期活性の向上が見込めるが、Ptの溶解・再析出による粗大化、触媒金属粒子が担体上で移動して凝集すること等によって、耐久後の活性が低下する。Pt又はPt合金からなる触媒粒子の表面積が45m2/gより低い場合は、Ptの溶解・再析出による粗大化、触媒金属粒子が担体上で移動して凝集することは生じ難く、耐久性の向上は見込めるが、Pt又はPt合金の金属表面積が低いことに起因して初期活性の低下につながる。Pt又はPt合金からなる触媒粒子の表面積は、別の態様として、43m2/g以上75m2/g以下であることができる。また、別の態様として、Pt又はPt合金からなる触媒粒子の表面積は、46m2/g以上70m2/g以下であることができる。
【0043】
本発明の触媒担持カーボンに含まれる触媒粒子は、白金(Pt)又は白金合金を触媒金属として含有し、前記白金合金は、通常は、Pt及び1種以上のさらなる金属からなる。この場合、白金合金を形成する1種以上のさらなる金属としては、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ガドリウム(Gd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、及びロジウム(Rh)を挙げることができる。本発明の触媒担持カーボンに含まれる触媒粒子が前記の触媒金属を含有する場合、高い活性及び高い耐久性を備える電極触媒を得ることができる。
【0044】
触媒担持カーボンに含まれる触媒粒子の組成及び担持密度は、例えば、王水を用いて、触媒担持カーボンから触媒粒子に含まれる触媒金属を溶解させた後、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて該溶液中の触媒金属イオンを定量することにより、決定することができる。
【0045】
触媒担持カーボンに含まれる触媒粒子は、10質量%以上70%質量%以下の担持密度を有すること、より好ましくは20質量%以上50%質量%以下である。本発明において、触媒粒子の担持密度は、触媒担持カーボンの総質量に対する触媒粒子の質量の百分率を意味する。
【0046】
触媒粒子の担持密度が前記範囲であることで、電極触媒層形成時にプロトン移動やガス拡散、生成される水の排水にとって好適に適用できる電極触媒層厚に制御することができる。
【0047】
前記カーボン担体は、X線回折による(002)面の平均面間隔d002が0.345nm以下とすることができる。積層方向の平均面間隔d002が黒鉛の平均面間隔である0.3335nmに近づくことでカーボン六角網面の積層構造が安定化し、カーボン担体が大気
中で高温に曝されても、構造破壊が生じ難く、カーボン担体の酸化劣化を緩和することが可能となる。X線回折による(002)面の平均面間隔d002は、別の態様として、0.3405nm以上であることができる。
【0048】
前記カーボン担体は、ラマン分光法により測定されたGバンドとDバンドのピーク強度比率(G/D)が0.8以上であることができる。GバンドとDバンドのピーク強度比率(G/D)はカーボン六角網面のエッジ部の存在割合を示し、G/Dが高い程、エッジ部の存在割合が少ない。カーボン六角網面のエッジ部は、カーボン担体の酸化劣化の起点となる部位であり、カーボン担体の酸化劣化を緩和する為には、エッジ部が少ないこと、即ち、G/Dが高いことが望ましい。ラマン分光法により測定されたGバンドとDバンドのピーク強度比率(G/D)は、別の態様として、0.84以上、2.5以下であることができる。また、別の態様として、ラマン分光法により測定されたGバンドとDバンドのピーク強度比率(G/D)は、0.9以上、2.0以下であることができる。
【0049】
前記カーボン担体は、ラマン分光法により測定されたGバンドのピーク半値幅(G-FWHM)が40cm-1以上60cm-1であることができる。G-FWHMはカーボン六角網面の積層の秩序構造体である黒鉛とカーボン六角網面の積層の乱層構造体の割合を示し、G-FWHMが小さい程、黒鉛化が進行し、黒鉛に近い構造となっている。黒鉛化が進行することで、カーボン担体の劣化の起点となる不規則な構造を減らし、構造均一性を高めることができる。即ち、黒鉛化を促進させることで、カーボン担体の酸化劣化を緩和することが可能となる。ラマン分光法により測定されたGバンドのピーク半値幅(G-FWHM)は、別の態様として、41cm-1以上59cm-1以下であることができる。また、別の態様として、ラマン分光法により測定されたGバンドのピーク半値幅(G-FWHM)は、42cm-1以上58cm-1以下であることができる。
【0050】
ここで酸化劣化の緩和と構造均一性は、カーボン担体の大気雰囲気中での燃焼温度と燃焼ピークの半値幅によって表すことができる。燃焼温度は大気雰囲気中でのカーボン担体の重量が急激に減少する温度、燃焼ピークの半値幅は大気雰囲気中でカーボン担体の重量が急激に減少し始める燃焼温度と重量減少が始まる燃焼開始温度の差により決定する。
【0051】
本発明における触媒担持カーボンの燃焼温度は400℃以上、且つ燃焼ピークの半値幅が100℃以下であることができる。燃焼温度が400℃未満、又は燃焼ピークの半値幅が100℃より大きいと、十分な耐食性が確保できず、耐久性の低下につながる。触媒担持カーボンの燃焼温度は、別の態様として、410℃以上、550℃以下であることができる。また、別の態様として、触媒担持カーボンの燃焼温度は、420℃以上、500℃以下であることができる。触媒担持カーボンの燃焼ピークの半値幅は、別の態様として、2℃以上、40℃以下であることができる。また、別の態様として、触媒担持カーボンの燃焼ピークの半値幅は、4℃以上、20℃以下であることができる。
【0052】
また、触媒担持カーボンのカーボン担体に酸性官能基を付与すると、より高い活性を達成できる。その理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のように推測している。即ち、触媒に酸性官能基を付与することにより、触媒表面が親水化する。その結果、触媒の保水性が向上し、これに起因して、プロトン伝導性が向上する。
【0053】
カーボン担体への酸性官能基を付与する方法は特に限定されないが、酸性溶液中にカーボン担体又は触媒担持カーボンを懸濁し、加熱する方法等が挙げられる。
【0054】
カーボン担体の重量当たりの酸性官能基量は特に限定されないが、1mmol/g以上であることが望ましい。
【0055】
ここでカーボン担体の重量当たりの酸性官能基量は、ヘリウムガス雰囲気下における昇温脱離法(Temperature Programmed Reaction;TPR法)によって脱離した一酸化炭素量や二酸化炭素、水の量から算出する手法や、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)によって測定したC-1sピークのピーク面積から算出する手法、酸塩基滴定法(Boehm法)における滴定量から算出する手法等により決定される。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
1.カーボン担体の調製
78Mn-22C(mol%)を600℃の溶融亜鉛金属に1時間接触させ、脱成分反応を行い、炉冷した。多孔質炭素と金属成分を含む複合体から金属成分を除去するため、硝酸水溶液中で72時間酸処理を行い、ろ過・乾燥して多孔質炭素を得た。その後2000℃で黒鉛化処理を行った。
【0058】
2.触媒担持カーボンの調製
1.00gのカーボン担体を純水80.00g中で懸濁させ、得られた懸濁液に8.0wt%の白金を含有するジニトロジアミン白金硝酸水溶液8.33gとL-アスコルビン酸4.80gを加え、十分に攪拌させた後に、還流反応装置を使用して90℃で1時間加熱し、白金触媒粒子をカーボン担体に担持させた。そして、室温まで放冷させた後に、得られた触媒担持カーボンを濾別し、60℃で12時間乾燥させた。乾燥後、雰囲気炉(H.I.G.製B-4060)内で窒素50L/min流通下で400℃で1時間焼成し、白金粒子の還元を行った。
【0059】
(実施例2)
カーボン担体の調製工程で酸処理を24時間にした以外は、実施例1と同様にして白金担持カーボンを得た。
【0060】
(実施例3)
カーボン担体の調製工程で溶融亜鉛金属に2時間接触させた以外は、実施例1と同様にして白金担持カーボンを得た。
【0061】
(実施例4)
実施例3で得られた白金担持カーボン1.00gを0.5mol/Lの硝酸水溶液75.00g中で懸濁させ、得られた懸濁液を十分に攪拌させた後に還流反応装置を使用して80℃で21時間加熱し、白金担持カーボンの表面官能基の調整を行った。そして、室温まで放冷させた後に、得られた白金担持カーボンを濾別し、60℃で12時間乾燥させた。
【0062】
(実施例5)
カーボン担体の調製工程で酸処理を2回行った以外は、実施例4と同様にして白金担持カーボンを得た。
【0063】
(実施例6)
白金担持カーボンの調製工程の表面官能基の調整時の加熱温度を90℃にしたこと以外は実施例5と同様にして、白金担持カーボンを得た。
【0064】
(実施例7)
カーボン担体の調製工程で酸処理を硝酸水溶液から塩酸水溶液にした以外は、実施例4と同様にして、白金担持カーボンを得た。
【0065】
(実施例8)
カーボン担体の調製工程でカーボンにホウ素と窒素をドープした以外は、実施例4と同様にして、白金担持カーボンを得た。
【0066】
(実施例9)
カーボン担体の調製工程の溶融亜鉛金属の温度を650℃にした以外は、実施例4と同様にして、白金担持カーボンを得た。
【0067】
(実施例10)
カーボン担体の調製工程の溶融亜鉛金属の温度を680℃にした以外は、実施例6と同様にして、白金担持カーボンを得た。
【0068】
(実施例11)
触媒担持カーボンの調製工程の焼成温度を250℃とした以外は、実施例6と同様にして、白金担持カーボンを得た。
【0069】
(実施例12)
触媒担持カーボンの調製工程の焼成温度を1000℃とした以外は、実施例6と同様にして、白金担持カーボンを得た。
【0070】
(実施例13)
実施例6で得られた、白金担持カーボン1.00gに硝酸コバルト六水和物0.50gと純水1.0gを添加し、混錬を行い、白金コバルト担持カーボンスラリーを得た。得られたスラリーを60℃で12時間乾燥させ、4.0%水素/窒素50L/min流通下で800℃で1時間焼成し、白金コバルト合金担持カーボン粉末を得た。得られた白金コバルト合金担持カーボン粉末1.00gを1.0mol/Lの硝酸水溶液15.00g中で懸濁させ、得られた懸濁液を十分に攪拌させた後に還流反応装置を使用して90℃で1時間加熱し、白金と合金化していない余剰コバルトの除去、及びカーボン担体の表面官能基の調整を行った。そして、室温まで放冷させた後に、得られた白金コバルト合金担持カーボンを濾別し、60℃で12時間乾燥させ、白金コバルト合金担持カーボンを得た。
触媒学会燃料電池関連触媒研究会の参照触媒であるFC-I2(石福金属興業製IFPC40-II)0.75g、純水5.40g、アイオノマー(ケマーズ社製Nafion DE2020CS)2.20g、2-プロパノール(富士フィルム和光純薬製)3.50mL、1-プロパノール(富士フィルム和光純薬製)2.70mL、エチレングリコール(富士フィルム和光純薬製)0.50mLを遊星式ボールミルにより1時間混合分散し、次いでミキサーにより5分間脱泡し、アノード触媒スラリーとした。この電極触媒スラリーを、PTFE 製シート(ニチアス社製ナフロン(登録商標)シート、厚さ200μm)の片面上に、ドクターブレードを用いて塗布し、120℃ 、60 分間真空下で乾燥させることにより、アノード触媒層をPTFE製シート上に形成した。
次に、ガス拡散層(SGL社製GDL 28BC、100mm×100mmの正方形)を二枚用いて、先に作製した接合体を挟持し、電極触媒層とガス拡散層の外周部にシール材(ニチアス社製ナフロン(登録商標)シート、厚さ150μmと厚さ80μmの積層)を配置することによりMEAとした。
その後、作製したMEAに金メッキしたガス流路付き集電体を配置し、ステンレス製エンドプレートで挟持して所定の面圧になるように締め付け、固体高分子形燃料電池の単セルを得た。
本開示にかかる触媒担持カーボンは、大気雰囲気中でのカーボン担体の酸化劣化を緩和することができ、高い初期活性を有し、且つ耐久性に優れる。よって本開示にかかる触媒担持カーボンは固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の電極触媒として利用することができる。