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特開2024-104176船体制御装置、船体制御システム、船体制御方法、および、船体制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104176
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】船体制御装置、船体制御システム、船体制御方法、および、船体制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/04 20060101AFI20240726BHJP
   B63H 20/08 20060101ALI20240726BHJP
【FI】
B63H25/04 D
B63H20/08 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008273
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知靖
(57)【要約】
【課題】外乱の影響を抑制した高精度な船体制御を実行する。
【解決手段】
船体制御装置は、取得部、および、推定値算出部を備える。取得部は、風速Var、風向DRar、船速U、船首方位ψhを取得する。推定値算出部は、船体の形状に基づく船体の流体力に関する情報と、取得部で取得された情報とに基づいて、外乱に対するトリム舵角の第1推定値δte0を算出する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上の船体の船体状態および外乱情報を取得する取得部と、
前記船体の形状に基づく前記船体の流体力に関する情報と、前記取得部で取得された情報とに基づいて、外乱に対するトリム舵角の第1推定値を生成する推定部と、
を備える、船体制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の船体制御装置であって、
前記外乱情報は風速および風向を含み、前記船体状態は船速および船首方位を含む、
船体制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の船体制御装置であって、
前記推定部は、前記船体の旋回中における前記第1推定値を生成する、
船体制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の船体制御装置であって、
前記トリム舵角の実測値を算出する実測値算出部を備え、
前記推定部は、前記第1推定値と前記実測値とに基づいて、トリム舵角の第2推定値を生成する、
船体制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の船体制御装置であって、
前記実測値算出部は、
前記船体の設定方位から得られる目標方位と船首方位とに基づいて、トリム舵角の瞬時値を算出し、
複数時間の前記瞬時値の統計値に基づいて前記実測値を算出する、
船体制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載の船体制御装置であって、
前記実測値算出部は、前記船体の保針中の瞬時値を算出し、
前記保針中の前記瞬時値の統計値に基づいて前記実測値を算出する、
船体制御装置。
【請求項7】
請求項4に記載の船体制御装置であって、
目標方位と船首方位に基づいて指令舵角を算出する指令舵角算出部と、
前記第1推定値または前記第2推定値を用いて、前記指令舵角算出部が算出した指令舵角を補正する、指令舵角補正部と、
を備える、船体制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の船体制御装置であって、
前記指令舵角補正部は、
保針中では瞬時値を用いて、前記指令舵角を補正し、
旋回中では前記第1推定値または前記第2推定値を用いて、前記指令舵角を補正する、
船体制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の船体制御装置であって、
前記船体の形状は、前記船体の長さ、喫水量および幅を含み、
前記船体制御装置は、前記流体力に関する情報として、前記船体の形状に基づいて流体力に関する微係数を含む値を算出する微係数算出部を備え、
前記推定部は前記微係数算出部において算出した前記流体力に関する情報に基づいて前記第1推定値を生成する、
船体制御装置。
【請求項10】
請求項1に記載の船体制御装置であって、
前記推定部は、
前記船体の流体力に関する情報と前記取得部で取得された情報とに基づいて、旋回前のトリム舵角の推定値および旋回後のトリム舵角の推定値を算出し、
前記船体の設定方位から得られる目標方位と船首方位とに基づいて、旋回開始直後のトリム舵角の実測値を算出し、
前記旋回開始直後のトリム舵角の実測値、前記旋回前のトリム舵角の推定値、前記旋回後のトリム舵角の推定値に基づいて、旋回後のトリム舵角の第3推定値を生成し、
現在の前記船首方位、現在の前記設定方位、旋回前の前記設定方位、前記旋回開始直後のトリム舵角の実測値、および、前記第3推定値に基づいて、現在のトリム舵角の第4推定値を生成する、
船体制御装置。
【請求項11】
請求項1に記載の船体制御装置と、
前記外乱情報として風速、風向を計測する風向風速計と、
前記船体状態として船速を計測する船速センサと、
前記船体状態として船首方位を方位センサと、
を備える、船体制御システム。
【請求項12】
水上の船体の船体状態および外乱情報を取得し、
前記船体の形状に基づく前記船体の流体力に関する情報と、前記船体の船体状態および外乱情報とに基づいて、外乱に対するトリム舵角の第1推定値を生成する、
船体制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載の船体制御方法であって、
前記トリム舵角の実測値を算出し、
前記第1推定値と前記実測値とに基づいて、トリム舵角の第2推定値を生成する、
船体制御方法。
【請求項14】
風速、風向、船速、船首方位を取得し、
船体の形状に基づく前記船体の流体力に関する情報と、前記風速、前記風向、前記船速、前記船首方位とに基づいて、外乱に対するトリム舵角の第1推定値を生成する、
処理を演算処理装置に実行させる船体制御プログラム。
【請求項15】
請求項14に記載の船体制御プログラムであって、
前記トリム舵角の実測値を算出し、
前記第1推定値と前記実測値とに基づいて、トリム舵角の第2推定値を生成する、
処理を演算処理装置に実行させる船体制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外乱を考慮した旋回時の船体制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、船舶の自動操舵装置が記載されている。特許文献1に記載の自動操舵装置は、PID制御を用いて舵角を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-95198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船舶(船体)は、航行中に風等の外乱を受けることがある。特許文献1のような従来の舵角制御では、船舶の旋回中(変針中)に外乱を受けると、船首方位を所望の方位に制御することが難しかった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、外乱の影響を抑制した高精度な船体制御を実行することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の船体制御装置は、取得部、および、推定部を備える。取得部は、水上の船体の船舶情報および外乱情報を取得する。推定部は、船体の形状に基づく船体の流体力に関する情報と、取得部で取得された情報とに基づいて、外乱に対するトリム舵角の第1推定値を生成する。
【0007】
この構成では、外乱に応じたトリム舵角が推定される。このトリム舵角の推定値を用いることで、指令舵角を外乱に応じて補正できる。したがって、船体制御装置は、外乱に応じた高い精度の指令舵角を設定でき、外乱の影響を抑制して高精度な船体制御を実行できる。
【0008】
この発明の船体制御装置では、外乱情報は風速および風向を含み、船体状態は船速および船首方位を含む。これにより、トリム舵角の推定により有効な情報を得られる。
【0009】
この発明の船体制御装置では、推定部は、船体の旋回中における第1推定値を生成する。この構成では、旋回中の指令舵角の精度を高くできる。
【0010】
この発明の船体制御装置は、トリム舵角の実測値を算出する実測値算出部を備える。推定部は、第1推定値と実測値とに基づいて、トリム舵角の第2推定値を生成する。この構成では、トリム舵角の精度をさらに高くできる。
【0011】
この発明の船体制御装置では、実測値算出部は、船体の設定方位から得られる目標方位と船首方位とに基づいて、トリム舵角の瞬時値を算出する。実測値算出部は、複数時間の瞬時値の統計値に基づいて実測値を算出する。この構成では、トリム舵角の実測値の精度を高くでき、トリム舵角の精度をさらに高くできる。
【0012】
この発明の船体制御装置では、実測値算出部は、船体の保針中の瞬時値を算出する。実測値算出部は、保針中の瞬時値の統計値に基づいて実測値を算出する。この構成では、トリム舵角の実測値の精度をさらに高くでき、トリム舵角の精度をさらに高くできる。
【0013】
この発明の船体制御装置は、指令舵角算出部、および、指令舵角補正部を備える。指令舵角算出部は、目標方位と船首方位に基づいて指令舵角を算出する。指令舵角補正部は、第1推定値または第2推定値を用いて、指令舵角算出部が算出した指令舵角を補正する。この構成では、舵機に出力される指令舵角の精度が高くなる。
【0014】
この発明の船体制御装置では、指令舵角補正部は、保針中では瞬時値を用いて指令舵角を補正し、旋回中では第1推定値または第2推定値を用いて指令舵角を補正する。この構成では、船体の航行状態に適した指令舵角を舵機に出力できる。
【0015】
この発明の船体制御装置では、船体の形状は、船体の長さ、喫水量および幅を含む。船体制御装置は、流体力に関する情報として、船体の形状に基づいて流体力に関する微係数を含む値を算出する微係数算出部を備える。推定部は微係数算出部において算出した流体力に関する情報に基づいて第1推定値を生成する。この構成では、第1推定値を高精度に生成できる。
【0016】
この発明の船体制御装置では、推定部は、船体の流体力に関する情報と取得部で取得された情報とに基づいて、旋回前のトリム舵角の推定値および旋回後のトリム舵角の推定値を算出する。推定部は、船体の設定方位から得られる目標方位と船首方位とに基づいて、旋回開始直後のトリム舵角の実測値を算出する。推定部は、旋回開始直後のトリム舵角の実測値、旋回前のトリム舵角の推定値、旋回後のトリム舵角の推定値に基づいて、旋回後のトリム舵角の第3推定値を生成する。推定部は、現在の船首方位、現在の設定方位、旋回前の設定方位、旋回開始直後のトリム舵角の実測値、および、第3推定値に基づいて、現在のトリム舵角の第4推定値を生成する。
【0017】
この構成では、トリム舵角の精度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る制御部の構成を示す機能ブロック図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る船体制御システムの構成を示す機能ブロック図である。
図3図3(A)、図3(B)は、トリム舵角θtrの概念の説明用の図である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態に係る船体制御方法の一例を示すフローチャートである。
図5図5(A)は、本発明の第1の実施形態に係る船体制御システムでの補正指令舵角の時間変化を示す図であり、図5(B)は、比較例での指令舵角の時間変化を示す図である。
図6図6(A)は、本発明の第1の実施形態に係る船体制御システムでの船首方位と設定方位との関係の時間変化を示す図であり、図6(B)は、比較例での船首方位と設定方位との関係の時間変化を示す図である。
図7図7は、本発明の第2の実施形態に係る制御部の構成を示す機能ブロック図である。
図8図8は、本発明の第2の実施形態に係る船体制御方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る船体制御装置、船体制御システム、船体制御方法、船体制御プログラムについて、図を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る制御部の構成を示す機能ブロック図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係る船体制御システムの構成を示す機能ブロック図である。
【0020】
(船体制御システム10の構成)
まず、図2を用いて、船体制御システム10の構成について説明する。図2に示すように、船体制御システム10は、制御部20、操作部30、観測値取得部40、および、表示部50を備える。船体制御システム10は、オートパイロット制御(自動航行制御)を行う船舶の船体に装備される。制御部20が、本発明の「船体制御装置」に対応する。
【0021】
船体制御システム10の制御部20は、舵機90に接続する。舵機90は、船体に装着されている。制御部20と舵機90とは、例えば、アナログ電圧信号ラインまたはデータ通信ラインを通じて接続される。
【0022】
なお、図示を省略しているが、船体には、スクリュープロペラ等の推進力発生装置も装着されている。制御部20は、推進力発生装置に対する推進力の発生制御も行っているが、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0023】
制御部20、操作部30、観測値取得部40、および、表示部50は、例えば、船舶用のデータ通信ネットワーク100によって互いに接続する。
【0024】
制御部20は、オートパイロット制御における各種の制御を行う。制御部20は、指令舵角に基づいて転舵信号を生成し、舵機90に出力する。舵機90は、受信した転舵信号に応じて舵を制御する。
【0025】
この際、制御部20は、トリム舵角を算出し、指令舵角δ0をトリム舵角で補正して、補正した指令舵角(補正指令舵角)δに基づいて転舵信号を生成する。制御部20は、保針時と旋回時(変針時)とで異なる補正を行う。補正指令舵角δの具体的な生成方法は後述する。なお、保針時と旋回時(変針時)とは、例えば、オートパイロット制御における設定方位ψsetや目標方位ψobjと船首方位ψhとの関係(複数時間での関係)に基づいて識別可能である。
【0026】
図3(A)、図3(B)は、トリム舵角θtrの概念の説明用の図である。図3(A)は、トリム舵角θtrを設定したときの船体の挙動を示し、図3(B)は、トリム舵角θtrを設定しないときの船体の挙動を示す。
【0027】
図3(A)、図3(B)に示すように、船体80が外乱(例えば風)を受けた場合、船体80の挙動は外乱の影響を受ける。トリム舵角θtrは、舵機90の舵角に対応し、船体80が外乱の影響を受けても、姿勢(船首方位ψh)が変化しないように設定される。すなわち、トリム舵角θtrが適正に設定されていれば、図3(A)に示すように、外乱の影響が抑制され、船体80の船首方位ψhは、略変化しない。
【0028】
一方、トリム舵角θtrが適正に設定されていなければ、図3(B)に示すように、船体80の船首方位ψhは、外乱の影響を受けて変化する。
【0029】
したがって、制御部20がトリム舵角θtrを適正に設定し、指令舵角(補正指令舵角)δに含むことで、船体制御システム10は、船体80を所望の姿勢に保持できる。
【0030】
操作部30は、例えば、タッチパネル、物理的なボタンやスイッチ等によって実現される。操作部30は、目標位置等を含むオートパイロット制御に関連する設定の操作を受け付ける。操作部30は、操作によって設定された情報(目標位置等)を制御部20に出力する。
【0031】
観測値取得部40は、船体80の挙動や外乱を観測する各種センサを備える。例えば、観測値取得部40は、風向風速計、船速センサ、方位センサ、測位センサを備える。すなわち、観測値取得部40は、水上の船体80の船体状態および外乱情報を取得する。
【0032】
風向風速計は、風向DRarおよび風速Varを観測する。船速センサは、船速Uを観測する。方位センサは、船首方位ψhを観測する。測位センサは、船体80の位置を観測する。
【0033】
船速センサ、方位センサ、測位センサは、それぞれ個別のセンサであっても、1つのセンサ(例えば、GNSS信号を用いた測位姿勢センサ)であってもよい。
【0034】
観測値取得部40は、風向DRar、風速Var、船速U、および、船首方位ψhを制御部20に出力する。
【0035】
表示部50は、例えば、液晶パネル等によって実現される。表示部50は、例えば、制御部20から、オートパイロット制御に関連する情報(例えば、船体80の航行状態(挙動))等が入力されると、これらを表示する。なお、表示部50は、省略することも可能であるが、あることが好ましく、表示部50があることによって、ユーザは、オートパイロット制御状態等を容易に把握できる。
【0036】
(制御部20の構成および具体的な処理)
制御部20は、例えば、CPU等の演算処理装置と、半導体メモリ等の記憶部とによって構成される。記憶部は、制御部20で実行するプログラムを記憶する。また、記憶部は、CPUの演算時に利用される。制御部20は、記憶部に記憶されたプログラムを実行することで、下記の各機能を実現する。
【0037】
図1に示すように、機能的には、制御部20は、取得部21、簡易推定値算出部22、目標方位算出部23、トリム制御部24、実測値算出部25、精密推定値算出部26、指令舵角算出部27、および、指令舵角補正部28を備える。
【0038】
制御部20には、風向DRar、風速Var、船速U、および、船首方位ψhが入力される。取得部21は、風向DRar、風速Var、船速U、および、船首方位ψhを取得する。すなわち、取得部21は、水上の船体80の船体状態および外乱情報を取得する。船体情報は、船速U、および、船首方位ψhを含み、外乱情報は、風向DRar、および、風速Varを含む。
【0039】
取得部21は、風向DRar、風速Var、船速U、および、船首方位ψhを簡易推定値算出部22に出力する。また、取得部21は、船首方位ψhをトリム制御部24および指令舵角算出部27に出力する。
【0040】
また、制御部20には、船体80の位置と目標位置とが入力される。制御部20は、船体80の位置と目標位置とに基づいて、オートパイロット制御における設定方位ψsetを決定する。設定方位ψsetは、目標方位算出部23に入力される。
【0041】
簡易推定値算出部22には、船体80の形状に基づいて設定された船体の流体力に関する情報が入力される。船体80の形状は、例えば、船体80の全長、喫水量(喫水の高さ)、および、船体80の幅等を含む。船体80の全長は、垂線間長であってもよい。船体の流体力に関する情報は、例えば、流体力微係数である。
【0042】
流体力微係数は、具体的に、舵面積、舵直圧力の船体横方向成分に対する増加率、舵位置での伴流係数、舵直圧力作用点座標、整流効果を表す係数、操舵による船体横力成分着力点座標、舵直圧力勾配係数、船体の長手方向の投影面積、横方向風圧力係数、および、ヨー方向の風圧力係数の少なくとも1つを含む。
【0043】
簡易推定値算出部22は、風向DRar、風速Var、船速U、船首方位ψh、および、流体力微係数に基づいて、トリム舵角の第1推定値δte0を算出(生成)する。
【0044】
簡易推定値算出部22は、例えば、次の式を用いて、トリム舵角の第1推定値δte0を算出する。
【0045】
δte0=K・(Var/U
ここで、Kは、風向DRarおよび船首方位ψhから得られる相対風向、および、流体力微係数に基づいて設定される係数である。
【0046】
このような演算によって、トリム舵角の第1推定値δte0は、外乱が船体80の挙動に与える影響を抑制するトリム舵角を、船体80の形状を主要素として推定した値となる。
【0047】
簡易推定値算出部22は、トリム舵角の第1推定値δte0を精密推定値算出部26に出力する。
【0048】
目標方位算出部23は、例えば、設定方位ψsetに基づいて目標方位ψobjを算出する。目標方位算出部23は、船体80の航行状態に応じて、船首方位ψhが設定方位ψsetに近づくように、オートパイロット制御間、目標方位ψobjを適宜更新する。目標方位算出部23は、目標方位ψobjをトリム制御部24および指令舵角算出部27に出力する。
【0049】
トリム制御部24には、目標方位ψobjと船首方位ψhとが入力される。トリム制御部24は、目標方位ψobjと船首方位ψhとに基づいて、トリム舵角の瞬時値δtiを算出する。
【0050】
概念的には、トリム制御部24は、トリム舵角の瞬時値δtiを算出する時点において、上述ように外乱の影響を抑制するように、トリム舵角の瞬時値δtiを算出する。例えば、トリム制御部24は、トリム舵角の瞬時値δtiの算出アルゴリズムとして、積分制御や外乱オブザーバ等を用いる。トリム制御部24は、トリム舵角の瞬時値δtiを実測値算出部25および指令舵角補正部28に出力する。
【0051】
実測値算出部25は、保針中の複数時間のトリム舵角の瞬時値δtiの統計値を算出し、トリム舵角の実測値δtmとして出力する。統計値としては、移動平均値が用いられる。統計値はこれに限るものではなく、例えば、現在から所定時間過去の期間の中央値等を採用することも可能である。実測値算出部25は、トリム舵角の実測値δtmを精密推定値算出部26に出力する。
【0052】
精密推定値算出部26には、トリム舵角の第1推定値δte0とトリム舵角の実測値δtmとが入力される。精密推定値算出部26は、トリム舵角の第1推定値δte0とトリム舵角の実測値δtmとに基づいて、トリム舵角の第2推定値δte1を算出(生成)する。簡易推定値算出部22と精密推定値算出部26によって、推定部200が構成される。
【0053】
より具体的には、精密推定値算出部26は、現在方位におけるトリム舵角の第1推定値δte0、旋回前のトリム舵角の第1推定値δte0b、および、現在方位におけるトリム舵角の実測値δtmに基づいて、トリム舵角の第2推定値δte1を算出する。なお、旋回前のトリム舵角の第1推定値δte0bとは、今回トリム舵角を推定する旋回(変針)制御を行う前、言い換えれば、今回の旋回の直前の保針時から今回の旋回に切り替わるタイミングで保針時に算出された推定値である。
【0054】
精密推定値算出部26は、例えば、次の式を用いてトリム舵角の第2推定値δte1を算出する。
【0055】
δte1=δtm・(δte0/δte0b)
この処理によって、トリム舵角の第2推定値δte1は、船体80の形状を主要素として推定されたトリム舵角の第1推定値δte0と、実測されたトリム舵角の実測値δtmとに基づいて算出される。したがって、トリム舵角の第2推定値δte1は、旋回時における船体80の挙動をさらに高精度に反映したものとなる。
【0056】
精密推定値算出部26は、トリム舵角の第2推定値δte1を指令舵角補正部28に出力する。
【0057】
指令舵角算出部27には、船首方位ψhと目標方位ψobjとが入力される。指令舵角算出部27は、既知の算出アルゴリズム(例えば、PD制御等)を用い、船首方位ψhと目標方位ψobjとに基づいて、指令舵角δ0を算出する。このような算出方法が用いられているため、指令舵角δ0には、トリム舵角は含まれていない。指令舵角算出部27は、指令舵角δ0を指令舵角補正部28に出力する。
【0058】
指令舵角補正部28には、指令舵角δ0、トリム舵角の瞬時値δti、および、トリム舵角の第2推定値δte1が入力される。指令舵角補正部28は、保針時と旋回時(変針時)とで異なる方法で、指令舵角δ0を補正する。
【0059】
(保針時)
指令舵角補正部28は、トリム舵角の瞬時値δtiを用いて指令舵角δ0を補正する。具体的には、指令舵角補正部28は、例えば、次の式を用いて補正指令舵角δを算出する。
【0060】
δ=δ0+δti
(旋回(変針)時)
指令舵角補正部28は、トリム舵角の第2推定値δte1を用いて指令舵角δ0を補正する。具体的には、指令舵角補正部28は、例えば、次の式を用いて補正指令舵角δを算出する。
【0061】
δ=δ0+δte1
指令舵角補正部28は、補正指令舵角δを出力する。制御部20は、補正指令舵角δに基づいて転舵信号を生成し、舵機90に出力する。
【0062】
このような処理を行うことで、補正指令舵角δは、外乱の影響を抑制するトリム舵角を反映した値となる。これにより、制御部20は、外乱の影響を抑制した補正指令舵角δを出力できる。したがって、船体制御システム10は、補正指令舵角δに基づく転舵信号によって船体制御を行うことで、外乱の影響を抑制して、船体制御(例えば、オートパイロット制御)を実行できる。
【0063】
さらに、この構成および処理では、保針時にはトリム舵角の瞬時値δtiに基づいて指令舵角δ0を補正し、旋回時にはトリム舵角の第2推定値δte1に基づいて指令舵角δ0を補正する。これにより、制御部20は、保針、旋回のそれぞれに適した補正指令舵角δを出力できる。したがって、船体制御システム10は、保針時においても、旋回時においても、外乱の影響を抑制して、船体制御(例えば、オートパイロット制御)を実行できる。
【0064】
なお、制御部20は、旋回時の指令舵角δ0の補正に、トリム舵角の第1推定値δte0を用いることも可能である。ただし、トリム舵角の第2推定値δte1を用いることで、制御部20は、外乱の影響をより高精度に抑制できる。
【0065】
(船体制御方法1)
図4は、本発明の第1の実施形態に係る船体制御方法の一例を示すフローチャートである。なお、図4のフローチャートに示す各処理の具体的な内容は、上述しており、以下では追加説明の必要がある箇所のみを説明する。
【0066】
(保針中)
制御部20は、保針中か旋回中かを識別し、保針中であれば(S12:YES)、トリム舵角の瞬時値δtiを算出する(S12)。
【0067】
制御部20は、複数時刻のトリム舵角の瞬時値δtiに基づいて、トリム舵角の実測値δtmを算出する(S13)。
【0068】
制御部20は、指令舵角δ0を算出する(S14)。制御部20は、現在のトリム舵角の瞬時値δtiに基づいて指令舵角δ0を補正し、保針時の補正指令舵角δを算出する(S15)。
【0069】
(旋回(変針)時)
制御部20は、保針中でなければ(S12:NO)、言い換えれば旋回中であれば、旋回前のトリム舵角の第1推定値δte0bを算出する(S21)。制御部20は、現在方位のトリム舵角の第1推定値δte0を算出する(S22)。
【0070】
制御部20は、旋回前のトリム舵角の第1推定値δte0b、現在方位のトリム舵角の第1推定値δte0、および、現在方位のトリム舵角の実測値δtmに基づいて、トリム舵角の第2推定値δte1を算出する(S23)。
【0071】
制御部20は、指令舵角δ0を算出する(S14)。制御部20は、トリム舵角の第2推定値δte1に基づいて指令舵角δ0を補正し、旋回時の補正指令舵角δを算出する(S15)。
【0072】
(シミュレーション結果)
図5(A)は、本発明の第1の実施形態に係る船体制御システムでの補正指令舵角の時間変化を示す図であり、図5(B)は、比較例での指令舵角の時間変化を示す図である。図6(A)は、本発明の第1の実施形態に係る船体制御システムでの船首方位と設定方位との関係の時間変化を示す図であり、図6(B)は、比較例での船首方位と設定方位との関係の時間変化を示す図である。
【0073】
図5(A)、図5(B)、図6(A)、図6(B)は、外乱(風)が船体に当たっている状況のシミュレーション結果である。図5(A)、図5(B)、図6(A)、図6(B)において、横軸のts1、ts2は、転舵のタイミングである。また、比較例は、上述の旋回時のトリム舵角に基づいた指令舵角の補正を行わない例である。
【0074】
図5(A)、図5(B)に示すように、本発明の船体制御システム10は、比較例に対して、旋回時に指令舵角が早く収束する。図6(A)、図6(B)に示すように、本発明の船体制御システム10は、比較例に対して、旋回時に船首方位ψhを設定方位ψsetに早く追従させることができる。
【0075】
このように、上述のようなトリム舵角の補正を行うことで、船体制御システム10は、外乱の影響を抑制して、高精度な船体制御を実現できる。
【0076】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る船体制御装置、船体制御システム、船体制御方法、船体制御プログラムについて、図を参照して説明する。図7は、本発明の第2の実施形態に係る制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【0077】
第2の実施形態に係る船体制御システムは、第1の実施形態に係る船体制御システム10に対して、制御部20Aの構成、指令舵角δ0の補正に用いるトリム舵角の推定値の算出処理において異なる。第2の実施形態に係る船体制御システムの他の構成および処理は、第1の実施形態に係る船体制御システム10と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。
【0078】
制御部20Aは、簡易推定値算出部22A、および、精密推定値算出部26Aを備える。簡易推定値算出部22Aと精密推定値算出部26Aによって、推定部200Aが構成される。
【0079】
簡易推定値算出部22Aは、旋回前の船速Ub、旋回前の風速Var、旋回前の風向DRar、旋回前の船首方位ψh、および、流体力微係数に基づいて、旋回前のトリム舵角の第1推定値δte0bを算出する。
【0080】
簡易推定値算出部22Aは、旋回後の船速Uaの予測値、旋回後の風速Varの予測値、旋回後の風向DRarの予測値、旋回後の船首方位ψhの予測値、および、流体力微係数に基づいて、旋回後のトリム舵角の第1推定値δte0aを算出する。
【0081】
精密推定値算出部26Aには、簡易推定値算出部22Aから旋回前のトリム舵角の第1推定値δte0b、および、旋回後のトリム舵角の第1推定値δte0aが入力される。精密推定値算出部26Aには、実測値算出部25から旋回開始直後のトリム舵角の実測値δtmbが入力される。精密推定値算出部26Aには、現在の船首方位ψh、現在の設定方位ψset、旋回前の設定方位ψsetbが入力される。
【0082】
精密推定値算出部26Aは、旋回開始直後のトリム舵角の実測値δtmb、旋回前のトリム舵角の第1推定値δte0b、および、旋回後のトリム舵角の第1推定値δte0aに基づいて、旋回後のトリム舵角の第3推定値δtmaを算出(生成)する。
【0083】
具体的には、精密推定値算出部26Aは、例えば、次の式を用いて旋回後のトリム舵角の第3推定値δtmaを算出する。
【0084】
δtma=δtmb・(δte0a/δte0b)
精密推定値算出部26Aは、旋回後のトリム舵角の第3推定値δtma、現在の船首方位ψh、現在の設定方位ψset、旋回前の設定方位ψsetbに基づいて、現在方位のトリム舵角の第4推定値δte1Xを算出(生成)する。
【0085】
具体的には、精密推定値算出部26Aは、例えば、次の式を用いて現在方位のトリム舵角の第4推定値δte1Xを算出する。
【0086】
δte1X=δtma-{(ψset-ψh)/(ψset-ψsetb)}・(δtma-δtm0b)
精密推定値算出部26Aは、現在方位のトリム舵角の第4推定値δte1Xを指令舵角補正部28に出力する。
【0087】
このような構成および処理によって、制御部20Aは、外乱の影響を抑制するためのトリム舵角を高精度に算出できる。
【0088】
(船体制御方法2)
図8は、本発明の第2の実施形態に係る船体制御方法の一例を示すフローチャートである。なお、図8のフローチャートに示す各処理の具体的な内容は、上述しており、以下では追加説明の必要がある箇所のみを説明する。
【0089】
(保針中)
制御部20Aは、保針中か旋回中かを識別し、保針中であれば(S12:YES)、トリム舵角の瞬時値δtiを算出する(S12)。
【0090】
制御部20Aは、複数時刻のトリム舵角の瞬時値δtiに基づいて、トリム舵角の実測値δtmを算出する(S13)。
【0091】
制御部20Aは、指令舵角δ0を算出する(S14)。制御部20Aは、現在のトリム舵角の瞬時値δtiに基づいて指令舵角δ0を補正し、保針時の補正指令舵角δを算出する(S15)。
【0092】
(旋回(変針)時)
制御部20Aは、保針中でなければ(S12:NO)、言い換えれば旋回中であれば、旋回直後のトリム舵角の実測値δtmbを算出する(S31)。
【0093】
制御部20Aは、旋回前のトリム舵角の第1推定値δte0bを算出する(S32)。制御部20Aは、旋回後のトリム舵角の第1推定値δte0aを算出する(S33)。
【0094】
制御部20Aは、旋回直後のトリム舵角の実測値δtmb、旋回前のトリム舵角の第1推定値δte0b、および、旋回後のトリム舵角の第1推定値δte0aに基づいて、旋回後のトリム舵角の第3推定値δte1aを算出する(S34)。
【0095】
制御部20Aは、現在の船首方位ψh、現在の設定方位ψset、旋回前の設定方位ψsetbを取得する(S35)。
【0096】
制御部20Aは、旋回後のトリム舵角の第3推定値δte1a、現在の船首方位ψh、現在の設定方位ψset、および、旋回前の設定方位ψsetbに基づいて、現在方位のトリム舵角の第4推定値δte1Xを算出する(S36)。
【0097】
制御部20Aは、指令舵角δ0を算出する(S14)。制御部20Aは、現在方位のトリム舵角の第4推定値δte1Xに基づいて指令舵角δ0を補正し、旋回時の補正指令舵角δを算出する(S15)。
【0098】
(1) 水上の船体の船体状態および外乱情報を取得する取得部と、
前記船体の形状に基づく前記船体の流体力に関する情報と、前記取得部で取得された情報とに基づいて、外乱に対するトリム舵角の第1推定値を生成する推定部と、を備える、船体制御装置。
【0099】
(2) (1)の船体制御装置であって、
前記外乱情報は風速および風向を含み、前記船体状態は船速および船首方位を含む、船体制御装置。
【0100】
(3) (1)または(2)の船体制御装置であって、
前記推定部は、前記船体の旋回中における前記第1推定値を生成する、船体制御装置。
【0101】
(4) (1)乃至(3)のいずれかの船体制御装置であって、
前記トリム舵角の実測値を算出する実測値算出部を備え、
前記推定部は、前記第1推定値と前記実測値とに基づいて、トリム舵角の第2推定値を生成する、船体制御装置。
【0102】
(5) (4)の船体制御装置であって、
前記実測値算出部は、
前記船体の設定方位から得られる目標方位と船首方位とに基づいて、トリム舵角の瞬時値を算出し、
複数時間の前記瞬時値の統計値に基づいて前記実測値を算出する、船体制御装置。
【0103】
(6) (4)の船体制御装置であって、
前記実測値算出部は、前記船体の保針中の瞬時値を算出し、
前記保針中の前記瞬時値の統計値に基づいて前記実測値を算出する、船体制御装置。
【0104】
(7) (4)乃至(6)のいずれかの船体制御装置であって、
前記目標方位と前記船首方位に基づいて指令舵角を算出する指令舵角算出部と、
前記第1推定値または前記第2推定値を用いて、前記指令舵角算出部が算出した指令舵角を補正する、指令舵角補正部と、を備える、船体制御装置。
【0105】
(8) (7)の船体制御装置であって、
前記指令舵角補正部は、
保針中では瞬時値を用いて、前記指令舵角を補正し、
旋回中では前記第1推定値または前記第2推定値を用いて、前記指令舵角を補正する、船体制御装置。
【0106】
(9) (1)乃至(8)のいずれかの船体制御装置であって、
前記船体の形状は、前記船体の長さ、喫水量および幅を含み、
前記船体制御装置は、前記流体力に関する情報として、前記船体の形状に基づいて流体力に関する微係数を含む値を算出する微係数算出部を備え、
前記推定部は前記微係数算出部において算出した前記流体力に関する情報に基づいて前記第1推定値を生成する、船体制御装置。
【0107】
(10) (1)または(2)の船体制御装置であって、
前記推定値算出部は、
前記船体の流体力に関する情報と前記取得部で取得された情報とに基づいて、旋回前のトリム舵角の推定値および旋回後のトリム舵角の推定値を算出し、
前記船体の設定方位から得られる目標方位と船首方位とに基づいて、旋回開始直後のトリム舵角の実測値を算出し、
前記旋回開始直後のトリム舵角の実測値、前記旋回前のトリム舵角の推定値、前記旋回後のトリム舵角の推定値に基づいて、旋回後のトリム舵角の第3推定値を生成し、
現在の前記船首方位、現在の前記設定方位、旋回前の前記設定方位、前記旋回開始直後のトリム舵角の実測値、および、前記第3推定値に基づいて、現在のトリム舵角の第4推定値を生成する、船体制御装置。
【0108】
(11) (1)乃至(10)のいずれかの船体制御装置と、
前記外乱情報として前記風速、風向を計測する風向風速計と、
前記船体状態として前記船速を計測する船速センサと、
前記船体状態として前記船首方位を方位センサと、
を備える、船体制御システム。
【符号の説明】
【0109】
10:船体制御システム
20、20A:制御部
21:取得部
22、22A:簡易推定値算出部
23:目標方位算出部
24:トリム制御部
25:実測値算出部
26、26A:精密推定値算出部
27:指令舵角算出部
28:指令舵角補正部
30:操作部
40:観測値取得部
50:表示部
80:船体
90:舵機
100:データ通信ネットワーク
200、200A:推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8