(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104179
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】回転量推定装置、回転量推定方法、及びモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 7/06 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
H02P7/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008277
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】工藤 正善
【テーマコード(参考)】
5H571
【Fターム(参考)】
5H571AA03
5H571CC01
5H571EE02
5H571FF03
5H571GG01
5H571HA09
5H571HA10
5H571HC01
5H571JJ03
5H571JJ04
5H571JJ17
5H571JJ22
5H571JJ25
5H571JJ26
5H571LL14
5H571LL22
5H571LL32
5H571MM18
(57)【要約】
【課題】ブラシ付き直流モータが制動運転状態を経て停止する際に、制動運転中の回転量を高い精度で推定することが可能な回転量推定装置を提供する。
【解決手段】回転量推定装置11は、直流モータ40の両端に同電位が印加されることで、直流モータ40が制動運転を行うとき、その同電位を印加するための回路を介して直流モータ40に流れる誘導電流の減衰特性曲線を算出する。そして、回転量推定装置11は、
制動運転の開始から、直流モータ40が停止するまでの時間に渡って、減衰特性曲線に従い誘導電流を積分した誘導電流積分値を算出する。誘導電流積分値は、直流モータ40の制動運転中の回転量に対応する値となるので、誘導電流積分値に基づいて、直流モータ40の制動運転中の回転量を推定することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシ付き直流モータ(40)の制動運転中の回転量を推定する回転量推定装置(11)であって、
前記直流モータの駆動電流の通電が停止され、かつ、前記直流モータの両端に同電位が印加されることにより、前記直流モータの制動運転を経て、前記直流モータの回転が停止する際に、前記直流モータの制動運転中に前記直流モータを流れる誘導電流に基づいて、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までの前記誘導電流が減衰する特性を示す減衰特性曲線を推定する減衰特性曲線推定部(12)と、
前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時間を推定する時間推定部(14)と、
前記減衰特性曲線推定部によって推定された前記誘導電流の前記減衰特性曲線に従い、前記時間推定部によって推定された時間に渡って、前記誘導電流を積分した積分値に基づいて、前記直流モータの制動運転中の回転量を推定する回転量推定部(17)と、を備える回転量推定装置。
【請求項2】
前記減衰特性曲線推定部は、前記直流モータの制動運転中における、少なくとも3点の前記誘導電流の値と、前記少なくとも3点の誘導電流の値が得られた時間とに基づいて、前記減衰特性曲線を導出する請求項1に記載の回転量推定装置。
【請求項3】
前記減衰特性曲線推定部が導出する前記減衰特性曲線は、2次関数曲線である、請求項2に記載の回転量推定装置。
【請求項4】
前記減衰特性曲線推定部は、前記誘導電流がピーク値となった以降に、前記少なくとも3点の誘導電流の値と、前記少なくとも3点の誘導電流の値が得られた時間とを取得する請求項2又は3に記載の回転量推定装置。
【請求項5】
前記減衰特性曲線推定部は、前記少なくとも3点の誘導電流の値と、前記少なくとも3点の誘導電流の値が得られた時間との取得を、前記誘導電流が零となる以前に完了する請求項2又は3に記載の回転量推定装置。
【請求項6】
前記時間推定部は、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時間を、前記減衰特性曲線推定部によって推定された前記減衰特性曲線から求める請求項5に記載の回転量推定装置。
【請求項7】
前記直流モータに駆動電流が通電されて前記直流モータが回転駆動されているときに、前記直流モータに流れる電流波形に基づいて、前記直流モータの回転速度を演算する回転速度演算部(16)を、さらに備え、
前記回転量推定部(17)は、
前記回転速度演算部によって演算される前記直流モータの回転速度に基づいて推定される、前記直流モータの制動運転が開始された時点の前記直流モータの回転速度と、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時間との積を基準回転量として算出する基準回転量算出部(S180)と、
前記減衰特性曲線から推定される、前記直流モータの制動運転が開始されたときの前記誘導電流の値と、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時間との積を基準積分値として算出する基準積分値算出部(S190)と、を有し、
前記基準回転量に、前記基準積分値に対する前記積分値の比を乗じることによって、前記直流モータの制動運転中の回転量を算出する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の回転量推定装置。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の回転量推定装置(11)と、
前記直流モータに流れる電流波形に基づいて演算される、前記直流モータの駆動電流の通電が停止されるまでの前記直流モータの回転量に、前記回転量推定装置によって推定された前記直流モータの制動運転中の回転量を加味して、前記直流モータが停止した際の回転量を検出するモータ回転量検出部(18、19)と、
前記モータ回転量検出部によって検出される前記直流モータの回転量に基づいて、前記直流モータへの駆動電流の通電を制御する制御部(20)と、を備えるモータ制御装置。
【請求項9】
前記直流モータは、車両のウインドウを開閉するモータとして用いられ、
前記制御部は、前記ウインドウを閉じている途中で、前記ウインドウによる挟み込みが発生した場合、前記直流モータを停止又は逆転させる挟み込み防止制御を実行するものであり、前記モータ回転量検出部によって検出される前記直流モータの回転量に基づいて、前記ウインドウが閉じられる位置まで所定の距離に達したと判定されると、前記挟み込み防止制御を停止させる請求項8に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
少なくとも1つのプロセッサによって実行される、ブラシ付き直流モータ(40)の制動運転中の回転量を推定する回転量推定方法であって、
前記直流モータの駆動電流の通電が停止され、かつ、前記直流モータの両端に同電位が印加されることにより、前記直流モータの制動運転を経て、前記直流モータの回転が停止する際に、前記直流モータの制動運転中に前記直流モータを流れる誘導電流に基づいて、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までの前記誘導電流が減衰する特性を示す減衰特性曲線を推定する減衰特性曲線推定ステップ(12)と、
前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時間を推定する時間推定ステップ(14)と、
前記減衰特性曲線推定ステップにおいて推定された前記誘導電流の前記減衰特性曲線に従い、前記時間推定ステップにおいて推定された時間に渡って、前記誘導電流を積分した積分値に基づいて、前記直流モータの制動運転中の回転量を推定する回転量推定ステップと(17)、を備える回転量推定方法。
【請求項11】
前記減衰特性曲線推定ステップでは、前記直流モータの制動運転中における、少なくとも3点の前記誘導電流の値と、前記少なくとも3点の誘導電流の値が得られた時間とに基づいて、前記減衰特性曲線が導出される請求項10に記載の回転量推定方法。
【請求項12】
前記減衰特性曲線推定ステップにおいて導出される前記減衰特性曲線は、2次関数曲線である、請求項11に記載の回転量推定方法。
【請求項13】
前記減衰特性曲線推定ステップでは、前記誘導電流がピーク値となった以降に、前記少なくとも3点の誘導電流の値と、前記少なくとも3点の誘導電流の値が得られた時間とが取得される請求項11又は12に記載の回転量推定方法。
【請求項14】
前記減衰特性曲線推定ステップでは、前記少なくとも3点の誘導電流の値と、前記少なくとも3点の誘導電流の値が得られた時間との取得が、前記誘導電流が零となる以前に完了される請求項11又は12に記載の回転量推定装置。
【請求項15】
前記時間推定ステップでは、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時間が、前記減衰特性曲線推定ステップにおいて推定された前記減衰特性曲線から求められる請求項14に記載の回転量推定装置。
【請求項16】
前記直流モータに駆動電流が通電されて前記直流モータが回転駆動されているときに、前記直流モータに流れる電流波形に基づいて、前記直流モータの回転速度を演算する回転速度演算ステップ(16)を、さらに備え、
前記回転量推定ステップ(17)では、
前記回転速度演算ステップにおいて演算される前記直流モータの回転速度に基づいて推定される、前記直流モータの制動運転が開始された時点の前記直流モータの回転速度と、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時間との積を基準回転量として算出する基準回転量算出ステップ(S180)と、
前記減衰特性曲線から推定される、前記直流モータの制動運転が開始されたときの前記誘導電流の値と、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時間との積を基準積分値として算出する基準積分値算出ステップ(S190)と、を有し、
前記基準回転量に、前記基準積分値に対する前記積分値の比を乗じることによって、前記直流モータの制動運転中の回転量が算出される請求項10乃至12のいずれか1項に記載の回転量推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ブラシ付き直流モータが制動運転される間の回転量を推定する回転量推定装置及び回転量推定方法、並びに回転量推定装置を備えるモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ブラシを有する直流モータに流れる電流、又は該モータの端子間電圧などのモータ駆動波形に基づき、モータの回転情報を検出する装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の装置では、検出されたモータ電流の波形から、リップル成分のパルス信号を生成する。このパルス信号に基づいて、モータの回転量が推定される。また、モータ端子間電圧と、検出されたモータ電流とから、逆起電圧が推定される。そして、逆起電圧に対して、上記パルス信号のパルス周期ごとに積分演算を行い、モータの回転量を示す積分値を得る。この積分値に基づいて、推定されたモータの回転量が補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の装置では、モータを停止させる場合、モータの両端を接地電位に接続することにより、モータを定常運転状態から制動運転状態に切り替えている。しかし、モータを制動運転状態に切り替えた場合、モータの両端はともに同じ接地電位となる。このため、正しいモータ端子間電圧を検出することが困難となり、その結果、モータ端子間電圧と、検出されたモータ電流とから、逆起電圧を正確に推定することも困難になる。
【0006】
また、特許文献1に記載の装置では、逆起電力の積分が、パルス信号のパルス周期ごとに繰り返される。しかし、制動運転状態では、回転速度が低下してリップル成分も小さくなるため、パルス信号のパルス周期を正確に得ることも困難になる。このため、逆起電力の積分を正しく行い得ない可能性がある。
【0007】
これらの理由から、制動運転状態において、逆起電力を用いて、モータの正確な回転量を得ることは非常に困難になる。
【0008】
本開示は、上述した点に鑑みてなされたものであり、ブラシ付き直流モータが制動運転状態を経て停止する際に、制動運転中の回転量を高い精度で推定することが可能な回転量推定装置及び回転量推定方法、並びに当該回転量推定装置を備えるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示による回転量推定装置(11)は、ブラシ付き直流モータ(40)の制動運転中の回転量を推定する装置であって、
直流モータの駆動電流の通電が停止され、かつ、直流モータの両端に同電位が印加されることにより、直流モータの制動運転を経て、直流モータの回転が停止する際に、直流モータの制動運転中に直流モータを流れる誘導電流に基づいて、制動運転の開始から直流モータの回転停止までの誘導電流が減衰する特性を示す減衰特性曲線を推定する減衰特性曲線推定部(12)と、
制動運転の開始から直流モータの回転停止までに要する時間を推定する時間推定部(14)と、
減衰特性曲線推定部によって推定された誘導電流の前記減衰特性曲線に従い、時間推定部によって推定された時間に渡って、誘導電流を積分した積分値に基づいて、直流モータの制動運転中の回転量を推定する回転量推定部(17)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本開示による回転量推定方法は、少なくとも1つのプロセッサによって実行される、ブラシ付き直流モータ(40)の制動運転中の回転量を推定する方法であって、
直流モータの駆動電流の通電が停止され、かつ、直流モータの両端に同電位が印加されることにより、直流モータの制動運転を経て、直流モータの回転が停止する際に、直流モータの制動運転中に直流モータを流れる誘導電流に基づいて、制動運転の開始から直流モータの回転停止までの誘導電流が減衰する特性を示す減衰特性曲線を推定する減衰特性曲線推定ステップ(12)と、
制動運転の開始から直流モータの回転停止までに要する時間を推定する時間推定ステップ(14)と、
減衰特性曲線推定ステップにおいて推定された誘導電流の減衰特性曲線に従い、時間推定ステップにおいて推定された時間に渡って、誘導電流を積分した積分値に基づいて、直流モータの制動運転中の回転量を推定する回転量推定ステップ(17)と、を備えることを特徴とする。
【0011】
上述した回転量推定装置及び回転量推定方法によれば、直流モータの制動運転中の回転量を推定するために、逆起電力ではなく、誘導電流を用いる。直流モータの両端に同電位が印加されることで、直流モータが制動運転を行うとき、その同電位を印加するための回路を介して、直流モータには、直流モータの回転速度に応じた誘導電流が流れる。従って、直流モータが制動運転を開始してから、回転を停止するまでの時間に渡って、誘導電流を積分することにより、その積分値は、直流モータの制動運転中の回転量に対応する値となる。このため、誘導電流の積分値に基づいて、直流モータの制動運転中の回転量を推定することができ、その推定精度は、従来に比して向上され得る。
【0012】
また、本開示による、モータ制御装置(10)は、
上述した回転量推定装置(11)と、
前記直流モータに流れる電流波形に基づいて推定される、直流モータの駆動電流の通電が停止されるまでの直流モータの回転量に、上述した回転量推定装置によって推定された直流モータの制動運転中の回転量を加味して、直流モータが停止した際の回転量を検出するモータ回転量検出部(18、19)と、
モータ回転量検出によって検出される直流モータの回転量に基づいて、直流モータへの駆動電流の通電を制御する制御部(20)と、を備える。
【0013】
モータ制御装置は、上述した回転量推定装置を備えることで、直流モータが停止したときの回転量を高い精度で検出することができる。そのため、モータ制御装置は、検出された直流モータの回転量に基づいて、直流モータへの駆動電流の通電を適切に制御することができるようになる。
【0014】
上記括弧内の参照番号は、本開示の理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら本開示の範囲を制限することを意図したものではない。
【0015】
また、上記した本開示の特徴以外の、特許請求の範囲の各請求項に記載した技術的特徴に関しては、後述する実施形態の説明及び添付図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る制動中回転量推定装置及びモータ制御装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
【
図2】直流モータの運転状態を通常運転から制動運転に切り替えたときの、モータ電流を含む、各部の信号の変化を示すタイムチャートである。
【
図3】誘導電流の減衰特性曲線を推定する方法を説明するための説明図である。
【
図6】第1実施形態に係るモータ制御装置が、制動運転中の直流モータの回転量を算出するための処理を示すフローチャートである。
【
図7】第2実施形態に係るモータ制御装置が、減衰特性曲線を導出するための、少なくとも3点の測定点の測定を、モータ電流が零となる以前に完了することを示したタイムチャートである。
【
図8】第2実施形態に係るモータ制御装置が、制動運転中の直流モータの回転量を算出するための処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本開示の第1実施形態に係る制動中回転量推定装置、制動中回転量推定方法、及び制動中回転量推定装置を備えるモータ制御装置について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。なお、複数の図面に渡って、同一又は類似の構成には同じ参照番号を付すことにより、説明を省略する場合がある。
【0018】
図1は、本実施形態に係る制動中回転量推定装置11、及び制動中回転量推定装置11を備えるモータ制御装置10の構成を概略的に示す概略構成図である。
図1には、制御対象であるブラシ付き直流モータ(以下、直流モータと呼ぶ)40、モータ制御装置10からの制御信号に従って、直流モータ40に駆動電流を通電するモータ駆動部30、直流モータ40に通電される電流を検出するモータ電流モニタ部50、及びモータ電流モニタ部50の出力信号に基づいて、直流モータ40の回転に応じた回転信号を生成する回転信号生成部60も示されている。
【0019】
直流モータ40は、例えば、コイルが巻かれた積層鉄心からなる回転子と、永久磁石からなる固定子とを備える。回転子が磁界内で回転すると、回転子に付いている整流子も回転し、整流子が接するブラシが入れ替わる。整流子が接するブラシが入れ替わる毎に、コイルを流れる電流の向きが切り替わることで、回転子が回り続けて直流モータ40が回転駆動される。
【0020】
直流モータ40は、例えば、車両のウインドウを開閉するモータとして用いることができる。それ以外にも、直流モータ40は、車両において、空調装置におけるエアミックスドア、ドアミラーなどを駆動するアクチュエータとして用いることができる。さらに、直流モータ40は、車両に搭載される車両機器以外の各種の機器を駆動するためのアクチュエータとして用いられてもよい。
【0021】
なお、本実施形態に係るモータ制御装置10によれば、詳しくは後述するように、直流モータ40を停止する際に、直流モータ40の両端に同電位を印加する制動運転を行うことにより、直流モータ40の回転が停止するまでの時間を短くすることができる。また、本実施形態では、モータ制御装置10が制動中回転量推定装置11を備えることで、制動運転中の直流モータ40の回転量を高い精度で推定することができる。従って、直流モータ40の停止、再起動を繰り返しても、直流モータ40の回転位置を精度良く検出することができる。これらの理由から、本実施形態に係る、制動中回転量推定装置11を備えたモータ制御装置10は、車両のウインドウを開閉する直流モータを制御する用途に好適である。
【0022】
ここで、直流モータ40で車両のウインドウの開閉を制御する場合、ウインドウを閉じている途中で、ウインドウによる挟み込みが発生すると、直流モータ40を停止又は逆転させる挟み込み防止制御を実行することが一般的である。しかし、車両のウインドウがウインドウウェザーストリップに接する位置まで達したとき、挟み込み防止制御が有効であると、ウインドウウェザーストリップに接したことを、誤って挟み込みとして検出する虞がある。このため、ウインドウがウインドウウェザーストリップに接する直前に、挟み込み防止制御を停止(無効化)する必要がある。ただし、直流モータ40の回転量に基づいてウインドウの位置を検出する場合、直流モータ40の回転量に誤差があると、ウインドウがウインドウウェザーストリップに接する直前の位置など、適切なウインドウ位置で挟み込み防止制御を停止することができない虞がある。その点、本実施形態では、停止及び再起動が繰り返されたとしても、直流モータ40の回転量を精度良く検出することができるので、適切なウインドウ位置で挟み込み防止制御を停止させることができる。例えば、検出される直流モータ40の回転量に基づいて、ウインドウが閉じられる位置まで所定の距離に達したと判定されたときに挟み込み防止制御を停止させればよい。
【0023】
モータ駆動部30は、4つのスイッチング素子(例えば、MOSトランジスタ、IGBTなど)31、32、34、35と、2つの駆動回路33、36を含む。4つのスイッチング素子31、32、34、35には、それぞれ、還流ダイオードが逆並列接続されている。4つのスイッチング素子31、32、34、35は、直流モータ40を駆動するためのHブリッジ回路を形成している。駆動回路33は、モータ制御装置10からの制御信号に応じて、スイッチング素子31、32の導通状態(オン又はオフ)を制御する。駆動回路36は、モータ制御装置10からの制御信号に応じて、スイッチング素子34、35の導通状態を制御する。
【0024】
例えば、モータ制御装置10は、直流モータ40を正転させるとき、駆動回路33、36を介して、スイッチング素子31、35をオンさせ、スイッチング素子32、34をオフさせる。逆に、モータ制御装置10は、直流モータ40を逆転させるとき、駆動回路33、36を介して、スイッチング素子32、34をオンさせ、スイッチング素子31、35をオフさせる。さらに、モータ制御装置10は、直流モータ40を正転又は逆転させる通常運転から直流モータ40の回転を止めるための制動運転を行うとき、駆動回路33、36を介して、スイッチング素子32、35又はスイッチング素子31、34をオンさせて、直流モータ40の両端に同電位(接地電位又は電源電位)を印加する。
【0025】
モータ電流モニタ部50は、直流モータ40への給電回路において、直流モータ40と直列に接続されたシャント抵抗51を含む。さらに、モータ電流モニタ部50は、直流モータ40に通電される電流に応じた、シャント抵抗51の両端電圧を増幅する差動増幅回路52を含む。差動増幅回路52によって増幅された出力信号は、モータ制御装置10及び回転信号生成部60に入力される。
【0026】
回転信号生成部60は、モータ電流モニタ部50から入力された信号に対して、バンドパスフィルタ処理を行うバンドパスフィルタ61を含む。モータ電流モニタ部50から入力された信号は、
図2に「モータ電流」として示すように、直流モータ40が所定角度回転する毎に発生する、直流モータ40に流れる電流のリップル成分を含む。バンドパスフィルタ61は、リップル成分の周波数帯の信号を通過させる。その結果、バンドパスフィルタ61は、リップル成分の周波数以外の周波数を持つノイズを除去し、直流モータ40に流れる電流のリップル成分に対応した信号を出力する。
【0027】
回転信号生成部60は、さらに、バンドパスフィルタ61から出力された信号と、閾値Vthとを比較するコンパレータ62を含む。コンパレータ62は、例えば、バンドパスフィルタ61からの出力信号が閾値Vthよりも大きいときLoレベルの信号を出力し、バンドパスフィルタ61からの出力信号が閾値Vthよりも小さいときHiレベルの信号を出力するように構成される。この場合、コンパレータ62から、直流モータ40が所定角度回転する毎に発生するリップル成分によってHiレベルからLoレベルに変化し、そのLoレベルが、リップル成分が閾値Vthよりも大きい間継続するパルス信号が出力される。
図2に示す例には、コンパレータ62から出力されるパルス信号が、「モータ回転信号」として示されている。
【0028】
モータ制御装置10は、少なくとも1つのプロセッサとしてのCPU、メモリとしてのROM、RAM、及び、外部との信号をやり取りするためのI/O回路などを備えた公知のコンピュータによって構成され得る。モータ制御装置10では、例えば、ROMに格納されたプログラムに従って、CPUにより各種の処理が実行される。一例として、モータ制御装置10は、モータ電流モニタ部50からの出力信号、及び回転信号生成部60からのモータ回転信号に基づいて、直流モータ40を制御するための制御信号を生成して出力する。なお、直流モータ40の駆動開始や、駆動停止は、図示しない外部の制御装置又はスイッチなどによってモータ制御装置10に指示される。
【0029】
ここで、
図1は、プログラムの実行により、モータ制御装置10が発揮する各機能をブロックとして示している。
図1に示すように、モータ制御装置10は、制動中回転量推定装置11、回転量演算部18、回転量補正部19、及びモータ回転制御部20を備えている。
【0030】
制動中回転量推定装置11は、モータ制御装置10が、直流モータ40を正転又は逆転させる通常運転から直流モータ40の回転を止めるための制動運転を行うときに、制動運転中の直流モータ40の回転量を推定する。制動中回転量推定装置11に関しては、後に詳細に説明される。
【0031】
回転量演算部18は、直流モータ40の通常運転が開始されてからの回転量を、回転信号生成部60によって出力されるモータ回転信号に基づいて算出する。上述したように、モータ回転信号は、直流モータ40が所定角度回転する毎にオンオフされるパルス信号である。このため、回転量演算部18は、モータ回転信号のパルス数をカウントすることにより、直流モータ40の通常運転が開始されてからの回転量を算出することができる。
【0032】
回転量補正部19は、直流モータ40が制動運転を経て停止するときに制動中回転量推定装置11によって提供される制動運転中の直流モータ40の回転量を用いて、回転量演算部18によって演算された回転量を補正する。具体的には、回転量補正部19は、回転量演算部18によって演算された回転量に、制動中回転量推定装置11によって推定された制動運転中の直流モータ40の回転量を加えることにより、停止した直流モータ40の回転量を算出する。このように、回転量演算部18によって演算された直流モータ40の回転量に、制動中回転量推定装置11によって推定された直流モータ40の制動運転中の回転量を加味することにより、直流モータ40が停止したときの回転量を正確に検出することができる。
【0033】
モータ回転制御部20は、回転量補正部19によって検出される直流モータ40の回転量に基づいて制御信号を生成することにより、直流モータ40への駆動電流の通電を制御する。例えば、直流モータ40が正転又は逆転される通常運転中は、制動中回転量推定装置11から回転量は提供されない。従って、回転量補正部19は、回転量演算部18によって推定される回転量のみに基づいて、直流モータ40の回転量を検出する。そして、例えば、直流モータ40が車両のウインドウを開閉するモータとして用いられた場合、回転量補正部19によって検出される直流モータ40の回転量に基づいて、ウインドウが閉じられる位置まで所定の距離に達したと判定されたとき、モータ制御装置10は、挟み込み防止制御を停止させる。この場合、モータ回転制御部20は、ウインドウがウインドウウェザーストリップに接しても、直流モータ40の通常運転を継続して行うことができる。そして、モータ回転制御部20は、回転量補正部19によって検出される直流モータ40の回転量に基づいて、車両のウインドウが閉位置に到達したと判定されると、直流モータ40への駆動電流の通電を停止するための制御信号を出力する。
【0034】
また、モータ回転制御部20は、車両のウインドウを閉じている途中で、図示しない外部の制御装置又はスイッチなどによってモータ制御装置10に直流モータ40の回転停止が指示されたとき、直流モータ40への駆動電流の通電を停止し、かつ、直流モータ40の両端に同電位が印加されるように、モータ駆動部30に制御信号をする。この場合、直流モータ40は、制動運転を経て、回転が停止する。モータ制御装置10は、制動中回転量推定装置11を備えているので、制動運転中の直流モータ40の回転量を高精度に推定することができる。このため、直流モータ40が停止、再起動を繰り返したとしても、回転量補正部19は、精度良く直流モータ40の回転量を検出することができる。
【0035】
次に、本実施形態に係る制動中回転量推定装置11に関して説明する。制動中回転量推定装置11は、上述したように、逆起電力ではなく、誘導電流を用いて、直流モータ40の制動運転中の回転量を推定する。直流モータ40の両端に同電位が印加されることで、直流モータ40が制動運転を行うとき、その同電位を印加するための回路を介して、直流モータ40には誘導電流が流れる。この誘導電流の大きさは、直流モータ40の回転速度に対応する。従って、直流モータ40が制動運転を開始してから、回転を停止するまでの時間に渡って、誘導電流を積分することにより、その積分値は、直流モータ40の制動運転中の回転量に対応する値となる。このため、誘導電流の積分値に基づいて、直流モータ40の制動運転中の回転量を推定することができる。
【0036】
図2は、直流モータ40の運転状態を通常運転から制動運転に切り替えたときの、モータ電流を含む、各部の信号の変化を示すタイムチャートである。
図2に示すように、通常運転中は、例えば、直流モータ40の+端子と-端子との間に所定の駆動電圧が印加される。この印加された駆動電圧によって、直流モータ40の回転子のコイルに駆動電流が流れ、回転子が回転する。
【0037】
図2の「A」に示す期間である通常運転中は、直流モータ40には、モータ電流として、駆動電流と誘導電流との合成電流が流れる。また、モータ電流には、上述したリップル成分が生じる。
図2の「B」に示す期間である、通常運転から制動運転への切り替り直後の期間においては、制動運転により、モータ電流が急峻に逆方向に振れる。ただし、制動開始直後は、直流モータ40のコイルのインダクタンスの影響により合成電流から誘導電流への切り替りに遅れが生じる。このため、制動開始直後の期間は、モータ電流から、正しい誘導電流を測定することはできない。
図2の「C」に示す期間では、合成電流から誘導電流への切り替りが完了して、モータ電流から誘導電流を測定することが可能となる。
【0038】
なお、この「C」に示す期間においては、
図2に示すように、直流モータ40の回転速度が低下するので、リップル成分の振幅が小さくなる。このため、回転信号生成部60において、バンドパスフィルタ61を通過するリップル成分がコンパレータ62の閾値を超えない場合が生じ得る。従って、「C」に示す期間において、回転信号生成部60が出力するモータ回転信号から、直流モータ40の回転量を推定することは困難である。
【0039】
上述したような誘導電流の特性を鑑みて、本実施形態に係る制動中回転量推定装置11が、制動運転の開始から直流モータ40の回転が停止するまでの誘導電流を積分するために採用した構成について、以下に説明する。
【0040】
まず、制動中回転量推定装置11は、減衰特性曲線推定部12を有する。減衰特性曲線推定部12は、直流モータ40の制動運転中に直流モータ40を流れる誘導電流に基づいて、制動運転の開始から直流モータ40の回転停止まで、誘導電流が減衰する特性を示す減衰特性曲線を推定する。
【0041】
ただし、上述したように、制動開始直後は、モータ電流から誘導電流を測定することはできない。そのため、減衰特性曲線推定部12は、例えば
図3に示すように、直流モータ40の制動運転中にモータ電流が誘導電流を示すようになった後の、少なくとも3つの測定点(X
1、Y
1)、(X
2、Y
2)、(X
3、Y
3)で、モータ電流モニタ部50から出力される誘導電流の値と、それぞれの誘導電流の値が得られた時間とを測定する。なお、X
1、X
2、X
3は、それぞれの誘導電流値が得られた時間を示し、Y
1、Y
2、Y
3は、それぞれの誘導電流値を示している。
【0042】
モータ電流が誘導電流を示すようになったか否かは、モータ電流が、急峻に逆方向に振られて、ピークに達したか否かによって判断することができる。従って、上述した少なくとも3つの測定点は、制動運転中に、モータ電流がピークに達した後に測定される。例えば、
図3に示す例では、1つ目の測定点(X
1、Y
1)は、モータ電流がピークに達した直後に測定されている。3つ目の測定点(X
3、Y
3)は、モータ電流が実質的に零となったときに測定されている。2つ目の測定点(X
2、Y
2)は、1つ目の測定点(X
1、Y
1)と3つ目の(X
3、Y
3)とのほぼ中間付近で測定されている。
【0043】
減衰特性曲線推定部12は、少なくとも3つの測定点(X
1、Y
1)、(X
2、Y
2)、(X
3、Y
3)の測定値に基づいて、誘導電流の減衰特性曲線を導出する。具体的には、減衰特性曲線は、
図3に点線で示すように、ほぼ2次間数的な曲線によって表すことができる。そのため、例えば、2次関数曲線をy=ax
2+bx+cと定め、この2次関数曲線の方程式に3つの測定点(X
1、Y
1)、(X
2、Y
2)、(X
3、Y
3)の測定値を代入する。これにより、2次関数曲線の係数a、b、cを算出することができる。このようにして、減衰特性曲線推定部12は、誘導電流の減衰特性を示す減衰特性曲線を推定することができる。
【0044】
制動運転開始時の誘導電流演算部13は、直流モータ40の制動運転が開始されたときの誘導電流の値I0を、減衰特性曲線推定部12によって導出された減衰特性曲線から演算によって算出する。
【0045】
モータ停止時間測定部14は、モータ電流モニタ部50から入力されるモータ電流に基づいて、制動運転が開始されてから、モータ電流が実質的に零となるまで、すなわち、直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendを測定する。
【0046】
誘導電流積分演算部15は、減衰特性曲線推定部12によって推定された減衰特性曲線と、モータ停止時間測定部14によって測定された直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendとに基づいて、
図4に斜線部分によって示すように、誘導電流の減衰特性曲線に従い、時間tendに渡って誘導電流を積分することにより、制動運転期間中の実際の誘導電流積分値Iaを算出する。
【0047】
回転速度演算部16は、回転信号生成部60からのモータ回転信号に基づいて、直流モータ40の回転速度を算出する。
【0048】
制動運転中の回転量推定部17は、回転速度演算部16によって算出された直流モータの回転速度に基づいて、制動運転が開始された時点の直流モータ40の回転速度を推定する。例えば、
図3に示すように、制動運転中の回転量推定部17は、回転速度演算部16によって制動運転が開始される直前の2つのパルス信号の周期T
0から算出された回転速度V
0を、直流モータ40の制動運転が開始された時点の直流モータ40の回転速度とすることができる。
【0049】
また、制動運転中の回転量推定部17は、直流モータ40の制動運転が開始された時点の直流モータの回転速度V0と、モータ停止時間測定部14によって測定された制動運転の開始から直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendとの積を基準回転量Nsとして算出する。つまり、基準回転量Nsは、直流モータ40の制動運転が開始された時点の直流モータの回転速度V0のまま、時間tendに渡って直流モータ40が回転したと仮定したときの直流モータ40の回転量に相当する。
【0050】
さらに、制動運転中の回転量推定部17は、
図5に示すように、直流モータ40の制動運転が開始されたときの誘導電流値I
0と、制動運転の開始から直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendとの積を基準誘導電流積分値Isとして算出する。つまり、基準誘導電流積分値Isは、直流モータ40に流れる誘導電流の大きさが、直流モータ40の制動運転が開始されたときの誘導電流値I
0を時間tendに渡って維持したと仮定したときの、誘導電流の積分値に相当する。
【0051】
そして、制動運転中の回転量推定部17は、基準回転量Nsに、基準誘導電流積分値Isに対する実際の誘導電流積分値Iaの比を乗じることによって、直流モータ40の制動運転中の回転量Naを算出する。すなわち、直流モータ40の制動運転中の回転量Naは、以下の式1によって算出することができる。
(式1) Na=Ns×(Ia/Is)
【0052】
なお、上述した例では、基準回転量Ns及び基準誘導電流積分値Isを、直流モータ40が制動運転される際に算出したが、必ずしも、基準回転量Ns及び基準誘導電流積分値Isは、直流モータ40が制動運転される毎に算出されなくてもよい。例えば、対象とする直流モータ40に関して、事前に、直流モータ40の制動運転が開始されたときの種々の誘導電流値I0に対応する基準回転量Ns及び基準誘導電流積分値Isを調べてメモリに保存しておく。そして、誘導電流減衰曲線から実際に推定された誘導電流値I0に対応する基準回転量Ns及び基準誘導電流積分値Isを選択して、上記式1に従って、直流モータ40の制動運転中の回転量Naを求めてもよい。
【0053】
あるいは、制動運転中の直流モータ40の実際の誘導電流積分値Iaと、実際の直流モータ40の回転量Naとに関する複数のデータを測定し、その測定したデータに基づいて、実際の誘導電流積分値Iaと実際の直流モータ40の回転量Naとの関係を表す式もしくはマップを作成してメモリに保存してもよい。この場合、メモリに保存した式もしくはマップを用いて、実際の誘導電流積分値Iaから、実際の直流モータ40の回転量Naを推定することができる。
【0054】
次に、モータ制御装置10において、プログラムに従って実行される処理の一例を
図6のフローチャートを参照して説明する。なお、
図6のフローチャートに示す処理は、制動運転中の直流モータ40の回転量Naを算出するためのものである。この処理は、直流モータ40の制動運転が開始されると実行される。
【0055】
最初のステップS100では、モータ制御装置10は、回転速度演算部16によって算出された直流モータの回転速度に基づいて、制動運転が開始される時点の直流モータ40の回転速度V0を推定する。続くステップS110では、モータ制御装置10は、直流モータ40の+側端子と-側端子との間に駆動電圧を印加する通常運転から、直流モータ40の+側端子と-側端子とに同電位を印加する制動運転に切り替えるための制御信号をモータ駆動部30に出力する。
【0056】
ステップS120では、モータ制御装置10は、モータ電流モニタ部50から出力されるモータ電流の値I(t)を測定し、メモリに保存する。ステップS130では、モータ制御装置10は、モータ電流の値I(t)を測定したときの、制動運転の開始からの経過時間tを取得して、モータ電流値I(t)に関連付けてメモリに保存する。ステップS140では、モータ制御装置10は、測定されたモータ電流値I(t)が実質的に零とみなしえるか否かを判定する。モータ制御装置10は、モータ電流値I(t)が実質的に零ではないと判定された場合、ステップS150に進む。ステップS150では、モータ制御装置10は、指定時間の間、待機する。そして、指定時間待機した後、モータ制御装置10は、ステップS120からの処理を繰り返す。
【0057】
一方、ステップS140において、モータ電流値I(t)が実質的に零であると判定された場合、モータ制御装置10は、ステップS160に進む。なお、ステップS140において、モータ電流値I(t)が実質的に零であると判定されたとき、そのモータ電流値I(t)に関連付けられた経過時間tが、制動運転の開始から直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendとなる。
【0058】
ステップS160では、モータ制御装置10は、測定された複数のモータ電流値I(t)に基づいて、制動期間開始後のモータ電流値I(t)のピーク値を特定する。そして、モータ電流値I(t)のピーク値以降に測定された少なくとも3点の測定値(誘導電流を示すモータ電流値、及び対応する経過時間)に基づいて、誘導電流の減衰特性曲線を示す方程式を導出する。なお、モータ電流値I(t)のピーク値は、上述した少なくとも3点の測定値に含まれてもよいし、含まれなくてもよい。
【0059】
ステップS170では、モータ制御装置10は、導出した誘導電流の減衰特性曲線に基づいて、直流モータ40の制動運転が開始されたときの誘導電流の値I0を算出する。ステップS180では、モータ制御装置10は、直流モータ40の制動運転が開始された時点の直流モータの回転速度V0と、制動運転の開始から直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendとの積を基準回転量Nsとして算出する。ステップS190では、モータ制御装置10は、直流モータ40の制動運転が開始されたときの誘導電流値I0と、制動運転の開始から直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendとの積を基準誘導電流積分値Isとして算出する。
【0060】
ステップS200では、モータ制御装置10は、ステップS160にて導出された誘導電流の減衰特性曲線に従い、経過時間tendに渡って誘導電流を積分することにより、制動運転期間中の実際の誘導電流積分値Iaを算出する。そして、ステップS210において、モータ制御装置10は、基準回転量Nsに、基準誘導電流積分値Isに対する実際の誘導電流積分値Iaの比を乗じることによって、直流モータ40の制動運転中の回転量Naを算出する。
【0061】
(第2実施形態)
次に、本開示の第2実施形態に係る制動中回転量推定装置、制動中回転量推定方法、及び制動中回転量推定装置を備えるモータ制御装置について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。なお、本実施形態に係る制動中回転量推定装置11及びモータ制御装置10は、制動運転の開始から直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendを測定するための構成を除いて、第1実施形態と同様に構成され得るため、共通する構成に関する説明は省略する。
【0062】
上述した第1実施形態では、
図6のフローチャートのステップS140において、モータ電流値I(t)が実質的に零となったかどうかを判定することにより、直流モータ40の回転が停止するまで、モータ電流の測定を行っていた。
【0063】
しかしながら、直流モータ40の回転が停止するまでモータ電流の測定を行い、その後、測定された少なくとも3点の測定点に基づき、減衰特性曲線の導出のための処理を開始すると、直流モータ40の回転が停止した後に、直流モータ40の回転量の検出のための処理に時間を要することになる。従って、直流モータ40の停止後、即座に再起動が指示されたときに、良好な応答性をもって、直流モータ40を再起動させることができない虞がある。
【0064】
そのため、本実施形態では、
図7のタイムチャートに示すように、減衰特性曲線を導出するための、少なくとも3点の測定点の測定を、モータ電流(誘導電流)が零となる以前に完了するようにしたものである。これにより、直流モータ40の停止後、即座に再起動が指示された場合であっても、再起動が指示に対して良好な応答性で直流モータ40を再起動することが可能となる。
【0065】
例えば、
図7に示す例では、1つの測定点(X
1、Y
1)は、モータ電流がピークに達した直後に測定されている。3つ目の測定点(X
3、Y
3)は、モータ電流が制動運転開始時の誘導電流値I
0の1/2になったときに測定されている。2つ目の測定点(X
2、Y
2)は、1つ目の測定点(X
1、Y
1)と3つ目の(X
3、Y
3)とのほぼ中間付近で測定されている。なお、3つ目の測定点を測定するタイミングは、モータ電流が制動運転開始時の誘導電流値I
0の1/2になったときに限られない。また、本実施形態では、直流モータ40の回転が停止するまでモータ電流の測定を行わないため、制動運転の開始から直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendは、導出された減衰特性曲線に基づいて推定演算される。
【0066】
図8は、本実施形態に係るモータ制御装置10が、制動運転中の直流モータ40の回転量Naを算出するために実行する処理を示すフローチャートの一例を示している。
図8のフローチャートは、
図6のフローチャートに対して、ステップS140の処理がステップS145の処理に変更され、ステップS165の処理が追加されている点が異なる。その他のステップの処理は、変更されていないため、説明を省略する。
【0067】
ステップS145では、モータ制御装置10は、モータ電流値I(t)が実質的に零になったかどうかを判定するのではなく、モータ電流値I(t)が制動運転開始時の誘導電流値I0の1/2になったかどうかを判定する。そして、モータ制御装置10は、モータ電流値I(t)が制動運転開始時の誘導電流値I0の1/2になったと判定すると、ステップS160の、少なくとも3点の測定値に基づく、誘導電流の減衰特性曲線の導出処理に移行する。このため、本実施形態によれば、モータ制御装置10は、モータ電流(誘導電流)が零となる以前に、少なくとも3点の測定点の測定を完了して、制動運転中の直流モータ40の回転量を算出するための処理を開始することができる。
【0068】
ステップS165では、ステップS160にて導出された減衰特性曲線に基づいて、制動運転の開始から直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendを算出する。このため、制動運転の開始から直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendを実際に測定せずとも、ステップS180、S190、及びステップS200において、制動運転の開始から直流モータ40の回転が停止するまでの時間tendを用いて、基準回転量Ns、基準誘導電流積分値Is、及び実際の誘導電流積分値Iaを算出することができる。
【0069】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は、上述した実施形態に制限されるものではない。換言すれは、本開示は、特許請求の範囲に記載した本開示の主旨を逸脱しない範囲において、種々、変形して実施することが可能なものである。
【0070】
最後に、この明細書には、以下に列挙する複数の技術的思想と、それらの複数の組み合わせが開示されている。以下の複数の技術的思想の組み合わせは、回転量推定装置のみでなく、回転量推定方法にも当てはまる。
【0071】
(技術的思想1)
ブラシ付き直流モータ(40)の制動運転中の回転量を推定する回転量推定装置(11)であって、
前記直流モータの駆動電流の通電が停止され、かつ、前記直流モータの両端に同電位が印加されることにより、前記直流モータの制動運転を経て、前記直流モータの回転が停止する際に、前記直流モータの制動運転中に前記直流モータを流れる誘導電流に基づいて、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までの前記誘導電流が減衰する特性を示す減衰特性曲線を推定する減衰特性曲線推定部(12)と、
前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時間を推定する時間推定部(14)と、
前記減衰特性曲線推定部によって推定された前記誘導電流の前記減衰特性曲線に従い、前記時間推定部によって推定された時間に渡って、前記誘導電流を積分した積分値に基づいて、前記直流モータの制動運転中の回転量を推定する回転量推定部(17)と、を備える回転量推定装置。
【0072】
(技術的思想2)
前記減衰特性曲線推定部は、前記直流モータの制動運転中における、少なくとも3点の前記誘導電流の値と、前記少なくとも3点の誘導電流の値が得られた時間とに基づいて、前記減衰特性曲線を導出する技術的思想1に記載の回転量推定装置。
【0073】
(技術的思想3)
前記減衰特性曲線推定部が導出する前記減衰特性曲線は、2次関数曲線である、技術的思想2に記載の回転量推定装置。
【0074】
(技術的思想4)
前記減衰特性曲線推定部は、前記誘導電流がピーク値となった以降に、前記少なくとも3点の誘導電流の値と、前記少なくとも3点の誘導電流の値が得られた時間とを取得する技術的思想2又は3に記載の回転量推定装置。
【0075】
(技術的思想5)
前記減衰特性曲線推定部は、前記少なくとも3点の誘導電流の値と、前記少なくとも3点の誘導電流の値が得られた時間との取得を、前記誘導電流が零となる以前に完了する技術的思想2乃至4のいずれか1項に記載の回転量推定装置。
【0076】
(技術的思想6)
前記時間推定部は、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時
間を、前記減衰特性曲線推定部によって推定された前記減衰特性曲線から求める技術的思想5に記載の回転量推定装置。
【0077】
(技術的思想7)
前記直流モータに駆動電流が通電されて前記直流モータが回転駆動されているときに、前記直流モータに流れる電流波形に基づいて、前記直流モータの回転速度を演算する回転速度演算部(16)を、さらに備え、
前記回転量推定部(17)は、
前記回転速度演算部によって演算される前記直流モータの回転速度に基づいて推定される、前記直流モータの制動運転が開始された時点の前記直流モータの回転速度と、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時間との積を基準回転量として算出する基準回転量算出部(S180)と、
前記減衰特性曲線から推定される、前記直流モータの制動運転が開始されたときの前記誘導電流の値と、前記制動運転の開始から前記直流モータの回転停止までに要する時間との積を基準積分値として算出する基準積分値算出部(S190)と、を有し、
前記基準回転量に、前記基準積分値に対する前記積分値の比を乗じることによって、前記直流モータの制動運転中の回転量を算出する技術的思想1乃至6のいずれか1項に記載の回転量推定装置。
【0078】
(技術的思想8)
技術的思想1乃至7のいずれかに記載の回転量推定装置(11)と、
前記直流モータに流れる電流波形に基づいて演算される、前記直流モータの駆動電流の通電が停止されるまでの前記直流モータの回転量に、前記回転量推定装置によって推定された前記直流モータの制動運転中の回転量を加味して、前記直流モータが停止した際の回転量を検出するモータ回転量検出部(18、19)と、
前記モータ回転量検出部によって検出される前記直流モータの回転量に基づいて、前記直流モータへの駆動電流の通電を制御する制御部(20)と、を備えるモータ制御装置。
【符号の説明】
【0079】
10:モータ制御装置、11:制動中回転量推定装置、12:減衰特性曲線推定部、13:誘導電流演算部、14:モータ停止時間測定部、15:誘導電流積分演算部、16:回転速度演算部、17:回転量推定部、18:回転量演算部、19:回転量補正部、20:モータ回転制御部、30:モータ駆動部、40:直流モータ、50:モータ電流モニタ部、60:回転信号生成部