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特開2024-104180回転量推定装置、回転量推定方法、及びモータ制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024104180
(43)【公開日】2024-08-02
(54)【発明の名称】回転量推定装置、回転量推定方法、及びモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/06 20060101AFI20240726BHJP
【FI】
H02P7/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008278
(22)【出願日】2023-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】工藤 正善
【テーマコード(参考)】
5H571
【Fターム(参考)】
5H571AA03
5H571CC01
5H571EE02
5H571GG01
5H571HA09
5H571HA10
5H571HC01
5H571JJ03
5H571JJ17
5H571JJ22
5H571JJ25
5H571JJ26
5H571LL14
5H571LL22
5H571LL32
5H571MM18
(57)【要約】
【課題】逆起電圧を用いずに、直流モータに印加される直流電圧が変動してから、直流モータの回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における、直流モータの回転量を高い精度で推定する。
【解決手段】直流モータに印加される直流電圧が変動してから、直流モータの回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間において、モータ電流が対応速度に応じたモータ電流に収束する特性を示す収束特性曲線を推定する収束特性曲線推定部12と、推定されたモータ電流の収束特性曲線に基づいて、直流モータの回転に応じて直流モータに流れる誘導電流を、上記期間に渡って積分した積分値を算出する積分値算出部15と、算出された誘導電流の積分値に基づいて、上記期間における直流モータの回転量を推定する回転量推定部17と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシ付き直流モータ(40)の回転量を推定する回転量推定装置(11、110)であって、
前記直流モータに印加される直流電圧が変動してから、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間において、モータ電流が前記対応速度に応じたモータ電流に収束する特性を示す収束特性曲線を、前記直流モータを流れるモータ電流に基づいて推定する収束特性曲線推定部(12)と、
前記収束特性曲線推定部によって推定されたモータ電流の前記収束特性曲線に基づいて、前記直流モータの回転に応じて前記直流モータに流れる誘導電流を、前記期間に渡って積分した積分値を算出する積分値算出部(15)と、
前記積分値算出部によって算出された前記誘導電流の積分値に基づいて、前記期間における前記直流モータの回転量を推定する回転量推定部(17)と、を備える回転量推定装置。
【請求項2】
前記直流モータのモータ電流に含まれるリップル成分に基づき、前記直流モータの回転に応じたパルス信号を生成するパルス信号生成部(60)を備え、
前記収束特性曲線推定部は、前記パルス信号生成部によって生成されるパルス信号から前記直流モータの回転速度又は回転量が検出可能となったとき、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度に達したとみなす、請求項1に記載の回転量推定装置。
【請求項3】
前記収束特性曲線推定部は、前記期間において測定された、少なくとも3点のモータ電流の値と、前記少なくとも3点のモータ電流の値が得られた時間とに基づいて、前記収束特性曲線を導出する請求項1又は2に記載の回転量推定装置。
【請求項4】
前記収束特性曲線推定部が導出する前記収束特性曲線は、2次関数曲線である、請求項3に記載の回転量推定装置。
【請求項5】
前記収束特性曲線推定部は、前記モータ電流がピーク値となった以降に、前記少なくとも3点のモータ電流の値と、前記少なくとも3点のモータ電流の値が得られた時間とを取得する請求項3に記載の回転量推定装置。
【請求項6】
前記収束特性曲線推定部が前記収束特性曲線を推定する前記期間は、停止している前記直流モータに対して、前記直流モータを回転させるための直流電圧が印加されてから、前記直流モータの回転速度が前記直流電圧に対応する前記対応速度に達したとみなし得るまでの第1の期間である、請求項1又は2に記載の回転量推定装置。
【請求項7】
前記回転量推定部は、
前記対応速度と、前記第1の期間との積を基準回転量として算出する基準回転量算出部(S170)と、
前記収束特性曲線から推定される、前記直流モータに前記直流電圧を印加した直後のモータ電流から、前記対応速度に応じたモータ電流を減算することによって算出される、前記直流モータが前記対応速度で回転するときの誘導電流と、前記第1の期間との積を基準積分値として算出する基準積分値算出部(S180)と、を有し、
前記基準回転量に、前記基準積分値に対する前記第1の期間の前記誘導電流の積分値の比を乗じることによって、前記第1の期間における前記直流モータの回転量を算出する請求項6に記載の回転量推定装置。
【請求項8】
前記収束特性曲線推定部が前記収束特性曲線を推定する前記期間は、変動前の前記直流電圧に対応する前記対応速度で回転している前記直流モータに変動後の前記直流電圧が印加されてから、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度に達したとみなし得るまでの第2の期間である、請求項1又は2に記載の回転量推定装置。
【請求項9】
前記回転量推定部は、
変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度と、前記第2の期間との積を基準回転量として算出する基準回転量算出部(S390)と、
前記収束特性曲線から推定される、前記直流モータに変動後の前記直流電圧を印加した直後のモータ電流と、変動前の前記直流電圧に対応する前記対応速度で回転している前記直流モータに流れる誘導電流との和から、変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度に応じたモータ電流を減算することによって算出される、前記直流モータが変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度で回転するときの誘導電流と、前記第2の期間との積を基準積分値として算出する基準積分値算出部(S400)と、を有し、
前記基準回転量に、前記基準積分値に対する前記第2の期間の前記誘導電流の積分値の比を乗じることによって、前記第2の期間における前記直流モータの回転量を算出する請求項8に記載の回転量推定装置。
【請求項10】
前記直流モータに印加される前記直流電圧の変動を判定する電圧変動判定部(21)を備え、
前記回転量推定部は、前記電圧変動判定部によって前記直流電圧が所定の閾値を超えて変動したと判定されたことを条件として、前記第2の期間における前記直流モータの回転量を算出するための処理を実行する、請求項8に記載の回転量推定装置。
【請求項11】
前記直流モータのモータ電流に含まれるリップル成分に基づき、前記直流モータの回転に応じたパルス信号を生成するパルス信号生成部(60)を備え、
前記回転量推定部は、前記パルス信号生成部によって生成されるパルス信号から前記直流モータの回転速度又は回転量が検出できないことを条件として、前記第2の期間における前記直流モータの回転量を算出するための処理を実行する、請求項8に記載の回転量推定装置。
【請求項12】
前記直流モータに印加される直流電圧が変動してから、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における前記直流モータの回転量の算出が完了するまで、前記直流モータの回転の停止が指示されても、前記直流モータの回転を維持する停止保留部を備える、請求項1又は2に記載の回転量推定装置。
【請求項13】
請求項1に記載の回転量推定装置(11)と、
前記回転量推定装置によって推定された、前記直流モータに印加される直流電圧が変動してから、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における前記直流モータの回転量と、前記直流モータが前記対応速度で回転しているときに、前記直流モータのモータ電流波形に基づいて演算される前記直流モータの回転量とに基づき、前記直流モータの回転量を検出するモータ回転量検出部(19)と、
前記モータ回転量検出部によって検出される前記直流モータの回転量に基づいて、前記直流モータへの駆動電流の通電を制御する制御部(20)と、を備えるモータ制御装置。
【請求項14】
前記直流モータは、車両のウインドウを開閉するモータとして用いられ、
前記制御部は、前記ウインドウを閉じている途中で、前記ウインドウによる挟み込みが発生した場合、前記直流モータを停止又は逆転させる挟み込み防止制御を実行するものであり、前記モータ回転量検出部によって検出される前記直流モータの回転量に基づいて算出される前記ウインドウの位置が、前記ウインドウが閉じられる位置まで所定の距離に達したと判定されると、前記挟み込み防止制御を停止させる請求項13に記載のモータ制御装置。
【請求項15】
前記モータ回転量検出部は、前記ウインドウが閉じられた位置又は開かれた位置に達したとき、前記ウインドウの位置を算出するための前記直流モータの回転量をリセットするリセット部を備える請求項14に記載のモータ制御装置。
【請求項16】
少なくとも1つのプロセッサによって実行される、ブラシ付き直流モータ(40)の回転量を推定する回転量推定方法であって、
前記直流モータに印加される直流電圧が変動してから、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間において、モータ電流が前記対応速度に応じたモータ電流に収束する特性を示す収束特性曲線を、前記直流モータを流れるモータ電流に基づいて推定する収束特性曲線推定ステップ(12)と、
前記収束特性曲線推定ステップにおいて推定されたモータ電流の前記収束特性曲線に基づいて、前記直流モータの回転に応じて前記直流モータに流れる誘導電流を、前記期間に渡って積分した積分値を算出する積分値算出ステップ(15)と、
前記積分値算出ステップにおいて算出された前記誘導電流の積分値に基づいて、前記期間における前記直流モータの回転量を推定する回転量推定ステップ(17)と、を備える回転量推定方法。
【請求項17】
前記直流モータのモータ電流に含まれるリップル成分に基づき、前記直流モータの回転に応じたパルス信号を生成するパルス信号生成ステップ(60)を備え、
前記収束特性曲線推定ステップでは、前記パルス信号生成ステップにおいて生成されるパルス信号から前記直流モータの回転速度又は回転量が検出可能となったとき、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する対応速度に達したとみなす、請求項16に記載の回転量推定方法。
【請求項18】
前記収束特性曲線推定ステップでは、前記期間において測定された、少なくとも3点のモータ電流の値と、前記少なくとも3点のモータ電流の値が得られた時間とに基づいて、前記収束特性曲線を導出する請求項16又は17に記載の回転量推定方法。
【請求項19】
前記収束特性曲線推定ステップにて導出される前記収束特性曲線は、2次関数曲線である、請求項18に記載の回転量推定方法。
【請求項20】
前記収束特性曲線推定ステップでは、前記モータ電流がピーク値となった以降に、前記少なくとも3点のモータ電流の値と、前記少なくとも3点のモータ電流の値が得られた時間とが取得される請求項18に記載の回転量推定方法。
【請求項21】
前記収束特性曲線推定ステップにて前記収束特性曲線が推定される前記期間は、停止している前記直流モータに対して、前記直流モータを回転させるための直流電圧が印加されてから、前記直流モータの回転速度が前記直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの第1の期間である、請求項16又は17に記載の回転量推定方法。
【請求項22】
前記回転量推定ステップは、
前記対応速度と、前記第1の期間との積を基準回転量として算出する基準回転量算出ステップ(S170)と、
前記収束特性曲線から推定される、前記直流モータに前記直流電圧を印加した直後のモータ電流から、前記対応速度に応じたモータ電流を減算することによって算出される、前記直流モータが前記対応速度で回転するときの誘導電流と、前記第1の期間との積を基準積分値として算出する基準積分値算出ステップ(S180)と、を有し、
前記回転量推定ステップにおいて、前記基準回転量に、前記基準積分値に対する前記第1の期間の前記誘導電流の積分値の比を乗じることによって、前記第1の期間における前記直流モータの回転量が算出される請求項21に記載の回転量推定方法。
【請求項23】
前記収束特性曲線推定ステップにおいて前記収束特性曲線が推定される前記期間は、変動前の前記直流電圧に対応する前記対応速度で回転している前記直流モータに変動後の前記直流電圧が印加されてから、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度に達したとみなし得るまでの第2の期間である、請求項16又は17に記載の回転量推定方法。
【請求項24】
前記回転量推定ステップは、
変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度と、前記第2の期間との積を基準回転量として算出する基準回転量算出ステップ(S390)と、
前記収束特性曲線から推定される、前記直流モータに変動後の前記直流電圧を印加した直後のモータ電流と、変動前の前記直流電圧に対応する前記対応速度で回転している前記直流モータに流れる誘導電流との和から、変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度に応じたモータ電流を減算することによって算出される、前記直流モータが変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度で回転するときの誘導電流と、前記第2の期間との積を基準積分値として算出する基準積分値算出ステップ(S400)と、を有し、
前記回転量推定ステップにおいて、前記基準回転量に、前記基準積分値に対する前記第2の期間の前記誘導電流の積分値の比を乗じることによって、前記第2の期間における前記直流モータの回転量が算出される請求項23に記載の回転量推定方法。
【請求項25】
前記直流モータに印加される前記直流電圧の変動を判定する電圧変動判定ステップ(21)を備え、
前記回転量推定ステップでは、前記電圧変動判定ステップにおいて、前記直流電圧が所定の閾値を超えて変動したと判定されたことを条件として、前記第2の期間における前記直流モータの回転量を算出するための処理を実行する、請求項23に記載の回転量推定方法。
【請求項26】
前記直流モータのモータ電流に含まれるリップル成分に基づき、前記直流モータの回転に応じたパルス信号を生成するパルス信号生成ステップ(60)を備え、
前記回転量推定ステップでは、前記パルス信号生成ステップにおいて生成されるパルス信号から前記直流モータの回転速度又は回転量が検出できないことを条件として、前記第2の期間における前記直流モータの回転量を算出するための処理が実行される、請求項23に記載の回転量推定方法。
【請求項27】
前記直流モータに印加される直流電圧が変動してから、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における前記直流モータの回転量の算出が完了するまで、前記直流モータの回転の停止が指示されても、前記直流モータの回転を維持する停止保留ステップを備える、請求項16又は17に記載の回転量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばブラシ付き直流モータの回転を開始する起動時など、ブラシ付き直流モータへ印加される電圧が変動したときに、ブラシ付き直流モータの回転量を高精度に推定することが可能な回転量推定装置及び回転量推定方法、並びに回転量推定装置を備えるモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ブラシを有する直流モータに流れる電流、又は該モータの端子間電圧などのモータ駆動波形に基づき、モータの回転情報を検出する装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の装置では、検出されたモータ電流の波形から、リップル成分のパルス信号を生成する。このパルス信号に基づいて、モータの回転量が推定される。また、モータ端子間電圧と、検出されたモータ電流とから、逆起電圧が推定される。そして、逆起電圧に対して、上記パルス信号のパルス周期ごとに積分演算を行い、モータの回転量を示す積分値を得る。この積分値に基づいて、推定されたモータの回転量が補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-323488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の装置では、モータの端子間電圧Vmとモータに流れるモータ電流iとに基づき、下記の数式1に従って逆起電圧Vgを求めている。なお、数式1において、Lはモータの内部インダクタンス、rはモータの内部抵抗を示す。
(式1)Vg=Vm-r・i-L(di/dt)
【0006】
しかしながら、モータの内部抵抗rなどは、モータの温度によって変化する。従って、モータの温度変化が生じた場合、逆起電圧Vgを正しく算出することが困難になる。
【0007】
また、特許文献1に記載の装置では、逆起電力の積分が、パルス信号のパルス周期ごとに繰り返される。しかし、モータの回転開始後などモータの回転速度が低い場合、モータ電流のリップル成分も小さくなるため、パルス信号のパルス周期を正確に得ることも困難になる。このため、逆起電力の積分を正しく行い得ない可能性がある。
【0008】
これらの理由から、モータの回転開始時などにおいて、逆起電力を用いて、モータの正確な回転量を得ることは非常に困難である。
【0009】
本開示は、上述した点に鑑みてなされたものであり、逆起電圧を用いずに、直流モータの回転を開始する起動時など、直流モータに印加される直流電圧が変動してから、直流モータの回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における、直流モータの回転量を高い精度で推定することが可能な回転量推定装置及び回転量推定方法、並びに当該回転量推定装置を備えるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本開示による、ブラシ付き直流モータ(40)の回転量を推定する回転量推定装置(11)は、
直流モータに印加される直流電圧が変動してから、直流モータの回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間において、モータ電流が対応速度に応じたモータ電流に収束する特性を示す収束特性曲線を、直流モータを流れるモータ電流に基づいて推定する収束特性曲線推定部(12)と、
収束特性曲線推定部によって推定されたモータ電流の収束特性曲線に基づいて、直流モータの回転に応じて直流モータに流れる誘導電流を、上記期間に渡って積分した積分値を算出する積分値算出部(15)と、
積分値算出部によって算出された誘導電流の積分値に基づいて、上記期間における直流モータの回転量を推定する回転量推定部(17)と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本開示による、少なくとも1つのプロセッサによって実行される、ブラシ付き直流モータ(40)の回転量を推定する回転量推定方法は、
直流モータに印加される直流電圧が変動してから、直流モータの回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間において、モータ電流が対応速度に応じたモータ電流に収束する特性を示す収束特性曲線を、直流モータを流れるモータ電流に基づいて推定する収束特性曲線推定ステップ(12)と、
収束特性曲線推定ステップにおいて推定されたモータ電流の収束特性曲線に基づいて、直流モータの回転に応じて直流モータに流れる誘導電流を、上記期間に渡って積分した積分値を算出する積分値算出ステップ(15)と、
積分値算出ステップにおいて算出された誘導電流の積分値に基づいて、上記期間における直流モータの回転量を推定する回転量推定ステップ(17)と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上述した回転量推定装置及び回転量推定方法によれば、直流モータに印加される直流電圧が変動してから、直流モータの回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間の直流モータの回転量を推定するために、逆起電力ではなく、誘導電流を用いる。直流モータが回転するときには、直流モータに、回転速度に応じた誘導電流が流れる。従って、上記期間に渡って、直流モータに流れる誘導電流を積分することにより、その積分値は、直流モータの回転量に対応する値となる。このため、誘導電流の積分値に基づいて、上記期間における直流モータの回転量を推定することができ、その推定精度は、従来に比して向上され得る。
【0013】
また、本開示による、モータ制御装置(10)は、
上述した回転量推定装置(11)と、
回転量推定装置によって推定された、直流モータに印加される直流電圧が変動してから、直流モータの回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における直流モータの回転量と、直流モータが対応速度で回転しているときに、直流モータのモータ電流波形に基づいて演算される直流モータの回転量とに基づき、直流モータの回転量を検出するモータ回転量検出部(19)と、
モータ回転量検出部によって検出される直流モータの回転量に基づいて、直流モータへの駆動電流の通電を制御する制御部(20)と、を備えることを特徴とする。
【0014】
モータ制御装置は、上述した回転量推定装置を備えることで、直流モータに印加される直流電圧が変動してから、直流モータの回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における直流モータの回転量を高い精度で推定することができる。そのため、モータ制御装置は、上記期間における推定された直流モータの回転量と、直流モータが、印加された直流電圧に対応する対応速度で回転しているときに、直流モータのモータ電流波形に基づいて演算される直流モータの回転量とに基づき、直流モータの回転量を高い精度で検出することができる。従って、モータ制御装置は、検出された直流モータの回転量に基づいて、直流モータへの駆動電流の通電を適切に制御することができるようになる。
【0015】
上記括弧内の参照番号は、本開示の理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら本開示の範囲を制限することを意図したものではない。
【0016】
また、上記した本開示の特徴以外の、特許請求の範囲の各請求項に記載した技術的特徴に関しては、後述する実施形態の説明及び添付図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る回転量推定装置及びモータ制御装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
図2】直流モータの運転状態を、停止状態から回転加速状態を経て、印加される直流電圧に対応する対応速度での定回転状態へ変化させたときの、モータ電流を含む、各部の信号の変化を示すタイムチャートである。
図3】モータ電流の収束特性曲線を推定する方法を説明するための説明図である。
図4】実際の誘導電流積分値を示す図である。
図5】基準誘導電流積分値を示す図である。
図6】第1実施形態に係るモータ制御装置が、直流モータを起動した際、直流モータの回転速度が、印加される直流電圧に対応する対応速度に達したとみなされるまでの期間における、直流モータの回転量を算出するための処理を示すフローチャートである。
図7】直流モータが一定の速度で回転しているときに、直流モータに印加される直流電圧が瞬間的に増加するように変動した場合の、モータ電流を含む、各部の信号の変化を示すタイムチャートである。
図8】第2実施形態に係る回転量推定装置及びモータ制御装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
図9】第2実施形態において、直流モータに印加される直流電圧が変動してから、変動後の直流電圧に対応する対応速度で、直流モータが回転するようになるまでの期間における、直流モータの回転量を算出する方法を説明するための説明図である。
図10】第2実施形態において、実際の誘導電流積分値を示す図である。
図11】第2実施形態において、基準誘導電流積分値を示す図である。
図12】第2実施形態に係るモータ制御装置が、直流モータに印加される直流電圧が変動してから、変動後の直流電圧に対応する対応速度で、直流モータが回転するようになるまでの期間における、直流モータの回転量を算出するたの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本開示の第1実施形態に係る回転量推定装置、回転量推定方法、及び回転量推定装置を備えるモータ制御装置について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。なお、複数の図面に渡って、同一又は類似の構成には同じ参照番号を付すことにより、説明を省略する場合がある。
【0019】
図1は、本実施形態に係る回転量推定装置11、及び回転量推定装置11を備えるモータ制御装置10の構成を概略的に示す概略構成図である。図1には、制御対象であるブラシ付き直流モータ(以下、直流モータと呼ぶ)40、モータ制御装置10からの制御信号に従って、直流モータ40に駆動電流を通電するモータ駆動部30、直流モータ40に通電される電流を検出するモータ電流モニタ部50、及びモータ電流モニタ部50の出力信号に基づいて、直流モータ40の回転に応じた回転信号を生成する回転信号生成部60も示されている。
【0020】
直流モータ40は、例えば、コイルが巻かれた積層鉄心からなる回転子と、永久磁石からなる固定子とを備える。回転子が磁界内で回転すると、回転子に付いている整流子も回転し、整流子が接するブラシが入れ替わる。整流子が接するブラシが入れ替わる毎に、コイルを流れる電流の向きが切り替わることで、回転子が回り続けて直流モータ40が回転駆動される。
【0021】
直流モータ40は、例えば、車両のウインドウを開閉するモータとして用いることができる。それ以外にも、直流モータ40は、車両において、空調装置におけるエアミックスドアや、ドアミラーなどを駆動するアクチュエータとして用いることができる。さらに、直流モータ40は、車両に搭載される車両機器以外の各種の機器を駆動するためのアクチュエータとして用いられてもよい。
【0022】
なお、本実施形態に係るモータ制御装置10によれば、回転量推定装置11を備えることで、詳しくは後述するように、停止している直流モータ40を起動するときや、電源電圧が変動したときのように、直流モータ40に印加される直流電圧が変動してから、直流モータ40の回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における、直流モータ40の回転量を高い精度で推定することができる。従って、モータ制御装置10は、直流モータ40の停止、再起動を繰り返しても、直流モータ40の回転位置を精度良く検出することができる。これらの理由から、本実施形態に係る、回転量推定装置11を備えたモータ制御装置10は、車両のウインドウを開閉する直流モータを制御する用途に好適である。
【0023】
ここで、直流モータ40で車両のウインドウの開閉を制御する場合、ウインドウを閉じている途中で、ウインドウによる挟み込みが発生すると、直流モータ40を停止又は逆転させる挟み込み防止制御を実行することが一般的である。しかし、車両のウインドウがウインドウウェザーストリップに接する位置まで達したとき、挟み込み防止制御が有効であると、ウインドウウェザーストリップに接したことを、誤って挟み込みとして検出する虞がある。このため、ウインドウがウインドウウェザーストリップに接する直前に、挟み込み防止制御を停止(無効化)する必要がある。ただし、直流モータ40の回転量に基づいてウインドウの位置を検出する場合、直流モータ40の回転量に誤差があると、ウインドウがウインドウウェザーストリップに接する直前の位置など、適切なウインドウ位置で挟み込み防止制御を停止することができない虞がある。その点、本実施形態では、停止及び再起動が繰り返されたとしても、直流モータ40の回転量を精度良く検出することができるので、適切なウインドウ位置で挟み込み防止制御を停止させることができる。例えば、モータ制御装置10は、検出される直流モータ40の回転量に基づいて、ウインドウが閉じられる位置まで所定の距離に達したと判定されたときに挟み込み防止制御を停止させればよい。
【0024】
モータ駆動部30は、4つのスイッチング素子(例えば、MOSトランジスタ、IGBTなど)31、32、34、35と、2つの駆動回路33、36を含む。4つのスイッチング素子31、32、34、35には、それぞれ、還流ダイオードが逆並列接続されている。4つのスイッチング素子31、32、34、35は、直流モータ40を駆動するためのHブリッジ回路を形成している。駆動回路33は、モータ制御装置10からの制御信号に応じて、スイッチング素子31、32の導通状態(オン又はオフ)を制御する。駆動回路36は、モータ制御装置10からの制御信号に応じて、スイッチング素子34、35の導通状態を制御する。
【0025】
例えば、モータ制御装置10は、直流モータ40を正転させるとき、駆動回路33、36を介して、スイッチング素子31、35をオンさせ、スイッチング素子32、34をオフさせる。逆に、モータ制御装置10は、直流モータ40を逆転させるとき、駆動回路33、36を介して、スイッチング素子32、34をオンさせ、スイッチング素子31、35をオフさせる。さらに、モータ制御装置10は、直流モータ40を正転又は逆転させる通常運転から直流モータ40の回転を止めるための制動運転を行うとき、駆動回路33、36を介して、スイッチング素子32、35又はスイッチング素子31、34をオンさせて、直流モータ40の両端に同電位(接地電位又は電源電位)を印加する。
【0026】
モータ電流モニタ部50は、直流モータ40への給電経路において、直流モータ40と直列に接続されたシャント抵抗51を含む。さらに、モータ電流モニタ部50は、直流モータ40に通電される電流に応じた、シャント抵抗51の両端電圧を増幅する差動増幅回路52を含む。差動増幅回路52によって増幅された出力信号は、モータ制御装置10及び回転信号生成部60に入力される。
【0027】
回転信号生成部60は、モータ電流モニタ部50から入力された信号に対して、バンドパスフィルタ処理を行うバンドパスフィルタ61を含む。モータ電流モニタ部50から入力された信号は、図2に「モータ電流」として示すように、直流モータ40が所定角度回転する毎に発生する、直流モータ40に流れる電流のリップル成分を含む。バンドパスフィルタ61は、リップル成分の周波数帯の信号を通過させる。その結果、バンドパスフィルタ61は、リップル成分の周波数以外の周波数を持つノイズを除去し、直流モータ40に流れる電流のリップル成分に対応した信号を出力する。
【0028】
回転信号生成部60は、さらに、バンドパスフィルタ61から出力された信号と、閾値Vthとを比較するコンパレータ62を含む。コンパレータ62は、例えば、バンドパスフィルタ61からの出力信号が閾値Vthよりも大きいときLoレベルの信号を出力し、バンドパスフィルタ61からの出力信号が閾値Vthよりも小さいときHiレベルの信号を出力するように構成される。この場合、コンパレータ62から、直流モータ40が所定角度回転する毎に発生するリップル成分によってHiレベルからLoレベルに変化し、そのLoレベルが、リップル成分が閾値Vthよりも大きい間継続するパルス信号が出力される。図2に示す例には、コンパレータ62から出力されるパルス信号が、「モータ回転信号」として示されている。
【0029】
モータ制御装置10は、少なくとも1つのプロセッサとしてのCPU、メモリとしてのROM、RAM、及び、外部との信号をやり取りするためのI/O回路などを備えた公知のコンピュータによって構成され得る。モータ制御装置10では、例えば、ROMに格納されたプログラムに従って、CPUにより各種の処理が実行される。一例として、モータ制御装置10は、モータ電流モニタ部50からの出力信号、及び回転信号生成部60からのモータ回転信号に基づいて、直流モータ40を制御するための制御信号を生成して出力する。なお、直流モータ40の駆動開始や、駆動停止は、図示しない外部の制御装置又はスイッチなどによってモータ制御装置10に指示される。
【0030】
ここで、図1は、プログラムの実行により、モータ制御装置10が発揮する各機能をブロックとして示している。図1に示すように、モータ制御装置10は、回転量推定装置11、回転量演算部18、回転量補正部19、及びモータ回転制御部20を備えている。
【0031】
回転量推定装置11は、モータ制御装置10が、停止している直流モータ40を起動するときのように、直流モータ40に印加される直流電圧が変動してから、直流モータ40の回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における、直流モータ40の回転量を推定する。回転量推定装置11に関しては、後に詳細に説明される。
【0032】
回転量演算部18は、直流モータ40が起動されて、印加される直流電圧に対応する対応速度で回転しているときの回転量を、回転信号生成部60によって出力されるモータ回転信号に基づいて算出する。上述したように、モータ回転信号は、直流モータ40が所定角度回転する毎にオンオフされるパルス信号である。このため、回転量演算部18は、例えば、モータ回転信号のパルス数をカウントすることにより、直流モータ40の回転量を算出することができる。
【0033】
回転量補正部19は、回転量推定装置11によって提供される直流モータ40が起動されてから印加される直流電圧に対応する対応速度に達するまでの直流モータ40の回転量を用いて、回転量演算部18によって演算された回転量を補正する。具体的には、回転量補正部19は、回転量演算部18によって演算された回転量に、回転量推定装置11によって推定された直流モータ40の回転量を加えることにより、直流モータ40の回転量を算出する。このように、回転量演算部18によって演算された直流モータ40の回転量に、回転量推定装置11によって推定された直流モータ40の回転量を加味することにより、停止していた直流モータ40が起動されて、上記対応速度で回転する場合の回転量を正確に検出することができる。
【0034】
モータ回転制御部20は、回転量補正部19によって検出される直流モータ40の回転量に基づいて制御信号を生成することにより、直流モータ40への駆動電流の通電を制御する。例えば、直流モータ40が車両のウインドウを開閉するモータとして用いられた場合、回転量補正部19によって検出される直流モータ40の回転量に基づいて、ウインドウ位置が、ウインドウが閉じられる位置まで所定の距離に達したと判定されたとき、モータ制御装置10は、挟み込み防止制御を停止させる。この場合、モータ回転制御部20は、ウインドウがウインドウウェザーストリップに接しても、直流モータ40の通常運転を継続して行うことができる。そして、モータ回転制御部20は、例えば、回転量補正部19により検出される回転量から算出されるウインドウ位置が全閉位置付近を示し、かつ回転信号生成部60からのモータ回転信号が停止したことに基づいて、車両のウインドウが全閉位置に到達したと判定する。ウインドウが全閉位置に到達したと判定すると、モータ回転制御部20は、モータ駆動部30への制御信号の出力を停止して、直流モータ40への駆動電流の通電を停止する。この際、回転量補正部19は、車両のウインドウが全閉位置に達した判定されたとき、ウインドウ位置を算出するための直流モータ40の回転量をリセットするリセット機能を備えることが好ましい。このリセット機能は、車両のウインドウが全閉位置に達したと判定されたときばかりでなく、全開位置に達したと判定されたときにも、直流モータ40の回転量をリセットしても良い。
【0035】
また、モータ回転制御部20は、車両のウインドウを閉じている途中で、図示しない外部の制御装置又はスイッチなどによってモータ制御装置10に直流モータ40の回転停止が指示されたとき、直流モータ40への駆動電流の通電を停止し、かつ、直流モータ40の両端に同電位が印加されるように、モータ駆動部30に制御信号をする。この場合、直流モータ40は、制動運転を経て、回転が停止する。
【0036】
次に、本実施形態に係る回転量推定装置11に関して説明する。回転量推定装置11は、上述したように、逆起電力ではなく、誘導電流を用いて、停止している直流モータ40を起動するときのように、直流モータ40に印加される直流電圧が変動してから、直流モータ40の回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における、直流モータ40の回転量を推定する。この誘導電流の大きさは、直流モータ40の回転速度に対応する。従って、直流モータ40が起動されてから、印加される直流電圧に対応する対応速度で回転を開始するまでの期間に渡って、誘導電流を積分することにより、その積分値は、上記期間における直流モータ40の回転量に対応する値となる。このため、誘導電流の積分値に基づいて、上記期間の直流モータ40の回転量を推定することができる。
【0037】
図2は、直流モータ40の運転状態を、停止状態から回転加速状態を経て、印加される直流電圧に対応する対応速度での定回転状態へ変化させたときの、モータ電流を含む、各部の信号の変化を示すタイムチャートである。図2に示すように、停止状態においては、直流モータ40の+端子と-端子との間に印加される電圧はゼロである。直流モータ40+端子と-端子との間に所定の直流電圧が印加されると、直流モータ40が起動される。つまり、印加された直流電圧によって、直流モータ40の回転子のコイルに駆動電流(モータ電流)が流れ、回転子が回転を開始する。
【0038】
直流モータ40には、モータ電流として、駆動電流と誘導電流との合成電流が流れる。駆動電流と誘導電流とが流れる方向は逆である。また、モータ電流には、上述したリップル成分が生じる。ただし、図2の「A」に示す期間においては、直流モータ40の回転速度が低いため、明確なリップル成分は生じていない。また、「A」の期間では、直流モータ40のコイルのインダクタンスの影響により、モータ電流の立ち上がりに遅れが生じる。従って、モータ電流から、起動直後の、すなわち、直流モータ40がまだ回転を開始しておらず、誘導電流がゼロであるときのモータ電流を測定することはできない。
【0039】
図2の「B」に示す期間では、初期的に直流モータ40の回転速度が低いため、誘導電流による妨げが少ないことで、直流モータ40には比較的大きなモータ電流(駆動電流)が流れる。このモータ電流は、直流モータ40の回転速度が上昇するにつれて、誘導電流が増加するため、徐々に低下していく。また、回転速度が上昇するにつれて、モータ電流にはリップル成分が現れるようになる。ただし、「B」の期間では、リップル成分の大きさは比較的小さく、かつ、モータ電流自体も変化(減少)していくので、回転信号生成部60は、有効なモータ回転信号を生成することができない可能性が高い。
【0040】
図2の「C」に示す時点では、直流モータ40の回転速度は、印加された直流電圧に対応する対応速度にほぼ到達している。このとき、モータ電流自体の変化が小さくなり、また、回転速度の上昇に伴ってリップル成分の大きさも大きくなる。このため、回転信号生成部60は、モータ回転信号(パルス信号)を出力することが可能になっている。逆に言えば、回転信号生成部60がモータ回転信号を出力することが可能になり、出力されたモータ回転信号から直流モータ40の回転速度及び/又は回転量を算出することができるようになったとき、直流モータ40の回転速度が、印加された直流電圧に対応する対応速度に達したとみなすことができると言える。なお、図2に示すように、「C」として示す時点は、回転信号生成部60から初めてパルス信号が出力された時点ではなく、複数のパルス信号が出力された時点である。これは、直流モータ40の回転速度及び/又は回転量は、複数のパルス信号の間隔から算出されるためである。
【0041】
上述したように、モータ電流は、駆動電流と誘導電流との合成電流であり、モータ電流から誘導電流を直接的に測定することはできない。そこで、本実施形態において、停止している直流モータ40に直流電圧が印加されてから、直流モータ40の回転速度が印加された直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間tstartにおける、直流モータ40に流れる誘導電流を積分して誘導電流の積分値を求め、さらに、誘導電流の積分値に基づいて、上記期間tstartの直流モータ40の回転量を推定するために採用した構成について、以下に説明する。
【0042】
まず、回転量推定装置11は、収束特性曲線推定部12を有する。収束特性曲線推定部12は、直流モータ40に直流電圧が印加されてから、直流モータ40の回転速度が印加された直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間tstartにおいて、モータ電流が上記対応速度に応じたモータ電流に収束する特性を示す収束特性曲線を推定する。モータ電流の収束特性曲線は、図3に点線で示されている。
【0043】
上述したように、直流モータ40に直流電圧を印加した直後は、直流モータ40のコイルのインダクタンスによってモータ電流の立ち上がりが遅れる。モータ電流が、対応速度に応じたモータ電流に収束する特性を示すようになったか否かは、立ち上がりが遅れるモータ電流が、ピークに達したか否かによって判断することができる。このため、収束特性曲線推定部12は、例えば図3に示すように、モータ電流がピークに達した後の、少なくとも3つの測定点(X、Y)、(X、Y)、(X、Y)で、モータ電流モニタ部50から出力されるモータ電流の値と、それぞれのモータ電流の値が得られた時間とを測定する。なお、X、X、Xは、それぞれのモータ電流値が得られた時間を示し、Y、Y、Yは、それぞれのモータ電流値を示している。例えば、図3に示す例では、1つ目の測定点(X、Y)は、モータ電流がピークに達した直後に測定されている。3つ目の測定点(X、Y)は、モータ電流が対応速度に応じたモータ電流に収束したとみなし得る時点で測定されている。2つ目の測定点(X、Y)は、1つ目の測定点(X、Y)と3つ目の(X、Y)とのほぼ中間付近で測定されている。
【0044】
収束特性曲線推定部12は、少なくとも3つの測定点(X、Y)、(X、Y)、(X、Y)の測定値に基づいて、モータ電流の収束特性曲線を導出する。具体的には、収束特性曲線は、図3に点線で示すように、ほぼ2次間数的な曲線によって表すことができる。そのため、例えば、2次関数曲線をy=ax+bx+cと定め、この2次関数曲線の方程式に3つの測定点(X、Y)、(X、Y)、(X、Y)の測定値を代入する。これにより、2次関数曲線の係数a、b、cを算出することができる。このようにして、収束特性曲線推定部12は、モータ電流が、印加された直流電圧に対応する対応速度に応じたモータ電流に収束する特性を示す収束特性曲線を推定することができる。
【0045】
誘導電流ゼロポイント演算部13は、直流モータ40に直流電圧を印加した直後であって、直流モータ40が回転を開始しようとしているときのモータ電流の値Iiを、収束特性曲線推定部12によって導出された収束特性曲線から演算によって算出する。直流モータ40が回転を開始しようとしているとき、未だ直流モータ40は回転していないので、誘導電流の値はゼロである。すなわち、誘導電流ゼロポイント演算部13は、誘導電流の値がゼロであるときの、モータ電流値Iiを演算によって算出する。
【0046】
ここで、直流モータ40に印加された直流電圧が一定であれば、直流モータ40を駆動するための駆動電流と、直流モータ40の回転によって生じる誘導電流との合計値は一定となる。従って、図3に点線で示される収束特性曲線は、直流モータ40が回転を開始する時点で最大となるモータ電流(駆動電流)が、直流電圧に対応する直流モータ40の回転速度(対応速度)に応じたモータ電流に向けて減少する特性を示す一方で、直流モータ40が回転を開始する時点でゼロである誘導電流が、直流電圧に対応する対応速度で直流モータ40が回転する際の誘導電流に向けて増加する特性を示すものとなる。
【0047】
そのため、図4に斜線で示すように、直流モータ40に直流電圧が印加されてから、直流モータ40の回転速度が印加された直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間tstartに渡って、誘導電流の値がゼロであるときのモータ電流値Iiと収束特性曲線とで囲まれる範囲を積分することにより、実際に直流モータ40に流れる誘導電流の積分値Iaを求めることが可能になる。
【0048】
計測不能期間測定部14は、回転信号生成部60が生成するモータ回転信号から直流モータ40の回転速度及び/又は回転量が算出できない期間を、直流モータ40に直流電圧の印加を開始してから、直流モータ40の回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間tstartとして測定する。
【0049】
誘導電流積分演算部15は、収束特性曲線推定部12によって推定された収束特性曲線と、誘導電流ゼロポイント演算部13によって演算された誘導電流の値がゼロであるときのモータ電流値Iiと、計測不能期間測定部14によって測定された期間tstartとに基づいて、図4に斜線で示す実際の誘導電流積分値Iaを算出する。
【0050】
回転速度演算部16は、回転信号生成部60からのモータ回転信号に基づいて、直流モータ40の回転速度を算出する。
【0051】
回転量推定部17は、回転速度演算部16によって算出された直流モータの回転速度に基づいて、計測不能期間測定部14によって測定された期間tstartが経過した時点の直流モータ40の回転速度Vを求める。この回転速度Vは、直流モータ40に印加された直流電圧に対応する対応速度に相当する。例えば、図3に示すように、回転量推定部17は、回転速度演算部16によって算出される、期間tstartが経過する直前のパルス信号と、期間tstartが経過した直後のパルス信号との周期Tから求められた回転速度Vを、期間tstartが経過した時点の直流モータ40の回転速度とすることができる。
【0052】
また、回転量推定部17は、計測不能期間測定部14によって測定された期間tstartと、期間tstartが経過した時点の直流モータ40の回転速度Vとの積を基準回転量Nsとして算出する。つまり、基準回転量Nsは、直流モータ40が、印加された直流電圧に対応する対応速度(回転速度V)で、期間tstartに渡って直流モータ40が回転したと仮定したときの直流モータ40の回転量に相当する。
【0053】
さらに、回転量推定部17は、図5に示すように、期間tstartが経過した時点の誘導電流値Iiと、計測不能期間測定部14によって測定された期間tstartとの積を基準誘導電流積分値Isとして算出する。期間tstartが経過した時点の誘導電流値Iiは、例えば、誘導電流ゼロポイント演算部13によって演算されたモータ電流値Iiから、期間tstartが経過した時点のモータ電流値Imを減算することによって求めることができる。このように、基準誘導電流積分値Isは、直流モータ40に流れる誘導電流の大きさが、期間tstartが経過した時点の誘導電流値Iiを期間tstartに渡って維持されたと仮定したときの、誘導電流の積分値に相当する。
【0054】
そして、回転量推定部17は、基準回転量Nsに、基準誘導電流積分値Isに対する実際の誘導電流積分値Iaの比を乗じることによって、直流モータ40に直流電圧が印加されてから、直流モータ40の回転速度が印加された直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間tstartにおける直流モータ40の回転量Naを算出する。すなわち、期間tstartにおける直流モータ40の回転量Naは、以下の数式2によって算出することができる。
(式2)Na=Ns×(Ia/Is)
【0055】
なお、上述した例では、基準回転量Ns及び基準誘導電流積分値Isを、直流モータ40が起動される際に算出したが、基準回転量Ns及び基準誘導電流積分値Isは、必ずしも、直流モータ40が起動される毎に算出されなくてもよい。例えば、対象とする直流モータ40に関して、事前に、直流モータ40が起動されたときの種々のモータ電流値Iiに対応する基準回転量Ns及び基準誘導電流積分値Isを調べてメモリに保存しておく。そして、収束特性曲線から実際に推定されたモータ電流値Iiに対応する基準回転量Ns及び基準誘導電流積分値Isを選択して、上記数式2に従って、直流モータ40の起動時の回転量Naを求めてもよい。
【0056】
あるいは、直流モータ40を起動したときの直流モータ40の実際の誘導電流積分値Iaと、実際の直流モータ40の回転量Naとに関する複数のデータを測定し、その測定したデータに基づいて、実際の誘導電流積分値Iaと実際の直流モータ40の回転量Naとの関係を表す式もしくはマップを作成してメモリに保存してもよい。この場合、メモリに保存した式もしくはマップを用いて、実際の誘導電流積分値Iaから、実際の直流モータ40の回転量Naを推定することができる。
【0057】
次に、モータ制御装置10において、格納されたプログラムに従って実行される処理の一例を図6のフローチャートを参照して説明する。なお、図6のフローチャートに示す処理は、直流モータ40を起動した際、直流モータ40の回転速度が、印加される直流電圧に対応する対応速度に達したとみなされるまでの期間tstartにおける、直流モータ40の回転量Naを算出するためのものである。この処理は、直流モータ40が起動されるときに実行される。
【0058】
最初のステップS100では、モータ制御装置10は、直流モータ40の+側端子と-側端子とに同電位を印加している状態から、直流モータ40の+側端子と-側端子との間に駆動用の直流電圧を印加する状態に切り替えるための制御信号をモータ駆動部30に出力する。
【0059】
ステップS110では、モータ制御装置10は、モータ電流モニタ部50から出力されるモータ電流の値I(t)を測定し、メモリに保存する。ステップS120では、モータ制御装置10は、モータ電流の値I(t)を測定したときの、直流モータ40の起動開始からの経過時間tを取得して、モータ電流値I(t)に関連付けてメモリに保存する。ステップS130では、モータ制御装置10は、回転信号生成部60からのモータ回転信号に基づいて、直流モータ40の回転速度が検出されたか否かを判定する。モータ制御装置10は、直流モータ40の回転速度が検出されないと判定すると、ステップ140に進む。一方、モータ制御装置10は、直流モータ40の回転速度が検出されたと判定すると、ステップ150に進む。なお、ステップS130において、直流モータ40の回転速度が検出されたと判定されたときの経過時間tが、直流モータ40の起動開始から回転信号生成部60からのモータ回転信号に基づいてモータ速度が検出されるようになるまでの期間tstartとして測定される。
【0060】
ステップS140では、モータ制御装置10は、指定時間の間、待機する。そして、指定時間待機した後、モータ制御装置10は、ステップS110からの処理を繰り返す。これにより、直流モータ40の起動開始から、回転信号生成部60からのモータ回転信号に基づいてモータ速度が検出されるようになるまでの期間tstartにおいて、指定時間毎に複数回、モータ電流値I(t)と経過時間tとの測定が実行される。指定時間は、モータ電流のピークの検出や、期間tstartの経過時のモータ電流値I(t)の測定が十分な精度を持って行い得るように設定される。
【0061】
ステップS150では、モータ制御装置10は、測定された複数のモータ電流値I(t)に基づいて、モータ電流値I(t)のピーク値を特定する。そして、モータ電流値I(t)のピーク値以降に測定された少なくとも3点の測定値(モータ電流値I(t)、及び対応する経過時間t)に基づいて、モータ電流の収束特性曲線を示す方程式を導出する。なお、モータ電流値I(t)のピーク値は、上述した少なくとも3点の測定値に含まれてもよいし、含まれなくてもよい。
【0062】
ステップS160では、モータ制御装置10は、導出したモータ電流の収束特性曲線に基づいて、誘導電流の値がゼロであるときの、モータ電流値Iiを演算によって算出する。ステップS170では、モータ制御装置10は、直流モータ40の起動開始から、モータ回転信号に基づいてモータ速度が検出されるようになるまでの期間tstartと、期間tstartが経過した時点の直流モータ40の回転速度Vとの積を基準回転量Nsとして算出する。ステップS180では、モータ制御装置10は、期間tstartが経過した時点の誘導電流値Iiと、期間tstartとの積を基準誘導電流積分値Isとして算出する。
【0063】
ステップS190では、モータ制御装置10は、ステップS150にて導出されたモータ電流の収束特性曲線に従い、経過時間tstartに渡って、誘導電流の値がゼロであるときのモータ電流値Iiと収束特性曲線とで囲まれる範囲を積分することにより、実際の誘導電流積分値Iaを求める。そして、ステップS200において、モータ制御装置10は、基準回転量Nsに、基準誘導電流積分値Isに対する実際の誘導電流積分値Iaの比を乗じることによって、直流モータ40の起動時の回転量Naを算出する。
【0064】
(第2実施形態)
次に、本開示の第2実施形態に係る回転量推定装置、回転量推定方法、及び回転量推定装置を備えるモータ制御装置について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0065】
上述した第1実施形態では、回転量推定装置11が、直流モータ40の起動時に、停止している直流モータ40に駆動用の直流電圧を印加することにより、直流モータ40に印加される直流電圧が変動したときに、直流モータ40の回転量Naを算出する例について説明した。しかしながら、直流モータ40に印加される直流電圧が変動するのは、起動時ばかりに限られる訳ではない。例えば、モータ制御装置10が、車両のウインドウなどの車載機器を駆動するために用いられる場合、スタータなどの比較的大きな車載電気負荷のオン、オフに伴って、車載バッテリから直流モータ40に供給される直流電圧が変動する場合があり得る。
【0066】
例えば、図7に示すように、直流モータ40が一定の速度で回転しているときに、直流モータ40に印加される直流電圧が瞬間的に増加するように変動すると、モータ電流は、直流モータ40の起動時と同様の変化を示す。すなわち、図7の「D」で示す期間においては、直流電圧の上昇に対して、モータ電流の上昇が遅れる。図7の「E」で示す期間では、誘導電流による妨げが少ないことで、直流モータ40には比較的大きなモータ電流(駆動電流)が流れる。このモータ電流は、直流モータ40の回転速度が上昇するにつれて、誘導電流が増加するため、徐々に低下していく。ただし、「E」の期間では、モータ電流値自体が変化(減少)するので、回転信号生成部60は、有効なモータ回転信号を生成することができない可能性が高い。図7の「F」に示す時点では、直流モータ40の回転速度は、変動後の直流電圧に対応する対応速度にほぼ到達している。このとき、モータ電流自体の変化が小さくなる。このため、回転信号生成部60は、モータ回転信号(パルス信号)を出力することが可能になっている。
【0067】
本実施形態に係る回転量推定装置は、一定速度で回転している直流モータ70に印加される直流電圧が急激に変動した場合に、その変動の発生から、モータ電流が、変動後の直流電圧に対応する対応速度で直流モータ40が回転するときに直流モータ40に流れるモータ電流に収束するまでの期間trestartにおける、直流モータ40の回転量を推定することが可能なものである。なお、本実施形態に係る回転量推定装置は、直流電圧の急増時ばかりでなく、直流電圧の急減時にも、直流モータ40の回転量を推定することが可能である。
【0068】
図8は、本実施形態に係る回転量推定装置110、及び回転量推定装置110を備えるモータ制御装置100の構成を概略的に示す概略構成図である。回転量推定装置110は、図1に示す第1実施形態の構成に対して、電圧変動判定部21、誘導電流ゼロポイント記憶部22、及び変動前誘導電流演算部23が追加されている。その他の構成は、図1に示す第1実施形態の構成と同様である。
【0069】
電圧変動判定部21は、直流モータ40に印加される直流電圧が所定の閾値以上変動したか否かを判定する。すなわち、閾値以上の直流電圧の急増又は急減が生じた場合、電圧変動判定部21は、直流モータ40に印加される直流電圧が所定の閾値以上変動したと判定する。
【0070】
誘導電流ゼロポイント記憶部22は、直流モータ40に印加される直流電圧の変動前に、モータ電流の収束特性曲線に基づいて演算された、誘導電流がゼロであるときのモータ電流値Ii01を記憶している(図9、10参照)。
【0071】
変動前誘導電流演算部23は、直流モータ40に印加される直流電圧の変動前に、直流モータ40に流れていた誘導電流値Iiを演算により算出する。具体的には、変動前誘導電流演算部23は、誘導電流ゼロポイント記憶部22に記憶された、誘導電流がゼロであるときのモータ電流値Ii01から、直流モータ40に印加される直流電圧の変動直前のモータ電流値Imを減算することにより、直流電圧変動前の誘導電流値Iiを算出する(図10参照)。
【0072】
誘導電流ゼロポイント演算部13は、変動前誘導電流演算部23から直流電圧変動前の誘導電流値Iiが与えられると、図9、10に示すように、収束特性曲線推定部12によって推定されたモータ電流の収束特性曲線から算出される誘導電流がゼロであるときのモータ電流値Ii02に、直流電圧変動前の誘導電流値Iiを加えて、誘導電流ゼロポイントのモータ電流値Ii03を算出する。
【0073】
そして、誘導電流積分演算部15は、収束特性曲線推定部12によって推定された収束特性曲線と、誘導電流ゼロポイント演算部13によって演算された誘導電流の値がゼロであるときのモータ電流値Ii03と、計測不能期間測定部14によって測定された期間trestartとに基づいて、図10に斜線で示す実際の誘導電流積分値Iaを算出する。
【0074】
回転量推定部17は、回転速度演算部16によって算出された直流モータ40の回転速度に基づいて、計測不能期間測定部14によって測定された期間trestartが経過した時点の直流モータ40の回転速度Vを求める。例えば、図9に示すように、回転量推定部17は、回転速度演算部16によって算出される、期間trestartが経過する直前のパルス信号と、期間trestartが経過した直後のパルス信号との周期Tから求められた回転速度Vを、期間trestartが経過した時点の直流モータ40の回転速度とする。
【0075】
また、回転量推定部17は、計測不能期間測定部14によって測定された期間trestartと、期間trestartが経過した時点の直流モータ40の回転速度Vとの積を基準回転量Nsとして算出する。さらに、回転量推定部17は、図11に示すように、期間trestartが経過した時点の誘導電流値Iiと、計測不能期間測定部14によって測定された期間trestartとの積を基準誘導電流積分値Isとして算出する。期間trestartが経過した時点の誘導電流値Iiは、誘導電流ゼロポイント演算部13によって演算されたモータ電流値Ii03から、期間trestartが経過した時点のモータ電流値Imを減算することによって求めることができる。
【0076】
そして、回転量推定部17は、基準回転量Nsに、基準誘導電流積分値Isに対する実際の誘導電流積分値Iaの比を乗じることによって、直流モータ40に直流電圧が印加されてから、直流モータ40の回転速度が印加された直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間trestartにおける直流モータ40の回転量Naを算出する。
【0077】
次に、モータ制御装置100において、格納されたプログラムに従って実行される処理の一例を図12のフローチャートを参照して説明する。なお、図12のフローチャートに示す処理は、直流モータ40に印加される直流電圧が急激に変動した場合に、その変動の発生から、モータ電流が、変動後の直流電圧に対応する対応速度で直流モータ40が回転するときに直流モータ40に流れるモータ電流に収束するまでの期間trestartにおける、直流モータ40の回転量Naを算出するためのものである。図12のフローチャートに示す処理は、例えば、所定の周期で定期的に実行される。
【0078】
最初のステップS300では、モータ制御装置100は、直流モータ40に直流電圧を供給する電源の電圧が所定の閾値以上変動したか否かを判定する。モータ制御装置100電源電圧が所定の閾値以上変動した場合、ステップS310の処理に進み、電源電圧が所定の閾値以上変動していない場合、図12のフローチャートに示す処理を終了する。
【0079】
なお、モータ制御装置100は、電源電圧の変動に加え、もしくは代えて、計測不能期間測定部14により、回転信号生成部60が生成するモータ回転信号から直流モータ40の回転速度及び/又は回転量が正しく算出できないことを条件として、ステップS310以降の処理を実行するように構成しても良い。
【0080】
ステップS310~ステップS360は、図6のフローチャートのステップS110~S160と同様であるため説明を省略する。
【0081】
ステップS370では、モータ制御装置100は、直流モータ40に印加される直流電圧の変動前に、直流モータ40に流れていた誘導電流値Iiを演算により算出する。すなわち、モータ制御装置10、記憶された誘導電流がゼロであるときのモータ電流値Ii01から、直流モータ40に印加される直流電圧の変動直前のモータ電流値Imを減算することにより、直流電圧変動前の誘導電流値Iiを算出する。
【0082】
ステップS380では、モータ制御装置100は、モータ電流の収束特性曲線から算出される誘導電流がゼロであるときのモータ電流値Ii02に、直流電圧変動前の誘導電流値Iiを加えて、誘導電流ゼロポイントのモータ電流値Ii03を算出する。
【0083】
ステップS390では、モータ制御装置100は、期間trestartが経過した時点の直流モータ40の回転速度Vと、期間trestartとの積を基準回転量Nsとして算出する。ステップS400では、モータ制御装置100は、期間trestartが経過した時点の誘導電流値Iiと、期間trestartとの積を基準誘導電流積分値Isとして算出する。ステップS410では、モータ制御装置100は、直流モータ40の収束特性曲線と、誘導電流の値がゼロであるときのモータ電流値Ii03と、期間trestartとに基づいて、実際の誘導電流積分値Iaを算出する。そして、ステップS420において、モータ制御装置100は、基準回転量Nsに、基準誘導電流積分値Isに対する実際の誘導電流積分値Iaの比を乗じることによって、直流モータ40に直流電圧が印加されてから、直流モータ40の回転速度が印加された直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間trestartにおける直流モータ40の回転量Naを算出する。
【0084】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は、上述した実施形態に制限されるものではない。換言すれは、本開示は、特許請求の範囲に記載した本開示の主旨を逸脱しない範囲において、種々、変形して実施することが可能なものである。
【0085】
例えば、上述した第1及び第2実施形態において、モータ制御装置10、100は、直流モータ40に印加される直流電圧が変動してから、直流モータ40の回転速度が変動後の直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間tstart、trestartにおける直流モータ40の回転量の算出が完了するまで、直流モータ40の回転の停止が指示されても、直流モータ40の回転を維持する停止保留部を備えるように構成してもよい。これにより、モータ制御装置10、100は、直流モータ40の回転停止指示によらず、直流電圧が変動したときの直流モータ40の回転量を正しく算出することが可能になる。
【0086】
最後に、この明細書には、以下に列挙する複数の技術的思想と、それらの複数の組み合わせが開示されている。以下の複数の技術的思想の組み合わせは、回転量推定装置のみでなく、回転量推定方法にも当てはまる。
【0087】
(技術的思想1)
ブラシ付き直流モータ(40)の回転量を推定する回転量推定装置(11、110)であって、
前記直流モータに印加される直流電圧が変動してから、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間において、モータ電流が前記対応速度に応じたモータ電流に収束する特性を示す収束特性曲線を、前記直流モータを流れるモータ電流に基づいて推定する収束特性曲線推定部(12)と、
前記収束特性曲線推定部によって推定されたモータ電流の前記収束特性曲線に基づいて、前記直流モータの回転に応じて前記直流モータに流れる誘導電流を、前記期間に渡って積分した積分値を算出する積分値算出部(15)と、
前記積分値算出部によって算出された前記誘導電流の積分値に基づいて、前記期間における前記直流モータの回転量を推定する回転量推定部(17)と、を備える回転量推定装置。
【0088】
(技術的思想2)
前記直流モータのモータ電流に含まれるリップル成分に基づき、前記直流モータの回転に応じたパルス信号を生成するパルス信号生成部(60)を備え、
前記収束特性曲線推定部は、前記パルス信号生成部によって生成されるパルス信号から前記直流モータの回転速度又は回転量が検出可能となったとき、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度に達したとみなす、技術的思想1に記載の回転量推定装置。
【0089】
(技術的思想3)
前記収束特性曲線推定部は、前記期間において測定された、少なくとも3点のモータ電流の値と、前記少なくとも3点のモータ電流の値が得られた時間とに基づいて、前記収束特性曲線を導出する技術的思想1又は2に記載の回転量推定装置。
【0090】
(技術的思想4)
前記収束特性曲線推定部が導出する前記収束特性曲線は、2次関数曲線である、技術的思想3に記載の回転量推定装置。
【0091】
(技術的思想5)
前記収束特性曲線推定部は、前記モータ電流がピーク値となった以降に、前記少なくとも3点のモータ電流の値と、前記少なくとも3点のモータ電流の値が得られた時間とを取得する技術的思想3又は4に記載の回転量推定装置。
【0092】
(技術的思想6)
前記収束特性曲線推定部が前記収束特性曲線を推定する前記期間は、停止している前記直流モータに対して、前記直流モータを回転させるための直流電圧が印加されてから、前記直流モータの回転速度が前記直流電圧に対応する前記対応速度に達したとみなし得るまでの第1の期間である、技術的思想1乃至5のいずれか1項に記載の回転量推定装置。
【0093】
(技術的思想7)
前記回転量推定部は、
前記対応速度と、前記第1の期間との積を基準回転量として算出する基準回転量算出部(S170)と、
前記収束特性曲線から推定される、前記直流モータに前記直流電圧を印加した直後のモータ電流から、前記対応速度に応じたモータ電流を減算することによって算出される、前記直流モータが前記対応速度で回転するときの誘導電流と、前記第1の期間との積を基準積分値として算出する基準積分値算出部(S180)と、を有し、
前記基準回転量に、前記基準積分値に対する前記第1の期間の前記誘導電流の積分値の比を乗じることによって、前記第1の期間における前記直流モータの回転量を算出する技術的思想6に記載の回転量推定装置。
【0094】
(技術的思想8)
前記収束特性曲線推定部が前記収束特性曲線を推定する前記期間は、変動前の前記直流電圧に対応する前記対応速度で回転している前記直流モータに変動後の前記直流電圧が印加されてから、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度に達したとみなし得るまでの第2の期間である、技術的思想1乃至5のいずれか1項に記載の回転量推定装置。
【0095】
(技術的思想9)
前記回転量推定部は、
変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度と、前記第2の期間との積を基準回転量として算出する基準回転量算出部(S390)と、
前記収束特性曲線から推定される、前記直流モータに変動後の前記直流電圧を印加した直後のモータ電流と、変動前の前記直流電圧に対応する前記対応速度で回転している前記直流モータに流れる誘導電流との和から、変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度に応じたモータ電流を減算することによって算出される、前記直流モータが変動後の前記直流電圧に対応する前記対応速度で回転するときの誘導電流と、前記第2の期間との積を基準積分値として算出する基準積分値算出部(S400)と、を有し、
前記基準回転量に、前記基準積分値に対する前記第2の期間の前記誘導電流の積分値の比を乗じることによって、前記第2の期間における前記直流モータの回転量を算出する技術的思想8に記載の回転量推定装置。
【0096】
(技術的思想10)
前記直流モータに印加される前記直流電圧の変動を判定する電圧変動判定部(21)を備え、
前記回転量推定部は、前記電圧変動判定部によって前記直流電圧が所定の閾値を超えて変動したと判定されたことを条件として、前記第2の期間における前記直流モータの回転量を算出するための処理を実行する、技術的思想8又は9に記載の回転量推定装置。
【0097】
(技術的思想11)
前記直流モータのモータ電流に含まれるリップル成分に基づき、前記直流モータの回転に応じたパルス信号を生成するパルス信号生成部(60)を備え、
前記回転量推定部は、前記パルス信号生成部によって生成されるパルス信号から前記直流モータの回転速度又は回転量が検出できないことを条件として、前記第2の期間における前記直流モータの回転量を算出するための処理を実行する、技術的思想8乃至10のいずれか1項に記載の回転量推定装置。
【0098】
(技術的思想12)
前記直流モータに印加される直流電圧が変動してから、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における前記直流モータの回転量の算出が完了するまで、前記直流モータの回転の停止が指示されても、前記直流モータの回転を維持する停止保留部を備える、技術的思想1乃至11のいずれか1項に記載の回転量推定装置。
【0099】
(技術的思想13)
技術的思想1乃至12のいずれか1項に記載の回転量推定装置(11)と、
前記回転量推定装置によって推定された、前記直流モータに印加される直流電圧が変動してから、前記直流モータの回転速度が変動後の前記直流電圧に対応する対応速度に達したとみなし得るまでの期間における前記直流モータの回転量と、前記直流モータが前記対応速度で回転しているときに、前記直流モータのモータ電流波形に基づいて演算される前記直流モータの回転量とに基づき、前記直流モータの回転量を検出するモータ回転量検出部(19)と、
前記モータ回転量検出部によって検出される前記直流モータの回転量に基づいて、前記直流モータへの駆動電流の通電を制御する制御部(20)と、を備えるモータ制御装置。
【0100】
(技術的思想14)
前記直流モータは、車両のウインドウを開閉するモータとして用いられ、
前記制御部は、前記ウインドウを閉じている途中で、前記ウインドウによる挟み込みが発生した場合、前記直流モータを停止又は逆転させる挟み込み防止制御を実行するものであり、前記モータ回転量検出部によって検出される前記直流モータの回転量に基づいて算出される前記ウインドウの位置が、前記ウインドウが閉じられる位置まで所定の距離に達したと判定されると、前記挟み込み防止制御を停止させる技術的思想13に記載のモータ制御装置。
【0101】
(技術的思想15)
前記モータ回転量検出部は、前記ウインドウが閉じられた位置又は開かれた位置に達したとき、前記ウインドウの位置を算出するための前記直流モータの回転量をリセットするリセット部を備える技術的思想14に記載のモータ制御装置。
【符号の説明】
【0102】
10、100:モータ制御装置、11、110:回転量推定装置、12:収束特性曲線推定部、13:誘導電流ゼロポイント演算部、14:計測不能期間測定部、15:誘導電流積分演算部、16:回転速度演算部、17:回転量推定部、18:回転量演算部、19:回転量補正部、20:モータ回転制御部、21:電圧変動判定部、22:誘導電流ゼロポイント記憶部、23:変動前誘導電流演算部、30:モータ駆動部、40:直流モータ、50:モータ電流モニタ部、60:回転信号生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12